(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
相対変位可能に設けられた二部材同士の間の振動を減衰するダンパーであって、液体が封入されたシリンダと、前記シリンダ内に所定方向に摺動自在に配置されて、前記シリンダ内を前記所定方向に関して第1室と第2室とに区画するピストンであって、前記シリンダの前記所定方向の中央に位置する中央側摺動範囲と、前記中央側摺動範囲の両側に位置する各外側摺動範囲と、を移動可能なピストンと、前記液体が流路を流れることによって所定の減衰係数で前記振動を減衰する低減衰回路と、前記液体が流路を流れることによって前記所定の減衰係数よりも高い減衰係数で前記振動を減衰する高減衰回路と、を備え、前記高減衰回路の前記流路は、前記ピストンが前記中央側摺動範囲に位置する場合及び前記外側摺動範囲に位置する場合のどちらの場合も、前記第1室と前記第2室とを連通し、前記低減衰回路の前記流路は、前記ピストンが前記中央側摺動範囲の位置から前記第1室の前記外側摺動範囲に摺動する場合に、前記第1室と前記第2室を連通し、前記ピストンが前記第1室の前記外側摺動範囲の位置から前記中央側摺動範囲に摺動する場合には、前記第1室と前記第2室とを遮断する第1流路と、前記ピストンが前記中央側摺動範囲の位置から前記第2室の前記外側摺動範囲に摺動する場合に、前記第1室と前記第2室を連通し、前記ピストンが前記第2室の前記外側摺動範囲の位置から前記中央側摺動範囲に摺動する場合には、前記第1室と前記第2室とを遮断する第2流路と、を有することを特徴とするダンパーが明らかとなる。
このようなダンパーによれば、変位の増大に伴いダンパーの荷重(減衰力)が減少するようにできる。免震建物の加速度は免震層の荷重(免震装置とダンパーの荷重の合計値)が増大するほど大きくなり、免震装置の荷重は変位に比例して増大する。よって、このような特性のダンパーを用いることにより、パッシブな機構で免震層の最大荷重を減少させることができ、最大加速度の低減を図ることができる。
【0010】
かかるダンパーであって、前記高減衰回路が有する前記流路は、前記ピストンに形成されていることが望ましい。
このようなダンパーによれば、高減衰回路をシリンダの外に設けずに済み、全体として装置構成の簡素化を図れる。
【0011】
かかるダンパーであって、前記高減衰回路が有する前記流路にはリリーフ弁が設けられており、前記所定の減衰係数よりも高い減衰係数は、前記リリーフ弁が開放する前の減衰係数であることが望ましい。
このようなダンパーによれば、液体の圧力が一定値を超えないようにすることができる。
【0012】
かかるダンパーであって、前記ピストンの前記第1室側及び前記第2室側にそれぞれロッドが設けられていることが望ましい。
このようなダンパーによれば、ピストンの移動に関わらず、シリンダ内の液体の量が変化しないので、液体用タンクを設置しなくてよい。
【0013】
かかるダンパーであって、前記第1流路は、前記第1室側の前記外側摺動範囲の前記所定方向の一方側端と、前記第2室側の前記外側摺動範囲の前記所定方向の一方側端との間に設けられ、前記第2流路は、前記第1室側の前記外側摺動範囲の前記所定方向の他方側端と、前記第2室側の前記外側摺動範囲の前記所定方向の他方側端との間に設けられていてもよい。
【0014】
また、かかるダンパーであって、前記第1流路は、前記第1室側の前記外側摺動範囲の前記所定方向の一方側端と他方側端との間に設けられ、前記第2流路は、前記第2室側の前記外側摺動範囲の前記所定方向の一方側端と他方側端との間に設けられていてもよい。
【0015】
===第1実施形態===
<ダンパーの構成について>
図1は、第1実施形態のダンパー10の適用例の概略図である。また、
図2は、ダンパー10の概略断面図である。
【0016】
図1に示すダンパー10は、例えば構造物の一例としての建物1の水平振動を減衰する。すなわち、建物1(二部材のうちの一方の部材に相当)は、積層ゴム等の免震装置5を介して水平方向に相対変位可能に建物1の基礎3(二部材のうちのもう一方の部材に相当)に支持されていて、当該ダンパー10は、この建物1と基礎3との間の水平振動を減衰する。
【0017】
本実施形態のダンパー10は、
図2に示すように、シリンダ20と、ピストン30と、低減衰回路50と、高減衰回路70と、を有している。
なお、以下の説明では、
図2に示すように、水平方向の一方側のことを「左側」とも言い、他方側のことを「右側」とも言う。また、シリンダ20内の第1室21Lは左側に位置していることから当該第1室のことを「左室21L」とも言い、第2室21Rは右側に位置していることから当該第2室21Rのことを「右室21R」とも言う。
【0018】
シリンダ20は、中空部を有する筒状(例えば円筒状)の部材であり、シリンダ20内には液体の一例としてのオイルが封入されている。また、本実施形態では、
図2に示すように、シリンダ20内におけるピストン30の移動可能範囲として、水平方向の中央側に位置する中央側摺動範囲RCと、中央側摺動範囲RCの両側に位置する各外側摺動範囲RS(RSL),RS(RSR)と、を定めている。
【0019】
ピストン30は、シリンダ20内において水平方向(所定方向に相当)に摺動自在に配置されるとともに、シリンダ20内を水平方向に関して第1室21Lと第2室21Rとに区画する部材である。ピストン30は、シリンダ20内を左室21Lと右室21Rとに仕切りながら、中央側摺動範囲RCと各外側摺動範囲RS(RSL),RS(RSR)とを円滑に水平移動可能である。
【0020】
また、ピストン30の左端面及び右端面には、それぞれロッド32a,32bが設けられている。すなわち、本実施形態のダンパー10は、ピストン30の両側にそれぞれロッド32a,32bが設けられた両ロッド型のダンパーである。そして、例えば、シリンダ20が建物1に固定されるとともに、シリンダ20から外方に突出する一方のロッド(例えば、ロッド32a)が建物1の基礎3に固定されていて、これにより、建物1と基礎3との間の水平振動が、ダンパー10に入力されるようになっている。このように、ロッド32a,32bがピストン30の両側に設けられていることから、ピストン30が左右方向に移動しても、シリンダ20内に占めるロッド32,32bの体積は一定で変化しない。換言すると、ピストン30の移動に関わらず、シリンダ20内のオイル量は変化しない。そのため、片ロッド型の場合に必要なオイルタンク(液体用タンク:リザーバ)を設置しなくてよい。
【0021】
低減衰回路50は、流路54を有しており、オイルが流路54を流れることによって所定の減衰係数で振動を減衰する。この例では、低減衰回路50は、シリンダ20の外に設けられている。すなわち、シリンダ20の外には、配管或いはマニホールド等の形態で、オイルを水平方向に流す流路54が設けられている。
【0022】
また、
図2に示すように、低減衰回路50はオイルの流路54として、第1流路54aと第2流路54bを有している。第1流路54aは、シリンダ20の外側摺動範囲RS(RSL)の左端と外側摺動範囲RS(RSR)の左端との間に設けられており、第2流路54bは、シリンダ20の外側摺動範囲RS(RSL)の右端と外側摺動範囲RS(RSR)の右端との間に設けられている。第1流路54aには逆止弁53aと減衰弁55aとが直列に配設されており、第2流路54bには逆止弁53bと減衰弁55bとが直列に配設されている。そして、第1流路54aは、逆止弁53aによってオイルを左から右へと一方向に流し、第2流路54bは、逆止弁53bによってオイルを右から左へと一方向に流すように構成されている。
【0023】
高減衰回路70は、オイルが流路(後述する34a,34b)を流れることによって低減衰回路50の減衰係数(所定の減衰係数)よりも高い減衰係数で振動を減衰する。
【0024】
本実施形態の高減衰回路70は、ピストン30にバイフロー方式で設けられている。すなわち、ピストン30には、逆止弁33aによってオイルを左室21Lから右室21Rへと一方向に流す流路34aと、逆止弁33bによってオイルを右室21Rから左室21Lへと一方向に流す流路34bとが設けられている。このように、本実施形態では高減衰回路70の流路をピストン30に形成しているので、高減衰回路をシリンダ20の外に設けずに済み、全体として装置構成の簡素化を図ることができる。高減衰回路70の各流路34a,34bは、それぞれ、ピストン30が中央側摺動範囲RCに位置する場合(例えば
図4C)及び各外側摺動範囲RS(RSL,RSR)に位置する場合(例えば
図4E、
図4A)のどちらの場合も、左室21Lと右室21Rとを連通している。
【0025】
さらに、これら各流路34a,34bには、それぞれ、逆止弁33a,33bと直列に減衰弁35a,35bが配設されている。なお、この減衰弁35a,35bは、オイルの圧力が設定以上の圧力に上昇しないように制御するリリーフ弁であり、圧力が一定値よりも大きくなると弁を開放する。このため、開放前(以下、リリーフ前ともいう)の減衰係数は高く、開放後(以下、リリーフ後ともいう)には減衰係数が低くなる。
【0026】
なお、ここで言う減衰係数(N/(m/sec))とは、F−V線図(例えば
図3A参照)における傾きのことである。すなわち、ダンパー10が発生する減衰力をF(N)、振動の速度をV(m/sec)とした場合に、速度Vの変化量ΔVに対する減衰力Fの変化量ΔFの比率(=ΔF/ΔV)のことである。
【0027】
以下の説明において、高減衰回路70に係る減衰係数のことを「減衰係数(特性)1」とも言い、リリーフ前の減衰係数を「減衰係数(特性)1−1」リリーフ後の減衰係数を「減衰係数(特性)1−2」ともいう。また、低減衰回路50に係る減衰係数のことを「減衰係数(特性)2」とも言う。
【0028】
<ダンパーの動作について>
図3Aは、ダンパー10のF−V線図であり、
図3Bは、ダンパー10のF−D線図である。
図3Aの横軸は速度V(m/sec)、縦軸は荷重F(N)を示しており、
図3Bの横軸は変位D(m)、縦軸は荷重F(N)を示している。
図4A〜
図4Fは、ピストン30が右側から左側に移動する場合のダンパー10の状態を示す概略断面図であり、
図5A〜
図5Fは、ピストン30が左側から右側に移動する場合のダンパー10の状態を示す概略断面図である。図において、シリンダ20内の左室21Lと右室21R、及び、各流路内のうち、圧力が高い部分を濃いグレーで示し、圧力が低い部分を淡いグレーで示している。シリンダ20内のオイルは圧力の高い側から低い側に流れることになる。
【0029】
なお、
図4A〜
図4F及び
図5A〜
図5Fの左側に記載している動作番号(数字)は、それぞれ、
図3A及び
図3Bに記載している番号(数字)に対応している。また、本実施形態では、水平方向の位置について左側をプラス側とし、右側をマイナス側とする。また、
図4A〜
図4F及び
図5A〜
図5Fでは、主にオイルを流す弁(減衰弁)を点線で囲んで示している。
【0030】
本実施形態のダンパー10は、以下のように動作する。ここでは、都合上、ピストン30がシリンダ20の
外側摺動範囲RS(RSR)の右端(マイナス側端)に位置している状態(
図5Fの状態)から、左側(プラス側)に移動することとし、その場合の動作について説明する。
【0031】
ピストン30が
外側摺動範囲RS(RSR)から中央側摺動範囲RCに向けて(左側に)移動すると、左室21Lの圧力が右室21Rの圧力よりも高くなる。このため、減衰弁35a、逆止弁33aを介して、左室21Lから右室21Rへと高減衰回路70の流路34aにオイルが流れる(
図4A)。なお、低減衰回路50の第2流路54bは逆止弁53bによって遮断されるので、当該第2流路54bにはオイルが流れない。また、低減衰回路50の第1流路54aは両端が左室21Lに連通している(同じ圧力である)のでオイルが流れない。このように、この場合、高減衰回路70の流路34bのみにオイルが流れる。よって、このとき減衰特性は「1−1(高減衰)」となる(
図3A、
図3Bの8→1に相当)。
【0032】
その後、ピストン30の速度の増加に伴い、減衰弁35aがリリーフ(開放)してオイルが流れやすくなる(
図4B)。このときの減衰特性は「1−2」となる(
図3A、
図3Bの1→2)。
【0033】
ピストン30の右端が、逆止弁53aよりも左側になると(ピストン30が中央側摺動範囲RCに位置するようになると)、低減衰回路50の第1流路54aが左室21Lと右室21Rとを連通する(
図4C)。これにより、減衰弁55aを介して低減衰回路50の第1流路54aにもオイルが流れるようになり、減衰特性は「1−2」から減衰特性「2」に移行し始める(
図3A、
図3Bの2→3)。
【0034】
その後(ピストン30が中央側摺動範囲RCから外側摺動範囲RS(RSL)に摺動する場合)は、主に、低減衰回路50側の第1流路54aにオイルが流れるようになり(
図4D、
図4E)、減衰特性は「2」となる(
図3A、
図3Bの3→4)。
【0035】
そして、ピストン30がシリンダ20の外側摺動範囲RS(RSL)の左端(最大変位)に到達し(
図4F)、オイルの流れが無くなり荷重がゼロになる(
図3A、
図3Bの4)。
【0036】
次に、ピストン30がシリンダ20の
外側摺動範囲RS(RSL)の左端(プラス端)に位置している状態(
図4Fの状態)から、ピストン30が右側(マイナス側)に移動する場合について説明する。
【0037】
ピストン30が
外側摺動範囲RS(RSL)から中央側摺動範囲RCに向けて(右に)移動すると、右室21Rの圧力が左室21Lの圧力よりも高くなる。このため、減衰弁35b、逆止弁33bを介して、右室21Rから左室21Lへと高減衰回路70の流路34bにオイルが流れる(
図5A)。なお、低減衰回路50の第1流路54aは逆止弁53aによって遮断されるので、当該第1流路54aにはオイルが流れない。また、低減衰回路50の第2流路54bは両端が右室21Rに連通している(同じ圧力である)のでオイルが流れない。このように、この場合、高減衰回路70の流路34aのみにオイルが流れる。よって、このとき減衰特性は「1−1(高減衰)」となる(
図3A、
図3Bの4→5)。
【0038】
その後、ピストン30の速度の増加に伴い、減衰弁35bがリリーフ(開放)してオイルが流れやすくなる(
図5B)。このときの減衰特性は「1−2」となる(
図3A、
図3Bの5→6)。
【0039】
ピストン30の左端が、逆止弁53bよりも右側になると(ピストン30が中央側摺動範囲RCに位置するようになると)、低減衰回路50の第2流路54bが左室21Lと右室21Rとを連通する(
図5C)。これにより、減衰弁55bを介して低減衰回路50の第2流路54bにもオイルが流れるようになり、減衰特性は「1−2」から減衰特性「2」に移行し始める(
図3A、
図3Bの6→7)。
【0040】
その後(ピストン30が中央側摺動範囲RCから外側摺動範囲RS(RSR)に摺動する場合)は、主に、低減衰回路50側の第2流路54bにオイルが流れるようになり(
図5D、
図5E)、減衰特性は「2」となる(
図3A、
図3Bの7→8)。
【0041】
そして、ピストン30がシリンダ20の外側摺動範囲RS(RSR)の右端(最大変位)に到達し(
図5F)、オイルの流れが無くなり荷重がゼロになる(
図3A、
図3Bの8)。
【0042】
以上の動作を繰り返すことにより、ダンパー10は、
図3A、
図3Bに示す特性で建物1の水平振動を減衰する。
【0043】
<本実施形態のダンパー10による効果について>
図6Aは、比較例における免震層の荷重と変形量との関係の説明図であり、
図6Bは、本実施形態における免震層の荷重と変形量との関係の説明図である。なお、免震層の荷重とは、免震装置5とダンパー10の荷重の合計値であり、建物1と基礎3との間に働く荷重(せん断力)のことである。
【0044】
比較例では、免震層に免震装置5(積層ゴム)と通常のオイルダンパーを用いている。
【0045】
免震装置5は、図に示すように変位に比例して荷重が増大するような特性となっている。一方、通常のオイルダンパーの荷重―変形特性は、
図6Aに示すような円形である。よって、免震装置5の特性にこのオイルダンパーの特性を加えると、免震層の荷重―変形関係は、図のように傾いた楕円形状になる。この比較例における免震層の最大荷重(最大せん断力)をFAとする。
【0046】
これに対し、本実施形態のダンパー10の荷重―変形特性は、
図6Bに示すように、長軸が左上−右下の楕円形状に近似できる(図の破線参照)。すなわち、ダンパー10の荷重―変形特性は、免震装置5(積層ゴム)の荷重―変形関係を打ち消すような特性(負の剛性)となっている。このため、免震層の荷重―変形関係における最大荷重FBは、
図6Aの最大荷重FAよりも小さくなる(FB<FA)。
【0047】
このように本実施形態のダンパー10を用いると、比較例よりも最大荷重(最大せん断力)を小さくできる。すなわち、外部エネルギーを入力することなく(パッシブにて)最大加速度の低減を図ることができる。
【0048】
===第2実施形態===
第2実施形態では低減衰回路の構成が第1実施形態と異なる。
図7は、第2実施形態のダンパー10´の概略断面図である。なお、第1実施形態と同一構成の部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0049】
図7に示すように第2実施形態のダンパー10´は、低減衰回路50´を有している。
【0050】
低減衰回路50´は、第1実施形態の低減衰回路50と同様に、低い減衰係数で振動を減衰する。第2実施形態においても、低減衰回路50´は、シリンダ20の外に設けられている。
【0051】
図7に示すように、低減衰回路50´はオイルの流路54´を有しており、さらに、この流路54´として第1流路54a´と第2流路54b´を有している。第1流路54a´は、シリンダ20の外側摺動範囲RS(RSL)の左端と当該外側摺動範囲RS(RSL)の右端との間に設けられており、第2流路54b´は、シリンダ20の外側摺動範囲RS(RSR)の右端と当該外側摺動範囲RS(RSR)の左端との間に設けられている。第1流路54a´には逆止弁53a´と減衰弁55a´とが直列に配設されており、第2流路54b´には逆止弁53b´と減衰弁55b´とが直列に配設されている。そして、第1流路54a´は、逆止弁53a´によってオイルを左から右へと一方向に流し、第2流路54b´は、逆止弁53b´によってオイルを右から左へと一方向に流す。なお、第1実施形態と同様に、減衰弁55a´、55b´の減衰係数は、高減衰回路70の減衰弁35a,35bの減衰係数(リリーフ前の減衰係数)よりも小さい。
【0052】
次に、第2実施形態のダンパー10´の動作について説明する。
図8Aは、ダンパー10´のF−V線図であり、
図8Bは、ダンパー10´のF−D線図である。
図8Aの横軸は速度V(m/sec)、縦軸は荷重F(N)を示しており、
図8Bの横軸は変位D(m)、縦軸は荷重F(N)を示している。また、
図9A〜
図9Fは、ピストン30が右側から左側に移動する場合のダンパー10´の状態を示す概略断面図であり、
図10A〜
図10Fは、ピストン30が左側から右側に移動する場合のダンパー10´の状態を示す概略断面図である。
図9A〜
図9F及び
図10A〜
図10Fでは、第1実施形態と同様に、シリンダ20内の左室21Lと右室21R、及び、各流路内のうち、圧力が高い部分を濃いグレーで示し、圧力が低い部分を淡いグレーで示している。
【0053】
第2実施形態のダンパー10´は、以下のように動作する。ここでも、便宜上、ピストン30がシリンダ20の
外側摺動範囲RS(RSR)の右端(マイナス側端)に位置している状態(
図5Fの状態)から、左側(プラス側)に移動することとし、その場合の動作について説明する。
【0054】
ピストン30が
外側摺動範囲RS(RSR)から中央側摺動範囲RCに向けて(左側に)移動すると、左室21Lの圧力が右室21Rの圧力よりも高くなる。このため、減衰弁35a、逆止弁33aを介して、左室21Lから右室21Rへと高減衰回路70の流路34aにオイルが流れる(
図9A)。なお、低減衰回路50´の第2流路54b´は逆止弁53b´によって遮断されるので、当該第2流路54b´にはオイルが流れない。また、低減衰回路50´の第1流路54a´は両端が左室21Lに連通している(同じ圧力である)のでオイルが流れない。このように、この場合、高減衰回路70の流路34bのみにオイルが流れる。よって、このとき減衰特性は「1−1(高減衰)」となる(
図8A、
図8Bの8→1)。
【0055】
その後、ピストン30の速度の増加に伴い、減衰弁35aがリリーフ(開放)してオイルが流れやすくなる(
図9B、
図9C)。このときの減衰特性は「1−2」となる(
図8A、
図8Bの1→2→2´)。
【0056】
ピストン30の右端が、逆止弁53a´よりも左側になると(ピストン30が
外側摺動範囲RS(RSL)に位置するようになると)低減衰回路50の第1流路54a´が左室21Lと右室21Rとを連通する(
図9D)。これにより、減衰弁55a´を介して低減衰回路50´の第1流路54a´にもオイルが流れるようになり、減衰特性は「1−2」から減衰特性「2」に移行し始める(
図8A、
図8Bの2´→3)。
【0057】
その後は、主に、低減衰回路50´の第1流路54a´にオイルが流れるようになり(
図9E)、減衰特性は「2」となる(
図8A、
図8Bの3→4)。
【0058】
そして、ピストン30がシリンダ20の外側摺動範囲RS(RSL)の左端(最大変位)に到達し(
図9F)、オイルの流れが無くなり荷重がゼロになる(
図8A、
図8Bの4)。
【0059】
次に、ピストン30がシリンダ20の
外側摺動範囲RS(RSL)の左端(プラス端)に位置している状態(
図9Fの状態)から、ピストン30が右側(マイナス側)に移動する場合について説明する。
【0060】
ピストン30が
外側摺動範囲RS(RSL)から中央側摺動範囲RCに向けて(右に)移動すると、右室21Rの圧力が左室21Lの圧力よりも高くなる。このため、減衰弁35b、逆止弁33bを介して、右室21Rから左室21Lへと高減衰回路70の流路34bにオイルが流れる(
図10A)。なお、低減衰回路50´の第1流路54a´は逆止弁53a´によって遮断されるので、当該第1流路54a´にはオイルが流れない。また、低減衰回路50´の第2流路54b´は両端が右室21Rに連通している(同じ圧力である)のでオイルが流れない。このように、この場合、高減衰回路70の流路34aのみにオイルが流れる。よって、このとき減衰特性は「1−1(高減衰)」となる(
図8A、
図8Bの4→5)。
【0061】
その後、ピストン30の速度の増加に伴い、減衰弁35bがリリーフ(開放)してオイルが流れやすくなる(
図10B、
図10C)。このときの減衰特性は「1−2」となる(
図8A、
図8Bの5→6→6´)。
【0062】
ピストン30の左端が、逆止弁53bよりも右側になると(ピストン30が
外側摺動範囲RS(RSR)に位置するようになると)、低減衰回路50´の第2流路54b´が左室21Lと右室21Rとを連通する(
図10D)。これにより、減衰弁55b´を介して低減衰回路50´の第2流路54b´にもオイルが流れるようになり、減衰特性は「1−2」から減衰特性「2」に移行し始める(
図8A、
図8Bの6´→7)。
【0063】
その後は、主に、低減衰回路50´側の第2流路54b´にオイルが流れるようになり(
図10E)、減衰特性は「2」となる(
図8A、
図8Bの7→8)。
【0064】
そして、ピストン30がシリンダ20の外側摺動範囲RS(RSR)の右端(最大変位)に到達し(
図10F)、オイルの流れが無くなり荷重がゼロになる(
図8A、
図8Bの8)。
【0065】
以上の動作を繰り返すことにより、ダンパー10´は、建物1の水平振動を減衰する。この第2実施形態の場合においても、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0066】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更や改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれるのはいうまでもない。例えば、以下に示すような変形が可能である。
【0067】
前述の実施形態等では、ダンパー10を建物1などの構造物に適用したが、これには限られない。例えば、鉄道車両や自動車などの移動物に適用しても良い。また、ダンパー10を他のダンパー(通常のダンパー)と共に用いてもよい。
【0068】
前述の実施形態等では、シリンダ20内に封入される液体の一例としてオイルを例示したが、これには限られない。例えば、水でも良い。
【0069】
前述の実施形態等では、ピストンが摺動する所定方向の一例として水平方向を例示したが、これには限られない。例えば、所定方向が、鉛直方向であっても良い。
【0070】
前述の実施形態等では、中央側摺動範囲RCと各外側摺動範囲RS,RSとが左右方向に隣接している場合を例示したが、これには限られない。例えば、中央側摺動範囲RCと各外側摺動範囲RS,RSとが、不図示の移行範囲を介して左右方向に並んでいても良い。
【0071】
前述の実施形態等では、ダンパー10はピストン30の両側にロッド(ロッド32a,32b)が設けられた両ロッド型のダンパーであったが、片側のみにロッドが設けられた片ロッド型のダンパーであってもよい。