特許第6858006号(P6858006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6858006真空紫外線励起蛍光体、発光素子、及び発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6858006
(24)【登録日】2021年3月25日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】真空紫外線励起蛍光体、発光素子、及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20210405BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20210405BHJP
【FI】
   C09K11/80
   H01L33/50
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-228768(P2016-228768)
(22)【出願日】2016年11月25日
(65)【公開番号】特開2018-83912(P2018-83912A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207089
【氏名又は名称】大電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】江越 紀一郎
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−139525(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102787357(CN,A)
【文献】 国際公開第2006/049284(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/031799(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103964834(CN,A)
【文献】 Journal of Luminescence,2013年,141,44−47
【文献】 Optical Materials,,2005年,27,1654−1671
【文献】 Optics Letters,,2013年,38(23),5024−5027
【文献】 Journal of Luminescence,2015年,158,215−219
【文献】 Journal of Nanomaterials,,2015年,Article ID 549208,1−8
【文献】 Journal of Lluminescence,,2014年,154,569−577
【文献】 Journal of American Ceramic Society,,2015年,98(8),2493−2497
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/80
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Y1-xPrx)AlO(但し、0.006≦x<0.010)で表される蛍光体であって、励起波長が185nmに近い真空紫外線の照射により励起されて紫外線を発光することを特徴とする
真空紫外線励起蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の真空紫外線励起蛍光体を用いることを特徴とする
発光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の発光素子を備えることを特徴とする
発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空紫外線で励起されることにより紫外光を発光する真空紫外線励起蛍光体に関し、特に、水銀フリーの真空紫外線励起蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線発光分野は、紫外線の用途が医療分野や光触媒分野などにも拡大していることに伴って、産業的な価値が高まっており、各種の紫外線発光を呈する発光体の開発が進められてきた。紫外線発光を呈する発光体には、水銀ランプが主に使用されている。この理由は、水銀ランプが、低コストで製造できることや高エネルギーを発揮できる等の利便性が高いためである。
【0003】
しかし、現在では、水銀は自然環境に与える負荷が大きいことが問題視されてきており、環境保護の観点から、今後は、水銀の製造が禁止される法的規制の施行も予定されている。このような背景から、水銀を使用しない(水銀フリーの)水銀代替光源の開発が早急に求められている。
【0004】
従来の水銀を使用しない光源としては、例えば、真空紫外線により、真空容器の内側のYAlO:Ce3+などの第1の蛍光体層が励起され、第1の光を出射し、第1の光により、真空容器の外側の第2の蛍光体層が励起され、第2の光を出射し、白色系の光を発光する平面光源がある(特許文献1参照)。
【0005】
この他にも、水銀を使用しない蛍光体として、例えば、式M1O・M223(式中のM1はMg、Ca、Sr、BaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上であり、M2は Sc、Y、B、Al、GaおよびInからなる群より選ばれる1種以上)で表されるスピネル型構造の化合物に付活剤としてLn(ただしLnはCe、Pr、Nd、 Sm、Eu、Tb、Ho、Dy、ErおよびTmからなる群より選ばれる1種以上)が含有されてなる真空紫外線励起発光素子用蛍光体があり、発光強度低下の抑制を図るものがある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−16268号公報
【特許文献2】特開2006−249120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現在のところ、水銀代替光源は、上述したような真空紫外線励起によって紫外線を発光するものであっても、特に殺菌用途に好適な紫外線領域において十分な発光強度を発揮するものは得られていない。例えば、特許文献1の蛍光体の発光波長は、真空紫外線により励起される光(第一の光)がピーク波長370nmの近紫外線領域ないしは青色領域の波長にとどまっており、特許文献2の蛍光体の発光波長は、可視光領域での発光にとどまっている。すなわち、従来の水銀代替光源としての真空紫外線励起蛍光体では、波長が310nmより短い光、特に殺菌用途において必要とされている波長260nm前後の紫外線領域において、十分に強い紫外光を発光するまでには至っていない。
【0008】
本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、真空紫外線の照射によって、深紫外光を呈する水銀フリーの真空紫外線励起蛍光体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、プラセオジム元素(Pr)をある配合比で含ませた特定の酸化物系蛍光体を用いることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を導き出した。
【0010】
すなわち、本願に開示する真空紫外線励起蛍光体としては、少なくともイットリウム元素を含む希土類元素と、プラセオジム元素と、アルミニウム元素と、酸素元素とから構成され、プラセオジム元素の配合モル比率xが、0<x≦0.018である蛍光体であって、真空紫外線の照射により励起されて紫外線を発光するものが提供される。 また、本願に開示する真空紫外線励起蛍光体を含む発光素子も提供される。また、当該発光素子を備える発光装置も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体のX線回折結果を示す(Pr:0.0002mol、0.0006mol)。
図2】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体のX線回折結果を示す(Pr:0.002mol、0.004mol)。
図3】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体のX線回折結果を示す(Pr:0.006mol、0.008mol)。
図4】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体のX線回折結果を示す(Pr:0.01mol、0.012mol)。
図5】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体のX線回折結果を示す(Pr:0.014mol、0.018mol)。
図6】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体の真空紫外線励起による発光強度の結果を示す。
図7】本発明に係る真空紫外線励起蛍光体の積分強度とPr濃度の相関関係を表すグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願に開示する真空紫外線励起蛍光体は、上記のように、少なくともイットリウム元素を含む希土類元素と、プラセオジム元素と、アルミニウム元素と、酸素元素とから構成され、プラセオジム元素の配合モル比率xが、0<x≦0.018である蛍光体であれば特に限定されない。より強い発光強度が得られるという点から、プラセオジム元素の配合モル比率xは、0.002≦x≦0.014であることがより好ましい。
【0013】
このような好適な真空紫外線励起蛍光体の1つとしては、例えば、一般式(Y1-xPrx)AlO(但し、0.002≦x≦0.014)で表されるものが挙げられる。ここで、構成元素として含まれるイットリウム元素の一部を、他の希土類元素で置換してもよい。このような希土類元素としては、スカンジウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムを挙げることができる。
【0014】
本願に係る真空紫外線励起蛍光体の励起源としては、励起波長が200nm以下の真空紫外線を発光できる光源であれば特に限定されず、例えば、励起源として従来から広範に利用されているエキシマランプや重水素ランプをそのまま用いることができる。例えば、クリプトン(Kr)エキシマランプ(波長147nm)、キセノン(Xe)エキシマランプ(波長172nm)、重水素ランプ(波長160nm)、重水素ランプ(波長185nm)等を用いることができる。
【0015】
本願に開示する真空紫外線励起蛍光体は、このような励起源からの真空紫外線の照射によって、各種の紫外線領域の紫外線を発光することができ、例えば、各種用途に有用とされる200nm〜350nm、例えば、殺菌ランプ等に好適な260nm前後(例えば、247nmや280nm)の紫外線領域の深紫外光(DUV)を発光することができる。このように、本願に開示する真空紫外線励起蛍光体は、紫外線領域のうち従来よりもより短波長の発光ピーク領域で、より強い紫外光を発光することができる。
【0016】
さらに、本願に開示する真空紫外線励起蛍光体は、本発明者らが見出したところに拠れば、励起源の励起波長に応じて、最適なプラセオジム元素の配合モル比率を選定することによって、発光強度の高い好適な蛍光体が簡易に得られることが確認されている。すなわち、より高い発光強度を得るという観点から、プラセオジム元素の配合モル比率xが0.002に近い蛍光体については、励起波長が146nmに近い真空紫外線を照射し、プラセオジム元素の配合モル比率xが0.014に近い蛍光体については、励起波長が185nmに近い真空紫外線を照射することが好ましく、当該照射により励起されてより強い紫外線を発光することが可能となる。
【0017】
例えば、本願に開示する好適な真空紫外線励起蛍光体の1つである一般式(Y1-xPrx)AlO(但し、0.002≦x≦0.014)で表される蛍光体に関しては、一般式(Y1-xPrx)AlO(但し、0.002≦x≦0.006)で表される蛍光体に対しては、励起波長146nm〜160nm近傍の真空紫外線を照射することが好ましく、この組み合わせにより高い発光強度が得られる(後述の実施例参照)。一般式(Y1-xPrx)AlO(但し、0.006≦x≦0.014)で表される蛍光体に対しては、励起波長172nm〜185nm近傍の真空紫外線を照射することが好ましく、この組み合わせにより高い発光強度が得られる(後述の実施例参照)。
【0018】
本願に係る真空紫外線励起蛍光体が、このように優れた効果を奏するメカニズムは未だ詳細には解明されていないが、真空紫外線が照射された場合に、真空紫外線の紫外線領域に対して蛍光体の結晶構造内で、配合モル比率xが0<x≦0.018の範囲でプラセオジム元素が存在していることによって、プラセオジム元素が本来的に有する発光中心としての作用が高められるような構造的要因が内在していることが考えられる。すなわち、真空紫外線が照射された際に、当該配合比率で含有されたプラセオジム元素の存在によって、蛍光体を構成する各原子間の距離と真空紫外線の波長の長さが好適に作用し、原子レベルで紫外線領域の光を特異的に発光するエネルギーレベルに遷移しやすくなっているものと推察される。また、このプラセオジム元素の配合率と、照射される真空紫外線との間に、一定の相関関係があり、より多くのプラセオジム元素が存在している(配合モル比率が0.014に近い)場合(例えば、0.006≦x≦0.014)には、より長波長の真空紫外線(185nmに近い領域、例えば、172nm〜185nm近傍)に対して、真空紫外線の長めの1波長間中に多くのプラセオジム元素が高密度に敷き詰まった状態が形成され、その結果として、発光強度が高められる原子間配置が形成されるものと推察される。また、より少ないプラセオジム元素が存在している(配合モル比率が0.002に近い)場合(例えば、0.002≦x≦0.006)には、より短波長の真空紫外線(146nmに近い領域、例えば、146nm〜160nm近傍)に対して、真空紫外線の短めの1波長間中に(余分なプラセオジム元素を含むことなく)少なめのプラセオジム元素が高密度に敷き詰まった状態が形成され、その結果として、発光強度が高められる原子間配置が形成されるものと推察される。
【0019】
このような本願に開示する真空紫外線励起蛍光体の製造方法の一例としては、各構成元素の酸化物を原料に用いて、所望とする蛍光体の組成となるような化学量論的な割合で混合する。例えば、本願に係る真空紫外線励起蛍光体の一例として、(Y1-xPrx)AlO(但し、0.002≦x≦0.018)を得る場合には、原材料として、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化プラセオジム(Pr2O3)の各粉末を用いることができる。
【0020】
この各粉末を混合し、大気雰囲気下で高温焼成することによって、所望とする蛍光体が得られる。この高温焼成は、例えば、2段階で行うことができ、例えば、大気雰囲気下で温度1000℃〜1500℃で、3〜10時間焼成を実施し、当該高温焼成後に解砕を行い、還元雰囲気下で温度1000℃〜1500℃で、3〜10時間焼成を実施することによって、所望とする蛍光体を焼結体として得ることができる。
【0021】
このようにして得られる真空紫外線励起蛍光体の用途は多岐にわたる。例えば、本願に係る真空紫外線励起蛍光体が発光する深紫外光(200nm〜350nm)、特に260nm前後の紫外光を用いて、各種の殺菌対象物に対して殺菌を行うことによって、紫外線による残留物や環境ダメージが抑制されたクリーンな殺菌を行うことができる。すなわち、本願に係る真空紫外線励起蛍光体から構成される殺菌用ランプは、水銀フリーであると共に、高い殺菌能力を発揮するものとなる。また、この深紫外光を用いることによって、難分解物質(例えばホルムアルデヒド及びPCBなど)の分解処理を行うことや、新規な化学物質の合成(例えば光触媒物質など) を行うこともできる。また、この深紫外光を用いることによって、難治性疾患(例えばアトピー性皮膚炎など)の治療及び院内感染の予防などの各種の医療分野への応用も可能となる。
【0022】
本発明の特徴を更に明らかにするため、以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例によって制限されるものではない。
【0023】
(実施例)
(1)蛍光体の製造
原材料に、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)、酸化アルミニウム(Al2O3)、フラックスとしてフッ化リチウム(LiF)を用いて、化学量論的に(Y1-xPrx)AlOで表される組成式になるような割合に混合した。フラックスとしてフッ化リチウム(LiF)は、0.1mol添加した。混合後、アルミナ坩堝に入れて大気雰囲気下で1350℃、5時間焼成を実施した。さらに、当該焼成後に解砕を行い、カーボン還元雰囲気下で1200℃、3時間焼成を実施して焼結体を得た。この焼結体については、プラセオジム元素の配合モル比率xについて、x=0.0002、0.0006、0.002、0.004、0.006、0.008、0.01、0.012、0.014、0.018の10種類のサンプルを得た。
【0024】
(2)蛍光体の同定
上記で得られた焼結体に対して、線源がFeKαのX線回折装置でX線回折結果を取得した。この得られた焼結体の上記10種類のサンプル(x=0.0002〜0.018)についてのX線回折結果を図1図5に示す。いずれのサンプルにおいても、得られたピーク値から、確かに(Y1-xPrx)AlOの組成で結晶化していることが確認された。
【0025】
(3)発光強度の測定
上記の10種類の(Y1-xPrx)AlO結晶のサンプル(サンプル番号1〜10)について、Xeエキシマランプ(波長λ=172nm)による真空紫外線励起による発光強度を確認した。得られた結果を図6に示す。この結果から、本実施例に係る真空紫外線励起蛍光体(Y1-xPrx)AlOは、真空紫外線励起によって、ピーク波長が260nm前後という深紫外領域の光が得られたことが確認された。この得られた紫外光の紫外線領域は、殺菌用途に適した波長であり、各種の殺菌用途への応用(殺菌ランプ等)が可能であることが確認された。
【0026】
さらに、以下の表に、得られた発光強度について発光波長247nmでの発光強度を示す。この表の結果に基づいて、図7に積分強度とPr濃度の相関関係を表すグラフを示す。
【0027】
【表1】
【0028】
上記の得られた結果から、発光強度(247nmの発光強度推移)については、励起波長146nmおよび160nmでの励起時には、Prの配合モル比率が0.004の場合に、最も高い発光特性を示した。また、励起波長172nmでの励起時には、Prの配合モル比率が0.01の場合に、最も高い発光特性を示した。また、励起波長185nmでの励起時には、Prの配合モル比率が0.012の場合に、最も高い発光特性を示した。
【0029】
これらの結果から、本願に開示する蛍光体は、励起波長に応じた最適なPrの配合比率が存在するという特性が示された。この特性を利用して、既存の真空紫外光による励起源に対して、最適なPrの配合比率を有するような蛍光体を選択的に利用することによって、既存の励起源を変更することなく、本蛍光体から、高い発光強度を有する紫外線が効率的に利用できることが確認された。また、この特性を利用して、既存の複数の真空紫外光による励起源に対して、各々の励起源の励起波長について最適なPrの配合比率を有するような複数の蛍光体を用いることによって、使用する励起源を順次切替えた場合にも、発光強度を低下させることなく、一定の発光強度を維持することができ、本蛍光体から、高い発光強度を有する紫外線が安定的に利用できることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7