特許第6676892号(P6676892)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6676892
(24)【登録日】2020年3月17日
(45)【発行日】2020年4月8日
(54)【発明の名称】ダイレクト昇華捺染方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/30 20060101AFI20200330BHJP
   D06P 5/20 20060101ALI20200330BHJP
   D06P 3/54 20060101ALI20200330BHJP
   D06P 3/87 20060101ALI20200330BHJP
【FI】
   D06P5/30
   D06P5/20 C
   D06P3/54 Z
   D06P3/87 C
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-139693(P2015-139693)
(22)【出願日】2015年7月13日
(65)【公開番号】特開2017-20139(P2017-20139A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】飯島 裕隆
【審査官】 西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−035181(JP,A)
【文献】 特開2011−174007(JP,A)
【文献】 特開平09−111673(JP,A)
【文献】 特開平07−026477(JP,A)
【文献】 特開昭61−006366(JP,A)
【文献】 特開2009−057416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P
C09D
B41M
B41J
D06M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇華性染料、分散剤および水を含有する複数種のインクの液滴を、インクジェット用の記録ヘッドからそれぞれ吐出して、布帛の、ポリエステル繊維を含む画像形成部位に、それぞれ着弾させる工程と、
前記複数種のインクの液滴が着弾した前記布帛の画像形成部位を、前記複数種のインクが含有する前記昇華性染料のいずれもが昇華する温度に加熱する工程とを含む、ダイレクト昇華捺染方法において、
前記インクは、イエローインク、マゼンタインク、シアンインクおよびブラックインクからなる群から選択される1または複数のプロセスカラーインク、ならびに特色インクを含み、
前記着弾させる工程において、前記画像形成部位における前記布帛の質量(g)あたりの前記複数のインクのそれぞれのインクの最大着弾量(ml)は、0.100ml/g以下であり、
前記プロセスカラーインクの液滴の少なくとも一部と前記特色インクの液滴の少なくとも一部とは、前記画像形成部位内の同じ領域に着弾し、
前記画像形成部位の、アイロンの温度を140℃としてJIS L 1057に記載の乾熱アイロン法に基づいて求めた収縮率は、5.0%以上であり、
前記画像形成部位は、糊剤を実質的に含まないことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記特色インクは、レッドインク、オレンジインク、グリーンインク、ブルーインク、ピンクインクおよびバイオレットインクからなる群から選択される1または複数のインクであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加熱する工程において、加熱する時間は、15秒以上180秒以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記画像形成部位は、ポリウレタン繊維またはポリ乳酸繊維をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイレクト昇華捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式による布帛の捺染(以下、単に「インクジェット捺染」ともいう。)において、一定温度以上で昇華する染料(以下、単に「昇華性染料」ともいう。)を用いて捺染を行う方法(以下、単に「昇華捺染法」ともいう。)が知られている(特許文献1など)。昇華捺染法では、昇華性染料を昇華させて繊維間に拡散および定着させることにより、捺染された布帛における染料の発色性を高めることができる。
【0003】
昇華捺染法として、従来より、インクジェット用の記録ヘッド(以下、単に「記録ヘッド」ともいう。)から昇華性染料を含有するインクを吐出して、転写紙などの中間転写媒体に着弾させ、中間転写媒体に着弾したインク中の昇華性染料を昇華させてポリエステルの布帛に拡散および定着させる方法が知られていた。しかしながら、中間転写媒体は使用後破棄されるため、資源保護の面から改善が求められていた。最近になり、中間転写媒体を用いずに、昇華性染料を含有するインクを布帛に直接着弾させ、布帛を加熱して昇華性染料を繊維間に拡散および定着させる、ダイレクト昇華捺染法が開発された。この方法は、資源保護の面からは大変有用な方法であるのみならず、布帛にインクを直接着弾させるため、ニットのような凹凸のある布帛にも染色できること、インクの厚さ方向の浸透により布帛裏面にも染色できる、などの利点がある。
【0004】
しかしながら、ダイレクト昇華捺染法では、繊維に直接インクを着弾させるため、インクが滲んで境界ではっきりしなくなる、いわゆる滲みの問題が生じてしまう。これを防止するために、糊剤を呼ばれる高分子を繊維中に前もって塗っておく前処理を施す方法が一般的ではあるが、後でこの高分子を除く還元洗浄等の洗濯が必要になっていた。
【0005】
また、インクジェット捺染転写で滲みを抑制する方法として、イエロー、マゼンタおよびシアンの各色のインクの他に、これらのインクが含有する染料とは異なる特色インクを用いる技術が知られている(特許文献2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−57416号公報
【特許文献2】特開平5−209378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ダイレクト昇華捺染法では、前述のとおり、糊剤による前処理を施して画像を形成していた。そのため、ダイレクト昇華捺染法では、糊剤を除去するための洗濯工程が必要とされていた。この洗濯工程は、環境に悪影響を及ぼすとされており、糊剤を使用しない捺染方法が望まれていた。
【0008】
また、昇華捺染法では、染料の昇華に時間がかかる。そのため、熱に弱い布帛では、染料の昇華中に布帛の強度が低下するなどのデメリットがあり、布帛の強度が低下しにくい捺染方法が望まれていた。
【0009】
特許文献2に記載の方法は、反応染料または酸性染料を用いる捺染方法である。これらの捺染方法では、糊剤を使用しないため洗濯工程がそもそも不要であり、また、ダイレクト昇華捺染法のように布帛を加熱する必要はない。そのため、当業者には、特許文献2に記載の方法をダイレクト昇華捺染に適用する動機付けはなかったし、たとえ特許文献2に記載の方法をダイレクト昇華捺染に適用しても、十分な染色が可能かは定かではなかった。
【0010】
前記の事情に鑑みて、本発明は、糊剤をもちいずに画像の滲みを抑制し、かつ、布帛の引張強度の低下を従来よりも抑制することも可能とする、ダイレクト昇華捺染方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み、本発明は、以下に示すダイレクト昇華捺染方法に関する。
[1]昇華性染料、分散剤および水を含有する複数種のインクの液滴を、インクジェット用の記録ヘッドからそれぞれ吐出して、布帛の、ポリエステル繊維を含む画像形成部位に、それぞれ着弾させる工程と、
前記複数種のインクの液滴が着弾した前記布帛の画像形成部位を、前記複数種のインクが含有する前記昇華性染料のいずれもが昇華する温度に加熱する工程とを含む、ダイレクト昇華捺染方法において、
前記インクは、イエローインク、マゼンタインク、シアンインクおよびブラックインクからなる群から選択される1または複数のプロセスカラーインク、ならびに特色インクを含み、
前記プロセスカラーインクの液滴の少なくとも一部と前記特色インクの液滴の少なくとも一部とは、前記画像形成部位内の同じ領域に着弾し、
前記画像形成部位は、糊剤を実質的に含まないことを特徴とする、方法。
[2]前記特色インクは、レッドインク、オレンジインク、グリーンインク、ブルーインク、ピンクインクおよびバイオレットインクからなる群から選択される1または複数のインクであることを特徴とする、[1]に記載の方法。
[3]前記着弾させる工程において、前記画像形成部位における前記布帛の質量(g)あたりの前記複数のインクのそれぞれのインクの最大着弾量(ml)は、0.033ml/g以上0.100ml/g以下である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記加熱する工程において、加熱する時間は、15秒以上180秒以下であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]前記画像形成部位の、アイロンの温度を140℃としてJIS L 1057に記載の乾熱アイロン法に基づいて求めた収縮率は、5.0%以上であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]前記画像形成部位は、ポリウレタン繊維またはポリ乳酸繊維をさらに含むことを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、画像の滲みおよび布帛の引張強度の低下を従来よりも抑制することを可能とする、ダイレクト昇華捺染方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のダイレクト昇華捺染方法(以下、単に「本発明の捺染方法」ともいう。)によれば、昇華性染料、分散剤および水を含有する複数種のインクを用いて、布帛の、画像を形成しようとする領域(以下、単に「画像形成部位」ともいう。)に、ダイレクト昇華捺染法により画像が形成される。本発明の捺染方法において、前記複数種のインクは、プロセスカラーインク(イエローインク、マゼンタインク、シアンインクまたはブラックインク)、ならびに特色インクを含む。前記プロセスカラーインクの液滴の少なくとも一部と前記特色インクの液滴の少なくとも一部とは、前記画像形成部位内の同じ領域に着弾する。本発明の捺染方法において、前記画像形成部位は、ポリエステル繊維を含み、前記布帛の少なくとも前記画像形成部位には、前処理がなされていない。なお、特色インクとは、布帛を捺染したときにイエロー、マゼンタ、シアンまたはブラック以外の色調を呈するインクを意味する。
【0014】
本発明者らの新たな知見によると、プロセスカラーインクに加えて特色インクを用いて捺染を行うことで、ダイレクト昇華捺染法においても、捺染した画像の滲みを少なくすることができ、かつ、布帛の引張強度を低下しにくくすることができる。これは、以下の理由によるものと考えられる。
【0015】
画像の滲みは、着弾したインクが形成すべき画像の端部から滲み出すことで、画像の端部を超えて昇華性染料も拡散および定着するために生じると考えられる。ダイレクト昇華捺染法は、中間転写媒体を用いずに布帛にインクを直接着弾させるため、画像形成領域に着弾するインクの量も多くなり、通常の昇華捺染法よりも画像の滲みが生じやすい。
【0016】
布帛の引張強度は、布帛を加熱することにより、繊維が熱により劣化して生じると考えられる。昇華捺染法では、布帛を通常の捺染法よりも高い温度に加熱するため、繊維が熱により劣化して、布帛の引張強度が低下しやすい。特に、ダイレクト昇華捺染では、画像形成領域に着弾するインクの量が多くなるため、昇華性染料を昇華させて拡散および定着させるために必要な加熱の時間がより長くなり、布帛の引張強度がより低下しやすい。
【0017】
これらの現象に対し、特色インクを用いて捺染を行うことで、プロセスカラーインクのみを用いて捺染を行うときよりも、画像形成部位に着弾するインクの液量を少なくすることができる。そのため、形成すべき画像の端部から滲み出すインクの量も少なくなり、画像の滲みが抑制される。また、昇華性染料を昇華させて拡散および定着させるために必要な加熱時間も少なくすることができるため、引張強度の低下も抑制することができる。
【0018】
本発明の捺染方法は、具体的には、前記複数種のインクの液滴を、記録ヘッドからそれぞれ吐出して、布帛の前記画像形成部位にそれぞれ着弾させる工程(以下、単に「着弾工程」ともいう。)と、前記複数種のインクの液滴が着弾した前記画像形成部位を、前記複数種のインクが含有する昇華性染料のいずれもが昇華する温度に加熱する工程(以下、単に「加熱工程」ともいう。)と、を含む。本発明の捺染方法は、任意に、加熱工程の後に布帛を洗浄する工程(以下、単に「洗浄工程」ともいう。)、およびさらに任意に、洗浄工程の後に布帛を乾燥させる工程(以下、単に「乾燥工程」ともいう。)を含んでもよい。なお、本発明の捺染方法は、糊剤を使用しないため、糊剤を除去するための洗濯工程は含まない。
【0019】
1.着弾工程
着弾工程では、複数種のインクの液滴が、それぞれ、記録ヘッドから布帛に向けて吐出される。吐出された液滴は、布帛の画像形成部位に着弾して、発色前の画像を形成する。たとえば、記録ヘッドを搭載するヘッドキャリッジに対して布帛を相対移動させながら、前記複数種のインクの液滴を記録ヘッドから吐出して、画像形成部位に液滴を着弾させることで、発色前の画像を形成することができる。複数種のインクの液滴は、互いに時間をずらして吐出されても、同時に吐出されてもよい。
【0020】
前記複数種のインクは、プロセスカラーインクおよび特色インクを含む。プロセスカラーインクとしては、イエローインク、マゼンタインク、シアンインクまたはブラックインクを用いることができる。特色インクとしては、たとえば、レッドインク、オレンジインク、グリーンインク、ブルーインク、ピンクインクまたはバイオレットインクを用いることができる。特色インクとして、1色のインクのみを用いてもよいし、互いに異なる色を呈する2以上のインクを用いてもよい。
【0021】
前記プロセスカラーインクの液滴の少なくとも一部と前記特色インクの液滴の少なくとも一部とは、前記画像形成部位内の同じ領域に着弾する。これにより、形成すべき画像のうち一部の領域を形成する色彩が、プロセスカラーインクが含有する染料と特色インクが含有する染料との組み合わせにより発色される。
【0022】
発色前画像の滲みを抑制する観点から、着弾工程を行うとき、必要に応じて布帛を加熱してもよい。
【0023】
本発明の捺染方法によれば、画像形成部位に着弾するインクの液滴の量を少なくすることができる。画像を十分に発色させ、かつ、インクの量を少なくして上記滲みの発生および引張強度の低下を十分に抑制する観点からは、画像形成部位における布帛の質量(g)あたりの前記複数種のインクを構成するそれぞれのインクの最大着弾量(ml)は、0.033ml/g以上0.100ml/g以下であることが好ましい。前記最大着弾量を0.033ml/g以上にすることで、より十分に発色した画像を得ることができる。前記最大着弾量を0.100ml/g以下とすることで、布帛の密度に対してインクの着弾量がより少なくなるため、画像に滲みがより発生しにくくなり、かつ、引張強度もより低下しにくくなる。上記観点からは、前記最大着弾量は0.040ml/g以上0.090ml/g以下であることがより好ましい。
【0024】
着弾工程では、インクの液滴が画像形成部位に直接着弾するため、本発明の捺染方法は、中間転写媒体への画像形成および中間転写媒体から画像形成部位への画像の転写が不要である。そのため、本発明の捺染方法は、従来の昇華捺染法よりも簡易かつ安価に捺染を行うことができる。
【0025】
1−1.インク
上記複数種のインクは、いずれも、昇華性染料、分散剤および水を含有するインクである。このインクは、ダイレクト昇華捺染法用のインクジェット捺染用水系インクとして用いることができる。
【0026】
1−1−1.昇華性染料
昇華性染料は、加熱されることにより昇華し、布帛を構成する繊維間に拡散および定着できる染料であればよい。昇華性染料は、水に不溶または難溶だが、分散剤を用いて水に分散させることができる分散染料であることが好ましい。昇華性染料は、加熱されることにより昇華する限りにおいて、アゾイック染料、またはカチオン染料であってもよい。昇華性染料は、インク中に1種のみが含まれていてもよく、2種以上が組み合わされて含まれていてもよい。
【0027】
分散染料である昇華性染料の例には、C.I.Disperse Yellow(以下、単に「DY」ともいう。)1、DY3、DY4、DY5、DY7、DY8、DY31、DY33、DY39、DY42、DY54、DY60、DY61、DY64、DY83およびDY124を含むイエロー染料、C.I.DisperseRed(以下、単に「DR」ともいう。)1、DR4、DR5、DR7、DR11、DR12、DR13、DR15、DR17、DR31、DR32、DR33、DR34、DR35、DR36、DR52、DR54、DR55、DR56、DR58、DR60、DR72、DR73、DR76、DR80、DR84、DR88、DR91、DR92、DR93、DR99、DR111、DR113、DR135、DR204、DR205、DR206、DR207、DR224、DR225、DR227、DR239およびDR240を含むマゼンタ染料、;C.I.DisperseBlue(以下、単に「DB」ともいう。)20、DB26、DB54、DB55、DB56、DB58、DB60、DB61、DB62、DB64、DB72、DB79、DB81、DB85、DB87、DB90、DB91、DB92、DB94、DB97、DB98、DB99、DB103、DB104、DB105、DB106、DB108、DB128、DB148、DB149、DB176、DB186、DB187、DB193、DB194、DB195、DB197、DB201、DB205、DB207、DB211、DB212、DB213、DB214、DB215、DB216、DB217、DB218、DB219、DB220、DB221、DB222、DB223、DB224、DB225、DB226およびDB227を含むシアン染料、C.I.DisperseOrange(以下、単に「DO」ともいう。)25を含むオレンジ染料、C.I.DisperseGreen(以下、単に「DG」ともいう。)9を含むグリーン染料、ならびにがC.I.DisperseViolet(以下、単に「DV」ともいう。)60を含むバイオレット染料含まれる。
【0028】
これらの昇華性染料の組みあわせおよび量を調整することで、所望の色調を呈するプロセスカラーインクおよび各種特色インクを調製することができる。
【0029】
たとえば、昇華性染料の組みあわせおよび量を調整することで、特色インクは、レッドインク、オレンジインク、グリーンインク、ブルーインク、ピンクインクまたはバイオレットインクとすることができる。
【0030】
発色をより良好にする観点から、昇華性染料の含有量は、インクの全質量に対して0.2質量%以上12質量%以下であることが好ましい。本発明のインクにより呈色される色調をより明瞭にする観点からは、色材の含有量は、インクの全質量に対して0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
【0031】
1−1−2.分散剤
分散剤は、昇華性染料の分散性を高めて、インク中での気泡の発生、インクのゲル化およびインクの粘度の上昇を抑制できるものであればよい。
【0032】
分散剤の例には、クレオソート油スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸ナトリウムと2−ナフトール−6−スルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、フェノールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、β−ナフトールスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、β−ナフタリンスルホン酸ナトリウムおよびβ−ナフトールスルホン酸ナトリウムを含むホルマリン縮合物、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドを含むアルキレンオキシド、脂肪アルコール、脂肪アミン、脂肪酸、フェノール類、アルキルフェノールおよびカルボン酸アミンを含むアルキル化可能な化合物、リグニンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンと無水マレイン酸の共重合物、ならびに公知のくし型ブロックポリマーが含まれる。
【0033】
くし型ブロックポリマーの例には、DISPERBYK−190、DISPERBYK−194N、DISPERBYK−2010、DISPERBYK−2015、およびBYK−154、ビックケミー社(「DISPERBYK」および「BYK」は同社の登録商標)が含まれる。
【0034】
記録ヘッドからの高い吐出安定性を確保し、かつ、捺染後の昇華性染料の昇華による画像の退色をより生じにくくする観点からは、分散剤は、疎水性部位と親水性部位を併せもち、かつ、親水性部位として、エチレンオキサイド基またはプロピレンオキサイド基を、分子内に合計で5個以上20個含むことが好ましい。上記観点からは、エチレンオキサイド基またはプロピレンオキサイド基の数は、8個以上16個以下であることがより好ましい。上記親水性部位の例には、置換されてもよいアルキル基、アルキレン基、アリレン基、アシル基、アミノ基およびアリール基が含まれる。このような分散剤の例には、DISPERBYK−183、DISPERBYK−187およびDISPERBYK−192、ビックケミー社、ならびにSOLSPERSE41000、日本ルーブリゾール株式会社が含まれる。
【0035】
分散剤の量は、昇華性染料の全質量を100質量部としたときに、30質量部以上70質量部以下とすることができる。前記分散剤の量を30質量部以上とすることで、昇華性染料の分散性をより高め、インクの保存安定性を高めることができる。前記分散剤の量を70質量部以下とすることで、分散剤によるインクの粘度の過度な上昇を抑制し、インクの射出安定性を高めることができる。
【0036】
1−1−3.その他の成分
インクは、画像の滲みを拡大させず、かつ布帛の引張強度を低下させない範囲において、上記以外に、有機溶剤、界面活性剤、防腐剤、防かび剤、または昇華性染料以外の染料を含んでいてもよい。
【0037】
上記水溶性有機溶剤の例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノールおよびt−ブタノールを含むアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、式(1)で表される化合物その他のグリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオールおよび1,2−ヘプタンジオールを含む多価アルコール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミンおよびテトラメチルプロピレンジアミンを含むアミン、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN,N−ジメチルアセトアミドを含むアミド、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドンおよび1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンを含む複素環化合物、ジメチルスルホキシドを含むスルホキシド、ならびにジエチレングリコールのアルキルエーテル、トリエチレングリコールのアルキルエーテルおよびジプロピレングリコールのアルキルエーテルを含むグリコールエーテルが含まれる。
【0038】
【化1】
【0039】
式(1)中、R11は独立してエチレングリコール基またはプロピレングリコール基を表し、x、yおよびzは独立して正の整数を表し、x+y+z=3〜30である。
【0040】
上記水溶性有機溶剤の量は、インクの全質量に対して20質量%以上70質量%未満とすることができる。水溶性有機溶剤の量をインクの全質量に対して20質量%以上とすることで、インク中での昇華性染料の分散性がより高まり、かつ射出性がより高まる。水溶性有機溶剤の量をインクの全質量に対して70質量%未満とすることで、水溶性有機溶媒を含有させても本発明のインクの乾燥性が良好となる。
【0041】
上記界面活性剤の例には、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン性界面活性剤が含まれる。
【0042】
上記陽イオン性界面活性剤の例には、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩およびイミダゾリニウム塩が含まれる。
【0043】
上記陰イオン性界面活性剤の例には、脂肪酸石鹸、N−アシル−N−メチルグリシン塩、N−アシル−N−メチル−β−アラニン塩、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホ琥珀酸エステル塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、第2級高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸塩、第2級高級アルコールエトキシサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリサルフェート、脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩およびアルキルリン酸エステル塩が含まれる。
【0044】
上記両性界面活性剤の例には、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩およびイミダゾリニウムベタインが含まれる。
【0045】
上記非イオン性界面活性剤の例には、シリコーン系の界面活性剤およびフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0046】
上記防腐剤または防かび剤の例には、芳香族ハロゲン化合物、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(たとえばプロキセルGXL(アーチ ケミカル社製、プロキセルは同社の登録商標))が含まれる。
【0047】
1−1−4.インクの物性
インクの射出性をより高める観点から、インクの25℃における粘度は、1mPa・s以上40mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以上40mPa・s以下であることがより好ましく、5mPa・s以上20mPa・s以下であることがさらに好ましい。インクの粘度は、E型粘度計(たとえば、V−25、東機産業株式会社製)により、25℃、20rpmで測定することができる。
【0048】
インクの25℃における表面張力は、25mN/m以上50mN/m以下であることが好ましい。表面張力が25mN/m以上であると、画像の滲みがより生じにくい。表面張力が50mN/m以下であると、本発明のインクがより布帛により浸透しやすい。インクの表面張力は、たとえば、CBVP−Z、協和界面科学株式会社製により測定することができる。
【0049】
1−2.布帛
布帛は、少なくとも画像形成部位がポリエステル繊維を含むものであればよい。画像形成部位は、ポリエステル繊維のみから形成されてもよく、ポリエステル繊維と他の繊維とが混合されて形成されてもよい。ポリエステル繊維と他の繊維とが混合されて形成された布帛の例には、ポリウレタン混繊維を1重量%以上混繊したポリエステル、およびポリ乳酸繊維を1重量%以上混繊したポリエステルが含まれる。
【0050】
従来のダイレクト昇華捺染法では、JIS L 1057に記載の乾熱アイロン法(アイロン温度は140℃とする)に基づいて求めた収縮率が5.0%以上である布帛は、熱による収縮が生じるため、ダイレクト昇華捺染法による捺染には適さなかった。しかし、本発明の方法によれば、上記画像形成部位の上記収縮率が5.0%以上、好ましくは6.0%以上、より好ましくは7.0%以上である布帛でも、収縮の問題が生じることなく、ダイレクト昇華捺染法により捺染することができる。
【0051】
なお、上記JIS L 1057に記載の乾熱アイロン法に基づいて求めた収縮率とは、アイロン温度を140℃として、2.9kPaの圧力をかけながら、布帛上の、アイロン掛面よりも150mm長い距離を、速度100mm/sで3往復させたときの、布帛の収縮率を意味する。
【0052】
昇華性染料をより繊維間に拡散および定着させやすくする観点から、画像形成部位は、糊剤を実質的に含まない。糊剤とは、インクジェット捺染において、前処理剤としてインクの着弾前に布帛に付与される成分を意味する。糊剤の例には、天然水溶性高分子および合成水溶性高分子が含まれる。天然水溶性高分子の例には、トウモロコシおよび小麦を含むデンプン類、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースおよびヒドロキシエチセルロースを含むセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガムおよびアラビアゴムを含む多糖類、ならびにゼラチン、カゼインおよびケラチンを含む蛋白質物質が含まれる。合成水溶性高分子の例には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびアクリル酸系ポリマーが含まれる。
【0053】
糊剤を実質的に含まないとは、画像形成部位に前処理を行わないことを意味する。前処理を行わない限りにおいて、画像形成部位には、たとえば布帛の重量に対して0.1質量%以下の、不可避的に付着する前記天然水溶性高分子または合成水溶性高分子が含まれていてもよい。
【0054】
本発明の捺染方法によれば、前処理を行わなくても画像の滲みを抑制することができるため、前処理工程が不要である。また、本発明の捺染方法によれば、画像形成部位が糊剤を実質的に含まないため、加熱後に糊剤を除去するための洗濯工程が不要である。そのため、本発明の捺染方法は、従来のインクジェット捺染方法よりも簡易かつ安価に捺染を行うことができる。
【0055】
2.加熱工程
加熱工程では、前記発色前の画像が形成された布帛の前記画像形成部位が、前記複数種のインクが含有する昇華性染料のいずれもが昇華する温度に加熱される。具体的には、前記複数種のインクが含有する昇華性染料のうち、最も昇華温度が高い昇華性染料の昇華温度よりも高い温度に、画像形成部位が加熱される。画像形成部位が加熱されると、昇華性染料は、昇華して繊維間に拡散および定着し、画像が形成される。
【0056】
昇華性染料の多くは、145〜230℃に昇華温度を有する。昇華性染料を十分に昇華させ、かつ、熱による布帛の劣化をより抑制する観点から、布帛は、150℃以上220℃以下に加熱されることが好ましく、180℃以上210℃以下に加熱されることがより好ましい。加熱時間は、昇華性染料が十分に拡散および定着する観点から定めることができ、たとえば、10秒以上300秒以下とすることができる。好ましくは、15秒以上180秒以下である。
【0057】
加熱の方法は、布帛の温度を上記温度とすることができる方法から適宜選択することができる。このような方法の例には、ヒーターによる加熱、および赤外線による加熱が含まれる。昇華性染料をより十分に昇華させる観点からは、蒸気を用いずに布帛を加熱することが好ましい。また、昇華性染料をより十分に昇華させる観点からは、加熱と同時に布帛に圧力を付与してもよい。
【0058】
3.洗浄工程
洗浄工程は、前記発色工程後に布帛を洗浄して、布帛の繊維に定着できなかった染料を除去する工程である。本工程は、前記染料を除去することができればよく、水で前記布帛を洗浄してもよいし、ソーピング液で前記布帛を洗浄してもよい。ソーピング液の例には、苛性ソーダ、界面活性剤およびハイドロサルファイトの混合液が含まれる。
【0059】
4.乾燥工程
乾燥工程は、前記洗浄された布帛を乾燥させる工程である。乾燥方法の例には、洗浄された布帛を絞るかまたは干すことによる非機械的乾燥、および乾燥機(ヒートロールまたはアイロン)による機械的乾燥が含まれる。
【実施例】
【0060】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、これらの記載によって本発明の範囲は限定して解釈されない。なお、以下の実施例においては、インクの調製に用いた各成分の略称を括弧内に示している。
【0061】
[インクの調製]
表1に記載の成分を表1に記載の量ずつ混合して、0.03mmのビーズとともにペイントシェーカーで分散し、インクY、M、C、K、R、O、G、B、PおよびVを調製した。各成分の合計が100質量%となるよう、イオン交換水の量を調整した。表1中、各成分の数値は、インク中の各成分の量(単位は質量%)を表す。
【0062】
インクY、M、C、K、R、O、G、B、PおよびVは、それぞれ、イエローインク、マゼンタインク、シアンインク、ブラックインク、レッドインク、オレンジインク、グリーンインク、ブルーインク、ピンクインクおよびバイオレットインクである。
【0063】
【表1】
【0064】
上記インクをインクジェット用ヘッド(コニカミノルタヘッド #204)に入れて、周波数18kHz、で PE/PU混合繊維(PUの割合:5質量%)からなる布帛上に、前記調製したインクの全色を、各色のインクごとの最大吐出量を9ml/mとして吐出し、高精細カラーディジタル標準画像(XYZ/SCID)「N3・果物かご」(財団法人、日本企画協会、1995年発行)を形成した。記録した布帛が乾燥した後、布帛を205℃に60秒間加熱して、試料101を作製した。
【0065】
画像の記録に用いるインクの組みあわせ、各色のインクごとの最大吐出量、布帛の種類、加熱温度および加熱時間を、表2に記載のように変更した以外は同様にして、試料102〜試料107、試料201〜試料206および試料301〜試料304を作製した。表2の「布帛種」の欄について、「PE」は画像形成部位がポリエステル繊維を含むことを示し、「PU」は画像形成部位がポリウレタン繊維を含むことを示し、「PL」は画像形成部位がポリ乳酸繊維を含むことを示し、括弧内の数値は、ポリエステル繊維以外の繊維の含有量(単位は質量%)を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
[滲みの評価]
それぞれの試料を目視で確認して、以下の基準にしたがい、滲みを評価した。
◎ 滲みが認められない
○ 滲みが認められるが気にならない
△ 滲みが少し認められる
× 滲みが多く認められる
【0068】
[引張強度の低下率の評価]
ダイレクト昇華捺染前の表2に記載の各布帛について、JIS 1068に記載の方法で布帛の引張試験を行い、布帛の引張強度(以下、単に「染色前強度」ともいう。)を求めた。ダイレクト昇華捺染後の表2に記載の各試料についても、同様にJIS 1068に記載の方法で布帛の引張試験を行い、布帛の引張強度(以下、単に「染色後強度」ともいう。)を求めた。
【0069】
以下の式にしたがい、引張強度の低下率(以下、単に「低下率」ともいう。)を算出した。
低下率 = 100−(染色後強度/染色前強度)×100
以下の基準にしたがい、引張強度の低下率を評価した。
○ :95%以上
△ :85%〜95%
× :85%未満
【0070】
[染色濃度の測定]
それぞれの試料の最大吸光度を、色差計(X−Rite社製)で測定した。
【0071】
各試料の評価または測定結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
特色インクを用いずに画像を形成すると、1色あたりのインク吐出量が多くなるため、滲みが多く発生した(試料101、102および104と試料103との比較、ならびに試料105および107と試料106との比較による。)。特色インクの種類を2色からそれ以上に増やすことで、滲みはより発生しにくくなった(試料101および102と試料104との比較、ならびに試料105と試料107との比較による。)。
【0074】
各色のインクごとの最大吐出量を布帛の重量の0.033以上0.100以下にすることで、十分な染色濃度の画像が得られ、かつ、滲みがより抑制され、引張強度も低下しにくかった(試料202〜205と試料201および206との比較による。)。
【0075】
布帛の質量(g)あたりのそれぞれのインクの最大着弾量(ml)を0.033ml/g以上0.100ml/g以下にすることで、画像を十分に発色させ、かつ、滲みの発生および引張強度の低下を十分に抑制することができた(試料202〜205と試料201および206との比較による。)。
【0076】
140℃のアイロンによる収縮率が5.0%以上である布帛は、本発明の方法では、引張強度の低下が抑制されたが、従来のダイレクト昇華捺染方法で画像を形成すると、引張強度が大きく低下した(試料101、102および104と試料103との比較による。)。
【0077】
ポリウレタン繊維またはポリ乳酸繊維をさらに含む布帛に画像を形成すると、本発明の方法では、引張強度の低下が抑制されたが、従来のダイレクト昇華捺染方法で画像を形成すると、引張強度が大きく低下した(試料101、102および104と試料103との比較による。)。
【0078】
これらの実施例において、糊剤は使用しなかった。洗濯工程なしで、ダイレクト昇華捺染法による布帛の捺染が可能だった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の捺染方法によれば、ダイレクト昇華捺染法においても、画像の滲みおよび布帛の引張強度の低下が抑制される。よって、本発明は、ダイレクト昇華捺染法の発展に寄与することが期待される。