(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも操舵トルクに基づいて第1の電流指令値を演算し、前記第1の電流指令値に基づいてモータを駆動することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
前記操舵系の舵角が、前記操舵系が取り得る最大舵角から所定の閾値舵角までの角度範囲内にある場合に、前記閾値舵角を基準とする前記舵角の舵角変位である制御回転変位を算出する制御回転変位算出部と、
前記操舵トルク又はラック軸力の一方と前記制御回転変位又は前記舵角の一方の符号とに応じた補正量で補正された前記制御回転変位を、シフト制御舵角として算出する制御舵角シフト部と、
前記シフト制御舵角と操舵速度とに応じた第2の電流指令値を出力するフィードフォワード制御部と、
を具備し、
前記制御舵角シフト部は、前記操舵トルク又は前記ラック軸力の一方と前記制御回転変位又は前記舵角の一方の符号とに基づいて目標舵角速度を演算し、前記目標舵角速度及び前記操舵速度の速度偏差から第1のシフト用舵角を演算し、前記第1のシフト用舵角でシフトされた前記制御回転変位を前記シフト制御舵角として算出し、
前記電動パワーステアリング装置は、前記第2の電流指令値を前記第1の電流指令値に加算して第3の電流指令値を算出し、前記第3の電流指令値により前記アシスト制御を行うことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記制御舵角シフト部は、前記操舵トルク及び前記符号の乗算結果若しくは前記ラック軸力及び前記符号の乗算結果に基づいて前記目標舵角速度を算出し、前記速度偏差を入力とする比例制御、積分制御及び微分制御の少なくとも1つにより、前記第1のシフト用舵角を演算する第1のシフト用舵角演算部を備えることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
前記第1のシフト用舵角演算部は、前記速度偏差を入力とする比例制御、積分制御及び微分制御の少なくとも1つにより演算したシフト演算用角度を、第1のリミッタで制限して前記第1のシフト用舵角を演算し、
前記第1のリミッタは、前記シフト演算用角度の正領域と負領域で異なる特性を有することを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御舵角シフト部は、前記操舵トルク及び前記符号の乗算結果若しくは前記ラック軸力及び前記符号の乗算結果と、車速と、に基づいて前記目標舵角速度を演算することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
前記第1のシフト用舵角演算部は、前記速度偏差を入力とし、車速に感応する特性の比例制御、積分制御及び微分制御の少なくとも1つにより、前記第1のシフト用舵角を演算する、ことを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
前記第1のシフト用舵角演算部は、前記速度偏差を入力とし、前記制御回転変位に感応する特性の比例制御、積分制御及び微分制御の少なくとも1つにより、前記第1のシフト用舵角を演算する、ことを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御舵角シフト部は、前記操舵トルク及び前記符号の乗算結果若しくは前記ラック軸力及び前記符号の乗算結果に基づいて演算した前記舵角補正量を第2のリミッタで制限して前記第2のシフト用舵角を演算する第2のシフト用舵角演算部を備えることを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御舵角シフト部は、前記操舵トルク及び前記符号の乗算結果若しくは前記ラック軸力及び前記符号の乗算結果と、車速と、に基づいて前記舵角補正量を演算することを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
前記制御舵角シフト部は、前記制御回転変位に感応する特性のゲインで調整された前記舵角補正量に基づいて前記舵角補正量から第2のシフト用舵角を演算することを特徴とする請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵系にモータの回転力でアシスト力を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータの駆動力を減速機(減速比:N)を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸にアシスト力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、アシスト力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、電流指令値とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速ギア3(ギア比:N)、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられており、また、舵角θを検出する舵角センサ14が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいて、アシストマップを用いてアシスト指令の電流指令値の演算を行い、演算された電流指令値に補償等を施した電圧制御値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。
【0004】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0005】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット30は主としてCPU(Central Processing Unit)(MPU(Micro Processor Unit)やMCU(Micro Controller Unit)を含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、例えば
図2に示されるような構成となっている。
【0006】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10からの操舵トルクTh及び車速センサ12からの車速Vsは、アシスト制御のための電流指令値Iref1を演算する基本アシスト特性演算部31に入力され、演算された電流指令値Iref1は減算部32に入力され、モータ電流検出値Imと減算される。減算部32での減算結果である電流偏差ΔI(=Iref1−Im)はPI制御等の電流制御部35で制御され、電流制御された電圧制御値VrefがPWM制御部36に入力されてデューティを演算され、PWM信号でインバータ37を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32に入力されてフィードバックされる。本例では、モータ20にレゾルバ等の回転角センサ25が連結されており、モータ回転角θmが検出されて出力されるようになっている。なお、モータ回転角θmに減速ギア3のギア比(N)を乗算することにより、舵角θを得ることができる。
【0007】
このような電動パワーステアリング装置では、操舵系の最大舵角(ラックエンド)の近傍で大きなアシストトルクがモータにより付加されると、操舵系が最大舵角に至った時点で大きな衝撃が生じ、打音(異音)が発生して、運転者が不快に感じたり、ストレスを受ける可能性がある。なお、本明細書において「ラックエンド」とは、ピニオンラック機構5を形成するラックがストローク端に至った状態、すなわち操舵系が取り得る最大舵角又は最小舵角に舵角が至った状態(言い換えれば、舵角の絶対値が、操舵系が取り得る最大値になった場合)を意味する。
【0008】
そのため、特公平6−4417号公報(特許文献1)には、操舵系の操舵角が最大操舵角より所定値手前になったことを判定する操舵角判定手段を備えると共に、操舵角が最大操舵角より所定値手前になったときにモータへ供給する電力を減少させて、アシストトルクを減少させる補正手段を備えた電動式パワーステアリング装置が開示されている。
【0009】
また、特許第4115156号公報(特許文献2)には、調節機構が端位置に近づいているかどうかを決定し、調節機構が端位置に近づいていることが分かった場合、ステアリング補助を減少するように駆動手段を制御し、調節機構が端位置に近付く速度を決定するため、位置センサによって決定された調節速度が評価される電動パワーステアリング装置が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示された電動式パワーステアリング装置では、操舵角が最大操舵角より所定値手前になったことで電力を減少させており、操舵速度等を全く考慮していないので、微細な電流低減制御ができない。また、モータのアシストトルクを減少させる特性が全く示されておらず、具体的な構成となっていない。
【0012】
また、特許文献2に開示された電動パワーステアリング装置では、アシスト制御量を終端に向かうに従って減少していくが、終端に近づく速度に応じてアシスト制御量低減の速さを調整し、終端での速度を十分に落とすようにしている。しかし、特許文献2では、速度に応じて低減する特性を変化させることのみを示しており、物理的なモデルには基づいていない。また、フィードバック制御していないため、路面状況(負荷状態)によっては得られない特性或いは結果が変化する恐れがある。
【0013】
このような問題を解決するため、操舵系の物理的な粘弾性モデルを規範モデルとした手法が、本出願人によるWO2016/104569(特許文献3)、WO2016/125773(特許文献4)などにおいて提案されている。特許文献3及び特許文献4の電動パワーステアリング装置の概略構成は
図3に示すようになっており、操舵系の粘弾性モデルの構成であり、舵角θ(若しくはラック軸変位)を入力して、ラックエンド制御用のラックエンド制御出力(反力)となる電流指令値Iref2を出力する仮想ラックエンド制御部100が設けられており、仮想ラックエンド制御部100で演算された電流指令値Iref2は、基本アシスト特性演算部31で演算された電流指令値Iref1と加算部33で加算され、加算された電流指令値Iref3が減算部32に入力されている。減算部32以降のアシスト制御動作は、
図2に示す従来例の動作と同様である。
【0014】
仮想ラックエンド制御部100は、舵角θ(若しくはラック軸変位)を入力して処理し、ラックエンド接近を判定し、仮想ラックエンド制御部100が演算を始める舵角より、物理的なラックエンドに向かう回転変位を制御回転変位θrとして出力すると共に、舵角θの微分成分である操舵速度ωを出力する入力処理/判定部101と、制御回転変位θr及び操舵速度ωを入力してフィードフォワード(FF)処理する電流指令値Ireffを出力する端当て衝撃緩和制御部150と、電流指令値Ireffの最大値を制限する出力リミッタ102と、制限された電流指令値Itefmを反転する反転部(−1)103とで構成されている。また、端当て衝撃緩和制御部150は、操舵系のバネ定数k
0を算出するk
0テーブル151と、操舵系の粘性係数μを算出するμテーブル152と、制御回転変位θr及びバネ定数k
0を乗算する乗算部153と、操舵速度ω及び粘性係数μを乗算する乗算部154と、乗算部153及び154の各乗算結果を加算して電流指令値Ireffを出力する加算部155とで構成されている。
【0015】
入力処理/判定部101はパラメータ設定部等を含み、舵角θを入力して、制御スタート位置からの制御回転変位θr及び舵角θの微分成分である操舵速度ωを出力する。制御回転変位θrは
図4の模式図に示されるように、ラックエンド処理を行う制御スタート位置(正負)から物理的ラックエンドまでの角度変位を示しており、舵角θに応じて正方向に増加すると共に、負方向に減少する特性を有する。
すなわち、入力処理/判定部101は、操舵系が取り得る最大舵角から所定の閾値舵角までの角度範囲、又は操舵系が取り得る最小舵角から閾値舵角までの角度範囲内に舵角θがある場合(言い換えれば、舵角θの絶対値が、操舵系が取り得る最大値から所定閾値までの範囲に有る場合)に、閾値舵角を基準とする舵角θの舵角変位を、制御回転変位θrとして算出する。なお、入力処理/判定部101は、特許請求の範囲に記載の「制御回転変位算出部」の一例であり、「制御スタート位置」は、特許請求の範囲に記載の「閾値舵角」の一例である。
仮想ラックエンドは物理的ラックエンドの手前に設定されており、仮想ラックエンドをできるだけ物理的ラックエンドに近づけることにより、操舵範囲を大きくすることができる。入力処理/判定部101から出力される制御回転変位θrは、端当て衝撃緩和制御部150内のk
0テーブル151、μテーブル152及び乗算部153に入力され、操舵速度ωは乗算部154に入力される。k
0テーブル151は操舵系のバネ定数k
0を算出するデータテーブルであり、
図5に示すように、制御回転変位θrに応じて、変化領域の中央部で比較的急峻に増加(非線形増加)する特性を有している。また、μテーブル152は操舵系の粘性係数μを算出するデータテーブルであり、
図6に示すように、制御回転変位θrに応じて、全体的に比較的緩やかに漸増(非線形増加)する特性を有している。k
0テーブル151からのバネ定数k
0は乗算部153で制御回転変位θrと乗算(k
0×θr)されて加算部155に入力され、μテーブル152からの粘性係数μは乗算部154で操舵速度ωと乗算(μ×ω)されて加算部155に入力され、加算部155の加算結果(=k
0×θr+μ×ω)である電流指令値Ireffが出力リミッタ102に入力され、最大値を制限された電流指令値Irefmが反転部(−1)103を経て電流制御経路の加算部33に、補正用のラックエンド制御出力(反力)として入力されている。
【0016】
このように従来のラックエンド制御装置では、ラックエンドでの端当て衝撃緩和制御は、制御を開始する舵角からの回転変位に応じた機能となっており、端当て時の衝撃や異音を防止できるように、回転変位が大きくなるほど大きな出力を生成している。この場合、端当て衝撃緩和制御の出力が大きいいままであると、電動パワーステアリングのアシストトルクは小さくなるため、運転者は物理的ラックエンドまで操舵することができず、車両の最小回転半径が小さくなる恐れがある。
【0017】
物理的ラックエンド付近であっても、運転者の操舵トルクが十分に大きいときには運転者が物理的ラックエンド端まで操舵し、最小回転半径で車両を旋回させようとしていると考える。このとき、低い操舵速度で運転者が操舵するのであれば、端当て時の衝撃に伴う異音などは違和感が発生しないように小さくできる。ここで、端当て衝撃緩和制御は回転変位が大きくなるほど大きな出力になるように設定されるため、端当て衝撃緩和制御に入力される回転変位の絶対値が小さくなるように補正することで出力を低減させ、アシストトルクを増加させることができる。このときの補正量を適切に設定することで、物理的ラックエンドに到達しながらも、運転者は端当てによる衝撃のない操舵を達成できる。
【0018】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、回転変位に基づいたラックエンド制御系を構成し、ラックエンド制御系に入力する回転変位を操舵トルクやSAT(セルフアライニングトルク、ラック軸力)に応じて調整して仮想ラックエンド付近で制御量を低減し、ラックエンドまで操舵できると共に、車両操舵の旋回半径に影響することがない電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の実施形態によれば、少なくとも操舵トルクに基づいて第1の電流指令値を演算し、第1の電流指令値に基づいてモータを駆動することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置が与えられる。電動パワーステアリング装置は、操舵系の舵角が、操舵系が取り得る最大舵角から所定の閾値舵角までの角度範囲内にある場合に、閾値舵角を基準とする舵角の舵角変位である制御回転変位を算出する制御回転変位算出部と、操舵トルク又はラック軸力の一方と制御回転変位又は舵角の一方の符号とに応じた補正量で補正された制御回転変位を、シフト制御舵角として算出する制御舵角シフト部と、シフト制御舵角と操舵速度とに応じた第2の電流指令値を出力するフィードフォワード制御部と、を具備し、第2の電流指令値を第1の電流指令値に加算して第3の電流指令値を算出し、第3の電流指令値によりアシスト制御を行う。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電動パワーステアリング装置によれば、物理モデルに基づいた制御系を構成し、粘弾性モデルに入力する変位を操舵トルクやSATに基づいて調整して、端当て衝撃緩和制御部を有している場合でも、仮想ラックエンド付近でラックエンド制御出力(反力)を低減しているのでアシスト力が増加され、物理的ラックエンド若しくはその至近距離まで操舵できるようになると共に、車両操舵の旋回半径に影響することがない利点がある。特に、制御舵角シフト部にはシフト舵角量を所定の領域で制限するリミッタが設けられているので、過度な補償を防止して操舵違和感を減少させ、ラックエンド衝撃の異音発生を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ラックエンド端当て時の衝撃、異音を抑制するために、ラックエンド制御出力(反力)を発生して仮想ラックエンドを形成する制御に関し、仮想ラックエンド付近でラックエンド制御出力(反力)を小さくすることで、運転者がラックエンドまでストレスなく操舵でき、車両の旋回半径に影響することがないようにする。反力が大きくなった状態で運転者の切り増したいという意図である操舵トルクを用いて検知し、操舵トルク及び操舵速度に応じて、端当て衝撃緩和制御部に入力する制御回転変位の絶対値が小さくなるように補正して反力を低減させることで、アシスト力が増加させてラックエンドまで操舵できるようにする。
【0023】
ラックエンドでの端当て衝撃緩和制御は、ラックエンド制御を開始する舵角からの制御回転変位に応じた機能となっており、端当て時の衝撃や異音を防止できるように、制御回転変位が大きくなる程大きな出力を生成する。このとき、端当て衝撃緩和制御の出力が大きいままであると、電動パワーステアリングのアシストトルクは小さくなるため、運転者は物理的ラックエンドまで操舵することができず、車両の最小回転半径が大きくなる恐れがある。物理的ラックエンド付近であっても、運転者の操舵トルクが十分に大きいときには、運転者が物理的ラックエンド端まで操舵し、最小回転半径で車両を旋回させようとしていると考える。このとき、低い操舵速度で運転者が操舵するのであれば、端当て時の衝撃に伴う異音などは、違和感が発生しないように小さく出来る。ここで、本発明における端当て衝撃緩和制御部は、制御回転変位が大きくなるほど大きな出力になるように設定されるため、端当て衝撃緩和制御部に入力される制御回転変位の絶対値が小さくなるように補正することで、端当て衝撃緩和制御出力を低減させ、アシスト制御量(アシストトルク)を増加させることができる。このとき補正量を適切に設定することで、物理的ラックエンドに到達しながらも、運転者は端当てによる衝撃のない操舵を達成できる。
【0024】
本発明では、操舵トルク及び舵角符号(舵角の正負)に応じた目標操舵速度を算出し、目標操舵速度と実操舵速度の速度偏差に対して、PID(Proportional-Integral-Differential)(若しくは少なくともPIDの1つ)制御器によって、第1の回転変位補正量(シフト用舵角)を求める(フィードバック(FB)形式のA側)。補正量の変化量が過剰になると、物理的ラックエンドに達したときに衝撃が発生するため、補正量にレートリミッタを設ける。また、補正量の絶対値が過剰にならないように、補正量算出経路にリミッタを設ける。更に、操舵トルク及び舵角符号(舵角の正負)に応じた舵角補正量に対して第2の回転変位補正量(シフト用舵角)を求めると共に、補正量の変化量が過剰になると、物理的ラックエンドに達したときに衝撃が発生するため、補正量算出経路にレートリミッタを設ける(フィードフォワード(FF)形式のB側)。A側と同様に、補正量の絶対値が過剰にならないように、補正量にリミッタを設ける。
【0025】
次いで、第1の回転変位補正量と第2の回転変位補正量を加算して回転変位補正量(シフト舵角量)を求め、端当て衝撃緩和制御部を含むFF制御部に入力する制御回転変位を回転変位補正量で補正する。補正後の制御回転変位(シフト制御舵角)で端当て衝撃緩和制御の出力(端当て衝撃緩和電流指令値)を算出することで、出力を低減させる。このようにすることで反力が小さくなり、アシスト力が回復するため、物理的ラックエンドまで操舵できるようになる。
【0026】
FF側(A側)の第1の回転変位補正量は、操舵トルクに制御回転変位の符号を乗算し、切り増し時に「正」、切戻し時に「負」の値になるように正規化された正規化操舵トルクに応じて算出される。正規化操舵トルクが大きいほど、大きな正規化目標操舵速度になるように設定される。正規化目標操舵速度は、切り増し時の操舵速度が「正」になり、切戻し時の操舵速度が「負」になるように定義された操舵速度であり、手放し(操舵トルクが略0)時には、路面反力によりハンドルがセンタ方向に戻るため、正規化目標操舵速度は負の値となる。正規化目標操舵速度に制御回転変位の符号を乗算することで、実際の符号の目標操舵速度を算出する。算出された目標操舵速度と実操舵速度の速度偏差に対して、PID制御のうち少なくとも1つを適用して回転変位補正量とする。正規化目標操舵速度の最大値は、物理的ラックエンドに達しても衝撃が発生しない値に設定する。
【0027】
また、FF側(B側)の第2の回転変位補正量も、操舵トルクに応じた量に対して制御回転変位の符号を乗算して補正量とする。第1の回転変位補正量と第2の回転変位補正量を過剰に補正すると、制御回転変位が「正」であるにも関わらず、補正後の制御回転変位が「負」になってしまう。制御回転変位が「正」の状態で、端当て衝撃緩和制御の出力として「負」の値を出力することは、端当て衝撃緩和制御の機能目的に沿っていないため、制御回転変位が「正」のときに補正後の制御回転変位が「負」にならないようなリミッタを設ける。このリミッタは、第1の回転変位補正量と第2の回転変位補正量のそれぞれに設けても良いし、第1の回転変位補正量と第2の回転変位補正量を加算した後に設けても良い。
【0028】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。ラック軸力とコラム軸トルクは等価であり、本発明では、反力が大きくなった状態で、運転者の切増したいという意図である操舵トルク又はラック軸力を用いて検知し、端当て衝撃緩和制御部に入力するシフト制御舵角を調整して反力を低減し、ラックエンド(至近距離)まで操舵できるようにしている。
【0029】
図7は、本発明の実施形態の一例(第1実施形態)を
図3に対応させて示しており、舵角θ及び操舵トルクThを入力して電流指令値Iref2を出力する仮想ラックエンド制御部100Aが設けられており、仮想ラックエンド制御部100Aは、舵角θを入力してラックエンドを判定し、制御回転変位θr及び操舵速度ωを出力する入力処理/判定部101と、制御回転変位θr、操舵速度ω及び操舵トルクThを入力し、シフト制御用のシフト制御舵角θrsを出力する制御舵角シフト部120と、入力処理/判定部101からの操舵速度ω及び制御舵角シフト部120からのシフト制御舵角θrsを入力して電流指令値Iref2を出力するフィードフォワード(FF)制御部160とで構成され、FF制御部160は、前述と同様な端当て衝撃緩和制御部150と、端当て衝撃緩和制御部150からの端当て衝撃緩和電流指令値Ireffの最大値を制限する出力リミッタ161と、最大値を制限された電流指令値Irefmを反転して補正用の電流指令値Iref2を出力する反転部(−)162とで構成されている。なお、出力リミッタ161と反転部162とで、出力制御部を構成している。
【0030】
制御舵角シフト部120は、制御回転変位θrの正負符号を判定して符号SNを出力する符号化部126を備えており、符号SN、操舵トルクTh及び操舵速度ωに基づいてFB機能のシフト用舵角θ
a3を算出するA側のシフト用舵角演算部(A)124Aと、符号SN及び操舵トルクThに基づいてFF機能のシフト用舵角θ
b4を算出するB側のシフト用舵角演算部(B)124Bとを備えている。制御舵角シフト部120は更に、A側のシフト用舵角θ
a3及びB側のシフト用舵角θ
b4を加算してシフト舵角量θ
tを出力する加算部125と、制御回転変位θrからシフト舵角量θ
tを減算してシフト制御舵角θrs(=θr−θ
t)を出力する減算部122とを備えている。加算部125と減算部122とでシフト制御部を構成している。符号化部126は、舵角θを入力して符号SNを出力するようにしても良い。
【0031】
シフト用舵角演算部(A)124Aは、操舵トルクTh及び符号SNを乗算する乗算部124A−1と、乗算部124A−1の乗算結果(Th×SN)に応じて
図8(A)に示すような特性で目標舵角速度ω
ra1を演算して出力する目標舵角速度演算部124A−2と、目標舵角速度ω
ra1及び符号SNを乗算する乗算部124A−3と、乗算部124A−3の乗算結果(ω
ra1×SN)である目標舵角速度ω
ra2から操舵速度ωを減算して速度偏差ω
ra3を求める減算部124A−4と、速度偏差ω
ra3を比例制御(比例(P)、積分(I)、微分(D)の少なくとも1つで良い)する比例処理部124A−5と、比例制御されたシフト演算用角度θ
a1をレートリミット処理(円滑化)するレートリミッタ124A−6と、レートリミッタ124A−6でレートリミット処理されたシフト演算用角度θ
a2のシフト量を制限してシフト用舵角θ
a3を出力するリミッタ124A−7とで構成されている。また、シフト用舵角演算部(B)124Bは、操舵トルクTh及び符号SNを乗算する乗算部124B−1と、乗算部124B−1の乗算結果(Th×SN)に応じて
図8(B)に示すような特性で舵角補正量θ
b1を演算して出力する舵角補正量演算部124B−2と、舵角補正量演算部124B−2から出力されるシフト演算用角度θ
b1に符号SNを乗算してシフト演算用角度θ
b2を出力する乗算部124B−3と、乗算部124B−3から出力されるシフト演算用角度θ
b2をレートリミット処理(円滑化)するレートリミッタ124B−4と、レートリミッタ124B−4でレートリミット処理されたシフト演算用角度θ
b3のシフト量を制限してシフト用舵角θ
b4を出力するリミッタ124B−5とで構成されている。レートリミッタ124A−6及びレートリミッタ124B−4は、必須のものではない。
なお、目標舵角速度演算部124A−2は、操舵トルクTh及び符号SNの乗算結果(Th×SN)の代わりに、ラック軸力及び符号SNの乗算結果に応じて目標舵角速度ω
ra1を演算して出力してもよい。また、シフト用舵角演算部(B)124Bは、操舵トルクTh及び符号SNの乗算結果(Th×SN)の代わりに、ラック軸力及び符号SNの乗算結果に応じて舵角補正量θ
b1を演算して出力してもよい。他の実施形態においても同様である。
【0032】
シフト用舵角演算部(A)124Aでは、目標舵角速度演算部124A−2は操舵トルクTh及び符号SNの乗算結果に応じて目標舵角速度ω
ra1を演算して出力し、目標舵角速度ω
ra1は乗算部124A−3に入力されて符号SNと乗算され、乗算結果である目標舵角速度ω
ra2は減算部124A−4で操舵速度ωを減算されて速度偏差ω
ra3が算出され、速度偏差ω
ra3は比例制御部(P)124A−5を経てシフト演算用角度θ
a1に変換処理され、シフト演算用角度θ
a1はレートリミッタ124A−6に入力され、レートリミット処理されたシフト演算用角度θ
a2が更にリミッタ124A−7に入力され、シフト量を制限されたシフト用舵角θ
a3が出力される。また、シフト用舵角演算部(B)124Bでは、舵角補正量演算部124B−2は操舵トルクTh及び符号の乗算結果に応じて舵角補正量θ
b1を演算して出力し、舵角補正量θ
b1は乗算部124B−3に入力されて符号SNと乗算され、乗算結果であるシフト演算用角度θ
b2はレートリミッタ124B−4に入力され、レートリミット処理されたシフト演算用角度θ
b3が更にリミッタ124B−5に入力され、シフト量を制限されたシフト用舵角θ
b4が出力される。
【0033】
なお、シフト用舵角演算部(A)124A及びシフト用舵角演算部(B)124Bで、操舵トルクThと制御回転変位θrの符号SNとを乗算する理由は、操舵トルクThと制御回転変位θrが一致した場合(切増し時)の操舵トルクThを「正」と定義し、操舵トルクThと制御回転変位θrが不一致の場合(切戻し時)の操舵トルクThを「負」と定義しているからである。また、シフト用舵角演算部(A)124A及びシフト用舵角演算部(B)124Bで別々に、操舵トルクThと制御回転変位θrの符号SNとの乗算を行っているが、1つの乗算部でA側及びB側を兼用するようにしても良い。
【0034】
レートリミッタ124A−6及び124B−4は同一構成であり、角度の急激な変化は制御定数の急激な変動、制御出力の急激な変動となるので、制御周期間の変化量を制限して滑らかな出力となるようにする。ここではレートリミッタ124A−6について説明するが、レートリミッタ124B−4についても同様である。
【0035】
レートリミッタ124A−6の構成は
図9に示すように、シフト演算用角度θ
a1は減算部124−1に加算入力され、減算部124−1で保持部(Z
−1)124−4からの過去値との減算が行われ、減算結果である角度θ
a1nが変化分設定部124−2で上限及び下限を制限されて変化分θ
a1mが出力される。変化分設定部124−2は、変化分が設定された上限及び下限を超えないようにするものであり、その特性は演算周期T毎に入力角度θ
a1と過去値との差分を上限及び下限で制限し、制限後の変化分θ
a1mと過去値との加算値を求め、変化分設定部124−2の上限及び下限の範囲外の場合には、差分θ
a1nを上限及び下限で制限し、制限された過去値に加算することを繰返し行うことにより、
図10に示すような階段状に出力θ
a2を変化させて、最終的に出力θ
a2を、入力されるシフト演算用角度θ
a1に一致させる。また、入力(角度)θ
a1との差分が変化分設定部124−2の上限及び下限の範囲内の場合には、変化分θ
a1m=差分θ
a1nを出力し、過去値に加算するので、その結果出力θ
a2と入力(角度)θ
a1は一致する。これらの結果、シフト演算用角度θ
a1が急激に変化しても、急激に変化するシフト演算用角度θ
a1を滑らかに変化させることができ、急激な舵角の変化(=急激な操舵)を防止している。
【0036】
上記したレートリミッタ124A−6及び124B−4の後段には、それぞれ
図11(A)及び(B)に示すような特性のリミッタ124A−7及び124B−5が設けられている。リミッタ124A−7及び124B−5はいずれもシフト量を制限する機能を有し、リミッタ124A−7は
図11(A)の斜線部が制限される領域であり、リミッタ124B−5は
図11(B)の斜線部が制限される領域である。過度にシフトすると、反力が小さくなって操舵速度が急に速くなり、運転者にとっては違和感となる。これを防止するために、リミッタによりシフト量を制限している。リミッタ124A−7は正側及び負側で異なる特性となっており、正側の制限値が大きくなっている。また、リミッタ124B−5は正側のみに制限値を設けており、負側は全て遮断する特性となっている。即ち、制御回転変位θrが正の場合、リミッタ124A−7の特性は
図11(A)に示すように、シフト演算用角度θ
a2の正側(θ
a2>0)では常に正の値(θ
a2)であり、非線形に徐々に大きくなり、シフト演算用角度θ
a2の負側(θ
a2<0)で、正側よりも小さな非線形特性で徐々に大きくなっている。リミッタ124B−5の特性は
図11(B)に示すように、シフト演算用角度θ
b3の正側(θ
b3>0)では常に正の値(θ
b4)であり、非線形に徐々に大きくなり、シフト演算用角度θ
b3の負側(θ
b3<0)では常に“0”となっている。
【0037】
なお、制御回転変位θrが負の場合、リミッタ124A−7及びリミッタ124B−5の特性は、それぞれ
図11(A)及び
図11(B)の原点を180°回転した特性である。
【0038】
リミッタ124A−7でシフト量を制限されたシフト用舵角演算部(A)124Aからのシフト用舵角θ
a3と、リミッタ124B−5でシフト量を制限されたシフト用舵角演算部(B)124Bからのシフト用舵角θ
b4とは加算部125で加算され、加算部125の加算結果であるシフト舵角量θ
t(=θ
a3+θ
b4)は減算部122に入力され、減算部122は制御回転変位θrからシフト舵角量θ
tを減算して、シフトされたシフト制御舵角θrsを算出し、シフト制御舵角θrsはFF制御部160内の端当て衝撃緩和制御部150に入力される。
【0039】
シフト制御舵角θrsは端当て衝撃緩和制御部150内のk
0テーブル151、μテーブル152及び乗算部153に入力され、操舵速度ωは乗算部154に入力される。k
0テーブル151のバネ定数k
0は
図12に示すようなS字状の漸増特性であり、シフト制御舵角θrsの増加に応じて漸増し、μテーブル152の粘性係数μは
図12に示すような緩やかな曲線状の漸増特性であり、シフト制御舵角θrsの増加に応じて漸増する。シフト制御舵角θrsに応じてk
0テーブル151から出力されたバネ定数k
0は、乗算部153でシフト制御舵角θrsと乗算されて加算部155に入力され、シフト制御舵角θrsに応じてμテーブル152から出力された粘性係数μは、乗算部154で操舵速度ωと乗算されて加算部155に入力される。加算部155での加算結果である端当て衝撃緩和電流指令値Ireffは出力リミッタ161及び反転部162の電流出力部を経て、電流指令値Iref2として加算部33に入力される。加算部33で電流指令値Iref1を補正し、補正された電流指令値Iref3が新たな電流指令値として減算部32に加算入力される。
【0040】
仮想ラックエンド制御部100Aに入力される舵角θは、回転角センサ25から得ることができるが、
図13に示すような構成の角度センサから取得することもできる。コラム軸2のハンドル1側の入力シャフト2Aには、角度センサとしてのホールICセンサ21及びトルクセンサ入力側ロータの20°ロータセンサ22が装着されている。ホールICセンサ21は296°周期のAS_IS角度θhを出力する。トーションバー23よりもハンドル1側に装着された20°ロータセンサ22は、20°周期のコラム入力側角度信号θsを出力し、コラム入力側角度信号θsは舵角演算部50に入力される。また、コラム軸2の出力シャフト2Bには、トルクセンサ出力側ロータの40°ロータセンサ24が装着されており、40°ロータセンサ24からコラム出力側角度信号θrが出力され、コラム出力側角度信号θrは舵角演算部50に入力される。このようにして検出されるコラム入力側角度信号θs及びコラム出力側角度信号θrは舵角演算部50に入力され、舵角θが演算される。
【0041】
以上のように、シフト用舵角演算部(A)124Aは、目標舵角速度ω
ra1に応じたシフト用舵角θ
a3を出力し、減算部122は、制御回転変位θrからシフト用舵角θ
a3を減算することにより衝撃緩和電流指令値Ireffを低減する。このため、衝撃緩和電流指令値Ireffを低減する条件を舵角速度によって制限し、舵角速度が大きい場合に衝撃緩和電流指令値Ireffを低減してしまうことにより、端当てにより衝撃音を生じるのを防止できる。
また、シフト用舵角演算部(B)124Bは、操舵トルクThに基づく舵角補正量に応じたシフト用舵角θ
b4を出力し、減算部122は、制御回転変位θrからシフト用舵角θb4を減算することにより衝撃緩和電流指令値Ireffを低減する。このため、操舵トルクThがある程度大きくなったときに衝撃緩和電流指令値Ireffを減少させることが可能となり、衝撃緩和制御の開始時の電流指令値の急変を回避して、違和感を抑制することができる。
なお、制御舵角シフト部120は、必ずしもシフト用舵角演算部(A)124A及びシフト用舵角演算部(B)124Bの双方を備える必要はなく、何れか一方を備えればよい。他の実施形態においても同様である。
【0042】
このような構成において、その動作例(第1実施形態)を
図14のフローチャートを参照して説明する。
先ず操舵トルクTh、車速Vs及び舵角θが入力され(ステップS1)、基本アシスト特性演算部31で電流指令値Iref1が演算される(ステップS2)。入力処理/判定部101は舵角θに基づいて操舵速度ω及び制御回転変位θrを演算して出力する(ステップS3)。操舵速度ωは制御舵角シフト部120内の減算部124A−4及び端当て衝撃緩和制御部150内の乗算部154に入力され、制御回転変位θrは制御舵角シフト部120内の符号化部126に入力されると共に、減算部122に加算入力される。符号化部126は制御回転変位θrの符号(正負)を判定して、符号SNを出力する(ステップS4)。符号SNは、シフト用舵角演算部124A内の乗算部124A−1及び乗算部124A−3並びにシフト用舵角演算部124B内の乗算部124B−1及び乗算部124B−3に入力される。
【0043】
操舵トルクThは、シフト用舵角演算部124A内の乗算部124A−1及びシフト用舵角演算部124B内の乗算部124B−1に入力され、それぞれ符号SNと乗算される。乗算部124A−1における乗算結果はシフト用舵角演算部124A内の目標舵角速度演算部124A−2に入力され、
図8(A)に示すような特性で目標舵角速度ω
ra1が演算され、後述するようにしてFB側のシフト用角度θ
a3が演算されて出力されると共に(ステップS10)、乗算部124B−1における乗算結果はシフト用舵角演算部124B内の舵角補正量演算部124B−2に入力され、
図8(B)に示すような特性で舵角補正量θ
b1が演算され、後述するようにしてFF側のシフト用角度θ
b4が演算されて出力される(ステップS20)。シフト用舵角演算部124Aからのシフト用角度θ
a3及びシフト用舵角演算部124Bからのシフト用角度θ
b4は加算部125に入力されて加算され(ステップS30)、加算されたシフト用舵角θ
tは減算部122に減算入力される。減算部122は、制御回転変位θrからシフト用舵角θ
tを減算してシフト制御舵角θrsを演算し(ステップS31)、シフト制御舵角θrsはFF制御部160内の端当て衝撃緩和制御部150に入力され、操舵速度ωを用いて端当て衝撃緩和処理される(ステップS40)。
【0044】
端当て衝撃緩和処理された電流指令値Ireffは出力リミッタ161で最大値を制限され、最大値を制限された電流指令値Irefmが反転部162で反転(−1)され、電流指令値Iref2として加算部33に入力される(ステップS50)。加算部33で、電流指令値Iref1及びIref2が加算されて電流指令値Iref3が演算され(ステップS51)、電流指令値Iref3に基づいて操舵系のアシスト制御が実施される(ステップS52)。
【0045】
次に、FB側のシフト用舵角演算部124Aの動作例(
図14のステップS10)を、
図15のフローチャートを参照して説明する。
【0046】
先ず操舵トルクTh及び符号化部126からの符号SNが乗算部124A−1に入力され(ステップS11)、乗算部124A−1で乗算が行われる(ステップS12)。乗算部124A−1における乗算結果は目標舵角速度演算部124A−2に入力され、目標舵角速度演算部124A−2は、
図8(A)に示すような特性で目標舵角速度ω
ra1を演算し(ステップS13)、目標舵角速度ω
ra1は乗算部124A−3に入力されて符号SNと乗算され(ステップS14)、乗算結果である目標舵角速度ω
ra2が減算部124A−4に加算入力され、操舵速度ωとの速度偏差ω
ra3が演算される(ステップS15)。速度偏差ω
ra3は比例部124A−5に入力されて比例制御され(ステップS16)、その出力であるシフト演算用角度θ
a1がレートリミッタ124A−6でレートリミット処理され(ステップS17)、レートリミット処理されたシフト演算用角度θ
a2がリミッタ124A−7に入力されて上述した制限処理が実施される(ステップS18)。リミッタ124A−7から、シフト量を制限されたシフト用舵角θ
a3が出力される(ステップS19)。
【0047】
続いて、FF側のシフト用舵角演算部124Bの動作例(
図14のステップS20)を、
図16のフローチャートを参照して説明する。
【0048】
先ず操舵トルクTh及び符号化部126からの符号SNが乗算部124B−1に入力され(ステップS21)、乗算部124B−1で乗算が行われる(ステップS22)。乗算部124B−1における乗算結果は舵角補正量演算部124B−2に入力され、舵角補正量演算部124B−2は、
図8(B)に示すような特性で舵角補正量θ
b1を演算し(ステップS23)、舵角補正量θ
b1は乗算部124B3に入力されて符号SNと乗算され(ステップS24)、乗算結果であるシフト演算用角度θ
b2がレートリミッタ124B−4に入力されてレートリミット処理され(ステップS25)、レートリミット処理されたシフト演算用角度θ
b3がリミッタ124B−5に入力されて上述した制限処理が実施される(ステップS26)。リミッタ124B−5から、シフト量を制限されたシフト用舵角θ
b4が出力される(ステップS27)。
【0049】
次に、FF(フィードフォワード)制御部160の動作例(
図14のステップS40)を、
図17に示して説明する。
【0050】
先ず制御舵角シフト部120からシフト制御舵角θrsが入力されると共に、入力処理/判定部101から操舵速度ωが入力され(ステップS41)、
図12に示す特性で、k
0テーブル151においてバネ定数k
0が演算され(ステップS42)、μテーブル152において粘性係数μが演算される(ステップS43)。この演算順序は逆であっても良い。バネ定数k
0は乗算部153に入力されてシフト制御舵角θrsと乗算され、粘性係数μは乗算部154に入力されて操舵速度ωと乗算される(ステップS44)。乗算部153及び154の各乗算結果が加算部155に入力されて加算され(ステップS45)、加算結果が端当て衝撃緩和電流指令値Ireffとして出力される(ステップS46)。端当て衝撃緩和電流指令値Ireffは出力リミッタ161で制限処理を実施され(ステップS47)、制限処理された電流指令値Irefmが反転部162で反転され(ステップS48)、電流指令値Iref2として出力される(ステップS49)。
【0051】
上記第1実施形態では、レートリミッタ124A−6及び124B−4の後段にそれぞれシフト量制限用のリミッタ124A−7及び124B−5を設けているが、
図18に示すようにレートリミッタ124A−6及び124B−4の前段にそれぞれリミッタ124A−7及び124B−5を設けても良い(第2実施形態)。また、
図18に示す第2実施形態におけるシフト用舵角演算部(A)124Aは、
図19に示すようにリミッタ124A−7を比例制御部124A−5の前段に配置し、比例制御部124A−5に入力されるシフト演算用角度θ
a4を制限するようにしても良い(第3実施形態)。更に、
図7の第1実施形態におけるシフト用舵角演算部124A及び124B内のリミッタ124A−7及び124B−5を削除し、
図20に示すように、レートリミッタ124A−6からのシフト用舵角θ
a2及びレートリミッタ124B−4からのシフト用舵角θ
b3を加算部125で加算し、加算されたシフト用舵角θ
taをリミッタ127で制限し、シフト量を制限されたシフト舵角量θ
tbを減算部122に入力するようにしても良い(第4実施形態)。
【0052】
上述の第1実施形態〜第4実施形態では、いずれもμテーブル152はシフト制御舵角θrsに基づいて粘性係数μを演算しているが、
図7に対応させて
図21に示すように、制御回転変位θrに基づいて粘性係数μを演算するようにしても良い(第5実施形態)。この第5実施形態でもリミッタの配置は、第2実施形態〜第4実施形態と同様に適宜変更可能である。
【0053】
また、上述の第1実施形態〜第5実施形態では、シフト用舵角演算部(A)124Aとシフト用舵角演算部(B)124Bの2つを備えているが、シフト用舵角演算部(A)124Aのみであっても良く(第6実施形態)、或いはシフト用舵角演算部(B)124Bのみであっても良い(第7実施形態)。また、第1実施形態〜第7実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0054】
図22は本発明の第8実施形態を
図7に対応させて示しており、第8実施形態では、目標舵角速度演算部124A−2及び舵角補正量演算部124B−2にパラメータとして車速Vsが入力されている。第8実施形態の目標舵角速度演算部124A−2は、例えば
図23(A)に示すように、車速Vsが高くなるに従って目標舵角速度ω
ra1が小さくなる特性であり、舵角補正量演算部124B−2は、例えば
図23(B)に示すように、車速Vsが高くなるに従って舵角補正量θ
b1が小さくなる特性である。特性は車速Vsに対して逆でも良い。
【0055】
上記第8実施形態では、目標舵角速度演算部124A−2及び舵角補正量演算部124B−2の各出力特性を車速Vsに感応させているが、
図24に示すように、乗算部124B−3の後段、つまりレートリミッタ124B−4の前段にゲイン部124B−6を設け、比例制御部(P)124A−5及びゲイン部124B−6を、車速Vsに応じて可変するようにしても良い(第9実施形態)。車速Vsに感応するゲイン部124B−6の特性は、例えば
図25に示すように車速Vsが高くなるに従ってゲインGが線形(#1)若しくは非線形(#2)に小さくなる。特性は、車速Vsが高くなるに従ってゲインGが線形若しくは非線形に大きくなるようにしても良い。比例制御部(P)124A−5についても同様であり、車速Vsに感応する特性となっている。第9実施形態においても、リミッタの配置は適宜変更可能である。
【0056】
上記第9実施形態では車速Vsに応じてゲインを可変するようにしているが、
図26に示すように制御回転変位θrによって、比例制御部124A−5及びゲイン部124B−6のゲインを可変するようにしても良い(第10実施形態)。即ち、第10実施形態では、比例制御部124A−5及びゲイン部124B−6が制御回転変位θrに感応する特性である。第10実施形態によれば、
図27に示すように、所定舵角θ
r1以上でラックエンドに近づいたときにのみ制御回転変位をシフトできる。第10実施形態においても、リミッタの配置は適宜変更可能である。
【0057】
図28(A)は、第11実施形態の制御舵角シフト部120の構成例を示すブロック図である。制御舵角シフト部120は、操舵トルクThと符号SNとの乗算結果(Th×SN)に基づいて補正ゲインGを決定し、補正ゲインGで補正された制御回転変位θrをシフト制御舵角θrsとして算出してもよい。
第11実施形態の制御舵角シフト部120は、操舵トルクTh及び符号SNを乗算する乗算部124C−1と、乗算部124C−1の乗算結果(Th×SN)に応じて
図28(B)に示すような特性でゲインGを設定するゲイン設定部124C−2と、ゲインGを制御回転変位θrに乗算してシフト制御舵角θrsを算出する乗算部124C−3を備える。他の実施形態と同様に、ゲインG及びその変化速度を制限するリミッタ及びレートリミッタを適宜備えてもよい。第11実施形態によっても、操舵トルクThに応じて制御回転変位θrを低減し、衝撃緩和電流指令値Ireffを減少させることができる。
【0058】
本発明は、ハンドルとタイヤを転舵する機構が分離したステアバイワイアにも適用できる。