特許第6798590号(P6798590)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6798590
(24)【登録日】2020年11月24日
(45)【発行日】2020年12月9日
(54)【発明の名称】冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/24 20060101AFI20201130BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20201130BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20201130BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20201130BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20201130BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20201130BHJP
【FI】
   C10M107/24
   F25B1/00 396A
   C10M105/38
   C09K5/04 E
   C10N30:12
   C10N40:30
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-153756(P2019-153756)
(22)【出願日】2019年8月26日
(62)【分割の表示】特願2017-219271(P2017-219271)の分割
【原出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2020-63417(P2020-63417A)
(43)【公開日】2020年4月23日
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2012-241274(P2012-241274)
(32)【優先日】2012年10月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
(72)【発明者】
【氏名】松浦 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】平良 繁治
(72)【発明者】
【氏名】中井 明紀
【審査官】 笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/086518(WO,A1)
【文献】 特開2012−97638(JP,A)
【文献】 特開2002−60771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00 〜 49/04
C10M 105/38
C10M 107/24
C09K 5/04
C10N 30/12
C10N 40/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機、凝縮器、膨張機構および蒸発器を備える冷凍装置であって、
R32を少なくとも60重量%含む冷媒、および、前記圧縮機の潤滑用の冷凍機油を用い、
前記冷凍機油は、ポリビニルエーテル油またはポリオールエステル油を基油とし、添加量が1.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合され、
前記冷媒と前記冷凍機油との混合物に含まれる前記冷凍機油の濃度である油濃度は、35±10wt%の最小値を示し、
前記油濃度が前記最小値であるときの前記混合物が前記冷媒と前記冷凍機油とに分離する温度は、−35℃以上、かつ、前記油濃度が前記最小値であるときの前記混合物の温度未満であり、
前記膨張機構は、金属部品を含む膨張弁を有し、前記酸捕捉剤によって前記金属部品の腐食が抑制される、
冷凍装置。
【請求項2】
前記冷凍機油は、添加量が2.0重量%から5.0重量%である前記酸捕捉剤が配合されている、
請求項1に記載の冷凍装置。
【請求項3】
前記冷凍機油は、極圧剤がさらに配合されている、
請求項1または2に記載の冷凍装置。
【請求項4】
前記冷凍機油は、酸化防止剤がさらに配合されている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の冷凍装置。
【請求項5】
吐出ガス温度が120℃以下に制御される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和装置等の冷凍装置に用いられる冷凍機油には、冷媒の分解により発生するフッ酸等の酸による冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制するための物質が含有されている。例えば、特許文献1(特開2001−226690号公報)に開示される冷凍機油には、酸捕捉剤が少なくとも0.05重量%添加されている。
【0003】
また、従来、空気調和装置等の冷凍装置には、テトラフルオロエタンであるR134aや、混合冷媒であるR410AおよびR407C等のフッ素系冷媒が使用されている。しかし、これらのフッ素系冷媒は、塩素を含まないのでオゾン層を破壊する効果は小さいが、温室効果による地球温暖化への影響が大きい。そこで、近年、地球温暖化係数が小さいフッ素系冷媒として、分子式CHで表されるR32が注目されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、R32は、R410AおよびR407C等の他のフッ素系冷媒と比べて、安定性が低く、高温環境下にさらされたり、空気および水が混入したりすることで、分解しやすく、分解によるフッ酸等の酸の発生量も多い。冷媒の分解により発生する酸は、冷凍装置に用いられる冷凍機油を劣化させ、膨張弁等の部品を腐食させるおそれがある。また、特許文献1(特開2001−226690号公報)に基づいて、R32に酸捕捉剤を0.05重量%添加しても、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制することができない。なお、膨張弁としては、真鍮製およびステンレス鋼製の膨張弁があるが、耐腐食性の高いステンレス鋼製の膨張弁を用いても、膨張弁の腐食を十分に抑制することができない。
【0005】
また、R32は、他のフッ素系冷媒と比べて、冷凍機油との相溶性が悪く、冷媒と油との分離が起こりやすい。冷媒と油との分離が起こりやすいと、空気調和装置を構成する圧縮機の摺動部に潤滑性の低い冷媒のみが供給されることにより、圧縮機の摺動部が異常発熱して、冷媒の分解による酸の発生が促進される。
【0006】
本発明の目的は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制し、信頼性の高い冷凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1観点に係る冷凍装置は、圧縮機、凝縮器、膨張機構および蒸発器を備える。冷凍装置に混入する空気量は、充填冷媒量に対して500ppm以下に制御されている。冷凍装置に混入する水分量は、充填冷媒量に対して300ppm以下に制御されている。冷凍装置の吐出ガス温度は、120℃以下に制御されている。充填冷媒量は、冷凍装置の冷媒回路に充填される冷媒の量である。吐出ガス温度は、圧縮機から吐出される高圧冷媒の温度である。冷凍装置は、R32を含む冷媒、および、圧縮機の潤滑用の冷凍機油を用いる。冷凍機油は、添加量が1.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合されている。
【0008】
第1観点に係る冷凍装置は、分子式CHで表されるR32を含む冷媒を用いる。R32を含む冷媒は、R32単体、または、R32を含む混合冷媒である。このようなR32系冷媒は、R410AおよびR407C等のフッ素系冷媒と比べて、地球温暖化係数が小さいが、分解によるフッ酸等の酸の発生量が多い。そのため、R32系冷媒は、冷凍装置の長時間の稼働による冷凍機油の劣化、および、冷凍装置が備える膨張弁等の部品の腐食の原因となりやすい。しかし、冷凍機油に含まれる酸捕捉剤は、冷媒の分解により発生する酸を捕捉する効果を有する。また、酸捕捉剤の添加量が5.0重量%以下に制限されているので、過剰な酸捕捉剤による冷凍機油の潤滑性能の低下が抑制される。従って、第1観点に係る冷凍装置は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制することができる。
【0009】
本発明の第2観点に係る冷凍装置は、第1観点に係る冷凍装置であって、冷凍機油は、添加量が2.0重量%から5.0重量%である酸捕捉剤が配合されている。
【0010】
第2観点に係る冷凍装置が用いる冷凍機油は、酸捕捉剤の添加量が少なくとも2.0重量%以上であるので、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食がより効果的に抑制される。
【0011】
本発明の第3観点に係る冷凍装置は、第1観点または第2観点に係る冷凍装置であって、膨張機構は、膨張弁を有し、かつ、膨張弁に付着した冷媒の分解物であるフッ素の検出量は、6.0重量%以下である。
【0012】
第3観点に係る冷凍装置は、運転後の膨張弁に付着している冷媒分解物であるフッ素の量が少ないので、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食がより効果的に抑制される。
【0013】
本発明の第4観点に係る冷凍装置は、第1乃至第3観点のいずれか1つに係る冷凍装置であって、冷凍機油は、極圧剤がさらに配合されている。
【0014】
第4観点に係る冷凍装置が用いる冷凍機油は、極圧剤を含む。R32系冷媒は、冷凍装置の圧縮機において、R410AおよびR407C等のフッ素系冷媒と比べて、より高圧の状態で使用される。そのため、R32系冷媒を圧縮する圧縮機の摺動部にかかる荷重は大きくなりやすく、摺動する部材表面間に形成される冷凍機油の被膜が薄くなることによる摩耗および焼き付きが発生しやすい。極圧剤は、冷凍装置の圧縮機の摺動部において、摺動する部材表面と反応して被膜を形成することで、摺動部の摩耗および焼き付きを防止するための添加剤である。従って、第4観点に係る冷凍装置は、摺動部の摩耗および焼き付きをより効果的に抑制することができる。
【0015】
本発明の第5観点に係る冷凍装置は、第1乃至第4観点のいずれか1つに係る冷凍装置であって、冷凍機油は、酸化防止剤がさらに配合されている。
【0016】
第5観点に係る冷凍装置が用いる冷凍機油は、酸化防止剤を含む。酸化防止剤は、酸素による冷媒や油の酸化を抑制するための添加剤である。従って、第5観点に係る冷凍装置は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食をより効果的に抑制することができる。
【0017】
本発明の第6観点に係る冷凍装置は、第1乃至第5観点のいずれか1つに係る冷凍装置であって、冷凍機油は、ポリビニルエーテル油を含む。
【0018】
本発明の第7観点に係る冷凍装置は、第1乃至第5観点のいずれか1つに係る冷凍装置であって、冷凍機油は、ポリオールエステル油を含む。
【0019】
本発明の第8観点に係る冷凍装置は、第1乃至第7観点のいずれか1つに係る冷凍装置であって、冷媒は、R32を少なくとも60重量%含む。
【0020】
本発明の第9観点に係る冷凍装置は、第1乃至第8観点のいずれか1つに係る冷凍装置であって、起動時において冷媒との混合物が分離しない冷凍機油を用いる。
【0021】
第9観点に係る冷凍装置が用いる冷凍機油と冷媒との混合物は、冷凍装置の起動時において、冷凍機油と冷媒とに二層分離しない。そのため、冷媒と冷凍機油との混合物から分離した冷媒が分解して、酸が生成されることが防止される。
【0022】
本発明の第10観点に係る冷凍装置は、第9観点に係る冷凍装置であって、油濃度が最小値である混合物が分離する温度は、−35℃以上、かつ、油濃度が最小値であるときの混合物の温度未満である。油濃度は、冷凍機油と冷媒との混合物に含まれる冷凍機油の濃度である。冷凍装置の起動時において、油濃度は、混合物の温度が上昇する過程において、最小値を示す。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1および第6乃至第8観点に係る冷凍装置は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制することができ、かつ、過剰な酸捕捉剤による冷凍機油の潤滑性能の低下を抑制することができる。
【0024】
本発明の第2,第3および第5観点に係る冷凍装置は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食をより効果的に抑制することができる。
【0025】
本発明の第4観点に係る冷凍装置は、摺動部の摩耗および焼き付きをより効果的に抑制することができる。
【0026】
本発明の第9および第10観点に係る冷凍装置は、冷媒と冷凍機油との混合物から分離した冷媒が分解して、酸が生成されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る空気調和装置の冷媒回路図である。
図2】R32冷媒とポリビニルエーテル油との混合物の二層分離温度曲線、および、当該混合物の運転軌跡を表すグラフである。
図3】R32冷媒とポリオールエステル油との混合物の二層分離温度曲線、および、当該混合物の運転軌跡を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<実施形態>
本発明の実施形態に係る冷凍装置としての空気調和装置1について説明する。図1は、空気調和装置1の冷媒回路図である。空気調和装置1は、主として、圧縮機2と、四方切替弁3と、室外熱交換器4と、膨張機構5と、室内熱交換器6とから構成される。図1において、実線の矢印は、冷房運転時における冷媒の流れを表し、点線の矢印は、暖房運転時における冷媒の流れを表す。
【0029】
冷房運転時における空気調和装置1の冷凍サイクルについて説明する。最初に、圧縮機2は、低圧のガス冷媒を圧縮して、高圧のガス冷媒を吐出する。圧縮機2から吐出された冷媒は、四方切替弁3を通過して、室外熱交換器4に供給される。室外熱交換器4は、高圧のガス冷媒を凝縮して、高圧の液冷媒を吐出する。室外熱交換器4から吐出された冷媒は、膨張機構5の膨張弁を通過して低圧の気液混合状態の冷媒となり、室内熱交換器6に供給される。室内熱交換器6は、低圧の気液混合状態の冷媒を蒸発させて、低圧のガス冷媒を吐出する。室内熱交換器6から吐出された冷媒は、圧縮機2に供給される。
【0030】
冷房運転時では、室外熱交換器4は凝縮器として機能し、室内熱交換器6は蒸発器として機能する。すなわち、室内熱交換器6で発生する冷媒の蒸発潜熱によって、室内が冷却される。一方、暖房運転時では、四方切替弁3を切り換えることで、室外熱交換器4は蒸発器として機能し、室内熱交換器6は凝縮器として機能する。すなわち、室外熱交換器4で発生する冷媒の凝縮潜熱によって、室内が加熱される。
【0031】
本実施形態では、空気調和装置1の冷媒回路を循環する冷媒として、フッ素系冷媒であるR32系冷媒が用いられる。R32系冷媒は、R32を含む冷媒である。具体的には、R32系冷媒は、R32単体、または、R32を含む混合冷媒である。R32は、分子式CHで表される。R32を含む混合冷媒は、例えば、ポリオールエステル油等のエステル系冷凍機油を含む混合冷媒、および、R32を少なくとも60重量%含む混合冷媒である。また、R32を含む混合冷媒は、HFO−1234yfおよびHFO−1234ze(E)等のHFO系冷媒を含むことが好ましい。混合冷媒に含まれるR32の地球温暖化係数は、好ましくは1000以下であり、より好ましくは500以下であり、さらに好ましくは300以下であり、特に好ましくは100以下である。
【0032】
R32系冷媒は、他のR410AおよびR407C等のフッ素系冷媒に比べて、地球温暖化に与える影響が小さいが、安定性が低いため、分解によるフッ酸等の酸の発生量が多い。冷媒の分解により発生する酸は、圧縮機2で使用される冷凍機油を劣化させ、膨張機構5の膨張弁等の部品を腐食させる。
【0033】
具体的には、R32は、R410AおよびR407Cと比べて、熱分解温度が約600℃と低く、熱および酸素によって分解しやすい。R32は、次の反応式(I)により熱分解して、カルベン(CH)とフッ素イオン(F)を生成する。
CH→CH+2F (I)
【0034】
反応式(I)で生成されたカルベンは、次の反応式(II)により酸化して、ホルムアルデヒドを生成し、次の反応式(III)によりさらに酸化して、ギ酸を生成する。
2CH+O→2HCHO (II)
2HCHO+O→2HCOOH (III)
【0035】
また、反応式(I)で生成されたカルベン2分子は、カップリング反応によってエチレン(C)を生成する。エチレンは、次の反応式(IV)により酸化して、アセトアルデヒドを生成し、次の反応式(V)によりさらに酸化して、酢酸を生成する。
2C+O→2CHCHO (IV)
2CHCHO+O→2CHCOOH (V)
【0036】
また、反応式(I)で生成されたフッ素イオンは、冷媒および冷凍機油に含まれる水と反応して、次の反応式(VI)によりフッ化水素(HF)を生成する。
4F+2HO→4HF+O (VI)
【0037】
また、R32は、次の反応式(VII)により酸素と反応して、フッ化水素(HF)を生成する。
CH+O→CO+2HF (VII)
【0038】
以上より、R32は、分解により、フッ化水素(フッ酸)、ギ酸および酢酸等を生成する。生成された酸は、冷媒および冷凍機油に含まれる水に溶解して冷媒回路を循環する。膨張機構5の膨張弁に酸が付着すると、膨張弁の金属部品が腐食して、膨張機構5の不具合の原因となる。
【0039】
次に、R32冷媒の分解が発生しやすい、空気調和装置1の運転モードの例を3つ挙げる。第1の例は、圧縮機2から吐出される高圧のガス冷媒の温度が、例えば120℃を超える運転である。この時、圧縮機2内部の摺動部の温度が、局部的に600℃以上になることがあり、この場合、R32冷媒が熱分解するおそれがある。第2の例は、空気調和装置1の設置および保守等の施工時に、冷媒回路に誤って空気が多量に混入してしまった後に行われる運転である。この場合、冷媒回路内の空気に含まれる酸素によって、R32が分解するおそれがある。第3の例は、空気調和装置1の起動時に液冷媒が圧縮機2に戻り、圧縮機2の内部で冷凍機油と液冷媒とが分離し、液冷媒が圧縮機2の摺動部に供給された状態で行われる運転である。この場合、液冷媒によって摺動部の正常な摺動が阻害され、その結果、摺動部の異常な発熱によってR32が熱分解するおそれがある。
【0040】
そこで、空気調和装置1で使用される冷凍機油は、酸捕捉剤を1.0重量%以上含んでいる。冷凍機油は、圧縮機2の摺動部における摩耗および焼き付きの防止のために用いられる潤滑油である。圧縮機2の摺動部は、例えば、圧縮機2がスクロール圧縮機の場合、2つのスクロール間のスラスト摺動面、および、クランク軸と軸受との間の摺動面等である。酸捕捉剤は、R32系冷媒の分解によって発生するフッ酸等の酸を捕捉するために用いられる添加剤である。
【0041】
次に、本実施形態で使用される冷凍機油の組成について説明する。冷凍機油は、主として、基油、酸捕捉剤、極圧剤および酸化防止剤からなる。
【0042】
基油は、鉱油または合成油が用いられる。基油は、空気調和装置1に使用されるR32系冷媒との相溶性が良いものが、適宜に選択される。鉱油は、例えば、ナフテン系鉱油、パラフィン系鉱油である。合成油は、例えば、エステル化合物、エーテル化合物、ポリα‐オレフィン、アルキルベンゼンである。合成油の具体例としては、ポリビニルエーテル、ポリオールエステル、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。本実施形態では、基油として、ポリビニルエーテル、ポリオールエステル等の合成油を用いることが好ましい。なお、基油として、上記の鉱油または合成油を2種以上組み合わせた混合物が用いられてもよい。
【0043】
酸捕捉剤は、R32系冷媒の分解によって発生したフッ酸等の酸と反応することにより、酸による冷凍機油の劣化を抑制するために用いられる添加剤である。酸捕捉剤は、冷凍機油に1.0重量%以上含まれている。酸捕捉剤は、例えば、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、テンペン系化合物である。酸捕捉剤の具体例としては、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エポキシ化シクロヘキシルカルビノール、ジ(アルキルフェニル)カルボジイミド、β−ピネン等が挙げられる。
【0044】
極圧剤は、圧縮機2等の摺動部における摩耗および焼き付きを防止するために用いられる添加剤である。冷凍機油は、摺動部において互いに摺動する部材表面の間に油膜を形成することで、摺動部材同士の接触を防止する。しかし、ポリビニルエーテルのような低粘度の冷凍機油を使用する場合、および、摺動部材にかかる圧力が高い場合には、摺動部材同士が接触しやすくなる。極圧剤は、摺動部において互いに摺動する部材表面と反応して被膜を形成することで、摩耗および焼き付きの発生を抑制する。極圧剤は、例えば、リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸塩、硫化エステル、スルフィド、チオビスフェノール等である。極圧剤の具体例としては、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリフェニルフォスフェート(TPP)、トリフェニルホスホロチオエート(TPPT)、アミン、C11−14側鎖アルキル、モノヘキシルおよびジヘキシルフォスフェートが挙げられる。TCPは、摺動部材の表面に吸着し、分解することで、リン酸塩の被膜を形成する。
【0045】
酸化防止剤は、冷凍機油の酸化を防止するために用いられる添加剤である。酸化防止剤の具体例としては、ジチオリン酸亜鉛、有機硫黄化合物、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤、N,N’‐ジサリシリデン‐1,2‐ジアミノプロパン等が挙げられる。
【0046】
本実施形態では、R32系冷媒の分解によって発生するフッ酸等の酸は、冷凍機油に1.0重量%以上含まれる酸捕捉剤によって捕捉される。これにより、R32系冷媒の分解によって発生する酸に起因する冷凍機油の劣化および膨張機構5の膨張弁の腐食が抑制される。また、空気調和装置1の他の部品の腐食も抑制される。従って、本実施形態における冷凍機油を使用することにより、空気調和装置1の信頼性が向上する。
【0047】
次に、R32冷媒と冷凍機油との混合物(以下、単に「混合物」と記載する。)の二層分離温度曲線、および、混合物の運転軌跡の例について、図2および図3を参照しながら説明する。
【0048】
図2において、横軸は、混合物に含まれる冷凍機油であるポリビニルエーテル油の濃度(wt%)である油濃度であり、縦軸は、混合物の温度である。曲線L1,L2は、二層分離温度曲線である。上側の曲線L1より上方の領域R1、および、下側の曲線L2より下方の領域R2は、R32冷媒とポリビニルエーテル油とが二層分離している領域である。曲線L1と曲線L2との間の領域R3は、R32冷媒とポリビニルエーテル油とが二層分離していない領域である。すなわち、領域R3は、R32冷媒とポリビニルエーテル油とが互いに溶解している領域である。
【0049】
図3において、横軸は、混合物に含まれる冷凍機油であるポリオールエステル油の濃度(wt%)である油濃度であり、縦軸は、混合物の温度である。曲線L4は、二層分離温度曲線である。曲線L4より下方の領域R4は、R32冷媒とポリオールエステル油とが二層分離している領域である。曲線L4より上方の領域R5は、R32冷媒とポリオールエステル油とが二層分離していない領域である。すなわち、領域R5は、R32冷媒とポリオールエステル油とが互いに溶解している領域である。
【0050】
図2および図3において、曲線L3は、共通の混合物の運転軌跡を表す。具体的には、曲線L3は、空気調和装置1の起動時における、圧縮機2の内部に存在する混合物の状態の推移を表す。空気調和装置1の起動前において、混合物は、曲線L3の点P1の状態にある。点P1では、油濃度は、約70wt%である。空気調和装置1が起動すると、冷媒回路の液冷媒が圧縮機2に戻るため、混合物の油濃度が低下する。しかし、その後、空気調和装置1の運転時間の経過と共に、圧縮機2の温度が上昇するため混合物の温度も上昇し、混合物に含まれる液冷媒は徐々に蒸発する。その結果、混合物の油濃度は増加する。すなわち、空気調和装置1の起動時において、混合物の油濃度は低下した後に増加するので、油濃度の最小値が存在する。図2では、混合物の油濃度は、点P1の約70wt%から、点P2の約30wt%まで低下した後に、増加している。点P2は、油濃度が最小値であるときの状態を示す。以下、混合物の油濃度が最小値であるときの混合物の温度を、限界温度と呼ぶ。図2および図3では、限界温度は、点P2の状態の温度であり、約0℃である。
【0051】
本実施形態では、空気調和装置1の起動時における混合物の運転軌跡L3は、図2においては、R32冷媒とポリビニルエーテル油とが二層分離しない領域R3に存在し、図3においては、R32冷媒とポリオールエステル油とが二層分離しない領域R5に存在する。そのため、空気調和装置1の起動時において、混合物は、R32冷媒と冷凍機油とに二層分離しない。混合物が二層分離すると、上述の理由により、分離したR32冷媒が分解して、膨張機構5の膨張弁が腐食する可能性がある。
【0052】
また、本実施形態では、油濃度が最小値であるときの混合物が、R32冷媒と冷凍機油とに二層分離する温度は、−35℃以上かつ限界温度未満である。図2において、油濃度が最小値であるときの混合物が二層分離する温度は、点P3で示され、約−10℃である。図3において、油濃度が最小値であるときの混合物が二層分離する温度は、点P4で示され、約−30℃である。混合物が二層分離する温度が限界温度以上である場合、図2においては、点P2が領域R2に存在することになり、図3においては、点P2が領域R4に存在することになるので、空気調和装置1の起動時において、混合物は、R32冷媒と冷凍機油とに二層分離する可能性がある。R32と冷凍機油との混合物が二層分離する温度は、R410AまたはR407Cと冷凍機油との混合物が二層分離する温度よりも高い。そのため、R32と冷凍機油との混合物は、空気調和装置1の起動時に二層分離しやすい。従って、R32冷媒との混合物が二層分離する温度が、限界温度未満である冷凍機油を用いることで、空気調和装置1の起動時における混合物の二層分離が防止され、空気調和装置1の信頼性が向上する。
【0053】
なお、冷凍機油の組成にもよるが、R32冷媒の場合、冷媒と冷凍機油との混合物の油濃度の最小値は、35±10wt%であり、混合物の限界温度は、0±10℃である。
【0054】
<実施例>
本実施形態における冷凍装置が用いる冷凍機油の試験結果について説明する。冷凍機油の試験では、製品実機試験を行って、冷凍機油が冷凍装置に与える影響を分析した。
【0055】
試験では、冷凍機油に配合される酸捕捉剤の添加量を変更して、冷凍装置を稼働させた。その後、冷凍装置の膨張機構の真鍮製の膨張弁の状態を確認した。実機試験の結果を次の表1に示す。試験条件は、圧縮機から吐出される冷媒ガスの温度が120℃であり、冷凍装置の運転時間が2000時間であり、冷凍装置の運転圧力が適宜に設定された値であった。冷凍機油の基油として、ポリビニルエーテル油を用いた。冷凍機油に、0.3重量%から5.0重量%の酸捕捉剤を添加した。試験後の膨張弁をエネルギー分散型X線装置で元素分析して、冷媒分解物であるフッ素の量を確認した。
【0056】
表1において、冷媒としてR410Aを用いた試験では、酸捕捉剤の添加量が0.3重量%の場合においても、フッ素の検出量が5.2重量%であり、膨張弁の腐食は確認されなかった。冷媒としてR32を用いた試験では、酸捕捉剤の添加量が0.3wt%である「R32−I」のケースにおいては、フッ素の検出量が16.7重量%であり、膨張弁の腐食が確認された。一方、酸捕捉剤の添加量が1.0重量%から5.0重量%である「R32−II」、「R32−III」、「R32−IV」および「R32−V」のケースにおいては、フッ素の検出量が6.0重量%以下であり、膨張弁の腐食は確認されなかった。
【0057】
【表1】
【0058】
表1より、R32を冷媒として使用する冷凍装置では、冷凍機油の酸捕捉剤の添加量が1.0重量%以上の場合に、膨張弁の腐食が抑制された。
【0059】
また、ポリビニルエーテル油とR32冷媒との溶解性を比較する実験を行った。その結果、ポリビニルエーテルの側鎖の分子量が小さいほど、R32との溶解性が向上することが確認された。具体例として、次に示されるポリビニルエーテルの化学構造式では、側鎖の酸素原子には、エチル基(C)が接続されている。
【0060】
【化1】
【0061】
一方、次に示されるポリビニルエーテルの化学構造式では、側鎖の酸素原子には、メチル基(CH)が接続されている。
【0062】
【化2】
【0063】
上記の2種類のポリビニルエーテルに関して、エチル基を有するポリビニルエーテルよりも、メチル基を有するポリビニルエーテルの方が、R32冷媒との溶解性が高いことが確認された。図2において、冷凍機油とR32冷媒との溶解性が高いほど、下側の曲線L2は、より下方に移動する。そのため、冷凍機油とR32冷媒との溶解性が高いほど、空気調和装置1の起動時において、冷凍機油とR32冷媒との混合物が二層分離しにくくなる。従って、上記の2種類のポリビニルエーテルに関して、エチル基を有するポリビニルエーテルよりも、メチル基を有するポリビニルエーテルを含む冷凍機油の方が、R32冷媒と二層分離しにくい。なお、実験で使用されたポリビニルエーテル油のISO粘度グレードは、VG68である。
【0064】
<変形例>
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明の具体的構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で変更可能である。以下、本発明の実施形態に適用可能な変形例について説明する。
【0065】
(1)変形例A
本実施形態では、冷凍機油は、酸捕捉剤を1.0重量%以上含んでいる。しかし、冷凍機油は、酸捕捉剤を5.0重量%以下含むことが好ましく、酸捕捉剤を3.0重量%以下含むことがさらに好ましい。
【0066】
(2)変形例B
本実施形態では、冷凍機油は、極圧剤および酸化防止剤を含んでいる。しかし、冷凍機油は、極圧剤および酸化防止剤の一方のみを含んでいてもよく、極圧剤および酸化防止剤を含んでいなくてもよい。
【0067】
(3)変形例C
本実施形態の実施例では、膨張機構の膨張弁として、真鍮製の膨張弁を用いて冷凍機油の試験を行ったが、ステンレス鋼製の膨張弁を用いて冷凍機油の試験を行ってもよい。この場合においても、当然に、膨張弁の腐食が効果的に抑制される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る冷凍装置は、冷凍機油の劣化および膨張弁の腐食を抑制することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 空気調和装置(冷凍装置)
2 圧縮機
4 室外熱交換器(凝縮器、蒸発器)
5 膨張機構
6 室内熱交換器(蒸発器、凝縮器)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0070】
【特許文献1】特開2001−226690号公報
図1
図2
図3