【実施例1】
【0032】
本発明の実施例1に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41について、
図1乃至
図8を参照して説明する。
【0033】
本の実施例1に係る歯科用ハンドピース1は、
図1、
図2に示すように、ヘッド部2と本体部3とからなり、本体部3の後方には歯科用治療装置(図示せず)に接続するためのホースジョイント4を設けている。
【0034】
そして、図示しない歯科治療装置から供給された圧縮エアは前記ホースジョイント4を介してヘッド部2にある給気口14(
図6参照)からヘッド部2内に供給されるように構成している。
【0035】
次に、
図3を参照して前記ヘッド部2について詳述する。
【0036】
前記ヘッド部2は、ハウジング5を具備し、このハウジング5内に羽根車11が収容され、前記羽根車11とこの羽根車11を支持するとともに下方から工具(図示せず)が装着される工具保持部材12とが、前記本体部3に形成された給気管路13の給気口14から噴射される空気によって回転駆動され、前記羽根車11の回転伴い流動する空気は前記ハウジング5内に形成された排気口15から前記本体部3に形成された排気管路16を経て排気されるように構成している。
【0037】
このとき、前記流動する空気は、前記排気管路16へ流れると同時に、プッシュキャップ21の隙間、及び、前記ハウジング5の底部22の隙間23から大気へ排出される。
【0038】
この場合、前記空気は、前記底部22側においては、前記羽根車11の下部に位置する例えばステンレス鋼を主体とする軸受24の内輪24aと外輪24bとの間にある環状隙間S1を通り、さらに前記底部22の隙間23を経て排出される。
【0039】
前記ハウジング5における前記軸受24の下側に位置する内底部5a上に詳細は後述する
図7(a)、(b)に示すような浮動式とした弾性素材でかつ耐熱素材からなる吸引防止リングシート41を配置する構成としている。
【0040】
尚、前記軸受24は、内輪24a、外輪24bの他に、ボール24c、リテーナ24dを具備している。前記上部の軸受29も、前記軸受24と同様な構造としている。
【0041】
前記羽根車11は、工具(図示せず)を着脱可能とする工具保持部材12を回転軸として、その径方向に所要数の羽根を突出形成した構造としている。
【0042】
前記工具保持部材12には、羽根車11を挟んで前記軸受24及び上部の軸受29を圧入するようにしてカートリッジ構造としている。
尚、前記工具保持部材12はプッシュキャップ21をバネ30の弾性力に抗して上方から押すことで図示しない保持部が開閉し、工具の着脱が可能な構造としている。
【0043】
前記軸受24とハウジング5との間にはOリング26を、前記軸受29とこの軸受29を覆う抑えブラケット31との間にはOリング27を各々装着するように構成している。
【0044】
図8は前記ヘッド部2からヘッドキャップ28、抑えブラケット31、羽根車11、軸受24、軸受29、工具保持部材12を取り外し、これをヘッド部2の上方からから見た状態を示している。
【0045】
次に、前記軸受24、吸引防止リングシート41について
図3、
図5を参照してさらに詳述する。
【0046】
前記軸受24は、
図5に拡大して示すように、前記内輪24a、外輪24b、ボール24c、リテーナ24dを具備することに加え、外周部32aを前記軸受24の外輪24b下部の内周部に設けたシール部品取り付け凹陥部24eに対して前記内輪24aに向けて直交する配置で固定するシール部品である例えばステンレス製で段差付きの薄型円環状のシールド体32と、このシールド体32を外輪24b下部のシール部品取り付け凹陥部24eに止め付けるやはりステンレス製で薄型円環状の止め輪33とを具備している。
【0047】
前記シールド体32は、外周部32aよりも中央部32bが低い段差を有する皿状に形成するとともに、前記中央部32b内側の内径部が前記内輪24aの外周に接触しない寸法に設定している。
【0048】
また、前記止め輪33は、平坦な薄型円環状で、かつ、シール部品取り付け凹陥部24eに対して前記シールド体32の外周部32aのみを固定支持する小幅の形状としている。
【0049】
そして、前記軸受24の下方に位置する前記ハウジング5の内底部5a上に配置する吸引防止リングシート41は、前記工具保持部材12に接触しない寸法の中央孔部42を有するとともに、その外径が前記ハウジング5の内底部5aの内径より僅かに小さい寸法で、前記ヘッド部2内の圧力変動に応じて前記内底部5aと、前記軸受24の内輪24aの下面並びに前記シールド体32及び止め輪33の下面との間の隙間領域S2を浮動(
図3に示す状態では上下浮動)し得るように構成している。
【0050】
次に、前記吸引防止リングシート41について
図7を参照してさらに詳述する。
【0051】
前記吸引防止リングシート41の材質は、弾性素材からなり、かつ、オートクレーブ(滅菌器による滅菌)しても耐熱可能なテフロン(登録商標)素材が好ましいが、テフロン(登録商標)素材に限定されるものではない。
【0052】
また、前記吸引防止リングシート41の肉厚寸法は、前記ヘッド部2内の空気圧の変動に対応して撓むものであれば任意の肉厚寸法とすることができる。
【0053】
次に、本実施例1の歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41によるヘッド部2内への異物の侵入防止作用,及び、効果について主に
図3、
図4を参照して説明する。
【0054】
本実施例1の歯科用ハンドピース1、吸引防止リングシート41において、前記吸気管路13から吸気口14を経て空気が供給されると、この空気の噴射によって羽根車11、工具(図示せず)を保持する工具保持部材12が回転駆動され歯科用ハンドピース1による幹部の治療行為が可能となるとともに、前記ヘッド部2内は正圧状態となり、これにより、前記吸引防止リングシート41は、
図3、
図5に示すように、前記ハウジング5の内底部5aに押圧されてこの内底部5aに密着する状態となる。
【0055】
一方、前記歯科用ハンドピース1、吸引防止リングシート41において、上述した空気の噴射を停止すると、前記羽根車11は、慣性によりある時間回転を継続する。
【0056】
この慣性による羽根車11の回転が継続する間、前記羽根車11の回転に伴う空気流は排気口15、排気管路16を経て排出されるが、これと同時に前記給気口14の付近(近傍)では「正圧」から「同圧(大気圧に対して)」、「同圧」から「負圧」へと圧力が低下し、前記ヘッド部2の内部全体が負圧状態に変化する。
【0057】
このようなヘッド部2内の正圧から負圧への圧力の変化に従い、前記吸引防止リングシート41には軸受24の下面方向への吸引力が作用し、この結果、前記吸引防止リングシート41は、
図4、
図5に示すように、軸受24の下面方向に浮動しつつ移動し、前記環状隙間S1を塞ぐとともに前記軸受24下面に密着する状態になる。
【0058】
これにより、前記ヘッド部2の底部22側からヘッド部2内への患者の唾液や血液、更には切削された歯粉等からなる異物の侵入が防止され、前記歯科用ハンドピース1による治療行為に伴って生じ易い患者・術者間及び患者・患者間の交叉汚染を的確に防止することが可能となる。
【0059】
さらに詳述すると、本実施例1の歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41によれば、吸引防止リングシート41が工具保持部材12に接触することがないため、吸引防止リングシート41の耐久性を各段に向上させることができる。
【0060】
従って、経年劣化によって生じるヘッド部2内への唾液や血液等の異物の侵入増加を防止することができ、安全性、信頼性を向上させることができる。
【0061】
また、本実施例1における歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41の場合は、負圧により軸受下面に密着するので、オイルが付着しても、このオイルの付着により空気の気密性が増して、吸引防止リングシート41をより強く軸受24の下面に密着でき、制動効果が増すこと、前記吸引防止リングシート41が浮動式であるため、スプレーオイルが軸受24の内部に入り易いこと、前記吸引防止リングシート41によって高速で回転するタービン音が外部に反響することも防止できること、吸引防止リングシート41を、弾性素材により構成したことにより、ヘッド部2内における正圧時、負圧時の浮動や撓みを確実に実行させることができること、等の効果を奏する。
【0062】
更に、前記吸引防止リングシート41を、例えばテフロン(登録商標)等の耐熱素材により構成することにより、オートクレーブ対応仕様とすることができる。
【0063】
更にまた、本実施例1によれば、異物侵入に対して未対策の歯科用ハンドピースに対してもヘッドキャップ28を外して簡単に前記吸引防止リングシート41をヘッド部2内の所定の箇所に装着することが可能であるため、従来製品への異物侵入防止対策としても極めて有効であるという効果も奏する。
【実施例2】
【0064】
次に、
図9乃至
図11を参照して本発明の実施例2に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41Aについて説明する。
【0065】
尚、本実施例2に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41Aにおいて、実施例1の場合と同一の要素には同一の符号を付し、その詳細説明は省略する。
【0066】
本実施例2に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41Aは、基本的構成は実施例1の場合と略同様であるが、前記吸引防止リングシート41Aの外形寸法を吸引防止リングシート41の場合よりも僅かに大きくしたこと、及び、前記吸引防止リングシート41Aの外周部を、前記軸受24の外輪24の下部のシール部品取り付け凹陥部24eに固定配置した止め輪33の下面と、前記内底部5aの外側に形成した前記外輪24の下端面を支持する内底段部5bとの間の空隙S3に臨ませたこと、が特徴である。
【0067】
本実施例2に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41Aによれば、実施例1の場合と同様にして、前記ヘッド部2内が正圧状態となったとき、前記吸引防止リングシート41Aは、
図9、
図11に示すように、その外周部を前記シール部品取り付け凹陥部24e内に臨ませつつ中央部側が撓み、前記ハウジング5の内底部5aに押圧されてこの内底部5aに密着する状態となる。
【0068】
一方、前記ヘッド部2内が負圧状態となったとき、前記吸引防止リングシート41Aには軸受24の下面方向への吸引力が作用する。
【0069】
これにより、前記吸引防止リングシート41Aは、
図10、
図11に示すように、その外周部を前記シール部品取り付け凹陥部24e内に臨ませつつ軸受24の下面方向に浮動しつつ移動し、前記軸受24の下面に密着する状態になる。
【0070】
すなわち、前記吸引防止リングシート41Aの中央部側は、環状隙間S1を塞ぐとともに前記内輪24aの下面に密着する状態になる。
【0071】
これにより、前記ヘッド部2の底部22側からヘッド部2内への患者の唾液や血液、更には切削された歯粉等からなる異物の侵入が防止され、前記歯科用ハンドピース1による治療行為に伴って生じ易い患者・術者間及び患者・患者間の交叉汚染を的確に防止することが可能となる。
【0072】
本実施例2に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41Aによれば、実施例1の場合と同様な効果を発揮させることができる。
【0073】
また、前記吸引防止リングシート41Aを、特に弾性素材により形成し、その厚みは前記空隙S3の工具保持部材12の長さ方向の寸法より薄い構成とすることにより、前記ヘッド部2内における正圧時、負圧時の浮動や撓みを確実に実行させることができるとともに、その厚みを上述のように薄くすることで、ヘッド部2の底部から放出される空気流への阻害を軽減することもできる。
【0074】
この場合、前記吸引防止リングシート41Aは、上下移動距離が少なくてよいことから、その厚さを、前記止め輪33と内底段部5bとの隙間寸法(例えば0.15mm)以下に作製することによって、ヘッド部2内の圧力の変化に応じて軸受24の外輪24bと内輪24aとの間の環状隙間S1を確実に閉塞したり解放したりすることが可能となる。
【0075】
次に、本実施例1、2に係る歯科用ハンドピース1及び吸引防止リングシート41、41Aについて、さらなる拡張例について概説する。
【0076】
上述した実施例1に係る歯科用ハンドピース1においては、前記吸引防止リングシート41をハウジング5の内底部方向に移動させ、前記羽根車11の回転停止時にヘッド部2内の圧力が負圧になることによって、前記吸引防止リングシート41を下側の軸受24の下面方向に移動して前記軸受24の下面に密着させ、該軸受24の内輪24aと外輪24bとの間にある環状隙間S1を塞ぐことで、ヘッド部2の底部側からヘッド部2内への異物の侵入を防止し得るようにしたが、これに替えて、前記羽根車11の上部に位置する軸受29の上面と、この軸受29の上部に位置する抑えブラケット31の内底部との間の隙間領域に浮動可能に、かつ、前記工具保持部材12に非接触状態に配置した図示しない前記吸引防止リングシートを備える構成とすることもできる。
【0077】
このように構成すれば、前記羽根車11の回転作動時にヘッド部2内の圧力が正圧になることによって、前記吸引防止リングシート41を抑えブラケット31の内底部方向に移動させ、前記羽根車11の回転停止時にヘッド部2内の圧力が負圧になることによって、前記吸引防止リングシート41を軸受29上面方向に移動して前記軸受29の上面に密着させ、該軸受29の内輪と外輪との間にある環状隙間を塞ぐことで、ヘッド部2の上部側からヘッド部2内への異物の侵入を防止しすることが可能となる。
【0078】
さらには、2個の吸引防止リングシート41を用い、前記軸受24とハウジング5の内底部との間、及び、前記軸受29の上面とこの軸受29の上部に位置する抑えブラケット31の内底部との間の双方に各々吸引防止リングシート41を配置する構成とすれば、ヘッド部2の底部側からヘッド部2内への異物の侵入防止と、ヘッド部2の上部側からヘッド部2内への異物の侵入防止との双方の効果を発揮させることが可能となって、ヘッド部2内への唾液や血液等の異物の侵入をより効果的に防止することができ、安全性、信頼性をより向上させることができる。
【0079】
また、上述した実施例2に係る歯科用ハンドピース1の場合には、ヘッド部2内の圧力が負圧になることによって、前記吸引防止リングシート41Aの外周部を前記空隙S3に臨ませたまま該吸引防止リングシート41Aをシールド体32、止め輪33を備える軸受24の下面方向に移動して前記軸受24の下面に密着させ、該軸受24の内輪24aと外輪24bとの間にある環状隙間S2を塞ぐことで、ヘッド部2の底部側からヘッド部2内への異物の侵入を防止するように構成したが、これに替えて、前記羽根車11の上部に位置する前記軸受24と同様な構成からなる軸受29の上面と、この軸受29の上部に位置する抑えブラケット31の内底部との間の隙間領域に浮動可能に、かつ、前記工具保持部材12に非接触状態に配置した図示しない前記吸引防止リングシートを備える構成とすることもできる。
【0080】
このように構成すれば、前記羽根車11の回転作動時にヘッド部2内の圧力が正圧になることによって、前記吸引防止リングシート41Aを抑えブラケット31の内底部方向に移動させ、前記羽根車11の回転停止時にヘッド部2内の圧力が負圧になることによって、前記吸引防止リングシート41Aを軸受29上面方向に移動して前記軸受29の上面に密着させ、該軸受29の内輪と外輪との間にある環状隙間を塞ぐことで、ヘッド部2の上部側からヘッド部2内への異物の侵入を防止しすることが可能となる。
【0081】
さらには、2個の吸引防止リングシート41Aを用い、前記軸受24とハウジング5の内底部との間、及び、前記軸受29の上面とこの軸受29の上部に位置する抑えブラケット31の内底部との間の双方に各々吸引防止リングシート41Aを配置する構成とすれば、ヘッド部2の底部側からヘッド部2内への異物の侵入防止と、ヘッド部2の上部側からヘッド部2内への異物の侵入防止との双方の効果を発揮させることが可能となって、ヘッド部2内への唾液や血液等の異物の侵入をより効果的に防止することができ、安全性、信頼性をより向上させることができる。
【0082】
前記吸引防止リングシート41、41Aとしては、上述した場合の他、図示しないが、その表面に所定の間隔を有する同心円状の凸部を複数設けた形状としたり、その表面に中心側から外周部にわたって放射状の形態で凸部を複数設けた形状とすることもできる。
【0083】
前記吸引防止リングシート41、41Aの表面に同心円状の凸部を複数設けることにより、接触部となる軸受の内輪の外径側角部(小さなR面取りがしてある)に、この外径側角部を包み込むように前記吸引防止リングシート41、41Aの同心円状の凸部が面接触状態となり、これにより、羽根車11を停止させる際のブレーキ性能を向上させることができる。