(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1円環部の軸方向端面における内径は、前記玉のピッチ円直径よりも大きく、且つ、前記第2円環部の軸方向端面における外径は、前記玉のピッチ円直径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載のアンギュラ玉軸受。
前記第1円環部及び前記外径側柱部分によって形成される外径側ポケット口元径Do、及び前記第2円環部及び前記内径側柱部分によって形成される内径側ポケット口元径Diの少なくとも一方は、前記玉の直径Daよりも小さく、
0.75×Da≦Do≦0.99×Da、0.75×Da≦Di≦0.99×Daの少なくとも一方を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
前記ポケットの内面は、前記第1円環部及び前記第1円環部から連続する前記外径側柱部分の一部、並びに、前記第2円環部及び前記第2円環部から連続する前記内径側柱部分の一部に形成された球面部分と、前記外径側柱部分の残部、及び前記内径側柱部分の残部に形成された円柱部分と、によって形成され、
前記外径側柱部分における前記球面部分と前記円柱部分の境界線と、前記内径側柱部分における前記球面部分と前記円柱部分の境界線とは、前記玉の中心を通過する仮想平面上に位置することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
前記アンギュラ玉軸受は、一対の前記外輪軌道面を有する前記外輪と、前記内輪軌道面をそれぞれ有する一対の前記内輪と、一対の前記外輪軌道面及び一対の前記内輪軌道面間に複列に配置される複数の前記玉と、を備え、背面組合せで配置される複列アンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
前記アンギュラ玉軸受は、前記外輪軌道面をそれぞれ有する一対の前記外輪と、一対の前記内輪軌道面を有する前記内輪と、一対の前記外輪軌道面及び一対の前記内輪軌道面間に複列に配置される複数の前記玉と、を備え、正面組合せで配置される複列アンギュラ玉軸受であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のアンギュラ玉軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ポケットの内面が球面形状を有する保持器では、柱部の円周方向肉厚は、柱部の軸方向中間部において最も小さくなる。ここで、
図13に示す保持器110では、柱部113は直線状に形成されているため、柱部の軸方向中間部における半径方向肉厚を確保することが難しい。このため、柱部113の軸方向中間部における剛性を確保しようとすると、玉数が制約を受けてしまい、軸受の軸方向荷重の負荷能力に影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、保持器の剛性を確保しつつ、玉数を増加して、軸受の軸方向の負荷能力を高めることができるアンギュラ玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に接触角を持って転動自在に配置される複数の玉と、
軸方向に間隔を開けて設けられた第1及び第2円環部と、該第1及び第2円環部間に円周方向に間隔を開けて配置された複数の柱部とを備え、円周方向に隣り合う前記柱部と前記第1及び第2円環部とによりそれぞれ画成され、前記複数の玉をそれぞれ保持する複数のポケットを有する玉案内方式の保持器と、
を備えるアンギュラ玉軸受であって、
前記内輪の外周面には、前記内輪軌道面に対して軸方向一方側に内輪カウンターボアが形成され、前記内輪軌道面に対して軸方向他方側に内輪溝肩部が形成され、
前記外輪の内周面には、前記外輪軌道面に対して軸方向一方側に外輪溝肩部が形成され、前記外輪軌道面に対して軸方向他方側に外輪カウンターボアが形成され、
前記玉の接触角αは、45°≦α≦70°であり、
前記外輪溝肩部の径方向高さHeを前記玉の直径Daで除したものをAe(=He/Da)とすると、0.35≦Ae≦0.50であり、
前記内輪溝肩部の径方向高さHiを前記玉の直径Daで除したものをAi(=Hi/Da)とすると、0.35≦Ai≦0.50であり、
前記第1円環部は、前記第2円環部よりも径方向外側に設けられ、
前記柱部は、前記第1円環部から前記第2円環部側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分と、前記第2円環部から前記第1円環部側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分と、を有し、前記外径側柱部分の内周面と前記内径側柱部分の外周面とを繋ぐことで形成され、
前記外径側柱部分の外周面と、前記外径側柱部分の前記第2円環部寄りの軸方向側面との縁部は、軸方向において前記玉の中心よりも前記第2円環部側に位置し、
前記内径側柱部分の内周面と、前記内径側柱部分の前記第1円環部寄りの軸方向側面との縁部は、軸方向において前記玉の中心よりも前記第1円環部側に位置することを特徴とするアンギュラ玉軸受。
(2) 前記外径側柱部分の前記第2円環部寄りの軸方向側面は、該縁部よりも前記第2円環部側で、前記内径側柱部分の外周面又は前記第2円環部の外周面に連続し、且つ、断面凹形状に形成され、
前記内径側柱部分の前記第1円環部寄りの軸方向側面は、該縁部よりも前記第1円環部側で、前記外径側柱部分の内周面又は前記第1円環部の内周面に連続し、且つ、断面凹形状に形成されることを特徴とする(1)に記載のアンギュラ玉軸受。
(3) 前記外径側柱部分の前記第2円環部寄りの軸方向側面は、曲率半径R1が、0.1×Da≦R1≦2×Daの部分円柱面であり、
前記内径側柱部分の前記第1円環部寄りの軸方向側面は、曲率半径R2が、0.1×Da≦R2≦2×Daの部分円柱面であることを特徴とする(2)に記載のアンギュラ玉軸受。
(4) 前記第1円環部の軸方向端面における内径は、前記玉のピッチ円直径よりも大きく、且つ、前記第2円環部の軸方向端面における外径は、前記玉のピッチ円直径よりも小さいことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(5) 前記第1円環部及び前記外径側柱部分によって形成される外径側ポケット口元径Do、及び前記第2円環部及び前記内径側柱部分によって形成される内径側ポケット口元径Diの少なくとも一方は、前記玉の直径Daよりも小さく、
0.75×Da≦Do≦0.99×Da、0.75×Da≦Di≦0.99×Daの少なくとも一方を満足することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(6) 前記ポケットの内面は、前記第1円環部及び前記第1円環部から連続する前記外径側柱部分の一部、並びに、前記第2円環部及び前記第2円環部から連続する前記内径側柱部分の一部に形成された球面部分と、前記外径側柱部分の残部、及び前記内径側柱部分の残部に形成された円柱部分と、によって形成され、
前記外径側柱部分における前記球面部分と前記円柱部分の境界線と、前記内径側柱部分における前記球面部分と前記円柱部分の境界線とは、前記玉の中心を通過する仮想平面上に位置することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(7) 隣り合う前記玉同士の距離Lと、前記玉のピッチ円直径dmに円周率πを乗じた玉ピッチ円周長さπdmと、の関係は、
1.5×10
−3≦L/πdm≦20×10
−3
を満たすことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(8) 前記アンギュラ玉軸受は、一対の前記外輪軌道面を有する前記外輪と、前記内輪軌道面をそれぞれ有する一対の前記内輪と、一対の前記外輪軌道面及び一対の前記内輪軌道面間に複列に配置される複数の前記玉と、を備え、背面組合せで配置される複列アンギュラ玉軸受であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
(9) 前記アンギュラ玉軸受は、前記外輪軌道面をそれぞれ有する一対の前記外輪と、一対の前記内輪軌道面を有する前記内輪と、一対の前記外輪軌道面及び一対の前記内輪軌道面間に複列に配置される複数の前記玉と、を備え、正面組合せで配置される複列アンギュラ玉軸受であることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のアンギュラ玉軸受。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアンギュラ玉軸受によれば、玉の接触角αは、45°≦α≦70°であるので、接触角を大きくして、軸受の軸方向荷重の負荷能力が増加し、接触角を大きく設定することにより、より大きな予圧荷重を付与することができ、剛性がより高められる。また、外輪溝肩部の径方向高さHeを玉の直径Daで除したものをAe(=He/Da)とすると、0.35≦Ae≦0.50であり、内輪溝肩部の径方向高さHiを玉の直径Daで除したものをAi(=Hi/Da)とすると、0.35≦Ai≦0.50であるので、軸受の軸方向荷重の負荷能力が不足することを防止しつつ、内外輪溝肩部の研削加工を容易に行うことができる。
【0012】
さらに、第1円環部は、第2円環部よりも径方向外側に設けられ、柱部は、第1円環部から第2円環部側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分と、第2円環部から第1円環部側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分と、を有し、外径側柱部分の内周面と内径側柱部分の外周面とを繋ぐことで形成されるので、第1及び第2円環部を、内輪溝肩部及び外輪溝肩部との干渉を避けて段違いに配置することができる。
【0013】
また、外径側柱部分の外周面と、外径側柱部分の第2円環部寄りの軸方向側面との縁部は、軸方向において玉の中心よりも第2円環部側に位置し、内径側柱部分の内周面と、内径側柱部分の第1円環部寄りの軸方向側面との縁部は、軸方向において玉の中心よりも第1円環部側に位置する。これにより、柱部の軸方向中間部における半径方向肉厚を確保することができるので、玉数を増加させるために、代わりに柱部の軸方向中間部における円周方向肉厚を薄くすることができる。したがって、保持器の剛性を確保しつつ、玉数を増加させることができ、軸受の軸方向の負荷能力を高めることができる。
【0014】
また、隣り合う前記玉同士の距離Lと、前記玉のピッチ円直径dmに円周率πを乗じた玉ピッチ円周長さπdmと、の関係が、1.5×10
−3≦L/πdm≦20×10
−3を満たすので、アンギュラ玉軸受は、軸受一列当たり(玉ピッチ円上)の玉数を多くすることができ、軸受の負荷容量増加及び高剛性と、保持器の強度維持を両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るアンギュラ玉軸受について、図面を用いて説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態のアンギュラ玉軸受1は、内周面に外輪軌道面11を有する外輪10と、外周面に内輪軌道面21を有する内輪20と、外輪軌道面11及び内輪軌道面21間に配置された複数の玉3と、玉3を転動自在に保持し、玉案内方式である保持器30と、を備える。
【0018】
外輪10の内周面には、外輪軌道面11に対して軸方向一方側(背面側、
図1中左側。)に外輪溝肩部12が形成され、外輪軌道面11に対して軸方向他方側(正面側、
図1中右側)に外輪カウンターボア13が形成される。
【0019】
内輪20の外周面には、内輪軌道面21に対して軸方向一方側(背面側、
図1中左側)に内輪カウンターボア23が形成され、内輪軌道面21に対して軸方向他方側(正面側、
図1中右側)に内輪溝肩部22が形成される。
【0020】
ここで、内輪カウンターボア23の外径をD1とし、内輪溝肩部22の外径をD2とすると、D1<D2とされ、且つ、外輪カウンターボア13の内径をD3とし、外輪溝肩部12の内径をD4とすると、D3>D4とされている。このように、内輪溝肩部22の外径D2を大きくし、外輪溝肩部12の内径D4を小さくしているので、玉3の接触角αを大きく設定することが可能である。より具体的には、外径D2及び内径D4を上記のように設定することで、接触角αを45°≦α≦70°程度とすることができ、軸受製作時の接触角αのバラツキを考慮しても、50°≦α≦65°程度とすることができ、接触角αを大きくすることができる。
【0021】
また、内輪溝肩部22の径方向高さHiを玉3の直径Daで除したものをAiとすると、0.35≦Ai≦0.50を満たすように設定され、外輪溝肩部12の径方向高さHeを玉3の直径Daで除したものをAeとすると、0.35≦Ae≦0.50を満たすように設定される。
【0022】
仮に、0.35>Ai又は0.35>Aeである場合には、玉3の直径Daに対して内輪溝肩部22又は外輪溝肩部12の径方向高さHi、Heが小さくなり過ぎるため、接触角αが45°未満となってしまい、軸受の軸方向荷重の負荷能力が不足してしまう。また、0.50<Ai又は0.50<Aeである場合には、外輪10及び内輪20の軌道面11、21が、玉3のピッチ円直径dmをはみ出して形成されることになるので、外輪溝肩部12及び内輪溝肩部22の研削加工が困難となり望ましくない。
【0023】
次に、
図2〜6を参照し、保持器30の構成について詳述する。保持器30は、合成樹脂からなる玉案内方式のプラスチック保持器であり、当該保持器30を構成するベース樹脂はポリアミド樹脂である。なお、ポリアミド樹脂の種類は制限されるものではなく、ポリアミド以外に、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド等、他の合成樹脂でも構わない。さらに、ベース樹脂中には、強化材として、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等が添加される。また、保持器30は、射出成形又は切削加工によって製造される。
【0024】
図2及び
図3に示すように、保持器30は、軸方向に間隔を開けて設けられた第1及び第2円環部31,32と、該第1及び第2円環部31,32間に円周方向に間隔を開けて配置された複数の柱部33とを備え、円周方向に隣り合う柱部33と第1及び第2円環部31,32とによりそれぞれ画成され、複数の玉3をそれぞれ保持する複数のポケット34を有する。
【0025】
第1及び第2円環部31、32は、内外輪20,10の内輪溝肩部22及び外輪溝肩部12と干渉しないように、第1円環部31を第2円環部32よりも径方向外側に設け、段違いに配置される。
【0026】
柱部33は、第1円環部31から第2円環部32側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分35と、第2円環部32から第1円環部31側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分36と、を有し、外径側柱部分35の内周面と内径側柱部分36の外周面とが繋がるように形成されている。
【0027】
したがって、各ポケット34は、第1円環部31の軸方向内側面、第1円環部31の軸方向内側面の両側で連続する一対の外径側柱部分35の各円周方向側面、第2円環部32の軸方向内側面、及び、第2円環部32の軸方向内側面の両側で連続する一対の内径側柱部分36の各円周方向内側面によって形成される。
【0028】
図4に示すように、外径側柱部分35の第2円環部寄りの軸方向側面35aは、外径側柱部分35の外周面と、内径側柱部分36の外周面又は第2円環部32の外周面とを繋ぐようにして、断面凹形状に形成される。また、内径側柱部分36の第1円環部寄りの軸方向側面36aも、内径側柱部分36の内周面と、外径側柱部分35の内周面又は第1円環部31の内周面とを繋ぐようにして、断面凹形状に形成される。
【0029】
また、外径側柱部分35の外周面と、外径側柱部分35の第2円環部32寄りの軸方向側面との縁部P1は、軸方向において玉3の中心Oよりも第2円環部32側に位置し、内径側柱部分36の内周面と、内径側柱部分36の第1円環部31寄りの軸方向側面との縁部P2は、軸方向において玉3の中心Oよりも第1円環部31側に位置する。
【0030】
さらに、断面凹形状に形成された外径側柱部分35の軸方向側面35aは、該縁部P1よりも第2円環部32側で、内径側柱部分36の外周面又は第2円環部32の外周面に連続する。
同様に、断面凹形状に形成された内径側柱部分36の軸方向側面36aは、該縁部P2よりも第1円環部31側で、外径側柱部分35の内周面又は第1円環部31の内周面に連続する。
【0031】
本実施形態のアンギュラ玉軸受1では、外輪溝肩部12及び内輪溝肩部22との干渉を避け、外輪10及び内輪20間の空間を有効活用するため、第1及び第2円環部31、32を段違いに配置しつつ、第1及び第2円環部31、32を柱部33でつなげているが、柱部33での軸方向中間部での半径方向肉厚が薄くなることによる強度低下を避け、且つ、軸方向中間部での応力集中による保持器30の破損を回避することが必要である。特に、保持器30と外輪10又は内輪20が干渉してしまうと、保持器30と外輪10又は内輪20との干渉時にトルクが変動し、ボールねじ系としての正確な位置決めができなくなり、また、干渉時の摩擦によって保持器30が摩耗し、保持器30の破損につながる。さらに、保持器30が摩耗したときに発生した摩耗粉が異物となり、軸受の潤滑状態が悪くなった結果、軸受の寿命が短くなる。
【0032】
しかしながら、上述したように、外径側柱部分35における外周面と軸方向側面35aとの縁部P1の位置と、内径側柱部分36における内周面と軸方向側面36aとの縁部P2の位置を設定することで、柱部33の軸方向中間部における半径方向肉厚を確保することができるので、玉数を増加させるため、円周方向肉厚を薄くしても、柱部33の軸方向中間部における強度低下を避けることができる。
【0033】
また、本実施形態では、外径側柱部分35の第2円環部寄りの軸方向側面35aは、曲率半径R1が、0.1×Da≦R1≦2×Daの凹状の部分円柱面によって形成され、内径側柱部分36の第1円環部寄りの軸方向側面36aも、曲率半径R2が、0.1×Da≦R2≦2×Daの凹状の部分円柱面によって形成されている。
ここで、曲率半径R1、R2が0.1×Daより小さいと、外輪溝肩部12及び内輪溝肩部22が玉ピッチ円直径近傍まで及んでいるので、保持器30と外輪10又は内輪20との干渉が避けられない。また、曲率半径R1、R2が2×Daより大きいと、外径側柱部分35における外周面と軸方向側面35aとの縁部P1が、軸方向中心よりも第1円環部側、内径側柱部分36における内周面と軸方向側面36aとの縁部P2が、軸方向中心よりも第2円環部側となり、柱部33の最小肉厚部となる軸方向中間部における半径方向肉厚が薄くなってしまい、柱部33の強度を確保することができない。
【0034】
なお、外径側柱部分35の軸方向側面35a及び内径側柱部分36の軸方向側面36aの曲率半径R1,R2は、0.25×Da≦R1≦1.5×Da、0.25×Da≦R2≦1.5×Daとすることが望ましい。
また、外径側柱部分35の軸方向側面35a及び内径側柱部分36の軸方向側面36aは、保持器30と外輪10又は内輪20との干渉を避けつつ、応力集中を避け、柱部33の強度を確保できる形状であれば、断面円弧状の部分円柱面に限らず、滑らかな断面曲面形状であればよく、また、平面を連続させて断面凹形状としてもよい。
【0035】
また、
図4に示すように、第1円環部31の軸方向端面における内径D5は、玉3のピッチ円直径P.C.D.(=dm)よりも大きく、且つ、第2円環部32の軸方向端面における外径D6は、玉3のピッチ円直径P.C.D.よりも小さい。これにより、第1円環部31の内周面及び第2円環部32の外周面が、対向する内輪溝肩部22の外周面及び外輪溝肩部12の内周面にそれぞれ干渉することを防止することができる。
【0036】
さらに、第1円環部31及び外径側柱部分35の内周面と、第2円環部32及び内径側柱部分36の外周面とは、射出成形の際に、アキシアルドロータイプ金型の軸方向への型抜きを行いやすいように、緩やかな傾斜面によって構成されている。なお、第1円環部31及び外径側柱部分35の内周面と、第2円環部32及び内径側柱部分36の外周面は、玉3の中心Oを通過する円すい面上、または、母線が該円すい面の母線に平行な円すい面上にあってもよい。
なお、本実施形態では、第1円環部31及び外径側柱部分35の外周面と、第2円環部32及び内径側柱部分36の内周面は、軸方向に沿った円筒面によって形成されている。
【0037】
また、
図5に示すように、第1円環部31及び外径側柱部分35によって形成される外径側ポケット口元径Do及び第2円環部32及び内径側柱部分36によって形成される内径側ポケット口元径Diの少なくとも一方は、玉3の直径Daよりも小さく、0.75×Da≦Do≦0.99×Da、0.75×Da≦Di≦0.99×Daの少なくとも一方を満足する。
【0038】
このアンギュラ玉軸受1は、通常、正面または背面にて複数組合せて使用されるが、軸受の予圧すきまを調整するため、仮組みされた軸受を、再度分解して、外輪10若しくは内輪20の端面の調整研磨が行われる。この際、保持器30のポケット34から玉3が脱落する、つまり、玉3と保持器30が分離する場合に、組み立てに時間を要する。
【0039】
このため、外径側ポケット口元径Do及び内径側ポケット口元径Diを上記のように設計することで、保持器30のポケット34から玉3が脱落するのを防止することができる。なお、0.75×Da≦Do≦0.99×Da、0.75×Da≦Di≦0.99×Daの両方を満足する場合には、玉3はポケット34を弾性変形させて挿入(パチン挿入)しやすく、且つ、玉3がポケット34から脱落しない。
【0040】
また、アンギュラ玉軸受1から外輪10を分解して、外輪10を調整研磨する場合には、少なくとも外径側ポケット口元径Doを0.75×Da≦Do≦0.99×Daとすることで、予圧調整の際に、玉3のポケット34からの脱落が防止される。
さらに、アンギュラ玉軸受1から内輪20を分解して、内輪20を調整研磨する場合には、少なくとも内径側ポケット口元径Diを、0.75×Da≦Di≦0.99×Daとすることで、予圧調整の際に、玉3のポケット34からの脱落が防止される。
【0041】
図4に示すように、ポケット34の内面は、第1円環部31及び第1円環部31から連続する外径側柱部分35の一部、並びに、第2円環部32及び第2円環部32から連続する内径側柱部分36の一部に形成された球面部分34a、34bと、外径側柱部分35の残部、及び内径側柱部分36の残部に形成された円柱部分34c、34dと、によって形成される。また、球面部分34a、34bは、中心を玉3の中心Oと一致させた直径R3の単一の球面上に位置している。
【0042】
さらに、外径側柱部分35における球面部分34aと円柱部分34cの境界線と、内径側柱部分36における球面部分34bと円柱部分34dの境界線とは、玉3の中心を通過する仮想平面P上に位置する。これにより、ポケット34は、球面部分34a、34bを成形する金型の型抜きを軸方向から容易に行うことができる。また、ポケット34の内面全体を球面とせず、円柱面を設けることで、玉3とポケット開口部との干渉部分を狭くでき、玉3を容易に挿入することができる。さらに、ポケット34内のグリースが排出しやすく、グリース封入後の過剰グリースが排出され、慣らし運転が容易に行われる。また、保持器30を切削加工で形成する場合、球面部分34a、34bの仕上げ加工を行う際のボールエンドミル等の工具の移動を容易に行うことができる。
【0043】
なお、上述した保持器30の合成樹脂に添加する強化材の割合は、5〜30wt%であることが好ましい。強化材の割合が30wt%を越えると、保持器30の柔軟性が低下するため、保持器成形時のポケット34からの型の無理抜き時や、軸受を組み立てる際に、保持器30のポケット34への玉3の圧入に際して、保持器30の円周方向縁部38(外径側柱部分35の外周面とポケット34との縁部、
図5参照)が破損してしまう。
【0044】
また、強化材の割合が5wt%よりも少ないと、熱膨張がベース材料である樹脂材料の線膨張係数に依存するので、軸受回転中の保持器30の熱膨張が玉ピッチ円直径の膨張に対して相対的に大きくなり、玉3と保持器30のポケット34が突っ張りあってしまい、焼付きなどの不具合が起こってしまう。そこで、合成樹脂成分中の強化材の割合を5〜30wt%の範囲に収めることによって、上記不具合を防止することができる。
【0045】
また、このような保持器30を用いたアンギュラ玉軸受1は、アキシアル荷重負荷能力を大きくするために、玉3の数(玉数Z)が多くなるように設計されている。具体的に、
図7は、直径dmのピッチ円上に配置された二つの玉3を示しており、これらの玉3の直径をDw、これらの玉3の中心をA、B、線分ABと玉3の表面との交点をC、D、線分ABの中間点をE、ピッチ円の中心をO´としている。また、隣り合う玉3の中心A、B同士の距離(線分ABの距離)である玉中心間距離をTとし、隣り合う玉3同士の距離(線分CDの距離)である玉間距離をLとし、線分EO´と線分BO´とがなす角度(線分EO´と線分AO´とがなす角度)をθとしている。
この場合、線分AO´及び線分BO´の距離は、(dm/2)であり、玉中心間距離Tは、(dm×sinθ)であり、玉間距離Lは、(T−Dw)であり、角度θは、(180°/Z)である。
【0046】
そして、このアンギュラ玉軸受1では、玉間距離Lと、玉ピッチ円直径dmに円周率πを乗じた玉ピッチ円周長さπdmと、の間に、1.5×10
−3≦L/πdm≦20×10
−3の関係が成立するように設計している。
仮に、L/πdmが1.5×10
−3よりも小さいと、保持器30の柱部33の円周方向肉厚が薄くなりすぎ、成形時や切削時に穴が開いてしまう。特に強化材が多く含有されていると、成形時に冠型保持器30の材料である合成樹脂の流動性が悪くなり、穴が開きやすい。また、L/πdmが20×10
−3よりも大きいと、玉数Zが少なくなり、軸受のアキシアル荷重負荷能力及び剛性が低くなってしまう。
【0047】
したがって、アンギュラ玉軸受1は、1.5×10
−3≦L/πdm≦20×10
−3を満たすように、すなわち、玉数Zが比較的多くなるように設計することで、軸受の荷重負荷能力及び剛性アップと保持器の強度維持を両立することができる。
【0048】
なお、L/πdmを上述の範囲内で、1.5×10
−3に近い側を選定すると、保持器30の柱部33の円周方向肉厚が薄くなるが、外径側柱部分35における外周面と軸方向側面35aとの縁部P1の位置と、内径側柱部分36における内周面と軸方向側面36aとの縁部P2の位置を上述したように設定することで、柱部33の軸方向中間部における半径方向肉厚を確保することができる。したがって、玉数を増加させるため、円周方向肉厚を薄くしても(つまり、1.5×10
−3に近い側を選定しても)、柱部33の断面積が確保され、柱部33の軸方向中間部における強度低下を避けることができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態のアンギュラ玉軸受1によれば、玉3の接触角αは、45°≦α≦70°であるので、接触角αを大きくして、軸受の軸方向荷重の負荷能力が増加し、接触角αを大きく設定することにより、より大きな予圧荷重を付与することができ、剛性がより高められる。また、外輪溝肩部12の径方向高さHeを玉3の直径Daで除したものをAe(=He/Da)とすると、0.35≦Ae≦0.50であり、内輪溝肩部22の径方向高さHiを玉の直径Daで除したものをAi(=Hi/Da)とすると、0.35≦Ai≦0.50であるので、軸受の軸方向荷重の負荷能力が不足することを防止しつつ、内外輪溝肩部22、12の研削加工を容易に行うことができる。
【0050】
さらに、第1円環部31は、第2円環部32よりも径方向外側に設けられ、柱部33は、第1円環部31から第2円環部側に向かって軸方向に延びる外径側柱部分35と、第2円環部32から第1円環部側に向かって軸方向に延びる内径側柱部分36と、を有し、外径側柱部分35の内周面と内径側柱部分36の外周面とを繋ぐことで形成されるので、第1及び第2円環部31、32を、内輪溝肩部22及び外輪溝肩部12との干渉を避けて段違いに配置することができる。
【0051】
また、外径側柱部分35の外周面と、外径側柱部分35の第2円環部寄りの軸方向側面35aとの縁部P1は、軸方向において玉3の中心よりも第2円環部側に位置し、内径側柱部分36の内周面と、内径側柱部分36の第1円環部寄りの軸方向側面36aとの縁部P2は、軸方向において玉3の中心よりも第1円環部側に位置する。これにより、柱部33の軸方向中間部における半径方向肉厚を確保することができるので、玉数を増加させるために、柱部33の軸方向中間部における円周方向肉厚を薄くすることができる。したがって、保持器30の剛性を確保しつつ、玉数を増加させることができ、軸受の軸方向の負荷能力を高めることができる。
【0052】
(第2実施形態)
図8は、本発明の第2実施形態に係る複列アンギュラ玉軸受1aを示している。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或は簡略化する。
【0053】
図8に示すように、この実施形態では、機械装置への組み付け性を考慮して、一対の外輪軌道面11、11を有する単一の外輪10aと、内輪軌道面21、21をそれぞれ有する一対の内輪20、20と、一対の外輪軌道面11,11及び一対の内輪軌道面21、21間に複列に配置される複数の玉3と、複数の玉3をそれぞれ保持する複数のポケット34を有する玉案内方式の保持器30と、を有し、背面組合せで配置される複列アンギュラ玉軸受としている。外輪10aには、固定のためのフランジ部14が設けられ、フランジ部14には、ボルト締結用の貫通穴15が形成されている。また、外輪10aの軸方向中間部には、油溝16および油孔17が形成され、グリースの給脂やオイルエア、オイルミストの供給が可能である。
【0054】
図9に示すように、予圧荷重を調整するためには、内輪端面間に適正な軸方向すきまδ(通常、予圧すきまと呼ぶ)を設け、軸に軸受を取り付けた後、軸受ナットを用いて、予圧すきまを0(ゼロ)になるまで締め付ける(内輪端面同士を密着させる)ことで、予圧が付加される。また、適正な予圧すきまδは、外輪10、内輪20、玉3、保持器30を組み立て、すきま測定を行い、その後分解して、内輪20、20を調整研磨する。なお、予圧を大きくする場合には、予圧すきまを大きくすればよい。
【0055】
このように内輪20を分解して調整研磨する場合には、少なくとも内径側ポケット口元径Diを、0.75×Da≦Di≦0.99×Daとすることで、玉3のポケット34からの脱落が防止され、予圧調整の際に組み立てに要する時間を短縮することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0056】
(第3実施形態)
図10(a)及び(b)は、本発明の第3実施形態に係る複列アンギュラ玉軸受1bを示している。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、同一符号を付して説明を省略或は簡略化する。
【0057】
図10(a)に示すように、この実施形態では、外輪軌道面11、11をそれぞれ有する一対の外輪10と、一対の内輪軌道面21、21を有する単一の内輪20aと、一対の外輪軌道面11、11及び一対の内輪軌道面21、21間に複列に配置される複数の玉3と、複数の玉3をそれぞれ保持する複数のポケット34を有する玉案内方式の保持器30と、を備え、正面組合せで配置される複列アンギュラ玉軸受1bとしている。
【0058】
この場合には、予圧荷重を調整するためには、外輪端面間に適正な予圧すきまを得るために、外輪10、10を分解して、外輪10、10を調整研磨する。
【0059】
このように外輪10、10を分解して調整研磨する場合には、少なくとも外径側ポケット口元径Doを0.75×Da≦Do≦0.99×Daとすることで、玉3のポケット34からの脱落が防止され、予圧調整の際に組み立てに要する時間を短縮することができる。
その他の構成及び作用については、第1実施形態のものと同様である。
【0060】
なお、
図10(b)に示すように、外輪10、10の軸方向両端部には、接触形、または非接触形のシール部材50、50が装着されてもよい。これにより、軸受空間内にグリースなどの潤滑剤を保持することができ、また、外部からの異物(切削液や切り粉など)の侵入を防ぐことができる。
【0061】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。
【実施例1】
【0062】
図11は、第2実施形態における外輪一体内輪二分割のボールねじサポート用アンギュラ玉軸受が適用される実施例1を示す。この場合、アンギュラ玉軸受の各種仕様及び寸法は以下のように設定されている。
【0063】
接触角α:50°
玉径Da:6.35mm
Ae(=外輪溝肩部の径方向高さHe/玉径Da):0.38
Ai(=内輪溝肩部の径方向高さHi/玉径Da):0.38
保持器材質:ポリアミド樹脂
外径側柱部分35の軸方向側面35aの曲率半径R1:0.27×Da(1.7mm)
内径側柱部分36の軸方向側面36aの曲率半径R2:0.27×Da(1.7mm)
外径側ポケット口元径φDo:0.80×Da(5.08mm)
内径側ポケット口元径φDi:0.80×Da(5.08mm)
【実施例2】
【0064】
図12は、第2実施形態における外輪一体内輪二分割のボールねじサポート用アンギュラ玉軸受が適用される実施例2を示す。この場合、アンギュラ玉軸受の各種仕様及び寸法は以下のように設定されている。
【0065】
接触角α:60°
玉径Da:7.144mm
Ae(=外輪溝肩部の径方向高さHe/玉径Da):0.47
Ai(=内輪溝肩部の径方向高さHi/玉径Da):0.47
保持器材質:ポリアセタール樹脂に強化材としてカーボン繊維を10wt%添加したもの
外径側柱部分35の軸方向側面35aの曲率半径R1:0.90×Da(6.43mm)
内径側柱部分36の軸方向側面36aの曲率半径R2:0.90×Da(6.43mm)
外径側ポケット口元径φDo:0.90×Da(6.43mm)
内径側ポケット口元径φDi:0.90×Da(6.43mm)
【0066】
このように構成された実施例1及び実施例2のアンギュラ玉軸受1aは、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。