特許第6764687号(P6764687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6764687
(24)【登録日】2020年9月16日
(45)【発行日】2020年10月7日
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20200928BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20200928BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20200928BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20200928BHJP
   B29C 48/00 20190101ALI20200928BHJP
【FI】
   C08L23/12
   C08L23/06
   C08L53/00
   C08F293/00
   B29C48/00
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-99695(P2016-99695)
(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公開番号】特開2017-206616(P2017-206616A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100156085
【弁理士】
【氏名又は名称】新免 勝利
(72)【発明者】
【氏名】山本 育男
(72)【発明者】
【氏名】増田 英二
(72)【発明者】
【氏名】酒見 和樹
(72)【発明者】
【氏名】室田 鏡太
(72)【発明者】
【氏名】田坂 知久
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−053131(JP,A)
【文献】 国際公開第98/031733(WO,A1)
【文献】 米国特許第06277491(US,B1)
【文献】 特開昭60−221410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/12
C08L 23/06
C08L 53/00
C08F 293/00
B29C 48/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂又はポリエチレン樹脂である熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、下記含フッ素ブロック共重合体(B)を0.01〜50重量部含有する樹脂組成物。
ただし、含フッ素ブロック共重合体(B)は、含フッ素セグメント(b−1)と非フッ素セグメント(b−2)とからなり、各セグメントが炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基で結合されており、
該含フッ素ブロック共重合体(B)を構成する含フッ素セグメント(b−1)と非フッ素セグメント(b−2)との構成比率(b−1)/(b−2)が重量比で20/80〜70/30であり、
該含フッ素セグメント(b−1)は、含フッ素セグメント(b−1)を構成する含フッ素単量体が、式(I)に示される含フッ素単量体であり、
該非フッ素セグメント(b−2)について、非フッ素セグメント(b−2)を構成する非フッ素単量体が、アルキル基の炭素数が1〜4である(メタ)アクリル酸アルキルである。
【化1】
(式中、Rfは炭素数4又は6のパーフルオロアルキル基、Xは水素原子、又はメチル基、フッ素原子又は塩素原子であり、Yは炭素数1以上の脂肪族基である。)
【請求項2】
非フッ素セグメント(b−2)において、(メタ)アクリル酸アルキルがメタクリル酸アルキルである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
脂組成物を加熱成形して得る成形物の製造方法であって、
樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂又はポリエチレン樹脂である熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、下記含フッ素ブロック共重合体(B)を0.01〜50重量部含有し、
含フッ素ブロック共重合体(B)は、含フッ素セグメント(b−1)と非フッ素セグメント(b−2)とからなり、各セグメントが炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基で結合されており、
該含フッ素ブロック共重合体(B)を構成する含フッ素セグメント(b−1)と非フッ素セグメント(b−2)との構成比率(b−1)/(b−2)が重量比で20/80〜70/30であり、
該含フッ素セグメント(b−1)は、含フッ素セグメント(b−1)を構成する含フッ素単量体が、式(I)に示される含フッ素単量体であり、
該非フッ素セグメント(b−2)は、非フッ素セグメント(b−2)を構成する非フッ素単量体が非フッ素アクリレート単量体、非フッ素ビニル単量体および非フッ素アクリル酸単量体からなる群から選択された少なくとも1種であり、非フッ素セグメント(b−2)を構成する重合体のガラス転位点(Tg)が0℃以上であり、
【化2】
(式中、Rfは炭素数4又は6のパーフルオロアルキル基、Xは水素原子、又はメチル基、フッ素原子又は塩素原子であり、Yは炭素数1以上の脂肪族基である。)
加熱成形は押出成形、射出成形、ブロー成形のいずれかの成形方法である成形物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性樹脂組成物およびその成形物に関する。成形物は、含フッ素重合体が成形物表面に偏在していることを特徴としている。成形物は、家庭用品、文房具、内装資材、外層資材、床材、壁紙、食品包装材、食品容器、化粧品容器、工業用薬品容器、サニタリー用品、医療用品などとして使用できる。
【背景技術】
【0002】
成形物表面に撥水撥油性を付与するため、表面にフッ素処理を施す技術は従来より知られている。しかし、成形後にフッ素処理を施す方法では撥水撥油機能の持続性が弱く、繰り返し使用することにより撥水撥油機能が低下するという問題があった。この問題を解決するため、成形加工前の段階で樹脂中にフッ素化合物を加え溶融混練することで、成形後表面にフッ素成分を偏析させ、撥水撥油性を付与する研究が行われている。
【0003】
国際公開第98/15598号は、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂100重量部と、炭素数5〜18のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有ポリマー0.1〜5重量部を含んでなる樹脂組成物を開示している。
特開平10−168324号公報は、炭素数3〜21のポリフルオロアルキル基を有する含フッ素重合体からなる撥水撥油性付与添加剤を、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂に撥水撥油性向上のために添加することを開示している。
特開平03−007745号公報は、ポリオレフィン樹脂と、炭素数4〜20が好ましいポリフルオロアルキル基を有する重合性化合物からなる樹脂組成物を開示している。
特開平03−041162号公報は、炭素数5〜16のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有ポリマー0.1〜5重量部を、熱可塑性樹脂100重量部に添加配合した熱可塑性樹脂組成物を開示している。
さらに、特開2006−37085号公報は、熱可塑性樹脂に含フッ素重合体を混合した樹脂組成物を開示する。この含フッ素重合体はランダム共重合体である。
これら文献において得られた樹脂組成物は、撥水撥油性および液切れ性が充分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第98/15598号
【特許文献2】特開平10−168324号公報
【特許文献3】特開平03−007745号公報
【特許文献4】特開平03−041162号公報
【特許文献5】特開2006−37085号公報
【発明の概要】
【0005】
撥液性を持続させるには、ポリマーとフッ素化合物を溶融混合し成形することにより、フッ素化合物が表面に偏析することが必要である。しかし、公知技術に従い成形物を作成しても、フッ素化合物を表面に偏析しやすくするためには、熱可塑性樹脂と相溶性の悪いフッ素化合物を用いるため限定された条件で行わなければならなかった。また通常の条件で混練が可能であってもフッ素化合物の添加量を多くする必要があるなどの問題があり、コスト、工程上好ましいものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、これらの問題を解決するため研究を重ねた結果、熱可塑性樹脂に、特定の含フッ素重合体を溶融混練した後、成形物にすることによりフッ素化合物が効果的に表面に偏析することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂の一方または両方である熱可塑性樹脂(A)100重量部に対して、含フッ素ブロック共重合体(B)を0.01〜50重量部含有する撥水撥油性樹脂組成物であって、
含フッ素ブロック共重合体(B)は、含フッ素ブロックセグメント(B1)と非フッ素ブロックセグメント(B2)とからなり、各セグメントが炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基で結合されており、
該含フッ素ブロックセグメント(B1)は、含フッ素単量体によって形成されており、該非フッ素ブロックセグメント(B2)は、非フッ素単量体によって形成されている撥水撥油性樹脂組成物及び成形物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の撥水撥油性樹脂組成物は、含フッ素ブロック共重合体の量が少量であっても、高い撥水撥油性を有する。本発明によれば、撥水撥油性および液切れ性に優れた成形物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)および含フッ素ブロック共重合体(B)を使用する。熱可塑性樹脂(A)は含フッ素ブロック共重合体(B)と混合されている。
【0010】
(A)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂(A)は、ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂の一方または両方である。
ポリエチレン樹脂には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含む。またポリプロピレン樹脂には、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、非晶性ポリプロピレンを含む。
【0011】
前記アイソタクティックポリプロピレンとは、Zigler−Natta系触媒、メタロセン触媒により作成されたアイソタクティックポリプロピレンを主体とする高結晶性ポリプロピレンのことであり、射出成形用、押出成形用、フィルム用、繊維用等、一般に市販されている成形用ポリプロピレンより選択、入手することが可能である。
前記非晶性ポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いて作成した結晶性の極めて低いプロピレンである。非晶性ポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いて作成した結晶性の極めて低いポリプロピレン(例えば、混合物の合計量の少なくとも50重量%)と他のプロピレンとの混合物であってよい。非晶性ポリプロピレンは、例えば、住友化学社製タフセレンT−3512、T−3522等として入手可能である。
【0012】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)は2種以上の熱可塑性樹脂の混合物であってよい。
【0013】
(B)含フッ素ブロック共重合体
含フッ素ブロック共重合体は、含フッ素ブロックセグメントおよび非フッ素ブロックセグメントを有し、各セグメントがポリマーパーオキサイド由来の炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基で結合されているものである。
【0014】
(B1)含フッ素ブロックセグメント
含フッ素ブロックセグメントは、含フッ素単量体によって形成されている。
含フッ素単量体は、式:

(式中、Rfは、炭素数4または6のパーフルオロアルキル基、
Xは、水素原子、メチル基、フッ素原子又は塩素原子であり、
Yは、炭素数1以上の脂肪族基である。)
で示される化合物であることが好ましい。
Yの炭素数は、1〜30であってよい。Yは、例えば、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状脂肪族基(特に、アルキレン基)、例えば、式−(CH2x−(式中、xは1〜10である。)で示される基であってよい。
【0015】
含フッ素単量体において、Rf基が、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rf基の炭素数は4または6である。Rf基の例は、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2等である。
【0016】
含フッ素単量体の具体例としては、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
[上記式中、Rfは、炭素数4または6のフルオロアルキル基である。]
【0017】
(B2)非フッ素ブロックセグメント
非フッ素ブロックセグメントは、非フッ素単量体によって形成される。非フッ素単量体は、ラジカル重合可能な非フッ素ビニル系単量体であることが好ましい。非フッ素単量体は、非フッ素アクリレート単量体、非フッ素ビニル単量体、または非フッ素アクリル酸単量体である。非フッ素単量体(特に、非フッ素アクリレート単量体)において、α位は、水素原子、メチル基、またはフッ素原子以外のハロゲン原子(例えば、塩素、臭素またはヨウ素)であってよい。非フッ素アクリレート単量体は、非フッ素アクリレートエステルであることが好ましい。
【0018】
非フッ素アクリレート単量体は、一般式:
CH=CACOO-A
[式中、Aは、水素原子、メチル基、または、フッ素原子以外のハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子)であり、
は、水素原子、または炭素数1〜30の炭化水素基である。]
で示される化合物であってよい。
【0019】
炭素数1〜30の炭化水素基の例は、炭素数1〜30の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜30の環状脂肪族基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基、炭素数7〜20の芳香脂肪族炭化水素基である。炭化水素基の好ましい例は、アルキル基である。
【0020】
非フッ素アクリレート単量体の好ましい例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イゾボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートである。
【0021】
非フッ素ビニル単量体は、一般式:
CH=CHA
[式中、Aは、水素原子、フッ素原子以外のハロゲン原子(例えば、塩素、臭素またはヨウ素)、または炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜4のアルキルエステル基(またはカルボキシレート基)、フェニル基、2−ピロリドン基、ニトリル基、CONHである。]
で示される化合物であってよい。
非フッ素ビニル単量体の好ましい例は、スチレン、N−ビニル−2−ピロリドン、塩化ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミドである。
【0022】
非フッ素アクリル酸単量体は、一般式:
CH=CACOOH
[式中、Aは、水素原子またはメチル基である。]
で示される化合物であってよい。
非フッ素アクリル酸単量体の好ましい例は、アクリル酸、メタクリル酸である。
【0023】
非フッ素単量体は、その非フッ素ブロックセグメントを構成する単量体(すなわち、「非フッ素ブロックセグメントを構成する単量体の単独重合体」)のガラス転位点(Tg)が0℃以上であることが好ましい。
非フッ素ブロックセグメントを構成する重合体のガラス転位点(Tg)が0℃以上である非フッ素アクリレート単量体の例は次のとおりである:
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ノルマルブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、セチルアクリレート、セチルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルアクリレート、ベヘニルメタクリレート。
非フッ素アクリレート単量体において、アルキル基の炭素数が1〜4、または16〜30であることが好ましい。また、アルキル基の炭素数が1〜4の場合、非フッ素アクリレート単量体はメタクリル酸アルキルであることが好ましい。
非フッ素ブロックセグメントを構成する重合体のガラス転位点(Tg)が0℃以上である非フッ素ビニル単量体の例は、スチレン、N−ビニル−2−ピロリドン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミドである。
非フッ素ブロックセグメントを構成する重合体のガラス転位点(Tg)が0℃以上である非フッ素アクリル酸単量体の例は、アクリル酸、メタクリル酸である。
【0024】
含フッ素ブロック共重合体において、含フッ素ブロックセグメントと非フッ素ブロックセグメントの重量比(含フッ素ブロックセグメントにおける繰り返し単位と非フッ素ブロックセグメントにおける繰り返し単位の重量比)は、20:80〜70:30、30:70〜60/40、例えば35:65〜50:50であってよい。
【0025】
含フッ素ブロック共重合体は、次のような第1工程および第2工程を有する製法によって製造できる。第1工程は、ポリマーパーオキサイドを重合開始剤として、非フッ素重合体セグメントを形成する非フッ素単量体を重合し、パーオキシ結合含有重合体を得る工程である。第2工程は、得られたパーオキシ結合含有重合体を重合開始剤として、含フッ素単量体を重合して含フッ素重合体セグメントを形成する工程である。なお、上記のような二段階重合において、第1工程の非フッ素単量体を第2工程に、そして第2工程の含フッ素単量体を第1工程に用いてもよい。
【0026】
ポリマーパーオキサイドを重合開始剤とする含フッ素ブロック共重合体の製造方法としては、公知の製造方法(例えば、特公平5−41668号公報、特公平5−59942号公報参照)を用いることができる。
【0027】
ポリマーパーオキサイドとは、1分子中に2個以上のパーオキシ結合を持つ化合物である。ポリマーパーオキサイドとしては、特公平5−59942号公報に記載されている各種ポリマーパーオキサイドの一種又は二種以上を使用することができる。ポリマーパーオキサイドとしては、例えば、下記式で表されるものを利用可能である。
-(C(=O)-R-C(=O)-OO)n-
[式中、Rは、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基であり、
nは、2〜20の数である。]
【0028】
ポリマーパーオキサイドの好ましい具体例は、次のとおりである。







(上記式中、nは2〜20の数である。)
ポリマーパーオキサイドは、上記式で示される化合物の混合物であってよい。
【0029】
含フッ素ブロック共重合体は、前記のポリマーパーオキシドを用いて、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、エマルション重合法によって容易に得られる。
例えば、溶液重合法の場合、本発明に於ける含フッ素ブロック共重合体として第1工程で非フッ素重合体セグメントを、第2工程で含フッ素重合体セグメントを形成する例にとると次のように説明することができる。
【0030】
すなわち、まずポリマーパーオキシドを重合開始剤として用い、非フッ素系単量体を溶液中で重合することにより、連鎖中にパーオキシ結合が導入されたパーオキシ結合を含有する非フッ素重合体が得られる。次に、第2工程において、第1工程の生成溶液中に含フッ素系単量体を加えて重合を行うと、パーオキシ結合を含有する非フッ素重合体中のパーオキシ結合において開裂し、効率よく含フッ素ブロック共重合体が得られる。
【0031】
本発明に於ける含フッ素ブロック共重合体の製造時の第1工程で用いるポリマーパーオキシドの量は、第1工程で用いる単量体100重量部に対して通常0.5‐20重量部であり、その時の重合温度は、40‐130℃、重合時間は2‐12時間程度である。また、第2工程での重合温度は通常、40‐140℃、重合時間は3‐15時間程度である。
【0032】
得られた含フッ素ブロック共重合体は、下記に示す溶剤中に溶解または、分散させたもの、 あるいは界面活性剤等を添加して水に分散させてエマルションとして使用できる。 また、含フッ素ブロック共重合体の微粉末状にしても使用できる。
【0033】
含フッ素ブロック共重合体の分子量は、重量平均分子量で1000‐5000000であり、より好ましい重量平均分子量の範囲は5000‐100000である。重量平均分子量が1000未満であると含フッ素ブロック共重合体がブリードアウトして撥油性が低下する傾向にある。一方、重量平均分子量が100000を越えると含フッ素ブロック共重合体が十分に表面に配向できなくなり、撥油性が低下する傾向にある。
【0034】
重合溶媒及び希釈溶剤に使用する溶媒について説明する。含フッ素ブロック共重合体を溶解または、分散できる溶剤で有れば特に制限はないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メチルセロソロブ、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、イソパラフィン系溶剤(日油(株)製:NAS‐3、NAS‐4、NAS‐5H)、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等が挙げられる。これらの溶剤は、一種または二種以上を使用することができる。
【0035】
これらの中で特に、含フッ素ブロック共重合体を溶解または、分散させるのに良好な溶媒として、NAS‐3、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、ヘプタン、プロピルアルコール等が好ましい。さらに、含フッ素ブロック共重合体を固体で取り出したものを熱可塑性樹脂に添加してもよい。
【0036】
本発明の含フッ素ブロック共重合体は、非フッ素重合体からなるブロックセグメントと含フッ素重合体からなるブロックセグメントとの間にポリマーパーオキサイドの分解物である炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基が結合している。
本発明に使用するポリマーパーオキサイドは、ジアシル型のポリマーパーオキサイドであるので、パーオキサイド基におけるO-O結合が開裂すると同時に脱炭酸(CO2)して、生じたアルキルラジカル(R・)によって重合が開始することが知られている。したがって、ポリマーパーオキサイドの分解物は、脱炭酸した炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐アルキレン基となる。ジアシルパーオキサイドのラジカル分解機構については、小方芳郎,“有機化酸化物の化学”,南江堂,1971やCan.j.Chem., 47,4405(1969)に記載されている。
【0037】
含フッ素ブロック共重合体(B)の量は、熱可塑性樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜50重量部、好ましくは0.1〜20重量部、例えば0.2〜10重量部、特に0.5〜5重量部であってよい。
撥水撥油性樹脂組成物は、必要に応じて、添加剤(すなわち、助剤)、例えば、染料、顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、可塑剤等を含有してもよい。
【0038】
撥水撥油性樹脂組成物の製造は、
(1)ポリマーパーオキサイドを重合開始剤として、含フッ素ブロックセグメント(B1)と非フッ素ブロックセグメント(B2)とからなる含フッ素ブロック重合体(B)を合成する工程、および
(2)含フッ素ブロック重合体(B)を熱可塑性樹脂(A)と混合して撥水撥油性樹脂組成物を得る工程
を有する方法によって行える。
【0039】
撥水撥油性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と含フッ素ブロック共重合体(B)を混練(例えば、溶融混練)することによって得られる。加熱成形によって成形物を製造することが好ましい。一般に、熱可塑性樹脂(A)と含フッ素ブロック共重合体(B)とは、溶融状態において相溶性である。混練は、例えば一軸押出機、二軸押出機、ロール等、従来公知の方法にて行うことができる。こうして得られた撥水撥油性樹脂組成物を、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、プレス等によるフィルム化など、公知の方法により成形することができる。樹脂組成物は、種々の成形物、例えばボトル、繊維、フイルム、チューブなどの形状の成形物に成形されてよい。得られた成形物については、公知の技術に沿って成形加工後さらにオーブン、乾燥炉等で加熱処理を施してもよい。繊維において、直径は0.2〜2000ミクロン、例えば0.5〜50ミクロン、長さは0.2mm〜200mm、例えば2〜30mmであってよい。
【0040】
撥水撥油性樹脂組成物は、不織布にされてもよい。不織布は、カード法、エアレイド法、抄紙法、あるいは溶融押出から直接不織布 を得るメルトブローン法やスパンボンド法などにより得ることができる。溶融押出において、熱可塑性樹脂(A)と含フッ素ブロック共重合体(B)の両者を溶融するような温度を用いることが好ましい。不織布の目付は特に限定されないが、0.1〜1000g/mであってよい。不織布の目付は、不織布の用途に応じて、例えば、液吸収性物品の表面材等では5〜60g/m2、吸収性物品やワイパー等では10〜500g/m2、フィルターでは8〜1000g/m2が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて詳細を説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0042】
物性は次のようにして測定した。
【0043】
ホモポリマーのTg(ガラス転移点)
ホモポリマーの重合ならびにガラス転移点測定は以下の方法にて行なった。
<ホモポリマーの重合>
50mlねじ蓋付き試験管(内径16mm×長さ180mm)にトルエン7g、モノマー3g、t-ブチル-2-エチルペルオキシヘキサノエート0.03gを仕込み、窒素を流量約100ml/minで2分間バブリングしながら窒素置換を行なった。重合温度80℃、重合時間10時間加熱することでポリマー溶液を得た。
続いてメタノール140gにポリマー溶液10gを滴下しポリマーを沈殿させて、攪拌を30分行なった後、ポリマー分をナイロンメッシュ#200でろ過しウェットポリマーを得た。得られたウェットポリマーをメタノール100 mlでシャワー洗浄し、ろ過を行った。アルミカップにウェットポリマーを入れて、40℃×5時間で減圧乾燥させてホモポリマーを得た。
<ホモポリマーのガラス転移点測定>
上記ホモポリマー約9mgを秤取り、DSC6200(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製)で測定した。測定条件は、窒素雰囲気下で-50〜150℃を2℃/minの昇温プログラムで行なった。
【0044】
含フッ素重合体の重量平均分子量
含フッ素重合体の分子量は、GPCによってポリスチレン換算にて測定した。カラムとして、東ソー製TSKgel SuperMultipore HZ-M、溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)を用いた。
【0045】
撥水性および撥油性
水およびn−ヘキサデカン(HD)にて接触角測定を行った。
【0046】
液体の液切れ性評価
n−ヘキサデカン、オレイン酸、辣油(エスビー食品社製)を用い、0.2mLの
液滴をプレートにのせて45度傾斜させ、4cm流れた後の液体の流れ跡を目視評価した。液が流れた跡は、撥油性が高い場合は液が切れて細くなり、撥油性が悪い場合は細くならずに太いままである。目視確認にて、細くなった場合を○、細くならなかった場合を×とした。
【0047】
重合体製造例1〜21
表1の通り非フッ素単量体、PMI、溶剤をフラスコに仕込み、窒素ガスを吹き込みながら70℃で6時間重合反応を行なって非フッ素セグメントを構成する重合体溶液を得た。
その後、重合体溶液に表の通り含フッ素単量体を添加し、70℃で3時間重合時反応を行い、さらに80℃に昇温して2時間含フッ素ブロック共重合体を含む分散液を得た。
その後得られた分散液をエタノールで再沈、乾燥して、含フッ素ブロック共重合体を得た。
【0048】
単量体、開始剤、溶剤種の詳細は以下の通りである。
C6SFA: CF(CF)CHCHOCOCH=CH
C6SFMA: CF(CF)CHCHOCOC(CH)=CH
C6SFCLA:CF(CF)CHCHOCOC(Cl)=CH
StA: アクリル酸ステアリル
LA: アクリル酸ラウリル
VA : アクリル酸ベヘニル
BMA: メタアクリル酸ノルマルブチル
PMI:
(上記式中、nは2〜20の数である。)
イソパラフィン:NAS−3(日油(株)製)
【0049】
【表1】
【0050】
重合体比較製造例1〜8
表2の通り溶剤、非フッ素単量体、含フッ素単量体、AIBN(2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル))をフラスコに仕込み、窒素ガスを吹き込みながら75℃で6時間重合反応を行なって含フッ素ランダム共重合体を含む重合体溶液を得た。
その後、得られた重合体溶液をエタノールで再沈、乾燥して、含フッ素ランダム共重合体を得た。
【0051】
【表2】
【0052】
重合体比較製造例9〜12
表3の通り非フッ素単量体、PMI、溶剤を用いた以外は、重合体製造例1〜21と同様の方法で含フッ素ブロック共重合体を得た。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例1〜23、比較例1〜15
(樹脂組成物製造例(1))
表4の通り、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(ノバテックPP MG03BD 日本ポリプロ社製)および重合体を二軸押出機にて180℃にて溶融混練した後、ヒートプレスにて成型し0.2mm厚のシートを得た。そのシートにて水およびn−ヘキサデカンの接触角を測定した。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例25〜28、比較例16〜21
(樹脂組成物製造例(1))
表5の通り、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(ノバテックPP BC03C 日本ポリプロ社製)および重合体を二軸押出機にて180℃にて溶融混練した後、ヒートプレスにて成型し0.2mm厚のシートを得た。そのシートにて水およびn−ヘキサデカンの接触角を測定した。
【0057】
【表5】
【0058】
実施例29〜32、比較例22〜26
(樹脂組成物製造例(1))
表6の通り、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(ノバテックPP MA3H 日本ポリプロ社製)および重合体を二軸押出機にて180℃にて溶融混練した後、ヒートプレスにて成型し0.2mm厚のシートを得た。そのシートにて水およびn−ヘキサデカンの接触角を測定した。
【0059】
【表6】
【0060】
実施例33〜45、比較例27〜39
(樹脂組成物製造例(1))
表7の通り、熱可塑性樹脂としてポリエチレン(ノバテックLD LC522 日本ポリエチレン社製)および重合体を二軸押出機にて180℃にて溶融混練した後、ヒートプレスにて成型し0.2mm厚のシートを得た。そのシートにて水およびn−ヘキサデカンの接触角を測定した。
【0061】
【表7】
【0062】
実施例46〜47、比較例40〜41
(樹脂組成物製造例(2))
表8の通り、熱可塑性樹脂としてポリエチレン(ノバテックLD LC522 日本ポリエチレン社製)および重合体を混合し、Tダイを取り付けた押出機を用いて、230℃にて押出成型を行い50μmのフィルムを得た。
【0063】
【表8】
【0064】
実施例48〜50、比較例43〜45
樹脂組成物製造例(3)
表9の通り、熱可塑性樹脂としてポリエチレン(サンテックHD L50P 旭化成ケミカルズ社製)および重合体を混合し、230℃にてブロー成型を行い肉厚1mmのボトルを得た。
【0065】
【表9】
【0066】
実施例51〜52、比較例46〜48
樹脂組成物製造例(4)
表10の通り、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(ノバテックPP BC03B 日本ポリプロ社製)および重合体を混合し、210℃にて射出成型を行い、5cm×5cm、厚み3mmのプレートを得た。
【0067】
【表10】
【0068】
実施例53〜54、比較例49〜51
樹脂組成物製造例(4)
表11の通り、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(ノバテックPP MG03BD 日本ポリプロ社製)および重合体を混合し、210℃にて射出成型を行い、5cm×5cm、厚み3mmのプレートを得た。
【0069】
【表11】
【0070】
上記実施例に示す通り、非フッ素セグメントを構成する重合体のガラス転移点(Tg)が0℃以上である含フッ素ブロック共重合体を含有する樹脂組成物は、含フッ素ランダム共重合体や非フッ素セグメントを構成する重合体のガラス転移点(Tg)が0℃未満の含フッ素ブロック共重合体と比較し、撥油性や液体の液切れ性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の樹脂組成物から得られた成形物は比較的安価であり、家庭用品(例えば、洗面器)、文房具(例えば、インクボトル)、内装資材、外層資材、床材、壁紙、食品包装材、食品容器、化粧品容器、工業用薬品容器等の製品に使用することができる。