特許第6893380号(P6893380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

特許6893380生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム
<>
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000002
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000003
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000004
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000005
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000006
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000007
  • 特許6893380-生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6893380
(24)【登録日】2021年6月3日
(45)【発行日】2021年6月23日
(54)【発明の名称】生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/00 20060101AFI20210614BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20210614BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20210614BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20210614BHJP
【FI】
   B09B3/00 CZAB
   C02F11/04 A
   B09B3/00 Z
   B09B5/00 Z
   C02F11/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-83017(P2017-83017)
(22)【出願日】2017年4月19日
(65)【公開番号】特開2018-176119(P2018-176119A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100078798
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 禮次郎
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 美智康
(72)【発明者】
【氏名】阿部 芳久
(72)【発明者】
【氏名】菅野 一敏
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−260448(JP,A)
【文献】 特開昭62−083100(JP,A)
【文献】 特開2012−110833(JP,A)
【文献】 特開2011−167604(JP,A)
【文献】 特開2004−154624(JP,A)
【文献】 特開2006−224062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
B09B 5/00
C02F 11/00
C02F 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ごみ廃棄物を温水又は蒸気で加温しながら粉砕して25℃以上30℃以下の所定温度の加温生ごみスラリーとし,前記加温生ごみスラリーを分離槽に2〜6時間滞留させて無機固形物を沈降分離し,前記無機固形物分離後の加温生ごみスラリーをバイオリアクタに投入してメタン発酵処理してなる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項2】
生ごみ廃棄物を温水又は蒸気と共に異物分別装置に導入して当該廃棄物中の異物を分別すると共に異物分別後の生ごみ廃棄物を所定温度の加温生ごみスラリーに粉砕し,前記異物分別装置から排出される加温生ごみスラリーの温度を温度センサで測定し,前記温度センサの計測温度と所定温度との差に基づき前記異物分別装置に供給する温水又は蒸気の温度又は水量を調整することにより前記粉砕後のスラリーを所定温度の加温生ごみスラリーとし,前記加温生ごみスラリーを分離槽に所定時間滞留させて無機固形物を沈降分離し,前記無機固形物分離後の加温生ごみスラリーをバイオリアクタに投入してメタン発酵処理してなる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法において,前記温水又は蒸気を,前記バイオリアクタのメタン発酵処理で得られたメタンガスにより加熱してなる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法。
【請求項4】
生ごみ廃棄物を温水又は蒸気で加温しながら粉砕して25℃以上30℃以下の所定温度の加温生ごみスラリーとする生ごみスラリー化装置,前記加温生ごみスラリーを2〜6時間滞留させて無機固形物を沈降分離する分離槽,及び前記無機固形物分離後の加温生ごみスラリーを投入してメタン発酵処理するバイオリアクタを備えてなる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項5】
生ごみ廃棄物中の異物を分別すると共に異物分別後の生ごみ廃棄物を温水又は蒸気で加温しながら所定温度の加温生ごみスラリーに粉砕する生ごみスラリー化装置,前記加温生ごみスラリーを所定時間滞留させて無機固形物を沈降分離する分離槽,及び前記無機固形物分離後の加温生ごみスラリーを投入してメタン発酵処理するバイオリアクタを備え,前記生ごみスラリー化装置に,当該装置から出力される加温生ごみスラリーの温度を測定する温度センサと,当該温度センサの計測温度と所定温度との差に基づき当該装置に供給する温水又は蒸気の温度又は水量を調整する制御装置とを含めてなる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理システム。
【請求項6】
請求項4又は5のシステムにおいて,前記バイオリアクタのメタン発酵処理で得られたメタンガスを利用して温水又は蒸気を生成するエネルギー回収装置を設け,前記エネルギー回収装置で生成された温水又は蒸気を生ごみスラリー化装置に供給してなる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステムに関し,とくに卵殻,貝殻,骨等の無機固形物が含まれる生ごみ廃棄物をメタン発酵処理する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭やレストラン,食品店舗,食品工場等から排出される有機性廃棄物(以下,生ごみ廃棄物という)について,従来は焼却又は埋め立て処分されていたが,最近は循環型社会形成の観点からメタン発酵処理によりエネルギーを回収する再資源化処理(リサイクル処理)が進められている(非特許文献1参照)。図5は,湿式メタン発酵法を利用した従来の再資源化システムの一例を示す。図示例のシステムは,生ごみ廃棄物Aをメタン発酵に適する粒度及び濃度の生ごみスラリーSに粉砕する前処理システム1と,生ごみスラリーSをメタン生成菌によりメタンガスGと消化液Wとに分解するバイオリアクタ3と,分解後の消化液W中の残留有機物を更に処理する二次処理施設5と,メタンガスGから電力,高温水等のエネルギーを回収するエネルギー回収施設6とで構成されている(特許文献1参照)。
【0003】
図5のバイオリアクタ3には,例えば炭素繊維製又はポリエステル繊維製の微生物担体を内部に充填してメタン生成菌を保持させ,所定濃度に希釈した生ごみスラリーSを下降流で供給する。また,槽内の生ごみスラリーSを下部から槽外に抜き出して上部に戻して循環させる循環路を設け,その循環路上にエネルギー回収施設9からの高温水Hを利用した加熱装置3aを配置し,槽内の生ごみスラリーSをメタン生成菌の活動に適した温度に加熱しながら微生物担体と接触させてメタンガスGと消化液Wとに分解する。
【0004】
図5のエネルギー回収施設6には,バイオリアクタ3で発生したメタンガスGを精製する脱硫装置等の精製設備7と,精製後のメタンガスGを蓄えるガスホルダ8と,メタンガスGを利用して電力と高温水Hとを発生するエネルギー回収装置9とを含めている。エネルギー回収装置9の一例は燃料電池,ガスエンジン,ガスタービン,マイクロガスタービン等であり,発生した電力及び高温水Hをシステム内で利用すると共に,余剰の電力及び高温水Hをシステム外へ供給することができる。バイオリアクタ3で発生した消化液Wは,脱水機にてろ液と発酵残渣に分離する。発酵残渣は、二次処理施設5にて,好気性微生物を使った発酵処理が行なわれ,堆肥・飼料材料とする。他方、脱水機にて分離したろ液は、ろ液中の残留有機物を更に浄化して放流する。
【0005】
生ごみ廃棄物A中には有機物だけでなくプラスチックや金属片,木片等の異物Bが混入している場合があり,図5の前処理システム1では,生ごみ廃棄物Aを生ごみスラリー化すると共に混入異物Bを分別している。図6(A)及び(B)は,生ごみ廃棄物Aを異物Bと分別しながら生ごみスラリー化する異物分別装置10の一例の横断面図及び縦断面図を示す(特許文献2及び特許文献3参照)。図示例の異物分別装置10は,断面の一部分が弧状である周壁12(弧状の半割下部12bと非弧状の半割上部12aとからなる)を有する筒体11と,筒体11の中心軸線に沿った回転軸16aに固定された複数の板状羽根(回転翼)16とを備え,筒体11の半割下部12bに複数の貫通細孔14を設けている。また,筒体11の半割上部12aと回転翼16の突端縁との間に筒体長手方向に延びる空気流路19を形成し,図中の白三角矢印で示すように,筒体11の一端の吸気口19aから取り入れた空気流を空気流路19の導風板19cによって筒体長手方向に案内して他端の排気口19bから排出している。その空気流の上流部と対向する筒体11の半割上部12aに,筒体11の中心軸線と交差する向きに,生ごみ廃棄物Aの取入口17を設ける。図中の符号17a及び17bは取入口17に取り付けた生ごみ廃棄物Aの供給ホッパー及び定量供給破砕機を示し,符号15は筒体11を支持する脚部を示す。
【0006】
図6の異物分別装置10において,取入口17から投入された生ごみ廃棄物Aは,駆動装置16bで駆動させた回転翼16により砕かれて有機物と異物Bと分離される。分離された異物Bは,空気流路19の空気流によって気流下流側の排出口18から異物ホッパー24へ落下し,搬送パイプ25を介して所要場所まで搬送される。また,異物分離後の有機物は,回転翼16の突端縁と筒体11の半割下部12bとの間で細かく粉砕され,生ごみスラリーSとなって細孔14から生ごみスラリーホッパー20へ落下する。ホッパー20に落下した生ごみスラリーSは,スクリューコンベア21でスクリュー式送出装置22に送り出され,送出装置22から輸送パイプ23を介してスラリー調整タンク2(図5参照)へ搬送される。
【0007】
また,異物Bと分別した生ごみスラリーS中には,比較的小さい卵殻,貝殻,脊椎動物の骨,甲殻類の外骨等の無機固形物Cが残っていることがある。そのような無機固形物Cは,分離されずに生ごみスラリーSと共にメタン発酵処理されると酸性下でイオン化し,その後のアルカリ性下で沈殿析出物となって配管閉塞,機器摩耗,水槽内堆積等の様々な不具合を生じる。このため,図5の前処理システム1には,生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離する分離槽30を設けている。図7は,従来の分離槽30の一例を示す。図示例の分離槽30は,略錐状の底面(錐状底面)30aとその周囲の胴部側面30bとで囲まれた内部30cに,無機固形物Cの混入した生ごみスラリーSを所定時間貯留するものであり,錐状底面30aの下方突端に設けた開閉ゲート33b,33c付き排出口33と,内部30cの生ごみスラリーSを撹拌する撹拌手段31及び循環手段32とを有している(特許文献4参照)。
【0008】
図7の分離槽30の内部30cには,排出口33を閉鎖したうえで,上部の投入口34から無機固形物Cの混入した生ごみスラリーSを投入する。投入した生ごみスラリーSは,撹拌手段31及び循環手段32で撹拌しながら所定時間滞留させると徐々に可溶化し,可溶化しない無機固形物Cを比重差により分離槽30の底部に沈殿させ(沈殿物37),錐状底面30aの傾斜に沿って排出口33に集めることができる。この状態で排出口33のゲート33b,33cを開放し,集積した無機固形物Cを下方へ引き抜くことにより,可溶化時間の差を利用して生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離することができる。無機固形物Cを分離した可溶化した生ごみスラリーSは,仕分け部材36を介して,流出口35から順次越流させて生ごみスラリー調整タンク2に搬送する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】財団法人新エネルギー財団編「バイオマス技術ハンドブック〜導入と事業化のためのノウハウ〜 第3章メタン発酵」株式会社オーム社,平成20年10月25日,pp.206〜447
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−167523号公報
【特許文献2】特開2002−177888号公報
【特許文献3】特開2004−154624号公報
【特許文献4】特開2011−167604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した図6の異物分別装置10及び図7の分離槽30が含まれる前処理システム1を設けることにより,図5の再資源化システムにおける生ごみ廃棄物Aのメタン発酵処理を長期間安定的に継続することができる。しかし,従来の前処理システム1には無機固形物Cの分離に時間がかかる問題点がある。すなわち,可溶化時間の差を利用して生ごみスラリーSから無機固形物Cを沈降分離する方法では,生ごみ廃棄物Aの種類により多少異なるが,生ごみスラリーSの可溶化に8時間程度が必要であり,その時間だけ生ごみスラリーSを滞留するための分離槽30の容量が必要となる。このため,生ごみ廃棄物Aの受入れ量が多くなると分離槽30が大きくなり,前処理システム1のために広い設置スペースが必要になると共に,システムの初期導入コスト及び維持管理コストも嵩んでしまう。図5のような生ごみ廃棄物Aの再資源化システムの普及を図るためには装置のコンパクト化が有効であり,分離槽30のコンパクト化のために生ごみスラリーSから無機固形物Cを短時間で沈降分離することができる技術の開発が望まれている。
【0012】
そこで本発明の目的は,無機固形物を短時間で沈降分離することができる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
図1の実施例を参照するに,本発明による生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法の一態様は,生ごみ廃棄物Aを温水又は蒸気Hで加温しながら粉砕して25℃以上30℃以下の所定温度の加温生ごみスラリーSとし,加温生ごみスラリーSを分離槽30に2〜6時間滞留させて無機固形物Cを沈降分離し,無機固形物Cの分離後の加温生ごみスラリーSをバイオリアクタ3に投入してメタン発酵処理してなるものである。
【0014】
また,図1の実施例を参照するに,本発明による生ごみ廃棄物のメタン発酵処理システムの一態様は,生ごみ廃棄物Aを温水又は蒸気Hで加温しながら粉砕して25℃以上30℃以下の所定温度の加温生ごみスラリーSとする生ごみスラリー化装置10,加温生ごみスラリーSを2〜6時間滞留させて無機固形物Cを沈降分離する分離槽30,及び無機固形物Cの分離後の加温生ごみスラリーSを投入してメタン発酵処理するバイオリアクタ3を備えてなるものである。
【0015】
他の態様において本発明による生ごみ廃棄物のメタン発酵処理システムは,生ごみ廃棄物A中の異物Bを分別すると共に異物Bの分別後の生ごみ廃棄物Aを温水又は蒸気Hで加温しながら粉砕して所定温度の加温生ごみスラリーSとする生ごみスラリー化装置10,加温生ごみスラリーSを所定時間滞留させて無機固形物Cを沈降分離する分離槽30,及び無機固形物Cの分離後の加温生ごみスラリーSを投入してメタン発酵処理するバイオリアクタ3を備え,生ごみスラリー化装置10に,その生ごみスラリー化装置10から出力される加温生ごみスラリーSの温度を測定する温度センサ41と,温度センサ41の計測温度と所定温度との差に基づき生ごみスラリー化装置10に供給する温水又は蒸気Hの温度又は水量を調整する制御装置40とを含めてなるものである。
【0016】
更に好ましくは,バイオリアクタ3のメタン発酵処理で得られたメタンガスGを利用して温水又は蒸気Hを生成するエネルギー回収装置9を設け,エネルギー回収装置9で生成された温水又は蒸気Hを生ごみスラリー化装置10に供給する。
【発明の効果】
【0017】
本発明による本発明による生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステムは,生ごみ廃棄物Aを温水又は蒸気Hで加温しながら粉砕して25℃以上30℃以下の所定温度の加温生ごみスラリーSとし,加温生ごみスラリーSを分離槽30に2〜6時間滞留させて無機固形物Cを沈降分離し,無機固形物Cの分離後の加温生ごみスラリーSをバイオリアクタ3に投入してメタン発酵処理するので,次の有利な効果を奏する。
【0018】
(イ)生ごみスラリーSを加熱したうえで分離槽30に滞留させることにより,生ごみスラリーSの可溶化が促進され,生ごみスラリーSの粘性を早期に低下させて無機固形物Cを短時間で沈降分離することができる。
(ロ)無機固形物Cと分離するための生ごみスラリーSの滞留時間を短縮することにより,ひいては分離槽30のコンパクト化を図ることができる。
(ハ)加温により生ごみスラリーSのpHが上昇し,生ごみスラリーSだけでなく無機固形物Cの可溶化も促進されうるが,分離槽30における滞留時間を短縮することにより,無機固形物Cの可溶化が大きく進行する前に生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離することができる。
【0019】
(ニ)生ごみスラリーSの加温に要する温水又は蒸気Hは,メタンガスGを利用したエネルギー回収装置9から供給することができ,メタン発酵システム内で発生するエネルギーを利用して分離槽30のコンパクト化を図ることができる。
(ホ)また,従来の異物分別装置10に生ごみ廃棄物Aと共に温水又は蒸気Hを同時に導入することにより,廃棄物Aを異物Bと分別しながら粉砕して加温生ごみスラリーSとすることが可能であり,従来のメタン発酵システムの装置を利用しながら分離槽30のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
図1】は,本発明のメタン発酵処理システムの一実施例の説明図である。
図2】は,加温生ごみスラリーSの温度と粘度との関係を示す実験結果である。
図3】は,加温生ごみスラリーSの温度とpHとの関係を示す実験結果である。
図4】は,加温生ごみスラリーSの温度とカルシウム溶解濃度との関係を示す実験結果である。
図5】は,従来のメタン発酵処理システムの一例の説明図である。
図6】は,メタン発酵の前処理システムで用いる異物分別装置の一例の説明図である。
図7】は,メタン発酵の前処理システムで用いる無機固形物の分離槽の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は,図5を参照して上述した従来の湿式メタン発酵処理システム(再資源化システム)に本発明を適用した実施例のブロック図を示す。図示例のシステムは,図5のシステムと同様に,生ごみ廃棄物Aを生ごみスラリーSに粉砕する前処理システム1と,その生ごみスラリーSをメタンガスGと消化液Wとに分解するバイオリアクタ3とを備えている。図示例のバイオリアクタ3は,従来のバイオリアクタと同様のものである。しかし,図示例の前処理システム1は,生ごみ廃棄物Aを温水又は蒸気Hで加温しながら粉砕する生ごみスラリー化装置10を有しており,生ごみ廃棄物Aを常温ではなく所定温度の加温生ごみスラリーSに粉砕することができる。
【0022】
また,図1の前処理システムは,所定温度の加温生ごみスラリーSを滞留させて無機固形物Cを分離する分離槽30を有している。生ごみスラリーSを加熱したうえで分離槽30に滞留させることにより,図5のように常温で滞留させた場合に比して生ごみスラリーSの可溶化を促進して粘性を早期に低下させ,生ごみスラリーSから無機固形物Cを短時間で沈降分離することができる。また,無機固形物Cを短時間で沈降分離できることから,分離槽30での生ごみスラリーSの滞留時間を短縮することができ,ひいては分離槽30をコンパクトなものとすることができる。
【0023】
図示例の生ごみスラリー化装置10は,例えば図6に示すように,複数の給水ノズル28を設けた異物分別装置10とすることができる。図6の異物分別装置10は,取入口17から取り入れる生ごみ廃棄物Aの水分を調整して希釈するため,筒体11及び生ごみスラリーホッパー20に複数の給水ノズル28を設けている。図1の実施例では,異物分別装置10の取入口17から生ごみ廃棄物Aを投入する際に,筒体11の給水ノズル28から温水又は蒸気Hを供給し,回転翼16により生ごみ廃棄物Aを温水又は蒸気Hと共に粉砕することにより,廃棄物A中の異物Bを分別すると同時に,筒体11の細孔14から生ごみスラリーホッパー20へ落下する生ごみスラリーSを所定温度に加熱することができる。
【0024】
図6において,筒体11の給水ノズル28に代えて又は加えて,生ごみスラリーホッパー20の給水ノズル28から温水又は蒸気Hを供給してもよい。生ごみスラリーホッパー20に温水又は蒸気Hを供給することにより,筒体11の細孔14から落下した後の生ごみスラリーSを所定温度に加熱して加温生ごみスラリーSとすることができる。或いは,図1に一点鎖線で示すように.生ごみスラリー化装置10を,異物分別装置10又は分離槽30に設けた熱交換器42とすることも可能である。例えば,異物分別装置10から分離槽30に至る生ごみスラリーSの流路(例えば図6の輸送パイプ23)に熱交換器42を配置し,その熱交換器42に温水又は蒸気Hを供給して生ごみスラリーSを加熱することにより,生ごみ廃棄物Aを所定温度の加温生ごみスラリーSとする。
【0025】
生ごみスラリー化装置10に供給する温水又は蒸気Hは,バイオリアクタ3のメタン発酵処理で得られたメタンガスGを利用して加熱することができる。図1の図示例では,メタンガスGを利用して温水又は蒸気Hを生成するエネルギー回収装置9を設け,エネルギー回収装置9で生成した温水又は蒸気Hの一部分をバイオリアクタ3に供給すると共に,他の一部分を生ごみスラリー化装置10に供給している。メタン発酵システム内で発生するメタンガスGを利用して生ごみスラリーSを加温することにより,システム外部からエネルギーを追加的に供給することなく本発明を実施することができる。また,エネルギー回収装置9で生成する温水又は蒸気Hを生ごみスラリー化装置10に供給して生ごみスラリーSを加温することにより,図5の従来例に比してエネルギー回収装置9からバイオリアクタ3に供給する温水又は蒸気Hを削減することも期待でき,エネルギー回収装置9で生成するエネルギーを有効に利用して分離槽30のコンパクト化を図ることができる。
【0026】
好ましくは,生ごみスラリー化装置10で生成する加温生ごみスラリーSの所定温度を20〜35℃とし,更に望ましくは25〜30℃とする。生ごみ廃棄物Aの種類により多少異なるが,生ごみスラリーSの温度を20℃以上とすることにより,常温の場合の1/2程度の時間で生ごみスラリーSの粘性が初期値の半分程度に低下し,無機固形物Cが短時間で沈降分離することを本発明者は実験的に確認することができた。他方,生ごみスラリーSの温度が35℃以上になると,生ごみスラリーSだけでなく無機固形物Cの可溶化も短時間のうちに促進されてしまう。加温生ごみスラリーSを20〜35℃とすることにより,無機固形物Cの可溶化が大きく進行する前に生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離することができる。また,加温生ごみスラリーSを25〜30℃とすることにより,無機固形物Cの可溶化を抑えつつスラリーSから無機固形物Cを分離することが可能となる。
【0027】
更に好ましくは,生ごみスラリー化装置10で生成する加温生ごみスラリーSの温度を制御するため,図1に示すように,生ごみスラリー化装置10に,温水又は蒸気Hの温度又は水量を調整する制御装置40と加温生ごみスラリーSの温度を測定する温度センサ41とを含める。例えば異物分別装置10を生ごみスラリー化装置10とした場合は,異物分別装置10から分離槽30に至る生ごみスラリーSの流路(例えば図6の輸送パイプ23)に温度センサ41を取り付け,エネルギー回収装置9から異物分離装置10に至る温水又は蒸気Hの供給ラインに流量調整弁V1を取り付け,その温度センサ41と調整弁V1を制御装置40に接続する。
【0028】
図1の制御装置40は,生ごみスラリー化装置10で生成する加温生ごみスラリーSの設定温度を予め記憶しておき,温度センサ41の計測温度と設定温度との差に基づき調整弁V1の開度を調整することにより,生ごみスラリー化装置10に供給する温水又は蒸気Hの温度又は水量を調整する。必要に応じて,温水又は蒸気Hの供給ラインに水(冷水)の供給ラインを接続すると共にその水供給ラインに流量調整弁V2を取り付け,制御装置40により調整弁V1及びV2の開度を調整することにより,生ごみスラリー化装置10に供給する温水又は蒸気Hの温度又は水量を調整してもよい。
【0029】
図示例の分離槽30は,図5に示す従来の分離槽30と同様のものであるが,無機固形物Cを短時間で沈降分離できるので,従来に比して容量の小さいコンパクトなものとすることができる。具体的には,生ごみスラリーSの温度を20℃以上とすることにより,常温の場合に比して無機固形物Cの沈降完了に要する時間を1/2〜3/4程度に短縮できることを実験的に確認することができた。従って,従来に比して容積が1/2〜3/4程度のコンパクトな分離槽30を用いて生ごみスラリーSから無機固形物Cを沈降分離することが可能である。
【0030】
[実験例1]
生ごみスラリーSを加温することで無機固形物Cの沈降分離時間を短縮できることを確認するため,図6に示す従来の異物分別装置10から排出された常温の生ごみスラリーSを用いて次のA〜Dの4試料を調製し,その各試料の温度変化,粘度変化,pH変化,及び無機固形物Cであるカルシウム濃度(Ca2+濃度)の変化を24時間にわたって計測する実験を行った。試料B及び試料Dは,実験開始直後の8時間だけ恒温水槽に浸漬し,その後は水槽から出して室温で24時間まで実験を継続した。試料C及び試料Dに加えた生ごみスラリー調整タンク2からの返送生ごみスラリーは,前日から分離槽30に残った生ごみスラリーSを模擬したものである。
【0031】
試料A:常温の生ごみスラリーS
試料B:30〜40℃の恒温水槽に8時間浸漬して加温した生ごみスラリーS
試料C:スラリー調整タンク2からの返送スラリーを返送して加えた常温の生ごみスラリーS(図1のタンク2から分離槽30への矢印を参照)
試料D:生ごみスラリー調整タンク2(図1参照)からの返送生ごみスラリーを加え,更に30〜40℃の恒温水槽に8時間浸漬して加温した生ごみスラリーS
【0032】
先ず,各試料A〜Dの24時間にわたる温度変化及び粘度変化を計測した実験結果を図2に示す。図2のグラフa〜dはそれぞれ試料A〜Dの粘度変化を表し,グラフeは試料A及びCの温度変化を表し,グラフfは試料B及びDの温度変化を表している。図2のグラフaは常温の試料Aの粘度が初期値の半分以下になるために約4時間を要するのに対し,グラフbは約20℃に加温された試料Bの粘度が初期値の半分以下になるために約2時間を要することを示している。この実験結果から,生ごみスラリーSの温度を20℃以上に加温することにより,常温の場合に比して粘性が初期値の半分以下に低下するための時間を1/2程度に短縮できることが確認できる。
【0033】
また,図2のグラフcは返送生ごみスラリーを加えた常温の試料Cの粘度が初期値の半分以下になるために約2時間を要し,グラフdは返送生ごみスラリーを加えて加温した試料Dの粘度が初期値の半分以下になるために約2時間を要することを示している。この実験結果から,生ごみスラリー調整タンク2の生ごみスラリーS(前日から残った生ごみスラリーS)では既に酸発酵がかなり進行しており,酸生成に寄与する微生物群が優勢化しているため,生ごみスラリー調整タンク2の生ごみスラリーSを返送して加えることにより,常温であっても粘性が短時間で低下したと推定することができる。
【0034】
また,各試料A〜Dの24時間にわたる温度変化及びpH変化を計測した実験結果を図3に示す。図3のグラフa〜dはそれぞれ試料A〜DのpH変化を表し,グラフeは試料A及びCの温度変化を表し,グラフfは試料B及びDの温度変化を表している。図3のグラフa,cは,常温の試料A,CのpHが比較的緩やかに減少(酸性化)したことを示しており,グラフb,dは,加温した試料B,DのpHが比較的激しく減少(酸性化)したことを示しており,とくに試料B,Dの温度が25℃以上になるとpHが急低下することを示している。
【0035】
また,図3のグラフa,cは常温の試料A,Cの24時間経過後のpHが3.8程度となったことを示し,グラフb,dは加温した試料B,Dの24時間経過後のpHが3.6程度となったことを示し,加温した試料はより酸性化したことを示している。この実験結果から,生ごみスラリーSは何れも時間の経過に応じて酸発酵が進行するが,加温することにより酸発酵が促進され,とくに25℃以上に加温する酸発酵が大きく促進されることが確認できる。また,酸発酵が大きく促進されていることから,生ごみスラリーSの温度を25℃以上に加温することにより,生ごみスラリーSの粘性が効率的に低下していることを推定できる。
【0036】
更に,各試料A〜Dの24時間にわたる温度変化及びカルシウム濃度(Ca2+濃度)変化を計測した実験結果を図4に示す。図4のグラフa〜dはそれぞれ試料A〜Dのカルシウム濃度変化を表し,グラフeは試料A及びCの温度変化を表し,グラフfは試料B及びDの温度変化を表している。図3のグラフa,cは,常温の試料A,Cのカルシウム濃度が比較的緩やかに増加したことを示しており,グラフb,dは,加温した試料B,Dのカルシウム濃度が比較的激しく増加したことを示しており,とくに試料B,Dの温度が30℃以上(加温時間が6時間程度)になるとカルシウム濃度が急激に増加することを示している。
【0037】
図4の実験結果は,生ごみスラリーSを加温すると無機固形物Cの可溶化も促進されることを示しており,とくに生ごみスラリーSの温度が30℃以上になると無機固形物Cの可溶化が大きく促進されることを示している。この実験結果から,加温生ごみスラリーSの温度を30℃以下に抑えることにより,無機固形物Cの可溶化を効果的に抑えつつ生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離できることを確認できる。また,上述した図2の実験結果から,生ごみスラリーSの粘性を効率的に低下させるためには生ごみスラリーSの温度を25℃以上とすることが分かるので,無機固形物Cの可溶化を効果的に抑えつつ生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離するためには,生ごみスラリーSの温度を20〜35℃,好ましくは25〜30℃とし,分離槽30における生ごみスラリーSの滞留時間を2〜6時間とすることが有効であることが確認できる。
【0038】
以上の実験結果から確認できたように,本発明は生ごみスラリーSを加熱したうえで分離槽30に滞留させるので,生ごみスラリーSの可溶化を促進すると共に生ごみスラリーSの粘性を低下させ,無機固形物Cを短時間で沈降分離することができ,ひいては分離槽30のコンパクト化を図ることができる。また,加温により生ごみスラリーSだけでなく無機固形物Cの可溶化も促進されるが,生ごみスラリーSの温度を20〜35℃,好ましくは25〜30℃とし,分離槽30における生ごみスラリーSの滞留時間を2〜6時間とすることにより,無機固形物Cの可溶化を抑えつつ生ごみスラリーSから無機固形物Cを分離することができる。
【0039】
こうして本発明の目的である「無機固形物を短時間で沈降分離することができる生ごみ廃棄物のメタン発酵処理方法及びシステム」の提供を達成することができる。
【符号の説明】
【0040】
1…前処理施設 2…生ごみスラリー調整タンク
2a…生ごみスラリーポンプ 3…バイオリアクタ
3a…加熱装置 5…二次処理施設
6…エネルギー回収施設 7…メタン精製設備(脱硫装置)
8…ガスホルダ 9…エネルギー回収装置
10…生ごみスラリー化装置(異物分別装置)
11…筒体 12a…周壁(半割上部)
12b…周壁(半割下部) 14…細孔
15…脚部 16…回転翼(板状羽根)
16a…回転軸 16b…駆動装置
17…取入口 17a…供給ホッパー
17b…定量供給破砕機 18…排出口
19…空気流路 19a…吸気口
19b…排気口 19c…導風板
20…生ごみスラリーホッパー 21…スクリューコンベア
22…スクリュー式送出装置 23…輸送パイプ
24…異物ホッパー 25…搬送パイプ
28…給水ノズル
30…分離槽 30a…錐状底面
30b…胴部側面 30c…内部
31…撹拌手段 31a…撹拌羽根
32…循環手段 32a…採取口
32b…吐出口 33…排出口
33a…排出流路 33b,33c…ゲート
33d…供液手段 33e…ポンプ
33f…噴射口
34…投入口 35…流出口
36…仕分け部材 37…沈殿物
40…制御装置 41…温度センサ
42…熱交換器
A…生ごみ有機物
B…異物
C…無機固形物
S…有機物
G…バイオガス
W…消化液
H…温水又は蒸気(高温水)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7