(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022011056
(43)【公開日】2022-01-17
(54)【発明の名称】バリア性コーティング組成物、及び、バリア性複合フィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220107BHJP
C09D 183/06 20060101ALI20220107BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220107BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220107BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D183/06
C09D5/00 Z
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020111927
(22)【出願日】2020-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】池堂 圭祐
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AH06A
4F100AK01B
4F100AK04A
4F100AK48B
4F100AK51E
4F100AK52A
4F100AK54E
4F100AK63C
4F100AK69A
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10C
4F100CB00E
4F100EH46A
4F100EJ86A
4F100GB15
4F100GB23
4F100HB31D
4F100JB07
4F100JD02A
4F100JD03
4F100JK06
4F100JL12C
4J038CE031
4J038DL052
4J038KA06
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA08
4J038NA11
4J038PB04
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】通常条件及び水付け条件においてラミネート強度に優れ、かつ、シール強度、ガスバリア性にも優れたバリア性複合フィルムを得ることができるバリア性コーティング組成物を提供する。
【解決手段】エチレン鎖を有する高極性樹脂と、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物と、溶媒とを含有し、前記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、前記テトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率(エチレン鎖を有する高極性樹脂の質量/テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物の質量)が、55/45~25/75であることを特徴とするバリア性コーティング組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン鎖を有する高極性樹脂と、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物と、溶媒とを含有し、
前記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、前記テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率(エチレン鎖を有する高極性樹脂の質量/テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物の質量)が、55/45~25/75である
ことを特徴とするバリア性コーティング組成物。
【請求項2】
前記テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物は、酸を触媒とした加水分解物である請求項1に記載のバリア性コーティング組成物。
【請求項3】
前記触媒は、塩酸である請求項2に記載のバリア性コーティング組成物。
【請求項4】
前記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、エチレン比率が0.5~30mol%である請求項1~3の何れかに記載のバリア性コーティング組成物。
【請求項5】
溶媒は、水及び炭素数1~3の低級アルコールの混合溶媒である請求項1~4の何れかに記載のバリア性コーティング組成物。
【請求項6】
少なくとも、ベースフィルム層、バリア層、及び、ヒートシール材層をこの順番に有し、
前記バリア層は、請求項1~5のいずれかに記載のバリア性コーティング組成物から得られる
ことを特徴とするバリア性複合フィルム。
【請求項7】
前記ベースフィルム層と、前記ヒートシール材層との間に印刷層を更に有する請求項6記載のバリア性複合フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性コーティング組成物、及び、バリア性複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装用途で利用される包装袋は、印刷による内容物表示や装飾の機能が求められ、更に、高い食品衛生性を得るという目的から、印刷層が食品や人の指等に直接触れる事がないよう、印刷層を覆うヒートシール層が積層された複合ラミネートフィルムが利用されている。また、このような複合ラミネートフィルムに熱水処理ができる機能を持たせて、袋ごと内容物の調理も簡単にできる包装袋が製造される場合が多くなっている。
【0003】
熱水処理は、殺菌効果が高く、包装袋が完全密封されている事から、内容物の腐敗を起こしにくいという点で、長期保存に有効な手段である。しかし、ガスバリア性が充分でないと、保存の間に酸素が包装袋の中に入り込み、内容物の変質・劣化が起こる。従って、熱水処理用包装袋において、いかに酸素等の透過を抑えられるかが、包装袋の価値を決める大きな要因となる。
【0004】
従来、食品、医療等の包装用途に使用される包装袋では、酸素や水蒸気等のガスを遮断するために、種々のガスバリア層を設ける方法が考えられている。とりわけ、高いガスバリア性を有する材料として利用されてきたのは、印刷基材フィルム等に蒸着方式により積層される金属(例えば、特許文献1参照)や金属酸化物(例えば、特許文献2参照)である。そして、上記の熱水処理用包装袋においても、長期保存用には、アルミニウム蒸着フィルムやアルミ自体の箔をラミネートした熱水処理用包装袋が主流になっている。しかしながら、これらの材料を利用した複合ラミネートフィルムは総じて高価である。また、透明性が要求される分野で利用できないという問題を有している。
【0005】
そこで、最近開発されている、例えば、プラスチック材料からなる基材フィルムと、該基材フィルムの片面あるいは両面に、水性ポリウレタン樹脂、水溶性高分子、および無機層状鉱物を主たる構成成分として含み、かつ、硬化剤としてイソシアネート系化合物を含むガスバリア層を設けたガスバリア性フィルム(例えば、特許文献3及び4参照)の利用が検討されている。
【0006】
積層構造のガスバリア性フィルムでは、優れたガスバリア性だけではなく、優れたラミネート強度も求められる。特に、食品、医療等の包装用途に使用される包装袋の分野では、優れたガスバリア性に加えて、通常条件におけるラミネート強度だけで無く、水付け条件におけるラミネート強度にも優れることが求められるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平08-318591号公報
【特許文献2】特開昭62-179935号公報
【特許文献3】特開2015-44943号公報
【特許文献4】特開2015-44944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の課題は、通常条件及び水付け条件においてラミネート強度に優れ、かつ、シール強度、ガスバリア性にも優れたバリア性複合フィルムを得ることができるバリア性コーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、研究を重ねた結果、エチレン鎖を有する高極性樹脂と、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物と、溶媒とを含有し、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率を所定の範囲としたバリア性コーティング組成物が、塗膜の凝集力に極めて優れるため、通常条件及び水付け条件におけるラミネート強度を付与することができ、かつ、シール強度、ガスバリア性に優れるバリア性複合フィルムを得ることができることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0010】
すなわち、本発明のバリア性コーティング組成物は、エチレン鎖を有する高極性樹脂と、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物と、溶媒とを含有し、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率(エチレン鎖を有する高極性樹脂の質量/テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物の質量)が、55/45~25/75であることを特徴とする。
【0011】
本発明のバリア性コーティング組成物において、上記テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物は、酸を触媒とした加水分解物であることが好ましい。
上記触媒は、塩酸であることが好ましい。
本発明のバリア性コーティング組成物において、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、エチレン比率が0.5~30mol%である
本発明のバリア性コーティング組成物において、上記溶媒は、水及び炭素数1~3の低級アルコールの混合溶媒であることが好ましい。
本発明のバリア性複合フィルムは、少なくとも、ベースフィルム層、バリア層、及び、ヒートシール材層をこの順番に有し、上記バリア層は、上記バリア性コーティング組成物から得られることを特徴とする。
本発明のバリア性複合フィルムにおいて、上記ベースフィルム層と、上記ヒートシール材層との間に印刷層を更に有することが好ましい。
以下、バリア性コーティング組成物、及び、バリア性複合フィルムについて詳細に説明する。
【0012】
<バリア性コーティング組成物>
本発明のバリア性コーティング組成物は、エチレン鎖を有する高極性樹脂と、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物と、溶媒とを含有し、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物との質量比率(エチレン鎖を有する高極性樹脂の質量/テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物の質量)が、55/45~25/75であることを特徴とする。
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物とを特定の質量比率で含有することにより、ポリエチレンブロックの耐水性が発現し、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物が縮合した際に不溶化しないといった双方の問題を解決することができる。
そのため、通常条件及び水付け条件におけるラミネート強度を付与することができ、かつ、シール強度、ガスバリア性に優れるバリア性複合フィルムを得ることができる。
【0013】
(エチレン鎖を有する高極性樹脂)
本発明のバリア性コーティング組成物は、エチレン鎖を有する高極性樹脂を含有する。
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂とは、エチレン鎖と、高極性の官能基とを有する樹脂を意味する。
【0014】
上記高極性の官能基としては、アミノ基、エステル基、カルボキシル基、スルホン基、シアノ基、チオール基、ヒドロキシル基等が挙げられる。
なかでも、ガスバリア性を好適に発現させる観点から、ヒドロキシル基、カルボキシル基が好ましく、ヒドロキシル基であることがより好ましい。
【0015】
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、エチレン比率が0.5~30mol%であることが好ましい。
上記エチレン比率の範囲とすることにより、後述する溶媒への溶解性を良好なものとすることができる。
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、エチレン比率が1.0~15mol%であることがより好ましい。
なお、「エチレン比率」とは、エチレン鎖を有する高極性樹脂が有するエチレン単位の含有量と、他の構成単位の含有量との合計を100mol%としたときのエチレン単位の含有量を意味し、例えば、13C核磁気共鳴スペクトルの測定により求めることができる。
【0016】
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、主鎖にエチレン鎖を有することが好ましい。
主鎖にエチレン鎖を有することにより、耐水性を向上させることができる。
なお、本発明において、「主鎖」とは、ポリマーを形成する最も長い鎖のことをいう。
【0017】
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、ケン化度が90~100%あることが好ましく、95~100%であることがより好ましく、97~100%であることが更に好ましい。
【0018】
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、平均重合度が200~3000であることが好ましく、400~2000であることがより好ましい。
上記平均重合度の範囲とすることにより、バリア性コーティング組成物の粘度が上がりすぎることが無く、他の成分と均一に混合することが容易であり、バリア層のガスバリア性や他の層との剥離強度を好適に付与することができる。
【0019】
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により上記エチレン比率、ケン化度、平均重合度等を満たすものを製造してもよい。
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂の市販品としては、例えば、エクセバールRS-2117(クラレ社製)、ソアノールSG525(日本合成化学社製)等が挙げられる。
【0020】
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂としては、エチレンとビニル基を有する化合物との共重合体であることが好ましい。
上記エチレンとビニル基を有する化合物との共重合体としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
なかでも、ガスバリア性を好適に発現させる観点から、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体が好ましく、エチレン-ビニルアルコール共重合体であることがより好ましい。
【0021】
(テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物)
本発明のバリア性コーティング組成物は、テトラアルコキシシランの加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物を含有する。
【0022】
上記テトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、エトキシトリメトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、メトキシトリエトキシシラン等を挙げることができる。
上記テトラアルコキシシランのオリゴマーとしては、例えば、テトラメトキシシランのオリゴマー、テトラエトキシシランのオリゴマー等、上述したテトラアルコキシシランのオリゴマーであり、平均重合度が1~10のものが挙げることができる。
なかでも、加水分解速度が大きく、また、加水分解によって発生するアルコールの乾燥性が良好である観点から、テトラエトキシシランが好ましい。
【0023】
上記テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランのオリゴマーを加水分解する方法としては、酸触媒又はアルカリ触媒と、アルコール又は水等を用い、加熱をする等の方法を用いることができるが、加水分解を制御しやすいことから酸触媒を用いることが好ましい。
【0024】
上記酸触媒としては、特に限定されないが、比較的酸性度が高く、揮発性を有する酸が好ましい。具体的には、スルホン酸及び塩酸が好ましく、塩酸がより好ましい。
なお、加水分解をする際には、一般的に知られている触媒、例えば、塩化錫やアセチルアセトナート等を更に添加してもよい。
【0025】
(エチレン鎖を有する高極性樹脂とテトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率)
本発明のバリア性コーティング組成物において、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率(エチレン鎖を有する高極性樹脂の質量/テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物の質量)は、55/45~25/75である。
上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物との質量比率(エチレン鎖を有する高極性樹脂の質量/テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物の質量)は、50/50~30/70であることが好ましく、45/55~35/65であることがより好ましい。
【0026】
(溶剤)
本発明のバリア性コーティング組成物は、溶媒を含有する。
上記溶媒としては、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂及び上記テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物を溶解し得るものであれば、水性及び非水性のどちらの溶剤でも使用できる。
【0027】
上記溶媒としては、水と炭素数1~3の低級アルコールとの混合溶剤を用いることが好ましい。
具体的には、水と、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール等の炭素数1~3の低級アルコールの少なくとも1種を15~70質量%含む混合溶剤等が挙げられる。
上記混合溶媒は、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂を好適に溶解することができ、かつ、上記テトラアルコキシシランの加水分解物及びテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物が化学的に安定であることから好ましい。また、上記混合溶媒は、テトラアルコキシシラン又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解に用いる溶媒として用いることもできる。
【0028】
(その他)
上記バリア性コーティング組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等を1種又は2種以上加えることができる。
【0029】
(バリア性コーティング組成物の製造方法)
本発明のバリア性コーティング組成物の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
例えば、テトラアルコキシシラン(及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマー)に加水分解用の溶媒及び酸触媒を加え、加熱撹拌することによってテトラアルコキシシランの加水分解物(及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物)を含む溶液を作製する。その一方で、溶媒にエチレン鎖を有する高極性樹脂を溶解させた溶液に、上記テトラアルコキシシランの加水分解物(及び/又はテトラアルコキシシランオリゴマーの加水分解物)の溶液を添加し、攪拌装置や分散装置を利用して各成分を混合する方法等を挙げることができる。
【0030】
上記攪拌装置や分散装置としては、通常の撹拌装置や分散装置であれば特に限定されず、これらを用いて分散液中で各成分を均一に混合することができ、例えば、スリーワンモータ(新東科学社製)等が挙げられる。
【0031】
<バリア性複合フィルム>
本発明のバリア性複合フィルムは、少なくとも、ベースフィルム層、バリア層、及び、ヒートシール材層をこの順番に有し、上記バリア層は、本発明のバリア性コーティング組成物から得られることを特徴とする。
【0032】
(ベースフィルム層)
本発明のバリア性複合フィルムは、ベースフィルム層を有する。
上記ベースフィルム層としては、例えば、従来から軟包装で使用されているポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエステル、ナイロン、ポリスチレン等からなる各種プラスチックフィルム、及び、これらの2種以上からなる複合フィルムを挙げられる。
上記ベースフィルム層は、金属蒸着処理、コロナ放電処理、又は表面コート処理されていることが好ましい。
【0033】
上記ベースフィルム層の厚みは特に限定されないが、0.5~1000μmが好ましく、1~500μmがより好ましく、1~100μm更に好ましく、1~50μmが特に好ましい。
【0034】
上記金属蒸着処理は、無機酸化物を真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(PVD法・CVD法)等の真空プロセスにより行うことができる。
上記無機酸化物としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、スズ、鉄、マンガン等の金属、これらの金属の1種以上を含む無機化合物等の酸化物が挙げられる。
【0035】
上記金属蒸着処理により形成される蒸着層の厚みは特に限定されないが、0.1~500nmが好ましく、0.5~40nmがより好ましい。
【0036】
(バリア層)
本発明のバリア性複合フィルムは、バリア層を有し、上記バリア層は、本発明のバリア性コーティング組成物から得られる。
【0037】
上記バリア層の厚みは、特に限定されないが、0.01~5μmが好ましく、0.1~2μmがより好ましい。
上記バリア層が0.01μmより薄くなると、高いガスバリア性を得ることが困難となることがあり、5μmを超えても顕著なガスバリア性の向上が見られないことがある。
【0038】
(ヒートシール材層)
本発明のバリア性複合フィルムは、ヒートシール材層を有する。
上記ヒートシール材層としては、従来から軟包装で使用されている熱融着性のシート材料であり、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
上記ヒートシール材層は、低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンポリマー等の熱溶融ポリマーを溶融状態で積層して、冷却によりフィルム状に成形したものであってもよい。この場合、ヒートシール材層に接着剤層を先に設けることができないため、バリア層側に接着剤層を設けた後、接着剤層に溶融状態で上記熱溶融ポリマーを積層する方法が用いられる。
【0039】
上記ヒートシール材層の厚みは特に限定されないが、0.5~1000μmが好ましく、1~500μmがより好ましい。
【0040】
(印刷層)
本発明のバリア性複合フィルムは、ベースフィルム層と、ヒートシール材層との間に印刷層を更に有することが好ましい。
上記印刷層としては、従来から軟包装で使用されている有機溶剤型印刷インキ組成物、水性印刷インキ組成物等を、通常、グラビア印刷方式やフレキソ印刷方式にて印刷することにより形成することができる。
【0041】
上記有機溶剤型印刷インキ組成物としては、例えば、顔料とポリウレタン樹脂とを含む芳香族・非芳香族混合系有機溶剤性印刷インキ組成物の他、特開平01-261476号公報(顔料、ポリウレタン樹脂、塩素化ポリプロピレンを含む芳香族・非芳香族混合系有機溶剤性印刷インキ組成物)、特公平07-113098号公報(顔料、ポリウレタン樹脂を含む非芳香族系有機溶剤性印刷インキ組成物)、特開平07-324179号公報(顔料、ポリウレタン樹脂、非芳香族系・非ケトン系有機溶剤性印刷インキ組成物)等で開示された有機溶剤性印刷インキ組成物等が挙げられる。
【0042】
また、上記水性印刷インキ組成物としては、例えば、特開平06-155694号公報(顔料、アクリル系バインダー樹脂、ヒドラジン系架橋剤を含む水性印刷インキ組成物)、特開平06-206972号公報(顔料、水、ポリウレタン系バインダー樹脂を含む水性印刷インキ組成物)等で開示された水性印刷インキ組成物等が挙げられる。
【0043】
なお、最近では、環境対応インキとして、水性タイプの印刷インキ組成物や、有機溶剤系印刷インキ組成物であっても芳香族及びケトン系有機溶剤を極力使用しないタイプのものが使用されており、本発明でもこれらを好適に用いることができる。
【0044】
(接着剤層)
本発明のバリア性複合フィルムには、各層の間に接着剤層を有してもよい。
上記接着剤層としては、従来から包装用複合ラミネートフィルムの製造に用いられている接着剤組成物を適宜選択し、各種塗工手段を用いて形成することができる。
【0045】
上記接着剤層の膜厚(乾燥後)は、例えば0.1~5μmである。
【0046】
(その他)
本発明のバリア性複合フィルムでは、必要に応じて他の機能層、例えば、紫外線遮蔽層、抗菌層等を有していてもよい。
これらは公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0047】
(バリア性複合フィルムの製造方法)
本発明のバリア性複合フィルムを製造する方法としては、例えば、以下の(a)~(d)の方法等が挙げられる。
最も基本的な構成として、
(a)ベースフィルム層(ベースフィルム層には複合フィルムも含まれる)に、上記バリア性コーティング組成物、接着剤層を順次塗工した後、ヒートシール材層を積層することによりバリア性複合フィルムを得る方法、
(b)ベースフィルム層(ベースフィルム層には複合フィルムも含まれる)に、接着剤層、バリア性コーティング組成物、接着剤層を順次塗工した後、ヒートシール材層を積層することによりバリア性複合フィルムを得る方法、
(c)ベースフィルム層(ベースフィルム層には複合フィルムも含まれる)に、先にインキ組成物を印刷して印刷層を形成した後、接着剤層、バリア性コーティング組成物、接着剤層を順次塗工した後、ヒートシール材層を積層することによりバリア性複合フィルムを得る方法、
(d)ベースフィルム層(ベースフィルム層には複合フィルムも含まれる)に、接着剤層、バリア性コーティング組成物、接着剤層を順次塗工した後、インキ組成物を印刷して印刷層を形成し、更にヒートシール材層を積層することによりバリア性複合フィルムを得る方法、等である。
【0048】
上記接着剤層及びバリア性コーティング組成物の塗工方法については、通常のグラビアシリンダー等を用いたロールコーティング法、ドクターナイフ法やエアーナイフ・ノズルコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法及びこれらの方法を組み合わせたコーティング法等を用いることができる。
また、上記印刷層を形成するには、通常のグラビア印刷方式やフレキソ印刷方式が使用できる。
【0049】
他の機能層を設ける場合も、それぞれの機能層を設けるための良好な手段と、上記(a)~(d)の方法を組み合わせて、目的にあったバリア性複合フィルムを製造することができる。
【0050】
以上の製造方法から得られたバリア性複合フィルムは、ヒートシーラー等を用いて、中折りして2辺を溶封するか又は2枚のバリア性複合フィルムを重ねて三辺を溶封して先に袋状とした後、内容物を詰め、残りの一辺を溶封して、密封された包装袋として利用することができる。そして、得られた包装袋は、食品や医療品の包装袋として利用できる。
【発明の効果】
【0051】
本発明は、上述した構成からなるので、優れたガスバリア性、ラミネート適性、及び、ボイル適性を有するバリア性コーティング組成物、及び、その組成物から得られるバリア層を中間層として含むバリア性複合フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0053】
バリア性コーティング組成物の作製に用いた材料は以下の通りである。
<エチレン鎖を有する高極性樹脂>
RS-2117(商品名:エクセバールRS-2117、平均重合度1700、ケン化度97.5-99.0、エチレン比率3.0mol%、クラレ社製)
<エチレン鎖を有さない高極性樹脂>
PVA-105(商品名:クラレポバールPVA-105、平均重合度500、ケン化度98.0-99.0、クラレ社製)
<テトラアルコキシシラン>
TEOS(テトラエトキシシラン、商品名:高純度正珪酸エチル、多摩化学工業社製)
<トリアルコキシシラン>
メチルトリメトキシシラン(KBM-13、信越化学社製)
<スルホン酸塩含有ポリマー>
CKS-50(商品名:ゴーセネックスL CKS-50、スルホン酸ナトリウム塩含有ポリビニルアルコール、ケン化度>99%、日本合成化学社製)
<溶媒>
イオン交換水
エタノール
【0054】
<RS-2117水溶液の調製>
精製水90質量部にエクセバールRS-2117を10質量部加え、95℃で約2時間撹拌し、RS-2117水溶液(固形分10%)を調製した。
【0055】
<PVA-105水溶液の調製>
精製水90質量部にクラレポバールPVA-105を10質量部加え、95℃で約2時間撹拌し、PVA-105水溶液(固形分10%)を調製した。
【0056】
<スルホン酸変性ポリビニルアルコール(PVA)水溶液の調製>
精製水85質量部にCKS-50の15質量部を加え、90℃で1時間撹拌して、CKS-50水溶液(固形分15%)を得た。これを室温でMonosphere 650C(カチオン交換樹脂、ダウ・ケミカル社製)の10質量部に送液し、脱塩CKS-50水溶液(固形分15%)を調製した。
【0057】
<テトラエトキシシラン加水分解物水溶液(触媒:塩酸)の調製>
TEOS43.3質量部にエタノール20.6質量部を加え撹拌し、そこにイオン交換水35.1質量部及び1規定塩酸1.0質量部を加え、50℃で1時間加熱して、TEOS加水分解物水溶液(固形分12.5%)を調製した。
【0058】
<テトラエトキシシラン加水分解物水溶液(触媒:スルホン酸変性PVA)の調製>
TEOS43.3質量部にエタノール18.6質量部を加え撹拌し、そこにイオン交換水24.8質量部及び脱塩CKS-50水溶液13.3質量部を加え、50℃で1時間加熱して、TEOS加水分解物水溶液(TEOS由来の固形分12.5%)を得た。
【0059】
<メチルトリメトキシシラン加水分解物水溶液(触媒:塩酸)の調製>
メチルトリメトキシシラン25.4質量部にエタノール38.5質量部を加え撹拌し、そこにイオン交換水35.1質量部及び1規定塩酸1.0質量部を加え、50℃で1時間加熱して、メチルトリメトキシシラン加水分解物水溶液(固形分12.5%)を調製した。
【0060】
<実施例1>
RS-2117水溶液(固形分10%)22.4質量部、イオン交換水30.7質量部、TEOS加水分解物水溶液(触媒:塩酸)26.9質量部、エタノール20.0質量部を撹拌混合し、室温で10分撹拌して、実施例1のバリア性コーティング組成物を作製した。
実施例1のバリア性コーティング組成物では、エチレン鎖を有する高極性樹脂と、テトラエトキシラン加水分解物との質量比率(樹脂成分/TEOS加水分解物)が40/60であった。
【0061】
<実施例2~4、及び、比較例1~5>
表1の配合に従い、実施例1と同様の操作によって、実施例2、及び、比較例1~3のバリア性コーティング組成物を作製した。
また、実施例2~4、及び、比較例1~5のバリア性コーティング組成物における樹脂成分(エチレン鎖を有する高極性樹脂又はエチレン鎖を有さない高極性樹脂)と、テトラエトキシラン加水分解物又はメチルトリメトキシシランの加水分解物との質量比率(樹脂成分/加水分解物)を求め、表1に示した。
【0062】
<バリア性複合フィルム(ラミネート強度、シール強度試験用)の作製>
ナイロンフィルム(ベースフィルム層、N-1102、東洋紡社製)上に実施例1~4、及び比較例1~5のバリア性コーティング組成物をNo.6メイヤーバーを用いて塗工し、ドライヤーで乾燥後、60℃で12時間保持した。
得られたバリア層の上に、ポリエーテル系接着剤組成物(A-969V、三井化学ポリウレタン社製)及び硬化剤(A-5、三井化学ポリウレタン社製)を用いてシーラントフィルム(ヒートシール材層、LS-711C、出光ユニテック社製)を積層し、40℃で12時間保持して実施例1~4、及び、比較例1~5のバリア性複合フィルム(ラミネート強度、シール強度試験用)を作製した。
【0063】
<バリア性複合フィルム(酸素透過率試験用)の作製>
ポリプロピレンフィルムフィルム(P-2161、東洋紡社製)上に実施例1~4、及び比較例1~5のバリア性コーティング組成物を、メイヤーバーを用いて塗工し、ドライヤーで乾燥後、60℃で12時間保持して実施例1~4、及び、比較例1~5のバリア性複合フィルム(酸素透過率試験用)を作製した。
【0064】
〔評価〕
【0065】
(ラミネート強度)
(1)通常条件
実施例1~4、及び、比較例1~5の各バリア性複合フィルム(ラミネート強度、シール強度試験用)を15mm幅に切断し、T型剥離強度を、剥離試験機(安田精機社製)を用いて、剥離速度300mm/minにてラミネート強度を測定した。結果を表1に示す。
(2)水付け条件
実施例1~4、及び、比較例1~5の各バリア性複合フィルム(ラミネート強度、シール強度試験用)を15mm幅に切断した各試料片の剥離面に水を付けた脱脂綿を当てながら、T型剥離強度を、剥離試験機(安田精機社製)を用いて、剥離速度300mm/minにて測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(シール強度)
実施例1~4、及び、比較例1~5の各バリア性複合フィルム(ラミネート強度、シール強度試験用)を、インパルスシーラー(富士インパルスシーラ社製)を用いて製袋し、シール強度を、剥離試験機(安田精機社製)を用いて剥離速度300mm/minにて測定した。結果を表1に示す。
なお、表1のシール強度評価欄において「△」とは、三角剥離が発生した、すなわちフィルムが破断せず、シーラントフィルムがナイロンフィルムから持ち上がるように、三角形状に剥離したことを示す。
【0067】
(酸素透過率)
実施例1~4、及び、比較例1~5の各バリア性複合フィルム(酸素透過率試験用)を25℃、90%RHの雰囲気下に72時間放置後、JIS K7126 B法に準じて、酸素透過率測定装置(Mocon社製、OX-TRAN1/50)を用いて酸素透過率(OTR値)を測定した。
なお、測定は、25℃において、90%RHの雰囲気下で行った。結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
エチレン鎖を有する高極性樹脂、テトラアルコキシシランの加水分解物、及び、溶媒を含有し、上記エチレン鎖を有する高極性樹脂と、上記テトラアルコキシシラン加水分解物との質量比率が所定の範囲である実施例のバリア性コーティング組成物を用いたバリア性複合フィルムでは、通常条件及び水付け条件においてラミネート強度に優れ、かつ、シール強度、ガスバリア性にも優れることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のバリア性コーティング組成物及びバリア性複合フィルムは、食品包装用途で利用される包装袋や、医療品の包装袋等に好適に適用できる。