特許第6860834号(P6860834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6860834カーボンナノホーン集合体の製造部材及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6860834
(24)【登録日】2021年3月31日
(45)【発行日】2021年4月21日
(54)【発明の名称】カーボンナノホーン集合体の製造部材及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/18 20170101AFI20210412BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20210412BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20210412BHJP
【FI】
   C01B32/18
   B01J23/745 M
   B01J23/75 M
   B01J23/755 M
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-535534(P2019-535534)
(86)(22)【出願日】2017年8月10日
(86)【国際出願番号】JP2017029073
(87)【国際公開番号】WO2019030890
(87)【国際公開日】20190214
【審査請求日】2020年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】弓削 亮太
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/096705(WO,A1)
【文献】 特開2005−350275(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/069743(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/147909(WO,A1)
【文献】 特開2001−168061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/18
B01J 23/745
B01J 23/75
B01J 23/755
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光の照射により繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体を製造可能なFe、Ni、Coの単体又はこれらの2種又は3種の混合物から選択される金属触媒を含有する炭素ターゲットの複数と、該炭素ターゲットを固定するターゲット固定治具との組みあわせからなる製造部材であって、
前記ターゲット固定治具は、平板状の部材に前記ターゲットをそれぞれ固定する複数の溝を有し、
前記炭素ターゲットは、該溝から前記固定治具上面以上の高さとなる厚みを有し、前記炭素ターゲットの幅が、該幅方向の前記レーザー光のスポットの大きさより大きいことを特徴とする製造部材。
【請求項2】
前記ターゲット固定治具は、銅、アルミニウム、タングステン、モリブデン、クロムから選択される金属、これら金属を含む合金、セラミックス、ダイヤモンド又は前記金属又は合金との複合体から選択される1種を含む請求項1に記載の製造部材。
【請求項3】
前記レーザー光のスポット径が0.5mm〜5mm、前記固定治具の溝の幅が1mm〜20.5mm、前記ターゲットの厚みが1mm〜20mmの範囲である、請求項1又は2に記載の製造部材。
【請求項4】
前記固定治具の溝間の距離が1〜10mmの範囲である請求項3に記載の製造部材。
【請求項5】
前記ターゲットの形状は、前記固定治具の溝に係合する四角柱構造、半円柱半角柱構造、円柱状構造の何れかである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造部材。
【請求項6】
前記触媒が、Feであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造部材を用いた繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
内部を非酸化性雰囲気に維持可能な生成チャンバ内に前記製造部材を配置する工程と、
前記生成チャンバ内を前記非酸化性雰囲気に維持するガスを導入する工程と、
前記固定治具の溝に固定された炭素ターゲットに連続して一列のレーザー光の照射を行った後、隣接する溝に固定されたレーザー光未照射の炭素ターゲットに連続して一列のレーザー光の照射を行う工程と、
前記レーザー光の照射によって生成した生成物を前記ガスの流れによって回収する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記製造部材を前記レーザー光の照射方向に対して傾けて配置することで、前記レーザー光の照射によって前記炭素ターゲットから発生するプルームに前記レーザー光が当たらないようにすることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造部材が移動可能に載置され、内部を非酸化性雰囲気に維持可能な生成チャンバと、
前記生成チャンバ内の前記炭素ターゲットにレーザー光を照射する手段と、
前記製造部材を前記溝の延在方向に移動し、且つ、一つの溝内の前記炭素ターゲットにレーザー光の照射が完了した際に、隣接する溝にレーザー光の照射位置を移動させる移動手段と、
前記炭素ターゲットにレーザー光を照射して生成する繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体を回収可能な回収手段と、
を備える繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体の製造部材及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭素材料は、導電材、触媒担体、吸着剤、分離剤、インク、トナーなどとして利用されており、近年ではカーボンナノチューブ、カーボンナノホーン集合体等のナノサイズの大きさを有するナノ炭素材の出現で、その構造体としての特徴が注目されている。
【0003】
本発明者は、従来の球状のカーボンナノホーン集合体(CNHsという)とは異なり、カーボンナノホーンが放射状に集合し、且つ、繊維状に伸びた構造を有する繊維状のカーボンナノホーン集合体(カーボンナノブラシ:CNBという)を見出した(特許文献1)。CNBは、触媒を含んだ炭素ターゲットを回転させながら、レーザーアブレーションにより作製する(特許文献1)。
【0004】
また、従来のCNHsを製造する装置が特許文献2に開示されている。特許文献2の装置は、シート状のグラファイトターゲットを保持するターゲット保持手段と、前記グラファイトターゲットの表面に光を照射する光源と、前記ターゲット保持手段に保持された前記グラファイトターゲットと前記光源のうち一方を他方に対して相対的に移動させ、前記グラファイトターゲットの表面における前記光の照射位置を移動させる移動手段と、前記光の照射により前記グラファイトターゲットから蒸発した炭素蒸気を回収し、ナノカーボンを得る回収手段と、前記グラファイトターゲットの表面に照射される前記光のパワー密度が略一定となるように前記移動手段または前記光源の動作を制御する制御部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2016/147909号公報
【特許文献2】特許第4581997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CNBは、触媒を含んだ炭素ターゲットにレーザー照射することで得られ、CNBとCNHsが共に生成される。この際、生成物中のCNBの割合が非常に少なく、CNBを工業的に生産する方法は確立されていない。
特に、レーザー照射痕付近のターゲットの触媒が蒸発し、且つ、熱により炭素の変質層が形成されるためCNBを連続生成することができない。照射痕付近のターゲットが使用できないため、ターゲットを効率的に使用できず低コスト化が困難である。さらに、照射痕付近の触媒が蒸発してしまうため、生成したCNBに必要以上に多くの触媒が存在することがある。
【0007】
本発明では、CNBを工業的に生産するターゲットを備えた固定治具を含む製造部材及び該製造部材を含む装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の一形態によれば、
レーザー光の照射により繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体を製造可能なFe、Ni、Coの単体又はこれらの2種又は3種の混合物から選択される金属触媒を含有する炭素ターゲットの複数と、該炭素ターゲットを固定するターゲット固定治具との組みあわせになる製造部材であって、前記ターゲット固定治具は、平板状の部材に前記ターゲットをそれぞれ固定する複数の溝を有し、前記炭素ターゲットは、該溝から前記固定治具上面以上の高さとなる厚みを有し、前記炭素ターゲットの幅が、該幅方向の前記レーザー光のスポットの大きさより大きいことを特徴とする製造部材、が提供される。
【0009】
本発明の一態様によれば、上記製造部材を用いた繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体の製造方法であって、
内部を非酸化性雰囲気に維持可能な生成チャンバ内に前記製造部材を配置する工程と、
前記生成チャンバ内を前記非酸化性雰囲気に維持するガスを導入する工程と、
前記固定治具の溝に固定された炭素ターゲットに連続して一列のレーザー光の照射を行った後、隣接する溝に固定されたレーザー光未照射の炭素ターゲットに連続して一列のレーザー光の照射を行う工程と、
前記レーザー光の照射によって生成した生成物を前記ガスの流れによって回収する工程と、
を含むことを特徴とする製造方法が提供される。
また、本発明の一形態によれば、上記製造部材が移動可能に載置され、内部を非酸化性雰囲気に維持可能な生成チャンバと、前記生成チャンバ内の前記炭素ターゲットにレーザー光を照射する手段と、前記製造部材を前記溝の延在方向に移動し、且つ、一つの溝内の前記炭素ターゲットにレーザー光の照射が完了した際に、隣接する溝にレーザー光の照射位置を移動させる移動手段と、前記炭素ターゲットにレーザー光を照射して生成する繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体を回収可能な回収手段とを備える繊維状のカーボンナノホーン集合体を含むカーボンナノホーン集合体の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一形態によれば、繊維状のカーボンナノホーン集合体(CNB)の工業的に製造するためのターゲットと固定治具の組み合わせになる製造部材、及び該製造部材を搭載する製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態例に係るカーボンナノホーン集合体の製造用のターゲット固定治具の概略図であり、(a)は平面図、(b)は側面図を示す。
図2】本発明の一実施形態例に係るカーボンナノホーン集合体の製造用のターゲットとターゲット固定治具の組みあわせになる製造部材の概略図であり、(a)は平面図、(b)は側面図を示す。
図3】本発明の一実施形態例に係る製造部材の他の例を説明する概略図である。
図4】本発明の一実施形態例に係る製造部材を搭載した製造装置の概略側面図(a)とレーザー光照射時の概略を示す斜視図(b)である。
図5】シート状ターゲットにレーザー光を照射した際の変質領域を示す走査型電子顕微鏡像である。
図6】一実施形態例によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の透過型電子顕微鏡写真である。
図7】一実施形態例によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体と球状のカーボンナノホーン集合体の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施の形態を説明する。
図6は、本発明の一実施形態例によって作製された繊維状のカーボンナノホーン集合体(CNB)と球状のカーボンナノホーン(CNHs)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。図7は走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。CNBは、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタルダリア型、ペタル型(グラフェンシート構造)のカーボンナノホーン集合体が一次元的に繋がった構造を有する。すなわち、単層カーボンナノホーンが放射状に集合体化し、且つ、繊維状に伸びている構造を有する。従って、繊維状構造中に1種類または複数のこれらカーボンナノホーン集合体が含まれている。種型とは、繊維状構造の表面に角状の突起がほとんどみられない、あるいは全くみられない形状、つぼみ型は繊維状の構造の表面に角状の突起が多少みられる形状、ダリア型は繊維状構造の表面に角状の突起が多数みられる形状、ペタル型は繊維状構造の表面に花びら状の突起がみられる形状である(グラフェンシート構造)。ペタル−ダリア型はダリア型とペタル型の中間的な構造である。また、繊維状のカーボンナノホーン集合体の内部には、カーボンナノチューブ(CNT)が含まれていることがある。これは、本実施形態例に係る繊維状のカーボンナノホーン集合体が、以下のような生成メカニズムによるものと考えられる。
【0013】
すなわち、(1)レーザー照射により触媒含有炭素ターゲットが急激に加熱され、それによって、ターゲットから炭素と触媒が一気に気化し、高密度の炭素蒸発により、プルームを形成する。(2)その際、炭素は互いの衝突によりある程度の大きさの揃った炭素液滴を形成する。(3)炭素液滴は拡散していく過程で、徐々に冷え炭素のグラファイト化が進みチューブ状のカーボンナノホーンが形成する。この時炭素液滴に溶け込んだ触媒から、カーボンナノチューブも成長する。そして、(4)カーボンナノチューブをテンプレートにしてカーボンナノホーンの放射状構造が一次元的に繋がっていき、繊維状のカーボンナノホーン集合体が形成される。
【0014】
図6中の非透過の粒子は、使用した金属触媒含有炭素材料に由来する金属を示す。以下の説明では繊維状と球状のカーボンナノホーン集合体を合わせて、単にカーボンナノホーン集合体ということがある。
【0015】
カーボンナノホーン集合体を構成しているそれぞれのカーボンナノホーン(単層カーボンナノホーンという)の直径はおおよそ1nm〜5nmであり、長さは30nm〜100nmである。CNBは、直径が30nm〜200nm程度で、長さが1μm〜100μm程度とすることができる。一方、CNHsは、直径が30nm〜200nm程度でほぼ均一なサイズである。
【0016】
同時に得られるCNHsは、種型、つぼみ型、ダリア型、ペタル−ダリア型、ペタル型が単独で、または、複合して形成される。種型は球状の表面に角状の突起がほとんどみられない、あるいは全くみられない形状、つぼみ型は球状の表面に角状の突起が多少みられる形状、ダリア型は球状の表面に角状の突起が多数みられる形状、ペタル型は球状の表面に花びら状の突起がみられる形状である(グラフェンシート構造)。ペタル−ダリア型はダリア型とペタル型の中間的な構造である。CNHsは、CNBと混在した状態で生成される。生成するCNHsの形態及び粒径は、ガスの種類や流量によって調整することができる。
【0017】
なお、CNBとCNHsとは、遠心分離法や、溶媒に分散した後沈降速度の違いなどを利用して分離することが可能である。CNBの分散性を維持するにはCNHsと分離せずにそのまま使用することが好ましい。本実施形態例で得られるCNBは、単層カーボンナノホーンが繊維状に集合していれば良く、上記の構造のみに限定されない。なお、ここでいう「繊維状」とは、上記の分離操作を行ってもその形状をある程度維持できるものをいい、単にCNHsが複数連なって、一見繊維状に見えるものとは異なる。また、動的光散乱測定による粒度分布測定では、CNBはCNHsとは明確に異なる粒子サイズ領域にピークが確認できる。
【0018】
CNBは、他の針状構造を有する炭素材料、例えば、炭素繊維やカーボンナノチューブと比較して高分散性を有している。また、これらCNBおよびCNHsは、お互いが放射状構造を持つため、界面での接点が多く強固に吸着し、且つ、他の部材とも強固な吸着をする。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るCNBの製造用のターゲット固定治具1を示す、平面図及び側面図である。本実施形態例に係る固定治具は、平板状の基材に対してターゲットを固定保持するための複数の溝1aを有している。それぞれの溝1aには、図2に示すように、CNB製造用の触媒を含む炭素ターゲット2が固定されている。ここで、溝1aの幅(ターゲット2の幅の基準となる)aは、ターゲット固定治具1の基材にはレーザー光が照射されないように幅aを設定する。すなわち、ターゲットの幅が後述するように照射されるレーザー光の照射領域よりも大きな幅となるように設定される。幅aは、任意の値に設定できるが、例えば幅aは、1mm〜20.5mmの幅に設定することができる。また、炭素ターゲット2の幅を、固定治具1の溝1aの幅aより僅かに小さくしはめ込むことで、取り外しを容易にすることができる。固定には、レーザー光が照射されるターゲット面以外の面、例えば、角柱の長手方向の両端面に固定治具1に設けた爪などで固定するなどの公知の方法で固定することができる。ターゲットの厚さbは、任意の値に設定できるが一度のレーザー光の照射ですべて蒸発する程度の厚さとすることが好ましく、例えば、1〜20mmの厚さに設定することができる。ここで、炭素ターゲット2が、溝1aから固定治具1の上面以上の高さとなる厚みとなるよう、溝1aの深さ、炭素ターゲット2の厚みbを設定する。
【0020】
ターゲット固定治具1の基材は、放熱性の良好な材料で構成されることが好ましく、例えば、ステンレス、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)から選択される金属、これら金属を含む合金、セラミックス、ダイヤモンド又は前記金属又は合金との複合体から選択される1種を含むことができる。また、隣接するターゲット間の距離cは、特に制限はないが、一つの平板状の固定治具1に対してできるだけ多くのターゲットを載置する観点から、狭い方が好ましい。しかしながら、隣接するターゲットからの熱の影響を少なくする観点から、ある程度の距離を開けることも好ましい。例えば、距離cは1〜10mmの範囲とすることができる。
【0021】
このように、放熱性の良好な基材で構成される固定治具の溝を所定の間隔で配置することで、ターゲットがレーザー光の照射により加熱した際には、発生した熱が隣接する溝に配置された別のターゲットに到達する前に散逸し、未使用のターゲットに影響することがない。
【0022】
このような溝に配置することなく、1枚のシート状のターゲットを使用した場合、複数の列にレーザー光を照射することが考えられる。しかしながら、レーザーアブレーションにより炭素ターゲットにレーザー光を照射して蒸発させる方式では、レーザー光が照射された周辺部分も熱的な影響を受けて、炭素質の結晶状態や触媒金属の分布などが変化する(変質領域という)。図5には、レーザー照射後のターゲット2の変質領域32の一例を示している。図5の走査型電子顕微鏡像の点線部までは、照射後にターゲットへの影響があると思われ、本発明ではこの領域を変質領域とする。
【0023】
図2において、固定治具1の溝1aに載置するターゲット2として角柱状のターゲットを示しているが、ターゲットの形状については角柱状に限定されない。例えば、図3に示すように、半円柱半角柱状(かまぼこ状)や、円柱状のターゲットを用いることができる。また、固定治具1の溝の形状としても、使用するターゲットが固定可能であればどのような形状であってもよい。図3では、ターゲット2の底面の形状に合うように溝11を設けているが、これに限定されず、三角形状や五角形状などの多角形状でもよい。
【0024】
図4(a)は、本実施例のターゲットと固定治具の組み合わせを用いたCNBの製造装置の概略を示す図である。該装置は、窒素ガス又は希ガス(Ar等)などの非酸化性雰囲気中でFe、Ni、Coの単体又はこれらの2種又は3種の混合物から選択される金属触媒を含有する炭素ターゲット2にレーザー光線Lを照射して炭素をプルームPとして蒸発させ、CNBを含むカーボンナノホーン集合体を製造する装置である。この装置は、カーボンナノホーン集合体を生成するための生成チャンバ4と、この生成チャンバ4に搬送管7によって連結された回収チャンバ8とを備えている。
【0025】
生成チャンバ4には、金属触媒を含有する炭素ターゲット2を保持したターゲット固定治具1を移動方向TD1に移動させるための移動手段3が設けられている。また、移動手段3は、炭素ターゲット2を紙面の手前から奥の移動方向TD2に移動させることができる。
【0026】
また、生成チャンバ4は、レーザー発振器11(例えば、炭酸ガスレーザー発振器)からのレーザー光Lを生成チャンバ4内のターゲット2に照射するためのレーザー照射窓5(例えば、ZnSe製窓)を有している。また、レーザー発振器11とレーザー照射窓5との間には、レーザー光を所定位置に集光させるためのレーザー焦点位置調節機構10(例えば、ZnSe製レンズ)が設けられている。
【0027】
また、生成チャンバ4には、不図示のガス配管が連結されており、非酸化性ガス(窒素ガスやArガス等の希ガス)を生成チャンバ4内に導入するためのものであり、ガスボンベ(不図示)に連結されている。ここでは、レーザー照射窓5の設けられる空間に連結された導入口6からガスが導入され、レーザー光と共にターゲット2に向かう流れが形成されている。また、回収チャンバ8には排気口9が設けられており、ガスの流れに沿って生成物が生成チャンバ4から回収チャンバ8に回収される。回収チャンバ8には、生成したCNBを含むカーボンナノホーン集合体を回収するための回収容器12がバルブを介して取り付けられている。また、回収チャンバ8には、生成したCNBを含むカーボンナノホーン集合体が排気口9に行かないようにバグフィルターが取り付けられている(不図示)。
図4(b)は、ターゲット2へのレーザー照射を説明する斜視図である。ターゲット2に対してレーザー光を照射するとレーザースポット(LS)が形成される。レーザースポットのターゲット幅方向の大きさをdとすると、ターゲットの幅aは、a>dの関係を有する。現実的には、レーザースポットの両側にわずかにターゲットが残るように、ターゲットの中心軸とレーザースポットの中心が一致するようにレーザー光を照射する。
【0028】
生成チャンバ4では、ターゲット1の表面に照射されるレーザー光Lのパワー密度が略一定となるように移動させることが好ましい。このとき、レーザースポットの移動速度が遅すぎると、ターゲットから原料が蒸発できずにターゲット上に堆積物として析出する。この析出物は、主にグラファイトやカーボンナノチューブであり、一部CNHsが生成するがCNBは生成しなくなる。詳細については明らかではないが、わずかに蒸発した原料はCNHsの生成に消費され、CNBが生成しなくなると考えられる。また、移動速度が速くなりすぎても、主にCNHsになり、CNBが生成しなくなる。そのため、移動速度は、レーザーパワー、レーザーのスポット径、触媒含有炭素ターゲットの触媒量に応じて適宜最適となるように設定する。例えば、0.05cm/秒〜10cm/秒の範囲に設定することができる。
【0029】
ここで、「レーザー光のパワー密度が略一定となるようにレーザー照射位置を移動させ」るとは、レーザー光の照射位置(スポット)が漸次一定速度で移動することで、ほぼ一定のパワー密度となる。
【0030】
レーザーアブレーションには、COレーザー、エキシマレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー等、ターゲットを高温に加熱できるものであれば適宜使用可能で、高出力化が容易なCOレーザーが最も適当である。COレーザーの出力は、適宜利用できるが、1.0kW〜10kWの出力が好ましく、2.0kW〜5.0kWの出力がより好ましい。この出力よりも小さいと、ほとんどターゲットが蒸発しないため、生成量の観点から好ましくない。これ以上だと、グラファイトやアモルファスカーボン等の不純物が多くなるので好ましくない。また、レーザーは、連続照射及びパルス照射で行うことが出来る。大量製造のためには、連続照射が好ましい。
【0031】
レーザー光のスポット径は、照射面積が約0.02cm〜約2cmとなる範囲、すなわち、0.5mm〜5mmの範囲から選択できる。ここで、照射面積はレーザー出力とレンズでの集光の度合いにより制御できる。なお、このスポット径は、代表的には平面をなすターゲット表面に垂直にレーザー光を一点に照射した場合の照射領域(円)における直径を意味している。ターゲットの表面が平面でない場合、あるいは下記のようにターゲット面を傾けた場合、スポットの形状は円ではなく、例えば、略楕円となるが、レーザー光のスポット中心を通る短径は、上記円の直径とほぼ同等である。(OKです。)
【0032】
また、レーザー光をターゲットに照射するとターゲットが加熱され、ターゲットの表面からプルーム(発光)が発生して蒸発する。その際、ターゲットの表面と45°の角をなすレーザー光が照射されると、プルームはターゲットの表面に対して垂直な方向に発生する。そのため、照射位置は、レーザー光がプルームに当たらず、ターゲット以外の部分を通過しない範囲にする必要がある。
【0033】
生成チャンバ内の圧力は、3332.2hPa(10000Torr)以下で使用することができるが、圧力が真空に近くなるほど、カーボンナノチューブが生成しやすくなり、カーボンナノホーン集合体が得られなくなる。好ましくは666.61hPa(500Torr)−1266.56hPa(950Torr)で、より好ましくは常圧(1013hPa(1atm≒760Torr))付近で使用することが大量合成や低コスト化のためにも適当である。
生成チャンバ内は任意の温度に設定でき、好ましくは、0〜100℃であり、より好ましくは室温で使用することが大量合成や低コスト化のためにも適当である。
生成チャンバ内には、窒素ガスや、希ガスなどを単独で又は混合して導入することで上記の雰囲気とする。これらのガスは生成チャンバから回収チャンバに流通し、生成する物質をこのガスの流れによって回収することが出来る。また導入したガスにより閉鎖雰囲気としてもよい。雰囲気ガス流量は、任意の量を使用できるが、好ましくは0.5L/min−100L/minの範囲が適当である。ターゲットが蒸発する過程ではガス流量を一定に制御する。ガス流量を一定にするには、供給ガス流量と排気ガス流量とを合わせることで行うことができる。常圧付近で行う場合は、供給ガスで生成チャンバ内のガスを押出して排気することで行うことができる。
【0034】
炭素ターゲットに含まれる触媒量により、CNBの生成量が変化する。触媒の量に関して適宜選択できるが、触媒量が0.3〜20原子%(at.%)が好ましく、0.5〜3at.%がより好ましい。触媒量が0.3at.%より少ないと、繊維状カーボンナノホーン集合体が非常に少なくなる。また、20at.%を超えると、触媒量が多くなるためコスト増になるため適当ではない。触媒は、Fe、Ni、Coを単体で、又は混合して使用することができる。中でもFe(鉄)を単独で用いることが好ましく、1at.%以上3at.%以下の鉄を含有する炭素ターゲットを用いることがCNBの生成量の点で特に好ましい。
【0035】
前記したように、触媒の含有量や触媒を含有した炭素ターゲット物性(熱伝導度、密度、硬さ等)によってCNBの生成に影響を及ぼす。触媒含有炭素ターゲットは、熱伝導性が低く、密度が低く、やわらかいものが好適である。すなわち、本発明の第2の実施形態例では、触媒含有炭素ターゲットのかさ密度が1.6g/cm以下、熱伝導率が15W/(m・K)以下のターゲットを用いることを特徴とする。かさ密度及び熱伝導率をこの範囲にすることで、CNBの生成割合を増加させることができる。かさ密度及び熱伝導率がこれらの値を超える場合は、CNHsや他の炭素構造体の生成割合が多くなり、CNBの生成がほとんどなくなることがある。このようなターゲットを使用することで、レーザーから与えられたエネルギーにより、ターゲットが瞬時に蒸発し、炭素と触媒が高密度な空間を形成、且つ、ターゲットから放出された炭素が大気圧環境下で徐々に冷却されてCNBが生成する。
【0036】
かさ密度及び熱伝導率は、触媒金属の量及びターゲットを製造する際の成形圧力及び成形温度を調整することで所望の値とすることができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について例示説明する。もちろん、以下の例によって発明が限定されることはない。
【0038】
(実験例1)
鉄を1at.%含有した四角柱(直方体)の炭素ターゲット(幅:12mm、深さ:10mm、長さ:50mm、かさ密度:約1.4g/cm、熱伝導率:約5W/(m・K))を生成チャンバ内のターゲット固定治具(ステンレス製)の溝に溝間2mmの間隔で2つ設置した。容器内を窒素雰囲気にした。1つ目の炭素ターゲットを0.3cm/秒の速度で移動させながら、COガスレーザー光を30秒連続照射した。レーザーパワーは3.2kW、スポット径は1.5mm、照射角度はスポット中心で約45度となるように調整した。窒素ガス流量は、10L/min、700〜950Torrに制御した。反応容器内の温度は室温であった。
【0039】
図7は、得られた試料のSEM写真である。繊維状構造体と球状構造体が観察された。図6は、TEM写真である。繊維状構造と球状構造体がそれぞれCNBとCNHsであることが分かった。CNBは、直径1−5nm、長さが40−50nm程度の単層カーボンナノホーンが繊維状に集合していることが分かった。CNB自体は、直径が30−100nm程度で、長さが数μm−数10μmであった。また、CNBの中に見られる黒い線状構造(矢印α)は、グラフェンシート(ペタル)を端から見た構造である。また、黒い粒子(矢印β)は触媒金属(Fe)である。
【0040】
1つ目の炭素ターゲットと同様の条件で、2つ目の炭素ターゲットを蒸発させた。得られた試料のSEM像観察から、1つ目の炭素ターゲットと同様の割合でCNBとCNHsが生成していることが分かった。この結果、連続で効率よくCNBの生成可能であることが分かった。
【0041】
(比較実験例1)
鉄を1at.%含有した四角柱(直方体)の炭素ターゲット(幅:15mm、幅:10mm、長さ:50mm、かさ密度:約1.4g/cm、熱伝導率:約5W/(m・K))を生成チャンバ内のターゲット固定治具(実験例1と同材料で溝が1つ)に固定し、実験例1と同様の間隔で2列のレーザー照射を行った。その結果、2列目の照射でCNBの割合が低下していた。
【符号の説明】
【0042】
1 ターゲット固定治具
1a 溝
2 触媒含有炭素ターゲット
3 移動手段
4 生成チャンバ
5 レーザー照射窓
6 ガス導入口
7 搬送管
8 回収チャンバ
9 ガス排気口
10 レーザー焦点位置調節機構
11 レーザー発振器
12 回収容器
13 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7