(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インク受容層塗料Aとインク受容層塗料Bとを、固形分の質量比で、20/80〜80/20(インク受容層塗料A/インク受容層塗料B)の割合で混合して混合塗料を調製する、請求項1または2のいずれかに記載の昇華型インクジェット捺染転写紙の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されている。
【0014】
本発明に用いられる基材は、昇華型捺染インク受容層を設けることができる基材で、熱転写時の加熱で過度の熱収縮を起こさない限り、その材料に特に限定はない。例えば、木材パルプを主成分とする紙や、無機微粒子を含有する熱可塑性樹脂からなる多孔性樹脂フィルムのほか、不織布、布帛、樹脂被覆紙、合成紙等が挙げられる。
【0015】
本発明の効果が顕著に現れる基材は、昇華型インクジェット捺染転写紙の裏面への加熱により、昇華型捺染インクが昇華し易い多孔質の材料である。具体的には、木材パルプを主成分とする紙、不織布、布帛等である。
【0016】
基材として、木材パルプを主成分とする紙を使用することが好ましく、クラフト紙を使用することが特に好ましい。クラフト紙は、寸法安定性に優れており、フィルムと異なり、リサイクルが可能であり、昇華型捺染インクの吸収・乾燥性に優れるという特徴を有する。
【0017】
本発明において、好適に用いられる基材としてクラフト紙を例に挙げ、以下に説明する。本発明に好適に用いられるクラフト紙は、JIS P 3401にも規定されるように、従来包装紙としての品質を満足するものや、クラフト紙の範疇にある、ヤンキードライヤーにて乾燥処理された片艶紙(ヤンキー紙)は、寸法安定性に優れているので、優れた画像再現性を達成することができる。
【0018】
本発明に用いられる基材は、その坪量が50〜140g/m
2であることが好ましく、55〜110g/m
2であることがより好ましい。坪量が50g/m
2未満であると、現在のインクジェットプリンタの場合、その性能から、通常のインク量ではクラフト紙へのインクの染み込みによるコックリング(波打ち)が発生するとともに、転写加熱時に逆にクラフト紙の縮みが発生し、被転写物である布帛との密着性が低くなり、転写画像の質が低下する傾向がある。また、引張強度及び引裂強度の低下により、紙切れが起き易くなる。坪量が140g/m
2を超えると、昇華型捺染インクの加熱転写時に被転写物への熱伝達が悪くなり、転写効率が低下する傾向がある。
【0019】
また基材における混合塗料の塗工面は、JIS P 8119に準拠したベック平滑度が30〜400秒であることが好ましく、50〜300秒であることがより好ましい。ベック平滑度が30秒未満であると、昇華型捺染インク受容層が基材に浸透した部分と浸透していない部分との差異が出易くなって塗工欠陥が発生し易くなる傾向がある。また、印刷時の昇華型捺染インクの吸収・乾燥性は高くなるももの、画像再現性が低下したり、被転写物への昇華型捺染インクの転写時の画像再現性及び転写効率が低下する傾向がある。特に片艶紙は、ヤンキードライヤーにて乾燥処理された裏面側(抄紙機のワイヤー側)の平滑度が高いので、塗工欠陥の発生リスクが少なく、昇華型捺染インクでの優れた画像再現性及び裏抜け防止性を有するとともに、被転写物への転写捺染の際に、画像の再現性、転写画像の解像性、転写画像の濃度レベル、これらの均一性等の被転写物への転写効率に優れる。それとともに、基材の表面側の平坦化処理がなされていないので、加熱ドライヤーに密着させて昇華型捺染インクを加熱転写する際に、昇華型捺染インクの熱昇華性を向上させる効果を有する。しかしながら、ベック平滑度が400秒を超えると、昇華型捺染インク受容層と基材との密着性が低下してインク受容層の薄い部分が塗工欠陥を誘発し易くなる傾向がある。また、昇華型捺染インク受容層の形成にムラが生じ、画像再現性が低下する傾向がある。
【0020】
本発明に用いることができるクラフト紙は、いわゆる製紙分野で使用される原料より構成される。使用するパルプには特に限定がないが、例えば、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)や針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)や広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)等の機械パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェストパルプ(WP)等の化学パルプや機械パルプを含む古紙パルプ等が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択して用いることができる。これらのうち、広葉樹クラフトパルプを、さらには広葉樹晒クラフトパルプ及び針葉樹晒クラフトパルプを適宜組合せて用いることが、紙質強度、基材表面の平坦性、昇華型捺染インクの昇華型インクジェット捺染転写紙における印字画像の品質確認の点で好ましい。
【0021】
本発明に用いる基材には、酸化澱粉、アセチル化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉等の各種澱粉や、紙力増強剤、アルキルケテンダイマー等の内添サイズ剤、外添サイズ剤、歩留向上剤等の添加薬品や、さらに調整可能な範囲で、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の填料を配合することができる。
【0022】
本発明に用いられる基材は、JIS P 8140に準拠した10秒コッブ吸水度が5〜20g/m
2であり、好ましくは10〜16g/m
2である。10秒コッブ吸水度が5g/m
2未満であると、昇華型捺染インク受容層と基材との密着性が悪くなり、部分的にインク受容層の薄い部分が発生し、インク受容層の連続被膜を保てない塗工欠陥を誘発する。10秒コッブ吸水度が20g/m
2を超えると、昇華型捺染インク受容層が基材に浸透し易くなり、部分的に深く浸透した箇所はインク受容層の連続被膜を保てない塗工欠陥を誘発する。
【0023】
昇華型捺染インク受容層は、少なくとも水溶性樹脂A及び微細粒子Aを含有したインク受容層塗料Aと、少なくとも水溶性樹脂B及び微細粒子Bを含有したインク受容層塗料Bとの混合塗料からなり、基材上に形成されている。
【0024】
まず、インク受容層塗料Aについて説明する。
【0025】
前記水溶性樹脂Aは、主としてバインダーとして用いられ、少なくともカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMCという)であるが、例えば、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、各種ケン化度のポリビニルアルコール(以下、PVAという)やそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種PVA誘導体、カゼイン、ゼラチン、変性ゼラチン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等の水溶性合成高分子化合物が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択してCMCとともに用いることができる。
【0026】
本発明の特徴である、急速に昇華型捺染インクを吸収・乾燥させる性能を昇華型捺染インク受容層に発現させるために、水溶性樹脂Aとして少なくともCMCが用いられるが、CMCの重合度又は分子量がこの性能に影響を与えることも考えられるので、所定の重合度、分子量のCMCを使用し、インク受容層塗料Aを含む混合塗料の塗工時に、温度をコントロールすることが好ましい。
【0027】
好適に用いられるCMCとしては、重合度が30〜80、重量平均分子量が6600〜18000のCMCが挙げられる。重合度が30〜80、重量平均分子量が6600〜18000のCMCは、粘性と作業性の点から、塗工欠陥の少ない昇華型捺染インク受容層を形成させ易く、またインク受容層塗料Aを含む混合塗料の塗工を容易にすることができる。重合度が30未満で、重量平均分子量が6600未満であると、CMCの粘性が低いため、インク受容層の塗工膜が千切れるような現象に繋がり、連続被膜に欠陥が生じ易いと考えられる。重合度が80よりも大きく、重量平均分子量が18000よりも大きいと、塗工工程での作業性が低下する恐れがある。例えば、CMCの粘性が高すぎて塗工が困難であったり、粘性を低下させるために固形分を少なくすると、乾燥負荷がかかったり、また粘性を低下させるために長時間高温で保持すると、皮膜形成に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0028】
CMCの具体例としては、例えば、セロゲン5A(商品名、第一工業製薬(株)製、「セロゲン」は登録商標)、FINNFIX2(商品名、CP Kelco製、「FINNFIX」は登録商標)等が挙げられる。
【0029】
インク受容層塗料A中、CMCは微細粒子A100質量部に対して100〜400質量部の割合で含有されており、150〜300質量部の割合で含有されることが好ましい。CMCの量が100質量部未満では、CMCだけでの昇華型捺染インクの吸収・乾燥性は充分ではなく、インク吸収性の高い微細粒子との併用が必須となる。CMCの量が400質量部を超えると、微細粒子Aによる昇華型捺染インクの吸収のバリヤー効果が低下し、インク受容層中に昇華型捺染インクを残留させてしまう。
【0030】
本発明では、水溶性樹脂AとしてCMCとともにPVAを用いることもできる。PVAの中でも、特にケン化度が約87〜99mol%、さらには約98〜99mol%で、重合度が約1700以下、さらには約1000以下、特には500以下のPVAは、CMCとの相溶性が良好であり、昇華型捺染インクを昇華型捺染インク受容層に適宜残留させる効果がある。加えて、このようなPVAは、微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子の分散性を向上させる効果もある。
【0031】
PVAの具体例としては、例えば、クラレポバールPVA110、クラレポバールPVA105(いずれも商品名、(株)クラレ製)等が挙げられる。
【0032】
水溶性樹脂AとしてCMCとともにPVAを用いる場合、インク受容層塗料A中のPVAの量は、固形分で、微細粒子A100質量部に対して15質量部以下、さらには8質量部以下であることが好ましい。PVAの量をこの範囲に調整することによって、より優れた昇華型捺染インクの吸収・乾燥性を達成することができる。PVAの量が15質量部を超えると、PVAによる被膜形成がCMCによる被膜形成を妨げる兆候が表れ、塗工欠陥を誘発する恐れがある。
【0033】
さらに、CMCとPVAとを併用してインク受容層塗料Aを調製する場合、微細粒子Aに対して、CMCよりも先にPVAを添加することが、塗工欠陥がより少なくなる効果が得られるという点で好ましい。これは、理由は定かではないが、遊離しているPVA量が多いほど、CMCによる被膜形成の阻害が生じ易く、CMCよりも先にPVAを微細粒子Aに接触させることで、微細粒子Aに捕捉されるPVA量がより多くなり、CMCによる被膜形成の阻害が少なくなっていると考えられる。
【0034】
前記インク受容層塗料Aに含有される微細粒子Aは、少なくとも平板結晶構造を有する無機微粒子である。
【0035】
インク受容層塗料Aには、前記水溶性樹脂Aに、平板結晶構造を有する無機微粒子が充填剤として組み合わせて含有されているので、印刷時の昇華型捺染インクの吸収・乾燥性が、例えば基材に含有される浸透剤との相乗効果によって大きく向上し、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、画像再現性、加熱転写時の耐熱性、転写後の被転写物表面での画像再現性や転写効率の点において、優れた特性を得ることができる。
【0036】
平板結晶構造を有する無機微粒子としては、例えば、親水性を有する二級クレーやデラミクレーが好適に用いられ、0.4〜2.3μmの範囲、好ましくは0.4〜1.4μmの範囲にメジアン径d50を有し、アスペクト比が5〜30、好ましくは8〜20の無機微粒子を用いることにより、CMCの連続被膜の形成を妨げずに無機微粒子によるインクバリヤー層を形成することができる。メジアン径が0.4μm未満、アスペクト比が5未満の無機微粒子では、充分なインクバリヤー層を形成することができない。メジアン径が2.3μmを超える無機微粒子では、インク受容層塗料A中での微粒子の沈降が容易に発生し、混合塗料の流送性等のハンドリングが低下し、品質の安定を妨げる。
アスペクト比が30を超える無機微粒子では、バリヤー性が高くなり過ぎてインク乾燥性を低下させる。
【0037】
なお、本発明に用いる微細粒子Aの粒子径は、少量のサンプルをメタノール溶液に添加し、超音波分散器で3分間分散させた溶液について、コールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製、TA−II型)にて、50μmのアパチャーを用いて測定した。
【0038】
本発明の効果を奏する限り、前記平板結晶構造を有する無機微粒子とともに、他の微細粒子を配合することが可能である。他の微細粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト等のアルミナ水和物、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0039】
インク受容層塗料A中の微細粒子Aの含有量は、インク受容層塗料A100質量部に対して19〜50質量部であることが好ましく、24〜40質量部であることがより好ましい。微細粒子Aの含有量が19質量部未満では、昇華型捺染インクの受容量は多くなるが、微細粒子Aによるインクバリヤー層の形成が不充分で、転写時の昇華効率が低下する傾向があり、汚損の問題が生じる場合がある。微細粒子Aの含有量が50質量部を超えると、インクバリヤー層が過剰となり、昇華型捺染インクの受容量が少なくなり、インク乾燥性が低下する傾向がある。
【0040】
インク受容層塗料Aの調製方法には特に限定がないが、例えば、65〜80℃程度の高温のCMC中に、20〜30℃程度の低温の微細粒子A分散スラリーを添加すると微細粒子Aの凝集が発生し、微細粒子Aが混合塗料の塗工面に均一に敷き詰められた状態を作り出しにくくなり、インクバリヤー層の形成を妨げるために好ましくない。微細粒子A分散スラリーに対して、CMCやPVA等の水溶性樹脂Aを添加することで、微細粒子Aの分散状態を保ったまま塗料化することができ、20〜45℃程度にて混合分散させる方法を採用することができる。
【0041】
かくして得られるインク受容層塗料Aの固形分濃度には特に限定がないが、主要成分であるCMCの特性から、連続被膜を形成するためには、固形分濃度は高く、粘性も高い高分子量の方が好ましいが、これらは混合塗料の粘度を上げてしまい塗工作業性とは相反することとなるという点から、実用上10〜25%程度であることが好ましい。インク受容層塗料Aの固形分濃度が10%未満では、基材に混合塗料が浸透し易くなり、連続被膜を得るためには混合塗料の塗工量を多くする必要があるが、乾燥に伴う水分量が多くなり過ぎて、乾燥シワが発生する傾向がある。その結果、紙の見栄えが低下するだけでなく、インク転写時の熱伝達が紙クセにより不均一になる恐れがある。インク受容層塗料Aの固形分濃度が25%を超えると、混合塗料の粘度が高くなり、通常の塗工方式では混合塗料の塗工量をコントロールすることが困難になる。
【0042】
また、インク受容層塗料Aにおいて、n−ヘキサデカンを用いた、JIS P 3001(1976)に準拠した吸油度試験方法による滴下方法を援用し、前記基材上に該インク受容層塗料Aから形成された層A上の異なる5箇所に、n−ヘキサデカンを1滴ずつ滴下した1分後に、各滴下箇所において該基材の該層Aが形成されていない面に表出したn−ヘキサデカン痕跡の発現(以下、単にピンホール発現ともいう)数に基づく、5箇所での発現数の平均が5個以下であり、好ましくは平均が3個以下である。ピンホール発現数の平均が5個を超えると、ピンホール部分での昇華型捺染インクの転写効率が低下して画像再現性が悪くなるほか、相対的に大きなピンホールを発生させることがあり、昇華型捺染インクの裏抜けによるインクジェットプリンタの汚れや、著しい場合は転写画像にピンホール状の白抜けが発生する。混合塗料でのインク受容層塗料Aの役割は、後述する微細粒子Bであるシリカ粒子部分以外での紙面へのインク吸収を抑えることであり、インク転写量を増やすことであるが、ピンホール発現が少ない塗料とすることで、このようなインク遮断性を確保することができる。
【0043】
なお、前記ピンホール発現数の平均を5個以下に調整するには、例えば以下の方法を採用することができる。すなわち、前記基材として木材パルプを主成分とする紙を使用し、その原料パルプの種類、叩解処理等を適宜調整する方法のほか、特に基材としてクラフト紙を使用し、JIS P 8220に準拠して、前記層Aが形成された基材を離解させた後の、JIS P 8121−2に準拠したフリーネス(CSF)を350〜650ml程度の範囲に調整する方法や、前記インク受容層塗料Aに配合する水溶性樹脂Aの種類や濃度、粘度等を調整する方法を採用することもできる。
【0044】
次に、インク受容層塗料Bについて説明する。
【0045】
前記水溶性樹脂Bは、主としてバインダーとして用いられ、少なくともCMCであるが、例えば、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、PVA、PVAのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種誘導体、カゼイン、ゼラチン、変性ゼラチン、大豆蛋白等の天然高分子、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等の水溶性合成高分子が挙げられ、これらの中から1種又は2種以上を選択してCMCとともに用いることができる。
【0046】
水溶性樹脂Bとして用いるCMCには特に限定がなく、例えばエーテル化度が0.5〜1.0程度のものが好ましい。
【0047】
CMCの具体例としては、例えば、セロゲン5A、セロゲン7A(いずれも商品名、第一工業製薬(株)製、「セロゲン」は登録商標)、FINNFIX2、FINNFIX5(いずれも商品名、CP Kelco製、「FINNFIX」は登録商標)等が挙げられる。
【0048】
なお、後述する微細粒子Bであるシリカ粒子は、前記微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子よりも多孔質であるので、該平板結晶構造を有する無機微粒子と比べて紙面からの粉落ちが生じ易いことを考慮し、好適な分子量のCMCを適宜選択して用い、例えば後述する範囲の量に調整することが望ましい。
【0049】
水溶性樹脂BとしてCMCを用いる場合、インク受容層塗料B中のCMCの量は、固形分で、微細粒子B100質量部に対して100〜500質量部、さらには150〜350質量部であることが好ましい。CMCの量が100質量部未満では、昇華型捺染インクの被転写物への転写効率が低下するとともに、昇華型インクジェット捺染転写紙における昇華型捺染インクの裏抜け問題が生じる恐れがある。CMCの量が500質量部を超えると、昇華型捺染インクの乾燥性が低下し、また保管時に昇華型捺染インクによる裏移り等の汚損問題が生じる恐れがある。
【0050】
本発明では、水溶性樹脂BとしてCMCとともにPVAを用いることもできる。PVAを用いる場合、その種類には特に限定がなく、各種ケン化度、分子量のPVAを用いることができるが、ケン化度が約87〜99mol%、数平均分子量が約1000以下のものが特に好ましい。
【0051】
PVAの具体例としては、例えば、前記水溶性樹脂Aとして例示したクラレポバールPVA110、クラレポバールPVA105等が挙げられる。
【0052】
水溶性樹脂BとしてCMCとともにPVAを用いる場合、インク受容層塗料B中のPVAの量は、固形分で、微細粒子B100質量部に対して200質量部以下、さらには100質量部以下であることが好ましい。この範囲でPVAを用いことにより、優れた昇華型捺染インクの乾燥性と、高度の昇華型捺染インクの裏抜け防止性とを両立することができる。PVAの量が200質量部を超えると、過剰なPVAが微細粒子Bの表面を被覆することで微細粒子によるインク吸収を妨げてしまい、昇華型捺染インクの乾燥性を低下させてしまう傾向がある。
【0053】
水溶性樹脂Bとして、CMCとPVAとを各々前記範囲で併用することにより、さらに優れた昇華型捺染インクの乾燥性と、高度の昇華型捺染インクの裏抜け防止性とを両立することができる。
【0054】
前記インク受容層塗料Bに含有される微細粒子Bは、少なくともシリカ粒子である。
【0055】
前記シリカ粒子としては、細孔容積の多い多孔性合成非晶質シリカ粒子であることが好ましい。このような合成非晶質シリカ粒子とは、ケイ酸のゲル化により、SiO
2の三次元構造を形成させた、多孔性、不定形微粒子であり、細孔径10〜2000オングストローム程度を有する。特にこのような合成非晶質シリカ粒子を用いることにより、被転写物の昇華型捺染インクの吸収性を向上させるとともに、昇華型捺染インクの被転写物への転写率も向上し、被転写物上の画像を一層鮮明にすることができる。
【0056】
前記合成非晶質シリカ粒子は、市販のものを好適に用いることができ、例えば、ミズカシルP−526、ミズカシルP−801、ミズカシルNP−8、ミズカシルP−802、ミズカシルP−802Y、ミズカシルC−212、ミズカシルP−73、ミズカシルP−78A、ミズカシルP−78F、ミズカシルP−87、ミズカシルP−705、ミズカシルP−707、ミズカシルP−707D、ミズカシルP−709、ミズカシルC−402、ミズカシルC−484(以上、水澤化学工業(株)製)、トクシールU、トクシールUR、トクシールGU、トクシールAL−1、トクシールGU−N、トクシールN、トクシールNR、トクシールPR、ソーレックス、ファインシールE−50、ファインシールT−32、ファインシールX−30、ファインシールX−37、ファインシールX−37B、ファインシールX−45、ファインシールX−60、ファインシールX−70、ファインシールRX−70、ファインシールA、ファインシールB(以上、OSCジャパン(株)製)、シペルナート、カープレックスFPS−101、カープレックスCS−7、カープレックス80、カープレックス80D、カープレックス67(以上、DSL.ジャパン(株)製)、サイリシア350、サイリシア445、(以上、富士シリシア化学(株)製)、ニップジェルAY−200、ニップジェルAY−6A3、ニップジェルAZ−200、ニップジェルAZ−6A0、ニップジェルBY−200、ニップジェルCX−200、ニップジェルCY−200、ニップシールE−150J、ニップシールE−220A、ニップシールE−200A(以上、東ソー・シリカ(株)製)等が挙げられる。
【0057】
前記シリカ粒子の平均粒子径は、2〜20μm、さらには4〜16μmであることが好ましい。平均粒子径が2〜20μmの微細なシリカ粒子を微細粒子Bとして用いることにより、より高品質な色再現性、画像再現性を得ることができる。
【0058】
さらに、平均粒子径が異なる少なくとも2種類のシリカ粒子を組み合わせて用いることが好ましく、特に、平均粒子径が2〜5μmのシリカ粒子と、平均粒子径が5μmを超えるシリカ粒子とを組み合わせ、微細粒子Bとして用いることが好ましい。このように平均粒子径が異なるシリカ粒子を併用することにより、昇華型捺染インクの乾燥性をさらに向上させることができる。
【0059】
平均粒子径が異なる少なくとも2種類のシリカ粒子を組み合わせて用いる場合、平均粒子径が2〜5μmのシリカ粒子と、平均粒子径が5μmを超えるシリカ粒子との割合(平均粒子径が2〜5μmのシリカ粒子/平均粒子径が5μmを超えるシリカ粒子)は、特に限定がないが、固形分の質量比で、10/90〜50/50であることが好ましい。このような割合とすることにより、より優れた昇華型捺染インクの乾燥性、昇華型インクジェット捺染転写紙における画像の再現性、被転写物における画像の再現性と、より高い昇華型捺染インクの転写効率とを得ることができる。
【0060】
なお、本発明に用いる微細粒子Bの粒子径は、少量のサンプルをメタノール溶液に添加し、超音波分散器で3分間分散させた溶液について、コールターカウンター法粒度分布測定器(COULTER ELECTRONICS INS製、TA−II型)にて、50μm又は200μmのアパチャーを用いて測定した。
【0061】
本発明の効果を奏する限り、前記シリカ粒子とともに、他の微細粒子を配合することが可能である。他の微細粒子としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、アルミナ、コロイダルアルミナ、アルミナ水和物(擬ベーマイト等)、水酸化アルミニウム、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、水酸化マグネシウム等の無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を適宜選択して用いることができる。
【0062】
インク受容層塗料B中の微細粒子Bの含有量は、インク受容層塗料B100質量部に対して12.5〜50質量部であることが好ましく、18〜40質量部であることがより好ましい。微細粒子Bの含有量が12.5質量部未満では、昇華型捺染インクの受容量が少なくなるためにインク乾燥性が低下する傾向があり、インクの擦れによる汚損や、インクが原紙層にまで達するとコックリング(インクの吸収による紙の収縮から生じる紙の波うち)の問題が生じる場合がある。逆に微細粒子Bの含有量が50質量部を超えると、昇華型捺染インクの受容量は多くなるが、転写時の昇華効率が低下する傾向があり、転写画像の濃度不足の問題が生じる場合がある。
【0063】
インク受容層塗料Bの調製方法には特に限定がないが、例えば、微細粒子B分散スラリーに対して、CMCやPVA等の水溶性樹脂Bを添加することで、微細粒子Bの分散状態を保ったまま塗料化することができ、20〜45℃程度にて混合分散させる方法を採用することができる。
【0064】
かくして得られるインク受容層塗料Bの固形分濃度には特に限定がないが、主要成分であるCMCの特性から、連続被膜を形成するためには、固形分濃度は高く、粘性も高い高分子量の方が好ましいが、これらは混合塗料の粘度を上げてしまい塗工作業性とは相反することとなるという点から、実用上10〜20%程度であることが好ましい。インク受容層塗料Bの固形分濃度が10%未満では、基材に混合塗料が浸透し易くなり、連続被膜を得るためには混合塗料の塗工量を多くする必要があるが、乾燥に伴う水分量が多くなり過ぎて、乾燥シワが発生する傾向がある。その結果、紙の見栄えが低下するだけでなく、インク転写時の熱伝達が紙クセにより不均一になる恐れがある。インク受容層塗料Bの固形分濃度が20%を超えると、混合塗料の粘度が高くなり、通常の塗工方式では混合塗料の塗工量をコントロールすることが困難になる。
【0065】
本発明の製造方法では、前記のごとくインク受容層塗料Aを調製し、かつ、前記のごとくインク受容層塗料Bを別途調製し、これらインク受容層塗料Aとインク受容層塗料Bとを混合して、混合塗料を調製する。
【0066】
一般に、インク受容層塗料中のシリカ含有量を増加させて得た捺染転写紙では、インクジェット印刷時に、インク乾燥性が向上するものの、被転写物への転写捺染時に、捺染転写紙へのインク残量も多くなる傾向がある。例えば、通常の塗料調製方法であるクレーのスラリーとシリカのスラリーとを混合した後、CMC等の水溶性樹脂を加える方法により調製した塗料では、シリカ含有量の増加に伴ってインク乾燥性は向上するが、クレーによるインクの遮断効果によって昇華転写後の紙面のインク残留濃度を下げる効果は大きく失われていく。すなわち、通常の塗料調製方法を採用した場合には、インク乾燥性とインク残量との関係は、インク受容層塗料A中の平板結晶構造を有する無機微粒子とインク受容層塗料B中のシリカ粒子との割合に応じて、インク乾燥性はほぼ直線的に変化するといえるが、インク残量を下げる効果はより早く失効していると思われる。
【0067】
ところが、本発明のように、インク受容層塗料Aとインク受容層塗料Bとを混合して混合塗料とすると、インク乾燥性は、インク受容層塗料B中のシリカ粒子の割合に応じて直線的に変化するが、昇華型インクジェット捺染転写紙へのインク残量は少なくなる方向、すなわち、転写濃度が高くなる方向にシフトする。つまり、インク受容層塗料Bに含まれるシリカ粒子がインク乾燥性を向上させる一方で、インク受容層塗料Aに含まれる平板結晶構造を有する無機微粒子がインク残量を減らす効果が強く残存していると考えられる。このような効果が発現する理由は明確ではないが、発明者らは、塗料を別々に調製することで、インク受容層塗料Aの平板結晶構造を有する無機微粒子、インク受容層塗料Bのシリカ粒子が、それぞれの機能を発揮しやすい状態で各塗料中に存在しており、一方、通常の塗料調製方法では、シリカ粒子はその機能を発揮し易いものの、平板結晶構造を有する無機微粒子の機能が発揮されにくい状態になっているものと考えている。したがって、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙の製造方法では、インク乾燥性とインク残量との関係は、インク受容層塗料A中の平板結晶構造を有する無機微粒子とインク受容層塗料B中のシリカ粒子との割合に応じてほぼ直線的に変化するが、通常の塗料調製方法では、インク残量を抑える効果の失効が大きくなり、直線的な変化ではなくなっていると考えられる。
【0068】
混合塗料において、インク受容層塗料Aとインク受容層塗料Bとの割合(インク受容層塗料A/インク受容層塗料B)は、固形分の質量比で、20/80〜80/20、さらには25/75〜75/25であることが好ましい。両者の割合が20/80未満であると、インク受容層塗料Aの特性が充分に発揮されず、紙面のインク残留濃度が高くなってしまう場合がある。両者の割合が80/20を超えると、インク受容層塗料Bの特性が発揮され難くなり、インク乾燥性の向上効果が不充分となる場合がある。
【0069】
混合塗料の調製方法には特に限定がないが、例えば、各々前記方法により別途調製したインク受容層塗料Aとインク受容層塗料Bとを、両者の割合が例えば前記範囲となるように調整し、20〜45℃程度で均一に撹拌混合する方法を採用することができる。
【0070】
なお、混合塗料の固形分濃度にも特に限定がないが、通常の塗工方式による混合塗料の塗工量を容易にコントロールするという点から、例えば、10〜22%程度であることが好ましい。
【0071】
そして、前記基材に前記混合塗料を塗工し、該基材上に昇華型捺染インク受容層を形成させることにより、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙を製造することができる。
【0072】
混合塗料を塗工する際、その方法には特に限定がないが、本発明の効果を効率よく達成するには、前記のごとく調製した混合塗料を、例えば、エアーナイフコーター、ロールコーター、バーコーター、コンマコーター、ブレードコーター等の公知の塗工機を用いて塗工することができる。これらの中でも、エアーナイフコーターを用いることが、充填剤として作用する微細粒子A、微細粒子Bの存在によるストリーク発生の抑制や、紙表面への輪郭塗工による均一な昇華型捺染インク受容層の形成の点で好ましい。
【0073】
混合塗料の塗工量(乾燥)は、2〜12g/m
2の範囲であり、3〜10g/m
2の範囲であることが好ましい。該混合塗料には、微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子とともに、微細粒子Bであるシリカ粒子が含まれており、シリカ粒子は、親水性を有する二級クレーやデラミクレーに代表される平板結晶構造を有する無機微粒子よりも嵩高なので、より少ない塗工量で、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙の品質を向上させることができる。混合塗料の塗工量が2g/m
2未満では、昇華型捺染インクの基材への染み込みによるコックリング(波打ち)が生じたり、混合塗料で完全に基材を被覆することが難しく、微細な未塗工部分、すなわちピンホールといった塗工欠陥が発生し、画像の再現性が低下する。混合塗料の塗工量が12g/m
2を超えると、昇華型捺染インクの印字、転写品質は塗工量の増加によってよくなるものの、熱転写時の熱伝達の際に、昇華型捺染インク受容層と基材とで、紙の縮みによる寸法変化度合が異なるために、カールや転写面の凹凸を生じる。これにより、布と紙との密着が不均一になり、転写濃度ムラを発生させる原因になる。また、部分的な塗工量の差異が大きくなるため、画像の再現性が低下する。
【0074】
本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、前記のとおり、基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されているものであるが、中でも、基材が広葉樹クラフトパルプを主成分として含むパルプからなり、基材の一方の面には、昇華型捺染インク受容層が形成されており、基材の他方の面には、水溶性樹脂を含有し、充填剤を含有しない樹脂組成物が、水溶性樹脂の固形分量が0.15〜3.5g/m
2となるように塗工されており、昇華型捺染インク受容層に含有されるCMCの15%溶液の、30℃における粘度が0.15〜1Pa・sであるものが、特に本発明の効果を大きく奏する。なお、前記主成分として含むとは、パルプ成分全量の50質量%以上を含むことをいう。
【0075】
基材の、昇華型捺染インク受容層が形成されていない側の面(裏面)に塗工される樹脂組成物は、昇華型捺染インク受容層を形成する際に用いられる水溶性樹脂A、水溶性樹脂Bと同様の水溶性樹脂を含有しているが、微細粒子A、微細粒子B等の充填剤を含有しない。これにより、特に少ない塗工量で水溶性樹脂による被膜を形成しやすいという効果が奏される。裏面の水溶性樹脂の被膜は、印字、転写時のカール防止だけに留まらず、昇華型捺染インクの裏面への抜けによる印字、転写時の設備の汚染を防止する効果もある。
【0076】
前記樹脂組成物は、水溶性樹脂の固形分量が0.15〜3.5g/m
2、さらには0.3〜2.5g/m
2となるように塗工されることが好ましい。これにより、水溶性樹脂の被膜形成によってインクの裏面への抜けによる印字、転写時の設備の汚染を防止する効果が充分に発現され、塗工量を多くし過ぎないことで必要以上に紙を硬くすることがなく、熱転写時の紙の縮みによるひずみから発生する紙面の凹凸やシワ入り傾向を防ぎ、転写濃度ムラの発生を抑制することができる。
【0077】
また、昇華型捺染インク受容層に含有される、水溶性樹脂A、水溶性樹脂BであるCMCについては、該CMCの15%溶液の、30℃における粘度が0.15〜1Pa・s、さらには0.2〜0.7Pa・sであることが好ましい。これにより、CMCの粘度が低いために、昇華型捺染インク受容層の塗工膜が千切れるといった現象を引き起こすことなく、連続被膜に欠陥が生じることがない。また逆に、CMCの粘度が高すぎて塗工が困難になり、粘度を低下させるために固形分を少なくすると、乾燥負荷がかかるほか、粘度を低下させるために長時間高温で保持すると、皮膜形成に悪影響を及ぼす恐れがある、といった点を回避することもできる。
【0078】
さらに、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙において、昇華型捺染インク受容層と基材との間にアンダー層が形成されており、該アンダー層が、CMCを含有していることにより、特に本発明の効果が大きく奏される。
【0079】
昇華型捺染インク受容層と基材との間に、CMCが含有されたアンダー層が形成されていることにより、特に、より少ない塗工量でピンホールのない連続被膜が得られ易くなるという効果が奏される。
【0080】
アンダー層中のCMCの含有量には特に限定がないが、60〜100質量%程度であることが好ましい。
【0081】
なお、アンダー層を形成するためのアンダー層塗料には、CMCのほかに、例えば、澱粉、酸化澱粉、カチオン化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉等の澱粉誘導体、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロースサルフェート等のセルロース誘導体、各種ケン化度のPVAやそのシラノール変性物、カルボキシル化物、カチオン化物等の各種PVA誘導体、カゼイン、ゼラチン、変性ゼラチン、大豆蛋白等の水溶性天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、スチレン−無水マレイン酸共重合体ナトリウム塩、ポリスチレンスルフォン酸ナトリウム等の水溶性合成高分子化合物といった成分が含有されていてもよく、アンダー層を設けることによる効果が阻害されない限り、特に限定はない。
【0082】
このように、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、特定の吸水度を有する基材上に、水溶性樹脂であるCMCと充填剤である平板結晶構造を有する無機微粒子とを特定の割合で含有し、ピンホール発現を非常に少なくすることができる塗料と、水溶性樹脂であるCMCと充填剤であるシリカ粒子とを含有する塗料との混合塗料から、昇華型捺染インク受容層が形成されている。よって、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インクジェット印刷の際に、昇華型捺染インクの乾燥性に優れるとともに、被転写物への転写捺染の際に、昇華型インクジェット捺染転写紙への昇華型捺染インクの残量が少なく、画像の再現性、転写画像の解像性、転写画像の濃度レベル、これらの均一性等の被転写物への転写効率にも優れている。
【0083】
次に、本発明の昇華型インクジェット捺染転写紙及びその製造方法を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、配合における部数は、固形分の部数である。
【0084】
各製造例、調製例、実施例及び比較例で用いた成分は、以下のとおりである。
【0085】
(1)クラフトパルプ
・LBKP
広葉樹晒クラフトパルプ
JIS P 8121−2に準拠したフリーネス(CSF):530ml
・NBKP
針葉樹晒クラフトパルプ
JIS P 8121−2に準拠したフリーネス(CSF):580ml
【0086】
(2)水溶性樹脂A
・CMC−A1
セロゲン5A(第一工業製薬(株)製)
・CMC−A2
FINNFIX2(CP Kelco製)
・PVA−A
クラレポバールPVA105((株)クラレ製、ケン化度:98〜99mol%、
重合度:500)
【0087】
(3)微細粒子A
・粒子−A1
平板結晶構造を有する無機微粒子
二級クレー(メジアン径d50:0.7μm、アスペクト比:8)
・粒子−A2
平板結晶構造を有する無機微粒子
デラミクレー(メジアン径d50:1.4μm、アスペクト比:20)
・粒子−A3
平板結晶構造を有する無機微粒子
二級クレー(メジアン径d50:0.4μm、アスペクト比:8)
【0088】
(4)水溶性樹脂B
・CMC−B1
セロゲン7A(第一工業製薬(株)製)
・CMC−B2
FINNFIX5(CP Kelco製)
・PVA−B
クラレポバールPVA110((株)クラレ製、ケン化度:98〜99mol%、
重合度:1000)
【0089】
(5)微細粒子B
・粒子−B1
合成非晶質シリカ粒子
カープレックス80(DSL.ジャパン(株)製、平均粒子径:15.0μm)
・粒子−B2
合成非晶質シリカ粒子
ファインシールX−37B(OSCジャパン(株)製、平均粒子径:3.7μm)
【0090】
製造例1(基材の製造)
LBKP 85質量%とNBKP 15質量%とを配合し、助剤として、クラフトパルプ全量100質量部に対して、カチオン化デンプンを0.8質量部、アルキルケテンダイマー(内添サイズ剤)を1.1質量部、アニオン変性ポリアクリルアマイドを0.3質量部添加して紙料を調製した。この紙料を抄紙機で抄紙し、坪量が100g/m
2、JIS P 8119に準拠したベック平滑度が100秒、JIS P 8140に準拠した10秒コッブ吸水度が10g/m
2のクラフト紙を製造した(以下、基材−1という)。
【0091】
製造例2〜4(基材の製造)
クラフト紙の10秒コッブ吸水度が表1に示す値となるように、アルキルケテンダイマー(内添サイズ剤)の量を調整したほかは、製造例1と同様にしてクラフト紙を製造した(以下、各々基材−2〜基材−4という)。表1に、各クラフト紙の坪量及びベック平滑度を併せて示す。
【0093】
調製例1A(インク受容層塗料Aの調製)
微細粒子Aとして粒子−A1を用い、水溶性樹脂Aとして、CMC−A1を粒子−A1 100質量部に対して200質量部用いた。粒子−A1の分散スラリー中にCMC−A1を添加して混合し、固形分濃度が18.0%のインク受容層塗料Aを調製した(以下、塗料−A1という)。
【0094】
調製例2A〜7A(インク受容層塗料Aの調製)
組成を表2に示すように変更したほかは、調製例1Aと同様にして、表2に示す固形分濃度を有するインク受容層塗料Aを調製した(以下、各々塗料−A2〜塗料−A7という)。なお、表2には、各インク受容層塗料A中の微細粒子Aの含有量も併せて示す。
【0095】
また、調製例1A〜7Aで得られたインク受容層塗料Aについて、ピンホール発現数を調べた。すなわち、n−ヘキサデカンを用いた、JIS P 3001(1976)に準拠した吸油度試験方法による滴下方法で、基材−1上に塗工量(乾燥)が10g/m
2になるようにインク受容層塗料Aを塗工して形成した層A上の異なる5箇所に、n−ヘキサデカンを1滴ずつ滴下した1分後に、各滴下箇所において基材−1の層Aが形成されていない面に表出したn−ヘキサデカン痕跡の発現数を調べ、5箇所での発現数の平均値を算出した。この結果も、表2に併せて示す。
【0097】
調製例1B(インク受容層塗料Bの調製)
微細粒子Bとして粒子−B1を用い、水溶性樹脂Bとして、CMC−B1を粒子−B1 100質量部に対して200質量部用いた。粒子−B1の分散スラリー中にCMC−B1を添加して混合し、固形分濃度が16.0%のインク受容層塗料Bを調製した(以下、塗料−B1という)。
【0098】
調製例2B〜7B(インク受容層塗料Bの調製)
組成を表3に示すように変更したほかは、調製例1Bと同様にして、表3に示す固形分濃度を有するインク受容層塗料Bを調製した(以下、各々塗料−B2〜塗料−B7という)。なお、表3には、各インク受容層塗料B中の微細粒子Bの含有量も併せて示す。
【0100】
調製例1(混合塗料の調製)
塗料−A1 75質量部と塗料−B1 25質量部とを、均一な組成となるように撹拌混合し、固形分濃度が17.5%の混合塗料を調製した(以下、混合塗料−1という)。
【0101】
調製例2〜15(混合塗料の調製)
組成を表4に示すように変更したほかは、調製例1と同様にして、表4に示す固形分濃度を有する混合塗料を調製した(以下、各々混合塗料−2〜混合塗料−15という)。
【0103】
比較調製例1(比較塗料の調製)
微細粒子として粒子−A1 75質量部と粒子−B1 25質量部とを用い、水溶性樹脂としてCMC−A1 150質量部とCMC−B1 50質量部とを用いた。粒子−A1の分散スラリー及び粒子−B1の分散スラリーを各々調製したのち、粒子−A1の分散スラリー中に粒子−B1の分散スラリーを添加し、さらにCMC−A1及びCMC−B1を添加して混合し、固形分濃度が17.5%の比較塗料を調製した(以下、比較塗料−1という)。
【0104】
比較調製例2(比較塗料の調製)
微細粒子として粒子−A1 50質量部と粒子−B1 50質量部とを用い、水溶性樹脂としてCMC−A1 100質量部とCMC−B1 100質量部とを用いたほかは、比較調製例1と同様にして、固形分濃度が17.0%の比較塗料を調製した(以下、比較塗料−2という)。
【0105】
比較調製例3(比較塗料の調製)
微細粒子として粒子−A1 25質量部と粒子−B1 75質量部とを用い、水溶性樹脂としてCMC−A1 50質量部とCMC−B1 150質量部とを用いたほかは、比較調製例1と同様にして、固形分濃度が16.5%の比較塗料を調製した(以下、比較塗料−3という)。
【0106】
実施例1(昇華型インクジェット捺染転写紙の製造)
エアーナイフコーターを用い、基材−1の片面に、塗工量(乾燥)が8g/m
2になるように混合塗料−1を塗工し、約130℃で乾燥して昇華型捺染インク受容層を形成させ、昇華型インクジェット捺染転写紙を製造した。
【0107】
実施例2〜18及び比較例1〜9(昇華型インクジェット捺染転写紙の製造)
基材及び塗料の種類、並びに塗料の塗工量(乾燥)を表5に示すように変更したほかは、実施例1と同様にして、昇華型インクジェット捺染転写紙を製造した。なお、実施例17及び18、比較例8では、エアーナイフコーターを用い、表5に示す塗工量(乾燥)で基材の片面にアンダー層塗料を塗工し、約130℃で乾燥してアンダー層を形成させた後、このアンダー層上に、表5に示す混合塗料を塗工した。このアンダー層塗料としては、混合塗料に用いたインク受容層塗料Aと同じものを使用した。
【0109】
試験例
得られた昇華型インクジェット捺染転写紙について、以下の方法に従って特性を調べた。その結果を表6に示す。
【0110】
なお、インクジェット記録評価は、インクジェットプリンタ(セイコーエプソン(株)製、EP407A型)及び昇華型捺染インク((株)パワーシステム製、EPSON用昇華インクSU−110シリーズ)を用い、「普通紙+きれい」の設定モードにて各評価用の画像を印字した。また、被転写物には、ポリエステル布素材を使用した。画像の転写は、昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで印字した画像と、ポリエステル布素材とを密着させ、190℃で90秒間保持して熱転写することにより行った。
【0111】
(1)インク乾燥性
各昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで黒ベタ印字をした直後、印字面をテッシュペーパーで擦り、拭取った際に、紙面上のインクの伸びの有無を目視で確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:乾燥が非常に早く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが全くない。
4:乾燥が早く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが殆どない。
3:乾燥が若干遅く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが僅かに認められるが、実用上問題はない。
2:乾燥が遅く、拭取り後の紙面上でインクの伸びが認められる。
1:乾燥が非常に遅く、装置汚れや印字部の汚れが認められ、拭取り後の紙面上でインクの伸びが長く、使用不可である。
【0112】
(2)インク残量
各昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで赤100%+黄100%のベタ印字を行い、190℃で90秒間保持してポリエステル布素材への熱転写を行った。その後、昇華型インクジェット捺染転写紙に残ったインクの濃度及び布素材への転写濃度を調べ、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:紙面にはインクがわずかに残っている程度であり、布素材への転写濃度も高い。
4:紙面にはインクが残っているが、布素材への転写濃度にはほとんど影響が見られない。
3:紙面に残っているインクは少し濃度が高いが、布素材への転写濃度は「評価4」と比較して少し低下が感じられる程度で、実用上問題はない。
2:紙面に残っているインクは濃度が高く、布素材への転写濃度も「評価3」と比較して大きく低下している。
1:紙面に残っているインクはかなり濃度が高く、布素材への転写濃度は単独で見ても明らかに低下している。
【0113】
(3)画像濃度再現性
デジタル画像の各昇華型インクジェット捺染転写紙紙面への画像濃度再現性を目視で観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:原版との濃度の差異が認められず、画像濃度再現性に優れている。
4:原版との濃度の差異が殆ど認められず、画像濃度再現性が良好である。
3:原版との濃度の差異が僅かに認められ、画像濃度再現性にやや劣るが、実用上問題はない。
2:原版との濃度の差異が多く認められ、画像濃度再現性に劣り、使用不可である。
1:原版との濃度の差異が著しく、画像濃度再現性が殆どなく、使用不可である。
【0114】
(4)画像濃淡ムラ
各昇華型インクジェット捺染転写紙にインクジェットプリンタで赤100%+黄100%のベタ印字を行い、昇華型インクジェット捺染転写紙とポリエステル布素材とフェルト基布とをこの順に重ね、フェルト基布には切れ込み傷を付けて熱伝達が不均一になり易い状態にしたうえで、190℃で15秒間保持して布素材への熱転写を行った。その後、フェルト基布の切れ込み傷に該当する位置での、布素材への転写画像の濃淡の有無を確認し、以下の評価基準に基づいて評価した。なお、評価3以上が実用レベルである。
(評価基準)
5:切れ込み傷の影響は全く見られない。
4:切れ込み傷の深い部分で僅かに薄い残像が見られるが、傷の浅い部分では残像は見られない。
3:切れ込み傷の深い部分で形状がほぼ分かり、傷の浅い部分でも形状が薄らと確認できるが、実用上問題はない。
2:切れ込み傷の深い部分だけでなく、傷の浅い部分でも形状が分かる。
1:切れ込み傷が明らかな濃淡として現れ、傷の浅い部分でもはっきりと形状が分かる。
【0116】
実施例1〜18の昇華型インクジェット捺染転写紙は、10秒コッブ吸水度が5〜20g/m
2の基材上に昇華型捺染インク受容層が形成されたものであり、この昇華型捺染インク受容層は、水溶性樹脂AであるCMCと充填剤として作用する微細粒子Aである平板結晶構造を有する無機微粒子とを特定の割合で含有し、ピンホール発現の平均を5個以下にすることができるインク受容層塗料Aと、水溶性樹脂BであるCMCと充填剤として作用する微細粒子Bであるシリカ粒子とを含有するインク受容層塗料Bとの混合塗料から形成されている。
【0117】
したがって、実施例1〜18の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インクジェット印刷時のインク乾燥性に優れ、被転写物への転写捺染時の捺染転写紙へのインク残量が少なく、被転写物への転写濃度も高く、画像濃度再現性に優れ、画像濃淡ムラが小さい。すなわち、実施例1〜18の昇華型インクジェット捺染転写紙は、いずれも実用レベルを満足し得るもので、評価合計が14以上である、優れた特性を兼備している。
【0118】
なお、実施例17、18では、昇華型捺染インク受容層と基材との間に、CMCを含有したアンダー層が形成されているので、混合塗料の塗工量が5g/m
2、2g/m
2と比較的少ないものの、該塗工量が8g/m
2の場合と同等の優れた特性を有している。
【0119】
これに対して、比較例1の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インク受容層塗料Aのみから昇華型捺染インク受容層が形成されているので、捺染転写紙へのインク残量は少なく、被転写物への転写濃度も高いものの、インク乾燥性に非常に劣る。また、画像濃度再現性には優れるものの、画像濃淡ムラが非常に大きい。
【0120】
比較例2の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インク受容層塗料Bのみから昇華型捺染インク受容層が形成されているので、インク乾燥性には優れるものの、捺染転写紙へのインク残量が非常に多く、被転写物への転写濃度も非常に低い。また、画像濃淡ムラは小さいものの、画像濃度再現性に非常に劣る。
【0121】
比較例3〜5の昇華型インクジェット捺染転写紙はいずれも、別途調製した2種の塗料を混合した混合塗料ではなく、2種の微細粒子各々のスラリーを混合してから水溶性樹脂を混合して調製した塗料から昇華型捺染インク受容層が形成されているので、インク乾燥性に劣り、画像濃淡ムラが大きいか(比較例3)、インク残量が多く、被転写物への転写濃度も低いか(比較例4)、インク残量が非常に多く、被転写物への転写濃度も非常に低いうえに、画像濃度再現性にも劣っている(比較例5)。
【0122】
比較例6、7の昇華型インクジェット捺染転写紙は、基材の10秒コッブ吸水度が5g/m
2未満である(比較例6)か、20g/m
2を超える(比較例7)ので、インク残量が多く、被転写物への転写濃度も低く、画像濃度再現性に劣り、画像濃淡ムラが大きいか(比較例6)、インク乾燥性に劣り、インク残量が多く、被転写物への転写濃度も低く、画像濃度再現性に劣り、画像濃淡ムラが大きい(比較例7)。
【0123】
比較例8、9の昇華型インクジェット捺染転写紙は、インク受容層塗料の塗工量が2g/m
2未満である(比較例8)か、12g/m
2を超える(比較例9)ので、インク乾燥性に非常に劣り、インク残量が非常に多く、被転写物への転写濃度も非常に低く、画像濃度再現性に非常に劣っているか(比較例8)、インク残量が非常に多く、被転写物への転写濃度も非常に低く、画像濃度再現性に非常に劣っている(比較例9)。