特許第6879399号(P6879399)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社安川電機の特許一覧
<>
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000002
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000003
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000004
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000005
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000006
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000007
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000008
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000009
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000010
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000011
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000012
  • 特許6879399-電力変換装置及び電力変換方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6879399
(24)【登録日】2021年5月7日
(45)【発行日】2021年6月2日
(54)【発明の名称】電力変換装置及び電力変換方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/20 20160101AFI20210524BHJP
【FI】
   H02P21/20
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2020-23521(P2020-23521)
(22)【出願日】2020年2月14日
【審査請求日】2020年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100171099
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 善康
(72)【発明者】
【氏名】ゼイ 恒彬
(72)【発明者】
【氏名】森本 進也
(72)【発明者】
【氏名】東川 康児
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−192396(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/116815(WO,A1)
【文献】 特開2014−128190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの巻線に駆動電力を供給する電力変換回路と、
電流ベクトルの大きさと、前記巻線における前記電流ベクトルの変化が前記電流ベクトルと同じ向きの電圧ベクトルに及ぼす影響を示す同一方向インダクタンスと、の関係を表す同一方向プロファイルと、
前記電流ベクトルの大きさと、前記巻線における前記電流ベクトルの変化が前記電流ベクトルと垂直な電圧ベクトルに及ぼす影響を示す干渉インダクタンスと、の関係を表す干渉プロファイルと、
を記憶するインダクタンス記憶部と、
前記電力変換回路が前記巻線に流す駆動電流と、前記同一方向プロファイルとに基づいて前記同一方向インダクタンスを推定し、前記駆動電流と、前記干渉プロファイルとに基づいて前記干渉インダクタンスを推定するインダクタンス推定部と、
前記同一方向インダクタンス及び前記干渉インダクタンスの推定結果と、前記駆動電流とに基づいて、前記モータに生じる磁束を推定する磁束推定部と、
前記磁束の推定結果に基づいて、前記モータから駆動対象に伝わる駆動トルクを推定する駆動トルク推定部と、
前記駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように前記電力変換回路を制御する電力変換制御部と、を備える電力変換装置。
【請求項2】
前記同一方向インダクタンスは、
回転座標系の第1座標軸に沿った第1電流ベクトルの変化が前記第1座標軸に沿った第1電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第1インダクタンスと、
前記第1座標軸に垂直な第2座標軸に沿った第2電流ベクトルの変化が前記第2座標軸に沿った第2電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第2インダクタンスとを含み、
前記同一方向プロファイルは、
前記第1電流ベクトルの大きさと前記第1インダクタンスとの関係を表す第1プロファイルと、
前記第2電流ベクトルの大きさと前記第2インダクタンスとの関係を表す第2プロファイルとを含み、
前記磁束推定部は、前記第1インダクタンス、前記第2インダクタンス及び前記干渉インダクタンスに基づいて前記磁束を推定する、請求項記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記干渉インダクタンスは、
前記第1電流ベクトルの変化が前記第2電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第1干渉インダクタンスと、
前記第2電流ベクトルの変化が前記第1電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第2干渉インダクタンスとを含み、
前記干渉プロファイルは、
前記第1電流ベクトル及び前記第2電流ベクトルの大きさと前記第1干渉インダクタンスとの関係を表す第1干渉プロファイルと、
前記第1電流ベクトル及び前記第2電流ベクトルの大きさと前記第2干渉インダクタンスとの関係を表す第2干渉プロファイルとを含み、
前記磁束推定部は、前記第1インダクタンス、前記第2インダクタンス、前記第1干渉インダクタンス及び前記第2干渉インダクタンスに基づいて前記磁束を推定する、請求項記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記磁束推定部は、
前記モータの回転速度が所定の速度レベル未満である場合に、前記同一方向インダクタンス及び前記干渉インダクタンスの推定結果と、前記駆動電流とに基づいて前記磁束を推定する第1推定部と、
前記モータの回転速度が前記速度レベルを超えている場合に、前記電力変換回路が前記巻線に印加する駆動電圧に基づいて前記磁束を推定する第2推定部とを有する、請求項1〜のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記駆動電流と、前記駆動電圧と、前記モータの回転速度とに基づいて誘起電圧定数を更新する定数更新部と、
少なくとも前記駆動トルクが所定のトルク帯域の外に位置する場合、又は前記モータの回転速度が所定の速度帯域の外に位置する場合に、前記定数更新部による前記誘起電圧定数の更新を中断させる更新中断部と、を更に備え、
前記磁束推定部は、前記誘起電圧定数に更に基づいて前記磁束を推定する、請求項記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記トルク帯域の下限値はゼロよりも大きく、
前記速度帯域の下限値はゼロよりも大きい、請求項記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記トルク帯域の上限値は、前記駆動トルクの上限値よりも小さく、
前記速度帯域の上限値は、前記モータの回転速度の上限値よりも小さい、請求項又は記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記巻線の温度に基づいて前記巻線の抵抗を推定する巻線抵抗推定部を更に備え、
前記定数更新部は、前記抵抗の推定結果に更に基づいて前記誘起電圧定数を更新する、請求項のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第2推定部は、前記抵抗の推定結果に更に基づいて前記磁束を推定する、請求項記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記磁束の推定結果と、前記駆動電流とに基づいて、前記モータが発生する発生トルクを推定する発生トルク推定部と、
前記発生トルクのうち前記駆動対象に伝わらない損失トルクと、前記モータの回転速度との関係を表す損失プロファイルを記憶する損失記憶部と、
前記モータの回転速度と、前記損失プロファイルとに基づいて前記損失トルクを推定する損失トルク推定部と、を更に備え、
前記駆動トルク推定部は、前記発生トルクの推定結果と前記損失トルクの推定結果とに基づいて駆動トルクを推定する、請求項1〜のいずれか一項記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記トルク指令の値にトルク補償値を加算して、修正トルク指令値を算出する指令修正部と、
前記修正トルク指令値と前記駆動トルクの推定結果との差に基づいて前記トルク補償値を算出する補償値算出部と、を更に備え、
前記電力変換制御部は、前記修正トルク指令値に前記発生トルクが追従するように前記電力変換回路を制御する、請求項10記載の電力変換装置。
【請求項12】
電流ベクトルの大きさと、モータの巻線における前記電流ベクトルの変化が前記電流ベクトルと同じ向きの電圧ベクトルに及ぼす影響を示す同一方向インダクタンスと、の関係を表す同一方向プロファイルと、前記巻線に駆動電力を供給する電力変換回路が前記巻線に流す駆動電流と、に基づいて前記同一方向インダクタンスを推定することと、
前記電流ベクトルの大きさと、前記巻線における前記電流ベクトルの変化が前記電流ベクトルと垂直な電圧ベクトルに及ぼす影響を与える干渉インダクタンスと、の関係を表す干渉プロファイルと、前記駆動電流と、に基づいて前記干渉インダクタンスを推定することと、
前記同一方向インダクタンス及び前記干渉インダクタンスの推定結果と、前記駆動電流とに基づいて、前記モータに生じる磁束を推定することと、
前記磁束の推定結果に基づいて、前記モータから駆動対象に伝わる駆動トルクを推定することと、
前記駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように前記電力変換回路を制御することと、を含む電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置及び電力変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一次電流ベクトルと電動機の電気的定数とに基づいて電動機の一次鎖交磁束ベクトルを演算する電流モデル磁束演算器と、一次電圧ベクトルに基づいて電動機の一次鎖交磁束ベクトルを演算する電圧モデル磁束演算器と、電流モデル磁束演算器が出力した一次鎖交磁束ベクトルと電圧モデル磁束演算器が出力した一次鎖交磁束ベクトルとが一致するように電気的定数を調整する定数調整手段とを具備する制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−010697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、モータのトルク制御の精度向上に有効な電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る電力変換装置は、モータの巻線に駆動電力を供給する電力変換回路と、巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを記憶するインダクタンス記憶部と、電力変換回路が巻線に流す駆動電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいてインダクタンスを推定するインダクタンス推定部と、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータに生じる磁束を推定する磁束推定部と、磁束の推定結果に基づいて、モータから駆動対象に伝わる駆動トルクを推定する駆動トルク推定部と、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路を制御する電力変換制御部と、を備える。
【0006】
本開示の他の側面に係る電力変換方法は、モータの巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルと、巻線に駆動電力を供給する電力変換回路が巻線に流す駆動電流とに基づいてインダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータに生じる磁束を推定することと、磁束の推定結果に基づいて、モータから駆動対象に伝わる駆動トルクを推定することと、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路を制御することと、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、モータのトルク制御の精度向上に有効な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電力変換装置の構成を例示する模式図である。
図2】インダクタンスプロファイルを例示するテーブルである。
図3】インダクタンスプロファイルを例示するテーブルである。
図4】インダクタンスプロファイルを例示するテーブルである。
図5】インダクタンスプロファイルを例示するテーブルである。
図6】制御回路の変形例を示すブロック図である。
図7】制御回路の更なる変形例を示すブロック図である。
図8】誘起電圧定数の更新を行うトルク帯域及び速度帯域を例示するグラフである。
図9】制御回路の更なる変形例を示すブロック図である。
図10】制御回路のハードウェア構成を例示するブロック図である。
図11】モータのトルク制御手順を例示するフローチャートである。
図12】磁束推定手順を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
〔電力変換装置〕
図1に示す電力変換装置1は、機器のモータ2に駆動電力を供給する装置である。機器は、モータ2により駆動されるものであればいかなるものであってもよい。機器の具体例としては電動車両が挙げられる。例えばモータ2は、回転電動機である。モータ2は誘導電動機であってもよいし、同期電動機であってもよい。以下では、モータ2が同期電動機である場合について説明する。モータ2は、速度センサ4を有してもよく、温度センサ5を有してもよい。
【0011】
速度センサ4は、モータ2の回転速度(例えばロータの回転速度)を示す電気信号を出力する。速度センサ4の具体例としては、回転速度に相関する周波数のパルス信号を出力するパルスジェネレータが挙げられる。温度センサ5は、モータ2の巻線の温度を示す電気信号を出力する。温度センサ5の具体例としては、巻線の温度に相関する電圧を出力する熱電対式の温度センサが挙げられる。
【0012】
電力変換装置1は、電源3の電力(一次側電力)を駆動電力(二次側電力)に変換してモータ2に供給する。一次側電力は、交流電力であってもよく、直流電力であってもよい。二次側電力は交流電力である。一例として、一次側電力及び二次側電力は、いずれも三相交流電力である。例えば電力変換装置1は、電力変換回路10と、制御回路100とを有する。
【0013】
電力変換回路10は、一次側電力を二次側電力に変換し、二次側電力をモータ2の巻線に供給する。電力変換回路10は、例えば電圧形インバータであり、電圧指令に従った駆動電圧をモータ2に印加する。
【0014】
例えば電力変換回路10は、コンバータ回路11と、平滑コンデンサ12と、インバータ回路13と、電流センサ14とを有する。コンバータ回路11は、例えばダイオードブリッジ回路又はPWMコンバータ回路であり、一次側電力を直流電力に変換する。平滑コンデンサ12は、上記直流電力を平滑化する。
【0015】
インバータ回路13は、上記直流電力と二次側電力との間の電力変換を行う。例えばインバータ回路13は、複数のスイッチング素子15を有し、複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替えることによって上記電力変換を行う。スイッチング素子15は、例えばパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)又はIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等であり、ゲート駆動信号に応じてオン・オフを切り替える。
【0016】
電流センサ14は、インバータ回路13とモータ2との間に流れる駆動電流を検出する。例えば電流センサ14は、駆動電流に相関する電気信号を出力する。例えば電流センサ14は、二次側電力の全相(U相、V相及びW相)の電流を検出するように構成されていてもよいし、二次側電力のいずれか2相の電流を検出するように構成されていてもよい。
零相電流が生じない限り、U相、V相、及びW相の電流の合計はゼロなので、2相の電流を検出する場合にも全相の電流の情報が得られる。
【0017】
以上に示した電力変換回路10の構成はあくまで一例であり、モータ2に二次側電力を供給し得る限りにおいていかようにも変更可能である。例えば電力変換回路10は、電流形インバータであってもよい。電流形インバータは、電流指令に従った駆動電流をモータ2に出力する。電力変換回路10は、直流化を経ることなく一次側電力と二次側電力との双方向の電力変換を行うマトリクスコンバータ回路であってもよい。一次側電力が直流電力である場合に、電力変換回路10はコンバータ回路11を有していなくてもよい。
【0018】
制御回路100は、モータ2が制御指令に追従するように電力変換回路10を制御する。例えば制御回路100は、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクがトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御する。
【0019】
例えば制御回路100は、巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを記憶することと、電力変換回路10が巻線に流す駆動電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいてインダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2に生じる磁束を推定することと、磁束の推定結果に基づいて、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクを推定することと、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御することと、を実行するように構成されている。
【0020】
例えば制御回路100は、機能上の構成(以下、「機能ブロック」という。)として、電流情報取得部111と、速度情報取得部112と、温度情報取得部113と、インダクタンス記憶部114と、インダクタンス推定部115と、磁束推定部116と、発生トルク推定部121と、損失記憶部122と、損失トルク推定部123と、駆動トルク推定部124と、指令修正部131と、補償値算出部132と、電力変換制御部133と、を有する。
【0021】
電流情報取得部111は、巻線に流れる駆動電流に関する情報(以下、「電流情報」という。)を取得する。例えば電流情報取得部111は、電流センサ14が出力する電気信号に基づいて、駆動電流の大きさを示す情報を取得する。
【0022】
速度情報取得部112は、モータ2の回転速度に関する情報(以下、「速度情報」という。)を取得する。例えば速度情報取得部112は、速度センサ4が出力する電気信号に基づいて、動作の方向(例えばロータの回転方向)及び回転速度の大きさを示す情報を取得する。
【0023】
温度情報取得部113は、巻線の温度に関する情報(以下、「温度情報」という。)を取得する。例えば温度情報取得部113は、温度センサ5が出力する電気信号に基づいて、巻線の温度を示す情報を取得する。
【0024】
インダクタンス記憶部114は、上記インダクタンスプロファイルを記憶する。巻線のインダクタンスは、電流ベクトルの変化が当該電流ベクトルと同じ向きの電圧ベクトルに及ぼす影響を示す同一方向インダクタンスと、電流ベクトルの変化が当該電流ベクトルと垂直な電圧ベクトルに及ぼす影響を示す干渉インダクタンスとを含む。これに対応し、インダクタンス記憶部114が記憶するインダクタンスプロファイルは、電流ベクトルの大きさと、同一方向インダクタンスとの関係を表す同一方向プロファイルと、電流ベクトルの大きさと、干渉インダクタンスとの関係を表す干渉プロファイルとを含んでもよい。
【0025】
同一方向インダクタンスは、回転座標系の第1座標軸に沿った第1電流ベクトルの変化が第1座標軸に沿った第1電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第1インダクタンスと、第1座標軸に垂直な第2座標軸に沿った第2電流ベクトルの変化が第2座標軸に沿った第2電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第2インダクタンスとを含んでもよい。これに対応し、インダクタンス記憶部114が記憶する同一方向プロファイルは、第1電流ベクトルの大きさと第1インダクタンスとの関係を表す第1プロファイルと、第2電流ベクトルの大きさと第2インダクタンスとの関係を表す第2プロファイルとを含んでもよい。
【0026】
干渉インダクタンスは、第1電流ベクトルの変化が第2電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第1干渉インダクタンスと、第2電流ベクトルの変化が第1電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第2干渉インダクタンスとを含んでもよい。これに対応し、インダクタンス記憶部114が記憶する干渉プロファイルは、第1電流ベクトル及び第2電流ベクトルの大きさと第1干渉インダクタンスとの関係を表す第1干渉プロファイルと、第1電流ベクトル及び第2電流ベクトルの大きさと第2干渉インダクタンスとの関係を表す第2干渉プロファイルとを含んでもよい。
【0027】
回転座標系の具体例としては、dq座標系が挙げられる。dq座標系においては、モータ2のロータの磁極方向に沿ったd軸が第1座標軸に相当し、d軸に垂直なq軸が第2座標軸に相当する。
【0028】
第1電流ベクトルの具体例としては、電流ベクトルのd軸成分(以下、「d軸電流」という。)が挙げられる。第2電流ベクトルの具体例としては、電流ベクトルのq軸成分(以下、「q軸電流」という。)が挙げられる。第1電圧ベクトルの具体例としては、電圧ベクトルのd軸成分(以下、「d軸電圧」という。)が挙げられる。第2電圧ベクトルの具体例としては、電圧ベクトルのq軸成分(以下、「q軸電圧」という。)が挙げられる。
【0029】
第1インダクタンスの具体例としては、d軸電流の変化がd軸電圧に及ぼす影響を示すd軸インダクタンスが挙げられる。第2インダクタンスの具体例としては、q軸電流の変化がq軸電圧に及ぼす影響を示すq軸インダクタンスが挙げられる。第1干渉インダクタンスの具体例としては、q軸電流の変化がd軸電圧に及ぼす影響を示すdq干渉インダクタンスが挙げられる。第2干渉インダクタンスの具体例としては、d軸電流の変化がq軸電圧に及ぼす影響を示すqd干渉インダクタンスが挙げられる。インダクタンスプロファイルは、関数であってもよいし、複数のデータセットを含む離散的なデータであってもよい。
【0030】
図2は、離散的なデータとして記憶される第1プロファイルを例示するテーブルである。このテーブルの1行が第1プロファイルの1データセットに相当する。各データセットは、第1電流ベクトルの大きさと、これに対応する第1インダクタンスの大きさとを含む。図3は、離散的なデータとして記憶される第2プロファイルを例示するテーブルである。このテーブルの1行が第2プロファイルの1データセットに相当する。各データセットは、第2電流ベクトルの大きさと、これに対応する第2インダクタンスの大きさとを含む。図4は、離散的なデータとして記憶される第1干渉プロファイルを例示するテーブルである。このテーブルの1行が第1干渉プロファイルの1データセットに相当する。各データセットは、第1電流ベクトルの大きさと、第2電流ベクトルの大きさと、これらに対応する第1干渉インダクタンスの大きさとを含む。図5は、離散的なデータとして記憶される第2干渉プロファイルを例示するテーブルである。このテーブルの1行が第2干渉プロファイルの1データセットに相当する。各データセットは、第1電流ベクトルの大きさと、第2電流ベクトルの大きさと、これらに対応する第2干渉インダクタンスの大きさとを含む。
【0031】
インダクタンス推定部115は、電力変換回路10が巻線に流す駆動電流と、インダクタンス記憶部114が記憶するインダクタンスプロファイルとに基づいてインダクタンスを推定する。ここでの駆動電流は、指令値であってもよく、検出値であってもよい。例えばインダクタンス推定部115は、電流情報取得部111が取得した電流情報が示す駆動電流に対応するインダクタンスをインダクタンスプロファイルに基づいて導出する。
【0032】
例えばインダクタンス推定部115は、駆動電流の第1座標軸成分の大きさに対応する第1インダクタンスを第1プロファイルに基づいて導出し、駆動電流の第2座標軸成分の大きさに対応する第2インダクタンスを第2プロファイルに基づいて導出し、駆動電流の第1座標軸成分及び第2座標軸成分の大きさに対応する第1干渉インダクタンスを第1干渉プロファイルに基づいて導出し、駆動電流第1座標軸成分及び第2座標軸成分の大きさに対応する第2干渉インダクタンスを第2干渉プロファイルに基づいて導出する。
【0033】
インダクタンスプロファイルが離散的なデータである場合、インダクタンス推定部115は隣り合うデータセット間の補間によって駆動電流に対応するインダクタンスを導出してもよい。補間手法に特に制限はない。補間手法の具体例としては、線形補間、多項式補間等が挙げられる。
【0034】
磁束推定部116は、インダクタンス推定部115によるインダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2に生じる磁束を推定する。ここでの駆動電流は、指令値であってもよく、検出値であってもよい。例えば磁束推定部116は、同一方向インダクタンス及び干渉インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて磁束を推定する。
【0035】
磁束推定部116は、第1インダクタンス、第2インダクタンス及び干渉インダクタンスと、駆動電流とに基づいて磁束を推定してもよい。磁束推定部116は、第1インダクタンス、第2インダクタンス、第1干渉インダクタンス及び第2干渉インダクタンスと、駆動電流とに基づいて磁束を推定してもよい。磁束推定部116は、モータ2の誘起電圧定数に更に基づいて磁束を推定してもよい。一例として、磁束推定部116は、次式により磁束を推定する。
Φd=Ld・Id+Ldq・Iq+Φm・・・(1)
Φq=Lq・Iq+Lqd・Id・・・(2)
Φd:磁束ベクトルのd軸成分(以下、「d軸磁束」という。)
Φq:磁束ベクトルのq軸成分(以下、「q軸磁束」という。)
Id:d軸電流
Iq:q軸電流
Ld:d軸インダクタンス
Lq:q軸インダクタンス
Ldq:dq干渉インダクタンス
Lqd:qd干渉インダクタンス
Φm:磁石磁束
磁石磁束Φmと誘起電圧定数は同じ値である。
【0036】
発生トルク推定部121は、磁束推定部116による磁束の推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2が発生する発生トルクを推定する。ここでの駆動電流は、指令値であってもよく、検出値であってもよい。例えば発生トルク推定部121は、次式に基づいて発生トルクを推定する。
Tm=P(Φa・Ib−Φb・Ia)・・・(3)
Tm:発生トルク
P:極数
Φa:磁束ベクトルのa軸成分(以下、「a軸磁束」という。)。
Φb:磁束ベクトルのb軸成分(以下、「b軸磁束」という。)。
Ia:電流ベクトルのa軸成分(以下、「a軸電流」という。)。
Ib:電流ベクトルのb軸成分(以下、「b軸電流」という。)。
【0037】
なお、式(3)は、dq座標系に代えて、ab座標系で表されている。ab座標系はモータ2のステータに固定された固定座標系の一例であり、座標軸として、a軸と、a軸に垂直なb軸とを有する。a軸磁束及びb軸磁束は、d軸磁束及びq軸磁束に座標変換を施すことにより導出される。a軸電流及びb軸電流は、d軸電流及びq軸電流に座標変換を施すことにより導出される。
【0038】
損失記憶部122は、発生トルクのうち駆動対象に伝わらない損失トルクと、モータ2の回転速度との関係を表す損失プロファイルを記憶する。損失プロファイルは、実機試験又はシミュレーションなどにより予め生成される。損失プロファイルは、関数であってもよいし、複数のデータセットを含む離散的なデータであってもよい。
【0039】
損失トルク推定部123は、モータ2の回転速度と、損失プロファイルとに基づいて損失トルクを推定する。ここでのモータ2の回転速度は、指令値であってもよく、検出値(例えば速度センサ4による検出値)であってもよく、推定値であってもよい。例えば損失トルク推定部123は、速度情報取得部112が取得した速度情報が示す回転速度に対応する損失トルクを損失プロファイルに基づいて導出する。
【0040】
損失プロファイルが離散的なデータである場合、損失トルク推定部123は隣り合うデータセット間の補間によって回転速度に対応する損失トルクを導出してもよい。補間手法に特に制限はない。補間手法の具体例としては、線形補間、多項式補間等が挙げられる。
【0041】
駆動トルク推定部124は、磁束推定部116による磁束の推定結果に基づいて、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクを推定する。例えば駆動トルク推定部124は、発生トルク推定部121による発生トルクの推定結果と、損失トルク推定部123による損失トルクの推定結果とに基づいて駆動トルクを推定する。一例として、駆動トルク推定部124は、発生トルクの推定結果から損失トルクの推定結果を減算して駆動トルクを算出する。
【0042】
なお、損失トルクが微小である場合には、損失トルクがゼロであるものとみなし、発生トルクを駆動トルクとしてもよい。この場合、損失記憶部122及び損失トルク推定部123を省略し、発生トルク推定部121を駆動トルク推定部124に組み込むことが可能である。
【0043】
指令修正部131は、例えば上位コントローラ200から上記トルク指令を取得し、トルク指令にトルク補償値を加算して修正トルク指令値を算出する。上位コントローラ200の具体例としては、プログラマブルロジックコントローラが挙げられる。
【0044】
補償値算出部132は、修正トルク指令値と、駆動トルク推定部124による駆動トルクの推定結果との差分(以下、「トルク偏差」という。)に基づいて、トルク補償値を算出する。例えば補償値算出部132は、トルク偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を施してトルク補償値を算出する。補償値算出部132は、トルク補償値を所定の下限値以上、所定の上限値以下に制限してもよい。補償値算出部132は、トルク補償値に対して、ローパス型のフィルタリングを施してもよい。
【0045】
補償値算出部132が算出したトルク補償値は、指令修正部131による次の修正トルク指令値の算出において、トルク指令の値に加算される。なお、補償値算出部132は、トルク補償値の加算前のトルク指令値と、駆動トルク推定部124による駆動トルクの推定結果との差分に基づいて、トルク補償値を算出してもよい。
【0046】
電力変換制御部133は、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御する。例えば電力変換制御部133は、指令修正部131が算出した修正トルク指令値に発生トルクが追従するように電力変換回路10を制御する。上述したように、修正トルク指令値は、トルク指令の値にトルク補償値が加算された値であるため、修正トルク指令値が発生トルクに追従することによって、駆動トルクがトルク指令に追従することとなる。例えば電力変換制御部133は、より細分化された機能ブロックとして、電圧指令生成部134と、PWM制御部135とを有する。
【0047】
電圧指令生成部134は、発生トルクを修正トルク指令値に追従させるための電圧指令を生成する。例えば電圧指令生成部134は、発生トルクを修正トルク指令値に追従させるための電流指令ベクトルと、上記電流情報が示す電流ベクトルとの偏差を算出し、当該偏差に比例演算、比例・積分演算、又は比例・積分・微分演算等を施して電圧指令ベクトルを算出する。
【0048】
PWM制御部135は、電圧指令生成部134により算出された電圧指令値に従った駆動電圧をモータ2の巻線に印加するように電力変換回路10を制御する。例えばPWM制御部135は、電圧指令ベクトルに一致した駆動電圧をモータ2に印加するように、インバータ回路13の複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替える。
【0049】
制御回路100は、モータ2の回転速度によって磁束の推定方式を切り替えるように構成されていてもよい。例えば図6に示すように、磁束推定部116は、第1推定部141と、第2推定部142とを有してもよい。
【0050】
第1推定部141は、モータ2の回転速度が所定の速度レベル(以下、「切替速度」という。)未満である場合に、上述したように、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて磁束を推定する。第2推定部142は、モータ2の回転速度が切替速度を超えている場合に、電力変換回路10がモータ2の巻線に印加する駆動電圧に基づいて磁束を推定する。ここでの駆動電圧は、指令値(例えば上記電圧指令値)であってもよく、検出値であってもよい。以下、第1推定部141による磁束推定を「電流方式の磁束推定」といい、第2推定部142による磁束推定を「電圧方式の磁束推定」という。切替速度は、例えばシミュレーション又は実機試験等により設定可能である。
【0051】
電流方式の具体例については、磁束推定部116の処理として上述されているので、以下では電圧方式の磁束推定の具体例を示す。第2推定部142は、例えば電力変換回路10がモータ2の巻線に印加する駆動電圧を時間積分することによって磁束を推定する。第2推定部142は、モータ2の巻線抵抗に更に基づいて磁束を推定してもよい。一例として、第2推定部142は、次式によって磁束を推定する。
Φa=∫(Va−R・a)dt・・・(4)
Φb=∫(Vb−R・b)dt・・・(5)
Va:電圧指令ベクトルのa軸成分(以下、「a軸電圧」という。)
Vb:電圧指令ベクトルのb軸成分(以下、「b軸電圧」という。)
Ia:a軸電流
Ib:b軸電流
R:モータ2の巻線抵抗
【0052】
第2推定部142は、電圧方式の磁束推定と電流方式の磁束推定との両方を行い、電圧方式の磁束推定結果を電流方式の磁束推定結果により補正して磁束を算出してもよい。
【0053】
制御回路100は、電流方式の磁束推定等で用いる誘起電圧定数を、駆動電流と、駆動電圧と、モータ2の回転速度とに基づいて変更するように構成されていてもよい。ここでの駆動電流及び駆動電圧は、指令値であってもよく、検出値であってもよい。また、回転速度は、指令値であってもよく、検出値であってもよく、推定値であってもよい。例えば制御回路100は、図7に示すように、定数保持部152と、定数更新部151と、更新中断部153とを更に有する。
【0054】
定数保持部152は、誘起電圧定数を記憶する。磁束推定部116(第1推定部141)は、定数保持部152が記憶する誘起電圧定数に基づいて磁束を推定する。定数更新部151は、駆動電流と、駆動電圧と、モータ2の回転速度とに基づいて誘起電圧定数を更新する。定数更新部151は、モータ2の巻線抵抗に更に基づいて誘起電圧定数を更新してもよい。例えば定数更新部151は、電圧・電流方程式に基づいて誘起電圧を推定し、速度情報取得部112が取得した速度情報が示す回転速度により誘起電圧を除算することで誘起電圧定数を推定する。一例として、定数更新部151は次式により誘起電圧定数を推定する。
Eq=Vq−ω・Ld・d−R・q・・・(6)
Φm=Eq/ω・・・(7)
Eq:誘起電圧ベクトルのq軸成分
ω:回転速度
【0055】
定数更新部151は、誘起電圧定数の推定結果を定数保持部152に上書きする。これにより、定数保持部152が記憶する誘起電圧定数が更新される。なお、定数保持部152は、定数更新部151による誘起電圧定数の算出結果を時系列で記憶してもよい。この場合、定数更新部151による誘起電圧定数の算出結果が定数保持部152に追加されるたびに、定数保持部152が記憶する最新の誘起電圧定数が更新されることとなる。
【0056】
更新中断部153は、少なくとも駆動トルクが所定のトルク帯域の外に位置する場合、又はモータ2の回転速度が所定の速度帯域の外に位置する場合に、定数更新部151による誘起電圧定数の更新を中断させる。ここでの駆動トルクは、指令値(例えば上記トルク指令の値)であってもよく、検出値であってもよく、推定値(例えば駆動トルク推定部124による推定値)であってもよい。
【0057】
なお、更新中断部153は、駆動トルクが上記トルク帯域の外に位置し、且つモータ2の回転速度が上記速度帯域の外に位置する場合にも、定数更新部151による誘起電圧定数の更新を中断させる。定数更新部151による誘起電圧定数の更新を中断させる際に、更新中断部153は、少なくとも誘起電圧定数の算出結果を定数保持部152に上書きすることを中断させればよく、定数更新部151による誘起電圧定数の算出自体を中断させる必要はない。
【0058】
図8は、トルク帯域及び速度帯域を例示するグラフである。図8において、横軸は回転速度を示し、縦軸はトルクを示す。図8に例示するように、トルク帯域Trの下限値T1はゼロより大きくてもよく、速度帯域ωrの下限値ω1はゼロよりも大きくてもよい。また、トルク帯域Trの上限値T2は、駆動トルクの上限値Tmaxより小さくてもよく、速度帯域ωrの上限値ω2は、モータ2の回転速度の限値ωmaxより小さくてもよい。なお、駆動トルクの上限値Tmaxは、電力変換回路10がモータ2に発生させ得るトルクの上限値を意味する。モータ2の回転速度の限値ωmaxは、電力変換回路10がモータ2に発生させ得る回転速度の上限値を意味する。
【0059】
制御回路100は、電圧方式の磁束推定、及び誘起電圧定数の推定等で用いるモータ2の巻線抵抗を、モータ2の巻線の温度に基づいて推定することを更に実行するように構成されていてもよい。例えば制御回路100は、図9に示すように、巻線抵抗推定部154を更に有してもよい。巻線抵抗推定部154は、モータ2の巻線の温度に基づいて、モータ2の巻線の抵抗を推定する。
【0060】
ここでの巻線の温度は、検出値(例えば温度センサ5による検出値)であってもよく、駆動電流等に基づく推定値であってもよい。例えば巻線抵抗推定部154は、温度情報取得部113が取得する温度情報が示すモータ2の巻線の温度に基づいて、モータ2の巻線の抵抗を推定する。
【0061】
例えば巻線抵抗推定部154は、巻線の温度と巻線の抵抗との関係を表す抵抗プロファイルを予め記憶し、抵抗プロファイルと巻線の温度とに基づいて巻線の抵抗を推定する。抵抗プロファイルは、関数であってもよいし、複数のデータセットを含む離散的なデータであってもよい。抵抗プロファイルが離散的なデータである場合、巻線抵抗推定部154は、隣り合うデータセット間の補間によって巻線の温度に対応する巻線の抵抗を導出してもよい。
【0062】
定数更新部151は、巻線抵抗推定部154による巻線の抵抗の推定結果に基づいて誘起電圧定数を更新する。第2推定部142は、巻線抵抗推定部154による巻線の抵抗の推定結果に基づいて磁束を推定する。
【0063】
図10は、制御回路100のハードウェア構成を例示するブロック図である。図10に示すように、制御回路100は、一つ又は複数のプロセッサ191と、メモリ192と、ストレージ193と、通信ポート194と、入出力ポート195と、スイッチング制御回路196とを含む。ストレージ193は、例えば不揮発性の半導体メモリ等、コンピュータによって読み取り可能な記憶媒体を有する。ストレージ193は、巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを記憶することと、電力変換回路10が巻線に流す駆動電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいてインダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2に生じる磁束を推定することと、磁束の推定結果に基づいて、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクを推定することと、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御することと、を電力変換装置1に実行させるためのプログラムを記憶している。
【0064】
メモリ192は、ストレージ193の記憶媒体からロードしたプログラム及びプロセッサ191による演算結果を一時的に記憶する。プロセッサ191は、メモリ192と協働して上記プログラムを実行することで、制御回路100の各機能ブロックを構成する。通信ポート194は、プロセッサ191からの指令に従って、上位コントローラ200との間で情報通信を行う。入出力ポート195は、プロセッサ191からの指令に従って、速度センサ4、温度センサ5及び電流センサ14との間で電気信号の入出力を行う。スイッチング制御回路196は、プロセッサ191からの指令に従って、インバータ回路13内の複数のスイッチング素子15のオン、オフを切り替えることにより、上記駆動電力をモータ2へ出力する。
【0065】
なお、制御回路100は、必ずしもプログラムにより各機能を構成するものに限られない。例えば制御回路100は、専用の論理回路又はこれを集積したASIC(Application Specific Integrated Circuit)により少なくとも一部の機能を構成してもよい。
【0066】
〔電力変換手順〕
続いて、電力変換方法の一例として、制御回路100が実行する電力変換回路10の制御手順を例示する。この手順は、モータ2の巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルと、巻線に駆動電力を供給する電力変換回路10が巻線に流す駆動電流とに基づいてインダクタンスを推定することと、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2に生じる磁束を推定することと、磁束の推定結果に基づいて、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクを推定することと、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御することと、を含む。
【0067】
図11に示すように、制御回路100は、ステップS01〜S11を所定の制御周期で繰り返し実行する。ステップS01では、指令修正部131がトルク指令を取得する。また、電流情報取得部111が電流情報を取得し、速度情報取得部112が速度情報を取得し、温度情報取得部113が温度情報を取得する。ステップS02では、磁束推定部116が磁束を推定する。ステップS02における磁束の推定手順については後述する。
【0068】
ステップS03では、発生トルク推定部121が、磁束推定部116による磁束の推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2が発生する発生トルクを推定する。ステップS04では、損失トルク推定部123が、モータ2の回転速度と、損失プロファイルとに基づいて損失トルクを推定する。なお、制御回路100は、ステップS03よりも前にステップS04を実行してもよく、ステップS02よりも前にステップS04を実行してもよく、少なくともステップS02,S03と並行してステップS04を実行してもよい。
【0069】
ステップS05では、駆動トルク推定部124が、発生トルク推定部121による発生トルクの推定結果と、損失トルク推定部123による損失トルクの推定結果とに基づいて駆動トルクを推定する。ステップS06では、補償値算出部132が、上記修正トルク指令値と、駆動トルク推定部124による駆動トルクの推定結果との差分(上記トルク偏差)に基づいて、トルク補償値を算出する。なお、補償値算出部132は、上記修正トルク指令値として、前回の制御周期で算出された修正トルク補償値を用いる。
【0070】
ステップS07では、指令修正部131が、トルク指令を取得し、トルク指令にトルク補償値を加算して修正トルク指令値を算出する。ステップS08では、電圧指令生成部134が、発生トルクを修正トルク指令値に追従させるための電圧指令を生成する。ステップS09では、PWM制御部135が、電圧指令ベクトルに一致した駆動電圧をモータ2に印加するように、インバータ回路13の複数のスイッチング素子15のオン・オフを切り替えるためのスイッチング指令を変更する。
【0071】
ステップS11では、指令修正部131が、ステップS01の開始時点から所定の制御周期が経過するのを待機する。その後、制御回路100は処理をステップS01に戻す。これにより、ステップS01〜S11が上記制御周期で繰り返し実行される。
【0072】
図12は、ステップS02における磁束の推定手順を例示するフローチャートである。図12に示すように、制御回路100は、まずステップS21を実行する。ステップS21では、速度情報取得部112が取得した速度情報が示すモータ2の回転速度が上記切替速度未満であるかを第1推定部141が確認する。
【0073】
ステップS21においてモータ2の回転速度が切替速度未満であると判定した場合、制御回路100はステップS22,S23,S24を実行する。ステップS22では、電流情報取得部111が取得した電流情報が示す駆動電流と、インダクタンス記憶部114が記憶するインダクタンスプロファイルとに基づいて、インダクタンス推定部115がインダクタンスを推定する。ステップS23では、温度情報取得部113が取得した温度情報が示すモータ2の巻線の温度に基づいて、巻線抵抗推定部154がモータ2の巻線の抵抗を推定する。なお、制御回路100は、ステップS23をステップS22の前に実行してもよいし、ステップS23をステップS22と並行して実行してもよい。ステップS24では、モータ2の回転速度が上記速度帯域内であるかを更新中断部153が確認する。
【0074】
ステップS24においてモータ2の回転速度が速度帯域内であると判定した場合、制御回路100はステップS25を実行する。ステップS25では、上記トルク指令が上記トルク帯域内であるかを更新中断部153が確認する。なお、更新中断部153は、ステップS24よりも前にステップS25を実行してもよい。
【0075】
ステップS25においてトルク指令がトルク帯域内であると判定した場合、制御回路100はステップS26を実行する。ステップS26では、定数更新部151が、電流情報取得部111が取得した温度情報が示す駆動電流と、電圧指令生成部134が生成した電圧指令と、巻線抵抗推定部154が推定したモータ2の巻線の抵抗と、速度情報取得部112が取得した速度情報が示すモータ2の回転速度と、に基づいて誘起電圧定数(定数保持部152が記憶する誘起電圧定数)を更新する。
【0076】
ステップS24においてモータ2の回転速度が速度帯域外であると判定した場合及びステップS25においてトルク指令がトルク帯域外であると判定した場合、更新中断部153が、定数更新部151による誘起電圧定数の更新を中断させる。このため、制御回路100はステップS26を実行しない。
【0077】
次に、制御回路100は、ステップS27を実行する。ステップS27では、第1推定部141が、磁束推定部116による磁束の推定結果と、電流情報取得部111が取得した電流情報が示す駆動電流と、定数保持部152が記憶する誘起電圧定数と、に基づいて、上記電流方式により磁束を推定する。
【0078】
ステップS21においてモータ2の回転速度が切替速度以上であると判定した場合、制御回路100はステップS31,S32を実行する。ステップS31では、温度情報取得部113が取得した温度情報が示すモータ2の巻線の温度に基づいて、巻線抵抗推定部154がモータ2の巻線の抵抗を推定する。ステップS32では、電圧指令生成部134が生成した電圧指令と、電流情報取得部111が取得した電流情報が示す駆動電流と、巻線抵抗推定部154が推定したモータ2の巻線の抵抗と、に基づいて、第2推定部142が上記電圧方式により磁束を推定する。以上で磁束の推定手順が完了する。
【0079】
〔本実施形態の効果〕
以上に説明したように、電力変換装置1は、モータ2の巻線に駆動電力を供給する電力変換回路10と、巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを記憶するインダクタンス記憶部114と、電力変換回路10が巻線に流す駆動電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいてインダクタンスを推定するインダクタンス推定部115と、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2に生じる磁束を推定する磁束推定部116と、磁束の推定結果に基づいて、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクを推定する駆動トルク推定部124と、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御する電力変換制御部133と、を備える。
【0080】
電力変換装置1によれば、駆動電流とインダクタンスプロファイルとに基づくことで、インダクタンスの推定精度が向上し、インダクタンスの推定結果に基づく磁束の推定精度が向上し、磁束の推定結果に基づく駆動トルクの推定精度が向上する。従って、モータ2のトルク制御の精度向上に有効である。
【0081】
インダクタンスは、電流ベクトルの変化が当該電流ベクトルと同じ向きの電圧ベクトルに及ぼす影響を示す同一方向インダクタンスと、電流ベクトルの変化が当該電流ベクトルと垂直な電圧ベクトルに及ぼす影響を示す干渉インダクタンスとを含み、インダクタンスプロファイルは、電流ベクトルの大きさと、同一方向インダクタンスとの関係を表す同一方向プロファイルと、電流ベクトルの大きさと、干渉インダクタンスとの関係を表す干渉プロファイルとを含み、磁束推定部116は、同一方向インダクタンス及び干渉インダクタンスの推定結果に基づいて磁束を推定してもよい。この場合、同一方向インダクタンス及び干渉インダクタンスの両方を高精度に推定することで、磁束の推定精度が更に向上し、駆動トルクの推定精度が更に向上する。
【0082】
同一方向インダクタンスは、回転座標系の第1座標軸に沿った第1電流ベクトルの変化が第1座標軸に沿った第1電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第1インダクタンスと、第1座標軸に垂直な第2座標軸に沿った第2電流ベクトルの変化が第2座標軸に沿った第2電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第2インダクタンスとを含み、同一方向プロファイルは、第1電流ベクトルの大きさと第1インダクタンスとの関係を表す第1プロファイルと、第2電流ベクトルの大きさと第2インダクタンスとの関係を表す第2プロファイルとを含み、磁束推定部116は、第1インダクタンス、第2インダクタンス及び干渉インダクタンスに基づいて磁束を推定してもよい。この場合、磁束の推定精度が更に向上し、駆動トルクの推定精度が更に向上する。
【0083】
干渉インダクタンスは、第1電流ベクトルの変化が第2電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第1干渉インダクタンスと、第2電流ベクトルの変化が第1電圧ベクトルに及ぼす影響を示す第2干渉インダクタンスとを含み、干渉プロファイルは、第1電流ベクトル及び第2電流ベクトルの大きさと第1干渉インダクタンスとの関係を表す第1干渉プロファイルと、第1電流ベクトル及び第2電流ベクトルの大きさと第2干渉インダクタンスとの関係を表す第2干渉プロファイルとを含み、磁束推定部116は、第1インダクタンス、第2インダクタンス、第1干渉インダクタンス及び第2干渉インダクタンスに基づいて磁束を推定してもよい。この場合、磁束の推定精度が更に向上し、駆動トルクの推定精度が更に向上する。
【0084】
磁束推定部116は、モータ2の回転速度が所定の速度レベル未満である場合に、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて磁束を推定する第1推定部141と、モータ2の回転速度が速度レベルを超えている場合に、電力変換回路10が巻線に印加する駆動電圧に基づいて磁束を推定する第2推定部142とを有していてもよい。この場合、磁束の推定精度が更に向上し、駆動トルクの推定精度が更に向上する。また、インダクタンスの推定精度が向上することで、より高い回転速度まで第1推定部141による磁束の推定精度を維持できる。このため、第1推定部141の推定精度を維持し得る速度帯域と、第2推定部142の推定精度を維持し得る速度帯域との重複領域が大きくなる。このことも、駆動トルクの推定精度の向上に寄与する。
【0085】
電力変換装置1は、駆動電流と、駆動電圧と、モータの回転速度とに基づいて誘起電圧定数を更新する定数更新部151と、少なくとも駆動トルクが所定のトルク帯域の外に位置する場合、又はモータ2の回転速度が所定の速度帯域の外に位置する場合に、定数更新部151による誘起電圧定数の更新を中断させる更新中断部153と、を更に備え、磁束推定部116は、誘起電圧定数に更に基づいて磁束を推定してもよい。この場合、誘起電圧定数の推定結果が低下する帯域においては、あえて誘起電圧定数の推定を中断させることによって、誘起電圧定数の推定結果の信頼性を向上させることができる。従って、誘起電圧定数に基づく磁束の推定精度を更に向上させることができる。
【0086】
トルク帯域の下限値はゼロよりも大きく、速度帯域の下限値はゼロよりも大きくてもよい。この場合、誘起電圧定数に基づく磁束の推定精度を更に向上させることができる。
【0087】
トルク帯域の上限値は、駆動トルクの上限値よりも小さく、速度帯域の上限値は、モータ2の回転速度の上限値よりも小さくてもよい。この場合、誘起電圧定数に基づく磁束の推定精度を更に向上させることができる。
【0088】
電力変換装置1は、巻線の温度に基づいて巻線の抵抗を推定する巻線抵抗推定部154を更に備え、定数更新部151は、抵抗の推定結果に更に基づいて誘起電圧定数を更新してもよい。この場合、誘起電圧定数に基づく磁束の推定精度を更に向上させることができる。
【0089】
第2推定部142は、抵抗の推定結果に更に基づいて磁束を推定してもよい。この場合、第2推定部142による磁束の推定精度を更に向上させることができる。
【0090】
電力変換装置1は、磁束の推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2が発生する発生トルクを推定する発生トルク推定部121と、発生トルクのうち駆動対象に伝わらない損失トルクと、モータ2の回転速度との関係を表す損失プロファイルを記憶する損失記憶部122と、モータ2の回転速度と、損失プロファイルとに基づいて損失トルクを推定する損失トルク推定部123と、を更に備え、駆動トルク推定部124は、発生トルクの推定結果と損失トルクの推定結果とに基づいて駆動トルクを推定してもよい。この場合、駆動トルクの推定精度を更に向上させることができる。
【0091】
電力変換装置1は、トルク指令の値にトルク補償値を加算して、修正トルク指令値を算出する指令修正部131と、修正トルク指令値と駆動トルクの推定結果との差に基づいてトルク補償値を算出する補償値算出部132と、を更に備え、電力変換制御部133は、修正トルク指令値に発生トルクが追従するように電力変換回路10を制御してもよい。この場合、駆動トルクをトルク指令に迅速に追従させることができる。
【0092】
以上、実施形態について説明したが、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0093】
1…電力変換装置、2…モータ、10…電力変換回路、114…インダクタンス記憶部、115…インダクタンス推定部、116…磁束推定部、121…発生トルク推定部、122…損失記憶部、123…損失トルク推定部、124…駆動トルク推定部、131…指令修正部、132…補償値算出部、133…電力変換制御部、141…第1推定部、142…第2推定部、151…定数更新部、153…更新中断部、154…巻線抵抗推定部。
【要約】
【課題】モータのトルク制御の精度向上に有効な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は、モータ2の巻線に駆動電力を供給する電力変換回路10と、巻線に流れる電流と、巻線のインダクタンスとの関係を表すインダクタンスプロファイルを記憶するインダクタンス記憶部114と、電力変換回路10が巻線に流す駆動電流と、インダクタンスプロファイルとに基づいてインダクタンスを推定するインダクタンス推定部115と、インダクタンスの推定結果と、駆動電流とに基づいて、モータ2に生じる磁束を推定する磁束推定部116と、磁束の推定結果に基づいて、モータ2から駆動対象に伝わる駆動トルクを推定する駆動トルク推定部124と、駆動トルクの推定結果がトルク指令に追従するように電力変換回路10を制御する電力変換制御部133と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12