(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示によるR1−T1−X1系焼結磁石は、非限定的で例示的な実施形態において、以下の元素を含有する。
【0026】
R1:27mass%以上35mass%以下(R1は、希土類元素のうちの少なくとも一種であり、R1全体の50mass%以上がNdであり、Prを必ず含む)、
X1:0.85mass%以上0.93mass%以下(X1は、BまたはBとCである)、
Zn:0.3mass%以上2.0mass%以下、
T1:61.5mass%以上(T1は、FeまたはFeとMであり、MはGa、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、T1全体の80mass%以上がFeである)。
【0027】
また、この実施形態において、X1に対するT1のmol比([T1]/[X1])(以下、「[T1]/[X1]のmol比」という場合がある)は13.0以上であり、[T1]/[X1]のmol比は14.0以上であってもよい。
【0028】
本実施形態におけるR1−T1−X1系焼結磁石は、R2−T2−A化合物を含有する。R2−T2−A化合物におけるR2は、希土類元素のうちの少なくとも一種であり、R2全体の50mol%以上がPrである。T2は、Fe、Co、Ni、Mn、Ti、Crのうちの少なくとも一種であり、T2全体の50mol%以上がFeである。Aは、Zn、Cu、Ga、Al、Ge、Siのうちの少なくとも一種であり、A全体の50mol%以上がZnである。R2−T2−A化合物は、典型的には、La
6Co
11Ga
3型結晶構造を有しており、代表的にはR
6Fe
13Zn化合物である。R2−T2−A化合物におけ組成は、R2は5mol%以上50mol%以下(好ましくは20mol%以上40mol%以下)であり、T2は30mol%以上94mol%以下(好ましくは50mol%以上70mol%以下)であり、Aは1mol%以上20mol%以下(好ましくは2mol%以上20mol%以下)である。
【0029】
磁石表面のうちで配向方向(磁化方向)に直交する面から配向方向に沿って測定した厚さが200μmの領域(以下、単に「磁石表面部」と称する場合がある)におけるPr濃度は、磁石中央部におけるPr濃度よりも高い。また、上記の磁石表面部におけるZn濃度は、磁石中央部におけるZn濃度よりも高い。なお、「Pr濃度」および「Zn濃度」は、磁石表面部における任意の位置を例えば50nm×50nmの範囲で測定し、それぞれ、主相粒子および粒界相における濃度を平均化した値である。
【0030】
また、磁石が
図11に示すように瓦形状を有し、配向方向が磁石の厚さ方向(矢印101の方向)の場合、磁石表面のうちで配向方向に直交する面は、第1の曲面(上面)104及び第2の曲面(裏面)105の少なくとも一方である。よって、第1の曲面104及び第2の曲面105から配向方向に沿って測定した厚さ200μmの領域が磁石表面部となる。
【0031】
なお、磁石が瓦形状であり、配向方向が磁石が延びる方向(矢印102の方向)の場合は、第1の端面106及び第2の端面107が磁石表面のうちで配向方向に直交する面となる。
【0032】
なお、磁石が円筒形状の場合、
図11における矢印102の方向を中心軸の方向にあわせ、矢印101の方向を半径方向とすれば、瓦形状の磁石について説明したことが適用される。
【0033】
更に、本開示では、磁石が瓦形状であり、配向方向が磁石の幅方向(矢印103の方向)の場合、磁石表面のうちで配向方向に直交する面は、配向方向と略直交する
図11中の第1の側面108及び第2の側面109とする。よって、この場合は、第1の側面108及び第2の側面109から配向方向に沿って測定した厚さ200μmの領域が磁石表面部となる。
【0034】
磁石中央部とは、磁石の中央に位置する部分であり、磁石が多面体形状や円柱形状の場合は典型的には重心部である。磁石が
図11に示すように瓦形状の場合は、磁石中央部は、磁石の厚さ方向(矢印101の方向)、長さ方向(矢印102の方向)、及び幅方向(矢印103の方向)の全ての中心に位置する部分100とする。磁石が円筒形状の場合は、磁石中心部は、磁石の厚さ方向及び長さ方向両方の中心に位置する部分とする。
【0035】
後述するように、本開示の実施形態では、R1−T1−X1系焼結磁石を製造するとき、Prを主体とするR4とZnとを、R4−Zn系合金から、特定組成を有する焼結体の表面から内部に拡散させている。これにより得られた磁石は、R2−T2−A化合物を含有し、R2全体の50mol%以上がPrである。これに対し、Prを主体としないR(Ndを主体とするR(例えばR1))とZnとを焼結体の表面から内部に拡散させた場合は、前記R2はPrを50mol%以上含有しない(例えば、Ndを50mol%以上含有する)。なお、上記の「磁石表面部」は、製造工程の途中において、R4−Zn系合金と接触し、R4−Zn系合金からPrおよびZnの供給を受けた部位である。このような拡散に起因してPrおよびZnの濃度勾配が磁石内部に発生し、この濃度勾配は最終的に得られる磁石内部においても残る。PrおよびZnの濃度が磁石中心部に比べ高い「磁石表面部」は、磁石の表面全体に位置している必要は無い。
【0036】
ある実施形態において、R2−T2−A化合物は、少なくとも磁石中央部の粒界に存在し、磁石中央部の前記粒界の厚さは、100nm以上である。
【0037】
R2−T2−A化合物の同定は、例えば、任意の磁石断面を走査電子顕微鏡で観察し、更に観察した領域をエネルギー分散X線分光分析(EDS)によって測定することで行われ得る。また、粒界の厚さは、断面の顕微鏡写真から計測によって求められ得る。後述する実施例によれば、100nm以上の厚さを有する粒界が磁石の全体にわたって存在している。
【0038】
Prの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が3.0mass%以上高いことが好ましく、Znの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が1.0mass%以上高いことが好ましい。ここで本開示における「Prの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が3.0mass%以上高い」とは、磁石表面のうちで配向方向(磁化方向)に直交する面から配向方向に沿って測定した厚さが200μmの領域(「磁石表面部」)におけるPr濃度が、磁石中央部におけるPr濃度よりも、パーセントポイント(mass%)で3.0以上高いことをいう。例えば、磁石中央部のPr濃度が5.0mass%であった場合、磁石表面部のPr濃度が8.0mass%以上であることを意味する。Znの濃度についても同様である。PrおよびZnの濃度は、例えば、磁石中心部を通り、かつ、配向方向に平行である断面において、磁石中央部及び磁石表面部を走査電子顕微鏡で観察し、更に観察した磁石中央部及び磁石表面部をエネルギー分散X線分光分析(EDS)を実施することによって測定される。PrおよびZnの濃度勾配は、これらの元素が磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを示している。
【0039】
上記の構成を有することにより、本開示によるR1−T1−X1系焼結磁石は、磁石表面近傍のみならず、磁石内部の保磁力が向上する。これは、二粒子粒界が厚いためである。また、磁石寸法調整のための表面研削によっても保磁力向上効果が大きく損なわれることがない。そして、重希土類元素を用いずとも、高い保磁力を実現できる。
【0040】
本発明者らは、上記のR1−T1−X1系焼結磁石を製造する方法として、一般的なR1−T1−X1系焼結磁石の主相の化学量論組成であるR
2T
14Bよりも、TがリッチでB(Cを含有する場合はBとCの合計)がプアな組成の合金焼結体(R3−T3−X2合金焼結体)に、Prを主体とするR4と15mol以上40mol以下のZnを含有するR4−Zn系合金を接触させて熱処理する方法を見出した。この方法により、前記R4−Zn系合金から生成した液相を、焼結体中の粒界を経由して焼結体表面から内部に拡散導入する際に、R4中にPrが存在すると粒界拡散が促進され、磁石内部の奥深くまでPrとZnを拡散させることが可能になることを見出した。そして、上記特定組成の合金焼結体にZnを拡散させることにより、Znを含む厚い二粒子粒界を合金焼結体の内部まで容易に形成することができることがわかった。このような構造を形成すると、主相結晶粒間の磁気的な結合が大幅に弱められるため、重希土類元素を用いずとも非常に高い保磁力を有するR1−T1−X1系焼結磁石が得られる。
【0041】
さらに、これらの知見を基に、後述するように、[X1]における特にCの粒界への分配比率を考慮した結果、前記合金焼結体におけるX2に対するT3のmol比([T3]/[X2])(以下、「[T3]/[X2]のmol比」という場合がある)が13.0以上14.0未満の範囲であっても、[T3]/[X2]のmol比が14.0以上の合金焼結体を用いて作製したR1−T1−X1系焼結磁石に近い保磁力を示すことを見出した。
【0042】
特許文献1及び2に記載されている方法では、拡散を受ける母材(特許文献1における成形体、特許文献2における成型体)の組成はいずれも主相の化学量論組成であるR
2T
14BよりもTがプアーでBがリッチな組成であり、Cに関しても何ら考慮されていない。さらに、拡散源としてPrとZnの両方を含む合金を使用すること及び本開示の特定組成に対してPrとZnの両方を含む合金を拡散させることによる効果(厚い二粒子粒界を焼結体の内部まで容易に形成することができる)について記載も示唆もない。
【0043】
まず、R1−T1−X1系焼結磁石の実施形態を詳細に説明する前に、R1−T1−X1系焼結磁石の基本構造を説明する。
【0044】
R1−T1−X1系焼結磁石は、原料合金の粉末粒子が焼結によって結合した構造を有しており、主としてR
2T
14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
【0045】
図1Aは、R1−T1−X1系焼結磁石の主相と粒界相を示す模式図であり、
図1Bは
図1Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
図1Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図1Aおよび
図1Bに示されるように、R1−T1−X1系焼結磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図1Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つのR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
【0046】
主相12であるR
2T
14B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性材料である。したがって、R1−T1−X1系焼結磁石では、主相12であるR
2T
14B化合物の存在比率を高めることによってB
rを向上させることができる。R
2T
14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R
2T
14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。R
2T
14B化合物を形成するためのB量またはR量が化学量論比を下回ると、一般的には、粒界相14にFe相またはR
2T
17相等の異方性磁界の小さな強磁性体が生成し、H
cJが急激に低下する。
【0047】
以下、本開示の限定的ではない例示的な実施形態を説明する。
【0048】
(1)R3−T3−X2系合金焼結体を準備する工程
R3−T3−X2系合金焼結体(以下、単に「焼結体」という場合がある)を準備する工程において、焼結体の組成は、R3は希土類元素のうちの少なくとも一種でありNdを必ず含み、27mass%以上35mass%以下であり、T3はFeまたはFeとMであり、MはGa、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、X2はBでありBの一部をCで置換することができ、[T3]/[X2]のmol比が13.0以上、好ましくは13.6以上であり、更に好ましくは14.0以上である。
【0049】
R3は希土類元素のうちの少なくとも一種でありNdを必ず含む。Nd以外の希土類元素としては例えばPrが挙げられる。さらにR1−T1−X系焼結磁石の保磁力を向上させるために一般的に用いられるDy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。但し、本開示の実施形態によれば、前記重希土類元素を多量に用いずとも十分に高い保磁力を得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR3−T3−X2系合金焼結体全体の1mass%以下(R3−T3−X2系合金焼結体中の重希土類元素が1mass%以下)であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。
【0050】
R3はR3−T3−X2系合金焼結体全体の27mass%以上35mass%以下である。R3が27mass%未満では焼結過程で液相が十分に生成せず、焼結体を十分に緻密化することが困難になる。一方、R3が35mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、焼結体の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがあるため、35mass%以下が好ましい。R3は28mass%以上33mass%以下であることがより好ましく、28.5mass%以上32mass%以下であることがさらに好ましい。
【0051】
T3はFeまたはFeとMであり、MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上である。すなわち、T3はFeのみ(不可避的不純物は含む)であってもよいし、FeとMからなってもよい(不可避的不純物は含む)。T3がFeとMからなる場合、T3全体に対するFe量は80mol%以上であることが好ましい。また、T3がFeとMからなる場合は、Mは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であってもよい。
【0052】
X2はBであり、Bの一部をC(炭素)で置換することができる。すなわち、X2は、BまたはBとCである。Bの一部をCで置換する場合、焼結体の製造工程中に積極的に添加するものだけでなく、焼結体の製造工程中で用いられる固体または液体の潤滑剤や、湿式成形の場合に用いられる分散媒などに由来して焼結体に残存するものも含まれる。潤滑剤や分散媒などに由来するCは不可避ではあるものの、一定の範囲に制御が可能(添加量や脱炭処理の調整)であるため、それらの量を考慮して、後述するT3とX2との関係を満たすようにB量や積極的に添加するC量を設定すればよい。焼結体の製造工程中に積極的にCを添加するには、例えば、原料合金を作製する際の原料としてCを添加する(Cが含有された原料合金を作製する)、あるいは、製造工程中の合金粉末(後述するジェットミルなどによる粉砕前の粗粉砕粉または粉砕後の微粉砕粉)に特定量のカーボンブラックなどのC源(炭素源)を添加するなどが挙げられる。なお、BはX2全体に対して80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上がより好ましい。また、X2はR3−T3−X2系合金焼結体全体の0.8mass%以上1.0mass%以下が好ましい。X2が0.8mass%未満でも本開示の効果を得ることはできるが、B
rの大幅な低下を招くため好ましくない。一方、X2が1.0mass%を超えると後述する[T3]/[X2]のmol比を13.0以上にできず本開示の効果が得られないため好ましくない。X2は0.83mass%以上0.98mass%以下であることがより好ましく、0.85mass%以上0.95mass%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
前記T3とX2とは、[T3]/[X2]のmol比が14.0以上となるように設定することが好ましい。すなわち、この条件は、一般的なR1−T1−X1系焼結磁石の主相の化学量論組成であるR
2T
14Bの[T]/[B]のmol比(=14.0)と同等もしくはTがリッチでBがプアであることを示している。発明者らは、主相の化学量論組成であるR
2T
14BよりもTがリッチでBがプア(もしくは[T]と[B]のmol比が化学量論組成と同等)である組成の合金焼結体に対して、R4−Zn系合金を拡散させることにより、磁石内部の奥深くまでPrとZnが拡散してR−T−Zn相(例えばR
6T
13Zn相)が生成され、磁石表面部と磁石内部の二粒子粒界を厚くすることができることを見出した。そして、さらに研究を重ねた結果、一般的なR1−T1−X1系焼結磁石の主相の化学量論組成であるR
2T
14Bの[T]/[B]のmol比よりもTがプアでBがリッチであっても、[T3]/[X2]のmol比が13.0以上であれば、14.0以上の合金焼結体を用いた際に得られる保磁力を超えることはできないものの、それに近い保磁力が得られることを見出した。これは、[T3]/[X2]のmol比が14.0以上という設定は、X2を構成するBとCが全て主相の形成に使われることを想定したものであるが、一般的にX2(特にC)はその全てが主相の形成に使われる訳ではなく粒界相中にも存在する。従って、実際は[X2]を若干多め(TがプアでBがリッチ)に設定しても、つまり、[T3]/[X2]のmol比を13.0以上としても、高い保磁力が得られることを見出した。主相と粒界相へのX2の分配比率を正確に求めることは困難であるが、[T3]/[X2]のmol比が13.0以上を満たしているとき、主相形成に使われているX2のmol濃度を[X2’](このとき前記[X2’]≦[X2]になる)とすると、[T3]/[X2’]が14.0以上となっていると考えられる。Cは上述したように積極的に添加しなくても焼結体の製造工程中において不可避的に含有されるものであるため、焼結体に含有されるC量を考慮して[T3]/[X2]のmol比を13.0以上にする必要がある。[T3]/[X2]のmol比が13.0未満であると、前記[T3]/[X2’]を14.0以上とすることが出来ない恐れがあり、最終的に得られるR1−T1−X1系焼結磁石において、磁石表面部と磁石内部の二粒子粒界を厚くすることができず、重希土類元素を用いることなく高い保磁力を有するR1−T1−X1系焼結磁石を得ることが困難となる恐れがある。なお、上述したように[T3]/[X2]のmol比は13.0以上で高い保磁力が得られるが、さらに高い保磁力を得るため、および、量産工程で安定的に高い保磁力を得るためには、[T3]/[X2]のmol比を13.6以上とすることが好ましく、13.8以上とすることがより好ましく、14.0以上とすることがさらに好ましい。また、[T3]/[X2]のmol比が15.0を超えるとX2を構成するB量が少なすぎて保磁力が大幅に低下する恐れがあるため、[T3]/[X2]のmol比は15.0以下であることが好ましい。
【0054】
R3−T3−X2系合金焼結体は、Nd−Fe−B系焼結磁石に代表される一般的なR1−T1−X1系焼結磁石の製造方法を用いて準備することができる。一例を挙げると、ストリップキャスト法などで作製された原料合金を、ジェットミルなどを用いて3μm以上10μm以下に粉砕した後、磁界中で成形し、900℃以上1100℃以下の温度で焼結することにより準備することができる。なお、得られた焼結体においては保磁力が非常に低くても差し支えない。原料合金の粉砕粒径(気流分散式レーザー回折法による測定で得られる体積中心値=D50)が3μm未満では粉砕粉を作製するのが非常に困難であり、生産効率が大幅に低下するため好ましくない。一方、粉砕粒径が10μmを超えると最終的に得られるR1−T1−X1系焼結磁石の主相の結晶粒径が大きくなり過ぎ、厚い二粒子粒界が形成されても高い保磁力を得ることが困難となるため好ましくない。
【0055】
R3−T3−X2系合金焼結体は、前記の各条件を満たしていれば、一種類の原料合金(単一原料合金)から作製してもよいし、二種類以上の原料合金を用いてそれらを混合する方法(ブレンド法)によって作製してもよい。また、R3−T3−X2系焼結体には、O(酸素)、N(窒素)など、原料合金に存在したり製造工程で導入される不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0056】
また、R3−T3−X2系合金焼結体を準備する際には、焼結後に、400℃以上、焼結温度未満の温度でさらに熱処理を行ってもよい。熱処理を行うことで、最終的なR1−T1−X1系焼結磁石の磁気特性をさらに向上させることができる場合がある。特に、R3−T3−X2系合金焼結体のT3中にM元素としてSi、Ga、Al、Zn、Agのうちの少なくとも一種を0.1mass%以上含むときには、700℃以上1000℃以下の高温熱処理を行うことが好ましい。この様な高温熱処理は焼結体にGaを含むときに特に有効である。
【0057】
(2)R4−Zn系合金を準備する工程
R4−Zn系合金を準備する工程において、R4−Zn系合金の組成は、R4は希土類元素のうちの少なくとも一種であり必ずPrをR4全体の50mol%以上含み、R4は60mol%以上85mol%以下であり、Znは15mol%以上40mol%以下であり、Zn全体の50mol%以下をCuで置換することができる。R4は70mol%以上85mol%以下であることが好ましく、70mol%以上85mol%以下であることがさらに好ましい。より高い保磁力を得ることが出来るからである。
【0058】
R4は希土類元素のうちの少なくとも一種であり必ずPrをR4全体の50mol%以上含む。なお、本開示における「PrをR4全体の50mol%以上含む」とは、R4−Zn系合金中のR4の含有量(mol%)を100%とし、そのうちの50%以上がPrであることを意味する。従って、例えばR4−Zn系合金中のR4が60mol%であれば、PrはR4−Zn合金中に30mol%以上含有される。PrがR4全体の50mol%未満であると、最終的に得られるR1−T1−X1系焼結磁石において、磁石内部の二粒子粒界を厚くすることができず、重希土類元素を用いることなく高い保磁力を有するR1−T1−X1系焼結磁石を得ることができない。好ましくは、R4−Zn系合金中のR4はPrのみからなる。より高い保磁力を得ることが出来るからである。R4にはR1−T1−X1系焼結磁石の保磁力を向上させるために一般的に用いられるDy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。但し、本開示によれば、前記重希土類元素を多量に用いずとも十分に高い保磁力を得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR4−Zn系合金全体の10mol%以下(R4−Zn系合金中の重希土類元素が10mol%以下)であることが好ましく、5mol%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mol%)ことがさらに好ましい。R4−Zn系合金のR4に前記重希土類元素を含有する場合も、R4の50mol%以上がPrであることが好ましく、重希土類元素を除いたR4がPrのみ(不可避的不純物は含む)であることがより好ましい。また、Znは15mol%以上40mol%以下であり、Zn全体の50mol%以下をCuで置換することができる。なお、本開示における「Zn全体の50mol%以下をCuで置換することができる」とは、R4−Zn系合金中のZnの含有量(mol%)を100%としたとき、そのうち50%以下をCuで置換することができることを意味する。例えば、R4−Zn系合金中のZnが30mol%であれば、R4−Zn系合金中の15mol%以下までCuをZnで置換することができる。
【0059】
R4−Zn系合金には、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Agなどが少量含まれていてもよい。また、Feは少量含まれてもよいし、Feを20mass%以下含有しても本開示の効果を得ることができる。但し、Feの含有量が20mass%を超えると保磁力が低下する恐れがある。また、O(酸素)、N(窒素)、C(炭素)などの不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0060】
R4−Zn系合金は、一般的なR1−T1−X1系焼結磁石の製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、R4−Zn系合金は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。
【0061】
(3)熱処理する工程
前記によって準備したR3−T3−X2系合金焼結体の表面の少なくとも一部に、前記によって準備したR4−Zn系合金の少なくとも一部を接触させ、真空または不活性ガス雰囲気中、450℃以上800℃以下の温度で熱処理する。これにより、R4−Zn系合金から液相が生成し、その液相が焼結体中の粒界を経由して焼結体表面から内部に拡散導入されて、主相であるR3
2T3
14X2相の結晶粒間にZnを含む厚い二粒子粒界を焼結体の内部まで容易に形成することができ、主相結晶粒間の磁気的な結合が大幅に弱められる。これにより、重希土類元素を用いずとも非常に高い保磁力を有するR1−T1−X1系焼結磁石が得られる。熱処理する温度は、好ましくは、480℃以上560℃以下である。より高い保磁力を有することができる。
【0062】
なお、一般的に、磁石寸法調整のための表面研削を行うと、焼結体表面から200μm程度の領域が除去されるため、厚い二粒子粒界がR3−T3−X2系合金焼結体の表面から250μm程度の領域まで存在していれば、本開示の効果を得ることができる。ただし、このような場合(厚い二粒子粒界が形成されている領域が焼結体表面から250μm程度の場合)には、熱処理後のR3−T3−X2系合金焼結体中央付近のH
cJが十分向上しないために、減磁曲線の角形性が悪化する可能性がある。このため、R3−T3−X2系合金焼結体中央付近のH
cJが、R4−Zn系合金と接触せずに450℃以上600℃以下の温度で熱処理(一般的なR1−T1−X1系焼結磁石の保磁力を向上させるための熱処理)を行ったときに、H
cJ≧1200kA/mが得られることが好ましく、H
cJ≧1360kA/mが得られることがさらに好ましい。このような焼結体を使うことで、R4−Zn合金の導入量が小さくても磁石全体として高いH
cJと優れた減磁曲線の角形性を得ることが可能となり、結果、高いB
rと高いH
cJの両立が容易に実現できる。
【0063】
R3−T3−X2系合金焼結体中央付近のH
cJが、R4−Zn系合金と接触せずに450℃以上600℃以下の温度で熱処理を行ったときに、H
cJ≧1200kA/mが得られるR3−T3−X2系合金焼結体は、T3にGaを含むときに容易に得ることができる。R3−T3−X2系合金焼結体全体に対するGaの含有量は0.05mass%以上1mass%以下が好ましく、0.1mass%以上0.8mass%以下がより好ましく、0.2mass%以上0.6mass%以下がさらに好ましい。
【0064】
前記の熱処理する工程において、R3−T3−X2系合金焼結体の表面の少なくとも一部に、R4−Zn系合金のみを接触させてもよいし、例えば、R4−Zn系合金の粉末を有機溶媒などに分散させ、これをR3−T3−X2系合金焼結体表面に塗布する方法や、R4−Zn系合金の粉末をR3−T3―X2系合金焼結体表面に散布する方法などを採用してもよい。また、後述する実施例に示す様に、R4−Zn系合金は、少なくともR3−T3−X2系合金焼結体の配向方向に対して垂直な表面に接触させるように配置することが好ましい。R3−T3−X2系合金焼結体の配向方向のみにR4−Zn系合金を接触させても、R3−T3−X2系合金焼結体の全面にR4−Zn系合金を接触させても本開示の特徴を有することができ、高いB
rと高いH
cJを得ることができる。
【0065】
R4−Zn系合金粉末を、R3−T3−X2系合金焼結体表面の少なくとも一部に散布および/または塗布することにより、より簡便にR3−T3−X2系合金焼結体表面の少なくとも一部に前記R4−Zn系合金の少なくとも一部を接触させることができる。
【0066】
R3−T3−X2系合金焼結体へのR4−Zn系合金から生成した液相の導入量は、保持温度や保持時間により制御することができる。焼結体の表面にR4−Zn系合金を散布および/または塗布する場合には、散布量または塗布量を制御することが好ましい。R4−Zn系合金の散布または塗布量は、R3−T3−X2系合金焼結体100質量部に対して0.2質量部以上5.0質量部以下とすることが好ましく、0.2質量部以上3.0質量部以下とすることがより好ましい。このような条件とすることで、高いB
rと高いH
cJの両立が容易に実現できる。なお、R3−T3−X2系合金焼結体の表面の一部にのみR4−Zn系合金を散布または塗布する場合には、配向方向に垂直な面に散布または塗布することが好ましい。
【0067】
熱処理は、真空または不活性ガス雰囲気中、450℃以上800℃以下の温度で保持した後冷却する。450℃以上800℃以下の温度で熱処理を行うことにより、R4−Zn系合金の少なくとも一部が溶解し、生成した液相が焼結体表面から内部に焼結体中の粒界を経由して拡散導入されて、厚い二粒子粒界を形成させることが可能となる。熱処理温度が450℃未満であると液相が全く生成せず厚い二粒子粒界が得られない。また、800℃を超えても厚い二粒子粒界を形成することが困難となる。なお、800℃を超える温度で熱処理を行った場合に、厚い二粒子粒界を形成することが困難となる理由は今のところ定かではないが、焼結体に導入された液相による主相の溶解や、R
6T
13Zn相(Rは希土類元素のうちの少なくとも一種でありPrおよび/またはNdを必ず含み、Tは遷移金属元素のうちの少なくとも一種でありFeを必ず含む)の生成などの反応速度が何らかの関与をしていると思われる。なお、熱処理時間はR3−T3−X2系合金焼結体の組成や寸法、R4−Zn系合金の組成、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上10時間以下が好ましく、10分以上8時間以下がより好ましく、30分以上8時間以下がさらに好ましい。
【0068】
前記の熱処理する工程によって得られたR1−T1−X1系焼結磁石は、切断や切削など公知の機械加工を行ったり、耐食性を付与するためのめっきなど、公知の表面処理を行うことができる。
【0069】
主相の結晶粒間に厚い二粒子粒界が形成されて、非常に高い保磁力が得られるメカニズムについては未だ不明な点もある。現在までに得られている知見を基に本発明者らが考えるメカニズムについて以下に説明する。以下のメカニズムについての説明は本開示の技術的範囲を制限することを目的とするものではないことに留意されたい。
【0070】
前記の通り、R3−T3−X2系合金焼結体の組成を化学量論組成(R3
2T3
14X2)よりもT3がリッチでX2がプアにしておくことで、熱処理により厚い二粒子粒界が容易に得られるようになる。これは、前記の組成域で、R4中のPrが粒界拡散を促進することにより、R2−Zn合金から生成した液相が、焼結体内部の二粒子粒界にまで拡散導入され、Znが二粒子粒界に導入されることにより焼結体中の二粒子粒界近傍の主相が溶解し、これらが450℃以上800℃以下の熱処理により容易にR
6T
13Zn相を生成して安定化される。これにより、冷却後も厚い二粒子粒界を維持することができ、非常に高い保磁力の発現につながると考えられる。なお、先述したとおり、一般的にX2は全て主相形成に使われないため、[T3]/[X2]が13.0以上であれば、厚い二粒子粒界相の形成を維持することができ、高い保磁力を発現する。
【0071】
これに対し、R3−T3−X2系合金焼結体の組成が化学量論組成(R3
2T3
14X2)よりもT3がプアでX2がリッチ、特に[T3]/[X2]が13.0未満であると、厚い二粒子粒界が得られ難くなる。これは、一旦溶解した主相(R3
2T3
14X2相)が再び主相として再析出しやすくなり、これが、粒界が厚くなるのを妨げているからであると考えられる。
【0072】
なお、前記のR
6T
13Zn相(R
6T
13Zn化合物)において、Rは希土類元素のうちの少なくとも一種でありPrおよび/またはNdを必ず含み、Tは遷移金属元素のうちの少なくとも一種でありFeを必ず含む。R
6T
13Zn化合物は代表的にはPr
6Fe
13Zn化合物である。また、R
6T
13Zn化合物はLa
6Co
11Ga
3型結晶構造を有する。R
6T
13Zn化合物はその状態によってはR
6T
13−δZn
1+δ化合物になっている場合がある。なお、R1−T1−X1系焼結磁石中にCu、Al、GaおよびSiが含有される場合、R
6T
13−δ(Zn
1−a−b−c−dCu
aAl
bSi
cGa
d)
1+δになっている場合がある。
【実施例】
【0073】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0074】
実験例1
[R3−T3−X2系合金焼結体の準備]
およそ表1のNo.1−Aから1−Jに示す焼結体の組成となるように各元素を秤量し、ストリップキャスト法により合金を作製した。得られた各合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粉砕粒径D
50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粉砕粒径D
50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。焼結体におけるC量を調整するために、No.1−C及びNo.1−Eにカーボンブラックを添加した。
【0075】
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。
【0076】
得られた成形体を、真空中、1000℃以上1040℃以下(サンプル毎に焼結による緻密化が十分起こる温度を選定)で4時間焼結した後急冷し、R3−T3−X2系合金焼結体を得た。得られた焼結体の密度は7.5Mg/m
3以上であった。得られた焼結体の成分、ガス分析(C(炭素量))の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した。なお、焼結体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.4mass%前後であることを確認した。表1における「[T3]/[X2]」は、T3を構成する各元素(不可避の不純物を含む、本実験例ではAl、Si、Mn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(a)と、BおよびCの分析値(mass%)をそれぞれの元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(b)との比(a/b)である。以下の全ての表も同様である。なお、表1の各組成を合計しても100mass%にはならない。これは、前記の通り、各成分によって分析方法が異なるため、さらには、表1に挙げた成分以外の成分(例えばO(酸素)やN(窒素)など)が存在するためである。その他の表についても同様である。
【0077】
【表1】
【0078】
[R4−Zn系合金の準備]
Prメタル、Znメタルを用いて(メタルはいずれも純度99%以上)、合金がおよそ表2のNo.1−aに示す組成になるように配合し、それらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)により、リボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、R4−Zn系合金を準備した。得られたR4−Zn系合金の組成を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
[熱処理]
表1のNo.1−Aから1−JのR3−T3−X2系合金焼結体を切断、切削加工し、11.0mm×5.0mm×4.4mm(配向方向)の直方体とした。次に、
図2に示すように、ニオブ箔により作製した処理容器3中に、主にR3−T3−X2系合金焼結体1の配向方向(図中の矢印方向)と垂直な面がR4−Zn系合金2と接触するように、表2に示すNo.1−aのR4−Zn系合金を、No.1−Aから1−JのR3−T3−X2系合金焼結体のそれぞれの上下に配置した。この例において、「磁石表面のうちで配向方向に直交する面から前記配向方向に沿って測定した厚さが200μmの領域」とは、R3−T3−X2系合金焼結体1の表面のうち、R4−Zn系合金2に接触している面における厚さ200μmの領域である。以下、この領域を単に「磁石表面部」と呼ぶ。
【0081】
その後、管状流気炉を用いて、200Paに制御した減圧アルゴン中で、表3に示す熱処理温度及び時間で熱処理を行った後、冷却した。熱処理後の各サンプルの表面近傍に存在するR4−Zn系合金の濃化部を除去するため、表面研削盤を用いて各サンプルを全面を切削加工し、4.0mm×4.0mm×4.0mmの立方体状のサンプル(R1−T1−X1系焼結磁石)を得た。
【0082】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、BHトレーサーにより保磁力(H
cJ)を測定した。測定結果を表3に示す。なお、表3の備考欄に記載された「本発明例」とは、本開示に規定する要件を満たす実施例であることを意味する。以下の表における「本発明例」も同様である。表3の通り、R1−T1−X1系焼結磁石における[T1]/[X1]のmol比を13.0以上とした本発明例(No.1−1、1−2、1−6、1−7及び1−10)はいずれも高いH
cJが得られた。特に14.0以上では1600kA/mを超える極めて高いH
cJが得られた。一方、[T1]/[X1]のmol比が13.0未満である比較例(No.1−3〜1−5、1−8及び1−9)は高いH
cJが得られなかった。
【0083】
【表3】
【0084】
表3に示すサンプルのうち、[T1]/[X1]のmol比が13.0以上であるNo.1−1(本発明例)と[T1]/[X1]のmol比が13.0未満であるNo.1−4(比較例)の断面(配向方向と平行な断面)を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JCM−6000)で観察した。その結果、No.1−1(本発明例)では、磁石表面部(具体的には、磁石表面のうちで配向方向(磁化方向)に直交する面から配向方向に沿って測定した深さが100μmの位置)から磁石中央部(磁石表面のうちで配向方向(磁化方向)に直交する面から配向方向に沿って測定した深さが2.0mmの場所、すなわち、磁石の中央に位置する部分)に渡って100nm以上の厚い二粒子粒界が形成されていた。これに対し、No.1−4(比較例)では、厚い二粒子粒界の形成は磁石表面部のみにとどまっていた。さらに、本発明例であるNo.1−1の断面に対しSEM(日本電子製JSM−7001F)付属装置(日本電子製JED−2300 SD10)によるエネルギー分散X線分光分析(EDS)を実施した結果、磁石中央部の粒界からZnが検出されるとともに、その一部は含有量から、R
6T
13Zn相と解釈された。
【0085】
実験例2
およそ表4のNo.2−Aに示す焼結体の組成となるように各元素を秤量する以外は実験例1と同様の方法でR3−T3−X2系合金焼結体を複数個作製した。得られた焼結体の成分、ガス分析(C(炭素量))の結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
合金がおよそ表5のNo.2−aから2−lに示す組成となるように配合する以外は実験例1と同様の方法でR4−Zn系合金を作製した。得られたR4−Zn系合金の組成を表5に示す。
【0088】
【表5】
【0089】
複数個のR3−T3−X2系合金焼結体を実験例1と同様に加工した後、実験例1と同様にNo.2−aから2−lのR4−Zn系合金とNo.2−AのR3−T3−X2系合金焼結体とが接触するよう配置し、実験例1と同様に熱処理および加工を行い、サンプル(R1−T1−X1系焼結磁石)を得た。得られたサンプルを実験例1と同様な方法により測定し、保磁力(H
cJ)を求めた。その結果を表6に示す。表6に示す通り、R4−Zn系合金におけるR4全体の50mol%以上がPrであり、R4を60mol%以上85mol%以下の範囲とした本発明例(No.2−3〜2−7及び2−9、2−10)はいずれも高いH
cJが得られた。一方、R4−Zn系合金における、R4の含有量が85mol%を超えているNo.2−1及び2−2、R4の含有量が60mol%未満であるNo.2−8、PrがR4全体の50mol%未満であるNo.2−11及び2−12はいずれも高いH
cJが得られなかった。
【0090】
【表6】
【0091】
実験例3
およそ表7のNo.3−Aに示す焼結体の組成となるように各元素を秤量する以外は実験例1と同様の方法でR3−T3−X2系合金焼結体を作製した。得られた焼結体の成分、ガス分析(C(炭素量))の結果を表7に示す。
【0092】
【表7】
【0093】
合金がおよそ表8に示すNo.3−aから3−dに示す組成となるように配合する以外は実験例1と同様の方法でR4−Zn系合金を作製した。得られたR4−Zn系合金の組成を表8に示す。
【0094】
【表8】
【0095】
R3−T3−X2系合金焼結体を実験例1と同様に加工した後、実験例1と同様にNo.3−aから3−dのR4−Zn系合金とNo.3−AのR3−T3−X2系合金焼結体とが接触するよう配置し、表9に示す熱処理温度とする以外は実験例1と同様に熱処理および加工を行い、サンプル(R1−T1−X1系焼結磁石)を得た。得られたサンプルを実験例1と同様な方法により測定し、保磁力(H
cJ)を求めた。その結果を表9に示す。表9の通り、熱処理温度が450℃以上800℃以下(表9中の本発明例)のときに高いH
cJが得られた。特に熱処理温度が480℃から560℃のときにさらに高いH
cJが得られた。
【0096】
【表9】
【0097】
表9に示すNo.3−2(本発明例)及び3−8(比較例)の断面(配向方向と平行な断面)を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JCM−6000)で観察した。その結果を
図3〜
図6に示す。
図3はNo.3−2の磁石表面部(磁石表面から100μmの場所)を観察した写真であり、
図4はNo.3−2の磁石中央部(磁石表面から深さが2.0mmの場所)を観察した写真である。また、
図5はNo.3−8の磁石表面部(磁石表面から100μmの場所)を観察した写真であり、
図6はNo.3−8の磁石中央部(磁石表面から2.0mmの場所)を観察した写真である。
図3〜
図6に示すように、No.3−2(本発明例)では、
図3に示す磁石表面部及び
図4に示す磁石中央部いずれも100nm以上の厚い二粒子粒界が形成されたのに対し、No.3−8(比較例)では、
図6に示す磁石中央部において100nm以上の厚い二粒子粒界が得られていなかった。
【0098】
実験例4
表6に示すNo.2−3、2−5、2−6、2−9、2−10(いずれも本明例)及びNo2−11、2−12(いずれも比較例)の断面(配向方向と平行な断面)を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JSM−7001F)で観察し、磁石表面部(磁石表面から100μmの場所すなわち、磁石の表面から深さ200μmまでの範囲)及び磁石中央部(磁石表面から2.0mm以上の場所、すなわち、磁石の中央に位置する部分)において、付属装置(JED−2300 SD10)を用いてエネルギー分散X線分光分析(EDS)を実施し組成を求めた。EDSを実施する領域は
図7に示すように50nm×50nmの大きさとした。得られた結果を表10に示す。表10に示す様に、No.2−3、2−5、2−6、2−9、2−10及び2−11は、いずれもPrの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が高く(3.0mass%以上高い)、Znの濃度は、磁石中央部よりも磁石表面部の方が高い(1.0mass%以上高い)。また、No.2−12のPrの濃度は、磁石中央部と磁石表面部とで差がなかった(いずれも0mass%)。これは、No.12はR4−Zn系合金におけるR4がNdであり、Prを含有していないためである。また、No.2−11及び2−12は、磁石中央部までZnが拡散していない(磁石中央部におけるZnは0mass%)ことが分かる。
【0099】
【表10】
【0100】
更に、No.2−6(本発明例)、No.2−11(比較例)およびNo.2−12(比較例)におけるる断面(配向方向と平行な断面)を走査電子顕微鏡(SEM:日本電子製JSM−7001F)で観察し、No.2−6の磁石中央部(磁石表面から2.0mm以上の場所)、並びに、No.2−11およびNo.2−12の磁石表面部(磁石表面から100μmの場所)において、付属装置(JED−2300 SD10)を用いてエネルギー分散X線分光分析(EDS)を実施し局所領域の組成を求めた。
図8〜10にEDSを実施した局所領域の場所(No.2−6は
図8、No.2−11は
図9、No.2−12は
図10)を示す。また、表11〜表13にそれぞれの分析結果を示す。また、
図8〜10中の番号5で示した領域について結晶構造を同定した所、電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM:日立ハイテクノロジー製HF−2100)を用いた回折パタンからLa
6Co
11Ga
3型の結晶構造であることが示されており、組成比から(Nd,Pr)
6Fe
13Zn相であることを確認した。また、表11〜表13に示す様に、本発明例(表11)における(Nd,Pr)
6Fe
13Zn相(表11中のR
6Fe
13Zn相)は、R(Nd及びPr)全体の50mol%以上がPrでありR2−T2−A化合物であるのに対し、比較例(表12及び13)におけるR
6Fe
13Zn相は、R全体の50mol未満がPrでありR2−T2−A化合物ではなかった。
【0101】
【表11】
【0102】
【表12】
【0103】
【表13】