(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、これら実施形態は、本発明の実施形態の例を示すものであり、本発明の思想は、これらの実施形態に限定されるものではない。
【0014】
先ず、第1の実施形態に係る魚道について
図1,2を参照しつつ説明をする。なお、
図1は、第1の実施形態に係る魚道を示す斜視図であり、
図2は、
図1に示す魚道の水路の幅方向における部分断面図である。
【0015】
図1,2に示すように、第1の実施形態に係る魚道3は、板状部材を水路の底壁4上に配して形成される第1の面1と、同じく板状部材で形成され、第1の面1の法線方向の対向位置で第1の面1よりも前記水路の水面側に位置し第1の面1上の全体又は一部を覆うとともに、第1の面1の面内方向と傾斜し一端側から他端側に向けて第1の面1に接近するように前記水路中に形成される第2の面2と、を有する。なお、図中の符号5は、岸壁を示す。
【0016】
第1の面1の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、後述するように底壁4等で形成されてもよい。
第2の面2の前記他端側の長さ、即ち、魚道3の延設方向長さとしても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
また、第2の面2の前記一端側から前記他端側の長さとしては、特に上限はないが、短すぎると、第1の面1上に定位した底生魚等の頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法を抑制する効果が不十分となることがあり、下限としては、底生魚等の稚魚を対象とする場合も考慮して、12.5mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがより好ましい。言い換えれば、第2の面の長さは、少なくとも上から見て底生魚等が隠れる程度が好ましい。
【0017】
魚道3では、第2の面2の前記他端側自身が第1の面1と当接して、第1の面1と第2の面2とでV字状を成す板状部材として形成され、第1の面1と第2の面2の他端側とが当接して形成されるV字状の溝が第1の面1と第2の面2との間で底生魚等の移動を規制する狭小部とされる。
また、魚道3は、前記水路において第1の面1、第2の面2及び前記狭小部とで第1の面1と第2の面2との対向面側に画成される空間として第2の面2の前記他端側に沿って延設される。本実施形態においては、第2の面2の前記他端側の形成方向、即ち、魚道3が延設される方向は、前記水路の水の流れ方向(
図1中の矢印参照)に逆らう方向とされる。
【0018】
このように形成される魚道3では、前記水路の水の流れ方向に逆らって、底生魚等が上流側に遡上する際、第1の面1と、第1の面1の面内方向と傾斜し一端側から他端側に向けて第1の面1に接近するように前記水路中に形成される第2の面2とによって、前記狭小部(V字状の溝)に向けて窄まる魚道3にカジカ等の底生魚などが集まり、第1の面1上に前記底生魚等が定位する(
図2参照)。
第1の面1上に定位した前記底生魚等の頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法が抑制され、前記底生魚等が体を水平に保ったまま底を這う泳法で遊泳することで、魚道3内を安定した姿勢で移動させることができる。
【0019】
第1の面1と、第2の面2との成す角θとしては、特に制限はないが、0°を超え40°以下が好ましい。上限側の40°を超えると、前記底生魚等の頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法となり、前記底生魚等が安定した姿勢で魚道3内を移動できないことがある。また、前記底生魚等の頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法を強く抑制する観点からは、20°以下であることが特に好ましい。
なお、下限側としては、角度が小さいと、第1の面1と第2の面2との間に前記底生魚等が身を寄せる空間を確保するのに構成部材が大きくなるため、より簡易かつ低コストで構築する観点から、5°以上であることが特に好ましい。
【0020】
第1の面1、第2の面2(及び前記狭小部)は、公知の樹脂材、鋼材、木材、コンクリート材等の人工造成物で形成することができ、簡易かつ低コストで構築することができる。
魚道3では、第1の面1に第2の面2が当接して支持されるため、前記水路中に安定した状態で形成することができる。
また、第1の面1及び第2の面2(及び前記狭小部)を可撓性樹脂材で一体形成すると、前記水路の形状に追従させて魚道3をより一層安定した状態で形成することができる。更に、第1の面1及び第2の面2(及び前記狭小部)を弾性を有する樹脂材(エラストマー材)で形成すると、押しつけるとつぶれ、押しつけを開放すると元に戻る弾性的性質により水門の戸当たり部への適用も有効となる。
なお、魚道3としては、カジカ等の前記底生魚等の遊泳上の問題を解決するものであるが、同様に遡上する鮭のような魚種にも適用でき、似たような移動をすると考えられるエビ、ウナギの稚魚、小魚等への効果も期待できる。
【0021】
次に、第2の実施形態に係る魚道について
図3を参照しつつ説明する。なお、
図3は、第2の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
第2の実施形態に係る魚道10では、第1の面11が既存の水路構造物としての底壁4で形成される。第2の面12は、人工造成物としての板状部材で形成され、第1の面11に接近する第2の面12の他端側が底壁4ないし岸壁5に埋め込まれて支持される。
魚道10では、第1の面11を既存の水路構造物を利用して形成されるため、より一層低コストで構築することができる。なお、図示の例では、第2の面12の他端側を埋め込み支持させているが、別の方法で支持させてもよい。
なお、この他の事項については、第1の実施形態に係る魚道と同様であるため、説明を省略する。また、以降の実施形態においても、それ以前の実施形態において説明をした事項については、説明を省略することとする。
【0022】
次に、第3の実施形態に係る魚道について
図4を参照しつつ説明する。なお、
図4は、第3の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
第3の実施形態に係る魚道20では、第2の実施形態に係る魚道10と同様に、第1の面21が既存の水路構造物としての底壁4で形成されるタイプの魚道である。第3の実施形態に係る魚道20では、第2の実施形態に係る魚道10における前記板状部材に代えて、略台形状の厚肉部材の傾斜側面を第2の面22とする点で第2の実施形態に係る魚道10と異なる。
第2の実施形態に係る魚道における前記板状部材と、第3の実施形態に係る前記厚肉部材とのいずれを選択するかは、形成対象となる底壁4ないし岸壁5の形状や強度等の状態に応じて適宜選択することができる。
【0023】
次に、第4の実施形態に係る魚道について
図5を参照しつつ説明する。なお、
図5は、第4の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
第4の実施形態に係る魚道30では、第3の実施形態に係る魚道20と同様に、前記厚肉部材で魚道を形成する。第4の実施形態に係る魚道30では、第1の面21を底壁4で形成し、第2の面22を前記厚肉部材の傾斜側面で形成する第3の実施形態に係る魚道20に対し、前記厚肉部材の傾斜側面で第1の面31を形成し、岸壁5で第2の面32を形成する点で第3の実施形態に係る魚道20と異なる。なお、第1の面及び第2の面の区別として、一の面の法線方向の対向位置で前記一の面よりも水路の水面側に位置する側の面を前記第2の面とし、前記一の面を第1の面とする。
第3の実施形態に係る魚道20と、第4の実施形態に係る魚道30とのいずれを選択するかは、形成対象となる底壁4ないし岸壁5の形状や強度等の状態に応じて適宜選択することができる。
【0024】
次に、第5の実施形態に係る魚道について
図6を参照しつつ説明する。なお、
図6は、第5の実施形態に係る魚道を説明する説明図であり、魚道の前記水路への形成状況については省略している。
第5の実施形態に係る魚道40では、第1の面1と第2の面2とでV字状を成す第1の実施形態に係る魚道3に対し、第1の面41と第2の面42とを一の板状部材を湾曲させたU字状の形状とする点で、第1の実施形態に係る魚道3と異なる。
即ち、第5の実施形態に係る魚道40では、第2の面42の前記他端側から第1の面41に向けて延在する湾曲部分を延在部とし、前記延在部が第1の面41に支持されるように形成され、第1の面41と第2の面42との間で底生魚等の移動を規制する狭小部が形成される。
【0025】
ここで第1の面41と第2の面42の前記他端側との間の間隔W
1としては、特に制限はないが、長くとも、目的とする前記底生魚等の体高の1.5倍以下の長さであることが好ましく、具体的には、一般的なカジカの体高を考慮して、長くとも、30cm以下の長さであることが好ましい。間隔W
1の長さが30cmを超えると、前記狭小部に向けて前記底生魚等が身を寄せる傾向が減少することがある。また、第1の面41と第2の面42との間の距離が長くなり、前記底生魚等の頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法が十分に抑制されないことがある。なお、この長さは、第1の実施形態に係る魚道3のようにゼロとしてよい。
なお、第5の実施形態に係る魚道40のように第1の面41と第2の面42とがV字状の溝を形成しない場合の第2の面42の第1の面41に対する傾斜角度θは、第1の面41と、第2の面42を延長させた面とが成す角度として設定することができる。
【0026】
このように形成される第5の実施形態に係る魚道40においても、前記底生魚等が前記水路内を移動する際、第1の面41と、第1の面41の面内方向と傾斜し一端側から他端側に向けて第1の面41に接近するように前記水路中に形成される第2の面42とによって、前記狭小部に向けて窄まる魚道40に底生魚等が集まり、第1の面41上に前記底生魚等が定位し、第1の面41上に定位した前記底生魚等の頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法が抑制され、前記底生魚等が体を水平に保ったまま底を這う泳法で遊泳することで、魚道40内を安定した姿勢で移動させることができる。
【0027】
次に、第6の実施形態に係る魚道について
図7を参照しつつ説明する。なお、
図7は、第6の実施形態に係る魚道を説明する説明図であり、魚道の前記水路への形成状況については省略している。
第6の実施形態に係る魚道50では、第1の面1及び第2の面2のみで形成される第1の実施形態に係る魚道3に対し、第1の面51及び第2の面52と、第2の面52の一端側(開放端側)に第1の面51と平行な面53を延設させる点で、第1の実施形態に係る魚道3と異なる。
このような延設面が付設される場合であっても、第1の実施形態に係る魚道3と同様の効果が得られるとともに、一定の数の底生魚等が群れをなして移動する場合にも、延設された面53に隠れるため鳥類やほ乳類に捕獲されにくいという効果も得られる。即ち、本発明の魚道としては、本発明の効果を損なわない限り、目的に応じて適宜任意の付設部材を形成することを許容し、魚道全体としてみたときに、少なくとも一部が本発明の魚道の特徴を有するものは、本発明に含まれる。
【0028】
次に、第7の実施形態に係る魚道について
図8を参照しつつ説明する。なお、
図8は、第7の実施形態に係る魚道を説明する説明図であり、魚道の前記水路への形成状況については省略している。
第7の実施形態に係る魚道60では、対向面が平滑な面とされる第1の面1及び第2の面2で形成される第1の実施形態に係る魚道3に対し、対向面側に粗度形成物としての突起63が配された第1の面61及び第2の面62で形成される点で、第1の実施形態に係る魚道3と異なる。
前記粗度形成物を配することで、魚道60における水の流れを緩和することができ、より一層、前記底生魚等の移動を補助することができる。
前記粗度形成物としては、水の流れを緩和させる構造物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、突起63を配することのほか、前記対向面を凹凸面として形成すること、人工芝を植設すること等により構成することができ、中でも、前記人工芝が簡易かつ低コストで水の流れを緩和できる観点から好ましい。
また、前記粗度形成物を配する場合、第1の面61と、第2の面62との成す角θとしては、特に制限はないが、0°を超え45°以下が好ましく、5°〜30°が特に好ましい。即ち、水の流れが緩和される分、特に好ましい範囲を前記粗度形成物を配さない場合に比べて、より広い範囲とすることができる。
【0029】
次に、第8の実施形態に係る魚道について
図9,10を参照しつつ説明する。なお、
図9は、第8の実施形態に係る魚道を示す斜視図であり、
図10は、
図9に示す魚道の水路の水の流れ方向における部分断面図である。
ここでは、コンクリート等で形成された水の流れを減速させる減速部材が構築されている場合の水路に魚道を形成する場合について説明する。
即ち、ダムや堰等が設置される水域においては、魚の遡上補助を目的として、既に魚道構築物が構築されていることが多い。例えば、
図9,10に示す、前記水路の岸壁5から前記水路の幅方向に突出して配されるブロック状の魚道構築物6が構築されていることがある。この魚道構築物6では、上流側の壁面が前記水路の幅方向に沿って延在するため、底側の水の流れが前記壁面によって阻流され、全体の水の流れを減速させることができる。
本発明の魚道は、こうした既往の魚道構築物を利用する形で、それぞれの効果を相乗させることができる。
なお、既存の魚道構築物は、既存の岸壁5及び底壁4と併せて「既存の水路構造物」と称することができる。
【0030】
第8の実施形態に係る魚道70は、魚道構築物6の外表面を第1の実施形態に係る魚道における底壁4と同様に扱い、前記外表面上に第1の面71を形成し、第1の面71の法線方向の対向位置で第1の面71よりも前記水路の水面側に位置し第1の面71上の全体又は一部を覆うとともに、第1の面71の面内方向と傾斜し一端側から他端側に向けて第1の面71に接近するように前記水路中に形成される第2の面72と、第2の面72自身で構成される前記狭小部とで形成される。
これら第1の面71及び第2の面72は、それぞれが板状である部材を一体に形成した可撓性樹脂材等で形成され、魚道70は、魚道構築物6の外表面の形状に追従して形成される。また、魚道70は、底壁4から前記水路の水の流れに逆らう方向に向けて形成され、終端が魚道構築物6の頂部を超えた位置にまで延設される。
【0031】
こうした第8の実施形態に係る魚道70によれば、魚道構築物6で水の流れが緩和された水域の中で、魚道70の形状に基づく移動補助を受けながら前記底生魚等が魚道構築物6の下流側の水域から上流側の水域まで移動することができ(
図10参照)、本発明の魚道と、既往の魚道構築物とのそれぞれの効果を相乗させて前記底生魚等の遡上を補助することができる。
【0032】
次に、第9の実施形態に係る魚道について
図11を参照しつつ説明する。なお、
図11は、第9の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
第9の実施形態に係る魚道80は、第8の実施形態に係る魚道70と同様に、第1の面81が既存の水路構造物としての魚道構築物6を利用して形成されるタイプの魚道である。
第9の実施形態に係る魚道80では、第8の実施形態に係る魚道70における前記板状部材に代えて、厚肉部材の傾斜側面を第2の面82とする点で第8の実施形態に係る魚道70と異なる。
第8の実施形態に係る魚道70と、第9の実施形態に係る魚道80とのいずれを選択するかは、形成対象となる岸壁5ないし魚道構築物6の外表面の形状や強度等の状態に応じて適宜選択することができる。
【0033】
次に、第10の実施形態に係る魚道について
図12を参照しつつ説明する。なお、
図12は、第10の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
ここでは、魚道構築物6に代えて頂部の一部を低くした越頂部17が形成された魚道構築物16に本発明の魚道を形成する場合について説明をする。即ち、既存の魚道構築物には、魚道構築物16のように魚を遡上させるための越頂部17が形成されるものもある。
この場合でも、魚道構築物6に対する魚道形成方法と同様に、魚道構築物16の外表面上に第1の面91を形成し、第1の面91の法線方向の対向位置で第1の面91よりも前記水路の水面側に位置し第1の面91上の全体又は一部を覆うとともに、第1の面91の面内方向と傾斜し一端側から他端側に向けて第1の面91に接近するように前記水路中に形成される第2の面92と、第2の面92自身で構成される前記狭小部とで、第10の実施形態に係る魚道90を形成することができる。
【0034】
底壁4から前記越頂部に至る魚道構築物16の垂設面に魚道90を形成する方向としては、第8の実施形態に係る魚道70と同様に、底壁4から水の流れに逆らう方向(鉛直上方)に形成してもよいが、ここでは、図示の通り水の流れ方向に対して傾斜させて形成する場合について、併せて説明する。
この場合、第2の面92の前記他端側が第2の面92の前記一端側に対して前記水路の底壁4側に配されるように魚道90を形成する、即ち、前記一端側である開放端側を水面側に向ける方法と、図示の通り、第2の面92の前記他端側が第2の面92の前記一端側に対して前記水路の“水面側”に配されるように魚道90を形成する、即ち、前記開放端側を底壁4側に向ける方法の2通りが考えられる。
しかしながら、前者の方法によると、一旦鉛直上方から直接魚道90内に入り、その後第2の面92をつたって魚道90外に出る水の流れを強く受け、魚道90内の底生魚等が魚道90内に留まりづらいことがある。
これに対し、後者の方法では、水の流れが第2の面92における第1の面91との対向面と反対側の面で阻流されるため、魚道内の底生魚等が受ける水の流れが緩和され、前者に対し、底生魚等が魚道90内により安定的に定位することができる。
したがって、後者の方法にしたがって、第1の面91が垂設面と平行な面とされる場合、第2の面92の前記他端側が第2の面92の前記一端側(開放端側)に対して前記水路の水面側に配されるように、第2の面92の前記他端側の延在方向を前記垂設面上における水の流れ方向に対して傾斜した方向とすることが好ましい。
【0035】
次に、第11の実施形態に係る魚道について
図13を参照しつつ説明する。なお、
図13は、第11の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
ここでは、下流側の面が頂部から底部にかけて山状に傾斜した魚道構築物26に本発明の魚道を形成する場合について説明する。
この場合でも、魚道構築物6,16に対する魚道形成方法と同様に、魚道構築物6,16の外表面上に第1の面を形成し、前記第1の面の法線方向の対向位置で前記第1の面よりも前記水路の水面側に位置し前記第1の面上の全体又は一部を覆うとともに、前記第1の面の面内方向と傾斜し一端側から他端側に向けて前記第1の面に接近するように前記水路中に形成される第2の面と、前記第2の面で構成される前記狭小部とで、第11の実施形態に係る魚道を形成することができる。
【0036】
底壁4から越頂部27に至る魚道構築物26の傾斜面に魚道を形成する方法としては、第10の実施形態に係る魚道90における魚道形成方法、即ち、第2の面の前記他端側が第2の面の前記一端側に対して前記水路の“水面側”に配されるように魚道を形成する方法に倣って形成する方法が挙げられる。
魚道構築物16と魚道構築物26とでは、底壁4から前記越頂部に至る魚道構築物の面が垂設面であるか、傾斜面であるかの違いがあるが、第2の面の前記他端側を第2の面の前記一端側に対して前記水路の“底壁4側”に配するよりも“水面側”に配する方が、魚道内の底生魚等の安定的な定位に寄与する点で共通する。
【0037】
ここでは、更に、第1の面101と第2の面102で形成される魚道100、第1の面111と第2の面112で形成される魚道110、及び第1の面121と第2の面122で形成される魚道120の3つに分割されて形成される魚道構成例を図示する(
図13参照)。
即ち、魚道は、必ずしも一体的に形成される必要はなく、前記魚道構築物の構造によって、適宜分割して形成することができる。なお、魚道100,110,120は、それぞれが本発明の魚道の特徴を有するが、いずれか1つの魚道が本発明の魚道の特徴を有すれば本発明に含まれ、他の魚道が異なる構成の魚道であっても構わない。
【0038】
次に、第12の実施形態に係る魚道について
図14,15を参照しつつ説明する。なお、
図14は、第12の実施形態に係る魚道を説明する斜視図であり、
図15は、
図14の矢印方向からみた端面図である。また、いずれの図面も魚道の水路への形成状況については省略している。
第12の実施形態に係る魚道130は、三角筒の内壁として構成した例を示すものである。即ち、面131を第1の面としたとき、面132を第2の面とする魚道130を示すものである。
このように本発明の魚道は、筒体の内壁として構成することもできる。
【0039】
筒体の内壁として構成される第12の実施形態に係る魚道130の変形例について、更に説明する。
先ず、第1の変形例を
図16に示す。なお、
図16は、第12の実施形態に係る魚道の変形例を示す図(1)である。
本発明の魚道は、この第1の変形例に係る魚道140のように、魚道130と同様に構成された魚道130Aと魚道130Bとを4角筒状に組み合わせて、2通りの移動路を有する魚道としてもよい。
【0040】
また、第2の変形例を
図17に示す。なお、
図17は、第12の実施形態に係る魚道の変形例を示す図(2)である。
本発明の魚道は、この第2の変形例に係る魚道150のように、魚道140と同様に構成された魚道140Aと魚道140Bとを連結させて、4通りの移動路を有する魚道としてもよい。
【0041】
また、筒体としては、必ずしも三角筒である必要はなく、
図18に示すように内壁を第1の面161と第2の面162とを有する魚道160として、三角筒状に刳り貫いた円筒体であってもよい。なお、
図18は、第12の実施形態に係る魚道の変形例を示す図(3)である。
【0042】
次に、第13の実施形態に係る魚道について
図19を参照しつつ説明する。なお、
図19は、第13の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
本発明の魚道は、岸壁5から前記水路の幅方向に突出させて配されるブロック状の魚道構築物6に対し、図示のように魚道構築物6における前記水路の上流側の面と下流側の面との間に穿設された貫通孔の内壁として構成されてもよい。
即ち、本発明の魚道は、前記貫通孔の内壁を第1の面171と第2の面172とを有する魚道170として形成することもできる。
前記貫通孔の穿設方向としては、特に制限はなく、図示のように前記水路の水の流れ方向と平行としてもよいが、魚道内の水の流れを緩和する観点から、前記水路の水の流れ方向に対し水平方向に傾斜した方向とすることが好ましい。
【0043】
次に、第14の実施形態に係る魚道について
図20を参照しつつ説明する。なお、
図20は、第14の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
ここでは、ダムや堰等が設置される水域において、階段式魚道として知られる魚道構築物7に魚道を形成する方法について説明する。
魚道構築物7では、上流側から下流側にかけて水面に落差があり、水の流れが速くなる水域において、遡上する魚の休息場としての踊り場と段差としての垂設面とが交互に配されて構成される。
本発明の魚道は、こうした既往の魚道構築物を利用する形で、それぞれの効果を相乗させることができる。
【0044】
即ち、前記踊り場及び前記段差のそれぞれに、魚道3a〜3dを形成することで、底生魚等の休息場を付与しつつ、遡上を補助する魚道が提供される。
ここで、前記踊り場を底壁として前記底壁と平行な面として第1の面が形成される魚道3a,3cでは、第1の実施形態に係る魚道3と異なり、水の流れが速くなる水域に形成されることを考慮して、即ち、前記第2の面の前記他端側が前記第2の面の前記一端側に対して前記水路の“上流側”に配されるように前記第2の面の他端側の延在方向、即ち、魚道3a,3cの延設方向が、前記水路の水の流れ方向に対して傾斜した方向とされることが好ましい。
前記第2の面の前記他端側が前記第2の面の前記一端側に対して前記水路の“下流側”に配されるように形成するよりも、前記第2の面の前記他端側が前記第2の面の前記一端側に対して前記水路の“上流側”に配されるように形成する方が、水が前記第2の面における前記第1の面との対向面と反対側の面で阻流されるため、前記魚道内の底生魚等が受ける水の流れが緩和され、底生魚等が前記魚道内により安定的に定位することができる。
また、前記段差を形成する前記垂設面で第1の面が形成される魚道3b,3dでは、水の流れが速くなる水域に形成されることを考慮して、第10の実施形態に係る魚道90における魚道形成方法、即ち、第2の面の前記他端側が第2の面の前記一端側に対して前記水路の“水面側”に配されるように前記第2の面の前記他端側の延在方向が、前記垂設面上における水の流れ方向に対して傾斜した方向とされることが好ましい。
【0045】
次に、第15の実施形態に係る魚道について
図21を参照しつつ説明する。なお、
図21は、第15の実施形態に係る魚道を説明する説明図である。
第15の実施形態に係る魚道180は、底壁4で形成される第1の面11と、前記板状部材の人工造成物で形成される第2の面12とで形成される第2の実施形態に係る魚道10に対し、前記板状部材の人工造成物の岸壁5への埋め込み位置を変更して、岸壁5の一部を第2の面182の前記他端側から第1の面181に向けて延在する前記延在部とし、底壁4で形成される第1の面181と、前記板状部材の人工造成物で形成される第2の面182と岸壁5を利用して形成された前記延在部とで形成される点で、第2の実施形態に係る魚道10と異なる。
魚道180を画成する第2の面182の前記他端部と第1の面181との間の間隔W
1としては、第5の実施形態に係る魚道40について説明したように、長くとも、目的とする前記底生魚等の体高の1.5倍以下の長さであることが好ましく、具体的には、一般的なカジカの体高を考慮して、長くとも、30cm以下の長さであることが好ましい。
このような魚道180においても、前記底生魚等の移動を補助する効果が期待できる。
【0046】
次に、第16の実施形態に係る魚道について
図22を参照しつつ説明する。なお、
図22は、第16の実施形態に係る魚道を説明する説明図であり、魚道の前記水路への形成状況については省略している。
第16の実施形態に係る魚道190では、一の板状部材で形成される第1の面191と、他の板状部材を第1の面191に向けて凹むように屈曲させて形成される第2の面192a,bとで形成され、底生魚等の移動路は、第1の面191と第2の面192aとで形成されるものと、第1の面192と第2の面192bとで形成されるものとで2つ形成される。屈曲させた位置で前記他の板状部材は、適当な間隔で配された支柱193を介して第1の面191に支持される。隣接する支柱193間における第1の面191と、前記他の板状部材を屈曲させた位置にある第2の面192a,bの前記他端部との間は、図示のように開放されていてもよい。
開放した場合の第1の面191と、第2の面192a,bの前記他端部との間の間隔W
2としては、第1の面41と第2の面42の前記他端部との間が閉塞される第5の実施形態40(
図6参照)や第1の面181と第2の面182の前記他端部との間が閉塞される第15の実施形態180(
図21参照)における間隔W
1と異なり、間隔W
2における底生魚等の移動を規制するため、目的とする前記底生魚等の体高以下の長さである必要があり、具体的には、一般的なカジカの体高を考慮して、長くとも、20cm以下の長さである必要がある。
【実施例】
【0047】
(比較例)
流水下におけるカジカの移動を検討するため、
図23(a)〜(c)に示す水路模型を作製した。なお、
図23(a)は、水路模型の概要を示す平面図であり、
図23(b)は、
図23(a)におけるA−A線断面図であり、
図23(c)は、
図23(a)におけるB−B線断面図である。
【0048】
図23(a)〜(c)に示すように、水路模型200は、透明なアクリル部材で形成された角筒状の流路201を主材として構成され、流路201は、一端(上流端)から他端(下流端)までの長さが1,900mmとされ、内径としては、幅200mm、高さ100mmのサイズとされる。なお、流路201の胴部に位置する観察部202の流水方向における長さは、1,300mmとされる。
【0049】
水路模型200では、流路201の上流端から水が導入され、下流端で排水される。この際、流路201内が流水で満たされる条件で水を流水させる。また、使用する水の水温は、17℃に設定される。
この状態の水路模型200に対し、流路201の下流側に接続された魚投入パイプ203から流路201内にカジカを投入し、カジカの行動を観察する。
使用したカジカは、長野県松本市を流れる梓川で採捕された淡水カジカであり、1度の観察で1尾〜6尾使用している。
カジカの観察方法としては、流路201の周囲に設置された4台の高速ビデオカメラ(50fps)を用いて記録した映像を観察することで行う。
また、流路201内の水の流速は、魚投入パイプ203を通じて流路201内に設置される電磁流速計を用いて計測される。
以上の条件により、比較例に係る魚道(水路模型)を形成し、カジカの行動観察を行った。
【0050】
(実施例1)
比較例に係る魚道(水路模型)において、観察部202の位置における流路201の一方の側板及び頂板を形成する板材に接するように
図24(a)に示す魚道形成部材210(厚み5mm)を配して
図24(b)に示す魚道220を形成したこと以外は、比較例に係る魚道と同様にして、実施例1に係る魚道を形成した。
なお、
図24(a)は、魚道形成部材の概要を示す説明図であり、
図24(b)は、
図23(c)に対応する位置における魚道の断面を示す図である。
ここで、実施例1に係る魚道では、流路201を構成する底板と魚道形成部材210を構成する斜板との成す角θが40°に設定される。また、斜板は、魚道内を暗くするため、褐色のアクリル部材により形成される。また、
図24(b)中の左斜め上における空間は、水を導入しない閉鎖空間とされる。
【0051】
流路220内の流速としては、流路内にトレーサとしてのタピオカを上流端から下流端に流したときのタピオカの移動を流路220の底面側に設置された高速ビデオカメラ(50fps)により観察し、このタピオカの移動速度により決定した。
これ以外は、比較例に係る魚道における観察方法と同様にして、実施例1に係る魚道を用いたカジカの行動観察を行った。
【0052】
(実施例2)
流路を構成する底板と斜板との成す角θを40°から25°に代えたこと以外は、実施例1に係る魚道と同様にして、実施例2に係る魚道を形成し、カジカの行動観察を行った。
【0053】
(実施例3)
流路を構成する底板と斜板との成す角θを40°から20°に代えたこと以外は、実施例1に係る魚道と同様にして、実施例3に係る魚道を形成し、カジカの行動観察を行った。
【0054】
(実施例4)
流路を構成する底板と斜板との成す角θを40°から15°に代えたこと以外は、実施例1に係る魚道と同様にして、実施例4に係る魚道を形成し、カジカの行動観察を行った。
【0055】
(実施例5)
流路を構成する底板と斜板との成す角θを40°から10°に代えたこと以外は、実施例1に係る魚道と同様にして、実施例5に係る魚道を形成し、カジカの行動観察を行った。
【0056】
次に、比較例及び実施例1〜5に係る魚道を用いて行ったカジカの行動観察結果について説明する。
先ず、カジカには、(1)底から頭部を持ち上げながら前方斜め上方に飛び出した後、弧を描くように着底する泳法と、(2)体を水平に保ったまま底を這う泳法との2つの方法で遊泳することが確認されており、(1)の泳法では、下流方向に押し戻される傾向にある。
そのため、前記行動観察においては、カジカの頭を持ち上げる行動を観察した。観察結果を
図25に示す。なお、
図25は、流速と頭持ち上げ率との関係を示すグラフである。
ここで、「頭持ち上げ率」は、以下で定義される事項を示す。
頭持ち上げ率=遡上及び流下のいずれかの行動を起こした際に、前記行動の開始時に頭を持ち上げていた件数/観察された前記行動の総件数
なお、前記行動をとった場合でも、次の場合は、件数から除外している。
・ 魚投入パイプ203から観察部202に向けて、カジカを追い立てたときに、着底することなく観察部202の区間を一気に上流まで移動した場合
・ 実施例1〜5においては、斜板の立ち上がり側の側板と反対側の側板と、底板との隅部で行動を起こした場合
・ 複数のカジカが重なって定位している場所で行動を起こした場合
・ 体の向きを下流側に向けた後、流下した場合
【0057】
図25に示すように、比較例の魚道(図中、「無」で示されるプロット)と、実施例1〜5の魚道(図中、「40°〜10°」で示されるプロット)とでは、実施例1〜5の魚道の方が、頭持ち上げ率が低い傾向にある。
特に、流路201を構成する底板と斜板との成す角θが20°以下である実施例3〜5では、前記θが20°を超える実施例1,2よりも、頭持ち上げ率が顕著に低くなっている。
なお、比較例の魚道に関する7つのプロットに関し、2つのプロットでは、頭持ち上げ率が0とされるが、定位可能限界近くまで流速が速いため、定位を優先し、移動の端緒となる頭を持ち上げる行動に至らなかったものと思われる。
即ち、比較例の魚道を用いた行動観察は、流速を調整して複数回行っているが、流速が0.432m/s以上となると、流路内に定位すること自体ができず、流下される一方であることから、この定位可能限界近くでは、定位を優先したものと思われる。
【0058】
ここで、実施例1〜5の魚道では、流速0.432m/sの定位可能限界を超えて、流路内に定位することができていることにも注目される。これは、タピオカを用いて流速を測定した水域よりも流速が遅くなる魚道形成部材210を構成する斜板(
図24(b)参照)の立ち上がり側近辺の水域に身を寄せることで、流路内に定位することができたものと思われる。
【0059】
次に、カジカの遡上に関する観察結果を
図26に示す。なお、
図26は、流速と移動成功数(遡上成功数)との関係を示すグラフである。
ここで、「移動成功数」は、以下で定義される事項を示す。
移動成功数=(移動に成功したカジカの尾数)/{(各ケースにおける実験時間h)・(同一ケースにおいて同時に投入したカジカの尾数)}
なお、「移動成功」とは、一挙に上流方向に移動した場合、及び、小刻みの移動を連続して行い上流方向に移動した場合が該当する。流下された場合は勿論のこと、上流方向の移動であっても、移動距離が概ね1cm以内にとどまる場合は、「移動成功」に計数しないこととした。また、魚投入パイプ203から観察部202に向けて、カジカを追い立てたときに、着底することなく観察部202の区間を一気に上流まで移動した場合も「移動成功」に計数しないこととした。
【0060】
図26に示すように、実施例1〜5に係る魚道では、流速0.432m/sの定位可能限界を超えて流路内に定位した後、更に、カジカが上流方向に移動(遡上)することができている。なお、
図26中の矢印で示す範囲の流速では、実施例1〜5に係る魚道の形成に用いた魚道形成部材210なしに移動すること(更には、定位すること自体)ができないことを示している。