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特開2022-111692リチウムイオン電池の良否推定方法、リチウムイオン電池の良否推定装置及びコンピュータプログラム
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  • 特開-リチウムイオン電池の良否推定方法、リチウムイオン電池の良否推定装置及びコンピュータプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022111692
(43)【公開日】2022-08-01
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の良否推定方法、リチウムイオン電池の良否推定装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20220725BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220725BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021007290
(22)【出願日】2021-01-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江守 悠祐
(72)【発明者】
【氏名】植村 友一朗
(72)【発明者】
【氏名】川崎 洋志
(72)【発明者】
【氏名】堀江 英明
【テーマコード(参考)】
2G216
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA44
2G216BB21
2G216CA07
2G216CA11
2G216CB11
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
(57)【要約】
【課題】単電池としてのリチウムイオン電池の良否推定精度を向上させることが可能な、リチウムイオン電池の良否推定方法を提供すること。
【解決手段】リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程と、良否推定対象のリチウムイオン電池に対して充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を、学習済みの上記人工知能モデルに対して評価指標として入力する工程と、学習済みの上記人工知能モデルに、リチウムイオン電池の良否推定結果を出力させる工程と、を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池の良否推定方法。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程と、
良否推定対象のリチウムイオン電池に対して充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を、学習済みの前記人工知能モデルに対して評価指標として入力する工程と、
学習済みの前記人工知能モデルに、リチウムイオン電池の良否推定結果を出力させる工程と、を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池の良否推定方法。
【請求項2】
充放電試験終了後に電圧推移が測定される前記休止期間が10時間以上、19時間未満である請求項1に記載のリチウムイオン電池の良否推定方法。
【請求項3】
リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験において得られる下記評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを教師データの入力としてさらに使用して人工知能モデルに学習させ、
良否推定対象のリチウムイオン電池について、上記教師データの入力として使用した評価指標を測定して、学習済みの前記人工知能モデルにさらに入力する請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池の良否推定方法。
(A)充放電試験における充電後に放電を行うことなく所定期間休止させた期間である充電後休止期間中に測定された開回路電圧推移
(B)充放電試験により得られた実容量の設計容量に対する比率(実容量/設計容量)
(C)クーロン効率
【請求項4】
前記(A)の評価指標を使用する場合に、前記充電後休止期間が100秒~1時間である請求項3に記載のリチウムイオン電池の良否推定方法。
【請求項5】
リチウムイオン電池作製時における正極及び負極の活物質重量と正極活物質及び負極活物質の理論容量とから求められるACバランスを教師データの入力としてさらに使用して人工知能モデルに学習させ、
良否推定対象のリチウムイオン電池について設計時に定められたACバランスを学習済みの前記人工知能モデルにさらに入力する請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン電池の良否推定方法。
【請求項6】
リチウムイオン電池が、リチウムイオン電池用活物質粒子が被覆材で被覆された被覆活物質を含み、被覆活物質の非結着体からなる電極活物質層を備える請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン電池の良否推定方法。
【請求項7】
リチウムイオン電池の良否を推定する推定装置であって、
リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを用いて、リチウムイオン電池の前記評価指標と前記良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルを備え、
良否推定対象のリチウムイオン電池について充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移が評価指標として入力される入力部と、
前記入力部に入力された評価指標を前記学習済みの人工知能モデルへ入力してリチウムイオン電池の良否を推定する推定部と、
前記推定部により推定されたリチウムイオン電池の良否推定結果を出力する出力部と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池の良否推定装置。
【請求項8】
前記充放電試験終了後の前記休止期間が10時間以上、19時間未満である請求項7に記載の良否推定装置。
【請求項9】
リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験において得られる下記評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを教師データの入力としてさらに使用した教師データを用いて、リチウムイオン電池の前記評価指標と前記良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルを備え、
前記入力部が、良否推定対象のリチウムイオン電池について測定された、上記教師データの入力として使用した評価指標がさらに入力される入力部である請求項7又は8に記載の良否推定装置。
(A)充放電試験における充電後に放電を行うことなく所定期間休止させた期間である充電後休止期間中に測定された開回路電圧推移
(B)充放電試験により得られた実容量の設計容量に対する比率(実容量/設計容量)
(C)クーロン効率
【請求項10】
前記(A)の評価指標を使用する場合に、前記充電後休止期間が100秒~1時間である請求項9に記載の良否推定装置。
【請求項11】
リチウムイオン電池の評価指標として、リチウムイオン電池作製時における正極及び負極の活物質重量と正極活物質及び負極活物質の理論容量とから求められるACバランスを教師データの入力としてさらに使用した教師データを用いて、リチウムイオン電池の前記評価指標と前記良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルを備え、
前記入力部が、良否推定対象のリチウムイオン電池について設計時に定められたACバランスが入力される入力部である請求項7~10のいずれかに記載の良否推定装置。
【請求項12】
コンピュータに、
リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを用いて、リチウムイオン電池の充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移と良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルへ、良否推定対象のリチウムイオン電池から新たに取得した充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を評価指標として入力し、
前記学習済みの人工知能モデルからリチウムイオン電池の良否に係る推定結果を取得する処理を実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項13】
前記充放電試験終了後の前記休止期間が10時間以上、19時間未満である請求項12に記載のプログラム。
【請求項14】
リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験において得られる下記評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを教師データの入力としてさらに使用した学習済みの人工知能モデルへ、良否推定対象のリチウムイオン電池について新たに測定した、上記教師データの入力として使用した評価指標をさらに入力して、
前記学習済みの人工知能モデルからリチウムイオン電池の良否に係る推定結果を取得する処理を実行させる請求項12又は13に記載のプログラム。
(A)充放電試験における充電後に放電を行うことなく所定期間休止させた期間である充放電後休止期間中に測定された開回路電圧推移
(B)充放電試験により得られた実容量の設計容量に対する比率(実容量/設計容量)
(C)クーロン効率
【請求項15】
前記(A)の評価指標を使用する場合に、前記充放電後休止期間が100秒~1時間である請求項14に記載のプログラム。
【請求項16】
リチウムイオン電池の評価指標として、リチウムイオン電池作製時における正極及び負極の活物質重量と正極活物質及び負極活物質の理論容量とから求められるACバランスを教師データの入力としてさらに使用した学習済みの人工知能モデルへ、良否推定対象のリチウムイオン電池について設計時に定められたACバランスをさらに入力して、
前記学習済みの人工知能モデルからリチウムイオン電池の良否に係る推定結果を取得する処理を実行させる請求項12~15のいずれかに記載のプログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の良否推定方法、リチウムイオン電池の良否推定装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車及びハイブリッド電気自動車等の電源又は携帯型電子機器の電源としてリチウムイオン電池等の単電池を複数個積層した組電池が用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/119075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
組電池は単電池を組み合わせて製造される。組電池を構成する単電池に特性不良のものがあると組電池全体が不良品となるため、単電池の段階での良品、不良品の推定(以下、良否推定という)が行われている。
【0005】
本発明者らは、単電池に対して充放電試験を行い、その結果を基にして単電池の良否の推定を行っていた。具体的には、所定の充放電試験を行い、充放電試験終了後、19時間休止させてその休止期間(19時間)における電圧の推移を評価指標として、電圧変化が減少に転じていなければ良品とするという手法での推定を行っていた。
【0006】
この方法で良否推定した単電池について、実際に良品であるか、不良品であるかを判定してその結果を比べてみると、不良品である単電池を良品と推定する場合があり、良品についての推定の精度が低いという問題があることがわかった。
そのため、単電池の良否推定精度を向上させることが望まれていた。
また、上記の方法では充放電試験終了後の休止期間が長いことから、充放電試験終了後の電圧の推移が測定される期間である休止期間を短くすることも望まれていた。
【0007】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、単電池としてのリチウムイオン電池の良否推定精度を向上させることが可能な、リチウムイオン電池の良否推定方法を提供することを目的とする。
また、上記良否推定方法に使用可能なリチウムイオン電池の良否推定装置及びコンピュータプログラムを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程と、良否推定対象のリチウムイオン電池に対して充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を、学習済みの上記人工知能モデルに対して評価指標として入力する工程と、学習済みの上記人工知能モデルに、リチウムイオン電池の良否推定結果を出力させる工程と、を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池の良否推定方法;リチウムイオン電池の良否を推定する推定装置であって、リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを用いて、リチウムイオン電池の上記評価指標と上記良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルを備え、良否推定対象のリチウムイオン電池について充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移が評価指標として入力される入力部と、上記入力部に入力された評価指標を上記学習済みの人工知能モデルへ入力してリチウムイオン電池の良否を推定する推定部と、上記推定部により推定されたリチウムイオン電池の良否推定結果を出力する出力部と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池の良否推定装置;コンピュータに、リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを用いて、リチウムイオン電池の充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移と良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルへ、良否推定対象のリチウムイオン電池から新たに取得した充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を評価指標として入力し、上記学習済みの人工知能モデルからリチウムイオン電池の良否に係る推定結果を取得する処理を実行させるためのコンピュータプログラムに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、単電池としてのリチウムイオン電池の良否推定精度を向上させることが可能な、リチウムイオン電池の良否推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、人工知能モデルの構成例を示す模式図である。
図2図2は、リチウムイオン電池の良否推定装置の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、リチウムイオン電池と記載する場合、リチウムイオン二次電池も含む概念とする。
【0012】
はじめに、本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法の実施形態の例について説明する。その後、この良否推定方法に使用することのできる本発明のリチウムイオン電池の良否推定装置及びコンピュータプログラムの実施形態の例について説明する。
なお、本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法によりその良否を推定する対象であるリチウムイオン電池の好ましい構成については後述する。
【0013】
本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法では、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移(以下、充放電試験終了後電圧推移ともいう)を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを人工知能モデルに入力し、人工知能モデルに学習させる工程を行う。
【0014】
教師データを得るためには、リチウムイオン電池の充放電試験を行い、充放電試験終了後の休止期間中に測定された充放電試験終了後電圧推移を得る。別途、そのリチウムイオン電池の良否判定を行う。所定数のリチウムイオン電池についての、充放電試験後電圧推移と良否判定結果の組み合わせを教師データとして使用する。
【0015】
充放電試験の条件は特に限定されるものではなく、充放電試験の対象となるリチウムイオン電池の仕様に応じて決定することができる。
リチウムイオン電池の良否推定の精度を高める観点から、充電及び放電の繰り返し回数は多い方が好ましい。
充放電試験における充放電試験の開始から終了までの時間が短いと、リチウムイオン電池の良否推定に要する時間が短くなるので好ましい。例えば1~2.5日程度とすることができる。
充放電試験はCC-CV充放電試験(定電流定電圧充放電試験)、CC充放電試験(定電流充放電試験)、CP充放電試験(定電力充放電試験)等の方法とすることができ、その方式は特に限定されない。また、電流値、上限電位及び下限電位も特に限定されない。
【0016】
充放電試験の条件は、例えば、以下のようにすることができる。
(1)電流0.05C、上限電位4.2VでCC充電
(2)1時間の休止
(3)電流0.1C、上限電位4.2VでCC-CV充電
(4)1時間の休止
(5)電流0.33C、下限電位2.5VでCC放電
(6)1時間の休止
(7)電流0.1C、下限電位2.5VでCC放電
(8)1時間の休止
(9)電流0.05C、下限電位2.5VでCC放電
(10)1時間の休止
(11)電流0.01C、下限電位2.5VでCC放電
(12)所定期間の休止及び休止期間中の電圧の測定
【0017】
充放電試験終了後、所定期間の休止を行う休止期間において、リチウムイオン電池の正負極間の電圧推移が測定される。上記例の手順(12)の休止を行う所定期間が、充放電試験終了後の休止期間に相当する。
充放電試験終了後に電圧推移が測定される休止期間を短くすることができると、リチウムイオン電池の良否推定に要する時間が短くなるので好ましい。
一方、上記休止期間が短すぎるとリチウムイオン電池の良否推定の結果が安定しない。このような観点から、上記休止期間は10時間以上、19時間未満であることが好ましい。
上記休止期間が19時間未満であると、リチウムイオン電池の良否推定に要する時間を短くすることができる。
【0018】
教師データを得るための、リチウムイオン電池の良否判定は、充放電試験終了時点から2週間経過したタイミングで電圧を測定することにより行う。充放電試験終了後、19時間の休止期間が終了した時点の電圧と、充放電試験終了時点から2週間経過した後の電圧を比較して、充放電試験終了時点から2週間経過した後の電圧が同じか大きいものを良品、充放電試験終了時点から2週間経過した後の電圧が小さいものを不良品と判定する。
【0019】
上記のようにして、所定数のリチウムイオン電池についての、充放電試験後電圧推移と良否判定結果の組み合わせを教師データとして得る。
【0020】
また、充放電試験後電圧推移に加えて、リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験において得られる下記評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを教師データの入力として使用することも好ましい。
(A)充放電試験における充電後に放電を行うことなく所定期間休止させた期間である充電後休止期間中に測定された開回路電圧推移
(B)充放電試験により得られた実容量の設計容量に対する比率(実容量/設計容量)
(C)クーロン効率
このような評価指標をさらに使用することにより、リチウムイオン電池の良否推定の精度を高めることができる。
【0021】
(A)の開回路電圧推移は、上記に(1)~(12)で示す具体的な充放電試験の条件において、手順(4)の1時間の充電後休止期間中、電流を流していない状態で測定された電圧の推移に相当する。
手順(4)で示す1時間の充電後休止期間は例示に過ぎず、充電後休止期間は1時間に限定されるものではなく、(A)の開回路電圧推移の測定において、充電後休止期間は、100秒~1時間の範囲で適宜決定することが好ましい。
【0022】
(B)における、充放電試験により得られた実容量は、放電過程で流れた電荷(Ah)である。また、(B)における設計容量は、リチウムイオン電池の作製時における、正極及び負極それぞれの活物質重量とその理論容量から求めることができる。
【0023】
(C)のクーロン効率は、充放電試験において「放電過程で流れた電荷」を「充電過程で流れた電荷」で割った値である。
【0024】
また、リチウムイオン電池作製時における正極及び負極の活物質重量と正極活物質及び負極活物質の理論容量とから求められるACバランスを教師データの入力としてさらに使用してもよい。
ACバランスは、負極容量/正極容量で表わされる、負極容量と正極容量の比である。負極容量が正極容量に比べて大きい場合、ACバランスの値は1より大きくなる。
【0025】
ここまでに説明した、充放電試験後電圧推移を含むリチウムイオン電池の評価指標を入力とし、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを人工知能モデルに入力する。
人工知能モデルは、深層学習を含む機械学習の学習モデルであり、例えばニューラルネットワークにより構成されている。
【0026】
図1は、人工知能モデルの構成例を示す模式図である。
人工知能モデル100は、深層学習を含む機械学習の学習モデルであり、例えばニューラルネットワークにより構成されている。
人工知能モデル100は、入力層110、中間層120及び出力層130を備える。
図1の例では中間層120を2つ記載しているが、中間層120の数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。
入力層110及び中間層120には、1つ又は複数のノードが存在し、出力層130には1つのノードが存在する。出力層130のノード数は1つに限定されるものではなく、出力層で出力する良否判定結果の出力形式によって、出力層に2つ以上のノードが設けられていてもよい。
各層のノードは前後の層に存在するノードと所望の重み及びバイアスで結合されている。
【0027】
入力層に入力される、充放電試験後電圧推移を含むリチウムイオン電池の評価指標の値は、入力層に入力される前に所定の規格化処理を施されたうえで、入力層に入力されてもよい。
入力層110の各ノードに与えられた評価指標には、重みが乗算され、さらにバイアスが加算された上で中間層120に伝達される。中間層120において、送られてきた信号が活性化関数を用いて変換され、次の中間層120に伝達される。このような伝達を繰り返し、最後の中間層120において算出された出力が出力層130に伝達される。
ノード間の重み及びバイアス等の各種パラメータは、所定の学習アルゴリズムによって学習される。
【0028】
所定数の充放電試験後電圧推移を含むリチウムイオン電池の評価指標を入力とし、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを人工知能モデルに入力して学習済みモデルを構築した後、機械学習を行うことによってさらにニューラルネットワークを訓練することができる。
例えば、バックプロパゲーションによる機械学習を行うことができる。
リチウムイオン電池の良否推定結果と、リチウムイオン電池の良否判定結果を比較することで、リチウムイオン電池の良否推定の正誤が判定され、その正誤が教師信号としてフィードバックされる。例えば、あるリチウムイオン電池の評価指標から、そのリチウムイオン電池は良品と推定されたとする。そのリチウムイオン電池が実際に良品であった場合、推定が正解であることを示す教師信号がフィードバックされる。一方、そのリチウムイオン電池が実際には不良品であった場合、推定が誤りであったことを示す教師信号がフィードバックされる。
多数のリチウムイオン電池の良否推定結果に基づく教師信号に応じて、中間層から出力層の間の重み及びバイアスが調整され、中間層の間の重み及びバイアスが調整され、入力層と中間層の間の重み及びバイアスが調整される。
調整後のニューラルネットワークを用いて、再度リチウムイオン電池の良否推定結果と、リチウムイオン電池の良否判定結果を比較し、その結果に基づいて各層の間の重み及びバイアスが再調整される。
このように、多数のリチウムイオン電池の良否推定結果及び良否判定結果を用いた調整を繰り返すことによって、ニューラルネットワークによるリチウムイオン電池の良否推定精度を高めていく。良否推定精度が所定の精度より高くなったり、それ以上良否推定精度が高まらない状態になった際に、機械学習を終了させる。
【0029】
得られた学習済みの人工知能モデルは、コンピュータプログラムとしてリチウムイオン電池の良否推定装置の記憶部に記憶させることができる。また、当該コンピュータプログラムはCD-ROM、DVD-ROM、HDD等の記憶媒体に記憶されていてもよい。
【0030】
本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法では、良否推定対象のリチウムイオン電池に対して充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を、学習済みの人工知能モデルに対して評価指標として入力する。そして、学習済みの人工知能モデルに、リチウムイオン電池の良否推定結果を出力させる。
評価指標の入力は、リチウムイオン電池の良否推定装置の入力部から行えばよい。
【0031】
人工知能モデルに対して入力する評価指標は、少なくとも充放電試験終了後電圧推移を含む。
充放電試験の条件、及び、充放電試験終了後に電圧推移が測定される休止期間は、人工知能モデルを得るために使用した教師データと同じ条件及び時間とすることが好ましい。
また、充放電試験終了後の休止期間が10時間以上、19時間未満であることが好ましい。
【0032】
充放電試験終了後電圧推移の他に使用する評価指標としては、上述した評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを使用することができる。また、評価指標として上述したACバランスを使用することができる。人工知能モデルを得るために使用した教師データと同じ評価指標を評価指標として使用することが好ましい。
ACバランスを評価指標として使用する場合、良否推定対象のリチウムイオン電池についてACバランスを実測することはできないため、良否推定対象のリチウムイオン電池について設計時に定められたACバランスを使用する。
リチウムイオン電池の良否推定結果の出力形式としては、良品、不良品という2段階での出力であってもよく、良品、不良品、良否不明という3段階の出力であってもよい。また、良品率90%、不良品率10%のように百分率での出力としてもよい。
上記手順により、リチウムイオン電池の良否推定を精度よく行うことができる。
【0033】
続いて、本発明のリチウムイオン電池の良否推定装置について説明する。
図2は、リチウムイオン電池の良否推定装置の構成例を示すブロック図である。
リチウムイオン電池の良否推定装置1は、汎用又は専用のコンピュータにより構成されており、入力部10、制御部20、記憶部30、出力部40、通信部50、及び、操作部60を備える。
【0034】
入力部10は、電池特性測定装置70と接続される入力インターフェースを備える。入力部10と電池特性測定装置70との間の接続は有線であってもよく、無線であってもよい。
入力部10には、電池特性測定装置70で測定された評価指標が入力される。
電池特性測定装置70では、良否推定対象のリチウムイオン電池について充放電試験終了後電圧推移を測定し、評価指標として出力する。そのため、入力部10には、良否推定対象のリチウムイオン電池について休止期間中に測定された充放電試験終了後電圧推移が評価指標として入力される。
充放電試験終了後の休止期間が10時間以上、19時間未満であることが好ましい。
【0035】
また、電池特性測定装置70では、充放電試験終了後電圧推移以外の特性を測定して、評価指標として出力してもよい。そして、充放電試験終了後電圧推移以外の特性が評価指標として入力部にさらに入力されてもよい。
充放電試験終了後電圧推移以外の評価指標としては、上述した評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを使用することができる。また、評価指標として上述したACバランスを使用することができる。人工知能モデルを得るために使用した教師データと同じ評価指標を評価指標として使用することが好ましい。
(A)の評価指標を使用する場合、充放電試験における充電後に放電を行うことなく所定期間休止させた期間である充電後休止期間が100秒~1時間であることが好ましい。
ACバランスを評価指標として使用する場合、良否推定対象のリチウムイオン電池についてACバランスを実測することはできないため、良否推定対象のリチウムイオン電池について設計時に定められたACバランスを使用する。
【0036】
制御部20は、例えば、CPU(中央演算処理装置)、ROM(読み出し専用メモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)等を備える。制御部20が備えるROMには、リチウムイオン電池の良否推定装置1が備えるハードウエア各部の動作を制御するためのコンピュータプログラム等が記憶される。制御部20内のCPUは、ROM又は記憶部30に記憶されたコンピュータプログラムを実行し、ハードウエア各部の動作を制御することによって、リチウムイオン電池の良否を推定する処理を実現する。制御部20が備えるRAMには、演算の実行中に利用されるデータが一時的に記憶される。
制御部20の構成は、上記構成に限定されるものではなく、その他の揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える1又は複数の演算回路であってもよい。
【0037】
記憶部30に記憶されるコンピュータプログラムは、電池特性測定装置70で測定された評価指標としての充放電試験終了後電圧推移を入力とし、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データとして人工知能モデルに学習させた学習済みの人工知能モデル100を用いて、リチウムイオン電池の良否推定結果を推定する処理をリチウムイオン電池の良否推定装置1に実行させるための推定処理プログラムを含む。この推定処理プログラムを制御部20が実行することによって、リチウムイオン電池の良否推定装置1を本発明のリチウムイオン電池の良否推定装置として機能させる。
リチウムイオン電池の良否推定装置1における推定部90は、記憶部30と制御部20を含む。
【0038】
記憶部30に記憶される学習済みの人工知能モデル100は、電池特性測定装置70で測定された評価指標としての充放電試験終了後電圧推移を入力として、リチウムイオン電池の良否を推定する処理に用いられる学習済みの人工知能モデルである。学習済みの人工知能モデル100は、学習済みの人工知能モデルの構造情報、学習済みの人工知能モデルで用いられるノード間の重み及びバイアスなどの各種パラメータ等を含む。本実施形態では、電池特性測定装置70で測定された評価指標としての充放電試験終了後電圧推移を入力としての教師データ、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力としての教師データとして、所定の学習アルゴリズムによって予め学習された学習済みの人工知能モデル100が記憶部30に記憶される。
【0039】
制御部20は、記憶部30に記憶されている推定処理プログラムを実行し、入力部10を通じて入力される評価指標としての充放電試験終了後電圧推移を学習済みの人工知能モデル100に与えることによって、学習済みの人工知能モデル100からリチウムイオン電池の良否推定結果を取得する。
必要に応じて、入力部10を通じて他の評価指標を学習済みの人工知能モデル100に与えてもよい。
【0040】
出力部40は、推定部90により推定されたリチウムイオン電池の良否推定結果を出力する部分であり、出力インターフェースを備える。
【0041】
出力部40には表示装置80を接続してもよい。表示装置80はリチウムイオン電池の良否推定装置1と一体の構成であってもよく、外部ディスプレイであってもよい。
また、表示装置80は出力部40に有線で接続されていてもよく、無線で接続されていてもよい。さらに、表示装置80と共に、又は、表示装置80に代えて、出力部40に記憶媒体を接続してもよく、出力部40から出力された推定結果を記憶媒体に格納するようにしてもよい。
【0042】
通信部50は、各種データを送受信する通信インターフェースを備える。通信部50は有線又は無線の通信インターフェースを備える。通信部50から外部に送信するデータは、学習済みの人工知能モデル100によるリチウムイオン電池の良否推定結果を含む。
【0043】
操作部60は、各種操作ボタン、スイッチ、タッチパネル等の入力インターフェースを備えており、各種の操作情報及び設定情報を受け付ける。制御部20は、操作部60から入力される操作情報に基づき適宜の制御を行い、必要に応じて設定情報を記憶部30に記憶させる。
【0044】
このようなリチウムイオン電池の良否推定装置に対して、良否推定対象のリチウムイオン電池について測定された、充放電試験終了後電圧推移を含む評価指標を入力部から入力すると、推定部により推定されたリチウムイオン電池の良否推定結果が出力部から出力されるので、リチウムイオン電池の良否推定を行うことができる。
【0045】
続いて、本発明のコンピュータプログラムについて説明する。
本発明のコンピュータプログラムは、コンピュータに、リチウムイオン電池の評価指標として、充放電試験を行い充放電試験終了後に所定期間休止させた期間である休止期間中に測定された電圧推移を入力、リチウムイオン電池の良否判定結果を出力とする教師データを用いて、リチウムイオン電池の充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移と良否判定結果との関係を学習した学習済みの人工知能モデルへ、良否推定対象のリチウムイオン電池から新たに取得した充放電試験終了後の休止期間中に測定された電圧推移を評価指標として入力し、上記学習済みの人工知能モデルからリチウムイオン電池の良否に係る推定結果を取得する処理を実行させるためのコンピュータプログラムである。
【0046】
このコンピュータプログラムは、リチウムイオン電池の良否推定装置の記憶部に記憶させて、学習済みの人工知能モデルからリチウムイオン電池の良否に係る推定結果を取得する処理を実行させるために使用することができる。
また、記憶媒体に記憶させて、パーソナルコンピューター等のハードウェアに読み込ませて使用することもできる。
【0047】
このコンピュータプログラムを使用するにあたり、充放電試験終了後の休止期間が10時間以上、19時間未満であることが好ましい。
充放電試験終了後電圧推移以外の評価指標としては、上述した評価指標(A)、(B)及び(C)のうちの少なくとも1つを使用することができる。また、評価指標として上述したACバランスを使用することができる。人工知能モデルを得るために使用した教師データと同じ評価指標を評価指標として使用することが好ましい。
(A)の評価指標を使用する場合、充放電試験における充電後に放電を行うことなく所定期間休止させた期間である充電後休止期間が100秒~1時間であることが好ましい。
ACバランスを評価指標として使用する場合、良否推定対象のリチウムイオン電池についてACバランスを実測することはできないため、良否推定対象のリチウムイオン電池について設計時に定められたACバランスを使用する。
【0048】
本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法によりその良否を推定する対象であるリチウムイオン電池は、リチウムイオン電池用活物質粒子が被覆材で被覆された被覆活物質を含み、被覆活物質の非結着体からなる電極活物質層を備えることが好ましい。
本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法によりその良否を推定する対象であるリチウムイオン電池は単電池である。
単電池は複数個組み合わせることで組電池として用いることができる。
【0049】
以下に、単電池としてのリチウムイオン電池の構成例について説明する。
単電池としては、順に積層されたひと組の正極集電体、正極活物質層、セパレータ、負極活物質層及び負極集電体からなる積層単位と電解液とを含むことが好ましい。
【0050】
正極集電体及び負極集電体としては、樹脂集電体又は金属集電体を使用することができる。特に樹脂集電体であることが好ましい。
樹脂集電体としては、導電性フィラーと樹脂集電体の母体を構成する樹脂(マトリックス樹脂ともいう)とを含むことが好ましい。
マトリックス樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリシクロオレフィン(PCO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂又はこれらの混合物等が挙げられる。
電気的安定性の観点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)及びポリシクロオレフィン(PCO)が好ましく、さらに好ましくはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)及びポリメチルペンテン(PMP)である。
【0051】
導電性フィラーは、導電性を有する材料から選択される。
具体的には、金属[ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、銅及びチタン等]、カーボン[グラファイト及びカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等]、及びこれらの混合物等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
これらの導電性フィラーは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金又は金属酸化物を用いてもよい。電気的安定性の観点から、好ましくはアルミニウム、ステンレス、カーボン、銀、銅、チタン及びこれらの混合物であり、より好ましくは銀、アルミニウム、ステンレス及びカーボンであり、さらに好ましくはカーボンである。またこれらの導電性フィラーとしては、粒子系セラミック材料や樹脂材料の周りに導電性材料(上記した導電性フィラーの材料のうち金属のもの)をめっき等でコーティングしたものでもよい。
樹脂集電体は、マトリックス樹脂及び導電性フィラーのほかに、その他の成分(分散剤、架橋促進剤、架橋剤、着色剤、紫外線吸収剤、可塑剤等)を含んでいてもよい。
【0052】
電極活物質層に含まれるリチウムイオン電池用活物質粒子としては、リチウムイオン電池用正極活物質又はリチウムイオン電池用負極活物質の粒子を使用することができる。
リチウムイオン電池用正極活物質としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物{遷移金属が1種である複合酸化物(LiCoO、LiNiO、LiAlMnO、LiMnO及びLiMn等)、遷移金属元素が2種である複合酸化物(例えばLiFeMnO、LiNi1-xCo、LiMn1-yCo、LiNi1/3Co1/3Al1/3及びLiNi0.8Co0.15Al0.05)及び金属元素が3種類以上である複合酸化物[例えばLiMM’M’’(M、M’及びM’’はそれぞれ異なる遷移金属元素であり、a+b+c=1を満たす。例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3)等]等}、リチウム含有遷移金属リン酸塩(例えばLiFePO、LiCoPO、LiMnPO及びLiNiPO)、遷移金属酸化物(例えばMnO及びV)、遷移金属硫化物(例えばMoS及びTiS)及び導電性高分子(例えばポリアニリン、ポリフッ化ビニリデン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びポリ-p-フェニレン及びポリカルバゾール)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
なお、リチウム含有遷移金属リン酸塩は、遷移金属サイトの一部を他の遷移金属で置換したものであってもよい。
【0053】
リチウムイオン電池用負極活物質としては、炭素系材料[黒鉛、難黒鉛化性炭素、アモルファス炭素、樹脂焼成体(例えばフェノール樹脂及びフラン樹脂等を焼成し炭素化したもの等)、コークス類(例えばピッチコークス、ニードルコークス及び石油コークス等)及び炭素繊維等]、珪素系材料[珪素、酸化珪素(SiOx)、珪素-炭素複合体(炭素粒子の表面を珪素及び/又は炭化珪素で被覆したもの、珪素粒子又は酸化珪素粒子の表面を炭素及び/又は炭化珪素で被覆したもの並びに炭化珪素等)及び珪素合金(珪素-アルミニウム合金、珪素-リチウム合金、珪素-ニッケル合金、珪素-鉄合金、珪素-チタン合金、珪素-マンガン合金、珪素-銅合金及び珪素-スズ合金等)等]、導電性高分子(例えばポリアセチレン及びポリピロール等)、金属(スズ、アルミニウム、ジルコニウム及びチタン等)、金属酸化物(チタン酸化物及びリチウム・チタン酸化物等)及び金属合金(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-アルミニウム合金及びリチウム-アルミニウム-マンガン合金)等及びこれらと炭素系材料との混合物等が挙げられる。
上記リチウムイオン電池用負極活物質のうち、内部にリチウム又はリチウムイオンを含まないものについては、予め負極活物質の一部又は全部にリチウム又はリチウムイオンを含ませるプレドープ処理を施してもよい。
【0054】
被覆材は高分子化合物を含む。
また、被覆材はさらに導電剤を含むことが好ましい。
リチウムイオン電池用活物質の周囲が被覆材で被覆されている被覆活物質であると、活物質粒子の体積変化が緩和され、電極の膨張を抑制することができる。
【0055】
被覆材を構成する高分子化合物としては、特開2017-054703号公報に非水系二次電池活物質被覆用樹脂として記載されたものを好適に用いることができる。
【0056】
被覆材に含まれる導電剤としては、樹脂集電体に含まれる導電性フィラーと同様の材料を使用することができる。
【0057】
電極活物質層には、粘着性樹脂が含まれていてもよい。
粘着性樹脂としては、例えば、特開2017-054703号公報に記載された非水系二次電池活物質被覆用樹脂に少量の有機溶剤を混合してそのガラス転移温度を室温以下に調整したもの、及び、特開平10-255805号公報に粘着剤として記載されたもの等を好適に用いることができる。
なお、粘着性樹脂は、溶媒成分を含まない状態で粘着性(水、溶剤、熱などを使用せずに僅かな圧力を加えることで接着する性質)を有する樹脂を意味する。
また、電極活物質層には溶液乾燥型の電極用バインダーを含まないことが好ましい。
溶液乾燥型の電極用バインダー(PVDF系バインダー、SBR系バインダー及びCMC系バインダー等)は、高分子化合物を溶媒に溶解または分散して用いられるものであって、溶媒成分を揮発させることで乾燥、固体化して活物質同士及び活物質と集電体とを強固に接着固定するものであり、溶媒成分を揮発させた電極用バインダーは粘着性を有さない。
従って、溶液乾燥型の電極用バインダーと粘着性樹脂とは異なる材料である。
溶液乾燥型の電極用バインダーを含まない電極活物質層は、被覆活物質の非結着体からなるといえる。
なお、電極活物質層の製造に用いる導電材料は、被覆材が含む導電剤とは別であり、被覆活物質が有する被覆材の外部に存在し、電極活物質層中において被覆活物質表面からの電子伝導性を向上する機能を有する。
【0058】
被覆活物質の非結着体からなる電極活物質層を用いてリチウムイオン電池を作製する際には、対極となる電極を組み合わせて、セパレータと共にセル容器に収容し、電解液を注入し、セル容器を密封する方法等により製造することができる。
また、集電体の一方の面に正極を形成し、もう一方の面に負極を形成して双極型電極を作製し、双極型電極をセパレータと積層してセル容器に収容し、電解液を注入し、セル容器を密閉することでも得られる。
【0059】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン製フィルムの微多孔膜、多孔性のポリエチレンフィルムとポリプロピレンとの多層フィルム、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等からなる不織布、及びそれらの表面にシリカ、アルミナ、チタニア等のセラミック微粒子を付着させたもの等の公知のリチウムイオン電池用セパレータが挙げられる。
【0060】
セル容器に注入する電解液としては、公知のリチウムイオン電池の製造に用いられる、電解質及び非水溶媒を含有する公知の電解液を使用することができる。
【0061】
電解質としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、LiN(FSO、LiPF、LiBF、LiSbF、LiAsF及びLiClO等の無機酸のリチウム塩、LiN(CFSO、LiN(CSO及びLiC(CFSO等の有機酸のリチウム塩等が挙げられる。これらの内、電池出力及び充放電サイクル特性の観点から好ましいのはイミド系電解質[LiN(FSO、LiN(CFSO及びLiN(CSO等]及びLiPFである。
【0062】
非水溶媒としては、公知の電解液に用いられているもの等が使用でき、例えば、ラクトン化合物、環状又は鎖状炭酸エステル、鎖状カルボン酸エステル、環状又は鎖状エーテル、リン酸エステル、ニトリル化合物、アミド化合物、スルホン、スルホラン等及びこれらの混合物を用いることができる。
【実施例0063】
(比較例1:機械学習を使用しないリチウムイオン電池の良否推定)
[リチウムイオン電池の作製]
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0064】
<正極活物質被覆用高分子化合物溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにトルエン70.0部を仕込み75℃に昇温した。次いで、メタクリル酸ドデシル95.0部、メタクリル酸4.6部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート0.4部、及びDMF20部を配合した単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1部及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.4部をDMF30部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、80℃に昇温して反応を2時間継続した。次いで、85℃に昇温して反応を2時間継続し、さらに95℃に昇温して反応を1時間継続し、正極活物質被覆用高分子化合物溶液を得た。
【0065】
<被覆正極活物質の作製>
正極活物質粒子(LiNi0.8Co0.15Al0.05粉末、体積平均粒子径4μm)84.0部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、正極活物質被覆用高分子化合物溶液8.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.0部及び黒鉛粉末(商品名「鱗片状黒鉛」[日本黒鉛製])3.0部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆正極活物質を作製した。
【0066】
<負極活物質被覆用高分子化合物溶液の作製>
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコにDMF150.0部を仕込み、65℃に昇温した。次いで、アクリル酸90.0部及びメタクリル酸メチル10.0部をDMF50.0部に溶解させた単量体組成物と、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.1部をDMF30.0部に溶解した開始剤溶液とを4つ口フラスコ内に窒素を吹き込みながら、撹拌下、滴下ロートで2時間かけて連続的に滴下してラジカル重合を行った。滴下終了後、70℃に昇温して反応を2時間継続した。次いで、80℃に昇温して反応を2時間継続し、負極活物質被覆用高分子化合物溶液を得た。
【0067】
<被覆負極活物質の作製>
負極活物質粒子[難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、(株)クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製、カーボトロン(登録商標)PS(F)]80.0部を万能混合機ハイスピードミキサーFS25[(株)アーステクニカ製]に入れ、室温、720rpmで撹拌した状態で、負極活物質被覆用高分子化合物溶液11.0部を2分かけて滴下し、さらに5分撹拌した。
次いで、撹拌した状態で導電助剤であるアセチレンブラック[デンカ(株)製 デンカブラック(登録商標)]3.0部を分割しながら2分間で投入し、30分撹拌を継続した。
その後、撹拌を維持したまま0.01MPaまで減圧し、次いで撹拌と減圧度を維持したまま温度を140℃まで昇温し、撹拌、減圧度及び温度を8時間維持して揮発分を留去した。
得られた粉体を目開き200μmの篩いで分級し、被覆負極活物質前駆体を得た。
カーボンナノファイバー[帝人(株)製]1.0部をアイリッヒインテンシブミキサ―[日本アイリッヒ(株)製]に入れ、室温、17m/sで3分撹拌した。次いで、被覆負極活物質前駆体99.0部を投入し、10秒撹拌して被覆負極活物質を得た。
【0068】
<樹脂集電体の作製>
2軸押出機にて、ポリプロピレン[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製]70部、カーボンナノチューブ[商品名:「FloTube9000」、CNano社製]25部及び分散剤[商品名「ユーメックス1001」、三洋化成工業(株)製]5部を200℃、200rpmの条件で溶融混練して樹脂混合物を得た。
得られた樹脂混合物を、Tダイ押出しフィルム成形機に通して、それを延伸圧延することで、膜厚100μmの樹脂集電体用導電性フィルムを得た。次いで、得られた樹脂集電体用導電性フィルムの片面にニッケル蒸着を施して樹脂集電体を作製した。
【0069】
<電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)の混合溶媒(体積比率でEC:PC=1:1)にLiN(FSO(LiFSI)を2mol/Lの割合で溶解させ、電解液を調製した。
【0070】
<正極の作製>
作製した被覆正極活物質を圧粉成形することで正極前駆体を作製した。
得られた正極前駆体を上記樹脂集電体の片面に積層した。
その後、上記電解液を注液して正極を作製した。
【0071】
<負極の作製>
作製した被覆負極活物質を圧粉成形することで負極前駆体を作製した。
得られた負極前駆体を上記樹脂集電体の片面に積層した。
その後、上記電解液を注液して負極を作製した。
【0072】
[リチウムイオン電池の作製]
得られた正極を、セパレータ(セルガード製#3501)を介し、得られた負極と組み合わせ、リチウムイオン電池を作製した。
【0073】
[充放電試験終了後電圧推移の測定]
単電池として作製したリチウムイオン電池に対し、下記(1)~(11)の手順により充放電試験を行い、手順(12)において充放電試験終了後電圧推移を得た。
(1)電流0.05C、上限電位4.2VでCC充電
(2)1時間の休止
(3)電流0.1C、上限電位4.2VでCC-CV充電
(4)1時間の休止
(5)電流0.33C、下限電位2.5VでCC放電
(6)1時間の休止
(7)電流0.1C、下限電位2.5VでCC放電
(8)1時間の休止
(9)電流0.05C、下限電位2.5VでCC放電
(10)1時間の休止
(11)電流0.01C、下限電位2.5VでCC放電
(12)19時間の休止及び休止期間中の電圧の測定
【0074】
[リチウムイオン電池の良否推定]
上記手順(12)中で測定された電圧推移について、休止開始後0時間目から休止開始後19時間経過時点にかけて電圧が上昇し続けた場合はリチウムイオン電池を良品と推定し、休止開始後0時間目から休止開始後19時間経過時点にかけて電圧の推移が減少に転じていた場合はリチウムイオン電池を不良品と推定した。
【0075】
[リチウムイオン電池の良否判定]
充放電試験終了時点から2週間経過したタイミングで電圧を測定することにより、リチウムイオン電池の良否判定を行った。
充放電試験終了後の休止開始後19時間経過時点の電圧と、充放電試験終了時点から2週間経過した後の電圧を比較して、充放電試験終了時点から2週間経過した後の電圧が大きいか同じものを良品、充放電試験終了時点から2週間経過した後の電圧が小さいものを不良品と判定した。
【0076】
[推定精度]
上記[リチウムイオン電池の良否推定]において推定したリチウムイオン電池の良品/不良品と、[リチウムイオン電池の良否判定]において判定したリチウムイオン電池の良品/不良品と、を比較した。
良品正答率、不良品正答率は以下の式により算出した。
良品正答率(%)=[(良品と推定したものが実際に良品であった数)/(良品と推定した数)]×100
不良品正答率(%)=[(不良品と推定したものが実際に不良品であった数)/(不良品と推定した数)]×100
良品正答率、不良品正答率は以下の通りであった。
良品について:正答率83.8%
不良品について:正答率98.0%
全体:正答率86.4%
すなわち、不良品である単電池を良品と推定する場合が多く見られた。
【0077】
(実施例1)
[学習済みの人工知能モデルの作成]
以下のデータを入力及び主力とする教師データを使用して、学習済みの人工知能モデルを作成した。
(入力)
(a)充放電試験終了後19時間の休止期間中に測定された電圧推移
(b)充放電試験における充電後に放電を行うことなく1時間休止させた充電後休止期間に測定された開回路電圧推移
(c)充放電試験により得られた実容量の設計容量に対する比率(実容量/設計容量)
(d)クーロン効率
(e)ACバランス
(出力)
(f)リチウムイオン電池の良否判定結果
機械学習法で使ったアルゴリズムはGradient Boosting Classifierである。
【0078】
[評価指標の測定]
比較例1と同様に充放電試験を行い、推定対象のリチウムイオン電池につき、入力として使用した評価指標(a)~(e)に相当する評価指標を測定した。
手順(12)での休止期間は、入力として使用した充放電試験終了後の休止期間に合わせた。
【0079】
[リチウムイオン電池の良否推定]
測定した上記評価指標(a)~(e)を学習済みの人工知能モデルに入力し、リチウムイオン電池の良否推定結果を出力させた。
【0080】
[リチウムイオン電池の良否判定]
比較例1と同様に、充放電試験終了時点から2週間経過したタイミングで電圧を測定することにより、リチウムイオン電池の良否判定を行った。
【0081】
[推定精度]
上記[リチウムイオン電池の良否推定]において推定したリチウムイオン電池の良品/不良品と、[リチウムイオン電池の良否判定]において判定したリチウムイオン電池の良品/不良品と、を比較した。
良品正答率、不良品正答率は以下の通りであった。
良品について:正答率93.5%
不良品について:正答率94.5%
全体:正答率93.8%
良品についての予測精度が比較例1と比べて特に向上し、全体の予測精度が比較例1と比べて向上した。
【0082】
(実施例2)
実施例1の[学習済みの人工知能モデルの作成]で入力の(a)として使用する充放電試験終了後電圧推移が測定される休止期間を10時間に変更した。
また、[評価指標の測定]における手順(12)での休止期間を10時間に変更した。
その他は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池の良否推定を行い、良品正答率、不良品正答率を算出した。結果は以下の通りであった。
良品について:正答率91.3%
不良品について:正答率93.7%
全体:正答率92.0%
良品についての予測精度が比較例1と比べて特に向上し、全体の予測精度が比較例1と比べて向上した。また、充放電試験終了後の休止期間を比較例1と比べて9時間短縮できた。
【0083】
(実施例3)
実施例1の[学習済みの人工知能モデルの作成]で教師データを作成する入力として(a)の充放電試験終了後19時間の休止期間中に測定された電圧推移だけを使用して、学習済みの人工知能モデルを作成した。
また、[評価指標の測定]において評価指標(a)だけを休止期間19時間として測定し、[リチウムイオン電池の良否推定]で上記評価指標(a)のみを学習済みの人工知能モデルに入力し、リチウムイオン電池の良否推定結果を出力させた。
その他は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池の良否推定を行い、良品正答率、不良品正答率を算出した。結果は以下の通りであった。
良品について:正答率92.8%
不良品について:正答率93.6%
全体:正答率93.0%
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のリチウムイオン電池の良否推定方法を使用すると、単電池としてのリチウムイオン電池の良否推定精度を向上させることが可能になる。単電池段階での良否推定を効率よく行うことができれば、組電池全体が不良品となることを防止することができるので非常に有用である。
【符号の説明】
【0085】
1 リチウムイオン電池の良否推定装置
10 入力部
20 制御部
30 記憶部
40 出力部
50 通信部
60 操作部
70 電池特性測定装置
80 表示装置
90 推定部
100 人工知能モデル(学習済みの人工知能モデル)
110 入力層
120 中間層
130 出力層

図1
図2