特許第6859457号(P6859457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6859457
(24)【登録日】2021年3月29日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】シンボル判定装置及びシンボル判定方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2507 20130101AFI20210405BHJP
   H04B 10/69 20130101ALI20210405BHJP
   H04B 10/073 20130101ALI20210405BHJP
   H04B 3/06 20060101ALI20210405BHJP
   H03M 13/41 20060101ALI20210405BHJP
   H04L 25/08 20060101ALI20210405BHJP
【FI】
   H04B10/2507
   H04B10/69 170
   H04B10/073
   H04B3/06 A
   H03M13/41
   H04L25/08 B
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-566527(P2019-566527)
(86)(22)【出願日】2019年1月18日
(86)【国際出願番号】JP2019001474
(87)【国際公開番号】WO2019142912
(87)【国際公開日】20190725
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2018-7671(P2018-7671)
(32)【優先日】2018年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷口 寛樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀人
(72)【発明者】
【氏名】増田 陽
(72)【発明者】
【氏名】福徳 光師
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−173573(JP,A)
【文献】 国際公開第95/12926(WO,A1)
【文献】 特開平4−351136(JP,A)
【文献】 河原光貴、他,光学補償と適応Volterraフィルタとの連携によるチャネル間非線形補償方式の提案,2016年電子情報通信学会総合大会講演論文集,2016年 3月,p.357
【文献】 Sjoerd van der Heide, et al.,Experimental Investigation of Impulse Response Shortening for Low-Complexity MLSE of a 112-Gbit/s PAM-4 Transceiver,ECOC 2016; 42nd European Conference on Optical Communication,VDE,2016年 9月,pp.115-117
【文献】 谷口寛樹、他,短距離光伝送における非線形最尤系列推定による帯域制限耐力向上,2018年電子情報通信学会総合大会講演論文集,2018年 3月,p.222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/2507
H03M 13/41
H04B 3/06
H04B 10/073
H04B 10/69
H04L 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送路を伝搬してきたシンボル列からなる入力信号の一部を取得し、取得したシンボル列のシンボルごとにシンボルが示す値に線形デジタルフィルタのタップ利得を乗算した値を算出し、前記乗算した値の和を算出し、前記和を示すシンボル列を出力する伝送路短縮部と、
適応非線形デジタルフィルタを備え、前記伝送路の状態を示すシンボル列に基づいて、前記適応非線形デジタルフィルタを用いて前記伝送路の伝達関数を推定する第一伝送路推定部と、
前記伝送路短縮部の出力と、前記第一伝送路推定部が推定した伝達関数とに基づいて算出された値であるメトリックに基づいて、距離関数の最小値を算出する加算比較処理部と、
前記距離関数の最小値に基づいてシンボル判定を行い、判定の結果であるシンボル列を出力する判定部と、
を備えるシンボル判定装置。
【請求項2】
前記伝送路短縮部が出力した前記和を示すシンボル列と、前記判定部が出力した前記シンボル列とに基づいて、前記タップ利得の値を更新するフィルタ更新部、
をさらに備える請求項1に記載のシンボル判定装置。
【請求項3】
前記第一伝送路推定部が備える適応非線形デジタルフィルタが、n次(nは2以上の整数)のボルテラフィルタである、
請求項2に記載のシンボル判定装置。
【請求項4】
前記フィルタ更新部は、前記第一伝送路推定部のボルテラ核の値と、前記判定部が出力したシンボル列とに基づいて、前記ボルテラ核の値を更新する、
請求項3に記載のシンボル判定装置。
【請求項5】
前記タップ利得の値と、前記ボルテラフィルタのボルテラ核の値とを、予め実施されたトレーニングによって取得する、
請求項3に記載のシンボル判定装置。
【請求項6】
前記適応非線形デジタルフィルタを備え、前記第一伝送路推定部のボルテラ核の値を更新するための値を算出する第二伝送路推定部をさらに備え、
既知の情報ビット列を基に生成されたトレーニング情報シンボル列が送信信号として伝搬された場合であって前記伝送路短縮部が取得したシンボル列が入力された場合における前記和を示すシンボル列と前記トレーニング情報シンボル列が入力された場合における前記第二伝送路推定部の出力との差に基づいて、前記タップ利得の値と前記ボルテラ核の値が更新される、
請求項4に記載のシンボル判定装置。
【請求項7】
前記フィルタ更新部は、前記距離関数の値を参照し所定の値と比較することで前記線形デジタルフィルタのタップ利得を更新するか否かを決定する、
請求項2に記載のシンボル判定装置。
【請求項8】
前記フィルタ更新部は、前記距離関数の値を参照し所定の値と比較することで前記ボルテラ核の値を更新するか否かを決定する、
請求項4に記載のシンボル判定装置。
【請求項9】
前記加算比較処理部は、ビタビ・アルゴリズムによって距離関数の最小値を算出し、前記判定部は、ビタビ・アルゴリズムにおけるトレリスのパスを遡ることでシンボル判定を行う、
請求項1に記載のシンボル判定装置。
【請求項10】
伝送路を伝搬してきたシンボル列からなる入力信号の一部を取得し、取得したシンボル列のシンボルごとにシンボルが示す値に線形デジタルフィルタのタップ利得を乗算した値を算出し、前記乗算した値の和を算出し、前記和を示すシンボル列を出力する伝送路短縮ステップと、
適応非線形デジタルフィルタを備え、前記伝送路の状態を示すシンボル列に基づいて、前記適応非線形デジタルフィルタを用いて前記伝送路の伝達関数を推定する第一伝送路推定ステップと、
前記伝送路短縮ステップにおける出力と、前記第一伝送路推定ステップにおいて推定された伝達関数とに基づいて算出された値であるメトリックに基づいて、距離関数の最小値を算出する加算比較処理ステップと、
前記距離関数の最小値に基づいてシンボル判定を行い、判定の結果であるシンボル列を出力する判定ステップと、
を有するシンボル判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンボル判定装置及びシンボル判定方法に関する。
本願は、2018年1月19日に、日本に出願された特願2018−007671号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォン、タブレットの急速な普及や高精細な動画配信サービスの様なリッチコンテンツの増加等により、インターネットのバックボーンネットワークを転送されるトラフィックは増え続けている。また、企業におけるクラウドサービスの活用も進んでいることから、データセンタ(DC)内、DC間のネットワークのトラフィックも同様に年率約1.3倍の割合で増加することが予測されている。現在DC内やDC間の接続方式には主にイーサネット(登録商標、以下同様)が導入されている。通信トラフィックの増大に伴い、単一拠点におけるDCの大規模化が困難となることが予想されているため、今後は今まで以上にDC間連携の必要性が高まり、DC間で交流するトラフィックの更なる増大が考えられる。このような状況に対応するためには、低コストかつ大容量の短距離光伝送技術の確立が求められる。
【0003】
現行のイーサネット規格では、10GBE−ZRを除き40kmまでの伝送路に光ファイバ通信が適用されており、100GBEまでは光のon、offに2値情報を割り当てる強度変調方式が用いられている。受信側は受光器のみで構成され、長距離伝送で用いるコヒーレント受信方式よりも安価な構成となっている(図12)。変調スピードが25GBd、シンボルあたりの情報量が1bit/symbolのNRZ(Non-return-to-zero)信号を4波多重することで、100Gb/sの伝送容量を実現する。
【0004】
100GbEの次の世代にあたる400GbEの標準化においては、100GbEで用いられた経済的なデバイス構成の維持と、信号の帯域利用効率を考慮し、初めて2bits/symbolのPAM4(4-level pulse-amplitude-modulation)が採用された。
【0005】
今後の更なるトラフィック増大に向け、2020年以降、800GbE、1.6TbEの標準化が予定されており、現在の400GbEからの大容量化が検討されている。
【0006】
更なる大容量化に向けた課題として、伝送容量拡大に伴う信号品質劣化が挙げられる。
具体的には低コスト、すなわち狭帯域なデバイスを用いたシステム構成の高速化に伴う帯域制限による符号間干渉である。符号間干渉によって歪んだ受信信号波形から正しい送信データを得るための最も有効な等化方式として、最尤系列推定(MLSE: Maximum Likelihood Sequential Estimation)が知られている(非特許文献1)。MLSEを用いた信号品質劣化抑制技術は上記のイーサネット大容量化に対しても検討されている(たとえば、非特許文献1参照)。MLSEは送信信号波形が受ける符号間干渉を受信器側のデジタル信号処理によって推定、再現することで、高い等化性能を実現する。したがって、推定精度が高いほど符号間干渉による符号誤りを抑制することができる。
【0007】
またMLSEの実装において、ビタビ・アルゴリズムにより少ない演算量で完全な最尤系列が可能である。これは系列長に対し指数的に増大する演算量を線形的な増大に抑えるアルゴリズムである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nicklas Eiselt, Sjoerd van der Heide, Helmut Griesser, Michael Eiselt, Chigo Okonkwo, Juan Jose Vegas Olmos and Idelfonso Tafur Monroy "Experimental Demonstration of 112-GBit/s PAM-4 over up to 80 km SSMF at 1550 nm forInter-DCI Applications" ECOC2016, 42nd European Conference and Exhibition on Optical Communications September 18-22, 2016 Dusseldolf
【非特許文献2】D. D. FALCONER and F. R. MAGEE. JR. "Adaptive Channel Memory Truncation for Maximum Likelihood Sequence Estimation" The Bell System Technical Journal Vol. 52, No. 9, pp. 1541-1562、November, 1973
【非特許文献3】Xianming Zhu, Shiva Kumar, Srikanth Raghavan and Yihong Mauro "Application of Nonlinerar MLSE Based on Volterra Theory in NZ-DSF Optical Communication Systems" in 2008 Conference on Lasers and Electro-Optics, 2008, vol.2, pp. 1-2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、依然として、1.演算量はパルス広がり幅に対し指数的に増大することと、2.MLSEは伝送路の応答特性を推定する必要があり、直接検波方式を前提とする光伝送システムにおいて、自乗検波の非線形性からMLSEにおける推定精度に限界があるという課題が残る。それぞれの課題に対し、1.MLSEの前段にFeed Forward Equalizer(伝送路短縮部)を設置することで信号パルスのインパルス応答を圧縮し、MLSEの記憶長に依存した演算量増大を抑えること(非特許文献2)、2.MLSEに非線形フィルタを適用すること(非特許文献3)で改善するアプローチが存在する。
【0010】
上記事情に鑑み、本発明は、低コスト光伝送システムの受信側デジタル信号処理における信号品質劣化抑制技術として、光伝送の特性を活かした手法によって上記残存課題を改善したMLSEによるシンボル判定を行うシンボル判定装置及びシンボル判定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、伝送路を伝搬してきたシンボル列からなる入力信号の一部を取得し、取得したシンボル列のシンボルごとにシンボルが示す値に線形デジタルフィルタのタップ利得を乗算した値を算出し、前記乗算した値の和を算出し、前記和を示すシンボル列を出力する伝送路短縮部と、適応非線形デジタルフィルタを備え、前記伝送路の状態を示すシンボル列に基づいて、前記適応非線形デジタルフィルタを用いて前記伝送路の伝達関数を推定する伝送路推定部と、前記伝送路短縮部の出力と、前記伝送路推定部が推定した伝達関数とに基づいて算出された値であるメトリックに基づいて、ビタビ・アルゴリズムにおける距離関数の最小値を算出する加算比較処理部と、前記距離関数の最小値に基づいて、ビタビ・アルゴリズムにおけるトレリスのパスを遡ることでシンボル判定を行い、判定の結果であるシンボル列を出力するパス遡り判定部とを備えるシンボル判定装置である。
【0012】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記伝送路短縮部が出力した前記和を示すシンボル列と、前記パス遡り判定部が出力した前記シンボル列とに基づいて、前記タップ利得の値を更新するフィルタ更新部、をさらに備える。
【0013】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記伝送路推定部が備える適応非線形デジタルフィルタが、n次(nは2以上の整数)のボルテラフィルタである。
【0014】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記フィルタ更新部は、前記伝送路推定部のボルテラ核の値と、前記パス遡り判定部が出力したシンボル列とに基づいて、前記ボルテラ核の値を更新する。
【0015】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記タップ利得の値と、前記ボルテラフィルタのボルテラ核の値とを、予め実施されたトレーニングによって取得する。
【0016】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記適応非線形デジタルフィルタを備え、前記第一伝送路推定部のボルテラ核の値を更新するための値を算出する第二伝送路推定部をさらに備え、既知の情報ビット列を基に生成されたトレーニング情報シンボル列が送信信号として伝搬された場合であって前記伝送路短縮部が取得したシンボル列が入力された場合における前記和を示すシンボル列と前記トレーニング情報シンボル列が入力された場合における前記第二伝送路推定部の出力との差に基づいて、前記タップ利得の値と前記ボルテラ核の値が更新される。
【0017】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記フィルタ更新部は、前記距離関数の値を参照し所定の値と比較することで前記線形デジタルフィルタのタップ利得を更新するか否かを決定する。
【0018】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記フィルタ更新部は、前記距離関数の値を参照し所定の値と比較することで前記ボルテラ核の値を更新するか否かを決定する。
【0019】
本発明の一態様は、上記のシンボル判定装置であって、前記加算比較処理部は、ビタビ・アルゴリズムによって距離関数の最小値を算出し、前記判定部は、ビタビ・アルゴリズムにおけるトレリスのパスを遡ることでシンボル判定を行う。
【0020】
本発明の一態様は、伝送路を伝搬してきたシンボル列からなる入力信号の一部を取得し、取得したシンボル列のシンボルごとにシンボルが示す値に線形デジタルフィルタのタップ利得を乗算した値を算出し、前記乗算した値の和を算出し、前記和を示すシンボル列を出力する伝送路短縮ステップと、適応非線形デジタルフィルタを備え、前記伝送路の状態を示すシンボル列に基づいて、前記適応非線形デジタルフィルタを用いて前記伝送路の伝達関数を推定する第一伝送路推定ステップと、前記伝送路短縮ステップにおける出力と、前記第一伝送路推定ステップにおいて推定された伝達関数とに基づいて算出された値であるメトリックに基づいて、距離関数の最小値を算出する加算比較処理ステップと、前記距離関数の最小値に基づいてシンボル判定を行い、判定の結果であるシンボル列を出力する判定ステップと、を有するシンボル判定方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、演算量増大を抑えたMLSEによるシンボル判定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施形態の通信システム100の具体的なシステム構成を示す図。
図2】第1の実施形態の伝送路3の具体的な等価回路を示す図。
図3】従来の通信システム800の具体的なシステム構成を示す図。
図4】従来の識別回路8の機能構成の具体例を示す図。
図5】第1の実施形態の識別回路4の機能構成の具体例を示す図。
図6】第1の実施形態の部分シンボル列を説明する説明図。
図7】第1の実施形態の識別回路4におけるシンボル判定の具体的な処理の流れを示すフローチャート。
図8】第1の実施形態の識別回路4を用いたシンボル判定の実験結果と、従来の識別回路8を用いたシンボル判定の実験結果とを示す図。
図9】第2の実施形態の通信システム100aの具体的なシステム構成示す図。
図10】第2の実施形態の識別回路4aの機能構成の具体例示す図。
図11】事前のタップ利得トレーニングを行う場合の通信システム100の説明図。
図12】現行のイーサネット規格による通信を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の通信システム100の具体的なシステム構成を示す図である。通信システム100は、シンボル列によって表された情報を伝送する光伝送システムである。
通信システム100は、信号生成部1、光強度変調部2、伝送路3及び識別回路4(シンボル判定装置)を備える。
【0024】
信号生成部1は、入力されたデータ信号からm値の電気情報シンボル列(以下「m値電気情報シンボル列」という。){s}を生成する。m値電気情報シンボル列は、m元符号である。m値電気情報シンボル列の1シンボルは、電圧又は電流の大きさによって、m種類の記号(又は数字)を表す。mは2以上の整数であって、シンボル多値度である。m種類の記号(又は数字)は、m種類の記号(又は数字)を数字で表せば、0、1、・・・m−1である。
【0025】
添え字t(tは、0以上の整数)は、各シンボルを識別するための識別子であって、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルが生成された時刻を表す。
【0026】
伝送路3は、m値電気情報シンボル列{s}をm値光情報シンボル列に変換して伝送し、再び、電圧又は電流の大きさによってm種類の記号(又は数字)を表すm値電気情報シンボル列{r}に変換して出力する。伝送路3は、光強度変調部2、光ファイバ31、及び受光器32を備える。光強度変調部2は、m値電気情報シンボル列{s}を取得し、光強度によってm種類の記号(又は数字)を表すシンボル列であるm値の光情報シンボル列を生成する。以下、伝送路3の伝達関数をHによって表す。伝達関数Hは、実施形態の後述する識別回路4によって推定される関数である。
【0027】
図2は、第1の実施形態の伝送路3の具体的な等価回路を示す図である。図2において、Tは、シンボル間隔であって、通信システム100における演算時刻の時間間隔である。シンボル間隔は、所定の地点をシンボルが通過してから次のシンボルが、その地点を通過するまでの時間である。Lは、シンボル数を表す。伝送路3が出力するm値電気情報シンボル列{r}は、伝送路3の伝送中の時刻tにおけるシンボルの前後Lシンボル分の符号間干渉を考慮する場合、以下の式で表される。また、以下、時刻tは、シンボル間隔Tによって離散化された時間の識別子であるとする。すなわち、tTが時間であり、tは、Tによって離散化された時間において、所定の時刻から何番目の時間であるかを表す。
【0028】
【数1】
【0029】
ωは、平均0、分散δ2の互いに独立なガウスランダム系列であって、伝送路3によってシンボル列に加わる雑音成分である。
【0030】
光ファイバ31は、m値光情報シンボル列を伝送する。受光器32は、m値光情報シンボル列を受信して、m値電気情報シンボル列{r}に変換し出力する。受光器32は、光信号を電気信号に変換するものであればどのようなものであってもよい。例えば、受光器32は、フォトダイオードである。
【0031】
識別回路4は、m値電気情報シンボル列{r}を取得して、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルの推定値を取得するシンボル判定を行う。識別回路4は、シンボル判定に際して、伝達関数Hを推定する。以下、推定された伝達関数Hを推定伝達関数H’という。
【0032】
第1の実施形態の識別回路4の機能構成の具体例を説明する前に、従来のシンボル判定の方法を説明する。
【0033】
図3は、従来の通信システム800の具体的なシステム構成を示す図である。
通信システム800は、第1の実施形態の識別回路4に代えて、識別回路8を備える点で通信システム100と異なる。識別回路8は、m値電気情報シンボル列{r}を取得して、取得したm値電気情報シンボル列{r}に基づいて従来のシンボル判定行う。識別回路8は、識別回路4と同様に、従来のシンボル判定を行う際に、伝達関数Hを推定する。
【0034】
識別回路8は、例えば、MLSEによってシンボル判定を行う。MLSEは、条件付き結合確率密度関数p({r}{S’})を最大にするm値電気情報シンボル列{s’}を探索することで、シンボル判定を行う方法である。条件付き結合確率密度関数p({r}{S’})は、伝送路3を通じて、系列長Nのm値電気情報シンボル列{s’}が送信された場合に、m値電気情報シンボル列{r}が受信される確率である。条件付き結合確率密度関数p({r}{S’})は、以下の式で表される。系列長Nとは、情報シンボル列のシンボル数である。
【0035】
【数2】
【0036】
条件付き結合確率密度関数p({r}{S’})を最大にすることは、距離関数dを最小にすることと等価である。距離関数dは、以下の式によって表される関数である。
【0037】
【数3】
【0038】
以下、距離関数dの最小化の方法を説明する。
【0039】
時刻tにおける伝送路の状態(ステート)μ=(s’t−L,…,s’,…,s’t+L)の数は、m2L+1である。時刻tにおける伝送路の状態の数とは、時刻tにおける伝送路を伝送する情報シンボル列のことである。時刻tにおける伝送路の状態として、起こり得る状態の数は、2L+1個のシンボル系列長と、変調シンボルI=[i,i,…,i]との全ての組み合わせの数である。シンボル系列長は、時刻tにおける伝送路3を伝送する情報シンボル列のシンボル数である。変調シンボルは、伝送路3を伝送する情報シンボル列の1シンボルが表すm種類の記号(又は数字)である。すなわち、情報シンボル列が8元符号であって、8種類の記号(又は数字)が数字で表される場合には、変調シンボルは、{0,1,2,3,4,5,6,7}である。以下、伝送路の状態を伝送路状態という。
【0040】
時刻tにおいて、m2L+1の状態を有する伝送路3を、m2L+1の状態を有する有限状態機械とみなすことができる。そのため、距離関数dは、m値電気信号系列{r}が受信されるごとに、ビタビ・アルゴリズムによる逐次計算を行うことができる。時刻tにおいて状態μへ到達する距離関数d({μ})は、時刻t−1における距離関数dt−1({μt−1})と、時刻tにおける状態遷移に伴う尤度(メトリック)b(r;μt−1→μ)とで表すことができる。距離関数d({μ})は、以下の式を満たす。
【0041】
【数4】
【0042】
メトリックbは、以下の式で表される。なお、H’は、推定伝達関数である。
【0043】
【数5】
【0044】
時刻tにおけるメトリックbは、時刻t−1における伝送路状態から時刻tにおける伝送路状態への遷移にのみに依存し、それ以前の状態には依存しない。
【0045】
伝送路状態μt−1へ到達する距離関数の最小値であるd_mint−1(μt−1)と、それに対応する状態遷移であって、時刻tにおける伝送路状態μへの状態遷移の全てとが既知である場合に、伝送路状態が状態μへ到達する距離関数d(μ)の最小値を求めるには、全ての状態遷移に対応する距離関数d(μ)を求める必要はない。このような場合には、伝送路状態μに遷移する可能性のある全ての伝送路状態{μt−1}についてd_mint−1(μt−1)と、b(r;μ−1→μ)との和を計算し、さらにその結果のうちの最小値を求めればよい。すなわち、以下の式(6)を計算すればよい。
【0046】
【数6】
【0047】
d_min(μ)は、伝送路状態μに到達する全ての距離関数d(μ)の最小値である。以下、d_min(μ)を最小距離という。
【0048】
図4は、従来の識別回路8の機能構成の具体例を示す図である。識別回路8は、伝送路推定部81、加算比較選択処理部82及びパス遡り判定部83を備える。
伝送路推定部81は、推定伝達関数H’を推定する。加算比較選択処理部82は、メトリックbを算出し、その算出結果に基づいて、最小距離d_min(μ)を算出する。パス遡り判定部83は、時刻tにおいて伝送路状態μに到達する距離関数がd_min(μ)となるような、ビタビ・アルゴリズムのトレリスのパスの始点となる伝送路状態を選択する。パス遡り判定部83は、選択した伝送路状態に基づいて、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルの推定値を取得する。
【0049】
以上が、従来のMLSEのシンボル判定の方法と、それを実行する識別回路8の機能構成の具体例である。
【0050】
第1の実施形態の通信システム100の説明に戻る。
図5は、第1の実施形態の識別回路4の機能構成の具体例である。識別回路4は、伝送路短縮部41、第一伝送路推定部42、加算比較選択処理部43(加算比較処理部)、パス遡り判定部44、第二伝送路推定部45、遅延生成部46及びフィルタ更新アルゴリズム部47(フィルタ更新部)を備える。
【0051】
伝送路短縮部41は、受光器32が出力したm値電気情報シンボル列{r}の一部(以下「部分シンボル列」という。)を取得し、圧縮処理を行う。伝送路短縮部41は、圧縮処理によって、出力シンボル1つに対してu個分のm値電気情報シンボル列成分の情報量が圧縮された情報シンボル列(以下「圧縮シンボル列」という。)OutAを出力する。圧縮処理は、部分シンボル列{r}に対して積和演算を行う処理であって、式(7)によって表される積和演算を行う処理である。
より具体的には、伝送路短縮部41は、部分シンボル列{r}を((u−1)/2)T時間だけ遅延させ、部分シンボル列{r)の1シンボルrt−(u+1)/2を中心としたu個のシンボル列(すなわち、部分シンボル列)を適応線形デジタルフィルタに入力する。つぎに、伝送路短縮部41は、各シンボルが示す値に対してタップ利得を乗算し、それらの和を示すシンボル列(すなわち、圧縮シンボル列)を出力する。そのため、圧縮シンボル列は、以下の式(7)によって表される値を示す。
なお、このとき、線形デジタルフィルタの出力に対応する圧縮シンボル列のシンボルは、受光器32が出力したm値電気情報シンボル列{rt}に対して演算が行われるタイミングである演算タイミングよりも{(u−1)/2}Tだけ遅れたタイミングに生成される。
なお、uは、線形デジタルフィルタのタップ数である。また、C、C、…、Cは、線形デジタルフィルタのタップ利得である。式(7)において、jは、1からuまでの整数を表す。
【0052】
【数7】
【0053】
タップ利得C、C、…Cの値は、識別回路4がシンボル判定を行う過程で更新され得る値である。以下、タップ利得C、C、…Cを区別しない場合、タップ利得Cという。
なお、伝送路短縮部41は、圧縮処理が可能な回路であれば、どのような回路であってもよく、例えば、FIR(Finite Impulse Response)フィルタであってもよい。
【0054】
図6は、第1の実施形態の部分シンボル列を説明する説明図である。系列長がNのシンボル列のうちのu個のシンボルが、伝送路短縮部に入力される。
【0055】
第一伝送路推定部42は、時刻tにおける伝送路の状態μに基づいて、所定のボルテラ核を有するボルテラ級数で表される関数を推定伝達関数H’として求める。第一伝送路推定部42は、適応非線形デジタルフィルタを備える。第一伝送路推定部42が備える適応非線形デジタルフィルタは、2次のボルテラフィルタである。なお、ボルテラフィルタは必ずしも2次でなくてもよく、2次よりも高次のボルテラフィルタであってもよい。
第一伝送路推定部42が出力する推定伝達関数H’は、以下の式(8)によって表される。
【0056】
【数8】
【0057】
なお、vは、非線形デジタルフィルタの記憶長である。また、h、h、…、h、h11、h12、…、hvvは、第一伝送路推定部42の2次のボルテラ級数におけるボルテラ核(すなわち、係数)である。第一伝送路推定部42のボルテラ核は、識別回路4がシンボル判定を行う過程で更新され得る値である。s’t−v+1、…、s’は、時刻tにおける伝送路3の状態μ=(s’t−v+1,…,s’,…,s’)において伝送路3を伝搬する情報シンボル列である。以下、式(8)における(s’t−v+1,…,s’,s’t−v+1s’t−v+1,s’t−v+1s’t−v+2,…,s’s’)を入力要素という。
【0058】
なお、もし仮に伝送路短縮部41において適応非線形デジタルフィルタを用いる場合、非線形な伝達関数を通過した情報シンボル列に、重ねて非線形な演算を行うため、高次成分が発生してしまう可能性がある。さらに、逐次演算において情報シンボル列に対し非線形演算を行うため、演算量が爆発してしまう。
一方、伝送路推定部において適応非線形デジタルフィルタを用いる場合、時刻tにおける伝送路のステートμ=(s’t−v+1,…,s’)に対して非線形な演算を行うため、余分な高次成分が発生する心配がない。また、2次項を含む第一伝送路推定部42への入力要素(s’t−v+1,…,s’,s’t−v+1s’t−v+1,s’t−v+1s’t−v+2,…,s’s’)は不変であるため、適応非線形デジタルフィルタにおける2次の演算が入力要素の準備のみとなり、逐次演算量を削減することが可能である。
【0059】
適応非線形フィルタを用いることで、識別回路4の識別精度は向上するが、伝送路短縮部41と第一伝送路推定部42において、十分な性能を得るために必要なタップの数に大きな違いがある。具体的には、例えば、伝送路短縮部41では数十オーダー、第一伝送路推定部42では数個レベルである。そのため、それぞれで用いるフィルタを適応非線形フィルタとした際に増大する演算量に大きな差が出る。したがって、伝送路短縮部41に適応非線形フィルタを用いるより、第一伝送路推定部42に用いた方が全体的な演算量増大を大幅に抑えることができる。
【0060】
加算比較選択処理部43は、伝送路短縮部41の出力と、第一伝送路推定部42の出力とに基づいて、メトリックbを以下の式(9)によって算出する。加算比較選択処理部43は、さらに、算出したメトリックbと、式(4)〜(6)とに基づいて、d_min(μ)を算出する。
【0061】
【数9】
【0062】
パス遡り判定部44は、時刻tにおいて伝送路状態μに到達する距離関数がd_min(μ)となるような、ビタビ・アルゴリズムのトレリスのパスの始点となる伝送路状態を選択する。パス遡り判定部44は、選択した伝送路状態に基づいて、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルの推定値を算出する。以下、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルの推定値をAといい、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルの値を推定値Aに置き換えたシンボル列を、推定シンボル列{A}という。
【0063】
第一伝送路推定部42の記憶長の数倍程度遡れば、ビタビ・アルゴリズムのトレリスのパスは収束することが知られている。また、遡る伝送路状態の数(以下「遡り数」という。)を固定値とすることで、シンボル判定の処理における演算量の増大を抑制することができる。
【0064】
第二伝送路推定部45は、第一伝送路推定部42と同じ適応非線形デジタルフィルタを備え、第一伝送路推定部42のボルテラ核の値を更新するための値を算出する。第二伝送路推定部45は、(v−1)T時間だけ遅延させられた推定シンボル列{A}を取得して、式(8)による推定伝達関数H’の算出の代わりに、以下の式(10)で表される関数H’’(以下「更新用関数H’’」という。)を算出する。
【0065】
【数10】
【0066】
h’、h’、…、h’、h’11、h’12、…、h’vvは、第二伝送路推定部45の2次のボルテラ級数におけるボルテラ核(すなわち、係数)である。第二伝送路推定部45のボルテラ核は、識別回路4がシンボル判定を行う過程で更新され得る値である。
【0067】
遅延生成部46は、フィルタ更新アルゴリズム部へ入力される圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させる。wは、遡り数である。
【0068】
フィルタ更新アルゴリズム部47は、圧縮シンボル列、推定シンボル列{A}、及び更新用関数H’’を取得して、伝送路短縮部41のタップ利得Cの値と、第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値とを更新する。
【0069】
フィルタ更新アルゴリズム部47は、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列と、推定シンボル列{A}との差(以下「タップ利得更新用評価値」という。)を用いて、伝送路短縮部41のタップ利得Cの値を更新する。更新に際しては、RLS(Recursive Least Square)アルゴリズム又はLMS(Least Mean Square)アルゴリズム等の反復近似解法のアルゴリズムを用いる。
【0070】
タップ利得Cの更新に用いる推定シンボル列{A}は、パス遡りによる判定の際に生じる遅延によって、wT時間だけ遅延したシンボル列である。フィルタ更新アルゴリズム部47においてタップ利得Cを更新する際には、圧縮シンボル列と、推定シンボル列{A}とのフィルタ更新アルゴリズム部47への入力タイミングは同じである必要がある。
そのため、フィルタ更新アルゴリズム部47は、タップ利得Cの値を更新する際には、wT時間だけ遅延させられた圧縮シンボル列を用いる。
【0071】
フィルタ更新アルゴリズム部47は、推定シンボル列{A}を入力としたときの更新用関数H’’の出力と、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列との差(以下「ボルテラ核更新用評価値」という。)を用いて、第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値とを更新する。更新後の第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値とは同じ値である。
更新に際しては、RLSアルゴリズム又はLMSアルゴリズム等の反復近似解法のアルゴリズムを用いる。
【0072】
第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値との更新(以下「ボルテラ核更新」という。)において、圧縮シンボル列と、更新用関数H’’の出力とのフィルタ更新アルゴリズム部47への入力タイミングは同じである必要がある。ボルテラ核更新に用いる推定シンボル列{A}は、上記の通り、パス遡りによる判定の際に生じる遅延によって、wT時間だけ遅延したシンボル列である。そのため、第二伝送路推定部45による更新用関数H’’の算出に際して、(v−1)T時間だけ遅延させられた推定シンボル列{A}を用いることで、フィルタ更新アルゴリズム部47におけるボルテラ核更新の際に、圧縮シンボル列と、更新用関数H’’の出力とのフィルタ更新アルゴリズム部47への入力タイミングは同じになる。
【0073】
図7は、第1の実施形態の識別回路4におけるシンボル判定の具体的な処理の流れを示すフローチャートである。
【0074】
識別回路4は、m値電気情報シンボル列を取得する(ステップS101)。伝送路短縮部41が、ステップS101にて取得されたm値電気情報シンボル列の部分シンボル列に対して、圧縮処理を実行し、圧縮シンボル列を出力する(ステップS102)。第一伝送路推定部42が、時刻tにおける伝送路の状態μに基づいて推定伝達関数H’を算出する(ステップS103)。加算比較選択処理部43が、ステップS102及びステップS103にて出力された圧縮シンボル列と推定伝達関数H’とに基づいて、メトリックbを算出する。さらに、加算比較選択処理部43は、最小距離d_min(μ)を算出する(ステップS104)。パス遡り判定部44が、最小距離d_min(μ)に基づき、ビタビ・アルゴリズムを用いて、推定シンボル列{A}を算出する(ステップS105)。
第二伝送路推定部45が、推定シンボル列{A}を入力としたときの更新用関数H’’の出力を算出する(ステップS106)。フィルタ更新アルゴリズム部47が、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列と、推定シンボル列{A}を入力としたときの第二伝送路推定部45の出力との差であるタップ利得更新用評価値が、予め定められた所定の値(タップ用目標値)より大きいか否かを判定する(ステップS107)。
【0075】
タップ利得更新用評価値が、タップ用目標値以上である場合(ステップS107:No)、フィルタ更新アルゴリズム部47は、タップ利得の値を、タップ利得更新用評価値に基づいた変化量だけ変化させる(ステップS108)。次に、フィルタ更新アルゴリズム部47は、推定シンボル列{A}を入力としたときの更新用関数H’’の出力と、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列との差であるボルテラ核更新用評価値が、予め定められた所定の値(ボルテラ用目標値)より大きいか否かを判定する(ステップS109)。ボルテラ核更新用評価値が、ボルテラ用目標値より小さい場合(ステップS109:Yes)、ステップS102に戻る。一方、ボルテラ核更新用評価値が、ボルテラ用目標値以上である場合(ステップS109:No)、フィルタ更新アルゴリズム部47は、ボルテラ核の値を、ボルテラ核更新用評価値に基づいた変化量だけ変化させる(ステップS110)。
【0076】
ステップS110の処理で全シンボルの推定が終了した場合(ステップS111:Yes)、識別回路4は、ステップS105において得られた推定シンボル列{A}を、推定結果として出力する(ステップS112)。
一方、ステップS111の処理で全シンボルの推定が終了していない場合(ステップS111:No)、ステップS102の処理に戻る。
一方、ステップS107において、タップ利得更新用評価値が、タップ用目標値より小さい場合(ステップS107:Yes)、ステップS108の処理が省略され、ステップS109が実行される。
【0077】
図8は、第1の実施形態の識別回路4を用いたシンボル判定の実験結果と、従来の識別回路8を用いたシンボル判定の実験結果とを示す図である。
図8に示す実験結果は、横軸がBER(Bit Error Rate)を表し、横軸が、識別回路4又は識別回路8への情報シンボルを送信する光の入力パワーを示す。図8は、実施形態の識別回路4を用いたシンボル判定の方が、BERが低いことを示す。
【0078】
このように構成された実施形態の識別回路4は、入力の一部を圧縮する伝送路短縮部41と、ボルテラ級数展開によって伝達関数を推定する第一伝送路推定部42とを備えるため、演算量増大を抑えたMLSEによるシンボル判定方法を提供することができる。
【0079】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態の通信システム100aの具体的なシステム構成示す図である。通信システム100aは、識別回路4に代えて識別回路4aを備える点で、通信システム100と異なる。以下、同じ機能をもつものに対しては、図1と同じ符号を付すことで説明を省略する。
【0080】
識別回路4aは、識別回路4と同様に、m値電気情報シンボル列{r}を取得して、m値電気情報シンボル列{s}の各シンボルの推定値を取得するシンボル判定を行う。
【0081】
図10は、第2の実施形態の識別回路4aの機能構成の具体例示す図である。識別回路4aは、フィルタ更新アルゴリズム部47に代えて、第一フィルタ更新アルゴリズム部47a(フィルタ更新部)及び第二フィルタ更新アルゴリズム部47b(フィルタ更新部)を備える点で識別回路4と異なる。以下、同じ機能を持つものに対しては、図5と同じ符号を付すことで説明を省略する。
【0082】
第一フィルタ更新アルゴリズム部47aは、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列と、推定シンボル列{A}との差(以下「タップ利得更新用評価値」という。)を用いて、伝送路短縮部41のタップ利得Cの値を更新する。更新に際しては、RLS(Recursive Least Square)アルゴリズム又はLMS(Least Mean Square)アルゴリズム等の反復近似解法のアルゴリズムを用いる。
【0083】
タップ利得Cの更新に用いる推定シンボル列{A}は、パス遡りによる判定の際に生じる遅延によって、wT時間だけ遅延したシンボル列である。第一フィルタ更新アルゴリズム部47aにおいてタップ利得Cを更新する際には、圧縮シンボル列と、推定シンボル列{A}との第一フィルタ更新アルゴリズム部47aへの入力タイミングは同じである必要がある。そのため、第一フィルタ更新アルゴリズム部47aは、タップ利得Cの値を更新する際には、wT時間だけ遅延させられた圧縮シンボル列を用いる。
【0084】
第二フィルタ更新アルゴリズム部47bは、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列と、推定シンボル列{A}を入力としたときの第二伝送路推定部45の出力との差(すなわち、ボルテラ核更新用評価値)を用いて、第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値とを更新する。更新後の第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値とは同じ値である。更新に際しては、RLSアルゴリズム又はLMSアルゴリズム等の反復近似解法のアルゴリズムを用いる。
【0085】
第一伝送路推定部42のボルテラ核の値と、第二伝送路推定部45のボルテラ核の値との更新(すなわち、ボルテラ核更新)において、更新用関数H’’の出力と、推定シンボル列{A}との第二フィルタ更新アルゴリズム部47bへの入力タイミングは同じである必要がある。ボルテラ核更新に用いる推定シンボル列{A}は、上記の通り、パス遡りによる判定の際に生じる遅延によって、wT時間だけ遅延したシンボル列である。そのため、第二伝送路推定部45による更新用関数H’’の算出に際して、(v−1)T時間だけ遅延させられた推定シンボル列{A}を用いることで、第二フィルタ更新アルゴリズム部47bにおけるボルテラ核更新の際に、更新用関数H’’の出力と、推定シンボル列{A}との第二フィルタ更新アルゴリズム部47bへの入力タイミングは同じになる。
【0086】
(変形例)
なお、第1の実施形態の通信システム100及び第2の実施形態の通信システム100aは、伝送路短縮部41と第一伝送路推定部42とを適応デジタルフィルタとすることで、事前のタップ利得トレーニングを必要としない、ブラインド推定によるシンボル判定を行うことが可能となる。このような場合、適応デジタルフィルタを正常に動作させるためには、タップ係数およびボルテラ核の更新を的確に行う必要がある。
なお、光伝送路の特徴として波形歪みの要因(帯域制限、波長分散)の変動速度が非常に遅い事が挙げられる。そのため、光電界系列推定の優位性として、伝送路短縮部41と第一伝送路推定部42を適応デジタルフィルタとし、事前にタップ利得トレーニングを行い、タップ係数、およびボルテラ核の逐次更新を行わないことで、通信システム100におけるシンボル判定処理での大幅な演算量の削減が可能となる事が挙げられる。
事前のタップ利得トレーニングには既知のランダムシンボル系列が必要である。図11は、事前のタップ利得トレーニングを行う場合の通信システム100の説明図である。図11においては、トレーニング情報シンボル列A’として、PRBS(Pseudo Random Binary Sequence: 疑似ランダム・ビット・シーケンス)を繰り返した情報ビット列をm値電気情報シンボル列に変換したシンボル列を用いることとする。トレーニング情報シンボル列A’を送信し、受信したm値電気信号系列{r}を識別回路によって判定した情報シンボル列Aは、受信したタイミングにより情報シンボル列A’の始点からずれていることが考えられる(オフセット)。この時の識別回路では、高い精度を必要としないため、第1の実施形態又は第2の実施形態の識別回路を用いる必要はない。そこで情報シンボル列Aと情報シンボル列A’との相関を取り、オフセットを考慮したトレーニング情報シンボル列A’を再度送信し、識別回路の適応デジタルフィルタ更新を判定結果である情報シンボル列Aの代わりにトレーニング情報シンボル列A’によって行う。これにより、正しい判定結果を反映したタップ係数、およびボルテラ核の更新、収束が可能となる。
また、光伝送路の変動を考慮する際はメトリックbを算出した際の最小値が一定の閾値を超えた場合、伝送路短縮部41のタップ利得Cと第一伝送路推定部42のボルテラ核とを更新する。メトリックbが小さいほど系列推定の判定結果の尤度が大きくなるため、メトリックbの大小が系列推定の精度に大きく関わる。閾値が小さいと、伝送路の細かい変動に対しても適応デジタルフィルタが追従するようになり、逆に閾値が大きいと、伝送路がある程度変動しても更新しないことになる。そのため、この閾値の大小で、フィルタ更新の計算量と、系列推定の精度のトレードオフを調節することができる。この手法を用いる際、ビタビ・アルゴリズムにおいてパスメトリックに加えてメトリックbの比較も行うことになるので、光伝送路の変動を考慮しない場合と比較して演算量は増えることになるが、光伝送路の変動に対して、安定した動作を実現できる。また、この手法は上述した、事前のタップ利得トレーニングを行わない場合でも演算量削減に有効な手法である。
上記のメトリックbの比較による演算量増大を避ける場合は、フィルタ更新のタイミングを所定のXの値を示すシンボル受信するたびに1回行うように所定のXの値を定めることで、フィルタ更新頻度を間引き、演算量削減が可能になる。この手法も事前のタップ利得トレーニングを行わない場合でも演算量削減に有効な手法である。
ブラインド推定によるシンボル判定を行う場合、タップ利得の値とボルテラ核の値とは、具体的には、第1シンボル列と第2シンボル列との差に基づいて更新される。第1シンボル列は、トレーニング情報シンボル列A’が送信信号として伝搬された場合であって伝送路短縮部41が取得したシンボル列が入力された場合における、伝送路短縮部41が出力した圧縮シンボル列である。第2シンボル列は、トレーニング情報シンボル列A’が入力された場合における第二伝送路推定部45の出力である。
【0087】
なお、タップ利得更新用評価値は、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列と、推定シンボル列{A}を入力としたときの第二伝送路推定部45の出力との差であってもよい。
【0088】
なお、第一フィルタ更新アルゴリズム部47aは、距離関数の値を参照し所定の値と比較することで線形デジタルフィルタのタップ利得を更新するか否かを決定してもよい。
【0089】
なお、ボルテラ核更新用評価値は、圧縮シンボル列をwT時間だけ遅延させたシンボル列と、推定シンボル列{A}を入力としたときの第二伝送路推定部45の出力との差であってもよい。
【0090】
なお、第二フィルタ更新アルゴリズム部47bは、距離関数の値を参照し所定の値と比較することでボルテラ核の値を更新するか否かを決定してもよい。なお、第二フィルタ更新アルゴリズム部47bは、第一フィルタ更新アルゴリズム部47aと一体に構成されてもよい。
【0091】
なお、第一伝送路推定部42は、伝送路推定部の一例である。
【0092】
上述した実施形態における識別回路4及び4aをコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA(Field Programmable Gate Array)等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1…信号生成部、 2…光強度変調部、 3…伝送路、 4…識別回路、 31…光ファイバ、 32…受光器、 41…伝送路短縮部、 42…第一伝送路推定部、 43…加算比較選択処理部、 44…パス遡り判定部、 45…第二伝送路推定部、 46…遅延生成部、 47…フィルタ更新アルゴリズム部、 4a…識別回路、47a…第一フィルタ更新アルゴリズム部、 47b…第二フィルタ更新アルゴリズム部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12