特許第6805710号(P6805710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許6805710-レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法 図000002
  • 特許6805710-レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法 図000003
  • 特許6805710-レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法 図000004
  • 特許6805710-レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6805710
(24)【登録日】2020年12月8日
(45)【発行日】2020年12月23日
(54)【発明の名称】レーザ溶接装置及びレーザ溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20201214BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20201214BHJP
【FI】
   B23K26/21 E
   B23K26/142
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-204195(P2016-204195)
(22)【出願日】2016年10月18日
(65)【公開番号】特開2018-65154(P2018-65154A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】松坂 文夫
(72)【発明者】
【氏名】西岡 祐人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 康介
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102011121420(DE,A1)
【文献】 特開昭50−095896(JP,A)
【文献】 特開平11−216589(JP,A)
【文献】 特開平05−185266(JP,A)
【文献】 特開平09−164495(JP,A)
【文献】 米国特許第05981901(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接物に向けてレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記レーザヘッドから照射されるレーザ光のレーザ光路を横切る方向に沿って配置されたノズル、及び、該ノズルと前記レーザ光路を挟んで対峙して配置されて前記レーザ光路を横切る前記ノズルから噴射されたガスが導入されるディフューザから成る負圧発生器を備えたレーザ溶接装置において、
前記負圧発生器は少なくとも二つ並べて配置され、
少なくとも二つ並べて配置された該負圧発生器の前記ノズル及び前記ディフューザ間にそれぞれ位置するガス流路同士が前記レーザヘッドから前記被溶接物を臨む視野において前記レーザ光路上で接触乃至重なっていると共に、該ガス流路で前記レーザ光路の断面の全体を覆っているレーザ溶接装置。
【請求項2】
前記負圧発生器における前記ノズルのガス噴射量を個別に調整する制御部を備えている請求項1に記載のレーザ溶接装置。
【請求項3】
前記被溶接物のレーザ光照射部分を囲んで配置されるカバーを備えている請求項1又は2に記載のレーザ溶接装置。
【請求項4】
前記カバー内に不活性ガスが充填されている請求項に記載のレーザ溶接装置。
【請求項5】
レーザヘッドから被溶接物にレーザ光を照射して溶接を行うに際して、
前記レーザヘッドから照射されるレーザ光のレーザ光路を挟んで対峙するノズル及びディフューザを具備した負圧発生器を少なくとも二つ並べて配置して、該二つ並べて配置した負圧発生器の前記ノズル及び前記ディフューザ間にそれぞれ位置するガス流路同士を前記レーザヘッドから前記被溶接物を臨む視野において前記レーザ光路上で接触乃至重ね合わせると共に、該ガス流路で前記レーザ光路の断面の全体を覆い
前記ガス流路を介して前記負圧発生器の各ノズルから噴出させたガスを前記負圧発生器の各ディフューザにそれぞれ導入させて、前記被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を生じさせつつ溶接を行うレーザ溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いたレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記したレーザ光を用いたレーザ溶接において、例えば、平板同士を突合せ溶接する場合には、被溶接物である平板のレーザ光照射部分に金属ヒューム,レーザプルーム等の金属蒸気やスパッタ(金属溶滴)が発生する。この金属蒸気やスパッタがレーザ光を照射するレーザヘッドの光学系に付着すると、レーザ光が遮られて被溶接物へのレーザ照射が不安定になる。
【0003】
従来、レーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に付着することを防ぐための策を講じたレーザ溶接装置として、負圧環境下でレーザ溶接を行うレーザ溶接装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このレーザ溶接装置は、被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を生じさせる負圧発生器をレーザヘッドの下方に配置した構成を成している。この負圧発生器は、レーザヘッドから照射されるレーザ光を横切る方向に沿って配置されたノズルと、レーザ光を挟んでノズルと対峙して配置されたディフューザを具備している。
【0005】
このレーザ溶接装置の負圧発生器は、ノズルから噴射された窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスをディフューザに導入して拡散させる(ノズル及びディフューザ間に不活性ガスを増速して流す)ことで、被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を作り出す。これにより、被溶接物のレーザ光照射部分で生じる金属蒸気やスパッタをディフューザに吸引することができる。
【0006】
したがって、このレーザ溶接装置では、レーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に付着するのを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−231629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したレーザ溶接装置において、20kW程度の大出力のレーザ光を用いるレーザ溶接の場合には、レーザ出力の増大に伴って大きくなるレーザ光の光路幅に合わせて負圧発生器のノズル及びディフューザの間隔を広げる必要がある。
【0009】
この際、金属蒸気やスパッタを吸引するための負圧環境を被溶接物のレーザ光照射部分に作り出すには、ノズル及びディフューザ間に流すガス流量を増さなければならない。
【0010】
しかしながら、このようにノズル及びディフューザ間に流すガス流量を増したとしても、ノズル及びディフューザの間隔が広い以上、被溶接物のレーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタが少なからずレーザヘッドの光学系に届いてしまうという問題があり、この問題を解決することが従来の課題となっている。
【0011】
本発明は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、レーザ出力の大小にかかわらず、被溶接物のレーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に届いて付着することを少なく抑え得るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、被溶接物に向けてレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記レーザヘッドから照射されるレーザ光のレーザ光路を横切る方向に沿って配置されたノズル、及び、該ノズルと前記レーザ光路を挟んで対峙して配置されて前記レーザ光路を横切る前記ノズルから噴射されたガスが導入されるディフューザから成る負圧発生器を備えたレーザ溶接装置において、前記負圧発生器は少なくとも二つ並べて配置され、少なくとも二つ並べて配置された該負圧発生器の前記ノズル及び前記ディフューザ間にそれぞれ位置するガス流路同士が前記レーザヘッドから前記被溶接物を臨む視野において前記レーザ光路上で接触乃至重なっていると共に、該ガス流路で前記レーザ光路の断面の全体を覆っている構成としている。
【0014】
また、本発明の第の態様は、前記負圧発生器における前記ノズルのガス噴射量を個別に調整する制御部を備えている構成としている。
【0015】
さらに、本発明の第の態様は、前記被溶接物のレーザ光照射部分を囲んで配置されるカバーを備えている構成としている。
【0016】
さらにまた、本発明の第の態様は、前記カバー内に不活性ガスが充填されている構成としている。
【0017】
一方、本発明の第5の態様は、レーザヘッドから被溶接物にレーザ光を照射して溶接を行うに際して、前記レーザヘッドから照射されるレーザ光のレーザ光路を挟んで対峙するノズル及びディフューザを具備した負圧発生器を少なくとも二つ並べて配置して、該二つ並べて配置した負圧発生器の前記ノズル及び前記ディフューザ間にそれぞれ位置するガス流路同士を前記レーザヘッドから前記被溶接物を臨む視野において前記レーザ光路上で接触乃至重ね合わせると共に、該ガス流路で前記レーザ光路の断面の全体を覆い、前記ガス流路を介して前記負圧発生器の各ノズルから噴出させたガスを前記負圧発生器の各ディフューザにそれぞれ導入させて、前記被溶接物のレーザ光照射部分に負圧環境を生じさせつつ溶接を行う構成としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るレーザ溶接装置では、レーザ出力の大小にかかわらず、被溶接物のレーザ光照射部分に生じる金属蒸気やスパッタがレーザヘッドの光学系に届いて付着するのを少なく抑えることができるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置を概略的に示す断面説明図である。
図2図1のA−A線位置に基づく部分拡大断面説明図である。
図3図1のレーザ溶接装置における負圧発生器のガス流路の重なり状況を示す部分拡大平面説明図である。
図4図1のレーザ溶接装置における負圧発生器のガス流路の他の重なり状況を示す部分拡大平面説明図(a),(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1図3は、本発明の一実施形態に係るレーザ溶接装置を示しており、この実施形態では、本発明に係るレーザ溶接装置を一対の平板同士の突合せ溶接に用いた場合を示している。
【0021】
図1に示すように、このレーザ溶接装置1は、レーザ発振器2と、光ファイバ3を介してレーザ発振器2と接続するレーザヘッド4と、このレーザヘッド4を移動させる駆動機構5と、溶接速度やレーザ出力やレーザ光のスポット径等をコントロールする制御部6を備えている。
【0022】
レーザヘッド4は光学系であるレンズ4aを具備しており、レーザ発振器2から供給されるレーザ光を円錐形状のレーザ光路Lに集光して一対の平板(被溶接物)W,W間の開先Waに照射する。また、駆動機構5は、開先Waに沿って配置されたレール5aと、スライダ5bを具備しており、スライダ5bは、レーザヘッド4を装着して、図示しないモータの出力によりレール5a上を黒太矢印方向に移動する。
【0023】
また、このレーザ溶接装置1は、一対の平板W,Wのレーザ光照射部分である開先Wa付近に、すなわち、レーザ光路Lの焦点LA付近に負圧環境を生じさせる負圧環境発生部10を備えている。
【0024】
この負圧環境発生部10は、レーザヘッド4の下部に装着された被覆筒11と、被覆筒11の下方に配置された負圧発生器20と、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが充填された負圧発生用ガスボンベ12を具備している。
【0025】
被覆筒11は負圧発生器20に至るまでのレーザ光路Lを覆っており、この被覆筒11の上端部には、レーザヘッド4のレンズ4aとともに光学系を構成する保護ガラス11aが内蔵されている。
【0026】
負圧発生器20は、レーザヘッド4から照射されるレーザ光のレーザ光路Lを横切る方向に沿って配置されたノズル21と、このノズル21とレーザ光路Lを挟んで対峙して配置されたディフューザ22を具備している。
【0027】
この負圧発生器20は、負圧発生用ガスボンベ12から白抜き矢印に示すようにして供給される不活性ガスをノズル21から噴射し、このノズル21から噴射されてレーザ光路Lを横切る不活性ガスをディフューザ22に導入して白抜き矢印に示すようにして拡散させて、ノズル21及びディフューザ22間に不活性ガスを増速して流すことで、レーザ光路Lの焦点LA付近に負圧環境を生じさせる。
【0028】
ここで、負圧発生器20におけるノズル21及びディフューザ22の間隔を狭く設定すると、レーザ光路Lの焦点LA付近に良好な負圧環境が形成される。しかし、例えば、20kW程度の大出力のレーザ光を用いるレーザ溶接の場合において、レーザ出力の増大に伴って大きくなるレーザ光路Lの路幅に合わせてノズル21及びディフューザ22の間隔を広く設定すると、溶接状況が観察し易くなるものの、レーザ光路Lの焦点LA付近における減圧効果が減少して、良好な負圧環境とは言えなくなる。
【0029】
そこで、この実施形態では、大出力のレーザ光により溶接を行う場合(ノズル21及びディフューザ22の間隔を広く設定する場合)の減圧効果の減少を抑えるべく、図2にも示すように、負圧発生器20をレーザ光路Lに沿って4台配置している。これら4台の負圧発生器20における各ノズル21及び各ディフューザ22は、ブロック23,24にそれぞれ固定されている。そして、これら4台の負圧発生器20における各ノズル21及び各ディフューザ22間にそれぞれ位置する4つのガス流路F1〜F4は、図3に示すように、レーザヘッド4から平板W,W間の開先Waを臨む視野(この実施形態では平面視野)においてレーザ光路Lの断面の全体を覆っている。なお、図1では4つのガス流路F1〜F4をいずれも細線の矢印で示している。
【0030】
詳述すれば、最もレーザヘッド4寄りに位置する負圧発生器20のガス流路F1と、この負圧発生器20のガス流路F1よりも平板W,W側に位置する負圧発生器20のガス流路F3,F4とは、レーザヘッド4から平板W,W間の開先Waを臨む視野においてレーザ光路L上で互いに重なり合っている。
【0031】
また、レーザヘッド4寄りに位置する負圧発生器20のガス流路F2と、この負圧発生器20のガス流路F2よりも平板W,W側に位置する負圧発生器20のガス流路F4とは、レーザヘッド4から平板W,W間の開先Waを臨む視野においてレーザ光路L上で互いに重なり合っている。
【0032】
つまり、レーザ光のレーザ光路Lに沿って4つ並べて配置した負圧発生器20の各ガス流路F1〜F4同士が、レーザヘッド4から平板W,W間の開先Waを臨む視野において互いに重なり合ってレーザ光路Lの断面の全体を覆っており、レーザ光路Lの焦点LA付近において、広範囲にわたって負圧環境を生じさせるようにしている。
【0033】
加えて、この実施形態において、負圧発生用ガスボンベ12と4台の負圧発生器20との間には、バルブモジュール25が設置されている。このバルブモジュール25は、制御部6からの指令により4台の負圧発生器20に対する負圧発生用ガスボンベ12からのガス供給量を変えて、4台の負圧発生器20における各ノズル21のガス噴射量を個別に調整するようにしている。
【0034】
さらに、負圧環境発生部10は、負圧発生器20の下方に配置されたカバー13を具備している。このカバー13は、一対の平板W,Wのレーザ光照射部分である焦点LAを覆って、4台の負圧発生器20により発生させた負圧環境を維持している。カバー13の内側には負圧発生器20を通過するレーザ光Lを覆う先細り筒13aがベースブロック13bを介して装着されている。
【0035】
この実施形態において、負圧環境発生部10は、負圧発生用ガスボンベ12と同じく窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスが充填されたシールドガスボンベ14を具備している。このシールドガスボンベ14からは、図1に実線矢印で示すように、カバー13内に不活性ガスが供給されるようになっており、これにより、負圧環境にあるカバー13内の不活性雰囲気が保たれるようになっている。
【0036】
なお、負圧発生器20は2台以上あればよく、この実施形態の4台に限定されるものではない。
また、この実施形態における負圧発生器20のノズル21及びディフューザ22は、いずれも図示した形状のものに限定されるものではなく、ノズル21のガス噴射孔を楕円形状としたり、複数の負圧発生器毎にノズル及びディフューザの口径に違いを持たせたりしてもよい。
【0037】
さらに、この実施形態では、負圧発生器20のノズル21及びディフューザ22間に形成されるガス流路F1〜F4がいずれも略円錐形状(円錐台形状)を成しているが、これに限定されるものではなく、例えば、ガス流路が円柱形状を成していてもよい。
【0038】
このように、ガス流路が円柱形状を成している場合には、図4(a)に示すように、レーザ光照射方向の前後に並ぶ又はレーザ光照射方向の同一レベルに並ぶ少なくとも2つのガス流路F5,F6は、平面視野において互いに重なり合っていることが望ましいが、これらのガス流路F5,F6は、平面視野において必ずしも重なり合っている必要はなく、図4(b)に示すように、互いに接触しているだけでもよい。
【0039】
本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法において、「負圧環境」とは、90kPa以下の圧力の雰囲気を指し、ノズルからの不活性ガスの噴射速度は、ノズル及びディフューザ間を90kPa以下の圧力雰囲気にし得る速度である。
そして、本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法に用いられるレーザとしては、YAGレーザやCOレーザやファイバーレーザやディスクレーザを挙げることができるが、これらのものに限定されない。
また、レーザ溶接装置によるレーザ溶接も突合せ溶接に限定されない。
【0040】
次に、このレーザ溶接装置1によって、一対の平板W,W間の開先Waに突合せ溶接を行って、一対の平板W,W同士を接合する場合の要領を説明する。
【0041】
まず、レーザヘッド4から照射されるレーザ光のレーザ光路Lを挟んで対峙させた負圧環境発生部10の4台の負圧発生器20の各ノズル21から、レーザ光路Lを横切る方向に不活性ガスを高速で噴射させると共に、レーザ光路Lを横切った不活性ガスを4台の負圧発生器20の各ディフューザ22に導入する。
【0042】
次いで、この状態で溶接を開始して、レーザ光を一対の平板W,W間の開先Waに照射しつつ、レーザヘッド4及び負圧環境発生部10を駆動機構5により開先Waに沿って一体で移動させる。
【0043】
このレーザヘッド4及び負圧環境発生部10の移動により、一対の平板W,W間の開先Waには溶接ビードBが形成され、この間、一対の平板W,W間の開先Waに対するレーザヘッド4からのレーザ光の照射により、一対の平板W,Wから金属蒸気PやスパッタSが噴出する。
【0044】
このとき、負圧環境発生部10における4台の負圧発生器20の各ノズル21及び各ディフューザ22間において、各ガス流路F1〜F4に沿って不活性ガスが増速されて流れているので、一対の平板W,W間のレーザ光照射部分、すなわち、レーザ光路Lの焦点LA付近は負圧環境となっている。
【0045】
加えて、レーザ光照射方向の前後に4つ並べて配置した負圧発生器20の各ガス流路F1〜F4同士が、レーザヘッド4から平板W,W間の開先Waを臨む視野において互いに重なり合っていて、レーザ光路Lの断面の全体を隙間なく覆っている。
【0046】
したがって、開先Waに対するレーザヘッド4からのレーザ光の照射により生じる金属蒸気PやスパッタSの大半は、4台の負圧発生器20の各ガス流路F1〜F4を高速で流れる不活性ガスに乗っていずれかのディフューザ22に吸引されることとなる。
【0047】
このように、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、レーザ光照射方向の前後に4つ並べて配置した負圧発生器20の各ガス流路F1〜F4同士が、レーザヘッド4から平板W,W間の開先Waを臨む視野において互いに重なり合っている。
【0048】
これにより、例えば、20kW程度の大出力のレーザ光を用いる場合に、4台の負圧発生器20の各ノズル21及び各ディフューザ22の間隔を広く(15mm程度に)設定したとしても、レーザヘッド4からのレーザ光の照射により一対の平板W,W間の開先Waに生じる金属蒸気PやスパッタSが、レーザヘッド4の光学系である保護ガラス11aに到達して付着することが少なく抑えられることとなる。
【0049】
よって、レーザ光が遮られて一対の平板W,W間の開先Waへのレーザ照射が不安定になることが回避されることとなる。
そして、負圧発生器20のノズル21及びディフューザ22の間隔を広く設定できるので、溶接状況の観察がし易くなる。
【0050】
また、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、レーザ光照射方向の前後に4つ並べて配置した負圧発生器20の各ガス流路F1〜F4が、レーザ光路Lの断面の全体を隙間なく覆っているので、レーザ光路Lの焦点LA付近において、広範囲にわたって負圧環境が生じることとなる。
【0051】
したがって、レーザヘッド4からのレーザ光の照射によって開先Waに生じる金属蒸気PやスパッタSが、レーザヘッド4の光学系である保護ガラス11aに付着することがより一層少なく抑えられることとなる。
【0052】
さらに、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、負圧発生用ガスボンベ12と4台の負圧発生器20との間に、制御部6からの指令により作動するバルブモジュール25を設置している。
【0053】
つまり、バルブモジュール25によって4台の負圧発生器20における各ノズル21のガス噴射量を個別に調整することで、レーザ光路Lの断面の全体を覆っているガス流路F1〜F4毎に不活性ガスの流量を変えることができ、金属蒸気PやスパッタSの発生分布に偏りが生じた場合等に迅速に対応することが可能である。
【0054】
さらに、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、負圧発生器20の下方に配置したカバー13で一対の平板W,Wのレーザ光照射部分である焦点LAを覆うようにしているので、4台の負圧発生器20により焦点LA近傍に発生させた負圧環境を維持することができる。
【0055】
さらにまた、上記した実施形態に係るレーザ溶接装置1では、カバー13内にシールドガスボンベ14から不活性ガスを供給するようにしているので、負圧環境にあるカバー13内を不活性の雰囲気に保持することができ、その結果、溶接品質を向上させることが可能である。
【0056】
本発明に係るレーザ溶接装置及びレーザ溶接方法の構成は、上記した実施形態に限られるものではない。
【符号の説明】
【0057】
1 レーザ溶接装置
4 レーザヘッド
4a レンズ(光学系)
6 制御部
10 負圧環境発生部
20 負圧発生器
21 ノズル
22 ディフューザ
F1〜F6 ガス流路
L レーザ光路
LA レーザ光路の焦点
W 平板(被溶接物)
図1
図2
図3
図4