特許第6965683号(P6965683)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6965683
(24)【登録日】2021年10月25日
(45)【発行日】2021年11月10日
(54)【発明の名称】キャンロールと長尺基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/56 20060101AFI20211028BHJP
   C23C 16/54 20060101ALI20211028BHJP
【FI】
   C23C14/56 D
   C23C16/54
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2017-201081(P2017-201081)
(22)【出願日】2017年10月17日
(65)【公開番号】特開2019-73774(P2019-73774A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】 内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−137543(JP,A)
【文献】 特開2012−132081(JP,A)
【文献】 特開2016−079494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−58
C23C 16/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒が循環する冷媒循環部と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これ等複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントとを備え、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールであって、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しないように制御するキャンロールにおいて、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直に形成されている回転リングユニットと固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットのガス制御用摺接面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットの回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とするキャンロール。
【請求項2】
冷媒が循環する冷媒循環部と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これ等複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントとを備え、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールであって、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しないように制御するキャンロールにおいて、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられた円筒基部と円筒凸部からなる断面凸形状の回転リングユニットと、上記回転リングユニットの円筒凸部が嵌入されてキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行に形成される円筒状の固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有すると共に、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットにおける円筒凸部の上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットの円筒内周面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットにおける円筒凸部の回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とするキャンロール。
【請求項3】
円弧状パッキン部材の長さ方向両端側に形成される上記端部傾斜面における長さ方向の寸法が、回転リングユニットのガス制御用摺接面に所定の間隔をあけて設けられる回転開口部の上記間隔以上に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のキャンロール。
【請求項4】
上記端部傾斜面が形成された円弧状パッキン部材の長さ方向両端側が固定手段を用いて環状凹溝内に固定され、上記両端側以外の部位が円弧状パッキン部材の背面側に設けられた付勢手段を用いて回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け付勢して取り付けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のキャンロール。
【請求項5】
上記円弧状パッキン部材がフッ素系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のキャンロール。
【請求項6】
真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路およびそれら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントを有すると共に循環する冷媒で冷却された外周面に長尺基板を部分的に巻き付けて冷却するキャンロールとを備え、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しない構造を有する長尺基板処理装置において、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直に形成されている回転リングユニットと固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットのガス制御用摺接面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットの回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とする長尺基板処理装置。
【請求項7】
真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路およびそれら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントを有すると共に循環する冷媒で冷却された外周面に長尺基板を部分的に巻き付けて冷却するキャンロールとを備え、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しない構造を有する長尺基板処理装置において、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられた円筒基部と円筒凸部からなる断面凸形状の回転リングユニットと、上記回転リングユニットの円筒凸部が嵌入されてキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行に形成される円筒状の固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有すると共に、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットにおける円筒凸部の上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットの円筒内周面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットにおける円筒凸部の回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とする長尺基板処理装置。
【請求項8】
円弧状パッキン部材の長さ方向両端側に形成される上記端部傾斜面における長さ方向の寸法が、回転リングユニットのガス制御用摺接面に所定の間隔をあけて設けられる回転開口部の上記間隔以上に設定されていることを特徴とする請求項6または7に記載の長尺基板処理装置。
【請求項9】
上記端部傾斜面が形成された円弧状パッキン部材の長さ方向両端側が固定手段を用いて環状凹溝内に固定され、上記両端側以外の部位が円弧状パッキン部材の背面側に設けられた付勢手段を用いて回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け付勢して取り付けられていることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項10】
上記円弧状パッキン部材がフッ素系樹脂で構成されていることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項11】
熱負荷の掛かる上記処理が、プラズマ処理またはイオンビーム処理であることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項12】
上記プラズマ処理またはイオンビーム処理を行う機構が、キャンロールの外周面で画定される搬送経路に対向していることを特徴とする請求項11に記載の長尺基板処理装置。
【請求項13】
熱負荷の掛かる上記処理が、真空成膜処理であることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の長尺基板処理装置。
【請求項14】
上記真空成膜処理が、キャンロールの外周面で画定される搬送経路に対向する真空成膜手段による処理であることを特徴とする請求項13に記載の長尺基板処理装置。
【請求項15】
上記真空成膜手段が、マグネトロンスパッタリングであることを特徴とする請求項14に記載の長尺基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺耐熱性樹脂フィルム等の長尺基板をキャンロールの外周面に巻き付けた状態でイオンビーム処理やスパッタリング成膜等の熱負荷が掛かる表面処理を行う長尺基板処理装置に係り、特に、冷却効果の高いガス放出機構を有しかつ長尺基板が巻き付けられないキャンロール外周面からのガス漏れを抑制できるキャンロールとこのキャンロールを用いた長尺基板処理装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、フレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムから作製される。近年、フレキシブル配線基板に形成される配線パターンはますます微細化、高密度化しており、金属膜付耐熱性樹脂フィルム自体が皺等のない平滑なものであることがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、接着剤により金属箔を耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法と称される)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法と称される)、乾式めっき法(真空成膜法)若しくは乾式めっき法(真空成膜法)と湿式めっき法との組み合わせにより耐熱性樹脂フィルムに金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法と称される)等が従来から知られている。また、メタライジング法における上記乾式めっき法(真空成膜法)には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
上記メタライジング法として、特許文献1では、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2では、ポリイミドフィルム上に、銅ニッケル合金をターゲットとしてスパッタリングにより形成された第一の金属薄膜と、銅をターゲットとしてスパッタリングにより形成された第二の金属薄膜の順に積層して形成されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。尚、ポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルム(基板)に真空成膜を行うには、スパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
【0005】
上述した真空成膜法において、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に較べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷が掛かると、フィルムに皺が発生し易くなることも知られている。この皺の発生を防ぐため、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造装置であるスパッタリングウェブコータでは冷却機能を備えたキャンロールを搭載し、これを回転駆動してその外周面に画定される搬送経路にロールツーロールで搬送される耐熱性樹脂フィルムを巻き付けることによってスパッタリング処理中の耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式真空スパッタリング装置には上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、更にクーリングロールの少なくともフィルム搬入側若しくは搬出側に設けたサブロールによってフィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかし、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールとその外周面に密着して搬送されるフィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このため、スパッタリングや蒸着の際に生じるフィルムの熱は、実際にはフィルムからキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルム皺発生の原因となっていた。
【0008】
そこで、上記キャンロール外周面とフィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入し、ギャップ部の熱伝導率を真空に較べて高くする技術が提案されている。
【0009】
そして、ギャップ部にキャンロール側からガスを導入する具体的な方法として、例えば特許文献4には、キャンロール外周面にガスの放出口となる多数の微細孔を設ける技術が開示され、特許文献5には、キャンロール外周面にガスの放出口となる溝を設ける技術が開示されている。また、キャンロール自体を多孔質体で構成し、その多孔質体自身の微細孔をガス放出口とする方法も知られている。
【0010】
ところで、キャンロール外周面にガスの放出口となる微細孔や溝等を設ける方法において、キャンロールの外周面にフィルムが巻き付けられていない領域(非ラップ部領域)はフィルムが巻き付けられている領域(ラップ部領域)に較べてガスの放出口における抵抗が低くなる。このため、キャンロールに供給されるガスの大半が、非ラップ部領域のガス放出口から真空チャンバーの空間へ放出されてしまい、この結果、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられているフィルムとの間のギャップ部に本来導入されるべき量のガスが供給されなくなり上述した熱伝導率を高める効果が得られなくなることがあった。
【0011】
この問題に対しては、キャンロールの外周面から出没するバルブをガス放出口に設け、このバルブをフィルム面で押さえつけることによってガス放出口を開放する方法(特許文献5)や、上記キャンロール外周面の内、フィルムが搬出される搬出部を始点としフィルムが搬入される搬入部を終点とするフィルムが巻き付けられない領域(キャンロール外周面の上記非ラップ部領域)にカバーを取り付け、真空チャンバーの空間へ非ラップ部領域からガスが放出されるのを防止してキャンロール外周面とフィルム表面とのギャップ部に効率よくガスを導入させる方法(特許文献6参照)等が提案されている。
【0012】
しかし、キャンロール外周面から出没するバルブをフィルム面で押さえつけてガス放出口を開放させる特許文献5の方法は、バルブの接触によりフィルム面に僅かなキズや凹みを生じさせる恐れがあり、高い品質が要求される電子機器を用途とするフレキシブル配線基板の製造に採用することは難しかった。また、キャンロール外周面の内、フィルムが巻き付けられない領域(非ラップ部領域)にカバーを取り付ける特許文献6の方法は、高い真空度で成膜を行う処理装置においてカバーとキャンロール外周面との隙間からガスが漏れ易いため、特許文献5の方法と同様、採用することは困難であった。
【0013】
このような技術的背景の下、本発明者は、フィルムが巻き付けられないキャンロール外周面へガスを供給しない構造にして上記非ラップ部領域からのガス放出を防止するキャンロールを既に提案している(特許文献7参照)。すなわち、このキャンロールは、図2に示すように、キャンロール56の肉厚部に複数のガス導入路14が設けられ、かつ、各ガス導入路14には多数のガス放出孔15が設けられていると共に、ガス導入路14の各々に下記ロータリージョイント20を介して真空チャンバー外部のガスが選択的に供給されるように制御するものであった。また、上記ロータリージョイント20は、図2に示すように、固定リングユニット22と回転リングユニット21とで構成され、上記キャンロール56の中心軸56aに対して各ユニットのガス制御用摺接面が垂直となるように形成されたキャンロールと、上記中心軸56aに対して各ユニットのガス制御用摺接面が平行となるように形成されたキャンロールが作製されている。
【0014】
そして、上記キャンロール56の中心軸56aに対して固定リングユニット22と回転リングユニット21のガス制御用摺接面が垂直となるように形成されたキャンロールの上記回転リングユニット21は、図3図5に示すように、連結配管25を介し複数のガス導入路14にそれぞれ連通する複数のガス供給路23を有しており、かつ、これ等複数のガス供給路23の各々は、上記連結配管25を介し連通するガス導入路14のキャンロール56外周面上の角度位置に対応した角度位置(すなわち、キャンロール56外周面上の角度位置と略同じ角度位置)で開口する回転開口部23aを上記ガス制御用摺接面に有している。他方、上記固定リングユニット22は、ガス制御用摺接面に周方向に亘り設けられた環状凹溝27aにより構成されかつ環状凹溝27a内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材42により固定リングユニット22のガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管26に連通するガス分配路27を有しており、上記固定開口部は、回転リングユニット21の回転開口部23aが対向する固定リングユニット22のガス制御用摺接面上の領域のうちフィルム(長尺基板)52を巻き付ける角度範囲内で開口している。尚、図3図5中、符号43はパッキン取付け治具を示している。
【0015】
そして、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられないキャンロール56の非ラップ部領域に対応する場合、図3に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入された固定閉止部に対向してガス供給路23とガス分配路27は互いに切り離された状態になり、真空チャンバー50外部からのガスがガス供給路23へ供給されない構造になるためキャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されることはない。また、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられるキャンロール56のラップ部領域に対応する場合、図3に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、上記固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入されない固定開口部に対向してガス供給路23とガス分配路27は接続された状態となり、キャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されてキャンロール56外周面とフィルム52間のギャップ部にガスが導入されるようになっている。
【0016】
一方、キャンロール56の中心軸56aに対し固定リングユニット22と回転リングユニット21のガス制御用摺接面が平行となるように形成されたロータリージョイント20は、図6図8に示すように、キャンロール56と同心軸状に設けられた円筒基部21aと円筒凸部21bからなる断面凸形状の回転リングユニット21と、該回転リングユニット21の円筒凸部21bが嵌入される円筒状の固定リングユニット22とで構成されている。そして、回転リングユニット21は、連結配管25を介し複数のガス導入路14にそれぞれ連通する複数のガス供給路23を有すると共に、ガス供給路23の各々は、連通するガス導入路14のキャンロール56外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部23aを円筒凸部21bのガス制御用摺接面に有している。また、固定リングユニット22は、その円筒内周面に周方向に亘り設けられた環状凹溝27aにより構成されかつ環状凹溝27a内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材42により固定リングユニット22のガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部とガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー50外部の供給配管26に連通するガス分配路27を有しており、上記固定開口部は、回転リングユニット21における円筒凸部21bの回転開口部23aが対向する固定リングユニット22のガス制御用摺接面上の領域のうちフィルム(長尺基板)52を巻き付ける角度範囲内で開口している、尚、図6図8中、符号43はパッキン取付け治具を示している。
【0017】
そして、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられないキャンロール56の非ラップ部領域に対応する場合、図6に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入された固定閉止部に対向してガス供給路23とガス分配路27は互いに切り離された状態になり、真空チャンバー50外部からのガスがガス供給路23へ供給されない構造になるためキャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されることはない。また、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられるキャンロール56のラップ部領域に対応する場合、図6に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、上記固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入されない固定開口部に対向してガス供給路23とガス分配路27は接続された状態となり、キャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されてキャンロール56外周面とフィルム52間のギャップ部にガスが導入されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号パンフレット
【特許文献5】米国特許第3414048号明細書
【特許文献6】国際公開第2002/070778号パンフレット
【特許文献7】特開2012−132081号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】”Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data”, 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15-20, 2000, p.335
【非特許文献2】”Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design”, 2000 Society of Vacuum Coaters, 50thAnnual Technical Conference Proceeding (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
ところで、上記ロータリージョイントを備える特許文献7のキャンロールにおいては、固定リングユニット22の環状凹溝27a内に嵌入される円弧状パッキン部材42がポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂で構成され、かつ、図9(A)〜(B)に示すように環状凹溝27a内に嵌入される円弧形状を有していると共に、パッキン取付け治具43の先端部を嵌入させる複数の治具収容部42aが円弧状パッキン部材42の一面に設けられている。尚、図9(A)はキャンロールの中心軸に対して回転リングユニットと固定リングユニットのガス制御用摺接面が垂直となるように形成された「垂直型ロータリージョイント」に適用される円弧状パッキン部材を示し、図9(B)はキャンロールの中心軸に対して回転リングユニットと固定リングユニットのガス制御用摺接面が平行となるように形成された「平行型ロータリージョイント」に適用される円弧状パッキン部材を示している。
【0021】
そして、回転リングユニットのガス制御用摺接面に設けられた複数の回転開口部23aを確実に閉止できるようにするため、パッキン取付け治具43の付勢手段(図示せず)を用いて図9(C)に示すように回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け付勢した状態で上記円弧状パッキン部材42が取り付けられている。
【0022】
しかし、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け均一に付勢した状態で円弧状パッキン部材42を取り付けることは容易でなく、上記ガス制御用摺接面側へ向け円弧状パッキン部材42を強く押圧して取り付けた場合、図9(C)に示すように円弧状パッキン部材42が歪んでその端部側がガス制御用摺接面から浮いてしまい、回転開口部23aからのガス漏れを生ずることがあった。
【0023】
そして、ガス制御用摺接面の上記回転開口部23aからのガス漏れが発生すると、キャンロール表面とフィルムとのギャップ間圧力を制御することが困難となり、冷却効率の低下やバラツキにより表面処理中のフィルムに皺が生じてしまうことがあった。
【0024】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け均一に付勢した状態で上記円弧状パッキン部材が取付けられるキャンロールと長尺基板処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
そこで、上記課題を解決するため、円弧状パッキン部材の形状について本発明者が鋭意研究を試みた結果、回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットのガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を円弧状パッキン部材の両端側に形成することで改善されることを見出すに至った。本発明はこのような発見により完成されたものである。
【0026】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
冷媒が循環する冷媒循環部と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これ等複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントとを備え、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールであって、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しないように制御するキャンロールにおいて、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直に形成されている回転リングユニットと固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットのガス制御用摺接面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットの回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とし、
第2の発明は、
冷媒が循環する冷媒循環部と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路と、これ等複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントとを備え、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺基板を外周面に部分的に巻き付けて冷却するキャンロールであって、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しないように制御するキャンロールにおいて、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられた円筒基部と円筒凸部からなる断面凸形状の回転リングユニットと、上記回転リングユニットの円筒凸部が嵌入されてキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行に形成される円筒状の固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有すると共に、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットにおける円筒凸部の上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットの円筒内周面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットにおける円筒凸部の回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とするものである。
【0027】
また、本発明に係る第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載のキャンロールにおいて、
円弧状パッキン部材の長さ方向両端側に形成される上記端部傾斜面における長さ方向の寸法が、回転リングユニットのガス制御用摺接面に所定の間隔をあけて設けられる回転開口部の上記間隔以上に設定されていることを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明〜第3の発明のいずれかに記載のキャンロールにおいて、
上記端部傾斜面が形成された円弧状パッキン部材の長さ方向両端側が固定手段を用いて環状凹溝内に固定され、上記両端側以外の部位が円弧状パッキン部材の背面側に設けられた付勢手段を用いて回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け付勢して取り付けられていることを特徴とし、
第5の発明は、
第1の発明〜第4の発明のいずれかに記載のキャンロールにおいて、
上記円弧状パッキン部材がフッ素系樹脂で構成されていることを特徴とするものである。
【0028】
次に、本発明に係る第6の発明は、
真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路およびそれら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントを有すると共に循環する冷媒で冷却された外周面に長尺基板を部分的に巻き付けて冷却するキャンロールとを備え、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しない構造を有する長尺基板処理装置において、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直に形成されている回転リングユニットと固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有し、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットのガス制御用摺接面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットの回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とし、
第7の発明は、
真空チャンバーと、該真空チャンバー内においてロールツーロールで長尺基板を搬送する搬送機構と、長尺基板に対して熱負荷の掛かる処理を施す処理手段と、周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って配設された複数のガス導入路およびそれら複数のガス導入路の各々に真空チャンバー外部のガスを供給するロータリージョイントを有すると共に循環する冷媒で冷却された外周面に長尺基板を部分的に巻き付けて冷却するキャンロールとを備え、
上記複数のガス導入路の各々は、キャンロールの回転軸方向に沿って均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔を有しており、上記ロータリージョイントは、長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置しているガス導入路にはガスを供給しかつ長尺基板を巻き付ける角度範囲内に位置していないガス導入路にはガスを供給しない構造を有する長尺基板処理装置において、
上記ロータリージョイントが、キャンロールと同心軸状に設けられた円筒基部と円筒凸部からなる断面凸形状の回転リングユニットと、上記回転リングユニットの円筒凸部が嵌入されてキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行に形成される円筒状の固定リングユニットとで構成され、
上記回転リングユニットは、複数の上記ガス導入路にそれぞれ連通する複数のガス供給路を有すると共に、これ等複数のガス供給路の各々は、連通するガス導入路のキャンロール外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部を回転リングユニットにおける円筒凸部の上記ガス制御用摺接面に有しており、
上記固定リングユニットは、固定リングユニットの円筒内周面に周方向に亘り設けられた環状凹溝により構成されかつ環状凹溝内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材により上記固定リングユニットのガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管に連通するガス分配路を有しており、かつ、上記固定開口部は、回転リングユニットにおける円筒凸部の回転開口部が対向する固定リングユニットのガス制御用摺接面上の領域のうち上記長尺基板を巻き付ける角度範囲内で開口し、
上記環状凹溝内の所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材は、上記回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットの上記ガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有すると共に、パッキン取付け治具により上記環状凹溝内に取付けられていることを特徴とするものである。
【0029】
また、本発明に係る第8の発明は、
第6の発明または第7の発明に記載の長尺基板処理装置において、
円弧状パッキン部材の長さ方向両端側に形成される上記端部傾斜面における長さ方向の寸法が、回転リングユニットのガス制御用摺接面に所定の間隔をあけて設けられる回転開口部の上記間隔以上に設定されていることを特徴とし、
第9の発明は、
第6の発明〜第8の発明のいずれかに記載の長尺基板処理装置において、
上記端部傾斜面が形成された円弧状パッキン部材の長さ方向両端側が固定手段を用いて環状凹溝内に固定され、上記両端側以外の部位が円弧状パッキン部材の背面側に設けられた付勢手段を用いて回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け付勢して取り付けられていることを特徴とし、
第10の発明は、
第6の発明〜第9の発明のいずれかに記載の長尺基板処理装置において、
上記円弧状パッキン部材がフッ素系樹脂で構成されていることを特徴とし、
第11の発明は、
第6の発明〜第10の発明のいずれかに記載の長尺基板処理装置において、
熱負荷の掛かる上記処理がプラズマ処理またはイオンビーム処理であることを特徴とし、
第12の発明は、
第11の発明に記載の長尺基板処理装置において、
上記プラズマ処理またはイオンビーム処理を行う機構が、キャンロールの外周面で画定される搬送経路に対向していることを特徴とし、
第13の発明は、
第6の発明〜第10の発明のいずれかに記載の長尺基板処理装置において、
熱負荷の掛かる上記処理が、真空成膜処理であることを特徴とし、
第14の発明は、
第13の発明に記載の長尺基板処理装置において、
上記真空成膜処理がキャンロールの外周面で画定される搬送経路に対向する真空成膜手段による処理であることを特徴とし、
また、第15の発明は、
第14の発明に記載の長尺基板処理装置において、
上記真空成膜手段が、マグネトロンスパッタリングであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係るキャンロールと長尺基板処理装置によれば、
回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットのガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有する円弧状パッキン部材が適用され、固定リングユニットの環状凹溝内にパッキン取付け治具を用いて上記円弧状パッキン部材が取付けられている。
【0031】
そして、端部傾斜面が形成された円弧状パッキン部材の背面部位と上記端部傾斜面に隣接する円弧状パッキン部材の背面部位がパッキン取付け治具の付勢手段により回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向けそれぞれ押圧された状態で上記環状凹溝内に円弧状パッキン部材が取り付けられることで、円弧状パッキン部材における端部傾斜面の内側終端箇所にガス制御用摺接面側へ向けた押圧力が作用するため、円弧状パッキン部材における端部傾斜面の内側終端箇所がガス制御用摺接面から浮いてしまうことがない。
【0032】
このため、円弧状パッキン部材における端部傾斜面の内側終端箇所より内側に位置する円弧状パッキン部材の平坦面で上記回転リングユニットのガス制御用摺接面に設けられた回転開口部を確実に閉止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明に係るキャンロールが好適に使用されるロールツーロール方式の長尺基板処理装置の一例を示す説明図。
図2】ロータリージョイントを備える特許文献7に係るキャンロールの概略斜視図。
図3】キャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットの概略斜視図。
図4】キャンロールの中心軸に対して固定リングユニットと回転リングユニットのガス制御用摺接面が垂直となるように形成されたキャンロールの概略構成を示す説明図。
図5】キャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットで構成されたロータリージョイントの側面図、および、A-A’断面とB-B’断面図。
図6】キャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットの概略斜視図。
図7】キャンロールの中心軸に対して固定リングユニットと回転リングユニットのガス制御用摺接面が平行となるように形成されたキャンロールの概略構成を示す説明図。
図8】キャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットで構成されたロータリージョイントの側面図、および、A-A’断面とB-B’断面図。
図9図9(A)〜(B)は従来例に係る円弧状パッキン部材の概略部分斜視図、図9(C)はガス制御用摺接面側へ向け円弧状パッキン部材を強く押圧して取り付けた場合に円弧状パッキン部材が歪んでその端部側がガス制御用摺接面から浮いた状態を示す説明図。
図10図10(A)〜(B)は両端側に端部傾斜面を有する本発明に係る円弧状パッキン部材の概略部分斜視図、図10(C)は端部傾斜面が形成された円弧状パッキン部材の背面部位と上記端部傾斜面に隣接する円弧状パッキン部材の背面部位がガス制御用摺接面側へ向けそれぞれ押圧された状態で取り付けられた場合、端部傾斜面の内側終端箇所にガス制御用摺接面側へ向けた押圧力が作用して端部傾斜面の内側終端箇所がガス制御用摺接面から浮かない状態を示す説明図。
図11図11(A)は従来例に係る円弧状パッキン部材とパッキン取付け治具の説明図、図11(B)は従来例に係る円弧状パッキン部材が用いられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットで構成された垂直型ロータリージョイントの一部側面図、図11(C)は図11(B)の部分断面図、図11(D)は両端側に端部傾斜面を有する本発明に係る円弧状パッキン部材とパッキン取付け治具の説明図、図11(E)は本発明に係る円弧状パッキン部材が用いられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が垂直となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットで構成された垂直型ロータリージョイントの一部側面図、図11(F)と図11(G)はそれぞれ図11(E)の部分断面図。
図12図12(A)は従来例に係る円弧状パッキン部材とパッキン取付け治具が用いられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットで構成された平行型ロータリージョイントの一部側面図、図12(B)は図12(A)の部分断面図、図12(C)は両端側に端部傾斜面を有する本発明に係る円弧状パッキン部材とパッキン取付け治具が用いられかつキャンロールの中心軸に対しそれぞれのガス制御用摺接面が平行となるように形成されている固定リングユニットと回転リングユニットで構成された平行型ロータリージョイントの一部側面図、図12(D)と図12(E)はそれぞれ図12(C)の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明と従来例に係るキャンロールおよびこれを搭載した長尺基板処理装置の一具体例について図面を参照しながら詳細に説明する。先ず、図1を参照しながら、長尺基板処理装置の一例である長尺基板真空成膜装置について説明する。尚、長尺基板には、一例として長尺耐熱性樹脂フィルムを用いる場合について説明する。また、長尺基板に対して施される熱負荷の掛かる処理として、スパッタリング処理を例にとって説明する。
【0035】
(1)長尺基板処理装置
図1に示す長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置はスパッタリングウェブコータと称される装置であり、ロールツーロール方式で搬送される長尺状耐熱樹脂フィルムの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0036】
具体的に説明すると、ロールツーロール方式で搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、真空チャンバー50内に設けられており、巻き出しロール51から巻き出された長尺耐熱性樹脂フィルム52に対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール64で巻き取るようになっている。巻き出しロール51から巻き取りロール64までの搬送経路の途中に、モータで回転駆動されるキャンロール56が配置されている。このキャンロール56の内部には、真空チャンバー50の外部で温調された冷媒が循環している。ここで、キャンロール56の外周面にフィルム52が巻き付けられている部分を「ラップ部」、フィルム52が巻き付けられていない部分を「非ラップ部」と呼ぶことにする。
【0037】
真空チャンバー50内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素等のガスが添加される。真空チャンバー50の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。上記したように真空チャンバー50内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー50には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0038】
巻き出しロール51からキャンロール56までの搬送経路には、長尺耐熱性樹脂フィルム52を案内するフリーローラ53と、長尺耐熱性樹脂フィルム52の張力の測定を行う張力センサロール54とがこの順で配置されている。また、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺耐熱性樹脂フィルム52は、キャンロール56の近傍に設けられたモータ駆動のフィードローラ55によって、キャンロール56の周速度に対する調整が行われる。これによりキャンロール56の外周面に長尺耐熱性樹脂フィルム52を密着させることができる。
【0039】
キャンロール56から巻き取りロール64までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードローラ61、長尺耐熱性樹脂フィルム52の張力の測定を行う張力センサロール62、および、長尺耐熱性樹脂フィルム52を案内するフリーローラ63がこの順に配置されている。
【0040】
上記巻き出しロール51および巻き取りロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺耐熱性樹脂フィルム52の張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転とこれに連動して回転するモータ駆動のフィードローラ55、61により、巻き出しロール51から長尺耐熱性樹脂フィルム52が巻き出されて巻き取りロール64に巻き取られるようになっている。
【0041】
キャンロール56の近傍には、キャンロール56の外周面で画定される搬送経路(すなわち、キャンロール56の外周面のうちの長尺耐熱性樹脂フィルム52を巻き付ける領域)に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59および60が設けられている。尚、上記した角度範囲のことを長尺耐熱性樹脂フィルム52の抱き角と称し、この範囲を上記ラップ部と呼ぶことにしている。
【0042】
金属膜のスパッタリング成膜の場合は、図1に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合は、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0043】
また、この図1の長尺耐熱性樹脂フィルム52の成膜装置は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソードが図示されているが、熱負荷の掛かる処理がCVD(化学蒸着)や蒸着処理等の他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。
【0044】
(2)ガス放出機構付きキャンロール
次に、ガス放出機構付きキャンロールについて図2図4および図7を参照しながら説明する。本ガス放出機構付きキャンロール56は、図示しない駆動装置により回転中心軸56aを中心として回転駆動される円筒部材10(図2参照)で構成されている。この円筒部材10の外表面に長尺耐熱性樹脂フィルム52を巻き付けながら搬送する搬送経路が画定される。円筒部材10の内表面側には、冷却水等の冷媒が流通する冷媒循環部11(図4および図7参照)がジャケット構造で形成されている。
【0045】
また、円筒部材10の回転中心軸56a部分に位置する回転軸12(図2参照)は二重配管構造になっており、この回転軸12を介して真空チャンバー50の外部に設けられた図示しない冷媒冷却装置と冷媒循環部11との間で冷媒が循環するようになっており、これによりキャンロール56外周面の温度調節が可能となっている。
【0046】
すなわち、冷媒冷却装置で冷却された冷却水等の冷媒は、冷却水口40から導入されかつ内側配管12aの内側を経て冷媒循環部11に送られ、ここで長尺耐熱性樹脂フィルム52の熱を受け取って昇温した後、内側配管12aと外側配管12bとの間の空間を経て再び冷媒冷却装置に戻される。尚、外側配管12bの外側には回転するキャンロール56を支持するベアリング32が設けられている。
【0047】
このキャンロール56の円筒部材10には、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って複数のガス導入路14が配設されている。これら複数のガス導入路14の各々は、キャンロール56の回転中心線56a方向に沿って延在するように円筒部材10の肉厚部内に穿設されている。尚、図2には、12本のガス導入路14が均等な間隔をあけて全周に亘って配設されている例が示されている。
【0048】
各ガス導入路14は、円筒部材10の外表面側(すなわち、キャンロール56の外周面側)に開口する複数のガス放出孔15を有している。これら複数のガス放出孔15は、キャンロール56の回転中心軸56a方向に沿って略均等な間隔をあけて穿設されている。そして、図2に示すように回転リングユニット21と固定リングユニット22から成るロータリージョイント20を介して真空チャンバー50の外部から各ガス導入路14にガスが供給されるようになっており、これによりキャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルム52との間に形成されるギャップ部(間隙)にガスを導入することが可能となる。
【0049】
上記長尺耐熱性樹脂フィルム52とキャンロール56表面は上述したように完全な平面ではないため、そのギャップ部(間隙)が真空により断熱されて熱伝導効率を低下させており、スパッタリング成膜の際の熱による耐熱性樹脂フィルム52の皺発生原因となっている。
【0050】
尚、非特許文献2によれば、導入ガスがアルゴンガスの場合、導入ガス圧力が500Paでかつギャップ間距離が約40μm以下のとき、ギャップ間の熱伝導率は250(W/m2・K)となる。本発明のガス放出機構付きキャンロールにおいても、ラップ部のキャンロール表面とフィルム間ギャップのガス圧力が高いほど熱伝導率が高くなりフィルム冷却効率はよくなる。しかし、上記ガス圧力が、フィルム張力Tでキャンロールが押し付けられる力である抗力P=T/R(R:キャンロール半径)を越えた場合、キャンロールからフィルムが浮き上がってガス圧力制御が困難になる。このため、キャンロール表面とフィルム間ギャップにおけるガス圧力の制御が重要である。そして、ロータリージョイント内のパッキン部材により非ラップ部へのガス導入を完全に停止しないと、正確な圧力制御ができなくなってしまことがある。
【0051】
以下、キャンロールの中心軸に対して回転リングユニットと固定リングユニットのガス制御用摺接面が垂直となるように形成された上記「垂直型ロータリージョイント」と、キャンロールの中心軸に対して回転リングユニットと固定リングユニットのガス制御用摺接面が平行となるように形成された上記「平行型ロータリージョイント」について説明する。
【0052】
(3)ロータリージョイント
(3-1)垂直型ロータリージョイント
垂直型ロータリージョイントは、図3図5に示すように回転リングユニット21と、固定治具41で回転しないように固定された固定リングユニット22とで構成されている。
【0053】
そして、上記回転リングユニット21は、連結配管25を介し複数のガス導入路14にそれぞれ連通する複数のガス供給路23を有しており、かつ、ガス供給路23の各々は、上記連結配管25を介し連通するガス導入路14のキャンロール56外周面上の角度位置に対応した角度位置(キャンロール56外周面上の角度位置と略同じ角度位置)で開口する回転開口部23aをガス制御用摺接面に有している。
【0054】
他方、上記固定リングユニット22は、ガス制御用摺接面に周方向に亘り設けられた環状凹溝27aにより構成されかつ環状凹溝27a内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材42により固定リングユニット22のガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部と上記ガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー外部の供給配管26に連通するガス分配路27を有している。また、上記固定開口部は、回転リングユニット21の回転開口部23aが対向する固定リングユニット22のガス制御用摺接面上の領域のうち長尺耐熱性樹脂フィルム52を巻き付ける角度範囲内で開口している。
【0055】
そして、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられないキャンロール56の非ラップ部領域に対応する場合、図3に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入された固定閉止部に対向してガス供給路23とガス分配路27は互いに切り離された状態になり、真空チャンバー50外部からのガスがガス供給路23へ供給されない構造になるためキャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されることはない。
【0056】
他方、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられるキャンロール56のラップ部領域に対応する場合、図3に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、上記固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入されない固定開口部に対向してガス供給路23とガス分配路27は接続された状態となり、キャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されてキャンロール56外周面とフィルム52間のギャップ部にガスが導入されるようになっている。
【0057】
尚、図3図5中の符号43はパッキン取付け治具、図5中の符号77は回転リングユニット21の固定ネジ穴をそれぞれ示し、また、図5中の符号82と83はキャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられるラップ部領域のキャンロール56表面とフィルム52とのギャップ間ガス圧力に相当するガス分配路27内の圧力を測定するための圧力計ポートを示している。
【0058】
(3-2)平行型ロータリージョイント
平行型ロータリージョイントは、図6図8に示すように、円筒基部21aと円筒凸部21bからなる断面凸形状の回転リングユニット21と、回転リングユニット21の上記円筒凸部21bが嵌入されかつ固定治具41で回転しないように固定された固定リングユニット22とで構成されている。
【0059】
そして、上記回転リングユニット21は、連結配管25を介し複数のガス導入路14にそれぞれ連通する複数のガス供給路23を有すると共に、ガス供給路23の各々は、連通するガス導入路14のキャンロール56外周面上の角度位置に対応した角度位置で開口する回転開口部23aを円筒凸部21bのガス制御用摺接面に有している。
【0060】
他方、固定リングユニット22は、その円筒内周面に周方向に亘り設けられた環状凹溝27aにより構成されかつ環状凹溝27a内の所定領域に嵌入された円弧状パッキン部材42により固定リングユニット22のガス制御用摺接面が閉止された固定閉止部とガス制御用摺接面が閉止されない固定開口部を有すると共に真空チャンバー50外部の供給配管26に連通するガス分配路27を有している。また、上記固定開口部は、回転リングユニット21における円筒凸部21bの回転開口部23aが対向する固定リングユニット22のガス制御用摺接面上の領域のうち長尺耐熱性樹脂フィルム52を巻き付ける角度範囲内で開口している。
【0061】
そして、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられないキャンロール56の非ラップ部領域に対応する場合、図6に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入された固定閉止部に対向してガス供給路23とガス分配路27は互いに切り離された状態になり、真空チャンバー50外部からのガスがガス供給路23へ供給されない構造になるためキャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されることはない。
【0062】
他方、キャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられるキャンロール56のラップ部領域に対応する場合、図6に示すように、回転リングユニット21の回転開口部23aは、上記固定リングユニット22の環状凹溝27a内に円弧状パッキン部材42が嵌入されない固定開口部に対向してガス供給路23とガス分配路27は接続された状態となり、キャンロール56外周面のガス放出孔15からガスが放出されてキャンロール56外周面とフィルム52間のギャップ部にガスが導入されるようになっている。
【0063】
尚、図6図8中の符号43はパッキン取付け治具、図8中の符号77は回転リングユニット21の固定ネジ穴をそれぞれ示し、また、図8中の符号82と83はキャンロール56外周面にフィルム52が巻き付けられるラップ部領域のキャンロール56表面とフィルム52とのギャップ間ガス圧力に相当するガス分配路27内の圧力を測定するための圧力計ポートを示している。
【0064】
(4)円弧状パッキン部材
(4-1)従来の円弧状パッキン部材
上記固定リングユニット22の環状凹溝27a内に嵌入される従来の円弧状パッキン部材42は、図9(A)〜(B)に示すように環状凹溝内に嵌入される円弧形状を有しており、かつ、図示外の付勢手段が組み込まれたパッキン取付け治具の先端部を嵌入させる複数の治具収容部42aが円弧状パッキン部材42の一面に設けられている。そして、図9(C)に示すように、付勢手段を有する上記パッキン取付け治具43により回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け押圧された状態で環状凹溝内に取り付けられている。
【0065】
しかし、上記ガス制御用摺接面側へ向け均一に付勢した状態で従来の円弧状パッキン部材42を取り付けることは容易でなく、ガス制御用摺接面側へ向け円弧状パッキン部材42を強く押圧して取り付けた場合、図9(C)に示すように円弧状パッキン部材42が歪んでその端部側がガス制御用摺接面から浮いてしまい、回転開口部23aからのガス漏れを発生させてしまう。
【0066】
上記回転開口部23aからのガス漏れが発生すると、キャンロール表面とフィルムとのギャップ間圧力を制御することが困難となり、冷却効率の低下やバラツキにより表面処理中の長尺耐熱性樹脂フィルムに皺を生じさせてしまうことがあった。
【0067】
(4-2)本発明に係る円弧状パッキン部材
本発明に係る円弧状パッキン部材42は、図10(A)〜(B)に示すように、回転リングユニットのガス制御用摺接面と対向する側の一面にその長さ方向端部側から回転リングユニットのガス制御用摺接面方向へ向かってパッキン部材の厚みが順次厚くなる端部傾斜面を両端側に有している点を除いて従来の円弧状パッキン部材と略同一の構造を有している。尚、図10(A)は上記「垂直型ロータリージョイント」に適用される円弧状パッキン部材を示し、図10(B)は上記「平行型ロータリージョイント」に適用される円弧状パッキン部材を示している。
【0068】
そして、端部傾斜面42bが形成された円弧状パッキン部材42の背面部位と上記端部傾斜面42bに隣接する円弧状パッキン部材42の背面部位がパッキン取付け治具43の付勢手段により回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向けそれぞれ押圧された状態で環状凹溝内に円弧状パッキン部材42が取り付けられた場合、図10(C)に示すように、円弧状パッキン部材42における端部傾斜面42bの内側終端箇所αにガス制御用摺接面側へ向けた押圧力が作用するため、円弧状パッキン部材42における端部傾斜面42bの内側終端箇所αがガス制御用摺接面から浮いてしまうことがない。
【0069】
このため、円弧状パッキン部材42における端部傾斜面42bの内側終端箇所αより内側に位置する円弧状パッキン部材42の平坦面で回転リングユニットのガス制御用摺接面に設けられた回転開口部23a1を確実に閉止することが可能となる。
【0070】
尚、図11(A)と(D)および図12(A)と(C)に示すように、上記端部傾斜面42bが設けられる長さ分、円弧状パッキン部材42の長さ寸法を大きく設定することを要する。また、図10(C)に示すように、上記回転開口部23a1(非ラップ部領域に対応する)に隣接する回転開口部23a2(ラップ部領域に対応する)が上記端部傾斜面42bの内側終端箇所αで塞がれないようにするため、端部傾斜面42bにおける長さ方向の寸法を、回転リングユニットのガス制御用摺接面に所定の間隔をあけて設けられる回転開口部の上記間隔以上に設定することを要する(図11Gおよび図12E参照)。
【0071】
また、本実施の形態においては、図10(C)に示すように端部傾斜面42bが形成された円弧状パッキン部材42の背面部位と端部傾斜面42bに隣接する円弧状パッキン部材42の背面部位がパッキン取付け治具43の付勢手段により回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向けそれぞれ押圧された状態で環状凹溝内に円弧状パッキン部材42が取り付けられた構造になっているが、ネジ等の固定手段を用いて端部傾斜面42bが形成された円弧状パッキン部材42の上記端部傾斜面42bの形成部位を環状凹溝内に固定し、上記端部傾斜面42bが形成された部位を除く端部傾斜面42bより内側に位置する円弧状パッキン部材42の背面側に設けられた付勢手段を用いて回転リングユニットのガス制御用摺接面側へ向け付勢して取り付けてもよい。このように取り付けた場合、回転リングユニットにおけるガス制御用摺接面との接触により円弧状パッキン部材42が摩耗しても、円弧状パッキン部材42は付勢手段により付勢されて回転リングユニットのガス制御用摺接面に接触するため非ラップ部の回転開口部23a1を塞ぐことが可能となる。
【0072】
更に、導入ガスをスパッタリング雰囲気のガスと同じものにした場合、導入ガスでスパッタリング雰囲気を汚染することもない。また、ロータリージョイントは、キャンロールの片側だけでなくキャンロールの両側に取り付けてもよく、ガス圧力を安定させるにはキャンロールの両側に取り付けることが好ましい。
【0073】
(5)長尺基板と熱負荷が掛かる表面処理
長尺基板として耐熱性樹脂フィルムを例に挙げて本発明に係る長尺基板処理装置の説明を行ったが、本発明に係る長尺基板処理装置で使用する長尺基板には、他の樹脂フィルムはもちろんのこと、金属箔や金属ストリップ等の金属フィルムを用いることが可能である。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような比較的耐熱性に劣る樹脂フィルムやポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムを例示することができる。
【0074】
上述した金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する場合は、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルムまたは液晶ポリマー系フィルムから選ばれる耐熱性樹脂フィルムが好適に用いられる。なぜなら、これ等を用いて得られる金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板に要求される柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性に優れているからである。
【0075】
また、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造は、上述した長尺基板真空成膜装置に長尺基板として上記耐熱性樹脂フィルムを用い、その表面に金属膜をスパッタリング成膜すれば得られる。例えば、上述した成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用い、耐熱性樹脂フィルムをメタライジング法で処理することにより、耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等から成る膜とCu膜が積層された金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを得ることができる。
【0076】
上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムは成膜処理後、別工程に送られ、そこでサブトラクティブ法により所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法を意味する。
【0077】
上記Ni系合金等から成る膜はシード層と呼ばれ、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに必要とされる電気絶縁性や耐マイグレーション性等の特性により適宜その組成が選択されるが、一般的にはNi−Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の公知の合金で構成される。尚、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜(Cu膜)をより厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いることがある。この場合、電気めっき処理のみで金属膜を形成する方法、あるいは、一次めっきとしての無電解めっき処理と二次めっきとしての電解めっき処理等湿式めっき処理とを組み合わせて行う方法が利用されている。上記湿式めっき処理には一般的な湿式めっき条件を採用することができる。
【0078】
尚、長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した金属膜付耐熱性樹脂フィルムを例に挙げて説明したが、上記金属膜の他、目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜に本発明を用いることも可能である。
【0079】
また、本発明に係る長尺基板処理装置として長尺基板真空成膜装置を例に挙げて説明してきたが、上記長尺基板処理装置には、減圧雰囲気下の真空チャンバー内で長尺基板に対してスパッタリング等の真空成膜を施す以外に、プラズマ処理やイオンビーム処理等の熱負荷の掛かる処理も含まれる。これ等プラズマ処理やイオンビーム処理により長尺基板の表面が改質されるが、その際、長尺基板に熱負荷が掛かる。このような場合においても、本発明に係るキャンロールおよびこれを用いた長尺基板処理装置の適用が可能であり、多量の導入ガスをリークさせることなく熱負荷による長尺基板の皺発生を抑制することができる。上記プラズマ処理とは、減圧雰囲気下においてアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスによる放電を行うことにより酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺基板を処理する方法が例示される。また、イオンビーム処理とは、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンをイオンビームとして長尺基板へ照射する処理を意味する。尚、イオンビーム処理には公知のイオンビーム源を用いることができる。また、これ等のプラズマ処理やイオンビーム処理は、共に減圧雰囲気下において行われる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0081】
[ロータリージョイントの設計]
ロータリージョイント(回転リングユニットと固定リングユニット)の直径は約400mmで、かつ、キャンロールのガス導入路14に接続(連通)する回転リングユニットにおける連結配管25の本数は36本に設定した。従って、角度10°(360°/36=10°)間隔のガス制御が可能になる。
【0082】
また、キャンロールの搬入側に設けられるフィードローラ55は角度20°位置でキャンロールとフィルムが接触し、キャンロールの搬出側に設けられるフィードローラ61は角度340°位置でキャンロールとフィルムが接触するように設定した(すなわち、非ラップ部の角度は40°に設定されている)。
【0083】
但し、ガス制御が不安定となる非ラップ部における角度前後の角度をそれぞれ20°とし、非ラップ部のガス停止角度(固定リングユニットのガス分配路27を構成する環状凹溝27aの所定領域に嵌入される円弧状パッキン部材42で形成される固定閉止部の角度)を90°(>非ラップ部40°+不安定部前後の20°×2)とした。
【0084】
このため、円弧状パッキン部材により最大90°分(9本)の回転開口部(上記連結配管25の本数に対応して回転リングユニットのガス制御用摺接面に同数設けられる)を塞ぐ機能が必要となる。
【0085】
そこで、図3図5に示す「垂直型ロータリージョイント」と、図6図8に示す「平行型ロータリージョイント」の2種を製作した。
【0086】
[円弧状パッキン部材の設計]
滑り性と耐久性を考慮しパッキン部材の材質にフッ素系樹脂[テフロン(登録商標)]を採用し、図9(A)〜(B)に示す従来構造品と図10(A)〜(B)に示す本発明品を用意した。尚、本発明品に係る上記端部傾斜面42bについては、端部傾斜面42bにより回転開口部が塞がれないようにパッキン部材端部を部材厚みの1/3だけ楔状に掘り込んで形成した。パッキン部材端部を必要以上に掘り込んでしまうとパッキン部材の剛性が低下するため好ましくない。パッキン部材端部の剛性が低下してしまうと、パッキン部材の一番端を固定ネジ(パッキン取付け治具)により強く押しつけてもパッキンが歪むだけとなり、パッキン部材の効果が全くなくなってしまう。
【0087】
そして、従来構造品については、図11(A)(B)と図12(A)に示すようにパッキン円弧角が100°であり、9本の固定ネジ(パッキン取付け治具)を用いて上記ガス分配路27を構成する環状凹溝27a内に10°間隔で取り付けた。
【0088】
他方、本発明品については、図11(D)(E)と図12(C)に示すようにパッキン円弧角が130°であり、13本の固定ネジ(パッキン取付け治具)を用いて上記環状凹溝27a内に10°間隔で取り付けている。尚、パッキン円弧角130°の両端側に位置する15°の部位にはそれぞれ上述した楔状の掘り込み(すなわち、上述した「端部傾斜面」の形成)がなされている。
【0089】
[実施例]
図1に示す成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。長尺の耐熱性樹脂フィルム(以下、フィルム52と称する)には、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。
【0090】
キャンロール56には、図2に示すようなジャケットロール構造のガス導入機構付きキャンロールを使用した。このキャンロール56の円筒部材10には、直径900mm、幅750mmのステンレス製のものを使用し、その外周面にハードクロムめっきを施した。この円筒部材10の肉厚部内に、キャンロール56の回転軸方向に平行に延在する内径5mmのガス導入路14を周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って180本穿設した。尚、ガス導入路14の両端のうち先端側は有底にして円筒部材10を貫通しないようにした。
【0091】
各ガス導入路14には、円筒部材10の外表面側(すなわちキャンロール56の外周面側)に開口する内径0.2mmのガス放出孔15を47個設けた。これ等47個のガス放出孔15は、円筒部材10の外表面に画定されるフィルム52の搬送経路の両端部からそれぞれ20mm内側の線の間の領域に、フィルム52の進行方向に対して直交する方向において10mmのピッチで配設した。つまり、キャンロール56の外周面のうち両端部からそれぞれ145mmまでの領域にはガス放出孔15を設けなかった。
【0092】
上記したように、円筒部材10には180本のガス導入路14が全周に亘って周方向に均等に配設されているが、これら180本のガス導入路14を直接ロータリージョイント20に接続するのは困難なため、ガス導入管14の5本を分岐管(図示せず)に接続した後、回転リングユニット21の連結配管25端部に接続した。すなわち、ロータリージョイント20の回転リングユニット21には上述したように連結配管25を36本形成し、10°分まとめてガスを導入することになる。
【0093】
フィルム52に成膜する金属膜としては、シード層であるNi−Cr膜の上にCu膜を成膜するものとし、そのため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58、59、60にはCuターゲットを用いた。巻き出しロール51と巻き取りロール64の張力は200Nとした。キャンロール56は水冷により20℃に制御しているが、フィルム52とキャンロール56との熱伝導効率が良好でないと冷却効果は期待できない。
【0094】
この成膜装置の巻き出しロール51側に巻回されたフィルム52をセットし、その一端を、キャンロール56を経由させて巻き取りロール64に取り付けた。この状態で、真空チャンバー50内の空気を複数台のドライポンプを用いて5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10-3Paまで排気した。
【0095】
次に、回転駆動装置を起動してフィルム52を搬送速度3m/分で搬送させながら、キャンロール56に取り付けられたロータリージョイントの圧力計ポート82、83に取り付けられた隔膜真空計によりキャンロール表面とフィルムのギャップ間圧力が800Paになるように固定リングユニット22の供給配管26からのアルゴンガス流量を制御した。このときのガス流量は約20sccmであった。ここで、フィルム搬送を停止すると同時にアルゴンガスの供給を停止した。ロータリージョイントの固定リングユニット22に設けられた円弧状パッキン部材で非ラップ部における回転開口部23aが完全に塞がれてガス漏れがなければ、ラップ部はフィルム52によりガス放出孔15が塞がれているため殆ど圧力低下が起こらないはずである。以下の表1に圧力低下を示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1の結果から「垂直型ロータリージョイント」と「平行型ロータリージョイント」のいずれにおいても、従来構造品に係る円弧状パッキン部材を適用した場合に圧力低下が著しいことが確認される。
【0098】
[成膜実験]
次に、「垂直型ロータリージョイント」と「平行型ロータリージョイント」の2種について、従来構造品と本発明品に係る円弧状パッキン部材を用いて成膜実験を行った。
【0099】
アルゴンガスを300sccmで導入すると共に、マグネトロンスパッタカソード57、58、59、60に10kWの電力を印加して電力制御した。更に、キャンロール56に組み込んだロータリージョイントの圧力計ポート82、83に取り付けられた隔膜真空計によりキャンロール表面とフィルムのギャップ間圧力が800Paになるように固定リングユニット22の供給配管26からのアルゴンガス流量を制御した。
【0100】
このときのガス流量は、従来構造品に係る円弧状パッキン部材が適用された場合は40sccm前後で安定しなかったが、本発明品に係る円弧状パッキン部材が適用された場合は約20sccmで安定していた。
【0101】
このようにしてロールツーロールで搬送されるフィルム52に対して、その片面にNi−Cr膜からなるシード層およびシード層上に成膜されるCu膜を連続して成膜する処理を開始した。
【0102】
この処理を行っている際、成膜中におけるキャンロール56上のフィルム52表面を観察できる窓から、ガス導入が行われているキャンロール56上のフィルム52表面を観察したところ、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60の成膜ゾーンを通過した成膜直後のフィルム52に熱負荷に起因するフィルム皺が観察された。
【0103】
【表2】
【0104】
[確認]
表1と表2の結果から「垂直型ロータリージョイント」と「平行型ロータリージョイント」のいずれにおいても、本発明品に係る円弧状パッキン部材が適用された場合、非ラップ部におけるガス漏れを止めることができ、安定した冷却効果が得られることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明に係るガス放出機構付きキャンロールによれば、非ラップ部におけるガス漏れを防止できるため、液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線基板に用いられる銅張積層樹脂フィルム(金属膜付耐熱性樹脂フィルム)の製造装置並びに製造方法として適用される産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0106】
α 内側終端箇所
10 円筒部材
11 冷媒循環部
12 回転軸
12a 内側配管
12b 外側配管
14 ガス導入路
15 ガス放出孔
20 ロータリージョイント
21 回転リングユニット
21a 円筒基部
21b 円筒凸部
22 固定リングユニット
23 ガス供給路
23a 回転開口部
23a1 回転開口部(非ラップ部領域に対応する)
23a2 回転開口部(ラップ部領域に対応する)
25 連結配管
26 供給配管
27 ガス分配路
27a 環状凹溝
32 ベアリング
40 冷却水口
41 固定治具
42 円弧状パッキン部材
42a 治具収容部
42b 端部傾斜面
43 パッキン取付け治具
44 ガス導入路
50 真空チャンバー
51 巻出しローラ
52 長尺耐熱性樹脂フィルム(長尺基板)
53、63 フリーローラ
54、62 張力センサロール
55、61 フィードローラ
56 キャンロール
56a 中心軸
57、58、59、60 マグネトロンスパッタリングカソード
64 巻き取りロール
77 回転リングユニットの固定ネジ穴
82 圧力計ポート
83 圧力計ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12