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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101621
(43)【公開日】2022-07-06
(54)【発明の名称】有機光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/42 20060101AFI20220629BHJP
【FI】
H01L31/08 T
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068689
(22)【出願日】2022-04-19
(62)【分割の表示】P 2019517605の分割
【原出願日】2018-05-07
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/004854
(32)【優先日】2018-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017092150
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112955
【弁理士】
【氏名又は名称】丸島 敏一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】榎 修
(72)【発明者】
【氏名】根岸 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】茂木 英昭
(72)【発明者】
【氏名】氏家 康晴
【テーマコード(参考)】
5F849
【Fターム(参考)】
5F849AB11
5F849AB13
5F849BA01
5F849BA03
5F849BB03
5F849CB06
5F849DA30
5F849EA04
5F849EA12
5F849EA13
5F849FA04
5F849FA05
5F849GA02
5F849LA02
5F849XA02
5F849XA13
5F849XA45
5F849XA49
5F849XA53
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機材料を用いた光電変換素子において量子効率と応答速度を向上させる。
【解決手段】式1に示すp型分子を光電変換層に含む。

式1において、Aは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表し、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、R乃至Rの残りは水素原子を表し、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、R乃至Rの残りは水素原子を表す。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式20に示すp型分子を光電変換層に含み、
【化15】
前記式20においてAは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表し、R 21 乃至R 25 のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、前記R 21 乃至R 25 の残りは水素原子を表し、R 26 乃至R 30 のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、前記R 26 乃至R 30 の残りは水素原子を表す
有機光電変換素子。
【請求項2】
前記光電変換層は、n型分子をさらに含み、
前記n型分子は、フラーレンまたはフラーレン誘導体を含む
請求項1記載の有機光電変換素子。
【請求項3】
前記光電変換層に対する前記n型分子の体積分率は、10乃至50パーセントである
請求項2記載の有機光電変換素子。
【請求項4】
前記n型分子は、式2および式3のいずれかに示す前記フラーレン誘導体を含み、
【化16】
【化17】
前記式2および式3において、Rのそれぞれは独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基、あるいは、それらの誘導体を表し、nおよびmは整数である
請求項2記載の有機光電変換素子。
【請求項5】
前記光電変換層は、色材をさらに含み、
可視光の波長域における前記色材の極大吸収係数は、50000毎センチメートルより小さくない
請求項1記載の有機光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換層に対する前記色材の体積分率は、20乃至80パーセントである
請求項5記載の有機光電変換素子。
【請求項7】
前記色材は、サブフタロシアニン誘導体である
請求項5記載の有機光電変換素子。
【請求項8】
前記色材は、式4に示す前記サブフタロシアニン誘導体を含み、
【化18】

前記式4におけるR 乃至R 20 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、および、ニトロ基からなる群から選択され、Mはホウ素、または、2価あるいは3価の金属であり、Xはアニオン性基である
請求項7記載の有機光電変換素子。
【請求項9】
前記光電変換層に対する前記p型分子の体積分率は、10乃至70パーセントである
請求項1記載の有機光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、有機光電変換素子に関する。詳しくは、有機材料を用いた有機光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、固体撮像素子や光センサなどにおいて、光を検出するために光電変換素子が用いられている。この固体撮像素子や光センサの感度を高くするには、光電変換素子の量子効率を向上させる必要がある。ここで、量子効率は、光子を電子に変換する効率である。また、固体撮像素子や光センサの動作速度を高くするには、光電変換素子の応答速度を向上させる必要がある。ここで、応答速度とは、光照射の状態で観測される明電流値が、光照射を止めてから、立ち下がる速さのことである。量子効率を向上させるには、バルクヘテロ構造を素子に持たせる方法と、キャリア移動度を高くする方法とが有効であり、一方、応答速度を向上させるには、キャリア移動度を高くする方法が有効である。例えば、2種類の有機材料を混合したバルクヘテロ構造の光電変換膜が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-076391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来技術では、バルクヘテロ構造において結晶化が阻害されてアモルファス化または固溶化されているために、光電変換膜のキャリア移動度を十分に高くすることができない。このため、量子効率と応答速度の向上が困難であるという問題がある。
【0005】
本技術はこのような状況に鑑みて生み出されたものであり、有機材料を用いた光電変換素子において量子効率と応答速度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本技術は、上述の問題点を解消するためになされたものであり、その第1の側面は、式1に示すp型分子を光電変換層に含み、
【化1】
上記式1において、Aは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表し、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、上記R乃至Rの残りは水素原子を表し、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、上記R乃至Rの残りは水素原子を表す有機光電変換素子である。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0007】
また、この第1の側面において、上記光電変換層は、n型分子をさらに含み、上記n型分子は、フラーレンまたはフラーレン誘導体を含んでもよい。これにより、バルクヘテロ構造が形成されて有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0008】
また、この第1の側面において、上記光電変換層に対する上記n型分子の体積分率は、10乃至50パーセントであってもよい。これにより、バルクヘテロ構造が形成されて有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0009】
また、この第1の側面において上記n型分子は、式2および式3のいずれかに示す上記フラーレン誘導体を含み、
【化2】
【化3】
上記式2および式3において、Rのそれぞれは独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基、あるいは、それらの誘導体を表し、nおよびmは整数であってもよい。これにより、バルクヘテロ構造が形成されて有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0010】
また、この第1の側面において、上記光電変換層は、色材をさらに含み、可視光の波長域における上記色材の極大吸収係数は、50000毎センチメートルより小さくないものであってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0011】
また、この第1の側面において、上記光電変換層に対する上記色材の体積分率は、20乃至80パーセントであってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0012】
また、この第1の側面において、上記色材は、サブフタロシアニン誘導体であってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0013】
また、この第1の側面において、上記色材は、式4に示す上記サブフタロシアニン誘導体を含み、
【化4】
上記式4におけるR乃至R20は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、および、ニトロ基からなる群から選択され、Mはホウ素、または、2価あるいは3価の金属であり、Xはアニオン性基であってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0014】
また、この第1の側面において、上記光電変換層に対する上記p型分子の体積分率は、10乃至70パーセントであってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0015】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式1に示す前記化合物のうち式9に示す化合物を前記p型分子として含んでもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【化5】
【0016】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式9に示す前記化合物のうち式10に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化6】
前記式10において、R2-1およびR6-1は、炭素数4乃至24の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基であってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0017】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式10に示す前記化合物のうち式11に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化7】
式11において、R2-2およびR6-2は、炭素数4乃至18の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基であってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0018】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式10に示す前記化合物のうち式12に示す化合物を前記p型分子として含んでもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【化8】
【0019】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式12に示す前記化合物のうち式13に示す化合物を前記p型分子として含んでもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【化9】
【0020】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式1に示す前記化合物のうち式15に示す化合物を前記p型分子として含んでもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【化10】
【0021】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式15に示す前記化合物のうち式16に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化11】
前記式16において、R3-1およびR7-1は、炭素数4乃至24の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基であってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0022】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式16に示す前記化合物のうち式17に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化12】
式17において、R3-2およびR7-2は、炭素数4乃至18の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基であってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0023】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式16に示す前記化合物のうち式18に示す化合物を前記p型分子として含んでもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【化13】
【0024】
また、この第1の側面において、前記光電変換層は、式18に示す前記化合物のうち式19に示す化合物を前記p型分子として含んでもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【化14】
【0025】
また、本技術の第2の側面は、式20に示すp型分子を光電変換層に含み、
【化15】
上記式20においてAは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表し、R21乃至R25のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、上記R21乃至R25の残りは水素原子を表し、R26乃至R30のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、上記R26乃至R30の残りは水素原子を表すものであってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0026】
また、この第2の側面において、上記光電変換層は、n型分子をさらに含み、上記n型分子は、フラーレンまたはフラーレン誘導体を含んでもよい。これにより、バルクヘテロ構造が形成されて有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0027】
また、この第2の側面において、上記光電変換層に対する上記n型分子の体積分率は、10乃至50パーセントであってもよい。これにより、バルクヘテロ構造が形成されて有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0028】
また、この第2の側面において、上記n型分子は、式2および式3のいずれかに示す上記フラーレン誘導体を含み、
【化16】
【化17】
前記式2および式3において、Rのそれぞれは独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基、あるいは、それらの誘導体を表し、nおよびmは整数であってもよい。これにより、バルクヘテロ構造が形成されて有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【0029】
また、この第2の側面において、上記光電変換層は、色材をさらに含み、可視光の波長域における上記色材の極大吸収係数は、50000毎センチメートルより小さくないものであってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0030】
また、この第2の側面において、上記光電変換層に対する上記色材の体積分率は、20乃至80パーセントであってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0031】
また、この第2の側面において、上記色材は、サブフタロシアニン誘導体であってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0032】
また、この第2の側面において、上記色材は、式4に示す上記サブフタロシアニン誘導体を含み、
【化18】
上記式4におけるR乃至R20は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、および、ニトロ基からなる群から選択され、Mはホウ素、または、2価あるいは3価の金属であり、Xはアニオン性基であってもよい。これにより、有機光電変換素子の可視光の感度が向上するという作用をもたらす。
【0033】
また、この第2の側面において、上記光電変換層に対する上記p型分子の体積分率は、10乃至70パーセントであってもよい。これにより、有機光電変換素子の量子効率と応答速度が向上するという作用をもたらす。
【発明の効果】
【0034】
本技術によれば、有機材料を用いた光電変換素子において量子効率と応答速度を向上させることができるという優れた効果を奏し得る。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本開示中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本技術の第1の実施の形態における固体撮像素子の一構成例を示すブロック図である。
図2】本技術の第1の実施の形態における画素の一構成例を示す回路図である。
図3】本技術の第1の実施の形態における有機光電変換素子の一構成例を示す図である。
図4】本技術の第1の実施の形態における正孔移動度評価素子の一構成例を示す図である。
図5】本技術の第1の実施の形態における実施例1のp型分子単層膜のX線回折測定の結果の一例を示すグラフである。
図6】本技術の第1の実施の形態における実施例1の光電変換層のX線回折測定の結果の一例を示すグラフである。
図7】本技術の第1の実施の形態における実施例2のp型分子単層膜のX線回折測定の結果の一例を示すグラフである。
図8】本技術の第1の実施の形態における実施例2の光電変換層のX線回折測定の結果の一例を示すグラフである。
図9】本技術の第2の実施の形態におけるp型分子単層膜のX線回折結果の一例を示すグラフである。
図10】本技術の第2の実施の形態における光電変換層のX線回折測定の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本技術を実施するための形態(以下、実施の形態と称する)について説明する。説明は以下の順序により行う。
1.第1の実施の形態(式1に示すp型分子を光電変換層に含む例)
2.第2の実施の形態(式9に示すp型分子を光電変換層に含む例)
【0037】
<1.第1の実施の形態>
[固体撮像素子の構成例]
図1は、本技術の第1の実施の形態における固体撮像素子200の一構成例を示すブロック図である。この固体撮像素子200は、撮像機能を持つ電子機器(パーソナルコンピュータやスマートフォン、あるいは、デジタルカメラなど)に設けられる。固体撮像素子200は、行走査回路210、画素アレイ部220、DAC(Digital to Analog Converter)250、信号処理部260、タイミング制御部270および列走査回路280を備える。
【0038】
また、画素アレイ部220には、二次元格子状に複数の画素230が設けられる。
【0039】
行走査回路210は、画素230を駆動して画素信号を出力させるものである。タイミング制御部270は、行走査回路210、信号処理部260および列走査回路280のそれぞれが動作するタイミングを制御するものである。DAC250は、DA(Digital to Analog)変換により、ランプ信号を生成して信号処理部260に供給するものである。
【0040】
信号処理部260は、画素信号に対してAD(Analog to Digital)変換などの信号処理を行って画素データを生成するものである。列走査回路280は、信号処理部260を制御して画素データを出力させるものである。
【0041】
[画素の構成例]
図2は、本技術の第1の実施の形態における画素230の一構成例を示す回路図である。この画素230は、有機光電変換素子240、転送トランジスタ231、浮遊拡散層232、増幅トランジスタ233および選択トランジスタ234を備える。
【0042】
有機光電変換素子240は、入射光を光電変換して電荷を生成するものである。転送トランジスタ231は、行走査回路210からの転送信号に従って、有機光電変換素子240から浮遊拡散層232へ電荷を転送するものである。
【0043】
浮遊拡散層232は、電荷を蓄積して蓄積した電荷量に応じた電圧を生成するものである。増幅トランジスタ233は、浮遊拡散層232の電圧を増幅してアナログの画素信号を生成するものである。選択トランジスタ234は、行走査回路210からの選択信号に従って、画素信号を信号処理部260に出力するものである。
【0044】
なお、有機光電変換素子240を固体撮像素子200内に設けているが、固体撮像素子200以外の回路や装置に設けてもよい。例えば、ToF(Time of Flight)センサや、位相差を検出するためのラインセンサに有機光電変換素子240を設けることができる。
【0045】
[有機光電変換素子の構成例]
図3は、本技術の第1の実施の形態における有機光電変換素子240の一構成例を示す図である。この有機光電変換素子240は、上部電極241、電荷輸送層242、光電変換層243、下部電極244および基板245を備える。
【0046】
基板245の材料として、例えば、石英ガラスが用いられる。基板245から上部電極241への方向を上方向として、基板245の上部に下部電極244が形成される。この下部電極244の材料として、例えば、酸化インジウム錫(ITO:Indium Tin Oxide)が用いられる。
【0047】
下部電極244の上部に光電変換層243が形成される。この光電変換層243は、式1に示すp型分子と、n型分子と、色材とを含む。
【化19】
上式において、Aは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)およびセレン原子(Se)のいずれかを表す。また、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらの残りは水素原子(H)を表す。R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらの残りは水素原子(H)を表す。
【0048】
ここで、「置換または未置換」は、化合物が、その化合物中の水素原子の代わりに種々の任意の置換基を有していてもよいし、それらの置換基を有していなくてもよいことを意味する。
【0049】
また、式1において、アリール基またはヘテロアリール基の置換位置は、RおよびRの組合せか、RおよびRの組合せが望ましい。これは、式1のような直線状で平面性の高い縮環分子は、ヘリングボーン型の結晶構造を取ることで、2次元性のキャリア輸送パスが形成されることが知られており、そのような結晶構造を取るには、分子形状が直線形である方が望ましいためである。RおよびRと、RおよびRとのいずれかをアリール基またはヘテロアリール基とすることにより、置換位置を直線状とすることができる。
【0050】
同様の理由で、アリール基が単一で無く、ビフェニル基やターフェニル基と連結している場合においても、それぞれの環がパラ位で結合している方が、直線性を持たせる観点から望ましい。また、ビチエニル基やターチエニル基のような五員環がアリール基またはヘテロアリール基に結合している場合は、チオフェン環のアルファ位の炭素で結合している方が直線性が高くなるため、望ましい。その他、アリール基またはヘテロアリール基が、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環やインドール環のような多縮環基を含む場合も、直線性が高いように連結していることが望ましい。
【0051】
また、R乃至Rと、R乃至Rとの置換基は、同一であることが望ましく、さらに置換位置の対称性が2回対称性であることが望ましい。これは、結晶構造をとった場合、対称性が高い方が、異方性が小さくなり、バンド分散の幅が小さくなるためである。
【0052】
ここで、有機光電変換素子において高い量子効率と応答速度を実現するには、バルクヘテロ構造をとることと、各々の有機材料のキャリア移動度を高めることとが有効である。このバルクヘテロ構造は、ドナー性の有機半導体材料とアクセプター性の有機半導体材料とがナノメートルスケールで相分離しているものを意味する。このようなバルクヘテロ構造により、光照射により発生した励起子がドナー/アクセプター界面まで移動する距離を短くすることができ、励起子が正孔と電子に分離する効率を高められる。また、キャリア移動度の向上により、生じた正孔と電子が電極までに再結合することなく到達する効率を高めることができる。このキャリア移動度を高くするには、有機半導体が結晶性であることが望ましい。なぜなら、構造が規則的に揃うことで、隣り合う分子軌道の重なりが多くなり、ホッピングの確率が増し、キャリア転送が高速になるためである。したがって、量子効率と応答速度の高い有機光電変換素子を実現するには、バルクヘテロ構造において、ナノメートルスケールで相分離しつつ、結晶化により高いキャリア移動度を示す材料が求められる。式1の化合物は、この条件を満たすp型材料である。
【0053】
また、n型分子は、例えば、フラーレンまたはフラーレン誘導体を1種類以上含む。フラーレン誘導体として、例えば、式2または式3に示す化合物が用いられる。
【化20】
【化21】
式2および式3において、Rのそれぞれは独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基、あるいは、それらの誘導体を表す。また、nおよびmは整数である。
【0054】
また、可視光の波長域(例えば、400乃至750ナノメートル)における色材の極大吸収係数は、50000毎センチメートル(cm-1)以上である。この色材として、例えば、式4に示すサブフタロシアニン誘導体が用いられる。
【化22】
上式におけるR乃至R20は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、および、ニトロ基からなる群から選択される。Mはホウ素、または、2価あるいは3価の金属であり、Xはアニオン性基である。このアニオン性基としては、ハロゲン原子、シアノ基、アルコキシ基(アルキル化合物、多環芳香族炭化水素、含ヘテロ環化合物のアルコキシ基などを含む)、フェノキシ基などが挙げられる。
【0055】
なお、式4において、隣接する任意のR乃至R20は、縮合脂肪族環または縮合芳香環の一部であってもよい。また、その縮合脂肪族環または縮合芳香環は、炭素以外の1または複数の原子を含んでいてもよい。
【0056】
また、光電変換層243に対するp型分子の体積の割合である体積分率は、10乃至70パーセント(%)である。一方、光電変換層243に対する色材の体積分率は、20乃至80パーセント(%)であり、光電変換層243に対するn型分子の体積分率は、10乃至50パーセント(%)である。これらの条件を満たすように、例えば、p型分子、色材およびn型分子の割合は、3:3:2に設定される。
【0057】
光電変換層243の上部には、電荷輸送層242が形成される。この電荷輸送層242の材料として、例えば、ビス-3,6-(3,5-ジ-4-ピリジルフェニル)-2-メチルピリミジン(以下、「B4PyMPM」と省略する。)が用いられる。
【0058】
電荷輸送層242の上部には、上部電極241が形成される。この上部電極241の材料として、透明導電性の金属酸化物半導体の酸化インジウム錫(ITO)や酸化インジウム亜鉛(IZO)等の電極材料が望ましい。または、Al、Al-Si-Cu合金、Cu、Ag、Au等の金属電極を用いてもよい。
【0059】
[有機光電変換素子の製造方法]
次に有機光電変換素子240の製造方法について概略的に説明する。まず、下部電極244付きの基板245をUV(Ultra Violet)/オゾン処理にて洗浄し、その基板245を真空蒸着機に移した。そして、真空蒸着機内が1×10-5パスカル(Pa)以下に減圧された状態で、基板ホルダを回転させながら、式1のp型分子と、式4の色材と、n型分子(フラーレン等)とを含む光電変換層243を200ナノメートル(nm)になるまで成膜した。p型分子、色材およびn型分子のそれぞれの成膜レートは、例えば、0.75オングストローム毎秒、0.75オングストローム毎秒および0.50オングストローム毎秒である。
【0060】
続いて、B4PyMPMを0.3オングストローム毎秒の成膜レートで5ナノメートル(nm)まで成膜して電荷輸送層242を形成した。最後に、Al-Si-Cu合金を100ナノメートルの厚みで蒸着成膜し、上部電極241を形成した。これらの手順により、1ミリメートル(mm)四方の受光領域を有する有機光電変換素子240を作成した。
【0061】
[実施例1]
次に第1の実施の形態における実施例1について説明する。実施例1においては次の反応式により、p型分子が作成される。
【化23】
【0062】
式5において、米国特許出願公開第2013/0228752の明細書の0145段落を参考にして、化合物bの合成が行われる。詳細には、アルゴン(Ar)雰囲気の下で、4つ口フラスコを用いて5-ブロモ-2-フルオロアニリン、4-ビフェニルボロン酸、炭酸カリウムおよびPd(PPh3)4を、蒸留水およびトルエンの混合溶液中にて加熱還流した。ここで、5-ブロモ-2-フルオロアニリン、4-ビフェニルボロン酸、炭酸カリウムおよびPd(PPh3)4のそれぞれの化学当量は、「1」、「1」、「2.6」および「0.0180」である。放冷後、析出した固体をろ過し、クロロホルムに溶解させ、シリカゲルでろ過した。これにより、収率約62パーセント(%)で白色固体の化合物bが得られる。
【0063】
次に、「Qiu D, et al., Synthesis of pinacol arylboronates from aromatic amines: a metal-free transformation, J Org Chem. 2013, 78, 1923-1933」の「Scheme 4」を参考にして化合物cの合成が行われる。詳細には、アルゴン(Ar)雰囲気の下で、シュレンク管において、化合物b、ビスピナコラートジボロンおよび亜硝酸tert-ブチルをアセトニトリル中にて80℃で2時間に亘って攪拌した。ここで、化合物b、ビスピナコラートジボロンおよび亜硝酸tert-ブチルのそれぞれの化学当量は、「1」、「1.2」および「2.4」である。そして、放冷後、析出した固体をろ別し、得られた固体をジクロロメタンで溶解させ、シリカゲルでろ過し、ろ液を濃縮した。これにより、収率約40パーセント(%)で肌色固体の化合物cが得られる。
【0064】
次に、「Toyoshi Shimada, et al., Nickel-Catalyzed Asymmetric Grignard Cross-Coupling of Dinaphthothiophene Giving Axially Chiral 1,1'-Binaphthyls, J Org Chem. J. Am. Chem. Soc., 2002, 124, 13396-13397」の「Scheme 3」を参考にして、化合物eの合成が行われる。詳細には、アルゴン(Ar)雰囲気の下で、4つ口フラスコを用いて1,5-ジメルカプトナフタレン、炭酸カリウムおよびヨウ化メチルをアセトン中にて室温で一晩に亘って攪拌した。ここで、1,5-ジメルカプトナフタレン、炭酸カリウムおよびヨウ化メチルのそれぞれの化学当量は、「1」、「6」および「2」である。その後、反応懸濁液に蒸留水を500ミリリットル(mL)加え、析出した固体をろ過および精製した。これにより、収率約79%で淡黄色固体の化合物eが得られる。
【0065】
そして、ブロモ化反応により、化合物eから化合物fが合成される。さらに、鈴木・宮浦カップリング反応により、化合物fから化合物gが合成され、環化反応により、化合物gから化合物hが合成される。この化合物hがp型分子として用いられる。式5の化合物hは、式1の化合物の一例である。
【0066】
また、実施例1において、フロンティアカーボン株式会社製のナノムパープルSUHをn型分子のフラーレンとして用いた。このフラーレンのHPLC(High Performance Liquid Chromatography)純度は99.9パーセント(%)より高く、昇華精製品である。
【0067】
また、色材は、特願2014-099816(特開2015-233117号公報)の第0084乃至0088段落を参照して、次の反応式により合成され、得られた生成物に対して昇華精製が行われた。
【化24】
【0068】
また、B4PyMPMとして、次の式に示す化合物が用いられる。
【化25】
【0069】
[比較例1]
次に第1の実施の形態における比較例1について説明する。比較例1においては、キナクリドン誘導体の式8で表わされるブチルキナクリドン(以下、「BQD」と省略する。)が、p型分子として使用される。
【化26】
【0070】
比較例1において、p型分子以外の部分の製造方法は、実施例1と同様である。
【0071】
[光電変換素子の特性]
次に、実施例1に係る有機光電変換素子と、比較例1に係る有機光電変換素子とのそれぞれの特性の評価方法について説明する。実施例1および比較例1のそれぞれの光電変換素子または光電変換層について、外部量子効率、暗電流、応答速度、結晶性、および、正孔移動度が評価される。また、実施例1および比較例1で用いたp型材料の単層膜についての結晶性、および、正孔移動度が評価される。
【0072】
暗電流の評価は次のように行った。暗状態にて、有機光電変換素子の電極間に印加するバイアス電圧を、半導体パラメータアナライザを用いて制御した。下部電極に対する上部電極の電圧は、「-2.6」ボルト(V)とし、暗電流値を測定した。
【0073】
外部量子効率の評価において、フィルタを介して光源から有機光電変換素子に光を照射した。その光の波長は、565ナノメートル(nm)であり、光量は、1.62マイクロワット毎平方センチメートル(μW/cm)である。また、有機光電変換素子の電極間に印加するバイアス電圧を、半導体パラメータアナライザを用いて制御した。下部電極に対する上部電極の電圧は、「-2.6」ボルト(V)である。この条件下で、明電流値および暗電流値を測定し、それらの差分と、受光量とから外部量子効率を算出した。
【0074】
応答速度の評価において、半導体パラメータアナライザを用いて光照射時に観測される明電流値が、光照射を止めてから立ち下がる速さを測定することによって行った。具体的には、フィルタを介して光源から光電変換素子に照射される光の光量を1.62μW/cmとし、電極間に印加されるバイアス電圧を-2.6Vとした。この状態で定常電流を観測した後、光照射を止めて電流が減衰していく速度を応答性の指標とした。以降では、実施例1の応答速度を1とした規格化応答速度で比較を行う。
【0075】
結晶性の評価において、実施例1および比較例1で用いたp型材料の単層膜と、実施例1および比較例1で用いた光電変換層について、実施した。単層膜は、以下のように作製した。ガラス基板をUV/オゾン処理にて洗浄し、その基板を真空蒸着機に移し、そして、真空蒸着機内が1×10-5Pa以下に減圧された状態で、基板ホルダを回転させながら、式1のp型分子、あるいは、式8のp型分子を40nmになるまで成膜することにより、単層膜を得た。実施例1および比較例1で用いた光電変換層243について、X線回折装置によりX線回折を行った。X線としては、例えば、銅のKアルファ線が用いられる。そして、得られた回折パターンの解析により、光電変換層243の結晶性の有無を判定した。
【0076】
また、正孔移動度の評価においては、有機光電変換素子240と別途に、実施例1および比較例1のそれぞれの光電変換層について正孔移動度評価素子が作成される。さらに、実施例1および比較例1で用いたp型材料の単層膜それぞれについて正孔移動度評価素子が作成される。
【0077】
図4は、本技術の第1の実施の形態における正孔移動度評価素子310の一構成例を示す図である。まず、厚み50ナノメートル(nm)の白金(Pt)の下部電極315が設けられたガラスの基板316において、三酸化モリブデン(MoO)などの酸化モリブデン層314を0.8ナノメートル(nm)の厚みで成膜した。続いて、有機光電変換素子240の作成と同様に、p型分子、色材およびn型分子(フラーレン等)を、それらの混合層(光電変換層313)の厚さが150ナノメートル(nm)になるまで成膜した。ここで、p型分子、色材およびn型分子のそれぞれの成膜レートは、例えば、0.75オングストローム毎秒、0.75オングストローム毎秒および0.50オングストローム毎秒である。
【0078】
次に、三酸化モリブデン(MoO)などの酸化モリブデン層312を3ナノメートル(nm)の厚みで成膜した後、金(Au)の上部電極311を膜厚100ナノメートル(nm)で成膜した。これにより、1ミリメートル(mm)四方の受光領域を有する正孔移動度評価素子310が得られる。光電変換層313において、例えば、p型分子、色材およびn型分子の割合は、4:4:2に設定される。
【0079】
単層膜の正孔移動度評価素子は、光電変換層の代わりに、p型分子のみを、例えば、1.00オングストローム毎秒で膜厚は150ナノメートル(nm)になるまで成膜した単層膜で置き換えた素子で構成される。
【0080】
正孔移動度の評価において、半導体パラメータアナライザを用いて、電極間に印加されるバイアス電圧を0ボルト(V)から10ボルト(V)まで掃引し、電流-電圧曲線を取得した。この曲線を、空間電荷制限電流モデルに従ってフィッティングすることにより、正孔移動度と電圧との間の関係式を求め、1ボルト(V)における正孔移動度の値を算出した。
【0081】
図5図6は、本技術の第1の実施の形態における実施例1のX線回折結果の一例を示すグラフである。同図における縦軸は、X線回折強度を示し、横軸は回折角を示す。図5は、p型分子単層膜のX線回折測定の結果、図6は光電変換層のX線回折測定の結果である。また、実線の軌跡は、実施例1の回折結果を示し、点線の軌跡は、比較例1の回折結果を示す。図5に例示するように、実施例1、及び、比較例1にて用いたp型分子単層膜は、それぞれ、X線回折強度にピークが生じており、結晶性である。一方、図6に例示するように、実施例1の光電変換層では、X線回折強度にピークが生じるのに対し、比較例1の光電変換層ではピークが生じていない。このため、実施例1の光電変換層は結晶性があり、比較例1の光電変換層は結晶性が無いと判定することができる。ここで、結晶性の有無の判断は、ピーク強度がベースラインのノイズレベルに対して5倍以上で、かつ、半値幅が1°未満の形状のピークがある場合、結晶と判断した。
【0082】
実施例1および比較例1のそれぞれの特性の評価結果を次の表に示す。
【表1】
【0083】
実施例1に係る光電変換素子の外部量子効率は80パーセント(%)、暗電流は1.0E-10アンペア毎平方センチメートル(A/cm)、規格化応答速度は1であった。実施例1で用いたp型分子の単層膜は結晶性があり、SCLC(Space-Charge-Limited Current)移動度(言い換えれば、正孔移動度)は、1.4E-6平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。実施例1の光電変換素子内の光電変換層は結晶性があり、光電変換層のSCLC(正孔移動度)は、1.9E-5平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。
【0084】
一方、比較例1に係る光電変換素子の外部量子効率は77パーセント(%)、暗電流は3.0E-10アンペア毎平方センチメートル(A/cm)、規格化応答速度は10であった。比較例1で用いたp型分子の単層膜は結晶性があり、SCLC移動度(正孔移動度)は、8.1E-8平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。比較例1の光電変換素子内の光電変換層は非結晶性であり、光電変換層のSCLC移動度(正孔移動度)は、1.5E-9平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。
【0085】
このように、実施例1に係る有機光電変換素子の量子効率と規格化応答速度は、比較例1よりも高い。これは、式1のp型分子を用いた光電変換層は、単層膜で結晶性であるために高い正孔移動度を有すだけでなく、混合膜である光電変換層においても結晶性であるために高い正孔移動度を有しており、その結果、光電変換層から電極までのキャリア捕集速度が速くなる理由によるものと推測される。一方、比較例1では、単層膜では結晶性ではあるものの正孔移動度が低く、混合膜である光電変換層においては非結晶性であるために正孔移動度が単層膜よりも低くなり、キャリア捕集速度が遅くなってしまう。これにより、比較例1の量子効率と規格化応答速度は実施例1よりも低くなる。
【0086】
また、図5図6に示したX線回折結果より、実施例1のp型分子は、光電変換層において、色材やフラーレンといった異種原子と共蒸着した際であっても、高い結晶性を維持している。これは、π共役が拡張され、かつ、置換基においてビフェニル体と環とが拡張された実施例1では、へリングボーン型の結晶構造を形成する分子間相互作用であるπ-π相互作用とCH-π相互作用とが強いためと推測される。
【0087】
上述の実施例1では、式1に例示した化合物のうち式5における化合物hをp型分子として用いているが、式1に例示したp型分子のうち次の式に示す化合物を用いてもよい。
【化27】
【0088】
式9に例示した化合物は、特に、RおよびRの代わりにRおよびRを置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基としている点において実施例1と異なる。この式9の化合物のうち、次の式に示す化合物をp型分子として用いることができる。
【化28】
上式において、R2-1およびR6-1は、炭素数4乃至24の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である。
【0089】
さらに、式10に例示した化合物のうち、次の式に示す化合物をp型分子として用いることができる。
【化29】
上式において、R2-2およびR6-2は、炭素数4乃至18の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である。
【0090】
また、式10に例示した化合物のうち、次の式に示す化合物をp型分子として用いることもできる。
【化30】

【0091】
また、式12に例示した化合物のうち、次の式に示す化合物をp型分子として用いることができる。
【化31】
【0092】
この式13に例示した化合物を第1の実施の形態における実施例2とする。この実施例2に係る化合物は、例えば、式5に類似する次の反応式により合成することができる。
【化32】
【0093】
式14において、まず、アルゴン(Ar)雰囲気の下で4つ口フラスコを用いて、1-ブロモ-2-フルオロ-4-ヨードベンゼン、4-ビフェニルボロン酸、炭酸水素ナトリウム、PdCl(PPhを蒸留水および1-プロパノールの混合溶液中にて加熱還流した。ここで、1-ブロモ-2-フルオロ-4-ヨードベンゼン、4-ビフェニルボロン酸、炭酸水素ナトリウム、PdCl(PPhのそれぞれの化学当量は、「1」、「1」、「3」、「0.003」である。放冷後、析出した固体をろ過し、ジクロロメタンに溶解させ、シリカゲルでろ過した。これにより、収率約91パーセント(%)で薄橙色固体(すなわち、式14におけるbの中間体1)を得た。
【0094】
次に、アルゴン(Ar)雰囲気下で4つ口フラスコに中間体1、ジエチルエーテルを加え、ドライアイス/アセトン浴を用いて-72℃まで冷却した。その後、n-ブチルリチウムの1.6Mヘキサン溶液を40分かけて滴下し、150分撹拌した。続いてB(OMe)3を加え、室温まで戻し、終夜撹拌を行った。ここで、中間体1、n-ブチルリチウム、B(Ome)のそれぞれの化学当量は、「1」、「2.5」、「3.7」である。その後、2N塩酸を加えて、反応を停止し、ろ過した。これにより、収率約33パーセント(%)で灰色固体(式14におけるcの中間体2)を得た。
【0095】
続いてアルゴン(Ar)雰囲気下、4つ口フラスコに原料3、ジクロロメタンを加え、0 ℃に冷却した。続いて、ヨウ素、臭素を加え、室温まで昇温し、終夜撹拌を行った。ここで、原料3、ヨウ素、臭素のそれぞれの化学当量は、「1」、「0.03」、「2.4」である。その後、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えて、反応を停止させ、クロロホルムで分液し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した。続いて、ろ過し、カラムクロマトグラフィーにて精製を行った。これにより、収率約80パーセント(%)で黄色結晶(式14におけるeの中間体3)を得た。
【0096】
そして、アルゴン(Ar)雰囲気下、4つ口フラスコに、中間体2、中間体3、トルエン、エタノール、炭酸ナトリウム、PdCl(PPh、蒸留水を加え、加熱還流した。ここで、中間体3、中間体2、炭酸ナトリウム、PdCl(PPhのそれぞれの化学当量は、「1」、「3」、「5」、「0.009」である。放冷後、析出した固体をろ過した。その後、モノクロロベンゼンに溶解後、セライトとシリカゲルを用いて、ろ過し、ろ液にへプタンを加えて、スラリー状にし、これをろ過した。これにより、収率95パーセント(%)で薄黄色固体(式14におけるfの、不純物を含む中間体4)を得た。
【0097】
続いてアルゴン(Ar)雰囲気下、4つ口フラスコに中間体4、NaOt-Bu、NMPを加え、160乃至170℃で終夜撹拌を行った。その後、加熱を停止し、放冷した。続いて、反応液をろ過し、メタノールで洗浄した。これにより、粗収率93パーセント(%)で薄灰色固体(実施例2の粗体)を得た。その後で、昇華精製を行い、式13に例示した実施例2の化合物を得た。
【0098】
図7および図8は、本技術の第1の実施の形態における実施例2のX線回折結果の一例を示すグラフである。同図における縦軸は、X線回折強度を示し、横軸は回折角を示す。図7は、p型分子単層膜のX線回折測定の結果、図8は光電変換層のX線回折測定の結果である。また、実線の軌跡は、実施例1の回折結果を示し、細かい点線の軌跡は、比較例1の回折結果を示し、粗い点線の軌跡は実施例2の回折結果を示す。
【0099】
実施例1、実施例2および比較例1のそれぞれの特性の評価結果を次の表に示す。また、これらのデバイス構造は、いずれもバルクヘテロ構造である。
【表2】
【0100】
実施例2と比較例1とを比較すると、実施例2は、光電変換層(バルクヘテロ層)でも単層中の結晶性が維持されていることが分かる。この現象は、式5における化合物h(実施例1)の結果と同様の傾向である。また、実施例1と実施例2とを比較すると、光電変換層の結晶性維持率が高い実施例2の方が外部量子効率、応答性が優れており、素子特性の向上には、光電変換層中の結晶性を維持することが重要であることを示している。そのためには、p型分子間の相互作用が大きくなるように分子設計することが素子特性向上には必須であり、置換基の位置は、式1におけるR3とR7の組合せが好ましく、R2とR6の組合せが更に好ましい。IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)命名法に従って表した場合には、母骨格中の置換位置は2位と9位が好ましく、更に好ましくは、3位と10位である。
【0101】
なお、式1に例示した化合物のうち次の式に示す化合物を用いることができる。
【化33】
【0102】
上述の実施例1は、式15に例示した化合物の一種である。また、式15の化合物のうち、実施例1の他、次の式に示す化合物をp型分子として用いることができる。
【化34】
上式において、R3-1およびR7-1は、炭素数4乃至24の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である。
【0103】
式16に例示した化合物のうち次の式に示す化合物を用いることができる。
【化35】
上式において、R3-2およびR7-2は、炭素数4乃至18の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である。
【0104】
式16に例示した化合物のうち、式17の他、次の式に示す化合物も用いることができる。
【化36】
【0105】
式18に例示した化合物のうち次の式に示す化合物を用いることができる。
【化37】
【0106】
このように本技術の第1の実施の形態によれば、有機光電変換素子240において、式1に示すp型分子を含む光電変換層243を形成したため、有機光電変換素子240の量子効率と規格化応答速度を向上させることができる。
【0107】
<2.第2の実施の形態>
上述の第1の実施の形態では、式1に示す化合物をp型分子として用いて量子効率と応答速度を向上させたが、式1以外の化合物をp型分子として用いることにより、量子効率と応答速度を向上させることもできる。この第2の実施の形態の有機光電変換素子240は、式1以外の化合物を含む点において第1の実施の形態と異なる。
【0108】
第2の実施の形態の有機光電変換素子240は、式1に示すp型分子の代わりに式9に示すp型分子を光電変換層243が含む点において第1の実施の形態と異なる。
【化38】
上式においてAは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表す。R21乃至R25のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらの残りは水素原子を表す。R26乃至R30のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらの残りは水素原子を表す。
【0109】
また、式20において、アリール基またはヘテロアリール基の置換位置は、R23およびR28の組合せが最も望ましい。これは、式9のような直線状で平面性の高い縮環分子は、ヘリングボーン型の結晶構造を取ることで、2次元性のキャリア輸送パスが形成されることが知られており、そのような結晶構造を取るには、分子形状が直線形である方が望ましいためである。R23およびR28をアリール基またはヘテロアリール基とすることにより、置換位置を直線状とすることができる。
【0110】
同様の理由で、アリール基が単一で無く、ビフェニル基やターフェニル基と連結している場合においても、それぞれの環がパラ位で結合している方が、直線性を持たせる観点から望ましい。また、ビチエニル基やターチエニル基のような五員環がアリール基に結合している場合は、チオフェン環のアルファ位の炭素で結合している方が直線性が高くなるため、望ましい。また、同様の理由で、フェニル基とチエニル基が連結する場合は、フェニル基のパラ位とチエニル基のアルファ位で結合している方が望ましい。その他、アリール基またはヘテロアリール基が、ナフタレン環、ベンゾチオフェン環やインドール環のような多縮環基を含む場合も、直線性が高いように連結していることが望ましい。
【0111】
また、R21乃至R25と、R26乃至R30との置換基は同一であることが望ましく、さらに置換位置の対称性が2回対称性であることが望ましい。これは、結晶構造をとった場合、対称性が高い方が、異方性が小さくなり、バンド分散の幅が小さくなるためである。
【0112】
[実施例1]
次に第2の実施の形態における実施例1について説明する。実施例1では、「Shoji Shinamura, et al., Linear- and Angular-Shaped Naphthodithiophenes : Selective Synthesis, Properties, and Application to Organic Field-Effect Transistors, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 5024-5035」の「Scheme 2」を参考にして次の反応式により、p型分子が合成され、得られた生成物に対して昇華精製が行われた。
【化39】
【0113】
式21の化合物dは、式20の化合物の一例である。また、実施例1において、p型分子以外の部分の製造方法は、実施例1と同様である。
【0114】
[比較例1]
次に、比較例1について説明する。比較例1に係るp型分子は、「Shoji Shinamura, et al., Linear- and Angular-Shaped Naphthodithiophenes : Selective Synthesis, Properties, and Application to Organic Field-Effect Transistors, J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 5024-5035」の「Scheme 2」を参考にして、次の反応式により合成され、得られた生成物に対して昇華精製が行われた。式22の化合物dは、実施例1の式21の化合物dと比べ、両端のフェニル置換基がそれぞれ一つ少ない化合物である。
【化40】
【0115】
[比較例2]
次に第1の実施の形態における比較例について説明する。比較例2においては、キナクリドン誘導の式8で表わされるBQDが、p型分子として使用される。
【0116】
[光電変換素子の特性]
実施例1に係る有機光電変換素子と、比較例1、比較例2に係る有機光電変換素子とのそれぞれの特性の評価方法は、第1の実施の形態と同様である。
【0117】
図9図10は、本技術の第2の実施の形態におけるX線回折結果の一例を示すグラフである。同図における縦軸は、X線回折強度を示し、横軸は回折角を示す。図9は、p型分子単層膜のX線回折測定の結果、図10は光電変換層のX線回折測定の結果である。また、実線の軌跡は、実施例1の回折結果を示し、点線の軌跡は、比較例1の回折結果を示し、破線の軌跡は、比較例2の回折結果を示す。図9に例示するように、第2の実施の形態における実施例1、比較例1、及び、比較例2にて用いたp型分子単層膜は、それぞれ、X線回折強度にピークが生じており、結晶性である。一方、図10に例示するように、第2の実施の形態における実施例1の光電変換層では、X線回折強度にピークが生じるのに対し、比較例1、比較例2の光電変換層ではピークが生じていない。このため、実施例1の光電変換層は結晶性があり、比較例1、比較例2の光電変換層は結晶性が無いと判定することができる。ここで、結晶性の有無の判断は、ピーク強度がベースラインのノイズレベルに対して5倍以上で、かつ、半値幅が1°未満の形状のピークがある場合、結晶と判断した。
【0118】
実施例1および比較例のそれぞれの特性の評価結果を次の表に示す。
【表3】
【0119】
実施例1に係る光電変換素子の外部量子効率は81パーセント(%)暗電流は2.0E-10アンペア毎平方センチメートル(A/cm)、規格化応答速度は2であった。実施例1で用いたp型分子の単層膜は結晶性があり、SCLC(Space-Charge-Limited Current)移動度(言い換えれば、正孔移動度)は、3.1E-5平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。実施例1の光電変換素子内の光電変換層は結晶性があり、光電変換層のSCLC移動度(正孔移動度)は、7.1E-5平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。
【0120】
比較例1に係る光電変換素子の外部量子効率は22パーセント(%)暗電流は8.0E-10アンペア毎平方センチメートル(A/cm)、規格化応答速度は>300以上であった。比較例1で用いたp型分子の単層膜は結晶性があり、SCLC移動度(正孔移動度)は、3.9E-4平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。比較例の光電変換素子内の光電変換層は非結晶性であり、光電変換層のSCLC(正孔移動度)は、2.0E-8平方センチメートル毎ボルト・秒(cm/V・s)であった。一方、比較例2に係る光電変換素子の特性は前述の通りである。
【0121】
このように、実施例1に係る有機光電変換素子の量子効率と規格化応答速度は、比較例1、比較例2よりも高い。これは、式20のp型分子を用いた光電変換層は、結晶性であるために高い正孔移動度を有し、その結果、光電変換層から電極までのキャリア捕集効率が高くなる理由によるものと推測される。一方、比較例1、比較例2では、光電変換層が非結晶性であるために正孔移動度が低くなり、キャリア捕集効率が低くなってしまう。これにより、比較例の量子効率と規格化応答速度は実施例1よりも低くなる。
【0122】
また、X線回折結果より、実施例1のp型分子は、光電変換層において、色材やフラーレンといった異種原子と共蒸着した際であっても、高い結晶性を維持している。これは、実施例1のビフェニル置換体は、へリングボーン型の結晶構造を形成する分子間相互作用であるCH-π相互作用が、比較例1の単独のフェニル置換体よりも強いためと推測される。
【0123】
実施例1のビフェニル置換体が、比較例1のフェニル置換体よりも高い量子効率を示した理由は、比較例2のBQDとの比較より、光電変換層の結晶性だけでなく、光電変換層中の相分離が加速し、ドメインサイズが肥大化したことも理由として挙げられる。ドメインサイズが大きくなると、色材にて生じた励起子が界面まで拡散し、電荷分離する前に失活してしまうことが考えられる。本発明の光電変換層において、ビフェニル置換体は、フェニル置換体に比べ、蒸着によると成膜時に、色材とn型分子との相分離サイズが励起子拡散長以下の適切なサイズとなるような分子間相互作用を有すると推測される。
【0124】
このように本技術の第2の実施の形態によれば、有機光電変換素子240において、式9に示すp型分子を含む光電変換層243を形成したため、有機光電変換素子240の量子効率と応答速度を向上させることができる。
【0125】
なお、上述の実施の形態は本技術を具現化するための一例を示したものであり、実施の形態における事項と、特許請求の範囲における発明特定事項とはそれぞれ対応関係を有する。同様に、特許請求の範囲における発明特定事項と、これと同一名称を付した本技術の実施の形態における事項とはそれぞれ対応関係を有する。ただし、本技術は実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施の形態に種々の変形を施すことにより具現化することができる。
【0126】
なお、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって、限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0127】
なお、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)式1に示すp型分子を光電変換層に含み、
【化41】
前記式1において、Aは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表し、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、前記R乃至Rの残りは水素原子を表し、R乃至Rのいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、前記R乃至Rの残りは水素原子を表す
有機光電変換素子。
(2)前記光電変換層は、n型分子をさらに含み、
前記n型分子は、フラーレンまたはフラーレン誘導体を含む
前記(1)記載の有機光電変換素子。
(3)前記光電変換層に対する前記n型分子の体積分率は、10乃至50パーセントである
前記(2)記載の有機光電変換素子。
(4)前記n型分子は、式2および式3のいずれかに示す前記フラーレン誘導体を含み、
【化42】
【化43】
前記式2および式3において、Rのそれぞれは独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基、あるいは、それらの誘導体を表し、nおよびmは整数である
前記(2)または(3)に記載の有機光電変換素子。
(5)前記光電変換層は、色材をさらに含み、
可視光の波長域における前記色材の極大吸収係数は、50000毎センチメートルより小さくない
前記(1)から(4)のいずれかに記載の有機光電変換素子。
(6)前記光電変換層に対する前記色材の体積分率は、20乃至80パーセントである
前記(5)記載の有機光電変換素子。
(7)前記色材は、サブフタロシアニン誘導体である
前記(5)または(6)に記載の有機光電変換素子。
(8)前記色材は、式4に示す前記サブフタロシアニン誘導体を含み、
【化44】

前記式4におけるR乃至R20は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、および、ニトロ基からなる群から選択され、Mはホウ素、または、2価あるいは3価の金属であり、Xはアニオン性基である
前記(7)記載の有機光電変換素子。
(9)前記光電変換層に対する前記p型分子の体積分率は、10乃至70パーセントである
前記(1)から(8)のいずれかに記載の有機光電変換素子。
(10)前記光電変換層は、式1に示す前記化合物のうち式9に示す化合物を前記p型分子として含む
【化45】
前記(1)から(9)のいずれかに記載の有機光電変換素子。
(11)前記光電変換層は、式9に示す前記化合物のうち式10に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化46】
前記式10において、R2-1およびR6-1は、炭素数4乃至24の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である
前記(10)記載の有機光電変換素子。
(12)前記光電変換層は、式10に示す前記化合物のうち式11に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化47】
式11において、R2-2およびR6-2は、炭素数4乃至18の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である
前記(11)記載の有機光電変換素子。
(13)前記光電変換層は、式10に示す前記化合物のうち式12に示す化合物を前記p型分子として含む
【化48】
前記(11)記載の有機光電変換素子。
(14)前記光電変換層は、式12に示す前記化合物のうち式13に示す化合物を前記p型分子として含む
【化49】

前記(13)記載の有機光電変換素子。
(15)前記光電変換層は、式1に示す前記化合物のうち式15に示す化合物を前記p型分子として含む
【化50】
前記(1)から(9)のいずれかに記載の有機光電変換素子。
(16)前記光電変換層は、式15に示す前記化合物のうち式16に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化51】
前記式16において、R3-1およびR7-1は、炭素数4乃至24の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である
前記(15)記載の有機光電変換素子。
(17)前記光電変換層は、式16に示す前記化合物のうち式17に示す化合物を前記p型分子として含み、
【化52】
式17において、R3-2およびR7-2は、炭素数4乃至18の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基である
前記(16)記載の有機光電変換素子。
(18)前記光電変換層は、式16に示す前記化合物のうち式18に示す化合物を前記p型分子として含む
【化53】
前記(16)記載の有機光電変換素子。
(19)前記光電変換層は、式18に示す前記化合物のうち式19に示す化合物を前記p型分子として含む
【化54】
前記(18)に記載の有機光電変換素子。
(20)式20に示すp型分子を光電変換層に含み、
【化55】
前記式20においてAは、酸素原子、硫黄原子およびセレン原子のいずれかを表し、R21乃至R25のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、前記R21乃至R25の残りは水素原子を表し、R26乃至R30のいずれかは炭素数4乃至30の置換または未置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、前記R26乃至R30の残りは水素原子を表す
有機光電変換素子。
(21)前記光電変換層は、n型分子をさらに含み、
前記n型分子は、フラーレンまたはフラーレン誘導体を含む
前記(20)記載の有機光電変換素子。
(22)前記光電変換層に対する前記n型分子の体積分率は、10乃至50パーセントである
前記(21)記載の有機光電変換素子。
(23)前記n型分子は、式2および式3のいずれかに示す前記フラーレン誘導体を含み、
【化56】
【化57】
前記式2および式3において、Rのそれぞれは独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖,分岐または環状のアルキル基、フェニル基、直鎖または縮環した芳香族化合物を有する基、ハロゲン化物を有する基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基、シリルアルキル基、シリルアルコキシ基、アリールシリル基、アリールスルファニル基、アルキルスルファニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルフィド基、アルキルスルフィド基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、カルコゲン化物を有する基、ホスフィン基、ホスホン基、あるいは、それらの誘導体を表し、nおよびmは整数である
前記(21)または(22)に記載の有機光電変換素子。
(24)前記光電変換層は、色材をさらに含み、
可視光の波長域における前記色材の極大吸収係数は、50000毎センチメートルより小さくない
前記(20)記載の有機光電変換素子。
(25)前記光電変換層に対する前記色材の体積分率は、20乃至80パーセントである
前記(24)記載の有機光電変換素子。
(26)前記色材は、サブフタロシアニン誘導体である
前記(24)または(25)記載の有機光電変換素子。
(27)前記色材は、式4に示す前記サブフタロシアニン誘導体を含み、
【化58】

前記式4におけるR乃至R20は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、直鎖、分岐または環状アルキル基、チオアルキル基、チオアリール基、アリールスルホニル基、アルキルスルホニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、フェニル基、カルボキシ基、カルボキソアミド基、カルボアルコキシ基、アシル基、スルホニル基、シアノ基、および、ニトロ基からなる群から選択され、Mはホウ素、または、2価あるいは3価の金属であり、Xはアニオン性基である
前記(26)記載の有機光電変換素子。
(28)前記光電変換層に対する前記p型分子の体積分率は、10乃至70パーセントである
前記(20)から(27)のいずれかに記載の有機光電変換素子。
【符号の説明】
【0128】
200 固体撮像素子
210 行走査回路
220 画素アレイ部
230 画素
231 転送トランジスタ
232 浮遊拡散層
233 増幅トランジスタ
234 選択トランジスタ
240 有機光電変換素子
241、311 上部電極
242 電荷輸送層
243、313 光電変換層
244、315 下部電極
245、316 基板
250 DAC
260 信号処理部
270 タイミング制御部
280 列走査回路
310 正孔移動度評価素子
312、314 酸化モリブデン層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10