(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書中において、数値の記載に関する「〜」という用語は、その下限値以上、上限値以下を示す用語である。
[第1実施形態]
本開示の第1実施形態は、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒及びリン酸を含む触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下、160℃未満でプロピレンをオリゴマー化するオリゴマー化工程、プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を含有する留分を得る分留工程、及びリン酸を含む触媒の存在下、前記留分に含まれるプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を異性化する異性化工程を含む、プロピレンオリゴマーの製造方法に関する技術である。
以下に、第1実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[プロピレンオリゴマーの製造方法]
第1実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒及びリン酸を含む触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下、160℃未満でプロピレンをオリゴマー化するオリゴマー化工程、プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を含有する留分を得る分留工程、及びリン酸を含む触媒の存在下、前記留分に含まれるプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を異性化する異性化工程を含む。
第1実施形態の製造方法によって、触媒寿命を延長しつつ、低分岐のプロピレンオリゴマーを高選択率で得ることができる理由は定かではないが、次のように考えられる。
オリゴマー化工程を前記の触媒を用いて、160℃未満という低温で行うことで、不要な副反応や触媒の劣化を防ぎながら、目的とする3量体及び4量体が得られると考えられる。特にリン酸を含む触媒においては、活性維持のために系内に水分を導入する必要があるが、反応温度が高いと水分量を増やす必要がある。第1実施形態の製造方法では、低温で反応することで導入する水分量を減らすことができ、触媒の機械的な強度の低下を抑えることができると考えられる。
次に得られた重合体を分留し、異性化するが、反応の目的とする3量体及び4量体を主成分とするオリゴマーを異性化反応に供し、リン酸を含む触媒を用いることで、分岐度の低い目的の重合度のオリゴマーを高い選択率で得ることができるものと考えられる。また、異性化工程では、残存プロピレンや2量体等の軽質オレフィンの重合反応が起こらず、反応熱を抑えることができるため、触媒の劣化を抑えることができるものと考えられる。更に3量体及び4量体を主成分とするオリゴマーを反応に用いるため、異性化反応を小スケールで行うことができ、効率的に低分岐のプロピレンオリゴマーを得ることができるものと考えられる。
【0016】
<オリゴマー化工程>
本工程は、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒及びリン酸を含む触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下、160℃未満でプロピレンをオリゴマー化する工程である。
プロピレンに代表される低級オレフィンを固体酸触媒に接触させて、そのオレフィンのオリゴマーを得る重合方法をカチオン重合という。カチオン重合によって得られたオリゴマー生成物は、通常、オレフィン2量体、3量体、4量体、およびそれ以上の高級オリゴマーの混合物となる。さらに、各オリゴマーは複雑な反応機構によって生成されるため、単一の炭素骨格および二重結合の位置を持ったオレフィンとして得られることは少なく、通常、様々な異性体の混合物として得られる。
本工程では、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒又はリン酸を含む触媒を用い、比較的低温でカチオン重合を行うため、触媒の劣化を防ぎつつ、各種原料として有用である、プロピレン3量体及びプロピレン4量体を得る。
【0017】
本工程で用いられる触媒に含まれる結晶性モレキュラーシーブは、ゼオライトが好ましい。
前記結晶性モレキュラーシーブとしては、10員環ゼオライト及び12員環ゼオライトが挙げられ、10員環ゼオライト及び12員環ゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、10員環ゼオライトがより好ましい。
【0018】
前記10員環ゼオライトとしては、MFI型(別名:ZSM−5)、MFS型(別名:ZSM−57)、TON型(別名:ZSM−22)、MTT型(別名:ZSM−23)、MEL型(別名:ZSM−11)、FER型、MRE型(別名:ZSM−48)、MWW型(別名:MCM−22)等が挙げられ、MFI型、MFS型、MTT型が好ましく、MFI型がより好ましい。すなわち、前記結晶性モレキュラーシーブとしては、MFI型ゼオライトがより好ましい。
活性を向上させる観点から、前記10員環ゼオライトの窒素吸着法によって測定される全表面積(全表面のBET比表面積)は200m
2/g以上が好ましく、300m
2/g以上がより好ましく、400m
2/g以上が更に好ましい。
反応をより効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトの窒素吸着法によって測定される外表面積(t−プロット法より得られるミクロ孔以外の細孔の比表面積)と全表面積との比(外表面積/全表面積)は0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上が更に好ましい。なお、「BET比表面積」とは、窒素吸着法により測定された吸着等温線を用いて、BET解析により算出された比表面積である。「ミクロ孔以外の細孔の比表面積」とは、窒素吸着法により測定された吸着等温線をt−プロット法により解析して得られる比表面積である。
反応をより効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトのSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察される結晶径は1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。
反応を効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比(Si/Al)は100以下が好ましく、50以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。
反応を効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトのNH
3−TPDで測定した酸量は150μmol/g以上が好ましく、200μmol/g以上がより好ましく、250μmol/g以上が更に好ましい。
触媒としての成型性を向上させるため、ゼオライトの成型時にバインダーを使用してもよい。バインダーにはアルミナ、シリカ、粘土等の金属酸化物が使用でき、機械強度や価格、酸点への影響等の観点からバインダーはアルミナが好ましい。バインダーの使用量が少ないほど、活性種であるゼオライト量が増加するため、バインダー量は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0019】
前記12員環ゼオライトとしては、FAU型(別名:Y型ゼオライト)、BEA型(別名:βゼオライト)、MOR型、MTW型(別名:ZSM−12)、OFF型、LTL型(別名:L型ゼオライト)が挙げられ、FAU型、BEA型が好ましく、BEA型がより好ましい。
活性を向上させる観点から、前記12員環ゼオライトの窒素吸着法によって測定される全表面積(全表面のBET比表面積)は200m
2/g以上が好ましく、300m
2/g以上がより好ましく、400m
2/g以上が更に好ましい。
反応をより効率的に進行させる観点から、前記12員環ゼオライトの窒素吸着法によって測定される外表面積(t−プロット法より得られるミクロ孔以外の細孔の比表面積)と全表面積との比(外表面積/全表面積)は0.4以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、0.6以上が更に好ましい。
反応をより効率的に進行させる観点から、前記12員環ゼオライトのSEMによって観察される結晶径は1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。反応を効率的に進行させる観点から、前記12員環ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比(Si/Al)は100以下が好ましく、50以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。
反応を効率的に進行させる観点から、前記12員環ゼオライトのNH
3−TPDで測定した酸量は150μmol/g以上が好ましく、200μmol/g以上がより好ましく、250μmol/g以上が更に好ましい。
触媒としての成型性を向上させるため、ゼオライトの成型時にバインダーを使用してもよい。バインダーにはアルミナ、シリカ、粘土鉱物等の金属酸化物が使用でき、機械強度や価格、酸点への影響等の観点からバインダーはアルミナが好ましい。バインダーの使用量が少ないほど、活性種であるゼオライト量が増加するため、バインダー量は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
前記結晶性モレキュラーシーブを含む触媒は、固定床反応器に充填し、固定床触媒として用いることが好ましい。
【0020】
本工程で用いられるリン酸を含む触媒は、固体リン酸触媒であることが好ましい。
固体リン酸触媒は、リン酸を担体に担持した触媒である。
リン酸としては、オルトリン酸、ピロリン酸及びトリリン酸が挙げられ、オルトリン酸が好ましい。固体リン酸触媒に含まれる遊離リン酸は、16質量%以上であることが好ましく、触媒活性を高めるためには、より多いことが好ましい。なお、通常、16〜20質量%の遊離リン酸が含まれる。
担体としては、珪藻土、カオリン、シリカ等が挙げられ、珪藻土が好ましい。
これら担体は、触媒の強度を向上させるために、添加物を含んでもよい。添加物としては、タルク、粘土鉱物、酸化鉄等の鉄化合物等が挙げられる。
固体リン酸触媒は、次のようにして得ることができる。
まず、リン酸と担体を混合し、ペースト状物又は粘土状物を得て、ペレット状又は粒子状に成形することが好ましい。次の乾燥及び焼成後に破砕して粒子状にしてもよい。
次に前記ペースト状物又は前記粘土状物を乾燥し、続いて焼成して、触媒ペレット又は触媒粒子を得る。
乾燥する際の温度は、100〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。
焼成する際の温度は、300〜600℃が好ましく、350〜500℃がより好ましい。
リン酸を含む触媒は、水分を含有することが好ましい。リン酸を含む触媒に水分を含有させる方法としては、前記触媒ペレット又は触媒粒子に水蒸気を流通することによって、触媒に水分を含有させる方法、反応器にリン酸を含む触媒と水を添加する方法が挙げられる。
【0021】
固体リン酸触媒における、リン酸の含有量は、無水リン酸(P
2O
5)換算で30〜60質量%が好ましく、40〜50質量%がより好ましい。
固体リン酸触媒における、担体の含有量は、40〜80質量%が好ましく、50〜60質量%がより好ましい。
前記リン酸を含む触媒は、固定床反応器に充填し、固定床触媒として用いることが好ましい。
【0022】
本工程においては、反応を開始する前に、触媒中の不純物を除去する前処理を行うことが好ましい。前処理方法としては、窒素やLPG等の不活性なガスを高温とし、このガス気流を反応器に流通させる方法が好ましい。
前処理の温度としては、100〜500℃が好ましく、150〜400℃がより好ましく、150〜300℃が更に好ましい。前処理の時間は、反応器の大きさによって異なるが、1〜20時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
また、反応を開始する前に、触媒中の水分量を調整することが好ましい。結晶性モレキュラーシーブを含む触媒の場合には、触媒活性を高めるために水分を除去することが好ましく、触媒の寿命を延ばすためには、水分を添加することが好ましい。水分を除去する方法としては、前記の前処理方法を用いることが好ましい。リン酸を含む触媒の場合には、活性化のために水分を導入することが好ましい。
次にプロピレンを導入する。
導入するプロピレンは、本反応に対して不活性なガスとの混合物として用いてもよいが、プロピレンをオリゴマー化する本工程において、触媒を除く反応混合物中のプロピレンの濃度は、55体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、65体積%以上であることが更に好ましく、70体積%以上であることがより更に好ましい。
【0023】
プロピレンをオリゴマー化する本工程における反応温度は、160℃未満であり、90℃以上160℃未満が好ましく、120℃以上160℃未満がより好ましく、140℃以上155℃以下が更に好ましい。触媒として、リン酸を含む触媒を用いた場合には、130℃以上160℃未満が好ましく、140℃以上160℃未満がより好ましく、140℃以上155℃以下が更に好ましく、触媒として、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒を用いた場合には、90℃以上160℃未満が好ましく、120℃以上160℃未満がより好ましく、140℃以上155℃以下が更に好ましい。160℃未満で反応することによって、触媒の劣化を抑制しつつ、プロピレンオリゴマーを高収率で得ることができる。
なお、前記反応温度は、反応器中の平均温度であり、反応器中の触媒に接する部分の上流部の温度と下流部の温度を平均した温度を指す。
プロピレンをオリゴマー化する本工程における液空間速度は、5時間
−1以下であることが好ましく、4時間
−1以下であることがより好ましく、3時間
−1以下であることが更に好ましく、2時間
−1以下であることがより更に好ましい。液空間速度を5時間
−1以下とすることによって、プロピレン3量体、プロピレン4量体、又はこれらの混合物が高収率で得られる。
プロピレンをオリゴマー化する本工程における予備反応時間は、100時間以上であることが好ましく、200時間以上であることが好ましく、250時間以上であることが好ましく、270時間以上であることが好ましい。反応生成物を取得する前に予備反応時間を設けることによって、触媒を安定化させることができ、プロピレン3量体、プロピレン4量体、又はこれらの混合物を高収率で得ることができる。
本工程におけるプロピレンの転化率は、50〜99.9%が好ましく、50〜99%がより好ましく、60〜97%が更に好ましく、70〜95%がより更に好ましい。
本工程では、反応器の除熱や未反応プロピレン量を減少させる目的から、反応器出口から出てくる未反応のプロピレンや反応で生じた軽質なオリゴマーを再度反応器に戻して、リサイクルすることも可能である。軽質なオリゴマーは、たとえば、プロピレンの2量体である。リサイクルを行う場合、生産効率の観点から、フレッシュフィード(原料のプロピレン)とリサイクル(未反応のプロピレンや軽質なオリゴマー)の比(R/F)は、0.1〜10が好ましく、0.3〜6がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0024】
<分留工程>
第1実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を含有する留分を得る分留工程を含む。
本分留工程は、以下の目的で行うことが好ましい。
(1)不純物の除去:オリゴマー化で生成する副生成物である低分子量物(たとえばプロピレン2量体)や高分子量物(5量体以上の多量体)、分解等の副反応によって得られる3の倍数の炭素数ではないオレフィンのような変性物等を除去するために行う。
(2)異性化工程に用いる成分の分取:プロピレン3量体、プロピレン4量体、又はこれらの混合物を高濃度で得るために行う。
前記の(1)及び(2)の両方の目的での分留を同時に行ってもよく、(1)の目的での分留を行ったのちに、(2)の目的での分留を行ってもよい。なかでも(1)の目的での分留を行ったのちに、(2)の目的での分留を行うことが好ましい。
以下、特に(2)の目的での分留の条件を示す。
【0025】
本分留工程を行うことで、異性化工程に用いる成分を効率的に得ることができる。本分留工程を行わずに、オリゴマー化工程の後にすぐに異性化工程を行うと、必要とするオリゴマー以外に低分子量物、変性物等も同時に反応器に導入することになるため、これらの分解等の副反応が進行してしまい、目的のプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物の異性体の収率が低下する。また、オリゴマー化工程で残存したプロピレンや生成したプロピレン2量体等の軽質オレフィンが異性化工程においても重合するため、重合反応による発熱が生じることで反応温度が上昇してしまう。このため、異性化工程に使用する反応器のサイズが大きくなり、異性化工程後の分画・精製の負荷も多大になることから、異性化工程におけるエネルギーやコスト面でも不利となる。
また、本分留工程を行うことで、プロピレンや軽質オレフィンを含まないことから、高温下での異性化工程の反応圧力を低くすることができ、反応器の設備コストを抑えることができる。
【0026】
本分留工程において、プロピレン3量体とプロピレン4量体の混合物を主成分とする留分を得て、異性化反応の後に分画してもよいし、プロピレン3量体又はプロピレン4量体のいずれか、必要とするオリゴマーを選択して分取し、異性化工程を行ってもよい。なかでも、プロピレン3量体とプロピレン4量体の混合物を主成分とする留分を得て、異性化反応の後に分画することが好ましい。このように本工程でプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を主成分とする留分を得ることで、異性化工程に使用する反応器のサイズをより小さくすることができるとともに、必要とする異性体を収率よく得ることができる上に、異性化工程後の分画・精製がより容易になる。
【0027】
分留の条件は、圧力や蒸留装置の大きさ、蒸留塔の段数等によって異なり、また、生産効率や目的とする純度、用途によって異なるが、プロピレン3量体又はプロピレン4量体である炭素数9又は炭素数12のオレフィンが得られる条件で行うことが好ましい。
【0028】
プロピレン3量体である炭素数9のオレフィンを主として得る場合、常圧(1気圧)における蒸留の留出設定温度は、120〜160℃であることが好ましく、125〜155℃であることがより好ましく、130〜150℃であることが更に好ましく、130〜145℃であることがより更に好ましい。
プロピレン4量体である炭素数12のオレフィンを主として得る場合、常圧(1気圧)における蒸留の留出設定温度は、150〜230℃であることが好ましく、160〜220℃であることがより好ましく、170〜210℃であることが更に好ましい。
また、プロピレン3量体とプロピレン4量体の混合物を主として得る場合、常圧(1気圧)における蒸留の留出設定温度は、120℃以上であることが好ましく、125℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましい。上限は、より高分子量の重合体の生成量によって異なるが、生成量が少ない場合は、残部全てが留出するまで蒸留を行ってもよい。より高分子量の重合体が多い場合、230℃以下が好ましく、220℃以下がより好ましく、210℃以下が更に好ましい。
【0029】
<異性化工程>
本工程は、リン酸を含む触媒の存在下、前記留分に含まれるプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を異性化する工程である。
【0030】
本工程で用いられるリン酸を含む触媒は、前記<オリゴマー化工程>で用いたものと同様のものを用いることができ、好適な触媒も同様である。
リン酸を含む触媒を用いることで、目的とする低分岐のプロピレンオリゴマーを高選択率で効率的に得ることができる。
【0031】
本工程においては、反応を開始する前に、触媒中の水分量を調整することが好ましい。触媒活性を高めるためには、水分を導入することが望ましい。
【0032】
本異性化工程は、160℃以上で行うことが好ましい。本工程おける反応温度は、160℃以上が好ましく、160〜260℃が好ましく、160〜230℃がより好ましく、170〜220℃が更に好ましく、180〜200℃がより更に好ましい。160℃以上で反応することによって、目的とする分岐度の低いプロピレンオリゴマーを収率よく、効率的に得ることができる。
なお、前記反応温度は、反応器中の平均温度であり、反応器中の触媒に接する部分の上流部の温度と下流部の温度を平均した温度を指す。
本異性化工程における反応圧力は、プロピレンの臨界圧力未満であることが好ましい。なお、「プロピレンの臨界圧力」とは、プロピレンの臨界点における圧力であり、具体的には4.66MPa(絶対圧)である。上述した分留工程を経ることにより、留分にはプロピレンや軽質オレフィンが含まれない。このため、異性化原料の主たる構成要素であるプロピレン3量体及びプロピレン4量体が、プロピレンの臨界圧力以上に加圧しなくても、上記の反応温度で液相を保つことができる。液相で異性化を行うことにより、反応効率を向上させることができる。異性化工程における反応圧力は、3.00MPa以下であることが好ましく、2.00MPa以下であることがより好ましく、1.50MPa以下であることが更に好ましく、1.00MPa以下であることが特に好ましい。なお、ここでの反応圧力はゲージ圧である。また、主たる原料であるプロピレン3量体が液層を保つ圧力という観点から、異性化工程における反応圧力は、0.00MPa以上(大気圧以上)であることが好ましく、0.05MPa以上であることがより好ましい。なお、ここでの反応圧力はゲージ圧である。
本異性化工程における液空間速度は、0.1〜10時間
−1であることが好ましく、0.2〜8時間
−1であることがより好ましく、0.5〜6時間
−1であることが更に好ましく、1〜4時間
−1であることがより更に好ましい。液空間速度を上記の範囲とすることによって、プロピレン3量体および4量体の収率を大幅に低下させることなく、目的とする分岐度の低いプロピレンオリゴマーを得られる。
本異性化工程を行うことによって、高い選択率で目的とする重合度のプロピレンオリゴマーを得ることができる。
本異性化工程における副産物選択率は、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。副産物とは、製品となるプロピレン3量体および4量体や、リサイクル等によって再度オリゴマー化工程を行うことで製品となりえるプロピレン2量体以外の化合物のことであって、具体的には、重合反応によって生じる高分子量物(プロピレン5量体以上の多量体)や分解等の副反応によって生じる3の倍数の炭素数ではないオレフィンのような変性物等のことである。副産物選択率とは、異性化工程後の生成液における副産物の含有割合をいう。
【0033】
第1実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、本異性化工程の後に、分画工程を含んでいてもよい。得られた異性体を分画することで、不純物や変性物を除去することができる。
本異性化工程の後に行う分画工程の蒸留条件は、目的とするオリゴマーによって、異なるが、前記<分留工程>に記載した条件であることが好ましい。
【0034】
<前記製造方法で得られたプロピレンオリゴマー>
第1実施形態の製造方法で得られたプロピレンオリゴマーは、分岐度が低いものであり、TypeVオレフィンの含有量が少ないものであることが好ましい。
ここで「TypeVオレフィン」及びプロピレンオリゴマーのオレフィンタイプについて説明する。
プロピレンオリゴマーのオレフィンタイプは、表1に示すように二重結合の置換度とその位置によって分類することができる。式中のCは炭素原子を、Hは水素原子を表しており、=は二重結合を表している。また、式中のRはアルキル基を表し、各Rは同じでも異なっていてもよく、プロピレン3量体においては、1分子中のRの炭素数の合計は7であり、プロピレン4量体においては、1分子中のRの炭素数の合計は10である。
つまり、RRC=CRRの構造を有するプロピレンオリゴマーのオレフィンタイプを「TypeVオレフィン」という。
TypeIはビニルタイプと呼ばれることがあり、TypeIIIはビニリデンタイプと呼ばれることがある。
【0036】
オリゴマー異性体の分岐度や二重結合の位置が異なることにより、そのオリゴマーを供給原料として使用する下流プロセスにおいて、各オリゴマー異性体の反応性が異なることがある。例えば、分岐度が低い異性体においては、ヒドロホルミル化反応(オキソ法)のような反応において高活性である。このような反応性の違いは、二重結合の周りの立体的な環境の違いによるものと考えられる。
また、オリゴマー異性体の分岐度や二重結合の位置の違いは、反応性だけでなく、そのオリゴマーを供給原料として使用する下流プロセスでの製品性状に影響を与えることもある。第1実施形態の製造方法で得られるプロピレンオリゴマーのように、直鎖状または低分岐な異性体が多く含まれるオリゴマーは、潤滑油や洗剤の原料として有用である。
【0037】
第1実施形態の製造方法で得られるプロピレンオリゴマーがプロピレン3量体である場合、プロピレン3量体は、TypeVオレフィン濃度が22質量%以下であることが好ましく、21質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、19質量%以下がより更に好ましく、18質量%以下がより更に好ましい。下限には制限はないが、生産効率の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。
TypeVオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
TypeVオレフィン濃度が23質量%以下であると、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0038】
プロピレン3量体は、TypeVオレフィン以外に、TypeIVオレフィン、TypeIIIオレフィン、TypeIIオレフィン、TypeIオレフィンを含んでいてもよい。
【0039】
第1実施形態のプロピレン3量体のTypeIVオレフィン濃度は、50質量%以上が好ましく、52質量%以上がより好ましく、55質量%以上が更に好ましい。上限には制限はないが、生産効率の観点から、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
TypeIVオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeIVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
【0040】
第1実施形態のプロピレン3量体のTypeIIオレフィン濃度は、14質量%以上が好ましく、15質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、18質量%以上が更に好ましい。上限には制限はないが、生産効率の観点から、25質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましい。
TypeIIオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeIIオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
【0041】
第1実施形態のプロピレン3量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による留出温度(初留点〜終点)は、120〜160℃であることが好ましく、125〜155℃であることがより好ましく、130〜150℃であることが更に好ましく、130〜148℃であることがより更に好ましく、130〜145℃であることがより更に好ましい。なお、常圧法蒸留試験方法は、試料をその性状によって所定のグループに区分し、試料100mLを各条件のもと蒸留し、初留点、留出温度、留出量、終点などを測定する試験方法である。
第1実施形態のプロピレン3量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による50容量%留出温度は、132〜142℃であることが好ましく、134〜140℃であることがより好ましく、135〜138℃であることが更に好ましい。
プロピレン3量体の沸点(蒸留試験による留出温度)が前記の範囲であることにより、目的とする、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0042】
第1実施形態の製造方法で得られるプロピレンオリゴマーがプロピレン4量体である場合、プロピレン4量体は、TypeVオレフィン濃度が30質量%以下であることが好ましく、26質量%以下がより好ましく、22質量%以下が更に好ましく、20質量%以下がより更に好ましく、18質量%以下がより更に好ましい。下限には制限はないが、生産効率の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
TypeVオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
TypeVオレフィン濃度が30質量%以下であると、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0043】
プロピレン4量体は、TypeVオレフィン以外に、TypeIVオレフィン、TypeIIIオレフィン、TypeIIオレフィン、TypeIオレフィンを含んでいてもよい。
【0044】
第1実施形態のプロピレン4量体のTypeIVオレフィン濃度は、55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、63質量%以上が更に好ましく、65質量%以上がより更に好ましい。上限には制限はないが、生産効率の観点から、85質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましい。
TypeIVオレフィン濃度とは、プロピレン4量体中のTypeIVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
【0045】
第1実施形態のプロピレン4量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による留出温度(初留点〜終点)は、150〜230℃であることが好ましく、155〜225℃であることがより好ましく、160〜220℃であることが更に好ましく、165〜215℃であることがより更に好ましく、170〜210℃であることがより更に好ましい。
第1実施形態のプロピレン4量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による50容量%留出温度は、175〜195℃であることが好ましく、180〜190℃であることがより好ましく、185〜190℃であることが更に好ましい。
プロピレン4量体の沸点(蒸留試験による留出温度)が前記の範囲であることにより、目的とする、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0046】
[第2実施形態]
本開示の第2実施形態は、プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を含有するオリゴマーを、リン酸を含む触媒からなる群より選ばれる少なくとも1種の存在下、プロピレンの臨界圧力未満で異性化する工程を含む、プロピレンオリゴマーの製造方法に関する技術である。
【0047】
プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を主成分とするオリゴマーを異性化することにより、異性化反応を小スケールで行うことができ、分岐度の低い目的の重合度のオリゴマーを高い選択率で得ることができる。また、プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を主成分とするオリゴマーは、プロピレンの臨界圧力未満の反応圧力でも液相として存在する。このため、第2実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、気相反応を用いた製造方法と比較して反応効率を高めることができる。また、液相で反応させることで反応中に生成した重質物を洗い流すことができるため、気相反応を用いた製造方法と比較して異性化反応に用いる触媒の寿命を延長することができるという効果も奏する。更に、第2実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、低圧での反応が可能となることから、高い耐圧仕様の反応容器とする必要がなくなり、製造コストを低減させることもできる。
以下に、第2実施形態について詳細に説明する。
【0048】
[プロピレンオリゴマーの製造方法]
第2実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法では、プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を主成分とするオリゴマーを異性化する。「主成分」とは、具体的に、オリゴマー中のプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物の割合が、50質量%以上であることを意味する。異性化される前のオリゴマー(被異性化物)に含まれるプロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物の割合は、55質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることが更に好ましい。異性化される前のオリゴマーには、プロピレン3量体、プロピレン4量体以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、プロピレン、プロピレン2量体、プロピレン5量体以上の多量体、分解等の副反応によって得られる3の倍数の炭素数ではないオレフィンのような変性物、などである。プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物の割合は、100質量%であることが好ましいが、95質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、85質量%以下であってもよい。
【0049】
異性化反応の原料となる異性化される前のオリゴマーは、プロピレンをオリゴマー化して得られたものそのままであってもよく、オリゴマー化後に分留された留分であってもよい。
本実施形態においては、オリゴマー化は、第1実施形態のオリゴマー化工程と同じ条件で行ってもよい。ただし、オリゴマー化工程とは異なる反応温度は、第1実施形態と同様に160℃未満であってもよいが、第1実施形態よりも高い温度であってもよく、具体的に160℃以上220℃未満であってもよい。
また、分留は、第1実施形態の分留工程と同じ条件で行うことができる。分留工程を行うことで、プロピレンや軽質オレフィンを含まないオリゴマーを異性化することができる。この結果、本異性化工程の反応圧力をプロピレンの臨界圧力よりも低くすることができるので、製造コストを抑えることができる。
【0050】
<異性化工程>
本工程で用いられるリン酸を含む触媒は、目的とする低分岐のプロピレンオリゴマーを高選択率で効率的に得るとの観点から、固体リン酸触媒であることが特に好ましい。
リン酸としては、オルトリン酸、ピロリン酸及びトリリン酸が挙げられ、オルトリン酸が好ましい。固体リン酸触媒に含まれる遊離リン酸は、16質量%以上であることが好ましく、触媒活性を高めるためには、より多いことが好ましい。なお、通常、16〜20質量%の遊離リン酸が含まれる。
担体としては、珪藻土、カオリン、シリカ等が挙げられ、珪藻土が好ましい。
これら担体は、触媒の強度を向上させるために、添加物を含んでもよい。添加物としては、タルク、粘土鉱物、酸化鉄等の鉄化合物等が挙げられる。
固体リン酸触媒は、次のようにして得ることができる。
まず、リン酸と担体を混合し、ペースト状物又は粘土状物を得て、ペレット状又は粒子状に成形することが好ましい。次の乾燥及び焼成後に破砕して粒子状にしてもよい。
次に前記ペースト状物又は前記粘土状物を乾燥し、続いて焼成して、触媒ペレット又は触媒粒子を得る。
乾燥する際の温度は、100〜300℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。
焼成する際の温度は、300〜600℃が好ましく、350〜500℃がより好ましい。
リン酸を含む触媒は、水分を含有することが好ましい。リン酸を含む触媒に水分を含有させる方法としては、前記触媒ペレット又は触媒粒子に水蒸気を流通することによって、触媒に水分を含有させる方法、反応器にリン酸を含む触媒と水を添加する方法が挙げられる。
【0051】
固体リン酸触媒における、リン酸の含有量は、無水リン酸(P
2O
5)換算で30〜60質量%が好ましく、40〜50質量%がより好ましい。
固体リン酸触媒における、担体の含有量は、40〜80質量%が好ましく、50〜60質量%がより好ましい。
前記リン酸を含む触媒は、固定床反応器に充填し、固定床触媒として用いることが好ましい。
【0052】
本工程においては、反応を開始する前に、触媒中の水分量を調整することが好ましい。触媒活性を高めるためには、水分を導入することが望ましい。
【0053】
本異性化工程における反応圧力は、プロピレンの臨界圧力未満である。「プロピレンの臨界圧力」とは、プロピレンの臨界点における圧力であり、具体的には4.66MPa(絶対圧)である。プロピレン3量体、プロピレン4量体又はこれらの混合物を主成分とするオリゴマーは、プロピレンの臨界圧力未満の反応圧力でも液相として存在する。すなわち、プロピレンの臨界圧力未満でも液相で異性化反応を行うことができるため、反応効率を向上させることができる。異性化工程における反応圧力は、3.00MPa以下であることが好ましく、2.00MPa以下であることがより好ましく、1.50MPa以下であることが更に好ましく、1.00MPa以下であることが特に好ましい。なお、ここでの反応圧力はゲージ圧である。また、主たる原料であるプロピレン3量体が液層を保つ圧力という観点から、異性化工程における反応圧力は、0.00MPa以上(大気圧以上)であることが好ましく、0.05MPa以上であることがより好ましい。なお、ここでの反応圧力はゲージ圧である。
【0054】
本異性化工程は、160℃以上で行うことが好ましい。本工程おける反応温度は、160℃以上が好ましく、160〜260℃が好ましく、160〜230℃がより好ましく、170〜220℃が更に好ましく、180〜200℃がより更に好ましい。160℃以上で反応することによって、目的とする分岐度の低いプロピレンオリゴマーを収率よく、効率的に得ることができる。
なお、前記反応温度は、反応器中の平均温度であり、反応器中の触媒に接する部分の上流部の温度と下流部の温度を平均した温度を指す。
本異性化工程における液空間速度は、0.1〜10時間
−1であることが好ましく、0.2〜8時間
−1であることがより好ましく、0.5〜6時間
−1であることが更に好ましく、1〜4時間
−1であることがより更に好ましい。液空間速度を上記の範囲とすることによって、プロピレン3量体および4量体の収率を大幅に低下させることなく、目的とする分岐度の低いプロピレンオリゴマーを得られる。
本異性化工程を行うことによって、高い選択率で目的とする重合度のプロピレンオリゴマーを得ることができる。
【0055】
本異性化工程における副産物選択率は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。副産物とは、製品となるプロピレン3量体および4量体や、リサイクル等によって再度オリゴマー化工程を行うことで製品となりえるプロピレン2量体以外の化合物のことであって、具体的には、重合反応によって生じる高分子量物(プロピレン5量体以上の多量体)や分解等の副反応によって生じる3の倍数の炭素数ではないオレフィンのような変性物等のことである。副産物選択率とは、異性化工程後の生成液における副産物の含有割合をいう。
【0056】
第2実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法では、本異性化工程の後に、分画工程を含んでいてもよい。得られた異性体を分画することで、不純物や変性物を除去することができる。
本異性化工程の後に行う分画工程の蒸留条件は、目的とするオリゴマーによって、異なるが、第1実施形態の<分留工程>に記載した条件であることが好ましい。
【0057】
<前記製造方法で得られたプロピレンオリゴマー>
第2実施形態の製造方法で得られたプロピレンオリゴマーは、分岐度が低いものであり、TypeVオレフィンの含有量が少ないものであることが好ましい。
【0058】
第2実施形態の製造方法で得られるプロピレンオリゴマーがプロピレン3量体である場合、プロピレン3量体は、TypeVオレフィン濃度が22質量%以下であることが好ましく、21質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、19質量%以下がより更に好ましく、18質量%以下がより更に好ましい。下限には制限はないが、生産効率の観点から、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。
TypeVオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
TypeVオレフィン濃度が23質量%以下であると、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0059】
プロピレン3量体は、TypeVオレフィン以外に、TypeIVオレフィン、TypeIIIオレフィン、TypeIIオレフィン、TypeIオレフィンを含んでいてもよい。
【0060】
第2実施形態のプロピレン3量体のTypeIVオレフィン濃度は、50質量%以上が好ましく、52質量%以上がより好ましく、55質量%以上が更に好ましい。上限には制限はないが、生産効率の観点から、70質量%以下が好ましく、65質量%以下がより好ましい。
TypeIVオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeIVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
【0061】
第2実施形態のプロピレン3量体のTypeIIオレフィン濃度は、14質量%以上が好ましく、15質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、18質量%以上が更に好ましい。上限には制限はないが、生産効率の観点から、25質量%以下が好ましく、22質量%以下がより好ましい。
TypeIIオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeIIオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
【0062】
第2実施形態のプロピレン3量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による留出温度(初留点〜終点)は、120〜160℃であることが好ましく、125〜155℃であることがより好ましく、130〜150℃であることが更に好ましく、130〜148℃であることがより更に好ましく、130〜145℃であることがより更に好ましい。なお、常圧法蒸留試験方法は、試料をその性状によって所定のグループに区分し、試料100mLを各条件のもと蒸留し、初留点、留出温度、留出量、終点などを測定する試験方法である。
第2実施形態のプロピレン3量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による50容量%留出温度は、132〜142℃であることが好ましく、134〜140℃であることがより好ましく、135〜138℃であることが更に好ましい。
プロピレン3量体の沸点(蒸留試験による留出温度)が前記の範囲であることにより、目的とする、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0063】
第2実施形態の製造方法で得られるプロピレンオリゴマーがプロピレン4量体である場合、プロピレン4量体は、TypeVオレフィン濃度が30質量%以下であることが好ましく、26質量%以下がより好ましく、22質量%以下が更に好ましく、20質量%以下がより更に好ましく、18質量%以下がより更に好ましい。下限には制限はないが、生産効率の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
TypeVオレフィン濃度とは、プロピレン3量体中のTypeVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
TypeVオレフィン濃度が30質量%以下であると、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0064】
プロピレン4量体は、TypeVオレフィン以外に、TypeIVオレフィン、TypeIIIオレフィン、TypeIIオレフィン、TypeIオレフィンを含んでいてもよい。
【0065】
第2実施形態のプロピレン4量体のTypeIVオレフィン濃度は、55質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、63質量%以上が更に好ましく、65質量%以上がより更に好ましい。上限には制限はないが、生産効率の観点から、85質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましい。
TypeIVオレフィン濃度とは、プロピレン4量体中のTypeIVオレフィンの含有量(質量%)であり、その測定及び算出方法は実施例に記載した方法を用いる。
【0066】
第2実施形態のプロピレン4量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による留出温度(初留点〜終点)は、150〜230℃であることが好ましく、155〜225℃であることがより好ましく、160〜220℃であることが更に好ましく、165〜215℃であることがより更に好ましく、170〜210℃であることがより更に好ましい。
第2実施形態のプロピレン4量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による50容量%留出温度は、175〜195℃であることが好ましく、180〜190℃であることがより好ましく、185〜190℃であることが更に好ましい。
プロピレン4量体の沸点(蒸留試験による留出温度)が前記の範囲であることにより、目的とする、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0067】
[第3実施形態]
本開示の第3実施形態は、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が30質量%以上であるプロピレンオリゴマーである。また、本開示の第3実施形態は、該プロピレンオリゴマーを製造する方法として、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒の存在下、プロピレンをオリゴマー化する工程を含み、窒素吸着法により得られる前記結晶性モレキュラーシーブのBET比表面積をa[m
2/g]、窒素吸着法により測定された吸着等温線をt−プロット法により解析して得られる前記結晶性モレキュラーシーブのミクロ孔比表面積をb[m
2/g]としたときに、a/bが1.8以下である、プロピレンオリゴマーの製造方法に関する技術である。
なお、本発明のおける「ミクロ孔」とは、結晶性モレキュラーシーブが有する細孔の中でも、直径2nm以下の細孔である。「細孔」とは、IUPACで規定されるミクロ孔、メソ孔、マクロ孔の総称であり、具体的には窒素吸着で測定される孔である。「BET比表面積」とは、窒素吸着法で測定された吸着等温線を用いて、BET解析により算出された結晶性モレキュラーシーブの比表面積である。また、「ミクロ孔比表面積」とは、窒素吸着法で測定された吸着等温線を、t−プロット法により解析することによって得られる比表面積である。結晶性モレキュラーシーブのミクロ孔比表面積は、t−プロット法による解析から直接算出される値であってもよく、t−プロット法による解析でミクロ孔以外の細孔の比表面積を算出し、上記BET比表面積からミクロ孔以外の細孔の比表面積を引いて算出された値であってもよい。
以下に、第3実施形態について詳細に説明する。
【0068】
[プロピレンオリゴマー]
第3実施形態におけるプロピレンオリゴマーは、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が30質量%以上である。
本開示における4,6,6−トリメチル−3−ノネンには、下記化学式(I)及び(II)で表される幾何異性体が含まれる。4,6,6−トリメチル−3−ノネンは、上記表1におけるTypeIVオレフィンに該当する。
【化1】
【化2】
【0069】
高分岐な異性体においては、例えば、コッホ反応やアルキレーション反応のような反応において高活性である。このような反応性の違いは、二重結合の周りの立体的な環境の違いによるものと考えられる。また、高分岐な異性体が多く含まれるオリゴマーを用いて製造した製品の粘度は、直鎖状または低分岐な異性体が多く含まれるオリゴマーを用いて製造した製品の粘度よりも低くなる。これは粘度に限られた現象ではなく、界面活性剤用途の洗浄性や生分解性等が向上することも期待できる。
すなわち、本開示のプロピレンオリゴマーは、高分岐のプロピレンオリゴマーである4,6,6−トリメチル−3−ノネンを高濃度で含むことから、界面活性剤等の原料として有用である。
【0070】
第3実施形態におけるプロピレンオリゴマーにおいて、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度は、30質量%以上であり、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましい。濃度の上限値は特に制限はなく、100質量%であることが特に好ましいが、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよい。
4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度の測定及び算出方法は、実施例に記載した方法を用いる。
【0071】
第3実施形態において、プロピレン4量体には、4,6,6−トリメチル−3−ノネン以外のTypeIVオレフィン、TypeVオレフィン、TypeIIIオレフィン、TypeIIオレフィン、TypeIオレフィンが含まれていてもよい。本実施形態において、4,6,6−トリメチル−3−ノネン以外のTypeIVオレフィン、TypeVオレフィン、TypeIIIオレフィン、TypeIIオレフィン、TypeIオレフィンの各含有割合は特に制限されない。
【0072】
第3実施形態のプロピレン4量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による留出温度(初留点〜終点)は、150〜230℃であることが好ましく、155〜225℃であることがより好ましく、160〜220℃であることが更に好ましく、165〜215℃であることがより更に好ましく、170〜210℃であることがより更に好ましい。なお、常圧法蒸留試験方法は、試料をその性状によって所定のグループに区分し、試料100mLを各条件のもと蒸留し、初留点、留出温度、留出量、終点などを測定する試験方法である。
第3実施形態のプロピレン4量体のJIS K2254:2018に規定される常圧法蒸留試験方法による50容量%留出温度は、175〜195℃であることが好ましく、180〜190℃であることがより好ましく、185〜190℃であることが更に好ましい。
プロピレン4量体の沸点(蒸留試験による留出温度)が前記の範囲であることにより、目的とする、各種オレフィン誘導体の原料として好適に用いることができる。
【0073】
第3実施形態におけるプロピレンオリゴマーは、プロピレン4量体以外のプロピレンオリゴマーを含有していてもよい。プロピレン4量体以外のプロピレンオリゴマーとしては、2量体、3量体、5量体以上の多量体が挙げられる。また、第3実施形態におけるプロピレンオリゴマーは、分解等の副反応によって得られる3の倍数の炭素数ではないオレフィンのような変性物等を含んでいてもよい。
【0074】
第3実施形態におけるプロピレンオリゴマーは、プロピレン4量体を3質量%以上含有することが好ましい。プロピレン4量体の含有量が3質量%以上であることにより、結果として、プロピレンオリゴマー中に4,6,6−トリメチル−3−ノネンを高濃度で含ませることができる。プロピレン4量体の含有量は、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、15質量%以上であることが特に好ましい。また、プロピレン4量体の含有量の上限値は特に制限はないが、80質量%以下であってもよく、70質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
【0075】
後述する分留工程を行っていない場合、プロピレンオリゴマー中のプロピレン2量体の含有量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
また、後述する分留工程を行っていない場合、プロピレンオリゴマー中のプロピレン3量体の含有量は、15質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。一方、プロピレン4量体の含有量を高くするとの観点では、プロピレンオリゴマー中のプロピレン3量体の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
[プロピレンオリゴマーの製造方法]
<オリゴマー化工程>
第3実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、結晶性モレキュラーシーブを含む触媒の存在下、プロピレンをオリゴマー化する工程を含み、窒素吸着法により得られる前記結晶性モレキュラーシーブのBET比表面積をa[m
2/g]、窒素吸着法により測定された吸着等温線をt−プロット法により解析して得られる前記結晶性モレキュラーシーブのミクロ孔比表面積をb[m
2/g]としたときに、a/bが1.8以下である。
上記オリゴマー化工程により、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が30質量%以上であるプロピレンオリゴマーを生成することができる。すなわち、a/bが1.8以下である結晶性モレキュラーシーブを触媒としてオリゴマー化することにより、特定構造を有するオリゴマーを高選択率で得ることができる。
【0077】
図1〜3は、異なる触媒の存在下でオリゴマー化したプロピレンオリゴマーの炭素数12のGCチャートである。固体リン酸触媒(
図1、後述する比較例10)、あるいは、BET比表面積とミクロ孔比表面積との比(a/b)が1.8より大きい結晶性モレキュラーシーブ(
図2、後述する比較例7)を触媒に用いた場合、多数のピークが確認できる。すなわち、生成したプロピレン4量体は、多種の異性体を含んでいる。一方、BET比表面積とミクロ孔比表面積との比(a/b)が1.8以下である結晶性モレキュラーシーブ(
図3、後述する実施例5)を触媒に用いた場合は、ピーク数が極端に少なく、特定のピークが強く検出されている。更なる分析の結果、
図3における最も強い2つのピーク(40.3分及び40.7分)は、4,6,6−トリメチル−3−ノネンに由来することが判明した。このように、ミクロ孔比表面積が大きい結晶性モレキュラーシーブを用いることにより、特定構造のプロピレン4量体(4,6,6−トリメチル−3−ノネン)を高濃度で含むプロピレンオリゴマーを生成することが可能である。
【0078】
4,6,6−トリメチル−3−ノネンが高選択で生成する理由は定かではないが、以下のように推測される。
固体リン酸触媒やシリカアルミナなどの平均細孔径の大きい固体酸触媒によるオリゴマー化では、立体的な制御がなく反応が進行する。このため、様々な異性体を有するプロピレン3量体にプロピレンが付加することでプロピレン4量体が生成するルートが、主たる反応ルートとなる。この結果、プロピレン3量体以上に多種多様な異性体のプロピレン4量体が生成することになる。一方、BET比表面積とミクロ孔比表面積との比(a/b)が1.8より大きい、すなわち、ミクロ孔比表面積の比率が小さい結晶性モレキュラーシーブの場合には、結晶性が低く、ミクロ孔の割合が少ないために、オリゴマー化反応が結晶構造に由来する細孔以外で多く進行する。従って、ミクロ孔による立体的な制御が生じにくいために、様々な異性体を有するプロピレン3量体にプロピレンが付加するオリゴマー化反応が、主たる反応ルートとなる。このため、上述した固体酸触媒によるオリゴマー化と同様に、様々な異性体のプロピレン4量体が生成することになる。一方、BET比表面積とミクロ孔比表面積との比(a/b)が1.8以下の結晶性モレキュラーシーブの場合には、ミクロ孔の割合が大きくなるため、ミクロ孔による形状選択性が発現し、ミクロ孔内でのオリゴマー化反応が起こりやすくなると推定される。この形状選択性により、まずプロピレン2量体として生成しやすい2−メチル−1−ペンテンおよび2−メチル−2−ペンテンが生成し、これらのプロピレン2量体同士が更に2量化することで、プロピレン4量体として4,6,6−トリメチル−3−ノネンが生成する反応ルートが選択的に進行したと考えられる。
【0079】
特定構造のプロピレンオリゴマーを高選択率で得るとの観点から、本工程で用いられる触媒に含まれる結晶性モレキュラーシーブは、BET比表面積(a)とミクロ孔比表面積(b)との比であるa/bが、1.75以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.65以下であることが更に好ましい。
なお、本工程で実施した窒素吸着法によって測定されるBET比表面積は、相対圧力が0.005〜0.1の範囲で解析を行った値である。これは、ミクロ孔を有する結晶性モレキュラーシーブの比表面積を、BETの理論に基づき正しく評価するためである。
また、本工程で実施したt−プロット法によって測定されるミクロ孔比表面積は、吸着した窒素の平均厚み(t)が5〜6.5Åの範囲で解析を行った値である。これは、バインダー由来のメソ孔等の影響を少なくし、結晶性モレキュラーシーブ由来のミクロ孔比表面積をt−プロットの理論に基づき正しく評価するためである。
【0080】
前記結晶性モレキュラーシーブとしては、ゼオライトが好ましい。前記結晶性モレキュラーシーブとしては、10員環ゼオライトが特に好ましい。
前記10員環ゼオライトとしては、MFI型(別名:ZSM−5)、MFS型(別名:ZSM−57)、TON型(別名:ZSM−22)、MTT型(別名:ZSM−23)、MEL型(別名:ZSM−11)、FER型、MRE型(別名:ZSM−48)、MWW型(別名:MCM−22)等が挙げられる。なかでも、MFI型ゼオライトがより好ましい。
【0081】
前記結晶性モレキュラーシーブとしては、細孔容積とミクロ孔容積との比率(細孔容積/ミクロ孔容積)が2.0〜5.5であることが好ましい。細孔容積に対するミクロ孔容積の比率が上記範囲であると、ミクロ孔の割合が大きくなり、形状選択性が発現しやすくなる。このため、特定ルートの反応が選択的に進行しやすくなり、4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が高くなりやすい。細孔容積に対するミクロ孔容積の比率は、3.0〜5.0であることがより好ましく、3.5〜4.5であることが更に好ましい。
【0082】
反応をより効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトのSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察される結晶径は1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下が更に好ましい。
反応を効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトのケイ素/アルミニウムのモル比(Si/Al)は100以下が好ましく、50以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。
反応を効率的に進行させる観点から、前記10員環ゼオライトのNH
3−TPDで測定した酸量は150μmol/g以上が好ましく、200μmol/g以上がより好ましく、250μmol/g以上が更に好ましい。
触媒としての成型性を向上させるため、ゼオライトの成型時にバインダーを使用してもよい。バインダーにはアルミナ、シリカ、粘土鉱物等の金属酸化物が使用でき、機械強度や価格、酸点への影響等の観点からバインダーはアルミナが好ましい。バインダーの使用量が少ないほど、活性種であるゼオライト量が増加するため、バインダー量は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
前記結晶性モレキュラーシーブを含む触媒は、固定床反応器に充填し、固定床触媒として用いることが好ましい。
【0083】
オリゴマー化工程においては、反応を開始する前に、触媒中の不純物を除去する前処理を行うことが好ましい。前処理方法としては、窒素やLPG等の本オリゴマー化反応に対して不活性なガスを高温とし、このガス気流を反応器に流通させる方法が好ましい。
前処理の温度としては、100〜500℃が好ましく、150〜400℃がより好ましく、150〜300℃が更に好ましい。前処理の時間は、反応器の大きさによって異なるが、1〜20時間が好ましく、2〜10時間がより好ましい。
また、反応を開始する前に、触媒中の水分量を調整することが好ましい。結晶性モレキュラーシーブを含む触媒の場合には、触媒活性を高めるために水分を除去することが好ましく、触媒の寿命を延ばすためには、水分を添加することが好ましい。水分を除去する方法としては、前記の前処理方法を用いることが好ましい。
次にプロピレンを導入する。
導入するプロピレンは、本オリゴマー化反応に対して不活性なガスとの混合物として用いてもよい。触媒を除く反応混合物中のプロピレンの濃度は、55体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、65体積%以上であることが更に好ましく、70体積%以上であることがより更に好ましい。
【0084】
本実施形態のオリゴマー化工程における反応温度は、220℃未満であることが好ましく、90℃以上210℃未満がより好ましく、120℃以上200℃未満が更に好ましく、125℃以上180℃以下が特に好ましい。220℃未満で反応することによって、触媒の劣化を抑制しつつ、上述のプロピレンオリゴマーを高収率で得ることができる。
なお、前記反応温度は、反応器中の平均温度であり、反応器中の触媒に接する部分の上流部の温度と下流部の温度を平均した温度を指す。
オリゴマー化工程における液空間速度は、5時間
−1以下であることが好ましく、4時間
−1以下であることがより好ましく、3時間
−1以下であることが更に好ましく、2時間
−1以下であることがより更に好ましい。液空間速度を5時間
−1以下とすることによって、上述のプロピレンオリゴマーが高収率で得られる。
オリゴマー化工程における予備反応時間は、100時間以上であることが好ましく、200時間以上であることがより好ましく、250時間以上であることが更に好ましく、270時間以上であることがより更に好ましい。反応生成物を取得する前に予備反応時間を設けることによって、触媒を安定化させることができ、上述のプロピレンオリゴマーを高収率で得ることができる。
本工程におけるプロピレンの転化率は、50〜99.9%が好ましく、50〜99%がより好ましく、60〜97%が更に好ましく、70〜95%がより更に好ましい。
本工程では、反応器の除熱や未反応プロピレン量を減少させる目的から、反応器出口から出てくる未反応のプロピレンや反応で生じた軽質なオリゴマーを再度反応器に戻して、リサイクルすることも可能である。上述したように、本実施形態では、軽質なオリゴマーは、主としてプロピレンの2量体(2−メチル−1−ペンテンおよび2−メチル−2−ペンテン等)である。従って、リサイクルを行うことによって、プロピレン4量体、ひいては4,6,6−トリメチル−3−ノネンの生成量を高めることができる。リサイクルを行う場合、生産効率の観点から、フレッシュフィード(原料のプロピレン)とリサイクル(未反応のプロピレンや軽質なオリゴマー)の比(R/F)は、0.1〜10が好ましく、0.3〜6がより好ましく、1〜3が更に好ましい。
【0085】
<分留工程>
第3実施形態のプロピレンオリゴマーの製造方法は、更に、プロピレン4量体を含有する留分を得る分留工程を含んでいてもよい。本分留工程は、オリゴマー化で生成する副生成物である低分子量物(プロピレン2量体、プロピレン3量体)や高分子量物(5量体以上の多量体)、分解等の副反応によって得られる3の倍数の炭素数ではないオレフィンのような変性物等を除去するために行う。
【0086】
分留の条件は、圧力や蒸留装置の大きさ、蒸留塔の段数等によって異なり、また、生産効率や目的とする純度、用途によって異なるが、プロピレン4量体である炭素数12のオレフィンが得られる条件で行うことが好ましい。
プロピレン4量体である炭素数12のオレフィンを主として得る場合、常圧(1気圧)における蒸留の留出設定温度は、150〜230℃であることが好ましく、160〜220℃であることがより好ましく、170〜210℃であることが更に好ましく、190〜210℃であることがより更に好ましい。
【0087】
なお、第3実施形態においては、特定構造を有するプロピレン4量体を高濃度で得るとの観点から、第1実施形態で説明した異性化工程を行わないことが好ましい。
【0088】
第3実施形態においては、オリゴマー化工程を行った後、又は、分留工程を行った後で、分画工程を行ってもよい。分画することで、不純物や変性物を除去することができる。
分画工程の蒸留条件は、上述の分留工程に記載した条件であることが好ましい。
【実施例】
【0089】
次に、本開示を実施例により、さらに詳細に説明するが、本開示の技術は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例における反応圧及び反応時の圧力はゲージ圧である。
【0090】
[実施例1〜3、比較例1〜5]
実施例及び比較例で得られたプロピレンオリゴマーの分析方法は以下の通りである。
(1)組成(各オレフィンタイプの割合)
実施例及び比較例のプロピレン3量体の各オレフィンタイプの割合を、核磁気共鳴装置(NMR)ECA500(日本電子株式会社製)を用いて、以下のようにして求めた。
実施例及び比較例で得られたプロピレン3量体を重水素化クロロホルム(クロロホルム−d)に溶解し、
1H−NMRを測定した。クロロホルム(7.26ppm)を基準として得られたNMRスペクトルにおいて、5.60〜5.90ppmがTypeI(ビニル型)オレフィンに由来するピーク、4.58〜4.77ppmがTypeIII(ビニリデン型)オレフィンに由来するピーク、5.30〜5.60ppmがTypeIIオレフィンに由来するピーク、4.77〜5.30ppmがTypeIVオレフィンに由来するピークとして面積比より、各オレフィンタイプの相対比を算出した。さらに、前記のピークとその他のピークとの面積比より、TypeI(ビニル型)オレフィン、TypeIII(ビニリデン型)オレフィン、TypeIIオレフィン及びTypeIVオレフィンの合計量を算出し、残部のTypeVオレフィンの含有量を算出した。TypeI(ビニル型)オレフィン、TypeIII(ビニリデン型)オレフィン、TypeIIオレフィン及びTypeIVオレフィンの合計量に前記各オレフィンタイプの相対比を乗じて、各オレフィンタイプの割合を算出した。なお、前記の各オレフィンタイプに由来するピークの帰属は、Stehling et al., Anal.Chem.,38(11),pp.1467〜1479(1966)による。
【0091】
(2)組成(選択率;各重合度のオリゴマーの割合)
実施例及び比較例の各工程におけるプロピレンオリゴマーの選択率(各重合度のオリゴマーの割合)を、ガスクロマトグラフィー装置(Aglent Technologies社製、6850 Network GC System)を用いて、以下のようにして求めた。カラムにはAglent Technologies社製のDB−PETRO(100m×0.250mm×0.50μm)を用いた。キャリアガスにはヘリウムを用いて、流速を2.5mL/分とした。注入温度は250℃とし、スプリット比は100とした。オーブン温度を50℃に保った状態で生成液を打ち込み、10分間50℃を保持した。その後、3.13℃/分の昇温速度でオーブンを300℃となるまで昇温し、各成分を同定した。5.6〜6.2分のピークをプロピレン、8.0〜11.8分のピークをプロピレン2量体、21.9〜29.2分のピークをプロピレン3量体、36.7〜43.9分のピークをプロピレン4量体とし、それ以外のピークを副生成物とした。
【0092】
製造例1(固体リン酸触媒の調製)
担体として珪藻土(中央シリカ株式会社製、シリカクイーンS)34質量部と、オルトリン酸(富士フイルム和光純薬工業(株)製、特級試薬、純度85%以上)66質量部を量り取り、これらをニーダーに投入してよく混練した。得られた粘土状の生成物を押出成型機に入れ、4.5mmφのシリンダー状ペレットとして押し出した。
得られたペレットをマッフル炉に入れ、室温から10℃/minの速度で昇温し、200℃で3時間乾燥を行った後、10℃/minの速度で再度昇温し、400℃で2時間焼成を行った。これらの操作は全て空気気流下で行った。その後、流通気体を約20%の水蒸気を含む空気へ変更し、更に400℃で1時間温度を保持した。これらの操作の後、室温まで降温し、ペレット状の固体リン酸触媒を得た。
得られたペレット状の固体リン酸触媒を粉砕し、6メッシュサイズ及び9メッシュサイズの篩を用いてふるうことで、粒子が均一な粒状の固体リン酸触媒とした。
【0093】
実施例1(プロピレンオリゴマー(1)の製造)
(1)オリゴマー化工程
ゼオライト触媒(MFI型(別名:ZSM−5)、10員環、東ソー社製、HSZ−822HOD1A、触媒径1.5mmφ、触媒長3mm、シリンダー形状の押出成型品)40ccとアルミナボール(2mmφ、球状、ニッカトー社製、SSA−995)40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次にプロピレンを反応圧6.5MPa、60cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために37日間(888時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。反応管の平均反応温度は151.9℃であった。また、プロピレン転化率は93.7%であった。
【0094】
(2)分留工程
前記オリゴマー化工程で得られた反応混合物を分留して、プロピレン3量体を主として含む留分を得た。蒸留設定温度は、130〜145℃とした。
【0095】
(3)異性化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒20ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、前記分留工程で得られた留分を30cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し100質量ppmの水分も同時に導入した。72日間(1733時間)反応させた後、異性化反応混合物を得た。得られた異性化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(1)を得た。平均反応温度は193.3℃、反応時の圧力は0.9MPaであった。得られたプロピレンオリゴマー(1)の分析結果を表2に示す。
【0096】
実施例2(プロピレンオリゴマー(2)の製造)
(1)オリゴマー化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、90cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し25質量ppmの水分も同時に導入した。38日間(912時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。平均反応温度は145.1℃であった。また、プロピレン転化率は94.0%であった。
【0097】
(2)分留工程
前記オリゴマー化工程で得られた反応混合物を分留して、プロピレン3量体を主として含む留分を得た。蒸留設定温度は、130〜145℃とした。
【0098】
(3)異性化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒20ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、前記分留工程で得られた留分を30cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し70質量ppmの水分も同時に導入した。77日間(1841時間)反応させた後、異性化反応混合物を得た。得られた異性化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(2)を得た。平均反応温度は184.5℃、反応時の圧力は0.8MPaであった。得られたプロピレンオリゴマー(2)の分析結果を表2に示す。
【0099】
実施例3(プロピレンオリゴマー(3)の製造)
(1)オリゴマー化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、90cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し175質量ppmの水分も同時に導入した。6日間(132時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。平均反応温度は160.6℃であった。また、プロピレン転化率は95.4%であった。
【0100】
(2)分留工程
前記オリゴマー化工程で得られた反応混合物を分留して、プロピレン3量体を主として含む留分を得た。蒸留設定温度は、130〜145℃とした。
【0101】
(3)異性化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒20ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、前記分留工程で得られた留分を30cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し391質量ppmの水分も同時に導入した。23日間(546時間)反応させた後、異性化反応混合物を得た。得られた異性化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(3)を得た。平均反応温度は183.8℃、反応時の圧力は0.8MPaであった。得られたプロピレンオリゴマー(3)の分析結果を表2に示す。
【0102】
比較例1(プロピレンオリゴマー(4)の製造)
(1)オリゴマー化工程
ゼオライト触媒(MFI型(別名:ZSM−5)、10員環、東ソー社製、HSZ−822HOD1A、触媒径1.5mmφ、触媒長3mm、シリンダー形状の押出成型品)40ccとアルミナボール(2mmφ、球状、ニッカトー社製、SSA−995)40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次にプロピレンを反応圧6.5MPa、60cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために37日間(888時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。得られたオリゴマー化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(4)を得た。反応管の平均反応温度は151.9℃であった。また、プロピレン転化率は93.7%であった。プロピレンオリゴマー(4)の分析結果を表2に示す。
【0103】
比較例2(プロピレンオリゴマー(5)の製造)
(1)オリゴマー化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、90cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し25質量ppmの水分も同時に導入した。38日間(912時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。得られたオリゴマー化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(5)を得た。平均反応温度は145.1℃であった。また、プロピレン転化率は94.0%であった。プロピレンオリゴマー(5)の分析結果を表2に示す。
【0104】
比較例3(プロピレンオリゴマー(6)の製造)
(1)オリゴマー化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、90cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し25質量ppmの水分も同時に導入した。38日間(912時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。平均反応温度は145.1℃であった。また、プロピレン転化率は94.0%であった。
【0105】
(2)分留工程
前記オリゴマー化工程で得られた反応混合物を分留して、プロピレン3量体を主として含む留分を得た。蒸留設定温度は、130〜145℃とした。
【0106】
(3)異性化工程
ゼオライト触媒(MFI型(別名:ZSM−5)、10員環、東ソー社製、HSZ−822HOD1A、触媒径1.5mmφ、触媒長3mm、シリンダー形状の押出成型品)40ccとアルミナボール(2mmφ、球状、ニッカトー社製、SSA−995)40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、前記分留工程で得られた留分を60cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。6.5日間(156時間)反応させた後、異性化反応混合物を得た。得られた異性化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(6)を得た。平均反応温度は190.1℃、反応時の圧力は0.9MPaであった。得られたプロピレンオリゴマー(6)の分析結果を表2に示す。
【0107】
比較例4(プロピレンオリゴマー(7)の製造)
(1)オリゴマー化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、90cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し100質量ppmの水分も同時に導入した。4.5日間(108時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。得られたオリゴマー化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(7)を得た。平均反応温度は198.1℃、プロピレン転化率は99.3%であった。得られたプロピレンオリゴマー(7)の分析結果を表2に示す。
【0108】
比較例5(プロピレンオリゴマー(8)の製造)
(1)オリゴマー化工程
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、90cc/時(LHSV=1.5時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し175質量ppmの水分も同時に導入した。6日間(132時間)反応させた後、反応混合物を抜き出した。得られたオリゴマー化反応混合物を、蒸留設定温度130〜145℃で分画し、プロピレンオリゴマー(8)を得た。平均反応温度は160.6℃、プロピレン転化率は95.4%であった。得られたプロピレンオリゴマー(8)の分析結果を表2に示す。
【0109】
【表2】
【0110】
実施例1及び2の製造方法によって得られたプロピレンオリゴマーは、TypeVオレフィン濃度が低いため、分岐度が低いことがわかる。また、低温で収率よくプロピレンオリゴマーが得られるため、触媒の劣化を抑制することができる。このため、触媒の長寿命化、メンテナンス頻度の回数低減といった効果を得ることもできる。一方、比較例1及び2で得られたプロピレンオリゴマーはTypeVオレフィン濃度が高いことがわかる。更に比較例3及び4で得られたプロピレンオリゴマーは、副生成物量が多く、選択率が低いことがわかる。以上のように、実施例1及び2の製造方法によって得られたプロピレンオリゴマーは、各種オレフィン誘導体の原料として有用である。
【0111】
実施例3の製造方法によって得られたプロピレンオリゴマーは、異性化工程を行っていない比較例5で得られたプロピレンオリゴマーと比較して、TypeVオレフィン濃度が低いため、分岐度が低いことがわかる。また、実施例3の製造方法では、副生成物も少ないことがわかる。以上のように、実施例3の製造方法によって得られたプロピレンオリゴマーは、各種オレフィン誘導体の原料として有用である。
【0112】
[実施例4〜6、比較例6〜13]
下記ゼオライト触媒のBET比表面積(全表面積)及び細孔容積を、アントンパール社 Autosorb−3を用いて測定した。
BET解析には装置付属の解析ソフトを用いた。BET比表面積は、上記測定により得られた吸着等温線を用い、相対圧力0.005〜0.1の範囲でBET解析を行い、得られた直線の傾き及び切片より算出した値である。吸着等温線の相対圧力0.95における窒素吸着量の値を、細孔容積とした。具体的には、相対圧力0.95前後の2点の測定点を用い、内挿法により窒素吸着量を算出した。
ミクロ孔表面積及びミクロ孔容積は、上述の測定で得られた吸着等温線を用い、t−プロット法による解析から算出した。まず、t−プロット法による解析において、吸着した窒素の平均厚み(t)が5〜6.5Åの範囲で吸着等温線を直線近似し、その傾きからゼオライト触媒のミクロ孔以外の細孔の比表面積を算出した。そして、上記BET比表面積と、t−プロット法で得られたミクロ孔以外の細孔の比表面積の差分を、ゼオライト触媒のミクロ孔比表面積として算出した。ミクロ孔容積は、上述の近似直線のy切片における窒素吸着量の値とした。なお、吸着等温線の相対圧力を吸着した窒素の平均厚み(t)に変換するために、de Boerの式(出典: J.H. de Boer, B.G. Linsen, Th. van der Plas, G.J. Zondervan, J.Catalysis, 4, 649(1965))を用いた。
得られたBET比表面積、ミクロ孔表面積より全表面積に対するミクロ孔表面積の比率を算出した。また、得られた細孔容積及びミクロ孔容積から、細孔容積に対するミクロ容積の比率を算出した。結果を表3に示す。
・ゼオライト触媒A
MFI型(別名:ZSM−5)、10員環、東ソー社製、HSZ−822HOD1A、触媒径1.5mmφ、触媒長3mm、シリンダー形状の押出成型品)
・ゼオライト触媒B
BEA型(別名:βゼオライト)、12員環、東ソー社製、HSZ−930HOD1A、触媒径1.5mmφ、触媒長3mm、シリンダー形状の押出成型品)
【0113】
【表3】
【0114】
実施例及び比較例のプロピレンオリゴマーの組成比を、ガスクロマトグラフィー装置(Aglent Technologies社製、6850 Network GC System)を用いて、以下のようにして求めた。カラムにはAglent Technologies社製のDB−PETRO(100m×0.250mm×0.50μm)を用いた。キャリアガスにはヘリウムを用いて、流速を2.5mL/分とした。注入温度は250℃とし、スプリット比は100とした。オーブン温度を50℃に保った状態で生成液を打ち込み、10分間50℃を保持した。その後、3.13℃/分の昇温速度でオーブンを300℃となるまで昇温し、各成分を同定した。8.0〜11.8分のピークをプロピレン2量体、21.9〜29.2分のピークをプロピレン3量体、36.7〜43.9分のピークをプロピレン4量体、43.9分以降のピークをプロピレン5量体以上の多量体等の重質分とし、それ以外のピークを分解によって生じた副生成物とした。各成分に由来するピークの面積を求めた。各成分のピーク面積比率を、各成分における重量換算での組成比とした。
また、プロピレン4量体のピークのうち40.3分および40.7分のピークの面積を、上記と同様にして求めた。プロピレン4量体に由来するピークの全面積に対する40.3分および40.7分のピークの面積の割合を算出し、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度(質量%)とした。
【0115】
実施例4(プロピレンオリゴマー(9)の製造)
ゼオライトA(MFI型ゼオライト触媒)40ccとアルミナボール(2mmφ、球状、ニッカトー社製、SSA−995)40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、60.6cc/時(LHSV=1.52時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために70日間(1668時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(9)を得た。反応管の平均反応温度は131.9℃であった。また、プロピレン転化率は70.8%であった。
プロピレンオリゴマー(9)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。表4中、「C6」はプロピレン2量体、「C9」はプロピレン3量体、「C12」はプロピレン4量体、「C15+」はプロピレン5量体以上の多量体等の重質分、「Crack」は副生成物を意味する。また、表4中、「特定C12濃度」は、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を意味する。
【0116】
実施例5(プロピレンオリゴマー(10)の製造)
実施例4と同じく、上述のゼオライトA40ccとアルミナボール40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、59.8cc/時(LHSV=1.50時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために63日間(1500時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(10)を得た。反応管の平均反応温度は132.2℃であった。また、プロピレン転化率は79.1%であった。
プロピレンオリゴマー(10)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0117】
実施例6(プロピレンオリゴマー(11)の製造)
実施例4と同じく、上述のゼオライトA40ccとアルミナボール40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、59.8cc/時(LHSV=1.50時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために41日間(972時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(11)を得た。反応管の平均反応温度は151.9℃であった。また、プロピレン転化率は93.7%であった。
プロピレンオリゴマー(11)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0118】
比較例6(プロピレンオリゴマー(12)の製造)
上述のゼオライトB(BEA型ゼオライト触媒)40ccとアルミナボール(2mmφ、球状、ニッカトー社製、SSA−995)40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、63.5cc/時(LHSV=1.59時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために102日間(2436時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(12)を得た。反応管の平均反応温度は117.8℃であった。また、プロピレン転化率は46.0%であった。
プロピレンオリゴマー(12)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0119】
比較例7(プロピレンオリゴマー(13)の製造)
比較例6と同じく、上述のゼオライトB40ccとアルミナボール40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、64.8cc/時(LHSV=1.62時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために103日間(2460時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(13)を得た。反応管の平均反応温度は136.5℃であった。また、プロピレン転化率は76.2%であった。
プロピレンオリゴマー(13)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0120】
比較例8(プロピレンオリゴマー(14)の製造)
比較例6と同じく、上述のゼオライトB40ccとアルミナボール40ccを混合し、ステンレス製の固定床反応管に充填した。
反応管内部を窒素気流下で200℃、3時間処理し、25℃まで冷却した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、62.9cc/時(LHSV=1.57時間
―1)となるように導入した。触媒を安定させるために99日間(2364時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(14)を得た。反応管の平均反応温度は153.1℃であった。また、プロピレン転化率は91.6%であった。
プロピレンオリゴマー(14)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0121】
比較例9(プロピレンオリゴマー(15)の製造)
製造例1で得られた固体リン酸触媒20ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、30cc/時(LHSV=1.50時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し30.7質量ppmの水分も同時に導入した。18日間(432時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(15)を得た。平均反応温度は167.0℃であった。また、プロピレン転化率は49.5%であった。
プロピレンオリゴマー(15)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0122】
比較例10(プロピレンオリゴマー(16)の製造)
製造例1で得られた固体リン酸触媒10ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、44.4cc/時(LHSV=4.44時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し84質量ppmの水分も同時に導入した。4日間(96時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(16)を得た。平均反応温度は189.5℃であった。また、プロピレン転化率は76.3%であった。
プロピレンオリゴマー(16)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0123】
比較例11(プロピレンオリゴマー(17)の製造)
製造例1で得られた固体リン酸触媒20ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、31.1cc/時(LHSV=1.55時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し54.3質量ppmの水分も同時に導入した。10日間(240時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(17)を得た。平均反応温度は167.8℃であった。また、プロピレン転化率は83.9%であった。
プロピレンオリゴマー(17)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0124】
比較例12(プロピレンオリゴマー(18)の製造)
製造例1で得られた固体リン酸触媒60ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、31.7cc/時(LHSV=0.53時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し16.7質量ppmの水分も同時に導入した。15日間(360時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(18)を得た。平均反応温度は129.0℃であった。また、プロピレン転化率は80.0%であった。
プロピレンオリゴマー(18)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0125】
比較例13(プロピレンオリゴマー(19)の製造)
製造例1で得られた固体リン酸触媒20ccをステンレス製の固定床反応管に充填した。
次に、プロピレンを反応圧6.5MPa、29.2cc/時(LHSV=1.46時間
―1)となるように導入した。なお、固体リン酸触媒の活性の低下を防ぐため、原料に対し55.7質量ppmの水分も同時に導入した。38日間(912時間)反応させた後、反応混合物を抜き出し、プロピレンオリゴマー(19)を得た。平均反応温度は185.7℃であった。また、プロピレン転化率は88.0%であった。
プロピレンオリゴマー(19)の組成比、及び、プロピレン4量体中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
表3に示すように、実施例の製造方法で用いたゼオライト触媒Aは、比較例6〜8の製造方法で用いたゼオライト触媒BよりもBET比表面積は小さかったがミクロ孔比表面積が相対的に大きく、結果としてBET比表面積とミクロ孔比表面積との比(a/b)は小さいものであった。
a/bが1.61であるゼオライト触媒(ゼオライトA)を用いて製造した実施例のプロピレンオリゴマーは、プロピレン4量体(C12)中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が高いことがわかる。一方、a/bが1.92であるゼオライト触媒(ゼオライトB)を用いて製造した比較例6〜8のプロピレンオリゴマーは、プロピレン4量体(C12)中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が低かった。また、固体リン酸触媒を用いて製造した比較例9〜13のプロピレンオリゴマーでも、プロピレン4量体(C12)中の4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度が低かった。この結果から、ゼオライト触媒におけるBET比表面積とミクロ孔比表面積との比(a/b)が4,6,6−トリメチル−3−ノネンの生成のしやすさに関与していることが判った。
組成比に着目すると、実施例4〜6のプロピレンオリゴマーは、プロピレン2量体(C6)の割合が比較的高かった。一方、比較例6〜8及び比較例9〜13のプロピレンオリゴマーは、プロピレン2量体(C6)の割合が低く、プロピレン3量体(C9)の割合が比較的高かった。この結果から、実施例の製造方法では、比較例の製造方法とは異なるルートでの反応、すなわち、プロピレン2量体同士が2量化する反応ルートが選択的に進行したと推測される。実施例4〜6について、プロピレン2量体(C6)のリサイクルを行えば、プロピレン2量体の2量化反応が選択的に進行することが予想できるため、プロピレン4量体(C12)の割合及び4,6,6−トリメチル−3−ノネンの濃度を高めることが可能であると言える。