(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6776598
(24)【登録日】2020年10月12日
(45)【発行日】2020年10月28日
(54)【発明の名称】ゴム支承体用側面カバーおよびゴム支承体の保護方法
(51)【国際特許分類】
F16F 1/40 20060101AFI20201019BHJP
E01D 19/04 20060101ALI20201019BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20201019BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20201019BHJP
【FI】
F16F1/40
E01D19/04 B
E01D19/04 Z
E04H9/02 331A
F16F15/04 P
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-87007(P2016-87007)
(22)【出願日】2016年4月25日
(65)【公開番号】特開2017-198239(P2017-198239A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2019年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】秦野 均
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−215486(JP,A)
【文献】
特開2012−057691(JP,A)
【文献】
特開平11−071938(JP,A)
【文献】
特開2009−007797(JP,A)
【文献】
特開昭64−048950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D1/00−24/00
E04H9/00−9/16
F16F1/00−6/00
15/00−15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板とゴム層とを上下に積層した積層体を備えたゴム支承体の側面を覆うゴム支承体用側面カバーであって、
伸縮変形可能な帯状部材と、この帯状部材の長手方向端部に設けられている固定部とを備えて、前記積層体の側面に巻き付けられた状態の前記帯状部材が前記固定部によって筒状に維持され、筒状に維持された前記帯状部材の内周面と、この内周面に対向する前記積層体の側面とが、前記帯状部材の筒軸方向上端部および下端部とで密着して、筒軸方向上端部および下端部以外では空気が介在して非密着になる構成にしたことを特徴とするゴム支承体用側面カバー。
【請求項2】
鋼板とゴム層とを上下に積層した積層体を備えたゴム支承体の側面を覆うゴム支承体用側面カバーであって、
伸縮変形可能な帯状部材と、この帯状部材の長手方向端部に設けられている固定部とを備えて、前記積層体の側面に巻き付けられた状態の前記帯状部材が前記固定部によって筒状に維持され、筒状に維持された前記帯状部材の長手方向両端が筒軸方向に対して同じ方向に傾斜して延在している構成にしたことを特徴とするゴム支承体用側面カバー。
【請求項3】
筒状に維持された前記帯状部材の内周面と、この内周面に対向する前記積層体の側面とが全範囲で密着する構成にした請求項2に記載のゴム支承体用側面カバー。
【請求項4】
前記積層体のせん断変形量が予め設定した基準値以上になった時に、前記固定部による前記帯状部材を筒状に維持する機能が解除される構成にした請求項1〜3のいずれかに記載のゴム支承体用側面カバー。
【請求項5】
前記帯状部材の厚さが5mm以上15mm以下である請求項1〜4いずれかに記載のゴム支承体用側面カバー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム支承体用側面カバーの前記帯状部材を、橋桁と橋脚との間に既に設置されているゴム支承体の積層体の側面に巻き付けて、次いで、この帯状部材を前記固定部によって筒状に維持することにより、前記積層体の側面を覆うことを特徴とするゴム支承体の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム支承体用側面カバーおよびゴム支承体の保護方法に関し、さらに詳しくは、ゴム支承体におけるオゾンクラックの発生を防止でき、取付け作業を容易に行えるゴム支承体用側面カバーおよびゴム支承体の保護方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物や橋梁等の構造物を支持するためにゴム支承体が用いられている。ゴム支承体には様々なタイプがあるが、一般的に、補強板とゴムとを上下に積層して構成された積層体を有していて、積層体の側面はゴムが露出した状態になっている。橋梁等で使用されるゴム支承体では、積層体の側面に経時的にオゾンクラックが発生する場合がある。
【0003】
オゾンクラックがある程度の大きさに成長すると、ゴム支承体の耐久性に影響が生じるため、補修が必要になる。この補修は、例えばオゾンクラックにコーティング材を埋めた後、加硫接着させる作業を行う。このように従来の補修は、ゴム支承体が設置されている現場において面倒な作業を行う必要があり、作業者のスキルによっても仕上がりがばらつくため、改善の余地がある。
【0004】
ゴム支承体のオゾンクラックを防止するための構造も提案されている(特許文献1参照)。特許文献1では、積層体の側面をカバー層で覆い、この積層体の側面とカバー層との間に、特殊な組成物を封入する構造が提案されている。この構造では、オゾンクラックがカバー層を貫通するまで成長すると、封入されていた特殊な組成物がオゾンクラック内に流出してオゾンクラックを塞ぐようになっている。
【0005】
しかしながら、積層体の側面とカバー層の間に特殊な組成物を封入する作業は非常に複雑であり、作業者には高いスキルが要求される。それ故、この構造は、ゴム支承体の設置現場ではなく、製造工場等で構築することを前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−57691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ゴム支承体におけるオゾンクラックの発生を防止でき、取付け作業を容易に行えるゴム支承体用側面カバーおよびゴム支承体の保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明のゴム支承体用側面カバーは、鋼板とゴム層とを上下に積層した積層体を備えたゴム支承体の側面を覆うゴム支承体用側面カバーであって、伸縮変形可能な帯状部材と、この帯状部材の長手方向端部に設けられている固定部とを備えて、前記積層体の側面に巻き付けられた状態の前記帯状部材が前記固定部によって筒状に維持され
、筒状に維持された前記帯状部材の内周面と、この内周面に対向する前記積層体の側面とが、前記帯状部材の筒軸方向上端部および下端部とで密着して、筒軸方向上端部および下端部以外では空気が介在して非密着になる構成にしたことを特徴とする。
また、本発明の別のゴム支承体用側面カバーは、鋼板とゴム層とを上下に積層した積層体を備えたゴム支承体の側面を覆うゴム支承体用側面カバーであって、伸縮変形可能な帯状部材と、この帯状部材の長手方向端部に設けられている固定部とを備えて、前記積層体の側面に巻き付けられた状態の前記帯状部材が前記固定部によって筒状に維持され、筒状に維持された前記帯状部材の長手方向両端が筒軸方向に対して同じ方向に傾斜して延在している構成にしたことを特徴とする。
【0009】
本発明のゴム支承体の保護方法は、上記のゴム支承体用側面カバーの前記帯状部材を、橋桁と橋脚との間に既に設置されているゴム支承体の積層体の側面に巻き付けて、次いで、この帯状部材を前記固定部によって筒状に維持して、前記積層体の側面を覆うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、帯状部材を積層体の側面に巻き付けた状態にした後、固定部によって筒状に維持することで、積層体の側面をこの帯状部材で覆うことができる。それ故、ゴム支承体用側面カバーを複雑な作業を必要とすることなく取付けできる。積層体の側面はこの側面カバーによって覆われて保護されるので、オゾンクラックの発生を防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のゴム支承体用側面カバーを展開した状態で例示する説明図である。
【
図2】ゴム支承体に取付けられた
図1の側面カバーを例示する説明図である。
【
図4】積層体の側面と側面カバーの内周面との密着状態を例示する説明図である。
【
図5】ゴム支承体に取付けられた側面カバーの別の実施形態を例示する説明図である。
【
図6】ゴム支承体に取付けられた側面カバーのさらに別の実施形態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のゴム支承体用側面カバーおよびゴム支承体の保護方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1〜3に例示する本発明のゴム支承体用側面カバー1(以下、側面カバー1という)は、ゴム支承体4を構成する積層体5の側面を覆って取付けられる。この側面カバー1は、伸縮変形可能な帯状部材2と、この帯状部材2の長手方向端部に設けられている固定部3(3a、3b)とを備えている。
【0014】
ゴム支承体4は、金属製の上沓8および下沓9とこれらの間に加硫接着により一体化した積層体5を備えている。上沓8、下沓9はそれぞれ、橋桁10等の上部構造物、橋脚11等の下部構造物とボルト等によって固定される。この実施形態では、積層体5は四角柱状であるが円柱状など他の形状を採用することもできる。
【0015】
積層体5は、鋼板6とゴム層7とを交互に積層して加硫接着により一体化している。上沓8は積層体5の最上面のゴム層7と加硫接着されて積層体5の上端面に固定されている。下沓8は積層体5の最下面のゴム層7と加硫接着されて積層体5の下端面に固定されている。
【0016】
帯状部材2は、例えば加硫済みのゴムや軟質樹脂、またはこれらを主材料として形成されていて、その長手方向および幅方向に対して優れた伸縮性を有している。帯状部材2の一部に伸縮変形可能な材料を採用することで、帯状部材2の全体として、その長手方向および幅方向に優れた伸縮性を確保することもできる。ここで、優れた伸縮性とは、ゴム支承体4(積層体5)の変形移動を妨げないように伸縮変形できる性能を有することをいう。
【0017】
帯状部材2には、耐オゾンクラック性に優れた材料を採用するとよい。例えば、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム等を用いる。
【0018】
帯状部材2の厚さは、例えば5mm以上15mm以下であり、10mm程度に設定される。この厚さが5mm未満ではオゾンクラックを防止する効果が過小になる、或いは、有効期間が短くなる。一方、この厚さが15mm超では、重量が過大になって取付け性が低下し、コストも過大になる。この厚さは帯状部材2の全範囲で概ね一定であるが、所定の部分の厚さを他の部分に対して異ならせることもできる。
【0019】
固定部3は、積層体5の側面に巻き付けられた状態の帯状部材2を筒状に維持できるものであれば、種々の材料、構造を採用することができる。固定部3を構成する材料としては、金属、樹脂、加硫済みのゴム等を例示できる。固定部3は帯状部材2の長手方向両端部に設けることも、一端部だけに設けることもできる。
【0020】
この実施形態では、帯状部材2の長手方向両端部に固定部3a、3bが設けられていて、固定部3a、3bどうしが係合自在になっている。突状の一方の固定部3aを環状の他方の固定部3bに挿入させることで互いが係合し、挿入させた固定部3aを抜き去ることで係合が解除される。固定部3a、3bどうしが係合することで、帯状部材2は筒状に維持される。帯状部材2の長手方向一端部に穴を設けておき、他端部に突状の固定部3aを設けた構成にすることもできる。この場合、穴に固定部3aを挿入させて互いを係合させ、挿入させた固定部3aを穴から抜き去ることで係合を解除する。
【0021】
帯状部材2を複数の分割体にして、それぞれの分割体どうしを連結した構造にすることもできる。分割体どうしの連結に固定部3を用いることもできる。
【0022】
以下、この側面カバー1を積層体5に取付けてゴム支承体4を保護する方法を説明する。
【0023】
本発明の側面カバー1は、様々な場所に既に設置されているゴム支承体4、或いは、これから設置されるゴム支承体4に取付けることができる。この実施形態では、橋桁10と橋脚11との間に既に設置されているゴム支承体4に側面カバー1を取付ける場合を例にして説明する。
【0024】
まず、固定部3により長手方向端部どうしが固定される前の筒状に形成されていない
図1に例示する状態の帯状部材2を取付け現場に搬送する。取付け現場では、帯状部材2を積層体5の側面に巻き付ける。
【0025】
次いで、固定部3を用いて帯状部材2の長手方向一端部を他端部に固定する。これにより、
図2、
図3に例示するように帯状部材2を筒状に維持して、積層体5の側面の実質的に全範囲を側面カバー1によって覆う。帯状部材2の長手方向一端と他端とは、互いを突き合せた状態にして帯状部材2を筒状にすることも、互いを周方向にオーバーラップさせた状態にして帯状部材2を筒状にすることもできる。
【0026】
積層体5は、橋桁10の熱変形や振動等によってせん断変形するが、帯状部材2は伸縮変形可能なので、このせん断変形に追従するように変形する。それ故、側面カバー1が積層体5のせん断変形(変形移動)を妨げることはない。したがって、側面カバー1を取付けることによりゴム支承体1の本来の性能に悪影響は生じない。
【0027】
積層体5の側面は、側面カバー1によって覆われて保護されるので、オゾンクラックの発生を防止することが可能になる。橋桁10と橋脚11との間に既に設置されている、或いは、設置されるゴム支承体4は、特に、積層体5の側面にオゾンクラックが発生し易いので、本発明を適用することは非常に有益である。
【0028】
側面カバー1の取付け作業は、帯状部材2を積層体5の側面に巻き付けた状態にした後、固定部3によって筒状に維持するだけの容易な作業になる。複雑な作業が不要になるため、取付け作業者のスキルの差によって仕上がり状態に大きな差異が生じることもなく、安定した作業品質を確保するには有利になる。しかも、この側面カバー1は、橋桁10と橋脚11との間に既に設置されているゴム支承体4に対しても取付けることができる。
【0029】
ゴム支承体4の設置環境によっては、積層体5の特定の範囲だけにオゾンクラックが発生する、或いは、発生し易いこともある。このような事情がある場合は、積層体5の必要な範囲のみを側面カバー1により覆うこともできる。
【0030】
ゴム支承体4に取付けた側面カバー1の継続使用が困難になった場合は交換する。例えば、帯状部材2にオゾンクラックやその他の傷が生じた場合、固定部3が破損した場合等には、側面カバー1をゴム支承体4から取り外して新たな側面カバー1を取付ける。
【0031】
筒状に維持された帯状部材2の内周面と、この内周面に対向する積層体5の側面とは全範囲で密着させることもできる。これにより、積層体5の側面は外気と遮断された状態になるのでオゾンクラックの発生を防止するには益々有利になる。帯状部材2の内周面と積層体5の側面との間に接着剤を介在させて両者を接合させることもできるが、接着剤を介在させずに両者を密着させた状態にすると、側面カバー1をゴム支承体4から取り外す作業が容易になる。
【0032】
この実施形態では
図4に例示するように、筒状に維持された帯状部材2の内周面と、この内周面に対向する積層体5の側面とが、帯状部材2の筒軸方向上端部および下端部とで密着している。一方で、帯状部材2の筒軸方向上端部および下端部以外では空気が介在して、帯状部材2の内周面と積層体5の側面とは非密着になっている。この構造によっても、積層体5の側面は外気と遮断された状態になるのでオゾンクラックの発生を防止するには益々有利になる。
【0033】
図4に示した構造にするには、例えば、帯状部材2の内周面の筒軸方向上端部および下端部と、積層体5の側面との間だけに接着剤を介在させて両者を密着させて、他の部分は非密着にする。或いは、積層体5の側面に巻き付けた帯状部材2の巻き付け力を、帯状部材2の筒軸方向上端部および下端部では他の部分に比して強くする。この巻き付け力は、固定部3を調節することで変えることができる。
【0034】
固定部3としては
図5に例示する実施形態のように、ファスナータイプを用いることもできる。帯状部材2の長手方向両端部に、互いに連結解除自在の多数のファスナー片を設けておき、対向する互いのファスナー片を連結することで帯状部材2を容易に筒状に維持することができる。
【0035】
上述した実施形態では、筒状にした帯状部材2の長手方向一端と他端とがそれぞれ筒軸方向に延在している。
図6に例示する実施形態では、帯状部材2の長手方向一端と他端とがそれぞれ筒軸方向に対して同じ方向に傾斜して延在している。即ち、帯状部材2の長手方向両端がそれぞれ鉛直方向に対して斜めに延在し、互いが平行になっている。
【0036】
帯状部材2は積層体5がせん断変形した際に、その変形に追従するように変形する。したがって、この実施形態のように帯状部材2の長手方向両端を筒軸方向に対して同じ方向に傾斜させていると、積層体5がせん断変形した際に、帯状部材2の長手方向両端どうしは、その傾斜方向にずれるような挙動をする。そのため、積層体5がせん断変形しても、帯状部材2の長手方向両端の間に隙間が生じ難くなり、積層体5の側面のオゾンクラックを防止するには有利になる。
【0037】
固定部3は、積層体5のせん断変形量が予め設定した基準値以上になった時に、帯状部材2を筒状に維持する機能を解除する設定にすることもできる。例えば、この基準値以上になった時に固定部3が破損する、或いは、係合している固定部3の係合が外れる等の構造にする。これにより、大規模地震等が発生した場合は、側面カバー1がゴム支承体4から離脱する、或いは、側面カバー1を取り外し易くなるので、ゴム支承体4の状態を点検し易くなる
【0038】
本発明は既設のゴム支承体4を対象にした補修目的だけでなく、新品のゴム支承体4に適用して積層体5のオゾンクラックを予防する目的で用いることもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 側面カバー
2 帯状部材
3、3a、3b 固定部
4 ゴム支承体
5 積層体
6 鋼板
7 ゴム層
8 上沓
9 下沓
10 橋桁
11 橋脚