特許第6849303号(P6849303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許68493032液型接着剤及びその硬化物を含む構造体
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  • 特許6849303-2液型接着剤及びその硬化物を含む構造体 図000014
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6849303
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】2液型接着剤及びその硬化物を含む構造体
(51)【国際特許分類】
   C09J 4/02 20060101AFI20210315BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210315BHJP
   B32B 25/20 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C09J4/02
   C09J11/06
   B32B25/20
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-159489(P2015-159489)
(22)【出願日】2015年8月12日
(65)【公開番号】特開2017-36409(P2017-36409A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年8月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】入江 慎一
【審査官】 高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−517594(JP,A)
【文献】 米国特許第05310835(US,A)
【文献】 国際公開第99/064528(WO,A1)
【文献】 特表2015−512977(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0178520(US,A1)
【文献】 特開平06−093235(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0267670(US,A1)
【文献】 特開平05−098216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシエチルメタクリレートと、テトラヒドロフルフリルメタクリレートとを含む主剤、及び
オルガノボランを含む開始剤
からなる2液型接着剤であって、前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記フェノキシエチルメタクリレートを60〜95質量%含み、前記主剤の重合性成分の親フッ素性が0.2〜1.2であり、前記主剤の重合性成分の親フッ素性(φblend)が、
φblend=Σ(X・φ
(式中、Xは重合性成分の全質量に対する個々のモノマーの質量分率であり、φは個々のモノマーの親フッ素性である。)で定義される、2液型接着剤。
【請求項2】
前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記テトラヒドロフルフリルメタクリレートを5〜40質量%含む、請求項1に記載の2液型接着剤。
【請求項3】
前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記フェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートを合計して95質量%又はそれより多く含む、請求項1又は2のいずれかに記載の2液型接着剤。
【請求項4】
前記主剤が、アルキル部位の炭素数が5以上の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートを含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の2液型接着剤。
【請求項5】
シリコーンゴム基材の接着に使用される請求項1〜4のいずれか一項に記載の2液型接着剤。
【請求項6】
第1のシリコーンゴム基材と、
第2の基材と、
請求項1〜5のいずれか一項の2液型接着剤の硬化物と
を含む、構造体であって、前記2液型接着剤の硬化物を介して前記第1のシリコーンゴム基材と前記第2の基材とが接合されてなる構造体。
【請求項7】
前記第2の基材がシリコーンゴム、フッ素樹脂又は金属を含む、請求項6に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、2液型接着剤及びその硬化物を含む構造体に関し、特に、シリコーンゴムなどを含む難接着性基材用の反応性2液型接着剤及びその硬化物を含む構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゴムなどの難接着性基材を接着剤により接着するために効率的で有効な手段が必要とされている。
【0003】
これらの難接着性基材を接着する場合、火炎処理、イトロ処理、コロナ放電、プラズマ処理、オゾン又は酸化性の酸による酸化、スパッタエッチングなどの表面処理を必要とすることが多い。高表面エネルギー材料を含むプライマーを用いて難接着性基材の表面を被覆してもよいが、プライマーを十分に付着させるために上記表面処理を必要とすることがある。このように、難接着性基材の接着は複雑かつ高価な処理を必要とすることが多く、そのような処理を施しても十分な接着力が得られない場合もある。
【0004】
空気又は酸素の存在下で作用する好気性開始剤であるオルガノボランを含む開始剤(硬化剤)と(メタ)アクリルモノマーを含む主剤とから構成される反応性2液型接着剤は、ポリプロピレンなどの難接着性基材に対して優れた接着力を示すことが知られている。
【0005】
特許文献1(特表2002−517594号公報)には、「第1のエチレン性不飽和モノマー、及び第2のエチレン性不飽和モノマー、を含むモノマーブレンドを含む、好気性開始剤と共に使用するための重合性組成物であって、該モノマーブレンドが、少なくとも約160℃の平均沸点、及び少なくとも3.25の平均のモノマーの親フッ素性を有すると共に、重合して少なくとも約−20℃のガラス転移温度を有するポリマーとなることができる重合性組成物」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−517594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリコーンゴムは、耐熱性、耐寒性、耐薬品性、耐候性、電気絶縁性などに優れており、その機械的特性の温度依存性が低い、すなわち比較的広い温度範囲にわたって機械的特性の変化が小さいことから、寒冷地及び酷暑地での使用にも適している。そのため、シリコーンゴムは一般的な高分子エラストマーを適用することができない、様々な特殊な用途に好適に用いられている。しかしながら、シリコーンゴム基材の接着を、シリコーンゴムに類似する化学的性質を有する材料、例えばアクリル変性シリコーン樹脂などの特殊な材料を含む接着剤を用いずに行うことは難しかった。
【0008】
本開示は、室温付近の幅広い温度範囲で接着可能であり、シリコーンゴムなどを含む難接着性基材に対して優れた接着強度を示す2液型接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施態様によれば、フェノキシエチルメタクリレートと、テトラヒドロフルフリルメタクリレートとを含む主剤、及びオルガノボランを含む開始剤からなる2液型接着剤であって、前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記フェノキシエチルメタクリレートを約60〜約95質量%含む、2液型接着剤が提供される。
【0010】
本開示の別の実施態様によれば、第1のシリコーンゴム基材と、第2の基材と、上記2液型接着剤の硬化物とを含む、構造体であって、前記2液型接着剤の硬化物を介して前記第1のシリコーンゴム基材と前記第2の基材とが接合されてなる構造体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、室温付近の幅広い温度範囲で接着可能であり、難接着性基材、特にシリコーンゴム基材に対して優れた接着強度を示す2液型接着剤を得ることができる。
【0012】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一実施態様の構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的でより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。
【0015】
本開示における「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は「メタクリル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」又は「メタクリレート」を意味する。
【0016】
本開示における「重合性成分」とは、主剤に含まれるフェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートに加えて、必要に応じて主剤及び/又は開始剤に含まれる、他の(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマー、他の重合性のモノマー又はオリゴマー、その他フェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートと反応又は重合可能な成分を意味する。「重合性成分」が質量部に関して用いられるときは、これらの成分の合計量を意味する。
【0017】
本開示の一実施態様の2液型接着剤は主剤及開始剤からなる。主剤はフェノキシエチルメタクリレートと、テトラヒドロフルフリルメタクリレートとを含む。開始剤は好気性開始剤であるオルガノボランを含む。2液型接着剤の主剤は、重合性成分の質量を基準として、フェノキシエチルメタクリレートを約60〜約95質量%含む。重合性成分として、アクリレートよりも重合反応性の低いフェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートを使用して重合速度を制御することにより、接着剤を基材に十分に浸透させつつ、ポリマーの重合度を上げて接着剤硬化物に必要な凝集力を付与することができる。いかなる理論に拘束されるわけではないが、本開示の2液型接着剤の難接着性基材に対する接着力は、基材内部に浸透した接着剤のアンカー(投錨)作用によるものと考えられている。特に、シリコーンゴム基材はその表面が比較的軟らかいことから、アンカー作用を利用した接着を行うことが難しいと考えられていたが、フェノキシエチルメタクリレートとテトラヒドロフルフリルメタクリレートの組み合わせを必須成分として含む本開示の2液型接着剤は、難接着性基材、特にシリコーンゴム基材への浸透力に優れており、高い接着強度を発揮することができる。
【0018】
いくつかの実施態様において、主剤は、重合性成分の質量を基準として、フェノキシエチルメタクリレートを約65質量%以上、又は約70質量%以上、約90質量%以下、又は約85質量%以下含む。フェノキシエチルメタクリレートの含有量を上記範囲とすることにより、硬化温度の範囲を室温付近でより広げつつ高い接着力を得ることができる。
【0019】
フェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートは沸点が高い(フェノキシエチルメタクリレート:270℃、テトラヒドロフルフリルメタクリレート:225℃)ことから作業時の臭気発生を防止又は抑制することができる。
【0020】
いくつかの実施態様において、主剤は、重合性成分の質量を基準として、テトラヒドロフルフリルメタクリレートを約5質量%以上、約10質量%以上、又は約20質量%以上、約40質量%以下、約35質量%以下、又は約30質量%以下含む。テトラヒドロフルフリルメタクリレートの含有量を上記範囲とすることにより、硬化温度の範囲を室温付近でより広げつつ高い接着力を得ることができる。
【0021】
主剤は、任意成分として、さらに他の(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーを含んでもよい。そのような(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーとして、例えば、アルキル部位の炭素数が1〜約12、1〜約8、又は1〜約4の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート;ヘテロ原子を含む一価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、例えば2−エトキシエチル(メタ)アクリレート;多価アルコールと(メタ)アクリル酸との部分又は完全エステル、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エトキシル化若しくはプロポキシル化ジフェニロールプロパン、ヒドロキシ末端ポリウレタンの(メタ)アクリル酸エステル、脂肪族ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリルモノマー又はオリゴマーを使用する場合、重合性成分の質量を基準として、例えば、約0.1質量%以上、約1質量%以上、又は約2質量%以上、約20質量%以下、約10質量%以下又は約5質量%以下の量で使用される。
【0022】
炭素数の大きい直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートは、それらのホモポリマーの低Tgに起因して、接着剤硬化物の凝集力及び界面接着力を低下させる場合があることから、いくつかの実施態様では、主剤はアルキル部位の炭素数5以上の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートを含まない。
【0023】
主剤は、任意成分として、さらに他の重合性モノマー又はオリゴマー、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、フッ化ビニル、臭化ビニル、スチレン、ジビニルベンゼン、クロトン酸エステル、マレイン酸エステル、スチレン化不飽和ポリエステル樹脂、N,N−ジメチルアクリルアミド、及びN,N−ジエチルアクリルアミド、N−t−ブチルアクリルアミド、N−(アクリロイル)モルホリン、N−(アクリロイル)ピペリジンなどの窒素含有重合性モノマー、並びにそれらの組み合わせを含んでもよい。これらの重合性モノマー又はオリゴマーを、接着剤硬化物の所望の特性に顕著に影響を及ぼさない量で使用することができる。
【0024】
いくつかの実施態様では、主剤は、重合性成分の質量を基準として、フェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートを合計して約95質量%又はそれより多く、約97質量%以上、又は約99質量%以上含む。ある実施態様では、重合性成分は、フェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートからなる。
【0025】
いくつかの実施態様では、主剤の重合性成分の親フッ素性は、約0.1以上、約0.3以上、又は約0.5以上、約1.4以下、約1.2以下、又は約1.0以下である。一般に、主剤の重合性成分の親フッ素性が高い、すなわち主剤の重合性成分の極性が低いことが、低表面エネルギー基材の表面への接着剤の濡れ及び浸透に有利であると考えられていたが、予想外にも、本開示のこれらの実施態様の接着剤は、主剤の重合性成分の親フッ素性が極めて低いにも拘わらず、フッ素樹脂、シリコーンゴムなどの低表面エネルギー基材、特にシリコーンゴム基材に対して優れた接着力を発揮する。
【0026】
重合性成分の親フッ素性は、重合性成分を構成する個々のモノマーの親フッ素性を決定し、式:φblend=Σ(X・φ)(式中、φblendは重合性成分の親フッ素性であり、Xは重合性成分の全質量に対する個々のモノマーの質量分率であり、φはその個々のモノマーの親フッ素性である。)を用いて計算することができる。個々のモノマーの親フッ素性は、全フッ素化オクタン(商品名FLUORINERT(登録商標)FC−75、3M Company、米国ミネソタ州セントポール)、及び1H,1H−ペルフルオロオクチルメタクリレート(商品名FOMA、Polysciences,Inc.、米国ペンシルベニア州ウォーリントン)を様々な比率で含むフルオロカーボンブレンドに対する、そのモノマーの混和性によって決定される。具体的には、0.5mLのモノマー及び1mLのフルオロカーボンブレンドを調製し、約2時間、室温(約22〜約25℃)で放置する。目視で確認できる全体の相分離が室温(約22〜約25℃)で生じるか否かによって「混和性」を決定する。表Iに、親フッ素性の等級、及びその等級に対応するフルオロカーボンブレンドの組成を示す。表IIに、個々のモノマーの代表的な親フッ素性の値を、それらのホモポリマーのおよそのガラス転移温度Tg(℃)及び沸点(℃)と一緒に示す。
【0027】
【表I】
【0028】
【表II】
【0029】
開始剤はオルガノボランを含む。オルガノボランは、重合性を有するモノマーのフリーラジカル重合を開始して、接着剤として機能するのに必要なポリマーを生成する。オルガノボランは以下の一般式:
【化1】
によって表すことができる。式中、Rは炭素数1〜約10のアルキル基であり、R及びRは、同じでも異なってもよく、独立に炭素数1〜約10のアルキル基、及び炭素数6〜10のアリール基から選択される。好ましくは、R、R、及びRは独立に、1〜約5個の炭素原子を有するアルキル基から選択される。R、R、及びRは全て異なってもよく、R、R、及びRの中の2つ以上が同じであってもよい。R、R、及びRと、これらが結合しているホウ素原子(B)とが1つになって開始剤が形成される。具体的なオルガノボランとして、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボラン、及びトリ−sec−ブチルボランが挙げられる。
【0030】
オルガノボランは錯化剤と錯形成することにより安定化することができる。オルガノボラン錯体は以下の一般式:
【化2】
で表すことができる。式中、R、R、及びRは前述のとおりであり、Cxは錯化剤である。
【0031】
有用な錯化剤(Cx)として、例えば、アミン錯化剤、アミジン錯化剤、水酸化物錯化剤、及びアルコキシド錯化剤が挙げられる。錯体中のホウ素原子の錯化剤(Cx)に対する比率は「v」で表され、好ましくは錯化剤及びホウ素原子が効果的な比率となるように選択される。錯体中のホウ素原子と錯化剤の錯形成部位の比率は好ましくは約1:1である。ホウ素原子と錯化剤の錯形成部位の比率が1:1を超える、すなわちホウ素原子が錯化剤の錯形成部位に対して過剰量となると、自然発火性を有する傾向がある遊離のオルガノボランが生じる場合がある。
【0032】
アミン錯化剤として、少なくとも1つのアミノ基を有する種々の化合物又はそれらの混合物を使用することができる。アミン錯化剤はモノアミン又はポリアミン(すなわち、2以上のアミノ基、例えば2〜4のアミノ基を有する化合物)であってもよい。ポリアミンは複数のアミノ基がそれぞれ錯形成部位として機能しうることから、ポリアミン1分子に対して2分子以上のオルガノボランが錯形成することができる。
【0033】
ある実施態様では、アミン錯化剤は、第1級又は第2級のモノアミンである。そのようなモノアミンとして、例えば、アンモニア、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミン、モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、及びポリオキシアルキレンモノアミン(例えば、JEFFAMINE(商標)M715及びM2005、Huntsman PetroChemical Corp.、米国テキサス州バーモントから入手可能)が挙げられる。
【0034】
別の実施態様では、アミン錯化剤はポリアミンである。そのようなポリアミンとして、アルカンジアミン、例えば1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,5−ペンタジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、及び3−メチル−1,5−ペンタンジアミン;アルキルポリアミン、例えばトリエチレンテトラアミン及びジエチレントリアミン;ポリオキシアルキレンポリアミン、例えばポリエチレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドトリアミン、ジエチエングリコールジプロピルアミン、トリエチレングリコールジプロピルアミン、ポリテトラメチレンオキシドジアミン、ポリ(エチレンオキシド−co−プロピレンオキシド)ジアミン、及びポリ(エチレンオキシド−co−プロピレンオキシド)トリアミン;並びにこれらの異性体が挙げられる。
【0035】
アミジン錯化剤として、例えば国際公開第01/32717号に記載されているものを使用することができる。そのようなアミジン錯化剤として、例えばN,N,N’,N’−テトラメチルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾリン、及び4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジンが挙げられる。
【0036】
水酸化物錯化剤及びアルコキシド錯化剤として、例えば国際公開第01/32716号に記載されているものを使用することができる。そのような水酸化物錯化剤及びアルコキシド錯化剤として、例えば一般式:Mm+(R(式中、Rは独立に、水素又は有機基(例えば、アルキル基又はアルキレン基)から選択され、Mm+は、対陽イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、テトラアルキルアンモニウム、又はそれらの組み合わせ)を表し、mは1以上の整数であり、nは1以上の整数である。)で表されるものが挙げられる。
【0037】
オルガノボラン錯体は、公知の技術を使用して容易に調製することができる。一般に、錯化剤をオルガノボランと不活性雰囲気中で撹拌しながら混合する。発熱が観察されることが多いため、混合物を冷却する、及び/又はオルガノボランをゆっくりと錯化剤に添加することが望ましい。成分の蒸気圧が高い場合、約70℃〜80℃より低い反応温度に維持することが望ましい。材料を十分に混合してから錯体を室温まで冷却する。特殊な保存条件は必要としないが、冷暗所で封をした容器中に錯体を保存することが好ましい。
【0038】
オルガノボランは、主剤の重合性のモノマーが所望の重合度のポリマーを生成して、接着剤硬化物が所望の特性を有するのに有効な量で使用される。オルガノボランの量が少なすぎると、重合が完全に進行せず接着剤硬化物の接着性が不十分となる場合がある。一方、オルガノボランの量が多すぎると、重合の進行が急速すぎて作業に必要な可使時間が確保できない場合があり、あるいは、得られるポリマーの重合度が低くなり、接着に必要な凝集力が得られない場合がある。
【0039】
オルガノボランの使用量は、接着剤の全質量(主剤及び開始剤を合計した質量)から充填材、非反応性希釈剤、及びその他の非反応性材料を引いた質量を基準とし、オルガノボランをホウ素として換算したときに、一般に約0.003質量%以上、約1.5質量%以下、好ましくは約0.008質量%以上、約0.5質量%以下、より好ましくは約0.01質量%以上、約0.3質量%以下となる量である。本開示において、オルガノボランに対する「非反応性」とは、引き抜き可能な水素原子又は不飽和結合が存在しない材料又は成分について用いられる。接着剤中のホウ素の質量%は、次式:
【数1】
により計算することができる。
【0040】
開始剤は、オルガノボラン錯体を溶解又は希釈するために、アジリジン化合物などの適当な希釈剤又はそれらの組み合わせを含んでもよい。このような希釈剤は、例えば国際公開第98/17694号に記載されている。希釈剤は、オルガノボラン又はオルガノボラン錯体に対して反応性ではなく、オルガノボラン又はオルガノボラン錯体の増量剤として機能する。
【0041】
希釈剤として使用されるアジリジン化合物は、例えば、メチル、エチル又はプロピルアジリジン部分を形成するようにその炭素原子が任意に短鎖アルキル基(例えば、炭素数1〜約10の有機基、好ましくはメチル、エチル又はプロピル)によって置換されていてもよい、少なくとも1つのアジリジン環又は基を有する。いくつかの実施態様ではアジリジン化合物はポリアジリジンである。
【0042】
有用な市販のポリアジリジンの例として、商品名CX−100(DSM、オランダ国ヘールレンより入手可能)などが挙げられる。
【0043】
アジリジン化合物はオルガノボラン錯体に可溶性であることが有利であり、このようなアジリジン化合物を用いて保管性に優れた2液型接着剤を提供することができる。アジリジン化合物は主剤に含まれるモノマーに可溶性であることが有利であり、このようなアジリジン化合物を用いて均一な混合物を容易に形成することができ、接着剤の作業性を向上することができる。アジリジン化合物の使用量は、一般に、接着剤の全質量を基準として、約50質量%以下、好ましくは約25質量%以下、より好ましくは約10質量%以下である。オルガノボラン錯体は、相当量(例えば、約75質量%以上、最高で約100質量%)がアジリジン化合物に溶解していてもよい。
【0044】
オルガノボラン錯体を開始剤に含む場合、主剤は脱錯化剤をさらに含む。本開示において「脱錯化剤」とは例えば、錯化剤中のアミノ基、アミジン基、水酸化物基又はアルコキシド基と反応することにより、オルガノボランを錯化剤から解離させることができる化合物を意味する。脱錯化剤によって主剤に含まれる重合性のモノマーの反応を開始することができる。
【0045】
オルガノボランがアミン錯化剤と錯形成する場合、好適な脱錯化剤はアミン反応性化合物である。有用なアミン反応性化合物の一般的な種類として、酸、酸無水物、アルデヒド、及びβ−ケトン化合物が挙げられる。アミン反応性化合物として、イソシアネート、酸塩化物、塩化スルホニルなど、例えばイソホロンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、及び塩化メタクリロイルなどを使用することもできる。
【0046】
有用な酸として、ルイス酸(例えば、SnCl、TiClなど)、及びブレンステッド酸(例えば、炭素数1〜約8の直鎖若しくは分岐の飽和若しくは不飽和アルキル基を有する脂肪族カルボン酸、又は置換若しくは非置換の炭素数6〜10の芳香環を有する芳香族カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、酢酸、安息香酸、及びp−メトキシ安息香酸、塩酸、硫酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ケイ酸など)が挙げられる。シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などのジカルボン酸;及び1,2−エチレンビスマレエート、1,2−プロピレンビスマレエート、2,2’−ジエチレングリコールビスマレエート、2,2’−ジプロピレングリコールビスマレエート、トリメチロールプロパントリマレエートなどのカルボン酸エステルを使用することもできる。
【0047】
アミン反応性化合物として鎖状又は環状の酸無水物を使用することもできる。酸無水物にフリーラジカル重合性基、例えばエチレン性不飽和基が存在すると、主剤に含まれる重合性のモノマーとの共重合が可能な場合がある。有用な酸無水物として、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸などが挙げられる。
【0048】
有用なアルデヒドとして、例えば、ベンズアルデヒド、o−、m−、及びp−ニトロベンズアルデヒド、2,4−ジクロロベンズアルデヒド、p−トリルアルデヒド、3−メトキシ−4−ヒドロキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。アセタールなどでブロックされたアルデヒドも使用することができる。
【0049】
有用なβ−ケトン化合物として、例えば国際公開第2003/057743号に記載されたものを使用することができる。このようなβ−ケトン化合物として、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸t−ブチル、アセト酢酸2−メタクリロイルオキシエチル、ジエチレングリコールビス(アセトアセテート)、ポリカプロラクトントリス(アセトアセテート)、プロピレングリコールビス(アセトアセテート)、ポリ(スチレン−co−アリルアセトアセテート)、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルアセトアセトアミド、アセトアセトアニリド、エチレンビス(アセトアセトアミド)、プロピレングリコールビス(アセトアセトアミド)、アセトアセトアミド、アセトアセトニトリルなどを使用することができる。
【0050】
脱錯化剤は、有効量、すなわち錯化剤からオルガノボランを解離させて重合を促進するために有効であるが、接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えない量で使用される。当業者には理解できるように、脱錯化剤の使用量が多すぎると、重合の進行が急速すぎて作業に必要な可使時間が確保できない場合があり、あるいは、得られるポリマーの重合度が低くなり、接着に必要な凝集力が得られない場合がある。一方、脱錯化剤の使用量が少なすぎると、重合が完全に進行せず接着剤硬化物の接着性が不十分となる場合がある。脱錯化剤は、一般に、脱錯化剤中のアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、又はアルコキシド反応性基と、錯化剤中のアミノ基、アミジン基、水酸化物基、又はアルコキシド基とのモル比率が0.1:1.0〜10.0:1.0の範囲となる量で使用され、好ましくは脱錯化剤中のアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、又はアルコキシド反応性基と、錯化剤中のアミノ基、アミジン基、水酸化物基、又はアルコキシド基とのモル比率が0.2:1.0〜4.0:1.0の範囲、又は約1.0:1.0となる量で使用される。
【0051】
主剤及び/又は開始剤は、接着剤の硬化動力学を調整して可使時間及び重合速度の好適なバランスを提供することができる、少なくとも1種類の金属塩を含んでもよい。
【0052】
金属塩の金属陽イオンとして、例えばバナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、アンチモン、白金、及びセリウムの陽イオンが挙げられる。金属陽イオンの中でも、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、パラジウム、及びアンチモンの陽イオンが好ましく、低コスト、高活性、及び良好な加水分解安定性のため、マンガン、鉄、コバルト、及び銅の陽イオンがより好ましく、銅及び鉄の陽イオンがさらにより好ましい。金属陽イオンは、水、アンモニア、アミンなどのσ電子供与性配位子、又はカルボニル(一酸化炭素)、イソニトリル類、ホスフィン類、ホスフィット類、アルシン類、ニトロシル(酸化窒素)、エチレンなどのπ電子供与性配位子を有していてもよい。
【0053】
金属塩の対イオン(陰イオン)として、例えば、ハロゲン化物イオン、ホウ酸イオン、スルホン酸イオン、及びカルボン酸イオンが挙げられ、塩化物イオン、臭化物イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ナフテン酸イオン、及び2−エチルヘキサン酸イオンが好ましい。
【0054】
好適な金属塩の例として、臭化銅(II)、塩化銅(II)、2−エチルヘキサン酸銅(II)、臭化鉄(III)、臭化バナジウム(III)、臭化クロム(III)、臭化ルテニウム(III)、テトラフルオロホウ酸銅(II)、トリフルオロメタンスルホン酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)、臭化銅(I)、臭化鉄(II)、臭化マンガン(II)、臭化コバルト(II)、臭化ニッケル(II)、臭化アンチモン(III)、及び臭化パラジウム(II)が挙げられる。
【0055】
金属塩は有効量、すなわち接着剤の硬化動力学には影響を与えるが、接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えない量で使用される。金属塩は、一般に接着剤の全質量を基準として最大約40,000ppmであり、好ましくは約60ppm以上、約20,000ppm以下、より好ましくは約100ppm以上、約4,000ppm以下である。金属塩は主剤に対して溶解性である、あるいは使用中の接着剤に対して少なくとも部分的に溶解することが有利である。
【0056】
本開示の2液型接着剤は、さらに任意の添加剤を含んでもよい。このような添加剤は一般に主剤に加えられるが、開始剤の機能を損なわない限り開始剤に加えることもできる。
【0057】
有用な添加剤の1つは、分子量約10,000〜約40,000のポリブチルメタクリレートなどの増粘剤である。増粘剤を用いることにより、接着剤の粘度をより塗布性に優れた粘性のシロップのような稠度に増大させることができる。このような増粘剤は接着剤の全質量に対して一般に約50質量%以下の量で使用することができる。
【0058】
他の有用な添加剤はエラストマー材料である。エラストマー材料は接着剤硬化物の破壊靭性を改善することができる。例えば、剛性の高降伏強度材料(例えば、可撓性の高分子基材などの他の材料ほど容易にエネルギーを機械的に吸収しない金属基材)を接着するときに有益な場合がある。このような添加剤は接着剤の全質量に対して一般に約50質量%以下の量で使用することができる。
【0059】
コアシェルポリマーを用いて、接着剤の塗布性及び流動特性を改良することもできる。改良された塗布性及び流動特性は、接着剤がシリンジタイプの塗布機から分配されるときに残る望ましくない糸引き(ストリング)又は接着剤が垂直面に適用された後の垂れ(サグ)の低減によって確認できる。コアシェルポリマーは、接着剤の全質量に対して、一般に約5質量%以上、約10質量%以上、又は約20質量%以上、約50質量%以下、約40質量%以下、又は約30質量%以下の量で加えることができる。
【0060】
反応性希釈剤を主剤及び/又は開始剤に添加してもよい。好適な反応性希釈剤として、米国特許第6,252,023号明細書に記載されているような1,4−ジオキソ−2−ブテン官能性化合物、及び米国特許第5,935,711号明細書に記載されているようなアジリジン化合物が挙げられる。
【0061】
国際公開第01/68783号に記載されたようなビニル芳香族化合物を開始剤及び/又は主剤に添加して、重合速度、硬化時間及び接着剤硬化物の所望の特性に実質的に影響を与えずに接着剤の可使時間を長くすることもできる。
【0062】
有用なビニル芳香族化合物として、例えば、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート(Cytec Industries,Inc.、米国ニュージャージー州ウッドランドパークから商品名「TMI」として入手可能)を、単官能性又は多官能性の反応性水素化合物、好ましくは、単官能性又は多官能性のアミン、アルコール、又はそれらの組み合わせと反応させることにより調製したα−メチルスチレン基含有オリゴマーが挙げられる。特に好ましい単官能性又は多官能性のアミンとして、Huntsman PetroChemical Corp.、米国テキサス州バーモントから入手可能な、商品名JEFFAMINEとして市販されているアミン末端ポリエーテル、例えばJEFFAMINE(商標)ED600(名目分子量600のジアミン末端ポリエーテル)、JEFFAMINE(商標)D400(名目分子量400のジアミン末端ポリエーテル)、JEFFAMINE(商標)D2000(名目分子量2000を有するジアミン末端ポリエーテル)、JEFFAMINE(商標)T3000(名目分子量3000のトリアミン末端ポリエーテル)、及びJEFFAMINE(商標)M2005(名目分子量2000のモノアミン末端ポリエーテル)が挙げられる。好適なアルコール含有化合物として、例えばポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトントリオール、及びジエチレングリコールが挙げられる。ビニル芳香族化合物は、接着剤の全質量に対して、一般に約1質量%以上、約2質量%以上、又は約5質量%以上、約30質量%以下、約20質量%以下、又は約10質量%以下の量で加えることができる。
【0063】
ヒドロキノンモノメチルエーテル、トリス(N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミン)アルミニウム塩などの阻害剤を主剤に少量添加して、例えば貯蔵中の重合性モノマーの劣化を防止又は低減することができる。阻害剤は、モノマーの重合速度又は接着剤硬化物の所望の特性を本質的に低下させない量で添加することができる。阻害剤は、重合性成分の質量を基準として、一般に約100ppm以上、約10,000ppm以下の量で使用することができる。
【0064】
他の任意の添加剤として、非反応性希釈剤又は溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、N−メチルカプロラクタムなど)、非反応性着色剤、充填剤(例えば、カーボンブラック、空洞ガラス/セラミックスビーズ、シリカ、二酸化チタン、中実ガラス/セラミック微小球、シリカアルミナセラミック微小球、導電性及び/又は熱伝導性粒子、帯電防止化合物、チョークなど)などが挙げられる。様々な任意の添加剤は、モノマーの重合速度又は接着剤硬化物の所望の特性を本質的に低下させない量で添加することができる。
【0065】
本開示の2液型接着剤は、火炎処理、イトロ処理、コロナ放電、プライマー処理などの複雑な表面処理技術を使用せずに、難接着性材料である低表面エネルギープラスチック又はポリマー基材を接着する場合に特に有用である。本開示における「低表面エネルギー」とは、表面エネルギーが45mJ/m未満、より典型的には40mJ/m未満又は35mJ/m未満である材料に関して用いられる。このような材料として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのオレフィン系材料、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)、ジメチルシリコーンゴム、ビニルメチルシリコーンゴム、フェニルメチルシリコーンゴムなどのシリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、並びにこれらの材料のエラストマー変性体、及びこれらの材料とエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などのエラストマーとのポリマーブレンドが挙げられる。本開示の2液型接着剤を実用的に用いることのできる、比較的高い表面エネルギーの他のポリマーとして、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、及びポリ塩化ビニル(PVC)が挙げられる。本開示の2液型接着剤は、少なくとも一方の基材がシリコーンゴム基材である接着用途に特に有利に使用することができる。
【0066】
本開示の2液型接着剤の主剤及び開始剤は、このような材料を扱う場合に通常実施されるように混合される。本開示の2液型接着剤は、接着剤を基材に適用する前に一部又は全部が混合される。
【0067】
2液型接着剤が商業的及び工業的環境で使用される場合、主剤及び開始剤が混合される比率は簡便な整数であることが、従来の市販の供給装置を使用した接着剤の適用が容易になるため有利である。このような供給装置として、米国特許第4,538,920号明細書及び第5,082,147号明細書に記載されたようなダブルシリンジ型アプリケーター、例えば商品名「ミックスパック」(MIXPAC)(ConProTec,Inc.、米国ニューハンプシャー州セーレムより入手可能)を使用することができる。
【0068】
通常、供給装置は、並んで配置された1組の管状容器を備え、接着剤の主剤及び開始剤の一方をそれぞれの管が受け入れるように設計されている。各管で1つずつの2つのプランジャーを同時に移動し(例えば手で動かすか又は手動のギア機構を用いて)、管の内容物が共通の細長い混合室に送り込まれる。混合室は2液の混合を促進するためのスタティックミキサーを備えていてもよい。混合された接着剤は、混合室から基材上に供給される。管が空になると、新しい管と取り替えて適用工程を続けることができる。
【0069】
接着剤の主剤及び開始剤が混合される比率は、管の直径によって調節することができる。このとき、各プランジャーは一定の直径の管の内部に適合した寸法を有し、プランジャーは同じ速度で管内を移動する。供給装置は種々の異なる2液型接着剤の使用を意図している場合が多く、プランジャーは、好適な混合比で接着剤の主剤及び開始剤を供給するような寸法を有する。いくつかの実施態様において、主剤と開始剤の混合比は一般に1:1、2:1、4:1、及び10:1である。
【0070】
接着剤の主剤及び開始剤が端数の混合比(例えば100:3.5)で混合される場合、使用者は接着剤の2つの液を手で秤量することになる。そのため、接着剤の2つの液は、10:1以下、より好ましくは4:1、3:1、2:1、又は1:1などの一般的な整数混合比で混合可能であることが、接着剤の商業的及び工業的有用性を高め、現在利用可能な供給装置の使用を容易にするために有利である。接着剤の2液の混合比を整数混合比(例えば20:1、15:1、12:1、10:1、4:1、3:1、2:1、又は1:1)に調整する目的で、開始剤に既に説明したビニル芳香族化合物を有利に添加することができる。
【0071】
2つの液が混合された後、接着剤は、接着剤の可使時間以内に使用されることが好ましい。接着剤は一方又は両方の基材に適用され、次に基材に圧力を加えて基材を互いに接合し、ボンドラインから過剰の接着剤が押し出される。このようにすると、空気中に露出しており硬化が進行しすぎる可能性のある接着剤を除去することもできる。一般に、接着は接着剤が基材に適用された後に短時間で行われ、接着剤の可使時間以内で行われることが好ましい。接着層の厚さは一般に約0.01mm以上、約0.3mm以下であるが、基材間の間隙の充填が必要とされる場合には1.0mmを超えてもよい。接着工程は室温で容易に実施することができ、必要に応じて高温中で接着剤を後硬化することもできる。
【0072】
本開示の2液型接着剤を用いた実施態様として、例えば、図1に示すような、第1のシリコーンゴム基材12と、第2の基材16と、2液型接着剤の硬化物14とを含み、2液型接着剤の硬化物14を介して第1のシリコーンゴム基材12と第2の基材16とが接合されてなる構造体10が提供される。いくつかの実施態様では、第2の基材はシリコーンゴム、フッ素樹脂又は金属を含む。これらの実施態様によれば、アクリル変性シリコーン樹脂、フッ素樹脂などの特殊な材料を含む接着剤を用いることなく、難接着性材料であるシリコーンゴム基材同士、又はシリコーンゴム基材とフッ素樹脂基材とが接合された構造体を得ることができる。
【実施例】
【0073】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0074】
本実施例で使用した試薬、原料などを以下の表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
<接着剤評価方法−剥離試験>
2液型接着剤の主剤及び開始剤を混合して接着剤組成物を調製し、得られた接着剤組成物を表面未処理のシリコーンゴム試験片(K−125)に直接塗布した。その直後に、別の表面未処理のシリコーンゴム試験片で、被覆領域が1cm×2cm、厚さが1mmとなるように接着剤組成物を被覆した。接着剤を所定温度(10℃、15℃、20℃、25℃、30℃、及び35℃)で1日養生して硬化させた。引張試験機RTC−1325A(株式会社エー・アンド・ディー、日本国東京都豊島区)を用いて、温度23℃、クロスヘッド速度5cm/分にて、接着試験片を180度方向に剥離(T字剥離)したときの剥離力をkN/mで記録し、剥離後の試験片を目視観察して破壊モードを確認した。
【0077】
<例1〜5、及び比較例1〜13>
<α−メチルスチレン基含有オリゴマーの合成(AMSPU)>
120.60gのTMIと600.00gのJEFFAMINE(商標)D2000を混合し、室温中にて温度調整なしで一昼夜反応させた。IRスペクトル測定の結果、波数2265cm−1のイソシアネートによるピークが消えていることから、反応が完結していることを確認した。このようにしてα−メチルスチレン基含有オリゴマー(AMSPU)を得た。
【0078】
<開始剤>
表1に開始剤に使用した材料を示す。トリエチルボラン:1,6−ヘキサメチレンジアミン錯体の35%CX−100溶液(TEB/HMDA/CX−100)は、モル比率が2:1であるトリエチルボラン:1,6−ヘキサンジアミン錯体を濃度が35質量%となるようにCX−100に溶解して調製した。TEB/HMDA/CX−100 33.90g、AMSPU 62.30g、TS720 3.60g、M460 0.20gを200mLのガラス瓶に秤量し、「あわとり練太郎」ARE−500(自転公転ミキサー、株式会社シンキー、日本国東京都千代田区)を用いて2000rpmにて2分間撹拌して開始剤を得た。得られた開始剤を例1〜5及び比較例1〜13で使用した。
【0079】
<主剤>
表1に主剤に使用した材料を示す。表2に例1〜5及び比較例1〜13の主剤の組成を示す。臭化銅(II)の25%NMC溶液(CuBr/NMC)は、臭化銅(II)を濃度が25質量%となるようにNMCに溶解して調製した。主剤の全質量が100gになるよう各成分を200mLのガラス瓶に秤量し、70℃で20分間放置後、「あわとり練太郎」ARE−500(自転公転ミキサー、株式会社シンキー、日本国東京都千代田区)を用いて2000rpmにて2分間撹拌して主剤を得た。
【0080】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0081】
例1〜5及び比較例1〜13で使用したモノマー及びそれらの混合物の特性を表3に示す。ガラス転移温度に関して、モノマーが単一成分である場合はそのホモポリマーのガラス転移温度、モノマー混合物については、n種類のモノマーの共重合体として、FOXの式:
【数2】
より求めた値を記載した。沸点に関しては、モノマーが単一成分である場合はその沸点、モノマー混合物については、式:BPblend=Σ(X・BP)(式中、BPblendはモノマー混合物の沸点であり、Xはモノマー混合物の全質量に対する個々のモノマーの質量分率であり、BPはその個々のモノマーの沸点である。)により求めた値を記載した。
【0082】
【表3】
【0083】
<接着剤>
体積比10:1のデュアルシリンジアプリケーター(ミックスパック CD050−10−PP、エーディーワイ株式会社、日本国大阪府大阪市)の体積比1側に開始剤を、体積比10側に主剤を充填した後、10cmの長さの17ステージのスタティックミックスノズル(MX5.4−17−S、エーディーワイ株式会社、日本国大阪府大阪市)を装着し、主剤及び開始剤を同時に押し出すことにより、スタティックミックスノズル中で混合した接着剤の塗布を行った。剥離試験による接着剤硬化物の評価結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4から分かるように、例1〜5の接着剤硬化物は、常温(例えば15℃〜25℃)の広い温度範囲で接着作業及び養生を行ったときに基材破壊を伴った2kN/m以上の剥離力を示したことから、2kN/mを超える高い界面接着力及び凝集力を有している。本開示は以下の態様1〜8を包含する。
[態様1]
フェノキシエチルメタクリレートと、テトラヒドロフルフリルメタクリレートとを含む主剤、及び
オルガノボランを含む開始剤
からなる2液型接着剤であって、前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記フェノキシエチルメタクリレートを60〜95質量%含む、2液型接着剤。
[態様2]
前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記テトラヒドロフルフリルメタクリレートを5〜40質量%含む、態様1に記載の2液型接着剤。
[態様3]
前記主剤が、重合性成分の質量を基準として、前記フェノキシエチルメタクリレート及びテトラヒドロフルフリルメタクリレートを合計して95質量%又はそれより多く含む、態様1又は2のいずれかに記載の2液型接着剤。
[態様4]
前記主剤の重合性成分の親フッ素性が0.1〜1.4である、態様1〜3のいずれかに記載の2液型接着剤。
[態様5]
前記主剤が、アルキル部位の炭素数が5以上の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレートを含まない、態様1〜4のいずれかに記載の2液型接着剤。
[態様6]
シリコーンゴム基材の接着に使用される態様1〜5のいずれかに記載の2液型接着剤。
[態様7]
第1のシリコーンゴム基材と、
第2の基材と、
態様1〜6のいずれかの2液型接着剤の硬化物と
を含む、構造体であって、前記2液型接着剤の硬化物を介して前記第1のシリコーンゴム基材と前記第2の基材とが接合されてなる構造体。
[態様8]
前記第2の基材がシリコーンゴム、フッ素樹脂又は金属を含む、態様7に記載の構造体。
【符号の説明】
【0086】
10 構造体
12 第1のシリコーンゴム基材
14 2液型接着剤の硬化物
16 第2の基材
図1