(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均繊維長3mm〜100mmの不連続強化繊維と、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含むプレス成形材料であって、ある基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、それら2つの自己積層可能領域の外周の合流部に0mm超過5mm未満である曲率半径Rの形状を有し、立上げ可能面の一部が、少なくとも1つの自己積層可能領域に含まれることを特徴とする、プレス成形材料。
複数の立上げ可能面を有し、複数の自己積層可能領域を有し、それら自己積層可能領域のうち、少なくとも1箇所は、複数の立上げ可能面のそれぞれの一部を含む、又は立上げ可能面の一部と基準面の一部とをそれぞれ含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のプレス成形材料。
隣接する2つの自己積層可能領域のうち少なくとも1つの自己積層可能領域の厚みが4.0mm以上5.5mm未満であり、それら自己積層可能領域の外周の合流部に1mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載のプレス成形材料。
上型と下型とを有し、それらの型締めにより成形キャビティが形成される金型を用いて、請求項1〜10のいずれか1項に記載のプレス成形材料を、金型に配置してプレス成形する、平均繊維長3mm〜100mmの不連続強化繊維と、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含む複合材料の成形体であって、
ある基準面と、1つ以上の立上げ面を有し、これらの面の間の境界領域のうち、少なくとも1箇所においては該複合材料が自己積層構造を形成し、基準面と立上げ面とが接する稜線のいずれにおいてもウェルドラインが無い、3次元形状を有する成形体の製造方法。
プレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、自己積層可能領域を自己積層させるように配置し、プレス成形を行う請求項11に記載の成形体の製造方法。
プレス成形材料を、その自己積層可能領域が、幅20mm以上となる部位が生じるよう自己積層させた状態で金型の成形キャビティに配置する、請求項11〜15のいずれか1項に記載の成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[プレス成形材料]
本発明は、平均繊維長3〜100mmの不連続強化繊維と、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含むプレス成形材料であって、ある基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、立上げ可能面の一部が、自己積層可能領域に含まれることを特徴とする、プレス成形材料である。
以下、適宜、図面も参照して本発明について説明するが、本発明はそれら図面に示される実施の形態に限定されない。
【0014】
本発明のプレス成形材料は、そのある部分を曲げられて金型に配置されてプレス成形されることにより、ある面と、それとは別のある面とが、角部や曲状部などを介して座標系上の同一面に無い位置関係となっている形状を有する成形体となることができる。本発明のプレス成形材料の立上げ可能面とは、金型に配置される際に曲げられる部分であり、基準面とは、立上げ可能面と接してはいるが、立上げ可能面が曲げられる際に、それと同様には曲げられない部分を言う。プレス成形材料の基準面と立上げ可能面は、目的の成形体の形状やプレス成形の金型や方法に応じて適宜定まるものである。
【0015】
本発明のプレス成形材料の基準面は、
図1(b)の符号3で例示されるように、プレス成形により、成形体の底面などの比較的広い面になることができる。
本発明のプレス成形材料は、少なくとも1つの立上げ可能面を有し、好ましくは複数の、立上げ可能面を有するものである。プレス成形材料が有する立上げ可能面の数は特に制限は無いが、敢えてその上限を設けるなら、殆どの用途において該当することから10以下であると好ましく、形状が簡単ということから5以下であるとより好ましい。プレス成形材料の立上げ可能面を基準面に対して曲げるだけでなく、その立上げ可能面の一部を更に曲げてプレス成形材料を金型に配置し、プレス成形を行っても良い。
本発明のプレス成形材料の立上げ可能面は、
図1(b)の符号2で例示されるように、プレス成形により、成形体の立上げ面、例えば、リブや箱状成形体の場合の側面などの部分になることができる。
【0016】
本発明のプレス成形材料は、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、複数の自己積層可能領域を有するものであっても良い。プレス成形材料が有する自己積層可能領域の数は特に制限は無いが、敢えてその上限を設けるなら、殆どの用途において該当することから20以下であると好ましく、形状が簡単ということから10以下であるとより好ましい。本発明の自己積層可能領域とは、プレス成形材料を、そのある部分を曲げて金型に配置してプレス成形する際、成形体において積層構造を形成する、一つのプレス成形材料のある部分と、別の部分とをいう。ただし、
図9(b)に例示するとおり、1つの自己積層可能領域で積層構造を形成する態様も本発明に包含される。本発明のプレス成形材料の例示であるそれら図面では、簡便のため、自己積層可能領域を直線で囲まれた箇所として示してあるが、勿論、曲線や不規則な周辺形状の領域であってよい。
【0017】
本発明において、自己積層可能領域は、プレス成形材料を、そのある部分を曲げて金型に配置する際に、そのプレス成形材料の部分同士で重なりうる領域(以下、事前積層領域と称する場合がある)だけでなく、加熱され可塑状態にあるプレス成形材料がプレスされて流動することにより、事前積層領域より広い部分で積層構造となる領域も含んでも良い。そのような態様は、
図1(b)などに例示される。本発明のプレス成形材料の例示であるそれら図面において、符号10は事前積層領域を表し、一点鎖線は折り曲げ線を示している。勿論、プレス成形材料は、自己積層可能領域と事前積層領域と等しいものであってもよい。
【0018】
本発明のプレス成形材料は、複数の立上げ可能面を有し、複数の自己積層可能領域を有し、それら自己積層可能領域のうち、少なくとも1箇所は、複数の立上げ可能面のそれぞれの一部を含む、又は立上げ可能面の一部と基準面の一部とをそれぞれ含むものであると好ましい。
図1(b)には、複数の立上げ可能面のそれぞれの一部を含む自己積層可能領域が例示されているといえる。
図2(b)には、立上げ可能面の一部と基準面の一部とをそれぞれ含む自己積層可能領域が例示されているといえる。プレス成形材料が、
図1(b)の符号1にて例示されるような、隣接する2つの自己積層可能領域を少なくとも1組持つものであると、プレス成形時に互いに積層させ易く、プレス成形材料の金型への配置を迅速にでき好ましい。より強調した表現をすると、プレス成形材料は、互いに積層し得る隣接する2つの自己積層可能領域を持つものであると好ましい。
【0019】
プレス成形材料は、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、それら自己積層可能領域間の最も離れた距離b(最も離れた距離b、または距離bと略称される場合がある)が500mm以下であると、これをプレス成形するにおいて、皺がより生じにくくなり好ましい。自己積層可能領域間の最も離れた距離bは400mm以下であるとより好ましく、300mm以下であるとより一層好ましい。上記の自己積層可能領域間の最も離れた距離bについて、以下のとおり、別の表現でも表してもよい:隣接する2つの自己積層可能領域を有するプレス成形材料が、その厚み方向へ投影された形状において、隣接する2つの自己積層可能領域により、湾状の空白部が形成されている略凹角形を示すものであり、
湾状の空白部を挿んで向かい合う2つの自己積層可能領域の外周同士を、当該外周の湾状の空白部の口部側の端部同士を結んだ直線(以下、湾口端部直線と称することがある)に対し略並行の直線で結んだ距離のうち、最も離れた距離bが500mm以下であると上記理由により好ましい。湾口端部直線に対し略並行の直線は、勿論、湾口端部直線に完全に平行でもよく、湾口端部直線自身であってもよい。最も離れた距離bが、湾口端部直線より若干、湾状の空白部の内側にあるプレス成形材料について、その厚み方向に見た場合の形状を
図13に例示する。距離bのより好ましい値は上記のとおりである。
プレス成形材料のx−、y−、z−方向の寸法のいずれを、幅、奥行き、および厚みとするかは、適宜設定してよいが、最も小さい寸法を厚み、最も大きい寸法を幅、残りの寸法を奥行きとすることが多い。各方向の寸法が部位によって異なるような複雑な形状のプレス成形材料については、各寸法の平均値や最大値同士で比較し、厚み、奥行き、幅としてもよい。このプレス成形材についての幅、奥行き、および厚みの設定方法は、成形体についても適用することができる。
【0020】
プレス成形材料は、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、それら自己積層可能領域の外周の合流部に0mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有するものであると、これをプレス成形するにおいて、それら自己積層可能領域を積層させても皺が生じにくくなり好ましい。曲率半径は0mm超過であるとより好ましく、0mm超過かつ4mm以下であるとより一層好ましい。上記の曲率半径Rについて、以下のとおり、別の表現でも表してもよい:隣接する2つの自己積層可能領域を有するプレス成形材料が、その厚み方向へ投影された形状において、隣接する2つの自己積層可能領域により、湾状の空白部が形成されている略凹角形を示すものであり、湾状の空白部をはさんで向かい合う2つの自己積層可能領域の外周同士の合流部に、0mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有するものであると上記理由により好ましい。
曲率半径が0mm未満の形状として、
図14に例示される、湾状の空白部が線状の場合の合流部の形状を示すことができる。
図15に例示されるように、外周の合流部としては、2つの自己積層可能領域の外周の端部で、湾状の空白部の口部側のもの同士を結んだ直線の中点から、直線で結ぶことができる当該外周上の点で最も遠い点を含む周辺部位を、好ましいものとして定義することもできる。最も遠い点が複数ある場合は、いずれか1点を含む周辺部位である合流部が前記の曲率半径Rの形状を有するものであると好ましく、複数の最も遠い点それぞれを含む各周辺部位である合流部が前記の曲率半径Rの形状を有するものであるとより好ましい。
【0021】
プレス成形材料は、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、そのうち少なくとも1つの自己積層可能領域の厚みが5.5mm未満であると、これをプレス成形するにおいて、それら自己積層可能領域を積層させても皺が生じにくくなり好ましい。自己積層可能領域の厚みは5.0mm未満であるとより好ましく、4.0未満であるとより一層好ましく、3.5mm未満であるとより好ましい。自己積層可能領域の厚みの下限は、当然0mm超過であるが、0.1mm以上であると好ましく、0.5mm以上であるとより好ましく、1.0mm以上であるとより一層好ましい。自己積層可能領域の厚みの好ましい数値範囲は、上記の好ましい下限値と上限値から適宜選択することができる。プレス成形材料の隣接する2つの自己積層可能領域の厚さは、いずれか1つの厚みが上記の好ましい範囲にあるものであればよいが、2つとも上記の好ましい範囲にあるとより好ましい。
【0022】
プレス成形材料は、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、そのうち少なくとも1つの自己積層可能領域の厚みが4.0mm未満であり、それら自己積層可能領域の外周の合流部に0mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有するものであると、これをプレス成形するにおいて、皺がより生じにくくなり好ましい。自己積層可能領域の厚みや曲率半径Rについて、上記の別の表現も可能であり、これらのより好ましい数値範囲や態様についても前記と同様である。
【0023】
プレス成形材料は、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、そのうち少なくとも1つの自己積層可能領域の厚みが4.0mm以上5.5mm未満であり、それら自己積層可能領域の外周の合流部に1mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有するものであると、これをプレス成形するにおいて、皺がより生じにくくなり好ましい。自己積層可能領域の厚みや曲率半径Rについて、上記の別の表現も可能であり、これらのより好ましい数値範囲や態様についても前記と同様である。
【0024】
プレス成形材料は、隣接する2つの自己積層可能領域を有し、それら自己積層可能領域の外周の合流部に0mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有し、
2つの自己積層可能領域の外周の互いに面している部分の合計長さL(単に、合計長さLと略称される場合がある)と、
2つの自己積層可能領域の外周の互いに面している部分の端部同士を結ぶ直線の中点と合流部との距離c(単に、距離cと略称される場合がある)とが、
L/c≧1.5 (ここでLとcとの単位は同じである) (q)
を満たすものであると、これをプレス成形して得られる成形体の、プレス成形時にプレス成形材料が自己積層され形成された部位の、強度が優れたものとなり好ましい。
上記態様について、以下のとおり、別の表現でも表してもよい:隣接する2つの自己積層可能領域を有するプレス成形材料が、その厚み方向へ投影された形状において、隣接する2つの自己積層可能領域により、湾状の空白部が形成されている略凹角形を示すものであり、湾状の空白部をはさんで向かい合う2つの自己積層可能領域の外周同士の合流部に、0mm以上5mm未満である曲率半径Rの形状を有し、
2つの自己積層可能領域の外周の、湾状の空白部に面している部分の合計長さLと、
2つの自己積層可能領域の外周の端部で、湾状の空白部の口部側のもの同士を結んだ直線の中点と合流部との距離cが、上記式(q)を満たすものであると、上記理由により好ましい。
プレス成形材料は上記式(q)左辺のL/cが1.8以上であるとより好ましく、2.0以上であると更に好ましい。
合計長さLについては、
図10において符号14(太線で示された部分)で例示される。
【0025】
本発明のプレス成形材料は、WO2007/097436パンフレットに記載の不連続繊維からなる抄造シート、米国特許第8829103号公報、米国特許第9193840号公報、米国特許公開公報第2015/292145号、WO2012/105080パンフレット、およびWO2013/031860パンフレットに記載のランダムマットや繊維強化複合材料など(以下、基材等と略記する場合がある)等に基づいて得ることができる。本発明のプレス成形材料としては、上記文献に記載の基材等を、これら文献に記載で製造するにおいて、基準面と立上げ可能面とを有する形状にして得られたものでも良く、これら文献に記載の基材等の一般的な矩形板状のものを、基準面と立上げ可能面とを有するブランク形状に切断したものや切り抜いたものであってもよい。
【0026】
本発明のプレス成形材料の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm〜100mmの範囲内であると好ましく、0.01mm〜30mmの範囲内であるとより好ましく、0.01mm〜5mmの範囲内であるとより一層好ましく、1〜3mmの範囲内であると更に好ましい。プレス成形材料の厚みは、全ての部位で同一でも、部位によって異なってもよい。自己積層可能領域の好ましい厚みが、前記の範囲にあり、それ以外の部位の厚みが上記の範囲にあるプレス成形材料も好ましい。なお、本発明の成形材料が複数の層が積層された構成を有する場合、上記厚みは各層の厚みを指すのではなく、各層の厚みを合計した複合材料全体の厚みを指すものとする。
【0027】
本発明に用いられるプレス成形材料は、単一の層からなる単層構造を有するものであってもよく、又は複数層が積層された積層構造を有するものであってもよい。プレス成形材料が上記積層構造を有する態様としては、同一の組成を有する複数の層が積層された態様であってもよく、又は互いに異なる組成を有する複数の層が積層された態様であってもよい。また、複合材料が上記積層構造を有する態様としては、相互に強化繊維の配列状態が異なる層が積層された態様であってもよい。このような態様としては、例えば、強化繊維が一方向配列している層と、2次元ランダム配列している層を積層する態様を挙げることができる。3層以上が積層される場合には、任意のコア層と、当該コア層の表裏面上に積層されたスキン層とからなるサンドイッチ構造としてもよい。
【0028】
本発明のプレス成形材料は、引張破断伸度εvが105%〜400%であると好ましく、105%〜260%であるとより好ましく、110%〜230%であるとより一層好ましい。引張破断伸度εvが105%以上のプレス成形材料であると、金型に配置する際に折り曲げなどをされても裂けにくいので好ましい。引張破断伸度εvが400%以下のプレス成形材料であると、可塑状態にあるものをロボットアームで掴むなどして運搬する際に、自重で垂れ下がり著しく変形するようなことが起き難いので好ましい。
ここで、プレス成形材料の引張破断伸度εvは、プレス成形材料のマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度で、引張速度20mm/secで伸長された時のプレス成形材料の伸びであり、下記式(e)で表される。
εv=成形材料の伸長後の長さ/成形材料の伸長前の長さ (e)
【0029】
より具体的には、プレス成形材料を、そのマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度まで昇温して、引張破断伸度εv測定用のプレス用成形型の上にプレス成形材料を配置し、プレス成形型締め付け速度20mm/secで、成形材料を破断させるまで成形型を閉じた後、プレス成形材料を取り出してプレス成形材料が伸長した長さを測定し、プレス成形材料の伸長前の長さで除算して計算される。
【0030】
プレス成形材料のマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度とは、当該プレス成形材料をコールドプレス成形することが可能な温度である。熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度としては、軟化点温度〜軟化点温度+100℃が好ましく、軟化点温度+20〜軟化点温度+80℃であるとより好ましい。本発明において、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度としては、当該熱可塑性樹脂が結晶性の場合はその融点、非晶性の場合はガラス転移温度であればよい。例えば、マトリックスとしての熱可塑性樹脂が結晶性のポリアミド6(PA6、ナイロン6、Ny6などとも称される。融点約225℃)の場合は軟化点温度以上の温度として、300℃であると好ましい。
【0031】
引張破断伸度εvはプレス成形材料における強化繊維の含有量、繊維長、繊維径などに影響され、強化繊維の含有量が多いほど、繊維長が長いほど、繊維径が小さいほど、引張破断伸度εvは小さくなる傾向にある。平板状の繊維強化複合材料を切り抜いてプレス成形材料を得た場合や、プレス成形材料を切断して別の形状のプレス成形材料にした場合、切断前の平板状の繊維強化複合材料等と切断後のプレス成形材料との引張破断伸度εvは同じと見做すことができる。
本発明のプレス成形材料に含まれる不連続強化繊維やマトリックスとしての熱可塑性樹脂、それら構成成分の組成や形態、およびプレス成形材料の製造方法については後に記載する。
【0032】
[プレス成形材料の製造方法]
本発明のプレス成形材料を製造する方法としては、平均繊維長3〜100mmの不連続強化繊維と、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含む複合材料からなる物体を、以下i)、ii)を満たす形状、ブランク形状と称してもよい、となるように加工する工程を含む製造方法が好ましい。
i) プレス成形の目的物である成形体の3次元形状から、コンピューターにて逆成形解析し展開された形状である。
ii) 上記の逆成形解析時に、目的物である成形体の3次元形状の要素の少なくとも1つを削除して展開された形状である。
【0033】
ここで、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含む複合材料からなる物体としては、前記の基材等が例示される。
ここで、「逆成形解析」というのは、有限要素法を用いて、目的の成形体形状データから、該成形体をプレス成形にて製造するために必要な成形材料の形状や大きさを予測する手法である。上記において、成形材料の形状をブランク形状と称したように、本発明に関して成形材料をブランクと称することがある。
ここで、「要素」とはメッシュとも呼ばれ、有限要素法により数値解析を行うために、解析対象である構造物を有限個に分割した一つ一つを指す。例えば、
図8(b)の符号11はある一つの要素を表す。「少なくとも一つを削除して」とは、構造物を構成する要素のうち積層可能部に含まれる少なくとも一つの要素を削除することである。こうすることで、コンピューターにて逆成形解析し展開されたブランクは自ずと積層可能部の形状を伴った形状となる。例えば、
図8(b)に例示されるとおり、要素11のうち、積層可能部に含まれる要素(符号12)を削除して逆成形解析を行うことで、
図1(b)のようなブランク形状が得られる。上記の積層可能部とは、逆成形解析により展開されたブランク形状において、自己積層可能領域となる部位である。
【0034】
[成形体]
本発明は、平均繊維長3〜100mmの不連続強化繊維と、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含む複合材料の成形体であって、
ある基準面と、1つ以上の立上げ面を有し、これらの面の間の境界領域のうち、少なくとも1箇所においては該複合材料が自己積層構造を形成し、基準面と立上げ面とが接する稜線のいずれにおいてもウェルドラインが無い、3次元形状を有する成形体の発明も包含する。そのような成形体として、
図1(a)、
図2(a)、
図3(a)、
図4(a)や
図5(a)〜(c)が例示される。なお、「ある基準面と、1つ以上の立上げ面を有し、これらの面の間の境界領域のうち、少なくとも1箇所においては該複合材料が自己積層構造を形成して」との本発明の成形体には、ある基準面と、2つ以上の立上げ面を有し、この2つ以上の立上げ面の間の境界領域のうち、少なくとも1箇所においては該複合材料が自己積層構造を形成しているが、基準面と立上げ面の間の境界領域には全く自己積層構造が形成されていない成形体も包含される。なお、本発明の成形体を、便宜上、プレス成形体と呼んでも良い。本発明のプレス成形体は、前記の本発明のプレス成形材料をプレス成形して得られたものであると好ましい。
【0035】
ここで、ウェルドラインとは、樹脂系材料を溶融・流動させる成形方法により得られる成形体において、成形時に、金型内で複数の樹脂溶融物の流れが合流した部分に発生する線状の模様が確認される部分のことで、ウェルドまたはウェルド部分とも言われる。金属材料どうしを溶接させた際の線状の溶接痕にちなんでこのように呼ばれる。ウェルドラインの存在は成形体の表面意匠性を悪化させるだけでなく、その強度不足の原因ともなる。
【0036】
本発明の成形体は、更に、立上げ面が複数あり、立上げ面の間の境界領域のうち、少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上、更に好ましくは4か所以上、特に好ましくは全ての立上げ面の間の境界領域において、該複合材料が自己積層構造を形成している部分(単に、積層部と称する場合がある)があるものであると好ましい。
本発明の成形体は、ある立上げ面が自己積層構造を形成している部分を有するものであっても良い。そのような成形体としては、プレス成形材料における隣接する2つの立上げ面が、自己積層可能領域を有するものであり、それらがプレス成形で1つの立上げ面を形成して得られた成形体が例示される。
【0037】
本発明の成形体の厚みは特に限定されるものではないが、通常、0.01mm〜100mmの範囲内が好ましく、0.01mm〜50mmの範囲内がより好ましく、0.01mm〜5mmの範囲内がより一層好ましく、0.1mm〜5mmの範囲内が更に好ましく1〜3mmの範囲内が特に好ましい。部位によって厚みが異なる成形体の場合は、平均の厚みが上記範囲に入っていると好ましく、最小値と最大値の双方が上記範囲に入っていると更に好ましい。なお、本発明の成形体の大きさについては特に限定されず、用途に応じて適宜設定される。
【0038】
本発明の成形体を製造する方法としては、熱可塑性樹脂のプレス成形の方法として公知のものを用いることができるが、上型と下型とを有し、それらの型締めにより成形キャビティが形成される金型を用いて、平均繊維長3〜100mmの不連続強化繊維と、マトリックスとしての熱可塑性樹脂とを含み、ある基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、立上げ可能面の一部が、自己積層可能領域に含まれるプレス成形材料を、金型に配置してプレス成形する製造方法が好ましい。プレス成形材料の好ましい態様は前述したとおりである。
上記のプレス成形のなかでも、コールドプレス成形方法、つまり、前記のようなプレス成形材料を、そのマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度に加熱して可塑状態にしたものを、当該軟化温度より低い温度にある金型に、当該プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、自己積層可能領域を自己積層させるように配置し、型締めしてプレス成形する方法が好ましい。より具体的に言うと、本発明のプレス成形材料を加熱して可塑状態にした後、そのプレス成形材料の基準面3または立ち上げ可能面2の間の境界領域のうち、少なくとも1箇所においては該プレス成形材料が自己積層構造を形成するように配置する。具体的には、基準面3と立ち上げ可能面2、あるいは立ち上げ可能面2同士をオーバーラップさせるように配置しプレス成形することで、自己積層構造を有する成形体を得ることができる。オーバーラップさせる長さ(オーバーラップ量)としては、成形材料の端部から1mm以上が好ましく、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上、20mm以上が好ましい。本発明の成形体の製造方法において、これらのプレス成形材料の金型への配置をロボットアームなどの機械的機構によって行うことが好ましい。
【0039】
本発明の成形体の製造方法は、1回のプレス成形にて、プレス成形材料から特定の自己積層構造を有する成形体を得ることができ、非常に効率よく高い生産性で3次元形状の繊維強化複合材料成形体を生産することができる。
プレス成形に用いる金型とは、上型と下型からなるプレス成形用の金型であると好ましく、プレス成形用の金型を用いる場合、プレス成形材料が配置される金型は、一般的に下型であることが多い。金型について、更に述べると、金型は大きく2種類に分類され、1つは鋳造、射出成形やフロープレス(スタンピング)成形などに使用される密閉成形金型であり、もう1つは折曲成形、深絞成形や鍛造などに使用される開放成形金型である。密閉成形金型は主に内部に材料を流し込んで成形する方法に適し、開放成形金型は主に材料を流動させずに変形させて成形する方法に適している。本発明のプレス成形材料は、材料を流動させてキャビティに充填させる方法にとりわけ適当な材料であるから、成形型は前者の密閉成形金型を用いることが好ましい。密閉成形金型においては、材料の流出を塞き止めるためのシェアエッジを設けることが一般的である。
【0040】
プレス成形時の金型内の温度は、プレス成形材料のマトリックスとしての熱可塑性樹脂の種類によるが、溶融し可塑状態にある熱可塑性樹脂が冷却されて固化し、成形体が形作られればよく、熱可塑性樹脂の軟化温度から20℃以下の温度であることが好ましい。例えばナイロン6(ポリアミド6)のような代表的なナイロン類の場合には、通常120〜180℃であり、好ましくは125〜170℃であり、さらにより好ましくは130〜160℃である。
本発明の成形体を構成する材質に含まれる複合材料中の不連続強化繊維やマトリックスとしての熱可塑性樹脂、それら構成成分の組成や形態などは、後に示すとおり、プレス成形材料に関するものとほぼ同様である。
【0041】
成形体の製造方法としては、前記の条件に加え、プレス成形材料を金型の成形キャビティに配置するにおいて、型締め方向へのプレス成形材料の投影面積をブランク面積と定義した場合、
金型の型締め方向への成形キャビティの投影面積として定義される製品部面積に対し、90〜110%の割合のブランク面積となるように、少なくとも1枚のプレス成形材料を配置する操作を含むと好ましい。プレス成形材料を金型の成形キャビティに配置された後、当然、型締めが行われ、所望の形状を有する成形体を得ることができる。製品部面積に対するブランク面積の割合が90%以上であると、成形時の充填不良が起き難いので好ましく、かつ、110%以下であると、成形時にブランクの金型への噛みこみが起きづらいので好ましい。製品部面積に対するブランク面積の割合は、95%以上105%以下であるとより好ましい。
【0042】
成形体の製造方法としては、プレス成形材料を、その自己積層可能領域が、幅(自己積層幅と称されることがある)20mm以上となる部位が生じるよう自己積層させた状態で金型の成形キャビティに配置する操作を含むものであると、プレス成形時にプレス成形材料が自己積層され形成された部位の、強度が優れたものとなり好ましい。更に、成形体の製造方法としては、隣接する2つの自己積層可能領域を有するプレス成形材料を、その一方の自己積層可能領域と、他方の自己積層可能領域とが20mm以上の幅で自己積層されている状態で、金型キャビティに配置する操作を含む製造方法であるとより好ましい。上記の自己積層幅の上限は特にないが、プレス成形時に、プレス成形材料の自己積層されている部位に圧力が集中的に作用して成形不良が発生することが起き難くなることから、自己積層幅は50mm以下であることが好ましく、40mm以下であるとより好ましく、30mm以下であるとより一層好ましい。
【0043】
[不連続強化繊維]
(不連続強化繊維の種類)
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料に含まれる不連続強化繊維の種類は、熱可塑性樹脂の種類や複合材料の用途等に応じて適宜選択することができるものであり、特に限定されるものではない。このため、本発明に用いられる不連続強化繊維としては、無機繊維又は有機繊維のいずれであっても好適に用いることができる。
【0044】
上記無機繊維としては、例えば、炭素繊維、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然鉱物繊維(玄武岩繊維など)、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。
上記金属繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、銅繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維を挙げることができる。
上記ガラス繊維としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等からなるものを挙げることができる。
上記有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等からなる繊維を挙げることができる。
【0045】
本発明においては、2種類以上の強化繊維を併用してもよい。この場合、複数種の無機繊維を併用してもよく、複数種の有機繊維を併用してもよく、無機繊維と有機繊維とを併用してもよい。複数種の無機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維と金属繊維とを併用する態様、炭素繊維とガラス繊維を併用する態様等を挙げることができる。一方、複数種の有機繊維を併用する態様としては、例えば、アラミド繊維と他の有機材料からなる繊維とを併用する態様等を挙げることができる。さらに、無機繊維と有機繊維を併用する態様としては、例えば、炭素繊維とアラミド繊維とを併用する態様を挙げることができる。なお、本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料は、不連続強化繊維のほか、本発明の課題を解決する効果に支障が出ない範囲で上記繊維の連続繊維を含んでも良い。
【0046】
(炭素繊維)
本発明においては、上記の不連続強化繊維が炭素繊維であると好ましい。炭素繊維は、軽量でありながら強度に優れた複合材料を得ることができるからである。
上記炭素繊維としては、一般的にポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、石油ピッチ系炭素繊維、石炭ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、リグニン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、気相成長系炭素繊維などが知られているが、本発明においてはこれらのいずれの炭素繊維であっても好適に用いることができる。
中でも、本発明においては引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維としてPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は100〜600GPaの範囲内であることが好ましく、200〜500GPaの範囲内であることがより好ましく、230〜450GPaの範囲内であることがさらに好ましい。PAN系炭素繊維の引張強度は2000〜10000MPaの範囲内であることが好ましく、3000〜8000MPaの範囲内であることがより好ましい。
【0047】
(不連続強化繊維の繊維長)
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料に含まれる不連続強化繊維は平均繊維長3〜100mmのものであることが肝要である。この平均繊維長は、個数平均繊維長でも重量平均繊維長でも良いが、重量平均繊維長がより好ましい。
不連続強化繊維は、重量平均繊維長は3〜80mmのものであるとより一層好ましく、5〜60mmであるとさらに好ましい。強化繊維の重量平均繊維長が100mm以下であると、強化繊維を含む成形材料の流動性が良好で、プレス成形等により所望の成形体形状を得易い。一方、重量平均繊維長が3mm以上であると、強化繊維を含む成形材料が良好な機械強度を有することが多い。上記のそれぞれの不連続強化繊維の重量平均繊維長の範囲の下限は、10mm超であるとより好ましい。上記の、それぞれの重量平均繊維長の範囲を満たす強化繊維は炭素繊維であると更に好ましい。
【0048】
本発明に関する不連続強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維からなる群より選ばれる1つ以上の強化繊維で、前記の重量平均繊維長範囲にあるものであると更に好ましい。
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料に含まれる不連続強化繊維としては、重量平均繊維長が互いに異なる不連続強化繊維を併用してもよい。換言すると、本発明に関する不連続強化繊維は、重量平均繊維長に単一のピークを有するものであってもよく、あるいは複数のピークを有するものであってもよい。
【0049】
不連続強化繊維の平均繊維長は、例えば、成形材料から無作為に抽出した100本の繊維の繊維長を、ノギス等を用いて1mm単位まで測定し、下記式(f)に基づいて求めることができる。平均繊維長の測定は、重量平均繊維長(Lw)で測定する。個々の不連続強化繊維の繊維長をLi、測定本数をjとすると、個数平均繊維長(Ln)と重量平均繊維長(Lw)とは、以下の式(m)、(f)により求められる。
Ln=ΣLi/j (m)
Lw=(ΣLi
2)/(ΣLi) (f)
不連続強化繊維の繊維長が一定長の場合は個数平均繊維長と重量平均繊維長は同じ値になる。成形体や成形材料からの強化繊維の抽出は、例えば、成形体(成形材料)に対し、500℃×1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて樹脂を除去することによって行うことができる。
【0050】
(不連続強化繊維の単繊維径)
本発明に用いられる不連続強化繊維の単繊維径は、不連続強化繊維の種類に応じて適宜決定すればよく、特に限定されるものではない。例えば、不連続強化繊維として炭素繊維が用いられる場合、平均単繊維径は、通常、3μm〜50μmの範囲内であることが好ましく、4μm〜12μmの範囲内であることがより好ましく、5μm〜8μmの範囲内であることがさらに好ましい。
一方、不連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、平均単繊維径は、通常、3μm〜30μmの範囲内であることが好ましい。ここで、上記平均単繊維径とは、強化繊維を構成する単繊維の直径を指す。
不連続強化繊維の平均単繊維径は、例えば、JIS R7607(2000)に記載された方法によって測定することができる。
【0051】
(強化繊維の形態)
本発明に用いられる不連続強化繊維は、その種類に関わらず、1本の単繊維からなる単繊維状であってもよく、複数の単繊維からなる単繊維束状であってもよい。本発明の成形材料などに含まれる強化繊維は、単繊維状のもののみであってもよく、単繊維束状のもののみであってもよく、両者の混合物であってもよい。ここで示す単繊維束とは2本以上の単繊維が集束剤や静電気力等により近接している事を示す。単繊維状のものを用いる場合、各単繊維束を構成する単繊維数は、各単繊維束においてほぼ均一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
本発明に関し、単繊維束状の強化繊維を便宜上、強化繊維束と称することがある。1つの強化繊維束とは、繊維強化樹脂成形体やその成形材料において、1つの充填物として機能する。繊維強化樹脂成形体や成形材料からそのマトリクスである熱可塑性樹脂を除去したものである強化繊維試料から、不作為に個々の強化繊維をピンセットなどで採取したものが複数の単繊維の束状物であれば、これを強化繊維束と見なすことができる。
強化繊維束としては、複数の単繊維が凡そ同方向を向き、それらの長手側面同士が接して束状になっているものが代表的だが、この形態に限定されない。例えば、複数の単繊維が様々な方向を向いた束状であってもよく、複数の単繊維が長手側面の一部では近接しているが、それ以外の部分では単繊維の間が離れているような束状であってもよい。
【0052】
商業的に製造および売買されている強化繊維の多くは、単繊維が束状になった構造をしたものであり、それらの単繊維数は様々だが、1000本〜10万本の範囲内であることが多い。例えば、炭素繊維は、一般的に、数千〜数万本の炭素単繊維が集合した束状となっている。
複合材料の製造に強化繊維を用いる場合に、強化繊維を拡幅したり開繊したりすることなく使用すると、強化繊維の交絡部が局部的に厚くなり薄肉の複合材料を得ることが困難になる場合がある。このため、強化繊維は、拡幅や開繊をされてから、適宜切断されたうえで複合材料に使用されることが好ましい。
強化繊維を開繊して用いる場合、開繊程度は特に限定されるものではないが、強化繊維の開繊程度を制御し、ある特定本数以上の強化単繊維からなる強化繊維と、当該特定本数未満の強化単繊維からなる強化繊維又は単繊維状のもの、つまり遊離強化単繊維を含むことが好ましい。
【0053】
上記不連続強化繊維の形態としては、具体的には、前記のWO2012/105080号パンフレット、およびWO2013/031860パンフレットなどに記載の基材等における強化繊維の形態であれば好ましく、例えば、下記式(1)で定義される臨界単繊維数以上の本数の強化単繊維で構成される単繊維束である強化繊維(A)と、それ以外の強化繊維(B)との混合物であると好ましい。この強化繊維(B)は臨界単繊維数未満の本数の強化単繊維で構成される強化繊維だが、遊離強化単繊維も含まれる。強化繊維(A)と、強化繊維(B)について、別の呼び方をするならば、それぞれ単繊維束挙動強化繊維と、遊離単繊維挙動性強化繊維と言える。これは、単繊維束の強化繊維であっても、その構成単繊維数が、単繊維径に応じた特定の数値(臨界単繊維数)未満であるものは、複合材料中において、遊離の強化単繊維と同様の挙動を示すとの知見に基づく。
臨界単繊維数=600/D (1)
(ここでDは強化繊維の平均単繊維径(μm)である)
具体的には、成形体を構成する強化繊維の平均単繊維径が5μm〜7μmの場合、式(1)で定義される臨界単繊維数は86本〜120本となる。
【0054】
さらに、本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料に含まれる不連続強化繊維の全量に対する強化繊維(A)の量の割合が0vol%超99vol%未満であることが好ましく、20vol%以上99Vol未満であることがより好ましく、30vol%以上95vol%未満であることがさらに好ましく、50vol%以上90vol%未満であることが最も好ましい。このように特定本数以上の強化単繊維からなる不連続強化繊維と、それ以外の不連続強化繊維を特定の比率で共存させることで、複合材料中の強化繊維の存在量、すなわち強化繊維体積割合(Vf)を高めることが可能となるからである。
【0055】
本発明において、上記強化繊維(A)中の平均単繊維数(N)は本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定することができるものであり、特に限定されるものではない。
汎用の強化繊維の場合、上記Nは通常1<N<12000の範囲内のものが、多く、下記式(2)を満たすことがより好ましい。
0.6×10
4/D
2<N<1.0×10
5/D
2 (2)
(ここでDは強化繊維の平均単繊維径(μm)である)
そして、強化繊維が平均単繊維径5μmの炭素繊維の場合、強化繊維(A)中の平均単繊維数は240本〜4000本未満の範囲となるが、なかでも300本〜2500本であることが好ましい。より好ましくは400本〜1600本である。強化繊維が平均単繊維径7μmの炭素繊維の場合、強化繊維(A)中の平均単繊維数は122本〜2040本の範囲となるが、中でも150本〜1500本であることが好ましく、より好ましくは200本〜800本である。
【0056】
(不連続強化繊維の配向状態)
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料に含まれる不連続強化繊維の配向状態としては、目的に応じた種々のものであってよいが、プレス成形材料などの面内方向において不連続強化繊維が特定方向に配列していないが、厚み方向を向いているものが極めて少ない、いわゆる2次元ランダム配向であると好ましく、特に、WO2012/105080号パンフレット、およびWO2013/031860パンフレットなどに記載のランダムマット等における炭素繊維の状態が好適である。
プレス成形材料や成形体に含まれる強化繊維が2次元ランダム配向であることについて、
特に数値的に定義したい場合は、日本国特開2012−246428号公報に示されているように、
強化繊維に関して、面配向度σ=100×(1−(面配向角γが10°以上の強化繊維本数)/(全強化繊維本数))で定義される面配向度σが90%以上である状態を好ましい2次元ランダム配向としてもよい。
更に、プレス成形材料等の試料を厚み方向に切断した断面における任意の矩形領域について、成形体の厚み方向または成形体の厚み方向とは異なる方向をZ方向とし、上記公報に準じて強化繊維に関する観察、測定および面配向度σの算出を行っても良い。その場合、面配向角γの算出に必要な、強化繊維断面の長径と成形板表面が成す角については、成形板表面ではなく、観察対象の矩形領域の上辺または下辺と、強化繊維断面の長径とが成す角を用いても良い。
【0057】
(強化繊維体積割合(Vf))
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料の強化繊維体積割合(以下、単に「Vf」ということがある)に特に限定は無いが、いずれも、含有する不連続強化繊維及びマトリックスとしての熱可塑性樹脂について、下記式(u)で定義される強化繊維体積割合(Vf)が5%〜80%であることが好ましく、Vfが20%〜60%であることがより好ましい。
Vf=100×不連続強化繊維体積/(不連続強化繊維体積+熱可塑性樹脂体積) (u)
成形体のVfが5%より高いと、補強効果が十分に発現し、かつ、Vfが80%以下であると、得られる成形体中にボイドが発生しにくくなり、成形体の物性が低下するおそれが少なくなるので好ましい。
【0058】
(不連続強化繊維の目付と厚み)
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料に含まれる不連続強化繊維の目付量は、特に限定されるものではないが、通常25g/m
2〜10000g/m
2とされる。
【0059】
[熱可塑性樹脂]
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料のマトリックスとしての熱可塑性樹脂は、所望の強度を有する成形体を得ることができるものであれば特に限定されるものではなく、適宜選択される。
熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂、ビニル系樹脂等を挙げることができる。
【0060】
上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂等を挙げることができる。
上記ビニル系樹脂としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスチレン樹脂としては、例えば、アタクチックポリスチレン樹脂、アイソタクチックポリスチレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)等を挙げることができる。
上記ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6樹脂(ナイロン6)、ポリアミド11樹脂(ナイロン11)、ポリアミド12樹脂(ナイロン12)、ポリアミド46樹脂(ナイロン46)、ポリアミド66樹脂(ナイロン66)、ポリアミド610樹脂(ナイロン610)等を挙げることができる。
【0061】
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル等を挙げることができる。
上記(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートを挙げることができる。上記変性ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、変性ポリフェニレンエーテル等を挙げることができる。
上記熱可塑性ポリイミド樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等を挙げることができる。
上記ポリスルホン樹脂としては、例えば、変性ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を挙げることができる。
上記ポリエーテルケトン樹脂としては、例えば、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂を挙げることができる。
上記フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等を挙げることができる。
【0062】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は共重体や変性体であってもよく、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。2種類以上の熱可塑性樹脂を併用する態様としては、例えば、相互に軟化点又は融点が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様や、相互に平均分子量が異なる熱可塑性樹脂を併用する態様等を挙げることができるが、この限りではない。
【0063】
(その他の剤)
本発明のプレス成形材料や、成形体の材質である複合材料には、本発明の目的を損なわない範囲で、非繊維状のフィラー、難燃剤、耐UV剤、安定剤、離型剤、顔料、軟化剤、可塑剤、界面活性剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【実施例】
【0064】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、実施例1−8、11、17および23を、それぞれ参考例1−8、11、17および23に読み替えるものとする。
[基材の製造]
<製造例1>
強化繊維として、東邦テナックス社製のPAN系炭素繊維“テナックス”(登録商標)(平均単繊維径7μm、単繊維数24000本、引張弾性率240GPa)をナイロン系サイジング剤にて処理したものを使用し、熱可塑性樹脂として、ユニチカ社製のナイロン6樹脂A1030(融点225℃)を用いて、WO2012/105080パンフレット、およびWO2013/031860パンフレットに記載された方法に基づき、2次元ランダム配向のランダムマットを作成し、これをナイロン6樹脂が炭素繊維のマット状物に含浸するよう加熱および加圧を行い、厚さ2.5mmの平板の基材を得た。この基材中の強化繊維(炭素繊維)について、強化繊維体積割合Vfは35%、強化繊維目付は1660g/cm
2であり、強化繊維長は重量平均繊維長として20mm、強化繊維全量を基準として、臨界単繊維数以上の本数の単繊維からなる強化繊維(A)、より詳細に言うと炭素繊維(A)、の割合は85Vol%、強化繊維(A)の平均単繊維数(N)=900本であった。基材中の強化繊維のうち15Vol%は、臨界単繊維数未満の本数の単繊維からなる強化繊維(B)であり、強化繊維(B)および強化繊維(A)のいずれも異なった単繊維数の単繊維束の混合物であった。強化繊維(B)として、完全に開繊された遊離炭素単繊維も少々基材に含まれていた。
得られた基材の引張破断伸度εvは105%〜400%の範囲内であった。
【0065】
[成形体の製造]
以下に記載する実施例、比較例においては、特に記載が無い限り上記製造例1で得られた基材を各実施例などに記載のとおり、それぞれのブランク形状に切り抜いてプレス成形材料を得て、これをコールドプレス成形して成形体を得た。
それぞれの実施例、比較例で、目的の成形体の形状に対応した金型を用いた。特に記載が無い限り、プレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱した際の温度は280℃であり、該軟化温度未満の温度にある金型の温度とは150℃であり、プレス成形時のプレス圧は20MPaである。
【0066】
[強度試験方法]
図5(a)〜(c)に示される厚さ2.5mmのプレス成形体から、自己積層構造の部分が長手方向の中心になるよう、幅15mm、長さ100mmの試験片を切り出し、110℃12時間以上乾燥させた。試験片を円形治具にセットし、試験機インストロン5982型を用いて試験速度5mm/minで圧縮させた際の最大応力を求めた。さらに、下式(s)より強度パラメータを算出した。
強度パラメータ=(最大応力)×100/(同形状の対照試験片のウェルド部分の最大応力) (s)
ここで、同形状の対照試験片のウェルド部分の最大応力とは、
図5(a)〜(c)に示される成形体のプレス成形に用いられるものと同形状の金型を用いて、プレス成形材料の端部のオーバーラップ量0mmとして、つまり自己積層無しで、プレス成形して得られる成形体(それぞれ、
図6(a)〜(c))についてウェルド部分が長手方向の中心になるよう、上記と同様の形状の試験片(対照試験片)を切り出し、その対照試験片について、上記と同様に圧縮試験をして、得られる最大応力を意味する。以下の実施例や比較例における、プレス成形材料の端部同士を隣接させて配置してプレス成形後にウェルドラインになる部分を総称してウェルドと称することがある。
【0067】
<実施例1>
製造例1で得られた基材を、
図5(a)の形状の成形体の3次元形状から、当該3次元形状の要素の少なくとも1つを削除してからコンピューターにて逆成形解析し、展開されたブランク形状に切り抜き、基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、立上げ可能面の一部が、自己積層可能領域に含まれるプレス成形材料を得た。
このプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の平面部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から15mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−1を得た。この成形体の積層部の強度パラメータは、250であった。成形の条件や結果について表1に示す。プレス成形の際、成形用材料の端部を自己積層させた長さ(本実施例では15mm)について、以後、オーバーラップ量と称する場合がある。
【0068】
<実施例2>
実施例1と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の平面部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から30mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−1を得た。この成形体の積層部分の強度パラメータは、300であった。成形の条件や結果について表1に示す。
【0069】
<実施例3>
実施例1と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の平面部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から45mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−1を得た。この成形体の積層部分の強度パラメータは、400であった。成形の条件や結果について表1に示す。
【0070】
<実施例4>
製造例1で得られた基材を、
図5(b)の形状の成形体の3次元形状から、当該3次元形状の要素の少なくとも1つを削除してからコンピューターにて逆成形解析し、展開されたブランク形状に切り抜き、基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、立上げ可能面の一部が、自己積層可能領域に含まれるプレス成形材料を得た。
このプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の角部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から15mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−2を得た。この成形体の積層部分の強度パラメータは、200であった。成形の条件や結果について表2に示す。
【0071】
<実施例5>
実施例4と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の角部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から30mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−2を得た。この成形体の積層部分の強度パラメータは、200であった。成形の条件や結果について表2に示す。
【0072】
<実施例6>
製造例1で得られた基材を、
図5(c)の形状の成形体の3次元形状から、当該3次元形状の要素の少なくとも1つを削除してからコンピューターにて逆成形解析し、展開されたブランク形状に切り抜き、基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、立上げ可能面の一部が、自己積層可能領域に含まれるプレス成形材料を得た。
プレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の曲面部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から15mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−3を得た。この成形体の積層部分の強度パラメータは、180であった。成形の条件や結果について表3に示す。
【0073】
<実施例7>
実施例6と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の曲面部に対応する金型面上に自己積層可能領域のうち成形用材料の端部から30mmの部分が自己積層するように配置し、プレス成形を行い、積層部5を有する成形体100−3を得た。この成形体の積層部分の強度パラメータは、250であった。成形の条件や結果について表3に示す。
【0074】
<比較例1>
実施例1と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の平面部に対応する金型面上に成形用材料が積層しないように配置し、プレス成形を行い、成形体200−1を得たが、該平面部にウェルド6が発生した。成形の条件や結果について表1に示す。
【0075】
<比較例2>
実施例4と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の角部に対応する金型面上に成形用材料が積層しないように配置し、プレス成形を行い、成形体200−2を得たが、該角部にウェルド6が発生した。成形の条件や結果について表2に示す。
【0076】
<比較例3>
実施例6と同様に得たプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料の基準面に対して、立上げ可能面を立上げ、成形体の曲面部に対応する金型面上に成形用材料が積層しないように配置し、プレス成形を行い、成形体200−3を得たが、該曲面部にウェルド6が発生した。成形の条件や結果について表3に示す。
【0077】
<比較例4>
製造例1で得られた基材を、
図5(a)の形状の成形体の3次元形状から、当該3次元形状のいずれの要素も削除せずにコンピューターにて逆成形解析し、展開されたブランク形状に切り抜き、基準面と、少なくとも1つの立上げ可能面と、少なくとも1つの自己積層可能領域を有し、立上げ可能面の一部が、自己積層可能領域に含まれるプレス成形材料を得た。
このプレス成形材料を、マトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱し、該軟化温度未満の温度にある金型に、プレス成形材料を配置し、プレス成形を行ったが、成形体は角部に皺が寄り、成形体100−1として良好な外観を有するものを得られなかった。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
以下の実施例8〜23は、コールドプレス成形における、加熱され可塑状態のプレス成形材料が、目的の成形体の形状に応じた適当な形状に変形され金型に配置されたものを模したもの、つまり金型配置模擬物(以下、単に模擬物と略称する場合がある)を調製し、それらの表面における皺の発生程度を観察し、外観が優れた成形体が得られ易いプレス成形材料であるか評価を行った。評価について具体的に言うと、得られた金型配置模擬物が、その表面、特に、プレス成形材料の隣接する2つの自己積層可能領域の曲率半径Rを有する合流部(以下、単に、合流部と称することがある)の周辺に相当する箇所に皺の発生が無い場合、当該プレス成形材料をコールドプレス成形すれば、金型配置模擬物と同形状の成形体を皺のない極めて良好な外観を有するものとして得ることができると判断した。皺を有する金型配置模擬物が得られた場合、その当該プレス成形材料を特段の工夫なく公知の方法でコールドプレス成形し、金型配置模擬物と同形状の成形体を得た場合、それは表面に皺を有し外観に問題のある成形体である恐れがあると判断した。
【0082】
<実施例8>
製造例1で得られた基材から、隣接する2つの自己積層可能領域を有する、
図10、
図11、及び
図12Aに例示される形状のプレス成形材料(横100mm、縦100mm(つまり、幅100mm、奥行き100mm)であり、厚み1.4mm、曲率半径0mm、2つの自己積層可能領域間の最も離れた距離bが28mm、2つの自己積層可能領域の外周の互いに面している部分の合計長さLが102mm、2つの自己積層可能領域の外周の互いに面している部分の端部同士を結ぶ直線の中点と合流部との距離cが49mm)を実施例1と同様の手順で調製した。
図10、
図11、及び
図12Aは、明瞭な説明のため、同じプレス成形材料を、厚み方向に見た場合の形状を、本発明に関する事項を示す符号を適宜組み合わせて示したものである。
このプレス成形材料を、そのマトリックスとしての熱可塑性樹脂の軟化温度以上の温度に加熱して可塑状態としたものを、
図12Aに示されるとおり、一方の自己積層可能領域を、プレス成形材料を厚み方向にみて逆時計方向に45°引っ張って他方の自己積層領域に積層させて変形させ、金型配置模擬物を得た。この金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。よって、当該プレス成形材料をコールドプレス成形すれば、金型配置模擬物と同形状の成形体を皺のない極めて良好な外観を有するものとして得ることができる。
【0083】
<実施例9>
プレス成形材料の寸法及び形状について、曲率半径が1mm、距離bが30mm、合計長さLが106mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例10>
プレス成形材料の寸法及び形状について、曲率半径が2mm、距離bが31mm、合計長さLが106mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所に皺が寄っていた。よって、当該プレス成形材料を特段の工夫なく公知の方法でコールドプレス成形し、金型配置模擬物と同形状の成形体を得た場合、それは表面に皺を有し外観に問題のある成形体である恐れがある。
<実施例11>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚みが2.6mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例12>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚みが2.6mm、曲率半径が1mm、距離bが30mm、合計長さLが106mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例13>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み2.6mm、曲率半径が2mm、距離bが31mm、合計長さLが106mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例14>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み2.6mm、曲率半径が3mm、距離bが34mm、合計長さLが108mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例15>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み2.6mm、曲率半径が4mm、距離bが36mm、合計長さLが108mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例16>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み2.6mm、曲率半径が5mm、距離bが36mm、合計長さLが108mm、距離cが50mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所に皺が寄っていた。
<実施例17>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚みが4.0mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所に皺が寄っていた。
<実施例18>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚みが4.0mm、曲率半径が1mm、距離bが30mm、合計長さLが106mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例19>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み4.0mm、曲率半径が2mm、距離bが31mm、合計長さLが106mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例20>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み4.0mm、曲率半径が3mm、距離bが34mm、合計長さLが108mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例21>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み4.0mm、曲率半径が4mm、距離bが36mm、合計長さLが108mm、距離cが51mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所も含め、皺の発生はなかった。
<実施例22>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚み4.0mm、曲率半径が5mm、距離bが36mm、合計長さLが108mm、距離cが50mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所に皺が寄っていた。
<実施例23>
プレス成形材料の寸法及び形状について、厚みが5.5mmであった以外は、実施例8と同様に操作を行った。得られた金型配置模擬物には、プレス成形材料の曲率半径Rを有する合流部周辺に相当する箇所に皺が寄っていた。尚、同様に曲率半径が1〜5mm、6mm、および7mmの場合のいずれにおいても、合流部周辺に相当する箇所に皺が寄っていた。