(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記建物の外部に設けられた外気取入口、前記外気取入口と前記排煙機の間の風道を形成する外気ダクト、及び前記外気ダクトの途中に設けられた外気ダンパを有する外気案内手段を更に備え、
前記排煙機は、前記外気案内手段からの外気によって希釈された煙を排出する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の機械排煙システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、この種の機械排煙装置では、高温の煙により周囲の過熱又は延焼が発生するのを防止するため、温度ヒューズを有する自動閉鎖式の防火ダンパが設けられている。この防火ダンパが「閉」状態になることで、その排煙口からの煙の吸入が停止し、火災室内に煙が滞留する。その後、滞留した煙は、火災室に連通する吹抜空間に向けて流出する。
【0006】
この場合、大量かつ高温の煙が吹抜空間に流出する可能性を想定して、吹抜空間に隣接する箇所に対して万全な火災対策を講じる必要がある。具体的には、法令で定められた防火区画(面積区画・竪穴区画を含む)を設けた上で、その区画の種類に応じた区画方法を採用しなければならない。
【0007】
例えば、間仕切りを耐火材で構成したり、防火シャッタ又は防火扉を設けたりすることで十分な防火対策が講じられる反面、建設費の高騰或いは設計自由度の低下を招くという問題が生じる。
【0008】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、吹抜空間を有する建物の火災対策に関して、建設費の高騰及び設計自由度の低下を同時に抑制可能な機械排煙システム及び火災対策構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る「機械排煙システム」は、複数の階にわたって貫通する吹抜空間を有する建物に適用されるシステムであって、少なくとも1つの階にて前記吹抜空間に隣接する室内に滞留する煙を案内する第1導煙手段と、前記吹抜空間内に滞留する煙を案内する第2導煙手段と、前記第1導煙手段及び前記第2導煙手段により案内された煙を集めて排出する排煙機を備え、前記第1導煙手段は、耐火ダクトを含んで構成される。
【0010】
このように、第1導煙手段は耐火ダクトを含んで構成されるので、耐火ダクトの破損・焼失、更には耐火ダクトの周囲への過熱・延焼が起こり難くなり、第1導煙手段による導煙動作を停止する必要がなくなる。この場合、室内から発生した煙は、吹抜空間を経由する流路のみならず、室内から第1導煙手段に向かう流路を通じて排出される。
【0011】
つまり、室内で発生した煙が2つの流れに分散されるので、その分だけ吹抜空間を経由する煙の量が少なくなると共に、吹抜空間の隣接箇所に掛かる熱負担が軽減される。その結果、建物における防火区画の数の削減、防火区画の免除等の減免対策を施すことが可能となる。これにより、吹抜空間を有する建物の火災対策に関して、建設費の高騰及び設計自由度の低下を同時に抑制できる。
【0012】
また、前記排煙機は、前記建物の上方に配置されており、前記第1導煙手段は、階毎に設けられた複数の排煙口と、各々の前記排煙口と前記排煙機の間の風道を形成する竪ダクトを備えてもよい。
【0013】
また、各々の前記排煙口に対して開閉制御を行う排煙制御手段を更に備え、前記排煙制御手段は、煙の発生源がある階に対応する前記排煙口に対して開制御を行うと共に、残りの前記排煙口に対して閉制御を行ってもよい。発生源に近い位置、すなわち濃度が相対的に高い位置から煙を引き出すことで、高効率な排煙動作を行うことができる。
【0014】
また、前記建物の外部に設けられた外気取入口、前記外気取入口と前記排煙機の間の風道を形成する外気ダクト、及び前記外気ダクトの途中に設けられた外気ダンパを有する外気案内手段を更に備え、前記排煙機は、前記外気案内手段からの外気によって希釈された煙を排出してもよい。高温の煙を外気で希釈化することで、排煙機に到達する気体の温度が大幅に低下し、排煙機に掛かる熱負担を軽減できる。
【0015】
また、前記排煙機又はその周辺の温度を測定する温度計と、前記温度計により測定された温度が閾値を上回る場合に前記外気ダンパに対して開制御を行うと共に、前記閾値を上回らない場合に前記外気ダンパに対して閉制御を行う外気取入制御手段を更に備えてもよい。温度計による温度の測定結果を用いて外気ダンパの開閉制御を行うことで、排煙動作の効率化及び熱負担の軽減の両立が図られる。
【0016】
本発明に係る「火災対策構造」は、上記したいずれかの機械排煙システムと、階毎の床の先端側に配置され、かつ前記吹抜空間と前記室の間を隔てる1つ以上の間仕切りを備える。
【0017】
また、前記間仕切りに近い位置に設けられ、かつ前記吹抜空間に向かって前記床の面を延長するように構成される1つ以上の張出し部を更に備えてもよい。室内の煙は、床及び張出し部の面に沿って吹抜空間に向けて流出する。ここで、煙は、張出し部の下面と接触することで張出し部に熱を奪われていくので、間仕切りに到達する時点で煙の温度が十分に低下する。また、間仕切りに近い位置に張出し部が設けられているので、上昇中の煙が間仕切りに直接的に接触するのを防止可能であり、間仕切りに掛かる熱負担が軽減される。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る機械排煙システム及び火災対策構造によれば、吹抜空間を有する建物の火災対策に関して、建設費の高騰及び設計自由度の低下を同時に抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る機械排煙システムについて、火災対策構造との関係において好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0021】
[第1実施形態]
先ず、第1実施形態に係る火災対策構造10について、
図1及び
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
<火災対策構造10の構成>
図1は、第1実施形態に係る火災対策構造10が組み込まれた建物12の全体構成図である。本図では、建物12の主要な構造部として、床14、壁16、天井18、及び床20、22を模式的に示す。建物12の内部には、複数の階24a、24b、24cをそれぞれ貫通する吹抜空間26が形成されている。
【0023】
下位の階24aには、吹抜空間26に隣接する室28aが設けられている。中位の階24bには、吹抜空間26に隣接する室28bが設けられている。上位の階24cには、吹抜空間26に隣接する室28cが設けられている。なお、室28c内には、建物12の外に避難するための避難扉30が配置されている。
【0024】
床20の先端側であって吹抜空間26に面する位置には、ガラスからなる間仕切り32が設けられている。床22の先端側であって吹抜空間26に面する位置には、ガラスからなる間仕切り34が設けられている。これにより、室28b、28cは、吹抜空間26から物理的に隔てられる。
【0025】
この建物12内に構築される火災対策構造10は、上記した間仕切り32、34の他、機械排煙方式による機械排煙システム40から構成される。ここで、「機械排煙方式」とは、排煙機46を作動させ、排煙しようとする部分の煙Sを引き出すことにより、建物12の外部に排煙する方式を意味する。
【0026】
機械排煙システム40は、室28a〜28c内に滞留する煙Sを案内する第1導煙手段42と、吹抜空間26内に滞留する煙Sを案内する第2導煙手段44と、案内された煙Sを集めて外部に排出する排煙機46を含んで構成される。
【0027】
第1導煙手段42は、室28aに接する壁16の付近に設けられた排煙口48aと、室28bに接する壁16の付近に設けられた排煙口48bと、室28cに接する壁16の付近に設けられた排煙口48cと、各々の排煙口48a〜48cと排煙機46の間の風道を形成し、かつ壁16の外側に配置された竪ダクト50とから構成される。
【0028】
竪ダクト50は、建物12の屋上に向かって高さ方向に本管が延びており、かつ複数の高さ位置で分岐する耐火仕様のダクト(以下、耐火ダクト)である。竪ダクト50の耐熱温度は、防火の観点から高いほど好ましく、概ね800〜1200℃である。竪ダクト50は、具体例として、1.5mm以上の鋼板ダクトに対して耐火被覆材(25mm以上のロックウール)を巻き付けて構成される。
【0029】
第2導煙手段44は、吹抜空間26に接する天井18の付近に設けられた排煙口52と、排煙口52と排煙機46の間の風道を形成し、かつ天井18の外側に配置された横引きダクト54と、横引きダクト54の途中に設けられた排煙ダンパ56から構成される。
【0030】
排煙機46は、竪ダクト50及び横引きダクト54にそれぞれ接続され、竪ダクト50及び横引きダクト54の中にある煙Sを吸引すると共に、図示しない排煙出口から排出する。なお、排煙機46の耐熱温度は、機種(遠心型又は軸流型)によって異なるが、概ね600〜800℃以下である点に留意する。
【0031】
機械排煙システム40は、各々の構成機器を制御可能なPLC(Programmable Logic Controller)制御盤58(排煙制御手段)と、商用電源とは別の非常電源60を更に備える。PLC制御盤58は、具体的には、排煙機46の駆動制御、排煙口48a〜48c、52の開閉制御、及び排煙ダンパ56の開閉制御を行う。
【0032】
<機械排煙システム40の動作>
続いて、火災発生時における機械排煙システム40の動作について、
図2を参照しながら説明する。例えば、室28a内から火Fが発生した場合、在室者Mの避難安全を確保するために機械排煙システム40を作動させる。
【0033】
一般的に言えば、高温の煙Sにより周囲の過熱又は延焼が発生するのを防止するため、排煙用の竪ダクトには、温度ヒューズを有する自動閉鎖式の防火ダンパが設けられる場合がある。しかし、第1実施形態を含む各々の実施形態では、この防火ダンパが設けられておらず、第1導煙手段42を経由する機械排煙を停止させない点に留意する。
【0034】
図2に示すように、PLC制御盤58は、排煙ダンパ56に対して「開」制御を行うと共に、排煙機46を作動する。PLC制御盤58は、更に、煙Sの発生源(火F)がある階24aに対応する排煙口48aに対して「開」制御を行うと共に、残りの階24b、24cに対応する排煙口48b、48cの「閉」制御を行う。
【0035】
発生した煙Sの一部は、室28a内に滞留すると共に、床20の面に沿って吹抜空間26に向けて流出する。その後、室28a内から流出した煙Sは、対流を起こしながら上昇し、吹抜空間26の上方(天井18の付近)にて滞留する。
【0036】
竪ダクト50は耐火ダクトであるため、耐火ダクトの破損・焼失、更には耐火ダクトの周囲への過熱・延焼が起こり難くなり、第1導煙手段42による導煙動作を停止する必要がなくなる。この場合、室28a内から発生した煙Sは、吹抜空間26を経由する流路のみならず、室28a内から第1導煙手段42に向かう流路を通じて排出される。
【0037】
つまり、室28a内で発生した煙Sが2つの流れに分散されるので、その分だけ吹抜空間26を経由する煙Sの量が少なくなると共に、吹抜空間26の隣接箇所(例えば、間仕切り32、34)に掛かる熱負担が軽減される。その結果、建物12における防火区画の数の削減、防火区画の免除等の減免対策を施すことが可能となる。
【0038】
具体的には、火災対策構造10として、間仕切り32、34を耐火材で構成しなくてもよく、例えばガラスを用いることができる。また、機械排煙システム40の排煙能力又は建物12の構造によっては、間仕切り32、34とは別に、防火シャッタ又は防火扉を設ける必要がなくなる。
【0039】
なお、排煙機46は、商用電源(主電源)からの電力の供給が停止された場合、非常電源60により作動可能に構成されている。これにより、第1導煙手段42及び/又は第2導煙手段44を経由する「止まらない機械排煙」を実現する。
【0040】
<第1実施形態による効果>
以上のように、この機械排煙システム40は、[1]複数の階24a〜24cにわたって貫通する吹抜空間26を有する建物12に適用され、[2]少なくとも1つの階24a〜24cにて吹抜空間26に隣接する室28a〜28c内に滞留する煙Sを案内する第1導煙手段42と、[3]吹抜空間26内に滞留する煙Sを案内する第2導煙手段44と、[4]第1導煙手段42及び第2導煙手段44により案内された煙Sを集めて排出する排煙機46を備え、[5]第1導煙手段42は、竪ダクト50(耐火ダクト)を含んで構成される。これにより、吹抜空間26を有する建物12の火災対策に関して、建設費の高騰及び設計自由度の低下を同時に抑制できる。
【0041】
また、排煙機46は、建物12の上方に配置されており、第1導煙手段42は、階24a〜24c毎に設けられた複数の排煙口48a〜48cと、各々の排煙口48a〜48cと排煙機46の間の風道を形成する竪ダクト50を備えてもよい。
【0042】
そして、機械排煙システム40は、各々の排煙口48a〜48cに対して開閉制御を行うPLC制御盤58(排煙制御手段)を更に備え、PLC制御盤58は、煙Sの発生源(火F)がある階24aに対応する排煙口48aに対して開制御を行うと共に、残りの排煙口48b、48cに対して閉制御を行ってもよい。火Fに近い位置、すなわち濃度が相対的に高い位置から煙Sを引き出すことで、高効率な排煙動作を行うことができる。
【0043】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態に係る火災対策構造70について、
図3及び
図4を参照しながら説明する。この火災対策構造70は、第1実施形態(火災対策構造10)の改良例に相当する。なお、第1実施形態と同等の構成については、同一の参照符号を付すると共に、その説明を適宜省略する。
【0044】
<火災対策構造70の構成>
図3は、第2実施形態に係る火災対策構造70が組み込まれた建物12の全体構成図である。第2実施形態では、建物12の構造は第1実施形態(建物12)と同一であるが、機械排煙システム72の構成が第1実施形態(機械排煙システム40)と異なっている。
【0045】
機械排煙システム72は、第1導煙手段42、第2導煙手段44及び排煙機46の他、外気を案内する外気案内手段74を含んで構成される。外気案内手段74は、建物12の外部に設けられた外気取入口76と、外気取入口76と排煙機46の間の風道を形成する外気ダクト78と、外気ダクト78の途中に設けられた外気ダンパ80から構成される。
【0046】
排煙機46は、竪ダクト50、横引きダクト54及び外気ダクト78が合流する合流部82に接続され、外気ダクト78からの外気によって希釈された煙Sを吸引すると共に、図示しない排煙出口から排出する。
【0047】
機械排煙システム70は、非常電源60の他、排煙機46又はその周辺(ここでは、合流部82)の温度を測定する温度計84と、各々の構成機器を制御可能なPLC制御盤86(排煙制御手段、外気取入制御手段)を更に備える。PLC制御盤86は、具体的には、排煙機46の駆動制御、排煙口48a〜48c、52の開閉制御、排煙ダンパ56の開閉制御、及び外気ダンパ80の開閉動作を行う。
【0048】
<機械排煙システム72の動作>
続いて、火災発生時における機械排煙システム72の動作について、
図4を参照しながら説明する。例えば、室28a内から火Fが発生した場合、在室者Mの避難安全を確保するために機械排煙システム72を作動させる。
【0049】
第1実施形態にて説明したように、第1導煙手段42を経由する機械排煙を継続する場合、排煙機46に掛かる熱負荷が懸念される。つまり、竪ダクト50の耐熱温度が排煙機46の耐熱温度よりも高い場合、高温の煙Sによる排煙機46の故障・破損が起こり得る点に留意する。
【0050】
図4に示すように、PLC制御盤86は、排煙ダンパ56に対して「開」制御を行うと共に、排煙機46を作動する。PLC制御盤86は、更に、煙Sの発生源(火F)がある階24aに対応する排煙口48aに対して「開」制御を行うと共に、残りの階24b、24cに対応する排煙口48b、48cの「閉」制御を行う。
【0051】
PLC制御盤86は、更に、温度計84により逐次測定される合流部82の温度に応じて外気ダンパ80の開閉制御を行う。具体的には、PLC制御盤86は、温度が閾値を上回る場合に外気ダンパ80に対して「開」制御を行うと共に、閾値を上回らない場合に外気ダンパ80に対して「閉」制御を行う。なお、閾値は、排煙機46の耐熱温度よりも低い任意の値(例えば、500℃)に設定される。
【0052】
外気ダンパ80が「開」状態である場合、煙Sは、外気案内手段74からの外気によって希釈される。つまり、高温の煙Sが、室28a、排煙口48a、竪ダクト50、及び合流部82の順に流れた後、排煙機46に到達する時点で、煙Sの温度が十分に低下する。これにより、排煙機46に掛かる熱負担を軽減できる。
【0053】
一方、外気ダンパ80が「閉」状態である場合、煙Sは、外気案内手段74からの外気によって希釈されない。つまり、濃度が高い煙Sをそのまま引き出すことで、高効率な排煙動作を行うことができる。なお、この「閉」状態であっても、煙Sの温度の低下効果が得られている。温度が相対的に低い吹抜空間26内の煙Sが、合流部82にて混合されるからである。
【0054】
<第2実施形態による効果>
以上のように、この機械排煙システム72は、第1実施形態(機械排煙システム40)と同様に、[1]複数の階24a〜24cにわたって貫通する吹抜空間26を有する建物12に適用され、[2]第1導煙手段42と、[3]第2導煙手段44と、[4]排煙機46を備え、[5]第1導煙手段42は、竪ダクト50(耐火ダクト)を含んで構成される。これにより、吹抜空間26を有する建物12の火災対策に関して、建設費の高騰及び設計自由度の低下を同時に抑制できる。
【0055】
そして、機械排煙システム72は、[6]建物12の外部に設けられた外気取入口76、外気取入口76と排煙機46の間の風道を形成する外気ダクト78、及び外気ダクト78の途中に設けられた外気ダンパ80を有する外気案内手段74を更に備え、[7]排煙機46は、外気案内手段74からの外気によって希釈された煙Sを排出してもよい。高温の煙Sを外気で希釈化することで、排煙機46に到達する気体の温度が大幅に低下し、排煙機46に掛かる熱負担を軽減できる。
【0056】
また、機械排煙システム70は、排煙機46又はその周辺の温度を測定する温度計84と、温度計84により測定された温度が閾値を上回る場合に外気ダンパ80に対して開制御を行うと共に、閾値を上回らない場合に外気ダンパ80に対して閉制御を行うPLC制御盤86(外気取入制御手段)を更に備えてもよい。温度計84による温度の測定結果を用いて外気ダンパ80の開閉制御を行うことで、排煙動作の効率化及び熱負担の軽減の両立が図られる。
【0057】
[第3実施形態]
続いて、第3実施形態に係る火災対策構造100について、
図5〜
図8を参照しながら説明する。この火災対策構造100は、第1実施形態(火災対策構造10)の改良例に相当する。なお、第1実施形態と同等の構成については、同一の参照符号を付すると共に、その説明を適宜省略する。
【0058】
<火災対策構造100の構成>
図5は、第3実施形態に係る火災対策構造100が組み込まれた建物102の全体構成図である。第3実施形態では、機械排煙システム40の構成が第1実施形態(機械排煙システム40)と同一であるが、建物102の構造は第1実施形態(建物12)と異なっている。
【0059】
この建物102内に構築される火災対策構造100は、上記した間仕切り32、34、機械排煙システム40の他、階28bに設けられた張出し部104と、階28cに設けられた張出し部108から構成される。
【0060】
側方視L字状の張出し部104は、間仕切り32に近い位置に設けられ、かつ吹抜空間112に向かって床20の面を延長するように構成される。より詳細には、張出し部104は、床20の面に沿って水平に延びる延長部105と、延長部105の先端側から上方に延びる塀部106を有する。
【0061】
側方視L字状の張出し部108は、間仕切り34に近い位置に設けられ、かつ吹抜空間112に向かって床22の面を延長するように構成される。より詳細には、張出し部108は、床22の面に沿って水平に延びる延長部109と、延長部109の先端側から上方に延びる塀部110を有する。
【0062】
このように、階24b、24c毎に張出し部104、108を設けることで、吹抜空間112と間仕切り32の間に中間領域114が形成されると共に、吹抜空間112と間仕切り34の間に中間領域116が形成される。
【0063】
なお、張出し部104、108は、
図5の例に限られることなく、任意の形状又はサイズであってもよい。また、張出し部104、108の材質に関して、ある程度の耐熱性又は強度があれば材質の種類は問わない。
【0064】
<火災発生時における煙Sの挙動>
図6は、
図5に示す張出し部104の周辺における煙Sの挙動に関する説明図である。室28a内の煙Sは、床20及び張出し部104の面に沿って吹抜空間112に向けて流出する。ここで、煙Sは、延長部105の下面又は塀部106の側面と接触することで張出し部104に熱を奪われていくと共に、周囲の空気を巻き込むことで気流の噴出幅が広がる。
【0065】
つまり、高温の煙Sが、室28a、吹抜空間112、及び中間領域114の順に流れた後、間仕切り32に到達する時点で煙Sの温度が十分に低下する。また、間仕切り32に近い位置に張出し部104が設けられているので、上昇中の煙Sが間仕切り32に直接的に接触するのを防止可能であり、間仕切り32に掛かる熱負担が軽減される。
【0066】
<効果確認>
続いて、張出し部104、108による効果を確認するため、火災対策構造100の模型を作製して実験を行った。
【0067】
図7は、効果確認に用いた実験模型の見取図である。詳しくは、
図7(A)は1階の平面図であり、
図7(B)はA−A’線に沿った断面図である。この図から理解されるように、この実験模型は、3つの階を貫通する吹抜空間と、階毎に3つずつの室を有する建物を形作る。
【0068】
この実験模型は、実寸の約1/3の縮尺スケールを想定したサイズ、具体的には、幅4.5m、奥行き6.3m、高さ3.0mのサイズを有する。吹抜空間は、幅2.275m、奥行き6.3m、高さ3.0mのサイズを有する。各々の室は、幅2.275m、奥行き2.1m、高さ1.0mのサイズを有する。
【0069】
1階の中央にある室(以下、火災室)内で火災が発生したことを想定し、火災室の床面中央に煙の発生源を載置した。また、火災室の出入口付近には、幅が350mm又は700mmの張出し部を取り付けた。
【0070】
図8は、吹抜空間内における温度上昇値の高さ分布を示す図である。詳しくは、
図8(A)は排煙方法による結果の差異を示すグラフであり、
図8(B)は張出し部の有無による結果の差異を示すグラフである。グラフの横軸は上昇温度(単位:℃)を示し、グラフの縦軸は1階床面からの高さ(単位:m)を示す。
【0071】
図8(A)に示すように、「排煙なし」、「吹抜のみ排煙」及び「吹抜+室内排煙」のいずれのグラフに関しても、吹抜空間の上方ほど温度の上昇値が大きくなっている。「排煙なし」の場合は最大で約75℃であったのに対し、「吹抜のみ排煙」の場合は最大で約55℃、「吹抜+室内排煙」の場合は最大で約5℃であった。特に、「吹抜+室内排煙」の場合では、「吹抜のみ排煙」と比べて飛躍的に温度上昇が抑制された。
【0072】
図8(B)に示すように、「張出し部なし」、「張出し部あり(350mm)」及び「張出し部あり(700mm)」のいずれのグラフに関しても、吹抜空間の上方ほど温度の上昇値が大きくなっている。「張出し部なし」の場合は最大で約50℃であったのに対し、「張出し部あり(350mm)」の場合は最大で約30℃、「張出し部あり(700mm)」の場合は最大で約25℃であった。特に、「張出し部あり」の場合では、「張出し部なし」と比べて、高さ分布を均一にしながら全体的に抑制する傾向がみられた。
【0073】
<第3実施形態による効果>
以上のように、この火災対策構造100は、[1]上記した機械排煙システム40と、[2]階24b、24c毎の床20、22の先端側に配置され、かつ吹抜空間112と室28b、28cの間を隔てる1つ以上の間仕切り32、34を備える。これにより、吹抜空間112を有する建物102の火災対策に関して、建設費の高騰及び設計自由度の低下を同時に抑制できる。
【0074】
また、火災対策構造100は、[3]間仕切り32、34に近い位置に設けられ、かつ吹抜空間112に向かって床20、22の面を延長するように構成される1つ以上の張出し部104、108を更に備えてもよい。室28a(28b)内の煙Sは、床20(22)及び張出し部104(108)の面に沿って吹抜空間112に向けて流出する。ここで、煙Sは、張出し部104(108)の下面と接触することで張出し部104(108)に熱を奪われていくので、間仕切り32、34に到達する時点で煙Sの温度が十分に低下する。また、間仕切り32、34に近い位置に張出し部104、108が設けられているので、上昇中の煙Sが間仕切り32、34に直接的に接触するのを防止可能であり、間仕切り32、34に掛かる熱負担が軽減される。
【0075】
[備考]
なお、この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。