特許第6634393号(P6634393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6634393電気自動車用のエアコン用作動媒体および電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6634393
(24)【登録日】2019年12月20日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】電気自動車用のエアコン用作動媒体および電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20200109BHJP
   F25B 1/00 20060101ALN20200109BHJP
   B60H 1/22 20060101ALN20200109BHJP
【FI】
   C09K5/04 F
   C09K5/04 E
   !F25B1/00 396Z
   !B60H1/22 671
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-574768(P2016-574768)
(86)(22)【出願日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2016053390
(87)【国際公開番号】WO2016129500
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2018年7月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-23579(P2015-23579)
(32)【優先日】2015年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 正人
(72)【発明者】
【氏名】河口 聡史
(72)【発明者】
【氏名】上野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】西田 伸
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/005290(WO,A1)
【文献】 特表2014−525975(JP,A)
【文献】 特表2014−520948(JP,A)
【文献】 特表2014−520930(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/081539(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体であって、前記作動媒体全量に対するトリフルオロエチレンとジフルオロメタンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であり、
トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの合計量に対する、トリフルオロエチレンの割合が0質量%を超え50質量%以下、ジフルオロメタンの割合が0質量%を超え40質量%以下、かつ1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が40質量%以上90質量%以下であることを特徴とする電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項2】
トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの合計量に対する、トリフルオロエチレンの割合が0質量%を超え20質量%以下、ジフルオロメタンの割合が0質量%を超え20質量%以下、かつ1,3,3,3−テトラフルオロプロペンの割合が65質量%以上90質量%以下である請求項1に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項3】
前記作動媒体は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書による地球温暖化係数(100年)が400未満である請求項1または2に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項4】
前記作動媒体は、前記地球温暖化係数が300未満である請求項3に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項5】
前記作動媒体は、前記地球温暖化係数が200未満である請求項3に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項6】
前記1,3,3,3−テトラフルオロプロペンが、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペンを60質量%以上含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項7】
前記作動媒体は、さらに2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項8】
前記作動媒体は、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項9】
前記作動媒体は、トリフルオロエチレンとジフルオロメタンと1,3,3,3−テトラフルオロプロペンと2,3,3,3−テトラフルオロプロペンからなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項10】
前記電気自動車用のエアコンは、冷房および暖房をヒートポンプで行う請求項1〜9のいずれか1項に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体と、潤滑油とを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車用のエアコン用作動媒体およびこれを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物に関する。
なお、本明細書において、「電気自動車」とは、電気モータのみを動力源とするいわゆる電気自動車に加えて、電気モータとガソリンエンジンの双方を備えるハイブリッド車および燃料電池車を意味する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、ハロゲン化炭化水素については、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すが、本明細書では必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。
【0003】
一般に、ガソリン自動車は、燃料であるガソリンを燃焼させて走行する。ガソリン自動車の暖房には、エンジンでのガソリン燃焼の廃熱を利用し、エンジンを冷却するための冷却水の熱で車内の空気を加熱する方法が採用される。また、ガソリン自動車の冷房には、ヒートポンプを利用し、作動媒体である冷媒を蒸発器で蒸発させることにより発生する蒸発熱で車内の空気を冷却する方法が採用される。
【0004】
従来、ガソリン自動車用のエアコン用作動媒体としては、ジクロロジフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)が用いられてきた。しかし、CFCは、成層圏のオゾン層への影響が指摘され、現在、規制の対象となっている。
【0005】
このような経緯から、ガソリン自動車用のエアコン用作動媒体としては、CFCに代えて、オゾン層への影響が少ないヒドロフルオロカーボン(HFC)、例えば、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)が、従来から広く使用されてきた。
【0006】
しかし、HFCは、地球温暖化の原因となる可能性が指摘されている。例えば、HFC−134aは、地球温暖化係数(GWP)が1430と高いことから、低GWP作動媒体の開発が求められている。この際、HFC−134aを単に置き換えて、これまで用いられてきた機器をそのまま使用し続けることが可能な作動媒体の開発が求められている。
【0007】
最近、オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が少ない作動媒体として、大気中のOHラジカルによって分解されやすい炭素−炭素二重結合を有するHFC、すなわちヒドロフルオロオレフィン(HFO)に期待が集まっている。
本明細書においては、特に断りのない限り飽和のHFCをHFCといい、HFOとは区別して用いる。また、HFCを飽和のヒドロフルオロカーボンのように明記する場合もある。
【0008】
上記HFC−134aに置き換え可能なガソリン自動車用のエアコン用作動媒体として、テトラフルオロプロペン、特に、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)が提案された(特許文献1)。HFO−1234yfは、HFC−134aと同等の性能でありながら、GWPが4と著しく低い化合物である。
【0009】
一方、近年、普及率が増加している電気自動車は、ガソリン自動車に比べて廃熱量が少なく、暖房に、エンジンの廃熱を利用できない。そのため、冷房に加えて暖房にもヒートポンプを利用した電気自動車用のエアコンの開発が求められている。
【0010】
しかし、電気自動車用のエアコン用作動媒体として、HFC−134aやHFO−1234yfは、サイクル性能等の特性が十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4571183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記観点からなされたものであって、地球温暖化への影響が少なく、電気自動車用のエアコン用作動媒体として実用上十分なサイクル性能、特に暖房時において十分なサイクル性能が得られ、かつ、従来の作動媒体、例えばHFC−134aやHFO−1234yfが適用されるエアコン機器の仕様を大きく変更せずに使用できる電気自動車用のエアコン用作動媒体およびこれを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の[1]〜[12]に記載の構成を有する電気自動車用のエアコン用作動媒体およびこれを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物を提供する。
[1]トリフルオロエチレン(HFO−1123)とジフルオロメタン(HFC−32)と1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)を含む電気自動車用のエアコン用作動媒体であって、前記作動媒体全量に対するHFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下であることを特徴とする電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[2]HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対する、HFO−1123の割合が0質量%を超え50質量%以下、HFC−32の割合が0質量%を超え40質量%以下、かつHFO−1234zeの割合が40質量%以上90質量%以下である[1]に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[3]HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対する、HFO−1123の割合が0質量%を超え20質量%以下、HFC−32の割合が0質量%を超え20質量%以下、かつHFO−1234zeの割合が65質量%以上90質量%以下である[1]または[2]に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[4]前記作動媒体は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書による地球温暖化係数(100年)が400未満である[1]〜[3]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[5]前記作動媒体は、前記地球温暖化係数が300未満である[4]に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[6]前記作動媒体は、前記地球温暖化係数が200未満である[4]に記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[7]前記HFO−1234zeが、トランス−HFO−1234zeを60質量%以上含む[1]〜[6]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[8]前記作動媒体は、さらに2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)を含む[1]〜[7]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[9]前記作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeからなる[1]〜[7]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[10]前記作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeとHFO−1234yfからなる[1]〜[8]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[11]前記電気自動車用のエアコンは、冷房および暖房をヒートポンプで行う[1]〜[10]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体。
[12]前記[1]〜[11]のいずれかに記載の電気自動車用のエアコン用作動媒体と、潤滑油とを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地球温暖化への影響を抑え、電気自動車用の作動媒体として実用上十分なサイクル性能、特に、冷房時に加えて、暖房時においても十分なサイクル性能が得られ、かつ、従来の作動媒体、例えばHFC−134aやHFO−1234yfが適用されるエアコン機器の仕様を大きく変更せずに使用できる電気自動車用のエアコン用作動媒体およびこれを含む電気自動車用のエアコン用作動媒体組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明の電気自動車用のエアコン用作動媒体の好ましい組成範囲を示すHFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの三角座標図である。
図1B】本発明の電気自動車用のエアコン用作動媒体のより好ましい組成範囲を示すHFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの三角座標図である。
図2】本発明の電気自動車用のエアコン用作動媒体を評価する冷凍サイクルシステムの一例を示す概略構成図である。
図3図2の冷凍サイクルシステムにおける作動媒体の状態変化を圧力−エンタルピ線図上に記載したサイクル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<作動媒体>
本発明の電気自動車用のエアコン用作動媒体(以下、単に作動媒体ともいう)は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeを含み、前記作動媒体全量に対する、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下である。
【0017】
本発明において、電気自動車用のエアコンとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器によるエアコンが特に制限なく挙げられる。
【0018】
[HFO−1123、HFC−32、HFO−1234zeの特性]
本発明の作動媒体が含有するHFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeの作動媒体としての特性、具体的には、サイクル性能、エアコン稼働時の装置への負荷(以下、単に装置への負荷ともいう。)、GWP、自己分解性について説明する。
HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeの特性を、HFO−1234yfと比較して表1に示す。
【0019】
HFO−1234zeは、HFO−1234zeのシス体(HFO−1234ze(Z))、HFO−1234zeのトランス体(HFO−1234ze(E))、およびHFO−1234ze(E)とHFO−1234ze(Z)の混合物を含む。以下、シス体とトランス体を明確に区別する場合には、HFO−1234ze(Z)およびHFO−1234ze(E)と記載する。表1には、HFO−1234zeを代表するものとして、HFO−1234ze(E)の特性を記載する。
【0020】
(サイクル性能)
サイクル性能としては、例えば、図2に示す冷凍サイクルシステムで評価される成績係数および冷凍能力が挙げられる。HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234ze(E)の成績係数および冷凍能力は、HFO−1234yfを基準(1.000)とする相対成績係数および相対冷凍能力として表1に示す。
相対成績係数および相対冷凍能力は、1より大きいほど、HFO−1234yfに比較してサイクル性能に優れる作動媒体であることを示す。
【0021】
(装置への負荷)
装置への負荷は、例えば、図2に示す冷凍サイクルシステム10の圧縮機11から吐出する作動媒体の圧縮機吐出ガス温度(以下、吐出温度という)、および、吐出する作動媒体の圧縮機吐出ガス圧力(以下、吐出圧力という)から評価する。なお、冷凍サイクルシステム10の概要構成およびサイクルは後述のとおりである。
【0022】
HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234ze(E)を使用した場合の吐出温度からHFO−1234yfを使用した場合の吐出温度を引いた温度差(TΔ)と、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234ze(E)を使用した場合の吐出圧力のHFO−1234yfを使用した場合の吐出圧力に対する圧力比を表1に示す。
【0023】
TΔは、小さいほど、HFO−1234yfに比較して、吐出温度の差が小さいことを示す。
圧力比は、小さいほど、HFO−1234yfに比較して、吐出圧力が小さいことを示す。TΔおよび圧力比は、小さいほど、装置への負荷が小さい作動媒体であることを示す。
【0024】
(GWP)
地球温暖化係数(GWP)は、特に断りのない限り気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年)の100年の値とする。また、混合物である作動媒体におけるGWPは、各成分の組成質量による加重平均とする。なお、HFO−1123の地球温暖化係数(100年)は、IPCC第4次評価報告書に記載がないため、これに準じて測定された値を用いた。
GWPは、低いほど、地球温暖化への影響が小さい作動媒体であることを示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1から、HFO−1234yfに比較して、HFO−1123は、作動媒体としての冷凍能力に非常に優れ、かつGWPが低い。一方、装置への負荷が大きいことがわかる。
また、HFC−32は、HFO−1234yfに比較して、作動媒体としての冷凍能力に非常に優れることがわかる。
なお、HFO−1123は、高温または高圧下で着火源があると、いわゆる自己分解することが知られるが、自己分解しない化合物であるHFO−32と組合せることにより、自己分解を抑制できる。
【0027】
また、HFO−1123とHFC−32とは、質量比で99:1〜1:99の組成範囲で共沸混合物に近い擬似共沸混合物を形成可能であり、HFO−1123と組合せる化合物としてはHFC−32が有利である。HFC−32はGWPが高いが、単独で用いてもHFC−134aの1430の1/2以下であり、HFO−1123と組み合わせることで本発明の作動媒体のGWPを低く抑えることが可能である。
【0028】
一方、HFO−1123とHFC−32はともに装置への相対負荷が大きい。しかし、本発明の作動媒体には、さらにHFO−1234zeが含有されるので、装置への相対負荷が小さい。また、HFO−1234zeは、相対成績係数がHFO−1123、HFC−32およびHFO−1234yfより優れるので、HFO−1123およびHFC−32と組み合わされた本発明の作動媒体は、サイクル性能のバランスに優れる。さらに、HFO−1234zeは、HFOであることからGWPが極めて低い。
【0029】
本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeを任意の割合で含有することで、個々の化合物が有する特長を活かし、かつ、短所を補完したバランスのとれた作動媒体である。本発明の作動媒体は、従来使用されてきたHFC−134aやHFO−1234yfに比べてサイクル性能に優れ、これを用いた電気自動車用のエアコンにおいて冷房時、暖房時ともに十分な性能と効率が達成できる。さらに、本発明の作動媒体は、GWPが十分に低く、装置への負荷は、HFC−134aやHFO−1234yfに置き換え可能な程度に少ない。
【0030】
本発明の作動媒体における、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeの好ましい組成としては、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対する、HFO−1123の割合が0質量%を超え50質量%以下、HFC−32の割合が0質量%を超え40質量%以下、かつHFO−1234zeの割合が40質量%以上90質量%以下である。
【0031】
HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeのさらに好ましい組成としては、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対する、HFO−1123の割合が0質量%を超え20質量%以下、HFC−32の割合が0質量%を超え20質量%以下、かつHFO−1234zeの割合が65質量%以上90質量%以下である。
【0032】
上記のいずれの場合においても本発明の作動媒体における、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対するHFO−1123の割合は、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましい。本発明の作動媒体における、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対するHFC−32の割合は、4質量%以上が好ましく、6質量%以上がより好ましい。
【0033】
本発明の作動媒体は、前記作動媒体全量に対する、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量の割合が90質量%を超え100質量%以下である。
本発明の作動媒体は、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234ze以外のその他の成分を、10質量%未満の割合で含有することも好ましい。その他の成分としては後述する化合物が使用できる。なお、本発明の作動媒体としては、その他の成分を含まず、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeの3成分のみからなる混合物が好ましい。
【0034】
HFO−1234zeとしては、HFO−1234ze(E)が60質量%以上であることが好ましい。HFO−1234zeにおけるHFO−1234ze(E)の割合は60〜100質量%がより好ましく、99.5〜100質量%が特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0035】
[作動媒体の特性]
以下、図1Aおよび図1Bを参照しながら、本発明の実施形態の作動媒体が、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeのみからなる混合物の場合の組成と、作動媒体としての特性、具体的には、サイクル性能、装置への負荷、GWP、自己分解性との関係について説明する。図1A図1Bは三辺のそれぞれがHFO−1123、HFC−32、HFO−1234zeの組成(質量%)を示す三角座標図である。
【0036】
図1Aに、本発明の実施形態の作動媒体がHFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeのみからなる場合の好ましい組成範囲を太実線で囲まれた6角形の領域で示す。この領域を組成範囲(S)という。
【0037】
組成範囲(S)は、具体的には、以下の3つの式に示す、作動媒体全量に対するHFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeの好ましい割合の範囲を、三角座標図上で示したものである。ただし、以下の各式において各化合物の略称は、作動媒体全量、すなわち、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの合計量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
0質量%<HFO−1123≦50質量%
0質量%<HFC−32≦40質量%
40質量%≦HFO−1234ze≦90質量%
【0038】
したがって、組成範囲(S)を示す6角形の各辺(S1)〜(S6)はそれぞれ以下の範囲の境界線を示す。
(S1)0質量%<HFO−1123
(S2)HFO−1123≦50質量%
(S3)0質量%<HFC−32
(S4)HFC−32≦40質量%
(S5)40質量%≦HFO−1234ze
(S6)90質量%≧HFO−1234ze
【0039】
さらに、上記より好ましい組成範囲としては、作動媒体全量に対するHFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeの好ましい割合の範囲が、以下の3つの式で示される組成範囲が挙げられる。ただし、上記と同様、以下の各式において各化合物の略称は、上記と同様に作動媒体全量に対する当該化合物の割合(質量%)を示す。
0質量%<HFO−1123≦20質量%
0質量%<HFC−32≦20質量%
65質量%≦HFO−1234ze≦90質量%
【0040】
このより好ましい組成範囲を、図1Bにおいて太実線で囲まれた6角形の領域で示す。この領域を組成範囲(P)という。また、組成範囲(P)を示す6角形の各辺(P1)〜(P6)はそれぞれ以下の範囲の境界線を示す。
(P1)0質量%<HFO−1123
(P2)HFO−1123≦20質量%
(P3)0質量%<HFC−32
(P4)HFC−32≦20質量%
(P5)65質量%≦HFO−1234ze
(P6)90質量%≧HFO−1234ze
【0041】
(サイクル性能、装置への負荷の評価方法)
作動媒体のサイクル性能(成績係数(COP)、冷凍能力(Q))、装置への負荷(吐出温度(Tx)、吐出圧力(Px))は、例えば、図2に概略構成図が示される冷凍サイクルシステムを用いて評価できる。
【0042】
図2に示す冷凍サイクルシステム10は、作動媒体蒸気Aを圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする圧縮機11と、圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする凝縮器12と、凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする膨張弁13と、膨張弁13から排出された作動媒体Dを加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする蒸発器14と、蒸発器14に負荷流体Eを供給するポンプ15と、凝縮器12に流体Fを供給するポンプ16とを具備して概略構成されるシステムである。
【0043】
冷凍サイクルシステム10においては、以下の(i)〜(iv)のサイクルが繰り返される。
(i)蒸発器14から排出された作動媒体蒸気Aを圧縮機11にて圧縮して高温高圧の作動媒体蒸気Bとする(以下、「AB過程」という。)。
(ii)圧縮機11から排出された作動媒体蒸気Bを凝縮器12にて流体Fによって冷却し、液化して低温高圧の作動媒体Cとする。この際、流体Fは加熱されて流体F’となり、凝縮器12から排出される(以下、「BC過程」という。)。
【0044】
(iii)凝縮器12から排出された作動媒体Cを膨張弁13にて膨張させて低温低圧の作動媒体Dとする(以下、「CD過程」という。)。
(iv)膨張弁13から排出された作動媒体Dを蒸発器14にて負荷流体Eによって加熱して高温低圧の作動媒体蒸気Aとする。この際、負荷流体Eは冷却されて負荷流体E’となり、蒸発器14から排出される(以下、「DA過程」という。)。
【0045】
冷凍サイクルシステム10は、断熱・等エントロピ変化、等エンタルピ変化および等圧変化からなるサイクルシステムである。作動媒体の状態変化を、図3に示される圧力−エンタルピ線(曲線)図上に記載すると、A、B、C、Dを頂点とする台形として表すことができる。
【0046】
AB過程は、圧縮機11で断熱圧縮を行い、高温低圧の作動媒体蒸気Aを高温高圧の作動媒体蒸気Bとする過程であり、図3においてAB線で示される。後述のとおり、作動媒体蒸気Aは過熱状態で圧縮機11に導入され、得られる作動媒体蒸気Bも過熱状態の蒸気である。吐出温度、吐出圧力は、図3においてBの状態の温度(Tx)、圧力(Px)であり、冷凍サイクルにおける最高温度、最高圧力である。なお、以下に説明するとおり、BC過程は等圧冷却であることから吐出圧力は凝縮圧と同じ値を示す。よって、図3においては、便宜上、凝縮圧をPxと示している。
【0047】
BC過程は、凝縮器12で等圧冷却を行い、高温高圧の作動媒体蒸気Bを低温高圧の作動媒体Cとする過程であり、図3においてBC線で示される。この際の圧力が凝縮圧である。圧力−エンタルピ線とBC線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tが凝縮温度であり、低エンタルピ側の交点Tが凝縮沸点温度である。
【0048】
CD過程は、膨張弁13で等エンタルピ膨張を行い、低温高圧の作動媒体Cを低温低圧の作動媒体Dとする過程であり、図3においてCD線で示される。なお、低温高圧の作動媒体Cにおける温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過冷却度(SC)となる。
【0049】
DA過程は、蒸発器14で等圧加熱を行い、低温低圧の作動媒体Dを高温低圧の作動媒体蒸気Aに戻す過程であり、図3においてDA線で示される。この際の圧力が蒸発圧である。圧力−エンタルピ線とDA線の交点のうち高エンタルピ側の交点Tは蒸発温度である。作動媒体蒸気Aの温度をTで示せば、T−Tが(i)〜(iv)のサイクルにおける作動媒体の過熱度(SH)となる。なお、Tは作動媒体Dの温度を示す。
【0050】
作動媒体の冷凍能力(Q)と成績係数(COP)は、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態における各エンタルピ、h、h、h、hを用いると、下式(11)、(12)からそれぞれ求められる。機器効率による損失、および配管、熱交換器における圧力損失はないものとする。
【0051】
作動媒体のサイクル性能の算出に必要となる熱力学性質は、対応状態原理に基づく一般化状態方程式(Soave−Redlich−Kwong式)、および熱力学諸関係式に基づき算出できる。特性値が入手できない場合は、原子団寄与法に基づく推算手法を用い算出を行う。
【0052】
Q=h−h …(11)
COP=Q/圧縮仕事=(h−h)/(h−h) …(12)
【0053】
上記(h−h)で示されるQが冷凍サイクルの出力(kW)に相当し、(h−h)で示される圧縮仕事、例えば、圧縮機を運転するために必要とされる電力量が、消費された動力(kW)に相当する。また、Qは負荷流体を冷凍する能力を意味しており、Qが高いほど同一のシステムにおいて、多くの仕事ができることを意味する。言い換えると、大きなQを有する場合は、少量の作動媒体で目的とする性能が得られることを表し、システムの小型化が可能である。
【0054】
なお、以上の説明は冷凍サイクルの温度条件として以下の温度により評価を行った際の数値に基づくものである。
蒸発温度;0℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)
凝縮完了温度;40℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)
過冷却度(SC);5℃
過熱度(SH);5℃
【0055】
(GWP)
本発明の作動媒体は、混合物であるので、そのGWPは、各成分の組成質量による加重平均として算出する。HFO−1123およびHFO−1234zeのGWPがHFC−32のGWPに比べて非常に低いことから、HFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeを含有する本発明の作動媒体のGWPはHFC−32の含有量に大きく依存する。
【0056】
したがって、本発明の作動媒体において、三角座標図の下側、すなわち、HFC−32の比率が少ない組成の混合物はGWPが低い。組成範囲(S)では、GWPは高い場合でも273程度である。その組成領域は、組成範囲(S)の上部の組成、すなわち、(S4)の辺の付近の組成である。さらに、(S3)の辺の付近の組成では、例えば、HFC−32が4質量%の組成でもGWPは30〜32の範囲であり、特に低い。組成範囲(P)では、GWPは高い場合でも140程度である。その組成領域は、組成範囲(P)の上部の組成、すなわち、(P4)の辺の付近の組成である。また、(P3)の辺の付近の組成では、例えば、HFC−32が4質量%の組成でもGWPは32前後の範囲であり、特に低い。
【0057】
本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeのみからなることが好ましいが、それ以外のその他の成分を10質量%未満の割合で含有することも好ましい。その他の成分としては、作動媒体のGWPを過剰に増加しない成分が好ましい。
本発明の作動媒体のGWPは、400未満が好ましく、300未満がより好ましく、200未満がさらに好ましい。GWPは特には150以下が好ましい。
【0058】
(サイクル性能)
本発明の作動媒体におけるHFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeの組成範囲を示す三角座標図においては、HFO−1234yfと比較して相対成績係数が1.000以上である組成の混合物は、右下の領域の組成である。相対成績係数は、HFO−1234zeの含有量に依存し、HFO−1234zeの含有量が大きいほど大きい。
【0059】
また、三角座標図において、HFO−1234yfと比較して相対冷凍能力が1.000以上である組成の混合物は、ほぼ全ての領域の組成である。相対冷凍能力は、三角座標図の右下の頂点(HFO−1234ze=100質量%)から左辺(HFO−1123とHFC−32の混合系)に向かって増加する。相対冷凍能力は、HFO−1234zeの含有量に大きく依存し、HFO−1234zeの含有量が大きいほど小さい。
【0060】
相対成績係数は、上記組成範囲(S)において、HFO−1234zeの割合が60質量%以上の組成の混合物について、概ね1.000以上である。相対冷凍能力は、組成範囲(S)内の全ての組成の混合物について、1.000以上であり、右下付近以外の組成の混合物では1.500以上である。上記組成範囲(P)における相対成績係数と相対冷凍能力については、組成範囲(P)内の全ての組成の混合物について、相対成績係数と相対冷凍能力が1.000以上であり、さらに、(P5)の辺の付近では相対冷凍能力が1.400以上である。
【0061】
本発明の作動媒体が、その他の成分を含有する場合、その他の成分としては、作動媒体の相対成績係数や相対冷凍性能を過剰に低下しない成分が好ましい。
【0062】
(装置への負荷)
冷凍サイクルにおける吐出温度は、上記のとおり、冷凍サイクルにおける最高温度である。よって、吐出温度は、エアコンの装置を構成する機器や材料、作動媒体を含む組成物が作動媒体以外に通常含有する冷凍機油、高分子材料の耐熱性に影響する。HFO−1234yfに代替するためには、HFO−1234yfとの吐出温度差(以下、TΔともいう)は、HFO−1234yfにより稼働していたエアコンの装置を構成する機器や材料が許容できる温度差である必要がある。
【0063】
三角座標図において、右下の頂点(HFO−1234ze=100質量%)付近の組成の混合物は、TΔが小さい。なお、TΔが比較的大きい組成であっても、蒸発器や凝縮器等の熱交換器などのエアコンの装置を構成する機器や材料の設定を適宜調整することで、吐出温度由来の諸問題は解決できる。
【0064】
TΔは、組成範囲(S)内のほとんどの組成の混合物において、7〜28℃である。組成範囲(P)内のほとんどの組成の混合物では7〜18℃である。TΔがこの範囲であれば、HFO−1234yfにより稼働していたエアコンの装置を構成する機器や材料が許容できる範囲である。
【0065】
本発明の作動媒体が、その他の成分を含有する場合、その他の成分としては、吐出温度が小さい化合物が好ましい。
【0066】
冷凍サイクルにおける吐出圧力は、上記のとおり冷凍サイクルにおける最高圧力である。エアコンの装置を構成する機器や材料に影響することから、作動媒体のHFO−1234yfに対する吐出圧力の比(以下、吐出圧力比という)は小さい方が好ましい。HFO−1234yfに代替するためには、吐出圧力はHFO−1234yfの吐出圧力より低いことが好ましい。また、高くても、HFO−1234yfにより稼働していたエアコンの装置を構成する機器や材料が許容できる圧力である必要がある。吐出圧力比は、2.7以下が好ましく、2.0以下がより好ましく、1.5以下が特に好ましい。
【0067】
三角座標図において、左辺(HFO−1123とHFC−32の混合系)から右下の頂点(HFO−1234ze=100質量%)に向かって、吐出圧力比が減少する。吐出圧力比は、HFO−1234zeの含有量に大きく依存するといえる。なお、吐出圧力比が比較的大きい組成であっても、蒸発器や凝縮器等の熱交換器などエアコンの装置を構成する機器や材料の設定を適宜調整することで、吐出圧力由来の諸問題は解決できる。
【0068】
吐出圧力比は、組成範囲(S)、組成範囲(P)内の右下付近、すなわち(S6)、(P6)の辺の付近の組成の混合物において、1.0以下であり最も小さい。また、組成範囲(S)において吐出圧力比は、(S5)の辺の付近の組成の混合物が最も大きく、その付近であっても、2.0以下である。組成範囲(P)内の組成の混合物では、吐出圧力比は(P5)の辺の付近の組成の混合物が最も大きく、その付近であっても1.5以下である。吐出圧力比がこの範囲であれば、HFO−1234yfにより稼働していたエアコンの装置を構成する機器や材料が許容できる範囲である。
【0069】
本発明の作動媒体が、その他の成分を含有する場合、その他の成分としては、吐出圧力が小さい化合物が好ましい。
【0070】
(自己分解性)
本発明において、自己分解性の評価は、高圧ガス保安法における個別通達においてハロゲンを含むガスを混合したガスにおける燃焼範囲を測定する設備として推奨されているA法に準拠した設備を用い実施した。
【0071】
具体的には、外部より所定の温度に制御された内容積650cmの球形耐圧容器内にHFO−1123とHFC−32とHFO−1234zeとを種々の割合で混合した混合物を所定圧力まで封入した後、内部に設置された白金線を溶断することにより約30Jのエネルギーを印加した。印加後に発生する耐圧容器内の温度と圧力変化を測定し、圧力上昇並びに温度上昇が認められた場合に自己分解性ありと判断した。
【0072】
本発明の三角座標図において、左下の組成の混合物は自己分解性を示す。なお、自己分解性を示す混合物であっても、蒸発器や凝縮器等の熱交換器などエアコンの装置を構成する機器や材料の設定を適宜調整することで、自己分解性の諸問題は解決できる場合がある。
【0073】
本発明の作動媒体において、組成範囲(S)内の全ての組成、および組成範囲(P)内の全ての組成の混合物は、自己分解性を示さない。よって、従来のHFO−1234yfにより稼働していたエアコンの装置を構成する機器や材料の仕様を変更することなく、HFO−1234yfの代替媒体として使用できる。
【0074】
本発明の作動媒体が、その他の成分を含有する場合、その他の成分としては、自己分解性を有しない化合物が好ましい。
【0075】
上記のとおり、本発明の作動媒体は、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeがそれぞれ有する特性がバランスよく発揮され、かつそれぞれが有する欠点が抑制された作動媒体である。特に、組成範囲(S)さらには、組成範囲(P)を有する作動媒体は、GWPが低く抑えられ、耐久性が確保されたうえで、電気自動車用のエアコンに用いた際に、吐出圧力が小さく、従来の作動媒体、例えばHFC−134aやHFO−1234yf用のエアコン機器の仕様を大きく変更せずに使用できる。また、一定の能力と効率を有することで、従来の作動媒体に比べて良好なサイクル性能が得られる作動媒体である。
【0076】
[その他の成分]
本発明の作動媒体は、その他の成分として、通常作動媒体として用いられる化合物を、作動媒体全量の0質量%以上10質量%未満の割合で含有することが好ましい。
【0077】
その他の成分としては、HFC−32以外のHFC、HFO−1123およびHFO−1234ze以外のHFO(炭素−炭素二重結合を有するHFC)が挙げられる。
【0078】
(HFC−32以外のHFC)
その他の成分としての、HFC−32以外のHFCとしては、本発明の作動媒体の能力を向上させる、または効率をより高める等の作用を有するHFCが用いられる。HFC−32以外のHFCが含まれると、より良好なサイクル性能が得られる。
【0079】
なお、HFCは、HFO−1123およびHFO−1234zeに比べてGWPが高いことが知られている。したがって、上記作動媒体としてのサイクル性能の向上に加えて、GWPを許容の範囲にとどめる観点からその他の成分のHFCを選択する。
【0080】
オゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さいその他の成分のHFCとして、具体的には炭素数1〜5のHFCが好ましい。HFC−32以外のHFCは、直鎖状であっても、分岐状であってもよく、環状であってもよい。
【0081】
HFC−32以外のHFCの具体例としては、ジフルオロエタン、トリフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、ペンタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ヘプタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、ヘプタフルオロシクロペンタン等が挙げられる。
【0082】
なかでも、HFC−32以外のHFCとしては、オゾン層への影響が少なく、かつ冷凍サイクル特性が優れる点から、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、HFC−134a、およびHFC−125が好ましく、HFC−134aおよびHFC−125がより好ましい。
【0083】
ただし、HFC−134aおよびHFC−125は温暖化係数がそれぞれ1430および3500と非常に高い。これらを作動媒体のその他の成分として用いる場合には、作動媒体のGWPが許容範囲を超えて引き上げられることがないように留意する。
HFC−32以外のHFCは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
(HFO−1123およびHFO−1234ze以外のHFO)
その他の成分としての、HFO−1123およびHFO−1234ze以外のHFOの具体例としては、1,2−ジフルオロエチレン(HFO−1132)、2−フルオロプロペン(HFO−1261yf)、1,1,2−トリフルオロプロペン(HFO−1243yc)、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、HFO−1234yf、3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)等が挙げられる。
【0085】
なかでも、HFO−1123およびHFO−1234ze以外のHFOとしては、高い臨界温度を有し、耐久性、成績係数が優れる点から、HFO−1234yfが好ましい。
HFO−1123およびHFO−1234ze以外のHFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
本発明の作動媒体が、その他の成分を含む場合、その含有量は、10質量%未満であり、8質量%以下が好ましい。
【0087】
その他の成分の含有量は、本発明の作動媒体を熱サイクルに用いた際に、耐久性を確保した上で、能力を向上させるまたは効率をより高める観点、さらには地球温暖化係数を勘案して、上記範囲内で適宜調整される。
【0088】
なお、本発明の作動媒体における、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234zeによる組成範囲は、該3成分のみにより、すでに耐久性、冷凍能力、成績係数、および地球温暖化係数のバランスが整った組成であるため、さらにその他の成分を加えてこれらのバランスを崩さずに、いずれかの特性を向上させるには困難が伴う場合がある。特に作動媒体が上記好ましい組成範囲にある場合はより困難である。したがって、本発明においては、潤滑油への溶解性の向上や難燃化等を目的として配合される以下のその他の任意成分を除いてはその他の成分を含まないことが好ましい。
【0089】
(その他の任意成分)
本発明の作動媒体は、上記その他の成分以外に、二酸化炭素、炭化水素、クロロフルオロオレフィン(CFO)、ヒドロクロロフルオロオレフィン(HCFO)等を含有してもよい。これらの成分(以下、これらの成分をその他の任意成分という)としてはオゾン層への影響が少なく、かつ地球温暖化への影響が小さい成分が好ましい。
【0090】
炭化水素としては、プロパン、プロピレン、シクロプロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン等が挙げられる。
炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0091】
本発明の作動媒体が炭化水素を含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1〜5質量%が好ましく、3〜5質量%がさらに好ましい。炭化水素の含有量が下限値以上であれば、作動媒体への鉱物系潤滑油の溶解性がより良好になる。
【0092】
CFOとしては、クロロフルオロプロペン、クロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明の作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、CFOとしては、1,1−ジクロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214ya)、1,3−ジクロロ−1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(CFO−1214yb)、1,2−ジクロロ−1,2−ジフルオロエチレン(CFO−1112)が好ましい。
CFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
本発明の作動媒体がCFOを含有する場合、その含有量は作動媒体の100質量%に対して10質量%未満であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。CFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。CFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0094】
HCFOとしては、ヒドロクロロフルオロプロペン、ヒドロクロロフルオロエチレン等が挙げられる。本発明の作動媒体のサイクル性能を大きく低下させることなく作動媒体の燃焼性を抑えやすい点から、HCFOとしては、1−クロロ−2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HCFO−1224yd)、1−クロロ−1,2−ジフルオロエチレン(HCFO−1122)が好ましい。
HCFOは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
本発明の作動媒体がHCFOを含む場合、本発明の作動媒体100質量%中のHCFOの含有量は、10質量%未満であり、1〜8質量%が好ましく、2〜5質量%がさらに好ましい。HCFOの含有量が下限値以上であれば、作動媒体の燃焼性を抑制しやすい。HCFOの含有量が上限値以下であれば、良好なサイクル性能が得られやすい。
【0096】
本発明の作動媒体が上記のような、その他の成分、および、その他の任意成分を含有する場合、それらの成分の合計含有量は、作動媒体100質量%に対して10質量%未満であり、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。
【0097】
本発明の作動媒体は、地球温暖化への影響が少なく、作動媒体としての能力に優れるHFO−1123と、作動媒体としての効率に優れ、吐出温度が低く、吐出圧力が低いHFO−1234zeと、GWPが比較的高いものの、作動媒体としての能力に優れるとともに、HFO−1123と共沸または擬似共沸組成を形成するHFC−32とを、含有する。そして、これらの3成分を混合した混合物における吐出圧力の観点を考慮し、かつ、それぞれを単独で使用する場合に比べてサイクル性能に優れる組成を有する作動媒体であり、耐久性および地球温暖化への影響が少なく、実用上充分なサイクル性能を有する。
【0098】
<作動媒体組成物>
本発明の作動媒体は、電気自動車用エアコンへの適用に際して、通常、潤滑油と混合して本発明の作動媒体組成物として使用することができる。本発明の作動媒体と潤滑油を含む本発明の作動媒体組成物は、これら以外にさらに、安定剤、漏れ検出物質等の公知の添加剤を含有してもよい。
【0099】
(潤滑油)
潤滑油としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、作動媒体組成物に用いられる公知の潤滑油が特に制限なく採用できる。潤滑油として具体的には、含酸素系合成油(エステル系潤滑油、エーテル系潤滑油等)、フッ素系潤滑油、鉱物系潤滑油、炭化水素系合成油等が挙げられる。
【0100】
エステル系潤滑油としては、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、コンプレックスエステル油、ポリオール炭酸エステル油等が挙げられる。
【0101】
二塩基酸エステル油としては、炭素数5〜10の二塩基酸(グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)と、直鎖または分枝アルキル基を有する炭素数1〜15の一価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール等)とのエステルが好ましい。具体的には、グルタル酸ジトリデシル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジトリデシル、セバシン酸ジ(3−エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0102】
ポリオールエステル油としては、ジオール(エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,7−ヘプタンジオール、1,12−ドデカンジオール等)または水酸基を3〜20個有するポリオール(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物等)と、炭素数6〜20の脂肪酸(ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、エイコサン酸、オレイン酸等の直鎖または分枝の脂肪酸、もしくはα炭素原子が4級であるいわゆるネオ酸等)とのエステルが好ましい。
なお、これらのポリオールエステル油は、遊離の水酸基を有していてもよい。
【0103】
ポリオールエステル油としては、ヒンダードアルコール(ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトール等)のエステル(トリメチロールプロパントリペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート等)が好ましい。
【0104】
コンプレックスエステル油とは、脂肪酸および二塩基酸と、一価アルコールおよびポリオールとのエステルである。脂肪酸、二塩基酸、一価アルコール、ポリオールとしては、上述と同様のものを用いることができる。
【0105】
ポリオール炭酸エステル油とは、炭酸とポリオールとのエステルである。
ポリオールとしては、上述と同様のジオールや上述と同様のポリオールが挙げられる。また、ポリオール炭酸エステル油としては、環状アルキレンカーボネートの開環重合体であってもよい。
【0106】
エーテル系潤滑油としては、ポリビニルエーテル油やポリオキシアルキレン油が挙げられる。
【0107】
ポリビニルエーテル油としては、アルキルビニルエーテルなどのビニルエーテルモノマーを重合して得られたもの、ビニルエーテルモノマーとオレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとを共重合して得られた共重合体がある。
ビニルエーテルモノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0108】
オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーとしては、エチレン、プロピレン、各種ブテン、各種ペンテン、各種ヘキセン、各種ヘプテン、各種オクテン、ジイソブチレン、トリイソブチレン、スチレン、α−メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等が挙げられる。オレフィン性二重結合を有する炭化水素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0109】
ポリビニルエーテル共重合体は、ブロックまたはランダム共重合体のいずれであってもよい。ポリビニルエーテル油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0110】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオール、ポリオキシアルキレンポリオール、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのアルキルエーテル化物、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールのエステル化物等が挙げられる。
【0111】
ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールは、水酸化アルカリなどの触媒の存在下、水や水酸基含有化合物などの開始剤に炭素数2〜4のアルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド等)を開環付加重合させる方法等により得られたものが挙げられる。また、ポリアルキレン鎖中のオキシアルキレン単位は、1分子中において同一であってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位が含まれていてもよい。1分子中に少なくともオキシプロピレン単位が含まれることが好ましい。
【0112】
反応に用いる開始剤としては、水、メタノールやブタノール等の1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ペンタエリスリトール、グリセロール等の多価アルコールが挙げられる。
【0113】
ポリオキシアルキレン油としては、ポリオキシアルキレンモノオールやポリオキシアルキレンポリオールの、アルキルエーテル化物やエステル化物が好ましい。また、ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリオキシアルキレングリコールが好ましい。特に、ポリグリコール油と呼ばれる、ポリオキシアルキレングリコールの末端水酸基がメチル基等のアルキル基でキャップされた、ポリオキシアルキレングリコールのアルキルエーテル化物が好ましい。
【0114】
フッ素系潤滑油としては、合成油(後述する鉱物油、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等。)の水素原子をフッ素原子に置換した化合物、ペルフルオロポリエーテル油、フッ素化シリコーン油等が挙げられる。
【0115】
鉱物系潤滑油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、精製処理(溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、白土処理等)を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油等が挙げられる。
【0116】
炭化水素系合成油としては、ポリα−オレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等が挙げられる。
【0117】
潤滑油は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
潤滑油としては、作動媒体との相溶性の点から、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油およびポリグリコール油から選ばれる1種以上が好ましい。
【0118】
潤滑油の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、10〜100質量部が好ましく、20〜50質量部がより好ましい。
【0119】
(安定剤)
安定剤は、熱および酸化に対する作動媒体の安定性を向上させる成分である。安定剤としては、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、電気自動車用エアコンに用いられる公知の安定剤、例えば、耐酸化性向上剤、耐熱性向上剤、金属不活性剤等が特に制限なく採用できる。
【0120】
耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤としては、N,N’−ジフェニルフェニレンジアミン、p−オクチルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、N−(p−ドデシル)フェニル−2−ナフチルアミン、ジ−1−ナフチルアミン、ジ−2−ナフチルアミン、N−アルキルフェノチアジン、6−(t−ブチル)フェノール、2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4−メチル−2,6−ジ−(t−ブチル)フェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。耐酸化性向上剤および耐熱性向上剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
金属不活性剤としては、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズチアゾール、2,5−ジメチルカプトチアジアゾール、サリシリジン−プロピレンジアミン、ピラゾール、ベンゾトリアゾール、トルトリアゾール、2−メチルベンズアミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、メチレンビス−ベンゾトリアゾール、有機酸またはそれらのエステル、第1級、第2級または第3級の脂肪族アミン、有機酸または無機酸のアミン塩、複素環式窒素含有化合物、アルキル酸ホスフェートのアミン塩またはそれらの誘導体等が挙げられる。
【0122】
安定剤の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、5質量部以下が好ましく、1質量部以下がより好ましい。
【0123】
(漏れ検出物質)
漏れ検出物質としては、紫外線蛍光染料、臭気ガスや臭いマスキング剤等が挙げられる。
紫外線蛍光染料としては、米国特許第4249412号明細書、特表平10−502737号公報、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来、ハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、電気自動車用エアコンに用いられる公知の紫外線蛍光染料が挙げられる。
【0124】
臭いマスキング剤としては、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等、従来からハロゲン化炭化水素からなる作動媒体とともに、電気自動車用エアコンに用いられる公知の香料が挙げられる。
【0125】
漏れ検出物質を用いる場合には、作動媒体への漏れ検出物質の溶解性を向上させる可溶化剤を用いてもよい。
【0126】
可溶化剤としては、特表2007−511645号公報、特表2008−500437号公報、特表2008−531836号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0127】
漏れ検出物質の添加量は、本発明の効果を著しく低下させない範囲であればよく、作動媒体100質量部に対して、2質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0128】
[電気自動車用エアコンへの適用]
本発明の作動媒体は、これを含む、例えば、上記の本発明の作動媒体組成物のかたちで電気自動車用のエアコンに適用される。
【0129】
電気自動車用のエアコンとしては、凝縮器や蒸発器等の熱交換器によるエアコンが特に制限なく挙げられる。なお、冷・暖房をヒートポンプで行うエアコンにおいて本発明の作動媒体を使用すれば、上記のような特に顕著な効果を奏する。
【0130】
なお、電気自動車用エアコンの稼働に際しては、水分の混入や、酸素等の不凝縮性気体の混入による不具合の発生を避けるために、これらの混入を抑制する手段を設けることが好ましい。
【0131】
電気自動車用エアコン内に水分が混入すると、特に低温で使用される際に問題が生じる場合がある。例えば、キャピラリーチューブ内での氷結、作動媒体や潤滑油の加水分解、サイクル内で発生した酸成分による材料劣化、コンタミナンツの発生等の問題が発生する。特に、潤滑油がポリグリコール油、ポリオールエステル油等である場合は、吸湿性が極めて高く、また、加水分解反応を生じやすく、潤滑油としての特性が低下し、圧縮機の長期信頼性を損なう大きな原因となる。したがって、潤滑油の加水分解を抑えるためには、電気自動車用エアコン内の水分濃度を制御する必要がある。
【0132】
エアコン内の水分濃度を制御する方法としては、乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ、ゼオライト等)等の水分除去手段を用いる方法が挙げられる。乾燥剤は、液状の作動媒体と接触させることが、脱水効率の点で好ましい。例えば、凝縮器12の出口、または蒸発器14の入口に乾燥剤を配置して、作動媒体と接触させることが好ましい。
【0133】
乾燥剤としては、乾燥剤と作動媒体との化学反応性、乾燥剤の吸湿能力の点から、ゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0134】
ゼオライト系乾燥剤としては、従来の鉱物系潤滑油に比べて吸湿量の高い潤滑油を用いる場合には、吸湿能力に優れる点から、下式(3)で表される化合物を主成分とするゼオライト系乾燥剤が好ましい。
【0135】
2/nO・Al・xSiO・yHO …(3)
ただし、Mは、Na、K等の1族の元素またはCa等の2族の元素であり、nは、Mの原子価であり、x、yは、結晶構造にて定まる値である。Mを変化させることにより細孔径を調整できる。
【0136】
乾燥剤の選定においては、細孔径および破壊強度が重要である。
作動媒体の分子径よりも大きい細孔径を有する乾燥剤を用いた場合、作動媒体が乾燥剤中に吸着され、その結果、作動媒体と乾燥剤との化学反応が生じ、不凝縮性気体の生成、乾燥剤の強度の低下、吸着能力の低下等の好ましくない現象を生じることとなる。
【0137】
したがって、乾燥剤としては、細孔径の小さいゼオライト系乾燥剤を用いることが好ましい。特に、細孔径が3.5オングストローム以下である、ナトリウム・カリウムA型の合成ゼオライトが好ましい。作動媒体の分子径よりも小さい細孔径を有するナトリウム・カリウムA型合成ゼオライトを適用することによって、作動媒体を吸着することなく、電気自動車用エアコン内の水分のみを選択的に吸着除去できる。言い換えると、作動媒体の乾燥剤への吸着が起こりにくいことから、熱分解が起こりにくくなり、その結果、電気自動車用エアコンを構成する材料の劣化やコンタミナンツの発生を抑制できる。
【0138】
ゼオライト系乾燥剤の大きさは、小さすぎると電気自動車用エアコン内の弁や配管細部への詰まりの原因となり、大きすぎると乾燥能力が低下するため、約0.5〜5mmが好ましい。形状としては、粒状または円筒状が好ましい。
【0139】
ゼオライト系乾燥剤は、粉末状のゼオライトを結合剤(ベントナイト等。)で固めることにより任意の形状とすることができる。ゼオライト系乾燥剤を主体とするかぎり、他の乾燥剤(シリカゲル、活性アルミナ等。)を併用してもよい。
作動媒体に対するゼオライト系乾燥剤の使用割合は、特に限定されない。
【0140】
さらに、電気自動車用エアコン内に不凝縮性気体が混入すると、凝縮器や蒸発器における熱伝達の不良、作動圧力の上昇という悪影響をおよぼすため、極力不凝縮性気体の混入を抑制する必要がある。特に、不凝縮性気体の一つである酸素は、作動媒体や潤滑油と反応し、分解を促進する。
【0141】
不凝縮性気体の濃度は、作動媒体の気相部において、作動媒体に対する容積割合で1.5体積%以下が好ましく、0.5体積%以下が特に好ましい。
【実施例】
【0142】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。例1〜22が参考例であり、例23〜39が実施例であり、例40〜46が比較例である。例47は、以下の各実施例、比較例において、相対評価に用いたHFO−1234yfの例であり、参考例である。なお、以下の評価において冷凍サイクル性能を用いているが、暖房時のサイクル性能においても同様なことが言える。
【0143】
[例1〜46]
例1〜例39において、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234ze(E)を表2に示す割合で混合した作動媒体を作製し、以下の方法で、冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)、吐出ガス温度、吐出ガス圧力、および自己分解性を測定した。例40、例45、例46は、HFO−1123、HFC−32およびHFO−1234ze(E)の単一組成の作動媒体、例41〜例44、は、HFO−1123およびHFC−32の2種を表3に示す割合で混合した作動媒体であり、上記同様に冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)、吐出ガス温度、吐出ガス圧力、および自己分解性を測定した。
【0144】
[冷凍サイクル性能、吐出温度、吐出圧力の測定]
冷凍サイクル性能(冷凍能力および成績係数)、吐出温度、吐出圧力の測定は、図2に示す冷凍サイクルシステム10に作動媒体を適用して、図3に示す熱サイクル、すなわちAB過程で圧縮機11による断熱圧縮、BC過程で凝縮器12による等圧冷却、CD過程で膨張弁13による等エンタルピ膨張、DA過程で蒸発器14による等圧加熱を実施した場合について行った。
【0145】
測定条件は、蒸発器14における作動媒体の蒸発温度を0℃(ただし、非共沸混合物の場合は、蒸発開始温度と蒸発完了温度の平均温度)、凝縮器12における作動媒体の凝縮完了温度を40℃(ただし、非共沸混合物の場合は、凝縮開始温度と凝縮完了温度の平均温度)、凝縮器12における作動媒体の過冷却度(SC)を5℃、蒸発器14における作動媒体の過熱度(SH)を5℃として実施した。また、機器効率による損失、および配管、熱交換器における圧力損失はないものとした。
【0146】
冷凍能力および成績係数は、作動媒体のA(蒸発後、高温低圧)、B(圧縮後、高温高圧)、C(凝縮後、低温高圧)、D(膨張後、低温低圧)の各状態のエンタルピhを用いて、上記式(11)、(12)から求めた。
【0147】
冷凍サイクル性能の算出に必要となる熱力学性質は、対応状態原理に基づく一般化状態方程式(Soave−Redlich−Kwong式)、および熱力学諸関係式に基づき算出した。特性値が入手できない場合は、原子団寄与法に基づく推算手法を用い算出を行った。
【0148】
各例の冷凍能力および成績係数は、後述の例47で上記と同様に測定されたHFO−1234yfの冷凍能力および成績係数をそれぞれ、1.000とした場合の相対比(相対冷凍能力および相対成績係数)として求めた。吐出温度差は、各例における吐出温度から例47のHFO−1234yfの吐出温度を引いた値として求めた。吐出圧力比は、各例における吐出圧力の例47のHFO−1234yfの吐出圧力に対する比の値として求めた。
【0149】
[自己分解性の評価]
自己分解性の評価は、高圧ガス保安法における個別通達においてハロゲンを含むガスを混合したガスにおける燃焼範囲を測定する設備として推奨されているA法に準拠した設備を用い実施した。
【0150】
具体的には、外部より所定の温度に制御された内容積650cmの球形耐圧容器内にHFO−1123とHFC−32とHFO−1234ze(E)を例1〜46の割合で混合した混合媒体を所定圧力まで封入した後、内部に設置された白金線を溶断することにより約30Jのエネルギーを印加した。測定は300℃、10MPaの条件下で行った。印加後に発生する耐圧容器内の温度と圧力変化を測定することにより自己分解反応の有無を確認した。圧力上昇並びに温度上昇が認められた場合に自己分解反応ありと判断した。
【0151】
【表2】
【0152】
【表3】
【0153】
表2および表3からわかるように、相対成績係数は、HFO−1234zeの含有量が大きいほど大きくなり、相対冷凍能力は、HFO−1234zeの含有量が大きいほど小さくなる。
このように、本発明の作動媒体における相対成績係数および相対冷凍能力とHFO−1234zeの含有量との関係は、相反するものであり、すべての組成範囲において必ずしもその両方が、1.000以上を満足するものではないが、本発明の実施例である例1〜例39の作動媒体は、比較例およびHFO−1234yfと比べて、相対冷凍能力に優れ、かつ、相対成績係数が同等であり、吐出圧力、吐出温度のバランスがよいことが分かる。また、HFO−1234yfと比べて相対冷凍能力に優れることから、冷房時に加えて、暖房時においても十分な性能を有する。
【0154】
ここで、冷房時に加えて、暖房時においても充分な性能を有するとは、相対冷凍能力が1.01より大きいレベルであることをいう。
【0155】
[例47]
上記例1〜46の相対比較の対象となる、HFO−1234yfについて、上記と同様の方法で、吐出温度、吐出圧力および冷凍サイクル性能(冷凍能力Qおよび成績係数COP)を測定した。表2および表3は、HFO−1234yfの評価結果に基づく、相対値を示したものである。
【0156】
HFO−1234yfは、従来から使用されている作動媒体であることから、本実施例においては、サイクル性能はこれを基準として、これを上記のとおり一定値以上超えるレベルを、電気自動車用のエアコンとして暖房時においても実用上十分なサイクル性能であると評価した。
【0157】
以上のことから、本発明の電気自動車用のエアコン用作動媒体は、実用上十分なサイクル性能を有する。また、従来のGWPの高い作動媒体が適用されるエアコン機器の仕様を大きく変更せずに、作動媒体の置き換えを可能にする。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の作動媒体は、電気自動車用のエアコンに用いられる作動媒体として有用である。
【符号の説明】
【0159】
10…冷凍サイクルシステム、11…圧縮機、12…凝縮器、13…膨張弁、14…蒸発器、15,16…ポンプ。
図1A
図1B
図2
図3