特許第6917345号(P6917345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6917345
(24)【登録日】2021年7月21日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】内燃機用燃料油組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/08 20060101AFI20210729BHJP
【FI】
   C10L1/08
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-128160(P2018-128160)
(22)【出願日】2018年7月5日
(65)【公開番号】特開2020-7426(P2020-7426A)
(43)【公開日】2020年1月16日
【審査請求日】2021年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貞憲
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−7615(JP,A)
【文献】 特開2015−74695(JP,A)
【文献】 特開2010−116496(JP,A)
【文献】 特開2019−123804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(d)をいずれも満足するパラフィン系炭化水素を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下の含有量で含み、下記(a)及び(b)をいずれも満足する残留炭素源を組成物全量基準で0.2容量%以上の含有量で含む、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(a)飽和分含有量が99.0容量%以上
(b)硫黄分含有量が0.01質量%以下
(c)曇り点が−50.0℃以下
(d)50℃における動粘度が5.00mm/s以上20.00mm/s以下
(a)ろ過時間の傾きが0.30以下
(b)10%残油の残留炭素分が10.0質量%以上
(1)硫黄分含有量が0.50質量%以下
(2)曇り点が−6.0℃以下
(3)50℃における動粘度が1.80mm/s以上3.60mm/s以下
(4)15℃における密度が0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下
(5)10%残油の残留炭素分が0.20質量%超0.60質量%以下
(6)セタン指数が43.0以上50.0以下
(7)ドライスラッジ量が3.0mg/100mL以下
【請求項2】
前記残留炭素源が、C重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油、分解重油及びエキストラクトから選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の内燃機用燃料油組成物。
【請求項3】
更に、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種の軽油留分を含む請求項1又は2に記載の内燃機用燃料油組成物。
【請求項4】
前記パラフィン系炭化水素、前記残留炭素源及び軽油留分を含み、該軽油留分が直留軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種である請求項3に記載の内燃機用燃料油組成物。
【請求項5】
下記(a)〜(d)をいずれも満足するパラフィン系炭化水素と、
下記(a)及び(b)をいずれも満足する残留炭素源と、
を該パラフィン系炭化水素の含有量を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下、該残留炭素源の含有量を組成物全量基準で0.2容量%以上となるように混合する、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(a)飽和分含有量が99.0容量%以上
(b)硫黄分含有量が0.01質量%以下
(c)曇り点が−50.0℃以下
(d)50℃における動粘度が5.00mm/s以上20.00mm/s以下
(a)ろ過時間の傾きが0.30以下
(b)10%残油の残留炭素分が10.0質量%以上
(1)硫黄分含有量が0.50質量%以下
(2)曇り点が−6.0℃以下
(3)50℃における動粘度が1.80mm/s以上3.60mm/s以下
(4)15℃における密度が0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下
(5)10%残油の残留炭素分が0.20質量%超0.60質量%以下
(6)セタン指数が43.0以上50.0以下
(7)ドライスラッジ量が3.0mg/100mL以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機用燃料油組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS K2205:2006の1種重油(以下、「A重油」とも称する。)、とりわけJIS K2205:2006の1種1号重油(以下「低硫黄A重油」とも称する。)は、灯油、軽油等と比べて単位体積当たりの発熱量が高く、燃料油使用量(体積)を低減することができ、またC重油(JIS K2205:2006の3種重油)と比べて硫黄分、窒素分、残留炭素分が少ないことから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機の燃料油として、またボイラ等の外燃機の燃料油として広く使用されている。
【0003】
船舶用の燃料油としては、ISO8217「Petroleum products−Fuels(class F)−Specification of marine fuels」を満足する燃料油等が知られている。この船舶用の燃料油は、燃料油フィルタの閉塞を生じる場合があるため、該フィルタの閉塞頻度を低減する手法として、潜在セジメント(Total sediment aged、ISO 10307−2)を0.10質量%以下とする手法、Total sediment by hot filtration(ISO 10307−1)を0.10質量%以下とする手法等が知られている。
また、A重油、低硫黄A重油については、燃料油フィルタの通油性を改善する方法として、例えば、特許文献1〜4に記載される手法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−298566号公報
【特許文献2】特開2004−091676号公報
【特許文献3】特開2001−049269号公報
【特許文献4】特開2007−262210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物を用いても、とりわけ船舶等のディーゼルエンジンに内燃機用燃料油組成物を用いる場合、通常使用時に燃料油フィルタの閉塞頻度が高くなるという問題が発生する傾向にあり、船舶内の燃料油タンク等で長期貯蔵した後に使用すると、閉塞頻度はより高くなる傾向にある。そのため、内燃機用燃料油組成物には、通常使用時の通油性(以下、「常温通油性能」とも称する。)と、長期貯蔵した後であっても常温通油性能を維持する貯蔵安定性能とが求められるようになっている。
【0006】
ところで、特に船舶等のディーゼルエンジンの用途においては、内燃機用燃料油組成物の使用環境は著しく変化することから、内燃機用燃料油組成物には、その環境の変化に対応することが求められる。中でも寒冷地において加温しなくてもワックス等が発生することなく使用可能な低温通油性能を有することが重要である。また、内燃機用燃料油組成物には、燃料油組成物として本来求められる、着火遅れ等がない燃焼性能、更には、近年の環境問題への注目の高まりに伴い、排ガス中の硫黄酸化物濃度を低減することで環境負荷を低減し得る環境性能も求められるようになっている。
しかしながら、従来のA重油やC重油、また上記の通油性を向上した内燃機用燃料油組成物は、常温通油性能、貯蔵安定性能、低温通油性能、燃焼性能及び環境性能の全てを十分に満足するものとはいえないものであり、これらの性能を同時に満足し得る内燃機用燃料油組成物の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち本発明は、下記の構成を有する内燃機用燃料油組成物及びその製造方法を提供するものである。
【0008】
[1]下記(a)〜(d)をいずれも満足するパラフィン系炭化水素を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下の含有量で含み、下記(a)及び(b)をいずれも満足する残留炭素源を組成物全量基準で0.2容量%以上の含有量で含む、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物。
(a)飽和分含有量が99.0容量%以上
(b)硫黄分含有量が0.01質量%以下
(c)曇り点が−50.0℃以下
(d)50℃における動粘度が5.00mm/s以上20.00mm/s以下
(a)ろ過時間の傾きが0.30以下
(b)10%残油の残留炭素分が10.0質量%以上
(1)硫黄分含有量が0.50質量%以下
(2)曇り点が−6.0℃以下
(3)50℃における動粘度が1.80mm/s以上3.60mm/s以下
(4)15℃における密度が0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下
(5)10%残油の残留炭素分が0.20質量%超0.60質量%以下
(6)セタン指数が43.0以上50.0以下
(7)ドライスラッジ量が3.0mg/100mL以下
[2]下記(a)〜(d)をいずれも満足するパラフィン系炭化水素と、
下記(a)及び(b)をいずれも満足する残留炭素源と、
を該パラフィン系炭化水素の含有量を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下、該残留炭素源の含有量を組成物全量基準で0.2容量%以上となるように混合する、下記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物の製造方法。
(a)飽和分含有量が99.0容量%以上
(b)硫黄分含有量が0.01質量%以下
(c)曇り点が−50.0℃以下
(d)50℃における動粘度が5.00mm/s以上20.00mm/s以下
(a)ろ過時間の傾きが0.30以下
(b)10%残油の残留炭素分が10.0質量%以上
(1)硫黄分含有量が0.50質量%以下
(2)曇り点が−6.0℃以下
(3)50℃における動粘度が1.80mm/s以上3.60mm/s以下
(4)15℃における密度が0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下
(5)10%残油の残留炭素分が0.20質量%超0.60質量%以下
(6)セタン指数が43.0以上50.0以下
(7)ドライスラッジ量が3.0mg/100mL以下
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、常温通油性能、貯蔵安定性能及び低温通油性能を兼ね備えた通油性能、燃焼性能及び環境性能に優れる内燃機用燃料油組成物、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[内燃機用燃料油組成物]
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る内燃機用燃料油組成物、及びその製造方法をさらに具体的に説明する。
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、(a)飽和分含有量が99.0容量%以上、(b)硫黄分含有量が0.01質量%以下、(c)曇り点が−50.0℃以下、及び(d)50℃における動粘度が5.00mm/s以上20.00mm/s以下をいずれも満足するパラフィン系炭化水素を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下の含有量で含み、(a)ろ過時間の傾きが0.30以下、及び(b)10%残油の残留炭素分が10.0質量%以上をいずれも満足する残留炭素源を組成物全量基準で0.2容量%以上で含む、(1)硫黄分含有量が0.50質量%以下、(2)曇り点が−6.0℃以下、(3)50℃における動粘度が1.80mm/s以上3.60mm/s以下、(4)15℃における密度が0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下、(5)10%残油の残留炭素分が0.20質量%超0.60質量%以下、(6)セタン指数が43.0以上50.0以下、及び(7)ドライスラッジ量が3.0mg/100mL以下をいずれも満足する燃料油組成物である。
【0011】
(パラフィン系炭化水素)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(a)〜(d)をいずれも満足する特定のパラフィン系炭化水素を、組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下の含有量で含むことを要する。パラフィン系炭化水素の含有量が1.0容量%未満であると、低温通油性能が得られにくくなり、寒冷地で使用する場合に加温が必要となる。一方、パラフィン系炭化水素の含有量が9.5容量%を超えると、優れた常温通油性能及び貯蔵安定性能が得られにくくなる。常温通油性能と貯蔵安定性能と低温通油性能とを兼ね備えた性能(以下、これらをまとめて「通油性能」と称することがある。)、燃焼性能及び環境性能を向上させる観点から、パラフィン系炭化水素の組成物全量基準の含有量は、好ましくは1.5容量%以上、より好ましくは2.0容量%以上、更に好ましくは3.0容量%以上、より更に好ましくは3.5容量%以上であり、上限として好ましくは9.0容量%以下、より好ましくは8.5容量%以下、更に好ましくは8.0容量%以下、より更に好ましくは7.5容量%以下である。
【0012】
以下、本実施形態で用いられるパラフィン系炭化水素が有する性能について説明する。
(a)飽和分含有量
パラフィン系炭化水素の飽和分含有量は、99.0容量%以上であることを要する。パラフィン系炭化水素の飽和分含有量が99.0容量%未満であると、特に低温通油性能が得られにくく、寒冷地で使用する場合に加温が必要となってしまう。通油性能を向上させ、また燃焼性能及び環境性能を向上させる観点から、好ましくは99.4容量%以上、より好ましくは99.9容量%以上、更に好ましくは100.0容量%である。本明細書において、飽和分含有量は、JPI−5S−49−2007に規定される、石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフィー法(High Performance Liquid Chromatography法)により測定される値である。
【0013】
(b)硫黄分含有量
パラフィン系炭化水素の硫黄分含有量は、0.01質量%以下であることを要する。硫黄分含有量が0.01質量%より大きいと、排ガス中の硫黄酸化物による環境負荷を低減しにくくなるため優れた環境性能が得られず、また排ガスの酸露点低下による煙道腐食が生じやすくなり、エンジンの安定運転が困難となる。優れた環境性能、エンジンの安定運転の観点から、また内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を0.50質量%以下とする調整のしやすさを考慮すると、硫黄分含有量は好ましくは0.005質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下である。
本明細書において、硫黄分含有量は、その含有量に応じて測定方法を選択して測定され、含有量が0.01〜5質量%の場合はJIS K 2541−4:2003(原油及び石油製品−硫黄分試験方法− 第4部:放射線式励起法)に準じて測定される値であり、含有量が5〜500質量ppm(0.0005〜0.05質量%)の場合はJIS K2541−7:2003(原油及び石油製品−硫黄分試験方法− 第7部:波長分散蛍光X線法)に準じて測定される値である。
【0014】
(c)曇り点
パラフィン系炭化水素の曇り点は、−50.0℃以下であることを要する。曇り点が−50.0℃よりも高いと、内燃機用燃料油組成物の曇り点を−6.0℃以下としにくくなり、優れた通油性能が得られにくくなる。
本明細書において、曇り点は、JIS K2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに曇り点試験方法)に準じて測定される値である。
【0015】
(d)50℃における動粘度
パラフィン系炭化水素の50℃における動粘度は、5.00mm/s以上20.00mm/s以下であることを要する。50℃における動粘度が20.00mm/sより大きいと、内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度の上限を3.60mm/s以下にしにくくなり、また優れた低温通油性能が得られにくくなる。また、50℃における動粘度が5.00mm/s未満であると、既存の設備(ポンプ、流量計)等がそのまま使用しにくくなり、また内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度の下限を1.80mm/s以上としにくくなる。内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を所定の範囲としやすくし、低温通油性能を向上させ、かつ適度な潤滑性を得る観点から、パラフィン系炭化水素の50℃における動粘度は、好ましくは6.00mm/s以上、より好ましくは7.00mm/s以上であり、上限として好ましくは18.00mm/s以下、より好ましくは15.00mm/s以下である。
本明細書において、50℃における動粘度は、JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定される値である。
【0016】
本実施形態で用いられるパラフィン系炭化水素は、上記(a)〜(d)の性状及び組成を有していれば特に制限はなく、ノルマルパラフィン系炭化水素、イソパラフィン系炭化水素のいずれであってもよく、またこれらを混合したものであってもよい。通油性能、環境性能及び燃焼性能を向上させることを考慮すると、パラフィン系炭化水素としては、イソパラフィン系炭化水素が好ましい。
【0017】
また、本実施形態で用いられるパラフィン系炭化水素は、上記(a)〜(d)の性状及び組成に加えて、更に、以下(e)〜(k)の性状及び組成を有することができる。
(e)引火点
パラフィン系炭化水素の引火点は、100.0℃以上であることが好ましい。引火点が100.0℃以上であると、取扱い上の安全性が向上し、またエンジンの安定運転がより容易となる。取扱い上の安全性、エンジンの安定運転の観点から、パラフィン系炭化水素の引火点は、好ましくは120.0℃、より好ましくは140.0℃以上である。
本明細書において、引火点は、JIS K 2265−3:2007(原油及び石油製品−引火点試験方法− 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定される値である。
【0018】
(f)流動点
パラフィン系炭化水素の流動点は、好ましくは−50.0℃以下である。流動点が上記範囲内であると、より優れた低温流動性能が得られ、寒冷地における使用でも加温が不要となる。
本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定される値である。
【0019】
(g)蒸留性状
パラフィン系炭化水素の蒸留性状としては、10%容量留出温度が好ましくは270℃以上、より好ましくは285℃以上であり、50%容量留出温度が好ましくは290℃以上、より好ましくは300℃以上であり、また90%容量留出温度が好ましくは380℃以下、より好ましくは365℃以下である。10%容量留出温度、50%容量周留出温度及び90%容量留出温度が上記範囲内であると、燃焼性能が向上し、取扱い上の安全性が向上し、エンジンの安定運転が容易となる。
本明細書において、蒸留性状の初留点及び終点は、JIS K2254:1998(石油製品−蒸留試験方法−)に準じて測定される値である。
【0020】
(h)15℃における密度
パラフィン系炭化水素の15℃における密度は、好ましくは0.9000g/cm以下、より好ましくは0.8800g/cm以下、更に好ましくは0.8500g/cm以下であり、下限としては特に制限はないが、通常0.7900g/cm以上、好ましくは0.8000g/cm以上である。15℃における密度が上記範囲内であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下としやすくなり、燃焼性能を向上させることができる。
本明細書において、15℃における密度は、JIS K 2249−1:2011(原油及び石油製品−密度の求め方− 第1部:振動法)に準じて測定される値である。
【0021】
(i)総発熱量
パラフィン系炭化水素の総発熱量は、好ましくは37,000(J/mL)以上、より好ましくは37,200(J/mL)以上、更に好ましくは37,500(J/mL)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、燃料油組成物としての総発熱量を向上させることができるので、燃料油組成物の使用量をより低減することができる。
本明細書において、総発熱量は、JIS K2279:2003(原油及び石油製品−発熱量試験方法及び計算による推定方法−)に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるA重油の場合の計算式により推定)される値である。
【0022】
(j)10%残油の残留炭素分
パラフィン系炭化水素の10%残油の残留炭素分は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。10%残油の残留炭素分が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の10%残油の残留炭素分を0.20質量%超0.60質量%以下としやすくなり、また低温通油性能及び燃焼性能の維持が容易となり、燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、エンジンの安定運転がより容易となる。
明細書において、10%残油の残留炭素分は、JIS K 2270−1:2009(原油及び石油製品−残留炭素分の求め方− 第1部:コンラドソン法)に準じ、附属書Aに準拠して調製した10%残油を用いて測定される値である。
【0023】
(k)セタン指数
パラフィン系炭化水素のセタン指数は、好ましくは50.0以上、より好ましくは60.0以上、更に好ましくは70.0以上であり、上限として好ましくは85.0以下、より好ましくは80.0以下、更に好ましくは75.0以下である。セタン指数が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物のセタン指数を43.0以上50.0以下としやすくなり、また燃焼性能が向上する。また、これと同様の観点から、セタン価は、好ましくは15.0以上、より好ましくは20.0以上、更に好ましくは25.0以上であり、上限として好ましくは45.0以下、より好ましくは40.0以下、更に好ましくは35.0以下である。
本明細書において、セタン指数は、全漁連漁船用燃料油規格Z.G.S T−1020に規定の全漁連セタン指数算出法に基づき測定し、算出される値である。また、セタン価は、JIS K 2280−4:2013(石油製品−オクタン価,セタン価及びセタン指数の求め方−第4部:セタン価)に準じて求められる値である。
【0024】
(残留炭素源)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、下記(a)及び(b)をいずれも満足する特定の残留炭素源を、組成物全量基準で0.2容量%以上の含有量で含むことを要する。残留炭素源の含有量が0.2容量%未満であると、優れた低温通油性能及び貯蔵安定性能が得られない。優れた燃焼性能及び環境性能を得つつ、通油性能を向上させる観点から、残留炭素源の組成物全量基準の含有量は、好ましくは0.5容量%以上、より好ましくは1.0容量%以上、更に好ましくは1.5容量%以上であり、上限として好ましくは5.0容量%以下、より好ましくは4.0容量%以下、更に好ましくは3.0容量%以下である。
【0025】
残留炭素源としては、例えば、以下のC重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油及び分解重油等の重油留分、エキストラクトが好ましく挙げられる。これらの留分を用いることにより、下記(1)〜(7)、更には(8)及び(9)の内燃機用燃料油組成物の性状及び組成が得られやすくなり、通油性能、燃焼性能及び環境性能を向上させることができる。通油性能及び燃焼性能を考慮すると、直脱重油、エキストラクトが好ましく、エキストラクトがより好ましい。残留炭素源としては、以下の留分を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
・C重油
・常圧蒸留残渣油(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる残渣油)
・減圧蒸留残渣油(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる残渣油)
・直脱重油(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる重油)
・分解重油(直脱重油を流動接触分解して得られる重油分)
・エキストラクト(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留して得られる中質、重質の減圧蒸留留出油、減圧蒸留残渣油の脱歴油(ブライトストック油)をフルフラール等で留出分離して得られる高芳香族分の抽出油)
【0026】
(残留炭素源が有する性状及び組成)
本実施形態で用いられる残留炭素源の上記重油留分、エキストラクトが有する性状及び組成としては、下記の(a)ろ過時間の傾き、及び(b)10%残油の残留炭素分の性状及び組成を有することを要する。なお、本実施形態において、種類として上記に例示した重油留分、エキストラクトに分類されるものであっても、(a)及び(b)の性状及び組成を有しないものは、本実施形態で用いられる残留炭素源には該当しない。
【0027】
(a)残留炭素源のろ過時間の傾きは、0.30以下である。0.30より大きくなると、優れた常温通油性能及び貯蔵安定性能が得られなくなる。優れた常温通油性能及び貯蔵安定性能が得られない。優れた燃焼性能及び環境性能を得つつ、通油性能を向上させる観点から、好ましくは0.25以下であり、残留炭素源がエキストラクトの場合は特に、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下、更に好ましくは0.04以下である。ろ過時間の傾きの測定方法については、実施例において説明する。
(b)残留炭素源の10%残油の残留炭素分は、10.0質量%以上である。10.0質量%未満であると、低温通油性能が低下する。内燃機用燃料油組成物の10%残油の残留炭素分を0.20質量%超0.60質量%以下としやすく、低温通油性能及び燃焼性能の維持が容易となり、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、エンジンの安定運転がより容易とする観点から、10%残油の残留炭素分は、好ましくは13.0質量%以上であり、上限として好ましくは35.0質量%以下、より好ましくは25.0質量%以下、更に好ましくは15.0質量%以下である。
【0028】
また、本実施形態で用いられる残留炭素源が有する性状及び組成としては、上記性状に加えて、更に以下(c)〜(i)等の性状及び組成が好ましく挙げられる。
(c)残留炭素源のアスファルテン分は、3.0質量%以下である。3.0質量%より大きくなると、優れた通油性能が得られにくくなる。通油性能とともに、燃焼性能及び環境性能を向上させる観点から、好ましくは1.5質量%以下であり、残留炭素源がエキストラクトの場合は特に、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。本明細書において、アスファルテン分は、IP−469(国際標準試験方法(IP Test Methods))に規定される、TLC/FID法により測定される値である。
(d)残留炭素源の芳香族分含有量は、好ましくは35.0質量%以上、より好ましくは45.0質量%以上、更に好ましくは50.0質量%以上であり、残留炭素源がエキストラクトの場合特に、好ましくは65.0質量%以上、より好ましくは70.0質量%以上である。芳香族分含有量が上記範囲内であると、スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞をより抑制するので、より優れた通油性能が得られる。本明細書において、残留炭素源の芳香族分含有量は、IP−469(国際標準試験方法(IP Test Methods))に規定される、TLC/FID法により測定される、1環の芳香族、2環の芳香族及び3環以上の芳香族の合計量である。
(e)残留炭素源の硫黄分含有量は、好ましくは1.20質量%以下、より好ましくは0.60質量%、更に好ましくは0.50質量%以下である。硫黄分含有量は、環境性能を考慮すると少なければ少ないほど好ましく、また上記範囲内であると、本実施形態の内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を0.50質量%以下としやすく、より優れた環境性能が得られ、エンジンのより安定した運転が可能となる。
【0029】
(f)残留炭素源の50℃における動粘度は、好ましくは5.00mm/s以上、より好ましくは10.00mm/s以上であり、上限として好ましくは150.00mm/s以下、より好ましくは100.00mm/s以下である。残留炭素源がエキストラクトの場合は特に、好ましくは40.00mm/s以下、より好ましくは25.00mm/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を1.80mm/s以上3.60mm/s以下としやすく、低温通油性能を向上させ、かつ適度な潤滑性が得られる。
(g)残留炭素源の引火点は、好ましくは60.0℃以上、より好ましくは70.0℃以上である。引火点が上記範囲内であると、取扱い上の安全性が向上し、エンジンのより安定的な運転が可能となる。
(h)残留炭素源の流動点は、好ましくは35.0℃以下、より好ましくは30.0℃以下であり、残留炭素源がエキストラクトの場合は特に、好ましくは0.0℃以下、より好ましくは−5.0℃以下である。流動点が上記範囲内であると、より優れた低温流動性能が得られ、寒冷地における使用でも加温が不要となる。
(i)残留炭素源の15℃における密度は、0.8800g/cm以上が好ましく、0.9000g/cm以上がより好ましく、また上限としては0.9830g/cm以下が好ましい。15℃における密度が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下としやすく、燃焼性能を向上させることができる。
【0030】
(内燃機用燃料油組成物の性状)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記のパラフィン系炭化水素を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下の含有量で含み、上記の残留炭素源を組成物全量基準で0.20容量%以上の含有量で含み、かつ下記(1)〜(7)の性状及び組成を有する。以下、本実施形態の内燃機用燃料油組成物が有する(1)〜(7)の性状及び組成について説明する。
【0031】
(1)硫黄分含有量
内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量は、組成物全量基準で、0.50質量%以下であることを要する。硫黄分含有量が0.50質量%より大きいと、排ガス中の硫黄酸化物による環境負荷を低減できないため優れた環境性能が得られず、また排ガスの酸露点低下による煙道腐食が生じやすくなり、エンジンの安定運転が困難となる。優れた環境性能、エンジンの安定運転の観点から、硫黄分含有率は好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下である。
【0032】
(2)曇り点
内燃機用燃料油組成物の曇り点は、−6.0℃以下であることを要する。曇り点が−6.0℃よりも高いと、優れた通油性能が得られにくくなる。通油性能を向上させる観点から、好ましくは−7.0℃以下、より好ましくは−8.0℃以下、更に好ましくは−9.0℃以下である。
【0033】
(3)50℃における動粘度
内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度は、1.80mm/s以上3.60mm/s以下であることを要する。50℃における動粘度が3.60mm/sより大きいと、優れた燃焼性能が得られず、また1.80mm/s未満であると、既存の設備(ポンプ、流量計)等がそのまま使用しにくくなる。燃焼性能を向上させ、かつ適度な潤滑性を得る観点から、内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度は、好ましくは2.00mm/s以上、より好ましくは2.25mm/s以上、更に好ましくは2.50mm/s以上であり、上限として好ましくは3.50mm/s以下、より好ましくは3.25mm/s以下、更に好ましくは3.00mm/s以下である。
【0034】
(4)15℃における密度
内燃機用燃料油組成物の15℃における密度は、0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下であることを要する。15℃における密度が0.8610g/cm未満であると、発熱量の低下が発生し易くなり、また0.8800g/cmより大きいと、燃焼性能が低下する。燃焼性能を向上させ、総発熱量を向上させて、使用量をより低減させる観点から、内燃機用燃料油組成物の15℃における密度は、好ましくは0.8640g/cm以上、より好ましくは0.8680g/cm以上、更に好ましくは0.8715g/cm以上であり、上限として好ましくは0.8780g/cm以下、より好ましくは0.8760g/cm以下、更に好ましくは0.8740g/cm以下である。
【0035】
(5)10%残油の残留炭素分
内燃機用燃料油組成物の10%残油の残留炭素分は、0.20質量%超0.60質量%以下であることを要する。10%残油の残留炭素分が0.60質量%以下にないと、燃焼性能が低下する。また、下限値を0.20質量%超とすることで、税法上のメリットがある。燃焼性能の維持を容易なものとし、かつ燃焼不良による煤発生の低減効果の向上によりエンジンの安定運転をより容易なものとする観点から、内燃機用燃料油組成物の10%残油の残留炭素分は、好ましくは0.45質量%以下、より好ましくは0.35質量%以下である。
【0036】
(6)セタン指数
内燃機用燃料油組成物のセタン指数は、43.0以上50.0以下であることを要する。セタン指数が43.0未満であると着火遅れ等が生じやすくなり燃焼性能が低下し、50.0より大きいと芳香族分の低下等の組成変化に伴う常温通油性が低下し、通油性能が低下する。通油性能、燃焼性能を向上させる観点から、内燃機用燃料油組成物のセタン指数は、好ましくは43.5以上、より好ましくは44.0以上であり、上限として好ましくは48.0以下、より好ましくは46.5以下、更に好ましくは45.5以下、より更に好ましくは45.0以下である。
【0037】
(7)ドライスラッジ量
内燃機用燃料油組成物のドライスラッジ量は、3.0mg/100mL以下であることを要する。ドライスラッジ量が3.0mg/100mLより大きいと、特に常温通油性能が低下し、優れた通油性能が得られなくなる。通油性能の向上の観点から、内燃機用燃料油組成物のドライスラッジ量は、好ましくは2.0mg/100mL以下、より好ましくは1.0mg/100mL以下である。
本明細書において、ドライスラッジ量は、全漁連漁船用燃料油規格Z.G.S T−1010に規定の全漁連A重油ドライスラッジ測定法に基づき測定される値である。
【0038】
また、本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)〜(7)の性状及び組成に加えて、更に以下(8)及び(9)の性状を有することができる。
(8)引火点
内燃機用燃料油組成物の引火点は、好ましくは60.0℃以上、より好ましくは70.0℃以上、更に好ましくは75.0℃以上である。引火点が上記範囲のように高くなるほど、取扱い上の安全性が向上する。
【0039】
(9)流動点
内燃機用燃料油組成物の流動点は、好ましくは−5.0℃以下、より好ましくは−10.0℃以下、更に好ましくは−12.5℃以下である。流動点が上記範囲内であると、より優れた低温流動性能が得られ、寒冷地における使用でも加温が不要となる。
【0040】
(基材)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記のパラフィン系炭化水素、残留炭素源の他、例えば、以下の各種軽油留分を基材として含有することができる。
【0041】
(軽油留分)
軽油留分としては、例えば、以下の直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分が好ましく挙げられる。これらの留分を用いることにより、上記(1)〜(7)、更には(8)及び(9)の性状及び組成が得られやすくなり、通油性能、燃焼性能及び環境性能を向上させることができる。通油性能(特に常温通油性能及び低温通油性能)を考慮すると、直留軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留分がより好ましく、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分、直脱軽油留分が更に好ましく、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分がより更に好ましい。軽油留分としては、以下の留分を単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
・直留軽油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる軽油留分)
・減圧軽油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる軽油留分)
・脱硫軽油留分(直留軽油留分及び/又は減圧軽油留分を脱硫して得られる軽油留分
・分解軽油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を流動接触分解して得られる軽油留分)
・脱硫分解軽油留分(分解軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・直脱軽油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫処理して得られる軽油留分)
【0042】
(軽油留分が有する性状)
軽油留分が有する性状としては、下記の15℃における密度、50℃における動粘度、硫黄分含有量、及び芳香族分含有量の性状及び組成を有していることが好ましい。
軽油留分の15℃における密度は、0.8200g/cm以上が好ましく、0.8300g/cm以上がより好ましく、0.8350g/cm以上が更に好ましく、また上限としては0.9400g/cm以下が好ましい。また、特に分解軽油留分、脱硫分解軽油留分については、好ましくは0.900g/cm以上、より好ましくは0.9100g/cm以上、更に好ましくは0.9300g/cm以上である。15℃における密度が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の15℃における密度を0.8610g/cm以上0.8800g/cm以下としやすく、燃焼性能を向上させることができる。
【0043】
軽油留分の50℃における動粘度は、3.40mm/s以下が好ましく、3.20mm/s以下がより好ましく、3.10mm/s以下が更に好ましく、下限としては1.80mm/s以上が好ましい。50℃における動粘度が上記範囲内であると、特に内燃機用燃料油組成物の50℃における動粘度を1.80mm/s以上3.60mm/s以下としやすく、低温通油性能を向上させ、かつ適度な潤滑性が得られる。
【0044】
軽油留分の硫黄分含有量は、環境性能を考慮すると少なければ少ないほど好ましく、通常1.50質量%以下であればよく、上記直留軽油留分以外の軽油留分については、好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.40質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下である。硫黄分含有量が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の硫黄分含有量を0.50質量%以下としやすく、より優れた環境性能が得られ、またエンジンのより安定した運転が可能となる。
【0045】
軽油留分の芳香族分含有量は、好ましくは15.0容量%以上、より好ましくは20.0容量%以上、更に好ましくは30.0容量%以上である。また、特に分解軽油留分、脱硫分解軽油留分については、好ましくは60.0容量%以上、より好ましくは65.0容量%以上である。芳香族分含有量が上記範囲内であると、スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞をより抑制するので、より優れた通油性能が得られる。本明細書において、軽油留分の芳香族分含有量は、JPI−5S−49−2007に規定される、石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフィー法(High Performance Liquid Chromatography法)により測定される、1環の芳香族、2環の芳香族及び3環以上の芳香族の合計量である。
【0046】
また、本実施形態で用いられる軽油留分が有する性状としては、上記性状に加えて、更に下記の曇り点、引火点、流動点、蒸留性状、総発熱量、セタン指数及びセタン価等の性状及び組成が好ましく挙げられる。
曇り点は、好ましくは0.0℃以下、より好ましくは−1.0℃以下である。曇り点が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の曇り点は、−6.0℃以下となり易くなり、通油性能が向上する。
引火点は、好ましくは50.0℃以上、より好ましくは60.0℃以上、更に好ましくは65.0℃以上である。引火点が上記範囲内であると、取扱い上の安全性が向上する。
流動点は、好ましくは0.0℃以下、より好ましくは−5.0℃以下、更に好ましくは−12.5℃以下である。流動点が上記範囲内であると、より優れた低温流動性能が得られ、寒冷地における使用でも加温が不要となる。
【0047】
蒸留性状としては、10%容量留出温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上であり、50%容量留出温度が好ましくは250℃以上、より好ましくは265℃以上であり、また90%容量留出温度が好ましくは370℃以下、より好ましくは360℃以下である。10%容量留出温度、50%容量留出温度及び90%容量留出温度が上記範囲内であると、燃焼性能が向上し、また引火点を上記範囲内としやすく、取扱い上の安全性が向上する。
総発熱量は、好ましくは37,000(J/mL)以上、より好ましくは37,500(J/mL)以上、更に好ましくは38,000(J/mL)以上である。総発熱量が上記範囲内であると、内燃機用燃料油組成物の総発熱量を向上させて、内燃機用燃料油組成物の使用量をより低減することができる。
10%残油の残留炭素分は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以下である。10%残油の残留炭素分が上記範囲内であると、燃焼性能の維持が容易となり、また燃焼不良による煤発生の低減効果が向上するため、エンジンの安定運転がより容易となる。
セタン指数は、好ましくは15.0以上、より好ましくは20.0以上であり、上限として好ましくは70.0以下、より好ましくは65.0以下である。セタン指数が上記範囲内であると、燃焼性能が向上する。また、これと同様の観点から、セタン価は、好ましくは15.0以上、より好ましくは20.0以上であり、上限として好ましくは70.0以下、より好ましくは65.0以下である。
【0048】
本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、上記(1)〜(7)、更には(8)及び(9)の性状及び組成を満足するように、上記パラフィン系炭化水素と、残留炭素分(重油留分及びエキストラクト)と、その他所望に応じて上記軽油留分とを、任意の含有量で含有させて調製することができる。この場合、残留炭素源として上記のC重油、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油、分解重油等の重油留分及びエキストラクトから選ばれる少なくとも一種を用いることができ、また軽油留分として上記の直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。また、本実施形態においては、上記パラフィン系炭化水素と、残留炭素分と、軽油留分とを組み合わせて用いることが、上記(1)〜(7)、更には(8)及び(9)の性状及び組成を満足させやすいため好ましい。
【0049】
本実施形態において、上記軽油留分の含有量は、得られる内燃機用燃料油組成物が上記(1)〜(7)の性状及び組成を満足するように適宜調整すればよく、特に制限はなく、より優れた通油性能、燃焼性能及び環境性能を得る観点から、好ましくは40.0容量%以上、より好ましくは60.0容量%以上、更に好ましくは80.0容量%以上であり、上限として好ましくは99.0容量%以下、より好ましくは98.0容量%以下、更に好ましくは95.0容量%以下である。
【0050】
(その他の添加剤)
本実施形態の内燃機用燃料油組成物には、上述の各性状及び組成を維持しうる範囲で、必要に応じ、流動点降下剤、燃焼促進剤、清浄剤、スラッジ分散剤等の各種添加剤を適宜選択して配合することができる。
【0051】
[内燃機用燃料油組成物の製造方法]
本実施形態の内燃機用燃料油組成物の製造方法は、上記パラフィン系炭化水素と、上記残留炭素源と、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、分解軽油留分、脱硫分解軽油留分及び直脱軽油留分から選ばれる少なくとも一種の軽油留分と、を該パラフィン系炭化水素の含有量を組成物全量基準で1.0容量%以上9.5容量%以下、該残留炭素源の含有量を組成物全量基準で0.2容量%以上となるように混合する、上記(1)〜(7)をいずれも満足する内燃機用燃料油組成物を製造する方法である。本実施形態の内燃機用燃料油組成物は、例えば、上記の本実施形態の内燃機用燃料油組成物の製造方法によって製造することができる。
本実施形態の製造方法において、パラフィン系炭化水素、各残留炭素源、各軽油留分、及び内燃機用燃料油組成物が有する(1)〜(7)の性状及び組成は、上記内燃機用燃料油組成物について説明したものと同じである。また、本実施形態の製造方法において、例えば内燃機用燃料油組成物が好ましく有する上記(8)及び(9)、各成分の含有量等の好ましい態様も、上記内燃機用燃料油組成物について説明したものと同じである。
【0052】
本実施形態の製造方法において、パラフィン系炭化水素、残留炭素源、及び軽油留分の含有量は、上記内燃機用燃料油組成物におけるこれらの成分の含有量として説明したものと同じである。上記パラフィン系炭化水素の組成物全量基準の含有量を1.0容量%以上9.5容量%以下とし、上記残留炭素源の組成物全量基準の含有量を0.2容量%以上とし、また軽油留分を上記例示のものから選択し、またこれらの成分の含有量を上記範囲内とすると、内燃機用燃料油組成物の性状及び組成として、上記(1)〜(7)、更には(8)及び(9)の性状及び組成が得られやすくなる。
【実施例】
【0053】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0054】
(基材の性状及び組成の測定)
各実施例及び比較例で用いたパラフィン系炭化水素、残留炭素源、基材の性状及び組成について、以下の方法により測定した。
(a)、(c)及び(d)飽和分含有量等:パラフィン系炭化水素及び軽油留分の飽和分含有量(オレフィン分、及び芳香族分(1環芳香族分、2環芳香族分、3環以上の芳香族分)含有量)は、JPI−5S−49−2007に規定される、高速液体クロマトグラフィー法により測定し、残留炭素源の飽和分含有量(芳香族分含有量、レジン分含有量及びアスファルテン分含有量)は、IP−469(国際標準試験方法(IP Test Methods))に規定される、TLC/FID法(薄膜クロマトグラフ−水素炎イオン化検出法)により測定した。
(b)及び(e)硫黄分含有量:JIS K 2541−4:2003(第4部)又はJIS K2541−7:2003(第7部)に準じて測定した。
(c)曇り点:JIS K2269:1987に準じて測定した。
(d)及び(f)50℃における動粘度:JIS K 2283:2000に準じて測定した。
(e)及び(g)引火点:JIS K 2265−3:2007(第3部)に準じて測定した。
(f)及び(h)流動点:JIS K 2269:1987に準じて測定した。
(g)蒸留性状:JIS K2254:1998に準じて測定した。
(h)及び(i)15℃における密度:JIS K 2249−1:2011(第1部)に準じて測定した。
(i)総発熱量:パラフィン系炭化水素、軽油留分については、JIS K2279:2003に準じて測定し、推定(「6.総発熱量推定方法、6.3 e)1)」に規定されるA重油の場合の計算式により推定)した。
(j)及び(b)10%残油の残留炭素分:JIS K 2270−1:2009(第1部)に準じ、附属書Aに準拠して調製した10%残油を用いて測定した。
(k)セタン指数及びセタン価:セタン指数は、全漁連漁船用燃料油規格Z.G.S T−1020に規定の全漁連セタン指数算出法に基づき測定し、算出した。セタン価は、JIS K 2280−4:2013(石油製品−オクタン価,セタン価及びセタン指数の求め方−第4部:セタン価)に準じて測定し、求めた。
【0055】
(a)残留炭素源のろ過時間の傾きの測定
「JIS K2601:1998−原油試験方法− 14.水でい分試験方法 14.2水でい分試験器」(以下、水でい分試験器)で使用される目盛試験管3本に、各々100mLの標線まで採取した。その後、水でい分試験器で使用される遠心分離機を用い、55℃、相対遠心力600の条件で55分間遠心分離を行った。次に、50mLビーカーを3個用意し、遠心分離をかけた目盛試験管3本の試料の上部50mLを、各50mLビーカーに分取した。分取後のビーカーを0.1mg単位で秤量し、秤量した質量をM(g)とした。そして、85±1℃に保った恒温槽で、分取した試料を15分間加熱した。
【0056】
JPI−5S−60−2000の実在セジメント試験方法に定めるろ過装置(以下、ろ過装置)に、細孔20〜25μmのろ紙(Whatman No.4(55mmφ))を置いた。ろ紙は、110℃の乾燥機で20分間、予め乾燥させておいた。さらに上部漏斗を重ね、試料の漏れ込みが無いよう固定した。この際、直径28mmの孔を開けたパッキンを重ね、ろ過面の直径を28mmに調節した。その後、減圧瓶の他端には、排気速度12L/分で吸引できる真空ポンプを取り付けた。また、上部漏斗も試料と同様に85±1℃となるよう加熱した。
【0057】
次に、加熱した試料のうち1つ目を、漏斗内壁に試料がつかないようにろ紙中央に注ぎ込んだ。ろ紙を注ぎ始めてから1分後に真空ポンプを起動させ、ろ過を開始した。ろ過開始時から、試料がろ過されろ紙が全面露出(内径28mmのろ過面部のみでよい)までに要した時間を測定し、測定したろ過に要した時間をt(秒)とした。また、使用後のビーカーを秤量し、秤量した質量をM(g)とした。
【0058】
次に、真空ポンプ停止後、2つ目、3つ目の試料に対し、工程Dの操作を繰り返し実施した。この間は、試験機取り外しや機器洗浄など、測定条件が変わる動作をしなかった。また、ろ紙の閉塞によって試料がろ過されなくなった場合は、ろ過作業を終了し次工程に進んだ。具体的には、ろ過を開始してから6分経過してもろ過が完了しない場合、ろ過作業を終了した。ろ紙が閉塞した場合は、残試料をトルエンで溶解しピペット等で取り除いた。そして、漏斗及びろ紙をn−ヘプタンで洗浄後、上部漏斗を取り外し、ろ紙の縁を確認した。ろ紙の縁まで着色していたら、試料が漏れているため、再試験を行った。
【0059】
下記式(1)より、それぞれの測定回数の内燃機用燃料油組成物の単位体積当たりのろ過時間を算出した。
=t/(M/d) (1)
上記式(1)において、nは測定回数であり、3回である。また、Tはn回目の測定のろ過に要した時間から算出した内燃機用燃料油組成物単位体積当たりのろ過時間(秒/cm)、tはn回目の測定のろ過に要した時間(秒)、Mはろ過した内燃機用燃料油組成物の質量(M−M)(g)、dは15℃における内燃機用燃料油組成物の密度(g/cm)である。なお、ろ紙の閉塞によりろ過できなかった場合は、「計算不可」とした。そして、縦軸を内燃機用燃料油の組成物単位体積当たりのろ過時間とし、横軸をろ過に要した時間の測定回数としてプロットした点から、最小二乗法で近似直線の傾きを算出し、ろ過時間の傾きを算出した。
【0060】
(内燃機用燃料油組成物の性状及び組成の測定)
各実施例及び比較例の燃料油組成物の性状及び組成について、以下の方法により測定した。
(1)硫黄分含有量:JIS K 2541−4:2003(第4部)又はJIS K 2541−7:2003(第7部)に準じて測定した。
(2)曇り点:JIS K2269:1987に準じて測定した。
(3)50℃における動粘度:JIS K 2283:2000に準じて測定した。
(4)15℃における密度:JIS K 2249−1:2011(第1部)に準じて測定した。
(5)10%残油の残留炭素分:JIS K 2270−1:2009(第1部)に準じ、附属書Aに準拠して調製した10%残油を用いて測定した。
(6)セタン指数:全漁連漁船用燃料油規格Z.G.S T−1020に規定の全漁連セタン指数算出法に基づき測定し、算出した。
(7)ドライスラッジ量:全漁連漁船用燃料油規格Z.G.S T−1010に規定の全漁連A重油ドライスラッジ測定法に基づき測定し、算出した。
(8)引火点:JIS K 2265−3:2007(第3部)に準じて測定した。
(9)流動点:JIS K 2269:1987に準じて測定した。
【0061】
(内燃機用燃料油組成物の性能評価)
各実施例及び比較例の燃料油組成物について、以下の方法に基づき性能評価を行った。
【0062】
1.通油性能(常温通油性能)の評価
各実施例及び比較例の燃料油組成物について、特開2007−197512号公報に記載される通油性試験方法を行い、10分間の通油量を以下の基準で評価した。本評価において、B評価以上であれば合格である。
A:通油量は1.00L以上であった。
B:通油量は0.60L以上1.00L未満であった。
C:通油量は0.60L未満であった。
2.通油性能(貯蔵安定性能)の評価
各実施例及び比較例の燃料油組成物の3Lを評価試料とし、これを、ブリキ製の4L缶の上部に開放部(直径:32,5mmの円形)を設けて空気の流通を可能にした容器に採取し、90日間、常温で保管した。保管後の評価試料について、上記「1.通油性能(常温通油性能)の評価」と同じ方法及び基準で評価を行った。本評価において、B評価以上であれば合格である。
3.通油性能(低温通油性能)の評価
各実施例及び比較例の燃料油組成物の20gを評価試料とし、ろ過助剤(低温流動性向上剤、「Infineum R240(型番)」、インフィニアムジャパン社製)を200質量ppm添加し、溶解させた後、−10℃まで急冷して、30分保持したものを、テフロン(登録商標)フィルタ(目開き:10μm)で減圧ろ過し、該フィルタ上に残った油分をアセトン40mLで4回(計160mL)洗浄し、ノルマルへキサン300mLでワックス分を溶解し、回収した。ノルマルへキサンを蒸発し、除去した後、105〜110℃で乾燥したものを、秤量し、評価試料の重さ20gで割った値をワックス析出率とし、以下の基準で評価した。本評価において、B評価以上であれば合格である。
A:ワックス析出率が0.20質量%以下となった。
B:ワックス析出率が0.20質量%超0.25質量%以下となった。
C:ワックス析出率が0.25質量%超となった。
【0063】
(燃焼性能)
各実施例及び比較例の燃料油組成物のセタン価について、以下の基準で評価した。本評価において、A評価であれば合格である。
A:セタン価が40.0以上であった。
C:セタン価が40.0未満であった。
【0064】
(環境性能)
各実施例及び比較例の燃料油組成物の硫黄分含有量について、以下の基準で評価した。本評価において、B評価以上であれば合格である。
A:硫黄分含有量が0.30質量%以下であった。
B:硫黄分含有量が0.30質量%超0.50質量%以下であった。
C:硫黄分含有量が0.50質量%超であった。
【0065】
(総合評価)
上記通油性能、環境性能及び燃焼性能の各評価において、最も低い評価を総合評価とした。本評価において、B評価以上であれば合格である。
【0066】
(実施例1〜3、及び比較例1〜3の燃料油組成物の製造)
下記表1に示す性状及び組成を有するパラフィン系炭化水素、基材(軽油留分)及び表2に示す性状及び組成を有する基材(残留炭素源)を、表3に示す混合比で混合し、実施例1〜3、及び比較例1〜3の燃料油組成物を作製した。得られた各燃料油組成物について、上記方法による各性能の評価結果を表3及び4に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表3の結果から、実施例1〜3の本実施形態の燃料油組成物は、常温通油性能、貯蔵安定性能及び低温通油性能を兼ね備える通油性能、また燃焼性能及び環境性能が優れていることが確認された。
一方、パラフィン系炭化水素を含まない比較例1の燃料油組成物は低温通油性能に劣るものであり、パラフィン系炭化水素を過剰に含む比較例2の燃料油組成物は燃焼性能に劣るものであり、またろ過時間の傾きが0.30以下ではない直脱重油を含むが、ろ過時間の傾きが0.30以下の残留炭素源を含まない比較例3の燃料油組成物は常温通油性能及び貯蔵安定性能に劣るものであることが確認された。