(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
温室、サクランボハウス、畜舎等として、骨組材を組み立てて構築される簡易建物が用いられている。簡易建物は、側面と屋根とを構成するアーチ材、肩パイプ、棟パイプ、沈下防止パイプ等の骨組材を、セッターやクランプ等の連結部品で連結して組み立てることにより構築されており、アーチ材の末端が地面に差し込まれることで地盤に固定されている。
【0003】
台風や突風等の強風で、簡易建物に大きな風圧が加わると、地面に差し込まれたアーチ材に引抜力が加わる。この引抜力がアーチ材が引き抜かれずに耐える力(以下、引抜耐力という。)よりも大きくなると、アーチ材は引き抜かれ、最悪の場合は簡易建物が風で浮き上がって倒壊してしまう。簡易建物の耐風性能を向上させるために、補強杭を地面に埋め込み、補強杭と簡易建物の沈下防止パイプ等の骨組材とを接続することが行われている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
補強杭としては様々なものが提案されており、例えば、特許文献1には線材を螺旋状に形成したらせん杭が、特許文献2には平面部およびその両側端から略垂直に立ち上がる縦壁部を持つ抵抗板とこの抵抗板に固着された本体棒からなるアンカー杭が、特許文献3には先端近傍に螺旋状の羽根が固定されているスクリュー杭が提案されている。
図4に特許文献1の第8図に記載のらせん杭を、
図5に特許文献3の
図3の部分拡大図であってスクリュー杭が骨組材と接続されている様子を示す。
【0005】
これらの補強杭は市販されているが、いずれもその長さは30〜70cm程度である。市販されている補強杭はいずれも長さ調整ができないため、深く埋め込むことができない。そのため、市販の補強杭を用いて簡易建物を補強するには、埋め込む補強杭の本数を増やすしかないという問題がある。また、軟弱地盤の場合は、30〜70cm程度の深さでは補強杭の引抜耐力が十分でないことが多く、補強杭の本数をどれだけ増やしても強度がほとんど向上しないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、任意の長さの継管と接続することで、長さを調整することができるパイプスクリュー杭を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1.尖った形状に加工された先端を有する中空管と、
該中空管の外周に螺旋状に設けられたスクリュー羽根とを有することを特徴とするパイプスクリュー。
2.1.に記載のパイプスクリューと継管とが接続されていることを特徴とするパイプスクリュー杭。
3.前記中空管に1組以上のボルト穴が設けられ、
前記中空管に挿し込まれた前記継管が、前記ボルト穴を通るボルトの先端部で挟み込まれることにより、前記パイプスクリューと前記継管とが接続されていることを特徴とする2.に記載のパイプスクリュー杭。
4.作土より深くに位置する強度に優れた地層に埋め込まれることを特徴とする2.または3.に記載のパイプスクリュー杭。
5.骨組材を組み立てて構築され、
前記骨組材と2.から4.のいずれかに記載のパイプスクリュー杭とが接続されていることを特徴とする簡易建物。
6.所定の風速時に、簡易建物を地面に固定するアーチ材に作用する引抜力(T)を算出する工程、
下記式1に基づいて、簡易建物を地面に固定するアーチ材の引抜耐力計算値(tRa)を算定する工程、
前記引抜力(T)と、前記引抜耐力計算値(tRa)とを比較する工程、
とを有することを特徴とする簡易建物の耐風性能評価方法。
「式1」
tRa=4/15×(R
F/α)×2
R
F :アーチ材とその周囲の地盤との摩擦力 [kN]
R
F =(10/3×N×Ls+1/2×qu×Lc)・φ
qu :粘性土の一軸圧縮強さ [kN/m
2]
qu =12.5N (Terzaghi Peck式)
N :N値。標準貫入試験(JIS A 1219)によって求められる地盤の強度を示す数値。
Ls :砂質土の埋込長 [m]
Lc :粘性土の埋込長 [m]
φ :アーチ材の周長 [m]
α :安全率。粘性土の場合2.0、砂質土の場合3.0。
ただし、N値が10未満の砂質土の引抜耐力計算値(tRa)は0とする。
7.6.に記載の耐風性能評価方法において、前記引抜力(T)が前記引抜耐力計算値(tRa)よりも大きい場合、
前記簡易建物を構成する骨組材と、地面に埋め込まれた補強杭とを接続することを特徴とする簡易建物の補強方法。
8.前記補強杭が、2.から4.のいずれかに記載のパイプスクリュー杭であることを特徴とする7.に記載の簡易建物の補強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパイプスクリューは、任意の長さの継管と接続することができるため、求める長さのパイプスクリュー杭を得ることができる。表層地盤の強度が弱く、強度に優れた地層が深く位置する場所に簡易建物を建設する場合、本発明のパイプスクリューを適当な長さの継管と接続することにより、パイプスクリュー杭を強度に優れた地層まで埋め込むことができる。強度に優れた地層まで埋め込まれたパイプスクリュー杭と簡易建物の骨組材とをクランプ等で接続することにより、簡易建物の耐風性能を向上することができる。また、本発明のパイプスクリュー杭は、深く埋め込むことで強度に優れた地層に到達することができるため、パイプスクリュー杭の本数を増やすことなく、簡易建物を補強することができる。
【0010】
パイプスクリューと継管とは、簡易建物を建てる現場で容易に接続してパイプスクリュー杭とすることができる。パイプスクリューの中空管に1組以上のボルト穴を設け、このボルト穴に通したボルトの先端部で、中空管に挿し込まれた継管を挟み込むことで、強固に接続することができる。簡易建物の補強には多くのパイプスクリュー杭が必要であるが、本発明のパイプスクリュー杭は先端部であるパイプスクリューと継管とが別々の部材で構成されているため、従来の一体化して形成されているスクリュー杭と比較して運搬が容易であり、運搬、保管に必要なスペースを小さくすることができる。
【0011】
さらに、地盤のN値という標準指標により、簡易建物を地盤に固定するアーチ材の引抜耐力計算値(tRa)を容易に算出することができる。特定の風速の風により簡易建物のアーチ材に作用する引抜力(T)は、簡易建物の表面積と風速とにより算出可能であるため、引抜耐力計算値(tRa)と引抜力(T)とを比較することで、簡易建物の耐風性能を容易に評価することができる。従来、「念のため」という理由で実際には不要な補強杭を設けることがあったが、引抜耐力計算値(tRa)と引抜力(T)とを比較することで補強杭が必要であるか否かを判断できるため、コストと手間とを抑えることができる。
【0012】
簡易建物が所望の耐風性能を有さないと評価されたときは、簡易建物の骨組材と地面に埋め込んだ補強杭とを接続することで、簡易建物の耐風性能を向上することができる。補強杭の引抜耐力計算値から、所望の耐風性能を付与するのに必要な補強杭の本数が求められるため、補強杭を必要以上に用いることがなく、無駄な費用と手間とを抑えることができる。地盤表層のN値が小さいと、市販の補強杭をどれだけ増やしても所望の耐風性能を付与することができないことがあるが、本発明のパイプスクリュー杭は適切な長さの継管を用いることにより強度に優れた地層に確実に埋め込むことができるため、所望の耐風性能を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、温室等の簡易建物が建てられる土壌の下方には、大きな引抜耐力が得られる強度に優れた地層が存在することに着眼し、鋭意努力の結果、本発明を完成させた。土壌の引抜耐力はその土質により大きく異なるが、本発明者らは鋭意研究の結果、土壌の引抜耐力を、土壌のN値という標準指標により算出する式を導くことに成功し、このN値という標準指標を用いることにより、必要な引抜耐力を備えた簡易建物を構築できることを実現した。本発明は、簡易建物に必要な強度を付与することのできるパイプスクリュー杭と、その杭で補強された簡易建物、及びその杭を用いた簡易建物の補強方法を提案する。
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
図1に、本発明のパイプスクリューの一実施態様を示す。本発明のパイプスクリュー1は、尖った形状に加工された先端を有する中空管11と、該中空管の外周に螺旋状に設けられたスクリュー羽根12とを有することを特徴とする。中空管11の外径、内径は特に制限されないが、内径19mm以上、外径22mm以上であることが好ましい。また、中空管11の断面形状は円形に限定されず、多角形、例えば六角形や八角形等であってもよい。
【0016】
中空管11の材料としては特に制限することなく用いることができる。例えば、強度の点から鉄、ステンレス、アルミニウム、これらの合金等の金属製のものが好ましく、コストの点から特に鉄が好ましい。また、防錆の点から、亜鉛、ニッケル等でメッキされていることが好ましい。中空管11の内部に水が溜まることがあるため、中空管11の内面にもメッキを施すことが好ましく、中空管11の外面および内面のメッキ上に防錆塗料を塗布することがさらに好ましい。防錆塗料としては市販品を特に制限することなく使用することができ、例えば、スーパーチギワガード(渡辺パイプ株式会社製、登録商標)を用いることができる。
【0017】
中空管11の先端は尖った形状に加工され、中空管11そのものが地面を掘るのに適した形状に加工されているため、地面を掘るための別部材と接続する必要がなく低コストである。中空管の先端形状は特に制限されないが、
図1に示すように、中空管の先端を扁平状に潰してガス溶断等により尖った形状に加工することが、製造が容易で低コストである。
【0018】
中空管11の外周には、螺旋状のスクリュー羽根12が溶接されている。発明のパイプスクリュー1において、スクリュー羽根12が溶接される中空管11の外径は、従来のスクリュー杭においてスクリュー羽根が溶接される芯材の外径と比較して大きい。スクリュー羽根12と中空管11とが溶接される面積が、従来のスクリュー杭においてスクリュー羽根と芯材とが溶接される面積と比較して広いため、加工が容易であり、また、スクリュー羽根12と中空管11とを強固に固定することができる。
【0019】
スクリュー羽根12の材料としては特に制限することなく用いることができるが、強度の点から鉄、ステンレス、アルミニウム、これらの合金等の金属製のものが好ましく、コストの点から特に鉄が好ましい。また、防錆の点から、亜鉛、ニッケル等でメッキされていることが好ましく、メッキ上に防錆塗料を塗布することがさらに好ましい。防錆塗料としては、市販品を特に制限することなく使用することができる。スクリュー羽根12は、その外径が100〜120mmであり、中空管11の外周に1周期以上の螺旋を描くように形成される。
【0020】
図2に、本発明のパイプスクリュー杭3の一実施態様を示す。パイプスクリュー杭3は、パイプスクリュー1と継管2とが接続されてなる。任意の長さの継管2を接続することで、求める長さのパイプスクリュー杭3を得ることができる。本発明のパイプスクリュー杭3を埋め込む深さは特に制限されないが、一般的な作土の深さである50cm以上埋め込むことが好ましい。また、埋め込む深さの上限は、強度に優れた地層に埋め込むことができる深さであれば特に制限されないが、通常150cm以内である。
【0021】
継管2の径は特に制限されないが、パイプスクリュー1の中空管11の内径よりも、継管2の外径が小さいことが好ましい。中空管11に継管2を挿し込むことで、パイプスクリュー杭3を地面に埋め込む際に、中空管11と継管2との間の段差が地中の石等に引っかかることを防ぐことができる。また、継管2の断面形状は特に制限されず、円形、六角形や八角形等の多角形等が挙げられ、中空管11の断面形状と同一でなくてもよい。ただし、中空管11、継管2の断面形状をともに多角形とし、中空管11の内面に継管2の外面が内接するようにすると、パイプスクリュー杭3を埋め込む際に継管2を回転させるように加えた力を、面で中空管に伝えることができるため好ましい。
【0022】
本発明において、パイプスクリュー1と継管2とを接続する手段は特に制限されない。簡易建物を組み立てる現場で容易に、かつ強固に接続することができるため、ボルト4を用いることが好ましい。
図3に、
図2に示した一実施態様のパイプスクリュー杭のA−A’線の断面図を示す。
図3に示すように、中空管11を貫通する1組または複数組のボルト穴41を設け、ボルト4の先端部で中空管11に挿し込んだ継管2を挟みこむことにより、パイプスクリュー1と継管2とを接続することができる。ここで、ボルト穴の組とは、対向する2つのボルト穴を意味する。この構成では、継管2にボルト穴を設ける必要がないため、低コストである。また、継管2にも管を貫通するように1組または複数組のボルト穴を設け、中空管11のボルト穴と継管2のボルト穴とに通したボルトをナットで螺合することにより接続してもよい。
【0023】
ボルト穴41は、2組以上設けることが、パイプスクリュー1と継管2とを強固に接続することができるため好ましい。パイプスクリュー1と継管2とは、ボルト4のみ、またはボルト4とナットを用いて容易に接続することができるため、簡易建物を建てる現場で迅速にパイプスクリュー杭3を組み立てることができる。また、簡易建物の補強には多くのパイプスクリュー杭3が必要であるが、本発明のパイプスクリュー杭3は、パイプスクリュー1と継管2とが別々の部材で構成されているため、従来の一体化して形成されているスクリュー杭と比較して、運搬が容易であり、運搬、保管に必要なスペースを小さくすることができる。
【0024】
本発明のパイプスクリュー杭3は、地面に回転させながら押し込むことで埋め込まれる。本発明のパイプスクリュー杭3において、パイプスクリュー1と継管2とは強固に接続されており、回転させながら埋め込む際、および、埋め込む時とは逆方向に回転させながら抜き出す際に、パイプスクリュー1と継管2とが外れることはない。ここで、パイプスクリュー杭3を地面に埋め込む時には、継管2から離れた箇所に力を加えると、モーメントが大きくなるため、少ない力で継管2を回転させることができる。継管2の断面形状が多角形であると、市販のスパナやラチェットレンチを用いて継管2を回転させることができる。継管の断面形状が円形である場合は、継管2の上部に断面が多角形である金具等を取り付けることにより、市販のスパナ等で回転させることができる。
【0025】
本発明のパイプスクリュー杭3は、表層地盤の強度が弱く、強度に優れた地層が深く位置する場合であっても、適当な長さの継管2と接続することで強度に優れた地層に埋め込むことができる。強度に優れた地層に埋め込まれたパイプスクリュー杭3と簡易建物の骨組材とをクランプ等で接続することで、簡易建物の耐風性能を向上することができる。本発明のパイプスクリュー杭3は、強度に優れた地層に埋め込むことで引抜耐力が増すため、パイプスクリュー杭3の数を増やすことなく、簡易建物を補強することができる。または、簡易建物のアーチ材を、簡易建物の側面部と頂部とを構成する異なる部材からなる連結部材とし、パイプスクリュー杭3の継管2をアーチ材の側面部を構成する部材としてもよい。
【0026】
ここで、簡易建物はアーチ材の末端が地面に差し込まれることにより固定されている。簡易建物の表面積から、特定の風速の時に簡易建物に作用する風圧を求めることができる。この風圧から、地面に差し込まれたアーチ材一本あたりに作用する引抜力(T)を求め、アーチ材の引抜耐力が引抜力(T)とを比較することで、簡易建物に補強が必要であるかを評価することができる。想定される風速は、簡易建物を設置する場所や地形等に応じて適宜選択することができ、例えば、台風による被害が心配される九州、四国等では35〜50m/s、周囲を山に囲まれている等の強風被害が少ない地域では20〜35m/sの範囲を用いることができる。
【0027】
所定の風速時にアーチ材に作用する引抜力(T)は簡易建物の表面積と風速とから算出することができるが、アーチ材の引抜耐力は実際に測定しなければ求められない。しかし、簡易建物を建てる現場に測定機器を運び込み、実際にアーチ材を埋め込んで、引抜耐力を測定するのは煩雑である。そのため、実際には補強杭が不要な現場であっても、「念の為に」補強杭を埋め込み簡易建物を補強することが行われており、無駄な費用と手間とをかけているという問題があった。
【0028】
本発明者らは、鋭意研究の結果、実際にアーチ材の引抜耐力を測定することなく、引抜耐力計算値(tRa)を算出することのできる式として、平成13年国土交通省告示第1113号における支持力算定式の記載を元に下記式1を算定した。
【0029】
「式1」
tRa=4/15×(R
F/α)×2
R
F :アーチ材とその周囲の地盤との摩擦力 [kN]
R
F =(10/3×N×Ls+1/2×qu×Lc)・φ
qu :粘性土の一軸圧縮強さ [kN/m
2]
qu =12.5N (Terzaghi Peck式)
N :N値。標準貫入試験(JIS A 1219)によって求められる地盤の強度を示す数値。
Ls :砂質土の埋込長 [m]
Lc :粘性土の埋込長 [m]
φ :アーチ材の周長 [m]
α :安全率。粘性土の場合2.0、砂質土の場合3.0。
ただし、N値が10未満の砂質土の引抜耐力計算値(tRa)は0とする。
【0030】
アーチ材の埋込長(Ls、Lc)、アーチ材の周長(φ)は、簡易建物の規格や設計により判明しているため、簡易建物を建てる地盤のN値と、その分類(粘性土か砂質土か)が分かれば、上記式1を用いて引抜耐力計算値(tRa)を算出することができる。なお、下記で詳述するが、式1の引抜耐力算定式は、算定式から算出される引抜耐力計算値(tRa)が、実際に測定して求められる引抜耐力の値よりも小さい値、すなわち、安全側となるように設計している。
【0031】
N値とはJIS A 1219に記載の標準貫入試験によって求められる値であり、地盤の強度を表す。N値は、63.5kgのおもりを75cm落下させて地盤に打ち付け、30cm打ち込むのに要する打撃回数で表される値である。N値が大きいほど地盤が強固なため、引抜耐力が大きくなる。
【0032】
N値は、JIS A 1221に記載のスウェーデン式サウンディング試験により知ることができる。また、「地中押し込み式パイプハウス安全構造指針(社団法人日本施設園芸協会発行)」(以下、園芸基準と示す)に記載のN値の目安を表1に示す。
【0034】
地盤は細分化して多くの種類に分類されるが、引抜耐力計算値(tRa)を算出するには、粘性土か砂質土かのみを判断すればよい。粘性土とは、細粒分(粒径が0.074mm以下の粒子)の割合が50%より多い土のことであり、粘性が強く水を通しにくい。砂質土とは粗粒分(粒径が0.074mm以上の粒子)の割合が50%より多い土のことであり、粘性がなくザラザラしており、水を通しやすい。同じN値の粘性土と砂質土とに、同一のアーチ材を同じ深さに差し込んだ時の引抜耐力は粘性土の方が大きい。すなわち、粘性土と砂質土とでは、粘性土は引抜耐力が大きくアーチ材が抜けにくく、砂質土は引抜耐力が小さくアーチ材が抜けやすい。なお、粘性土であっても、砂が多く混じっている場合は、安全をとって砂質土として扱う。
【0035】
所定の風速時に簡易建物のアーチ材に作用する引抜力(T)と、引抜耐力計算値(tRa)とを比較することにより、簡易建物がどの程度の風速に耐えることができる耐風性能を有するかを評価することができる。引抜力(T)が、引抜耐力計算値(tRa)よりも小さい場合は、アーチ材のみで十分な耐風性能を有しているため、補強杭を設ける必要はない。引抜力(T)と、引抜耐力計算値(tRa)とを比較することで、引抜耐力を測定せずとも補強が必要であるかを否かを判別することができるため、実際には不要である補強杭を購入する費用や、埋め込む手間を省くことができる。
【0036】
引抜力(T)が、引抜耐力計算値(tRa)よりも大きい場合は、地面に埋め込んだ補強杭と、簡易建物の骨組材とを接続することで、簡易建物に所望の耐風性能を持たせることができる。補強杭としては、従来のらせん杭、スクリュー杭、本発明のスクリューパイプ杭を用いることができる。ここで、らせん杭、スクリュー杭の引抜耐力は「園芸基準」に記載されている。本発明のパイプスクリュー杭3は、その形状からスクリュー杭と同等の引抜耐力を有している。
【0037】
以下に、補強杭として本発明のパイプスクリュー杭3を用いる場合について詳述するが、従来のらせん杭、スクリュー杭も同様の手法により用いることができる。
簡易建物を建てる実際の地盤において、パイプスクリュー杭3が有する引抜耐力の値は測定しないと判明しないが、実際に測定するのは煩雑である。地盤が硬い(N値が大きい)ほど、引抜耐力は大きくなるため、地盤のN値と引抜耐力とが比例すると仮定して、パイプスクリュー杭3の引抜耐力計算値(tRp)を算出することのできる式を算定した。なお、園芸基準では通常の畑土で、スクリュー杭の引抜耐力(短期)は2000Nとされているため、この値を引抜耐力計算値(tRp)の上限とした。パイプスクリュー杭3の引抜耐力算定式を式2に示す。
【0038】
「式2」
粘性土における引抜耐力計算値
tRp=2000/3×平均N値
(平均N値>3の場合は2000)
砂質土における引抜耐力計算値
tRp=2000/8×平均N値
(平均N値>8の場合は2000)
なお、平均(N値)とは、簡易建物を建てる地盤の複数箇所で測定したN値の平均を意味する。
【0039】
なお、式1のアーチ材の引抜耐力算定式と同じく、式2のパイプスクリュー杭3の引抜耐力算定式も、実際に測定して求められる引抜耐力の値よりも小さい値、すなわち、安全側となるように算定している。
【0040】
簡易建物のアーチ材の引抜力(T)が、引抜耐力計算値(tRa)よりも大きい時には、上記式2で求めたパイプスクリュー杭3の引抜耐力計算値(tRp)を用いて、引抜耐力の不足分(T−tRa)を補うのに必要なパイプスクリュー杭3の本数を求める。具体的には、簡易建物において地面に挿し込まれるアーチ材の本数をn、必要なパイプスクリュー杭3の本数をmとすると、下記式3で必要なパイプスクリュー杭3の本数(m)は求められる。
【0041】
「式3」
m≧n(T−tRa)/tRp (ただしmは整数とする。)
m :パイプスクリュー杭の本数
n :簡易建物において地面に挿し込まれるアーチ材の本数
【0042】
上記式3で求めた本数のパイプスクリュー杭を一定の間隔で埋め込み、地面に埋め込んだパイプスクリュー杭と簡易建物を構成する沈下防止パイプやアーチ材等の骨組材とを接続することで、簡易建物が所定の耐風性能を有するように補強することができる。
【0043】
ここで、引抜力(T)が引抜耐力計算値(tRa)よりも大きい場合は、簡易建物を建てる地盤表層のN値が小さいことが多い。そのため、従来の30〜70cm程度の長さの市販の補強杭で補強しても、補強杭はN値の小さい地盤に埋め込まれるのみであり、耐風性能があまり向上しないことがある。本発明のパイプスクリュー杭3は、継管2の長さを調整してN値の大きい強度に優れた地層まで埋め込むことができるため、補強杭として本発明のパイプスクリュー杭3を用いることが好ましい。上記したように、粘性土と砂質土とでは引抜耐力が大きく異なるため、パイプスクリュー杭3は、粘性土ではN値が2以上となる地層まで、砂質土ではN値が4以上となる地層まで埋め込むことが好ましい。
【実施例】
【0044】
φ19.1からφ42.7までのアーチ材と、本発明のパイプスクリュー杭を試験体とした。試験体を土壌中に300〜500mmの深さまで埋込み鉛直方向に引き抜きながら引抜耐力を測定する引抜試験を実施した。試験体の一覧を表2に示す。用いた試験体はいずれも渡辺パイプ株式会社製であり、表2において「タフ」とは、商品名「タフパイプ」を意味する。
【0045】
【表2】
【0046】
<引抜試験1>
場所:茨城県小美玉市中野谷字西原501
土質:粘性土
N値=2.4 ・・・埋込長500mm
N値=2.3 ・・・埋込長300mm
【0047】
<引抜試験2>
場所:千葉県富津市西川
土質:粘性土
N値=2.4 ・・・埋込長500mm
N値=0.8 ・・・埋込長300mm
【0048】
<引抜試験3>
場所:千葉県山武市松ケ谷口
土質:粘性土(砂混り粘性土)
N値=3.0 ・・・埋込長500mm
N値=2.6 ・・・埋込長300mm
【0049】
<引抜試験4>
場所:千葉県山武市松ケ谷口
土質:砂質土
平均N値=11.5 ・・・埋込長500mm
【0050】
各試験片を鉛直方向に引き抜く際に測定した引抜力の最大値の2/3を引抜耐力(短期)実験値とした。また、上記式1により引抜耐力計算値(tRa)を算出し、引抜耐力計算値に対する引抜耐力実験値の検定比(引抜耐力実験値/引抜耐力計算値)を求めた。その結果を表3に示す。なお、引抜試験3の土質は粘性土であったが、砂が多く混じっており砂質土としての性状が支配的になると考えられるため、引抜耐力計算値は砂質土として算定した。
【0051】
【表3】
【0052】
「アーチ材の引抜耐力算定式の検証」
粘性土で行った引抜き試験1、2は、24試験中20試験で検定比が基準値1.0を上回り、3試験で基準値を下回った。
検定比の分布を見ると2.0〜4.0の間に多く集まっており、24試験の平均値が3.4であることから、算定式に問題がないことが確認できた。
【0053】
砂混り粘性土で行った引抜き試験3は、11試験中8試験で検定比が基準値1.0を下回った。また、No.29は全試験を通して最も低い引抜耐力実験値である10Nを示し、ほとんど引抜耐力がなかった。
砂質土で行った引抜き試験4は、すべての試験で検定比は基準値1.0を上回っており、算定式に問題がないことが確認できた。
【0054】
N値が3.0の砂混じり粘性土で行った引抜き試験3はほとんど引抜耐力がなく、N値が11.5の砂質土で行った引抜き試験4は算定式に問題がなかったことから、砂質土として扱われる砂混じり粘性土と砂質土では、N値が10未満の場合の引抜耐力は0とした。
【0055】
以上の結果から、アーチ材の引抜耐力の測定値は、式1で表される引抜耐力算定式から算出される引抜耐力計算値(tRa)よりも大きな値を示すこと、すなわち、引抜耐力計算値(tRa)は、実際に測定した引抜耐力の値に対して安全側に位置していることが確認できた。
【0056】
「パイプスクリュー杭の引抜耐力算定式の検証」
パイプスクリュー杭の引抜耐力(短期)実験値と、上記式2で表される引抜耐力算定式
より算出されたパイプスクリュー杭の引抜耐力計算値(tRp)とを表4に示す。
【0057】
【表4】
【0058】
引抜き試験2〜4で測定したパイプスクリュー杭の引抜耐力(No.25、37、38、42)の実験値は、同一のN値の時に式2で表される算定式で算出した引抜耐力計算値(tRp)を上回っており、この算定式は試験値に対し安全側であることが確かめられた。