特許第6757955号(P6757955)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6757955n型SiC単結晶基板及びその製造方法、並びにSiCエピタキシャルウェハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6757955
(24)【登録日】2020年9月3日
(45)【発行日】2020年9月23日
(54)【発明の名称】n型SiC単結晶基板及びその製造方法、並びにSiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20200910BHJP
   C30B 23/06 20060101ALI20200910BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20200910BHJP
【FI】
   C30B29/36 A
   C30B23/06
   H01L21/203 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-186907(P2016-186907)
(22)【出願日】2016年9月26日
(65)【公開番号】特開2018-52749(P2018-52749A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年4月17日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス/SiCに関する拠点型共通基盤技術開発/SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発」 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】江藤 数馬
(72)【発明者】
【氏名】周防 裕政
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
【審査官】 谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−030640(JP,A)
【文献】 特開2010−064918(JP,A)
【文献】 特開2011−219297(JP,A)
【文献】 特開2006−111478(JP,A)
【文献】 特開2003−073194(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/129876(WO,A1)
【文献】 特開2012−031014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーとアクセプターが共にドープされた基板であって、
前記基板の外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が中央部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差よりも小さく、かつ、
前記外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が、3.0×1019/cmより小さく、
前記外周部のドナー濃度とアクセプター濃度の差より、前記中央部のドナー濃度とアクセプター濃度の差の方が、0.9×1019/cmより大きいn型SiC単結晶基板。
【請求項2】
前記外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が2.0×1019/cmより小さい請求項1に記載のn型SiC単結晶基板。
【請求項3】
前記ドナーは窒素(N)であり、前記アクセプターがアルミニウム(Al)又はホウ素(B)である請求項1又は2のいずれかに記載のn型SiC単結晶基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のn型SiC単結晶基板上に、SiCエピタキシャル膜が形成されたSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項5】
前記n型SiC単結晶基板の積層欠陥密度が5cm−1以下である請求項4に記載のエピタキシャルウェハ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のn型SiC単結晶基板の製造方法であって、
昇華再結晶法によって、種結晶の一面にドナーとアクセプターとを共ドープしながらSiC単結晶を積層する結晶成長工程を有し、
前記結晶成長工程の少なくとも一部において結晶成長面を凸形状に維持するn型SiC単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記結晶成長工程後に、1000℃以上、2000℃以下の熱負荷工程を行う請求項6に記載のn型SiC単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、n型SiC単結晶基板及びその製造方法、並びにSiCエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
SiC単結晶は、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiC等の多形を持つ。多形は、SiCの結晶構造がc軸方向(<000−1>方向)から見た際の最表面構造として違いがないことに起因して生じる。
これらの多形のうち、特に4H−SiC単結晶は移動度が高くパワーデバイスへの利用が期待されている。
【0004】
SiCパワーデバイス等を作製するにはデバイス構造によっては、n型単結晶基板のみならず、p型単結晶基板も必要になるが、製造が容易であることなどの理由で、p型単結晶基板に比べてn型SiC単結晶の方が低抵抗化など多くの研究が進んでいる。そのため、SiC単結晶基板を用いてパワーデバイス等の電子デバイスを作製する場合、通常、低抵抗のn型SiC単結晶基板を下地基板として用いる。
n型SiC単結晶基板では、ドナー元素として窒素が使用されるのが一般的である。SiC単結晶中にドープされた窒素原子は炭素原子と置換してドナーとして作用する。
【0005】
SiCパワーデバイスでは、単結晶基板の抵抗率を低くしてデバイスの抵抗値を下げることが重要である。窒素の濃度を増やすことにより、n型SiC単結晶基板の抵抗率を下げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−30640号公報
【特許文献2】特開2008−290898号公報
【特許文献3】特開2011−219297号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T. Kato et al., Mater. Sci. Forum 778-780, (2014) pp47-50
【非特許文献2】K. Irmascher et al., Physica B 376-377 (2006) pp338-341
【非特許文献3】T. A. Kuhr et al., J. Appl. Phys., Vol. 92 (2002) pp5865-5871
【非特許文献4】R. Wei et al, Int. J. Electrochem. Sci. 8, (2013) pp7099-7106
【非特許文献5】S. Nishizawa et al., J. Crystal Growth 303(2007), 342-344
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、窒素の濃度を高くするほど積層欠陥が増大し、特に、窒素の濃度を3×1019/cmより多くすると結晶成長中に積層欠陥をより増大させることになり、結晶性を著しく低下させてしまうという報告がある(特許文献1)。
一方、特許文献1及び非特許文献1には、ドナー元素とアクセプター元素とを共にドープすることにより、n型SiC単結晶基板(アズグローン基板)の結晶成長中に発生する積層欠陥が低減できることが開示されている。特に、特許文献1には、ドナー元素の濃度からアクセプター元素の濃度を差し引いた値(以下、「ドナー濃度−アクセプター濃度」ということがある)を1×1021/cm以下とすることにより、n型SiC単結晶基板において積層欠陥を大きく抑制できることが開示されている。
【0009】
また、窒素濃度を2.0×1019/cm以上とした4H−SiC単結晶基板を用いたエピタキシャル膜の成長過程等で1000℃以上の熱処理を施した場合、単結晶基板中に多数の2重積層欠陥(ダブルショックレー型積層欠陥)が形成されたという報告がある(非特許文献2,3)。
また、非特許文献3には、窒素濃度が高くなると、熱処理によるダブルショックレー型積層欠陥(DSSF)が生成しやすいことが示されている。
低抵抗化のためには窒素濃度を高くしたいが、窒素濃度を高くすると、熱処理によるダブルショックレー型積層欠陥が多く生成してしまうというジレンマがあった。
【0010】
これに対して、特許文献2や特許文献3には、このような低抵抗のSiC単結晶基板が熱処理されることにより発生するダブルショックレー型積層欠陥は機械的応力等によって発生する通常の積層欠陥とは異なる積層欠陥であり、低抵抗率の基板のおもて面・裏面や外周側面を所定の表面粗さを有するように研磨することで、ダブルショックレー型積層欠陥の発生を抑制できる旨、報告されている。
【0011】
ところで、SiC単結晶インゴットからウエハ(基板)をスライスした際、その外周部には鋭いエッジが存在しており、このエッジを面取りするベベリング加工が行われる。このベベリング加工を行った基板の外周部の表面の粗さを小さくすることは容易ではない。従って、SiC単結晶基板の外周部については、特許文献2や特許文献3に記載されている方法を適用しても、熱処理によって発生するダブルショックレー型積層欠陥を十分に抑制できず、ダブルショックレー型積層欠陥が残ってしまうことが考えられる。それでも、なんとか基板の外周部の表面の粗さを小さくしようと通常以上に工程を増やしたりすると、SiC単結晶基板の製造コストが増大してしまう。
【0012】
図1に、熱処理前後のSiC単結晶基板の断面模式図を示す。(a)は、熱処理前のSiC単結晶基板であり、おもて側あるいは裏側の表面、及び、外周側面にベベリング加工によるダメージ(損傷)があることを模式的に示しており、(b)は、熱処理後にその加工ダメージに起因してダブルショックレー型積層欠陥が発生し、それが拡大してデバイス使用領域にまで混入していくことを模式的に示している。
本明細書において、デバイス使用領域とは、チップとして用いる領域を意味し、チップとして用いないエッジエクスクルージョン領域に相対する領域を意味する。エッジエクスクルージョン領域はSiC単結晶基板(ウェハ)の最外周から所定の距離の領域が設定され(例えば、最外周からウェハの中心方向へ2mmの領域をエッジエクスクルージョン領域として設定される)、そのエッジエクスクルージョン領域よりも内側の領域がデバイス使用領域である。
【0013】
図1に模式的に示したように、SiC単結晶基板の外周側面のベベリング加工によるダメージに起因してダブルショックレー型積層欠陥が発生し、それが拡大してデバイス使用領域にまで混入していく。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、熱処理の際にダブルショックレー型積層欠陥がSiC単結晶基板の外周部からデバイス使用領域へと混入していくのが抑制されたSiC単結晶基板およびその製造方法、並びにSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意検討の結果、昇華再結晶法により種結晶の(000−1)C面あるいはこの面に対してオフ角を有する面上に、ドナー及びアクセプターを共ドープしながらSiC単結晶を結晶成長させてSiC単結晶インゴットを製造する際に、結晶成長面を凸状に維持して結晶成長を行った場合、得られたSiC単結晶インゴットをC面あるいはこの面に対してオフ角を有する面でスライスしたSiC単結晶基板(ウェハ)においては、その外周部における「ドナー濃度−アクセプター濃度」が中央部よりも小さくなることを見出した。すなわち、ドナーである窒素(N)の取り込み量(濃度)は(000−1)C面(ジャスト面)で多く、C面(ジャスト面)からずれると少なくなるのに対して、アクセプターであるアルミニウム(Al)あるいはホウ素(B)の取り込み量(濃度)はそのような面方位依存性はなく、ほぼ面内均一の濃度になることを見出したことに基づく。このように、窒素の濃度は(000−1)C面(ジャスト面)で多く、C面(ジャスト面)からずれると少なくなるという面方位依存性があるのに対して、アルミニウム(Al)あるいはホウ素(B)の濃度ではC面近傍では面方位依存性がほとんどないので、SiC単結晶基板の外周部における「ドナー濃度−アクセプター濃度」が中央部よりも小さくすることができるのである。「ドナー濃度−アクセプター濃度」が低いとダブルショックレー型積層欠陥が発生しにくくなるし、後述するように、ダブルショックレー型積層欠陥が発生したとしても、「ドナー濃度−アクセプター濃度」度が低いとダブルショックレー型積層欠陥の拡大速度が遅くなる。従って、熱処理の際にSiC単結晶基板の外周部からデバイス使用領域へと混入していくのが抑制されるのである。なお、中央部において「ドナー濃度−アクセプター濃度」が高いと、デバイス使用領域で抵抗率が下がるという効果が得られる。
すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0016】
(1)本発明の一態様に係るn型SiC単結晶基板は、ドナーとアクセプターが共にドープされており、外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が中央部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差よりも小さく、かつ、3.0×1019/cmより小さい。
ここで、「外周部」とは、SiC単結晶基板のうち、ベベリング加工がなされる部分(領域)であり、「中央部」とは、「外周部」よりもSiC単結晶基板の中心側の部分(領域)である。例えば、「外周部」は最外周からウェハの中心方向へ2mmの部分(領域)である。
【0017】
(2)上記(1)に記載のn型SiC単結晶基板において、外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が2.0×1019/cmより小さくてもよい。
【0018】
(3)上記(1)又は(2)のいずれかに記載のn型SiC単結晶基板において、ドナー濃度とアクセプター濃度の差が外周部より中央部の方が1.0×1019/cmより大きくてもよい。
【0019】
(4)本発明の一態様に係るSiCエピタキシャルウェハは、(1)〜(3)のいずれか一つに記載のn型SiC単結晶基板上にSiCエピタキシャル膜が形成されたものである。
【0020】
(5)上記(4)に記載のエピタキシャルウェハにおいて、n型SiC単結晶基板の積層欠陥密度が5cm−1以下であってもよい。
【0021】
(6)本発明の一態様に係るn型SiC単結晶基板の製造方法は、昇華再結晶法によって、種結晶の一面にドナーとアクセプターとを共ドープしながらSiC単結晶を積層する結晶成長工程を有し、前記結晶成長工程の少なくとも一部において結晶成長面を凸形状に維持する。
【0022】
(7)上記(6)に記載のn型SiC単結晶基板の製造方法において、前記結晶成長工程後に、1000℃以上、2000℃以下の熱負荷工程を行ってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のn型SiC単結晶基板によれば、熱処理の際にダブルショックレー型積層欠陥がSiC単結晶基板の外周部からデバイス使用領域へと混入していくことが抑制されたSiC単結晶基板を提供できる。
本発明のSiCエピタキシャルウェハによれば、熱処理の際にダブルショックレー型積層欠陥がSiC単結晶基板の外周部からデバイス使用領域へと混入していくことが抑制されたSiC単結晶基板にSiCエピタキシャル膜が形成されたSiCエピタキシャルウェハを提供できる。
本発明のn型SiC単結晶基板の製造方法によれば、熱処理の際にダブルショックレー型積層欠陥がSiC単結晶基板の外周部からデバイス使用領域へと混入していくことが抑制されたSiC単結晶基板の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】熱処理前後のSiC単結晶基板の断面模式図であり、(a)は、熱処理前のSiC単結晶基板の断面模式図であり、(b)は、熱処理後のSiC単結晶基板の断面模式図である。
図2】横軸に「ドナー濃度−アクセプター濃度」、縦軸に積層欠陥の拡大速度をとったグラフである。
図3】SiC単結晶製造装置の一例を示した断面模式図である。
図4】本発明のn型SiC単結晶基板の製造方法を用いて製造した、1インチのn型SiC単結晶基板について、外周部と中央部の窒素濃度、アルミニウム濃度、及び、(窒素濃度―アルミニウム濃度)をSIMSによって測定した結果を示す。
図5】渦電流法により測定した抵抗率分布(左のグラフ)、及び、その抵抗率分布に基づき上記の式に基づいて算出した推定(窒素濃度―アルミニウム濃度)分布(右のグラフ)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。また、以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0026】
(n型SiC単結晶基板)
本発明の一態様に係るn型SiC単結晶基板は、ドナーとアクセプターが共にドープされており、外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が中央部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差よりも小さく、かつ、3.0×1019/cmより小さい。外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が2.0×1019/cmより小さいことが好ましい。
また、デバイス使用領域でより抵抗率を下げる効果を得るため、ドナー濃度とアクセプター濃度の差が外周部より中央部の方が1.0×1019/cmより大きいことが好ましい。図5に示した例では、最大で1.5×1019/cm程度の大きさの違いがある。
【0027】
本発明のn型SiC単結晶基板は、n型4H−SiC単結晶基板であることが好ましい。
【0028】
ドナーとしては、V族元素である窒素、リンもしくはヒ素のいずれかを用いることができる。また、アクセプターとしては、III族元素であるアルミニウム、ホウ素もしくはガリウムのいずれかを用いることができる。
【0029】
図2は、横軸に「ドナー(N)濃度−アクセプター(Al、B)濃度」、縦軸に積層欠陥の拡大速度をとったグラフである。比較のために、窒素単独ドープのサンプルについても載せた。このサンプルの場合、横軸は窒素濃度である。
【0030】
「ドナー(N)濃度−アクセプター(Al、B)濃度」は抵抗率の測定データに基づき、以下の式(1)から導出したものである。

I=n/a=1/aρμe ・・・(1)

I:推定「ドナー(N)濃度−アクセプター(Al、B)濃度」
a:活性化率 0.65を仮定
n:キャリア濃度
ρ:抵抗率 測定データを使用
μ:移動度 30(cm2/Vs)を仮定
e:素電荷 1.602×10-19クーロン

抵抗率は、渦電流法により測定した。
また、活性化率や移動度は同程度のキャリア濃度を有する結晶のホール測定により推測される値を使用した。
【0031】
発明者らは、「ドナー濃度−アクセプター濃度」が低いと、SiC単結晶基板(ウェハ)に熱処理を加えた時に発生する積層欠陥の拡大を抑制する効果があることを見出した。すなわち、図2において「ドナー濃度−アクセプター濃度」が大きくなるほど、窒素の単ドープの場合に比べて、積層欠陥の拡大速度の差が大きくなっている。従来、共ドープがSiC単結晶(インゴット)の成長時の積層欠陥の発生を抑制することは知られていたが、SiC単結晶基板(ウェハ)の状態で熱処理を加えた場合に発生する積層欠陥との関係については、明らかではなかった。
今回、この関係を調べるために、積層欠陥の拡大速度を以下のようにして得た。
まず、微小硬度計(Micro Hardness Tester)によって、凹み(Indentation)を形成する。その凹みを積層欠陥の開始点とする。その後、凹みを有するSiC単結晶基板(ウェハ)をアルゴン雰囲気中で1000℃で2時間加熱する。その後、500℃で3〜5分、溶融KOHエッチングを行うことにより、積層欠陥のエッチピットを形成した。開始点からエッチピットの端までの距離を光学顕微鏡を用いて測定した。この距離を、加熱時間である2時間で除することにより、積層欠陥の拡大速度を得た。
【0032】
図2から、「窒素濃度−アルミニウム濃度」あるいは「窒素濃度−ホウ素濃度」と窒素濃度とが同じ場合、窒素とアルミニウム又はホウ素との共ドープの場合は、窒素単独ドープの場合よりも積層欠陥の拡大速度が遅いことがわかる。
また、共ドープの場合でも、窒素とホウ素との共ドープの場合の方が、窒素とアルミニウムとの共ドープの場合よりも積層欠陥の拡大速度が遅いことがわかる。
【0033】
特許文献1において、積層欠陥が増大して結晶性を著しく低下する窒素濃度として2×1019/cmより多いという報告がされている。図2において、この2×1019/cmを積層欠陥が増大して結晶性を著しく低下する臨界濃度とすると、この窒素濃度での積層欠陥の拡大速度が30μm/h程度に相当すると思われる。すなわち、積層欠陥の拡大速度が30μm/h程度を超えるような窒素濃度になると、積層欠陥を増大して結晶性を著しく低下すると考えることができる。
そこで、共ドープの場合にも、この積層欠陥の拡大速度30μm/hにおける「ドナー濃度−アクセプター濃度」を積層欠陥が増大して結晶性を著しく低下する臨界濃度とすると、その「ドナー濃度−アクセプター濃度」よりも小さな「ドナー濃度−アクセプター濃度」とすることにより、積層欠陥の増大を抑えることができるものと思われる。その濃度を、窒素とホウ素との共ドープの場合と窒素とアルミニウムとの共ドープの場合とのおおよそ中間にとると、3.0×1019/cmとなる。
従って、本発明のn型SiC単結晶基板は、外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が3.0×1019/cmより小さいものとしたのである。外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差が2.0×1019/cmより小さいとより好ましい。
【0034】
図2で示したデータを得たサンプルであるSiC単結晶基板の作製方法について説明する。
【0035】
まず、窒素(N)とアルミニウム(Al)を共ドープさせたn型4H−SiC単結晶基板の製造方法について述べる。
図3は、このSiC単結晶製造装置の一例を示した断面模式図である。SiC単結晶製造装置10は、反応空間Rを形成する坩堝1と、SiC原料M1を保持できる保持部2と、保持部2を支持する支持部3と、種結晶Sを設置可能な設置部4と、第1領域を加熱する第1ヒータ5と、第2領域を加熱する第2ヒータ6とを備える。坩堝1の底部には、アルミニウム原料M2を設置することができる。以下、このSiC単結晶製造装置10を例に、n型4H−SiC単結晶の製造方法について説明する。
種結晶は4H−SiC結晶であって、(000−1)C面が成長面となるように設置した。
【0036】
まずSiC原料M1とアルミニウム原料M2を準備する。
SiC原料M1は、一般に広く用いられるSiC粉末等を用いることができる。アルミニウム原料M2は、窒化されたアルミニウム化合物、窒化されていないアルミニウム化合物のいずれでもよい。
【0037】
SiC原料M1とアルミニウム原料M2はそれぞれ分離して設置することが好ましい。
例えば、SiC原料M1は保持部2に、アルミニウム原料M2は坩堝1の底部に設置することができる。
【0038】
次いで、SiC原料M1とアルミニウム原料M2とを昇華させる。SiC原料M1とアルミニウム原料M2はそれぞれ異なる温度で昇華させることが好ましい。
【0039】
1500℃から2500℃の範囲では、SiC原料M1の蒸気圧は、アルミニウム原料M2の蒸気圧より低い。そのため、通常のSiC原料M1の昇華する条件でアルミニウム原料M2を加熱するとアルミニウム原料M2が大きな昇華速度となり、アルミニウムのドーピング量の調整やSiC結晶成長に問題を生じる。SiC原料M1とアルミニウム原料M2を別々に設置し、それぞれを異なるコイルで温度制御することでこれらの問題を解決することができる。
【0040】
SiC原料M1とアルミニウム原料M2の温度の制御は、第1ヒータ5と第2ヒータ6によって実現することができる。例えば、第1ヒータ5が坩堝1内のSiC原料M1が存在する第1領域を加熱し、第2ヒータ6が坩堝1内のアルミニウム原料M2が存在する第2領域を加熱するように設計することで、SiC原料M1とアルミニウム原料M2の温度を別々に制御することができる。より具体的には、第1ヒータ5の温度をSiC原料M1が昇華可能な2200〜2500℃程度とし、第2ヒータ6の温度をアルミニウム原料M2が昇華可能な1700〜2000℃程度とすることができる。
【0041】
反応空間R内への窒素ガスの供給は坩堝1を介して行うことができる。坩堝1は、窒素ガス透過性を有する。そのため、坩堝1にガスの供給部を設けなくても、坩堝1を囲む雰囲気を窒素ガスが混合された雰囲気とすることで、反応空間R内に窒素ガスを供給することができる。
【0042】
次に、窒素(N)とホウ素(B)を共ドープさせたn型4H−SiC単結晶基板の製造方法について述べる。
ホウ素原料として用いることができる炭化ホウ素(BC)の蒸気圧は、Alの蒸気圧に比べて3桁程度低い。炭化ホウ素粉末はSiC原料粉末と同じヒータで加熱することができる。従って、窒素(N)とホウ素(B)を共ドープさせたn型4H−SiC単結晶基板は、窒素を単独でドープさせたn型4H−SiC単結晶基板の製造装置と同様の通常のSiC単結晶製造装置を用いることができる(例えば、非特許文献4参照)。炭化ホウ素粉末とSiC原料粉末を混合することで、通常と同様のSiC単結晶製造工程で窒素とホウ素を共ドープさせたSiC単結晶を作製できる。
種結晶は4H−SiC結晶であって、(000−1)C面が成長面となるように設置できる。
種結晶は例えば、2100℃〜2150℃となるように温度を設定できる。
原料粉末のうち、BC粉末の割合は例えば、0.05wt%程度とし、SiC粉末及びBC粉末の原料粉末が例えば、2250℃〜2300℃となるように温度を設定できる。
坩堝を囲む雰囲気は例えば、アルゴン及び窒素の雰囲気とし、窒素の分圧を例えば、5〜100%に設定できる。
【0043】
(SiCエピタキシャルウェハ)
本発明の一実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハは、本発明のn型SiC単結晶基板上に、SiCエピタキシャル膜が形成されたものである。
SiCエピタキシャル膜の形成には公知の方法を用いることができる。
【0044】
本発明のSiCエピタキシャルウェハは、これに用いたn型SiC単結晶基板の積層欠陥密度が5cm−1以下であることが好ましい。このn型SiC単結晶基板の積層欠陥密度は、2cm−1以下であることがより好ましく、1cm−1以下であることがさらに好ましい。
【0045】
(n型SiC単結晶基板の製造方法)
本発明の一実施形態に係るn型SiC単結晶基板の製造方法は、昇華再結晶法によって、種結晶の一面にドナーとアクセプターとを共ドープしながらSiC単結晶を積層する結晶成長工程を有し、前記結晶成長工程の少なくとも一部において結晶成長面を凸形状に維持する。
結晶成長工程中において、結晶成長面を凸形状に維持する理由は、ドナー濃度は(000−1)C面(ジャスト面)で多く、C面(ジャスト面)からずれると少なくなるという面方位依存性があるのに対して、アクセプター濃度ではC面近傍では面方位依存性がほとんどないので、SiC単結晶基板の外周部における「ドナー濃度−アクセプター濃度」が中央部よりも小さくすることができるのである。「ドナー濃度−アクセプター濃度」が低いとダブルショックレー型積層欠陥が発生しにくくなるし、ダブルショックレー型積層欠陥が発生したとしても、「ドナー濃度−アクセプター濃度」が低いとダブルショックレー型積層欠陥の拡大速度が遅くなる。従って、熱処理の際にSiC単結晶基板の外周部からデバイス使用領域へと混入していくのが抑制されるからである。
この製造方法を用いることによって、本発明のn型SiC単結晶基板を製造することができる。
【0046】
本発明の一実施形態に係るn型SiC単結晶基板の製造方法において、前記結晶成長工程後に、1000℃以上、2000℃以下の熱負荷工程を行ってもよい。かかる熱負荷工程を行っても、n型SiC単結晶基板の積層欠陥密度が5cm−1以下である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図4に、本発明のn型SiC単結晶基板の製造方法を用いて製造した、直径32mm(1インチ)のn型SiC単結晶基板について、外周部と中央部の窒素濃度、アルミニウム濃度、及び、窒素濃度―アルミニウム濃度をSIMS分析によって測定した結果を示す。
【0049】
結晶成長面を適切な凸形状に維持するために種結晶中心部より種結晶外周部で温度が高い環境で結晶成長を行った。温度が低い中心部では結晶成長速度が速く、温度が高い外周部では結晶成長速度が遅くなるため、このような温度分布とすることで結晶成長面を適切な凸形状とすることができる。なお、結晶内の温度分布を大きくすると、より急峻な凸形状が形成できるが、温度分布が大きすぎる場合には、熱応力が増大し結晶にクラックや割れの発生や基底面転位の増加が起こりうる。
本発明のn型SiC単結晶基板を製造する、すなわち、外周部におけるドナー濃度とアクセプター濃度の差を3.0×1019/cmより小さく製造するように、結晶成長面を適切な凸形状にする、種結晶中心部と種結晶外周部との温度環境の制御方法は、公知の方法(例えば、非特許文献5参照)によって行うことができる。
【0050】
図5は、渦電流法により測定した抵抗率分布(左のグラフ)、及び、その抵抗率分布に基づき上記の式(1)に基づいて算出した推定した(窒素濃度―アルミニウム濃度)分布(右のグラフ)を示す。
上記の式(1)は、抵抗率分布から「ドナー濃度−アクセプター濃度」分布の推定のみに使用した。そのため、式(1)を用いる際には、活性化率や移動度は同程度の「ドナー濃度とアクセプター濃度」を有する結晶のホール測定により推測される値を使用した。
図5における推定(窒素濃度―アルミニウム濃度)分布は、SIMSによって測定した外周部と中央部の(窒素濃度―アルミニウム濃度)とよく一致しており、抵抗率の測定データに基づき上記の式(1)に基づいて「ドナー濃度−アクセプター濃度」を算出することの有効性が担保された。
【0051】
(実施例2)
実施例1のn型SiC単結晶基板上に、エピタキシャル成長温度1600℃でSiCエピタキシャル膜を形成したSiCエピタキシャルウェハを作製した。SiCエピタキシャル膜の膜厚は10μm、窒素濃度は1×1016/cmであった。フォトルミネッセンス(PL)マッピングを行ったところ、ダブルショックレー型積層欠陥のスペクトルのピーク波長(約500nm)をもつ発光はみられず、積層欠陥が発生していなかった(ダブルショックレー型積層欠陥密度が0cm−1)。
【符号の説明】
【0052】
1…坩堝、2…保持部、3…支持部、4…設置部、5…第1ヒータ、6…第2ヒータ、M1…SiC原料、M2…アルミニウム原料、S…種結晶、R…反応空間
図1
図2
図3
図4
図5