(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6573335
(24)【登録日】2019年8月23日
(45)【発行日】2019年9月11日
(54)【発明の名称】高速STLファイル変換を用いる3次元印刷
(51)【国際特許分類】
B29C 64/386 20170101AFI20190902BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20190902BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20190902BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20190902BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20190902BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20190902BHJP
【FI】
B29C64/386
B33Y50/00
B33Y30/00
B33Y10/00
B22F3/16
B22F3/105
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-501115(P2017-501115)
(86)(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公表番号】特表2017-517418(P2017-517418A)
(43)【公表日】2017年6月29日
(86)【国際出願番号】US2015021496
(87)【国際公開番号】WO2015143174
(87)【国際公開日】20150924
【審査請求日】2018年1月4日
(31)【優先権主張番号】61/968,148
(32)【優先日】2014年3月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516046581
【氏名又は名称】ザ エクスワン カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ブルーナマー、ダニエル、ティ
(72)【発明者】
【氏名】スタック、パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴォス、ローレンス、ジェイ
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−27438(JP,A)
【文献】
特表2013−507679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/386
B22F 3/105
B22F 3/16
B33Y 10/00
B33Y 30/00
B33Y 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体自由形状製造法によって物品を製造する方法であって、
a)物品のモデルを含むSTLファイルを提供する、
b)物品の少なくとも1つの印刷層について、アプリケーション・プログラミング・インターフェースを用いて第1のビットマップBM1をレンダリングターゲットとして用いるようレンダリングシステムに命令し、
i)BM1に関連付けられた深度と色のバッファーをクリアする、
ii)深度テストをイネーブルする、
iii)当該モデルの上方視点又は下方視点の正射影を設定する、
iv)BM1の背景色を第1の色C1に設定する、
v)所望の高さZnで水平クリップ面により当該モデルを切り取り、正射影が上方視点であるように設定された場合にはZnより上にある物品形状をすべて無視し、正射影が下方視点であるように設定された場合にはZnより下にある物品形状をすべて無視する、
vi)当該モデルの内面を選択除去する、
vii)当該モデルを色C1でレンダリングする、
viii)当該モデルの外面を選択除去する、
ix)当該モデルを第2の色C2でレンダリングする、
x)当該モデルのC1レンダリングと当該モデルのC2レンダリングとをブール代数の排他的論理和演算により結合し、当該結合結果をBM1に格納する、
xi)少なくとも1つの層を印刷するためにBM1を用いる、
ステップを具備し、
BM1は所望の印刷領域の物理的サイズを表すようにサイズが決められている、方法。
【請求項2】
ステップ(b)が物品の各印刷層について実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
さらに、OpenGLをアプリケーション・プログラミング・インターフェースに選ぶステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
固体自由形状製造法によって物品を製造する方法であって、
a)物品のモデルを含むSTLファイルを提供する、
b)物品の少なくとも1つの印刷層に関し、アプリケーション・プログラミング・インターフェースを用いて第1のビットマップBM1をレンダリングターゲットとして用いるようレンダリングシステムに命令して、
i)BM1に関連付けられた深度と色のバッファーをクリアし、
ii)深度テストをイネーブルし、
iii)当該モデルの上方視点の正射影を設定し、
iv)BM1の背景色を第1の色C1に設定し、
v)所望の高さZnで水平クリップ面により当該モデルを切り取り、Znより上にあるモデル形状をすべて無視し、
vi)当該モデルの内面を選択除去し、
vii)当該モデルを色C1でレンダリングし、
viii)当該モデルの外面を選択除去し、
ix)当該モデルを第2の色C2でレンダリングし、
x)当該モデルのC1レンダリングと当該モデルのC2レンダリングとをブール代数の排他的論理和演算により結合し、当該結合結果をBM1に格納し、
c)当該少なくとも1つの層に関し、アプリケーション・プログラミング・インターフェースを用いて第2のビットマップBM2をレンダリングターゲットとして用いるようレンダリングシステムに命令して、
i)BM2に関連付けられた深度と色のバッファーをクリアし、
ii)深度テストをイネーブルし、
iii)当該モデルの下方視点の正射影を設定し、
iv)BM2の背景色を第1の色C1に設定し、
v)高さZnで水平クリップ面により当該モデルを切り取り、Znより下にあるモデル形状をすべて無視し、
vi)当該モデルの内面を選択除去し、
vii)当該モデルを色C1でレンダリングし、
viii)当該モデルの外面を選択除去し、
ix)当該モデルを第2の色C2でレンダリングし、
x)当該モデルのC1レンダリングと当該モデルのC2レンダリングとをブール代数の排他的論理和演算により結合し、当該結合結果をBM2に格納し、
d)当該少なくとも1つの層に関し、BM1とBM2をピクセルごとに比較し、
e)当該少なくとも1つの層に関し、ステップ(d)での比較結果を、前記層を印刷するために用いる、
ステップを具備し、
BM1及びB2は所望の印刷領域の物理的サイズを表すようにサイズが決められている、方法。
【請求項5】
当該物品の各印刷層についてステップ(b)〜(e)を実施する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(d)の比較が、BM1とBM2をピクセル単位で比較し、BM1のピクセル(xi,yj)の値が対応するBM2のピクセル(xi,yj)の値と同じか異なるかを判定することから成り、続いて、
i)2つの値が同じである場合には、BM1のピクセル(xi,yj)の値をステップ(e)で結果の一部として用いられる値として選定し、又は
ii)2つの値が異なる場合には、BM1のピクセル(xi,yj)の値を隣接する8つのピクセルの値(即ち、BM1(xi−1,j+1),BM1(xi,yj+1),BM1(xi+1,yj+1),BM1(xi−1,yj),BM1(xi+1,yj),BM1(xi−1,yj−1),BM1(xi,yj−1),BM1(xi+1,yj−1))と比較し、比較した9個のピクセルの値のうち多数を占める値を決定し、その多数を占める値をステップ(e)で結果の一部として用いられる値として選定する
請求項4に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(d)の比較結果を第3のビットマップBM3に保存し、ステップ(d)がBM1とBM2をピクセル単位で比較し、BM1のピクセル(xi,yj)の値が対応するBM2のピクセル(xi,yj)の値と同じか異なるかを判定することを含み、
i)2つの値が同じである場合には、BM3の対応するピクセル(xi,yj)の値が当該BM1のピクセル(xi,yj)の値になるよう設定し、又は
ii)2つの値が異なる場合には、BM1のピクセル(xi,yj)の値を隣接する8つのピクセルの値(即ち、BM1(xi−1,yj+1),BM1(xi,yj+1),BM1(xi+1,yj+1),BM1(xi−1,yj),BM1(xi+1,yj),BM1(xi−1,yj−1),BM1(xi,yj−1),BM1(xi+1,yj−1))と比較し、比較した9個のピクセルの値のうち多数を占める値を決定し、BM3の対応するピクセル(xi,yj)の値がその多数を占める値になるよう設定する
請求項4に記載の方法。
【請求項8】
さらに、OpenGLをアプリケーション・プログラミング・インターフェースに選ぶステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
ステップ(a)及びステップ(b)がリアルタイムで実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(a)〜ステップ(d)がリアルタイムで実施される、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形とも呼ばれる固体自由形状製造の分野に関する。特に、本発明は、固体自由形状製造により生産される物品の3次元数学モデルを含む光造形法(ステレオリソグラフィック)データファイル(拡張子.stl)を、当該物品を一層ずつ製造するための印刷機構への命令に迅速に変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物品をその電子的表現から直接生産するために固体自由形状製造法(積層造形法とも呼ばれている)が開発されてきた。本明細書内で用いられる「固体自由形状製造法」(SFFF)という用語は、3次元の物品を生み出すべく、物品の電子的表現から当該物品の形状を一度に1層ずつ形成することを順次行うステップを含む方法を指す。固体自由形状製造法は、当技術分野では、「積層製造法」とも呼ばれている。固体自由形状製造法は、当技術分野では、特定の物品を少数製造するために積層製造法が用いられる場合には「ラピッドプロトタイピングプロセス」とも呼ばれている。固体自由形状製造法は、物品の物理的及び/又は機械的特性を強化する1つ以上の成形後操作を含んでもよい。固体自由形状製造法の例には、3次元印刷(3DP)法と選択的レーザー焼結(SLS)法が含まれる。3DP法の例は、2000年3月14日に発行されたSachsの米国特許第6,036,777号に記載されている。SLS法の例は、1991年12月31日に発行されたBourellらの米国特許第5,076,869号に記載されている。本発明に基づく固体自由形状製造法は、金属、ポリマー、セラミックス、複合材料等の材料から成る物品を生産するために用いることができる。固体自由形状製造法が開発されたため、従来必要であった費用と時間のかかる中間段階を省くことにより、概念から製造後の物品までにかかる時間と費用を飛躍的に減少することができた。
【0003】
多くの固体自由形状製造法は、(1)垂直方向にインデキシング可能な造形ステージに例えば粉末などの造形材料の最初の層を塗布し、平滑にする、(2)印刷機構により造形材料の層をスキャンして、製造される物品の関連する2次元層のイメージを当該層に付与する、(3)造形材料の別の層を受け入れるために造形ステージを下げる、及び(4)当該物品が完成するまで(1)から(3)までのステップを繰り返す、といった基本ステップから成る。1層ごとに造形することにより、所望の物品が形成される。造形された物品の物理的性質を強化するために後続の処理が用いられることが多い。
【0004】
本明細書で使用される用語「印刷機構」は、(1)物品が造形されるステージの上にある製造材料に対して、製造されている当該物品の関連する2次元層のイメージを物理的に付与する、及び/又は(2)当該ステージ若しくは前の層の上に上記の2次元層のイメージの形で造形材料の層を堆積させる固体自由形状製造システムの構成要素を総称する。例えば、3DP法の場合、印刷機構は、物品の関連する2次元層のイメージを形成するために粉末層の上に結合剤の液滴を吹き付ける、1個以上の印刷ノズルと付属するスキャン制御機構から構成される印刷ヘッドである。SLS法の場合、印刷機構は、粉末層全体に渡りレーザービームをスキャンして物品の関連する2次元層のイメージの形で粉末を当該層において融合させる、レーザーと付属するスキャン制御機構である。
【0005】
固体自由形状製造によって製造される物品は、まず3次元モデルとして電子的に表現される。通常、この3次元モデルは、ステレオリソグラフィックファイル(.STLファイル)のフォーマットで保存される。このフォーマットのファイルを本明細書では「STLファイル」と呼ぶ。STLファイルは通常、物品の外面及び内面を大まかに描く三角形の集まりから成る。これらの三角形には、三角形のどの面が物品の外側を向いているのかを示すために、表面法線(即ち、三角形の面から垂直に外側を指す短い線)などの特徴が付随している。外側に向いている表面は「外」面又は「前」面と呼ばれる場合があり、内側に向いている表面は「内」面又は「背」面と呼ばれる場合がある。
【0006】
従来、固体自由形状製造の分野では、STLファイルは、本明細書内で「スライシングプログラム」と呼ばれるプログラムによって処理されている。スライシングプログラムは、STLファイルフォーマットで表されたモデルを互いに直交する3つの軸のうちの1つ(例えばX−Y−Z軸のZ軸)に沿って薄く切り、所定の厚さの多数の2次元層(即ち、切片(スライス))を作り出す。それぞれの切片の内部では、当該モデルの関連箇所が一連の閉じた2次元ポリゴンにより表される。
【0007】
スライシングプログラムは普通、別個のプログラムである(例えば、ベルギーのルーフェン市にあるマテリアライズNV社から入手できるマジックスRPプログラム)。ただし、スライシングプログラムは、物品を製造するためにSTLファイル又は機能的に類似したファイルを処理して固体自由形状製造機械用の命令に変換するより大規模なプログラムの一部とすることもできる。どちらの場合でも、スライシングプログラムを使うことにより、各2次元層が一連の閉じた2次元ポリゴンにより表される2次元切片のスタックから成るバイナリファイルが生成される。このようなバイナリファイルを、本明細書では「切片スタックファイル」と呼ぶ。
【0008】
従来、固体自由形状製造機械の制御用ソフトウェアは、物品を1層ごとに作るために切片スタックファイルを用いている。普通、固体自由形状製造機械の制御用ソフトウェアは、切片スタックファイルで表されるモデルの各層を、物品の対応する物理層の作成時に印刷機構を制御するための一連の命令に変換する。これらの命令は、造形材料をどこで(1)結合させるべきか(例えば、レーザー若しくは電子ビーム発生装置によるエネルギーを与えること、又はジェット印刷ヘッドから結合材を噴出することにより)、及び/又は(2)堆積させるべきかを印刷機構に伝える。本明細書では、実際に使用される印刷機構の種類にかかわらず、印刷機構のこの動作を「印刷」と総称し、これらの命令を「印刷命令」と総称する。
【0009】
図1は、固体自由形状製造によって物品を作り出すための従来の方法のフローチャートを示している。例示する従来法10では、製造すべき物品のモデルに関するSTLファイルデータ12がスライシングプログラム14に入力される。スライシングプログラム14へのもう一つの入力は、モデル全体に適用される層間隔選択値16である。スライシングプログラム14は、この入力を用いて切片スタックファイル18を作り出す。平面状の各切片は、層間隔選択値16の分だけ次の切片と離れている。切片スタックファイル18のデータは次に記憶装置20に入力される。その後、切片スタックファイル18のデータは、記憶装置20から出力されて固体自由形状製造機械の制御ソフトウェア22に入力される。制御ソフトウェア22は、切片スタックファイル18を処理し、物品30が完成するまで印刷機構26に各層28を印刷させるための印刷命令24を作り出す。
【0010】
従来法にはいくつかの短所がある。これらの短所の中には、スライシングプログラムを利用する必要があることによって生じるコストがある。このようなコストには、スライシングプログラムを購入若しくは開発する、実装する、及び/又は維持するコストなどがある。また、スライシングプログラムと発生する切片スタックファイルの運用及び保存に割り当てなければならないハードウェアのコストもそれらのコストに含まれる。さらに、スライシングプログラムを利用し、その後切片スタックファイルを利用するための計算コストも含まれる。また、切片スタックファイルを生成するためにスライシングプログラムを用いるのに必要な時間のコストもある。
【0011】
別の短所は、物品の元の3次元モデルから詳細情報やその他の情報が失われることである。モデルを表すデータセットが変換されるごとに、当該モデルに関する詳細情報やその他の情報が一部失われる。スライシングプログラムは、処理しているモデルを表すことを、特定の切断(スライス)面について、試みる。したがって、元のモデルにあった、切断面と切断面の間に存在する詳細についての情報のすべてがスライシングプログラムによって確保されるわけではないため、一部は失われてしまう。これは、表示、移動、拡大縮小、またはその他の操作に関し、切片スタックファイルから元のモデルを得ることはできないことを意味している。また、この切片スタックファイルは、同ファイルを生成する際に選択された特定のスライス厚さを使用でき、かつ同じ印刷装置インデキシングステップ等のパラメータを使用できる固体自由形状製造機械でしか利用できないことも意味している。このことは、切片スタックファイルをある固体自由形状製造機械から別の機械に移植することを制限する。
【0012】
数年前、本発明の発明者の1人は、米国特許出願公開公報US 2010/0168890 A1で、物品を層ごとに製造するために、スライシングプログラムを使わずにSTLファイルを印刷機構への命令に変換するためにレイキャスティングを用いる手法を開示した。それらの手法は従来の他のSTL変換手法より多くの点で優れていたが、大量の計算を必要としたので、解像度が一部失われる可能性があった。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、SFFFによって製造すべき1個以上の物品を表現するSTLファイルを従来のスライシングプログラムを使わずに迅速かつ(計算資源の観点から見て)効率的に変換する手法を提供することにより、先行技術に伴う上記の問題のうち少なくとも一部を克服する。これを達成するために、本発明は、印刷すべき物品の各層に対応するビットマップを物品のSTLファイルから直接生成するためにアプリケーションプログラムインターフェース(API)を用いる。この変換は特定の層が印刷される直前に実質的にリアルタイムで行われるのが好ましい。ただし、1個以上の層、又はすべての層の変換の結果を後で使用するために保存することも本発明の範囲内である。ビットマップは一度生成されれば、後でそれを用いて特定の層を印刷するための印刷機構への印刷命令を構成することができる。ラスタライジングする印刷機構を使用するSFFF法(例えば、インクジェット型印刷ヘッド、スキャニング用放射線源、又は選択的に遮へいされた放射線被ばく源)の場合、ビットマップは印刷される画素の場所を直接示すために用いることができる。(例えば、SLS法、電子ビーム法、又は熱溶解積層法の場合のように)ベクトル化した命令に依拠するSFFF法の場合、ビットマップは印刷時に用いられるベクトルの作成に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明の特徴及び利点の重要性は、添付図を参照することにより理解が深まる。ただし、添付図は説明目的だけで作成されており、本発明の範囲を定義するものではないことが理解されるべきである。
【0015】
【
図1】固体自由形状製造によって物品を製造する従来技法のフローチャート。
【0016】
【
図2】印刷ボックス内に縦長に置かれたトーラスの概略透視図。
【0017】
【
図3】ビューワーの方を向いた側でのSTLファイルのモザイク状の三角格子模様を示している
図2のトーラスの一部の概略透視図。
【0018】
【0019】
【0020】
【
図6】内面を選択除去した後に
図5の射影図をレンダリングした結果の概略図。
【0021】
【
図7】外面を選択除去した後に
図5の射影図をレンダリングした結果の概略図。
【0022】
【
図8】
図6と
図7に示された描写を排他的論理和により組み合わせたシーン最終処理後の造形層の概略上面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好ましい実施態様をいくつか、当業者が本発明を不要な実験をすることなく実施できるよう十分詳しく説明する。ただし、本明細書に好ましい実施態様が限られた数しか記載されていないことは特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定するものでは全くないことを理解されたい。本明細書又は特許請求に値の範囲が記載される場合は常に、当該範囲には、両端点とその間にあるすべての点が、それらすべての点が明示的に記載されているかの如く含まれることが理解されるべきである。他に明記しない限り、本明細書及び特許請求の範囲で用いられる用語「約」は、その「約」という用語が修飾する値に関連する通常の計測及び/又は製造限度を意味するものとして解釈されるべきである。他に明記されない限り、「実施態様」という用語は、本明細書では本発明の実施態様を意味するために用いられる。
【0024】
SFFF(固体自由形状製造)装置がバッチ処理、又は連続処理、どちらの用途向けに構成されている場合でも、物品がそこで製造されるSFFF装置のボリューム部分を、本明細書では「印刷ボックス」と呼ぶ。生産効率のために、SFFF装置の各造形サイクルで、複数の物品、又は1つの物品の複数の複製物を製造することにより、印刷ボックスのボリュームをできるだけ多く利用することが一般的である。実施態様において、SFFF法によって製造される1個以上の物品はそれぞれ、まずSTLファイルによって表現される。STLファイルは、対応する物品の形状を記述するのに必要な情報を内蔵している。便宜上、まず単一の物品が製造される実施態様に用いられる一般的方法を以下に記載する。
【0025】
実施態様では、物品のSTLファイルを個々のビットマップ(それぞれのビットマップは当該物品を製造するためのSFFF法印刷層の1層に対応する)に変換するためにAPI(アプリケーションプログラムインターフェース)が用いられる。本明細書では、「変換」という用語とその様々な変化形は、発明方法が個々の印刷層のビットマップを作り出すにあたっての出発点としてSTLファイルが用いられることを意味するために用いられることが理解されるべきである。STLファイルそれ自体は発明方法によって何か別のものに変えられるわけではなく、再利用のために元のままである。
【0026】
変換は、印刷層の各々について、当該層が印刷される直前に実質的にリアルタイムで行われるのが好ましい。ただし、1個以上の層(すべての層の場合も含む)の変換結果を後で使用するために保存することも本発明の範囲内である。
【0027】
いくつかの実施態様において、3次元的に印刷される物品の少なくとも1つの層(及び好ましくはすべての層)に関して、APIを用いることにより、物品の幾何学的表現(即ち、モデル)を包含するSTLファイルを用いて以下のことを行う。
1.(a)所望の印刷領域の物理的サイズを表すように、且つ(b)当該プリンターの分解能に従って、サイズが決められる第1のビットマップBM1を作成することにより、各画素を表すビットサイズとビット数に関するレンダリングコンテクストを構成する。
2.BM1をレンダリングターゲットとして用いるようレンダリングシステムに命令する。
3.以下のことを行うようレンダリングシステムに命令する。
a)深度と色のバッファーをクリアする。
b)深度テストをイネーブルする。
c)上方(下方)視点の正射影を設定する。
d)背景色を第1の色C1に設定する。
e)所望の高さZ
nで水平クリップ面により物品のSTLファイルを切り取り(クリップし)、Z
nより上にある(又は正射影が下方視点であるように設定された場合には高さZ
nより下にある)モデル形状をすべて無視する。
f)当該モデルの内(背)面を選択除去(カリング)する。
g)当該モデルを色C1でレンダリングする。
h)当該モデルの外(前)面を選択除去する。
i)当該モデルを第2の色C2(C1とは異なる)でレンダリングする。
j)BM1に向けてのシーン最終処理、即ち、シーンをターゲットビットマップBM1に仕上げる。
4.当該層を印刷するためにBM1を使用する。
【0028】
層を印刷するために作成されたビットマップを用いる段階では、SFFFの印刷機構に対する印刷命令を生成するために当該ビットマップへのアクセスが行われる。例えば、印刷機構がインクジェットのような印刷ヘッドを有する場合、ビットマップは、印刷ボックスのその時の表面層上のどこに結合剤液を堆積させるべきかを厳密に、又は所望のオフセットを考慮に入れたことを受けてこの種の堆積を相対的にどこで行うかを当該印刷ヘッドに命令するために用いることができる。他の例として、例えばSLS法、電子ビーム法、又は熱溶解積層法の場合のようにベクトル化された印刷命令に依拠するSFFF法では、ビットマップは印刷時に用いられるベクトルを生成する際に用いられることがある。
【0029】
図2〜8は、SFFF法により中実トーラス(物品100)の単独インスタンスを製造するための上記方法の概要を描写している。ここでは、SFFF法のステップ3(c)において、上方視点の正射影を用いる。
図2を参照すると、方向マーカー102は、本説明のために、物品100は中心軸104が印刷ボックスの
X方向に平行な状態でSFFF装置の印刷ボックスにおいて縦長に置かれていることを示している。物品100を製造するための最初の造形層は、印刷ボックスのX−Y平面と交差する。SFFF装置において物品100を製造するために用いられる他の造形層はそれぞれ、印刷ボックスのX−Y平面に平行である。
【0030】
図3は、物品100のビューワーの方を向いた面上の三角格子模様を示すことにより、STLファイルの三角格子で以て描画した場合に物品100の一部106がどのように
見えるかを示している。この描写に物品100のビューワーの方を向いた面を含めることにより、STLファイルモデルの強化されていない描画で起きるような、ビューワーの方を向いた面とその反対側の面の両方に三角格子模様が同時に見える場合に生じる混乱を避ける。
【0031】
説明のために、物品100のZ軸の高さの中間まで上がったところのZ
0.5において造形層が選択されるものとする。
図4は、物品100の底部からこの造形層までの透視図であり、実質的には物品100のSTLファイルモデルがこの高さZ
0.5において水平面で切り取られたときの物品100の残余部分である。この造形層高さにおいて、物品100は同一の断面を2つ持つ(108aと108b)。
図5は、この造形層高さにおける物品100の上方視点の正射影を示しており、2つの断面108aと108bは明確化のため本図の中で右に傾斜したハッチングで示されている。
【0032】
図6は、当該モデルの内(背)面を選択除去した後のレンダリングステップ3(g)の結果(第1のイメージ110)を示している。
右上がりの斜めのハッチングは色C1を表すために用いられている。
【0033】
図7は、当該モデルの外(前)面を選択除去した後のレンダリングステップ3(i)の結果(第2のイメージ112)を示している。
垂直のハッチングは色C2を表すために用いられている。
【0034】
図8は、ステップ3(j)のシーン最終処理後ビットマップBM1で表されるであろう造形層を示している。シーン最終処理では、「排他的論理和」により第1イメージ110と第2イメージ112を効果的に組み合わせる。2つの区域(114aと114b)は、印刷層のためにSFFF装置で印刷される画素より構成される。これら2つの層(114aと114b)は、
図5の2つの断面(108aと108b)に対応する。
【0035】
一部の好ましい実施態様においては、上記のプロセスは、STLファイルの三角形のレンダリングから発生し得る浮動小数点の不正確さによって生じる可能性があるビットマップ中の漂遊又は欠落画素の影響を小さくするよう変更されている。これらの実施態様においては、ビットマップBM1に加えて第2のビットマップBM2が作成される。そして、これら2種類のビットマップを比較して第3のビットマップBM3が作成され、当該層を印刷するために用いられる。ビットマップBM2は、当該物品のSTLモデルの、ビットマップBM1を作成して適宜クリッピングを調整するために用いられた視点とは反対側の視点の正射影を用いて作成される。よって、BM1が上方視点の正射影を用いて、且つ高さZ
nより上方にあるモデル形状をすべて無視するクリッピングによって作成される場合、BM2は、下方視点の正射影を用いて、且つ高さZ
nより下方にあるモデル形状をすべて無視するクリッピングによって作成される。この変更を含めるように、物品の少なくとも1つの印刷層に関して、以下にプロセスを再言する。
1.(a)所望の印刷領域の物理的サイズを表すように、且つ(b)当該プリンターの分解能に従って、サイズが決められる第1のビットマップBM1、第2のビットマップBM2、及び第3のビットマップBM3を作成することにより、各画素を表すビットサイズとビット数に関するレンダリングコンテクストを構成する。
2.BM1を第1のレンダリングターゲットとして用いるようレンダリングシステムに命令する。
3.以下のことを行うようレンダリングシステムに命令する。
a)深度と色のバッファーをクリアする。
b)深度テストをイネーブルする。
c)上方視点の正射影を設定する。
d)背景色を第1の色C1に設定する。
e)所望の高さZ
nで水平クリップ面により当該モデルを切り取り、Z
nより上にあるモデル形状をすべて無視する。
f)当該モデルの内(背)面を選択除去する。
g)当該モデルを色C1でレンダリングする。
h)当該モデルの外(前)面を選択除去する。
i)当該モデルを第2の色C2(C1とは異なる)でレンダリングする。
j)BM1に向けてシーン最終処理を行う。
4.BM2を第2のレンダリングターゲットとして用いるようレンダリングシステムに命令する。
5.以下のことを行うようレンダリングシステムに命令する。
a)深度と色のバッファーをクリアする。
b)深度テストをイネーブルする。
c)下方視点の正射影を設定する。
d)背景色を第1の色C1に設定する。
e)所望の高さZ
nで水平クリップ面により当該モデルを切り取り、Z
nより下にあるモデル形状をすべて無視する。
f)当該モデルの内(背)面を選択除去する。
g)当該モデルを色C1でレンダリングする。
h)当該モデルの外(前)面を選択除去する。
i)当該モデルをC2でレンダリングする。
j)BM2に向けてシーン最終処理を行う。
6.BM2を水平方向に転置する。
7.BM1とBM2をピクセル単位で比較し、BM1のピクセル(x
i, y
j)の値が対応するBM2のピクセル(x
i, y
j)の値と同じか異なるかを判定する。続いて、
a)2つの値が同じである場合には、BM1のピクセル(x
i,y
j)の値がBM3の対応するピクセルの値になるよう設定する。又は
b)2つの値が異なる場合には、BM1のピクセル(x
i,y
j)の値を隣接する8つのピクセルの値(即ち、BM1(x
i−1,y
j+1),BM1(x
i,y
j+1),BM1(x
i+1,y
j+1),BM1(x
i−1,y
j),BM1(x
i+1,y
j),BM1(x
i−1,y
j−1),BM1(x
i,y
j−1),BM1(x
i+1,y
j−1))と比較し、比較した9個のピクセルの値のうち多数を占める値を決定し、その多数を占める値をBM3の対応するピクセルの値として設定する。
8.BM3を用いて当該層を印刷する。
【0036】
変更プロセスのステップ1は便宜上3つのビットマップをすべて同時に作成すると述べているだけであって、それぞれのビットマップはいつでも所望のときに作成できることが理解されるべきである。また、BM1とBM2はピクセルごとに比較できるよう同じ大きさでなければならないことも理解されるべきである。BM3は、他の2つのビットマップと同じ大きさにするか、例えば、印刷用オフセットに適合するようにより大きくしてもよい。
【0037】
ステップ7(b)においてピクセルにどんな値を与えるかを決定する方法は、比較のために周囲のピクセルをより多く又は少なく用いるように変更してもよいことも理解されるべきである。例えば、上記の比較は、調べるピクセルに隣接し、1本の対角線、行、又は列の上にあるピクセルとだけ実施してよい。
【0038】
ステップ6におけるビットマップBM2の転置は、ビットマップBM2のピクセルによって表される場所がビットマップBM1によって表される場所と正確に一致するように実施されることも理解されるべきである。この相関関係に到達するために他の方法を用いることもできる。例えば、ビットマップBM1とBM2のピクセルを選定する方向が両ビットマップは実質的に互いの鏡像であることを考慮するように選ばれる場合には、ステップ7において行われる比較は転置しないビットマップBM2を用いて行うことができる。別の例として、ビットマップBM2(又はビットマップBM1)のポピュレーティングは、同様に、ビットマップBM2(又はビットマップBM1)の転置ステップを別に行う必要性を避けるように実施できる。
【0039】
ビットマップBM1とBM2の比較結果が1つのビットマップに保存される限り、同比較結果を保存するために第3のビットマップ(例えばBM3)を用いるのは好ましいことだが、必須ではないということも理解されるべきである。例えば、BM1とBM2の両方、又はいずれかを比較結果を以てポピュレーティングすることによって、その結果を含む1つ以上のビットマップは上記ステップ8におけるBM3の代わりに使用できるものとなる。
【0040】
上記の発明方法は、SFFF装置の1回の造形サイクルの間に複数の物品、及び/又は1つの物品の複数の複製物を製造するのに適用できる。形状が異なる物品が同じ印刷ベッドで製造されるような場合、選択された発明方法がそれぞれの物品のSTLファイルに適用され、それらの結果が1つのビットマップに結合されてから当該層を印刷するために用いられる。同じ印刷ベッドで同じ物品の複製物が複数製造され、しかもこれらの複製物が印刷ベッド内で異なる方向を向く、及び/又は印刷ベッド内で異なる高さにある場合も同じことが行われる。同じ物品の複数の複製物が製造される場合、当該物品のSTLファイル及び保存された結果に対して選択された発明方法を適用する必要があるのは一度だけであり、その際、当該層を印刷するために用いられるビットマップは、当該層における所望の間隔で、保存された結果の複数の複製物を以てポピュレーティングされる。
【0041】
実施態様は、3次元ベクトル・グラフィックスをレンダリングできる任意のAPIを用いて実施されるものであってよい。この種のAPIの例には、クロノス・グループのOpenGLやマイクロソフト社のDirect3Dなどがある。発明方法は、通常のコンピューター処理ハードウェアを用いて使用できるか、又は計算速度をさらに高めるために専用のグラフィックスハードウエアと併せて使用できることに留意すること。
【0042】
SFFF装置がバッチ処理、連続処理のどちらのために構成されていようと、発明方法はSFFF装置の印刷ボックスで物品の1つ以上の層を作ることに用いられる場合があることが理解されるべきである。
【0043】
本発明のごく少数の実施態様のみを示し、説明してきたが、当業者にとっては、以下の特許請求範囲に記載される発明の精神と範囲から逸脱せずに同発明に多くの変更と修正を行えることは明らかである。本明細書で特定される米国のすべての特許及び特許出願、並びに米国外のすべての特許及び特許出願等の文書は、法の下で認められる最大限の範囲で、本明細書内に省略せずに記載されているかの如く、参照により本明細書に組み込まれる。