特許第6923173号(P6923173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6923173硫黄含有複合体、その製造方法、及び固体電解質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6923173
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】硫黄含有複合体、その製造方法、及び固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/22 20060101AFI20210805BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210805BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210805BHJP
   C01D 15/04 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   C01B17/22
   H01M10/0562
   H01B13/00 Z
   C01D15/04
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-242370(P2016-242370)
(22)【出願日】2016年12月14日
(65)【公開番号】特開2018-95522(P2018-95522A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】千賀 実
(72)【発明者】
【氏名】梅木 孝
【審査官】 中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−179265(JP,A)
【文献】 特開2017−018872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/22−17/40
C01D 15/04
H01B 13/00
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化リチウム溶液に硫化水素を吹き込んで水硫化リチウム溶液を得ること、前記水硫化リチウム溶液と、ハロゲン化リチウムと、を混合して水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得ること、前記混合により得られた溶液を、硫化水素の存在下で加熱することを含む、硫黄含有複合体の製造方法。
【請求項2】
前記水硫化リチウム溶液と、ハロゲン化リチウム溶液とを混合して、前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得る、請求項に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
【請求項3】
前記混合により得られた溶液を、硫化水素の存在下で加熱して前記溶液に含まれる溶媒を除去すること、前記溶媒を除去して得られた粉末に硫化水素を供給しながら加熱すること、を含む、請求項1又は2に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
【請求項4】
溶媒として水を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
【請求項5】
前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱することにおいて、硫化水素を、該溶液中の固形分1kgに対して0.01N−L/分以上20N−L/分以下の流量で供給する請求項1〜4のいずれか1項に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
【請求項6】
前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱することにおいて、加熱を100℃以上400℃以下で行う請求項1〜5のいずれか1項に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
【請求項7】
前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得ることにおいて、硫化水素を、該溶液中の固形分1kgに対して0.01N−L/分以上20N−L/分以下の流量で供給する請求項1〜6のいずれか1項に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄含有複合体、その製造方法、及び固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報関連機器及び通信機器等の急速な普及に伴い、これらの機器の小型化が要望される中、これらの機器に用いられる電池にも小型が要望されるようになっている。これらの機器に用いられる電池として、エネルギー密度が高く小型化が図れること等の理由から、リチウム電池が注目を浴びている。リチウム電池としては、安全性の観点から、従来の電解液を固体電解質層にかえて全固体化したリチウム電池が採用されるようになっており、固体電解質層に用いられる固体電解質として、硫化物固体電解質の開発が行われている。
【0003】
硫化物固体電解質の原料としては、例えば、リチウム源として硫化リチウムが用いられ、これに五硫化二リン等のリン化合物、更には、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムを組み合わせて用いられている。硫化リチウムは、例えば、水酸化リチウムを用いて製造することができ、溶媒等を用いる方法(例えば、特許文献1及び2)により、またハロゲン化リチウムは、炭酸リチウムを用いて、ハロゲン化水素酸中に溶解させる方法、ハロゲン化水素ガスを吹き込む等の、水溶液を用いる方法(例えば、非特許文献1〜3)により得られる。しかし、これらの方法により得られた硫化リチウム、ハロゲン化リチウムを原料として用いる場合、各々溶媒、水を乾燥してから用いる必要があり、乾燥のために設備、エネルギーを要することになる。
【0004】
このような乾燥の工程を省略し、より高い生産効率を得るため、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液に、加熱環境下で硫化水素を流通させて、水酸化リチウムを硫化させて水硫化リチウムとし、次いで水硫化リチウムを脱硫化水素処理して硫化リチウムを固体電解質の原料として用いる、生産性の高い硫化物固体電解質の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−163356号公報
【特許文献2】国際公開第2005/040039号パンフレット
【特許文献3】特開2014−179265号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典4 縮刷版」、発行年:1993年、共立出版社、613頁
【非特許文献2】化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典9 縮刷版」、発行年:1993年、共立出版社、426頁
【非特許文献3】化学大辞典編集委員会編、「新実験化学講座8」、発行年:昭和53年、丸善社、461〜462頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、LiOX(Xはハロゲン元素を示す。)等で示されるような含酸素ハロゲン化リチウム化合物等の不純物が生成するため、原料となるLi化合物から得られるLiSへの転化率が低下することを、本発明者は見出した。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、不純物が少ない硫黄含有複合体、該複合体をより高い生産効率で得る製造方法、及び該複合体を用いた固体電解質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の構成を有する発明により、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
[1]硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含み、CuKα線を用いたX線回折測定において、ハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしており、かつLiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムを含有しない、ことを特徴とする硫黄含有複合体。
[2]少なくとも(111)面においてハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしている上記[1]に記載の硫黄含有複合体。
[3]前記ハロゲン化リチウムのピークの回折角が、硫化リチウムのピークの回折角の方に、0.1°以上シフトしている上記[1]又は[2]に記載の硫黄含有複合体。
[4]前記ハロゲン化リチウムが、臭化リチウム及びヨウ化リチウムから選ばれる少なくとも1種である上記[1]〜[3]のいずれか1に記載の硫黄含有複合体。
[5]水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱することを含む、硫黄含有複合体の製造方法。
[6]水硫化リチウム溶液と、ハロゲン化リチウム溶液とを混合して、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得ること、前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱すること、を含む硫黄含有複合体の製造方法。
[7]水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で0℃以上100℃以下の温度条件で加熱し、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得ること、前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱すること、を含む硫黄含有複合体の製造方法。
[8]前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱することにおいて、硫化水素を、該溶液中の固形分1kgに対して0.01N−L/分以上20N−L/分以下の流量で供給する上記[5]〜[7]のいずれか1に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
[9]前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱することにおいて、加熱を100℃以上400℃以下で行う上記[5]〜[8]のいずれか1に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
[10]前記水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得ることにおいて、硫化水素を、該溶液中の固形分1kgに対して0.01N−L/分以上20N−L/分以下の流量で供給する上記[7]〜[9]のいずれか1に記載の硫黄含有複合体の製造方法。
[11]上記[1]〜[4]のいずれか1に記載の硫黄含有複合体、及びリン化合物を反応させる硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不純物が少ない硫黄含有複合体及び硫化物固体電解質をより高い生産効率で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた硫黄含有複合体のX線解析スペクトルである。
図2】実施例1で得られた硫黄含有複合体の(111)面におけるX線解析スペクトルの拡大図である。
図3】実施例1で得られた硫黄含有複合体の(200)面におけるX線解析スペクトルの拡大図である。
図4】実施例1で得られた硫黄含有複合体の(220)面におけるX線解析スペクトルの拡大図である。
図5】実施例1で得られた硫黄含有複合体の(311)面におけるX線解析スペクトルの拡大図である。
図6】比較例1で得られた粉末のX線解析スペクトルである。
図7】比較例1で得られた粉末の(111)面におけるX線解析スペクトルの拡大図である。
図8】比較例2で得られた粉末のX線解析スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」「以下」の数値は任意に組み合わせできる数値である。
【0014】
〔硫黄含有複合体〕
本実施形態の硫黄含有複合体は、硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含み、CuKα線を用いたX線回折測定において、ハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしており、かつLiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムを含有しない、ことを特徴とするものである。
【0015】
(硫化リチウム)
硫化リチウムは、特に制限なく使用でき、例えば、市販品をそのまま用いてもよいし、公知の方法に準じて作製したものを用いてもよく、高純度のものが好ましい。また、本実施形態の硫黄含有複合体を作製する時点で、硫化リチウム自体を原料としなくてもよく、例えば、後述する本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法のように、水硫化リチウムを原料として、硫黄含有複合体において硫化リチウムとなったものであってもよい。
【0016】
(ハロゲン化リチウム)
ハロゲン化リチウムとしては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が好ましく挙げられ、イオン伝導度の観点から、臭化リチウム、ヨウ化リチウムがより好ましい。ハロゲン化リチウムは一種単独で用いることもできるし、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0017】
(ピークの回折角)
本明細書において、「ハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしている」とは、「硫黄含有複合体でのハロゲン化リチウムのピークの回折角と硫化リチウムのピークの回折角との差が、ハロゲン化リチウム単体のピークの回折角と硫化リチウム単体のピークの回折角との差よりも小さくなっている」ことを意味する。より具体的に、図1に示される、実施例で得られた硫黄含有複合体のCuKα線を用いたX線回折測定のX線解析スペクトル、及び図2に示される、実施例で得られた硫黄含有複合体のCuKα線を用いたX線回折測定を行った際の(111)面におけるX線解析スペクトルの拡大図を例に説明する。
【0018】
本実施形態の硫黄含有複合体において、硫化リチウム及びハロゲン化リチウムは、同じ立方晶の結晶構造をとることが知られており、ハロゲンと硫黄の原子半径の違いにより、図1に示されるように、異なる面においてピークを発現する。また、各異なる面においては、例えば、(111)面において、図2に示されるように、硫化リチウム及びハロゲン化リチウム(臭化リチウム及びヨウ化リチウム)のピークが発現している。
図2には、硫黄含有複合体での硫化リチウムのピークの回折角が26.975°、臭化リチウムの回折角が27.727°、ヨウ化リチウムの回折角が25.874°であることが示されている。一方、単体での硫化リチウムのピークの回折角は26.962°、臭化リチウムの回折角は28.046°、ヨウ化リチウムの回折角は25.643874°である(第2表も参照)。これらの結果から、単体での硫化リチウムと臭化リチウムとの回折角の差は1.084°であるところ、硫黄含有複合体での硫化リチウムと臭化リチウムとの回折角の差は0.752°となっており、硫黄含有複合体での硫化リチウムと臭化リチウムとの回折角の差は単体での硫化リチウムと臭化リチウムとの回折角の差よりも0.332°小さくなっている。これが、臭化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしている、ことを意味する。
【0019】
また、ヨウ化リチウムについても、臭化リチウムと同様のことがいえる。単体での硫化リチウムとヨウ化リチウムとの回折角の差は1.319°であるところ、硫黄含有複合体での硫化リチウムとヨウ化リチウムとの回折角の差は1.101°となっており、硫黄含有複合体での硫化リチウムとヨウ化リチウムとの回折角の差は単体での硫化リチウムとヨウ化リチウムとの回折角の差よりも0.218°小さくなっている。よって、ヨウ化リチウムのピークの回折角も、硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしている。
【0020】
本実施形態の硫黄含有複合体は、CuKα線を用いたX線回折測定において、ハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしたものであり、このシフトは、硫化リチウムの単体、ハロゲン化リチウムの単体では生じ得ない現象である。また、硫化リチウム及びハロゲン化リチウムが、同じ立方晶の結晶構造をとることが知られており、ハロゲンと硫黄の原子半径の違いにより、異なる面においてピークを発現することも考慮すると、本実施形態の硫黄含有複合体は、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとが分子レベルで相互的な関係を有しており、これらが結合し複合化した構造を含むものであるといえる。
【0021】
本実施形態の硫黄含有複合体において、上記のピークの回折角のシフトは、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面のいずれの面で生じていてもよく、より不純物が少ないものとする観点から、少なくとも(111)面で生じていることが好ましく、より好ましくは、(111)面と、(200)面、(220)面及び(311)面から選ばれる少なくとも一つの面と、で生じていることが好ましく、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面の全ての面で生じていることが更に好ましい。
【0022】
本実施形態の硫黄含有複合体において、(111)面におけるハロゲン化リチウムのピークの回折角が、硫化リチウムのピークの回折角の方に、通常0.1°以上シフトすることが好ましく、ハロゲン化リチウムがヨウ化リチウムの場合は、0.1°以上が好ましく、0.15°以上がより好ましく、0.2°以上が更に好ましい。また、ハロゲン化リチウムが臭化リチウムの場合は、ピークの回折角のシフト幅は、0.1°以上が好ましく、0.2°以上がより好ましく、0.25°以上が更に好ましい。ハロゲン化リチウムのピークの回折角が、硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトする幅(以後、単に「ハロゲン化リチウムのシフト幅」と称することがある。)が上記範囲内であると、本実施形態の硫黄含有複合体は、より不純物が少ないものとなる。ここで、ハロゲン化リチウムのシフト幅は、単体のハロゲン化リチウムのピークの回折角と硫黄含有複合体でのハロゲン化リチウムのピークの回折角との差の絶対値である。また、2種以上のハロゲン化リチウムが含まれる場合、全てのハロゲン化リチウムのシフト幅が0.1°以上であることが好ましい。
【0023】
本実施形態の硫黄含有複合体は、より不純物が少ないものとする観点から、単体の硫化リチウムと硫黄含有複合体での硫化リチウムのピークの回折角の差(以後、単に「硫化リチウムのシフト幅」と称する場合がある。)が、ハロゲン化リチウムのシフト幅よりも小さいことが好ましく、0.1°以上小さいことが好ましく、0.2°以上小さいことがより好ましく、0.21°以上小さいことが更に好ましい。なお、本実施形態の硫黄含有複合体が、ハロゲン化リチウムを二種以上含む場合、硫化リチウムのシフト幅は、全てのハロゲン化リチウムについてのシフト幅よりも小さいことが好ましい。
【0024】
また、上記の(111)面以外の面、すなわち(200)面、(220)面及び(311)面について、(200)面では0.2°以上が好ましく、0.25°以上がより好ましく、0.3°以上が更に好ましく、(220)面では0.3°以上が好ましく、0.35°以上がより好ましく、0.4°以上が更に好ましく、(300)面では0.5°以上が好ましく、0.55°以上がより好ましく、0.6°以上が更に好ましい。
【0025】
(ピーク強度)
本実施形態の硫黄含有複合体は、(111)面において、硫化リチウムのピーク強度がハロゲン化リチウムのピーク強度よりも大きいことが好ましい。このような構成をとることで、より不純物が少ないものとなる。また、(111)面以外の面、例えば、(200)面、(220)面及び(311)面においても、硫化リチウムのピーク強度がハロゲン化リチウムのピーク強度よりも大きいことが好ましい。
【0026】
(LiOXで示される含酸素ハロゲン化リチウム)
本実施形態の硫黄含有複合体は、LiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムを含有しないものである。LiOXにおけるハロゲン元素Xは、主にハロゲン化リチウム等の原料に含まれるハロゲン元素に起因するものであり、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。
LiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムは、硫黄含有複合体の製造工程で生成する場合があり、該含酸素ハロゲン化リチウムが生成すると、硫化水素を供給しても硫化されず、硫黄含有複合体の純度が低下することになる。また、該含酸素ハロゲン化リチウムは、硫化物固体電解質の電池性能を低下させることが知られており、不純物といえるものである。本実施形態の硫黄含有複合体は、該含酸素ハロゲン化リチウムを含まないことで、より優れた電池性能を有する硫化物固体電解質が得られる。
【0027】
本実施形態において、LiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムを含まないとは、本実施形態の硫黄含有複合体を硫化物固体電解質の原料として用いた場合に、該固体電解質の電池性能、品質等に本質的に支障のない程度の極めて微量で含有する場合を除くこと、を意味する。ここで、「支障のない程度の極めて微量」とは、CuKα線を用いたX線回折測定において、硫化リチウム又はハロゲン化リチウムの最大ピーク強度に対して、該含酸素ハロゲン化リチウムの最大ピーク強度が、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下、特に検出限界以下で実質的に検出されないことが好ましい。
【0028】
また、本実施形態の硫黄含有複合体は、例えば、LiX(HO)、LiX(OH)で示されるハロゲン化リチウムの含水塩等も、含有しないことが好ましい。これらのハロゲン化リチウムの含水塩も、含酸素ハロゲン化リチウムと同様に、製造工程で生成し得るものであり、電池性能を低下させ得るものだからである。ここで、「含有しない」ことは、上記の含酸素ハロゲン化リチウムに対する「含有しない」と同じ意味である。
【0029】
(平均粒子径)
本実施形態の硫黄含有複合体の平均粒子径は、用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、例えば、1μm以上、5μm以上、10μm以上、30μm以上、50μm以上であり、また、2000μm以下、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、300μm以下である。ここで、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern Instruments Ltd製 マスターサイザー2000)を用いて測定される値である。
【0030】
(用途)
本実施形態の硫黄含有複合体は、上記の通り、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとが分子レベルで結合し複合化した構造を有することから、硫化物固体電解質の原料として用いられる五硫化二リン等の他の原料との反応性が高い。また、不純物の含有量が少ないことから、より優れた電池性能を有する硫化物固体電解質が得られやすい。
本実施形態の硫黄含有複合物は、このような特性を有するため、硫化物固体電解質の原料として好適に用いることができる。得られる硫化物系固体電解質は、リチウムイオン二次電池等に、より具体的には全固体リチウムイオン二次電池の固体電解層に、また正極、負極合材に混合する固体電解質等として好適に用いられる。例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に固体電解質からなる層を設けることで、全固体リチウムイオン二次電池が得られる。
【0031】
〔硫黄含有複合体の製造方法〕
本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法は、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で加熱することを含むものである。本実施形態において、溶液は、液状のものに加えて、及びスラリー状のもの(飽和濃度を越えたもので、溶液と粉末との混合物等)をも含むものである。
【0032】
(水硫化リチウム)
水硫化リチウムは、市販品を用いてもよいし、また、後述するように、水酸化リチウムを硫化して得られたものを用いてもよい。高純度の硫化リチウムを得る観点から、不純物の含有量が少ないものを用いることが好ましい。また、必要に応じて、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中の不溶物をろ過等により除去してもよい。
【0033】
(ハロゲン化リチウム)
ハロゲン化リチウムとしては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が好ましく挙げられ、イオン伝導度の観点から、臭化リチウム、ヨウ化リチウムがより好ましい。ハロゲン化リチウムは一種単独で用いることもできるし、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0034】
ハロゲン化リチウムは、市販品を用いて、これと水等の溶媒とを用いて溶液として用いてもよいし、また、上記非特許文献1及び2に記載される、炭酸リチウムをハロゲン化水素酸中に溶解させる方法により得られたものを溶液として用いてもよい。ここで、例えば、ハロゲン化水素酸として臭化水素酸を用いると臭化リチウムが得られ、ヨウ化水素酸を用いるとヨウ化リチウムが得られる。
また、上記非特許文献3に記載される、炭酸リチウムを水に分散させたスラリーに、ハロゲン化水素を吹き込む方法、により得られたものを溶液として用いてもよい。ここで、例えば、ハロゲン化水素として臭化水素を用いると臭化リチウムが得られ、ヨウ化水素を用いるとヨウ化リチウムが得られる。
【0035】
(水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の調製)
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液は、例えば、(a)市販の水硫化リチウム、ハロゲン化リチウムを水等の溶媒に溶解させて得ることもできるし、(b)水硫化リチウム溶液とハロゲン化リチウム溶液とを混合して得ることもできし、また(c)水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で、0℃以上50℃以下の温度条件で加熱して得ることもできる。
【0036】
((a)による溶液の調製)
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中の水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムの含有量は、これらの比率が所望の硫化物固体電解質の組成比に応じて適宜決定すればよく、例えば、水硫化リチウムの含有量、液状であるとき、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。水硫化リチウムの含有量が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、硫化リチウムが得られやすく、得られる硫黄含有複合体が硫化物固体電解質の原料として用いやすくなる。また、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の加熱にかかるエネルギーをより低減することができる。
【0037】
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中のハロゲン化リチウムの含有量は、液状であるとき、例えば、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。ハロゲン化リチウムの含有量が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、得られる硫黄含有複合体は硫化物固体電解質の原料として用いやすくなり、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の加熱にかかるエネルギーをより低減することができる。
【0038】
((b)による溶液の調製)
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、水硫化リチウム溶液とハロゲン化リチウム溶液とを混合して得る場合、水硫化リチウムの含有量、及びハロゲン化リチウムの含有量、並びに水硫化リチウム溶液とハロゲン化リチウム溶液との配合比は、所望の硫化物固体電解質の組成比に応じて適宜決定すればよい。水硫化リチウム溶液中の水硫化リチウムの含有量は、液状であるとき、例えば、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。水硫化リチウムの含有量が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、ハロゲン化リチウム溶液と混合しやすく、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の加熱にかかるエネルギーをより低減することができる。
【0039】
ハロゲン化リチウム溶液中のハロゲン化リチウムの含有量は、液状であるとき、例えば、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。ハロゲン化リチウムの含有量が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、得られる硫黄含有複合体は硫化物固体電解質の原料として用いやすくなり、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の加熱にかかるエネルギーをより低減することができる。
【0040】
水硫化リチウム溶液は、水酸化リチウム溶液と硫化水素とを反応させて得ることができる。
ここで用いられる水酸化リチウムとしては、特に制限はなく、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)のような水和物であってもよいし、無水水酸化リチウムであってもよく、工業的に市販されているものをそのまま用いることができる。
【0041】
高純度の硫化リチウムを得る観点から、不純物の含有量が少ないものを用いることが好ましい。また、必要に応じて、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中の不溶物をろ過等により除去してもよい。
【0042】
また、硫化水素の純度に制限はないが、二酸化炭素、アンモニア等の不純物の含有量が少ないものを用いることが好ましい。不純物の少ない硫化水素を用いることで、より高純度の水硫化リチウムを得ることができ、結果として不純物の少ない硫黄含有複合体が得られる。
【0043】
水酸化リチウム溶液中の水酸化リチウムの含有量は、取り扱い、移送等の現場の状況に応じて適切な濃度を選定すればよい。例えば、水酸化リチウム溶液が液状である場合、水酸化リチウムの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましい。水酸化リチウムの含有量が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、またハロゲン化リチウム溶液と混合しやすい。また、飽和濃度を越えて、スラリー状としてもよい。いずれにしても、
【0044】
硫化水素は、水酸化リチウムを含む溶液と接触するように存在していれば、その供給方法に制限はなく、例えば、水酸化リチウムを含む溶液中に、硫化水素を吹き込むようにして供給することもできるし(バブリング)、ガス相に吹き込んで流通させるようにして供給してもよい。水酸化リチウムと硫化水素とをより接触させる観点から、水酸化リチウムを含む溶液中に、硫化水素を吹き込むようにして供給することが好ましい。硫化水素の供給により、溶液中の水酸化リチウムと硫化水素とが反応し、水硫化リチウムが得られる。また、水酸化リチウムを含む溶液がスラリー状の場合、溶液に溶解している水酸化リチウムとともに、スラリー中の水酸化リチウムも、硫化水素と反応し、水硫化リチウムとなる。
【0045】
硫化水素の供給量は、特に制限はなく、用いる水酸化リチウムを含む溶液の量、反応温度、反応装置の容量等に応じて適宜決定すればよく、例えば、溶液中の固形分1kgに対して、0.01N−L/分以上、1N−L/分以上であり、上限としては、20N−L/分以下、10N−L/分以下である。
【0046】
反応温度は、特に制限はないが、例えば、室温(20℃)以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましい。上限としては、溶媒の沸点以下(溶媒として水を用いる場合は100℃以下)が好ましく、90℃以下がより好ましく、85℃以下が更に好ましい。
反応圧力は、特に制限はないが、設備コスト低減の観点から、常圧が好ましい。なお、加圧設備を用いる場合は、硫化水素の溶液への調整を行うことができるため、反応速度を調整することが可能である。
【0047】
((c)による溶液の調製)
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液は、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、硫化水素の存在下で、0℃以上100℃以下の温度条件で加熱して得ることができる。水酸化リチウムと硫化水素とが反応することで、水酸化リチウムが硫化され、水硫化リチウムが得られる。
【0048】
水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液は、例えば、水酸化リチウム、ハロゲン化リチウムを水等の溶媒に溶解させて得ることもできるし、水酸化リチウム溶液とハロゲン化リチウム溶液とを混合して得ることもできる。
【0049】
水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中の水酸化リチウムの含有量は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。水酸化リチウムの含有量が上記範囲内であると、取り扱いが容易であり、水硫化リチウムが得られやすく、得られる硫黄含有複合体が硫化物固体電解質の原料として用いやすくなる。
また、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中のハロゲン化リチウムの含有量は、上記の水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中のハロゲン化リチウムの含有量と同じである。
【0050】
また、ハロゲン化リチウム溶液中のハロゲン化リチウムの含有量は、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を、ハロゲン化リチウム溶液を用いて得る場合のハロゲン化リチウム溶液と同じである。
【0051】
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を得る際、硫化水素は、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液と接触するように存在していれば、その供給方法に制限はなく、例えば、上記((b)による溶液の調製)で説明したような、硫化水素を溶液中に吹き込むようにして供給することが好ましい。
【0052】
硫化水素の供給量は、特に制限はなく、用いる水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の量、反応温度、反応装置の容量等に応じて適宜決定すればよく、例えば、溶液中の固形分1kgに対して、0.01N−L/分以上、1N−L/分以上であり、上限としては、20N−L/分以下、10N−L/分以下である。
【0053】
反応温度は、0℃以上100℃以下の温度条件とする。この温度条件で低温加熱することで、上記の含酸素ハロゲン化リチウム化合物、ハロゲン化リチウムの含水塩等のような不純物が生成せず、より効率よく水硫化リチウムを得ることができ、結果として、より効率よく硫黄含有複合体が得られる。
【0054】
反応圧力、反応時間、及び反応装置については、上記((b)による調製)で説明した、水酸化リチウム溶液と硫化水素との反応と同じである。
【0055】
上記の各方法により得られる水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中、水硫化リチウム由来のリチウム元素のモル(Li)と、ハロゲン化リチウム由来のリチウム元素のモル(Li)とのモル比率(Li/Li)は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、4以上が更に好ましく、上限としては、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下が更に好ましい。モル比率(Li/Li)が上記範囲内であると、電池特性に優れる硫化物固体電解質が得られやすい。
【0056】
上記((a)による溶液の調製)、((b)による溶液の調製)、及び((c)による溶液の調製)で説明した溶液、すなわち、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液、水硫化リチウムを含む溶液、ハロゲン化リチウムを含む溶液、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液、並びに水酸化リチウムを含む溶液は、水を溶媒として含む水溶液であることが好ましい。また、水溶液も、溶液と同じく、液状のもの、及びスラリー状のもの(例えば、溶液と粉末との混合物等)をも含むものである。
水溶液における溶媒としては、水のみを溶媒としてもよく、水以外の溶媒を更に含有していてもよい。水以外の溶媒を更に含有する場合、全溶媒に対する水の割合は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0057】
水としては、特に制限はないが、通常用いられる蒸留水、イオン交換水等を好ましく用いることができる。
また、水以外の溶媒としては、反応により不純物を生成しないものであれば特に制限はなく、例えば、アルコール、エーテル等の極性溶媒を用いることができ、アルコールとしては炭素数1〜8のアルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、メチルブタノール等が挙げられる。
【0058】
本実施形態においては、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液、水硫化リチウムを含む溶液、ハロゲン化リチウムを含む溶液、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液、並びに水酸化リチウムを含む溶液における溶媒を、全て水とすることが可能である。上記の有機溶媒等の他の溶媒を用いることなく、単一の溶媒を用いるだけで硫黄含有複合体を製造できるため、生産効率はより向上する。
【0059】
(硫化水素の供給及び加熱)
本実施形態において、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を加熱する際、硫化水素の存在下で行うことを要する。硫化水素の存在下で加熱しないと、上記の含酸素ハロゲン化リチウム化合物、ハロゲン化リチウムの含水塩等のような不純物が生成し、効率よく硫黄含有複合体が得られない。通常、水硫化リチウムを加熱することで、脱硫化水素反応により硫化水素が生成するため、この反応系において硫化水素を供給すると、化学平衡の観点から反応が進行しにくくなる。本実施形態においては、硫化水素を供給することで、上記のような不純物の発生が抑えられるという予期しない効果を見出した。
【0060】
硫化水素は、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液と接触するように存在していれば、その供給方法に制限はなく、例えば、上記((b)による溶液の調製)で説明したような、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液中に、硫化水素を吹き込むようにして供給することもできるし(バブリング)、ガス相に吹き込んで流通させるようにして供給してもよい。効率的に反応させる観点から、ガス相に吹き込んで流通させるようにして供給することが好ましい。
【0061】
硫化水素の供給は、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の溶媒が蒸発し、乾燥状態となるまで行うことが好ましい。溶媒が完全に蒸発するまで供給することにより、加水分解による水酸化リチウムの生成をより抑制することができ、より効率よく硫黄含有複合体が得られる。
溶媒が完全に蒸発したかどうかについては、例えば、反応槽から排出される水等の溶媒を含む気体をコンデンサ等で凝縮させ、水等の溶媒の発生が停止したことをもって判断することができる。また、このようにして水等の溶媒を反応系外に排出することで、硫化リチウム、及びハロゲン化リチウムが析出し、液状の溶液はスラリー状となり、更にこれが進行すると、硫黄含有複合体が得られる。
【0062】
硫化水素の供給量は、特に制限はなく、用いる水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液の量、反応温度、反応装置の容量等に応じて適宜決定すればよく、例えば、溶液中の固形分1kgに対して、0.01N−L/分以上、1N−L/分以上であり、上限としては、20N−L/分以下、10N−L/分以下である。
【0063】
加熱温度は、溶媒の沸点以上、例えば溶媒が水である場合は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上が更に好ましい。また、上限としては特に制限はなく、例えば、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、320℃以下が更に好ましい。
また、加熱は同じ温度で行ってもよいし、異なる温度で行ってもよい。例えば、好ましくは100℃以上150℃以下、より好ましくは120℃以上140℃以下で溶媒を蒸発させる乾燥加熱工程を行った後、好ましくは250℃以上400℃以下、より好ましくは270℃以上350℃以下で脱硫化水素工程を行ってもよい。より効率よく硫黄含有複合体を得る観点から、目的に応じた異なる加熱温度で加熱することが好ましい。
【0064】
水硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含む溶液を硫化水素の存在下で加熱する際に用いる装置としては、例えば、撹拌翼を有する反応槽、該反応槽に硫化水素を導入する導入設備、余剰の硫化水素及び水等の溶媒を排出し、該溶媒をコンデンサ等で凝縮させて回収する排出設備、及び該反応槽中の原料を加熱及び冷却する加熱・冷却設備を備える装置を用いればよい。また、排出された硫化水素を反応槽にリサイクルする設備を有していてもよい。
【0065】
(粉砕)
本実施形態の製造方法において、上記方法により得られた硫黄含有複合体を粉砕してもよい。硫黄含有複合体の粉砕は、処理量に応じた粉砕機、例えば後述する硫化物固体電解質の製造方法で用いられるような各種粉砕機を用いて行えばよい。
硫黄含有複合体の平均粒子径は、用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限はないが、例えば、1μm以上、5μm以上、10μm以上、30μm以上、50μm以上であり、また、2000μm以下、1500μm以下、1000μm以下、500μm以下、300μm以下である。ここで、平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、Malvern Instruments Ltd製 マスターサイザー2000)を用いて測定される値である。
【0066】
(硫黄含有複合体)
本実施形態の製造方法により得られる硫黄含有複合体は、硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含み、CuKα線を用いたX線回折測定において、ハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしており、かつLiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムを含有しないものである。本実施形態の硫黄含有複合体は、その製造方法は特に制限はないが、不純物を含まない、より純度の高い複合体とする観点から、本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法により得られるものであることが好ましい。
【0067】
本実施形態の製造方法により得られる硫黄含有複合体は、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとが分子レベルで複合化した構造を有することから、硫化物固体電解質の原料として用いた場合、例えば五硫化二リン等の他の原料との反応性が高く、より効率的に硫化物固体電解質を得ることができる。
【0068】
本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法は、溶液を調製する混合溶液槽、加熱設備等の付帯設備を集約し、簡略化するとともに、エネルギー効率を高めることができ、硫化物固体電解質の性能を低下させ得る不純物となる、上記の含酸素ハロゲン化リチウム化合物、ハロゲン化リチウムの含水塩等の不純物の生成を抑制し得る。よって、本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法は、不純物が少ない硫黄含有複合体をより高い生産効率で得ることが可能となる。
【0069】
〔硫化物固体電解質の製造方法〕
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、本実施形態の硫黄含有複合体、すなわち、硫化リチウム及びハロゲン化リチウムを含み、CuKα線を用いたX線回折測定において、ハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしており、かつLiOX(Xはハロゲン元素を示す。)で示される含酸素ハロゲン化リチウムを含有しない、ことを特徴とする硫黄含有複合体、及びリン化合物を反応させるものである。
【0070】
リン化合物としては、三硫化二リン、五硫化二リン等の硫化リン、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物などが挙げられ、中でも、硫化リンが好ましく、五硫化二リンがより好ましい。また、リン化合物として、リン単体を含んでいてもよい。また、五硫化二リン等のリン化合物は、工業的に製造され、販売されているものであれば、容易に手に入れることができる。これらのリン化合物は、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0071】
硫黄含有複合体中の硫化リチウム(硫化リチウム単体だけでなく、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとが分子レベルで結合し複合化した構造に寄与する硫化リチウムも含む)とリン化合物との使用割合は、得られた硫化物固体電解質がオルト組成又はその近傍の組成を構成しうる割合であることが好ましい。リン化合物が五硫化二リンの場合、硫化リチウムと五硫化二リンとのモル換算の割合は、65〜85:15〜35が好ましく、70〜80:20〜30がより好ましく、72〜78:22〜28が更に好ましい。ここで、オルトは、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものを意味し、本実施形態では、硫化物として最も硫化リチウムが付加している結晶組成のことをオルト組成と称する。このオルト組成の場合、硫化リチウムと五硫化二リンとの割合に換算すると、モル換算で75:25となる。なお、硫黄含有複合体中の硫化リチウム(硫化リチウム単体だけでなく、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとが分子レベルで結合し複合化した構造に寄与する硫化リチウムも含む)の量は、例えば、製造過程において用いた水硫化リチウム、水酸化リチウムの量より特定することができる。
【0072】
硫黄含有複合体とリン化合物との反応は、例えば、非水系溶液中の湿式粉砕、又は乾式粉砕の粉砕工程により行うことができる。
【0073】
(湿式粉砕)
湿式粉砕において用いられる非水系溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)、N−メチルピロリドン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルカーボネート等の電解質の溶媒が挙げられる。これらの溶媒中の水分含有量は。100質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましい。
【0074】
湿式粉砕において、非水系溶媒と硫黄含有複合体及びリン化合物等の原料とで形成される溶液(スラリー)中の固体(原料)の含有量は、適宜調整すればよく、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上が更に好ましい。上限としては、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。固体(原料)の含有量が上記範囲内であると、取り扱い性が良好であり、より効率よく硫化物固体電解質が得られる。
【0075】
湿式粉砕において、段階粉砕をより少なくする観点から、非水系溶媒に予め分散安定剤を添加することが好ましい。原料(固体)の一次粒子の凝集物の解砕が促進されるため、粉砕効率を向上させることができるからである。
【0076】
分散安定剤としては、脂肪族アルキル基又はアリール基を有するアミド系分散安定剤、アミン塩系分散安定剤、エステル系分散安定剤、ニトリル系分散安定剤、エーテル系分散安定剤等が挙げられ、中でもエステルが好ましい。より具体的には、ラウロイルジエタノールアミド等のアミド系分散安定剤、ラウロイルジエタノールアミンの塩酸塩等のアミン塩系分散安定剤、ジオクチルスルホサクシネート等の硫黄含有エステル系分散安定剤、R−C≡N(Rは炭素数1〜13の炭化水素からなる主鎖及び炭素数1〜13の炭化水素からなる側鎖を有する基、炭素数3〜7の環状構造を有する基を示す。)で示される、イソブチロニトリル、イソバレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系分散安定剤、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系分散安定剤、などが挙げられる。
【0077】
非水系溶媒と硫黄含有複合体及びリン化合物等の原料とで形成される溶液中の分散安定剤の含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上が更に好ましい。上限としては、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましい。分散安定剤の含有量が上記範囲内であると、より効率よく粉砕効率の向上効果が得られる。
【0078】
湿式粉砕に用いる湿式粉砕機は特に制限はないが、例えば、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ミル等が挙げられ、粉砕操作の条件を自由に調整できる点で、ボールを粉砕メディアとして用いる粉砕機が好ましい。このような粉砕機としては、例えば、転動ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル等が挙げられる。
【0079】
ボールを粉砕メディアとして用いる粉砕機を用いて粉砕する場合、相対的に大きいボールにより粉砕した後、相対的に小さいボールにより粉砕することが好ましい。具体的には、相対的に大きいボールの直径は、1mmφ以上が好ましく、2mmφ以上がより好ましく、3mmφ以上が更に好ましく、上限としては、50mmφ以下が好ましく、30mmφ以下がより好ましく、15mmφmm以下が更に好ましい。また、該相対的に大きいボールの直径と合わせて用いる相対的に小さいボールの直径は、該相対的に大きいボールの直径より小さければ特に制限はないが、例えば、0.03mmφ以上が好ましく、0.05mmφ以上がより好ましく、0.1mmφ以上が更に好ましく、上限としては、5mmφ以下が好ましく、3mmφ以下がより好ましく、1mmφ以下が更に好ましい。
【0080】
湿式粉砕の粉砕条件は、使用する機器等に応じて適宜調整すればよい。例えば、ビーズミルを粉砕機として用いる場合、翼先端速度を2m/秒以上20m/秒以下程度とし、処理時間を10分以上6時間以下程度とすればよい。
【0081】
(乾式粉砕)
乾式粉砕は、例えば、混練機、ボールミル粉砕機、ジェット粉砕機を用いて行うことができる。
【0082】
乾式粉砕の条件としては特に制限はないが、材料の劣化、変性を防止する観点から、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
また、粉砕時の不活性ガスの圧力は、0.2MPaG以上が好ましく、0.3MPaG以上がより好ましく、0.5MPaG以上が更に好ましい。上限としては、2MPaG以下が好ましく、1.8MPaG以下がより好ましく、1.5MPaG以下が更に好ましい。
【0083】
乾式粉砕の場合の温度条件は、材料の劣化、変性を防止する観点から、低露点環境下で行うことが好ましく、具体的には、20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましい。上限としては、100℃以下が好ましく、95℃以下がより好ましく、90℃以上が更に好ましい。
また、粉砕時間は、粉砕の状態を確認しながら適宜選定すればよい。
【0084】
(硫化物固体電解質)
本実施形態の硫黄含有複合体、及びリン化合物を、上記、湿式粉砕又は乾式粉砕の粉砕工程により反応させることで、硫化物固体電解質が得られる。得られた硫化物固体電解質は、リチウム元素、硫黄元素、リン元素、及びハロゲン元素を少なくとも含む非晶質の固体電解質である。本明細書において、非晶質の固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
【0085】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法で得られる非晶質の硫化物固体電解質としては、例えば、代表的なものとしては、LiS−P−LiI、LiS−P−LiCl、LiS−P−LiBr、LiS−P−LiI−LiBr、LiS−P−LiO−LiI、LiS−SiS−P−LiI等が挙げられる。非晶質の硫化物系固体電解質を構成する元素の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0086】
非晶質の硫化物系固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の非晶質の硫化物系固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm以上500μm以下、0.1μm以上200μm以下の範囲内を例示できる。
【0087】
(加熱)
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、更に加熱することを含むことができる。更に加熱することにより、非晶質固体電解質を結晶性固体電解質とすることができる。
【0088】
加熱温度は、非晶質固体電解質の構造に応じて適宜選択することができ、例えば、非晶質固体電解質を、示差熱分析装置(DTA装置)を用いて、10℃/分の昇温条件で示差熱分析(DTA)を行い、最も低温側で観測される発熱ピークのピークトップを起点に好ましくは±40℃、より好ましくは±30℃、さらに好ましくは±20℃の範囲とすればよい。
より具体的には、加熱温度としては、150℃以上が好ましく、170℃以上がより好ましく、190℃以上が更に好ましい。一方、加熱温度の上限値は特に制限されるものではないが、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましく、250℃以下が更に好ましい。
【0089】
加熱時間は、所望の結晶性固体電解質が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましい。
【0090】
また、加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なうことが好ましい。結晶性固体電解質の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもできる。
【0091】
(結晶性の硫化物固体電解質)
上記のように、非晶質の硫化物系固体電解質を加熱することで、結晶性の硫化物系固体電解質が得られる。本明細書において、結晶性の固体電解質とは、X線回折測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいて固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性の固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい、ものである。そして、結晶性の固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶質の固体電解質が含まれていてもよいものである。
【0092】
結晶性固体電解質の結晶構造としては、より具体的には、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013−16423号公報)を例示することができる。
ここで、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造が好ましい。例えば、2θ=20.2°±0.3°及び23.6°±0.3°にピークを有する結晶構造である。
【0093】
結晶性の硫化物系固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性の硫化物系固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm以上500μm以下、0.1μm以上200μm以下の範囲内を例示できる。
【0094】
(硫化物固体電解質の用途)
本実施形態の製造方法で得られる硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高く、優れた電池性能を有しており、電池に好適に用いられる。伝導種としてリチウム元素を採用した場合、特に好適である。また、該硫化物固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、各層は、公知の方法により製造することができる。
【0095】
また、上記の電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例】
【0096】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0097】
(硫化リチウム、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムの含有量(分率)の測定)
硫化リチウム、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムの含有量は、塩酸滴定、及び硝酸銀滴定により分析し、測定した。具体的には、実施例で得られた硫黄含有複合体を、グローブボックス(露点:−100℃程度、窒素雰囲気)内で秤量後、水に溶解し、電位差滴定装置(「COM−980(型番)」、平沼産業(株)製)を用いて測定し、算出した。
【0098】
(転化率の算出)
上記各化合物の含有量(分率)から硫化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム中の各々リチウム量を算出し、原料として使用した無水水酸化リチウム中のリチウムとの比率を転化率とした。
【0099】
(実施例1:硫黄含有複合体の作製)
アンカー翼を備えたセパラブルフラスコ(SUS製、500mL)に、無水水酸化リチウム(本荘ケミカル(株)製、水分量:1質量%以下)15.15g(0.633モル)及びイオン交換水150mLを仕込み、室温下で撹拌し、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、硫化水素(住友精化(株)製)を200N−mL/分で2時間、バブリングしながら供給し、水硫化リチウム水溶液を得た。これとは別に、ヨウ化リチウム7.53g(0.0563モル)、臭化リチウム7.32g(0.0843モル)(いずれも本荘ケミカル(株)製)を120mLのイオン交換水に溶解させて、ハロゲン化リチウム水溶液を調製し、上記セパラブルフラスコに入れて水硫化リチウム水溶液と混合し、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウム(ヨウ化リチウム及び臭化リチウム)を含む水溶液を得た。
水硫化リチウム、ヨウ化リチウム、及び臭化リチウムを含む水溶液の入ったセパラブルフラスコを130℃のオイルバス内に配置して130℃に加熱した後、該セパラブルフラスコの気相に硫化水素を200N−mL/分で8時間供給して、発生する水分を留去し、かつ乾燥させた後、更に250℃に加熱し、8時間保持した。
その後、硫化水素を窒素ガスに切り換えて、室温まで冷却した後、セパラブルフラスコ内の粉末状の硫黄含有複合体を回収した。得られた硫黄含有複合体中の硫化リチウム、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムの含有量を測定した。含有量を第1表に示す。得られた硫黄含有複合体について、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線解析(XRD)測定を行った。X線解析スペクトルを図1に示す。また、(111)面、(200)面、(220)面及び(311)面における拡大図を、各々図2〜5に示し、各面における硫化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの単体でのピークの回折角、硫黄含有複合体でのピークの回折角、シフト幅を第2表に示す。
【0100】
(比較例1)
アンカー翼を備えたセパラブルフラスコ(SUS製、500mL)に、無水水酸化リチウム(本荘ケミカル(株)製、水分量:1質量%以下)15.15g(0.633モル)、及びイオン交換水150mLを仕込み、室温下で撹拌し、水酸化リチウム水溶液を得た。これとは別に、ヨウ化リチウム7.53g(0.0563モル)、臭化リチウム7.32g(0.0843モル)(いずれも本荘ケミカル(株)製)を120mLのイオン交換水に溶解させて、ハロゲン化リチウム水溶液を調製し、上記セパラブルフラスコに入れて水酸化リチウム水溶液と混合し、水酸化リチウム及びハロゲン化リチウム(ヨウ化リチウム及び臭化リチウム)を含む水溶液を得た。
水酸化リチウム、ヨウ化リチウム、及び臭化リチウムを含む水溶液の入ったセパラブルフラスコを130℃のオイルバス内に配置して130℃に加熱した後、該セパラブルフラスコの気相に窒素を200N−mL/分で8時間供給して、発生する水分を留去し、かつ乾燥させた後、窒素を硫化水素200N−mL/分に切り替えて、更に250℃に加熱し、8時間保持した。
その後、硫化水素を窒素ガスに切り換えて、室温まで冷却した後、セパラブルフラスコ内の粉末を回収した。得られた粉末中の硫化リチウム、水酸化リチウム、及び炭酸リチウムの含有量を測定した。含有量を第1表に示す。また、得られた粉末について、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線解析(XRD)測定を行った。X線解析スペクトルを図6に示す。また、(111)面における拡大図を図7に示し、(111)面における硫化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの単体でのピークの回折角、硫黄含有複合体でのピークの回折角、シフト幅を第2表に示す。
【0101】
(比較例2)
アンカー翼を備えたセパラブルフラスコ(SUS製、500mL)に、無水水酸化リチウム(本荘ケミカル(株)製、水分量:1質量%以下)15.15g(0.633モル)及びイオン交換水150mLを仕込み、室温下で撹拌し、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、硫化水素(住友精化(株)製)を200N−mL/分で2時間、バブリングしながら供給し、水硫化リチウム水溶液を得た。これとは別に、ヨウ化リチウム7.53g(0.0563モル)、臭化リチウム7.32g(0.0843モル)(いずれも本荘ケミカル(株)製)を120mLのイオン交換水に溶解させて、ハロゲン化リチウム水溶液を調製し、上記セパラブルフラスコに入れて水硫化リチウム水溶液と混合し、水硫化リチウム及びハロゲン化リチウム(ヨウ化リチウム及び臭化リチウム)を含む水溶液を得た。
水硫化リチウム、ヨウ化リチウム、及び臭化リチウムを含む水溶液の入ったセパラブルフラスコを130℃のオイルバス内に配置して130℃に加熱した後、該セパラブルフラスコの気相に窒素を200N−mL/分で8時間供給して、発生する水分を留去し、かつ乾燥させた後、更に250℃に加熱し、8時間保持した。
その後、室温まで冷却した後、セパラブルフラスコ内の粉末を回収した。得られた粉末について、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線解析(XRD)測定を行った。X線解析スペクトルを図8に示す。なお、比較例2で得られた粉末においては、(111)面における硫黄含有複合体での硫化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウムのピークの回折角は読み取れなかった。
【0102】
【表1】

註)転化率は、水酸化リチウムの仕込み量に対する転化率を意味する。
【0103】
第1表に示される結果から、実施例1の製造方法によると、水酸化リチウムの仕込み量に対してほぼ全量が硫化リチウムに転化しているが、水酸化リチウムとハロゲン化リチウムとの共存下で加熱した後に硫化水素を供給した比較例1の製造方法によると、水酸化リチウムの仕込み量に対して半分弱しか硫化リチウムに転化していないことが確認された。また、比較例2の結果から、水硫化リチウムとハロゲン化リチウムとの共存下で、硫化水素を供給せずに加熱した場合、硫化リチウムはほとんど得られないことが確認された。このように、本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法によれば、より高い効率で純度の高い硫黄含有複合体が得られることが確認された。
【0104】
【表2】

註)「ピークの回折角(2θ)」の「単体」欄の数値は単体のハロゲン化リチウム、硫化リチウムの各面におけるピークの回折角であり、「複合体」欄の数値は複合体中のハロゲン化リチウム、硫化リチウムのピークの回折角である。また、「LiSとの回折角の差」の「単体(A)」欄の数値は単体での硫化リチウムとハロゲン化リチウムとの回折角の差であり、「複合体(B)」欄の数値は硫黄含有複合体での硫化リチウムとハロゲン化リチウムとの回折角の差であり、「(A)−(B)」欄の数値は、上記「単体(A)」欄の数値と「複合体(B)」欄の数値との差である。
【0105】
実施例で得られた硫黄含有複合体は、図1に示される解析スペクトル、図2〜5の拡大図、及び第2表のピークの回折角の各数値により、(111)面だけでなく、他の(200)面、(220)面、(311)面においても、臭化リチウム及びヨウ化リチウムのハロゲン化リチウムのピークの回折角が硫化リチウムの回折角の方にシフトしたものであることが分かる。
より具体的には、第2表中の「LiSとの回折角の差」の「単体(A)」欄の数値と「複合体(B)」欄の数値との対比より、「複合体(B)」欄の数値が小さくなっている、すなわち、単体での硫化リチウムとハロゲン化リチウムとの回折角の差よりも硫黄含有複合体での硫化リチウムとハロゲン化リチウムとの回折角の差が小さくなっている、ことから、ハロゲン化リチウムのピークの回折角は、硫化リチウムのピークの回折角の方にシフトしていることが分かる。例えば、(111)面の臭化リチウムの場合、硫黄含有複合体での硫化リチウムと臭化リチウムとの回折角の差(0.752°)は、単体での硫化リチウムと臭化リチウムとの回折角の差(1.074°)よりも0.332°小さくなっており、臭化リチウムのピークの回折角は硫化リチウムのピークの回折角の方(高角側)にシフトしており、ヨウ化リチウムの場合、硫黄含有複合体での硫化リチウムとヨウ化リチウムとの回折角の差(1.101°)は、単体での硫化リチウムとヨウ化リチウムとの回折角の差(1.319°)よりも0.218°小さくなっており、ヨウ化リチウムのピークの回折角は硫化リチウムのピークの回折角の方(低角側)にシフトしていることが具体的に確認できる。
【0106】
また、硫化リチウムのシフト幅は0.013°であり、臭化リチウムのシフト幅は0.319°であり、ヨウ化リチウムのシフト幅は0.231°となる。このように、硫化リチウムのシフト幅(0.013°)は、ハロゲン化リチウムのシフト幅(臭化リチウム:0.319°、ヨウ化リチウム:0.231°)と比べて小さくなっており、より具体的には臭化リチウムに対しては0.306°小さく、ヨウ化リチウムに対しては0.218°小さくなっている。このように、硫化リチウムのシフト幅がハロゲン化リチウムのシフト幅よりも小さいことからも、本実施形態の硫黄含有複合体において、ハロゲン化リチウムの回折角が、硫化リチウムの回折角の方にシフトしていると捉えることができる。
一方、比較例1の粉末の場合、硫化リチウムのシフト幅は0.101°のところ、臭化リチウムのシフト幅は0.206°と硫化リチウムのシフト幅よりも大きいが、ヨウ化リチウムのシフト幅は0.078°と硫化リチウムのシフト幅よりも小さく(第2表及び図7参照)、本実施形態の硫黄含有複合体とは異なる挙動を示していることが分かる。
【0107】
図1に示される解析スペクトルから、含酸素ハロゲン化リチウム化合物、ハロゲン化リチウムの含水塩のピークは確認されず、実施例1で得られた硫黄含有複合体はこれらの不純物を含まないことが確認された。また、図1〜5に示される解析スペクトルより、(111)面における硫化リチウムのピーク強度は、ハロゲン化リチウムのピーク強度よりも大きいことが確認された。また、他の(200)面、(220)面、(311)面においても同様の傾向が確認された。
【0108】
一方、図6に示される解析スペクトルでは、硫黄含有複合体以外のピークが確認される。このピークは、含酸素ハロゲン化リチウムのピークであり、比較例1で得られた粉末は、含酸素ハロゲン化リチウムが含まれることが確認された。また、図6及び7に示される解析スペクトルより、(111)面における硫化リチウムのピーク強度は、ハロゲン化リチウムのピーク強度よりも弱いことが確認された。このように、比較例1で得られた粉末は、実施例1の本実施形態の硫黄含有複合体とは全く異なる挙動を示すものであることが確認された。
なお、比較例1で得られた粉末中の不純物は、水酸化リチウムとハロゲン化リチウムとの共存下で加熱したことにより、副反応が発生し、生じたものと考えられる。また、比較例1で得られた粉末は、該副反応に水酸化リチウムが消費され、不純物を生成したため、硫化リチウムへの転化率が低下しているものと考えられる。
【0109】
図8に示される解析スペクトルから、図1にみられるような硫化物複合体のピークが確認されず、また、含酸素ハロゲン化リチウムのピークが確認されていることから、比較例2で得られた粉末は、硫黄含有複合体ではなく、水酸化リチウムと含酸素ハロゲン化リチウム化合物、またはハロゲン化リチウムの含水塩のような不純物との混合物であることが確認された。
【0110】
(実施例2;硫化物固体電解質の作製)
45mLのジルコニア製ポットに、ジルコニアボール53g(5mmφ)、実施例1で得られた硫黄含有複合体1.116g、五硫化二リン0.877gを仕込み、ポットを遊星ミル(「LP−5(型番)」、(株)伊藤製作所製)に装着し、台盤回転数:300rpmで24時間、乾式反応を行った。
【0111】
(比較例3)
45mLのジルコニア製ポットに、ジルコニアボール53g(5mmφ)、硫化リチウム0.556g、ヨウ化リチウム0.277g、臭化リチウム0.285g、五硫化二リン0.877gを仕込み、ポットを遊星ミル(「LP−5(型番)」、(株)伊藤製作所製)に装着し、台盤回転数:300rpmで24時間、乾式反応を行った。
【0112】
実施例2で得られた生成物について、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線解析(XRD)測定を行ったところ、硫化リチウム、ヨウ化リチウム、及び臭化リチウムに由来する回折ピークは検出されず、非晶質の固体電解質であることが確認された。一方、比較例3で得られた生成物について、同様にXRD測定を行ったところ、硫化リチウム、ヨウ化リチウム、及び臭化リチウムに由来する回折ピークが検出され、原料の一部が残存したものであることが確認された。
実施例2及び比較例3の結果から、本実施形態の製造方法により得られた硫黄含有複合体(本実施形態の硫黄含有複合体ともいえる。)を用いた場合、五硫化二リンとの反応性が高く、より効率的に硫化物固体電解質を得ることができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本実施形態の硫黄含有複合体の製造方法により得られる硫黄含有複合体(及び本実施形態の硫黄含有複合体)は、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとが分子レベルで結合し複合化した構造を有することから、硫化物固体電解質の原料として用いられる五硫化二リン等の他の原料との反応性が高い。また、水酸化リチウム、及びリチウム元素と酸素元素とハロゲン元素とが結合した、LiOX(Xはハロゲン元素を示す)といった不純物を含まない。そのため、硫黄含有複合体は、硫化物固体電解質の原料として好適に用いることができる。
得られる硫化物系固体電解質は、リチウムイオン二次電池等に、より具体的には全固体リチウムイオン二次電池の固体電解層に、また正極、負極合材に混合する固体電解質等として好適に用いられる。例えば、正極と、負極と、正極及び負極の間に固体電解質からなる層を設けることで、全固体リチウムイオン二次電池が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8