(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022101895
(43)【公開日】2022-07-07
(54)【発明の名称】唾液分泌量の予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20220630BHJP
G01N 33/84 20060101ALI20220630BHJP
【FI】
G01N33/50 G
G01N33/50 B
G01N33/84 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020216258
(22)【出願日】2020-12-25
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】青山 薫英
(72)【発明者】
【氏名】小池 泰志
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 彩香
(72)【発明者】
【氏名】林 滉一朗
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA11
2G045CB07
2G045DB03
2G045DB06
2G045FB05
(57)【要約】
【課題】唾液分泌量を定量的に予測する方法を提供する。
【解決手段】被験者15の唾液pHを取得する。唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデル10に、被験者15の唾液pHを当て嵌める。これにより被験者15の唾液分泌量を定量的に予測する。他の態様において被験者15の生体情報11を取得する。これと同種の生体情報11を説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデル10に、被験者15の生体情報11を当て嵌める。これにより被験者の唾液分泌量を定量的に予測する。生体情報11は唾液pH、唾液潜血濃度及び唾液白血球数のいずれかである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の唾液pHを取得し、
唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルに、前記被験者の前記唾液pHを当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を定量的に予測する、
方法。
【請求項2】
前記回帰モデルは、唾液潜血濃度、唾液白血球数、唾液アンモニア濃度、年齢、性別、現在歯数、疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴、皮膚乾燥主訴及び唾液重量の少なくともいずれかの項目を前記説明変数に含めた重回帰分析により事前に求められたものであり、
前記説明変数の前記項目と同一の追加項目を前記被験者よりさらに取得するとともに、前記回帰モデルに、前記被験者の唾液pH及び前記追加項目を当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を予測する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記回帰モデルにおいて前記唾液分泌量は、安静時唾液分泌量であり、
前記回帰モデルは、刺激時唾液分泌量を前記説明変数に含めた重回帰分析により事前に求められたものであり、
前記被験者の刺激時唾液分泌量をさらに取得するとともに、前記回帰モデルに、前記被験者の前記唾液pH及び前記刺激時唾液分泌量を当て嵌めることで、前記被験者の安静時唾液分泌量を予測する、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記回帰モデルにおいて前記唾液pHは、洗口吐出液pHであり、
前記回帰モデルに、前記被験者の洗口吐出液pHを前記被験者の前記唾液pHとして当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を予測する、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
唾液分泌減少の判定に必要な情報を提供するシステムであって、
受診者の唾液pHそれ自体からなる検査情報を受け取ること、及び受診者の唾液pHを反映した検査情報を受け取るとともに前記検査情報より前記受診者の前記唾液pHを算出することの少なくともいずれかを実行し、
唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルに、前記受診者の前記唾液pHを当て嵌めることで、前記受診者の唾液分泌量を定量的に予測し、
結果情報を前記受診者の診断医及び前記受診者又はその補助者、以下受診者等という、の少なくともいずれかに提示することを行うが、前記結果情報は唾液分泌量の予測値それ自体、及び前記唾液分泌量の前記予測値が唾液分泌減少の閾値を下回っていることを又はいないことを示す定性的判定の少なくともいずれかである、
システム。
【請求項6】
前記受診者の唾液又は洗口吐出液で濡らしたpH試験紙の呈色の色情報を、前記検査情報としてネットワークを介して前記受診者等の端末より受け取り、
前記ネットワークを介して、前記結果情報を前記診断医の端末並びに前記受診者等の前記端末及びその他の端末の少なくともいずれかの端末に送り、
前記結果情報を受け取った前記端末に前記結果情報を表示させることで、これを提示する、
請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
端末に対して、ネットワークを介してサーバーより結果情報を受け取らせ、
前記端末に対してさらに、前記結果情報を表示させる、
る、
アプリケーションであって、
受診者の唾液分泌量の予測値は、唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルであってサーバーが有するものに、受診者の唾液pHを当て嵌めることで、前記サーバーが予測するものであり;
前記受診者の前記唾液pHは、色情報から前記サーバーが算出するものである、
アプリケーション。
【請求項8】
被験者の唾液潜血濃度及び唾液白血球数のいずれかの生体情報を取得し、
前記生体情報と同種の生体情報を説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルに、前記被験者の前記生体情報を当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を定量的に予測する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は唾液分泌量の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔乾燥を評価すること、すなわち口腔内の水分量を測定することは、口腔内の唾液量を測定することに等しい。口腔内の唾液量は供給量すなわち分泌量と排出量によって変動する。唾液の排出は口呼吸による蒸発、並びに咀嚼時の食塊形成及び嚥下を始めとする数々の生理現象によって起きるため、口腔乾燥を評価する上でその要因分析が難しい。したがって唾液分泌量の測定が、口腔乾燥を評価する上でゴールドスタンダードとなる。
【0003】
口腔乾燥とは、自覚的な口腔乾燥感と口腔乾燥の他覚的所見とのいずれかが認められることをいう。他覚的所見には唾液の量的減少と質的変化が含まれる。特に唾液の量的減少の他覚的所見を、唾液分泌減少とする。
【0004】
非特許文献1に記載の通り唾液分泌量の測定は、安静時唾液分泌量の測定と、刺激時唾液分泌量の測定の二通りに分類される。安静時唾液分泌量は吐唾法で測定できる。吐唾法では、単位時間内に分泌された唾液量を計測する。刺激時唾液分泌量はガム法やサクソン法で測定できる。サクソン法では、規格ガーゼを咀嚼して吸湿した唾液量を測定する。ガム法ではガムを咀嚼して分泌された唾液を計量する。サクソン法、ガム法及び吐唾法は、シェーグレン症候群の診断基準にも採用されている。
【0005】
唾液分泌量の新たな評価法として、唾液湿潤度検査、ワッテ法及び臨床診断基準が用いられる。また特許文献1はペーパークロマト法を開示している。ペーパークロマト法では紙その他の材料からなる短冊片への唾液の浸透速度で唾液分泌量を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4141048号公報
【特許文献2】特許第5981350号公報
【特許文献3】特許第6117499号公報
【特許文献4】特許第4417841号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Yasuaki Kakinoki, “Disease Condition and Treatment of Dry Mouth.”, Annals of Japan Prosthodontic Society, Japan Prosthodontic Society, 2015, 7, p.136-141.
【非特許文献2】Anne Marie Lynge Pedersen, Allan Bardow and Birgitte Nauntofte, “Salivary changes and dental caries as potential oral markers of autoimmune salivary gland dysfunction in primary Sjogren's syndrome.”, [online], 2005-03-01, BMC Clinical Pathology, [retrieved on 2020-10-28], 5, 4. Retrieved from <https://doi.org/10.1186/1472-6890-5-4>
【非特許文献3】北川 雅恵,柳沢 俊良,新谷 智章,小川 郁子,栗原 英見,“刺激時唾液分泌量とう蝕リスク検査項目およひ゛口腔カンシ゛タ゛菌数に関する検討”,日本口腔検査学会雑誌,日本口腔検査学会,2013-03-30,5,1,p.31-37.
【非特許文献4】野村 慶雄,喜多 治郎,岩山 幸雄,小林 洋三,三原 正,内田 昭次,林 博雄,栢 豪洋,村山 洋二,横溝 一郎,“集団検診において歯周疾患の早期発見のために臨床検査pH試験紙(Hema-Combistix)を応用した結果について”,日本歯周病学会会誌,1973,15,2,p.106-111.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
安静時唾液分泌量及び刺激時唾液分泌量のいずれの測定に際しても唾液の採取に時間を要する。吐唾法の安静時唾液分泌量の測定は15分かかる。サクソン法の刺激時唾液分泌量の測定は2分かかる。そして、これらの測定時間の間は被検査者自身に正確な検査手順を実行してもらう必要がある。また唾液を採取する間の精神状態、例えば緊張することが測定値に影響する。したがって集団健診や、診療現場で常用する検査として運用するのに適さない。
【0009】
そこで発明者らは、短時間で簡便に測定値の得られる指標からこれらの唾液分泌量を間接的に予測する必要があると考えた。発明者らはpHに着目した。
【0010】
特許文献2はpH指示薬で唾液pHを測定する方法を開示している。特許文献3はpH測定器で唾液pHを測定する方法を開示している。これらの文献に記載の通り、唾液pHの測定は唾液分泌量の測定と異なり、化学的手段又は機械的手段を用いて短時間で簡便に行うことができる。なお特許文献1に記載の唾液の浸透速度を測定する紙その他の材料にはpH指示薬が加えられる。しかしながら浸透速度とpHとの間の相関は特に主張されていない。
【0011】
疾患との関連に目を移すと、非特許文献2の6ページの表4は、健常者と比べてシェーグレン症候群患者で唾液pHが低くなることを開示している。シェーグレン症候群患者では唾液分泌量が少ない。非特許文献2に記載の通り、健常者とシェーグレン症候群患者とに母集団を事前に分けられていれば、シェーグレン症候群患者において唾液pHが低下するとともに唾液分泌量が低下することは定性的に予測できる。
【0012】
非特許文献3の抄録は、う蝕検査及び口腔カンジダ菌(OC)の検査を受けた患者からなる母集団の中で刺激時唾液分泌量と唾液pHとの間に相関性が見られることを開示している。母集団にはシェーグレン症候群患者が含まれる。非特許文献3に記載の通り、口腔検査を受けるべき患者を母集団とした場合、唾液pHの低下と唾液分泌量の低下との間に定性的な相関がみられる。
【0013】
非特許文献4のAbstractは長期入所施設内の高齢者からなる母集団の中で非刺激時の唾液pHと口腔乾燥主訴(feels dry mouth)に相関があることを開示している。母集団中76.5%の高齢者が投薬を受けている。非特許文献4に記載の通り、投薬を受けている可能性が高い高齢者を母集団とした場合、唾液pHの低下と口腔乾燥主訴の増加との間に相関がみられる。
【0014】
以上を踏まえ、本発明は、唾液分泌量を定量的に予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
<1> 被験者の唾液pHを取得し、
唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルに、前記被験者の前記唾液pHを当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を定量的に予測する、
方法。
【0016】
<2> 前記回帰モデルは、唾液潜血濃度、唾液白血球数、唾液アンモニア濃度、年齢、性別、現在歯数、疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴、皮膚乾燥主訴及び唾液重量の少なくともいずれかの項目を前記説明変数に含めた重回帰分析により事前に求められたものであり、
前記説明変数の前記項目と同一の追加項目を前記被験者よりさらに取得するとともに、前記回帰モデルに、前記被験者の唾液pH及び前記追加項目を当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を予測する、
<1>に記載の方法。
【0017】
<3> 前記回帰モデルにおいて前記唾液分泌量は、安静時唾液分泌量であり、
前記回帰モデルは、刺激時唾液分泌量を前記説明変数に含めた重回帰分析により事前に求められたものであり、
前記被験者の刺激時唾液分泌量をさらに取得するとともに、前記回帰モデルに、前記被験者の前記唾液pH及び前記刺激時唾液分泌量を当て嵌めることで、前記被験者の安静時唾液分泌量を予測する、
<1>又は<2>に記載の方法。
【0018】
<4> 前記回帰モデルにおいて前記唾液pHは、洗口吐出液pHであり、
前記回帰モデルに、前記被験者の洗口吐出液pHを前記被験者の前記唾液pHとして当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を予測する、
<1>に記載の方法。
【0019】
<5> 唾液分泌減少の判定に必要な情報を提供するシステムであって、
受診者の唾液pHそれ自体からなる検査情報を受け取ること、及び受診者の唾液pHを反映した検査情報を受け取るとともに前記検査情報より前記受診者の前記唾液pHを算出することの少なくともいずれかを実行し、
唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルに、前記受診者の前記唾液pHを当て嵌めることで、前記受診者の唾液分泌量を定量的に予測し、
結果情報を前記受診者の診断医及び前記受診者又はその補助者、以下受診者等という、の少なくともいずれかに提示することを行うが、前記結果情報は唾液分泌量の予測値それ自体、及び前記唾液分泌量の前記予測値が唾液分泌減少の閾値を下回っていることを又はいないことを示す定性的判定の少なくともいずれかである、
システム。
【0020】
<6> 前記受診者の唾液又は洗口吐出液で濡らしたpH試験紙の呈色の色情報を、前記検査情報としてネットワークを介して前記受診者等の端末より受け取り、
前記ネットワークを介して、前記結果情報を前記診断医の端末並びに前記受診者等の前記端末及びその他の端末の少なくともいずれかの端末に送り、
前記結果情報を受け取った前記端末に前記結果情報を表示させることで、これを提示する、
<5>に記載のシステム。
【0021】
<7> 端末に対して、ネットワークを介してサーバーより結果情報を受け取らせ、
前記端末に対してさらに、前記結果情報を表示させる、
る、
アプリケーションであって、
受診者の唾液分泌量の予測値は、唾液pHを説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルであってサーバーが有するものに、受診者の唾液pHを当て嵌めることで、前記サーバーが予測するものであり;
前記受診者の前記唾液pHは、色情報から前記サーバーが算出するものである、
アプリケーション。
【0022】
<8> 被験者の唾液潜血濃度及び唾液白血球数のいずれかの生体情報を取得し、
前記生体情報と同種の生体情報を説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に求められた回帰モデルに、前記被験者の前記生体情報を当て嵌めることで、前記被験者の唾液分泌量を定量的に予測する、
方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、唾液分泌量を定量的に予測する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【発明を実施するための形態】
【0025】
<唾液分泌量の予測>
【0026】
図1に示すように回帰モデル10に被験者15の唾液pHの情報12を当て嵌めることで、被験者15の唾液分泌量の定量的な予測13を得る。一態様において被験者15は、唾液分泌量の測定を受ける受診者である。一態様において被験者15の服薬の有無に限定はしないが、服薬していない方が好ましい。一態様において唾液分泌量の予測13は安静時唾液分泌量又は刺激時唾液分泌量である。
【0027】
図1に示す一態様において、回帰モデル10への情報12の当て嵌めを自動計算にて、すなわちコンピューターにて行う。一態様においてコンピューターは専用LSIからなり、他の態様においてプログラマブルな回路や汎用CPUからなる。また回帰モデル10より唾液pHの系列及び唾液分泌量の系列からなる早見表を作成し、係る早見表に情報12を当て嵌めることで予測13を得てもよい。
【0028】
図1に示すように予測13を得るにあたり、被験者15の唾液pHの情報12を取得する。一態様において唾液pHの情報12の取得は、被験者15より採取した唾液の検体11のpHを測定することで行う。唾液の検体11の採取は、被験者15に口を洗口液で漱いでもらうとともに、唾液を含んでいる洗口吐出液を被験者15に吐いてもらうことで行う。洗口液は、洗口時に唾液腺に刺激を与えず、また唾液のpHに影響を与えにくい液体であれば特に限定されない。洗口液は水が好ましい。一態様において、被験者15に口を漱いでもらう際の洗口液の液量は1~10mLであり、1.5~6mLが好ましく、2~4mLがより好ましい。
【0029】
図1に示す他の態様において情報12の取得は予め得られていた情報12を受け取ることで行う。情報12は聞き取ってもよく、書面で受け取ってもよく、また電子的に受信してもよい。
【0030】
唾液pHの測定の一態様はpH呈色法である。一態様においてpH呈色法はpH試験紙法である。pH指示薬を担体に含侵したものをpH試験紙とする。一態様において担体はスティック状の紙片である。pH試験紙を洗口吐出液で濡らす。pH試験紙を唾液で直接濡らしてもよい。pH指示薬は唾液又は洗口吐出液に反応して呈色する。一態様において特許文献2に記載の二波長反射測光法でpH試験紙の呈色を測定する。
【0031】
一態様において、pH 2-9の範囲に変色域を有するpH指示薬を用いる。pH指示薬の一態様は、ブロモクレゾールグリーン、ブロモクレゾールブルー、ブロモキシレノールブルー、メチルレッド及びブロモチモールブルーのいずれかである。
【0032】
JIS K8001 2009によればブロモクレゾールグリーンの変色域はpH 3.8-5.4である。ブロモクレゾールブルーの変色域はpH 3.0-4.6である。メチルレッドの変色域はpH 4.2-6.2である。ブロモチモールブルーの変色域はpH 6.0-7.6である。
【0033】
ブロモキシレノールブルーの変色域はpH 6.0-7.6である(“ブロモキシレノールブルー”,[online],試薬-富士フイルム和光純薬 (fujifilm.com),[令和2年12月8日検索],インターネット<URL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0232-3812.html>)。
【0034】
一態様において、複数のpH指示薬を互いに混合して複合試薬とする。複合試薬の一態様は、ブロモクレゾールグリーン及びブロモキシレノールブルーの組み合わせである。担体を浸漬するpH指示薬におけるブロモクレゾールグリーンの濃度は好ましくは0.1~0.6mM、より好ましくは0.1~0.4mMである。ブロモキシレノールブルーの濃度は好ましくは0.6~2mM、より好ましくは0.8~1.8mMである。呈色反応に要する時間は一態様において30秒~5分である。一例において60秒の反応時間で、測定波長を635nm、参照波長を760nmとして呈色を測定する。複合試薬の他の態様は、非特許文献4に記載のメチルレッド及びブロモチモールブルーの組み合わせである。メチルレッドの変色域はpH 4.2-6.2である。ブロモチモールブルーの変色域はpH 6.0-7.6である。
【0035】
安静時唾液pHは5.7~7.1、刺激時唾液pHは7.8以下である(唾液 歯と口腔の健康 原著第3版,医歯薬出版,2008年6月)。一態様においてpH指示薬を組み合わせることで、唾液pHの範囲を隈なくカバーする。
【0036】
唾液pHの測定の他の態様は電極法である。一態様において日本工業規格JIS Z8802のpH測定方法を用いる。当該pH測定方法ではガラス電極、比較電極及び温度補償用感温素子を備える検出部からなるpH計を用いる。ガラス電極によって測定される起電力からpHを求める。電極法の他の態様においてイオン感応性電界効果型トランジスタ(ISFET)電極でpHを測定する。
【0037】
図1に示すように予測13を得るにあたり、事前に回帰モデル10を用意する。一態様において唾液pHを説明変数とし、さらに唾液分泌量を目的変数として単回帰分析を行う。他の態様において唾液pH及びその他の項目を説明変数とし、さらに唾液分泌量を目的変数とし重回帰分析を行う。唾液pHを用いない方法については後述する。
【0038】
図1に示すように回帰モデル10は設定された母集団16に含まれる標本17より取得する。母集団16に含まれる者の服薬の有無に限定はしないが、服薬していない方が好ましい。一態様において母集団16は薬を服用していない者を含む。すなわち標本17は、唾液pHと唾液分泌量とを取得する時に薬を服用していない者を含む。これらを取得するときに薬を服用している者を標本17から除外しなくてもよい。
【0039】
図1に示す一態様において母集団16は薬を服用していない者からなる。すなわち母集団16に含まれる標本17は、唾液pHと唾液分泌量とを取得する時に薬を服用していない者からなる。これらを取得するときに薬を服用している者を標本17から除外する。母集団16に含まれる被験者15は、被験時に薬を服用していない。
【0040】
図1に示す一態様において説明変数たる唾液pHは、洗口吐出液pHである。唾液の検体11は洗口吐出液の形態をしている。回帰モデル10に、被験者15の洗口吐出液のpHの情報12を当て嵌める。
【0041】
図1に示す一態様において標本17は、予測を受ける被験者15以外の者である。被験者15が含まれない標本17を用いて回帰モデル10を取得する。その後、被験者15の唾液pHの情報12に回帰モデル10を適用することで被験者15の唾液分泌量の予測13を算出する。
【0042】
図1に示す態様と異なる態様において標本17は、予測を受ける被験者15と重なる。被験者15が含まれる標本17を用いて回帰モデル10を取得する。その後、被験者15の唾液pHの情報12に回帰モデル10を適用することで被験者15の唾液分泌量の予測13を算出する。
【0043】
<重回帰分析と予測>
【0044】
一態様において唾液pH及びその他の項目から唾液分泌量を予測する。一態様においてその他の項目として、唾液潜血濃度、唾液白血球数、唾液アンモニア濃度、年齢、性別、現在歯数、疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴及び皮膚乾燥主訴の少なくともいずれかの項目を用いる。
【0045】
一態様において「疾患の有無」に係る「疾患」は、被験者又は標本の治療中の疾患である。一態様において「治療中の疾患の有無」はその時点でその疾患に対して適用されている治療の有無を表す。一態様において「疾患」は慢性的な疾患である。一態様において「疾患」は脳の疾患、心臓の疾患、胃腸の疾患(一時的な胃腸炎や下痢は除く)、肝臓の疾患、腎臓の疾患、骨関節の疾患(骨粗しょう症及び骨折を含む)、鼻の疾患(慢性鼻炎及び花粉症を含む)、アトピー性皮膚炎、シェーグレン症候群、気管支喘息、糖尿病、高血圧、脂質異常症(コレステロールの異常及び中性脂肪の異常を含む)、尿路結石(腎結石及び尿菅結石を含む)、認知症、並びにその他の慢性的な疾患の少なくともいずれかである。一態様において「治療」は薬を疾患に適用していることである。一態様において「薬」は処方薬又はOTC(Over The Counter)薬である。一態様において「疾患」は、その疾患部位に対する外科的な治療を受けた後に、薬の適用を受けている疾患である。一態様において「疾患の有無」に「口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴及び皮膚乾燥主訴」の有無を含まない。
【0046】
一態様において「疾患の有無」に係る「疾患」は治療を要するが治療を開始する前又は経過観察中の疾患である。一態様において「疾患の有無」に係る「疾患」は、すでに治療を終えて治癒した疾患を含まない。一態様において「疾患の有無」に係る「疾患」は、すでに治療を終えて治癒した疾患であるが再発防止のために薬を適用している疾患を含む。他の実施形態において「疾患の有無」を上記同様に解釈する。
【0047】
なお、上記では唾液pHを予測に必要な項目としている。他の態様に係る唾液pHを用いない方法については後述する。
【0048】
上記選択された項目に係る特徴を表す値を標本から取得する。一態様においてこれらの項目を取得する時に薬を服用している者を標本から除外する。唾液pHに加えて取得した値を説明変数に含めて重回帰分析を行う。さらに他の項目の値を説明変数に含めてもよい。
【0049】
求めた回帰モデルに基づき被験者の唾液分泌量を予測する。上記説明変数として選択された項目と同一の項目に係る特徴を表す値を被験者から取得する。上記の通り求めた回帰モデルに対して、被験者の唾液pH及びその他の特徴を当て嵌める。唾液pHを用いない方法については後述する。
【0050】
一態様において標本からの値の取得及び被験者からの値の取得は以下の通り行う。一態様において唾液潜血濃度、唾液白血球数及び唾液アンモニア濃度の少なくともいずれかを測定する。一態様において標本の年齢、性別、現在歯数及び疾患の有無の少なくともいずれかを取得する。一態様において口腔乾燥、口のネバツキ、咀嚼困難、歯周病症状及び皮膚乾燥の少なくともいずれかの主訴の強さ又は有無を取得する。
【0051】
一態様において唾液潜血濃度、唾液白血球数及び唾液アンモニア濃度の少なくともいずれかの測定は、試験紙法で行う。一態様において試験紙法では、二波長反射測光法により測定を行う。
【0052】
唾液潜血濃度の測定の一態様において試験紙法は、酵素法である。一態様において酵素法は、ヘモグロビン接触活性法である。特許文献2に記載のように行ってもよい。唾液潜血濃度の測定の他の態様は、免疫反応を利用した方法である。その一態様は、ヘモグロビンと抗ヒトヘモグロビン抗体との抗原抗体反応を利用した方法である。その一態様は放射免疫測定法(RIA)、酵素免疫測定法(EIA)、蛍光免疫測定法、免疫比濁法、ラテックス凝集法、血球凝集法及びイムノクロマトグラフィー法のいずれかである。
【0053】
唾液白血球数の測定の一態様において試験紙法は、酵素法である。一態様において酵素法では、白血球エステラーゼによるエステル化合物の加水分解により生じるアルコール成分の呈色を利用する。特許文献2に記載のように行ってもよい。白血球数の測定の他の態様は免疫凝集比濁法である。免疫凝集比濁法の一態様は、白血球エラスターゼに対する抗体を用いたラテックス凝集免疫測定法である。
【0054】
唾液アンモニア濃度の測定の一態様において試験紙法は、pH呈色法である。一態様においてpH呈色法では、微量拡散法を利用する。一態様において微量拡散法では、アルカリ条件でアンモニアを揮発させ、pH指示薬を含む担体にて、揮発したアンモニアをトラップし、アンモニアと反応したpH指示薬の色調変化により検出する。特許文献2に記載のように行ってもよい。唾液アンモニア濃度の測定の他の態様は、酵素法である。酵素法の一態様は、グルタミン酸合成酵素を用いた方法及び種々のデヒドロゲナーゼを用いた方法のいずれかである。
【0055】
一態様において口腔乾燥、口のネバツキ、咀嚼困難、歯周病症状及び皮膚乾燥の少なくともいずれかの主訴の強さ又は有無を、標本を構成する試験参加者へのアンケートにより取得する。一態様において歯周病症状の強さ又は有無は、歯ぐきの状態の観察に基づき調査する。
【0056】
一態様において口腔乾燥主訴の強さ又は有無を、VAS(Visual Analog Scale)法により取得する。
【0057】
他の態様において、唾液pH及び刺激時唾液分泌量から安静時唾液分泌量を予測する。これに用いる回帰モデルを重回帰分析により事前に求める。唾液pH及び刺激時唾液分泌量並びに安静時唾液分泌量を標本から取得する。唾液pH及び刺激時唾液分泌量を説明変数に含めて重回帰分析する。さらに他の項目を説明変数に含めてもよい。目的変数たる唾液分泌量を安静時唾液分泌量とする。
【0058】
回帰モデルに基づき被験者の唾液分泌量を予測する。被験者の唾液pH及び刺激時唾液分泌量を測定する。上記の通り求めた回帰モデルに対して、被験者のこれらの測定値を当て嵌めることで、安静時唾液分泌量の予測値を得る。
【0059】
一態様において標本からの値の取得及び被験者からの値の取得は以下の通り行う。刺激時唾液重量の測定の一態様において、サクソン法すなわちガーゼ法を用いる。他の態様においてガム法を用いる。
【実施例0060】
<標本及び測定>
【0061】
処方薬を服用していない55名の者及び処方薬を服用している13名の者を含む68名からなる集団を標本とした。なお、これらの者を以下、参加者という。
【0062】
各参加者に事前にアンケートに記入してもらった。アンケートは年齢、性別及び現在歯数の回答を求めるものであった。また治療中疾患の有無、口腔乾燥、口のネバツキ、咀嚼困難、歯周病症状及び皮膚乾燥の主訴の有無を求めるものであった。
【0063】
次にVAS(Visual Analog Scale)法を用いて参加者の口腔乾燥主訴の強さを測った。VAS法のスケールとして0~100のスコアの目盛りを付した10cmの直線を用いた。スケールの左端を、乾燥感を全く感じない状態とした。右端を、乾燥感をとても感じる状態とした。スコアが大きいほど乾燥感が高いとした。
【0064】
次に参加者に温度23±3℃、湿度40±10%の条件下で、10分間過ごしてもらうことで、馴化を行った。
【0065】
次に参加者の口腔水分量を口腔水分計ムーカス(商標、ライフ社)で5回測定した。この装置は特許文献4に記載の静電容量式のセンサーを備える。
【0066】
次に参加者の洗口吐出液を取得した。参加者は、滅菌済み蒸留水3mlを口に含み、10秒間洗口後、専用の容器に吐出した。吐出液を検体として、多項目・短時間唾液検査システムSMT(Salivary Multi Test、商標、ライオン歯科材)を用いて、唾液のpH、潜血濃度、白血球数及びアンモニア濃度を測定した。酸性度、潜血、白血球、アンモニアの各個別検査紙にスポイトで1滴ずつ点着した。酸性度のpH試験紙はpH試験紙の一種である。個別検査紙をSMTで機械的に測定した。
【0067】
さらに洗口吐出液を検体とし、pH電極、LAQUATwin pH-33B(商標、堀場製作所)を用いて、そのpHを測定した。SMT及びpH電極による試験はそれぞれ2回行い、各平均値を取得した。各平均値に基づき回帰分析した。
【0068】
次に吐唾法で安静時唾液分泌量を測定した。参加者は15分間の安静とした。参加者はその間の唾液を飲み込まずに、コニカルチューブに吐出した。コニカルチューブの重量を測定するとともに、予め測定しておいた空のコニカルチューブの重量を差し引くことで、安静時唾液分泌量を取得した。
【0069】
次にサクソン法で刺激時唾液分泌量を測定した。参加者は、医療用ガーゼを咀嚼し、順次唾液をコニカルチューブに吐出した。2分後、口腔内に溜まった唾液と共にガーゼをコニカルチューブに吐出した。コニカルチューブの重量を測定するとともに、その重量から咀嚼前のガーゼの重量を差し引くことで、刺激時唾液分泌量を取得した。
【0070】
<安静時唾液分泌量の回帰分析>
【0071】
参加者68名の各測定値に基づき回帰分析を行った。また処方薬を服用していない55名の各測定値に基づき回帰分析を行った。以下において処方薬を服用していない者及び処方薬を服用している者のいずれも含む68名についての回帰分析の結果のみを示す。なお参加者68名全員の回帰分析結果と処方薬を服用していない55名についての回帰分析結果とのいずれも、唾液pHを中心とする説明変数と、唾液分泌量からなる目的変数との間の相関が有意であった。
【0072】
解析は、ソフトウェア「R」(version3.5.2、CRAN)を用いて実施した。回帰分析の予測精度を重相関係数Rで表すこととした。有意水準は両側5%、信頼区間は両側95%とした。安静時唾液分泌量を共通の目的変数とした。説明変数を以下の(A)~(C)の各群に分類した。性別は質的変数であることからダミー変数として扱った。
【0073】
(M)口腔水分量
(A)pH試験紙法により測定された唾液pH
(E)電極法により測定された唾液pH
(B)唾液潜血濃度・唾液白血球数
(C)アンモニア濃度
(D)アンケート結果
(S)刺激時唾液分泌量
【0074】
(M)、(A)、(E)及び(B)に含まれる各項目を説明変数として単回帰分析を行った。表1に示す。
【0075】
【0076】
唾液pH、唾液潜血濃度及び唾液白血球数のいずれかを説明変数とする単回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。唾液pHの測定法は、pH試験紙法及び電極法のいずれも安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。口腔水分量と安静時唾液分泌量との間の相関よりも、唾液pHと安静時唾液分泌量との間の相関の方が強かった。
【0077】
説明変数(A)に対して(B)及び(C)に含まれる各項目をさらに説明変数として追加して、重回帰分析を行った。説明変数(A)に対して(B)及び(C)に含まれる3項目全てをさらに説明変数として追加して、重回帰分析を行った。表2に示す。
【0078】
【0079】
唾液pHと、唾液潜血濃度、唾液白血球数及び唾液アンモニア濃度の少なくともいずれかとを説明変数とする重回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。
【0080】
説明変数(B)に含まれる各項目を下記説明変数1及び説明変数2として、重回帰分析を行った。表3に示す。
【0081】
【0082】
唾液潜血濃度及び唾液白血球数の二つを説明変数とする重回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。
【0083】
説明変数(A)に対して(D)及び(S)に含まれる各項目をさらに説明変数として追加して、重回帰分析を行った。また説明変数(A)に対して(B)、(C)、(D)及び(S)に含まれる13項目全てをさらに説明変数として追加して、重回帰分析を行った。また説明変数(A)に対して(B)、(C)及び(D)に含まれる12項目全てをさらに説明変数として追加して、重回帰分析を行った。表4に示す。
【0084】
【0085】
唾液pHと、年齢、性別、現在歯数、治療中疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴、皮膚乾燥主訴及び刺激時唾液分泌量の少なくともいずれかとを説明変数とする重回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。また説明変数として唾液潜血濃度、唾液白血球数及び唾液アンモニア濃度を追加した場合、さらに説明変数として刺激時唾液分泌量を追加した場合のいずれも、得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。
【0086】
<刺激時唾液分泌量の回帰分析>
【0087】
刺激時唾液分泌量を共通の目的変数として、安静時唾液分泌量の回帰分析と同様に回帰分析を行った。
【0088】
(M)、(A)、(E)及び(B)に含まれる各項目を説明変数として単回帰分析を行った。また(A)、(B)、(C)及び(D)に含まれる13項目全てを説明変数として、重回帰分析を行った。表5に示す。
【0089】
【0090】
唾液pH、唾液潜血濃度及び唾液白血球数のいずれかを説明変数とする単回帰分析により得られた回帰モデルは、刺激時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。唾液pHの測定法は、pH試験紙法及び電極法のいずれも刺激時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。口腔水分量と刺激時唾液分泌量との間の相関よりも、唾液pHと刺激時唾液分泌量との間の相関の方が強かった。
【0091】
唾液pHに対して、唾液潜血濃度、唾液白血球数、唾液アンモニア濃度、年齢、性別、現在歯数、治療中疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴及び皮膚乾燥主訴を追加してなる13項目を説明変数とする重回帰分析により得られた回帰モデルは、刺激時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。
【0092】
<応用例:唾液分泌減少の判定>
【0093】
一態様において、唾液分泌量の予測値が口腔乾燥閾値を下回っていることを又はいないことを示す定性的判定を行う。被験者の唾液pH及び/又はその他の項目に基づき予測される安静時唾液分泌量が1.5g/15分未満の場合、被験者の実際に唾液分泌減少を患っている可能性が高いと判定される。他の態様において、被験者の唾液pHに基づき予測される刺激時唾液重量(サクソン法)の予測値が2.0g/2分未満の場合、被験者が実際に唾液分泌減少を患っている可能性が高いと判定される。他の態様において、被験者の唾液pHに基づき予測される刺激時唾液重量(ガム法)の予測値が10mL/10分未満の場合、被験者が実際に唾液分泌減少を患っている可能性は高いと判定される。このように唾液分泌量の予測に基づき実際に唾液分泌減少を患っている可能性を判定できる。判定結果は歯の形態の回復のための治療を中心とする医療の形態において有用である。
【0094】
上記の唾液分泌量の予測あたり、被験者が受ける検査自体は簡便であり、また被験者自身の作業は短時間で完了する。したがって集団健診や、診療現場で常用する検査として運用しやすい。このため本実施形態の方法は口腔機能の維持・回復のための治療・管理・連携を行う医療の形態においても有用である。すなわち頭頚部がん治療を受ける者、喫煙者、糖尿病患者、シェーグレン症候群患者、う蝕患者、口腔カンジダ症患者といったリスクを抱える者以外の多数の者に対しても有用である。
【0095】
<応用例:システム>
【0096】
図2は唾液分泌減少の判定に必要な情報を提供するシステムを表すブロック図である。システムは医療機関19内にある端末20を主な構成要素としている。一態様において医療機関19は歯科医院である。端末20はネットワークを介して情報機関29内にあるサーバー30と接続される。
【0097】
システムの使用にあたり、
図2に示す医療機関19内で行われる検査21にて検査情報を取得する。検査21では、受診者Ptの洗口吐出液22を採取する。洗口吐出液22に代えて唾液を採取してもよい。洗口吐出液22のpHをpH試験紙法又は電極法で取得する。洗口吐出液22のpHは唾液pHを反映している。洗口吐出液22のpHを以下便宜的に唾液pHという。洗口吐出液22のpHは唾液pHを反映している。唾液pHを検査情報として端末20に入力する。
【0098】
図2に示す態様と異なる態様において端末20は測定装置と接続する。測定装置は特許文献2に記載の装置でもよい。測定装置は端末20の求めに応じ唾液pHを検査情報として自動的に端末20に入力する。他の態様において測定装置は端末20と一体の装置である。一態様において測定装置はpH試験紙の色調の変化を読み取る。他の態様において測定装置は後述する電極法によるpH測定を行う。他の態様において測定装置はpH試験紙の色調の変化の読み取りと電極法によるpH測定とのいずれも行う。
【0099】
図2示す検査21において、洗口吐出液22に代えて、口腔内粘膜23上のpHを直接に測定してもよい。直接に測定する方法としては、pH試験紙を直接粘膜上に乗せる方法、電極法の一態様として携帯用pHメーターを粘膜に接触させて測定する方法などが挙げられる。一態様において携帯用pHメーターはLAQUAtwin(商標、ホリバ製)である。
【0100】
図2に示すように端末20は検査情報を受け取る。端末20は処理部25を備える。処理部25は、回帰モデルに検査情報すなわち唾液pHを代入する。回帰モデルは唾液pH及び必要に応じてその他の項目を説明変数とし、また唾液分泌量を目的変数として事前に求められたものである。唾液pHを説明変数としない回帰モデルを利用するシステムについては後述する。処理部25は回帰モデルを予め記憶している。処理部25は回帰モデルをメモリーにロードする。サーバー30が端末20に対して回帰モデルを提供してもよい。処理部25は受診者Ptの唾液分泌量を定量的に予測する。
【0101】
回帰モデルを管理するものは唾液pHを含むデータをさらに収集することで回帰モデルを改良してもよい。サーバー30はその改良された回帰モデルを新たな版として記憶する、又は過去の版を上書きする。端末20はこのように更新された版の回帰モデルをサーバー30から受け取る。
【0102】
図2に示す端末20は、上述の唾液分泌減少の判定の方式に沿って、唾液分泌量の予測値から唾液分泌減少の検査結果を算出する。端末20は唾液分泌減少の検査結果を含む結果情報26を診断医Dcに提示する。他の態様において結果情報26は唾液分泌量の予測値それ自体を含む。一態様において診断医Dcは歯科医師である。診断医Dcは唾液分泌減少の検査結果をもとに受診者Ptを診断する。診断医Dcは診断に基づき受診者Ptを治療又は保健指導する。他の態様において端末20は結果情報26を受診者Pt又はその補助者に提示する。
【0103】
受診者Pt又はその補助者若しくは診断医Dcは上述したアンケートに対する回答を端末20に入力する。処理部25はアンケートの回答を受け取る。処理部25は唾液pH及びアンケートの回答を回帰モデルに当て嵌めることで重回帰分析を行う。
【0104】
図2に示すように端末20は、検査21に必要な消耗品27のメンテナンス要求を、ネットワークを介して情報機関29に送る。情報機関29はメンテナンス要求に応じて消耗品27を医療機関19に送る。
【0105】
<応用例:プログラム>
【0106】
図2に示す端末20はプログラムで動作するコンピューターである。プログラムは唾液分泌減少の判定に必要な情報を提供する。プログラムは端末20に唾液pHを含む検査情報を受け取らせる。他の態様においてプログラムは唾液pHを反映した検査情報を端末20に受け取らせるとともに検査情報より唾液pHの実際の値を算出させる。唾液pHを反映した検査情報の一態様は洗口吐出液によるpH試験紙の呈色である。
【0107】
図2に示す態様においてプログラムは端末20に対して受診者Ptの唾液分泌量を定量的に予測させる。この時、プログラムは端末20に対して検査情報として受け取った唾液pHを回帰モデルに当て嵌めさせる。上述の通り唾液pHは端末20が自身で算出した唾液pHでもよい。プログラムは唾液分泌減少検査結果からなる結果情報26を端末20に提示させる。一態様において提示を受けるのは診断医Dc、受診者Pt及び受診者Ptの補助者の少なくともいずれかである。
【0108】
図2に示すサーバー30及びその他のサーバーのいずれかがプログラムを格納する。プログラムはディスク、テープ、フラッシュメモリ、及びその他の不揮発性記憶媒体に格納される。サーバー30及びその他のサーバーがネットワークを介してプログラムを端末20にアップロードする。他の態様において端末20の動作の一部を、サーバー30及びその他のサーバーが負担する。
【0109】
<応用例:一体型装置>
【0110】
図2に記載の一態様は、端末20の機能と、唾液pHの測定装置とを備える一体型装置である。一態様において一体型装置はさらに、結果情報を提示するディスプレイを備える。一態様において一体型装置は歯科の診療台のそばに設置するのに適したコンパクトな筐体からなる。一態様において一体型装置は、測定装置としてカメラを備えているとともに、アプリをインストールされたタブレット又はスマートフォンとして提供される。
【0111】
他の態様において一体型装置はサーバー30の機能を果たす記憶装置を含めて、上述のシステムを内包する。一体型装置とその外部との間でネットワークを通じて接続しているか、いないかに関わらず、一体型装置はpH測定から唾液分泌量の予測までの実施を行う。したがって医療機関への設置に適するのみならず、在宅診療の行われる各家屋への設置にも適する。一体型装置は記憶装置の記憶する回帰モデルを更新するためのインターフェースを備える。
【0112】
<応用例:サービスの提供>
【0113】
図3は唾液分泌減少の判定に必要な情報を提供するシステムの他の態様を示す。情報機関39はサーバー40を備える。端末35はネットワークを介してサーバー40と接続する。システムは端末35とサーバー40とから構成される。
【0114】
図3に示す検査31においてpH試験紙32を洗口吐出液22で濡らすことでpH試験紙を呈色させる。呈色は唾液pHを反映している。洗口吐出液22ではなく、唾液でpH試験紙32を濡らす。検査31の他の態様においてpH試験紙32を口腔内粘膜上の唾液で濡らす。受診者Pt又はその補助者がpH試験紙32を濡らす。
【0115】
図3に示すように受診者Pt又はその補助者がpH試験紙32の呈色を端末35に読み取らせる。端末35は、それ自身の備えるカメラでpH試験紙32の呈色を色情報として取得する。一態様において端末35はスマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター及びその他の端末である。一態様において色情報は濡らしたpH試験紙のカラー画像である。カメラはpH試験紙32の表面を撮影する。他の態様においてカメラの代わりにスキャナーを用いる。スキャナーはpH試験紙32の表面を走査して呈色を色情報に変換する。
【0116】
図3に示す一態様において色調補正用のカラーチャートをpH試験紙32に付与する。一態様においてカメラ及びスキャナーは濡らした表面に加えて、カラーチャートの映った画像を取得する。他の態様においてカメラ及びスキャナーは濡らした表面の映った画像に加えて、カラーチャートの映った画像をさらに取得する。一態様において端末35はpH試験紙32の呈色に加えてカラーチャートの呈色を読み取る。端末35はカラーチャートの呈色に基づきpH試験紙32の呈色の色情報を補正する。
【0117】
図3に示す態様と異なる態様において、カメラは端末35から独立している。カメラはpH試験紙の呈色を色情報として取得するとともに、色情報を端末35に送る。
【0118】
図3に示すように端末35は色情報を含む検査情報をサーバー40に送る。サーバー40は検査情報を受け取る。サーバー40は検査情報より受診者Ptの唾液pHを算出する。サーバー40は、サーバー40が記憶している回帰モデルに、算出された唾液pHを代入する。サーバー40は受診者Ptの唾液分泌量を定量的に予測する。他の態様においてサーバー40は、端末35から検査情報を受け取った後に、他のサーバーからネットワークを介して回帰モデルを受け取るとともにこれを記憶する。
【0119】
図3に示すサーバー40は、上述の実際に唾液分泌減少を患っている可能性の判定の方式に沿って、唾液分泌量の予測値から唾液分泌減少検査結果を算出する。サーバー40は唾液分泌減少検査結果を含む結果情報を端末35に送る。図に示す態様と異なる態様において、サーバー40は唾液分泌減少検査結果を含む結果情報を端末35に送る。結果情報を受け取った端末35は結果情報を表示する。受診者Ptは端末35を通じて唾液分泌減少検査結果を知る。他の態様において端末35とは異なる端末に結果情報を送る。かかる端末は受診者Ptの診断医に結果情報を提示する。
【0120】
図3に示すpH試験紙の呈色は
図2に示すシステムにも適用できる。受診者又はその補助者は、洗口吐出液22又は唾液で濡らしたpH試験紙の呈色を検査情報として端末20に入力する。端末20は検査情報を受け取る。処理部25は検査情報より受診者の唾液pHを算出する。処理部25は、処理部25が記憶している回帰モデルに、算出された唾液pHを代入する。処理部25は受診者Ptの唾液分泌量を定量的に予測する。
【0121】
<応用例:端末に配布されるアプリケーション>
【0122】
図3に示す一態様において端末35はアプリケーションプログラム、以下アプリという、に基づき動作する。端末35にインストールされたアプリは端末35に対して、上述の濡らしたpH試験紙の呈色の色情報の生成を実行させる。他の態様においてアプリは端末35に対して、色情報の受け取りを実行させる。
【0123】
図3に示す端末35にインストールされたアプリは、端末35に対して色情報をサーバー40に向かって送らせる。アプリは、色情報より上述の結果情報を生成することの要請をサーバー40に向かってさらに送らせる。アプリは端末35に対してさらに、サーバー40より送られる結果情報を受け取らせる。アプリは端末35に対してさらに、結果情報を表示させる。
【0124】
図2に示すサーバー40及びその他のサーバーのいずれかがアプリを格納する。アプリはディスク、テープ、フラッシュメモリ、及びその他の不揮発性記憶媒体に格納される。サーバー30及びその他のサーバーがネットワークを介してアプリを端末35にアップロードする。他の態様においてサーバー40の動作の一部を、その他のサーバーが負担する。
【0125】
本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更できる。
【0126】
<唾液潜血濃度から唾液分泌量を予測する方法>
【0127】
一態様において唾液潜血濃度から唾液分泌量を予測する。その予測は唾液pHの測定に依拠しない。まず唾液潜血濃度を説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に回帰モデルを求める。次に被験者の唾液潜血濃度を取得する。次に回帰モデルに被験者の唾液潜血濃度を当て嵌める。被験者の唾液分泌量をコンピューターにて定量的に予測する。
【0128】
他の態様において唾液潜血濃度及びその他の項目を説明変数とし、さらに唾液分泌量を目的変数とし重回帰分析を行う。一態様においてその他の項目として、唾液白血球数、唾液アンモニア濃度、年齢、性別、現在歯数、疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴及び皮膚乾燥主訴の少なくともいずれかの項目を用いる。上記説明変数として選択された項目と同一の項目に係る特徴を表す値を被験者から取得する。上記の通り求めた回帰モデルに対して、被験者の唾液潜血濃度及びその他の特徴を当て嵌める。
【0129】
表1及び表5に示すように唾液潜血濃度を説明変数とする単回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。表3に示すように唾液潜血濃度と唾液白血球数とを説明変数とする重回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。
【0130】
<唾液白血球数から唾液分泌量を予測する方法>
【0131】
一態様において唾液白血球数から唾液分泌量を予測する。その予測は唾液pHの測定に依拠しない。まず唾液白血球数を説明変数とし唾液分泌量を目的変数として事前に回帰モデルを求める。次に被験者の唾液白血球数を取得する。次に回帰モデルに被験者の唾液白血球数を当て嵌める。被験者の唾液分泌量をコンピューターにて定量的に予測する。
【0132】
他の態様において唾液白血球数及びその他の項目を説明変数とし、さらに唾液分泌量を目的変数とし重回帰分析を行う。一態様においてその他の項目として、唾液潜血濃度、唾液アンモニア濃度、年齢、性別、現在歯数、疾患の有無、口腔乾燥主訴、口のネバツキ主訴、咀嚼困難主訴、歯周病症状主訴及び皮膚乾燥主訴の少なくともいずれかの項目を用いる。上記説明変数として選択された項目と同一の項目に係る特徴を表す値を被験者から取得する。上記の通り求めた回帰モデルに対して、被験者の唾液白血球数及びその他の特徴を当て嵌める。
【0133】
表1及び表5に示すように唾液白血球数を説明変数とする単回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。表3に示すように唾液白血球数と唾液潜血濃度とを説明変数とする重回帰分析により得られた回帰モデルは、安静時唾液分泌量の予測に役立つことが分かった。
【0134】
<応用例:唾液pH以外の項目を分析するシステム>
【0135】
他の態様において、
図2に示すシステムは唾液pH以外の項目を分析する。上述した唾液pHを分析するシステムと異なる点を以下に示す。端末20は唾液潜血濃度及び唾液白血球数の少なくともいずれかを取得する。
【0136】
図2に示す検査21の一態様において洗口吐出液22の潜血濃度及び白血球数の少なくともいずれかを取得する。洗口吐出液22の潜血濃度及び白血球数は、唾液潜血濃度及び唾液白血球数をそれぞれ反映している。洗口吐出液22の潜血濃度及び白血球数を以下便宜的に唾液潜血濃度及び唾液白血球数という。唾液潜血濃度及び唾液白血球数の少なくともいずれかを検査情報として端末20に入力する。
【0137】
図2に示す態様と異なる態様において端末20は測定装置と接続する。測定装置は特許文献2に記載の装置でもよい。測定装置は端末20の求めに応じ唾液pHを検査情報として自動的に端末20に入力する。他の態様において測定装置は端末20と一体の装置である。一態様において測定装置は試験紙の色調の変化を読み取る。
【0138】
図2に示すように端末20は検査情報を受け取る。端末20は処理部25を備える。処理部25は、回帰モデルに検査情報すなわち唾液潜血濃度及び唾液白血球数の少なくともいずれかを代入する。回帰モデルは唾液潜血濃度及び唾液白血球数の少なくともいずれか並びに必要に応じてその他の項目を説明変数とし、また唾液分泌量を目的変数として事前に求められたものである。処理部25は唾液潜血濃度及び唾液白血球数の少なくともいずれか及びアンケートの回答を回帰モデルに当て嵌めることで重回帰分析を行う。
10 回帰モデル、 11 唾液の検体、 12 唾液pHの情報、 13 唾液分泌量の予測、 15 被験者、 16 母集団、 17 標本、 19 医療機関、 20 端末、 21 検査、 22 洗口吐出液、 23 口腔内粘膜、 25 処理部、 26 結果情報、 27 消耗品、 29 情報機関、 30 サーバー、 31 検査、 32 試験紙、 35 端末、 39 情報機関、 40 サーバー、 Dc 診断医、 Pt 受診者