(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の空気入りタイヤは、キャップトレッドと、前記キャップトレッドの表面に露出するように配置された通電ゴム(ベースペンとも称する)とを備え、前記キャップトレッドが、所定成分を所定量配合し、かつ所定の硬度及びtanδを持つキャップトレッド用ゴム組成物、前記通電ゴムが、所定成分を所定量配合し、かつ所定の硬度及び該加硫後のキャップトレッド用ゴム組成物に対する所定範囲の硬度差を持つ通電ゴム用ゴム組成物、からなるものである。
【0011】
高硬度のシリカ配合キャップトレッドを用いる場合、通電ゴムを設置すると、ブローアウト、チッピング、チャンキング等の破壊現象が起きることがあるが、本発明のタイヤは、所定量のシリカ、硫黄を含む高硬度等の物性を有するトレッドと共に、所定の微粒子カーボンブラック、硫黄を所定量含み、かつ所定の硬度を有すると同時に該キャップトレッドとの硬度の差を所定範囲に調整した通電ゴムを有するものであるため、キャップトレッドのゴム破壊耐久性と通電ゴムの押し出し通過性(押し出し加工性)の性能バランスが優れている。
【0012】
すなわち、高性能タイヤ等に適用される高硬度キャップトレッドにおいて、通電ゴムとキャップトレッドを同程度の硬度に調整することで、通電ゴム近傍のキャップトレッドの移動変形量を抑制し、キャップトレッドの発熱を小さく抑えることが可能となる。そのため、本発明では、発熱の増加に起因するブローアウト、チッピング、チャンキング等の破壊現象の発生が防止され、良好なゴム破壊耐久性が得られる。
【0013】
一方、一般に加硫後ゴムの硬度と未加硫ゴムの押し出し通過性(ムーニー粘度)は相反する関係にあるが、前記のとおり、通電ゴムには、細い押し出し口における押し出し通過性が要求され、未加硫ゴムのムーニー粘度を低く設計する必要がある。従って、所定量のシリカと硫黄を含む高硬度キャップトレッドと同程度の高い硬度を持つ通電ゴムにおいて、低いムーニー粘度を確保することは困難であるが、本発明では、所定比表面積の微粒子カーボンブラックを少量配合するように設計すると共に、硫黄の配合量を多くすることにより、高硬度だけでなく、低ムーニー粘度も付与できる。
【0014】
加えて、本発明における通電ゴム、シリカ配合キャップトレッドは、それぞれ通電性、低燃費性にも優れている。このように、本発明の空気入りタイヤは、良好な通電性、低燃費性を確保した通電ゴム、キャップトレッドを有するタイヤにおいて、更に該通電ゴムを、高硬度キャップトレッドと同程度の硬度に調整することで、キャップトレッドの移動変形量を抑制し低発熱として破壊現象を防止すると同時に、少量の微粒子カーボンブラックと多量の硫黄を含むものとすることで、高硬度だけでなく、低ムーニー粘度をも付与することにより、前述の本願発明の作用効果が得られるという技術的思想により完成に至ったものである。従って、本発明では、良好な通電性、低燃費性を確保しつつ、キャップトレッドのゴム破壊耐久性と通電ゴムの押し出し通過性(押し出し加工性)の両立が可能となる。
【0015】
以下において、本発明の空気入りタイヤの一例について、図面を用いて説明する。
<基本構造>
本発明の空気入りタイヤの構造は、例えば、
図1のタイヤ断面の右上半分に例示されるものである。空気入りタイヤ1は、トレッド部を構成するトレッドゴム7と、その両端から空気入りタイヤ1の半径方向内方に延びる一対のサイドウォール部を構成するサイドウォールゴム8と、各サイドウォール部の内方端に位置するクリンチ部を構成するクリンチゴム3及びリム上部に位置するチェーファー部を構成するチェーファーゴム2とを備える。またクリンチ部、チェーファー部間にはカーカス10が架け渡されるとともに、このカーカス10の空気入りタイヤ1の半径方向外側にブレーカー部を構成するブレーカーゴム9が配される。該カーカス10は、カーカスコードを配列する1枚以上のカーカスプライから形成され、このカーカスプライは、トレッド部からサイドウォール部を経て、ビードコア13と、該ビードコア13の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス11との廻りを空気入りタイヤ1軸方向の内側から外側に折返され、折返し部によって係止される。ブレーカー部は、ブレーカーコードを配列した2枚以上のブレーカープライからなり、各ブレーカーコードがブレーカープライ間で交差するよう向きを違えて重置している。本発明の空気入りタイヤ1においては、これに限られないが、例えば、トレッド部(トレッドゴム7、ベーストレッド)とブレーカー部との間に、ブレーカー部の上側を被覆する被覆ゴム(アンダートレッド)5が設けられる。該被覆ゴム5と接触領域を有して、カーカスプライとブレーカー部の両端部及びサイドウォール部との間にクッションゴム4が配置される。そして前記被覆ゴム5に接し一部が接地面(トレッド)に露出するようにトレッドゴム7中に通電ゴム6が配置される。また、前記クッションゴム4と接触領域を有して、カーカス10とサイドウォールゴム8との間に、少なくともクッションゴム4からクリンチゴム3又はチェーファーゴム2に接する位置に亘る内層サイドウォールゴム14が配置される。空気入りタイヤ1では、通電ゴム6と被覆ゴム5とクッションゴム4と内層サイドウォールゴム14とクリンチゴム3、チェーファーゴム2とが電気的に接続する構造となっている。
【0016】
上記構造等を採用することで空気入りタイヤの走行時にリムとの接触領域に位置するビード部ゴム(クリンチゴム、チェーファーゴム)、又は接地領域に発生する静電気は空気入りタイヤ内部における電気的に接続された導電性のゴム部材を通って空気入りタイヤの外部に放出される。従って、トレッドゴム等にシリカを使用しても空気入りタイヤの電気抵抗を低くできる。
【0017】
ゴム破壊耐久性、通電ゴムの押し出し通過性等の観点から、通電ゴムは、タイヤ周方向に連続した構造を有するものが1〜2本配されていることが好ましい。また、同様の観点から、通電ゴムのタイヤ軸方向の幅は、0.1〜2.5mmであることが好ましい。
【0018】
次に、タイヤにおけるキャップトレッド、通電ゴムに用いられるそれぞれのゴム組成物について説明する。
【0019】
<キャップトレッド用ゴム組成物>
キャップトレッド用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては、特に限定されず、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ジエン系合成ゴム(イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)など)等のジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、良好なグリップ性能等が得られるという理由から、SBRが好ましく、SBRとBRを併用することがより好ましい。
【0020】
SBRとしては、特に限定されず、例えば、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)等を使用できる。
【0021】
SBRのスチレン含有量は、20質量%以上が好ましく、23質量%以上がより好ましい。20質量%未満では、充分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、SBRのスチレン含有量は、60質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。60質量%を超えると、耐久性が低下する傾向がある。
なお、本発明において、SBRのスチレン含有量は、H
1−NMR測定により算出される。
【0022】
SBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該SBRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。SBRの含有量が上記範囲内であると、本発明の効果が好適に得られる。
【0023】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150B、JSR(株)製のJSR BR51、T700、BR730等の高シス含有量のBR、日本ゼオン(株)製のBR1250H等の低シス含有量のBR、宇部興産(株)製のVCR412、VCR617等のシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR等を使用できる。
【0024】
BRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。該BRの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。BRの含有量が上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0025】
キャップトレッド用ゴム組成物は、シリカを含有する。シリカとしては、特に制限はなく、湿式法、乾式法により調製されたものを使用できる。
【0026】
シリカの窒素吸着比表面積(BET法)は、例えば50〜300m
2/g、更に70〜250m
2/gの範囲内であることが好ましい。なお、本発明において、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される。
【0027】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、60質量部以上、好ましくは70質量部以上である。60質量部未満であると、低硬度になったり、グリップ性能が低下するおそれがある。該含有量は、110質量部以下、好ましくは90質量部以下である。110質量部を超えると、低燃費性が低下するおそれがある。
【0028】
シリカを含有する場合、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト系、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系等が挙げられる。なかでも、スルフィド系が好ましい。なお、シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して、5〜15質量部が好ましい。
【0029】
キャップトレッド用ゴム組成物は、高硬度等の点から、カーボンブラックを含むことが好ましい。
【0030】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N
2SA)は、100m
2/g以上が好ましく、125m
2/g以上がより好ましい。100m
2/g未満では、硬度が低下する傾向がある。該N
2SAは、200m
2/g以下が好ましく、175m
2/g以下がより好ましい。200m
2/gを超えると、良好な分散が得られにくく、所望の性能が得られないおそれがある。なお、本発明において、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001に準拠して求められる。
【0031】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。下限未満であると、硬度が低下するおそれがある。該含有量は、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。上限を超えると、tanδ(転がり抵抗特性)が悪化する傾向がある。
【0032】
キャップトレッド用ゴム組成物は、硫黄を含有する。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄が挙げられる。
【0033】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、0.5質量部以上、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上である。0.5質量部未満であると、硬度が低下するおそれがある。該含有量は、3.0質量部以下、好ましくは2.8質量部以下である。3.0質量部を超えると、トレッドの破壊現象が生じるおそれがある。
【0034】
キャップトレッド用ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤としては、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のチアゾール系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)等のチウラム系加硫促進剤;N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N−オキシエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N’−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド等のスルフェンアミド系加硫促進剤;ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤を挙げることができる。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤が好ましい。
【0035】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは3.0質量部以上、更に好ましくは3.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7.0質量部以下、更に好ましくは5.0質量部以下である。
【0036】
キャップトレッド用ゴム組成物の加硫後の硬度は、68以上、好ましくは70以上である。68未満では、タイヤのコーナリングパワーを十分に確保できなくなりタイヤの運動性能(操縦安定性等)が悪化する傾向がある。該加硫後の硬度の上限が特に限定されないが、好ましくは78以下、より好ましくは75以下、更に好ましくは73以下である。
なお、本発明において、加硫後の硬度は、後述の実施例に記載の方法により測定できる。
【0037】
加硫後の硬度は、カーボンブラックの含有量、硫黄の含有量、加硫促進剤の含有量、オイル等の軟化剤の含有量等の調整;粒子径の異なるカーボンブラックの使用;等の手法により調整できる。具体的には、カーボンブラック、硫黄や加硫促進剤の増量、軟化剤の減量、小粒子径のカーボンブラックの使用、等で加硫後の硬度を増加でき、そのような傾向に沿って調整可能である。
【0038】
キャップトレッド用ゴム組成物の加硫後の30℃で測定したtanδは、0.20〜0.35、好ましくは0.23〜0.32、より好ましくは0.25〜0.30である。0.20未満では、グリップ性能が不足する傾向がある。0.35を超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、加硫後の30℃で測定したtanδは、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0039】
加硫後のtanδは、カーボンブラックの含有量、硫黄の含有量の調整;粒子径の異なるカーボンブラックの使用;等の手法により調整できる。具体的には、カーボンブラックの減量、硫黄の増量、大粒子径のカーボンブラックの使用、等でtanδを低下でき、そのような傾向に沿って調整可能である。
【0040】
<通電ゴム用ゴム組成物>
通電ゴムは、トレッド部に埋設されその一部はタイヤ接地面に露出し、他の一部は導電性ゴムと連結しており空気入りタイヤの走行時に発生した静電気を効果的に接地面に放出する。通電ゴムの具体例は、本願
図1、特許第2944908号公報の
図1等に示されている。
【0041】
通電ゴム用ゴム組成物に使用できるゴム成分としては特に限定されず、前記と同様のものが挙げられる。なかでも、本発明の効果の点から、トレッドと同一成分を用いることが好ましい。従って、SBRが好ましく、SBRとBRを併用することがより好ましい。
【0042】
SBRとしては前記と同様のものを使用でき、好適なスチレン含有量も同様である。
【0043】
SBRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。該SBRの含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。SBRの含有量が上記範囲内であると、本発明の効果が好適に得られる。
【0044】
BRとしては前記と同様のものが挙げられる。
【0045】
BRを含有する場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。該BRの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。BRの含有量が上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0046】
通電ゴム用ゴム組成物は、窒素吸着比表面積が105m
2/g以上の微粒子カーボンブラックを含む。これにより、高硬度が確保され、本発明の効果が良好に得られる。このようなカーボンブラックとしては、ISAF、SAFなどが挙げられる。
【0047】
微粒子カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N
2SA)は、105m
2/g以上、好ましくは110m
2/g以上、より好ましくは120m
2/g以上である。下限未満では、硬度が低下したり、補強性が低く、サーキット走行時の耐久性が悪化するおそれがある。該N
2SAの上限は特に限定されないが、300m
2/g以下が好ましく、200m
2/g以下がより好ましい。上限を超えると、良好な分散が得られにくく、所望の性能が得られないおそれがある。
【0048】
微粒子カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、50質量部以上、好ましくは60質量部以上である。下限未満であると、通電性が低く、通電ゴム(ベースペン)としての役割を果たせないおそれがある。該含有量は、85質量部以下、好ましくは80質量部以下である。上限を超えると、ムーニー粘度を低く設計することが困難になる傾向がある。
【0049】
通電ゴム用ゴム組成物は、硫黄を含有する。硫黄としては前記と同様のものが挙げられる。
【0050】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1.8質量部以上、好ましくは1.9質量部以上である。1.8質量部未満であると、高硬度と低いムーニー粘度の両立が難しくなる傾向がある。該含有量は、3.0質量部以下、好ましくは2.5質量部以下、更に好ましくは2.3質量部以下である。3.0質量部を超えると、耐屈曲性が低下し、タイヤ走行時に通電ゴム自身が破壊してしまうおそれがある。
【0051】
通電ゴム用ゴム組成物は、加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤としては前記と同様のものが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0052】
加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは3.0質量部以下、更に好ましくは2.0質量部以下である。
【0053】
通電ゴム用ゴム組成物の加硫後の硬度は、68以上、好ましくは70以上である。68未満では、タイヤのコーナリングパワーを十分に確保できなくなりタイヤの運動性能(操縦安定性等)が悪化する傾向がある。該加硫後の硬度の上限が特に限定されないが、好ましくは78以下、より好ましくは75以下、更に好ましくは73以下である。
【0054】
更に、キャップトレッド用ゴム組成物の加硫後の硬度と、通電ゴム用ゴム組成物の加硫後の硬度との差は、2.0以内である。これにより、破壊現象の防止等の効果が得られる。該差は、好ましくは1.5以内、より好ましくは1.0以内である。
【0055】
加硫後の硬度は、カーボンブラックの含有量、硫黄の含有量、加硫促進剤の含有量、オイル等の軟化剤の含有量等の調整;粒子径の異なるカーボンブラックの使用;等の手法により調整できる。具体的には、カーボンブラック、硫黄や加硫促進剤の増量、軟化剤の減量、小粒子径のカーボンブラックの使用、等で加硫後の硬度を増加でき、そのような傾向に沿って調整可能である。
【0056】
キャップトレッド用、通電ゴム用ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、他の補強用充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、粘着付与剤、ワックスなどを適宜配合できる。
【0057】
キャップトレッド用、通電ゴム用ゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等で前記各成分を混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【0058】
本発明の空気入りタイヤは、キャップトレッド用、通電ゴム用ゴム組成物を用いて通常の方法で製造される。すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階で通電ゴム、トレッドの形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤを得る。
【0059】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等として好適に用いられる。本発明により得られる空気入りタイヤは、長期にわたって良好な接地性及び帯電防止性能を発揮できる。なお、高性能タイヤには、競技車両に使用する競技用タイヤ(レース用タイヤ)が含まれる。
【実施例】
【0060】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
(材料)
SBR1502:ジェイエスアール(株)製のSBR1502(スチレン含有量:23.5質量%)
SBR3830:旭化成(株)製のタフデン3830(スチレン含有量:33質量%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分37.5質量部含有)
BR:宇部興産(株)製のBR150B
カーボンブラックN220:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N
2SA:125m
2/g)
カーボンブラックN110:三菱化学(株)製のダイヤブラックN110(N
2SA:142m
2/g)、
カーボンブラックN330:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(N
2SA:75m
2/g)
シリカVN3:デグッサ社製のウルトラシルVN3(N
2SA:175m
2/g)
シランカップリング剤Si69:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAH−24
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
【0062】
<通電ゴム、トレッドゴムの調製>
表1〜2に示す配合成分のうち硫黄及び加硫促進剤を除いた成分を、密閉式バンバリーミキサーを用いて150℃で5分間混練した後、硫黄及び加硫促進剤を加えて、オープンロールを用いて80℃で3分間更に練り込み、未加硫の通電ゴム用ゴム組成物、トレッド用ゴム組成物を調製した。
また、各未加硫ゴム組成物を加硫し、加硫ゴム組成物を調製した。
【0063】
<試験用タイヤの作製>
表1〜2のゴム配合で調製したゴム組成物を表3に示す組合せでそれぞれ用い、通電ゴム、トレッドゴムに適用し、常法にて加硫成形し、
図1に示す構造を有するサイズ215/55R16の試験用タイヤを作製した。なお、通電ゴムの形状は、特許第2944908号公報に記載の形状とした。通電ゴムの幅は、2.0mmでタイヤ周方向に連続した構造のものを採用した(タイヤ周方向に1本)。
【0064】
作製した各未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤについて、以下の評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0065】
(ムーニー粘度)
JIS K6300に準じて、100℃における未加硫ゴム組成物(通電ゴム)のムーニー粘度を測定した。測定結果を、基準配合(比較配合1−1)を100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほど粘度が低く、押し出し通過性(押し出し加工性)が良好であることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(基準配合のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0066】
(硬度(25℃))
JIS K 6253−1:「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」に準じて、タイプAデュロメータを用いて、加硫ゴム組成物(通電ゴム、トレッドゴム)の25℃における硬度を測定した。数値が大きいほど硬度が高いことを示す。
【0067】
(tanδ(30℃))
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度30℃で、周波数10Hz、初期歪み10%及び動歪み2%の条件下で、加硫ゴム組成物(トレッドゴム)の損失正接(tanδ)を測定した。数値が小さいほど転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示す。
【0068】
(耐屈曲疲労性)
加硫ゴム組成物(通電ゴム)を用い、JIS K6260に基づいてサンプルを作製し、屈曲亀裂成長試験を行った。試験条件は、50万回繰り返してサンプルを屈曲させた後、クラックの状態を級数で評価した。級数が小さいほど耐屈曲疲労性が良好である。
【0069】
(トレッドゴム耐破壊性)
試験用タイヤについて、高速耐久ドラムテストの条件下において、280km/hで連続1時間走行し、トレッド部の損傷具合の外観を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
5:ゴムの破壊は見られない。
4:一部でゴム破壊が見られる。
3、2、1:この順で更にゴム破壊点が多くなる。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
【表3】
【0073】
表3から、キャップトレッドと、前記キャップトレッドの表面に露出するように配置された通電ゴム(ベースペンとも称する)とを備え、前記キャップトレッドが、所定成分を所定量配合し、かつ所定の硬度及びtanδを持つキャップトレッド用ゴム組成物、前記通電ゴムが、所定成分を所定量配合し、かつ所定の硬度及び該加硫後のキャップトレッド用ゴム組成物に対する所定範囲の硬度差を持つ通電ゴム用ゴム組成物からなる実施例のタイヤは、キャップトレッドの耐破壊性(ゴム破壊耐久性)、通電ゴムの押し出し通過性(ムーニー粘度)が両立されることが明らかとなった。一方、これらを満たさない比較例のタイヤは、性能が劣っていた。また、実施例のタイヤは、通電性能、低燃費性にも優れていた。