【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのヒートポンプ装置の制御方法は、
冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁としての第1膨張弁及び第2膨張弁と、冷媒を貯留するレシーバと、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記第1膨張弁と前記レシーバと前記第2膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置の制御方法であって、その特徴構成は、
前記第1膨張弁の開度もしくは前記第1膨張弁の開度に起因して変化する前記凝縮器と前記レシーバの間に生じる圧力差を、前記圧縮機での圧縮動力を極小化してCOPを極大化するように制御
し、
前記ヒートポンプ装置の運転条件としてのパラメータの夫々の変化率が、安定判定時間に亘って所定の安定判定割合に収まっている安定状態にあることを判定する安定判定工程と、
前記安定判定工程において前記安定状態にあると判定した場合に、前記ヒートポンプ装置の運転条件毎に、当該運転条件と前記開度もしくは前記圧力差との関係であるマップデータから現状の運転条件に対応する前記開度もしくは前記圧力差を読み出す圧力差読出工程と、
前記開度もしくは前記圧力差を前記圧力差読出工程にて読み出された値に維持した状態で、前記圧縮機での圧縮動力を算出する圧縮動力算出工程と、
前記開度もしくは前記圧力差を、前記圧縮動力算出工程にて算出された圧縮動力が極小値となりCOPが極大値となるように制御する圧力差制御工程とを有する点にある。
【0007】
上記目的を達成するためのヒートポンプ装置は、
冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記圧縮機にて圧縮した冷媒を凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器にて凝縮した冷媒を膨張させる膨張弁としての第1膨張弁及び第2膨張弁と、冷媒を貯留するレシーバと、前記膨張弁にて膨張した冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記圧縮機と前記凝縮器と前記第1膨張弁と前記レシーバと前記第2膨張弁と前記蒸発器とに記載の順に冷媒を循環する冷媒循環路とを備えるヒートポンプ装置であって、その特徴構成は、
前記第1膨張弁の開度もしくは前記第1膨張弁の開度に起因して変化する前記凝縮器と前記レシーバの間に生じる圧力差を、前記圧縮機での圧縮動力を極小化してCOPを極大化するように制御する圧力差制御部
と、
前記ヒートポンプ装置の運転条件としてのパラメータの夫々の変化率が、安定判定時間に亘って所定の安定判定割合に収まっている安定状態にあることを判定する安定判定部と、
前記安定判定部において前記安定状態にあると判定した場合に、前記ヒートポンプ装置の運転条件毎に、当該運転条件と前記開度もしくは前記圧力差との関係であるマップデータから現状の運転条件に対応する前記開度もしくは前記圧力差を読み出す圧力差読出部と、
前記開度もしくは前記圧力差を前記圧力差読出部にて読み出された値に維持した状態で、前記圧縮機での圧縮動力を算出する圧縮動力算出部とを有し、
前記圧力差制御部が、前記開度もしくは前記圧力差を、前記圧縮動力算出部にて算出された圧縮動力が極小値となりCOPが極大値となるように制御する点にある。
【0008】
本発明の発明者らは、膨張弁として第1膨張弁と第2膨張弁とを備えると共にレシーバを有するヒートポンプ装置において、「第1膨張弁における開度もしくはその開度に起因して生じる凝縮器と前記レシーバの間に生じる圧力差(以下、「第1膨張弁前後の圧力差」と記載する場合がある)の制御」により、ヒートポンプ装置の圧縮動力が極小値を取りCOPが極大値を取り得る形で変化するという知見を見出し、発明を完成するに至ったものである。
以下、
図2に基づいて、説明を追加する。尚、
図2では、「第1膨張弁前後の圧力差」が小さい場合(
図2のPh線図で鎖線)から大きい場合(
図2のPh線図で実線)へ変化する状況について説明する。因みに、以下では、蒸発器での冷却能力(例えば、冷房運転における冷房能力)のCOPを極大化できる理由について説明する。尚、説明の簡略化のため、配管や熱交換器で生じる圧力損失は、ここでは考慮しないこととする。
図1に示すレシーバを有するヒートポンプ装置においては、想定される種々の運転条件において、レシーバに液位が存在するように冷媒が充填される。このようにレシーバに液位が存在する場合は、
図2に示すように、レシーバには飽和液状態の冷媒が出入りするため、レシーバでの冷媒はPh線図上で常に飽和液線上に位置する。そのため、凝縮器とレシーバとの間の「第1膨張弁前後の圧力差(
図2のdP)」を大きくした場合、凝縮器出口の冷媒温度、即ちレシーバでの冷媒温度となる飽和液温度(レシーバでの冷媒の飽和液の圧力)が低下しその比エンタルピが減少する現象と、凝縮器出口の冷媒圧力が増加する現象の2つが生じる可能性があると考えられる。
【0009】
前者では、蒸発器に導入される比エンタルピが減少(
図2のΔh)するため、蒸発器での冷却能力(比エンタルピ差)は、「第1膨張弁前後の圧力差」を増加前の冷却能力をdh
1とし、「第1膨張弁前後の圧力差」を増加後の冷却能力をdh
2とすると、以下の(式1)で表される。
dh
2=dh
1+Δh・・・(式1)
【0010】
一方、後者では、凝縮圧力が増加(
図2のΔP
c)し、それに応じて圧縮機での圧縮仕事(比エンタルピ差)が増加(
図2のΔw)するため、圧縮機での圧縮仕事(比エンタルピ差)は、「第1膨張弁前後の圧力差」を増加前の圧縮仕事をdw
1とし、「第1膨張弁前後の圧力差」を増加後の圧縮仕事をdw
2とすると、以下の(式2)で表される。
dw
2=dw
1+Δw・・・(式2)
【0011】
ここで、冷却能力(冷房運転時)のCOP
cは、以下の式で表される。
COP
c=dh
2/dw
2・・・(式3)
【0012】
当該COP
cは、「第1膨張弁前後の圧力差」が大きくなると、COP
cの増加に繋がるdh
2としてのΔhが増大する一方、COP
cの減少に繋がるdw
2としてのΔwが増大するため、両者はトレードオフの関係にあり、COP
cに極大値が存在すると推定できる。凝縮器出口の冷媒温度は外気温度までが理論的な下限となるため、Δhには上限が存在する。一方、ヒートポンプ装置の耐圧の制限がないとすればΔP
cには上限の制約はない。そのため、ΔP
cに相関して大きくなるΔwが、Δh×dw
1/dh
1以上に増加すると、COP
cの向上効果はなくなると考えられる。
尚、加熱能力(例えば、暖房運転における暖房能力)のCOP
hについては、説明を省略するが、冷房運転時のCOP
cと同様の理由にて、「第1膨張弁前後の圧力差」を変化させた場合に極大値が発生する。
【0013】
前記の補足であるが、「第1膨張弁前後の圧力差」を増加させると、同じ空調(冷房)能力の場合であれば、蒸発器での比エンタルピ差が増加するため、冷媒循環量は減少する。そのため、COPに極大値が発生する条件では、圧縮仕事(比エンタルピ差)と冷媒循環量の積である圧縮動力自体は極小値となる。
また、冷媒循環量が減少すると、蒸発器や凝縮器の熱交換面積が相対的に増えることになるため、蒸発圧力は増加し、凝縮圧力は低下する特性がある。ただし、蒸発ではより液に近く比エンタルピが小さい(乾き度が小さい)状態から蒸発させる必要があり、また凝縮ではより過冷却度がついた比エンタルピが小さい状態まで凝縮させる必要があるため、各々の圧力については逆の影響となる。実際には蒸発器や凝縮器での伝熱現象を考慮した蒸発圧力および凝縮圧力で運転されることとなる。
因みに、冷媒循環量が減少すると、室内機と室外機を連結する配管等(特にガス管)で生じる圧力損失が減少するため、実際にはCOPが更に向上する効果も期待できる。
【0014】
詳細については後述するが、
図4(a)、
図5(a)、
図6(a)に示すように、熱交換器での伝熱特性等を考慮した計算では、負荷や外気温度に関わらず、「第1膨張弁前後の圧力差」を変化させた場合に、COP
cに極大値が発生することが確かめられた。
以上より、第1膨張弁前後の圧力差の具体的な制御による、圧縮動力を極小化してCOPを極大化し得るヒートポンプ装置の制御方法、及びヒートポンプ装置を実現できる。
【0015】
ヒートポンプ装置の制御方法の更なる特徴構成は、
前記ヒートポンプ装置の運転条件毎に、当該運転条件と前記開度もしくは前記圧力差との関係であるマップデータから、現状の運転条件に対応した前記開度もしくは前記圧力差を読み出し、現状の運転条件に対応した前記圧縮機での圧縮動力を算出し、当該圧縮動力を極小化してCOPを極大化するように、前記開度もしくは前記圧力差を制御する点にある。
【0016】
さて、第1膨張弁における開度もしくはその開度に起因して生じる凝縮器とレシーバの間に生じる圧力差は、圧縮機の回転数、外気温度、室内温度(室内機吸い込み空気温度)、室内機運転負荷率(室外機定格容量に対する運転している室内機の合計容量の比率)、凝縮圧力、蒸発圧力、過冷却度(凝縮器出口)、過熱度(圧縮機入口)、室外機ファン回転数等の運転条件に基づいて決定されるものである。
そこで、本発明にあっては、これらの運転条件と、第1膨張弁前後の圧力差(第1膨張弁における開度、及びその開度に起因して生じる凝縮器と前記レシーバの間に生じる圧力差を意味する概念)との関係を記憶するマップデータから、現状の運転条件に対応した第1膨張弁前後の圧力差を読み出し、更に、取得した運転条件に対応した圧縮動力を算出し、第1膨張弁前後の圧力差を、算出した圧縮動力が極小となりCOPが極大となるように制御するのである。
尚、記憶されるマップデータの運転条件は、離散的に記憶することができ、現状の運転条件が、離散的に記憶された条件の間の条件である場合、両者の間の値が補間計算され、現状の運転条件に対応した第1膨張弁前後の圧力差が算出され読み出される。
【0018】
ヒートポンプ装置の制御方法の更なる特徴構成は、
前記圧力差制御工程では、前記開度もしくは前記圧力差に対応する圧縮動力と、現状の前記開度もしくは前記圧力差を所定変化量だけ変化させた後の圧縮動力とを比較し、小さい方の圧縮動力に対応する前記開度もしくは前記圧力差を、現状の前記開度もしくは前記圧力差とする処理を連続して実行する局所探索法により、圧縮動力を極小化してCOPを極大化する前記開度もしくは前記圧力差を導出する点にある。
【0019】
本発明の発明者らは、これまで説明してきたように、膨張弁として第1膨張弁と第2膨張弁とを備えると共にレシーバを備えたヒートポンプ装置が、第1膨張弁前後の圧力差の最適化により、圧縮動力が極小値を有し、COPが極大値を有することを、新たに見出した。
そこで、圧力差制御工程において上述したような局所探索法を実行することにより、圧縮動力を極小化してCOPを極大化する圧力差を良好に導出することができる。
尚、この場合、学習制御を合わせて適用することも可能である。
【0020】
ヒートポンプ装置の制御方法の更なる特徴構成は、
前記安定判定工程と前記圧力差読出工程と前記圧縮動力算出工程と前記圧力差制御工程とを、前記ヒートポンプ装置の運転時にリアルタイムに実行する形態で、前記開度もしくは前記圧力差を制御する点にある。
【0021】
第1膨張弁前後の圧力差を制御する場合、前記の運転条件が経時的に変化すると、制御された圧力差においてCOPが適切に極大値にならない可能性がある。
そこで、上記特徴構成にあっては、安定判定工程と圧力差読出工程と前記圧縮動力算出工程と圧力差制御工程とを、ヒートポンプ装置の運転時にリアルタイムに実行することで、圧縮動力が適切に極小値を維持(COPが適切に極大値を維持)するように、第1膨張弁前後の圧力差を制御することができるのである。