【文献】
菱田 他,X線CTデータを用いた鋳造部品の鋳巣体積算出法,精密工学会誌,2010年 8月,76巻、8号,pp960-965,DOI https://doi.org/10.2493/jjspe.76.960,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe/76/8/76_8_960/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
評価対象部材をX線CTにより撮像して得たCT画像から、前記評価対象部材の巣によって形成される空洞部と、該空洞部の周辺に繋がる樹枝状部と、を一つの空洞群として抽出し、前記空洞群の体積を表す空洞群体積を求める工程と、
前記CT画像から前記空洞部を抽出し、抽出された前記空洞部の体積を表す空洞部体積を求める工程と、
前記空洞群体積に対する前記空洞部体積の体積率を表す空洞部体積率を求める工程と、
前記空洞部体積率に基づいて前記空洞群の巣の種類を判別する工程と、
を有する巣の評価方法。
【背景技術】
【0002】
製品の軽量化・低コスト化の一環として、射出成形製品や鋳造製品の用途拡大が図られている。これら製品の成形時においては、溶融材が固化する際に巣が発生することがある。巣は、発生する数、サイズ、発生位置によっては、製品への応力負荷時に応力集中を生じさせ、特に過酷な条件下では、製品が破損に至ることも起こり得る。
そこで、巣の発生を抑制するために、射出条件や鋳造条件等の改善が図られている。しかし、実際には巣の発生を皆無にすることは極めて困難であり、製品強度に影響を及ぼす部位に巣が集中しないように、設計、形状、鋳造条件等の最適化が図られている。
【0003】
このような製品の内部欠陥の評価は、製品を破壊して、破面観察等により評価していたが、この評価方法では労力と時間を要する課題があった。そこで、近年においては、X線CT(コンピューティッド トモグラフィ)スキャン装置等により製品内部の断層を画像化することで、巣の発生状態を非破壊で検査し、製品の成形品質を確認する手法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
特許文献1に記載の鋳造部品の品質判定方法は、X線CTスキャン装置により鍛造品内部の断層を画像化することで、内部欠陥の状態を可視化している。
また、特許文献2に記載の鋳巣計測方法は、X線CTスキャン装置による複数の断層画像に基づいて生成した製品の三次元形状モデルから、内部巣に該当する部分を抽出し、異なる画像フィルタを適用することで巣の寸法を計測可能としている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の巣の評価方法についての好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態における巣の評価方法の手順は、概略的には、評価対象部材をX線CTにより撮像して得たCT断層画像(以下、CT画像と称する)から、評価対象部材内の巣によって形成される空洞部と、その空洞部の周辺に繋がる樹枝状部と、を一つの空洞群として抽出する。また、上記のCT画像から、予め定めた規定の体積より大きな空洞部を抽出する。そして、空洞群の体積に対する空洞部の体積の体積率を求め、この体積率に基づいて、空洞群の巣の種類を判別するというものである。
【0012】
ここで、評価対象部材としては、自動車のステアリング部品であるアルミコラムやアルミギアボックス等のアルミニウムの鋳造部品が例示できるが、本発明は、これに限らない。評価対象部材は、他の材料の鋳造部品であってもよく、射出成形による樹脂成形部品等であってもよい。
【0013】
以下、本評価方法を
図1に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、ステップS1で内部に巣を有する鋳造部品をX線CTにより撮像してCT画像を取得する。
【0014】
ここでは、X線CTによる鋳造部品の撮像を以下の条件で行った。
評価対象:アルミダイカストの試験片(寸法35mm×15mm×5mm)
X線CT:分解能 5μm
撮像条件:管電圧 170kV
管電流 120μA
CT画像のボクセルサイズ 25μm
CT画像の画素数 2048×2048
解析条件:8ボクセル以上の巣を評価対象とする。
【0015】
図2(A)は鋳造部品11の巣断面を示す研磨写真であり、
図2(B)は
図2(A)に相当するCT画像15の拡大図である。
図2(A)に示すように、鋳造部品11内には巣13が存在し、この巣13は、
図2(B)におけるCT画像15の中央部に低輝度部として映出されている。
【0016】
次いで、ステップS2で、得られたCT画像15を画像処理して
図2(C)に示す空洞群17を抽出する。空洞群17とは、
図3に示すように、CT画像15の中央部に映出される、鋳造部品の巣によって形成される空洞部19(
図2(B)の低輝度部で示される領域)と、この空洞部19の周囲に繋がる樹枝状部21とを一つに纏めた領域を意味する。
【0017】
図4(A)はCT画像15に映出される鋳造部品の空洞部19を模式的に示す説明図、
図4(B)は
図4(A)に示すCT画像15のLa線上の輝度分布を示すグラフである。
CT画像15の輝度分布は、鋳造部品の金属部では輝度値が高くなり(図示例では、輝度値10程度)、空洞部19となる空気層では輝度値が低くなる(図示例では輝度値2程度)。しかし、空洞部19は、鋳造部品の内部に存在するので、実際のCT画像15では、線質硬化の影響により金属部と空気層との境界が曖昧になる。
【0018】
そこで、CT画像15の輝度値の変化が最大となる画素位置を金属部と空気層との境界Pと認識して、空洞部19を抽出する。例えば、CT画像15を微分フィルタにより画像処理して、画像中のエッジを抽出することにより、空洞部19の境界Pを精度良く認識できる。
【0019】
図5はCT画像15において抽出された空洞部を画素単位で模式的に示す説明図である。
図中に示されるCT画像15の空洞部19Aと空洞部19Bとは、互いに離間して抽出されている。これら空洞部19A,19B同士の離間距離が所定距離以下(例えば、2ピクセル以下)の場合は、空洞部19Aと空洞部19Bとを纏めて1つの空洞として扱うことにする。即ち、空洞部19Aと空洞部19Bとの間の樹枝状となった画素(樹枝状部21)を、空洞部とみなすことにする。これにより、隣接する空洞部19A,19Bと、樹枝状部21とが合成された、1つの空洞群17Aが抽出される。
【0020】
また、空洞群は次のように抽出してもよい。
図6は空洞部の他の合成方法を示す模式的な説明図である。
ここでは、CT画像の輝度値の変化が最大となる画素位置を空洞部の境界とした場合に、この境界となる画素の最小外接円を求める。いま、最小外接円C1が直径d1の仮想空洞円20Aと、最小外接円C2の直径がd2(d2<d1)の仮想空洞円20Bとが、離間距離Lで配置される場合を考える。
【0021】
仮想空洞円20Bの直径d2と離間距離Lとの率(L/d2)が規定値(例えば、0.5)より小さい場合、仮想空洞円20Aと仮想空洞円20Bとを合成して、1つの空洞群17Bとする。この場合も、仮想空洞円20Aと仮想空洞円20Bとの間の画素(樹枝状部21)を空洞とみなして1つの空洞群17Bが抽出される。
【0022】
一方、ステップ3ではCT画像から巣の空洞部のみを抽出する。
図7(A)はCT画像15に映出される鋳造部品の空洞部19を模式的に示す説明図、
図7(B)は
図7(A)に示すCT画像15のLb線上の輝度分布を示すグラフである。
【0023】
図7(B)に示すCT画像15におけるLb線上の輝度分布のグラフによれば、金属部の総平均輝度値は、輝度値10であり、空気層の総平均輝度値は、輝度値2となる。これら金属部の総平均輝度値と空気層の総平均輝度内との平均値は、輝度値6(=(10−2)/2+2)となる。この平均輝度値を有する画素を、空洞部19の境界と認識して空洞部19を抽出する。
【0024】
つまり、鋳造部品11(
図2(A)参照)に対するCT画像15(
図2(B)参照)から、
図8に示す空洞部19が抽出される。
【0025】
次に、ステップS2で空洞部19が合成された空洞群17の抽出結果から、空洞群体積V1を求める。また、ステップS3で、空洞部19のみの抽出結果から、空洞部体積V2を求める。
【0026】
そして、ステップS4で、空洞群体積V1に対する空洞部体積V2の比である空洞部体積率R(=V2/V1)を求める。この空洞部体積率Rに応じて、鋳造部品の巣の種別を判断する。巣の種類としては、ここでは一例として、巻き込み巣、ひけ巣、ざく巣を挙げて説明するが、他の巣が存在する場合でも同様に評価できる。
【0027】
各種の巣に対する空洞部体積率Rは、検証実験の結果、巻き込み巣の場合、空洞部体積率Rは20%以上、ひけ巣の場合、空洞部体積率Rは3%以上、20%以下となった。ざく巣の場合、空洞部体積率Rは3%未満となった。この検証実験は、10μm間隔の追い込み研磨により、20個の巣を検証したアルミダイカストによる鋳造部品の試験片を用い、この試験片のCT画像を画像解析して空洞部体積率Rを求めることで実施した。巣の種類は「日本鋳造工学会ダイカスト研究部会編:ダイカストの鋳造欠陥・不良及び対策事例集,社団法人日本鋳造工学会」を用いて判別した。なお、上記した巣の種類毎の体積率境界値は、試験片の種類や状態によって変化するので、評価対象部材に応じて適宜設定する。
【0028】
ステップS5では、S4で求めた空洞部体積率Rが、巻き込み巣の体積率範囲であるかを判定する。ここでは、空洞部体積率Rが20%を超える場合、ステップS6で、空洞群17を巻き込み巣と判定する。
【0029】
また、空洞部体積率RがステップS5で巻き込み巣の体積率範囲でないと判定された場合は、ステップS7で、空洞部体積率Rがひけ巣の体積率範囲であるかを判定する。ここでは、空洞部体積率Rが3%〜20%である場合、ステップS8で、空洞群17をひけ巣と判定する。
【0030】
更に、ステップS7で空洞部体積率Rがひけ巣の体積率範囲でないと判定された場合は、ステップS9で、空洞部体積率Rがざく巣の体積率範囲であるかを判定する。ここでは、空洞部体積率Rが3%未満である場合、ステップS10で、空洞群17をざく巣と判定する。これにより、空洞群17の巣の種類を判別できる。なお、判定する巣の種類を更に増やす場合には、ステップS5,S7,S9等の条件を増やすことで、いずれかの巣の種類に判別可能となる。
【0031】
本手順による巣の評価方法によれば、評価対象部材の内部における巣の存在率を定量的に算出することで、簡便に巣の種類の特定が行え、より適正に巣を評価できる。
【0032】
次に、空洞群17が鋳造部品11の強度に及ぼす影響を評価する方法について説明する。
上記した巣の評価方法により、鋳造部品11のCT画像に映出された空洞群17は、巻き込み巣、ひけ巣、ざく巣のいずれかに分類される。その後、ステップS11で、鋳造部品11の全体積に占める各空洞群17の体積の比率を示す全体体積率Rv(i)を算出する。ここで、iは巣の識別指標であり1〜nの値で、nは巣の種類の全数を表す。
【0033】
そして、ステップS12で、S11で求めた全体体積率Rv(i)に基づいて、巣が鋳造部品に及ぼす影響度を評価する。
【0034】
巣が鋳造部品11の強度に及ぼす影響度は、巣の種類、即ち、空洞群17の種類(巻き込み巣、ひけ巣、及びざく巣)によって異なる。そこで、巣の種類毎に、全体体積率Rv(i)と、その巣の種類に対応する重み付け係数K(i)とを乗じた評価値Ev(i)(=K(i)×Rv(i))を求め、この評価値Ev(i)を用いて影響度を評価する。
【0035】
鋳造部品11の強度に及ぼす影響は、ざく巣、ひけ巣、巻き込み巣の順で大きくなる。そこで、重み付け係数Kは、例えば、ざく巣の場合の重み付け係数K(3)を0.2、ひけ巣の場合の重み付け係数K(2)を0.5、巻き込み巣の場合に重み付け係数K(1)を1に設定する。
【0036】
そして、巣の種類毎の評価値Ev(i)を巣の全種類で合算した合算評価値Eva(=Σ(Ev(i)、i=1〜n)を求め、合算評価値Evaに基づいて巣を評価する。
【0037】
例えば、鋳造部品11の全体積に占める巻き込み巣の全体体積率Rv(1)が5%、ひけ巣の全体体積率Rv(2)が10%、ざく巣の全体体積率Rv(3)が15%とすると、各巣の評価値Ev(1)〜Ev(3)は、次のように表される。
【0038】
巻き込み巣:Ev(1)=K(1)×Rv(1)=1×5=5
ひけ巣 :Ev(2)=K(2)×Rv(2)=0.5×10=5
ざく巣 :Ev(3)=K(3)×Rv(3)=0.2×15=3
よって、合算評価値Evaは、
Eva=Ev(1)+Ev(2)+Ev(3)=13
となる。
【0039】
上記のように求めた合算評価値Evaにより、鋳造部品11の強度に及ぼす影響度を総合的に評価する。この評価方法によれば、求めた合算評価値Evaに基づいて鋳造部品11の製造条件等の見直し等を簡単に行うことができる。また、巣の種類毎に重み付けをして評価することで、強度評価がより正確に行えるようになる。
【0040】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0041】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 評価対象部材をX線CTにより撮像して得たCT画像から、前記評価対象部材の巣によって形成される空洞部と、該空洞部の周辺に繋がる樹枝状部と、を一つの空洞群として抽出し、前記空洞群の体積を表す空洞群体積を求める工程と、
前記CT画像から前記空洞部を抽出し、抽出された前記空洞部の体積を表す空洞部体積を求める工程と、
前記空洞群体積に対する前記空洞部体積の体積率を表す空洞部体積率を求める工程と、
前記空洞部体積率に基づいて前記空洞群の巣の種類を判別する工程と、
を有する巣の評価方法。
この鋳巣の評価方法によれば、空洞部体積率を用いて巣の種類を判別するため、評価対象部材の巣を、煩雑な処理を必要とせずに、CT画像からの巣の三次元情報に基づいて適正に判別できる。
【0042】
(2) 前記巣の種類を判別する工程は、前記空洞群を、前記空洞部体積率の大きい順に、巻き込み巣、ひけ巣、ざく巣と判別する(1)に記載の巣の評価方法。
この巣の評価方法によれば、空洞部体積率に応じて、空洞部が巻き込み巣、ひけ巣、又はざく巣のいずれであるかを判別できる。
【0043】
(3) 前記評価対象部材の全体積に対する前記空洞群体積の体積率を示す全体体積率を前記巣の種類毎に求め、
前記巣の種類毎に、前記全体体積率と、当該巣の種類に対応する重み付け係数とを乗じた評価値を求める工程と、
前記巣の種類毎の前記評価値を前記巣の全種類で合算した合算評価値を求め、前記合算評価値に基づいて前記巣を評価する工程と、
を有する(1)又は(2)に記載の巣の評価方法
この巣の評価方法によれば、巣の種類毎に算出した各評価値を合算した合算評価値に基づいて、評価対象部材の強度を総合的に、且つ精度よく評価できる。