特許第6909033号(P6909033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6909033
(24)【登録日】2021年7月6日
(45)【発行日】2021年7月28日
(54)【発明の名称】ダミーヘッド
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/16 20160101AFI20210715BHJP
   F02F 1/00 20060101ALI20210715BHJP
【FI】
   C23C4/16
   F02F1/00 R
   F02F1/00 J
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-76250(P2017-76250)
(22)【出願日】2017年4月6日
(65)【公開番号】特開2018-178172(P2018-178172A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 肇
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−228130(JP,A)
【文献】 特開2004−169119(JP,A)
【文献】 特開2016−137439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00 − 6/00
F02F 1/00 − 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックと着脱可能な本体部と、
前記本体部に形成され、前記シリンダブロックのシリンダボアと連通する貫通孔と、
前記貫通孔にガスを噴射する噴射部と、
を有し、
前記貫通孔のうち前記シリンダブロックと接続する側の端部の径は前記端部以外の部分の径より大きい径を有し、
前記噴射部は、前記貫通孔における前記部に前記ガスを噴射するダミーヘッド。
【請求項2】
前記貫通孔の内周面には、溶射膜が形成され、
記貫通孔の前記端部の径と前記端部以外の部分の径との差は、前記溶射膜の厚さより大きい請求項1に記載のダミーヘッド。
【請求項3】
前記噴射部は、前記ガスを前記部の内周面の接線方向に噴射する請求項1または2に記載のダミーヘッド。
【請求項4】
前記本体部は、
前記シリンダブロックを固定するための固定部を有する第1本体部と、
前記貫通孔および前記噴射部を有し、前記第1本体部に対し着脱可能に構成される第2本体部と、
を備える請求項1からのいずれか1項に記載のダミーヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダボアの内周面に溶射膜をコーティングする際に使用されるシリンダヘッド状のダミーヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金製のシリンダブロックのシリンダボアの内周面に金属材料を溶かした溶滴を吹き付けることにより金属の溶射膜を形成してシリンダライナとする技術がある。
【0003】
しかしながら、アルミニウム合金からなるシリンダボア周辺の剛性は、鋳鉄に比べて低い。そのため、シリンダヘッドをシリンダブロックにボルトによって締結した場合、その締結力によりシリンダボアの形状(真円度や円筒度)が変形し、これによりエンジン性能(リフリクションやオイル消費量)が悪化する原因となる。
【0004】
そこで、特許文献1には、シリンダブロックにシリンダヘッドの形状を模したダミーヘッドをボルトによって締結した状態で、シリンダボアに溶射膜を形成することが開示されている。これにより、溶射膜形成後のシリンダブロックにシリンダヘッドをボルトによって締結した場合でも、シリンダボアの形状(真円度や円筒度)が変化することを低減でき、エンジン性能(リフリクションやオイル消費量)が悪化することを低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−197309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、シリンダボアに溶射膜を形成した後、シリンダブロックからダミーヘッドを取り外す際に、シリンダブロックとダミーヘッドとの境界面付近において形成された溶射膜に割れが生じてしまう。そのため、溶射膜形成後のシリンダブロックにシリンダヘッドをボルトによって締結した場合でも、シリンダボアの真円度および円筒度を保つことができず、エンジン性能が悪化してしまうという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、エンジン性能の悪化を低減することが可能なダミーヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のダミーヘッドは、シリンダブロックと着脱可能な本体部と、前記本体部に形成され、前記シリンダブロックのシリンダボアと連通する貫通孔と、前記貫通孔にガスを噴射する噴射部と、を有し、前記貫通孔のうち前記シリンダブロックと接続する側の端部の径は前記端部以外の部分の径より大きい径を有し、前記噴射部は、前記貫通孔における前記部に前記ガスを噴射する。
【0009】
前記貫通孔の内周面には、溶射膜が形成され、前記貫通孔の前記端部の径と前記端部以外の部分の径との差は、前記溶射膜の厚さより大きくてもよい。
【0011】
前記噴射部は、前記ガスを前記部の内周面の接線方向に噴射してもよい。
【0012】
前記本体部は、前記シリンダブロックを固定するための固定部を有する第1本体部と、前記貫通孔および前記噴射部を有し、前記第1本体部に対し着脱可能に構成される第2本体部と、を備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジン性能の悪化を低減することが可能なダミーヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態にかかる溶射装置の全体構成図である。
図2】溶射ノズル部の概略拡大図である。
図3】シリンダブロックおよびダミーヘッドの概略斜視図である。
図4】シリンダボアの内周面に溶射膜を形成する工程を説明するためのシリンダブロックおよびダミーヘッドの断面図である。
図5】シリンダボアに溶射膜が形成されたシリンダブロックとシリンダヘッドとの組み付けを説明する図である。
図6】本実施形態におけるダミーヘッドとシリンダブロックの接続部近傍を拡大した拡大断面図である。
図7】変形例におけるダミーヘッドの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態の溶射装置1の全体構成図である。溶射装置1は、シリンダブロック2の内部に設けられたシリンダボア2aに対し溶射膜を形成する。本実施形態では、シリンダブロック2の上面2b(後述するシリンダヘッドが装着される面)にダミーシリンダヘッド(シリンダヘッドに相当する治具、以下、「ダミーヘッド」という)3が設けられている。ダミーヘッド3の内部には、貫通孔3aが設けられている。貫通孔3aは、シリンダブロック2の上面2bとダミーヘッド3の下面3bとが接続された状態において、シリンダボア2aと連通(接続)している。
【0017】
溶射装置1は、溶射ガン4、回転装置5、溶射用ロボット6、供給装置7および排気機構8を含んで構成されている。溶射ガン4の先端には、溶射ノズル部4aが備えられている。溶射ガン4は、シリンダボア2aの内周面に溶射粒子を噴射して溶射膜を形成する。回転装置5は、溶射ガン4をシリンダボア2aの円周方向に沿って回転駆動する。溶射用ロボット6は、溶射ガン4および回転装置5をシリンダボア2aの軸方向に沿って昇降させる。供給装置7は、電力、補助ガス、溶射用の鉄系金属からなるワイヤなどを、溶射用ロボット6および回転装置5を介して溶射ガン4に供給する。
【0018】
排気機構8は、排気筒8a、排気ダクト8bおよび排気ファン8cを含んで構成されている。排気筒8aは、内部に貫通孔8aを有し、ダミーヘッド3の上面3c(すなわち、ダミーヘッド3のシリンダブロック2と接続する下面3bと反対側の面)に固定される。貫通孔8aは、排気筒8aとダミーヘッド3が接続(固定)された状態において、シリンダボア2aおよび貫通孔3aと連通する。排気ダクト8bは、排気筒8aの貫通孔8aと排気ファン8cを接続する。排気ファン8cは、排気筒8aの貫通孔8a内の空気を、排気ダクト8bを介して吸引する。排気機構8は、排気ファン8cにより、排気筒8aの貫通孔8a内の空気を吸引することで、シリンダボア2aおよびダミーヘッド3の貫通孔3a内の未溶射粒子や、溶射ガン4から噴射される補助ガスなどを、シリンダボア2aおよび貫通孔3aから排出する。なお、シリンダブロック2は、不図示のクランプ機構により支持台9上に固定されている。
【0019】
図2は、溶射ノズル部4aの概略拡大図である。供給装置7により供給された溶射用の鉄系金属からなるワイヤ10は、溶射ガン4の末端から挿入され、溶射ガン4の内部を通って先端にある溶射ノズル部4aまで移動する。ここで、ワイヤ10の先端10aは、溶射ノズル部4a内の所定の位置まで、不図示のワイヤ駆動装置により駆動(調整)される。溶射ノズル部4aは、供給装置7により供給された水素とアルゴンの混合ガスを噴射する噴射孔11と、供給装置7により供給されたアトマイズエア(圧縮空気および窒素)を噴射する噴射ノズル12と、カソード電極13とを含んで構成されている。供給装置7は、カソード電極13とアノード電極となるワイヤ10の先端10aとの間に電圧を印加するとともに、混合ガスを噴射孔11から噴射することで、カソード電極13とワイヤ10の先端10aとの間にアークを発生させて点火し、アークの熱によってワイヤ10の先端10aを溶融させる。この際、不図示のワイヤ駆動装置は、その溶融に伴って、ワイヤ10を溶射ガン4の末端から先端に向けて順次送給する。また、供給装置7は、噴射ノズル12からワイヤ10の先端10aに向けてアトマイズエアを噴射させ、ワイヤ10の溶融物、すなわち溶融材料をパーティクルジェット14として前方(すなわち、シリンダボア2aの内周面)へ向けて噴射させる。このパーティクルジェット14がシリンダボア2aの内面に付着することにより、シリンダボア2aの内周面に溶射膜Mが形成される。回転装置5および溶射用ロボット6は、溶射ガン4を回転させつつシリンダボア2aの軸方向に移動させることで、シリンダボア2aの内周面全面に溶射膜Mを形成することができる。この際、溶射ガン4は、溶射膜Mが既定の膜厚となるように回転しながら上下に複数回往復移動する。
【0020】
図3は、シリンダブロック2およびダミーヘッド3の概略斜視図である。
【0021】
シリンダブロック2は、軽量化を目的としてアルミニウム合金により鋳造で形成される。シリンダブロック2には、不図示のピストンを収容するためのシリンダボア2aと、シリンダヘッドをシリンダブロック2の上面2bに取り付ける際にボルトが螺合されるネジ溝2cとが形成されている。ネジ溝2cは、シリンダボア2aの周囲を取り囲むように設けられている。
【0022】
ダミーヘッド3は、シリンダブロック2と着脱可能な本体部3Aを有する。本体部3Aには、シリンダブロック2のシリンダボア2aに対応する位置に、貫通孔3aが形成されている。また、ダミーヘッド3には、シリンダブロック2に形成されたネジ溝2cに対応する位置に、ボルト挿入孔3dを中心に有した円筒状のボス3eが形成されている。ボルトBは、ボルト挿入孔3dを通ってネジ溝2cに進入し、ダミーヘッド3をシリンダブロック2に締結(固定)する。ボルトBの締結力によってダミーヘッド3はシリンダブロック2を押圧する。貫通孔3aは、ボルトBによりダミーヘッド3をシリンダブロック2に締結した状態でシリンダボア2aと連通し、この貫通孔3aを介して溶射ガン4がシリンダボア2a内に挿入される。ダミーヘッド3がシリンダブロック2に組み付けられる際には、まず、ダミーヘッド3がシリンダブロック2の上面2bに載置される。そして、ボルト挿入孔3dを通してネジ溝2cにボルトBが螺合されることで、ダミーヘッド3がシリンダブロック2に締結される。ダミーヘッド3がシリンダブロック2に締結されると、その締結力によりシリンダボア2aが変形する。
【0023】
本実施形態にかかる溶射装置1は、シリンダブロック2の上面2b(すなわち、最終的にシリンダヘッドが装着される面)がダミーヘッド3により所定の圧力で押圧された状態で、シリンダボア2aの内周面に溶射膜を形成する。具体的に、溶射装置1は、シリンダブロック2およびダミーヘッド3がボルトBにより締結された状態で、シリンダボア2aの内周面に溶射膜を形成する。実際のエンジンにおいては、シリンダブロック2にシリンダヘッドがボルトによって締結されると、その締結力によりシリンダボア2aが変形する。
【0024】
このように、予めシリンダブロック2の上面2bにダミーヘッド3がボルトBにより締結され、シリンダボア2aが変形された状態で、シリンダボア2aに溶射膜Mを形成する。その後、ダミーヘッド3が装着された状態を維持したまま、溶射膜Mの表面が、仕上げ工具を用いたホーニング加工により仕上げられると、シリンダボア2aの形状(真円度や円筒度)が変化することを低減でき、エンジン性能(リフリクションやオイル消費量)が悪化することを低減できる。
【0025】
図4は、シリンダボア2aの内周面に溶射膜Mを形成する工程を説明するためのシリンダブロック2およびダミーヘッド3の断面図である。
【0026】
図4(a)に示すように、シリンダブロック2が支持台9上に載置され、シリンダブロック2が不図示のクランプ機構により固定保持される。そして、ダミーヘッド3がボルトB(図4では不図示)によりシリンダブロック2に固定(締結)される。このとき、ボルトBの締結力によりシリンダボア2aの内周面は変形する。
【0027】
シリンダブロック2にダミーヘッド3が締結された後で、シリンダボア2aの内周面を微細に荒らすボア面下地加工処理が行われる。ボア面下地加工処理では、例えば、ファインボーリングなどを用いてシリンダボア2aの内周面を粗い凹凸面にする。ボア面下地加工処理は、シリンダボア2aの内周面に微細な凹凸を形成して溶射膜Mの密着力を向上させるために行う。
【0028】
ボア面下地加工処理が終わると、図4(b)に示すように、溶射ガン4をダミーヘッド3の貫通孔3aおよびシリンダブロック2のシリンダボア2aに挿入し、溶射ノズル部4aをシリンダボア2aの軸方向、および、シリンダボア2aの軸回り方向(円周方向)に回転移動させながら溶融材料を吹き付けて溶射膜Mを形成する溶射膜形成処理が行われる。溶射膜形成処理では、溶射ノズル部4aをシリンダボア2aの軸回り方向(例えば、時計回り)に回転させながら溶融材料を吹き付けて溶射膜Mを形成する。このとき、シリンダボア2aの内周面に均一に溶融材料が被着されるように溶射ノズル部4aを回転させるとともにシリンダボア2aの軸方向に沿って上下動させる。その結果、シリンダボア2aの内周面には、均一な皮膜となる溶射膜Mが形成される。このとき、排気ファン8cが作動し、溶射ガン4の作動により発生する高温のガスや余分な溶射粒子が排気機構8により吸引される。
【0029】
溶射膜形成処理が終わると、図4(c)に示すように、溶射膜Mが形成されたシリンダボア2aの内周面(溶射膜M)をホーニング加工するボア面仕上げ処理が行われる。ボア面仕上げ処理では、ホーニング加工装置のホーニングヘッドHが貫通孔3aおよびシリンダボア2a内に挿入され、ホーニングヘッドHを回転させながらシリンダボア2aの軸方向にストロークさせて溶射膜Mを研磨して仕上げる。ホーニングヘッドHの先端部には砥石Tが把持されており、この砥石Tを溶射膜Mが形成されたシリンダボア2aに接触させることにより、溶射膜Mを研磨することができる。このホーニング加工により、溶射膜Mの表面の凹凸を平滑にすることができる。
【0030】
ボア面下地加工処理、溶射膜形成処理、およびボア面仕上げ処理が終了すると、シリンダブロック2からボルトBおよびダミーヘッド3が取り外される。
【0031】
図5は、シリンダボア2aに溶射膜Mが形成されたシリンダブロック2とシリンダヘッド15との組み付けを説明する図である。
【0032】
ボア面仕上げ処理が終わると、シリンダブロック2にシリンダヘッド15を組み付ける組付け処理が行われる。シリンダヘッド15には、シリンダブロック2に形成されたネジ溝2cに対応する位置にボルト挿入孔15aが形成されている。ボルトBは、ボルト挿入孔15aを通ってネジ溝2cに螺合されることで、シリンダヘッド15をシリンダブロック2に締結(固定)する。
【0033】
ここで、ボア面下地加工処理、溶射膜形成処理、およびボア面仕上げ処理が終了すると、シリンダブロック2にシリンダヘッド15を組み付けるため、シリンダブロック2からダミーヘッド3を取り外す必要がある。しかし、シリンダブロック2のシリンダボア2aに溶射膜Mが形成された後、シリンダブロック2からダミーヘッド3が取り外される際に、シリンダブロック2とダミーヘッド3との境界面付近において溶射膜Mが割れてしまうことがある。そうすると、溶射膜Mが形成されたシリンダボア2aの真円度および円筒度を保つことができない。
【0034】
そこで、本実施形態では、ダミーヘッド3は、少なくともシリンダブロック2と接続する接続面(図1における下面3b)を含む接続部Sにおいて、貫通孔3aの径(内径)を、シリンダボア2aの径(内径)と異なる大きさにしている。具体的には、接続部Sにおける貫通孔3aの径は、シリンダボア2aの径より大きい径に形成されている。そして、ダミーヘッド3は、この接続部Sにおいて、貫通孔3a内にガスを噴射する噴射部3hを有している。
【0035】
図6は、本実施形態におけるダミーヘッド3およびシリンダブロック2の接続部近傍を拡大した拡大断面図である。
【0036】
図6(a)に示すように、ダミーヘッド3の接続部Sには、貫通孔3aの径方向において、貫通孔3a(およびシリンダボア2a)の中心軸Oから離れる方向に窪んだ凹部3fが形成されている。凹部3fは、貫通孔3aの周方向に沿って全周に亘って延在し、シリンダブロック2(シリンダボア2a)とダミーヘッド3(貫通孔3a)との間で段差部を形成している。したがって、中心軸Oから接続部S(凹部3f)の内周面までの第1の距離Lは、中心軸Oからシリンダボア2aの内周面までの第2の距離Lより大きい。
【0037】
本実施形態では、第1の距離Lと、第2の距離Lとの差は、図6(b)に示されるダミーヘッド3の接続部S以外の貫通孔3aの内周面およびシリンダボア2aの内周面に形成される溶射膜Mの膜厚(厚さ)tより大きい。ここで、図6(b)は、図4(b)に示す溶射膜形成処理が行われた後(図4(c)に示すボア面仕上げ処理が行われる前)の状態を示すものである。なお、図6(b)には、ダミーヘッド3の接続部S以外の貫通孔3aの内周面およびシリンダボア2aの内周面に形成される溶射膜Mと同じ膜厚tを有する仮想溶射膜Vが、接続部Sに形成された場合を破線で示している。図6(b)から見て分かるように、貫通孔3aの径方向における凹部3fの幅w(すなわち、第1の距離Lと第2の距離Lとの差)は、溶射膜Mの膜厚tより大きい。
【0038】
また、ダミーヘッド3の接続部Sの凹部3fの内周面には、貫通孔3a(例えば、図6における凹部3f)内にガス(気体)を噴射する噴射部3hが形成されている。噴射部3hは、一端が不図示のガス供給装置に接続され、他端が凹部3fの内周面に接続される。これにより、噴射部3hは、不図示のガス供給装置から送られてくるガスを凹部3f(貫通孔3a)内に噴射することができる。
【0039】
図6(d)は、図6(a)に示す凹部3fおよび噴射部3hのA−A断面図である。本実施形態では、図6(d)に示すように、ダミーヘッド3の凹部3fには、噴射部3hが4つ接続されている。噴射部3hは、図6(d)に示すように、貫通孔3aの内周面の接線方向に沿って、互いに等間隔に形成されている。そして、噴射部3hは、ドーナツ状に形成された凹部3fの接線方向に向かってガスを噴射する。凹部3fの接線方向にガスを噴射することにより、凹部3f内にガスの流れ(図6(d)では時計回りのガス流)を形成することができる。
【0040】
また、凹部3f内を流れるガスの流れ方向(回転方向)は、回転装置5により溶射ガン4が回転する方向と同じ方向(同一方向)である。換言すれば、噴射部3hは、噴射部3hから噴射されたガスが貫通孔3aの内周面に沿って流れる第1の回転方向と、溶射膜Mを形成する溶射ガン4が回転する第2の回転方向とが同じ方向になるように、ガスを噴射する。
【0041】
このように、噴射部3hが凹部3f内にガスの流れを形成することにより、溶射ガン4から射出されるパーティクルジェット14が凹部3fの内周面に付着することを低減することができる。すなわち、溶射ガン4から射出されるパーティクルジェット14は、凹部3fの内周面に付着する前に、噴射部3hから噴射されるガスによって図6(d)の矢印方向に沿って流され、凹部3f内から凹部3f外(貫通孔3aの中心軸側)へ排除される。そして、貫通孔3aの中心軸側へ排除されたパーティクルジェット14は、排気機構8により吸引され、貫通孔3aからも排除される。
【0042】
このように、本実施形態では、ダミーヘッド3に凹部3fおよび噴射部3hを設け、噴射部3hから噴射されるガスにより凹部3f内にガスの流れを形成する。これにより、凹部3fの内周面に溶射粒子が付着することを低減することができる。その結果、中心軸Oに沿った軸方向において、溶射膜形成処理後の溶射膜Mを、接続部Sにおいて不連続とすることができる。したがって、図6(c)に示すように、シリンダブロック2からダミーヘッド3が取り外される際に、シリンダブロック2とダミーヘッド3との境界面(上面2bおよび下面3b)付近において生じる溶射膜Mの割れを低減することができる。これにより、ダミーヘッド3は、エンジン性能の悪化を低減することができる。
【0043】
また、本実施形態では、凹部3fの幅wを溶射膜Mの膜厚tより大きく形成している。図6(b)から見て分かるように、溶射膜形成処理後の溶射膜Mと仮想溶射膜Vは、中心軸Oに沿った軸方向において、凹部3fが形成された接続部Sにおいて不連続となる。したがって、ダミーヘッド3に凹部3fおよび噴射部3hを設け、凹部3fの幅を溶射膜Mの膜厚tより大きく形成することにより、溶射膜Mの割れを効果的に低減することができる。これにより、ダミーヘッド3は、エンジン性能の悪化を低減することができる。
【0044】
(変形例)
図7は、変形例におけるダミーヘッド300の概略斜視図である。
【0045】
図7に示されるように、変形例のダミーヘッド300は、第1本体部17と、第1本体部17に対し着脱可能な第2本体部18と、を備える。第1本体部17には、シリンダブロック2に形成されたネジ溝2cに対応するボルト挿入孔3dを中心に有した円筒状のボス3e(固定部)が形成されている。また、第2本体部18には、シリンダブロック2のシリンダボア2aに対応(連通)する貫通孔3aが形成されている。なお、第2本体部18には、図示を省略しているが、ダミーヘッド300のシリンダブロック2と接続する接続面(図7における下面3b)を含む接続部Sにおいて、貫通孔3aの径方向において貫通孔3aの中心軸から離れる方向に窪んだ凹部3fがドーナツ状に形成されている。また、第2本体部18には、ガス供給装置16から送られてくるガスを凹部3f内に噴射する噴射部3hが形成されている。噴射部3hは、第2本体部18の上面と第2本体部18の凹部3fの内周面とを接続する不図示の貫通孔で構成される。そのため、噴射部3hは、この貫通孔を介してガス供給装置16から送られてくるガスを凹部3f内に噴射することができる。
【0046】
ガス供給装置16と噴射部3hとの間には、不図示の配管が着脱可能に設けられ、不図示の配管によってガス供給装置16と噴射部3hが接続されている。また、第2本体部18を第1本体部17に固定するため、第2本体部18には、貫通孔3aの径方向の外側に突出する突起部18aが設けられ、突起部18aには、ボルト挿入孔18bが形成されている。一方、第1本体部17には、突起部18aと嵌合する嵌合部(凹部)17aが設けられるとともに、ボルト挿入孔18bに対応する位置にネジ溝17bが形成されている。そして、突起部18aが嵌合部17aと嵌合した状態で、不図示のボルトがボルト挿入孔18bを通じてネジ溝17bに螺合されることで、第1本体部17と第2本体部18とが固定される。
【0047】
このように、ダミーヘッド300は、第2本体部18を第1本体部17に対し着脱可能に構成することで、第2本体部18(貫通孔3a)の内周面に溶射膜Mが形成された場合でも、貫通孔3aの内周面に溶射膜Mが形成されていない新しい第2本体部18と交換することができる。ここで、上述した溶射膜形成処理によりシリンダボア2aの内周面に溶射膜Mを形成した場合、ダミーヘッド3の貫通孔3aの内周面にも溶射膜Mが形成される。そのダミーヘッド3を交換せずに複数のシリンダブロック2のシリンダボア2aに対し溶射膜形成処理を複数回行っていくと、ダミーヘッド3の内周面に形成された溶射膜Mが堆積し、その後のボア面仕上げ処理や次の溶射膜形成処理に支障をきたすようになる。
【0048】
そのため、変形例においては、溶射膜形成処理により内周面に溶射膜Mが形成された第2本体部18を第1本体部17から取り外し、交換できるように構成している。溶射膜Mが形成された第2本体部18を交換する場合、まず、溶射膜Mが形成された第2本体部18を第1本体部17から取り外す。そして、溶射膜Mが形成されていない新しい第2本体部18を第1本体部17に取り付ける。なお、第1本体部17から取り外された第2本体部18は、廃棄される。その場合、第1本体部17は溶射膜Mが形成されないため、廃棄する必要はない。第1本体部17と第2本体部18を着脱可能に構成し、溶射膜形成処理後に第2本体部18のみを交換するように構成したことにより、溶射膜形成処理後にダミーヘッド300全体(すなわち、第1本体部17および第2本体部18)を廃棄し、新しいダミーヘッド300と交換する場合に比べて、コストを低減することができる。
【0049】
なお、第1本体部17から取り外された第2本体部18を廃棄せずに、第2本体部18の溶射膜Mが形成された内周面を洗浄して内周面に形成された溶射膜Mを除去するようにしてもよい。例えば、第1本体部17から取り外された第2本体部18は、不図示の洗浄装置によりその内周面が洗浄され、内周面に形成された汚染物(溶射膜M)が除去される。汚染物が除去された第2本体部18は、次のシリンダブロック2のシリンダボア2aに対し溶射膜形成処理を行うために、再び第1本体部17に取り付けられる。このように構成すれば、第2本体部18を廃棄する回数を少なくできるので、さらにコストを低減することができる。
【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0051】
例えば、上記実施形態では、排気機構8を、ダミーヘッド3の上に設けているが、本発明はこれに限定されず、シリンダブロック2の下に設けてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、噴射部3hによって凹部3f内を流れるガスの流れ方向を、回転装置5により溶射ガン4が回転する方向と同一の方向としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、噴射部3hによって凹部3f内を流れるガスの流れ方向を、回転装置5により溶射ガン4が回転する方向と逆方向にしてもよい。また、噴射部3hから噴射するガスの噴射方向をダミーヘッド3の貫通孔3aの径方向にしてもよい。すなわち、溶射ガン4から射出されるパーティクルジェット14の射出方向とは反対の方向にガスを噴射させてもよい。また、上記実施形態では、ダミーヘッド3の1つの貫通孔3aに対し噴射部3hを4つ設けたが、噴射部3hの数はこれに限定されず、複数あれば、2つでも、3つでも、5つ以上でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、エンジンのシリンダボアの内周面に溶射膜をコーティングする際に使用されるシリンダヘッド状のダミーヘッドに利用できる。
【符号の説明】
【0054】
2 シリンダブロック
2a シリンダボア
3 ダミーヘッド
3a 貫通孔
3h 噴射部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7