特許第6965543号(P6965543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6965543厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965543
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体
(51)【国際特許分類】
   C01G 55/00 20060101AFI20211028BHJP
   C03C 8/16 20060101ALI20211028BHJP
   H01C 17/065 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   C01G55/00
   C03C8/16
   H01C17/065 100
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-63653(P2017-63653)
(22)【出願日】2017年3月28日
(65)【公開番号】特開2018-165238(P2018-165238A)
(43)【公開日】2018年10月25日
【審査請求日】2020年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川久保 勝弘
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−022202(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176696(WO,A1)
【文献】 特開昭52−52933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 55/00
C03C 8/16
H01C 17/065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチル型結晶構造を有する酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物であって、
前記酸化ルテニウム粉末は、
X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が25nm以上80nm以下、
比表面積から算出した比表面積径D2が25nm以上114nm以下であり、
かつ前記結晶子径D1(nm)と前記比表面積径D2(nm)との比が、下記の式(1)を満たし、
0.70≦D1/D2≦1.00 ・・・(1)
幅と長さが1.0mm、膜厚が7μmの厚膜抵抗体とした場合の抵抗値が80kΩ(8×10Ω)より高い厚膜抵抗体用組成物。
【請求項2】
前記酸化ルテニウム粉末と前記ガラス粉末とのうち、前記酸化ルテニウム粉末の割合が5質量%以上50質量%以下である請求項に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項3】
前記ガラス粉末は、50%体積累計粒度が5μm以下である請求項または請求項2に記載の厚膜抵抗体用組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物を、有機ビヒクル中に分散した厚膜抵抗体用ペースト。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗体用組成物に由来する前記酸化ルテニウム粉末とガラス成分とを含有する厚膜抵抗体。
【請求項6】
前記酸化ルテニウム粉末と前記ガラス成分とのうち、前記酸化ルテニウム粉末の割合が5質量%以上50質量%以下である請求項に記載の厚膜抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ルテニウム粉末、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にチップ抵抗器、ハイブリットIC、または抵抗ネットワーク等の厚膜抵抗体は、セラミック基板に厚膜抵抗体用ペーストを印刷、焼成することによって形成されている。厚膜抵抗体用ペーストに含まれる厚膜抵抗体用組成物としては、導電性粒子として酸化ルテニウムを代表とするルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを主な成分として含むものが広く用いられている。
【0003】
ルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを主な成分として含む厚膜抵抗体用組成物は、該厚膜抵抗体用組成物を含む厚膜抵抗体用ペーストにより、広い領域の抵抗値の抵抗体を形成できること等の理由から、上述のように広く用いられている。
【0004】
ルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを主な成分とする厚膜抵抗体用組成物を含む厚膜抵抗体用ペーストを用いて厚膜抵抗体を製造する場合、ルテニウム酸化物粉末と、ガラス粉末との配合比により、得られる厚膜抵抗体の抵抗値を変化させることができる。
【0005】
具体的には、厚膜抵抗体用組成物中の、導電性粒子であるルテニウム酸化物粉末の配合比を多くすることで、得られる厚膜抵抗体の抵抗値を下げることができる。また、厚膜抵抗体用組成物中の、導電性粒子であるルテニウム酸化物粉末の配合比を少なくすることで、得られる厚膜抵抗体の抵抗値を上げることができる。このように、厚膜抵抗体用組成物中の導電性粒子であるルテニウム酸化物粉末とガラス粉末との配合比(含有割合)を調整して、所望の抵抗値を有する厚膜抵抗体とすることができる。
【0006】
ルテニウム酸化物としては、ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO)や、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛(PbRu6.5)等が知られている。
【0007】
酸化ルテニウム(RuO)粉末とガラス粉末とを主な成分とする厚膜抵抗体用組成物を用いた場合、例えば抵抗体幅を1.0mm、抵抗体長さを1.0mm、膜厚を7μm〜10μmとすると、抵抗値が10Ω〜10Ωの厚膜抵抗体を形成できる。
【0008】
また、ルテニウム酸鉛(PbRu6.5)粉末とガラス粉末とを主な成分とする厚膜抵抗体用組成物を用いた場合、例えば抵抗体幅を1.0mm、抵抗体長さを1.0mm、膜厚を7μm〜10μmとすると、抵抗値が10Ω〜10Ωの厚膜抵抗体を形成できる。
【0009】
ルテニウム酸鉛(PbRu6.5)は、酸化ルテニウム(RuO)よりも電気抵抗率が高いことから、高い電気抵抗率の厚膜抵抗体の原料に適している。
【0010】
ところで、電気・電子機器における抵抗器の搭載点数は増加しており、抵抗器一つ一つの抵抗温度係数は0に近いことが望まれている。一般に抵抗器の抵抗温度係数は、25℃〜−55℃の抵抗値変化を、25℃を基準として1℃当たりの変化率としてあらわすCOLD−TCRと、25℃〜125℃の抵抗値変化を、25℃を基準として1℃当たりの変化率としてあらわすHOT−TCRとで表される。
【0011】
そして、ルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを主な成分として含む厚膜抵抗体用組成物に、さらに無機化合物の添加剤を添加することで、該厚膜抵抗体用組成物を含む厚膜抵抗体用ペーストにより、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数やノイズ等の電気的特性を調整できることが知られている。
【0012】
例えば特許文献1には、10kΩ/□以上の高い抵抗値を有し、抵抗温度特性(TCR)及び耐電圧特性(STOL)を両立し得る抵抗体を実現することが可能な導電性材料の提供を課題とした発明が開示されている。そして、高温での熱処理後、粉砕した平均粒径の大きい酸化ルテニウム(RuO)と、ガラス組成物粉末と、添加物と、有機ビヒクルとを混練して得られた抵抗体ペーストを用いて製造した抵抗体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−209740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1に開示された抵抗体ペーストでは、得られる抵抗体の抵抗温度係数を改善するために20質量%を超えるような多量の添加物を併用する必要がある。このように抵抗温度係数を抑制するために、抵抗体ペーストに20質量%を超える添加物を併用することが必須であることは、該抵抗体ペーストを用いて製造する厚膜抵抗体の電気的特性の調整の自由度が低いことを意味し、電気的特性が揃った厚膜抵抗体を工業的に供給することが難しいことを意味する。
【0015】
従って、特許文献1に開示された抵抗体ペーストに用いた酸化ルテニウムは、高い電気抵抗率の領域の厚膜抵抗体の製造に適した酸化ルテニウムとはいえず、十分に良好な電気的特性を実現できる酸化ルテニウムとはいえない。このため、例えば特許文献1に開示された酸化ルテニウムを用いた場合、該酸化ルテニウムの配合比が小さく抵抗値が高い厚膜抵抗体では、抵抗温度係数を0に近づけることは困難であった。
【0016】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、抵抗温度係数が0に近く、電気的な特性が優れた厚膜抵抗体を製造することができる酸化ルテニウム粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明は、
ルチル型結晶構造を有する酸化ルテニウム粉末であって、
X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が25nm以上80nm以下、
比表面積から算出した比表面積径D2が25nm以上114nm以下であり、
かつ前記結晶子径D1(nm)と前記比表面積径D2(nm)との比が、下記の式(1)を満たす酸化ルテニウム粉末を提供する。
【0018】
0.70≦D1/D2≦1.00 ・・・(1)
【発明の効果】
【0019】
本発明の一側面によれば、抵抗温度係数が0に近く、電気的な特性が優れた厚膜抵抗体を製造することができる酸化ルテニウム粉末を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の酸化ルテニウム粉末、厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペースト、及び厚膜抵抗体の一実施形態について説明する。
1.酸化ルテニウム粉末
本実施形態の酸化ルテニウム粉末は、ルチル型結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO)粉末であって、以下の特性を有することができる。
【0021】
X線回折法により測定した(110)面のピークから算出した結晶子径D1が25nm以上80nm以下。
比表面積から算出した比表面積径D2が25nm以上114nm以下。
さらに、結晶子径D1(nm)と比表面積径D2(nm)との比が、下記の式(1)を満たすことができる。
【0022】
0.70≦D1/D2≦1.00 ・・・(1)
なお、結晶子径D1(nm)は、X線回折法によるルチル型結晶構造の(110)面での測定値を用いて算出できる。また、比表面積径D2(nm)は、粉末の比表面積をS(m/g)、密度をρ(g/cm)と表したときの6×10/(ρ・S)の計算値とすることができる。
【0023】
本発明の発明者は、既述の従来技術の課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その結果、結晶子径、及び比表面積径をコントロールした酸化ルテニウム粉末とすることで、該酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて、抵抗温度係数が0に近く、電気的な特性が優れた厚膜抵抗体を製造できることを見出した。
【0024】
酸化ルテニウム粉末等のルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを主成分として含有する厚膜抵抗体では、両者の配合比を調整することで厚膜抵抗体を所望の抵抗値とすることができる。
【0025】
具体的には、導電性粒子であるルテニウム酸化物粉末の含有割合を多くすると抵抗値が下がり、導電性粒子であるルテニウム酸化物粉末の含有割合を少なくすると抵抗値が上がる。
【0026】
そして、ルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを主成分として含有する厚膜抵抗体の導電機構は、抵抗温度係数がプラスであるルテニウム酸化物粉末の金属的な導電と、抵抗温度係数がマイナスである、ルテニウム酸化物粉末とガラス粉末との反応相による半導体的な導電の組み合わせによると考えられている。このため、ルテニウム酸化物粉末の割合が多い低抵抗値領域では抵抗温度係数がプラスになり易く、ルテニウム酸化物粉末の割合が少ない高抵抗値領域では抵抗温度係数がマイナスになり易い。
【0027】
ところで、ルテニウム酸化物粉末とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物は、無機化合物の添加剤を添加することで、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数やノイズ等の抵抗電気的特性を調整することが知られている。しかしながら、プラスの抵抗温度係数をマイナスに調整する添加剤はあるものの、抵抗温度係数を効果的にプラスに調整する添加剤はない。そのため、マイナスの抵抗温度係数を添加剤等でプラス方向に調整することはできず、抵抗温度係数がマイナスになりやすい高抵抗値領域では、抵抗温度係数を0に近づけることは困難であった。
【0028】
そこで、本発明の発明者は酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて作製した厚膜抵抗体についてさらに検討を行った。そして、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を作製した場合、用いる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径が異なれば、厚膜抵抗体用組成物の組成が同一であっても、得られる厚膜抵抗体の面積抵抗値や抵抗温度係数が異なることを見出した。
【0029】
上記知見に基づき、本実施形態の酸化ルテニウム粉末は、上述の結晶子径D1、比表面積径D2、及び結晶子径と比表面積との比D1/D2を所定の範囲とすることができる。これにより、本実施形態の酸化ルテニウム粉末を、所望の抵抗温度係数と電気的特性を有する厚膜抵抗体を製造する際に好適に用いることができる。
【0030】
通常、厚膜抵抗体に用いられる酸化ルテニウム粉末の一次粒子の粒径は小さいので、結晶子も小さくなり、完全にBraggの条件を満たす結晶格子が減り、X線を照射した際の回折線プロファイルが広がる。格子歪が無いとみなした場合、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、(110)面での回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとすると以下の式(2)として示したScherrerの式から結晶子径を測定、算出できる。なお、(110)面での回折線プロファイルの広がりβを算出するに当っては、例えばKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正し、Kα1による回折ピークの半価幅を用いることができる。
【0031】
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(2)
式(2)中、KはScherrer定数であり、0.9を用いることができる。
【0032】
酸化ルテニウム(RuO)粉末は、一次粒子をほぼ単結晶とみなすことができる場合、X線回折法によって測定された結晶子径が一次粒子の粒径とほぼ等しくなる。このため、結晶子径D1は、一次粒子の粒径ということもできる。ルチル型の結晶構造を有する酸化ルテニウム(RuO)では、回折ピークのうち、結晶構造の(110)、(101)、(211)、(301)、(321)面の回折ピークが比較的大きいが、本実施形態の酸化ルテニウム粉末については、相対強度が最も高く、測定に適した(110)面のピークから算出した結晶子径を、既述の様に25nm以上80nm以下とすることができる。
【0033】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末の結晶子径が25nm以上の場合、十分に結晶が成長しており、厚膜抵抗体の原料とする場合に、結晶性に優れた酸化ルテニウム粉末といえる。そして、係る結晶性に優れた酸化ルテニウム粉末を、厚膜抵抗体の原料として用いることで、例えば厚膜抵抗体用ペーストを焼成する際に、酸化ルテニウム粉末とガラスとの反応を抑制できる。このため、酸化ルテニウム粒子とガラスとの反応によって生じる半導体的な導電を示す導電経路を抑制でき、抵抗温度係数がマイナスになりにくい。
【0034】
ただし、本実施形態の酸化ルテニウム粉末の結晶子径は、上述のように80nm以下であることが好ましい。これは、本実施形態の酸化ルテニウム粉末の結晶子径を80nm以下とすることで、導電経路の数を多くして、ノイズ等の電気的特性を良好にできるからである。
【0035】
一方、酸化ルテニウム粉末の粒径が細かくなると、比表面積は大きくなる。そして、酸化ルテニウム粉末の粒径をD2(nm)、密度をρ(g/cm)、比表面積をS(m/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(3)に示す関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径を比表面積径とする。
【0036】
D2(nm)=6×10/(ρ・S) ・・・(3)
本実施形態では、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cmとして、式(3)によって算出した比表面積径を25nm以上114nm以下とすることができる。
【0037】
これは、比表面積径D2を25nm以上とすることによって、酸化ルテニウム粉末を用いて厚膜抵抗体を製造するために酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とを含有する厚膜抵抗体用ペースト焼成する際、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応が過度に進行することを抑制できるからである。既述のように、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応相は、抵抗温度係数がマイナスとなる。そして、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との反応が過度に進行し、係る反応相の割合が増えると、得られる厚膜抵抗体の抵抗温度係数が大幅にマイナスになる恐れがあるからである。
【0038】
ただし、酸化ルテニウム粉末の比表面積径が過度に大きくなりすぎると、導電性粒子である酸化ルテニウムの粒子同士の接触点が少なくなることから、導電経路が少なくなってノイズ等の電気的特性について十分な特性を得られない恐れがある。このため、比表面積径D2は114nm以下であることが好ましい。
【0039】
そして、既述のように本実施形態の酸化ルテニウム粉末は、結晶子径D1と比表面積径D2との比が、0.70≦D1/D2≦1.00の関係を満たすことが好ましい。
【0040】
酸化ルテニウム粉末が多結晶である場合、あるいは結晶子径の小さい粒子が連結している場合などは、結晶子径D1よりも比表面積径D2の方が大きくなり、D2に対するD1の割合すなわちD1/D2は1.00より小さくなる。
【0041】
さらに、D1/D2が0.70より小さい場合には、厚膜抵抗体用ペーストを焼成して得られる厚膜抵抗体で、粗大化した酸化ルテニウムや連結した酸化ルテニウムによって導電経路の数がへり不均一になり易くなり、ノイズ等の電気的特性が優れない。
したがって、D1/D2の値は粒子の結晶完全性の目安となり、D1/D2が小さいほど粒子を形成している結晶の完全性は低く、D1/D2が大きいほど結晶の完全性は高いと判断できる。一般に、粉末が微細になるにつれて粒子を形成している結晶の完全性は低下し、D1/D2の値は小さくなる傾向がみられる。
【0042】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末は結晶性が高く、単結晶に近いのでD1/D2の好適な範囲の下限値は上述のように0.70であることが好ましい。
【0043】
上述のように、D1/D2の値は粒子の結晶完全性の目安であり、酸化ルテニウム粉末が単結晶である場合には1.00に近づき、逆に一つ一つの酸化ルテニウム粉末の結晶性が低くなるにつれて、D1/D2の値は1.00より小さくなる。また、酸化ルテニウム粉末に含まれる各粒子の粒径の分布が比較的揃っている場合にはD1/D2の値は1.00を超えないが、大きく異なる粒径が混合された場合には、D1/D2の値は1.00よりも大きくなる。この理由は、比表面積は粉末1gあたりの表面積であり粒径の分布に応じて穏やかに変わるのに対して、X線回折のピークのシャープさは粒径の大きい粒子の影響を強く受けるためと考えられる。このようなD1/D2が1.00を超える場合は結晶子径は大きく測定されていても、実際には結晶子径の小さい粒子が多く含まれていると考えられる。
【0044】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末は、結晶性が高く、連結した粒子がないことが好ましいことから、上述のようにD1/D2の好適な範囲の上限値は1.00であることが好ましい。
【0045】
厚膜抵抗体用の酸化ルテニウム粉末は、一般に、湿式で合成された、水和した酸化ルテニウム粉末を熱処理することによって製造されており、その合成方法や熱処理の条件によって粒径や結晶性が異なる。このため、製造の際の条件を調整することで、本実施形態の酸化ルテニウム粉末を製造することができる。
【0046】
以上に説明した本実施形態の酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体は、面積抵抗値が高く、抵抗温度係数を0に近い値とすることができる。
【0047】
なお、本実施形態の酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体は、抵抗温度係数が上述のように0に近く、かつプラスになり易い。これは、厚膜抵抗体を製造するために、厚膜抵抗体用ペーストを焼成する際においても導電性粒子である酸化ルテニウム粉末の粒子と、ガラス粉末との反応が過度に進まず半導体的な導電の割合が少なくなるためと考えられる。
【0048】
後述するように、本実施形態の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含む厚膜抵抗体用組成物とし、該厚膜抵抗体用組成物を用いて厚膜抵抗体を製造することができる。この際、抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末以外に任意の成分を含むこともできるが、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とのみから構成することもできる。
【0049】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末、及びガラス粉末のみを配合し、厚膜抵抗体の抵抗値が80kΩ(8×10Ω)より高い値となるように、酸化ルテニウム粉末の配合比(含有割合)を小さくした、添加剤等を含まない厚膜抵抗体用組成物を用い、抵抗体幅、及び抵抗体長さが1.0mm、膜厚が7μmの厚膜抵抗体とした場合でも、抵抗温度係数(COLD−TCR、及びHOT−TCR)が0に近い−100ppm/℃以上+100ppm/℃以下の範囲とすることができる。また、この場合、ノイズや、耐電圧特性等の電気的特性がすぐれた厚膜抵抗体とすることが可能である。なお、厚膜抵抗体の抵抗値は、上述のように抵抗体幅と抵抗体長さの比を1:1とした面積抵抗値で評価されるのが通常である。
【0050】
上述のように本実施形態の結晶子径、比表面積径、及び結晶子径と比表面積径との比が所定の範囲にある酸化ルテニウム粉末を用いることで、抵抗温度係数が0に近く、ノイズなどの電気的特性について良好な特性を備えた厚膜抵抗体を製造、実現できる。さらには、本実施形態の酸化ルテニウム粉末は、上述のように酸化ルテニウム粉末の配合比(含有割合)が小さく、高抵抗値領域(電気抵抗率の高い領域)でも抵抗温度係数が0に近く、ノイズなどの電気的特性がすぐれた厚膜抵抗体を形成できるので、ルテニウム酸鉛(PbRu6.5)粉末に代わる材料にもなる。
【0051】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体用組成物は、添加剤等を含まなくても、抵抗温度係数が0に近く、ノイズなどの電気的特性が優れた厚膜抵抗体を形成できる。このため、本実施形態の酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体用組成物に後述の添加剤を加えれば、電気的特性が優れることは当然である。さらに、本実施形態の酸化ルテニウム粉末を用いた厚膜抵抗体用組成物は、添加剤等を含まなくても、抵抗温度係数が0に近く、ノイズなどの電気的特性がすぐれた厚膜抵抗体を形成できるので、添加剤を加えることによる厚膜抵抗体の電気的特性の調整の自由度が高い材料であるともいえる。
【0052】
なお、本実施形態の酸化ルテニウム粉末を用いることで、高抵抗値領域だけではなく、低抵抗値領域においても抵抗温度係数が0に近く、ノイズなどの電気的特性が優れた厚膜抵抗体を製造することができる。
2.酸化ルテニウム粉末の製造方法
次に、本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法の一構成例について説明する。
【0053】
なお、本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法により、既述の酸化ルテニウム粉末を製造することができるため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0054】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法は特に限定されるものではなく、既述の酸化ルテニウム粉末を製造できる方法であれば良い。
【0055】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法としては、例えば湿式で合成された酸化ルテニウム水和物を熱処理することによって製造する方法が望ましい。係る製造方法では、その合成方法や熱処理の条件等によって比表面積径や結晶子径を変化させることができる。
【0056】
すなわち、本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
湿式法により酸化ルテニウム水和物を合成する酸化ルテニウム水和物生成工程。
溶液中の、酸化ルテニウム水和物を分離回収する酸化ルテニウム水和物回収工程。
酸化ルテニウム水和物を乾燥する乾燥工程。
酸化ルテニウム水和物を熱処理する熱処理工程。
【0057】
なお、従来一般的に用いられていた粒径の大きい酸化ルテニウムを製造した後、該酸化ルテニウムを粉砕する酸化ルテニウム粉末の製造方法は、粒径が小さくなりにくく、粒径のばらつきも大きいため本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法には適していない。
【0058】
酸化ルテニウム水和物生成工程において、酸化ルテニウム水和物を合成する方法は特に限定されないが、例えばルテニウム含有水溶液において、酸化ルテニウム水和物を析出、沈殿させる方法が挙げられる。具体的には、例えばKRu水溶液にエタノールを加えて酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法や、RuCl水溶液をKOH等で中和して酸化ルテニウム水和物の澱物を得る方法等が挙げられる。
【0059】
そして、上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程と、乾燥工程とで、酸化ルテニウム水和物の沈殿物を固液分離し、必要に応じて洗浄した後、乾燥することで酸化ルテニウム水和物の粉末を得ることができる。
【0060】
熱処理工程の条件は特に限定されないが、例えば酸化ルテニウム水和物粉末は、酸化雰囲気下で400℃以上の温度で熱処理することで結晶水がとれ、結晶性の高い酸化ルテニウム粉末とすることができる。ここで酸化雰囲気とは、酸素を10容積%以上含む気体であり、例えば空気を使用することができる。
【0061】
酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する際の温度は、上述のように400℃以上とすることで、特に結晶性に優れた酸化ルテニウム(RuO)粉末を得ることができ好ましい。熱処理温度の上限値は特に限定されないが、過度に高温にすると得られる酸化ルテニウム粉末の結晶子径や比表面積径が大きくなり過ぎたり、ルテニウムが6価や8価の酸化物(RuOやRuO)となって揮発する割合が高くなる場合がある。このため、例えば1000℃以下の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0062】
特に、酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理する温度は、500℃以上1000℃以下であることがより好ましい。
【0063】
既述のように、酸化ルテニウム水和物を製造する際の合成条件や、熱処理の条件等により、得られる酸化ルテニウム粉末の比表面積径や、結晶性を変化させることができる。このため、例えば予備試験等を行っておき、所望の結晶子径、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末が得られるように条件を選択することが好ましい。
【0064】
本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法は、上述の工程以外にも任意の工程を有することもできる。
【0065】
上述のように、酸化ルテニウム水和物回収工程で酸化ルテニウム水和物の澱物を固液分離し、乾燥工程で乾燥した後、熱処理工程の前に、得られた酸化ルテニウム水和物を機械的に解砕して、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を得ることもできる(解砕工程)。
【0066】
そして、解砕された酸化ルテニウム水和物粉末を、熱処理工程に供し、酸化雰囲気下、400℃以上の温度で熱処理されることで、上述の通り結晶水がとれ、酸化ルテニウム粉末の結晶性を高めることができる。上述のように解砕工程を実施することで、熱処理工程に供する酸化ルテニウム水和物粉末について、凝集の程度を抑制、低減することができる。そして、解砕した酸化ルテニウム水和物粉末を熱処理することで熱処理による粗大粒子や連結粒子の生成を抑制することができる。このため、解砕工程での条件を選択することでも、所望の結晶子径や、比表面積径を備えた酸化ルテニウム粉末を得ることができる。
【0067】
なお、解砕工程での解砕条件は特に限定されるものではなく、目的とする酸化ルテニウム粉末が得られるように、予備試験等を行い任意に選択できる。
【0068】
また、本実施形態の酸化ルテニウム粉末の製造方法は、熱処理工程後に、得られた酸化ルテニウム粉末を、分級することもできる(分級工程)。このように分級工程を実施することで、所望の比表面積径の酸化ルテニウム粉末を選択的に回収することができる。
3.厚膜抵抗体用組成物
次に、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物の一構成例について説明する。
【0069】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性粒子である既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを含むことができる。
【0070】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、導電性成分である既述の酸化ルテニウム粉末を含有することで、該厚膜抵抗体用組成物を用いて抵抗温度係数が0に近く、すぐれた電気的特性を有する厚膜抵抗体を得ることができる。
【0071】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が含有する成分について説明する。
【0072】
酸化ルテニウム粉末については既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0073】
ガラス粉末は、その組成や製造方法について特に限定されるものではない。
【0074】
厚膜抵抗体用組成物に用いるガラス粉末は、鉛を含有するアルミノホウケイ酸鉛が多く用いられているが、その他ホウケイ酸亜鉛系、ホウケイ酸カルシウム系、ホウケイ酸バリウム系などの鉛を含有しない組成系も用いられている。近年では環境保護の観点から鉛を含有しないガラスを用いることが望まれている。
【0075】
以上のように、例えばガラス粉末のガラスとしては例えば、アルミノホウケイ酸鉛ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸カルシウム系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラスから選択された1種以上を用いることができる。また、鉛を含まないガラス、例えばホウケイ酸亜鉛系ガラス、ホウケイ酸カルシウム系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラスから選択された1種以上を用いることもできる。
【0076】
ガラスは、一般的に、所定の成分またはそれらの前駆体を目的とする配合にあわせて混合し、得られた混合物を溶融し急冷することによって製造できる。溶融温度は特に限定されるものではないが例えば1400℃前後で行われている。また、急冷は溶融物を冷水中に入れるか冷ベルト上に流すことにより行われることが多い。ガラスの粉砕はボールミル、振動ミル、遊星ミル、あるいはビーズミルなどで目的とする粒度まで行われる。
【0077】
ガラス粉末の粒径も限定されないが、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定した50%体積累計粒度は5μm以下が好ましく、3μm以下であることがさらに好ましい。ガラス粉末の粒度が大き過ぎると、焼成された厚膜抵抗体の面積抵抗値は低くなるが、面積抵抗値のバラツキが大きくなり歩留まりが低下する、負荷特性が低下するなどの不具合が生じる可能性が高くなる。このため、歩留まりを十分に高め、負荷特性を向上させる観点から、用いるガラス粒子の50%体積累計粒度は5μm以下であることが好ましい。
【0078】
なお、ガラス粉末の粒度を過度に小さくすると、生産性が低くなり、不純物等の混入も増える恐れがあることから、ガラス粉末の50%体積累計粒度は0.5μm以上が好ましい。
【0079】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物中の、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との混合割合は、目的とする面積抵抗値によって任意に変えることができ、特に限定されない。すなわち、目的とする抵抗値が高い場合には酸化ルテニウム粉末を少なく配合し、目的とする抵抗値が低い場合には酸化ルテニウム粉末を多く配合することができる。
【0080】
例えば、酸化ルテニウム(RuO)粉末:ガラス粉末=5:95〜50:50の範囲であることが好ましい。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0081】
これは、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物の、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、すなわち酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との合計を100質量%とした場合に、酸化ルテニウム粉末の割合を5質量%未満にすると、得られる厚膜抵抗体の抵抗値が高くなり過ぎて不安定となるおそれがあるからである。
【0082】
また、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物の酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を50質量%以下とすることで、得られる厚膜抵抗体の強度を十分に高くすることができ、脆くなることを特に確実に防ぐことができる。
【0083】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物中の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末との混合割合は、酸化ルテニウム粉末:ガラス粉末=5:95〜40:60の範囲であることがより好ましい。すなわち、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上40質量%以下とすることがより好ましい。
【0084】
なお、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とを主成分として含むことが好ましく、酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末とのみから構成することもできる。本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、既述の酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との混合粉末を、例えば80量%以上100質量%以下の割合で含有することが好ましく、85質量%以上100質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
【0085】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、必要に応じて任意の成分をさらに含有することもできる。
【0086】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、例えば酸化ルテニウム粉末以外の導電性粒子を含んでも良い。これらの導電性粒子としては、パイロクロア型の結晶構造を有するルテニウム酸鉛、ルテニウム酸ビスマス、ペロブスカイト型結晶構造を有するルテニウム酸カルシウム、ルテニウム酸ストロンチウム、ルテニウム酸バリウム、ルテニウム酸ランタン等のルテニウム酸化物や、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等から選択された1種以上が挙げられる。
【0087】
本実施形態の厚膜抵抗体用組成物は、酸化ルテニウム粉末、ガラス粉末の他に面積抵抗値や抵抗温度係数の調整、膨張係数の調整、耐電圧特性の向上やその他の改質を目的とした添加剤を含むこともできる。厚膜抵抗体用組成物の添加剤としては、例えばMnO、CuO、TiO、Nb、Ta、SiO、Al、ZrO、ZrSiO等から選択された1種以上が挙げられる。また、本実施形態の厚膜抵抗体用組成物が、上述の添加剤を含有する場合、該添加剤の割合についても特に限定されないが、例えば酸化ルテニウム粉末とガラス粉末の重量の合計に対して0.05質量%以上20質量%以下となるように添加することができる。
4.厚膜抵抗体用ペースト
次に、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストの一構成例について説明する。
【0088】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散した構成を有することができる。
【0089】
上述のように、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストは、有機ビヒクルと呼ばれる樹脂成分を溶解した溶剤中に、既述の厚膜抵抗体用組成物を分散することで厚膜抵抗体用ペーストとすることができる。
【0090】
有機ビヒクルの樹脂や溶剤の種類、配合については特に限定されるものではない。有機ビヒクルの樹脂成分としては、例えばエチルセルロース、マレイン酸樹脂、ロジン等から選択された1種以上を用いることができる。
【0091】
また、溶剤としては、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等から選択された1種以上を用いることができる。なお、厚膜抵抗体用ペーストの乾燥を遅らせる目的で、沸点が高い溶剤を加えることもできる。
【0092】
樹脂成分や、溶剤の配合比は、得られる厚膜抵抗体用ペーストに要求される粘度等に応じて調整することができる。厚膜抵抗体用組成物に対する有機ビヒクルの割合は、特に限定されないが、厚膜抵抗体用組成物を100質量部(100質量%)とした場合、有機ビヒクルの割合を例えば30質量%以上100質量%以下とすることができる。
【0093】
本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストを製造する方法は特に限定されないが、例えばスリーロールミル、遊星ミル、ビーズミル等から選択される1種以上を用いて、既述の厚膜抵抗体用組成物を有機ビヒクル中に分散させることもできる。また、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物をボールミルや擂潰(らいかい)機で混合してから、有機ビヒクル中に分散させることもできる。
【0094】
厚膜抵抗体用ペーストでは、無機原料粉末の凝集を解し、樹脂成分を溶解した溶剤、すなわち有機ビヒクル中に分散することが望ましい。一般に、粉末の粒径が小さくなると凝集が強くなり、二次粒子を形成し易くなる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体用ペーストでは、二次粒子を解し、一次粒子に分散させることを容易にするために、脂肪酸等を分散剤として添加することもできる。
5.厚膜抵抗体
次に、本実施形態の厚膜抵抗体の一構成例について説明する。
【0095】
本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペーストを用いて製造することができる。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は、既述の酸化ルテニウム粉末と、ガラス成分とを含有することができる。
【0096】
なお、既述のように、厚膜抵抗体用組成物では、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合を、5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。そして、本実施形態の厚膜抵抗体は、該厚膜抵抗体用組成物を用いて製造でき、得られる厚膜抵抗体内のガラス成分は、厚膜抵抗体用組成物のガラス粉末に由来する。このため、本実施形態の厚膜抵抗体は厚膜抵抗体用組成物と同様に、酸化ルテニウム粉末と、ガラス成分とのうち、酸化ルテニウム粉末の割合が、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、5質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0097】
本実施形態の厚膜抵抗体の製造方法は特に限定されないが、例えば既述の厚膜抵抗体用組成物を、セラミック基板上で焼成して形成することができる。また、既述の厚膜抵抗体用ペーストを、セラミック基板に塗布した後、焼成して形成することもできる。
【実施例】
【0098】
以下に具体的な実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実施例、比較例において、得られた酸化ルテニウム粉末の評価方法について説明する。
1.酸化ルテニウム粉末の評価
得られた酸化ルテニウム粉末の形状・物性を評価するために、X線回折法による物質同定と結晶子径の算出、およびBET法による比表面積径の算出を行った。
【0099】
結晶子径はX線回折パターンのピークの広がりより算出できる。ここではX線回折によって得られたルチル型構造のピークをKα1、Kα2に波形分離した後、測定機器の光学系による広がりを補正したKα1のピークの広がりとして半価幅を測定し、Scherrerの式より算出した。
【0100】
具体的には、結晶子径をD1(nm)、X線の波長をλ(nm)、回折線プロファイルの広がりをβ、回折角をθとした場合に、以下の式(2)として示したScherrerの式から結晶子径を算出した。
【0101】
D1(nm)=(K・λ)/(β・cosθ) ・・・(2)
なお、式(2)中、KはScherrer定数であり、0.9を用いることができる。
【0102】
比表面積径は比表面積と密度より算出できる。比表面積は測定が簡単にできるBET1点法を用いた。比表面積径をD2(nm)、密度をρ(g/cm)、比表面積をS(m/g)とし、粉末を真球とみなすと、以下の式(3)に示す関係式が成り立つ。このD2によって算出される粒径を比表面積径とする。
【0103】
D2(nm)=6×10/(ρ・S) ・・・(3)
本実施形態では、酸化ルテニウムの密度を7.05g/cmとした。
2.厚膜抵抗体の評価
得られた厚膜抵抗体について、膜厚、抵抗値、25℃から−55℃までの抵抗温度係数(COLD−TCR)、25℃から125℃までの抵抗温度係数(HOT−TCR)、及び電気的特性の代表として電流ノイズを評価した。
【0104】
膜厚は、各実施例、比較例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、触針の厚さ粗さ計(東京精密社製 型番:サーフコム480B)により膜厚を測定し、測定した値を平均することで算出した。
【0105】
また、抵抗値は、各実施例、比較例において同様にして作製した25個の厚膜抵抗体の抵抗値をデジタルマルチメーター(KEITHLEY社製、2001番)で測定した値を平均することで、算出した。
【0106】
抵抗温度係数の測定に当たっては、各実施例、比較例において同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について、−55℃、25℃、125℃にそれぞれ15分保持してからそれぞれ抵抗値を測定し、−55℃での抵抗値をR−55、25℃での抵抗値をR25、125℃での抵抗値をR125とした。そして、以下の式(4)、式(5)によって、各厚膜抵抗体について、各温度域での抵抗温度係数を計算した。次いで、算出した各温度域での抵抗温度係数の5個の厚膜抵抗体の平均を計算し、各実施例、比較例で得られた厚膜抵抗体の各温度域での抵抗温度係数(COLD−TCR、HOT−TCR)とした。いずれも単位はppm/℃になる。
【0107】
COLD−TCR=(R−55−R25)/R25/(−80)×10 ・・・(4)
HOT−TCR=(R125−R25)/R25/(100)×10 ・・・(5)
電流ノイズは、ノイズ研究所製RCN−2011により、1/10Wの電圧を印加して測定された電流ノイズをノイズインデックスで表し、各実施例、比較例で同様にして作製した5個の厚膜抵抗体について平均することで算出した。電流ノイズは、低いほど優れたノイズ特性を有するとすることができる。優れたノイズ特性は耐電圧特性等の電気的特性とも相関を有しており、ノイズ特性が優れている場合、電気的特性についもて優れた厚膜抵抗体とすることができる。
[実施例1〜実施例4]
ルテニウム酸カリウムを溶解した水溶液を原料にして、エタノールを加え、水溶液中で酸化ルテニウムの沈殿を合成した(酸化ルテニウム水和物生成工程)。
【0108】
次いで、固液分離を行い、得られた酸化ルテニウム水和物を分離回収した(酸化ルテニウム水和物回収工程)。
【0109】
分離回収した酸化ルテニウム水和物を洗浄後、80℃で乾燥して酸化ルテニウム粉末を得た(乾燥工程)。なお、乾燥後の酸化ルテニウムは結晶性がほとんど見られない酸化水和物であった。
【0110】
この乾燥後の酸化ルテニウム水和物をボールミルにより解砕する解砕処理を行い(解砕工程)、大気雰囲気下、表1に示した温度で、表1に示した時間保持することで熱処理を行い(熱処理工程)、酸化ルテニウム(RuO)粉末を得た。
【0111】
なお、解砕工程では、得られる酸化ルテニウム粉末の結晶子径D1、及び比表面積径D2が所望の値となるように、予備試験を行い、解砕条件を予め設定しておいた。
【0112】
得られた酸化ルテニウム粉末を、レーザー回折を利用した粒度分布計により測定した50%体積累計粒度が1.5μmのガラス粉末と、表1に示した組成になるように混合し、厚膜抵抗体用組成物を作製した。この際、ガラス粉末としては、表2に示す組成のガラス粉末Aを用いた。ガラス粉末Aは、ガラス転移点が620℃、軟化点が760℃であった。
【0113】
なお、ガラス転移点は、ガラス粉末を再溶融などして得られるロッド状の試料を熱機械分析法(TMA)にて大気中で毎分10℃昇温して測定した熱膨張曲線の屈曲点を示す温度とした。また、軟化点は、ガラス粉末を示差熱分析法(TG−DTA)にて大気中で毎分10℃昇温、加熱し、得られた示差熱曲線の最も低温側の示差熱曲線の減少が発現する温度よりも高温側の次の示差熱曲線が減少するピークの温度とした。酸化ルテニウム粉末と、ガラス粉末の配合は、形成された厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ100kΩになるように、表1に示す割合で調整した。
【0114】
得られた厚膜抵抗体用組成物を、有機ビヒクルに添加し、スリーロールミルを用いて、有機ビヒクル中に厚膜抵抗体用組成物を分散させた。なお、この際、酸化ルテニウム粉末とガラス粉末との合計を100質量部とした場合、有機ビヒクルの割合が43質量%となるように、添加、混合(分散)した。
【0115】
なお、有機ビヒクルとしては、エチルセルロースが5質量%〜25質量%と、ターピネオールが75質量%〜95質量%とを混合した混合物を用いた。実施例1〜実施例4に係る厚膜抵抗体用ペーストの粘度が略同じ値となるように有機ビヒクル内の上記各成分の割合を上記範囲内で調整した。
【0116】
次いで得られた厚膜抵抗体用ペーストを、純度96質量%のアルミナ基板上に印刷、乾燥、焼成して厚膜抵抗体を形成し、評価を行った。
【0117】
厚膜抵抗体は具体的には、予めアルミナ基板に焼成して形成された電極上に、作成した厚膜抵抗体用ペーストを印刷し、150℃で5分間加熱して乾燥した。なお、電極は、Pdを1質量%と、Agを99質量%とから構成されるPd−Ag合金により形成されている。そして、ピーク温度を850℃、ピーク温度での保持時間を9分間とし、前後の昇温、降温時間を含めてトータル30分間焼成して厚膜抵抗体を形成した。厚膜抵抗体のサイズは抵抗体幅を1.0mm、抵抗体長さを1.0mmとなるようにした。評価結果を表1に示す。
【0118】
なお、酸化ルテニウム(RuO)粉末に起因する効果を明確にするために、厚膜抵抗体用ペーストは、上述のように酸化ルテニウム(RuO)粉末とガラス粉末Aと有機ビヒクルとから構成している。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1〜実施例4では、面積抵抗値が100kΩ付近においても抵抗温度係数が−100ppm/℃以上+100ppm/℃以下の範囲にあり、電流ノイズも十分に低いことが確認できた。すなわち、抵抗温度係数が0に近く、電気的な特性が優れた厚膜抵抗体を得られていることが確認できた。
【0121】
また、実施例1〜実施例4を通しての傾向として、結晶子径D1が大きくなるにつれて、抵抗温度係数がプラス側に傾き、ノイズが若干ではあるが大きくなる傾向が見られた。
[比較例1〜比較例5]
実施例1〜実施例4の場合と同様に、ルテニウム酸カリウムを溶解した水溶液を原料にして、エタノールを加え、水溶液中で酸化ルテニウムの沈殿を合成した(酸化ルテニウム水和物生成工程)。
【0122】
次いで、固液分離を行い、得られた酸化ルテニウム水和物を分離回収した(酸化ルテニウム水和物回収工程)。
【0123】
分離回収した酸化ルテニウム水和物を洗浄後、80℃で乾燥して酸化ルテニウム粉末を得た(乾燥工程)。なお、乾燥後の酸化ルテニウムは結晶性がほとんど見られない酸化水和物であった。
【0124】
表1に示したように、比較例1以外は解砕処理を行わずに、大気雰囲気下、表1に示した温度で、表1に示した時間保持することで熱処理を行い(熱処理工程)、酸化ルテニウム(RuO)粉末を得た。
【0125】
その後、実施例1〜実施例4の場合と同様に、厚膜抵抗体用組成物、及び厚膜抵抗体用ペーストを作製し、厚膜抵抗体を形成して評価した。
【0126】
なお、比較例1〜比較例4では、厚膜抵抗体用組成物を作製する際、ガラス粉末Aを使用した。酸化ルテニウム粉末とガラス粉末の配合は、形成された厚膜抵抗体の面積抵抗値がおよそ100kΩになるように、表1に示す割合で調整した。
【0127】
表1に評価結果を示す。
【0128】
比較例1は結晶子径D1、比表面積径D2がともに25nmを下回っている酸化ルテニウム粉末を用いた例である。比較例1で作製した厚膜抵抗体の評価結果によると、電流ノイズは小さいが、抵抗温度係数がマイナス側に大きくなっていることが確認できた。
【0129】
比較例2は結晶性が低く結晶子径D1、比表面積径D2の比D1/D2が0.70を下回った例である。抵抗温度係数は−100ppm/℃以上+100ppm/℃以下の範囲にあるが、電流ノイズが高くなることが確認できた。
【0130】
比較例3は粗大粒子と微細な粒子が混在しているため、結晶子径D1と比表面積径D2の比がD1/D2が1.00を超えている。電流ノイズは小さいものの、抵抗温度係数がマイナス側に大きくなることが確認できた。
【0131】
比較例4は結晶子径D1が80nmを上回り、比表面積径D2が114nmを上回っている酸化ルテニウム粉末を用いた例である。抵抗温度係数は−100ppm/℃以上+100ppm/℃以下の範囲にあるものの、電流ノイズが高くなることが確認できた。
【0132】
以上の表1に示した評価結果から、結晶子径D1、及び比表面積径D2を所定の範囲にコントロールした実施例1〜実施例4の酸化ルテニウム粉末を含む厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペーストにより作製した厚膜抵抗体は、抵抗温度係数が0に近く、電気的な特性が優れることを確認できた。
【0133】
このため、係る酸化ルテニウム粉末を含む厚膜抵抗体用組成物、厚膜抵抗体用ペーストを用いた厚膜抵抗体、例えばチップ抵抗器、ハイブリットIC、抵抗ネットワーク等の電子部品は、抵抗温度係数が0に近く、電気的な特性が優れており、高い性能を発揮できることが確認できた。