(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該エクストルーダー中のバレル内に配置される各スクリューは、該断面が垂直方向又は水平方向に一直線となるように、噛み合わされている、請求項1又は2記載の膨化蛋白素材の製造法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動物性食品を植物ベースの原料で置き換えようとする昨今の潮流がより強まりつつある中、より本物の畜肉に近い食感を持ち、また風味にも優れた膨化蛋白素材を提供できる技術が、顧客から益々求められている。また大豆パフのような植物性蛋白素材を主原料とするパフ素材に関しても特有の臭味がより少ない風味良好なものが求められている。
本発明者らは、上記ニーズに対して、エクストルーダーに導入する原料の混練物の組成や添加剤を検討すると共に、従来から汎用されている2軸エクストルーダーによる製造条件を種々変更し、多くの試みを行ってきた。
【0006】
その中で、膨化蛋白素材の製造原料に油脂を用いると、畜肉のような脂肪に起因する口溶けの良さや喉通りの良さ、そして美味しい油の風味を膨化蛋白素材に付与することができることがわかっている。しかし、油脂を添加することには、上記メリットを享受する以前に、エクストルーダー内での製造原料にかけるべき機械的エネルギーの減失につながり、混練物が正常に膨化しなかったり、膨化しても蓄肉様の弾力感が得られなくなったりするデメリットがある。そのため、膨化蛋白素材に油脂を添加する量はかなり低い領域に制限されている。
【0007】
また、膨化蛋白素材の製造原料として水を比較的多く用いるほど、加圧加熱された原料混練物が常圧下に押し出される際に、多くの水蒸気が蒸発し、植物性蛋白原料由来の独特の青臭さのような好ましくない臭味を水蒸気と共により多く除去することができることがわかっている。これにより、得られる膨化蛋白素材の風味をより向上させることができる。しかし、水を多量に添加することには、上記メリットを享受する以前に、上述した油脂の添加と同様のデメリットがあるため、水を添加する量にも低いレベルでの限界がある。
【0008】
以上の状況に鑑み、本発明は、第一に、加工食品の製造原料に畜肉代替素材として用いることなどができ、従来よりも口溶けが良好で喉通りが良いながらも噛み出しの硬さもあるという畜肉らしい食感を持ち、かつ植物性蛋白素材特有の臭味を感じにくいという風味にも優れた膨化蛋白素材の製造法を提供することを課題とする。
次に、本発明は、第二に、膨化蛋白素材中の油脂分の増量方法を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、第三に、膨化蛋白素材の脱臭方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは膨化装置からの観点を新たに加えて鋭意研究を重ねた結果、上記課題を解決できる知見を得、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち本発明は、下記の技術的思想を包含するものである。
(1)原料として植物性蛋白原料と水をエクストルーダーに導入して混練及び加圧加熱を行い、常圧下に押し出して混練物を膨化させる膨化蛋白素材の製造法であって、
下記A)〜C)の特徴を有する、膨化蛋白素材の製造法、
A)該原料として油脂を混合すること、
B)全原料中における、植物性蛋白原料の無脂固形分の含有率を44〜74重量%、油脂分を0.5〜10重量%、水分を25〜55重量%とすること、
C)該エクストルーダーとして、3軸以上のエクストルーダーを用いること、
(2)得られる膨化蛋白素材の吸水倍率が1.5倍以上である、前記(1)記載の膨化蛋白素材の製造法、
(3)該エクストルーダー中のバレル内に配置される各スクリューは、該断面が垂直方向又は水平方向に一直線となるように、噛み合わされている、前記(1)又は(2)記載の膨化蛋白素材の製造法、
(4)該エクストルーダーとして、3〜8軸エクストルーダーを用いる、前記(1)又は(2)記載の膨化蛋白素材の製造法、
(5)該エクストルーダーとして、4〜8軸エクストルーダーを用いる、前記(1)又は(2)記載の膨化蛋白素材の製造法、
(6)該エクストルーダーとして3〜8軸エクストルーダーを用い、かつ、該エクストルーダー中のバレル内に配置される該スクリューは、該断面が垂直方向又は水平方向に一直線となるように、噛み合わされている、前記(1)又は(2)記載の膨化蛋白素材の製造法、
(7)該エクストルーダーとして、4〜8軸エクストルーダーを用いる、前記(6)記載の膨化蛋白素材の製造法、
(8)全原料中における、油脂分を1〜10重量%とする、前記(1)〜(7)の何れか1項記載の膨化蛋白素材の製造法、
(9)畜肉代替用である、前記(1)〜(8)の何れか1項記載の膨化蛋白素材の製造法、
(10)パフ材料用である、前記(1)〜(8)の何れか1項記載の膨化蛋白素材の製造法、
(11)原料として植物性蛋白原料と水をエクストルーダーに導入して混練及び加圧加熱を行い、常圧下に押し出して混練物を膨化させる膨化蛋白素材の製造において、原料として油脂を用い、かつエクストルーダーとして3軸以上のエクストルーダーを用いることを特徴とする、膨化蛋白素材中の油脂分の増量方法、
(12)全原料中における、油脂分を1〜10重量%とする、前記(11)記載の方法、
(13)該エクストルーダーとして、4〜8軸エクストルーダーを用いる、前記(11)又は(12)記載の方法、
(14)原料として植物性蛋白原料と水をエクストルーダーに導入して混練及び加圧加熱を行い、常圧下に押し出して混練物を膨化させる膨化蛋白素材の製造において、製造原料中の水分を25〜60重量%とし、かつエクストルーダーとして3軸以上のエクストルーダーを用いることを特徴とする、膨化蛋白素材の脱臭方法、
(15)該エクストルーダーとして、4〜8軸エクストルーダーを用いる、前記(14)記載の方法。
【0011】
ところで、特許文献2においては、原料中に、蛋白質分を15〜32重量%、油脂分を11〜50重量%、水分を5〜56重量%含有する蛋白質食品原料を、「多軸型」エクストルーダーで「組織化」するという技術が開示されている。この技術は、原料に油脂を多量に含有させたときに生じるエクストルーダーの剪断エネルギーの減衰により、原料混練物の組織化が阻害されることを防止するため、HLBが2以上のショ糖脂肪酸エステルを添加することを特徴とする技術である。
本技術ではエクストルーダーの出口に冷却装置が備えられていることから、「非膨化タイプ」のビーフジャーキーのような組織状蛋白素材を製造していると考えられる。このような非膨化タイプであれば、特許文献2で開示されるように原料混練物中の油脂の割合が10重量%を超えていても製造できるであろう。
しかし、このような油脂の割合が過大な原料混練物をエクストルーダーで十分に膨化させて、本発明が目的とする膨化蛋白素材を製造することは、たとえ上記のような乳化剤を添加したとしても困難である。原料混練物の組織を膨化させるには、より強い剪断エネルギーが必要なためである。
また、本技術では多軸型エクストルーダーとして2軸以上のエクストルーダーを使用する旨の記載はあるが、実施例において実際に想定されている装置は「2軸エクストルーダー」のみであり、3軸以上のエクストルーダーでの検討は全くなされていない。
【0012】
一方、特許文献3,4では、3軸以上のスクリューを備えたエクストルーダーが開示されている。しかし、これらの装置は応用分野として、プラスチックや、かまぼこなどの練り製品の成形手段として利用されているに留まり、本発明が目的とする膨化蛋白素材の製造に適用しようという思想を教示するものではない。さらに原料混練物中の原料組成の割合を教示するものでもない。
【0013】
また、特許文献5では、油脂を多量に含有する原料混練物に炭酸マグネシウムなどのアルカリ性物質を添加して、2軸エクストルーダーで膨化蛋白素材を製造する技術が提案されている。しかし、本技術は特定の添加物を原料として用いることに技術思想の特徴があり、3軸以上のエクストルーダーを必須とするものではないし、実施例においても2軸エクストルーダーを使用するに留まる。また、本技術によって油脂の添加量をある程度増やすことはできるものの、依然として原料混練物を連続的かつ安定的に膨化させるには課題があった。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第一に、連続的かつ安定的な製造を維持しつつ、膨化蛋白素材中の油脂分を増量することができる。
第二に、連続的かつ安定的な製造を維持しつつ、効果的に脱臭された膨化蛋白素材を提供することができる。
第三に、加工食品の製造原料に畜肉代替素材として用いることができ、従来よりもほぐれ性が良好で喉通りが良いながらも弾力感のあるという畜肉らしい食感を持ちつつ、かつ植物性蛋白素材特有の臭味を感じにくいという風味にも優れた膨化蛋白素材を提供できる。また、別の態様として、該製造法は畜肉代替素材の製造のみでなく、風味が改良された大豆パフのような植物性蛋白素材を主原料とするパフ素材の製造にも適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
I)膨化蛋白素材の製造法
(膨化蛋白素材)
本発明における「膨化蛋白素材」は、いわゆる「組織状蛋白素材」の一種であって組織が「膨化」したタイプを意味する。これは脱脂大豆などの植物性蛋白原料を主要な製造原料として、水、その他適当な原料をエクストルーダーに導入して、装置内部が加圧加熱された条件下において、原料を装置内のスクリューで混練し、形成された混練物を装置の出口部分にある「ダイ」と呼ばれる部分の穴から常圧下に押し出して、該押出物を必要により切断及び乾燥して得られるものである。該混練物は高温高圧下からダイを通して常圧下に押し出される際に、組織が膨化した状態の押出物に変化する。例えば脱脂大豆や粉末状大豆蛋白を主原料としてこのような方法で製造された膨化蛋白素材は、「粒状大豆蛋白」や「大豆パフ」などとも称されている。
膨化蛋白素材中の蛋白質含量は、植物性蛋白原料の種類によっても変化するが、該素材の乾燥重量中、少なくとも30重量%以上であるのが適切であり、40重量%以上又は50重量%以上とすることができる。
【0018】
(製造原料)
◆植物性蛋白原料
本発明の膨化蛋白素材は、植物性蛋白原料を主原料とするものである。
本発明において「植物性蛋白原料」とは、植物由来の蛋白質素材であり、例えば、大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ豆、菜種、綿実、落花生、ゴマ、サフラワー、ヒマワリ、コーン、ベニバナ、ココナッツ等の油糧種子由来の蛋白質素材、あるいは、米、大麦、小麦等の穀物種子由来の蛋白質素材等が挙げられる。蛋白質素材とは、上記植物の粉砕物、抽出蛋白、濃縮蛋白、分離蛋白等である。例えば、米グルテリン、大麦プロラミン、小麦プロラミン、小麦グルテン、全脂大豆粉、脱脂大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、分離エンドウ蛋白、分離緑豆蛋白等が挙げられる。植物性蛋白原料としては、特に実施例に記載されるような大豆由来の蛋白質素材や、これと置換可能な油量種子由来の蛋白質素材が好ましく、油量種子の中でも豆類由来の蛋白質素材がさらに好ましい。
該植物性蛋白原料中の蛋白質含量は、膨化蛋白素材の蛋白質含量を満たすためになるべく高いことが好ましい。具体的には乾燥重量中30重量%以上とすることができ、50重量%以上とすることもできる。
【0019】
本発明の膨化蛋白素材の製造原料(含水)中における植物性蛋白原料の含有率は、無脂固形分として下限が44重量%以上であり、50重量%以上、55重量%以上又は60重量%以上とすることもできる。また、上限は74重量%以下、70重量%以下又は65重量%以下とすることができる。なお、大豆粉のように植物性蛋白原料中に油脂が含まれる場合、後述の通り該油脂は油脂分として算入されるものとする。
【0020】
◆油脂
従来の膨化蛋白素材においては油脂分を含まないものが多い。そのため、例えば該膨化蛋白素材が畜肉代替素材として加工食品に使用されている場合、該加工食品を喫食すると、畜肉は脂肪が多く口溶けや喉通りが良い一方で、該膨化蛋白素材は最後まで口に残り、加工食品の食感に違和感を与える場合があった。
一方、本発明の膨化蛋白素材の製造原料としては、油脂を混合することが好ましい。油脂を原料として適切な量を用いることにより、畜肉のような脂肪に起因する口溶けの良さや喉通りの良さ、そして美味しい油の風味を膨化蛋白素材に付与することができる。
ただし、油脂を添加することには上記メリットを享受する以前に、エクストルーダー内での製造原料にかけるべき機械的エネルギーの減失につながり、混練物が正常に膨化しなかったり、膨化しても蓄肉様の弾力感が得られなくなったりするデメリットがある。そのため、従来は油脂を添加する量はかなり低い領域に制限されていた。
しかしながら、本発明は上記デメリットを克服して油脂を従来の限界量よりも高い割合で用いることができることが特長である。
【0021】
添加する油脂は、一つの態様として大豆油、菜種油、ヒマワリ油、ベニバナ油、コーン油、米糠油、ゴマ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオバター、などの植物油脂、魚油、鯨油、乳脂、牛脂、豚脂などの動物油脂、及びこれらを分別、硬化、エステル交換した油脂などの油脂組成物を用いることができる。また、他の代替又は併用できる態様として、油脂を含んでいる大豆粉などの油糧種子を用いることもできる。この場合、該油糧種子は植物性蛋白原料と油脂の原料を兼ねる。全原料中における該油糧種子の固形分は、油脂分と無脂固形分の両方に分けて算入されるものとする。
【0022】
本発明の膨化蛋白素材の製造原料(含水)中における油脂分は、少なくとも下限が0.5重量%以上であり、1重量%以上、2重量%以上、3重量%以上又は4重量%以上とすることができる。また、上限は10重量%以下であり、8重量%以下、6重量%以下、5重量%以下又は4.5重量%以下とすることができる。油脂分が少なすぎると本発明の目的とする膨化蛋白素材を得られない。また、油脂分が過大となると本発明の方法によっても連続的かつ安定的な製造が困難となる。
【0023】
◆水
本発明の膨化蛋白素材の製造原料としては、水を用いることが必須である。水としては純粋な水の他、豆乳のように水を含む液体でもよい。水を原料として比較的多く用いることにより、加圧加熱された原料混練物が常圧下に押し出される際に、多くの水蒸気が蒸発し、植物性蛋白原料由来の独特の青臭さのような好ましくない臭味を水蒸気と共により多く除去することができる。そのため、得られる膨化蛋白素材の風味をより向上させることができる。
ただし、水を多く添加することには、上記メリットを享受する以前に、上述した油脂の添加と同様のデメリットがあるため、従来は水を添加する量にも限界があった。しかしながら、本発明は上記デメリットを克服して水も従来の限界量よりも多量に用いることができることが特長である。
【0024】
本発明の膨化蛋白素材の製造原料(含水)中における水分は、少なくとも下限が25重量%以上であり、30重量%以上又は35重量%以上とすることができる。また、上限を55重量%以下、50重量%以下又は40重量%以下とすることができる。水分が少なすぎると本発明の目的とする膨化蛋白素材を得られない。また、水分が過大となると本発明の方法によっても連続的かつ安定的な製造が困難となる。
【0025】
本発明の膨化蛋白素材の水を除く製造原料(「粉原料」ともいう。)に対する加水率は、製造原料中の水分が25〜60重量%となるように計算して条件設定すればよい。具体的には35〜75重量%、好ましくは45〜65重量%とすることができる。
【0026】
◆その他の原料
本発明の膨化蛋白素材の製造原料として、他に種々の副原料を添加することができる。例えば食塩等のアルカリ金属塩、塩化カルシウム等の二価金属塩、卵白やカゼイン等の動物性蛋白、澱粉や多糖類等の糖質、食物繊維、乳化剤、香料、その他の公知の添加物を、本発明の効果を妨げない範囲で、適宜加えることもできる。
ただし、畜肉や卵、乳については動物性の原料であり、これらを加えると純植物性の膨化蛋白素材とは言い難くなるため、「植物性」の素材を所望する場合には含まないことが好ましい。
【0027】
(エクストルーダー)
◆エクストルーダーの構造
本発明の膨化蛋白素材の製造は、装置としてエクストルーダーを用いて行う。エクストルーダーは一般的に、原料供給口からバレル内でその中に配置されたスクリューによって原料を送り、混練、加圧(圧縮)、加熱する機構を有し、バレル先端部(出口)に種々の形状の穴を有するダイが装着されている。
そして、本発明においては、バレル内に配置されるスクリューを3本以上有するエクストルーダー、すなわち3軸以上のエクストルーダーを用いることが特徴である。従来の汎用型のエクストルーダーである2軸エクストルーダーに比べ、3軸以上のエクストルーダーは、膨化蛋白素材の製造において、より多くの油脂や水を原料として添加する条件であっても、連続的かつ安定的な製造を可能し、これにより膨化蛋白素材中の油脂分の増量や、膨化蛋白素材の脱臭を容易にする。
特に3〜8軸のエクストルーダーが好ましく、エネルギー使用量、スクリュー組み立て時の効率性や、スクリュー洗浄時の作業性等の観点から、4〜8軸のエクストルーダー、すなわち4軸、5軸、6軸、7軸又は8軸のエクストルーダーがより好ましい。
【0028】
◆スクリューの配置
3軸以上のエクストルーダーとの組合せにおいて、バレル内に配置される各スクリューは、原料を連続的かつ安定的に、均一に混練できることを条件にいかなる形状に噛み合わされていても良いが、実施形態として各スクリューの断面が垂直方向又は水平方向に一直線となるように、噛み合わされていることが好ましい。当該スクリューの配置は、4〜8軸エクストルーダーとの組合せにおいて好ましく、特に4軸エクストルーダーとの組合せにおいてさらに好ましい。各スクリューがバレル内でこのように配置されることにより、バレル内壁面とスクリューとの摩擦領域がより多くなり、機械的なエネルギーをより多く原料の混練物に与えることができる。
【0029】
◆運転条件
膨化蛋白素材の製造原料をエクストルーダーに供給し、加圧加熱下からダイより常圧下に押し出す際の運転条件は、公知の条件に基づいて適宜選択及び調整できる。非限定的な例を示すと、加熱条件としてバレル先端部の温度は120〜220℃が好ましく、140〜200℃がさらに好ましい。加圧条件としてバレル先端部のダイの圧力は2〜100kg/cm
2が好ましく、5〜40kg/cm
2がさらに適当である。
【0030】
本発明において、原料の混練物を加圧加熱下でダイより常圧下に押し出し、膨化させて得られた膨化物は、必要により適当な大きさにカッター等で切断し、乾燥させれば良いが、当該条件は公知の条件に基づいて適宜選択及び調整できる。非限定的な例を示すと、流動層乾燥機を用いて乾燥する場合、例えば60℃〜100℃の熱風に膨化物を10〜30分間程度当てることによって乾燥させることが適当である。乾燥後に得られる膨化蛋白素材材の水分は、保存性の点から15重量%以下が好ましく、1〜12重量%がさらに好ましく1〜10重量%がさらに適当である。
【0031】
(膨化蛋白素材の膨化度合)
以上の製造法によって得られる膨化蛋白素材は、原料中に油脂分や水分を比較的多量に含むにも関わらず、連続的かつ安定的に製造され、従来の膨化蛋白素材と同等のまとまりのある形状を有しかつ十分に膨化されているものである。
本発明の膨化蛋白素材において、膨化の程度は吸水倍率を指標とすることができ、1.5倍以上、より好ましくは2倍以上の吸水倍率を有する。
吸水倍率とは、膨化蛋白素材の重量に対し、該素材に吸水する水の重量の倍率を意味する。吸水倍率の具体的な算出方法は、後述する(実施例)に記載の方法を用いればよい。
【0032】
(用途)
本発明により得られる膨化蛋白素材は、ハンバーグやミートボール,ギョーザ,肉まん,シューマイ,メンチカツ,コロッケ,そぼろ等の加工食品にミンチなどの畜肉の代替素材として添加して利用することができる。また、直接調理してチャーシューのような薄切り肉や唐揚げの肉などの蓄肉代替素材として利用することもできる。また、パフ材料として各種の加工食品、例えばグラノーラなどのシリアル食品、菓子、デザート、などに用いることもできる。
【0033】
II)膨化蛋白素材中の油脂分の増量方法
別の態様として、本発明は、膨化蛋白素材中の油脂分の増量方法を提供し、原料として植物性蛋白原料と水をエクストルーダーに導入して混練及び加圧加熱を行い、常圧下に押し出して混練物を膨化させる膨化蛋白素材の製造において、原料として油脂を用い、かつエクストルーダーとして3軸以上のエクストルーダーを用いることを特徴とする。
【0034】
当該発明の用語の説明及び具体的な実施形態については、上記I)の記載を援用する。
油脂の混合と3軸以上のエクストルーダーとの組合せにより、連続的かつ安定的な混練ができない等の製造上問題なく、原料中に油脂を比較的多量に混合することができ、これによって従来よりもほぐれ性が良好で喉通りが良いながらも弾力感のあるという畜肉らしい食感を持つ膨化蛋白素材を提供できる。なお本実施態様においては、混練物中の水分は25重量%以上である必要はなく、25重量%未満、さらに20重量%以下の水分であってもよい。
【0035】
III)膨化蛋白素材の脱臭方法
さらに別の態様として、本発明は、膨化蛋白素材の脱臭方法を提供し、原料として植物性蛋白原料と水をエクストルーダーに導入して混練及び加圧加熱を行い、常圧下に押し出して混練物を膨化させる膨化蛋白素材の製造において、製造原料中の水分を25〜60重量%とし、かつエクストルーダーとして3軸以上のエクストルーダーを用いることを特徴とする。
【0036】
当該発明の用語の説明及び具体的な実施形態については、上記I)の記載を援用する。
製造原料への加水倍率を増やすことと、3軸以上のエクストルーダーとの組合せにより、連続的かつ安定的な混練ができない等の製造上問題なく、原料中に水を比較的多量に混合することができ、これによって植物性蛋白原料に由来する特有の臭味が脱臭された膨化蛋白素材を提供できる。なお本実施態様においては、混練物中の油脂分は0.5重量%以上である必要はなく、0.5重量%未満、さらに0重量%の油脂分であってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例等により本発明の実施形態についてさらに具体的に記載する。なお、以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「重量%」及び「重量部」を意味するものとする。
【0038】
(試験例1)
エクストルーダーとして4軸エクストルーダー「WDR40 QD」((株)テクノベル製)を用いた。該エクストルーダーは、バレル内に4本のスクリューが平行に配置され、スクリューの先端側(断面)からみると水平方向に一直線に配置されているものである。
原料として脱脂大豆粉末と水を表1の上欄に示す割合で該エクストルーダーに供給し、混合しながら加熱、加圧処理を行い、原料混練物をバレル先端のダイから常圧下に押し出した。該押出物を長さ20mm程度となるようにダイからの出口直後にカッターで切断した後、乾燥機にて80℃で4時間程度、水分5重量%となるように熱風で乾燥を行い、組織化した蛋白素材を得た。
【0039】
なお、エクストルーダーは以下の条件で運転した。
・ダイ :開口部が円形状(直径5mm×2穴)
・粉体原料流量 :25〜30kg/時間
・スクリュー回転数 :200rpm
・スクリュー径 :40mm
・バレル温度 :入口側:80℃,中央部:120℃,出口側:150℃
【0040】
次に、比較として2軸エクストルーダー「KZW40 TW」((株)テクノベル製)を用いて同様の条件で組織化物を得た。
【0041】
得られた各組織化物の膨化の指標として、吸水倍率を下記の方法で測定した。また、各組織化物の食感と風味を下記の方法で評価した。これらの結果を表1の下欄に示した。
【0042】
○吸水倍率の測定方法
得られた各組織化物30gに80℃の温水300mlを加え、10分間吸収させた後、濾布を使用して5分間自然放置させ過剰の水を分離させる。吸水後の試料の重さW(g)を測定し、
吸水倍率(倍)=(W−30)/30
の計算式により吸水倍率を求める。
組織化物の形状にまとまりがあり、吸水倍率が1.5倍以上あれば組織化物が適切に膨化したと判断する。細かい形状のものが多く生じ、組織化物の形状にまとまりがないものは、吸水倍率が1.5倍以上であっても噛み応えが悪くなるので、形状と吸水倍率の双方が噛み応えのある食感に重要である。本試験例で得られた組織化物は、いずれも形状にまとまりがあり、形状的には問題のないものであった。
【0043】
○食感(噛み出しの硬さ)の評価方法
得られた各組織化物5gに80℃の温水を20g加え、10分間吸水させた後に膨化蛋白素材の評価において十分に訓練されたパネラー6名に依頼し、各サンプルを試食してもらい、畜肉のような噛み出しの硬さを下記の評価基準で合議により評価してもらい、B評価以上を合格とした。
<評価基準>
A:畜肉と同様の噛み出しの硬さが最もある
B:畜肉と同様の噛み出しの硬さがあるが、Aよりは弱い
C:畜肉に比べてやや噛み出しの硬さが弱い
D:畜肉に比べて最も噛み出しの硬さがない
【0044】
○風味(臭味)の評価方法
得られた各組織化物5gに80℃の温水を20g加え、10分間吸水させた後に同パネラー6名に大豆蛋白素材特有の臭味の強さを評価してもらい、B評価以上を合格とした。なお、エクストルーダーから押し出した際に、カッターで切断する前から組織がまとまらずに砂のような粒度の細かいものになった場合は、組織化物が得られなかったものと判定し、そもそも風味評価の対象外とした。
<評価基準>
A:臭味を最も感じない
B:臭味を感じにくいが、Aよりは若干感じる
C:臭味を最も強く感じる
−:評価対象外
【0045】
(表1)
【0046】
表1の結果より、脱脂大豆に対する加水率を高くして製造原料の混練物中の水分を高くするほど、2軸エクストルーダーでは得られる組織化物の吸水倍率が大きく低下し、T1〜T3では所望の膨化蛋白素材が得られなかった。特にT3のように混練物中の水分が32.4%(加水率48%)のレベルでも極端に組織化物の吸水倍率が悪化してしまった。
【0047】
一方、4軸エクストルーダーでは、混練物中の水分を高くしても得られる組織化物の吸水倍率の低下がかなり緩やかであり、T1〜T3の条件でも所望の膨化蛋白素材が得られた。特にT1のように混練物中の水分が41.9%(加水率72%)であっても吸水倍率は1.8倍を示し、2軸エクストルーダーを用いたT3での組織化物の吸水倍率(1.3倍)より高くなった。
【0048】
2軸エクストルーダーを使用した場合は、畜肉様の噛み出しの硬さがある食感の膨化蛋白素材を得るには、混練物中の水分を29%以下程度に抑えざるを得なかった。
一方、4軸エクストルーダーを使用した場合、同様の硬さのある食感の膨化蛋白素材を得るには原料混練物の水分が28〜42%程度でも問題はなかった。おそらく50%、55%、さらには60%程度までは問題ないと推察された。
また、同様の膨化の程度(吸水倍率)であっても、4軸エクストルーダーを使用したT2〜T4の膨化蛋白素材の方が、2軸エクストルーダーを使用したT4の膨化蛋白素材よりも噛み出しの硬さが強くなり、より畜肉に近い食感であった。
【0049】
風味については、4軸エクストルーダーを使用した場合、T1(水分41.9%)やT2(水分37.5%)の膨化蛋白素材は、特に大豆蛋白素材特有の臭味(大豆臭)を全く〜殆ど感じることなく非常に良好な風味を有していた。またT3(水分32.4%)の膨化蛋白素材も大豆臭が少なく感じられ良好であった。
一方、2軸エクストルーダーを使用した場合、T1(水分41.9%)の組織化物においてようやく大豆臭が少なく感じられるようになった。しかし、4軸エクストルーダーのT1の膨化蛋白素材と比べるとやはり大豆臭が感じられ、また上述の通りそもそもT1では膨化が不十分で所望の膨化蛋白素材を得られなかった。
【0050】
(試験例2)
試験例1と同様に、エクストルーダーとして4軸エクストルーダーと2軸エクストルーダーをそれぞれ用い、原料として脱脂大豆粉末、パーム分別軟質油と水を表2の上欄に示す割合で該エクストルーダーに供給し、試験例1と同様の条件により、組織化した蛋白素材を得た(
図1参照)。
得られた組織化物は試験例1と同様の品質評価を行った。
加えて、食感については畜肉のような「喉通りの良さ」を下記の方法で評価した。
また、本試験例では、得られた組織化物の中に形状が十分にまとまっていないものが一部あったため、組織化物が膨化蛋白素材としてまとまりのある形状になっているか否かの指標として、粒度を下記の方法で測定した。これらの結果を表2の下欄に示した。
【0051】
○食感(喉通り)の評価方法
試験例1と同様にして、畜肉のような「喉通りの良さ」を下記の評価基準で評価してもらい、B評価以上を合格とした。
<評価基準>
A:畜肉と同様に口溶けが良く、最も喉通りが良い
B:畜肉と同様の喉通りの良さがあるが、Aよりは劣る
C:畜肉に比べてやや喉通りが悪い
D:畜肉に比べて最も喉通りが悪い
【0052】
○粒度の評価方法
目の形状が正方形で、目開きが4.75mm、内径が200mmのステンレス試験用ふるい(JIS Z8801)に100gの組織化物を投入し、十分にふるい、細かい通過物(不良品)の割合を測定した。該通過物の割合が50%を超える場合は不合格とした。
【0053】
(表2)
【0054】
表2、
図1の通り、2軸エクストルーダーを用いて、原料中の油脂分の割合を上げていくと組織化物を形成できなくなっていった。T7においては26.7%、T8においては75.2%が目開き4.75mmのふるいを通過した。ダイの開口部が5mmの円形の穴であることを考えると、膨化しておらず、ダイから放出された時にはじけてしまい十分に組織化できなかったと言える。これに伴い、T8、T9の食感も非常に柔らかく、畜肉様の硬さとは程遠いものであった。また、組織化が不十分であり、ざらざらとした食感で喉通りも悪かった。
【0055】
一方で、4軸エクストルーダーを用いた場合は、原料中の油脂分の割合を上げていっても組織化物がしっかりと形成されており、形状は油脂分を含まない場合と同等で良好であった(
図1参照)。T8においては3.0%、T9においても13.9%しか目開き4.75mmのふるいを通過していなかった。食感においてもいずれにおいてもしっかりとした噛み応えがあった。喉通りにおいてもT8はざらつきもなく容易に飲み込むことができて良好であり、T9においてはさらに良好であった。また、風味においても油脂分の割合を上げることにより、後味の大豆臭がやや弱く感じられてT6よりもさらに良好であった。
【0056】
(試験例3)
エクストルーダーとして試験例1と同じ4軸エクストルーダーと2軸エクストルーダーに加え、8軸エクストルーダー(「WDR15 OT」(株)テクノベル製)をそれぞれ用いて、原料として脱脂大豆粉末、パーム分別軟質油と水を表3の上欄に示す割合で該エクストルーダーに供給し、組織化した蛋白素材を得た。
得られた組織化物は試験例2と同様の品質評価を行った。ただし、粒度の評価については、目開きが3.35mmのステンレス試験用ふるいを用いた。品質評価の結果を表3の下欄に示した。
【0057】
なお、エクストルーダーは以下の条件で運転した。
・ダイ :開口部が円形状(直径2.5mm×2穴)
・粉体原料流量 :5〜10kg/時間
・スクリュー回転数 :500〜1000rpm
・スクリュー径 :15mm
・バレル温度 :入口側:80℃,中央部:120℃,出口側:150℃
【0058】
(表3)
【0059】
表3の通り、2軸エクストルーダーを用いて、原料中の油脂分の割合を上げていくと組織化物を形成できなくなっていった。T12においては55.4%、T13においては76.4%が目開き3.35mmのふるいを通過した。ダイの開口部が2.5mmの円形の穴であることを考えると、膨化しておらず、ダイから放出された時にはじけてしまい十分に組織化できなかったと言える。これに伴い、T12、T13の食感も非常に柔らかく、畜肉様の硬さとは程遠いものであった。また、組織化が不十分であり、ざらざらとした食感で喉通りも悪かった。
【0060】
一方で、4軸および8軸エクストルーダーを用いた場合は、原料中の油脂分の割合を上げていっても組織化物がしっかりと形成されており、形状は油脂分を含まない場合と同等で良好であった(
図1参照)。T12においてはそれぞれ6.4%、8.0%、T13においても14.0%、14.7%しか目開き3.35mmのふるいを通過していなかった。食感においてもいずれにおいてもしっかりとした噛み応えがあった。喉通りにおいてもT12はざらつきもなく容易に飲み込むことができて良好であり、T13においてはさらに良好であった。また、風味においても油脂分の割合を上げることにより、後味の大豆臭がやや弱く感じられてT10よりもさらに良好であった。
このように、2軸エクストルーダーおよび4軸エクストルーダーの結果は試験例2と同様で再現性があり、8軸エクストルーダーについては4軸エクストルーダーと同様の結果を得た。
【0061】
以上より、2軸エクストルーダーよりもスクリューの本数が多いエクストルーダーを用いることにより、膨化した組織を保ちつつ油脂分の割合を上げることが可能となり、その結果良好な噛み応えと喉通りを両立した、畜肉により近い食感の膨化蛋白素材を実現できると考えられる。