特許第6841642号(P6841642)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6841642耐熱粘着フィルム、表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6841642
(24)【登録日】2021年2月22日
(45)【発行日】2021年3月10日
(54)【発明の名称】耐熱粘着フィルム、表面保護フィルム及び耐熱粘着フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20210301BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20210301BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20210301BHJP
【FI】
   C09J7/38
   C09J153/02
   C09J11/08
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-238617(P2016-238617)
(22)【出願日】2016年12月8日
(65)【公開番号】特開2017-106014(P2017-106014A)
(43)【公開日】2017年6月15日
【審査請求日】2019年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-239596(P2015-239596)
(32)【優先日】2015年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郭 嘉謨
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 克典
【審査官】 上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−190370(JP,A)
【文献】 特開2010−132889(JP,A)
【文献】 特開平11−193367(JP,A)
【文献】 特開平02−252783(JP,A)
【文献】 特開2003−321662(JP,A)
【文献】 特開2010−209295(JP,A)
【文献】 特開2001−288425(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/186045(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と粘着剤層とを有する耐熱粘着フィルムであって、
前記粘着剤層は、一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の架橋物を含有する
ことを特徴とする耐熱粘着フィルム。
ブロックA:芳香族アルケニル化合物単位を80重量%以上の含有率で含有する芳香族アルケニル重合体ブロック
ブロックB:共役ジエン化合物単位と芳香族アルケニル化合物単位とを含有し、芳香族アルケニル化合物単位の含有量が10〜35重量%である共役ジエン重合体ブロック
【請求項2】
一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物が、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)型のブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載の耐熱粘着フィルム。
【請求項3】
粘着剤層は、更に、一般式A−B’−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−B’で表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の耐熱粘着フィルム。
ブロックA:芳香族アルケニル化合物単位を80重量%以上の含有率で含有する芳香族アルケニル重合体ブロック
ブロックB’:共役ジエン化合物単位を含有し、芳香族アルケニル化合物単位を含有しない共役ジエン重合体ブロック
【請求項4】
粘着剤層は、更に、粘着付与剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の耐熱粘着フィルム。
【請求項5】
表面にコロナ処理されたプラスティックフィルムの前記コロナ処理された面上に耐熱粘着フィルムを貼着し、40℃、24時間放置後に耐熱粘着フィルムを剥離したときに、貼着前後での前記プラスティックフィルムのコロナ処理された表面の表面張力の変化率が35%以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の耐熱粘着フィルム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の耐熱粘着フィルムからなることを特徴とする表面保護フィルム。
【請求項7】
基材層と、一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有する未架橋粘着剤層とを有する積層体を調製する工程と、
前記積層体の前記未架橋粘着剤層を架橋する工程とを有する
ことを特徴とする耐熱粘着フィルムの製造方法。
ブロックA:芳香族アルケニル化合物単位を80重量%以上の含有率で含有する芳香族アルケニル重合体ブロック
ブロックB:共役ジエン化合物単位と芳香族アルケニル化合物単位とを含有し、芳香族アルケニル化合物単位の含有量が10〜35重量%である共役ジエン重合体ブロック
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、小さい展開力で巻回体から繰り出すことができ、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させることがない耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム、及び、耐熱粘着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着フィルムは簡便に接合が可能なことから各種産業分野に用いられている。建築分野では養生シートの仮固定、内装材の貼り合わせ等に、自動車分野ではシート、センサー等の内装部品の固定、サイドモール、サイドバイザー等の外装部品の固定等に、電気電子分野ではモジュール組み立て、モジュールの筐体への貼り合わせ等に粘着フィルムが用いられている。より具体的には例えば、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等の部材の表面を保護するための表面保護フィルムとしても粘着フィルムが広く用いられている(例えば、特許文献1〜3)。特に、近年、表面保護フィルムは、液晶ディスプレイ用の光学部材の表面を保護するために使用されている。光学部材には、プリズムシート、拡散フィルム等のように片側又は両側の表面に凹凸形状を有するものがあり、この凹凸形状に損傷を与えないために、光学部材の使用に先立ち、その表面を表面保護フィルムで保護している。
【0003】
粘着フィルムには、用途に応じて高い粘着力が求められる。例えば、表面に凹凸形状を有する被着体に貼着する場合、大きな接触面積を得ることができず被着体と粘着フィルムとの界面で剥離が生じやすい。このような用途では、粘着フィルムに特に高い粘着力が要求される。
【0004】
一般に、粘着力を向上させるには粘着剤層における粘着付与剤の配合量を増やすことが有効である。しかしながら、粘着フィルムは、特に被着体が表面に凹凸形状を有する場合には、経時又は高温下で被着体と粘着剤層との間の接触面積が増加することによる粘着力の上昇、いわゆる粘着昂進の問題が生じることが知られている。
また、粘着フィルムは、長尺状のフィルムをロール状に巻回した巻回体として工業的に製造されていることが多い。このような巻回体とした粘着フィルムは、経時により巻回体から粘着フィルムを繰り出す際の展開力が上昇しやすいことも知られている。実用においては、小さい展開力で巻回体から容易に繰り出し可能であることが求められる。
【0005】
粘着昂進を防止し、小さい展開力で巻回体から容易に繰り出せるようにする方法としては、ブリード剤(例えば、エチレンビス−ステアリン酸アミド等)等の低分子成分や溶剤を粘着剤層に配合することが一般的である。しかしながら、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合した粘着フィルムは、被着体から剥離したときに、被着体の表面に低分子成分や溶剤が残留して汚染してしまうことがあるという問題があった。例えば、近年の光学部材を保護する表面保護フィルムには、光学部材から剥離した後に、光学部材の表面を汚染しないことが要求される。光学部材の表面が汚染されて表面張力が低下すると、表面保護フィルムを剥離した後の光学部材の表面に接着剤やハードコート剤等を塗布したときに、微小な塗布ムラが発生して、製品に組み上げた時に輝度や色ムラ不良が発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−129085号公報
【特許文献2】特開平6−1958号公報
【特許文献3】特開平8−12952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、小さい展開力で巻回体から繰り出すことができ、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させることがない耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム、及び、耐熱粘着フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材層と粘着剤層とを有する耐熱粘着フィルムであって、前記粘着剤層は、一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の架橋物を含有する耐熱粘着フィルムである。
ブロックA:芳香族アルケニル化合物単位を80重量%以上の含有率で含有する芳香族アルケニル重合体ブロック
ブロックB:共役ジエン化合物単位と芳香族アルケニル化合物単位とを含有し、芳香族アルケニル化合物単位の含有量が10〜35重量%である共役ジエン重合体ブロック
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、基材層と粘着剤層とを有する粘着フィルムにおいて、一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の架橋物を粘着剤層として用いることにより、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合することなく、被着体に貼り付ける際の密着性が高いために粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させない耐熱粘着フィルムが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物は、ブロックB中に一定の割合で芳香族アルケニル化合物単位を含有する。このようなブロック共重合体に電子線を照射すると、ブロックB中のC−Hの水素を引き抜いて架橋反応が起こり、架橋物が得られると考えられる。このような架橋物を含有することにより粘着剤層の接着昂進を抑制し、小さい展開力で巻回体から繰り出せるようにすることができるものと考えられる。
【0010】
本発明の耐熱粘着フィルムは、基材層と粘着剤層とを有する。
上記基材層は特に限定されないが、ポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。
上記ポリオレフィン樹脂は特に限定されず、従来公知のポリオレフィン樹脂を用いることができ、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂等が挙げられる。
上記ポリプロピレン樹脂として、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等が挙げられる。上記ポリエチレン樹脂として、例えば、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。なかでも、透明性、剛性、耐熱性の観点からポリプロピレン樹脂が好ましく、ホモポリプロピレン、又は、プロピレンと少なくとも1種のα−オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0011】
上記基材層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤、耐候剤、結晶核剤等の添加剤、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、エラストマー等の樹脂改質剤を含有してもよい。
【0012】
上記基材層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は25μm、好ましい上限は200μmである。上記基材層の厚さが25μm未満であると、取扱い時に耐熱粘着フィルムが折れやすくなることがある。上記基材層の厚さが200μmを超えると、上記基材層に巻きぐせが残ることがある。上記基材層の厚さのより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は188μmである。
【0013】
上記粘着剤層は、一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の架橋物を含有する。このような架橋物を含有することにより、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合することなく、粘着剤層の接着昂進を抑制し、小さい展開力で巻回体から繰り出せる耐熱粘着フィルムを得ることができる。
このような本発明の優れた効果は、上記粘着剤層中で一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を架橋することによりはじめて発揮できるものである。しかしながら、架橋後の粘着剤層は、貯蔵弾性率等により間接的に表すことは可能であっても、ブロック共重合体間の架橋状態等を直接的に特定することは極めて困難である。「一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の架橋物」を、その構造又は特性により直接特定することは、不可能であるか、又はおよそ実際的でないといわざるを得ない。従って、本発明においては、「一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の架橋物」と記載することは許容されるべきである。
【0014】
上記ブロックAで表される芳香族アルケニル重合体ブロックは、芳香族アルケニル化合物単位を80重量%以上の含有率で含有する。
上記芳香族アルケニル化合物単位は、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位であり、該芳香族アルケニル化合物として、例えば、スチレン、tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルエチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルピリジン等が挙げられる。なかでも、工業的に入手しやすいことから、スチレンが好ましい。
【0015】
上記ブロックA中の芳香族アルケニル化合物単位の含有率を80重量%以上とすることで、上記粘着剤層に適度な保持力を付与することができ、また、上記粘着剤層の熱可塑性を向上させることができ、耐熱粘着フィルムのリサイクルがより容易になる。上記ブロックA中の芳香族アルケニル化合物単位の含有率は、100重量%であってもよい。
なお、繰り返し単位の「含有率」及び「含有量」とは、その繰り返し単位が由来するモノマーに換算した重量比、即ち、全モノマーの重量に対する、その繰り返し単位が由来するモノマーの重量の比(重量%)を意味する。
【0016】
上記ブロックAは、上記芳香族アルケニル化合物単位以外の繰り返し単位を含有していてもよい。
上記芳香族アルケニル化合物単位以外の繰り返し単位として、例えば、共役ジエン化合物(例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン)、(メタ)アクリル酸エステル化合物等に由来する繰り返し単位が挙げられる。なかでも、上記芳香族アルケニル化合物との共重合性が高いことから、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0017】
上記ブロックBで表される共役ジエン重合体ブロックは、共役ジエン化合物単位と芳香族アルケニル化合物単位とを含有する。
上記共役ジエン化合物単位は、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位であり、該共役ジエン化合物として、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−オクタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−シクロヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、ミルセン、クロロプレン等が挙げられる。これらの共役ジエン化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、重合反応性が高く、工業的に入手しやすいことから、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
上記芳香族アルケニル化合物単位は、芳香族アルケニル化合物に由来する繰り返し単位であり、該芳香族アルケニル化合物として、上記ブロックAで表される芳香族アルケニル重合体ブロックに含まれるものと同様の芳香族アルケニル化合物が挙げられる。
【0018】
上記ブロックB中における芳香族アルケニル化合物単位の含有量の下限は10重量%、上限は35重量%である。上記ブロックB中における芳香族アルケニル化合物単位の含有量がこの範囲内であると、架橋物としたときにブリード剤等の低分子成分や溶剤を配合することなく粘着剤層の接着昂進を抑制し、小さい展開力で巻回体から繰り出せる耐熱粘着フィルムとすることができる。上記ブロックB中における芳香族アルケニル化合物単位の含有量の好ましい下限は13重量%、好ましい上限は33重量%である。
【0019】
上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物において、全重合体の芳香族アルケニル化合物単位の含有率は特に限定されないが、好ましい下限は10重量%、好ましい上限は65重量%である。
上記全重合体の芳香族アルケニル化合物単位の含有率が65重量%以下であると、耐熱粘着フィルムが粘着フィルムとしての適切な粘着力を発現することができる。上記全重合体の芳香族アルケニル化合物単位の含有率のより好ましい下限は13重量%、より好ましい上限は55重量%である。
【0020】
上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物において、上記ブロックAの総量と上記ブロックBの総量との重量比(A:B)は特に限定されないが、10:90〜65:35が好ましく、13:87〜55:45がより好ましい。
上記ブロックAの総量と上記ブロックBの総量との重量比(A:B)がこの範囲内であると、耐熱粘着フィルムが粘着フィルムとしての適切な粘着力を発現することができる。
【0021】
上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体としては、具体的には例えば、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン(SBBS)ブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)ブロック共重合体が挙げられる。
上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体の水素添加物としては、具体的には例えば、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)ブロック共重合体、水添スチレン−ブチレンゴム(HSBR)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン(SEPS)ブロック共重合体、スチレン−イソブチレン−スチレン(SIBS)ブロック共重合体が挙げられる。
これらのブロック共重合体又はその水素添加物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)ブロック共重合体又はその水素添加物が好適である。
【0022】
上記一般式A−B−Aで表される構造及び/又は一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体の水素添加物は、部分水素添加物であってもよく、完全水素添加物であってもよい。なかでも、より優れた耐熱性及び耐候性が得られることから、共役ジエン化合物単位の二重結合(不飽和結合)の好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が水素添加により飽和結合に変換されている水素添加物が好適である。
なお、水素添加の比率(水素添加率)は、四塩化炭素を溶媒として用い、270MHzでのH−NMRスペクトルから算出した水素添加率を意味する。
【0023】
上記一般式A−B−Aで表される構造及び/又は一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体の水素添加物を作製する方法は特に限定されず、例えば、上記ブロックAで表される芳香族アルケニル重合体ブロックを合成する工程(a)と、上記ブロックAで表される芳香族アルケニル重合体ブロックに対して、共役ジエン化合物と芳香族アルケニル化合物との混合物を重合することによりA−B構造を有するブロック共重合体を合成する工程(b)と、得られたA−B構造を有するブロック共重合体を、カップリング剤を用いてカップリング反応させてA−B−A構造を有するブロック共重合体を得る工程(c)と(上記一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体の作成においては、上記工程(c)を除く。)、上記A−B−A構造を有するブロック共重合体に対して水素添加を行う工程(d)を有する方法が挙げられる。
【0024】
上記粘着剤層は、更に、一般式A−B’−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−B’で表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有してもよい。ここでブロックB’は、共役ジエン化合物単位を含有し、芳香族アルケニル化合物単位を含有しない共役ジエン重合体ブロックである。このような一般式A−B’−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−B’で表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を併用することにより、本発明の耐熱粘着フィルムは、より高い粘着力(初期粘着力)を発揮することができる。
【0025】
上記粘着剤層が上記一般式A−B’−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−B’で表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有する場合、該一般式A−B’−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−B’で表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物の含有量の好ましい上限は40重量%である。40重量%を超えて上記一般式A−B’−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−B’で表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を配合すると、経時又は高温下で粘着力が昂進してしまったり、巻回体から繰り出すときの展開力が大きくなってしまったりすることがある。
【0026】
上記架橋物は、上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を架橋することにより得られる。
架橋の方法は特に限定されないが、簡便な操作で確実に架橋物を得ることができることから、電子線を照射する方法が好適である。
【0027】
上記粘着剤層は、更に、粘着付与剤を含有してもよい。
上記粘着付与剤は特に限定されないが、軟化点が80℃以上であることが好ましく、90〜140℃であることがより好ましい。上記粘着付与剤として、例えば、脂肪族共重合体、芳香族共重合体、脂肪族芳香族共重合体、脂環式共重合体等の石油系樹脂、クマロン−インデン系樹脂、テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、重合ロジン等のロジン系樹脂、(アルキル)フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、及び、これらの水素添加物等が挙げられる。また、ポリオレフィン樹脂との混合物として市販されている粘着付与剤を用いてもよい。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記粘着剤層の剥離性、耐候性等を高めるためには、上記粘着付与剤は、水素添加物であることが好ましい。
【0028】
上記粘着付与剤の含有量は特に限定されないが、上記混合物100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は50重量部である。上記粘着付与剤の含有量が3重量部未満であると、耐熱粘着フィルムの初期粘着力が低下したり、耐熱粘着フィルムを巻回体として保管した後に耐熱粘着フィルムの粘着力が低下したりすることがある。上記粘着付与剤の含有量が50重量部を超えると、耐熱粘着フィルムを巻回体として保管した後に巻回体から耐熱粘着フィルムを繰り出す際の展開力が上昇したり、被着体の表面から耐熱粘着フィルムを剥離する際に、被着体の表面に粘着剤が残存(糊残り)したりすることがある。上記粘着付与剤の含有量のより好ましい下限は5重量部、より好ましい上限は40重量部である。
【0029】
上記粘着剤層は、粘着力の制御等を目的に、必要に応じて、例えば、軟化剤、酸化防止剤、接着昂進防止剤等の添加剤を含有してもよい。
上記粘着剤層は、被着体を汚染する恐れがあることから、ブリード剤等の低分子成分や溶剤を含有しないことが好ましい。
【0030】
上記粘着剤層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は3μm、好ましい上限は30μmである。上記粘着剤層の厚さが3μm未満であると、上記粘着剤層の粘着力が低下することがある。上記粘着剤層の厚さが30μmを超えると、被着体の表面から耐熱粘着フィルムを剥離する際に、耐熱粘着フィルムを剥がしにくくなることがある。上記粘着剤層の厚さのより好ましい下限は5μm、より好ましい上限は20μmである。
【0031】
本発明の耐熱粘着フィルムは、表面にコロナ処理されたプラスティックフィルムの上記コロナ処理された面上に耐熱粘着フィルムを貼着し、40℃、24時間放置後に耐熱粘着フィルムを剥離したときに、貼着前後でのプラスティックフィルムのコロナ処理された表面の表面張力の変化率が35%以下であることが好ましい。上記表面張力の変化率が35%以下であると、表面に低分子成分や溶剤が残留することによる被着体の汚染が低減されていると判断できる。表面張力は、例えば、ぬれ張力試験用混合液を用いて、JIS K6768で規定された方法に基づいて測定することができる。
【0032】
本発明の耐熱粘着フィルムを製造する方法は特に限定されず、例えば、予め上記基材層と上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有する未架橋粘着剤層とを有する積層体を調製し、該積層体の未架橋粘着剤層を架橋する方法が挙げられる。
上記基材層と、上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有する未架橋粘着剤層とを有する積層体を調製する工程と、上記積層体の上記未架橋粘着剤層を架橋する工程とを有する耐熱粘着フィルムの製造方法もまた、本発明の1つである。
【0033】
上記積層体は、例えば、予めTダイ成形又はインフレーション成形にて得られた基材層上に、押出ラミネーション、押出コーティング等の公知の積層法により上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有する未架橋粘着剤層を積層する方法、基材層と上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物を含有する未架橋粘着剤層を独立してフィルムとした後、得られた各々のフィルムをドライラミネーションにより積層する方法、基材層を構成する樹脂と上記一般式A−B−Aで表される構造及び/若しくは一般式A−Bで表される構造を有するブロック共重合体又はその水素添加物とをTダイ法により共押出成形する方法等により製造することができる。
上記未架橋粘着剤層を架橋する方法としては電子線を照射する方法が好適であり、上記電子線の照射条件は特に限定されないが、加速電圧100〜300kVで20〜200kGry程度が好適である。
【0034】
本発明の耐熱粘着フィルムは、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、小さい展開力で巻回体から繰り出すことができ、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させることがない。
本発明の耐熱粘着フィルムは、表面が平滑な被着体の表面を保護するための表面保護フィルムとして用いられてもよいが、表面に凹凸形状を有する被着体の表面を保護するための表面保護フィルムとして用いたときに特に高い効果を発揮する。
本発明の耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルムもまた、本発明の1つである。
【0035】
本発明の表面保護フィルムは、光学デバイス、金属板、塗装した金属板、樹脂板、ガラス板等の部材の表面を保護するために好適に用いられる。なかでも、プリズムシート、拡散フィルム等のように片側又は両側の表面に凹凸形状を有する光学部材の保護に特に好適である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、小さい展開力で巻回体から繰り出すことができ、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させることがない耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム、及び、耐熱粘着フィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
<ブロック共重合体の合成>
(合成例1)
窒素置換された反応容器に、脱気、脱水されたシクロヘキサン500重量部、スチレン20重量部及びテトラヒドロフラン5重量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13重量部を添加して、昇温重合を行い、芳香族アルケニル重合体ブロック(ブロックA)を得た。
芳香族アルケニル重合体ブロックの重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン72重量部およびスチレン8重量部を加え、更に昇温重合を行い、共役ジエン重合体ブロック(ブロックB)を合成し、A−B構造を有するブロック共重合体を得た。
重合転化率がほぼ100%に達した後、カップリング剤としてメチルジクロロシラン0.06重量部を加え、カップリング反応を行った。カップリング反応が完結した後、水素ガスを0.4MPa−Gaugeの圧力で供給しながら10分間放置した。
その後、反応容器内に、ジエチルアルミニウムクロライド0.03重量部及びビス(シクロペンタジエニル)チタニウムフルフリルオキシクロライド0.06重量部を加え、撹拌した。水素ガス供給圧0.7MPa−Gauge、反応温度80℃で水素添加反応を開始し、水素の吸収が終了した時点で、反応溶液を常温、常圧に戻し、反応容器から抜き出すことによりブロック共重合体を得た。
【0039】
(合成例2〜5)
芳香族アルケニル化合物中のスチレン量を調整したり、共役ジエン重合体ブロック合成時に加える1,3−ブタジエンとスチレンの添加量を調整したりした以外は合成例1と同様にしてブロック共重合体を得た。
【0040】
(合成例6)
窒素置換された反応容器に、脱気、脱水されたシクロヘキサン500重量部、スチレン20重量部、1,3−ブタジエン5重量部及びテトラヒドロフラン5重量部を仕込み、重合開始温度の40℃にてn−ブチルリチウム0.13重量部を添加して、昇温重合を行い、芳香族アルケニル重合体ブロック(ブロックA)を得た。
その後、合成例1と同様にしてブロック共重合体を得た。
【0041】
(合成例7)
合成例1と同様にして芳香族アルケニル重合体ブロック(ブロックA)を得た。
芳香族アルケニル重合体ブロックの重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、エチレン36重量部、プロピレン36重量部及びスチレン8重量部を加え、更に昇温重合を行い、共役ジエン重合体ブロック(ブロックB)を合成し、A−B構造を有するブロック共重合体を得た。
【0042】
(合成例8、9)
合成例1と同様にして芳香族アルケニル重合体ブロック(ブロックA)を得た。
芳香族アルケニル重合体ブロックの重合転化率が略100%に達した後、反応液を15℃に冷却し、次いで、1,3−ブタジエン100重量部を加え、更に昇温重合を行い、共役ジエン重合体ブロック(ブロックB’)を合成し、A−B’構造を有するブロック共重合体を得た。
【0043】
合成例1〜9の性質を表1及び2に示した。
表1及び2中、「A:B」(又は「A:B’」)は、ブロックAの総量とブロックB(又はブロックB’)の総量との重量比を表し、「St(A+B)」(又は「St(A+B’)」)は、全重合体の芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(A+B)=(全重合体中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体中の全単量体単位重量)×100(重量%))を表し、「St(a)」は、ブロックAの芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(a)=(全重合体ブロックA中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体ブロックA中の全単量体単位重量)×100(重量%))を表し、「St(b)」は、ブロックB(又はブロックB’)の芳香族アルケニル化合物単位含有率(St(b)=(全重合体ブロックB中の芳香族アルケニル化合物単位重量)/(全重合体ブロックB中の全単量体単位重量)×100(重量%))を表す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
(実施例1)
粘着剤層の原料として、合成例1で得られたブロック共重合体を、ラボプラストミル二軸押出機を用いて攪拌混合し、粘着剤組成物を調製した。
基材層の原料として、ポリオレフィン樹脂(商品名「J715M」、プライムポリマー社製)を準備した。
得られた粘着剤組成物とポリオレフィン樹脂を用い、Tダイ法により共押出成形し、基材層35μm、未架橋粘着剤層5μmの積層体を得た。
【0047】
得られた積層体の未架橋粘着剤層側から、電子線照射装置(商品名「EZCure SF」、岩崎電気社製)を用いて加速電圧110kV、線量100kGyの条件で電子線を照射して、耐熱粘着フィルムを得た。
【0048】
(実施例2〜7、比較例1〜4)
粘着剤層の原料、及び、電子線照射の有無を表3に示すようにした以外は実施例1と同様にして耐熱粘着フィルムを得た。
【0049】
<評価>
実施例、比較例で得られた耐熱粘着フィルムについて、以下の評価を行った。結果を表3に示した。
【0050】
(1)初期粘着力の評価
耐熱粘着フィルムを25mm幅に裁断した。裁断した耐熱粘着フィルムをアクリル板に、室温23℃、相対湿度50%で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて300mm/minの速度で貼り付けた。30分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、耐熱粘着フィルムを300mm/minの速度で引き剥がして180度剥離強度を測定した。これを初期粘着力とし、以下の基準で評価した。
◎:初期粘着力が0.10N/25mm以上、0.30N/25mm未満
○:初期粘着力が0.05N/25mm以上、0.10N/25mm未満、又は、0.30N/25mm以上、0.45N/25mm未満
×:初期粘着力が0.05N/25mm未満、又は、0.45N/25mm以上
【0051】
(2)粘着昂進率の評価
耐熱粘着フィルムを25mm幅に裁断した。裁断した耐熱粘着フィルムをアクリル板に、室温23℃、相対湿度50%で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて300mm/minの速度で貼り付けた。次いで、2枚の厚み2mmのポリカーボネート板で耐熱粘着フィルムを貼り付けたアクリル板を挟み、6.0×10−3MPaの圧力を加え、その状態で60℃、168時間放置した。室温に取り出し60分間放置した後、JIS Z0237に準拠し、耐熱粘着フィルムを300mm/minの速度で引き剥がして180度剥離強度を測定した。これを経時粘着力とした。
初期粘着力から経時粘着力の変化率(粘着昂進率)を次式で算出し、以下の基準で評価した。
粘着昂進率=(経時粘着力/初期粘着力)×100
○:粘着昂進率が400%以下
×:粘着昂進率が400%を超える
【0052】
(3)剥離後の被着体表面の表面張力の評価
耐熱粘着フィルムをコロナ処理されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに、室温23℃、相対湿度50%で、2kgの圧着ゴムローラーを用いて300mm/minの速度で貼り付けた。その状態で40℃のオーブン中に24時間放置した。室温に取り出し60分間放置した後、耐熱粘着フィルムを剥離した。
貼付前、及び、剥離後のPETフィルムの表面の表面張力を、ぬれ張力試験用混合液を用いて、JIS K6768で規定された方法に基づいて測定し、下記式にて表面張力低下率を算出し、以下の基準で評価した。
表面張力低下率=(1―(剥離後の表面張力/貼付前の表面張力))×100
○:表面張力低下率が35%以下
×:表面張力低下率が35%を超える
【0053】
(4)巻回体からの展開力の評価
耐熱粘着フィルムを内径3インチの紙芯に巻きつけて50mm幅の巻回体を作製した。JIS Z0237に準拠し、20m/minの巻戻し速度で巻回体から耐熱粘着フィルムを巻戻し、高速巻戻し力を測定した。得られた測定値を展開力とした。
○:展開力が3.5N/50mm以下
×:展開力が3.5N/50mmを超える
【0054】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、粘着力(初期粘着力)が高い一方で経時又は高温下でも粘着力が昂進しにくく、小さい展開力で巻回体から繰り出すことができ、かつ、剥離したときに被着体の表面に低分子成分や溶剤を残留させることがない耐熱粘着フィルム、耐熱粘着フィルムからなる表面保護フィルム、及び、耐熱粘着フィルムの製造方法を提供することができる。