(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は同一又は異種の1価炭化水素基である。X
1、X
2、X
3はR
1又は−R
2−SiR
1a(OR
3)
3-aで示される基であり、それぞれ異なってもよいが、X
1、X
2、X
3のうち少なくとも一つは、−R
2−SiR
1a(OR
3)
3-aで示される基である。R
1は上記の通り、R
2は酸素原子、R
3は炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、aは
0である。m及びnはそれぞれ1≦m≦1,000、0≦n≦1,000である。)
で表される、
3官能性の加水分解性オルガノポリシロキサン:20〜90質量部、
(B)室温で液体の芳香族含有有機化合物:80〜10質量部、
(但し、(A)、(B)成分の合計は100質量部である。)
(C)平均粒径が5μm以上100μm以下である、アルミニウム及び酸化アルミニウムから選ばれる熱伝導性無機充填材、
(D)平均粒径が0.05μm以上5μm未満である、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムから選ばれる熱伝導性無機充填材であり、(C)成分がアルミニウムの場合、(D)成分は酸化亜鉛及び酸化マグネシウムから選ばれ、(C)成分が酸化アルミニウムの場合は、(D)成分は酸化マグネシウムであり、(C)成分と(D)成分の配合質量比((C)/(D))は70/30〜90/10である。:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、(C)及び(D)成分の合計が1,093〜2,000質量部を含有する熱伝導性シリコーングリース組成物であって、(A)成分のSP値(SP(A))と(B)成分のSP値(SP(B))が、SP(B)−SP(A)>2であり、熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度が25℃において50〜1,000Pa・sであり、(C)成分と(D)成分が異なるpH
pzcを有する熱伝導性無機充填材である熱伝導性シリコーングリース組成物。
(B)成分が、分子中にエポキシ基、フェノール基、シアネート基、アミノ基及びフェノール性水酸基から選ばれる有機基を有する室温で液体の芳香族含有有機化合物である請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、(C)及び(D)成分の合計が1,173〜2,000質量部を含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、熱伝導率に優れる熱伝導性シリコーングリース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の目的を達成するために鋭意検討を続けた結果、特定のオルガノポリシロキサン、前記オルガノポリシロキサンよりもSP値が高く、室温で液体の芳香族含有有機化合物、前記の特定のオルガノポリシロキサンと室温で液体の芳香族含有有機化合物の混合液のpHにおいて異なる表面電荷を有する2種類以上の熱伝導性充填材を組み合せることにより、異なる種類の熱伝導性充填材を静電的に凝集させて、熱のパスが積極的に作製され、熱伝導率に優れる熱伝導性シリコーングリース組成物を得ることができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は下記熱伝導性シリコーングリース組成物を提供する。
[1].(A)オルガノポリシロキサン:20〜90質量部、
(B)室温で液体の芳香族含有有機化合物:80〜10質量部、
(但し、(A)、(B)成分の合計は100質量部である。)
(C)平均粒径が5μm以上100μm以下である熱伝導性無機充填材、
(D)平均粒径が0.05μm以上5μm未満である熱伝導性無機充填材:(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、(C)及び(D)成分の合計が200〜2,000質量部を含有する熱伝導性シリコーングリース組成物であって、(A)成分のSP値(SP(A))と(B)成分のSP値(SP(B))が、SP(B)−SP(A)>2であり、熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度が25℃において50〜1,000Pa・sであり、(C)成分と(D)成分が異なるpH
pzcを有する熱伝導性無機充填材である熱伝導性シリコーングリース組成物。
[2].オルガノポリシロキサン(A)が、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1は同一又は異種の1価炭化水素基である。X
1、X
2、X
3はR
1又は−R
2−SiR
1a(OR
3)
3-aで示される基であり、それぞれ異なっても良い。R
1は上記の通り、R
2は酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基、R
3は炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、aは1〜3の整数である。m及びnはそれぞれ1≦m≦1,000、0≦n≦1,000である。)
で示され、25℃における粘度が0.005〜100mPa・sである3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンである[1]記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
[3].熱伝導性無機充填材(C)及び(D)成分が、それぞれアルミニウム、銀、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び金属ケイ素から選ばれる1種又は2種以上の組み合せである[1]又は[2]記載の熱伝導性シリコーングリース組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物は、熱伝導率に優れることから、使用中に熱が発生する電気・電子部品からの除熱に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
[(A)成分]
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を構成する(A)成分のオルガノポリシロキサンは、25℃における粘度が好ましくは0.005〜100mPa・sの液状シリコーンである。
【0012】
本発明においては、(A)成分のオルガノポリシロキサンのB型回転粘度計による25℃における粘度は、前記したように0.005〜100mPa・sの範囲であることが好ましいが、特に0.01〜50mPa・sであることがより好ましい。25℃における粘度が0.005mPa・sより小さいと、得られるシリコーングリース組成物の保管時の分離等が発生し安定性に乏しくなり、100mPa・sより大きいと、(B)成分との混合が困難となるおそれがある。
【0013】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、少なくとも、下記一般式(1)で表される3官能の加水分解性オルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。
【化2】
(式中、R
1は同一又は異種の1価炭化水素基である。X
1、X
2、X
3はR
1又は−R
2−SiR
1a(OR
3)
3-aで示される基であり、それぞれ異なっても良い。R
1は上記の通り、R
2は酸素原子又は炭素数1〜4のアルキレン基、R
3は炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、aは1〜3の整数である。m及びnはそれぞれ1≦m≦1,000、0≦n≦1,000である。)
【0014】
本発明に用いるより好ましいオルガノポリシロキサン(A)成分は、下記一般式(2)
【化3】
(式中、R
1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R
3は独立に炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基であり、pは5〜100の整数であり、aは1〜3の整数である。)
で表され、好ましくは25℃における粘度が0.005〜100mPa・sのオルガノポリシロキサンである。
【0015】
なお、本発明において、粘度はマルコム粘度計で試料の粘度を測定し、プロッターでの記録の最大値を粘度とする。
ローター:A(10rpm)
測定条件:25℃±0.5℃
により測定した値である。
【0016】
オルガノポリシロキサン(A)は、高熱伝導性シリコーングリース組成物を得るために、(C)成分と(D)成分の熱伝導性無機充填材を、高充填しても組成物の流動性を保ち、良好な取り扱い性を付与する役割も兼ね備えている。
【0017】
上記式(1)及び(2)中、R
1は独立に非置換又は置換の好ましくは炭素数1〜10、より好ましくは1〜6、更に好ましくは1〜3の1価炭化水素基であり、その例としては、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基が挙げられる。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基が挙げられる。環状アルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基が挙げられる。アラルキル基としては、例えば、2−フェニルエチル基、2−メチル−2−フェニルエチル基が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピル基、2−(ノナフルオロブチル)エチル基、2−(ヘプタデカフルオロオクチル)エチル基が挙げられる。R
1として、好ましくはメチル基、フェニル基、ビニル基である。
【0018】
上記R
3は独立に炭素数1〜4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基である。アルキル基としては、例えば、R
1について例示したのと同様の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基が挙げられる。アルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、炭素数2〜8が好ましく、アセチル基、オクタノイル基等が挙げられる。R
3はアルキル基であることが好ましく、特にはメチル基、エチル基であることが好ましい。
n、mは上記の通りであるが、好ましくはn+mが10〜50であり、pは5〜100の整数であり、好ましくは10〜50である。aは1〜3の整数であり、好ましくは3である。なお、分子中にOR
3基は1〜6個、特に3又は6個有することが好ましい。
【0019】
オルガノポリシロキサン(A)の25℃における粘度は、通常、0.005〜100mPa・s、特に0.005〜50mPa・sであることが好ましい。該粘度が0.005mPa・sより低いと、得られる室温湿気硬化型熱伝導性シリコーングリース組成物からオイルブリードが発生し易く、また垂れてしまい易い。該粘度が100mPa・sより大きいと、得られる熱伝導性シリコーングリース組成物の流動性が乏しくなり、ディスペンス性、印刷性が悪化してしまうおそれがある。
【0020】
オルガノポリシロキサン(A)の好適な具体例としては、下記のものを挙げることができる。
【0022】
(A)成分の配合量は、(A)及び(B)成分の合計100質量部中、20〜90質量部であり、30〜80質量部がより好ましく、70〜80質量部がより好ましい。(A)成分が20質量部よりも少ないと熱伝導性シリコーン組成物が増粘して吐出不可となってしまい、90質量部より多いと低粘度になりすぎて、(A)成分がブリードする。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分の室温で液体の芳香族含有有機化合物としては、分子中にエポキシ基、フェノール基、シアネート基、アミノ基及びフェノール性水酸基から選ばれる有機基を有する有機化合物であることが好ましい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
エポキシ基を有する化合物としては、下記のエポキシ樹脂が挙げられる。分子構造、分子量等は25℃における粘度が10〜1,000,000mPa・sが好ましい。このようなエポキシ化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン又はこのハロゲン化物のジグリシジルエーテル及びこれらの縮重合物(いわゆるビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等)、レゾルシンのジグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ジフェニルエーテル、1,2−ジオキシベンゼンあるいはレゾルシノール、多価フェノールとエピクロルヒドリンとを縮合させて得られるエポキシグリシジルエーテル、ナフタレン環含有エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂等が挙げられ、上記のエポキシ化合物中にアリル基又はビニル基を有してもよい。
【0025】
なお、上記エポキシ樹脂にモノエポキシ化合物を適宜併用することは差し支えなく、このモノエポキシ化合物としては、スチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル等が例示され、これらのエポキシ化合物中にアリル基またはビニル基を有してもよい。
【0026】
フェノール基含有の化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、トリメチロールアリルオキシフェノール、低重合度のフェノールノボラック樹脂等のフェノール樹脂、ジヒドロキシジアリルジフェニルメタン等が挙げられ、これらのフェノール化合物中にはアリル基又はビニル基を有してもよい。
【0027】
シアネート基含有化合物としては、4,4'−メチリデンビス[2,6−ジメチルフェニレンシアネート]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2−メチルフェニレンシアネート]、4,4'−(1−メチルエチリデン)ビス[2,6−ジメチルフェニレンシアネート]、4,4'−メチレンビス[2−メチルフェニレンシアネート]、4,4'−(1−メチル−エチリデン)ビス[2−(1,1−ジメチルエチル)フェニレンシアネート]等があり、式(3)で表されるシアネートエステルとしては、フェノールノボラック型シアネートエステル、クレゾールノボラック型シアネートエステル等がある。
【0028】
アミノ基含有化合物としては、ジアミノジメチルジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、メンタンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等のアミン系化合物;エポキシ樹脂−ジエチレントリアミンアダクト、アミン−エチレンオキサイドアダクト、シアノエチル化ポリアミン等の変性脂肪族ポリアミン;4,4'−ジアミノジフェニルメタン、o−,m−,p−フェニレンジアミン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、3,6−ジアミノジュレン、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ジアルキル−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ジエトキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2.5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ビス(トリフルオロメチル)−5,5'−ジアミノビフェニル、4,4'−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4'−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4'−ジアミノビナフチル、4,4'−ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。
【0029】
(B)成分の配合量は、(A)及び(B)成分の合計100質量部中、10〜80質量部であり、20〜70質量部が好ましく、20〜30質量部がより好ましい。(B)成分が少なすぎると、所望の熱伝導率が達成できず、(B)成分が多すぎると、高粘度となり作業性が悪化する。
【0030】
(A)成分のSP値(SP(A))と(B)成分のSP値(SP(B))は、SP(B)>SP(A)であると共に、SP(B)−SP(A)>2であり、好ましくはSP(B)−SP(A)≧2.5、より好ましくはSP(B)−SP(A)≧3である。
【0031】
本明細書においてSP値とは、沖津俊直、「接着」、高分子刊行会、40巻8号(1996)p342−350に記載された、下記表1に記載した沖津による各種原子団のΔF、Δv値を用い、下記式(3)により算出した溶解性パラメータδを意味する。また、混合溶剤、共重合体の場合は、下記式(4)により算出した溶解性パラメータδを意味する。
δ=ΣΔF/ΣΔv (3)
δ
mix=φ
1δ
1+φ
2δ
2+・・・φ
nδ
n (4)
式中、ΔFは、下記表1におけるΔFを表し、Δvは、下記表1におけるモル容積Δvを表す。φは、容積分率又はモル分率を表し、φ
1+φ
2+・・・φ
n=1である。
【0033】
例えば、溶剤としてのヘプタンのSP値は以下のように求める。
ヘプタンは、原子団として、−CH
3を2個、−CH
2−を5個有する。各々の原子団について表1よりΔF、Δv値を求める。
ΣΔF=205×2+132×5=1070
ΣΔv=31.8×2+16.5×5=146.1
従って、上記式(3)よりヘプタンのδ
hepは、以下のように求められる。
δ
hep=ΣΔF/ΣΔv=1070/146.1=7.32
【0034】
同様に下記式(i)の2官能フェノール樹脂は、原子団として、−CH
2−を3個、CH
2=を2個、−CH=を2個、−OH(Arom)を2個、−C
6H
3(Arom)を2個有する。各々の原子団について表1よりΔF、Δv値を求める。
ΣΔF=2594.0
ΣΔv=241
従って、上記式(3)より2官能フェノール樹脂のδ
phOHは、以下のように求められる。
δ
phOH=d*ΣΔF/ΣΔv=1.15*2594.0/241=12.4
ジヒドロキシジアリルジフェニルメタン(SP値12.9,粘度2,500mPa・s)
【化5】
【0035】
同様に、下記式(ii)のビスフェノールF型エポキシ樹脂は、SP値12.7,粘度1,300mPa・sである。
【化6】
【0036】
同様に、下記式(iii)ジアミノジメチルジフェニルメタンは、SP値11.8,粘度1,500mPa・sである。
【化7】
【0037】
なお、理科年表,第84冊,物54(410)より、シリコーンの熱伝導率は0.16W/mK、エポキシ樹脂(BisフェノールA)は0.21W/mKとなっている。
【0038】
(A)成分のポリオルガノシロキサンと(B)成分の特定の有機化合物を混合すると、SP値の差が2より大きければ両者は分離する。金属の表面は大気中の酸素の影響を受けて金属酸化物となっており、金属酸化物自身や金属窒化物の表面は大気中の酸素と水分の影響により、表面に水酸基もしくはアミノ基が存在する。この表面官能基によってSP値の高い芳香族含有有機化合物は、熱伝導性無機充填材と強い相互作用を持つようになる。このように、意図的にSP値が異なり、(A)成分よりもSP値の高い(B)成分の特定の有機化合物を、シリコーンのマトリックス中に浮かぶ熱伝導性無機充填材の島の間に、芳香族含有有機化合物によって橋かけを行うことにより、従来のシリコーン系熱伝導性放熱グリースには無かった放熱特性を示すようになった。また、芳香族含有有機化合物に熱硬化性を付与することにより、グリースがズレて変形した場合や、低温や高温環境でも熱伝導性無機充填材と、芳香族含有有機化合物との熱のパスが保持されるために、熱伝導特性が変化しないことが期待できる。
【0039】
[(C)成分、(D)成分]
(C)平均粒径が5μm以上100μm以下である熱伝導性無機充填材
(D)平均粒径が0.05μm以上5μm未満である熱伝導性無機充填材
(C)及び(D)成分は、本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物に熱伝導性を付与する充填材である。
【0040】
熱伝導性無機充填材(C)の平均粒径は5μm以上100μm以下であり、5μm以上20μm以下が好ましい。平均粒径が5μmより小さくても、100μmより大きくても、グリースが不均一になり高粘度となる。なお、本発明において、平均粒径は、レーザー回折法により測定した体積基準の累積平均径である。
【0041】
熱伝導性無機充填材(D)の平均粒径は0.05μm以上5μm未満であり、0.1μm以上1μm以下がより好ましい。平均粒径が0.05μmより小さくても、5μm以上でも、グリースが不均一になり高粘度となる。
【0042】
(C)及び(D)成分の熱伝導性無機充填材としては、それぞれ金属系粉末、金属酸化物系粉末、金属水酸化物粉末、金属窒化物粉末が挙げられ、具体的には、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、及び金属ケイ素から選ばれる1種又は2種以上の組み合せが好ましい。
【0043】
(A)及び(B)成分の混合物中において、(C)成分と(D)成分とは、異なるpH
pzcを有するものである。pH
pzc(point of zero charge)とは、物質の表面電荷が0になるpHをいう。pH
pzcよりも低いpHでは、物質表面はプラスに、高いpHでは物質表面はマイナスに荷電する。例えば、pH7の状態では酸化ケイ素(pH
pzc=2.6)はマイナスに帯電、酸化アルミニウム(pH
pzc=8.5)はほぼ中性、酸化亜鉛(pH
pzc=9.5)と酸化マグネシウム(pH
pzc=11.3)はプラスに帯電している。
【0044】
本発明のように、オルガノポリシロキサン(A)と芳香族含有有機物(B)の系において、プロトンが安定に存在し難いために、プロトン濃度は低くなり、結果としてpHは高い状態となる。仮に系中にpHが10に相当するプロトンしか存在しえない場合に、酸化亜鉛はプラス、酸化アルミニウムは電気的に中性からマイナスに、酸化マグネシウムはプラスの電荷を帯びるようになる。例えば、オルガノポリシロキサン中に塩基性の芳香族有機化合物(アニリン)等を配合することにより、効果的にpHを変化させることができる。
【0045】
一例として、熱伝導性無機充填材(C)として、酸化アルミニウムを選択し、熱伝導性無機充填材(D)として、酸化アルミニウムを選択した場合は、これらが同一電荷であることから、反発して熱的経路が形成しにくく熱伝導率の低下が予想される。熱伝導性無機充填材(C)として、酸化アルミニウムを選択し、熱伝導性無機充填材(D)として、酸化亜鉛を選択した場合は、異なる電荷をもつことから粒子間に引力が働いて、熱伝導率の向上が期待される。
【0046】
(C)成分と(D)成分の組み合わせは、pH
pzcが異なっていれば特に制限はないが、(C)成分としては、アルミニウム粉末又は酸化アルミニウム粉末が好ましく、(D)成分としては、酸化亜鉛粉末、酸化マグネシウム粉末又は酸化ケイ素粉末が好ましい。さらに、(C)成分としてアルミニウム粉末を選択した場合は、(D)成分は、酸化亜鉛粉末、酸化マグネシウム粉末が好ましく、酸化亜鉛粉末がより好ましい。また、(C)成分として酸化アルミニウム粉末を選択した場合は、(D)成分は、酸化マグネシウムが好ましい。
【0047】
オルガノポリシロキサン(A)を固定して、芳香族含有有機化合物(B)を変えた場合に、プロトン濃度の変化が予想される。一般的にフェノールは酸として働くために、プロトンリッチとなり、アミンは逆にプロトンが減少すると予想される。同一の熱伝導性無機充填材組成でも粒子間に働く引力・斥力が異なってくる。
【0048】
(C)及び(D)成分の配合量は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、(C)及び(D)成分の合計が200〜2,000質量部であり、700〜1,700質量部が好ましい。また、(C)成分と(D)成分の配合質量比は70/30〜90/10が好ましく、75/25〜85/15がより好ましい。
【0049】
[製造方法]
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を製造する場合には、(A)、(B)、(C)及び(D)成分と、その他成分を加えて、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(何れも井上製作所(株)製混合機の登録商標)、ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機を用いて混合する。必要であれば50〜170℃に加熱してもよい。
【0050】
本発明の熱伝導性シリコーングリース組成物を150℃、120分加熱させた場合の硬度は、アスカーCによる測定で5〜75が好ましく、10〜60が好ましい。このように、硬化(又は増粘)することにより、割れ・ズレの発生を防止できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0052】
〔オルガノポリシロキサン、芳香族含有有機化合物の粘度〕
ブルックフィールド型回転粘度計にて25±0.5℃、ロータNo.4、10rpmの回転数で測定を行った。
【0053】
〔グリース粘度〕
熱伝導性シリコーングリース組成物の粘度の測定は、株式会社マルコム製の型番PC−1TL(回転数10rpm)を用いて25℃で行った。
【0054】
〔熱伝導率〕
熱伝導率は、京都電子工業株式会社製のTPA−501を用いて、25℃において測定した。
【0055】
なお、表中の(A)〜(D)成分は下記の通りである。
[(A)成分]
A−1:オルガノポリシロキサン(SP値8.0,粘度30mPa・s)
【化8】
【0056】
[(B)成分]
B−1:ジヒドロキシジアリルジフェニルメタン(SP値12.9,粘度2,500mPa・s)
【化9】
【0057】
B−2:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(SP値12.7,粘度1,300mPa・s)
【化10】
【0058】
B−3:ジアミノジメチルジフェニルメタン(SP値11.8,粘度1,500mPa・s)
【化11】
【0059】
[(C)成分]:
C−1:アルミニウム粉末(平均粒径10μm)
pH
PZC:8.5、熱伝導率:236W/mK
C−2:酸化アルミニウム粉末(平均粒径10μm)
pH
PZC:8.5、熱伝導率:30W/mK
【0060】
(D)成分:
D−1:酸化アルミニウム粉末(平均粒径1.0μm)
pH
PZC:8.5、熱伝導率:30W/mK
D−2:酸化亜鉛粉末(平均粒径1.1μm)
pH
PZC:9.5、熱伝導率:25W/mK
D−3:酸化マグネシウム粉末(平均粒径0.9μm)
pH
PZC:11.3、熱伝導率:50W/mK
D−4:酸化ケイ素粉末(平均粒径1.0μm)
pH
PZC:2.6、熱伝導率:1.3W/mK
熱伝導性無機充填材((C)成分、(D)成分)の粒径は、日機装株式会社製の粒度分析計であるマイクロトラックMT3300EXにより測定した、体積基準の累積平均径である。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】