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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116126
(43)【公開日】2022-08-09
(54)【発明の名称】積層型電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/36 20060101AFI20220802BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20220802BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20220802BHJP
   H01G 4/40 20060101ALI20220802BHJP
   H05K 9/00 20060101ALI20220802BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20220802BHJP
【FI】
H01F27/36 101
H01F27/00 S
H01F27/00 Q
H01F17/00 D
H01G4/40 321A
H05K9/00 Q
H03H7/01 Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083715
(22)【出願日】2022-05-23
(62)【分割の表示】P 2017087622の分割
【原出願日】2017-04-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楠本 翔平
(72)【発明者】
【氏名】大塚 識顕
(72)【発明者】
【氏名】阿部 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義憲
(57)【要約】
【課題】実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制できるようにした積層型電子部品を実現する。
【解決手段】積層型電子部品1は、積層体10と、複数の端子11,12,13と、積層体10に対して一体化されたシールド20とを備えている。複数の端子11,12,13は、積層体10の底面10Aに設けられている。積層体10の上面10Bは、マーク部分10B1と、周辺部分10B2とを含んでいる。マーク部分10B1と周辺部分10B2との間には段差がある。シールド20は、積層体10の上面10Bを覆う上面被覆部分20Bと、それぞれ積層体10の4つの側面10C~10Fを覆う4つの側面被覆部分20C~20Fとを含んでいる。上面被覆部分20Bの上面は、マーク部分20B1と、周辺部分20Bとを含んでいる。マーク部分20B1と周辺部分20B2との間には段差がある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体と、
前記積層体に対して一体化された複数の端子と、
前記複数の端子とは異なる導体よりなり前記積層体に対して一体化されたシールドとを備えた積層型電子部品であって、
前記積層体は、第1の方向の両端に位置する底面および上面と、前記底面と上面を接続する4つの側面とを有し、
前記複数の端子は、前記積層体の底面に設けられ、
前記積層体の上面は、第1のマーク部分と、前記第1のマーク部分の周辺の第1の周辺部分とを含み、
前記第1のマーク部分と前記第1の周辺部分との間には段差があり、
前記シールドは、前記積層体の上面を覆う上面被覆部分と、それぞれ前記積層体の4つの側面を覆う4つの側面被覆部分とを含み、
前記上面被覆部分の上面は、第2のマーク部分と、前記第2のマーク部分の周辺の第2の周辺部分とを含み、
前記第2のマーク部分と前記第2の周辺部分との間には段差があり、
前記第2のマーク部分は、前記第1のマーク部分に対応する位置にあることを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記第1のマーク部分は、前記第1の周辺部分に対して突出し、
前記第2のマーク部分は、前記第2の周辺部分に対して突出していることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項3】
前記第1のマーク部分は、前記第1の周辺部分に対して窪み、
前記第2のマーク部分は、前記第2の周辺部分に対して窪んでいることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項4】
前記上面被覆部分は、前記4つの側面被覆部分よりも厚いことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項5】
前記積層体は、第2の方向に延びる中心軸の周りに巻回されたコイルを含み、
前記上面被覆部分および前記4つの側面被覆部分のうち、前記中心軸と交差する1つまたは2つの部分は他の部分よりも厚いことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項6】
前記上面被覆部分が、前記中心軸と交差することを特徴とする請求項5記載の積層型電子部品。
【請求項7】
前記積層体は、インダクタとキャパシタとを含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項8】
前記インダクタは、前記キャパシタよりも前記積層体の上面により近い位置に配置されていることを特徴とする請求項7記載の積層型電子部品。
【請求項9】
前記複数の端子は、信号端子と、グランド端子とを含み、
前記インダクタは、前記グランド端子には接続されるが前記信号端子には接続されず、
前記キャパシタは、前記信号端子には接続されるが前記グランド端子には接続されないことを特徴とする請求項7または8記載の積層型電子部品。
【請求項10】
ハイパスフィルタの機能を有することを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項11】
前記シールドは、更に、前記4つの側面被覆部分に連続して前記積層体の底面の一部を覆う部分的被覆部を含むことを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の積層型電子部品。
【請求項12】
請求項1記載の積層型電子部品の製造方法であって、
前記積層体および前記複数の端子を含む構造体を作製する工程と、
前記構造体における前記積層体に対して前記シールドを形成する工程とを含むことを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項13】
前記複数の誘電体層は、前記積層体の上面に最も近く且つマーク形成面を有する特定の誘電体層を含み、
前記構造体を作製する工程は、前記マーク形成面に導体層よりなるマーク層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項12記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項14】
前記複数の誘電体層は、前記積層体の上面に最も近く且つマーク形成面を有する特定の誘電体層を含み、
前記構造体を作製する工程は、前記マーク形成面に凹部を形成する工程を含むことを特徴とする請求項12記載の積層型電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体を備えた積層型電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やスマートフォンに代表される小型移動体通信機器では、多機能化、小型化が進み、それに伴い、電子部品の実装の高密度化が進んでいる。その結果、小型移動体通信機器では、実装基板に実装される複数の電子部品の間隔や、複数の電子部品を覆うシールドケースと電子部品との距離が小さくなってきている。
【0003】
小型化に適した電子部品としては、例えば特許文献1に記載されているような、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体を用いて構成された積層型電子部品が知られている。この積層型電子部品のうち、特に、積層体の底面に複数の端子が配置された構造のものは、積層体の側面に端子が現れないため、高密度実装にも適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4513082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子部品の実装の高密度化により、以下のような電磁気的な不具合の発生が問題となっている。すなわち、複数の電子部品の間隔が小さくなると、複数の電子部品間における電磁干渉が生じやすくなる。また、シールドケースと電子部品との距離が小さくなると、電子部品内の導体とシールドケースとによって形成される容量に起因して、実装時の電子部品の特性が設計時の特性とは異なったものになりやすくなる。
【0006】
特許文献1には、積層体の内部の2つのシールド電極と、積層体の複数の側面に設けられた複数の端面電極を電気的に接続すると共に、2つのシールド電極の一方と接地電極とをビアホールを介して接続した構造の電子部品が記載されている。
【0007】
しかし、特許文献1に記載された電子部品では、2つのシールド電極のうちの上側のシールド電極と複数の端面電極とによって、積層体の内部の複数の構成要素が完全に覆われる訳ではない。そのため、この電子部品では、上述のような実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を十分に抑制することはできない。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制できるようにした積層型電子部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の積層型電子部品は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含む積層体と、積層体に対して一体化された複数の端子と、導体よりなり積層体に対して一体化されたシールドとを備えている。
【0010】
積層体は、第1の方向の両端に位置する底面および上面と、底面と上面を接続する4つの側面とを有している。複数の端子は、積層体の底面に設けられている。積層体の上面は、第1のマーク部分と、第1のマーク部分の周辺の第1の周辺部分とを含んでいる。第1のマーク部分と第1の周辺部分との間には段差がある。
【0011】
シールドは、積層体の上面を覆う上面被覆部分と、それぞれ積層体の4つの側面を覆う4つの側面被覆部分とを含んでいる。上面被覆部分の上面は、第2のマーク部分と、第2のマーク部分の周辺の第1の周辺部分とを含んでいる。第2のマーク部分と第1の周辺部分との間には段差がある。第2のマーク部分は、前記第1のマーク部分に対応する位置にある。
【0012】
本発明の積層型電子部品において、第1のマーク部分は、第1の周辺部分に対して突出していてもよく、第2のマーク部分は、第2の周辺部分に対して突出していてもよい。あるいは、第1のマーク部分は、第1の周辺部分に対して窪んでいてもよく、第2のマーク部分は、第2の周辺部分に対して窪んでいてもよい。
【0013】
また、本発明の積層型電子部品において、上面被覆部分は、4つの側面被覆部分よりも厚くてもよい。
【0014】
また、本発明の積層型電子部品において、積層体は、第2の方向に延びる中心軸の周りに巻回されたコイルを含んでいてもよい。上面被覆部分および4つの側面被覆部分のうち、中心軸と交差する1つまたは2つの部分は他の部分よりも厚くてもよい。また、上面被覆部分が、中心軸と交差してもよい。
【0015】
また、本発明の積層型電子部品において、積層体は、インダクタとキャパシタとを含んでいてもよい。この場合、インダクタは、キャパシタよりも積層体の上面により近い位置に配置されていてもよい。
【0016】
また、積層体がインダクタとキャパシタとを含んでいる場合、複数の端子は、信号端子と、グランド端子とを含んでいてもよい。インダクタは、グランド端子には接続されるが信号端子には接続されなくてもよい。キャパシタは、信号端子には接続されるがグランド端子には接続されなくてもよい。
【0017】
また、積層体がインダクタとキャパシタとを含んでいる場合、積層型電子部品は、ハイパスフィルタの機能を有していてもよい。
【0018】
また、本発明の積層型電子部品において、シールドは、更に、4つの側面被覆部分に連続して積層体の底面の一部を覆う部分的被覆部を含んでいてもよい。
【0019】
本発明の積層型電子部品の製造方法は、積層体および複数の端子を含む構造体を作製する工程と、構造体における積層体に対してシールドを形成する工程とを含んでいる。
【0020】
本発明の積層型電子部品の製造方法において、複数の誘電体層は、積層体の上面に最も近く且つマーク形成面を有する特定の誘電体層を含んでいてもよい。
【0021】
複数の誘電体層が特定の誘電体層を含む場合、構造体を作製する工程は、マーク形成面に導体層よりなるマーク層を形成する工程を含んでいてもよい。あるいは、構造体を作製する工程は、マーク形成面に凹部を形成する工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の積層型電子部品およびその製造方法によれば、シールドが積層体の上面および4つの側面の全体を覆うことから、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制できる積層型電子部品を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る積層型電子部品の外観を示す斜視図である。
図2図1に示した積層型電子部品の底部を示す斜視図である。
図3図1に示した積層型電子部品の積層体の内部を示す斜視図である。
図4図1に示した積層型電子部品の断面図である。
図5図4に示した積層型電子部品の一部を示す断面図である。
図6】本発明の第1の実施の形態におけるシールドの部分的被覆部と端子との関係の第1の例を示す断面図である。
図7】本発明の第1の実施の形態におけるシールドの部分的被覆部と端子との関係の第2の例を示す断面図である。
図8】本発明の第1の実施の形態に係る積層型電子部品の回路構成の一例を示す回路図である。
図9図3に示した積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図10図3に示した積層体における4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図11図3に示した積層体における7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図12図3に示した積層体における10層目の誘電体層のパターン形成面と11ないし13層目の誘電体層のパターン形成面と14層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図13図3に示した積層体における15層目ないし17層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図14図3に示した積層体における17層目の誘電体層のマーク形成面を示す説明図である。
図15】本発明の第1の実施の形態に係る積層型電子部品の製造方法を示すフローチャートである。
図16】シミュレーションにおける電子部品の第1ないし第3のモデルの構成を説明するための斜視図である。
図17】シミュレーションの結果を示す特性図である。
図18】本発明の第1の実施の形態に係る積層型電子部品の変形例におけるマーク部分が形成された誘電体層を示す斜視図である。
図19】本発明の第2の実施の形態に係る積層型電子部品の底部を示す斜視図である。
図20】本発明の第2の実施の形態に係る積層型電子部品の積層体の1層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1ないし図4を参照して、本発明の第1の実施の形態に係る積層型電子部品(以下、単に電子部品と記す。)1の構造の一例について説明する。図1は、電子部品1の外観を示す斜視図である。図2は、電子部品1の底部を示す斜視図である。図3は、電子部品1の積層体の内部を示す斜視図である。図4は、電子部品1の断面図である。
【0025】
電子部品1は、例えば携帯電話機、スマートフォン等の小型移動体通信機器に用いられるものである。電子部品1は、例えば、フィルタ、バラン、方向性結合器または分波器の機能を有していてもよい。
【0026】
電子部品1は、積層体10と、積層体に対して一体化された複数の端子と、導体よりなり積層体10に対して一体化されたシールド20とを備えている。積層体10は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含んでいる。図1ないし図4に示した例では、複数の端子は、2つの信号端子11,12および1つのグランド端子13である。
【0027】
積層体10は、第1の方向D1の両端に位置する底面10Aおよび上面10Bと、底面10Aと上面10Bを接続する4つの側面10C~10Fとを有している。側面10C,10Dは互いに反対側を向き、側面10E,10Fも互いに反対側を向いている。側面10C~10Fは、上面10Bおよび底面10Aに対して垂直になっている。図1ないし図4に示した例では、第1の方向D1は、積層体10の複数の誘電体層が積層された方向である。
【0028】
以下、基準の位置に対して、第1の方向D1に平行な方向であって底面10Aから上面10Bに向かう方向にある位置を上方と言う。また、基準の位置に対して、第1の方向D1に平行な方向であって上面10Bから底面10Aに向かう方向にある位置を下方と言う。
【0029】
複数の端子11,12,13は、底面10Aに設けられている。端子11,12,13の各々は、下方の端に位置する下端面を有している。端子11,12,13の各々の下端面は、底面10Aから突出していてもよいし、底面10Aと同一平面上に位置していてもよい。図1ないし図4には、端子11,12,13の各々の下端面が底面10Aから突出している例を示している。端子11,12,13の各々の下端面が底面10Aと同一平面上に位置している場合には、端子11,12,13の各々は、下端面が露出するように、積層体10に埋め込まれている。
【0030】
シールド20は、積層体10の上面10Bおよび4つの側面10C~10Fの全体を覆っている。シールド20は、それぞれ積層体10の上面10Bと4つの側面10C~10Fを覆う5つの部分を含んでいる。以下、シールド20のうち積層体10の上面10Bを覆う部分を上面被覆部分20Bと言い、シールド20のうち積層体10の側面10C~10Fを覆う4つの部分を、それぞれ側面被覆部分20C~20Fと言う。
【0031】
シールド20は、積層された複数の金属層を含んでいてもよい。この場合、複数の金属層の各々は、積層体10の上面10Bを覆う上面対応部分と、それぞれ積層体の4つの側面10C~10Fを覆う4つの側面対応部分とを含み、上面対応部分と4つの側面対応部分が連続していることが好ましい。
【0032】
図4には、シールド20が、積層された複数の金属層21,22,23からなる例を示している。金属層21,22,23の各々は、上記の上面対応部分と4つの側面対応部分とを含み、上面対応部分と4つの側面対応部分は連続している。金属層21は、積層体10の上面10Bおよび4つの側面10C~10Fの全体を覆っている。金属層22は、金属層21の全体を覆っている。金属層23は、金属層22の全体を覆っている。
【0033】
金属層22は、金属層21,23よりも導電率が高くてもよい。この場合、金属層22の材料は、Ag、Cu、Au、Alのいずれかであってもよい。また、金属層22は、金属層21,23よりも厚くてもよい。金属層21,23は、金属層22の腐食を防止する機能を有していてもよい。この場合、金属層21,23の材料は、ステンレス鋼であってもよい。
【0034】
積層体10は、インダクタとキャパシタの少なくとも一方を含んでいてもよい。また、積層体10は、第2の方向D2に延びる中心軸の周りに巻回されたコイルを含んでいてもよい。この場合、シールド20の5つの部分20B~20Fのうち、上記の中心軸と交差する1つまたは2つの部分が他の部分よりも厚いことが好ましい。
【0035】
図1ないし図4に示した例では、第2の方向D2は、第1の方向D1と同じ方向すなわち積層体10の複数の誘電体層が積層された方向である。この場合、上面被覆部分20Bが上記の中心軸と交差する。従って、上面被覆部分20Bが側面被覆部分20C~20Fよりも厚いことが好ましい。
【0036】
ここで、シールド20の金属層21,22,23のそれぞれの厚みの一例を示す。この例では、金属層21,23の各々の上面対応部分の厚みは0.2μmであり、金属層21,23の各々の4つの側面対応部分の厚みは0.1μmである。また、この例では、金属層22の上面対応部分の厚みは2μmであり、金属層22の4つの側面対応部分の厚みは1μmである。この例では、シールド20の上面被覆部分20Bの厚みは2.4μmであり、シールド20の側面被覆部分20C~20Fの厚みは1.2μmである。
【0037】
積層体10は、複数の面取りされた角部を有していてもよい。複数の面取りされた角部は、積層体10の6つの面のうちの2つまたは3つが交差する位置に存在する。
【0038】
上面10Bが4つの側面10C~10Fのうちの1つまたは2つと交差する位置に存在する複数の角部の曲率半径は、底面10Aが4つの側面10C~10Fのうちの1つまたは2つと交差する位置に存在する複数の角部の曲率半径よりも大きくてもよい。上面10Bが4つの側面10C~10Fのうちの1つまたは2つと交差する位置に存在する複数の角部の曲率半径は、例えば10μm程度である。
【0039】
図5は、上面10Bと側面10Fが交差する位置に存在する角部およびその近傍の部分を示している。図6および図7は、底面10Aと側面10Fが交差する位置に存在する角部およびその近傍の部分を示している。
【0040】
図6および図7に示したように、シールド20は、積層体10の4つの側面10C~10Fを覆う部分に連続して積層体10の底面10Aの一部を覆う部分的被覆部20Pを含んでいてもよい。部分的被覆部20Pは、下方の端に位置する下端部を有している。
【0041】
以下、図6および図7を参照して、部分的被覆部20Pと端子との関係の第1の例と第2の例について説明する。図6および図7は、実装基板100に電子部品1を実装した状態を示している。実装基板100は、上面110aを有する板状の基板本体110と、基板本体110の上面110aに設けられた複数の電極を備えている。複数の電極の各々は、上方の端に位置する上端面を有している。この上端面は、基板本体110の上面110aから突出している。実装基板100の複数の電極は、それぞれ電子部品1の端子11,12,13が接続される3つの電極を含んでいる。図6および図7には、電子部品1の端子12と、この端子12が接続される電極112を示している。
【0042】
ここで、図6および図7に示したように、積層体10の底面10Aを含む仮想の平面Pを想定する。そして、仮想の平面Pから電子部品1の端子の下端面までの距離を、端子の突出量と言い、記号P1で表す。端子11,12,13の各々の下端面が底面10Aと同一平面上に位置している場合には、端子の突出量P1は0である。また、仮想の平面Pから部分的被覆部20Pの下端部までの距離を、部分的被覆部20Pの突出量と言い、記号P2で表す。また、基板本体110の上面110aから実装基板100の電極の上端面までの距離を、電極の突出量と言い、記号P3で表す。
【0043】
図6に示した第1の例のように、部分的被覆部20Pの突出量P2は、端子の突出量P1よりも小さくてもよい。あるいは、図7に示した第2の例のように、部分的被覆部20Pの突出量P2は、端子の突出量P1よりも大きくてもよい。あるいは、部分的被覆部20Pの突出量P2は、端子の突出量P1と等しくてもよい。
【0044】
部分的被覆部20Pの突出量P2は、端子の突出量P1と電極の突出量P3の和以下である必要がある。部分的被覆部20Pは、積層体10の底面10Aと実装基板100の基板本体110の上面110aとの間の隙間を電磁波が通過することを抑制する機能を有する。この機能が効果的に発揮されるように、部分的被覆部20Pの突出量P2は、端子の突出量P1と電極の突出量P3の和と等しいかそれに近いことが好ましい。
【0045】
図1および図4に示したように、積層体10の上面10Bは、マーク部分10B1と、マーク部分10B1の周辺の周辺部分10B2とを含んでいる。マーク部分10B1と周辺部分10B2との間には段差がある。すなわち、マーク部分10B1は、周辺部分10B2に対して突出しているか窪んでいる。図1および図4には、マーク部分10B1が周辺部分10B2に対して突出している例を示している。この例では、積層体10の複数の誘電体層のうち最も上面10Bに近い誘電体層の上面に、導体層よりなるマーク層474が配置され、このマーク層474の上面がマーク部分10B1を構成している。マーク部分10B1が周辺部分10B2に対して窪んでいる例は、後で変形例として示す。
【0046】
上述のように、マーク部分10B1と周辺部分10B2との間には段差があることにより、図1および図4に示したように、シールド20の上面被覆部分20Bの上面は、マーク部分20B1と、マーク部分20B1の周辺の周辺部分20B2とを含む。マーク部分20B1は、マーク部分10B1に対応する位置にある。マーク部分20B1と周辺部分20B2との間には、マーク部分10B1と周辺部分10B2との間の段差と同様の段差がある。従って、本実施の形態では、シールド20の上面被覆部分20Bによってマーク部分10B1が覆われていても、マーク部分10B1に対応するマーク部分20B1を認識することが可能である。マーク部分20B1は、例えば、電子部品1の端子11,12,13の位置関係を認識するために利用される。
【0047】
シールド20は、グランド端子13に電気的に接続されている。図3に示した積層体10は、シールド20とグランド端子13とを電気的に接続する2つの接続部を含んでいる。この2つの接続部については、後で詳しく説明する。
【0048】
次に、図8を参照して、電子部品1の回路構成の一例について説明する。この例では、電子部品1はハイパスフィルタの機能を有している。この例の電子部品1は、4つのキャパシタC1,C2,C3,C4と、2つのインダクタL1,L2を備えている。キャパシタC1~C4とインダクタL1,L2は、いずれも、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。
【0049】
キャパシタC1の第1端は、信号端子11に接続されている。キャパシタC2の第1端は、キャパシタC1の第2端に接続されている。キャパシタC2の第2端は、信号端子12に接続されている。
【0050】
キャパシタC3の第1端は、信号端子11に接続されている。インダクタL1の第1端は、キャパシタC3の第2端に接続されている。キャパシタC4の第1端は、信号端子12に接続されている。インダクタL2の第1端は、キャパシタC4の第2端に接続されている。インダクタL1の第2端とインダクタL2の第2端は、グランド端子13に接続されている。
【0051】
キャパシタC1~C4とインダクタL1,L2は、全て、積層体10に含まれている。図3および図4に示した例では、インダクタL1,L2は、それぞれコイルによって構成されている。図4に示したように、インダクタL1を構成するコイルは、第2の方向D2に延びる中心軸CA1の周りに巻回されている。また、インダクタL2を構成するコイルは、第2の方向D2に延びる中心軸CA2の周りに巻回されている。この場合、シールド20の5つの部分20B~20Fのうち、上面被覆部分20Bが中心軸CA1,CA2と交差する。従って、前述の通り、上面被覆部分20Bが側面被覆部分20C~20Fよりも厚いことが好ましい。
【0052】
次に、図3図4図9ないし図14を参照して、図8に示した回路構成に対応する積層体10の構成の一例について説明する。積層体10は、積層された17層の誘電体層を有している。以下、この17層の誘電体層を、下から順に1層目ないし17層目の誘電体層と呼ぶ。図9において、(a)~(c)は、それぞれ1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図10において、(a)~(c)は、それぞれ4層目ないし6層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図11において、(a)~(c)は、それぞれ7層目ないし9層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図12において、(a)は10層目の誘電体層のパターン形成面を示し、(b)は11層目ないし13層目のパターン形成面を示し、(c)は14層目のパターン形成面を示している。図13において、(a)~(c)は、それぞれ15層目ないし17層目の誘電体層のパターン形成面を示している。図14は、17層目の誘電体層のマーク形成面を示している。17層目の誘電体層のパターン形成面とマーク形成面は、互いに反対側を向いている。
【0053】
図9(a)に示したように、1層目の誘電体層31のパターン形成面には、信号端子11を構成するために用いられる導体層311と、信号端子12を構成するために用いられる導体層312と、グランド端子13を構成するために用いられる導体層313が形成されている。また、誘電体層31には、それぞれ導体層311,312に接続されたスルーホール31T1,31T2と、導体層313に接続されたスルーホール31T3,31T4が形成されている。
【0054】
図9(b)に示したように、2層目の誘電体層32のパターン形成面には、キャパシタC3を構成するために用いられる導体層321と、キャパシタC4を構成するために用いられる導体層322が形成されている。また、誘電体層32には、スルーホール32T1,32T2,32T3,32T4が形成されている。スルーホール32T1は、導体層321に接続されている。スルーホール32T2は、導体層322に接続されている。スルーホール32T1~32T4には、それぞれ図9(a)に示したスルーホール31T1~31T4が接続されている。
【0055】
図9(c)に示したように、3層目の誘電体層33のパターン形成面には、キャパシタC3を構成するために用いられる導体層331と、キャパシタC4を構成するために用いられる導体層332が形成されている。また、誘電体層33には、スルーホール33T1,33T2,33T3,33T4,33T5,33T6が形成されている。スルーホール33T5は、導体層331に接続されている。スルーホール33T6は、導体層332に接続されている。スルーホール33T1~33T4には、それぞれ図9(b)に示したスルーホール32T1~32T4が接続されている。
【0056】
図10(a)に示したように、4層目の誘電体層34のパターン形成面には、キャパシタC1,C3を構成するために用いられる導体層341と、キャパシタC2,C4を構成するために用いられる導体層342が形成されている。また、誘電体層34には、スルーホール34T1,34T2,34T3,34T4,34T5,34T6が形成されている。スルーホール34T1は、導体層341に接続されている。スルーホール34T2は、導体層342に接続されている。スルーホール34T1~34T6には、それぞれ図9(c)に示したスルーホール33T1~33T6が接続されている。
【0057】
図10(b)に示したように、5層目の誘電体層35のパターン形成面には、キャパシタC1を構成するために用いられる導体層351と、キャパシタC2を構成するために用いられる導体層352と、導体層351と導体層352とを接続する導体層353が形成されている。図10(b)では、導体層351と導体層353の境界と、導体層352と導体層353の境界を、破線で示している。また、誘電体層35には、スルーホール35T1,35T2,35T3,35T4,35T5,35T6,35T7,35T8が形成されている。スルーホール35T7は、導体層351に接続されている。スルーホール35T8は、導体層352に接続されている。スルーホール35T1~35T6には、それぞれ図10(a)に示したスルーホール34T1~34T6が接続されている。
【0058】
図10(c)に示したように、6層目の誘電体層36のパターン形成面には、キャパシタC1を構成するために用いられる導体層361と、キャパシタC2を構成するために用いられる導体層362と、シールド20に接続される導体層363,364が形成されている。また、誘電体層36には、スルーホール36T1,36T2,36T3,36T4,36T5,36T6,36T7,36T8が形成されている。スルーホール36T1は、導体層361に接続されている。スルーホール36T2は、導体層362に接続されている。スルーホール36T3は、導体層363に接続されている。スルーホール36T4は、導体層364に接続されている。スルーホール36T1~36T8には、それぞれ図10(b)に示したスルーホール35T1~35T8が接続されている。
【0059】
図11(a)に示したように、7層目の誘電体層37のパターン形成面には、キャパシタC1を構成するために用いられる導体層371と、キャパシタC2を構成するために用いられる導体層372が形成されている。また、誘電体層37には、スルーホール37T1,37T2,37T3,37T4,37T5,37T6,37T7が形成されている。スルーホール37T7は、導体層371に接続されている。スルーホール37T1~37T7には、それぞれ図10(c)に示したスルーホール36T1~36T7が接続されている。図10(c)に示したスルーホール36T8は、導体層372に接続されている。
【0060】
図11(b)に示したように、8層目の誘電体層38のパターン形成面には、キャパシタC1を構成するために用いられる導体層381と、キャパシタC2,C4を構成するために用いられる導体層382が形成されている。また、誘電体層38には、スルーホール38T1,38T3,38T4,38T5,38T6,38T7が形成されている。スルーホール38T1は、導体層381に接続されている。スルーホール38T1,38T3~38T7には、それぞれ図11(a)に示したスルーホール37T1,37T3~37T7が接続されている。図11(a)に示したスルーホール37T2は、導体層382に接続されている。
【0061】
図11(c)に示したように、9層目の誘電体層39のパターン形成面には、キャパシタC1を構成するために用いられる導体層391と、キャパシタC4を構成するために用いられる導体層392が形成されている。また、誘電体層39には、スルーホール39T1,39T3,39T4,39T5,39T6が形成されている。スルーホール39T6は、導体層392に接続されている。スルーホール39T1,39T3~39T6には、それぞれ図11(b)に示したスルーホール38T1,38T3~38T6が接続されている。図11(b)に示したスルーホール38T7は、導体層391に接続されている。
【0062】
図12(a)に示したように、10層目の誘電体層40のパターン形成面には、キャパシタC1を構成するために用いられる導体層401が形成されている。また、誘電体層40には、スルーホール40T3,40T4,40T5,40T6が形成されている。スルーホール40T3~40T6には、それぞれ図11(c)に示したスルーホール39T3~39T6が接続されている。図11(c)に示したスルーホール39T1は、導体層401に接続されている。
【0063】
図12(b)に示したように、11層目ないし13層目の誘電体層41~43の各々には、スルーホール41T3,41T4,41T5,41T6が形成されている。誘電体層41~43では、上下に隣接する同じ符号のスルーホール同士が互いに接続されている。誘電体層41に形成されたスルーホール41T3~41T6には、それぞれ図12(a)に示したスルーホール40T3~40T6が接続されている。
【0064】
図12(c)に示したように、14層目の誘電体層44には、インダクタL1を構成するために用いられる導体層441と、インダクタL2を構成するために用いられる導体層442が形成されている。導体層441,442の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層44には、スルーホール44T3,44T4,44T9,44T10が形成されている。スルーホール44T9は、導体層441における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール44T10は、導体層442における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール44T3,44T4には、それぞれ図12(b)に示した誘電体層43に形成されたスルーホール41T3,41T4が接続されている。図12(b)に示した誘電体層43に形成されたスルーホール41T5は、導体層441における第2端の近傍部分に接続されている。図12(b)に示した誘電体層43に形成されたスルーホール41T6は、導体層442における第2端の近傍部分に接続されている。
【0065】
図13(a)に示したように、15層目の誘電体層45には、インダクタL1を構成するために用いられる導体層451と、インダクタL2を構成するために用いられる導体層452が形成されている。導体層451,452の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層45には、スルーホール45T3,45T4,45T9,45T10が形成されている。スルーホール45T9は、導体層451における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール45T10は、導体層452における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール45T3,45T4には、それぞれ図12(c)に示したスルーホール44T3,44T4が接続されている。図12(c)に示したスルーホール44T9は、導体層451における第2端の近傍部分に接続されている。図12(c)に示したスルーホール44T10は、導体層452における第2端の近傍部分に接続されている。
【0066】
図13(b)に示したように、16層目の誘電体層46には、インダクタL1を構成するために用いられる導体層461と、インダクタL2を構成するために用いられる導体層462が形成されている。導体層461,462の各々は、第1端と第2端を有している。また、誘電体層46には、スルーホール46T3,46T4,46T9,46T10が形成されている。スルーホール46T9は、導体層461における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール46T10は、導体層462における第1端の近傍部分に接続されている。スルーホール46T3,46T4には、それぞれ図13(a)に示したスルーホール45T3,45T4が接続されている。図13(a)に示したスルーホール45T9は、導体層461における第2端の近傍部分に接続されている。図13(a)に示したスルーホール45T10は、導体層462における第2端の近傍部分に接続されている。
【0067】
図13(c)に示したように、17層目の誘電体層47には、インダクタL1を構成するために用いられる導体層471と、インダクタL2を構成するために用いられる導体層472と、導体層473が形成されている。導体層471,472の各々は、第1端と第2端を有している。導体層473は、導体層471の第1端と導体層472の第1端に接続されている。図13(c)では、導体層471と導体層473の境界と、導体層472と導体層473の境界を、破線で示している。図13(b)に示したスルーホール46T3は、導体層471における第1端の近傍部分に接続されている。図13(b)に示したスルーホール46T4は、導体層472における第1端の近傍部分に接続されている。図13(b)に示したスルーホール46T9は、導体層471における第2端の近傍部分に接続されている。図13(b)に示したスルーホール46T10は、導体層472における第2端の近傍部分に接続されている。
【0068】
図14に示したように、17層目の誘電体層47のマーク形成面には、導体層よりなるマーク層474が形成されている。
【0069】
図3および図4に示した積層体10は、1層目の誘電体層31のパターン形成面が積層体10の底面10Aになり、17層目の誘電体層47のマーク形成面およびマーク層474の上面が積層体10の上面10Bになるように、1層目ないし17層目の誘電体層31~47が積層されて構成される。
【0070】
以下、図8に示した電子部品1の回路の構成要素と、図3図4図9ないし図14に示した積層体10の内部の構成要素との対応関係について説明する。キャパシタC1は、図10(a)ないし図12(a)に示した導体層341,351,361,371,381,391,401と、これらの導体層の間の誘電体層34~39とによって構成されている。導体層341,361,381,401は、スルーホール31T1,32T1,33T1,34T1,35T1,36T1,37T1,38T1,39T1を介して、信号端子11を構成する導体層311に接続されている。導体層351,371,391は、スルーホール35T7,36T7,37T7,38T7を介して互いに接続されている。
【0071】
キャパシタC2は、図10(a)ないし図11(b)に示した導体層342,352,362,372,382と、これらの導体層の間の誘電体層34~37とによって構成されている。導体層342,362,382は、スルーホール31T2,32T2,33T2,34T2,35T2,36T2,37T2を介して、信号端子12を構成する導体層312に接続されている。導体層352は、導体層353を介して、キャパシタC1を構成する導体層351に接続されている。導体層352,372は、スルーホール35T8,36T8を介して互いに接続されている。
【0072】
キャパシタC3は、図9(b)ないし図10(a)に示した導体層321,331,341と、これらの導体層の間の誘電体層32,33とによって構成されている。導体層321,341は、スルーホール31T1,32T1,33T1を介して、信号端子11を構成する導体層311に接続されている。
【0073】
キャパシタC4は、図9(b)ないし図10(a)に示した導体層322,332,342およびこれらの導体層の間の誘電体層32,33と、図11(b),(c)に示した導体層382,392およびこれらの導体層の間の誘電体層38とによって構成されている。導体層322,342,382は、スルーホール31T2,32T2,33T2,34T2,35T2,36T2,37T2を介して、信号端子12を構成する導体層312に接続されている。
【0074】
インダクタL1は、図12(c)ないし図13(c)に示した導体層441,451,461,471と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。導体層441は、スルーホール33T5,34T5,35T5,36T5,37T5,38T5,39T5,40T5,41T5を介して、キャパシタC3を構成する導体層331に接続されている。導体層471は、スルーホール31T3,32T3,33T3,34T3,35T3,36T3,37T3,38T3,39T3,40T3,41T3,44T3,45T3,46T3を介して、グランド端子13を構成する導体層313に接続されている。
【0075】
インダクタL2は、図12(c)ないし図13(c)に示した導体層442,452,462,472と、これらの導体層に接続された複数のスルーホールとによって構成されている。導体層442は、スルーホール33T6,34T6,35T6,36T6,37T6,38T6,39T6,40T6,41T6を介して、キャパシタC4を構成する導体層332,392に接続されている。導体層472は、スルーホール31T4,32T4,33T4,34T4,35T4,36T4,37T4,38T4,39T4,40T4,41T4,44T4,45T4,46T4を介して、グランド端子13を構成する導体層313に接続されている。
【0076】
前述のように、積層体10は、シールド20とグランド端子11,13とを電気的に接続する2つの接続部を含んでいる。スルーホール31T3,32T3,33T3,34T3,35T3と導体層363は、上記2つの接続部のうちの一方を構成する。また、スルーホール31T4,32T4,33T4,34T4,35T4と導体層364は、上記2つの接続部のうちの他方を構成する。
【0077】
次に、図15を参照して、本実施の形態に係る電子部品1の製造方法について説明する。本実施の形態に係る電子部品1の製造方法は、積層体10および複数の端子11,12,13を含む構造体を作製する工程と、この構造体における積層体に対してシールド20を形成する工程とを含んでいる。
【0078】
本実施の形態では、特に、積層体10の複数の誘電体層の材料をセラミックとして、積層体10を低温同時焼成法によって作製する。また、この製造方法では、複数の積層体10を同時に作製する。以下、この場合における電子部品1の製造方法について、図15を参照して詳細に説明する。
【0079】
図15に示したように、電子部品1の製造方法は、後に焼成されて構造体になる焼成前構造体を作製する工程S101と、焼成前構造体を研磨する工程S102と、研磨後の焼成前構造体を焼成して構造体にする工程S103と、構造体における積層体に対してシールド20を形成する工程S104とを含んでいる。工程S101ないし工程S103は、前記の構造体を作製する工程に対応する。
【0080】
焼成前構造体を作製する工程S101では、まず、複数の誘電体層に対応する複数の焼成前のセラミックシートを作製する。1つの焼成前のセラミックシートは、それぞれ後に同種の誘電体層になる複数の誘電体層予定部を含んでいる。1つの焼成前のセラミックシートにおいて、複数の誘電体層予定部は、縦方向と横方向にそれぞれ複数個並ぶように、複数列に配列されている。
【0081】
焼成前構造体を作製する工程S101では、次に、1つ以上のスルーホールが設けられた誘電体層を形成するために用いられる焼成前のセラミックシートにおける複数の誘電体層予定部の各々に、1つ以上のスルーホール用の孔を形成する。次に、スルーホールと導体層の少なくとも一方が設けられた誘電体層を形成するために用いられる焼成前のセラミックシートにおける複数の誘電体層予定部の各々に、後に焼成されてスルーホールを構成する導体部になる焼成前スルーホール用導体部と、後に焼成されて導体層になる焼成前導体層の少なくとも一方を形成する。なお、この時点では、後に複数のマーク層474になる複数の焼成前の導体層は形成されていない。
【0082】
焼成前構造体を作製する工程S101では、次に、複数の焼成前のセラミックシートを、複数の誘電体層の積層の順序に対応させて積層して、焼成前シート積層体を形成する。次に、この焼成前シート積層体における、誘電体層47を形成するために用いられる焼成前のセラミックシートに、後に複数のマーク層474になる複数の焼成前の導体層を形成する。次に、焼成前シート積層体に熱と圧力を加えて、複数の焼成前のセラミックシートを一体化する。次に、焼成前シート積層体を切断して、複数の焼成前構造体を作製する。
【0083】
なお、マーク層474は、誘電体層47とは異なる誘電体層に形成してもよい。この場合には、後に複数のマーク層474になる複数の焼成前の導体層が形成された焼成前のセラミックシートと、他の複数のセラミックシートとを積層して、焼成前シート積層体を形成してもよい。
【0084】
工程S102では、工程S101で作成された複数の焼成前構造体を研磨して、複数の焼成前構造体の各々に、複数の面取りされた角部を形成する。複数の焼成前構造体を研磨する方法としては、例えばバレル研磨が用いられる。
【0085】
工程S103では、研磨後の複数の焼成前構造体を焼成して、複数の構造体にする。
【0086】
工程S104では、複数の構造体の各々における積層体10に対してシールド20を形成する。シールド20の少なくとも一部は、スパッタ法によって形成されてもよい。シールド20が金属層21,22,23からなる場合には、金属層21,22,23を全てスパッタ法によって形成してもよい。あるいは、金属層21をスパッタ法によって形成し、金属層22をめっき法によって形成し、金属層23をスパッタ法またはめっき法によって形成してもよい。この場合、金属層21は本発明における第1の金属層に対応し、金属層22は本発明における第2の金属層に対応する。
【0087】
次に、本実施の形態に係る電子部品1およびその製造方法の効果について説明する。電子部品1では、シールド20が、積層体10の上面10Bおよび4つの側面10C~10Fの全体を覆っている。これにより、電子部品1によれば、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を抑制することができる。以下、これについて具体的に説明する。
【0088】
シールド20は、電子部品1の積層体10内の構成要素が発生する電磁波が電子部品1の外部に漏れることを抑制すると共に、電子部品1の近くに実装された他の電子部品が発生する電磁波が電子部品1の積層体10内へ入り込むことを抑制する。そのため、電子部品1によれば、実装の高密度化に伴って、複数の電子部品間において電磁干渉が生じることを抑制することができる。この効果には、電子部品1の積層体10内の構成要素が発生する電磁波が他の電子部品に悪影響を与えることを抑制することができるという効果と、他の電子部品が発生する電磁波が電子部品1に悪影響を与えることを抑制することができるという効果とを含む。
【0089】
また、電子部品1を含む複数の電子部品を備えた機器では、複数の電子部品を覆うシールドケースが設けられる場合がある。この場合、シールド20は、電子部品1の積層体10内の導体とシールドケースによって容量が形成されることを抑制する。これにより、電子部品1によれば、実装時の電子部品1の特性が設計時の特性とは異なることを抑制することができる。
【0090】
電子部品1の積層体10内の構成要素のうち、電磁波を発生する構成要素としては、例えば、インダクタL1,L2を構成する2つのコイルが挙げられる。前述の通り、インダクタL1を構成するコイルは第2の方向D2に延びる中心軸CA1の周りに巻回され、インダクタL2を構成するコイルは第2の方向D2に延びる中心軸CA2の周りに巻回されている。インダクタL1,L2を構成する2つのコイルの各々が発生する電磁波では、電磁波の各方向の成分のうち、中心軸CA1,CA2に平行な第2の方向D2の成分が最も大きくなる。この場合、シールド20の5つの部分20B~20Fのうち、中心軸CA1,CA2と交差する上面被覆部分20Bを、側面被覆部分20C~20Fよりも厚くすることにより、2つのコイルが発生する電磁波が電子部品1の外部に漏れることを、効果的に抑制することができる。
【0091】
なお、シールド20の5つの部分20B~20Fの全てを厚くすると、実装基板上の電子部品1の占有面積が大きくなり、実装の高密度化の妨げになる。シールド20のうち、上面被覆部分20Bを側面被覆部分20C~20Fよりも厚くすることにより、実装の高密度化を妨げることなく、2つのコイルが発生する電磁波が電子部品1の外部に漏れることを効果的に抑制することが可能になる。
【0092】
以下、シールド20による効果を示すシミュレーションの結果について説明する。図16は、シミュレーションにおける電子部品の第1ないし第3のモデルの構成を説明するための斜視図である。第1ないし第3のモデルは、積層体210と、6つの端子211,212,213,214,215,216を備えている。積層体210は、底面210Aと、上面210Bと、4つの側面210C~210Fとを有している。6つの端子211~216は、底面210Aに設けられている。
【0093】
端子212,214は、信号端子である。端子211,213,215は、グランドに接続されるグランド端子である。端子216は、無接続端子である。
【0094】
積層体210は、コイル230を含んでいる。コイル230の一端は、信号端子212に電気的に接続され、コイル230の他端は、信号端子214に電気的に接続されている。
【0095】
第1のモデルは、シールドを備えていない。第2のモデルと第3のモデルは、シールドを備えている。シールドは、積層体210の上面210Bを覆う上面被覆部分と、積層体210の4つの側面210C~210Fを覆う4つの側面被覆部分を含んでいる。第2のモデルと第3のモデルでは、グランド端子211,213,215は、シールドに電気的に接続されている。
【0096】
コイル230は、図示しない中心軸の周りに巻回され、シールドの上面被覆部分が中心軸と交差する。第2のモデルでは、シールドの上面被覆部分と4つの側面被覆部分は、いずれも1μmの厚みを有している。第3のモデルでは、シールドの上面被覆部分は2μmの厚みを有し、シールドの4つの側面被覆部分はいずれも1μmの厚みを有している。
【0097】
シミュレーションでは、第1ないし第3のモデルについて、コイル230に通電した場合に電子部品の周囲に漏れた電界の強度(以下、漏れ電界強度と言う。)の周波数特性を調べた。シミュレーションの結果を図17に示す。図17において、横軸は周波数を示し、縦軸は漏れ電界強度を示している。また、図17において、符号241を付した線は第1のモデルの特性を示し、符号242を付した線は第2のモデルの特性を示し、符号243を付した線は第3のモデルの特性を示している。
【0098】
図17の横軸の周波数範囲のほぼ全域において、第2のモデルにおける漏れ電界強度は第1のモデルにおける漏れ電界強度よりも小さい。また、図17の横軸の周波数範囲の全域において、第3のモデルにおける漏れ電界強度は、第1および第2のモデルにおける漏れ電界強度よりも小さい。図17から、シールドを設けることにより、コイル230が発生する電磁波が電子部品の外部に漏れることを抑制できることが分かる。また、図17から、シールドのうち上面被覆部分を4つの側面被覆部分よりも厚くすることにより、コイル230が発生する電磁波が電子部品の外部に漏れることを、より効果的に抑制できることが分かる。
【0099】
次に、本実施の形態に係る電子部品1の他の効果について説明する。本実施の形態では、シールド20は、積層された複数の金属層を含んでいてもよい。この場合、複数の金属層の各々が上面対応部分と4つの側面対応部分とを含み、上面対応部分と4つの側面対応部分が連続していることが好ましい。これにより、シールド20によって、積層体10の上面10Bおよび4つの側面10C~10Fの全体を確実に覆うことができ、シールド20の効果を確実に発揮させることができる。
【0100】
また、本実施の形態では、積層体10は、複数の面取りされた角部を有していてもよい。これにより、積層体10の複数の角部にも、シールド20を構成する材料を確実に被着させることができ、積層体10の複数の角部においてシールド20が部分的に欠けることを防止することができる。
【0101】
また、本実施の形態では、シールド20は、部分的被覆部20Pを含んでいてもよい。部分的被覆部20Pは、積層体10の底面10Aと実装基板100の基板本体110の上面110aとの間の隙間を電磁波が通過することを抑制する機能を有する。これにより、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を、より効果的に抑制することが可能になる。
【0102】
また、本実施の形態では、積層体10の上面10Bは、マーク部分10B1と周辺部分10B2とを含み、マーク部分10B1と周辺部分10B2との間には段差がある。そのため、本実施の形態では、シールド20の上面被覆部分20Bの上面に、マーク部分20B1が形成される。これにより、本実施の形態によれば、シールド20の上面被覆部分20Bによってマーク部分10B1が覆われていても、マーク部分10B1に対応するマーク部分20B1を認識することが可能になる。
【0103】
また、本実施の形態に係る電子部品1の製造方法によれば、シールド20の上面被覆部分20Bと4つの側面被覆部分20C~20Fを、これらが連続するように、同時に形成することができる。従って、本実施の形態に係る製造方法によれば、積層体10の上面10Bおよび4つの側面10C~10Fの全体を確実に覆うことのできるシールド20を容易に形成することができる。
【0104】
また、シールド20が部分的被覆部20Pを含む場合、本実施の形態に係る電子部品1の製造方法では、シールド20を構成する材料が積層体10の底面10Aに回り込むようにシールド20を形成することにより、上面被覆部分20Bおよび側面被覆部分20C~20Fと同時に部分的被覆部20Pを形成することができる。
【0105】
次に、図18を参照して、本実施の形態に係る電子部品1の変形例について説明する。この変形例は、マーク部分10B1が周辺部分10B2に対して窪んでいる例である。変形例では、積層体10は、18層目の誘電体層48を含んでいる。図18は、この誘電体層48を示している。誘電体層48のマーク形成面には、凹部481が形成されている。
【0106】
変形例では、積層体10は、誘電体層48のマーク形成面が積層体10の上面10Bになるように、1層目ないし18層目の誘電体層31~48が積層されて構成される。凹部481の底部はマーク部分10B1になり、マーク形成面のうち凹部481以外の部分は周辺部分10B2になる。
【0107】
変形例においても、シールド20の上面被覆部分20Bの上面にマーク部分20B1が形成される。変形例では、マーク部分20B1は、周辺部分20B2に対して窪んでいる。変形例においても、マーク部分10B1に対応するマーク部分20B1を認識することが可能になる。
【0108】
[第2の実施の形態]
次に、図19および図20を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る電子部品1について説明する。図19は、本実施の形態に係る電子部品1の底部を示す斜視図である。図20は、本実施の形態における積層体10の1層目の誘電体層31のパターン形成面を示す説明図である。
【0109】
図19に示したように、本実施の形態では、シールド20は、上面被覆部分20Bおよび側面被覆部分20C~20Fの他に、底面被覆部分20Aを含んでいる。底面被覆部分20Aは、積層体10の底面10Aの一部を覆うと共に複数の信号端子11,12に接触せずにグランド端子に接続されている。
【0110】
図20に示したように、本実施の形態では、積層体10の1層目の誘電体層31のパターン形成面には、導体層311,312,315が形成されている。導体層311,312は、第1の実施の形態と同じである。導体層315は、誘電体層31のパターン形成面のうち、導体層311,312が配置された部分とその周囲の所定の幅の部分とを除いた、残りの部分を覆っている。
【0111】
導体層315のうち、図9(a)に示した導体層313に対応する部分は、グランド端子13を構成する。導体層315の残りの部分は、底面被覆部分20Aを構成する。
【0112】
また、誘電体層31には、スルーホール31T1,31T2,31T3,31T4が形成されている。誘電体層31におけるスルーホール31T1,31T2,31T3,31T4の位置は、第1の実施の形態と同じである。スルーホール31T3,31T4は、導体層315のうちグランド端子13を構成する部分に接続されている。
【0113】
本実施の形態では、シールド20は、第1の実施の形態における部分的被覆部分20Pを含んでいない。側面被覆部分20C~20Fは、底面被覆部分20Aに接続されている。
【0114】
本実施の形態に係る電子部品1では、積層体10の底面10Aのうち、信号端子11,12が配置された部分を除いた残りの部分の大部分が、グランド端子13およびシールド20の底面被覆部分20Aによって覆われている。これにより、本実施の形態によれば、実装の高密度化に伴う電磁気的な不具合の発生を、より効果的に抑制することが可能になる。
【0115】
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0116】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、各実施の形態には、第1の方向D1と第2の方向D2が同じ方向である例を示したが、第1の方向D1と第2の方向D2は互いに異なる方向であってもよい。また、第1の方向D1と第2の方向D2の少なくとも一方は、積層体10の複数の誘電体層が積層された方向に直交する方向であってもよい。
【0117】
また、本発明は、図8に示した回路構成の電子部品に限らず、請求の範囲の要件を満たす限り、種々の回路構成の電子部品に適用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1…電子部品、10…積層体、10B1…マーク部分、10B2…周辺部分、11,12,13…端子、20…シールド、20B…上面被覆部分、20B1…マーク部分、20B2…周辺部分、20C~20F…側面被覆部分。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図18
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図20