特許第6593645号(P6593645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6593645
(24)【登録日】2019年10月4日
(45)【発行日】2019年10月23日
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20191010BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20191010BHJP
   H01Q 21/28 20060101ALI20191010BHJP
   H01Q 19/17 20060101ALI20191010BHJP
   H01Q 19/18 20060101ALI20191010BHJP
【FI】
   H01Q21/24
   H01Q21/08
   H01Q21/28
   H01Q19/17
   H01Q19/18
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-18220(P2016-18220)
(22)【出願日】2016年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-139575(P2017-139575A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2018年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 来布
(72)【発明者】
【氏名】小川 智之
【審査官】 新田 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−50669(JP,A)
【文献】 特開2012−165355(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0076259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/24
H01Q 19/17
H01Q 19/18
H01Q 21/08
H01Q 21/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平偏波および垂直偏波を送受信するアンテナ装置であって、
容器と、
前記容器内に収容された第1反射板と、
前記容器内であって前記第1反射板の一側に、前記第1反射板の長手方向に沿って配置された複数のアンテナ素子群と、
前記容器内であって前記第1反射板の他側に、前記第1反射板と平行に配置された第2反射板と、を有し、
ぞれぞれの前記アンテナ素子群は、水平偏波素子と、前記水平偏波素子の両側に配置され、前記水平偏波素子を挟んで対向する第1垂直偏波素子および第2垂直偏波素子と、を含み、
前記第2反射板には、それぞれの前記アンテナ素子群に含まれる前記水平偏波素子と前記第1反射板を挟んで対向する複数のスリットが設けられ、
それぞれの前記スリットの長手方向中心は、対向する前記水平偏波素子の真下に位置している、
アンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ装置において、
それぞれの前記スリットの長さが当該アンテナ装置の使用周波数の1/2波長に相当する長さである、
アンテナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアンテナ装置において、
それぞれの前記スリットの幅が1mm以上かつ15mm以下である、
アンテナ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のアンテナ装置において、
それぞれの前記スリットの幅が5mm以上かつ10mm以下である、
アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置に関するものであり、特に移動体通信の基地局アンテナとしての利用に適したアンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体通信の基地局アンテナは、当該基地局アンテナが担当するエリア内の複数のセルのそれぞれに対応した複数のアンテナ装置(セクタアンテナ)を有しており、各アンテナ装置は所定のセルに向けて電波を送信し、所定のセルから送信される電波を受信する。
【0003】
それぞれのアンテナ装置は、一般的に“レドーム”と呼ばれる容器と、容器内に収容された反射板,垂直偏波素子および水平偏波素子を備えている。垂直偏波素子は、反射板の近傍に配置されて垂直偏波を送受信し、水平偏波素子は、反射板の近傍に配置されて水平偏波を送受信する。例えば、水平偏波素子が反射板の一面に垂直に立てられ、この水平偏波素子の両側に一対の垂直偏波素子が反射板の一面に対して斜めに立てられる。換言すれば、一対の垂直偏波素子の間に、1つの水平偏波素子が配置される。それぞれの垂直偏波素子は、反射板の一面から離反するにしたがって互いに離反するように傾斜しており、全体としてV字形状またはY字形状を呈する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−33018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のアンテナ装置が隣接配置される場合、それぞれのアンテナ装置から放射される電波同士の干渉が問題となる。このような電波同士の干渉に関する指標の1つとして希望波対干渉波比(DU比/Desiredto Undesired signal ratio)がある。
【0006】
例えば、120度間隔で配置された同一特性の3つのアンテナ装置(セクタアンテナ)のうちの任意の1つ(対象セクタアンテナ)に関するDU比は次のようにして求められる。対象セクタアンテナの位置を基準(0度)とし、角度毎に1番大きい電波レベル(相対利得)[dB]、2番目に大きい電波レベル(相対利得)[dB]、3番目に大きい電波レベル(相対利得)[dB]を測定する。このとき、1番大きい電波レベルは、対象セクタアンテナから放射された電波のレベルであり、2番目及び3番目に大きい電波レベルは、対象セクタアンテナ以外のセクタアンテナから放射された電波のレベルである。換言すれば、1番大きいレベルを示す電波は希望波であり、2番目及び3番目に大きなレベルを示す電波は干渉波である。
【0007】
そこで、角度毎に、当該角度において1番大きい電波レベルから2番目に大きい電波レベルと3番目に大きい電波レベルの和を減算することによって希望波対干渉波比(DU比)が求められる。
【0008】
以上のように、DU比とは、それぞれの角度における希望波レベルから干渉波レベルを減じた値であり、DU比が高いことは当該角度における干渉波が少ないことを意味する。また、DU比が所定値よりも高い角度範囲が広いことは、当該アンテナ装置が広範囲において良好なアンテナ特性を示すことを意味する。
【0009】
そこで、アンテナ装置においては、メインビーム以外の不要な電波(サイドローブ等)をなるべく低減させてDU比を改善することが望まれる。
【0010】
従来、全体としてV字形状またはY字形状を呈する一対の垂直偏波素子と、これら垂直偏波素子の間に配置された1つの水平偏波素子と、を備えるアンテナ装置のDU比を改善する手法として、垂直偏波素子と水平偏波素子との間隔を調整する手法がある。具体的には、一対の垂直偏波素子が成す角度(開き角度)を増減させて、垂直偏波素子を水平偏波素子に近接または離反させる。
【0011】
しかし、上記手法によると、垂直偏波および水平偏波のDU比が同時に変化してしまう。このため、水平偏波のDU比のみを改善することは困難または不可能である。一方、アンテナ装置のDU比改善においては、垂直偏波のDU比に影響を与えず、水平偏波のDU比のみを改善したい場合がある。
【0012】
本発明の目的は、垂直偏波のDU比に対する影響を抑制しつつ、水平偏波のDU比を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のアンテナ装置は、水平偏波および垂直偏波を送受信するアンテナ装置である。このアンテナ装置は、容器と、前記容器内に収容された第1反射板と、前記容器内であって前記第1反射板の一側に、前記第1反射板の長手方向に沿って配置された複数のアンテナ素子群と、前記容器内であって前記第1反射板の他側に、前記第1反射板と平行に配置された第2反射板と、を有する。ぞれぞれの前記アンテナ素子群は、水平偏波素子と、前記水平偏波素子の両側に配置され、前記水平偏波素子を挟んで対向する第1垂直偏波素子および第2垂直偏波素子と、を含む。また、前記第2反射板には、それぞれの前記アンテナ素子群に含まれる前記水平偏波素子と前記第1反射板を挟んで対向する複数のスリットが設けられる。それぞれの前記スリットの長手方向中心は、対向する前記水平偏波素子の真下に位置している。
【0014】
本発明の一態様では、それぞれの前記スリットの長さは、当該アンテナ装置の使用周波数の1/2波長に相当する長さである。
【0015】
本発明の他の態様では、それぞれの前記スリットの幅は、1mm以上かつ15mm以下である。
【0016】
本発明の他の態様では、それぞれの前記スリットの幅は、5mm以上かつ10mm以下である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、垂直偏波のDU比に対する影響を抑制しつつ、水平偏波のDU比を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明が適用されたアンテナ装置の全体構成を示す斜視図である。
図2】本発明が適用されたアンテナ装置の全体構成を示す断面図である。
図3】アンテナ素子群と第2反射板との位置関係を示す断面図である。
図4】第2反射板の平面図である。
図5】(a)は、比較例としてのアンテナ装置から放射される水平偏波(H偏波)の水平面指向性を示すグラフであり、(b)は、比較例としてのアンテナ装置から放射される垂直偏波(V偏波)の水平面指向性を示すグラフである。
図6】(a)は、本発明が適用されたアンテナ装置から放射される水平偏波(H偏波)の水平面指向性を示すグラフであり、(b)は、本発明が適用されたアンテナ装置から放射される垂直偏波(V偏波)の水平面指向性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のアンテナ装置の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本実施形態に係るアンテナ装置は、移動体通信の基地局アンテナを構成するセクタアンテナの1つとして用いられるアンテナ装置である。基地局アンテナは、当該基地局アンテナが担当するエリア内の各セルに対応するアンテナ装置(セクタアンテナ)を備える。例えば、当該基地局アンテナが担当するエリアが水平面において120°間隔で3分割されている場合、つまりエリアが3つのセルに分割されている場合、当該基地局アンテナは120°間隔で配置される3つのアンテナ装置を備える。それぞれのアンテナ装置は、割り当てられたセル内の通信端末との間で電波の送受信を行う。
【0021】
図1は、本実施形態に係るアンテナ装置1の全体構成を示す斜視図である。図1に示されるアンテナ装置1は、一般的に“レドーム”と呼ばれる円筒形の容器2を有する。容器2の内部には、対向する二枚の金属板11,12と、これら二枚の金属板11,12の間に配置された基板13と、複数のアンテナ素子群20と、一枚の金属板30と、が収容されている。
【0022】
図1では、作図の便宜上の理由により、アンテナ装置1が横倒しの状態で図示されている。しかし、アンテナ装置1は、基地局アンテナのセクタアンテナとして用いられる際には起立する。具体的には、アンテナ装置1は、容器2の軸線が鉛直または略鉛直となるように起立した状態で用いられる。
【0023】
基板13は誘電体材料によって形成されており、基板13の表裏面には、不図示の導体層がそれぞれ形成されている。すなわち、導体層が形成された基板13と該基板13を挟んで対向する一対の金属板11,12とは全体としてトリプレート線路を構成しており、このトリプレート線路が各アンテナ素子群20と電気的に接続されている。つまり、それぞれの金属板11,12はトリプレート線路を構成するグランド板として機能する。一方、それぞれの金属板11,12は、アンテナ素子群20から放射される電波を反射する第1反射板としても機能する。そこで以下の説明では、図1に示されている金属板11を“上側金属板11”と呼び、金属板12を“下側金属板12”と呼ぶ場合がある。また、上側金属板11および下側金属板12を“第1反射板10”と総称する場合がある。また、金属板30は、アンテナ素子群20から放射される電波を反射する第2反射板として機能する。そこで以下の説明では、図1に示されている金属板30を“第2反射板30”と呼ぶ場合がある。
【0024】
第1反射板10は、容器2の軸方向を長手方向とする略矩形の平面形状を有する。第1反射板10は、容器2の径方向中央または略中央に配置され、容器2の内部空間を二分または略二分している。アンテナ素子群20は、容器2内であって第1反射板10の一側に設けられており、第2反射板30は、容器2内であって第1反射板10の他側に設けられている。つまり、アンテナ素子群20と第2反射板30とは、第1反射板10を挟んで互いに反対側に位置している。
【0025】
上側金属板11及び下側金属板12の幅方向両端部は、それぞれ直角に折り曲げられて側壁11a,12aを形成している。もっとも、上側金属板11の側壁11aと下側金属板12の側壁12aとは互いに逆向きに立ち上がっている。具体的には、上側金属板11の側壁11aは、アンテナ素子群20が設けられている第1反射板10の一側に向かって立ち上がっており、下側金属板12の側壁12aは、第2反射板30が設けられている第1反射板10の他側に向かって立ち上がっている。また、第2反射板30の幅方向両端部には、側壁11aと同方向に立ち上げられた側壁30aが設けられている。
【0026】
図2に示されるように、第1反射板10の一側に設けられている複数のアンテナ素子群20は、第1反射板10の長手方向に沿って所定ピッチで一列に並んでいる。また、第1反射板10の他側に設けられている第2反射板30は、第1反射板10と平行である。さらに、第2反射板30には、アンテナ素子群20と同ピッチで一列に並ぶ複数のスリット31が設けられている。
【0027】
図1に示されるように、それぞれのアンテナ素子群20は、水平偏波を送受信する1つの水平偏波素子21と、垂直偏波を送受信する2つの垂直偏波素子(第1垂直偏波素子22,第2垂直偏波素子23)と、を含んでいる。図3に示されるように、水平偏波素子21は、互いに逆方向に延びる腕部21a,21bを備えており、第1のダイポールアンテナとして機能する。尚、腕部21aは、水平偏波素子21の上端から第1垂直偏波素子22に向かって伸びており、腕部21bは、水平偏波素子21の上端から第2垂直偏波素子23に向かって伸びている。また、一対の第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23は、第2のダイポールアンテナとして機能する。つまり、水平偏波素子21,第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23を含む各アンテナ素子群20は、水平偏波および垂直偏波の双方を送受信することができる共用アンテナユニットである。水平偏波素子21,第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23の下端は、上側金属板11を貫通して基板13に形成されている不図示の導体層に接続されている。つまり、水平偏波素子21,第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23が既述のトリプレート線路と電気的に接続されている。
【0028】
図3に示されるように、それぞれのアンテナ素子群20に含まれる水平偏波素子21は、第1反射板10の幅方向中央に配置されている。一方、それぞれのアンテナ素子群20に含まれる第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23は、当該アンテナ素子群20に含まれる当該水平偏波素子21の両側に配置され、当該水平偏波素子21を挟んで対向している。
【0029】
さらに、水平偏波素子21は、第1反射板10に対して垂直である一方、第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23は第1反射板10に対して傾斜している。具体的には、第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23は、第1反射板10から離反するに従って互いの対向間隔が拡大するように、互いに逆向きに傾斜している。図3では、第1垂直偏波素子22は右側に傾斜しており、第2垂直偏波素子23は左側に傾斜している。
【0030】
また、第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23の水平偏波素子21に対する傾斜角度は同一である。よって、第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23は、水平偏波素子21を中心として対称である。
【0031】
第2反射板30は、第1反射板10を挟んでアンテナ素子群20と対向している。図2図3に示されるように、第2反射板30に設けられている複数のスリット31は、それぞれのアンテナ素子群20に含まれる水平偏波素子21と第1反射板10を挟んで対向している。換言すれば、それぞれのスリット31は、対応する水平偏波素子21の真裏(図2図3では真下)に配置されている。
【0032】
図4に示されるように、それぞれのスリット31は、第2反射板30の長手方向に沿って伸びる帯状の貫通孔であり、その長手方向中心は、対向する水平偏波素子21の真下に位置している。それぞれのスリット31の長さ(L)は、アンテナ装置1の使用周波数の1/2波長に相当する長さである。本実施形態に係るアンテナ装置1の使用周波数帯は、700[MHz]帯と800[MHz]帯である。よって、本実施形態では、それぞれのスリット31の長さ(L)が中間周波数(750[MHz])の1/2波長に相当する長さに設定されている。また、それぞれのスリット31の幅(W)は、1mm以上かつ15mm以下の範囲内であることが好ましく、5mm以上かつ10mm以下の範囲内であることがさらに好ましい。加えて、それぞれのスリット31の幅(W)は、アンテナ装置1の使用周波数が高くなるほど狭くすることが好ましい。本実施形態では、それぞれのスリット31の幅(W)が5mmに設定されている。
【0033】
図1に示されている第1反射板10及び第2反射板30は、不図示の固定部材を介して容器2の内周面に固定されている。もっとも、第1反射板10と第2反射板30とは電気的に絶縁されており、第2反射板30は電気的に浮いている。また、基板13と上側金属板11との間隔および基板13と下側金属板12との間隔は、不図示のスペーサによって所定間隔に保たれている。
【0034】
以上のように、本実施形態に係るアンテナ装置1では、各アンテナ素子群20に含まれている水平偏波素子21の真裏に、スリット31を含む第2反射板30が配置されており、この第2反射板30の存在により水平偏波のDU比が改善される。換言すれば、垂直偏波のDU比に対して実質的な影響を与えることなく、水平偏波のDU比の改善が図られる。
【0035】
図5(a)に示されるグラフは、図1等に示されている第2反射板30が設けられていないアンテナ装置(比較例)から放射される700[MHz]帯および800[MHz]帯の水平偏波(H偏波)の水平面指向性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。また、図5(b)に示されるグラフは、上記比較例から放射される700[MHz]帯および800[MHz]帯の垂直偏波(V偏波)の水平面指向性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【0036】
一方、図6(a)に示されるグラフは、アンテナ装置1、つまり第2反射板30が設けられている本実施形態のアンテナ装置1から放射される700[MHz]帯および800[MHz]帯の水平偏波(H偏波)の水平面指向性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。また、図6(b)に示されるグラフは、アンテナ装置1から放射される700[MHz]帯および800[MHz]帯の垂直偏波(V偏波)の水平面指向性に関するシミュレーション結果を示すグラフである。尚、本シミュレーションにおいては、図4に示されるスリット31の長さ(L)を700[MHz]の1/2波長に相当する長さに設定した。
【0037】
また、図5(a),(b)および図6(a),(b)に示されている各グラフ中の網掛け部分は、メインローブ(希望波)以外の不要なローブ(干渉波)が現れている領域(角度範囲)を示している。換言すれば、各グラフ中の2つの網掛け部分の間の領域(角度範囲)は、メインローブ(希望波)が現れている領域(角度範囲)を示している。
【0038】
図5(a)と図6(a)とを比較すると、アンテナ装置1では、比較例と比べて、700[MHz]帯および800[MHz]帯の双方の帯域において干渉波の利得が低下していることがわかる。つまり、アンテナ装置1では、比較例と比べて、干渉波の利得に対する希望波の利得が相対的に上昇しており、水平偏波のDU比(希望波対干渉波比)が改善されている。
【0039】
一方、図5(b)と図6(b)とを比較すると、アンテナ装置1における700[MHz]帯および800[MHz]帯の干渉波の利得と、比較例における700[MHz]帯および800[MHz]帯の干渉波の利得と、は同一である。つまり、アンテナ装置1における垂直偏波のDU比(希望波対干渉波比)と、比較例における垂直偏波のDU比(希望波対干渉波比)と、は同一である。
【0040】
以上のように、スリット31を含む第2反射板30が設けられているアンテナ装置1では、水平偏波のDU比は改善されている一方、垂直偏波のDU比は影響を受けていない。
【0041】
本件発明者らの行ったシミュレーションによれば、本実施形態に係るアンテナ装置1では、700[MHz]帯において水平偏波のDU比が25[dB]よりも大きい角度範囲は133.2度であった一方、比較例では86.4度であった。つまり、アンテナ装置1では、700[MHz]帯において水平偏波のDU比が25[dB]よりも大きい角度範囲が46.8度増加した。同様に、本実施形態に係るアンテナ装置1では、800[MHz]帯において水平偏波のDU比が25[dB]よりも大きい角度範囲は122.4度であった一方、比較例では118.8度であった。つまり、アンテナ装置1では、800[MHz]帯において水平偏波のDU比が25[dB]よりも大きい角度範囲が3.6度増加した。
【0042】
また、本実施形態に係るアンテナ装置1および比較例では、700[MHz]帯において垂直偏波のDU比が25[dB]よりも大きい角度範囲は93.6度で同一であった。同様に、本実施形態に係るアンテナ装置1および比較例では、800[MHz]帯において垂直偏波のDU比が25[dB]よりも大きい角度範囲は118.8度で同一であった。
【0043】
上記シミュレーションにより、アンテナ装置1では、使用周波数帯の一方(700[MHz]帯)において、水平偏波のDU比が大幅に改善される一方、垂直偏波のDU比は影響を受けないことが確認された。また、使用周波数帯の他方(800[MHz]帯)については、水平偏波及び垂直偏波の双方のDU比が実質的な影響を受けないことが確認された。本シミュレーションでは、スリット31の長さ(L)が700[MHz]の1/2波長に相当する長さに設定されていたため、700[MHz]帯の水平偏波のDU比のみが大幅に改善される結果となった。
【0044】
もっとも、スリット31の長さ(L)を中間周波数(750[MHz])の1/2波長に相当する長さに設定すれば、700[MHz]帯および800[MHz]帯の双方において水平偏波のDU比が改善される。また、スリット31の長さ(L)を800[MHz]の1/2波長に相当する長さに設定すれば、800[MHz]帯の水平偏波のDU比のみが大幅に改善される。また、使用周波数帯が同一の場合、スリット31の幅(W)が広い程、DU比が25[dB]よりも大きい角度範囲が増大する傾向がある。
【0045】
このように、スリット31の長さや幅を調整することにより、垂直偏波のDU比に影響を与えることなく、任意の周波数帯における水平偏波のDU比を改善させることができる。
【0046】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施形態における水平偏波素子21,第1垂直偏波素子22および第2垂直偏波素子23は、所定形状に加工された金属板である。しかし、これら偏波素子21,22,23は、誘電体基板と、この誘電体基板の表面に形成された導体パターンと、を有する偏波素子(アンテナ素子)に置換することができる。
【0047】
また、各アンテナ素子群20に電力を供給する給電線路はトリプレート線路に限られるものではなく、他の構造の線路を介して各アンテナ素子群20に電力を供給してもよい。
【0048】
上記実施形態では、容器2内に3つのアンテナ素子群20が設けられていたが、アンテナ素子群20の数は適宜増減させることができる。また、アンテナ素子群20の数が増減される場合には、これに応じてスリット31の数も増減される。
【0049】
また、上記実施形態における上側金属板11には側壁11aが設けられ、下側金属板12には側壁12aが設けられ、第2反射板30には側壁30aが設けられている。しかし、これら側壁11a,12a,30aは本発明の必須要素ではなく、所望のアンテナ特性を考慮して適宜省略することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 アンテナ装置
2 容器
10 第1反射板
11 上側金属板
12 下側金属板
11a,12a,30a 側壁
13 基板
20 アンテナ素子群
21 水平偏波素子
21a,21b 腕部
22 第1垂直偏波素子
23 第2垂直偏波素子
30 第2反射板
31 スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6