特許第6634927号(P6634927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6634927スパークプラグ及びスパークプラグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6634927
(24)【登録日】2019年12月27日
(45)【発行日】2020年1月22日
(54)【発明の名称】スパークプラグ及びスパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/32 20060101AFI20200109BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20200109BHJP
【FI】
   H01T13/32
   H01T13/20 E
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-69213(P2016-69213)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-183102(P2017-183102A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】山中 宏二
(72)【発明者】
【氏名】端無 憲
【審査官】 片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−270189(JP,A)
【文献】 特開2007−242456(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/053116(WO,A1)
【文献】 特許第4775447(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/32
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の取付金具(2)の内側に保持される長軸状の中心電極(3)と、
該中心電極と上記取付金具との間に介設される絶縁碍子(4)と、
上記取付金具の先端側に固定され、上記中心電極と対向する先端対向部(51)を有する接地電極(5)と、
該先端対向部に設けられ、上記中心電極側の対向部表面(511)から軸方向(X)に突出して、上記中心電極の先端部(31)との間に火花放電ギャップ(G)を形成する凸部(52)と、
上記凸部の表面を覆う貴金属被覆層(6)と、を備えるスパークプラグ(1)において、
該貴金属被覆層は、上記凸部の突出端面(53)を覆う端面被覆層(61)と、上記突出端面に続く上記凸部の側面(54)の少なくとも一部を覆う側面被覆層(62)とを有しており、
該側面被覆層は、上記突出端面と反対側に位置する付根部(63)が、上記先端対向部内に埋設されていると共に、上記付根部の少なくとも一部が上記対向部表面に沿って外側へ延出して、延設部(64)を形成している、スパークプラグ。
【請求項2】
上記側面被覆層は、上記側面の外周全面を覆って設けられる、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
上記延設部は、上記付根部の外周全周に設けられる、請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
上記延設部は、上記付根部の外周の一箇所又は複数箇所に設けられる、請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
上記延設部は、上記対向部表面における最大延出長さ(Lm)が、0.07mm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
上記延設部の表面は、上記対向部表面と面一である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
上記凸部は、上記接地電極の母材の一部からなり、円柱状又は円錐台状の突出形状を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のスパークプラグを製造する方法であって、
板状の上記先端対向部に、上記貴金属被覆層となる板状の貴金属チップを抵抗溶接し、該貴金属チップの少なくとも一部を上記先端対向部に埋設させる第1工程と、
上記貴金属チップが埋設された部位において、上記先端対向部の一部を上記対向部表面側へ押出加工して、上記端面被覆層と上記側面被覆層とで被覆された上記凸部を形成すると共に、上記側面被覆層の上記付根部から上記対向部表面に沿って外側へ延出する上記延設部を一体的に形成する第2工程と、を備えるスパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に用いられるスパークプラグとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジン等の内燃機関の着火手段として、スパークプラグが用いられている。一般に、スパークプラグの着火性を向上させるために、中心電極と接地電極の対向面には、それぞれ電極チップが設けられる。電極チップは、例えば、貴金属材料からなる柱状チップであり、対向方向に突出する中心電極チップと接地電極チップの間に所定の火花放電ギャップを形成し、火花放電を発生させて混合気に点火する。
【0003】
また、中心電極又は接地電極の形状を変更して、貴金属使用量を低減可能としたものがある。一例として、特許文献1には、接地電極の母材の一部を、対向する中心電極へ向けて突出する凸部とし、凸部の先端面の少なくとも一部に、貴金属を電極母材の一部と溶融凝固させた溶融凝固部を形成する構成が開示されている。また、貴金属を含む被覆層を、凸部の角部及び側面の一部にも形成して、角部や側面における電極の消耗を抑制可能とする構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4775447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、内燃機関の燃焼性を改善する目的で、燃焼室内に高速の混合気流を形成することが行われている。この方式では、高速気流を利用して燃焼室の中央へ火花放電を誘導し、初期火炎を大きくすることが可能になるが、火花放電が電極の側方へ流れ、接地電極の凸部の根元部に達するおそれがある。その場合、火花放電が接地電極の被覆されていない側面に到達して、電極が消耗しやすくなるだけでなく、高温雰囲気下で貴金属材料の酸化が進み、あるいは熱応力が繰り返し加わることにより、貴金属被覆層が電極母材から剥離するおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、接地電極に設けた凸部を貴金属材料で被覆した構成において、火花放電による消耗を抑制すると共に、貴金属材料の剥離を防止して、耐消耗性と耐剥離性とを兼ね備えた、長寿命なスパークプラグとその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
筒状の取付金具(2)の内側に保持される長軸状の中心電極(3)と、
該中心電極と上記取付金具との間に介設される絶縁碍子(4)と、
上記取付金具の先端側に固定され、上記中心電極と対向する先端対向部(51)を有する接地電極(5)と、
該先端対向部に設けられ、上記中心電極側の対向部表面(511)から軸方向(X)に突出して、上記中心電極の先端部(31)との間に火花放電ギャップ(G)を形成する凸部(52)と、
上記凸部の表面を覆う貴金属被覆層(6)と、を備えるスパークプラグ(1)において、
該貴金属被覆層は、上記凸部の突出端面(53)を覆う端面被覆層(61)と、上記突出端面に続く上記凸部の側面(54)の少なくとも一部を覆う側面被覆層(62)とを有しており、
該側面被覆層は、上記突出端面と反対側に位置する付根部(63)が、上記先端対向部内に埋設されていると共に、上記付根部の少なくとも一部が上記対向部表面に沿って外側へ延出して、延設部(64)を形成している、スパークプラグにある。
【0008】
本発明の他の態様は、上記スパークプラグを製造する方法であって、
板状の上記先端対向部に、上記貴金属被覆層となる板状の貴金属チップを抵抗溶接し、該貴金属チップの少なくとも一部を上記先端対向部に埋設させる第1工程と、
上記貴金属チップが埋設された部位において、上記先端対向部の一部を上記対向部表面側へ押出加工して、上記端面被覆層と上記側面被覆層とで被覆された上記凸部を形成すると共に、上記側面被覆層の上記付根部から上記対向部表面に沿って外側へ延出する上記延設部を一体的に形成する第2工程と、を備えるスパークプラグの製造方法にある。
なお、括弧内の符号は、参考のために付したものであり、本発明はこれら符号により限定されるものではない。
【発明の効果】
【0009】
上記構成のスパークプラグによれば、貴金属被覆層の端面被覆層と側面被覆層が、それぞれ接地電極の凸部の突出端面と側面を覆っており、凸部の表面全体が被覆されているので、耐消耗性が向上する。また、側面被覆層の付根部とその外側に延出する延設部が、接地電極の先端対向部内に埋設されて、電極母材との界面の露出が最小限となり、高温による酸化や熱応力が加わることによる剥離を抑制して、耐剥離性を向上させる。
【0010】
したがって、耐消耗性と耐剥離性とを兼ね備えた、長寿命なスパークプラグを実現することができる。そして、このようなスパークプラグは、接地電極の先端対向部内に金属チップの少なくとも一部を埋設させた接合体を、第1工程で形成した後、第2工程で凸部となる先端対向部の一部を押出加工することで、凸部を被覆する端面被覆層及び側面被覆層と共に、付根部の少なくとも一部から延出する延設部を一体的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における、スパークプラグの全体構成を示す縦断面図。
図2】実施形態1における、スパークプラグの主要部構成を示す斜視図。
図3】実施形態1における、接地電極の先端対向部構成を示す断面図。
図4】実施形態1における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図で、図2のIV−IV線断面図。
図5】実施形態1における、接地電極に凸部及び貴金属被覆層を形成するための第1工程である接合工程を説明する断面図。
図6】実施形態1における、接地電極に凸部及び貴金属被覆層を形成するための第2工程である加工工程を説明する断面図。
図7】実施形態1における、接地電極の先端対向部における延設部の効果を説明するための主要部斜視図。
図8】実施形態1における、延設部の長さと剥離率の関係を示す図。
図9】実施形態2における、接地電極の先端対向部構成を示す要部断面図。
図10】実施形態3における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図11】実施形態4における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図12】実施形態5における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図13】実施形態6における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図14】実施形態7における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図15】実施形態8における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図16】実施形態9における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
図17】実施形態10における、接地電極の先端対向部構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグに係る実施形態1について、図面を参照しながら説明する。図1図2に示すように、スパークプラグ1は、筒状の取付金具2と、その内側に保持される長軸状の中心電極3と、中心電極3と取付金具2との間に介設される筒状の絶縁碍子4と、取付金具2の先端側に固定される接地電極5を備えている。接地電極5は、絶縁碍子4の先端側に突出する中心電極3と対向する先端対向部51を有する。図1図2において、スパークプラグ1は、同軸的に配置された取付金具2と中心電極3と絶縁碍子4の軸方向Xが、図の上下方向となり、中心電極3と接地電極5とが対向配置される先端側が、図の下端側となっている。
【0013】
接地電極5の先端対向部51には、中心電極3に向けて軸方向Xに突出する凸部52が設けられ、凸部52と中心電極3との間に、火花放電ギャップGが形成される。接地電極5には、凸部52の表面を覆って貴金属被覆層6が設けられる。貴金属被覆層6は、端面被覆層61と側面被覆層62とを有し、側面被覆層62の付根部63から外側に延出する延設部64を有している。以下、各部の詳細について説明する。
【0014】
内燃機関は、例えば自動車用エンジンであり、スパークプラグ1は、図示しないエンジン燃焼室に臨むシリンダヘッドの取付孔に取り付けられる。取付金具2は、先端側半部の外周に、図示しないシリンダヘッドへの取付用ネジ部21を有し、基端側半部を、取付用ネジ部21より外径が大きい大径部22としている。取付金具2の大径部22内には、絶縁碍子4の軸方向Xの中間部に設けた大径部42が収納保持されており、大径部22の上方において基端縁部23を加締め固定して、気密シールしている。
【0015】
絶縁碍子4の先端部41は、取付金具2の先端開口よりも先端側に突出して位置する。絶縁碍子4は、軸方向Xに貫通する軸孔43を有し、その先端側に中心電極3を収納している。中心電極3の大径の基端部32は、軸孔43の内周に設けたテーパ状の段差面上に支持され、テーパ状の先端部31は、絶縁碍子4の先端部41よりも、さらに先端側に突出して位置する。絶縁碍子4は、軸孔43の基端側に端子金具7を収納しており、端子金具7と中心電極3の間には、導電性シール層72、73を介して抵抗体71が設けられる。
【0016】
端子金具7は、図示しない高電圧源に接続される。高電圧源は、例えば、点火コイルであり、車載バッテリに接続されて点火用高電圧を発生する。図示しない制御装置からの制御信号により高電圧源が駆動されると、端子金具7、導電性シール層72、抵抗体71、導電性シール層73、を介して中心電極3へ高電圧が供給され、接地電極5との間に火花放電を生起する。
【0017】
接地電極5は、全体がL字形に屈曲する板状体で、基端側が取付金具2の先端面に接合固定されている。接地電極5の先端側は、中心電極3の側方を軸方向Xに延び、中心電極3の先端部31より先端側で内方へ屈曲して、軸方向Xと直交する方向(すなわち、図2に示す軸直方向Y)に延びている。中心電極3の先端部(以下、適宜、中心電極先端部と称する)31は、先端の柱状小径部311へ向けてテーパ状に縮径し、接地電極5の先端対向部51には、柱状小径部311に対向する位置に、凸部52が突出形成される。
【0018】
先端対向部51は、中心電極3側の表面を対向部表面511とし、中心電極3と反対側の表面を対向部裏面512としている。凸部52は、先端対向部51の母材の一部を、対向部裏面512から対向部表面511側へ突出させてなり、対向部裏面512には、凸部52に対向する位置に凹部55が形成される。凸部52の表面には、その全面を覆って貴金属被覆層6が形成される。
【0019】
中心電極3、接地電極5は、例えば、Ni(すなわち、ニッケル)を主成分として含むNi基合金等の金属材料を母材として構成される。Ni基合金に添加される合金元素としては、Al(すなわち、アルミニウム)等が挙げられる。電極内部に、熱伝導性に優れた金属、例えば、Cu(すなわち、銅)又はCu合金等の金属材料等からなる芯材を有して構成されていてもよい。中心電極3の柱状小径部311は、例えば、円柱状に成形された貴金属チップにて構成することができ、溶接等により中心電極3の先端に接合される。
【0020】
接地電極5の凸部52は、接地電極5の母材の一部を、例えば、円柱状又は円錐台状に突出させることにより、先端対向部51と一体的に構成される。貴金属被覆層6は、例えば、薄板状に成形された貴金属チップを用いて、後述するように、凸部52の成形と同時にその表面を覆う被覆層を形成することができる。柱状小径部311及び貴金属被覆層6に用いられる貴金属材料としては、例えば、Pt(すなわち、白金)、Ir(すなわち、イリジウム)、Rh(すなわち、ロジウム)等が挙げられ、これら貴金属から選ばれる少なくとも1種類を主成分として含む貴金属又は貴金属合金を、所望のチップ形状としたものを用いることができる。貴金属合金としては、Pt−Rh合金等が挙げられ、貴金属以外の金属を含む合金材料、例えば、Pt−Ni合金等を用いることもできる。
【0021】
絶縁碍子4は、例えば、アルミナ等の絶縁性セラミックス材料を所定形状に成形後、焼成して得られるセラミックス焼結体からなる。また、取付金具2は、例えば、炭素鋼等の鉄鋼系材料からなる。
【0022】
図3図4に示すように、貴金属被覆層6は、凸部52の突出端面53を覆う端面被覆層61と、突出端面53に続く凸部52の側面54を覆う側面被覆層62とを有する。凸部52は、ここでは、円柱状としている。突出端面53の径や凸部52の突出高さは、例えば、対向する中心電極3の柱状小径部311の径や突出高さ等に応じて、所望の放電特性が得られるように、適宜設定することができる。このとき、貴金属被覆層6を含む凸部52の先端(すなわち、端面被覆層61の表面)と、中心電極先端部31に設けた柱状小径部311との間において、所定の火花放電ギャップG(例えば、図1参照)が形成される。
【0023】
端面被覆層61は、ここでは、凸部52の突出端面53を所定厚さで覆う円板状であり、円筒状の側面被覆層62に接続している。側面被覆層62は、凸部52の側面54の外周全面を所定厚さで覆い、凸部52の根元部(すなわち、突出端面53と反対側の端部)に達している。側面被覆層62の付根部63(すなわち、凸部52の根元部を被覆する端部)は、先端対向部51内に埋設されている。付根部63は、少なくとも対向部表面511より内方に位置していればよく、先端対向部51内における電極母材との接合性が向上する。さらに、側面被覆層61は、付根部63の少なくとも一部が、凸部52の外側へ対向部表面511に沿って軸直方向Yに延出して、延設部64を形成している。
【0024】
本形態では、延設部64は、凸部52の全周を取り囲むように、概略一定幅で設けられる。このとき、延設部64の幅は、対向部表面511において凸部52の径方向(すなわち、軸直方向Y)に延出する長さ(以下、延出長さと称する)Lであり、その最大長さを、最大延出長さLmとする。本形態では、延出長さLは一定であり、最大延出長さLmと等しい(すなわち、延出長さL=最大延出長さLm)。最大延出長さLmは、任意に設定することができ、好適には、最大延出長さLmが、0.07mm以上となるように、延設部64が形成されることが好ましい。延設部64の最大延出長さLmが、0.07mm以上であると、電極母材に埋設されている電極母材との界面の面積が増大して剥離につながる亀裂の進展割合が相対的に抑えられることや、燃焼ガスに晒される部分が最小限となることにより、酸化の進行が抑制され、耐剥離性が向上する。
【0025】
また、延設部64は、少なくとも一部が先端対向部51内に埋設されていることが望ましい。本形態では、先端対向部51内に埋設される付根部63を、凸部52の径方向外方へ所定厚さで延出して、延設部64を形成しており、延設部64の表面は、先端対向部51の表面と面一となっている(例えば、図3参照)。これにより、延設部64の全体が、先端対向部51に埋設され、電極母材と接する界面の面積が増加して剥離につながる亀裂の進展割合が相対的に抑えられ、耐剥離性がより向上する。
【0026】
貴金属被覆層6の厚さは、任意に設定することができる。端面被覆層61と側面被覆層62と延設部64の厚さは、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。端面被覆層61は、中心電極先端部31と対向して、主たる放電面となる部分であり、所定の火花放電ギャップGを形成して耐消耗性が確保できる十分な厚さに設定されるのがよい。側面被覆層62は、端面被覆層61と同等ないししそれ以下の厚さに設定され、凸部52の側面54の全体を被覆して耐消耗性を向上させる。好ましくは、耐消耗性を確保できる範囲で、側面被覆層62をより薄く形成することで、貴金属の使用量を低減することができる。
【0027】
延設部64の厚さは、例えば、端面被覆層61と同等ないししそれ以下の厚さとし、延設部64の形成範囲や最大延出長さLmに応じて、適宜設定することができる。延設部64の厚さが厚くなり、先端対向部51に埋設される界面の面積が増加することで剥離につながる亀裂の進展割合が相対的に抑えられ、耐剥離性が向上する。延設部64は、径方向の全長において一定厚さとすることができ(例えば、図3参照)、あるいは径方向における厚さが一定でなくてもよく、例えば、延設部64厚さが、付根部63側から径方向の外側へ向けて徐々に薄くなるように形成してもよい。凸部52の周方向においても同様であり、全周で一定厚さとしても厚さを変更してもよい。
【0028】
次に、図5図6を参照して、凸部52とその周囲を覆う貴金属被覆層6を形成する方法について説明する。まず、図5に示すように、第1工程である接合工程において、接地電極5の先端対向部51に、貴金属被覆層6となる貴金属チップ6Aを接合する。次いで、図6に示すように、第2工程である加工工程において、先端対向部51と貴金属チップ6Aの接合部を押出加工して、凸部52を形成すると共に、その全体を覆う貴金属被覆層6を形成する。
【0029】
具体的には、図5の上図に示すように、平板状の先端対向部51の対向部表面511が図の上面となるように配置し、対向部表面511の所定位置(すなわち、凸部52形成位置)に重ねて、円板状の貴金属チップ6Aを載置する。その後、図5の下図に示すように、例えば、抵抗溶接により、貴金属チップ6Aを対向部表面511に接合する。溶接には、公知の抵抗溶接機が用いられ、例えば、図示しない一組の電極間に、貴金属チップ6Aと先端対向部51を挟持し、加圧状態で所定の電流を流すことにより、貴金属チップ6Aと対向部表面511とを溶融させて接合する。
【0030】
第1工程では、貴金属チップ6A及び対向部表面511が軟化溶融することにより、貴金属チップ6Aが対向部表面511より内方の先端対向部51内に埋設される。このときの埋設量は、抵抗溶接時の加圧量や電流量等を調整することで、任意に制御することができる。なお、接合後の第2工程においても、金属チップ6Aの埋設量を調整可能であり、第1工程後において、貴金属チップ6Aの全体が先端対向部51内に埋設されている必要は、必ずしもない。
【0031】
また、第1工程の前後で、貴金属チップ6Aは、軟化溶融により径が拡がり又は厚さが薄くなる傾向にあるので、この寸法変化を見込んで、凸部52や貴金属被覆層6の最終形状に対する貴金属チップ6Aの形状や寸法を設定するとよい。一例として、凸部52の直径が0.7mm程度、高さが0.6mm程度であり、貴金属被覆層6の端面被覆層61の厚さが0.2mm程度であるとき、貴金属チップ6Aとしては、例えば、抵抗溶接前の寸法が、直径が0.9mm程度、厚さが0.25mm程度のものを用いることができる。このような貴金属チップ6Aの抵抗溶接後の寸法は、例えば、直径が1.1mm程度、厚さが0.2mm程度である。また、貴金属チップ6Aが接合される接地電極5の先端対向部51は、例えば、幅が2.6mm程度、厚さが1.4mm程度である。
【0032】
次いで、図6の上図に示すように、押出加工機8の上型81と下型82の間に、貴金属チップ6Aが接合された接地電極5を配置する。押出加工機8は公知の構成であり、パンチ811が上下動可能な貫通穴812を有する板状の上型81と、凸部52に対応する円形断面形状の空間部83を有するブロック状の下型82とを備え、パンチ811と空間部83とが対向している。下型82は、空間部83の端面を形成する可動ピン821が、空間部83の側面を形成する貫通穴822に対して摺動可能に配置されており、貴金属被覆層6を含む凸部52の突出高さを調整可能となっている。
【0033】
図6の上図において、接地電極5の先端対向部51を、対向部表面511側を下向きとして挿入し、貴金属チップ6Aが空間部83に臨むように、上型81と下型82の間に保持する。貴金属チップ6Aは、空間部83より大径であり、貴金属チップ6Aの外周部は、空間部83の外側の下型82表面に当接している。その後、図6の下図に示すように、貫通穴812の内周面をガイド面としてパンチ811を下降させて、対向部裏面512側から押圧し、先端対向部51の電極母材を対向部表面511側へ押出加工する。
【0034】
これにより、貴金属チップ6Aの外周部を除く部分とその背面側の電極母材が、空間部83内に押出されて凸部52が形成されると同時に、貴金属被覆層6の端面被覆層61、側面被覆層62が形成される。また、貴金属被覆層6の外周部の全体が、先端対向部51内に埋設され、付根部63とその外側の延設部64が形成される。このとき、端面被覆層61と延設部64の厚さは、押出加工前の貴金属チップ6Aの厚さと同等である(例えば、0.2mm程度)。また、側面被覆層62の厚さは、凸部52の突出高さに応じて変化する。つまり、突出高さが大きいほど、パンチ811による押出量が大きくなり、貴金属チップ6Aの塑性変形量が大きくなって、厚さが薄くなる。上述した凸部52の高さ(例えば、0.6mm程度)であるとき、側面被覆層62の厚さは、例えば、0.1mm程度であり、凸部52の半径(例えば、0.35mm程度)の約30%となる。
【0035】
このようにして、図3図4に示したように、貴金属被覆層6で凸部52の全体が被覆された接地電極5が形成される。貴金属被覆層6は、付根部63とその外側の延設部64が凸部52の全周に形成されており、対向部表面511と面一になるように全体が電極母材に埋設されている。
【0036】
したがって、図7に示すように、燃焼室内に高速の混合気流Fが形成される場合においても、貴金属被覆層6の剥離を抑制する効果が得られる。すなわち、中心電極3と接地電極5との間に高電圧を印加したとき、通常は、貴金属チップからなる柱状小径部311と、貴金属被覆層6の端面被覆層61との間で、火花放電が発生する。ただし、図中に点線で示すように、混合気流Fにより、火花放電が側方に流れやすくなり、さらに高速化すると、図中に実線で示すように、大きく側方に流されて、火花放電が貴金属被覆層6の付根部63に到達するおそれがある。このような場合でも、本形態の構成によれば、側面被覆層62の付根部63から、さらに外側に延設部64が形成されているので、電極母材の消耗が抑制される。また、付根部63と延設部64の全体が先端対向部51に埋設されて、接合力が向上する上に、電極母材との界面の露出が最小限となり、燃焼ガスに直接晒されにくいので、酸化や熱応力による剥離を抑制することができる。
【0037】
(試験例)
上記実施形態1のスパークプラグ1について、以下の方法で、接地電極5の貴金属被覆層6の耐剥離性を評価した。スパークプラグ1は、貴金属被覆層6に設けた延設部64の延出長さLを0〜0.2mmの範囲で変更したものを用いた(すなわち、0.03mm、0.07mm、0.1mm、0.2mm)。
これらスパークプラグ1を、公知の冷熱サイクル試験ベンチを用いて、冷熱ストレスならびに耐酸化性に対する評価を行った。この冷熱サイクル試験ベンチは、スパークプラグ1を規定の温度に制御・保持することができる。今回の試験条件は、150℃と1000℃を交互に繰り返し各6分間ずつを1サイクルとした条件を適用した。サイクル数は、200サイクルとした。評価サンプルは、冷熱試験後に、接地電極5の縦断面(すなわち、図3に示す断面)を観察し、下記式1により剥離長さ率を算出して、剥離長さ率が40%以下となるものを良品、40%を超えるものを不良品とした。
式1:剥離長さ率=[(L1+L2)/L0]×100(単位:%)
式中、L0は、貴金属被覆層6の軸直方向Yの全長であり、L1は、軸直方向Yの両端部の一方における剥離長さであり、L2は、軸直方向Yの両端部の他方における剥離長さである。評価サンプルは同一延出長さ品各20個評価した。
【0038】
図8に試験結果を示すように、延設部64の延出長さLが0のとき、すなわち延設部64を有していない場合は、評価サンプル20個中20個が剥離長さ率40%を超える不良品となり、剥離率は100%であった。これに対して、延設部64を形成することで耐剥離性が大きく向上し、例えば、延出長さLが0.03mmで、剥離率は5%(すなわち、20個中1個が不良品)まで急減した。さらに、延出長さLが0.07mm以上では、20個すべてが剥離長さ率40%以下の良品となり、剥離率は0%であった。したがって、好適には、延設部64の延出長さLを0.07mm以上とするのがよく、剥離を確実に抑制することができる。これは、延設部64を設けることで、埋設される界面の面積が増加し、冷熱ストレスによる亀裂の進展割合が緩和されて、耐剥離性が向上したものと推察される。
【0039】
次に、接地電極5の先端対向部51の他の構成例を、実施形態2〜実施形態10として図面により説明する。スパークプラグ1の各部の基本構成は、実施形態1と同様であり、説明を省略する。
【0040】
(実施形態2)
図9に実施形態2として示すように、接地電極5において、貴金属被覆層6の付根部63に続く延設部64は、少なくとも一部が、先端対向部51に埋設されていればよい。具体的には、延設部64の厚さtに対する埋設部分の厚さt1の割合が、10%以上であればよく、延設部64の表面の一部(例えば、端面被覆層61側に位置する表面)が、対向部表面511の外側(すなわち、図の上側)に露出していてもよい。これは、耐剥離性の向上には、上記図8に示したように、延設部64の延出長さLが重要であり、電極母材との対向部表面511と平行な界面が埋設されていることで、耐剥離性を向上させる十分な効果が得られるためと推察される。好適には、延設部64の厚さtに対する埋設部分の厚さt1の割合が、30%以上となるようにするとよい。
【0041】
(実施形態3)
図10に実施形態3として示すように、接地電極5において、貴金属被覆層6の付根部63に続く延設部64は、少なくとも一部に設けられていればよい。また、延設部64の幅(すなわち、延出長さL)は、一定でなくともよい。具体的には、付根部63の外周に、円形の外形を有する延設部64を、円形の端面被覆層61に対して偏芯させて配置し、延設部64の延出長さLが徐々に変化するようにする。このとき、好適には、延出長さLが最小となる位置を、燃焼室内の混合気流Fを受ける側に設け、混合気流Fと反対側において、最大延出長さLmとなるようにするとよい。このような延設部64は、貴金属被覆層6となる円形の貴金属チップ6Aを先端対向部51に積層する際に、凸部52に対して偏芯配置することで、容易に作製することができる。
【0042】
上記図7に示したように、混合気流Fにより火花放電が側方に流れると、混合気流Fと反対側に膨らんで、付根部63に到達する。そこで、混合気流Fと反対側において、延設部64を設け、延出長さLをより大きくすることで、剥離を抑制する同様の効果が得られる。この場合も、好ましくは、最大延出長さLmを0.07mm以上とするとよい。本形態では、混合気流Fを受ける側において、延設部64を小さくし、反対側でより大きくなるので、貴金属使用量を低減しながら耐剥離性を向上可能になる。
【0043】
(実施形態4)
図11に実施形態4として示すように、接地電極5において、貴金属被覆層6の付根部63に続く延設部64を、混合気流Fと反対側の半部にのみ設けることもできる。ここでは、延設部64の外形を半円弧状として、延出長さLが徐々に変化し、混合気流Fと反対側の位置において最大延出長さLmとなるようにしている。この場合には、貴金属使用量をさらに低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0044】
(実施形態5)
図12に実施形態5として示すように、実施形態4と同様の外形が半円弧状の延設部64を、混合気流Fを受ける側の半部とこれと反対側の半部に設けることもできる。このとき、延設部64は、全体が楕円形状の外形となり、延出長さLが徐々に変化して、混合気流Fを受ける側、及びこれと反対側の位置において、最大延出長さLmとなるようにしている。この場合には、燃焼室内の混合気流Fに対して、スパークプラグ1の取付方向が一方向に制限されないので、取付作業性が良好となる。また、延設部64を混合気流Fの流れ方向に配置することで、貴金属使用量を低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0045】
(実施形態6)
図13に実施形態6として示すように、接地電極5において、貴金属被覆層6の付根部63に続く延設部64を、矩形の外形とすることもできる。ここでは、延設部64の外形を、一辺の長さが端面被覆層61の径と同等長さの正方形とし、付根部63の外周の4箇所から径方向外方に三角形状をなして延出し、三角形の頂点位置において最大延出長さLmとなるようにしている。この場合には、スパークプラグ1の取付作業性がより良好となり、貴金属使用量を低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0046】
(実施形態7)
図14に実施形態7として示すように、接地電極5において、貴金属被覆層6の付根部63に続く延設部64の外形は、円形や矩形に限らず、変形形状とすることができる。ここでは、延設部64の外形を花弁状として、混合気流Fと反対側の位置から付根部63の外周の3/4程度を取り囲むように配置している。この場合も、貴金属使用量を低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0047】
(実施形態8)
図15に実施形態8として示すように、接地電極5において、貴金属被覆層6の付根部63に続く延設部64を、混合気流Fと反対側の一部にのみ設けることもできる。ここでは、延設部64の外形を円弧状として、延出長さLが徐々に変化し、混合気流Fと反対側の位置において最大延出長さLmとなるようにしている。この場合には、貴金属使用量をさらに低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0048】
(実施形態9)
図16に実施形態9として示すように、実施形態8と同様の外形が円弧状の延設部64を、混合気流Fを受ける側の一部とこれと反対側の一部の2箇所に設けることもできる。このとき、混合気流Fを受ける側及びこれと反対側の位置において、最大延出長さLmとなるように、延出長さLが徐々に変化する。この場合には、取付作業性が良好となり、貴金属使用量を低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0049】
(実施形態10)
図17に実施形態10として示すように、実施形態8と同様の外形が円弧状の延設部64を、付根部63の外周の4箇所に設けることもできる。このとき、外周の4箇所において、最大延出長さLmとなるように、延出長さLが徐々に変化する。この場合は、スパークプラグ1の取付性がより良好となり、貴金属使用量を低減しつつ、剥離を効率よく抑制することができる。
【0050】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を超えない範囲で種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、貴金属被覆層6の側面被覆層61が、凸部52の外周全面を覆う構成について説明したが、必ずしも外周全面を覆っていなくてもよい。例えば、側面被覆層61の付根部63が、凸部52の外周の一部において、凸部52の根元部に到達せず、先端対向部51内に埋設されていなくてもよい。その場合も、好適には、混合気流Fと反対側において、付根部63から外側に延設部64を配置されることが望ましい。
【0051】
また、上記実施形態では、延設部64を含む貴金属被覆層6の外形を、円形、楕円形、変形円形又は矩形としたが、これら形状に限らず、三角形等の多角形状、又はそれらの組合わせ等、任意の形状とすることができる。また、貴金属被覆層6で被覆される凸部52の形状も特に限定されず、円柱状、円錐台状の他、例えば、多角柱状、多角錐台状、又はそれらの組合わせ等とすることができる。また、中心電極3やその他のスパークプラグ1の各部構成も、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 スパークプラグ
2 取付金具
3 中心電極
4 絶縁碍子
5 接地電極
51 先端部
52 凸部
6 貴金属被覆層
61 端面被覆層
62 側面被覆層
64 延設部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図15
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図17