(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6804092
(24)【登録日】2020年12月4日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】磁気吸着式ドライバービットの製造方法、磁気吸着式ドライバービット及び吸着力回復治具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20201214BHJP
B25B 23/12 20060101ALI20201214BHJP
【FI】
B25B21/00 H
B25B23/12
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-231455(P2017-231455)
(22)【出願日】2017年12月1日
(65)【公開番号】特開2019-98459(P2019-98459A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2020年7月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514288510
【氏名又は名称】テンソー電磁技術工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中庄谷 秀雄
【審査官】
山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−025242(JP,A)
【文献】
特開2003−062763(JP,A)
【文献】
特表2006−513876(JP,A)
【文献】
特開2004−216498(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/027807(WO,A1)
【文献】
米国特許第06105474(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
B25B 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバービット本体の軸線方向の中間位置に形成された小径部を、複数の磁石片で囲って固定し、
このドライバービット本体を、着磁装置にセットして、前記複数の磁石片と同一方向に飽和着磁させることを特徴とする磁気吸着式ドライバービットの製造方法。
【請求項2】
前記複数の磁石片と、前記ドライバービットの小径部との形状は、ドライバービットの中間部が他の部分よりも大径にならないような組み合わせ構造にしている請求項1に記載の磁気吸着式ドライバービットの製造方法。
【請求項3】
前記複数の磁石片は、当該位置に筒状の非磁性カバーを外嵌することで前記ビット本体に固定することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気吸着式ドライバービットの製造方法。
【請求項4】
磁性金属からなり両側の先端に特定ネジに対応した刃部が形成されかつ長手方向の中央位置に小径部が形成されたビット本体と、
強磁性体からなり前記ビット本体の小径部に沿うようにかつ前記ビット本体と略同一の外径になるように配置された複数の磁石片と、
前記複数の磁石片の全体を覆うように前記ビット本体に外嵌された非磁性カバーとを備えることを特徴とする磁気吸着式ドライバービット。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気吸着式ドライバービットと、
前記磁気吸着式ドライバービットに対応した吸着力回復治具と
を備え、
前記吸着力回復治具は、非磁性体からなり前記ビット本体の外径に対応した内径を有するガイド筒と、前記ガイド筒の奥方に配置された永久磁石とを備える磁気吸着式ドライバービットと吸着力回復治具のセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気吸着式ドライバービットに関する。
【背景技術】
【0002】
ネジ等を吸着可能な磁気吸着式ドライバービットに関連する従来技術の一例として、次の特許文献には、ヘキサロビュラ型ドライバービットの先端に装着して使用する磁気吸着式アタッチメントが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-311641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら前記特許文献に記載されているような磁気吸着式アタッチメントは、ドライバービットよりもかなり大径であり、かつドライバービットの先端部分に装着されるので、ネジ締め等の作業をする際にネジが見難い、また周囲のものにぶつかり易いという問題があった。本発明はこのような問題を解決し、使い勝手のよい磁気吸着式ドライバービットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による磁気吸着式ドライバービットの製造方法は、ドライバービット本体の軸線方向の中間位置に形成された小径部を、複数の磁石片で囲って固定し、このドライバービット本体を、着磁装置にセットして、前記複数の磁石片と同一方向に飽和着磁させることを特徴とする。
【0006】
また本発明による磁気吸着式ドライバービットは、磁性金属からなり両側の先端に特定ネジに対応した刃部が形成されかつ長手方向の中央位置に小径部が形成されたビット本体と、強磁性体からなり前記ビット本体の小径部に沿うようにかつ前記ビット本体と略同一の外径になるように配置された複数の磁石片と、前記複数の磁石片の全体を覆うように前記ビット本体に外嵌された非磁性カバーとを備えることを特徴とする。
【0007】
また本発明による
磁気吸着式ドライバービットと吸着力回復治具の
セットは、
上記の磁気吸着式ドライバービット
と、前記磁気吸着式ドライバービットに対応した吸着力回復治具
とを備え、前記吸着力回復治具は、非磁性体からなり前記ビット本体の外径に対応した内径を有するガイド筒と、前記ガイド筒の奥方に配置された永久磁石とを備える
。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、磁気吸着式ドライバービットは、大径の磁気アタッチメントを用いた場合と同程度の吸着力が得られ、かつ、磁石片がドライバービットの外側に大きく突出しないので、ネジが見難い、また周囲のものにぶつかり易いという問題が解決される。
また磁気吸着式ドライバービットの吸着力がおちたときに、吸着力回復治具を用いて、吸着力を回復できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るドライバービットの分解斜視図である。
【
図2】(a)、(b)はそれぞれドライバービットの側面図、断面図である。
【
図3】(a)〜(c)はビット本体の着磁処理を説明する一連の断面図である。
【
図4】(a)はドライバービットの断面図、(b)は吸着力回復治具の断面図、(c)はドライバービット及び吸着力回復治具の断面図である。
【
図5】(a)、(b)はいずれも着磁装置の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本実施形態に係る磁気吸着式ドライバービットの分解斜視図である。また
図2(a)、(b)はそれぞれドライバービットの側面図、断面図である。なお本実施形態に係るドライバービットは、一般的なビット交換式ドライバー(図示なし)に交換自在に装着されるものである。
【0011】
図1に示すように、ドライバービット1は、例えば工具鋼等の強靭な磁性金属からなり先端にプラス又はマイナスネジ等、予め選択された種別のネジ(特定ネジ)に対応した刃部10aが形成されかつ軸線方向の中間位置に小径部10bが形成されたビット本体10と、例えばネオジウム等の強磁性体からなりビット本体10の小径部10bを囲うように形成された複数の磁石片11と、樹脂又はアルミ等の非磁性体からなり複数の磁石片11をビット本体10の小径部10bに沿わせた状態で固定する非磁性カバー12とを備えている。また磁石片11は、小径部10bを囲んで固定されたときにはビット本体10と略同一の外径になるように形成されている。
【0012】
前記要素の形状を具体的に説明すると、ビット本体10は六角柱状であって先端にプラス又はマイナスネジ等の特定ネジに対応した刃部10aが形成され軸線方向の中間位置に小径部10bが形成されている。更に先端の近傍に固定用小径部10cが形成されている。固定用小径部10cは、ドライバービット1がビット交換式ドライバーに装着されたとき、ドライバーに内蔵された係止手段と係合するためのものである。
【0013】
磁石片11は、ビット本体10と略同一の外径を有した筒体を軸線に沿って複数に分割した形状の永久磁石であって、その筒体の内径はビット本体10の小径部10bと略同一になっている。筒体は円筒形状であっても、角柱形状であってもよい。また筒体の分割数は特に制限されず、2〜4程度でよい。なお磁石片11はいずれも筒体の軸線方向にすなわちビット本体10の小径部10bを囲んで固定されたときにビット本体10の軸線方向と同一の方向になるように予め着磁されている。このように磁石片11は、ビット本体10に固定したとき、ドライバービット1の外側に突出しないので、ネジが見難い、また周囲のものにぶつかり易いという問題が生じない。
また磁石片11の長さは、小径部10bの長さよりも若干短くしておけば、磁石片11と小径部10bの始端、終端との間に余裕Sができるので、ネジ締め等の作業中にビット本体10が撓んでも磁石片11が破損し難くなる。
【0014】
非磁性カバー12は、ビット本体10と略同一の内径を有した円筒体であって、小径部10bが磁石片11によって囲われた状態とされたビット本体10に対して着脱自在に外嵌可能である。つまり非磁性カバー12をビット本体10の軸線方向にスライドさせることで磁性片を自由に着脱できる。そのためビット本体10が傷んだとき等、磁石片11を他のビット本体10に付け替えることも可能である。なお非磁性カバー12はビット本体10に外嵌されたときにあまり外側に突出しないように強度的に許容できる範囲で薄いものにすることが望ましい。また非磁性カバー12は、磁石片11の着磁方向を示すマーク12aが印字されている。
【0015】
なお磁石片11は、非磁性カバー12を用いず、接着剤等によってビット本体10に固定してもよい。
【0016】
本実施形態は、前記のような要素からなるドライバービット1の組み立てとビット本体10の着磁方法に特徴を有するものである。
ドライバービット1の組み立ては、ビット本体10の小径部10bを囲むようにかつ全ての磁石片11の着磁方向が同一方向になるように磁石片11を配置し、更に、磁石片11全体を覆うように非磁性カバー12をビット本体10に対してスライドさせて外嵌させる。このようにして磁石片11がビット本体10に固定される。そしてビット本体10の着磁は、前記のように磁石片11が固定されたままのビット本体10を、所定の着磁装置にセットして、ビット本体10をその軸線方向つまり永久磁石と同一方向に飽和着磁する。
【0017】
また本実施形態に係るドライバービット1は、磁石片11がビット本体10の軸線方向の中間位置に作業の邪魔にならないように固定される点が特徴である。つまり磁石編をビット本体10から離れた位置に配置できる。そのためビット本体10の両側の端部に刃部10aが形成されたビット本体10の場合には、磁石片11をビット本体10の軸線方向の中央部に配置すればその両側の先端に吸着力が現れる。そのためドライバービット1の方向を変えながら作業しても磁石片11を付け直す必要がなく使い勝手が大いに向上する。
【0018】
図3(a)〜(c)はビット本体の着磁処理を説明する一連の断面図である。これらの図における矢印は、磁石片11及びビット本体10の着磁方向を示している。またビット本体10の磁区Dを模式的に方形区画として示している。
【0019】
図3(a)は、ビット本体を着磁処理する前の状態(磁石片をビット本体に固定した直後)を示している。ビット本体10の磁区Dの着磁方向は、磁石片11に近い領域では概ね磁石片11の着磁方向に一致しているが、磁石片11から離れた領域ではランダムになっている。これはビット本体10の磁石片11の近い領域は磁石片11によって着磁されたが、磁石片から離れた領域は未着磁のままであることを意味する。ただし磁石片11をビット本体10に固定する際に周囲の磁区Dがどの方向に着磁されるかは、周囲の磁性体等の配置等にも依存するので一概には云えない。
図3(b)は、ビット本体の着磁処理している途中の状態を示している。なおここでは簡単のため着磁装置3としてその着磁コイルのみを図示している。
着磁処理はビット本体10の全体を収容できる着磁コイルに電流したときにそのコイルの内側に生じる一方向の強い磁界によって行う。電流によって生じさせる磁界の方向は、ビット本体10の軸線方向、つまり磁石片11の着磁方向に一致させる。このときの電流が十分であれば、ビット本体10を、磁石片11と同一方向に飽和着磁することが可能である。
図3(c)は、ビット本体の着磁処理をした後の状態を示している。ビット本体10は着磁コイルから取り出されているが、着磁状態はそのまま保たれている。
なお着磁装置3は、ビット本体10を収容可能な円筒状の永久磁石を用いたものでもよい。この場合、円筒状の永久磁石には、ネオジウム等の強力なものを用いるとよい。
【0020】
以上の説明から理解されるように、本実施形態に係るドライバービット1は、ビット本体10に磁石片11を固定してから、ビット本体10を磁気飽和するまで磁石片11と同一方向に着磁することで、磁石片11から生じた磁気がビット本体10の内部を通じて先端まで到達するようになる。具体的には、本実施形態に係るドライバービット1は、ビット本体10の先端部分に装着する従来の磁気アタッチメント(約800ガウス)と同程度の吸着力が得られ、例えばスチール等の磁性金属からなるネジを吸着することが可能である。
しかも非磁性カバー12をビット本体10の外側に突出しない厚みとした場合、従来の磁気アタッチメントのようにネジ締め等の作業の際に突出した磁気アタッチメントが邪魔になるというようなことはないので使い勝手が大いに向上する。
なお本実施形態では、磁石片11は予め着磁されており、前記着磁処理ではビット本体10のみを着磁すればよいので、小型の着磁装置を用いることができコストが抑えられるという利点もある。これに対する変形例として、未着時の磁石片11を用いてもよいが、ビット本体に加えて磁石片11まで着磁するには極めて強力な磁気(大電流)が必要となり、着磁装置の電源部等が大型化してしまうことが考えられる。
【0021】
ところで本実施形態に係るドライバービット1は、長期間使用していると磁気による吸着力が低下する可能性がある。これはビット本体10の先端に近い領域の磁区Dの着磁方向が徐々に変化していくことによるものである。しかしながらそのような吸着力の低下は、以下に説明するように吸着力回復治具2によって回復可能である。以下、これを
図4(a)〜(c)を参照しながら説明する。
【0022】
図4(a)は、ドライバービット1の吸着力が低下した状態を示している。磁石片11の着磁方向は変化していない。またビット本体10の磁区Dの着磁方向も磁石片11に近い領域ではほとんど変化していない。しかしながら磁石片11から離れた領域では変化があり、そのためドライバービット1の吸着力は低下している。
図4(b)は吸着力回復治具の形状を示す側面図である。吸着力回復治具2は、樹脂やアルミ等からなるガイド筒20の奥方に永久磁石21を固定した簡単な構造のものである。ガイド筒20はビット本体10の外径に対応した内径を有している。永久磁石21の着磁方向は非磁性ガイドの軸方向と同一であり、また永久磁石21の形状は、ガイド筒20の軸上に強い磁気が現れるように中央部が突出した形になっている。なおガイド筒20には、永久磁石21の着磁方向を示すマーク20aが印字されている。
図4(c)は、吸着力回復治具を用いてドライバービット1の吸着力を回復している状態を示している。ドライバービット1の非磁性カバー12に印字されたマーク12aと吸着力回復治具2のガイド筒20に印字されたマーク20aとを参照することでドライバービット1の着磁方向と吸着力回復治具2の永久磁石21の着磁方向とを合わせた状態として、ドライバービット1の先端を吸着力回復治具2に挿入する。すると永久磁石21の作用によって、ドライバービット1の先端が再着磁されて吸着力が回復する。
【0023】
図5(a)、(b)は着磁装置の変形例を示す側面図である。
図5(a)に示す着磁装置は永久磁石を用いた変形例である。着磁装置3は、その要部である2つ永久磁石31のみを図示している。永久磁石31はいずれも一方の端面が凸面とされた円柱形状であるが、それぞれ着磁方向が異なっている。着磁方向は図中に矢印で示している。永久磁石3の磁石の突出した端面を、永久磁石31の着磁方向をドライバービット1の磁石片11と同じにした状態で、ビット本体10の先端に接触させることで、ビット本体10を、磁石片11と同一方向に飽和着磁することが可能である。なお1つの永久磁石を、ビット本体10の先端に片方ずつ接触させるようにしてもビット本体10を、磁石片11と同一方向に飽和着磁することができる。
図5(b)に示す着磁装置3は、電磁石32を用いた変形例である。電磁石32の鉄芯32aは一方の端面が凸面とされた円柱形状である。電磁石32のコイル32bに通じる電流の方向によって電磁石32が生じさせる磁界の向きは変化する。よって、その磁界の向きをドライバービット1に固定された磁石片11と同じにした状態で、鉄芯32aの突出した端面をビット本体10の先端に接触させればよい。
【符号の説明】
【0024】
1 ドライバービット
10 ビット本体
10a 刃部
10b 小径部
11 磁石片
12 非磁性カバー
2 吸着力回復治具
20 ガイド筒
21 永久磁石
3 着磁装置