特許第6658428号(P6658428)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6658428シリコーンゲル組成物及びその硬化物並びにパワーモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6658428
(24)【登録日】2020年2月10日
(45)【発行日】2020年3月4日
(54)【発明の名称】シリコーンゲル組成物及びその硬化物並びにパワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20200220BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20200220BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20200220BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20200220BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20200220BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20200220BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K5/5419
   C08L83/04
   H01L23/30 R
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-187966(P2016-187966)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-53015(P2018-53015A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年8月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 剛
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/093283(WO,A1)
【文献】 特開2009−091561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
H01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中に少なくとも1個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記の(b−1)成分及び(b−2)成分を含有してなる1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のアルケニル基1モルに対し(B)成分全体中のケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.01〜3モルとなる量、
(b−1)下記平均組成式(2)
(HR22SiO1/2b(R22SiO)c(R2SiO3/2d (2)
(式中、R2は同一又は異種の1価炭化水素基を示し、bは0.005〜0.3の正数であり、cは0.5〜0.98の正数であり、dは0.01〜0.12の正数であり、b+c+d=1である。)
で示され、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子に結合した水素原子を有し、かつ1分子中に少なくとも2個のR2SiO3/2単位を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(b−2)下記平均組成式(3)
3efSiO(4-e-f)/2 (3)
(式中、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、eは0.7〜2.2の正数であり、fは0.001〜1.0の正数であり、但しe+fは0.8〜3.0である。)
で表される、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する直鎖状又は環状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(但し、(b−1)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを除く。)
(C)白金系硬化触媒:触媒としての有効量、
(D)1分子中のイソシアヌル酸構造の3つの窒素原子に結合する置換基のそれぞれにトリアルコキシシリル基2個とアルケニル基1個のいずれかを1つずつ有するイソシアヌル酸誘導体、1分子中のイソシアヌル酸構造の3つの窒素原子に結合する置換基のそれぞれにトリアルコキシシリル基2個とケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)1個のいずれかを1つずつ有するイソシアヌル酸誘導体、及び/又は1分子中のイソシアヌル酸構造の3つの窒素原子に結合する置換基のそれぞれにトリアルコキシシリル基を有するイソシアヌル酸誘導体:0.01〜3質量部、及び
(E)下記(a)と(b)との反応生成物:0.01〜50質量部
(a)25℃における粘度が10〜10,000mPa・sである分子鎖末端がトリアルキルシロキシ基、水酸基、ビニル基又はアルコキシ基で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサン
(b)下記一般式(1)
(R1COO)a1 (1)
(式中、R1は同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは3又は4である。またM1はセリウム又は鉄である。)
で示されるセリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩
を含有してなり、硬化してJIS K2220で規定される針入度が10〜30のシリコーンゲル硬化物を与えるものであるシリコーンゲル組成物。
【請求項2】
(D)成分が、下記の式(4)〜(6)のいずれかで示されるイソシアヌル酸誘導体から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のシリコーンゲル組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記各式において、Meはメチル基を示す。)
【請求項3】
硬化して1TΩ・m以上の体積抵抗率(JIS K6271、印加電圧500V)を有するシリコーンゲル硬化物を与えるものである請求項1又は2記載のシリコーンゲル組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーンゲル組成物を硬化してなる、JIS K2220で規定される針入度が10〜30であるシリコーンゲル硬化物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーンゲル組成物を硬化してなる、1TΩ・m以上の体積抵抗率(JIS K6271、印加電圧500V)を有するシリコーンゲル硬化物。
【請求項6】
230℃雰囲気下、1,000時間後の針入度減少率が50%以下である請求項4又は5記載のシリコーンゲル硬化物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のシリコーンゲル硬化物を用いたことを特徴とするパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化して優れた耐熱性を与えるシリコーンゲル組成物及びその硬化物(シリコーンゲル)等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を主要デバイスとして、パワーモジュールが電力変換装置に広く用いられるようになっている。パワーモジュールのケース内には、セラミックス絶縁基板の沿面及び当該基板上のパワー半導体チップを絶縁保護するために、低弾性率のシリコーンゲルが充填されている。
【0003】
近年では、SiC(炭化ケイ素)パワー半導体が、これまでのシリコンパワー半導体と比較して、その通電時のエネルギー損失や発熱量が小さく、また耐熱性が高いことから、より大きな電力を扱うことが可能となり、検討が盛んに行われている。
【0004】
シリコンパワー半導体装置の耐熱限界温度は約150℃であるが、SiCパワー半導体装置では200〜300℃で使用することが検討され、SiCパワー半導体に使用される樹脂、及び該樹脂に使用される添加剤にも、より一層の耐熱性が要求されている。実際にIGBTパワーモジュールの高温連続動作を保証するには、例えばUL1557で規定される試験に合格する必要が求められている。
【0005】
当該試験では、例えば150℃を超える高温下において当該製品規格の絶縁破壊耐圧を所定の時間、維持し得ることが求められる。しかし、このような高温下に長期間暴露されると、シリコーンゲルの硬化劣化により、IGBTパワーモジュール内部において応力が集中する箇所等からシリコーンゲルのクラック、あるいは構成部材からの剥離が発生し、これが絶縁基板付近で生じると絶縁破壊耐圧の維持が困難となる。
【0006】
このような硬化劣化を抑制する手法として、一般的なシリコーンオイルやゴムにおいては、これらに酸化鉄や酸化チタン等のフィラーを添加することで、その耐熱性を向上させることは可能である。しかし、この手法では、絶縁性の低下やフィラーの沈降、粘度増大に伴う作業性の低下を引き起こし、低粘度でかつ絶縁性が要求されるIGBTパワーモジュール用シリコーンゲル材料としては不適となる。
【0007】
高温下における長期間の絶縁破壊耐圧の維持を達成する手法として、上述のようなシリコーンゲル単体の耐熱性を向上させる方法の他に、モジュール構造での対策を施している例もある。特許文献1(特開2014−150204号公報)では、モジュールを封止するシリコーンゲルの表面上に、樹脂、金属、セラミック系材料等からなるシート部材を配置することにより、パワー素子などの腐食・絶縁性の低下、更にはシリコーンゲルの硬化劣化を抑制している。また、特許文献2(特開2015−220238号公報)では、モジュールケース内の壁面に、ポリフェニレンサルファイドのような耐熱硬質樹脂又は耐熱セラミックからなる面内応力緩和体を配置することにより、シリコーンゲルがケース側壁から剥離するのを抑制している。
しかし、上述のようなモジュール構造での対策を施しても限界があり、更にはコストと時間を多く要することとなる。
【0008】
特許文献3(特開2015−88499号公報)には、シリコーンゲル単体の耐熱性を高め、高温環境下での使用が可能なパワー半導体モジュールが開示されている。しかし、いくらシリコーンゲル単体の耐熱性を高めても、高温環境下においてシリコーンゲルそのものの硬化劣化は抑制されるが、熱応力により、シリコーンゲルはモジュールケースあるいは半導体基板から経時で剥離してしまい、結果的に電気絶縁性が失われてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−150204号公報
【特許文献2】特開2015−220238号公報
【特許文献3】特開2015−88499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、例えば230℃付近という高温での耐熱性に優れ、高温での長期使用によってもシリコーンゲルの針入度値の低下(シリコーンゲルが硬くなる現象)が抑制され、低弾性率及び低応力を維持することができるだけでなく、パワー半導体の封止材として用いたパワー半導体モジュールに、高温環境下における動作の長期信頼性を付与することが可能なシリコーンゲル硬化物を与える、シリコーンゲル組成物及びその硬化物並びにパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、接着性付与剤としてトリアルコキシシリル基を少なくとも2個有する特定構造のイソシアヌル酸誘導体を含有すると共に、オルガノポリシロキサンとセリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩との反応生成物からなる特定の耐熱性向上剤を含有し、かつ硬化してJIS K2220で規定される針入度が10〜30であるシリコーンゲル硬化物を与えるシリコーンゲル組成物が、上記課題を解決することを知見し、本発明をなすに至った。
【0012】
即ち、本発明は、次のシリコーンゲル組成物及びその硬化物(シリコーンゲル)等を提供するものである。
〔1〕
(A)1分子中に少なくとも1個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有する直鎖状ジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)下記の(b−1)成分及び(b−2)成分を含有してなる1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:前記(A)成分中のアルケニル基1モルに対し(B)成分全体中のケイ素原子に結合した水素原子の合計が、0.01〜3モルとなる量、
(b−1)下記平均組成式(2)
(HR22SiO1/2b(R22SiO)c(R2SiO3/2d (2)
(式中、R2は同一又は異種の1価炭化水素基を示し、bは0.005〜0.3の正数であり、cは0.5〜0.98の正数であり、dは0.01〜0.12の正数であり、b+c+d=1である。)
で示され、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子に結合した水素原子を有し、かつ1分子中に少なくとも2個のR2SiO3/2単位を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(b−2)下記平均組成式(3)
3efSiO(4-e-f)/2 (3)
(式中、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、eは0.7〜2.2の正数であり、fは0.001〜1.0の正数であり、但しe+fは0.8〜3.0である。)
で表される、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有する直鎖状又は環状構造のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(但し、(b−1)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを除く。)
(C)白金系硬化触媒:触媒としての有効量、
(D)1分子中のイソシアヌル酸構造の3つの窒素原子に結合する置換基のそれぞれにトリアルコキシシリル基2個とアルケニル基1個のいずれかを1つずつ有するイソシアヌル酸誘導体、1分子中のイソシアヌル酸構造の3つの窒素原子に結合する置換基のそれぞれにトリアルコキシシリル基2個とケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)1個のいずれかを1つずつ有するイソシアヌル酸誘導体、及び/又は1分子中のイソシアヌル酸構造の3つの窒素原子に結合する置換基のそれぞれにトリアルコキシシリル基を有するイソシアヌル酸誘導体:0.01〜3質量部、及び
(E)下記(a)と(b)との反応生成物:0.01〜50質量部
(a)25℃における粘度が10〜10,000mPa・sである分子鎖末端がトリアルキルシロキシ基、水酸基、ビニル基又はアルコキシ基で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサン
(b)下記一般式(1)
(R1COO)a1 (1)
(式中、R1は同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは3又は4である。またM1はセリウム又は鉄である。)
で示されるセリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩
を含有してなり、硬化してJIS K2220で規定される針入度が10〜30のシリコーンゲル硬化物を与えるものであるシリコーンゲル組成物。
〔2〕
(D)成分が、下記の式(4)〜(6)のいずれかで示されるイソシアヌル酸誘導体から選ばれる少なくとも1種である〔1〕記載のシリコーンゲル組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
(上記各式において、Meはメチル基を示す。)
〔3〕
硬化して1TΩ・m以上の体積抵抗率(JIS K6271、印加電圧500V)を有するシリコーンゲル硬化物を与えるものである〔1〕又は〔2〕記載のシリコーンゲル組成物。
〔4〕
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシリコーンゲル組成物を硬化してなる、JIS K2220で規定される針入度が10〜30であるシリコーンゲル硬化物。
〔5〕
〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のシリコーンゲル組成物を硬化してなる、1TΩ・m以上の体積抵抗率(JIS K6271、印加電圧500V)を有するシリコーンゲル硬化物。
〔6〕
230℃雰囲気下、1,000時間後の針入度減少率が50%以下である〔4〕又は〔5〕記載のシリコーンゲル硬化物。
〔7〕
〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載のシリコーンゲル硬化物を用いたことを特徴とするパワーモジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシリコーンゲル組成物は、従来よりも高温下における硬度変化が少なく、またIGBTパワーモジュール等に使用される基材に対して優れた密着性を有し、またそれを長期間維持できるシリコーンゲル硬化物を与えるものである。つまり、本発明のシリコーンゲル組成物を硬化することにより得られるシリコーンゲル硬化物を、シリコンパワー半導体装置、特にSiCパワー半導体装置における電子部品の保護用途で使用すれば、200℃超の雰囲気下における高温連続動作の保証に、大いに役立つことが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のシリコーンゲル組成物は、下記の(A)〜(E)成分を必須成分として含有してなるものである。なお、本発明において、シリコーンゲル硬化物とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする架橋密度が低く、かつ低硬度、低弾性率の硬化物であって、JIS K2220(1/4コーン)による針入度が5〜100、特には10〜30のものを意味する。これは、JIS K6301によるゴム硬度測定では測定値(ゴム硬度値)が0となり、有効なゴム硬度値を示さない程低硬度かつ低弾性率(即ち、軟らか)であるものに相当し、この点において、いわゆるシリコーンゴム硬化物(ゴム状弾性体)とは別異のものである。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
[(A)成分]
本発明に使用される(A)成分のオルガノポリシロキサンは、シリコーンゲル組成物の主剤(ベースポリマー)であり、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基(以下「ケイ素原子結合アルケニル基」という)を少なくとも、平均1個(通常、1〜20個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個程度)有するオルガノポリシロキサンである。
【0017】
(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基として、具体的には、炭素原子数2〜10の、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ヘプテニル基等が挙げられ、特にビニル基であることが好ましい。
このケイ素原子結合アルケニル基のオルガノポリシロキサン分子中における結合位置は、分子鎖末端であっても、分子鎖非末端(即ち、分子鎖側鎖)であっても、あるいはこれらの両方であってもよい。
(A)成分中、前記ケイ素原子結合アルケニル基の含有量は、本成分100g中、好ましくは0.001〜10モル、特に好ましくは0.001〜1モルである。
【0018】
(A)成分のオルガノポリシロキサン分子中において、前記ケイ素原子結合アルケニル基以外のケイ素原子に結合した有機基(以下、「ケイ素原子結合有機基」という)は、脂肪族不飽和結合を有しないものであれば特に限定されず、例えば、非置換又は置換の、炭素原子数が、通常、1〜12、好ましくは1〜10の、脂肪族不飽和結合を除く1価炭化水素基等が挙げられる。この非置換又は置換の1価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0019】
また、(A)成分の分子構造は限定されず、例えば直鎖状(即ち、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンなど)、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、デンドリマー状が挙げられ、好ましくは直鎖状、一部分岐を有する直鎖状である。(A)成分は、これらの分子構造を有する単一の重合体、これらの分子構造からなる共重合体、又はこれらの重合体の混合物であってもよい。
【0020】
(A)成分の25℃における粘度は、組成物の作業性や硬化物の力学特性がより優れたものとなるので、好ましくは100〜500,000mPa・s、特に好ましくは300〜100,000mPa・sである。なお、本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定できる(以下、同じ。)。また、同様の理由から、(A)成分中のケイ素原子数(又は重合度)は、通常、50〜1,500個、好ましくは100〜1,000個、より好ましくは150〜800個程度であればよい。なお、本発明において、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる(以下、同じ。)。
【0021】
このような(A)成分として、具体的には、下記のものが例示される。
両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ビニルメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0022】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0023】
[(B)成分]
本発明に使用される(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、(A)成分とのヒドロシリル化付加硬化反応において、架橋剤(硬化剤)として作用する成分であり、2種類のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(b−1)、(b−2)成分からなる。
【0024】
(b−1)成分は、下記平均組成式(2)で示され、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子に結合した水素原子を有し、かつ1分子中に少なくとも2個のR2SiO3/2単位を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
(HR22SiO1/2b(R22SiO)c(R2SiO3/2d (2)
(式中、R2は同一又は異種の1価炭化水素基を示し、bは0.005〜0.3の正数であり、cは0.5〜0.98の正数であり、dは0.01〜0.12の正数であり、b+c+d=1である。)
【0025】
(b−1)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子(以下、「ケイ素原子結合水素原子」(即ち、SiH基)という)を少なくとも3個、好ましくは3〜30個、より好ましくは4〜20個程度、特には、ジオルガノハイドロジェンシロキシ基、即ち、(HR22SiO1/2)で示されるケイ素原子に結合した水素原子を有する末端基(言い換えれば、分子鎖末端のケイ素原子に結合した水素原子)を少なくとも3個、好ましくは3〜30個、より好ましくは4〜20個程度と、(R2SiO3/2)で示される分岐点(即ち、3官能性のオルガノシルセスキオキサン単位)を少なくとも2個、好ましくは2〜20個、より好ましくは4〜10個程度有する、分岐状の多官能性オルガノハイドロジェンポリシロキサンであること以外に制限はない。
【0026】
上記式(2)において、R2は同一又は異種の1価炭化水素基であり、炭素原子数が、通常、1〜10、好ましくは1〜6の非置換又は置換の1価炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基等の脂肪族不飽和結合を有しない非置換の1価炭化水素基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0027】
bは0.005〜0.3、好ましくは0.01〜0.25の正数であり、cは0.5〜0.98、好ましくは0.6〜0.9の正数であり、dは0.01〜0.12、好ましくは0.03〜0.1の正数であり、b+c+d=1である。bが0.005未満ではシリコーンゲル硬化物が得られず、また0.3を超える場合は、硬化物の変位耐久性が低下する。また、dが0.01未満の場合はシリコーンゲル硬化物が得られず、0.12を超えた場合、均一な硬化物表面に疎密が発生する。
【0028】
(b−1)成分の分子構造は、上記要件を満たすものであれば特に限定されず、また、(b−1)成分は、従来公知の方法で合成されるものである。
【0029】
(b−1)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、通常、1〜10,000mPa・s、好ましくは3〜2,000mPa・s、より好ましくは10〜1,000mPa・sであり、室温(25℃)で液状のものが望ましい。
【0030】
上記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンの具体例としては、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(C652SiO単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位からなる共重合体、(CH3)(C65)HSiO1/2単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO単位とC65SiO3/2単位からなる共重合体、(CH3)(CF324)HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH3)(CF324)HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位と(CH32SiO単位とCH3SiO3/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH3)(CF324)SiO単位と(CH32SiO単位とCF324SiO3/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0031】
(b−1)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
次に、(b−2)成分は、下記平均組成式(3)で示される、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
3efSiO(4-e-f)/2 (3)
(式中、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、eは0.7〜2.2の正数であり、fは0.001〜1.0の正数であり、但しe+fは0.8〜3.0である。)
【0033】
(b−2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個、好ましくは少なくとも3個、より好ましくは上限が500個、更に好ましくは上限が200個、特に好ましくは上限が100個のケイ素原子結合水素原子(SiH基)を有するものであって、更には分子中に脂肪族不飽和結合を有しないものである。
また、(b−2)成分は、好ましくは分子中にシロキサン構造の分岐点となる、R3SiO3/2及び/又はHSiO3/2で示される3官能性の(オルガノ)シルセスキオキサン単位を含有しないものであることが望ましい。なお、(b−2)成分は、(b−1)成分を含まない。
【0034】
上記式(3)において、R3は独立に脂肪族不飽和結合を含まない非置換又は置換の1価炭化水素基であり、炭素原子数が、通常、1〜10、好ましくは1〜6の1価炭化水素基等が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換された、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、アリール基であり、より好ましくはメチル基、フェニル基である。
【0035】
eは0.7〜2.2、好ましくは1.0〜2.0の正数であり、fは0.001〜1.0、好ましくは0.005〜0.8の正数であり、但しe+fは0.8〜3.0、好ましくは1.1〜2.5である。
【0036】
(b−2)成分の分子構造は、上記要件を満たすものであれば特に限定されず、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、特には直鎖状又は環状構造であることが好ましい。また、(b−2)成分は、従来公知の方法で合成されるものである。
【0037】
(b−2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの25℃における粘度は、組成物の作業性や硬化物の光学あるいは力学特性がより優れたものとなるので、好ましくは0.1〜5,000mPa・s、より好ましくは0.5〜1,000mPa・s、特に好ましくは2〜500mPa・sの範囲を満たす、室温(25℃)で液状である範囲が望ましい。かかる粘度を満たす場合には、オルガノハイドロジェンポリシロキサン1分子中のケイ素原子数(又は重合度)は、通常、2〜1,000個、好ましくは3〜300個、より好ましくは4〜150個程度である。なお、重合度又は分子量は、例えば、トルエン等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算値として求めることができ、通常、平均重合度は数平均重合度等として、分子量については数平均分子量等として求めることが好適である(以下、同じ。)。
【0038】
上記平均組成式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C65)SiO3/2単位とからなる共重合体や、これら例示化合物においてメチル基の一部又は全部を他のアルキル基やフェニル基などで置換したものなどが挙げられる。
【0039】
(b−2)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(B)成分として、上記(b−1)成分と(b−2)成分との使用割合は、質量比で(b−1):(b−2)が3:1〜0.8:1であることが好ましく、より好ましくは2.5:1〜0.9:1、更に好ましくは2:1〜1:1である。(b−1)成分が多すぎるとシリコーンゲル硬化物の針入度が著しく低くなる(即ち、ゲルが硬くなる)場合があり、少なすぎるとシリコーンゲルとして硬化しない場合がある。
【0041】
(B)成分の添加量(即ち、(b−1)成分と(b−2)成分の合計添加量)は、上記(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して(B)成分全体中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)の合計が0.01〜3モル、好ましくは0.05〜2モル、より好ましくは0.2〜1.8モル、更に好ましくは0.8〜1.6モルとなる量である。この(B)成分からのケイ素原子に結合した水素原子が、(A)成分中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、0.01モルより少なくなると、シリコーンゲル硬化物が得られなくなる。また、3モルより多い場合は、シリコーンゲル硬化物の耐熱性が低下する。
【0042】
[(C)成分]
本発明の(C)成分は、前記(A)成分中のケイ素原子結合アルケニル基と前記(B)成分中のケイ素原子結合水素原子との付加反応を促進させるための触媒として使用されるものである。該(C)成分は白金族金属系触媒(白金又は白金系化合物)であり、公知のものを使用することができる。その具体例としては、白金ブラック、塩化白金酸、塩化白金酸等のアルコール変性物;塩化白金酸とオレフィン、アルデヒド、ビニルシロキサン又はアセチレンアルコール類等との錯体などの白金族金属系触媒が例示される。
【0043】
(C)成分の配合量は触媒としての有効量でよく、所望の硬化速度により適宜増減することができるが、通常、(A)成分及び(B)成分の合計量に対して、白金族金属原子の質量で、0.1〜1,000ppm、好ましくは1〜300ppmの範囲である。この配合量が多すぎると得られる硬化物の耐熱性が低下する場合がある。
【0044】
[(D)成分]
本発明に使用される(D)成分は、シリコーンゲル組成物に自己接着性を付与する接着性付与剤としての作用を有する成分であり、以下に示すイソシアヌル酸誘導体が使用される。
即ち、本発明の(D)成分は、1分子中に、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基を3個有するイソシアヌル酸誘導体であるか、あるいは1分子中に該トリアルコキシシリル基を2個と、ヒドロシリル化付加反応に関与し得る官能性基として、ビニル基、アリル基等のアルケニル基又はケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を含有する1価の有機基(例えば、末端オルガノハイドロジェンシロキシ置換アルキル基等)を1個有するイソシアヌル酸誘導体から選ばれる少なくとも1種である。なお、(D)成分中のアルケニル基の範疇には、(メタ)アクリロキシ基置換アルキル基(例えば、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基等)も含めることができる。このような(D)成分を配合することにより、パワー半導体の基材に用いられるAlやCu等の金属に対して、優れた接着性を有する組成物を得ることができる。
【0045】
(D)成分として、より具体的には、下記式(4)で示されるような、(i)1分子中に、トリメトキシシリル置換アルキル基を3個有するイソシアヌル酸誘導体、及び下記式(5)、(6)で示されるような、(ii)1分子中に、トリメトキシシリル置換アルキル基を2個と、アルケニル基又は末端オルガノハイドロジェンシロキシ置換アルキル基を1個有するイソシアヌル酸誘導体や、式(4)〜(6)のそれぞれにおいて、トリメトキシシリル基をトリエトキシシリル基で置換したイソシアヌル酸誘導体等を例示することができる。
ここで、上記トリメトキシシリル置換アルキル基等のアルキル基としては、炭素原子数2〜10のエチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもプロピル基が好ましい。
なお、これらのイソシアヌル酸誘導体は、1種を単独で使用しても、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
【化4】
【化5】
【化6】
(上記各式において、Meはメチル基を示す。)
【0047】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜3質量部、好ましくは0.05〜1.5質量部、より好ましくは0.08〜1質量部、更に好ましくは0.1〜0.8質量部の範囲である。(D)成分の配合量が少なすぎると、AlやCu等の金属に対する良好な接着性を付与できず、また配合量が多すぎるとシリコーンゲル硬化物の耐熱性が著しく低下してしまう。
【0048】
なお、本発明のシリコーンゲル組成物は、組成物全体(例えば、上記(A)成分及び(D)成分)中のケイ素原子に結合したアルケニル基1モルに対して、組成物全体(例えば、(B)成分及び(D)成分)中のケイ素原子結合水素原子(SiH基)が0.01〜3モル、好ましくは0.05〜2モル、より好ましくは0.2〜1.8モル、更に好ましくは0.8〜1.6モルであることが望ましい。
【0049】
[(E)成分]
本発明に使用される(E)成分は、シリコーンゲル組成物において耐熱性付与成分としての作用を有する成分であり、後述する(a)オルガノポリシロキサンと、(b)セリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩との反応生成物である。なお、本発明において「反応生成物」とは、(a)オルガノポリシロキサンと(b)セリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩との単なる加熱処理物をも包含して意味するものである。
【0050】
(a)オルガノポリシロキサン
(a)オルガノポリシロキサンは、従来公知のオルガノポリシロキサンであればよく、上述した(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンでもよく、(A)成分以外のオルガノポリシロキサンでもよい。(A)成分以外のオルガノポリシロキサンの場合は、SiH基を含有しないものが好ましい。これは実質的にジオルガノポリシロキサン単位を主体とする、常温(23℃±15℃)で液体を保つ直鎖状又は分岐状のものであることがより好ましい。
【0051】
このケイ素原子に結合した有機基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、フェニル基、トリル基などのアリール基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、あるいはこれらの炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、フルオロプロピル基、シアノメチル基などが挙げられる。
【0052】
このオルガノポリシロキサンは、その分子鎖末端がトリアルキルシロキシ基、水酸基、ビニル基、アルコキシ基などで封鎖されたものを用いることができる。更に、これらの各種オルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0053】
また、上記オルガノポリシロキサンの粘度は、25℃における粘度が10〜10,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは50〜5,000mPa・sである。粘度が10mPa・s未満の場合、高温でのシロキサン蒸発量が多くなりやすく、質量変化が大きくなるため、耐熱性が低下しやすい。また、10,000mPa・sを超えた場合、後述する鉄化合物との混和が円滑に行われなくなるため、やはり耐熱性が低下しやすくなる。
【0054】
上記オルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、末端トリメチルシロキシ基・ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端メチルジビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖メチルトリフルオロプロピルポリシロキサン、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン共重合体、両末端トリビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルトリフルオロプロピルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体等が挙げられる。
【0055】
(b)セリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩
セリウムのカルボン酸塩及び/又は鉄のカルボン酸塩は、下記一般式(1)で示される。
(R1COO)a1 (1)
(式中、R1は同一又は異種の1価炭化水素基であり、aは3又は4である。またM1はセリウム又は鉄である。)
【0056】
上記式(1)中、R1は同一又は異種の、好ましくは炭素原子数1〜20、より好ましくは1〜18の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、(Z)−8−ヘプタデセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ナフタレン基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の水素原子の一部又は全部を、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子で置換したクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0057】
上記セリウム又は鉄のカルボン酸塩として、具体的には、2−エチルヘキサン酸、ナフテン酸、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸などのセリウム/鉄又はセリウム/鉄を主成分とする金属化合物塩が例示できる。
【0058】
上記(a)成分と(b)成分とは、(a)成分100質量部に対して(b)成分のセリウム及び/又は鉄の質量が、好ましくは0.05〜5質量部となる量で反応させるものであるが、より好ましくは(a)成分100質量部に対して(b)成分を0.05〜3質量部、更に好ましくは0.05〜1質量部の割合で反応させる。(b)成分が少なすぎると組成物の耐熱性の向上が見られない場合があり、多すぎると電気絶縁性が低下する場合がある。
【0059】
(E)成分は、上記(a)、(b)成分を均一に混合後、加熱処理することによって得られるものであるが、その加熱温度は120℃未満では均一な組成を得ることが難しく、300℃を超えると(a)成分の熱分解速度が大きくなるので好ましくない。セリウムのカルボン酸塩の場合、その熱処理温度は、150〜300℃、好ましくは200〜300℃、より好ましくは250〜300℃がよい。鉄のカルボン酸塩の場合、その熱処理温度は、120〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜240℃がよい。また、反応時間は、1〜24時間、特に2〜16時間とすることが好ましい。
【0060】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、0.01〜50質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部である。(E)成分が少なすぎると耐熱性の向上が見られず、多すぎると絶縁性が低下する。
【0061】
本発明のシリコーンゲル組成物には、上記(A)〜(E)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で(即ち、硬化してJIS K2220で規定される針入度が10〜30のシリコーンゲル硬化物を与えることができる範囲で)任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン、接着性ないしは粘着性の向上に寄与するアルコキシオルガノシラン等の接着性付与剤、耐熱添加剤、難燃付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0062】
反応抑制剤は、上記組成物の反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0063】
無機質充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;これらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で表面疎水化処理した充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
なお、硬化してJIS K2220で規定される針入度が10〜30のシリコーンゲル硬化物を得るという観点からは、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ等の補強性シリカ系無機質充填剤は組成物中に含有しないことが望ましい。
【0064】
本発明のシリコーンゲル組成物は、(A)〜(E)成分、及びその他の任意的な成分を所定量、均一混合することによって得ることができる。その際に、混合される成分を必要に応じて2パート又はそれ以上のパートに分割して混合してもよく、例えば、(A)成分の一部及び(C)、(D)成分からなるパートと、(A)成分の残部及び(B)、(E)成分からなるパートとに分割して混合することも可能である。ここで、使用する混合手段としては、ホモミキサー、パドルミキサー、ホモディスパー、コロイドミル、真空混合攪拌ミキサー、及びプラネタリーミキサーが例示されるが、少なくとも(A)〜(E)成分を均一に混合できるものであれば特に限定されるものではない。
【0065】
本発明のシリコーンゲル組成物の硬化条件としては、23〜150℃、特に23〜100℃にて10分〜8時間、特に30分〜5時間とすることができる。
【0066】
得られたシリコーンゲル組成物の硬化物は、JIS K2220で規定される針入度が10〜30であり、好ましくは10〜20である。
更に、本発明においては、得られたシリコーンゲル組成物の硬化物の230℃雰囲気下1,000時間後の針入度減少率が、50%以下、特には40%以下であることが好ましい。
なお、針入度を上記範囲とするためには、上記で特定した本発明の(A)〜(E)成分と任意成分を特定の配合比率で均一に混合してなるシリコーンゲル組成物を上記の硬化条件にて硬化させることにより上記針入度のシリコーンゲル硬化物を得ることができる。
【0067】
また、得られたシリコーンゲル組成物の硬化物は、体積抵抗率(JIS K6271、印加電圧500V)が1TΩ・m以上、特には1.0〜100TΩ・mであることが好ましい。なお、体積抵抗率を上記値とするためには、上記で特定した本発明の(A)〜(E)成分と任意成分を特定の配合比率で均一に混合してなるシリコーンゲル組成物を上記の硬化条件にて硬化させることにより上記体積抵抗率のシリコーンゲル硬化物を得ることができる。
【0068】
本発明のシリコーンゲル組成物の硬化物(シリコーンゲル)は、シリコンパワー半導体装置、特にSiCパワー半導体装置における電子部品の保護用途として好適に用いることができ、これにより200℃超の雰囲気下における高温連続動作の保証に、大いに役立つことが期待される。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部は質量部を示し、粘度は25℃での回転粘度計による測定法の測定値を示したものである。Meはメチル基を示し、Phはフェニル基を示す。また、重合度は、トルエンを展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度を示す。
【0070】
(A)成分
(A−1)下記式(7)で示される、25℃における粘度が約1.0Pa・sの分子鎖両末端ジメチルビニルシリル基封鎖ポリシロキサン
【化7】
【0071】
(B)成分
(B−1)下記式(8)で示される、25℃における粘度が100mPa・sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(H(CH32SiO1/26((CH32SiO)120(CH3SiO3/24(8)
(B−2)下記式(9)で示される、25℃における粘度が20mPa・sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化8】
(B−3)下記式(10)で示される、25℃における粘度が110mPa・sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【化9】
【0072】
(C)成分
(C−1)下記式(11)で示されるオルガノポリシロキサンを溶媒とする塩化白金酸−ビニルシロキサン錯体の溶液(白金原子含有量:1質量%)
【化10】
【0073】
(D)成分
(D−1)下記式(4)で示されるイソシアヌル酸誘導体
【化11】
(D−2)下記式(5)で示されるイソシアヌル酸誘導体
【化12】
(D−3)下記式(12)で示されるグリシドキシ基を有するトリアルコキシシラン
【化13】
(D−4)下記式(13)で示される両末端トリメトキシシリル基封鎖トリメトキシシラン
【化14】
【0074】
(E)成分
(E−1)シリコーンオイル1:2−エチルヘキサン酸鉄(III)溶液(鉄元素含有量8質量%)1部と25℃での粘度が100mPa・sの両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン100部とを230〜240℃の温度で4〜10時間熱処理して得られる反応生成物
【0075】
その他の成分
(F−1)触媒活性(反応速度)の制御剤:エチニルメチルデシルカルビノールの100質量%溶液
【0076】
[実施例1,2、比較例1〜4]
上記(A)〜(E)成分及びその他の成分を表1の通り配合して混合し、シリコーンゲル組成物S1〜S6を調製した。調製したシリコーンゲル組成物S1〜S6を、80℃、60分加熱してシリコーンゲル硬化物を得た。得られた硬化物の針入度及び体積抵抗率を測定した。なお、針入度はJIS K2220に規定された試験方法にて、また体積抵抗率の測定はJIS K6271に記載される方法で行った。更に、下記に示す方法でCu基板に対する接着性の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0077】
[Cu基板に対する接着性の評価]
幅25mmの無酸素Cu製の2枚の基材片(厚さ1mm)の一方の端部を、調製したシリコーンゲル組成物S1〜S6それぞれからなる厚さ1mmの層を間に挟んで長さ10mmに亘って重ね、80℃で1時間加熱して組成物層を硬化させた。このようにして作製した試験体を、室温(25℃)で12時間以上静置した後、試験体の両端を引っ張り試験機にて引っ張り速度50mm/分で引っ張り、凝集破壊率を測定した。そして凝集破壊率が80%を超えるものを○、50〜80%のものを△、50%未満のものを×とそれぞれ評価した。
【0078】
【表1】
【0079】
[耐熱性の評価]
上記実施例及び比較例で得られたシリコーンゲル組成物S1〜S6の硬化物を用い、230℃×1,000時間の耐熱試験後の針入度とクラックの有無を目視にて評価した。
更に、シリコーンゲル封止していないパワー半導体モジュール内に、上記調製したシリコーンゲル組成物S1〜S6を、厚さが約5mmとなるように流し込み、減圧下にて組成物内の気泡を除いた後、80℃で1時間加熱してシリコーンゲル組成物を硬化させた。このようにして作製した試験体を、200℃のホットプレート上に乗せ、経時でのシリコーンゲルの外観を目視にて評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2の結果から明らかなように、実施例1,2のシリコーンゲル組成物は、本発明の要件を満たすものであり、230℃の長期耐熱下でも針入度の大きな低下は見られないばかりでなく、モジュール内で長期間加熱されても、クラックや基板からの剥離等の異常な外観も見られず、安定性が確認された。