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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022110427
(43)【公開日】2022-07-29
(54)【発明の名称】グリコール類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/00 20060101AFI20220722BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20220722BHJP
   B01J 23/10 20060101ALI20220722BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220722BHJP
【FI】
C07C29/00
C07C31/20 A
C07C31/20 Z
B01J23/755 Z
B01J23/63 Z
B01J23/46 311Z
B01J23/46 301Z
B01J23/44 Z
B01J23/42 Z
B01J23/10 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021005837
(22)【出願日】2021-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】山口 有朋
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 清行
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC68B
4G169BC70B
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC74B
4G169BC75B
4G169CB02
4G169CB35
4G169CB70
4G169DA05
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA08
4H006BA25
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006FE11
4H006FG24
4H006FG26
4H039CA19
4H039CB10
4H039CB40
(57)【要約】
【課題】パラジウムを含有する触媒を用いて、糖類からグリコール類を製造する。
【解決手段】グリコール類の製造方法は、パラジウムを含有する触媒と、圧力1MPa以上の水素の存在下で、糖類を含有する原料を水中で処理する工程を有する。触媒はランタノイドをさらに含有することが好ましい。糖類は、キシロース、グルコース、スクロース、およびフルクトースの一種以上であることが好ましい。圧力1MPa以上3MPa以下の水素の存在下で、原料を水中で処理することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウムを含有する触媒と、圧力1MPa以上の水素の存在下で、糖類を含有する原料を水中で処理する工程を有するグリコール類の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記触媒がランタノイドをさらに含有するグリコール類の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記ランタノイドが、ランタンとセリウムの少なくとも一方であるグリコール類の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、
前記糖類が、キシロース、グルコース、スクロース、およびフルクトースの一種以上であるグリコール類の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかにおいて、
圧力1MPa以上3MPa以下の水素の存在下で、原料を水中で処理するグリコール類の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかにおいて、
温度160℃以上220℃以下で、原料を水中で処理するグリコール類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、糖類を原料としたグリコール類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)は、保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液、プラスチック原料、および溶媒などとして広く用いられている。一般にプロピレングリコールは、ナフサのクラッキングにより得られたプロピレンが酸化され、この酸化プロピレンが加水分解されることによって製造される。しかしながら、持続可能な社会の構築のため、再生可能で化石資源に依存しない資源として、バイオマスから化学製品を製造する技術が求められている。近年、ルテニウム・スズ触媒を用いて、糖類からグリコール類を得る技術が報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Applied Catalysis B: Environmental, 239 (2018) p.300-308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願の課題は、パラジウムを含有する触媒を用いて、糖類からグリコール類を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願のグリコール類の製造方法は、パラジウムを含有する触媒と、圧力1MPa以上の水素の存在下で、糖類を含有する原料を水中で処理する工程を有する。
【発明の効果】
【0006】
本願のグリコール類の製造方法によれば、パラジウムを含有する触媒を用いて、糖類からグリコール類が製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本願の実施形態のグリコール類の製造方法は、触媒と水素の存在下で、原料を水中で処理する工程を備えている。触媒はパラジウムを含有する。触媒は、ランタノイドをさらに含有していてもよい。ランタノイドは、ランタンとセリウムの少なくとも一方が好ましい。触媒は、担体と、この担体に担持されたパラジウム等の触媒性金属を備えていてもよい。担体としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、酸化アルミニウム、酸化チタン、および酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0008】
グリコール類が高収率で得られるので、水素の圧力は1MPa以上であることが好ましく、5MPa以下であることが好ましい。高圧で原料を処理する困難性と、高収率でグリコール類が得られる利点を考慮すると、水素の圧力は1MPa以上3MPa以下であることがより好ましい。原料は糖類を含有する。糖類は、キシロース、グルコース、およびフルクトース等の単糖類と、スクロースおよびマルトース等の二糖類の総称である。セルロース等の三糖類以上の多糖類、ならびにキシリトールおよびソルビトール等の糖アルコールは、本願でいう「糖類」ではない。
【0009】
糖類としては、キシロース、グルコース、スクロース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、ラクトース、およびセロビオース等が挙げられる。グリコール類が高収率で得られるので、糖類は、キシロース、グルコース、スクロース、およびフルクトースの一種以上であることが好ましい。なお、糖類からグリコール類への転換ができるのであれば、原料に糖類以外のものが含まれていてもよい。再生可能な資源を利用する観点から、糖類は、バイオマスに含まれるセルロースまたはヘミセルロースから得られるものであることが好ましい。
【0010】
原料を水中で処理する工程によって、原料中の糖類がグリコール類に転換される。得られるグリコール類は、エチレングリコール、プロピレングリコール、およびプロパンジオールなどである。本実施形態のグリコール類の製造方法によれば、特にプロピレングリコールが高選択で得られる。なお、原料を水中で処理する工程は、例えば耐圧容器を用いて行われる。高収率でグリコール類が得られるので、温度160℃以上220℃以下で、原料を水中で処理することが好ましい。
【実施例0011】
実験例1
活性炭の担体に、担体の質量の5%の質量のパラジウムを担持した和光純薬工業製の触媒(以下「5%Pd/C」と記載することがある。他の触媒の表記方法も同様とする)、5%Pt/C(和光純薬工業)、5%Rh/C(和光純薬工業)、5%Ru/C(和光純薬工業)、活性炭(和光純薬工業)の担体に、担体の質量の5%の質量のニッケルを担持した自作の触媒(以下「5%Ni/AC」と記載することがある。他の触媒の表記方法も同様とする)、および5%Pd/C(和光純薬工業)に、担体の質量の1%の質量のランタンをさらに担持した触媒(以下「1%La5%Pd/C」と記載することがある。他の触媒の表記方法も同様とする)の6種類の触媒を用意した。
【0012】
ステンレス製のバッチ式反応器(内容量100cm)内に、原料であるキシロース0.5g、上記6種類のうちの1種類の触媒0.1g、および水40cmを入れ、さらに圧力5MPaで水素を導入した。この反応器内を温度200℃に保ちながら、すなわち反応温度を200℃として、キシロースを水中で4時間処理した。その後、反応器内の生成物をHPLCで分析した(以下同様)。各種生成物とそれらの収率を表1に示す。なお、収率は、原料と生成物の炭素収支に基づいて算出した(以下同様)。
【0013】
【表1】
【0014】
パラジウム触媒(No.1)を用いたキシロースの処理では、グリコール類(エチレングリコールおよびプロピレングリコール)が収率20.8%で得られた。これに対して、白金触媒(No.2)、ルテニウム触媒(No.3)、ロジウム触媒(No.4)、およびニッケル触媒(No.5)を用いたキシロースの処理では、収率0.67%~18.1%でしかグリコール類が得られなかった。
【0015】
パラジウム触媒を用いると、白金触媒、ルテニウム触媒、ロジウム触媒、およびニッケル触媒を用いるときと比べて、糖類からグリコール類が高収率で得られることがわかった。また、ランタノイドであるランタンをさらに含有するパラジウム含有触媒(No.6)を用いたキシロースの処理では、グリコール類が収率32.8%で得られた。パラジウムとランタノイドを含有する触媒を用いると、糖類からグリコール類がさらに高収率で得られることがわかった。
【0016】
実験例2
1%La5%Pd/C、活性炭(和光純薬工業)の担体に、担体の質量の5%の質量のパラジウムと担体の質量の1%の質量のランタンを同時に担持した自作の触媒(以下「1%La5%Pd/AC」と記載することがある。他の触媒の表記方法も同様とする)、1%Ce5%Pd/AC、3%La/AC、5%Pd/AC、3%La5%Pd/C、3%La5%Pd/AC、3%Ce5%Pd/AC、5%La5%Pd/C、5%La5%Pd/AC、5%Ce5%Pd/ACの11種類の触媒を用意した。反応温度220℃とした点を除いて、実験例1と同様にしてキシロースを水中で処理した。また、触媒なしの条件でもキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表2に示す。
【0017】
【表2】
【0018】
パラジウム触媒(No.11)を用いたキシロースの処理では、グリコール類が収率21.6%で得られた。これに対して、ランタン触媒(No.10)用いたキシロースの処理および無触媒(No.18)でのキシロースの処理では、収率13.4%~15.2%でしかグリコール類が得られなかった。パラジウム触媒を用いる場合では、ランタン触媒を用いる場合および無触媒の場合と比べて、糖類からグリコール類が高収率で得られることがわかった。
【0019】
また、ランタノイドであるランタンまたはセシウムをさらに含有するパラジウム含有触媒(No.7~9およびNo.12~17)を用いたキシロースの処理では、グリコール類が収率34.7%~42.6%で得られた。パラジウムとランタノイドを含有する触媒を用いると、糖類からグリコール類がさらに高収率で得られることがわかった。このとき、No.7とNo.12とNo.15、No.8とNo.13とNo.16、およびNo.9とNo.14とNo.17の各比較より、触媒中のパラジウムの含有量に対する触媒中のランタノイドの含有量の比(触媒中のランタノイドの含有質量/触媒中のパラジウムの含有質量)は、0.2以上1以下だった。
【0020】
実験例3
1%La5%Pd/Cを用意した。反応時間を1時間、2時間、4時間、16時間とした点を除いて、実験例2と同様にしてキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表3に示す。表3に示すように、反応時間4時間のとき、プロピレングリコール類の収率が26.6%と最も高かった。
【0021】
【表3】
【0022】
実験例4
3%La5%Pd/Cの触媒を用いた点を除いて、実験例3と同様にしてキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表4に示す。表4に示すように、反応時間4時間のとき、グリコール類の収率が最も高かった。また、表3と表4の比較により、ランタン含有量3%のパラジウム含有触媒を用いた反応の方が、ランタン含有量1%のパラジウム含有触媒を用いた反応よりグリコール類の収率が高かった。
【0023】
【表4】
【0024】
実験例5
1%La5%Pd/AC、3%La5%Pd/AC、および3%Ce5%Pd/ACの3種類の触媒を用意した。実験例3と同様にして、表5に示す各反応時間だけキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表5に示す。表5に示すように、それぞれの触媒での反応時間が最も短いとき(No.27、No.30、No.35)、グリコール類の収率が最も高かった。つまり、パラジウムとランタノイドを含有する触媒を用いると、糖類からグリコール類を短時間かつ高収率で製造できることがわかった。
【0025】
【表5】
【0026】
実験例6
3%La5%Pd/ACを用意した。水素圧力を0MPa(水素の導入なし)、0.1MPa、0.5MPa、1MPa、3MPa、5MPaとした点と反応時間を1時間とした点を除いて、実験例2と同様にしてキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表6に示す。表6に示すように、水素圧力が0.5MPa以下のときは、グリコール類の収率が低かった。これに対して、水素圧力が1MPa以上のときは、グリコール類が38.9%~45.7%の高収率で得られた。
【0027】
【表6】
【0028】
実験例7
反応温度を160℃、180℃、200℃、220℃とした点と水素圧力を5MPaとした点を除いて、実験例6と同様にしてキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表7に示す。表7に示すように、反応温度が160℃以上220℃以下のとき、グリコール類が35.7%~45.7%の高収率で得られた。
【0029】
【表7】
【0030】
実験例8
反応器内に入れた触媒の質量、すなわち触媒量を0.05gまたは0.2gとした点を除いて、実験例7のNo.47と同様にしてキシロースを水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表8に示す。なお、表8には、触媒量0.1gで反応させた実験例7のNo.47の結果も掲載した。表8に示すように、少量の触媒を使用したとき(No.48)でも、グリコール類が37.9%の高収率で得られた。
【0031】
【表8】
【0032】
実験例9
原料を表9に記載した物質とした点を除いて、実験例7のNo.47と同様にして各種原料を水中で処理した。各種生成物とそれらの収率を表9に示す。なお、表9には、原料をキシロースとした実験例7のNo.47の結果も掲載した。表9に示すように、糖類であるキシロース、グルコース、スクロース、およびフルクトースが原料であるとき、グリコール類が42.1%~48.9%の高収率で得られた。これに対して、糖アルコールであるキシリトールおよびソルビトール、ならびに多糖類(本願では糖類ではない)であるキシランが原料であるとき、グリコール類は1.84%~16.2%の収率でしか得られなかった。また、エチレングリコールが原料であるときにはプロピレングリコールが得られなかった(No.56)。
【0033】
【表9】