特許第6896612号(P6896612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6896612燃料電池システムおよび同システムにおける燃料電池の停止判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6896612
(24)【登録日】2021年6月11日
(45)【発行日】2021年6月30日
(54)【発明の名称】燃料電池システムおよび同システムにおける燃料電池の停止判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04537 20160101AFI20210621BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20210621BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20210621BHJP
【FI】
   H01M8/04537
   H01M8/04 Z
   H02J3/38 170
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-253297(P2017-253297)
(22)【出願日】2017年12月28日
(65)【公開番号】特開2019-121429(P2019-121429A)
(43)【公開日】2019年7月22日
【審査請求日】2020年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋一
【審査官】 大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−68578(JP,A)
【文献】 特開2005−278335(JP,A)
【文献】 特開2017−27707(JP,A)
【文献】 特開2006−286278(JP,A)
【文献】 特開2015−35893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00−8/2495
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池と,電力会社から電力を受ける受電部と,電力を消費する負荷部とを有し,前記燃料電池が発電する電力と前記受電部が受電する電力とを併用して前記負荷部への給電を行う燃料電池システムであって,
前記受電部が受電する電力の1日の標準パターンであるベースラインを取得するベースライン取得部と,
前記受電部が実際に受電した電力から前記ベースライン中における該当する時刻の電力を引いた差であるベースライン誤差が,前記燃料電池の定格出力に基づく基準値以上であるか否かを判定する誤差判定部と,
前記誤差判定部による判定における「基準値以上」の占める割合が,あらかじめ定めた閾値以上である期間を,前記燃料電池が停止していた停止期間であると判定する停止期間判定部とを有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって,前記誤差判定部は,
前記ベースライン誤差を算出する誤差算出部と,
前記ベースライン誤差を前記基準値と比較し,前記基準値以上であるか否かを判定する基準値判定部とを有することを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池システムであって,
前記燃料電池が停止期間入りする頻度である停止間隔があらかじめ定められており,
前記停止期間判定部は,前記停止間隔中に,「基準値以上」の占める割合が前記閾値以上である期間が複数存在する場合には,それらの複数の期間のうち,「基準値以上」の占める割合が最も高い期間のみを前記停止期間であると判定するものであることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1つに記載の燃料電池システムであって,
前記燃料電池の前記停止期間となりうる時間帯である停止候補時間帯があらかじめ定められており,
前記停止期間判定部は,1日のうち前記停止候補時間帯に相当する期間のみを,前記停止期間であるか否かの判定の対象とするものであることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の燃料電池システムであって,
前記誤差判定部は,前記基準値として,前記燃料電池の定格出力の0.3〜0.7倍の範囲内の値を用いることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項6】
燃料電池と,電力会社から電力を受ける受電部と,電力を消費する負荷部とを有し,前記燃料電池が発電する電力と前記受電部が受電する電力とを併用して前記負荷部への給電を行う燃料電池システムにおける,前記燃料電池が停止していた停止期間を判定する,燃料電池の停止判定方法であって,
前記受電部が受電する電力の1日の標準パターンであるベースラインを取得するベースライン取得プロセスと,
前記受電部が実際に受電した電力から前記ベースライン中における該当する時刻の電力を引いた差であるベースライン誤差が,前記燃料電池の定格出力に基づく基準値以上であるか否かを判定する誤差判定プロセスと,
前記誤差判定プロセスによる判定における「基準値以上」の占める割合が,あらかじめ定めた閾値以上である期間を,前記燃料電池が停止していた停止期間であると判定する停止期間判定プロセスとを行うことを特徴とする,燃料電池システムにおける燃料電池の停止判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,燃料電池の発電電力と電力会社からの購入電力とを併用して負荷部への給電を行う燃料電池システムに関する。さらに詳細には,購入電力の実績に基づいて,燃料電池が停止していた停止期間を判定することができる燃料電池システムに関するものである。また,同システムにおいて燃料電池の停止期間を判定する,燃料電池の停止判定方法をも対象とする。
【背景技術】
【0002】
従来から,電力の需要家にていわゆる分散型電源として燃料電池を備え,その発電電力と電力会社からの購入電力とを併用して自家の電力需要を賄うことが行われている。このように燃料電池の発電能力を利用することで,電力会社からの電力購入を抑制することができる。この種の燃料電池システムにおける発電用の燃料電池は,基本的に定格出力での連続運転状態で使用される。このような分散型電源としての燃料電池には多くの場合,ガス燃料を使用する種類のものが用いられる。そのガス燃料は,熱源としての燃料と同じものである。この種の燃料電池では,定期的な停止期間を設ける必要がある。ガスメーターのガス漏洩検査のためである。この停止期間は,1か月程度の期間に1回の頻度で設けられ,1回の停止期間の長さは1日程度となる。
【0003】
一方,電力供給者側の視点,あるいは燃料電池システムの管理者側の視点からすれば,当該需要家における電力需要の総量を知る必要がある。電力需要予測その他の事業上の必要性のためである。そのために利用できる推定技術としては例えば,特許文献1に開示されている「発電出力の推定方法」を挙げることができる。同文献の技術では,配電線において計測された電圧,電流,および力率を用いて,分散型電源の発電出力を推定することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-158371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。すなわち同文献の推定方法では,その図1等に示されているように,有効電力および無効電力の算出,それらの変動の算出,さらに潮流変動の算出,といった手順を踏んで分散型電源の発電出力を推定する。そのため,電圧,電流,そして力率といった多様なデータを必要としている。このように,推定の算出過程が複雑であることと,多様なデータを必要とするという問題点があった。このため,燃料電池の停止期間を簡易に判定することはできなかった。
【0006】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電力会社からの電力購入量のデータに基づいて,燃料電池の停止期間を簡易な手順で判定できる,燃料電池システムおよび同システムにおける燃料電池の停止判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る燃料電池システムは,燃料電池と,電力会社から電力を受ける受電部と,電力を消費する負荷部とを有し,燃料電池が発電する電力と受電部が受電する電力とを併用して負荷部への給電を行う燃料電池システムであって,受電部が受電する電力の1日の標準パターンであるベースラインを取得するベースライン取得部と,受電部が実際に受電した電力からベースライン中における該当する時刻の電力を引いた差であるベースライン誤差が,燃料電池の定格出力に基づく基準値以上であるか否かを判定する誤差判定部と,誤差判定部による判定における「基準値以上」の占める割合が,あらかじめ定めた閾値以上である期間を,燃料電池が停止していた停止期間であると判定する停止期間判定部とを有する。
【0008】
上記態様における燃料電池システムでは,受電部による電力会社からの実際の受電量が取得される。この取得は反復して行われる。一方,ベースライン取得部によりベースラインが取得される。誤差判定部では,受電量の実測値と,ベースライン中における該当する時刻の電力(ベースラインデータ)と,基準値とを用いた比較により,ベースライン誤差が「基準値以上」か否かが判定される。すると停止期間判定部により,判定結果における「基準値以上」の占める割合が高い期間が停止期間であると判定される。このように本形態では,供給電力に関する必要なデータは受電量の実測値だけなので,簡易に判定を行うことができる。それでいて判定精度も高い。
【0009】
上記態様の燃料電池システムではさらに,誤差判定部が,ベースライン誤差を算出する誤差算出部と,ベースライン誤差を基準値と比較し,基準値以上であるか否かを判定する基準値判定部とを有することが好ましい。これにより,受電量の実測値が,「基準値以上」とされるべきものかそうでないかが,適切に判定される。このため判定精度が高い。
【0010】
上記のいずれかの態様の燃料電池システムではまた,燃料電池が停止期間入りする頻度である停止間隔があらかじめ定められており,停止期間判定部は,停止間隔中に,「基準値以上」の占める割合が閾値以上である期間が複数存在する場合には,それらの複数の期間のうち,「基準値以上」の占める割合が最も高い期間のみを停止期間であると判定するものであることが望ましい。停止間隔中に,「基準値以上」の占める割合が高い期間が複数あっても,真の停止期間はそのうちの1つだけだからである。
【0011】
上記いずれかの態様の燃料電池システムではさらに,燃料電池の停止期間となりうる時間帯である停止候補時間帯があらかじめ定められており,停止期間判定部は,1日のうち停止候補時間帯に相当する期間のみを,停止期間であるか否かの判定の対象とするものであることが好ましい。停止候補時間帯は,燃料電池が使用する燃料ガスの供給側の都合により設定されることがある。この場合,停止候補時間帯からずれた時間帯に相当する期間は,停止期間と完全に一致することはない。このため本態様のようにすることで,判定の精度がより高められる。
【0012】
上記のいずれかの態様の燃料電池システムでは,誤差判定部は,基準値として,燃料電池の定格出力の0.3〜0.7倍の範囲内の値を用いることが望ましい。このようにすることで,ベースライン誤差が基準値以上であるか否かの判定の精度を可及的に高めることができる。これにより停止期間の判定精度にも寄与する。
【0013】
本発明の別の一態様に係る燃料電池システムにおける燃料電池の停止判定方法は,燃料電池と,電力会社から電力を受ける受電部と,電力を消費する負荷部とを有し,燃料電池が発電する電力と受電部が受電する電力とを併用して負荷部への給電を行う燃料電池システムにおける,燃料電池が停止していた停止期間を判定する,燃料電池の停止判定方法であって,受電部が受電する電力の1日の標準パターンであるベースラインを取得するベースライン取得プロセスと,受電部が実際に受電した電力からベースライン中における該当する時刻の電力を引いた差であるベースライン誤差が,燃料電池の定格出力に基づく基準値以上であるか否かを判定する誤差判定プロセスと,誤差判定プロセスによる判定における「基準値以上」の占める割合が,あらかじめ定めた閾値以上である期間を,燃料電池が停止していた停止期間であると判定する停止期間判定プロセスとを行うことによる,燃料電池の停止判定方法である。
【発明の効果】
【0014】
本構成によれば,電力会社からの電力購入量のデータに基づいて,燃料電池の停止期間を簡易な手順で判定できる,燃料電池システムおよび同システムにおける燃料電池の停止判定方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態に係る燃料電池システムを示す模式図である。
図2】電力会社からの受電電力の経時パターンの一例を示すグラフである。
図3】ベースライン誤差の経時パターンの一例を示すグラフである。
図4】算出されるベースライン誤差の値が出現する確率分布を示すグラフである。
図5】ベースライン誤差が基準値以上であるサンプル数の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,図1に示す燃料電池システム7であって,本発明に係る燃料電池の停止判定方法を実施するように構成したものである。燃料電池システム7は,需要家1に備えられており,負荷部2,燃料電池3,電力計4,分電盤9,解析部8を有している。燃料電池システム7は,系統線5を介して電力会社6と連系している。
【0017】
負荷部2は,照明,空調その他の,需要家1における電力消費機器群のことである。燃料電池3は,需要家1において給湯や調理のための熱源として使用するガス燃料の一部を使用して発電する電池である。燃料電池システム7では,燃料電池3での発電電力を負荷部2で使用することで,電力会社6からの購入電力量を抑制する。また,燃料電池システム7における燃料電池3の運転形態は,定格出力での連続運転である。ただし燃料電池3には,前述のような停止期間がときどき存在する。また,燃料電池システム7と系統線5との連系形態は,燃料電池3での発電電力が負荷部2の電力需要を上回る状況では系統線5への逆潮流が許容される形態である。
【0018】
分電盤9は,電力会社6から電力の供給を受ける部分である。分電盤9は,電力会社6からの供給電力の他に燃料電池3での発電電力をも受け,負荷部2へ供給するようになっている。電力計4は,電力会社6からの受電量を計測する機能を有している。受電量の計測は常時行われている。これにより,例えば図2のグラフに示されるような経時パターンが得られる。このうち受電量がマイナスになっている部分が逆潮流状態の時間帯である。解析部8は,電力計4が出力するデータに基づき,燃料電池3の停止期間を判定するものである。ただし,電力計4が出力する受電量のデータは,一旦電力会社6を経由して解析部8に供給されるようになっている。また,解析部8は,燃料電池システム7の運用事業者に設置されるため,図1では需要家1の外に位置している。
【0019】
上記のような燃料電池システム7における燃料電池3の停止期間の判定方法を説明する。本方法は,以下の手順を解析部8で実行すること実施される。
1.ベースラインの取得
2.ベースライン誤差の算出
3.ベースライン誤差と基準値との比較
4.比較結果に基づく停止期間の判定
【0020】
「1.ベースラインの取得」
ベースラインとは,需要家1における受電量の1日の経時パターンの標準的なものである。ベースラインは,当該需要家1における,図2に示したような受電量の過去のデータに基づく各時刻の平均的な受電量のパターンとして求めることができる。あるいは,電力会社6から,当該需要家1と同等の需要家群における標準的なパターンを取得して解析部8に保存しておき,これをベースラインとすることもできる。曜日や季節等,日の属性ごとに異なるベースラインを使い分けることもできる。ベースラインは一般的には,深夜および未明には低く,日中から夕刻,夜半までが高いカーブとなる。燃料電池3を備え逆潮流が許容されている需要家1におけるベースラインでは,深夜や未明における値がマイナスの値となる。
【0021】
「2.ベースライン誤差の算出」
ベースライン誤差とは,電力計4で現に計測された実測値としての受電量と,ベースライン中における同じ時刻での受電量データとの差である。これは符号を含んだ概念である。ベースライン誤差R(t)がプラスであれば実測値Wa(t)がベースラインデータWb(t)より大きかったということであり,ベースライン誤差R(t)がマイナスであれば実測値Wa(t)がベースラインデータWb(t)より小さかったということである。つまり,時刻tにおける受電量の実測値をWa(t)とし,ベースライン中における受電量データをWb(t)とすると,ベースライン誤差R(t)は,次式で表される。
R(t) = Wa(t)−Wb(t)
【0022】
ベースライン誤差R(t)は,実測値Wa(t)が得られる都度,算出される。実測値Wa(t)は電力計4から定期的(例えば30分間隔,以下「コマ」という)に出力されるので,出力された各時刻の実測値Wa(t)に対してそれぞれベースライン誤差R(t)が算出される。ベースラインが前述のようなパターンのものであるのに対し,ベースライン誤差R(t)は,ゼロを中心にランダムに上下に振れるラインをなす。このため,ベースラインそのものより扱いが容易である。ベースライン誤差R(t)の経時パターンの例を図3に示す。
【0023】
「3.ベースライン誤差と基準値との比較」
ここでいう基準値とは,ベースライン誤差R(t)の値を,大きいと見なすか小さいと見なすかの閾値である。燃料電池3が停止期間中であるとき,その発電電力を利用できない分,通常時よりも受電量の実測値Wa(t)が大きくなる。しかしベースラインは燃料電池3の停止を考慮していない。したがって,燃料電池3の停止期間中には,稼働期間中と比較してベースライン誤差R(t)が大きくなる。これを切り分けるのがその基準値である。つまり,基準値を「B」とすると,次の2つの式のいずれが成り立つかを判定するのである。
R(t) ≧ B
R(t) < B
【0024】
この判定はむろん,算出された各コマのベースライン誤差R(t)に対して行われる。図3中では基準値Bは,横軸と平行な直線として現れている。判定結果が「基準値B以上」であれば当然,ベースライン誤差R(t)が基準値Bの水平線より上へ出るかまたは同水平線と重なる。判定結果が「基準値B以上」でなければ,ベースライン誤差R(t)は基準値Bの水平線より下にある。
【0025】
ここで用いる基準値Bとしては,燃料電池3の定格出力に基づいてあらかじめ定めておいた値を使用する。燃料電池3の定格出力に基づく理由は,燃料電池3の停止期間中と稼働中とでの実測値Wa(t)の差が,ほぼ燃料電池3の定格出力と同等程度になるからである。つまり,停止期間中に算出されるベースライン誤差R(t)は,停止期間中であることにより,燃料電池3の定格出力の分が上乗せされた値であると言える。このため,停止期間中であるか否かの判別のための閾値である基準値Bは,燃料電池3の定格出力に基づいて定めることが好ましいのである。
【0026】
定格出力をそのまま基準値Bとすることも考えられるが,それより小さい値とした方がよい。実測値Wa(t)にはノイズが乗っており,定格出力がそのまま反映されているとは限らないからである。具体的には,定格出力に1より小さい正の係数を掛けた値とすることが好ましい。正の係数は,0.5付近の値であることがより好ましい。例えば,燃料電池3の定格出力が700Wで,前記係数として0.5を用いたとする場合,基準値Bの値は350Wとなる。
【0027】
前記係数についてさらに説明する。この係数の設定により,ベースライン誤差R(t)についての判定結果の精度が左右される。ここでいう判定精度とは,判定結果が「基準値B以上」であることと,当該ベースライン誤差R(t)が停止期間中のものであることとの相関性の高さのことである。つまり,停止期間中であれば「基準値B以上」であると判定され,停止期間中でなければ「基準値B以上」でないと判定される傾向が強いことが,判定精度が高い,ということである。言い替えると,停止期間中であるにもかかわらず「基準値B以上でない」(後述のF)と判定されたり,停止期間中でないにもかかわらず「基準値B以上である」(後述のG)と判定されたりすることは,判定精度を下げる事象である。
【0028】
係数が高い(1に近い)ほど,停止期間中に得られたベースライン誤差R(t)が「基準値B以上」でないと判定される確率が高くなる。一方,係数が低い(0に近い)ほど,稼働中に得られたベースライン誤差R(t)が「基準値B以上」であると判定される確率が高くなる。これを図4により説明する。図4は,ベースライン誤差R(t)として算出される値の確率分布のグラフである。本比較ステップでの処理は要するに,算出されたベースライン誤差R(t)が,図4中で「B」より右にある(基準値Bより大きい)か,左にあるか(基準値B未満),の判定である。ただし燃料電池3の停止期間中には,「B」との比較ではなく「B−P」(Pは燃料電池3の定格出力)との比較になる。定格出力Pの分,実測値Wa(t)が増量しており,ベースライン誤差R(t)も増量しているので,その分を差し引く必要があるからである。
【0029】
前述の判定精度を下げる事象の発生確率は,図4中でいえばハッチングを付した「F」,「G」の領域の面積に相当する。これら2つの領域の面積の合計を可能な限り小さくすることが,ベースライン誤差R(t)の判定精度を高くすることになる。そのためには,図4中の矢印Pを,左右方向の中央に配置することになる。その場合の基準値Bは,定格出力Pの半分に相当する。前述の設例で係数を0.5としたのはこのためである。なお,図4では確率分布をあたかも正規分布のように描いているが,実際の確率分布は正規分布通りとは限らない。しかし正規分布でなくても,左右対称の確率分布であれば上記はそのまま成り立つ。現実の確率分布は極端な左右非対称にはあまりならないので,上記のように係数を0.5として差し支えない。さらに,係数は厳密に0.5でなければならない訳ではない。0.3〜0.7の範囲内であれば実用上十分である。0.4〜0.6の範囲内であればよりよい。
【0030】
「4.比較結果に基づく停止期間の判定」
上記のようにベースライン誤差R(t)についての判定がなされると,停止期間の判定が可能となる。すなわち,図3中で,ベースライン誤差R(t)についての判定結果が「基準値B以上」である確率が高い区間が,燃料電池3の停止期間である可能性が高い区間であると言える。そこでこのような区間を,停止期間であると判定する。図3中では矢印Aで示した区間が,停止期間であると判定される区間である。図3中の区間Aでは,大半のベースライン誤差R(t)が,基準値Bより上に出ている。これに対して区間A以外の区間では,ベースライン誤差R(t)が基準値Bより上に出ている確率が明らかに低い。一方,図2においては,区間Aでは他の区間よりも受電量の実測値Wa(t)が高くなっている傾向はあるものの,図3ほど明瞭ではない。
【0031】
基本的には,判定の閾値をあらかじめ定めておく。そして,判定対象の区間内にあるすべてのベースライン誤差R(t)における,「基準値B以上」のものが占める割合が閾値以上である場合に,その対象区間を停止期間と判定する。判定の閾値としては,例えば0.5を用いることができる。つまり,対象区間内にあるベースライン誤差R(t)の総個数をKとし,そのうち「基準値B以上」のものの個数をMとし,判定の閾値をSとしたとき,対象区間が停止期間であると判定される条件は,次式が満たされることである。
M/K ≧ S
【0032】
停止期間の判定についてさらに説明する。図3を見ると,ベースライン誤差R(t)が基準値Bより上へ出ているのは,区間Aだけではない(矢印C)。しかしながら,ベースライン誤差R(t)が基準値Bより高い区間をすべて停止期間と判定することは必ずしも好ましくない。停止期間は前述のようにガス漏洩検査のために設けられるので,その長さはガス供給システム側の都合により決まっており,24時間程度である。ここでは,停止期間の長さが24時間に決まっているものとする。図3では,区間Aの長さがちょうど24時間である。区間A以外でベースライン誤差R(t)が基準値Bより高い区間(矢印C)はいずれも,その長さが24時間より短い。このため,区間Aのみが停止期間と判定される。
【0033】
図5では,図3におけるベースライン誤差R(t)と基準値Bとの比較結果に基づき,「基準値B以上」の区間のみにハッチングを付して示している。そしてそれにカーブDを重ねて示している。カーブDは,図5中の各時点における,その後の24時間に占める「基準値B以上」の区間の割合の推移を示している。なお,横軸は時間の経過であるが,1コマが30分であるため,表示されている数字の半分が時間(60分)に相当する。
【0034】
カーブDを見ると,初めのうちは低い水準で推移しているが,時刻D1のところからほぼ直線状に上昇している。これは,「その後の24時間」の終期が区間Aに掛かるため,時間とともに「基準値B以上」の割合が上昇するからである。そして,区間Aの始点のところでカーブDが最高となっている。このとき「その後の24時間」と区間Aとが一致しており,その大部分が「基準値B以上」だからである。その後は逆に,カーブDがほぼ直線状に下降していく。「その後の24時間」の終期が区間Aから外れていくからである。区間Aの終点以降では,カーブDは図5中の始めのうちと同様に低い水準となっている。
【0035】
これより図5において,カーブDがピークをなしている時刻(コマ)を停止期間の始期とし,その24時間後のコマを停止期間の終期とすればよい。これで,「基準値B以上」の割合が最も高い24時間を停止期間と判定することができる。図3中の区間Aは,これに合うように定めた区間である。
【0036】
なお,互いに離れた2つ以上の24時間の区間がそれぞれ,その前後の区間と比較して「基準値B以上」の割合が高くなっている場合がありうる。そのような場合,それらの区間(以下,「ハイ区間」という)のすべてをそれぞれ,停止期間と判定するのがよいとは限らない。そこでこのような場合の停止期間の判定について説明する。
【0037】
ハイ区間が独立して2つあり,それらをいずれも停止期間と判定できるのは,ハイ区間とハイ区間との間の間隔が,あらかじめ定めた基準間隔以上ある場合である。前述のように停止期間は,1か月程度の期間に1回の頻度で設けられる。停止期間の設定頻度が月1回である場合,基準間隔としては,25日程度に相当する長さの時間を定めておけばよい。このくらい間隔が開いている場合には,2つの独立したハイ区間がいずれも停止期間であると考えられるからである。
【0038】
逆に,ハイ区間とハイ区間との間の間隔が前述の基準間隔に満たない場合には,真の停止期間はそれらのうち一つだけと考えられる。その場合には,それらのハイ区間のうち,「基準値B以上」の割合が最も高いもののみを停止期間と判定する。なお,このような場合,停止期間と判定されなかったハイ区間は,ベースライン誤差R(t)のランダムな現れ方によりたまたま「基準値B以上」の割合がやや高めになっただけと考えられる。このため,停止期間と判定されるハイ区間と,それ以外のハイ区間とでは,「基準値B以上」の割合に明確な差があることが多い。
【0039】
また,停止期間の1日における開始時刻は,ガス供給システム側の都合により,ある決まった時刻(例えば深夜0時)に固定されている場合がある。その場合には,図3中の区間Aの始点となりうる時刻を当該時刻に限定してもよい。
【0040】
続いて,上記形態での停止期間の判定の精度についての検証結果を説明する。ここでは,燃料電池システム7を備える多数の需要家1における電力スマートメーターから受電量データを収集し,上記の判定を試みた。条件は以下の通りとした。
世帯数:885軒
期間:約3か月間
データ総数:3,738,240件
設定した停止期間:1月目の26日目,2月目の20日目,3月目の14日目(いずれも0時〜24時)
【0041】
その結果,誤判定の発生率は0.04%未満であった。また,誤判定の発生があった需要家1の軒数は,上記の総世帯数中のわずか8軒であった。これより十分に高い判定精度が得られることが確認された。
【0042】
以上詳細に説明したように本実施の形態によれば,受電量の実測値Wa(t)が得られると,それとベースラインデータWb(t)との差であるベースライン誤差R(t)を算出することとしている。そして,ベースライン誤差R(t)が基準値B以上であるか否かを判定する。この判定が定期的になされるので,基準値B以上,という判定結果のコマが占める割合が閾値以上であるような期間を停止期間と判定するのである。これにより,電力会社からの電力購入量のデータに基づいて,燃料電池の停止期間を簡易な手順で判定できる,燃料電池システムおよび同システムにおける燃料電池の停止判定方法が実現されている。
【0043】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,需要家1は,住居物件に限らず事業所物件でもよい。また,前記形態では,「3.ベースライン誤差と基準値との比較」において,まずベースライン誤差R(t)を算出し,それを基準値Bと比較した。しかしそれに限らず,実測値Wa(t)から,ベースラインデータWb(t)と基準値Bとの合計を差し引き,正となるか負となるかで判定しても同じことである。
【0044】
また,図5では,停止期間の長さが固定されている前提で,停止期間の始期をまず定め,その始期に基づき終期を定めた。しかしこれに限らず,停止期間の終期をまず定め,その終期に基づき始期を定めてもよい。あるいは,停止期間の長さが固定されていない場合には,停止期間の始期または終期の一方をまず定め,停止期間の長さを微調整することで他方を定めればよい。すなわち,「基準値B以上」の割合が最も高くなるように他方を定めるのである。なお,解析部8を各需要家1の中に個別に設置してもよい。また,受電量のデータを,電力計4から電力会社6を経由せず直接に解析部8に供給するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0045】
2 負荷部
3 燃料電池
4 電力計(受電部)
7 燃料電池システム
8 解析部
9 分電盤(受電部)
図1
図2
図3
図4
図5