(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116577
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】磁気テープ、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20220803BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20220803BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20220803BHJP
G11B 5/725 20060101ALI20220803BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20220803BHJP
G11B 23/107 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/738
G11B5/78
G11B5/725
G11B5/735
G11B23/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021012804
(22)【出願日】2021-01-29
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小柳 典子
【テーマコード(参考)】
5D006
【Fターム(参考)】
5D006AA01
5D006CA04
5D006EA01
5D006FA04
5D006FA06
(57)【要約】
【課題】高温環境で走行を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ない磁気テープを提供すること。
【解決手段】非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気テープ。温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において磁気ヘッドと摺動させた後に上記磁性層の表面から抽出される流体潤滑剤量は、質量基準で、上記磁性層の表面から上記摺動前に抽出される流体潤滑剤量の50%以上である。上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであって、
温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において磁気ヘッドと摺動させた後に前記磁性層の表面から抽出される流体潤滑剤量は、質量基準で、前記磁性層の表面から前記摺動前に抽出される流体潤滑剤量の50%以上である、磁気テープ。
【請求項2】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記非磁性層の非磁性粉末は、カーボンブラックおよび非磁性酸化鉄粉末からなる群から選択される非磁性粉末である、請求項1または2に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記流体潤滑剤は、下記(1)および(2):
(1)沸点が400℃以上
(2)分子量が400以上
の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、脂肪酸エステルである、請求項4に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、炭酸エステルである、請求項4に記載の磁気テープ。
【請求項7】
前記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、有機アミンである、請求項4に記載の磁気テープ。
【請求項8】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の磁気テープを含む磁気テープ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種データを記録するための記録媒体として、磁気記録媒体が広く使用されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-239575号公報
【特許文献2】特開2012-014809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている。
【0005】
特許文献1では、磁気記録媒体を低温環境での使用に適するものとするための検討が行われている(特許文献1の段落0004および0005参照)。
【0006】
これに対し、本発明者は、高温環境での磁気テープの使用について検討した。これは、以下の理由による。データストレージ用途に用いられる磁気テープは、温度管理されたデータセンターで使用されることがある。一方、データセンターではコスト低減のために省電力化が求められている。省電力化のためには、データセンターにおける温度管理条件を現在より緩和できるか、または管理を不要にできることが望ましい。しかし、温度管理条件を緩和し、または管理を行わないと、磁気テープが、高温に晒されることが想定される。
【0007】
上記の点に関して、本発明者の検討により、高温環境(例えば雰囲気温度40℃以上、更には60℃以上の過酷な高温環境)では、磁気テープを繰り返し走行させて磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生を行うと、電磁変換特性が低下し易い傾向があることが明らかとなった。高温環境での磁気テープの使用について、かかる傾向があることは、特許文献1にも特許文献2にも何ら記載されていない。
【0008】
本発明の一態様は、高温環境で走行を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ない磁気テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであって、
温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において磁気ヘッドと摺動させた後に上記磁性層の表面から抽出される流体潤滑剤量は、質量基準で、上記磁性層の表面から上記摺動前に抽出される流体潤滑剤量の50%以上である、磁気テープ、
に関する。
【0010】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体と上記磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を更に有することができる。
【0011】
一形態では、上記非磁性層の非磁性粉末は、カーボンブラックおよび非磁性酸化鉄粉末からなる群から選択される非磁性粉末であることができる。
【0012】
一形態では、上記流体潤滑剤は、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤を含むことができる。
(1)沸点が400℃以上
(2)分子量が400以上
【0013】
一形態では、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、脂肪酸エステルであることができる。
【0014】
一形態では、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、炭酸エステルであることができる。
【0015】
一形態では、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、有機アミンであることができる。
【0016】
一形態では、上記磁気テープは、上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有することができる。
【0017】
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0018】
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープ装置に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、高温環境で走行を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ない磁気テープ、ならびに、この磁気テープを含む磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】磁気テープと磁気ヘッドとを摺動させるために使用する装置例を示す。
【
図2】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
【
図3】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[磁気テープ]
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープに関する。上記磁気テープにおいて、温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において磁気ヘッドと摺動させた後に上記磁性層の表面から抽出される流体潤滑剤量は、質量基準で、上記磁性層の表面から上記摺動前に抽出される流体潤滑剤量の50%以上である。
以下、上記磁気テープについて、更に詳細に説明する。なお、上記環境は高温環境の一例として採用したものであり、上記磁気テープは上記環境で使用されるものに限定されるものではない。
【0022】
<流体潤滑剤抽出量>
本発明および本明細書において、「流体潤滑剤」とは、脂肪酸エステル、炭酸エステル、有機アミンおよびフッ素含有化合物からなる群から選択される化合物をいうものとする。
【0023】
本発明および本明細書において、上記摺動前および上記摺動後に磁性層の表面からの流体潤滑剤抽出量は、以下の方法によって求められる。流体潤滑剤抽出量は、質量基準の値とする。以下において、上記摺動前の磁性層の表面からの流体潤滑剤抽出量を「摺動前流体潤滑剤抽出量」ともいい、上記摺動後の磁性層の表面からの流体潤滑剤抽出量を「摺動後流体潤滑剤抽出量」ともいう。なお、本発明および本明細書において、「磁性層(の)表面」とは、磁気テープの磁性層側表面と同義である。
【0024】
(テープ試料の準備)
測定対象の磁気テープの長手方向の任意の位置から、長さ5cmのテープ試料と長さ100mのテープ試料とを切り出す。
【0025】
(摺動前流体潤滑剤抽出量)
上記の長さ5cmのテープ試料をメタノール30mLに3時間60℃(液温)加熱浸漬する。磁気テープが後述するようにバックコート層を有する場合には、上記加熱浸漬前の任意の段階でバックコート層を公知の方法で除去し、バックコート層が除去されたテープ試料を上記加熱浸漬に付す。この点は、抽出後流体潤滑剤量を求める際も同様である。
上記加熱浸漬によってメタノールに抽出された抽出成分を、メタノールを蒸発させた後にガスクロマトグラフ法により定性分析および定量分析する。かかる分析によって、上記抽出成分に含まれる、本発明および本明細書において流体潤滑剤に分類される成分の含有量を求める。こうして求められる含有量を、摺動前流体潤滑剤抽出量とする。上記定性分析により、本発明および本明細書において流体潤滑剤に分類される成分が二種以上検出された場合には、それら二種以上の成分の合計含有量を、摺動前流体潤滑剤抽出量とする。この点は、以下に説明する摺動後流体潤滑剤抽出量についても同様である。
【0026】
(磁気テープと磁気ヘッドとの摺動)
上記の長さ100mのテープ試料の磁性層の表面と磁気ヘッドとを摺動させるために、2つのテープリールを有するリールテスターを使用する。リールテスターとしては、市販品または公知の方法で組み立てたリールテスターを使用することができる。一例として、
図1に、磁気テープと磁気ヘッドとを摺動させるために使用する装置例を示す。
磁気テープと磁気ヘッドとの摺動は、雰囲気温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において行う。
上記テープ試料の一方の端部をリールテスターの一方のテープリールに固定し、他方の端部をリールテスターの他方のテープリールに固定して上記テープ試料をリールテスターに取り付ける。
リールテスターに取り付ける磁気ヘッドとしては、LTO(Linear Tape-Open)8ヘッドを使用する。本発明および本明細書において、「LTO8ヘッド」とは、LTO8規格にしたがう磁気ヘッドである。LTO8ヘッドとしては、LTO8ドライブに搭載されている磁気ヘッドを取り出して使用してもよく、LTO8ドライブ用の磁気ヘッドとして市販されている磁気ヘッドを使用してもよい。ここで「LTO8ドライブ」とは、LTO8規格にしたがうドライブ(磁気テープ装置)である。この点は、他の世代(Generation)のドライブについても同様である。例えば、「LTO9ドライブ」とは、LTO9規格にしたがうドライブである。なお、LTO8規格が近年の高密度記録化に対応し得る規格であることを考慮し、上記摺動のための磁気ヘッドとしてLTO8ヘッドを採用したものであって、上記磁気テープはLTO8ドライブにおいて使用されるものに限定されない。上記磁気テープには、LTO8ドライブにおいてデータの記録および/再生が行われてもよく、LTO9ドライブまたは更に次世代のドライブにおいてデータの記録および/再生が行われてもよく、または、LTO7等のLTO8より前の世代のドライブにおいてデータの記録および/再生が行われてもよい。
リールテスターにおいて上記テープ試料を走行させ、磁性層の表面を磁気ヘッドと接触させて摺動させる。磁気テープ(上記テープ試料)の走行条件は、以下の条件とする。以下の磁気テープの長手方向にかけるテンションの値および磁気テープの走行速度は、リールテスターにおける設定値である。単位に関して、「gf」はグラム重であり、1N(ニュートン)は約102gfである。
磁気テープの走行速度:4m/秒
磁気テープの長手方向にかけるテンション:100gf
磁気テープの走行パス:20,000シングルパス
ラップ角θ:1°
【0027】
(摺動後流体潤滑剤抽出量)
上記摺動後のテープ試料の一方の端部を長さ0(ゼロ)mの位置、他方の端部を長さ100mの位置として、長手方向の25mの位置から75mの位置の間の任意の位置から、5cmのテープ試料を切り出す。切り出したテープ試料をメタノール30mLに3時間60℃(液温)加熱浸漬する。
上記加熱浸漬によってメタノールに抽出された抽出成分を、メタノールを蒸発させた後にガスクロマトグラフ法により定性分析および定量分析する。かかる分析によって、上記抽出成分に含まれる、本発明および本明細書において流体潤滑剤に分類される成分の含有量を求める。こうして求められる含有量を、摺動後流体潤滑剤抽出量とする。
【0028】
<流体潤滑剤残存率>
上記磁気テープにおいて、温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において磁気ヘッドと摺動させた後に上記磁性層の表面から抽出される流体潤滑剤量は、質量基準で、上記磁性層の表面から上記摺動前に抽出される流体潤滑剤量の50%以上である。即ち、上記磁気テープについて、上記方法によって求められた摺動前流体潤滑剤抽出量と摺動後流体潤滑剤抽出量とから、「(摺動後流体潤滑剤抽出量/摺動前流体潤滑剤抽出量)×100」として算出される値は、50%以上である。かかる値を、「流体潤滑剤残存率」と呼ぶこととする。
上記磁気テープでは、流体潤滑剤残存率が50質量%以上である。かかる磁気テープによれば、磁気テープの走行を高温環境下で繰り返しても電磁変換特性の低下を抑制できることが、本発明者の鋭意検討の結果、新たに見出された。この点に関して、以下に更に説明する。
磁気テープへのデータの記録および記録されたデータの再生は、通常、磁気テープを走行させて磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させ摺動させることによって行われる。磁気テープの走行を繰り返すことで磁性層表面と接触し摺動することによって磁気ヘッドに大量の付着物が発生すると、付着物がスペーシングロスの原因となり、電磁変換特性は低下してしまう。この点に関して、流体潤滑剤は、走行熱を散逸することによって磁気ヘッドに付着物(デブリ(debris)と呼ばれる)が発生することを抑制する役割を果たすことができると考えられる。しかし、従来磁気テープの使用が主に想定されていた環境よりも高温の環境(例えば雰囲気温度40℃以上、更には60℃以上の過酷な高温環境)で走行を繰り返すと、従来主に想定されていた使用環境における走行と比べて、磁性層表面から流体潤滑剤が枯渇し易くなり、その結果、デブリが発生し易くなると推察される。これに対し、本発明者は鋭意検討の結果、先に記載した方法によって求められる流体潤滑剤残存率が50質量%以上の磁気テープは、高温環境下で走行を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ないことを新たに見出した。これは、高温環境での繰り返し走行における流体潤滑剤の枯渇が抑制されているためと考えられる。
ただし、上記には本発明者の推察が含まれる。本発明は、本明細書に記載の推察に限定されるものではない。
【0029】
上記磁気テープの流体潤滑剤残存率は、50%以上であり、高温環境での繰り返し走行における電磁変換特性の低下をより一層抑制する観点から、52%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、57%以上、60%以上、62%以上、65%以上、67%以上、70%以上、72%以上、75%以上、77%以上、80%以上、82%以上、85%以上の順に更に好ましい。また、上記磁気テープの流体潤滑剤残存率は、100%以下または100%未満であることができ、例えば99%以下、98%以下または95%以下であることができる。先に記載した理由から、上記磁気テープの流体潤滑剤残存率は高いほど好ましい。
【0030】
以下に、本発明者が鋭意検討した結果、磁気テープの流体潤滑剤残存率の制御に関して得た知見を記載する。
【0031】
流体潤滑剤として、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤を使用することは、流体潤滑剤残存率を高めることに寄与し得る。かかる流体潤滑剤は、高温環境において揮発し難く、高温環境での走行における揮発の抑制が可能であるか揮発量を少量に抑えることが可能であると考えられる。
(1)沸点が400℃以上
(2)分子量が400以上
【0032】
本発明および本明細書において、「沸点」は、JIS K 2233:2017に規定されている平衡還流沸点をいい、JIS K 2233:2017にしたがい求められる。上記(1)を満たす流体潤滑剤の沸点は、420℃以上であることが好ましく、450℃以上であることがより好ましく、470℃以上であることが更に好ましい。また、上記(1)を満たす流体潤滑剤の沸点は、例えば700℃以下、650℃以下もしくは600℃以下であることができ、またはここに例示した値を上回ることもできる。
【0033】
本発明および本明細書において、流体潤滑剤の「分子量」とは、単量体の流体潤滑剤については構造式から算出される分子量である。重合体(ホモポリマーとコポリマー(共重合体)とを包含する)の流体潤滑剤については数平均分子量をいうものとする。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。GPC測定条件としては、下記条件を挙げることができ、後述の実施例に示す流体潤滑剤の数平均分子量は、下記条件下で求められた値である。
測定器:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSKgel Super AWM-H(東ソー社製)3本
溶離液:N-メチル-2-ピロリドン(添加剤として10mM臭化リチウム添加)
流速:0.35mL/min
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率(RI;Refractive Index)検出器
【0034】
上記(2)を満たす流体潤滑剤の分子量は、420以上、450以上であることがより好ましく、470以上であることが更に好ましく、500以上であることが一層好ましい。また、上記(2)を満たす流体潤滑剤の分子量は、例えば700以下、650以下もしくは600以下であることができ、またはここに例示した値を上回ることもできる。
【0035】
先に記載したように、本発明および本明細書における「流体潤滑剤」は、脂肪酸エステル、炭酸エステル、有機アミンおよびフッ素含有化合物からなる群から選択される化合物である。
脂肪酸エステルとしては、モノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエーテルの脂肪酸エステル等を挙げることができる。脂肪酸エステルには、分岐構造および/または不飽和結合を含むものも包含される。
炭酸エステルは、R1O-C(=O)-OR2で表される化合物であり、R1およびR2は、それぞれ独立に置換基を表し、かかる置換基は、直鎖の飽和炭化水素基または分岐構造を含む飽和炭化水素基であることができる。
有機アミンとしては、有機一級アミン、有機二級アミンおよび有機三級アミンが挙げられ、好ましくは有機二級アミンおよび有機三級アミン、より好ましくは有機三級アミンが挙げられる。有機三級アミンとしては、トリアルキルアミンが好ましい。トリアルキルアミンが有するアルキル基は、好ましくは炭素数1~18のアルキル基である。トリアルキルアミンが有する3つのアルキル基は、同一であっても異なっていてもよい。また、有機アミンとしては、ポリアルキレンイミンも好ましい。ポリアルキレンイミンは、アルキレンイミンの開環重合により得ることができる重合体である。アルキレンイミンとしては、例えばエチレンイミンを挙げることができる。例えば、エチレンイミンの開環重合によって得られるポリアルキレンイミンがポリエチレンイミンである。
フッ素含有化合物とは、1分子あたり1つ以上のフッ素原子(F)を含有する化合物であり、具体例としては、フルオロアルキルカルボン酸エステル等が挙げられる。フルオロアルキルカルボン酸エステルとしては、アルキル基を構成するすべての水素原子がフッ素原子に置換されているパーフルオロアルキルカルボン酸エステルを挙げることができる。
上記磁気テープから先に記載した方法によって抽出される流体潤滑剤には、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす脂肪酸エステル;上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす炭酸エステル;上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす有機アミン;ならびに上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすフッ素含有化合物からなる群から選ばれる一種以上が含まれることが好ましい。
流体潤滑剤の具体例としては、後述の実施例で使用されている流体潤滑剤を挙げることができる。ただし、上記磁気テープに含まれる流体潤滑剤は、それら具体例に限定されるものではない。
【0036】
例えば、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末を含む非磁性層を有する磁気テープについては、非磁性層形成用組成物および/または磁性層形成用組成物に、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤の一種以上を含有させることが好ましく、非磁性層形成用組成物に上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤の一種以上を含有させることがより好ましい。非磁性層形成用組成物の調製時、流体潤滑剤は、非磁性粉末100.0質量部あたり、0.2~7.0質量部の範囲の量で添加することが好ましく、1.0~4.0質量部の範囲の量で添加することがより好ましい。
一形態では、非磁性支持体上に非磁性層を一層のみ形成することができ、他の一形態では非磁性支持体上に非磁性層を二層以上形成することができる。非磁性支持体上に二層以上の非磁性層を形成する場合、これら非磁性層は、一形態では同じ組成の非磁性層形成用組成物を用いて形成することができ、他の一形態では異なる組成の非磁性層形成用組成物を用いて形成することができる。いずれの形態においても、一形態では、非磁性層形成用組成物に添加される流体潤滑剤の全量が、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤であることができる。他の一形態では、非磁性層形成用組成物に添加される流体潤滑剤の一部が、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤であることができる。この場合、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤は、非磁性層形成用組成物に含まれる流体潤滑剤の全量に対して、質量基準で30%以上を占めることが好ましく、50%以上(例えば50%以上90%以下)を占めることがより好ましい。また、非磁性支持体上に二層以上の非磁性層を形成する場合、一形態では、これら非磁性層を形成するための非磁性層形成用組成物のすべてが上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤を含むことができる。他の一形態では、一部の非磁性層を形成するための非磁性層形成用組成物が上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤を含まず、他の非磁性層を形成するための非磁性層形成用組成物が上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす流体潤滑剤を含むことができる。
【0037】
磁気テープの流体潤滑剤残存率の制御に関して、非磁性層を有する磁気テープについては、非磁性層における非磁性粉末の充填性が高くなるほど、非磁性層に流体潤滑剤が存在できる空間が少なくなる。そのような磁気テープでは、非磁性支持体上に塗布された非磁性層形成用組成物の乾燥時および/または磁気テープの走行初期に、非磁性層の外へ流体潤滑剤が移行し易くなり、その結果、走行初期に磁気ヘッドとの摺動によって磁性層の表面から除去される流体潤滑剤量が多くなってしまうと推察される。これに対し、非磁性層における非磁性粉末の充填性を適度に制御できる非磁性粉末を使用して非磁性層を形成することは、磁気テープの流体潤滑剤残存率を高めることに寄与し得る。この点から好ましい非磁性粉末については後述する。
【0038】
ところで、磁気テープの製造時、磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。ここで塗布方式として逐次塗布を採用することは、磁気テープの流体潤滑剤残存率を高めることに寄与し得る。これは、同時重層塗布と比べて、逐次塗布によれば、非磁性層上に形成される磁性層への非磁性層からの流体潤滑剤の移行を抑制できるためと推察される。
【0039】
上記磁気テープの流体潤滑剤残存率は、例えば上記の制御手段を組み合わせることによって、50%以上に制御することができる。
【0040】
以下、上記磁気テープについて、より詳細に説明する。
【0041】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を一種または二種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0042】
強磁性粉末の粒子サイズに関して、粒子サイズの指標としては、平均粒子体積を挙げることもできる。平均粒子体積は、記録密度向上の観点から、2500nm3以下であることが好ましく、2300nm3以下であることがより好ましく、2000nm3以下であることが更に好ましく、1500nm3以下であることが一層好ましい。磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子体積は、500nm3以上であることが好ましく、600nm3以上であることがより好ましく、650nm3以上であることが更に好ましく、700nm3以上であることが一層好ましい。上記の平均粒子体積は、後述する方法によって求められる平均粒子サイズから、球相当体積として求められる値である。
【0043】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0044】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライト型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライト型の結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライト型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライト型の結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0045】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0046】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm3以下であることがより好ましく、1400nm3以下であることが更に好ましく、1300nm3以下であることが一層好ましく、1200nm3以下であることがより一層好ましく、1100nm3以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0047】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0048】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0049】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0050】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0051】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として一種の希土類原子のみ含んでもよく、二種以上の希土類原子を含んでもよい。二種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、二種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく、二種以上用いてもよい。二種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、二種以上の合計についていうものとする。
【0052】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか一種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0053】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0054】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0055】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。
【0056】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて一種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0057】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または二種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0058】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0059】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0060】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0061】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0062】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0063】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントするか、ディスプレイに表示する等して、粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0064】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0065】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
【0066】
また、粉末の針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、上記500個の粒子について得た長軸長の算術平均(平均長軸長)と短軸長の算術平均(平均短軸長)から、「平均長軸長/平均短軸長」として求められる。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(平均長軸長/平均短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0067】
磁性層における強磁性粉末の含有率は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0068】
(結合剤)
上記磁気テープは塗布型の磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における結合剤の重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
GPC装置:HLC-8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL-M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
【0069】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一態様では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一態様では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0070】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。分散剤を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061を参照できる。
【0071】
磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末を挙げることができる。研磨剤を含む磁性層に研磨剤の分散性を向上するために使用され得る添加剤の一例としては、特開2013-131285号公報の段落0012~0022に記載の分散剤を挙げることができる。
【0072】
磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子、カーボンブラック等)等が挙げられる。突起形成剤としては、例えば、平均粒子サイズが5~300nmのものを使用することができる。なお、後述の実施例に示すコロイダルシリカ(シリカコロイド粒子)の平均粒子サイズは、特開2011-048878号公報の段落0015に平均粒径の測定方法として記載されている方法により求められた値である。磁性層の突起形成剤含有量は、例えば強磁性粉末100.0質量部あたり、0.1~3.5質量部であることが好ましく、0.1~3.0質量部であることがより好ましい。
【0073】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0074】
上記磁気テープは、一種または二種以上の流体潤滑剤を、非磁性支持体上の磁性層側の部分に含むことができる。本発明および本明細書において、「非磁性支持体上の磁性層側の部分」とは、非磁性支持体上に直接磁性層を有する磁気テープについては磁性層であり、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を有する磁気テープについては、磁性層および/または非磁性層である。以下において、「非磁性支持体上の磁性層側の部分」を、単に「磁性層側の部分」とも記載する。磁気テープの磁性層側の表面上に存在していることも、磁性層側の部分に含まれることに包含される。上記磁気テープでは、磁気テープの磁性層側の部分に含まれる流体潤滑剤が、磁気ヘッドと磁性層表面との摺動時にせん断および/または圧力を受けて磁性層側の部分の層内から磁性層の表面に適量染み出し得ると考えられ、このことが、高温環境での繰り返し走行において電磁変換特性が低下することを抑制できることにつながると本発明者は推察している。
【0075】
流体潤滑剤を磁性層側の部分に含む磁気テープは、例えば、先に記載したように、流体潤滑剤を含む非磁性層用組成物および/または磁性層形成用組成物を使用して作製することができる。磁性層形成用組成物における流体潤滑剤含有量は、強磁性粉末100.0質量部に対して0.2~7.0質量部の範囲であることが好ましく、1.0~4.0質量部の範囲であることがより好ましい。非磁性層形成用組成物における流体潤滑剤含有量については、先に記載した通りである。
【0076】
潤滑剤に関しては、上記磁気テープは、磁性層側の部分に、脂肪酸および脂肪酸アミドからなる群から選択される成分の一種以上を含むことができる。脂肪酸および脂肪酸アミドは、境界潤滑剤として機能し得る成分と言われている。境界潤滑剤は、粉末の表面に吸着して潤滑膜を形成できる成分と考えられている。
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等を挙げることができ、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。脂肪酸は、金属塩等の塩の形態で磁性層側の部分に含まれていてもよい。
脂肪酸アミドとしては、上記の各種脂肪酸のアミド、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。
脂肪酸量は、磁性層形成用組成物における含有量として、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.1~5.0質量部であり、好ましくは0.3~2.0質量部である。
磁性層形成用組成物における脂肪酸アミド含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.1~1.0質量部であり、好ましくは0.2~0.6質量部である。
脂肪酸および/または脂肪酸アミドは、非磁性層形成用組成物に添加することもできる。
非磁性層形成用組成物における脂肪酸含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.5~10.0質量部であり、好ましくは1.0~7.0質量部である。
非磁性層形成用組成物における脂肪酸アミド含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.1~3.0質量部であり、好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0077】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む一層または複数の非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。
【0078】
磁性層の表面の平滑性を高めるためには、その上に磁性層が形成される面となる非磁性層の表面平滑性を高めることが好ましい。この点から、非磁性層に含まれる非磁性粉末として、平均粒子サイズが小さい非磁性粉末を使用することは好ましい。非磁性粉末の平均粒子サイズは、500nm以下の範囲であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましく、50nm以下であることが一層好ましい。また、非磁性粉末の分散性向上の容易性の観点からは、非磁性粉末の平均粒子サイズは、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましい。
【0079】
非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機粉末でも有機粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。
【0080】
非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、例えば特開2010-24113号公報の段落0040~0041を参照できる。カーボンブラックは一般に粒度分布が大きい傾向があり、分散性に乏しい傾向がある。そのため、カーボンブラックを含む非磁性層は表面平滑性が低い傾向がある。この点から、一形態では、磁性層と隣接する非磁性層としては、カーボンブラック以外の非磁性粉末を含む非磁性層を設けることが好ましい。また、非磁性層を複数設け、磁性層の最も近くに位置する非磁性層をカーボンブラック以外の非磁性粉末を含む非磁性層とすることは好ましい。例えば、非磁性支持体と磁性層との間に二層の非磁性層を設け、非磁性支持体側の非磁性層(「下層非磁性層」とも記載する)をカーボンブラックを含む非磁性層とし、磁性層側の非磁性層(「上層非磁性層」とも記載する)をカーボンブラック以外の非磁性粉末を含む非磁性層とすることは好ましい。また、複数種の非磁性粉末を含む非磁性層形成用組成物では、一種の非磁性粉末を含む非磁性層形成用組成物と比べて非磁性粉末の分散性は低下し易い傾向がある。この点から、複数の非磁性層を設け、各非磁性層に含まれる非磁性粉末の種類を少なくすることは好ましい。また、一形態では、複数種の非磁性粉末を含む非磁性層形成用組成物において非磁性粉末の分散性を高めるために分散剤を使用することが好ましい。かかる分散剤については後述する。
【0081】
無機粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。
【0082】
非磁性粉末の一形態としては、非磁性酸化鉄粉末を挙げることができる。非磁性酸化鉄粉末を使用して形成される非磁性層は、例えば酸化チタン粉末を使用して形成される非磁性層と比べて、非磁性層における非磁性粉末の充填性が高まり難い傾向がある。この点は、カーボンブラックを使用して形成される非磁性層についても当てはまる。これは、酸化チタン粉末の粒子形状は一般に球形であるため、酸化チタン粉末を使用して形成される非磁性層では、非磁性粉末の充填性が高まり易いためと考えられる。非磁性層における非磁性粉末の充填性が高まり難いことは、流体潤滑剤残存率の値を高くするうえで好ましいと本発明者は推察している。非磁性酸化鉄粉末としては、一形態では、α-酸化鉄粉末が好ましい。α-酸化鉄とは、主相がα相の酸化鉄である。
【0083】
非磁性層における非磁性粉末の含有率は、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。複数の非磁性層が設けられている場合、少なくとも1層の非磁性層において非磁性粉末の含有率が上記範囲であることが好ましく、より多くの非磁性層において非磁性粉末の含有率が上記範囲であることがより好ましい。
【0084】
非磁性層は、非磁性粉末を含み、非磁性粉末とともに結合剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細は、非磁性層に関する公知技術が適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0085】
非磁性層に含まれ得る添加剤としては、非磁性粉末の分散性向上に寄与し得る分散剤を挙げることができる。かかる分散剤としては、例えば、RCOOH(Rはアルキル基またはアルケニル基)で表される脂肪酸(例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸等);上記脂肪酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩;上記脂肪酸のエステル;上記脂肪酸のエステルのフッ素を含有した化合物;上記脂肪酸のアミド;ポリアルキレンオキサイドアルキルリン酸エステル;レシチン;トリアルキルポリオレフィンオキシ第四級アンモニウム塩(含有されるアルキル基は炭素数1~5のアルキル基、含有されるオレフィンはエチレン、プロピレン等);フェニルフォスフォン酸;銅フタロシアニン等を使用することができる。これらは、一種のみ使用してもよく、二種以上を併用してもよい。分散剤の含有量は、非磁性粉末100.0質量部に対して、0.2~5.0質量部であることが好ましい。
【0086】
また、添加剤の一例として、有機三級アミンを挙げることができる。有機三級アミンについては、特開2013-049832号公報の段落0011~0018および0021を参照できる。有機三級アミンは、カーボンブラックの分散性向上に寄与し得る。有機三級アミンによりカーボンブラックの分散性を高めるための組成物の処方等については、同公報の段落0022~0024、0027を参照できる。
【0087】
上記アミンは、より好ましくはトリアルキルアミンである。トリアルキルアミンが有するアルキル基は、好ましくは炭素数1~18のアルキル基である。トリアルキルアミンが有する3つのアルキル基は、同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の詳細については、特開2013-049832号公報の段落0015~0016を参照できる。トリアルキルアミンとしては、トリオクチルアミンが特に好ましい。
【0088】
上記で例示した添加剤の中には、本発明および本明細書における流体潤滑剤に該当する化合物も含まれる。かかる化合物は、磁気テープにおいて、流体潤滑剤としての機能、分散剤としての機能等を発揮することができる。
【0089】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0090】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等を行ってもよい。
【0091】
<バックコート層>
上記磁気テープは、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0092】
<各種厚み>
磁気テープの厚み(総厚)に関して、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気テープには記録容量を高めること(高容量化)が求められている。高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし(以下、「薄型化」とも記載する)、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。この点から、上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることがより好ましく、5.3μm以下であることが更に好ましく、5.2μm以下であることが一層好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気テープの厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0093】
例えば、磁気テープの厚み(総厚)は、以下の方法によって測定することができる。
磁気テープの任意の部分からテープサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0094】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
【0095】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等により最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。この点は、複数の非磁性層を有する磁気テープにおける非磁性層の厚みについても同様である。
【0096】
非磁性層の厚みについては、厚い非磁性層を形成するほど、非磁性層形成用組成物の塗布工程および乾燥工程で非磁性粉末の粒子の存在状態が不均一になり易く、各位置での厚みの違いが大きくなって非磁性層の表面が粗くなる傾向がある。磁性層表面の平滑性を高める観点からは非磁性層の表面平滑性が高いことは好ましく、この観点からは、非磁性層の厚みは1.5μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましい。また、非磁性層の厚みは、非磁性層形成用組成物の塗布の均一性向上の観点からは、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
【0097】
バックコート層の厚みは、0.9μm以下が好ましく、0.1~0.7μmが更に好ましい。
【0098】
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。後述の表2に示す非磁性層の厚みは、製造条件から算出した設計厚みである。
【0099】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもかまわない。各層形成用組成物の調製に用いられる成分は、どの工程の最初または途中で添加してもかまわない。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の一種または二種以上を用いることができる。溶媒については、例えば特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、結合剤を混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープを製造するためには、公知の製造技術を各種工程において用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することが好ましい。混練処理の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報を参照できる。分散機は公知のものを使用することができる。各層形成用組成物を調製する任意の段階において、公知の方法によってろ過を行ってもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0100】
(塗布工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体表面上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。先に記載したように、塗布方式として逐次塗布を採用することは、磁気テープの流体潤滑剤残存率を高めるうえで好ましい。
バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の非磁性層および/または磁性層を有する(または非磁性層および/または磁性層が追って設けられる)表面とは反対側の表面に塗布することにより形成することができる。
各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0101】
(その他の工程)
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種工程については、例えば特開2010-24113号公報の段落0052~0057等の公知技術を参照できる。例えば、磁性層形成用組成物の塗布層には、この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向処理を施すことができる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける上記塗布層を形成した非磁性支持体の搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。また、カレンダ処理については、カレンダ条件を強化すると、磁性層表面の平滑性は高まる傾向がある。カレンダ条件としては、カレンダ処理を行う回数(以下、「カレンダ回数」とも記載する。)、カレンダ圧力、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)、カレンダ速度、カレンダロールの硬度等が挙げられる。カレンダ回数を増やすほど、カレンダ処理は強化される。カレンダ圧力、カレンダ温度およびカレンダロールの硬度は、これらの値を大きくするほどカレンダ処理は強化され、カレンダ速度は遅くするほどカレンダ処理は強化される。例えば、カレンダ圧力(線圧)は200~500kg/cmであることができ、250~350kg/cmであることが好ましい。カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、例えば85~120℃であることができ、90~110℃であることが好ましく、カレンダ速度は、例えば50~300m/分であることができ、50~200m/分であることが好ましい。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、例えば、磁気テープカートリッジに巻装すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定され、通常、1/2インチである。1/2インチ=12.65mmである。
スリットして得られた磁気テープには、通常、サーボパターンが形成される。サーボパターンについて、詳細は後述する。
【0102】
(熱処理)
一形態では、上記磁気テープは、以下のような熱処理を経て製造された磁気テープであることができる。また、他の一形態では、上記磁気テープは、以下のような熱処理を経ずに製造された磁気テープであることができる。
【0103】
熱処理としては、スリットして規格にしたがい決定された幅に裁断された磁気テープを、芯状部材に巻き付け、巻き付けた状態で行う熱処理を行うことができる。
【0104】
一形態では、熱処理用の芯状部材(以下、「熱処理用巻芯」と呼ぶ)に磁気テープを巻き付けた状態で上記熱処理を行い、熱処理後の磁気テープを磁気テープカートリッジのリールに巻き取り、磁気テープがリールに巻装された磁気テープカートリッジを作製することができる。
熱処理用巻芯は、金属製、樹脂製、紙製等であることができる。熱処理用巻芯の材料は、スポーキング等の巻き故障の発生を抑制する観点から、剛性が高い材料であることが好ましい。この点から、熱処理用巻芯は、金属製または樹脂製であることが好ましい。また、剛性の指標として、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は0.2GPa(ギガパスカル)以上が好ましく、0.3GPa以上がより好ましい。他方、高剛性の材料は一般に高価であるため、巻き故障の発生を抑制できる剛性を超える剛性を有する材料の熱処理用巻芯を用いることはコスト増につながる。以上の点を考慮すると、熱処理用巻芯の材料の曲げ弾性率は250GPa以下が好ましい。曲げ弾性率は、ISO(International Organization for Standardization)178にしたがい測定される値であり、各種材料の曲げ弾性率は公知である。また、熱処理用巻芯は中実または中空の芯状部材であることができる。中空状の場合、剛性を維持する観点から、肉厚は2mm以上であることが好ましい。また、熱処理用巻芯は、フランジを有していてもよく、有さなくてもよい。
熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープとして最終的に磁気テープカートリッジに収容する長さ(以下、「最終製品長」と呼ぶ)以上の磁気テープを準備し、この磁気テープを熱処理用巻芯に巻き付けた状態で熱処理環境下に置くことにより熱処理を行うことが好ましい。熱処理用巻芯に巻き付ける磁気テープ長は最終製品長以上であり、熱処理用巻芯等への巻き取りの容易性の観点からは、「最終製品長+α」とすることが好ましい。このαは、上記の巻き取りの容易性の観点からは5m以上であることが好ましい。熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは、0.1N(ニュートン)以上が好ましい。また、過度な変形が発生することを抑制する観点から、熱処理用巻芯への巻き取り時のテンションは1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。熱処理用巻芯の外径は、巻き付けの容易性およびコイリング(長手方向のカール)の抑制の観点から、20mm以上が好ましく、40mm以上がより好ましい。また、熱処理用巻芯の外径は100mm以下が好ましく、90mm以下がより好ましい。熱処理用巻芯の幅は、この巻芯に巻き付ける磁気テープの幅以上であればよい。また、熱処理後、熱処理用巻芯から磁気テープを取り外す際には、取り外す操作中に意図しないテープ変形が生じることを抑制するために、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外すことが好ましい。取り外した磁気テープは、一度別の巻芯(「一時巻き取り用巻芯」と呼ぶ)に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリール(一般に外径は40~50mm程度)へ磁気テープを巻き取ることが好ましい。これにより、熱処理時の磁気テープの熱処理用巻芯に対する内側と外側との関係を維持して、磁気テープカートリッジのリールへ磁気テープを巻き取ることができる。一時巻き取り用巻芯の詳細およびこの巻芯へ磁気テープを巻き取る際のテンションについては、熱処理用巻芯に関する先の記載を参照できる。上記熱処理を「最終製品長+α」の長さの磁気テープに施す形態においては、任意の段階で、「+α」の長さ分を切り取ればよい。例えば、一形態では、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリールへ最終製品長分の磁気テープを巻き取り、残りの「+α」の長さ分を切り取ればよい。切り取って廃棄される部分を少なくする観点からは、上記αは20m以下であることが好ましい。
【0105】
上記のように芯状部材に巻き付けた状態で行われる熱処理の具体的形態について、以下に説明する。
熱処理を行う雰囲気温度(以下、「熱処理温度」と呼ぶ)は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。一方、過度な変形を抑制する観点からは、熱処理温度は75℃以下が好ましく、70℃以下がより好ましく、65℃以下が更に好ましい。
熱処理を行う雰囲気の重量絶対湿度は、0.1g/kg Dry air以上が好ましく、1g/kg Dry air以上がより好ましい。重量絶対湿度が上記範囲の雰囲気は、水分を低減するための特殊な装置を用いずに準備できるため好ましい。一方、重量絶対湿度は、結露が生じて作業性が低下することを抑制する観点からは、70g/kg Dry air以下が好ましく、66g/kg Dry air以下がより好ましい。熱処理時間は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、熱処理時間は、生産効率の観点からは、48時間以下が好ましい。
【0106】
(サーボパターンの形成)
上記磁気テープは、磁性層にサーボパターンを有することができる。「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0107】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0108】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0109】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0110】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0111】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0112】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0113】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0114】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0115】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0116】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0117】
また、一形態では、サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整して変化させることによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することができる。このようなテンション調整を行うことは、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録または再生を行ってしまうことを抑制することに寄与し得る。
【0118】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0119】
上記テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。
【0120】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻き取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気テープ装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気テープ装置側のリールに巻き取られる。磁気テープカートリッジから巻き取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気テープ装置側のリール(巻き取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻き取りが行われる。この間、磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジは、供給リールと巻き取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。
【0121】
[磁気テープ装置]
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープ装置に関する。上記磁気テープ装置において、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生は、例えば、磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。
【0122】
本発明および本明細書において、「磁気テープ装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。上記磁気テープ装置は、磁気ヘッドを含むことができる。上記磁気ヘッドは、磁気テープへのデータの記録を行うことができる記録ヘッドであることができ、磁気テープに記録されたデータの再生を行うことができる再生ヘッドであることもできる。また、上記磁気テープ装置は、一形態では、別々の磁気ヘッドとして、記録ヘッドと再生ヘッドの両方を含むことができる。他の一形態では、上記磁気テープ装置に含まれる磁気ヘッドは、記録素子と再生素子の両方を1つの磁気ヘッドに備えた構成を有することもできる。再生ヘッドとしては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR;Magnetoresistive)素子を再生素子として含む磁気ヘッド(MRヘッド)が好ましい。MRヘッドとしては、公知の各種MRヘッド(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、TMR(Tunnel Magnetoresistive)ヘッド等)を用いることができる。また、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドには、サーボ信号読み取り素子が含まれていてもよい。または、データの記録および/またはデータの再生を行う磁気ヘッドとは別のヘッドとして、サーボ信号読み取り素子を備えた磁気ヘッド(サーボヘッド)が上記磁気テープ装置に含まれていてもよい。例えば、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッド(以下、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。)は、サーボ信号読み取り素子を2つ含むことができ、2つのサーボ信号読み取り素子のそれぞれが、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドを同時に読み取ることができる。2つのサーボ信号読み取り素子の間に、1つまたは複数のデータ用素子を配置することができる。データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)を、「データ用素子」と総称する。
【0123】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングを行うことができる。即ち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、データ用素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御することができる。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0124】
図2に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図2中、磁気テープMTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、
図3に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、
図3中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(
図3中、符号A)およびBバースト(
図3中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(
図3中、符号C)およびDバースト(
図3中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。
図3には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。
図3中、矢印は走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【0125】
上記磁気テープ装置において、一形態では、磁気テープは取り外し可能な媒体(いわゆる可換媒体)として扱われ、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジが磁気テープ装置に挿入され、取り出される。他の一形態では、磁気テープは可換媒体として扱われず、磁気ヘッドを備えた磁気テープ装置のリールに磁気テープが巻き取られ、磁気テープ装置内に磁気テープが収容される。一形態では、かかる磁気テープ装置において、磁気テープおよび磁気ヘッドを、磁気テープ装置中の密閉空間内に収容することができる。本発明および本明細書において、「密閉空間」とは、JIS Z 2331:2006 ヘリウム漏れ試験方法に規定されているヘリウム(He)を使用する浸せき法(ボンビング法)によって評価される密閉度が10×10-8Pa・m3/秒以下である空間をいうものとする。密閉空間の密閉度は、例えば、5×10―9Pa・m3/秒以上10×10-8Pa・m3/秒以下であることができ、または上記範囲を下回ってもよい。一形態では、筐体中の空間全体が上記密閉空間であることができ、他の一形態では筐体中の一部空間が上記密閉空間であることができる。上記密閉空間は、磁気テープ装置の全体または一部を覆う筐体の内部空間であることができる。筐体の材質および形状は特に限定されず、例えば、通常の磁気テープ装置の筐体の材質および形状と同様であることができる。一例として、筐体の材質としては、金属、樹脂等を挙げることができる。
【実施例0126】
以下に、本発明の一態様を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」、「%」の表示は、特に断らない限り、「質量部」、「質量%」を示す。「eq」は、当量(equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
また、以下の各種工程および操作は、特記しない限り、温度20~25℃および相対湿度40~60%の室温環境において行った。
【0127】
表1に、非磁性層形成用組成物中の成分として後述の表2に示されている流体潤滑剤の詳細を示す。
【0128】
【0129】
後述の表2中、「BaFe」は、平均粒子サイズ(平均板径)21nmの六方晶バリウムフェライト粉末を示す。
【0130】
後述の表2中、「SrFe」は、以下に記載の方法によって作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末を示し、「ε-酸化鉄」は以下に記載の方法によって作製されたε-酸化鉄粉末を示す。
以下に記載の各種強磁性粉末の平均粒子体積は、先に記載の方法により求められた値である。以下に記載の各種粉末の粒子のサイズに関する各種値も先に記載の方法により求められた値である。
異方性定数Kuは、各強磁性粉末について振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
【0131】
[強磁性粉末の作製方法]
<六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法>
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gと濃度1%の酢酸水溶液を800mL加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末(後述の表2中、「SrFe」)の平均粒子体積は900nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
【0132】
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0133】
<ε-酸化鉄粉末の作製方法>
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の熱処理を施した。
熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES;Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62O3)であった。また、先に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の作製方法について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末(後述の表2中、「ε-酸化鉄」)の平均粒子体積は750nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0134】
後述の表2では、非磁性層を一層のみ形成した実施例および比較例については、非磁性層に関する事項は、「下層非磁性層」の欄に示す。
【0135】
[実施例1]
(1)アルミナ分散物の調製
アルファ化率約65%、BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積20m2/gのアルミナ粉末(住友化学社製HIT-80)100.0部に対し、3.0部の2,3-ジヒドロキシナフタレン(東京化成社製)、極性基としてSO3Na基を有するポリエステルポリウレタン樹脂(東洋紡社製UR-4800(極性基量:80meq/kg))の32%溶液(溶媒はメチルエチルケトンとトルエンの混合溶媒)を31.3部、溶媒としてメチルエチルケトンとシクロヘキサノン1:1(質量比)の混合溶液570.0部を混合し、ジルコニアビーズ存在下で、ペイントシェーカーにより5時間分散させた。分散後、メッシュにより分散液とビーズとを分け、アルミナ分散物を得た。
【0136】
(2)磁性層形成用組成物処方
(磁性液)
強磁性粉末(種類:表2参照) 100.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 14.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
シクロヘキサノン 150.0部
メチルエチルケトン 150.0部
(研磨剤液)
上記(1)で調製したアルミナ分散物 6.0部
(突起形成剤液)
突起形成剤 2.0部
種類:コロイダルシリカ(平均粒子サイズ120nm)
メチルエチルケトン 1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
ブチルステアレート 2.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 2.5部
(仕上げ添加溶媒)
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 200.0部
【0137】
(3)非磁性層形成用組成物処方
非磁性無機粉末:α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):0.15μm
針状比:7
BET比表面積:52m2/g
カーボンブラック 20.0部
平均粒子サイズ:20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ステアリン酸 2.0部
ステアリン酸アミド 0.2部
流体潤滑剤(種類:表2参照) 表2参照
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0138】
(4)バックコート層形成用組成物処方
カーボンブラック 100.0部
DBP(Dibutyl phthalate)吸油量:74cm3/100g
ニトロセルロース 27.0部
スルホン酸基および/またはその塩を含有するポリエステルポリウレタン樹脂
62.0部
ポリエステル樹脂 4.0部
アルミナ粉末(BET比表面積:17m2/g) 0.6部
メチルエチルケトン 600.0部
トルエン 600.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L) 15.0部
【0139】
(5)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。磁性液を、上記成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。上記サンドミルを用いて、調製した磁性液を、上記研磨剤液および他の成分(突起形成剤液、その他の成分および仕上げ添加溶媒)と混合し5分間ビーズ分散した後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で0.5分間処理(超音波分散)を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過を行い磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよび表2に示す流体潤滑剤)を除く上記成分を、オープンニーダにより混練および希釈処理し、その後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、潤滑剤(ステアリン酸、ステアリン酸アミドおよび表2に示す流体潤滑剤)を添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施して非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。ポリイソシアネートを除く上記成分を、ディゾルバー撹拌機に導入し、周速10m/秒で30分間撹拌した後、横型ビーズミル分散機により分散処理を実施した。その後、ポリイソシアネートを添加して、ディゾルバー撹拌機にて撹拌および混合処理を施し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0140】
(6)磁気テープおよび磁気テープカートリッジの作製
厚み4.1μmの二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート製支持体の表面上に、乾燥後の厚みが0.7μmとなるように上記(5)で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した。次いで、非磁性層上に乾燥後の厚みが0.1μmとなるように上記(5)で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。その後に、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加して垂直配向処理を行った後、乾燥させ、磁性層を形成した。即ち、塗布方式としては逐次塗布を採用した。その後、支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対側の表面に、乾燥後の厚みが0.3μmとなるように上記(5)で調製したバックコート層形成用組成物を塗布および乾燥させてバックコート層を形成した。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、速度100m/分、線圧300kg/cm、および90℃のカレンダ温度(カレンダロールの表面温度)にて、表面平滑化処理(カレンダ処理)を行った(カレンダ回数:2回)。
その後、長尺状の磁気テープ原反を雰囲気温度70℃の熱処理炉内に保管することにより熱処理を行った(熱処理時間:36時間)。熱処理後、1/2インチ幅にスリットして、磁気テープを得た。得られた磁気テープの磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。サーボバンドの合計本数は5、データバンドの合計本数は4である。
上記サーボパターン形成後の磁気テープ(長さ970m)を熱処理用巻芯に巻き取り、この巻芯に巻き付けた状態で熱処理した。熱処理用巻芯としては、曲げ弾性率0.8GPaの樹脂製の中実状の芯状部材(外径:50mm)を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。熱処理は、熱処理温度50℃で5時間行った。熱処理を行った雰囲気の重量絶対湿度は、10g/kg Dry airであった。
上記熱処理後、磁気テープおよび熱処理用巻芯が十分冷却された後に磁気テープを熱処理用巻芯から取り外し、一時巻き取り用巻芯に巻き取り、その後、一時巻き取り用巻芯から磁気テープカートリッジのリール(リール外径:44mm)へ最終製品長分(960m)の磁気テープを巻き取り、残り10m分は切り取り、切り取り側の末端に、市販のスプライシングテープによって、Standard ECMA(European Computer Manufacturers Association)-319(June 2001) Section 3の項目9にしたがうリーダーテープを接合させた。一時巻き取り用巻芯としては、熱処理用巻芯と同じ材料製で同じ外径を有する中実状の芯状部材を使用し、巻き取り時のテンションは0.6Nとした。
以上により、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジを作製した。
【0141】
[実施例2~6]
非磁性層形成用組成物中の流体潤滑剤を表2に示すものに変更した点以外、実施例1と同じ方法で磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0142】
[実施例7]
非磁性層を以下のように二層形成し、形成した上層非磁性層上に実施例1と同様に磁性層形成用組成物を塗布して磁性層を形成した点およびカレンダ回数を1回にした点以外、実施例1と同じ方法で磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0143】
<下層非磁性層形成用組成物の処方>
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm) 100.0部
トリオクチルアミン(分子量:354、沸点:365℃) 4.0部
塩化ビニル樹脂 12.0部
ステアリン酸 1.5部
ステアリン酸アミド 0.3部
流体潤滑剤(種類:表2参照) 表2参照
シクロヘキサノン 200.0部
メチルエチルケトン 510.0部
【0144】
<上層非磁性層形成用組成物の処方>
非磁性無機粉末 α-酸化鉄 100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):30nm
平均短軸長:15nm
針状比:2.0
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂 18.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ステアリン酸 1.0部
シクロヘキサノン 300.0部
メチルエチルケトン 300.0部
【0145】
上記の下層非磁性層形成用組成物および上層非磁性層形成用組成物のそれぞれについて、上記成分をオープンニーダで240分間混練した後、サンドミルで分散させた。各非磁性層形成用組成物の分散条件としては、分散時間は24時間とし、分散ビーズとしてはビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。こうして得られた分散液にポリイソシアネート(東ソー社製コロネート3041)をそれぞれ4.0部加え、更に20分間撹拌混合した後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過した。
以上により、下層非磁性層形成用組成物および上層非磁性層形成用組成物を調製した。 厚み4.1μmの二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート製支持体の一方の表面上に、下層非磁性層形成用組成物を乾燥後の厚みが0.25μmになるように塗布し、雰囲気温度100℃の環境下で乾燥させて下層非磁性層を形成した。下層非磁性層上に、乾燥後の厚みが0.25μmになるように上層非磁性層形成用組成物を塗布し、雰囲気温度100℃の環境下で乾燥させて上層非磁性層を形成した。
【0146】
[実施例8、9]
強磁性粉末として、表2の「強磁性粉末」の欄に記載の強磁性粉末を使用した点以外、実施例7と同じ方法で磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0147】
[比較例1]
非磁性層形成用組成物中の流体潤滑剤を表2に示すものに変更した点以外、実施例1と同じ方法で磁気テープおよび磁気テープカートリッジを作製した。
【0148】
[比較例2]
特許文献1(特開2008-239575号公報)の実施例8の記載にしたがって磁気テープを作製した。この公報の段落0107および表1に記載されているように、磁性層形成用組成物および非磁性層形成用組成物には、先に示した表1に記載の炭酸エステルBが含まれている。この公報の段落0107に記載されているように、非磁性層形成用組成物の非磁性粉末には、酸化チタン粉末が含まれる。また、この公報の段落0108に記載されているように、磁性層と非磁性層の塗布方式は、同時重層塗布である。
作製した磁気テープを、実施例1と同じ方法でサーボパターンを形成した後に磁気テープカートリッジに収容した。
こうして、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジを作製した。
【0149】
[比較例3]
特許文献2(特開2012-014809号公報)の実施例1の記載にしたがって磁気テープを作製した。この公報の段落0071および0073に記載されているように、磁性層形成用組成物および非磁性層形成用組成物には、先に示した表1に記載のイソヘキサデシルステアレートが含まれている。この公報の段落0073に記載されているように、非磁性層形成用組成物の非磁性粉末には、酸化チタン粉末が含まれる。また、この公報の段落0075に記載されているように、磁性層と非磁性層の塗布方式は、逐次塗布である。
作製した磁気テープを、実施例1と同じ方法でサーボパターンを形成した後に磁気テープカートリッジに収容した。
こうして、長さ960mの磁気テープがリールに巻装された単リール型の磁気テープカートリッジを作製した。
【0150】
実施例および比較例について、それぞれ磁気テープカートリッジを2つ作製し、1つを以下の流体潤滑剤残存率の測定のために使用し、他の1つを以下の電磁変換特性の評価のために使用した。
【0151】
[評価方法]
<流体潤滑剤残存率>
(テープ試料の準備)
磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープの長手方向の任意の位置から、長さ5cmのテープ試料と長さ100mのテープ試料とを切り出した。
【0152】
(摺動前流体潤滑剤抽出量)
上記の長さ5cmのテープ試料のバックコート層をテトラヒドロフラン(THF)を染み込ませたろ紙にこすりつけて除去した。ろ紙にバックコート層由来の黒色物が付かなくなるまで除去操作を行った後のテープ試料をビーカーに入れ、このビーカーに30mLのメタノールを注入した後、ビーカーに蓋をした。
こうしてテープ試料を浸漬したメタノールを、液温60℃まで加熱して3時間かけて抽出操作を行った。
抽出後の液をナスフラスコに移し、ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを蒸発させた。
上記ナスフラスコに、メタノールとクロロホルムの1:1(体積比)の混合溶液1mLをホールピペットで加え、更にメチル化剤(テトラメチルエチレンジアミン)50μLをマイクロシリンジで加えて混合し、先に記載の室温環境で30分間反応させてガスクロマトグラフ測定用の試料を得た。
その後、ガスクロマトグラフ法にて、以下の測定条件により、本発明および本明細書における流体潤滑剤に該当する成分を検出し、検出された各成分を、予め用意していた検量線を用いて定量した。こうして定量された流体潤滑剤の合計量を、摺動前流体潤滑剤量とする。
(測定条件)
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent7890A
カラム:アジレント・テクノロジー社製AgilentJ&W DB-1HT
オーブン温度:150℃/2分→10℃/1分で300℃に昇温
注入口温度:310℃、パルスドスプリットレス注入
注入量:1μL
検出器:FID(Flame Ionization Detector)(340℃)
キャリアガス:He
【0153】
(磁気テープと磁気ヘッドとの摺動)
上記の長さ100mのテープ試料を、IBM社製LTO8テープドライブに搭載されている記録再生ヘッドを固定した1/2インチリールテスターに先に記載したように取り付け、先に記載した走行条件にて、雰囲気温度60℃±1℃相対湿度10%の環境において磁気ヘッド(LTO8ヘッド)と摺動させた。
【0154】
(摺動後流体潤滑剤抽出量)
上記摺動後、先に記載したように長さ5cmのテープ試料を切り出した。このテープ試料のバックコート層をテトラヒドロフラン(THF)を染み込ませたろ紙にこすりつけて除去した。ろ紙にバックコート層由来の黒色物が付かなくなるまで除去操作を行った後のテープ試料について、摺動前流体潤滑剤抽出量を求めるために実施した方法と同じ方法で、摺動後流体潤滑剤抽出量を求めた。
【0155】
(流体潤滑剤残存率の算出)
上記方法によって求められた摺動前流体潤滑剤抽出量と摺動後流体潤滑剤抽出量とから、「(摺動後流体潤滑剤抽出量/摺動前流体潤滑剤抽出量)×100」として、流体潤滑剤残存率を算出した。
【0156】
[高温環境での繰り返し走行における電磁変換特性の評価]
雰囲気温度60℃±1℃相対湿度10%の環境にて、以下の評価を行った。
実施例および比較例について、それぞれ、磁気テープカートリッジから取り出した磁気テープの長手方向の任意の位置から切り出した長さ100mのテープ試料を、IBM社製LTO8テープドライブに搭載されている記録再生ヘッドを固定した1/2インチリールテスターに先に記載したように取り付け、データの記録および再生を行った。記録再生時の走行条件としては、摺動後流体潤滑剤抽出量を求めるために先に記載した走行条件を採用した。
記録は線記録密度300kfciで行い、再生を行った際の再生出力を測定し、信号対雑音比(再生出力とノイズとの比)としてSNR(Signal-to-Noise Ratio)を求めた。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。
1シングルパス目に記録再生した時のSNRと、20,000シングルパス目に記録再生したときのSNRとの差(20,000シングルパス目のSNR-1シングルパス目のSNR)を算出した。算出された値を、表2中、「SNR低下」の欄に示す。
比較例2では、繰り返し走行中に磁気ヘッドの付着物(デブリ)が多量に発生したことで信号の検出が不可となったため、20,000シングルパス目のSNRを求めることができなかった(表2中、「評価不可」と表記)。
【0157】
以上の結果を、表2に示す。
【0158】
【0159】
表2に示すように、実施例1~9の磁気テープの流体潤滑剤残存率は50%以上であった。表2に示すように、実施例1~9の磁気テープでは、比較例1~3の磁気テープと比べて高温環境での繰り返し走行におけるSNR低下が抑制されていた。この結果から、実施例1~9の磁気テープが、過酷な高温環境で走行を繰り返しても電磁変換特性の低下が少ない磁気テープであることが確認できる。