特許第6968971号(P6968971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6968971
(24)【登録日】2021年10月29日
(45)【発行日】2021年11月24日
(54)【発明の名称】駆動装置、及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 6/365 20071001AFI20211111BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20211111BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20211111BHJP
   B60K 6/543 20071001ALI20211111BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20211111BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20211111BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20211111BHJP
   F16H 3/72 20060101ALI20211111BHJP
   F16H 3/58 20060101ALI20211111BHJP
【FI】
   B60K6/365ZHV
   B60K6/387
   B60K6/48
   B60K6/543
   B60W10/02 900
   B60W10/10 900
   B60W20/00
   F16H3/72 A
   F16H3/58
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-500355(P2020-500355)
(86)(22)【出願日】2019年1月24日
(86)【国際出願番号】JP2019002178
(87)【国際公開番号】WO2019159625
(87)【国際公開日】20190822
【審査請求日】2020年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2018-25108(P2018-25108)
(32)【優先日】2018年2月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正悟
【審査官】 岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−219055(JP,A)
【文献】 特開2001−339805(JP,A)
【文献】 特開2015−006887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/365
B60K 6/387
B60K 6/48
B60K 6/543
B60W 10/02
B60W 10/10
B60W 20/00
F16H 3/72
F16H 3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から入力される動力が伝達されるサンギヤと、前記サンギヤに少なくとも一段のピニオンギヤを介して噛合されると共に電動機から入力される動力が伝達されるリングギヤと、前記ピニオンギヤを回転可能に軸支して前記内燃機関又は前記電動機のうちの少なくとも何れか一方からの動力を車輪に伝達するキャリアと、前記ピニオンギヤに噛合する第2サンギヤと、を備える動力伝達機構と、
前記動力伝達機構を支持する固定部と、
を有する車両を駆動する駆動装置であって、
前記リングギヤの外周には、外歯が形成されており、
前記動力伝達機構は、前記リングギヤの外歯に噛合して前記電動機に動力を伝達するギヤを更に備え、
前記リングギヤと、前記固定部との間には、前記内燃機関から入力される動力で前記車両を後進走行させる時に前記リングギヤを回転不能に固定可能なリングギヤ固定機構が設けられ
前記第2サンギヤと、固定部との間には、前記第2サンギヤを回転不能に固定可能な第2サンギヤ固定機構が設けられる駆動装置。
【請求項2】
前記動力伝達機構は、前記リングギヤと前記キャリアとを断接可能なキャリア断接機構を更に備える、
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記内燃機関と、前記動力伝達機構との間には、前記車輪の停止時に前記内燃機関と前記動力伝達機構とを締結して前記電動機を発電機として動作可能なエンジン断接機構が設けられる、
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記第2サンギヤ固定機構又は前記キャリア断接機構のうちの少なくとも何れか一方は、セーリング走行制御から通常走行制御に復帰する時に、半締結状態となる、
請求項に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記リングギヤ固定機構又はキャリア断接機構のうちの少なくとも何れか一方は、摩擦クラッチである、
請求項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記動力伝達機構のギヤ比は、前記電動機の発電中の回転数が前記内燃機関の回転数よりも高くなるように設定される、
請求項1乃至の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項7】
前記動力伝達機構は、前記サンギヤに噛合すると共に前記キャリアに回転可能に軸支される第1ピニオンギヤと、当該第1ピニオンギヤ及び前記リングギヤに噛合すると共に前記キャリアに回転可能に軸支される第2ピニオンギヤと、を備える、
請求項1乃至の何れか一項に記載の駆動装置。
【請求項8】
内燃機関と、前記内燃機関と車輪との間に接続される動力伝達機構と、前記動力伝達機構に接続される電動機と、前記動力伝達機構を支持する固定部と、を備えた車両であって、
前記動力伝達機構は、前記内燃機関から入力される動力が伝達されるサンギヤと、前記サンギヤに少なくとも一段のピニオンギヤを介して噛合されると共に前記電動機から入力される動力が伝達されるリングギヤと、前記ピニオンギヤを回転可能に軸支して前記内燃機関又は前記電動機のうちの少なくとも何れか一方からの動力を前記車輪に伝達するキャリアと、前記ピニオンギヤに噛合する第2サンギヤと、前記リングギヤの外周に形成された外歯に噛合して前記電動機に動力を伝達するギヤと、を備え、
前記リングギヤと、前記固定部との間には、前記内燃機関から入力される動力で前記車両を後進させる時に前記リングギヤを回転不能に固定可能なリングギヤ固定機構が設けられ、
前記第2サンギヤと、前記固定部との間には、前記第2サンギヤを回転不能に固定可能な第2サンギヤ固定機構が設けられ、
前記リングギヤ固定機構のアクチュエータを制御する制御部を備える車両。
【請求項9】
前記動力伝達機構は、前記リングギヤと前記キャリアとを断接可能なキャリア断接機構を更に備え、
前記制御部は、前記内燃機関から入力される動力で前記車両を後進させる時に、前記リングギヤ固定機構を締結させると共に前記キャリア断接機構を解放させるように各々のアクチュエータを制御する、
請求項に記載の車両。
【請求項10】
前記内燃機関と、前記動力伝達機構との間には、前記内燃機関と前記動力伝達機構とを断接可能なエンジン断接機構が設けられ、
前記制御部は、前記車輪の停止時に、前記エンジン断接機構及び前記リングギヤ固定機構を締結させるように各々のアクチュエータを制御して、前記電動機を発電機として動作させる、
請求項に記載の車両。
【請求項11】
前記制御部は、セーリング走行制御から通常走行制御に復帰させる場合、前記電動機を駆動させる前に、前記キャリア断接機構又は前記第2サンギヤ固定機構の締結を開始させるようにアクチュエータを制御する、
請求項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、内燃機関と電動機とを駆動源とした車両を駆動する駆動装置、及び車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関(以下、エンジンとも言う)と、電動機(以下、モータジェネレータ、単に、モータとも言う)とを駆動源として備え、エンジン単独走行と、モータ単独走行と、エンジン及びモータの動力を合成する合成走行と、を達成可能なハイブリッド車両が実用化されている。
【0003】
特許文献1には、ハイブリッド車両の駆動装置として、無段変速機CVT(Continuously Variable Transmission)をベースとしたハイブリッド車両の構成例が開示されている。特許文献1のハイブリッド車両は、モータ単独走行時に無段変速機構を連れ回りさせることがなく、エンジン単独走行時に、無段変速機構のレシカバ(レシオカバレージ、変速比幅)の拡大に頼ることなく、要求される駆動力を得ることができるように、遊星歯車機構とクラッチとを組み合せされている。
【0004】
また、特許文献2には、ハイブリッド車両の駆動装置として、MT(Manual Transmission)構造のAMT(Automated Manual Transmission)をベースとしたハイブリッド車両の構成例が開示されている。特許文献2のハイブリッド車両には、停車時にも発電ができるように、駆動輪に動力を伝達する経路を切断可能なクラッチが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-132270号公報
【特許文献2】特開2012-236508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、遊星歯車機構の回転方向を逆転する場合、ダブルピニオン式遊星歯車機構を適用することのみが記載されている。
【0007】
特許文献2のハイブリッド車両は、例えば、車両走行中に電動機が異常状態となった場合に、電動機を切り切り離すと、エンジンの動力伝達が途切れ、走行を維持できない。したがって、特許文献2のハイブリッド車両は、電動機を切り離した状態で、エンジン単独で後進走行することができない。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、電動機を切り離した状態で、内燃機関単独で後進走行する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、一の観点に係る駆動装置は、内燃機関から入力される動力が伝達されるサンギヤと、前記サンギヤに少なくとも一段のピニオンギヤを介して噛合されると共に電動機から入力される動力が伝達されるリングギヤと、前記ピニオンギヤを回転可能に軸支して前記内燃機関又は前記電動機のうちの少なくとも何れか一方からの動力を車輪に伝達するキャリアと、を備える動力伝達機構と、前記動力伝達機構を支持する固定部と、を有する車両を駆動する駆動装置であって、前記リングギヤの外周には、外歯が形成されており、前記動力伝達機構は、前記リングギヤの外歯に噛合するギヤを更に備え、前記リングギヤと、固定部との間には、前記内燃機関から入力される動力で前記車両を後進走行させる時に前記リングギヤを回転不能に固定可能なリングギヤ固定機構が設けられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電動機を切り離した状態で、内燃機関単独で後進走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施例のハイブリッド車両の駆動系の構成例を示す図である。
図2】本実施例の駆動装置の概略スケルトン図である。
図3】本実施例のエンジン(Eng)による後進走行時の共線図である。
図4】本実施例におけるセーリング走行制御のタイミングチャートである。
図5】本実施例の通常走行制御時の共線図である。
図6】本実施例のセーリング走行制御時の共線図である。
図7】本実施例におけるセーリング走行の制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本実施例のハイブリッド車両の駆動系の構成例を示す図である。本実施例の「車両」の一例としてのハイブリッド車両は、「内燃機関」の一例としてのエンジン200と、駆動装置300と、PCU(Power control unit)100と、インバータ110と、を備えている。
【0013】
駆動装置300は、「エンジン断接機構」の一例としての第1クラッチ320と、変速機310と、変速機310から入力される動力を車輪500側に伝達する動力伝達機構360と、動力伝達機構360を支持する「固定部」の一例としてのトランスミッションケース357と、動力伝達機構360に対して動力を入出力する電動機400と、を備えている。
【0014】
第1クラッチ320は、エンジン200と変速機310とを締結又は開放した状態に切り替えてエンジン200と変速機310とを断接可能な図示しないアクチュエータを備えている。第1クラッチ320は、動力を摩擦伝達する摩擦クラッチである。
【0015】
変速機310は、エンジン200からの動力を、変速比を変えて、動力伝達機構360に伝達する。ここでは、無段変速機(CVT)を例に記載している。しかしながら、CVTは、遊星歯車、平行軸ギヤ、トロイダル(円錐)型等の変速機構を更に備えてもよく、特定の変速機に限定するものではない。
【0016】
動力伝達機構360は、ラビニヨ式の遊星歯車機構である。動力伝達機構360は、「サンギヤ」の一例としての第1サンギヤ351と、複数の第1ピニオンギヤ355と、キャリア353と、複数の第2ピニオンギヤ356と、リングギヤ354と、第2サンギヤ352と、ギヤ358と、を備えている。
【0017】
第1サンギヤ351には、エンジン200から入力される動力が伝達される。第1サンギヤ351は、一方側から他方側(図1ではエンジン200側)に向かって延設されて他端が変速機310に接続される回転軸351aを有する。第1サンギヤ351の外周には、外歯が形成されている。第1サンギヤ351の外歯は、第1ピニオンギヤ355の外歯に噛合する。
【0018】
第1ピニオンギヤ355は、第1サンギヤ351の外周に配置される。第1ピニオンギヤ355は、他方側から一方側(図1では車輪500側)に向かって延設されてキャリア353に回転可能に軸支されている。第1ピニオンギヤ355の外周には、外歯が形成されている。第1ピニオンギヤ355の外歯は、回転中心よりも内周側が第1サンギヤ351の外歯に噛合する。第1ピニオンギヤ355の外歯は、回転中心よりも外周側が第2ピニオンギヤ356の外歯に噛合する。
【0019】
第2ピニオンギヤ356は、他方側から一方側(図1では車輪500側)に向かって延設されてキャリア353に回転可能に軸支されている。第2ピニオンギヤ356の外周には、外歯が形成されている。第2ピニオンギヤ356の外歯は、回転中心よりも内周側が一方側(図1では車輪500側)部分で第1サンギヤ351の外歯に噛合する。第2ピニオンギヤ356の外歯は、回転中心よりも内周側が他方側(図1ではエンジン200側)部分で第2サンギヤ352の外歯に噛合する。第2ピニオンギヤ356の外歯は、回転中心よりも外周側が一方側(図1では車輪500側)部分でリングギヤ354の内歯に噛合する。
【0020】
キャリア353は、第1サンギヤ351、第1ピニオンギヤ355、第2ピニオンギヤ356、及びリングギヤ354の一方側(図では車輪500側)に配置される。キャリア353は、第1ピニオンギヤ355及び第2ピニオンギヤ356を回転可能に軸支するフランジと、そのフランジの回転中心から一方側(図1では車輪500側)に向かって延設された回転軸353aと、を有する。フランジは、第1ピニオンギヤ355よりも回転軸353aの外周側に第2ピニオンギヤ356を回転可能に軸支する。キャリア353は、エンジン200から入力される動力を車輪500に伝達する。さらに、キャリア353は、電動機400から入力される動力を車輪500に伝達する。
【0021】
リングギヤ354は、第2ピニオンギヤ356の外周に配置される。リングギヤ354の内周には、内歯が形成されている。リングギヤ354の内歯は、第2ピニオンギヤ356の外歯に噛合する。リングギヤ354の外周には、外歯が形成されている。リングギヤ354の外歯は、ギヤ358の外歯と噛合する。
【0022】
ギヤ358は、外歯がリングギヤ354の外歯に噛合するように配置されている。ギヤ358は、他方側から一方側(図1では車輪500側)に向かって延設されて電動機400に対して動力を入出力する回転軸358aを有する。
【0023】
リングギヤ354とトランスミッションケース357との間には、リングギヤ354を回転不能に固定可能な「リングギヤ固定機構」の一例としての第2クラッチ330が設けられている。第2クラッチ330は、リングギヤ354とトランスミッションケース357とを締結又は開放した状態に切り替えてリングギヤ354を回転不能に固定可能なアクチュエータを備えている。第2クラッチ330は、動力を摩擦伝達する摩擦クラッチである。
【0024】
第2サンギヤ352は、外歯が第2ピニオンギヤ356の外歯に噛合するように配置される。第2サンギヤ352は、他方側から一方側(図1ではエンジン200側)に向かって延設された回転軸352aを有する。
【0025】
第2サンギヤ352とトランスミッションケース357との間には、「第2サンギヤ固定機構」の一例としての第3クラッチ(ブレーキ)340が設けられている。第3クラッチ340は、第2サンギヤ352とトランスミッションケース357とを締結又は開放した状態に切り替えて第2サンギヤ352を回転不能に固定可能なアクチュエータを備えている。第3クラッチ340は、動力を摩擦伝達する摩擦クラッチである。
【0026】
キャリア353とリングギヤ354との間には、「キャリア断接機構」の一例としての第4クラッチ350が配置される。第4クラッチ350は、キャリア353とリングギヤ354とを締結又は開放した状態に切り替えてキャリア353とリングギヤ354とを断接可能なアクチュエータを備えている。第4クラッチ350は、動力を摩擦伝達する摩擦クラッチである。
【0027】
電動機400には、インバータ110を介して図示しないバッテリが電気的に接続されている。インバータ110は、バッテリからの直流電流を交流電流に変換する。電動機400は、インバータ110が変換した交流電流に応じて回転し、車輪500を駆動する動力を発生する。さらに、電動機400は、車輪500から伝達される動力によって発電する。電動機400が発電した交流電流は、インバータ110を介して直流電流に変換され、バッテリに充電される。
【0028】
PCU100は、インバータ110に電気的に接続された制御部101を備えている。制御部101は、エンジン200、変速機310、第1クラッチ320のアクチュエータ、第2クラッチ330のアクチュエータ、第3クラッチ340のアクチュエータ、第4クラッチ350のアクチュエータ及び電動機400の駆動を制御する。
【0029】
図2は、本実施例の駆動装置の概略スケルトン図であり、図3は、本実施例のエンジン(Eng)200による後進走行時の共線図である。尚、図2,3では、第1クラッチ、第2クラッチ330、第3クラッチ340、第4クラッチのうちの、開放状態のクラッチを枠線のみ(白)で示し、締結状態のクラッチを枠線内の塗りつぶし(黒)で示している。
【0030】
後進走行時、変速機(TM)310から出力される回転を逆転して、車輪500に伝える必要がある。変速機(TM)310からの出力は、リングギヤ(R)354を回転不能に固定すると、逆転する。リングギヤ(R)354は、第2クラッチ330を締結することによって、トランスミッションケース357に回転不能に固定される。この時、エンジン(Eng)200からの動力は、変速機(TM)310を介して第1サンギヤ(S1)351に伝達され、リングギヤ(R)354を基点にキャリア(C)353が逆転し、キャリア(C)353側から動力が伝達される車輪500も逆転する。これにより、ハイブリッド車両は、後進走行が可能となる。
【0031】
図4は、本実施例におけるセーリング走行制御のタイミングチャートである。図4には、セーリング走行制御時のアクセル開度、ブレーキ踏力、第2サンギヤ352の回転数[S2]、車速(キャリア353の回転数[C])、リングギヤ354の回転数[R](電動機(M)400の回転数)、及び第1サンギヤ351の回転数[S1]を示す。
【0032】
以下、車両の走行状態を、通常走行制御による走行状態Aからセーリング走行(慣性走行中のエンジン停止)制御による走行状態Bに移行させた後、通常走行制御による走行状態Cに復帰させた場合を説明する。尚、セーリング走行制御中、エンジン200は、ゼロトルクとなる。
【0033】
図5は、本実施例の通常走行制御時の共線図である。
【0034】
車両が通常走行制御による走行状態Aの時、制御部101は、第1クラッチ(L/U)320及び第4クラッチ(H/C)350を締結し、第2クラッチ(R/B)330及び第3クラッチ(L/B)340を解放する。この結果、リングギヤ(R)354は、キャリア(C)353と締結される。この時、エンジン(Eng)200からの動力は、変速機(TM)310を介して第1サンギヤ(S1)351に伝達され、キャリア(C)353が正転となり、キャリア(C)353側から動力が伝達される車輪500も正転となる。これにより、ハイブリッド車両は、前進走行が可能となる。
【0035】
図6は、本実施例のセーリング走行制御時の共線図である。
【0036】
車両がセーリング走行制御による走行状態Bの時、制御部101は、第1クラッチ(L/U)320及び第4クラッチ(H/C)350を解放する。この結果、第1クラッチ(L/U)320、第2クラッチ(R/B)320、第3クラッチ(L/B)320、第4クラッチ(H/C)350の全てのクラッチが解放される。詳しくは、第4クラッチ(H/C)350は、図6中のH/C−OFFの時に完全に開放される。この時、車輪500からの動力は、車輪500と車軸を介して接続されるキャリア(C)353に伝達され、第1サンギヤ(S1)351を起点にリングギヤ(R)354が正転となり、リングギヤ(R)354とギヤ358を介して接続される電動機(M)400も正転となる。これにより、ハイブリッド車両は、セーリングストップ制御による走行状態Bを維持しつつ、発電が可能となる。
【0037】
図4に戻る。アクセル開度は、走行状態Aでは大きい。アクセル開度がゼロ(OFF)になると、車両は、通常走行制御からセーリング走行制御に移行し、走行状態Bになる。
その後、車両は、アクセル開度が徐々に大きくなると、セーリング走行制御から通常走行制御に復帰して走行状態Cになる。
【0038】
ブレーキ踏力は、走行状態Aから走行状態Cまでの間、ゼロ(OFF)である。
【0039】
第2サンギヤ352の回転数[S2]は、走行状態Aでは高い。第2サンギヤ352の回転数[S2]は、走行状態Bでは、徐々に減少し、第4クラッチ350が解放された後、所定期間維持され、第3クラッチ340が半締結状態(半クラッチ。図4中のL/B−ON(半クラッチ))になるまで更に減少する。第2サンギヤ352の回転数[S2]は、走行状態Cでは、第3クラッチ340が半締結状態になることによって更に減少し、完全に締結した状態(図4中のL/B−ON)になると、ゼロになる。
【0040】
ここで、第3クラッチ340を急激に完全締結させると、第2ピニオンギヤ356とトランスミッションケース357との回転数差、即ち第2ピニオンギヤ356の回転数に応じたショックが発生し、運転性の悪化やクラッチ損傷につながるため、半締結状態(半クラッチ)とする。この半締結状態によって発生する負荷(フリクション)によって、第2サンギヤ352とトランスミッションケース357との回転数差、即ち第2サンギヤ352の回転数が減少していく。この動作と並行して、リングギヤ354の回転数[R]と第1サンギヤ351の回転数[S1]とが上昇する。
【0041】
車速(キャリアの回転数[C])は、走行状態Aでは高い。車速は、走行状態Bでは、第3クラッチ340が半締結状態(半クラッチ)になるまで徐々に減少する。車速は、走行状態Cでは、所定時間維持された後、第3クラッチ340が完全に締結した状態になると、徐々に増加する。
【0042】
リングギヤ354の回転数[R](電動機の回転数)は、走行状態Aでは高い。リングギヤ354の回転数[R]は、走行状態Bでは、徐々に減少し、第4クラッチ350が解放されると、更に減少し、第1サンギヤ351の回転数[S1]がゼロになると、第3クラッチ340が半締結状態(半クラッチ)になるまで緩やかに減少する。リングギヤ354の回転数[R]は、走行状態Cでは、電動機400の動力が伝達されると、増加し、第3クラッチ340を完全に締結すると、徐々に増加する。
【0043】
第1サンギヤ351の回転数[S1]は、走行状態Aでは高い。第1サンギヤ351の回転数[S1]は、走行状態Bでは、徐々に減少し、第4クラッチ350が解放されると、第3クラッチ340を半締結状態(半クラッチ)になるまで更に減少してゼロになる。
第1サンギヤ351の回転数[S1]は、走行状態Cでは、第3クラッチ340が締結されると共に電動機400の動力が伝達されると、増加し、第3クラッチ340を完全に締結すると、徐々に増加する。
【0044】
図7は、本実施例におけるセーリング走行の制御フローである。
【0045】
ステップS101において、制御部101は、車両走行を実現する車両内で送受信される信号情報に基づいて、車両に対する加速要求又は減速要求の何れもがない状態か否かを判定する。即ち、制御部101は、セーリング走行許可条件が成立するか否かを判定する。
【0046】
セーリング走行許可条件は、アクセル開度に基づいた加速要求の有無、ブレーキペダル操作量(液圧、踏力等)に基づいた減速要求の有無、水温に基づいたエンジン200の暖機状態、ブレーキブースタ内の負圧、セーリングストップによる燃費効果が得られる車速等の情報に基づいて判定される。尚、セーリング走行許可条件に用いられる信号情報は、増減してもよい。例えば、バッテリ残量が少なく、発電や回生によるエネルギー回収を優先する場合、セーリング走行許可条件には、バッテリ残量(電圧)を追加してもよい。他には、自動運転技術である外界認識センサの検出結果に基づいて、前方車との車間距離、速度差、加速度差等に応じた減速要求がある場合、セーリング走行許可条件には、外界認識センサによる前方車との状態(車間距離、速度差、加速度差等)を追加してもよい。
【0047】
制御部101は、ステップS101の判定結果が真の場合(S101:Y)、ステップS102へ進み、ステップS101の判定結果が偽の場合(S101:N)、ステップS116の通常走行制御へ移行する。
【0048】
ステップS102において、制御部101は、セーリング走行の実行に移る。このステップS102では、車輪500の回転負荷を最小限にするために、第1クラッチ320から第4クラッチ350までの全てのクラッチが開放される。これにより、エンジン200や電動機400等の車輪500の回転負荷となる要素は、車輪500側から動力が伝達される動力伝達機構360から切り離される。
【0049】
ステップS103において、制御部101は、第1クラッチ320から第4クラッチ350までの全てのクラッチが開放状態になったことを認識した後、エンジン200の燃料噴射を停止させ、燃料消費を抑制する。更に、第1クラッチ320が開放状態となるため、エンジン200の回転数がゼロであっても、エンジンフリクションを最小限とすることが可能となる。
【0050】
ステップS104において、制御部101は、セーリング走行解除条件が成立するか否かを判定する。判定条件は、少なくとも1つ以上のステップS101の条件が不成立(セーリング走行解除条件が成立)となったか否かである。制御部101は、ステップS104の判定結果が真の場合(S104:Y)、セーリング走行制御を解除し、通常走行制御に向けた復帰処理へと移行する。制御部101は、ステップS104の判定結果が偽の場合(S104:N)、セーリング走行制御を維持し、再び、セーリング走行解除条件が成立となるか否かを判定する。
【0051】
ステップS105において、制御部101は、第1クラッチ320から第4クラッチ350までのうちのセーリング走行制御中に開放していたクラッチを締結させる前に、車輪500の回転数(車速)に応じた車両の減速比(ギヤ段)を算出する。車両の加速要求や減速要求に応じた減速比(ギヤ段)が適切に選択されれば、クラッチ締結時のショックが軽減される。この時に選択する減速比(ギヤ段)は、車両の加速要求や減速要求の度合いが大きいほど、駆動力が大きくなる減速比(ギヤ段)を選択することによって、適切な応答性を確保しやすくなる。
【0052】
ステップS106において、制御部101は、ステップS105で算出した減速比(ギヤ段)と車輪500の回転数(車速)とに応じて、電動機400の出力軸(回転軸358a)の目標回転数を算出する。電動機400の出力軸の目標回転数とは、走行状態Bから走行状態Cへ移行し、第3クラッチ340を完全締結するタイミングを想定した目標値である。尚、目標回転数の算出時に、センサのばらつき、センサの誤差、センサの検出周期、及びギヤのバックラッシュ等を考慮して設定するのが望ましく、より精度良く車両の走行状態を制御することができる。
【0053】
ステップS107において、制御部101は、動力伝達機構360のギヤ段が高速用(High)を選択しているか否かを判定する。ギヤ段は、ステップS105で算出した結果に基づいて選択される。制御部101は、ステップS107の判定結果が真の場合(S107:Y)、ステップS108へ移行し、ステップS107の判定結果が偽(Low)の場合(S107:N)、ステップS109へ移行する。
【0054】
ステップS109において、制御部101は、低速用ギヤ段である第3クラッチ340に対してアクチュエータによる締結を開始する。ステップS109において、第2サンギヤ352の回転数が減少している状態や第1サンギヤ351の回転数が上昇している状態の時に、車速は、フリクションによって減少する。
【0055】
ここで、ステップS110において、走行状態Cは、加速要求であるため、車速の減少は、加速要求に反する。そこで、ステップS110では、車速の減少を回避するため、電動機400が駆動される。この時、制御部101は、リングギヤ354の回転数が上昇する方向に電動機400を駆動する。これにより、第1サンギヤ351の回転数も上昇する。更に、制御部101は、電動機400を適切に駆動し、第3クラッチ340の締結割合の配分を調整する。これにより、フリクションによる車速減少を回避しつつ、車速の上昇も可能となるため、加速要求に応えることができる。
【0056】
ステップS111において、制御部101は、電動機400を駆動後、MG目標回転数とMG実回転数との差の絶対値が予め設定した許容回転数以下であるか否かを判定する。
ここで、許容回転差は、部品の耐久性、車両の運転性、及び音振の品質レベルに応じて設定される。一般的に、品質レベルが高いほど、許容回転差は、小さくなる。制御部101は、ステップS111の判定結果が真の場合(S111:Y)、ステップS112へ移行し、ステップS111の判定結果が偽の場合(S111:N)、ステップS110へ戻る。
【0057】
ステップS112において、制御部101は、第3クラッチ340をアクチュエータによって半締結状態から完全に締結した状態にさせる。その後、ステップS116の通常走行制御へ移行する。
【0058】
ステップS108において、制御部101は、高速用ギヤ段である第4クラッチ350に対してアクチュエータによる締結を開始する。ここで、第4クラッチ350を急激に完全締結させると、キャリア353とリングギヤ354との回転数差、即ちキャリア353の回転数に応じたショックが発生し、運転性の悪化やクラッチ損傷に繋がるため、半締結状態(半クラッチ)にされる。この半締結状態に伴って発生する負荷(フリクション)によって、キャリア353とリングギヤ354との回転数差、即ちキャリア353の回転数が減少していく。ステップS108において、キャリア353とリングギヤ354との回転数差が減少している状態のときに、車速は、フリクションによって減少する。
【0059】
ここで、ステップS113において、走行状態Cは、加速要求であるため、車速の減少は、加速要求に反する。そこで、ステップS113では、車速の減少を回避するため、電動機400が駆動される。この時、制御部101は、リングギヤ354の回転数が上昇する方向に電動機400を駆動する。これにより、第1サンギヤ351の回転数も上昇する。更に、制御部101は、電動機400を適切に駆動し、第4クラッチ350の締結割合の配分を調整する。これにより、フリクションによる車速減少を回避しつつ、車速の上昇も可能となるため、加速要求に応えることができる。
【0060】
ステップS114において、制御部101は、電動機400を駆動後、MG目標回転数とMG実回転数との差の絶対値が予め設定した許容回転数以下であるか否かを判定する。
ここで、許容回転差は、部品の耐久性、車両の運転性、及び音振の品質レベルに応じて設定される。一般的に、品質レベルが高いほど、許容回転差は、小さくなる。制御部101は、ステップS114の判定結果が真の場合(S114:Y)、ステップS115へ移行し、ステップS114の判定結果が偽の場合(S114:N)、ステップS113へ戻る。
【0061】
ステップS115において、制御部101は、第4クラッチ350をアクチュエータによって半締結状態から完全に締結した状態にさせる。その後、ステップS116の通常走行制御へ移行する。
【0062】
この構成によれば、動力伝達機構360は、リングギヤ354の外周に形成された外歯に噛合するギヤ358を更に備え、リングギヤ354と、トランスミッションケース357との間には、エンジン200から入力される動力で車両を後進走行させる時にリングギヤ354を回転不能に固定可能な第2クラッチ330が設けられる。これにより、電動機400の機能失陥時に、リングギヤ354を回転不能に固定することによって、簡単な構成でエンジン200単独で後進走行することができる。
【0063】
更に、動力伝達機構360は、リングギヤ354とキャリア353とを断接可能な第4クラッチ350を更に備えるので、第4クラッチ350の断接によって駆動装置300の変速比を変えることができる。
【0064】
更に、動力伝達機構360は、第2ピニオンギヤ356に噛合する第2サンギヤ352を更に備え、第2サンギヤ352と、トランスミッションケース357との間には、第2サンギヤ352を回転不能に固定可能な第3クラッチ340が設けられる。これにより、第2サンギヤ352を回転不能に固定することによって、駆動装置300の変速比を変えることができる。
【0065】
更に、第2クラッチ330及び第4クラッチ350は、摩擦クラッチであるので、クラッチを簡単な構造とすることができる。
【0066】
更に、動力伝達機構360は、第1サンギヤ351に噛合すると共にキャリア353に回転可能に軸支される第1ピニオンギヤ355と、第1ピニオンギヤ355及び第1サンギヤ351に噛合すると共にキャリア353に回転可能に軸支される第2のピニオンギヤ356と、を備える。これにより、第1ピニオンギヤ355及び第2ピニオンギヤ356をコンパクトに配置することが可能となり、動力伝達機構360の小型化や搭載性向上に繋がる。
【0067】
本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。
【0068】
上記実施例では、変速機310を無段変速機の一例としたが、これに限定するものではなく、有段AT(Automatic Transmission)、DCT(Dual Cltch Transmission)、AMT等を用いることも可能である。
【0069】
例えば、動力伝達機構360のギヤ比は、電動機400の発電中の回転数がエンジン200の回転数よりも高くなるように設定されても良い。これにより、電動機400を発電効率がよい回転数にすることができ、発電効率を高めることができる。
【0070】
例えば、制御部101は、車輪500の停止時に、第1クラッチ320及び第2クラッチ330を締結すると共に、第3クラッチ340及び第4クラッチ350を解放するように各々のアクチュエータを制御して、電動機400を発電機として動作させても良い。これにより、停車時にエンジン200の動力を電動機400に伝達して、発電することができる。
【0071】
例えば、制御部101は、セーリング走行制御から通常走行制御に復帰させる場合、電動機400を駆動させる前に、第3クラッチ330又は第4クラッチ350の締結を開始させるように各々のアクチュエータを制御してもよい。これにより、電動機400からの動力が動力伝達機構360に急激に伝達されるのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0072】
101:制御部、200:エンジン、300:駆動装置、320:第1クラッチ、330:第2クラッチ、340:第3クラッチ、350:第4クラッチ、351:第1サンギヤ、352:第2サンギヤ、353:キャリア、354:リングギヤ、355:第1ピニオンギヤ、356:第2ピニオンギヤ、357:トランスミッションケース、358:ギヤ、360:動力伝達機構、400:電動機、500:車輪
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7