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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022116998
(43)【公開日】2022-08-10
(54)【発明の名称】筐体部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20220803BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20220803BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20220803BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
G02B1/111
G02B5/22
B32B17/10
B32B27/00 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021013448
(22)【出願日】2021-01-29
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】原 美代子
(72)【発明者】
【氏名】早田 佑一
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2H148CA05
2H148CA12
2H148CA17
2H148CA24
2K009AA04
2K009BB02
2K009BB24
2K009CC42
2K009DD02
2K009DD06
4F100AG00B
4F100AK01A
4F100AK52C
4F100AR00D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DJ00C
4F100GB41
4F100JD14D
4F100JN06
4F100JN18C
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】本発明は、長期間使用後の反射防止性能の低下をより抑制できる筐体部材を提供することを課題とする。
【解決手段】樹脂又はガラスからなる基材と、基材上に設けられた低屈折率層と、を備える、赤外線レーザーレーダー用の筐体部材であって、低屈折率層が、シロキサン樹脂で構成されている多孔質構造を有し、低屈折率層の波長1550nmにおける屈折率が1.5以下であり、低屈折率層の平均厚さが150~500nmであり、低屈折率層の表面において深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しない、筐体部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂又はガラスからなる基材と、
前記基材上に設けられた低屈折率層と、を備える、
赤外線レーザーレーダー用の筐体部材であって、
前記低屈折率層が、シロキサン樹脂で構成されている多孔質構造を有し、
前記低屈折率層の波長1550nmにおける屈折率が1.5以下であり、
前記低屈折率層の平均厚さが150~500nmであり、
前記低屈折率層の表面において深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しない、筐体部材。
【請求項2】
前記低屈折率層の平均厚さが250~500nmである、請求項1に記載の筐体部材。
【請求項3】
前記低屈折率層の表面に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られる前記低屈折率層の断面画像における空隙の平均径が、30nm以上500nm未満である、請求項1又は2に記載の筐体部材。
【請求項4】
前記低屈折率層に含まれる前記シロキサン樹脂におけるケイ素原子に対する炭素原子の原子数比が0.2以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の筐体部材。
【請求項5】
前記積層体が赤外線吸収層を更に有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の筐体部材。
【請求項6】
前記低屈折率層の表面に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られる前記低屈折率層の断面画像において、前記低屈折率層の断面積に対して空隙が占める面積の合計の比率が、10~80%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の筐体部材。
【請求項7】
前記低屈折率層の表面に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られる前記低屈折率層の断面画像において、空隙が占める面積の合計に対する、前記空隙のうちアスペクト比が2以下である特定空隙が占める面積の合計の比率が、80%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の筐体部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両には、運転支援システムとして、車両周辺の情報を検知するためのレーダー装置が搭載されている。例えば、レーダー装置は、車両前部構造の前方に配置され、検知光を車両前方に出射するとともに、測定対象物からの反射光を受光することにより、車間距離等の車両前方の空間情報を検知できる。
一方、光の反射を防止する目的で、基材の表面に低屈折率の膜を形成してなる積層体を用いる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定のケイ素化合物による加水分解物と、数珠状コロイダルシリカ粒子が液体媒体中に分散したシリカゾルを所定の割合で混合して調製される低屈折率膜形成用組成物、及び、その組成物を用いて反射防止膜として利用され得る低屈折率膜を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-253145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車両に搭載されるレーダー装置として、特に、車両周辺の立体的情報を取得する目的で赤外線レーザーレーダーが使用されている。赤外線レーザーレーダーは、検知光である赤外線レーザーを出射する発光素子と、測定対象物からの反射光を受光する受光素子と、発光素子及び受光素子を収容する筐体とを含む構成を有することが多い。
【0006】
本発明者らは、特許文献1に記載された技術に基づいて、赤外線レーザーレーダーの筐体内部において赤外線の反射を防止する目的で用いられる、低屈折率層付き積層体の性能について検討したところ、赤外線レーザーレーダーを長期間使用した場合、経時的に反射防止性能が低下し、信号対雑音比(SN比)において雑音の影響が大きくなる場合があることを知見した。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて、長期間使用後の反射防止性能の低下をより抑制できる筐体部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意研究した結果、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
〔1〕
樹脂又はガラスからなる基材と、上記基材上に設けられた低屈折率層と、を備える、赤外線レーザーレーダー用の筐体部材であって、上記低屈折率層が、シロキサン樹脂で構成されている多孔質構造を有し、上記低屈折率層の波長1550nmにおける屈折率が1.5以下であり、上記低屈折率層の平均厚さが150~500nmであり、上記低屈折率層の表面において深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しない、筐体部材。
〔2〕
上記低屈折率層の平均厚さが250~500nmである、〔1〕に記載の筐体部材。
〔3〕
上記低屈折率層の表面に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られる上記低屈折率層の断面画像における空隙の平均径が、30nm以上500nm未満である、〔1〕又は〔2〕に記載の筐体部材。
〔4〕
上記低屈折率層に含まれる上記シロキサン樹脂におけるケイ素原子に対する炭素原子の原子数比が0.2以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の筐体部材。
〔5〕
上記積層体が赤外線吸収層を更に有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の筐体部材。
〔6〕
上記低屈折率層の表面に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られる上記低屈折率層の断面画像において、上記低屈折率層の断面積に対して空隙が占める面積の合計の比率が、10~80%である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の筐体部材。
〔7〕
上記低屈折率層の表面に垂直な方向の断面を走査型電子顕微鏡で観察して得られる上記低屈折率層の断面画像において、空隙が占める面積の合計に対する、上記空隙のうちアスペクト比が2以下である特定空隙が占める面積の合計の比率が、80%以上である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の筐体部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期間使用後の反射防止性能の低下をより抑制できる筐体部材を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。なお、以下の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づくものであり、本発明は以下に説明する実施態様に制限されるものではない。
【0012】
本明細書における基(原子団)の表記のうち、置換又は無置換と記されていない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含する。例えば、「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタアクリレートを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタアクリルを表し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル及びメタクリロイルを表す。
本明細書において、「単量体」と「モノマー」とは同義である。本明細書において、単量体は、オリゴマー及びポリマーと区別され、重量平均分子量が2,000以下の化合物をいう。本明細書において、重合性化合物とは、重合性基を有する化合物のことをいい、単量体であっても、ポリマーであってもよい。重合性基とは、重合反応に関与する基をいう。
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、存在する複数の物質の合計量を意味する。
本明細書中における「放射線」は、可視光線、紫外線、遠紫外線、電子線、及び、X線等を含むものを意味する。
【0013】
[筐体部材]
本発明の筐体部材は、樹脂又はガラスからなる基材と、基材上に設けられた低屈折率層と、を備える、赤外線レーザーレーダー用の筐体部材である。
本発明の筐体部材が備える低屈折率層(以下、単に「低屈折率層」ともいう。)は、シロキサン樹脂で構成されている多孔質構造を有し、波長1550nmにおける屈折率が1.5以下であり、平均厚さが150~500nmであり、かつ、表面において深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しないことを特徴とする。
【0014】
筐体部材が上記の構成を有するによって、長期間使用後の反射防止性能の低下を抑制できる優れた効果を奏するものとなる詳細な機構は不明であるが、本発明者らは下記の通り推測している。
本発明者らが検討した結果、赤外線レーザーレーダーを長期間駆動させた場合、赤外線レーザーを出射する発光素子の発熱により、赤外線レーザーレーダー部材に含まれる有機材料の分解物が揮発し、筐体内部の表面及びカバー部材の表面等に揮発成分が付着する可能性があることが知見された。
ここで、特許文献1に具体的に記載されているような低屈折率層においては、屈折率を低下するために形成された空隙の多くが他の空隙と連通する開放孔(オープンポア)であり、低屈折率層の表面には、内部の空隙と連通し、所定の深さを有する開口部が形成されていると考えられる。従って、そのような低屈折率層を備える積層体を赤外線レーザーレーダーの筐体内部で使用すると、長期間の使用により発生した揮発成分が、表面に形成された開口部から、低屈折率層の内部に形成された空隙内にまで入り込んで空隙を埋め、結果として、経時的に低屈折率層の屈折率が上昇し、反射防止性能が低下すると推測される。
それに対して、上記の低屈折率層の表面には深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しないことから、低屈折率層に形成された空隙の多くが、層内部において孤立しており、他の空隙と連通していない閉鎖孔(クローズドポア)であると考えられる。従って、上記低屈折率層を備える積層体を使用した場合、筐体内部に揮発成分が発生しても低屈折率層の空隙内部にまで揮発成分が入り込まず、長期間の使用後であっても低屈折率層の屈折率が維持され、長期間の持続的な反射防止性能を実現できるものと推測される。
【0015】
以下、本発明の筐体部材の構成について詳細に説明する。
【0016】
〔基材〕
本発明の筐体部材は、樹脂又はガラスからなる基材を備える。
基材としては、汎用性及び軽量化の観点から、樹脂基材が好ましい。
樹脂基材を構成する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアクリル樹脂、セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、及び、フッ素系ポリマーが挙げられ、コスト、機械強度、透過率、透明性、及び、成形性の点から、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、又は、セルロースが好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0017】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、及び、これらの混合物が挙げられ、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、及び、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。
ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、シクロオレフィンが挙げられる。
アクリル樹脂としては、ポリメチルメタクリレートが挙げられる。
セルロースとしては、トリアセチルセルロースが挙げられる。
【0018】
基材として樹脂基材を用いる場合、樹脂基材の厚さは、取扱い性及び耐電圧がより優れる点で、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましく、200μm以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、機械強度がより優れる点で、5000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましい。
基材としてガラス基材を用いる場合、ガラス基材の厚さは500μm以上が好ましい。上限としては、4000μm以下が好ましく、3000μm以下がより好ましい。
【0019】
〔低屈折率層〕
低屈折率層は、シロキサン樹脂で構成されている多孔質構造を有し、かつ、その表面において深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しないとの要件を満たす。
低屈折率層は、上記要件を満たす限り、シロキサン樹脂以外の他の成分を含有していてもよい。上記の他の成分としては、例えば、後述する界面活性剤及び縮合触媒が挙げられる。
【0020】
<シロキサン樹脂>
シロキサン樹脂は、シロキサン結合で主鎖が構成される含ケイ素ポリマーである。
シロキサン樹脂は、例えば、アルコキシシラン化合物を用いて、加水分解反応及び縮合反応を介して合成できる。より具体的には、アルコキシシラン化合物の一部又は全部のアルコキシ基が加水分解してシラノール基に変換し、生成したシラノール基の少なくとも一部が縮合してSi-O-Si結合を形成してなるポリマーが挙げられる。
シロキサン樹脂は、かご型、はしご型、及び、ランダム型等のいずれのシルセスキオキサン構造を有するシロキサン樹脂であってもよい。なお、上記「かご型」、「はしご型」、及び「ランダム型」については、例えば「シルセスキオキサン材料の化学と応用展開(シーエムシー出版)」等に記載されている構造を参照できる。
【0021】
シロキサン樹脂は、下記式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物であることが好ましい。
【化1】
【0022】
式1中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6の1価の有機基を表す。
及びRは、それぞれ独立に、アルキル基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、(メタ)アクリル基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、ポリアルキレンオキシアルキル基、カルボキシ基及び第4級アンモニウム基よりなる群から選ばれる基を有する有機基を表す。
mは、それぞれ独立に、0~2の整数を表す。
nは、1~20の整数を表す。
【0023】
ここで、式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物とは、式1で表されるシロキサン化合物、及び、式1で表されるシロキサン化合物におけるケイ素原子上の置換基の少なくとも一部が加水分解してシラノール基となった化合物(加水分解物)よりなる群から選ばれる2以上の化合物が縮合した化合物をいう。
【0024】
及びRにおける炭素数1~6の有機基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、環構造を有していてもよい。炭素数1~6の有機基としては、アルキル基及びアルケニル基が挙げられ、アルキル基が好ましい。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、及び、シクロヘキシル基が挙げられる。
及びRは、それぞれ独立に、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズ(曇りの度合い)の観点から、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0025】
は、それぞれ独立に、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0026】
は、それぞれ独立に、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、無置換アルキル基、ビニル基、又は、ビニル基、エポキシ基、スチリル基(ビニルフェニル基)、(メタ)アクリロキシ基、(メタ)アクリルアミド基、アミノ基、イソシアヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、スルフィド基、ポリアルキレンオキシアルキル基、カルボキシ基及び第4級アンモニウム基よりなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するアルキル基が好ましく、無置換アルキル基がより好ましく、炭素数1~8の無置換アルキル基が更に好ましい。
【0027】
mは、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、1又は2が好ましい。
nは、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、2~20の整数が好ましい。
【0028】
式1で表されるシロキサン化合物の市販品としては、信越化学工業社製KBE-04、KBE-13、KBM-13、KBE-22、KBE-1003、KBM-303、KBE-403、KBM-1403、KBE-503、KBM-5103、KBE-903、KBE-9103P、KBE-585、KBE-803、KBE-846、KR-500、KR-515、KR-516、KR-517、KR-518、X-12-1135、X-12-1126、及び、X-12-1131;エボニックジャパン株式会社製Dynasylan4150;三菱化学社製MKCシリケートMS-51、MS-56、MS-57、及び、MS-56S;並びに、コルコート株式会社製エチルシリケート28、N-プロピルシリケート、N-ブチルシリケート、及び、SS-101が挙げられる。
低屈折率層に含まれる式1で表されるシロキサン樹脂は、1種類でもよいし、複数種類が混合されていてもよい。
【0029】
シロキサン樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、1,000以上が好ましく、2,000以上がより好ましい。上限としては、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。
【0030】
本明細書においてポリマーの分子量は、特に断らない限り、重量平均分子量であり、ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で計測される。測定装置及び条件としては、下記条件1によることを基本とし、試料の溶解性等により条件2とすることを許容する。ただし、ポリマー種によっては、適宜適切なキャリア(溶離液)及びそれに適合したカラムを選定して用いてもよい。
(条件1)
カラム:TOSOH TSKgel Super HZM-H、TOSOH
TSKgel Super HZ4000、TOSOH TSKgel
Super HZ2000をつないだカラムを用いる
キャリア:テトラヒドロフラン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
(条件2)
カラム:TOSOH TSKgel Super AWM-Hを2本つなげる
キャリア:10mMLiBr/N-メチルピロリドン
測定温度:40℃
キャリア流量:1.0ml/min
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
【0031】
また、低屈折率層の膜割れが発生し難くなる点で、低屈折率層に含まれるシロキサン樹脂におけるケイ素原子に対する炭素原子の比率(重量比、以下単に「Ci/S比」ともいう。)が、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。上限は特に制限されないが、膜強度がより優れる点で、1.0以下が好ましい。
Ci/S比が0.2以上であるシロキサン樹脂としては、例えば、信越化学工業社製KBE-13、KBM-13、KBE-22、KBE-1003、KBM-303、KBE-403、KBM-1403、KBE-503、KBM-5103、KBE-903、KBE-9103P、KBE-585、KBE-803、KBE-846、KR-500、KR-515、KR-516、KR-517、KR-518、及び、X-12-1131;エボニックジャパン株式会社製Dynasylan4150;並びに、コルコート株式会社製エチルシリケート28、N-プロピルシリケート、N-ブチルシリケート、及び、SS-101が挙げられる。
シロキサン樹脂のCi/S比は、低屈折率層から界面活性剤等の低分子組成物を抽出除去し、残存したシロキサン樹脂を元素分析することによって求めることができる。
【0032】
低屈折率層は、シロキサン樹脂を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
低屈折率層におけるシロキサン樹脂の含有量は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、低屈折率層の総質量に対して30~99質量%が好ましく、50~99質量%がより好ましく、70~95質量%が更に好ましい。
【0033】
<他の成分>
低屈折率層は、シロキサン樹脂に加え、効果を損なわない限りにおいて、目的に応じて他の成分を含有してもよい。
他の成分としては、公知の添加剤を用いることができ、例えば、界面活性剤、シロキサン化合物の縮合触媒、及び、帯電防止剤が挙げられる。
【0034】
(界面活性剤)
低屈折率層は、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤、並びに、イオン性界面活性剤であるアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及び、両性界面活性剤が挙げられる。
なかでも、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、ノニオン界面活性剤、又は、カチオン界面活性剤が好ましく、カチオン界面活性剤がより好ましい。
上記界面活性剤の分子量は、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、10,000以下が好ましく、5,000以下がより好ましく、1,000以下が更に好ましく、300以上800以下が特に好ましい。
【0035】
カチオン界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩型、ピリジニウム塩型、アミン塩型、及び、ポリアミン型の界面活性剤が挙げられる。具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ベンザルコニウム塩、及び、アルキルアミン塩が挙げられる。より具体的には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルピリジニウムクロリド、ベンザルコニウムクロリド、モノメチルアミン塩酸塩、及びポリエチレンイミンが挙げられる。
後述するコアシェル粒子の製造における非極性溶剤のエマルジョン粒子安定性の観点から、第4級アンモニウム塩型、ピリジニウム塩型、又は、ポリアミン型の界面活性剤が好ましく、第4級アンモニウム塩型、又は、ピリジニウム塩型の界面活性剤がより好ましい。
【0036】
ノニオン界面活性剤としては、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ポリアルキレングリコールモノアルキルエステル、及び、ポリアルキレングリコールモノアルキルエステル・モノアルキルエーテルが挙げられる。より具体的には、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル、ポリエチレングリコールモノステアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノセチルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウリルエステル、及び、ポリエチレングリコールモノステアリルエステルが挙げられる。
【0037】
その他のイオン性界面活性剤の例としては、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、及び、アルキルリン酸塩等のアニオン界面活性剤;並びに、アルキルカルボキシベタイン等の両性界面活性剤が挙げられる。
【0038】
低屈折率層は、低屈折率層の製造時の塗布液の基材への濡れ性及び塗布性を高める観点から、界面活性剤として、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、又は、アセチレン系界面活性剤を使用することが好ましい。
フッ素系界面活性剤としては、メガファックF-444等のDIC株式会社製メガファックシリーズ、サーフロンS-221等のAGCセイミケミカル株式会社製サーフロンシリーズ、及び、フタージェント100等の(株)ネオス製フタージェントシリーズが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、KP-124等の信越化学工業(株)製レベリング材KPシリーズ等が挙げられる。
アセチレン系界面活性剤としては、サーフィノール420及びオルフィンE1004等の日信化学工業(株)製サーフィノールシリーズ及びオルフィンシリーズ等が挙げられる。
【0039】
低屈折率層は、界面活性剤を1種のみ含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
低屈折率層における界面活性剤の含有量は、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、低屈折率層の全質量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.2~5.0質量%がより好ましい。
【0040】
(縮合触媒)
低屈折率層は、シロキサン化合物の縮合を促進する縮合触媒を含有してもよい。
低屈折率層の作製において、シロキサン樹脂の前駆体であるシロキサン化合物の加水分解縮合を縮合触媒が促進することにより、安定な硬化膜の形成を促進でき、低屈折率層の耐久性を向上できるため、低屈折率層は、縮合触媒を含有することが好ましい。
【0041】
縮合触媒としては、例えば、酸触媒、アルカリ触媒、及び、有機金属触媒が挙げられる。
酸触媒としては、リン酸、硝酸、塩酸、硫酸、酢酸、クロロ酢酸、蟻酸、シュウ酸、及び、p-トルエンスルホン酸が挙げられる。
アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、水酸化テトラメチルアンモニウムが挙げられる。
有機金属触媒としては、アルミニウムビス(エチルアセトアセテート)モノ(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、及び、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート等のアルミキレート化合物;ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、及び、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)等のジルコニウムキレート化合物;チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、及び、チタニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)等のチタンキレート化合物;並びに、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、及び、ジブチルスズジオクチエート等の有機スズ化合物が挙げられる。
【0042】
縮合触媒は、1種のみ使用してもよく、2種以上使用してもよい。
縮合触媒の含有量は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、低屈折率層に対し、0.001~20質量%が好ましく、0.005~15質量%がより好ましく、0.01~10質量%が更に好ましい。
【0043】
(増粘剤)
低屈折率層は、増粘剤を含有してもよい。
低屈折率層の作製において、増粘剤を添加することによって、安定な硬化膜の形成を促進でき、低屈折率層の表面形状を向上でき、表面の凹凸をより少なくできるため、低屈折率層は、増粘剤を含有することが好ましい。
増粘剤としては、例えば、(株)成和化成製のSEPIGEL 305;ビックケミー社製のDISPERBYK(登録商標)410、411、415、420、425、428、430、431、7410ET、7411ES及び7420ES;大阪有機化学工業(株)製のコスカットGA468;無機系材料〔ケイ酸塩(水溶性ケイ酸アルカリ)、モンモリロナイト、有機モンモリロナイト、コロイド状アルミナ等〕;タンパク質系材料(カゼイン、カゼイン酸ソーダ、カゼイン酸アンモニウム等);アルギン酸系材料(アルギン酸ソーダ等);ポリエーテル系材料(プルロニックポリエーテル、ポリエーテルジアルキルエステル、ポリエーテルジアルキルエーテル、ポリエーテルウレタン変性物、ポリエーテルエポキシ変性物等);無水マレイン酸共重合体系材料(ビニルエーテル-無水マレイン酸共重合物の部分エステル;並びに、乾性油脂肪酸アリルアルコールエステル-無水マレイン酸のハーフエステル等)が挙げられる。また、増粘剤としては、上記以外にも、ポリアマイドワックス塩、アセチレングリコール、ゼンタンガム、及び、分子末端若しくは側鎖に極性基を有するオリゴマー又はポリマー等が挙げられる。
【0044】
増粘剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上使用してもよい。
増粘剤の含有量は、屈折率及びヘイズの観点から、低屈折率層に対して0.001~20質量%が好ましく、0.005~15質量%がより好ましく、0.01~10質量%が更に好ましい。
【0045】
(帯電防止剤)
低屈折率層は、帯電防止剤を含有してもよい。帯電防止剤は、低屈折率層に帯電防止性を付与することで、汚染物質の付着を抑制する目的で用いられる。
帯電防止剤としては、特に制限されず、金属酸化物粒子、金属ナノ粒子、導電性高分子、及び、イオン液体が挙げられる。
金属酸化物粒子としては、例えば、酸化スズ粒子、アンチモンドープ酸化スズ粒子、スズドープ酸化インジウム粒子、酸化亜鉛粒子、及び、シリカ粒子が挙げられる。
【0046】
帯電防止剤は、1種のみ使用してもよく、2種以上使用してもよい。
帯電防止剤の含有量は、低屈折率層の全質量に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。帯電防止剤の含有量を上記範囲とすることにより、製膜性を低下させることなく、低屈折率層に効果的に帯電防止性を付与できる。下限値は特に制限されず、0.1質量%以上であってよい。
【0047】
<物性>
低屈折率層の表面及び低屈折率層に含まれる空隙に関連する各特性は、低屈折率層のSEM断面画像から得られる。低屈折率層のSEM断面画像は、低屈折率層を備える筐体部材を低屈折率層の表面に垂直な方向で切断し、切断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより得られる。得られたSEM断面画像には、低屈折率層の表面が有する凹凸形状、及び、低屈折率層の空隙部分とシロキサン樹脂からなるマトリックス部分とからなる多孔質構造が表示される。SEM断面画像の倍率は特に制限されず、観察される空隙のサイズに応じて適宜選択される。
【0048】
(表面形状(開口部))
本発明の筐体部材が備える低屈折率層の表面には、深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しない。ここで、低屈折率層の表面において「深さ50nm以上の開口部が実質的に存在しない」とは、下記の要件1を満たすことを意味する。
要件1:上記の積層体のSEM断面画像(倍率50000倍)から、低屈折率層の表面に沿った長さ2.5μmの区間において表面の凹凸形状を観測し、深さが50nm以上である開口部の個数を計測する。ここで、「開口部」とは、低屈折率層の表面の形状を厚さ方向に平均してなる平均線を仮定したとき、表面が平均線よりも基材側に存在する領域(凹部)を意味し、「開口部の深さが50nm以上である」とは、上記平均線から凹部の底(平均線から最も遠い位置)までの距離が50nm以上であることを意味する。
この開口部の個数の計測を、積層体の任意の10箇所で作製した切断面について実施し、長さ25μm(2.5μm×10)の全区間において計測された開口部の個数の総計から、開口部の存在割合として、低屈折率層の表面に沿った長さ1000nmあたりの開口部の個数を求める。得られた低屈折率層の表面に沿った長さ1000nmあたりの開口部の個数が4個以下である場合、要件1を満たし、上記開口部の個数が4個超である場合、要件1を満たさないものとする。
【0049】
上記の方法で測定される低屈折率層の表面に沿った長さ1000nmあたりの開口部の個数は、2個以下が好ましく、1個以下がより好ましい。下限は特に制限されず、0個であってもよい。
【0050】
(空隙に関する特性)
低屈折率層は、低屈折率層の断面積に対する空隙が占める面積の合計の比率(以下、「空隙率」ともいう。)が、5~90%であることが好ましく、10~80%であることがより好ましく、50~30%であることが更に好ましい。
低屈折率層の空隙率は、SEM断面画像(例えば倍率50000倍)に対して画像処理ソフト(ImageJ)を用いて画像処理(2値化)を行い、空隙部分とマトリックス部分とを分離し、空隙部分及びマトリックス部分の合計に対する空隙部分の合計面積の比率(面積比)を算出することにより、求められる。
【0051】
低屈折率層は、SEM断面画像から得られる全空隙の合計面積に対して、アスペクト比が2以下である空隙(以下、「特定空隙」ともいう。)の合計面積の比率が80%以上であることが好ましい。
全空隙の合計面積に対する特定空隙の合計面積の比率が80%以上である低屈折率層では、低屈折率層に形成された空隙の多くが、層内部において孤立しており、他の空隙と連通していない閉鎖孔(クローズドポア)であると推測される。そのため、上記比率が80%以上である低屈折率層を備える積層体を使用した場合、筐体内部に揮発成分が発生しても低屈折率層の空隙内部にまで揮発成分が入り込まず、長期間の使用後であっても低屈折率層の屈折率が維持され、長期間の持続的な反射防止性能を実現できるものと推測される。
全空隙の合計面積に対する特定空隙の合計面積の比率の上限値は特に制限されず、100%以下であってもよい。
【0052】
低屈折率層における全空隙の合計面積に対する特定空隙の合計面積の比率は、下記の方法で求められる。
SEM断面画像(例えば倍率50000倍)において、任意に200個の空隙を選択する。選択した各空隙のアスペクト比を下記の方法により算出する。
選択した空隙の外周に外接する平行な2本の接線のうち、接線間距離が最大となるように選ばれる平行な2本の接線の距離を長辺の長さLとする。また、長さLを与える平行な2本の接線に直交し、且つ、空隙の外周に外接する平行な2本の接線のうち、接線間距離が最大となるように選ばれる接線間距離を短辺の長さSとする。得られた長辺の長さL(μm)及び短辺の長さS(μm)から、以下の式を用いてアスペクト比を算出する。
アスペクト比=L(μm)/S(μm)
算出されたアスペクト比に基づいて、選択した空隙のうち、アスペクト比が2以下である特定空隙を特定する。
次いで、空隙率の測定方法と同様にSEM断面画像の画像処理を行い、得られた2値化画像から、選択した空隙の合計面積に対する、選択したすべての空隙のうち、アスペクト比が2以下である特定空隙の合計面積の比率(特定空隙の合計面積/全空隙の合計面積)を算出する。
【0053】
低屈折率層に含まれる空隙のサイズは特に制限されないが、強度、光透過性及びヘイズの観点から、SEM断面画像から得られる空隙の平均径が、20~500nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、60~200nmであることが更に好ましい。
低屈折率層に含まれる空隙の平均径(単位:nm)は、SEM断面画像(倍率50000倍)において、任意に200個の空隙を選択し、選択した各空隙について円相当径を算出し、それらを算術平均することにより、求められる。
【0054】
(屈折率)
低屈折率層の波長1550nmにおける屈折率は、1.5以下である。
低屈折率層の波長1550nmにおける屈折率は、1.45以下が好ましく、1.4以下がより好ましく、1.3以下が更に好ましい。下限は特に制限されないが、1.1以上の場合が多い。
低屈折率層の屈折率は、紫外可視赤外分光光度計(型番:UV-3100PC、(株)島津製作所製)を用いて得られる透過率と、光干渉法により計算で算出した透過率とを用いてフィッティング解析することにより、求めることができる。
【0055】
(平均厚さ)
低屈折率層の平均厚さ(平均物理膜厚)は、150~500nmである。
低屈折率層の平均厚さは、波長1550nmの光に対する反射防止効果がより優れる点で、250~500nmが好ましく、270~350nmがより好ましい。
上記平均厚さは、低屈折率層の任意の10点以上の厚さを測定して、それらを算術平均したものである。低屈折率層の厚さの測定は、例えば、積層体の厚さ方向に沿った断面を有する切片を作製し、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて実施できる。
【0056】
(光学厚さ)
低屈折率層の光学厚さは特に制限されないが、150~750nmが好ましく、250~700nmがより好ましく、300~400nmが更に好ましい。
なお、上記光学厚さは、低屈折率層の上記平均厚さ(平均物理膜厚)と上記波長1550nmにおける屈折率との積で表される値である。
【0057】
<低屈折率層の形成方法>
低屈折率層の形成方法は特に制限されないが、例えば、上記のシロキサン樹脂の前駆体であるシロキサン化合物と、水と、界面活性剤とを少なくとも含有する低屈折率層形成用組成物(以下、「特定組成物」ともいう)を基材上に塗布して、得られた塗布膜に対して乾燥処理を実施して低屈折率層を形成する方法が挙げられる。
【0058】
(特定組成物)
低屈折率層の形成に用いる特定組成物は、シロキサン樹脂の前駆体であるシロキサン化合物と、水と、界面活性剤と、を少なくとも含有する。
特定組成物は、上記の成分に加え、目的に応じて他の成分を任意に含有してもよい。他の成分としては、例えば、上記の縮合触媒、増粘剤、及び、帯電防止剤が挙げられる。
【0059】
特定組成物が含有するシロキサン化合物としては、上記式1で表されるシロキサン化合物、上記式1で表されるシロキサン化合物の加水分解物、及び、上記式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物(以下、「特定シロキサン化合物」ともいう。)が好ましい。
【0060】
特定組成物に含まれる式1で表されるシロキサン化合物の好ましい態様は、低屈折率層において説明した式1で表されるシロキサン化合物の好ましい態様と同様である。
式1で表されるシロキサン化合物の加水分解物とは、式1で表されるシロキサン化合物におけるケイ素原子上の置換基の少なくとも一部が加水分解し、シラノール基となっている化合物をいう。式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物については、上記の通りである。
【0061】
特定組成物としては、シロキサン化合物を含むシェル材と、有機溶剤を含むコア材とからなるコアシェル粒子を含有する組成物が好ましい。
コアシェル粒子は、シェル材(シェルを構成する材料)としてシロキサン化合物を含む。シロキサン化合物としては、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、特定シロキサン化合物が好ましく、式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物がより好ましい。シェル材に含まれる加水分解縮合物における式1で表されるシロキサン化合物の好ましい態様は、低屈折率層において説明した式1で表されるシロキサン化合物の好ましい態様と同様である。
コアシェル粒子は、式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物を、シェルの全質量に対して50質量%以上含むことが好ましい。なかでも、コアシェル粒子のシェルは、式1で表されるシロキサン化合物の加水分解縮合物からなることがより好ましい。
【0062】
コアシェル粒子のコア材(コアを構成する材料)として含まれる有機溶剤は、特に制限されず、例えば、炭化水素化合物、フッ化炭化水素化合物、及び、シリコーン化合物が挙げられる。なかでも、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、炭化水素化合物が好ましい。
【0063】
炭化水素化合物としては、脂肪族炭化水素化合物であっても、芳香族炭化水素化合物であってもよいが、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、脂肪族炭化水素化合物が好ましく、アルカンがより好ましい。
炭化水素化合物は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、環構造を有していてもよく、不飽和結合を有していてもよい。炭化水素化合物は、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素化合物が好ましく、直鎖状の炭化水素化合物がより好ましい。また、炭化水素化合物としては、不飽和結合を有さない化合物が好ましい。
更に、炭化水素化合物としては、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、炭素原子及び水素原子のみからなる化合物が好ましい。
炭化水素化合物の炭素数は、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、7以上が好ましく、8~20がより好ましく、10~19が更に好ましい。
【0064】
コアシェル粒子においては、製造後の低屈折率層内の残留が抑制され、低屈折率層のヘイズが向上する点で、コア材として含まれる有機溶剤の20質量%以上が、沸点90~350℃の非極性溶剤であることが好ましい。。
なお、本明細書において「沸点」とは、1気圧(101,325Pa)における沸点である。また、「非極性溶剤」とは、水への溶解度が20℃において0.1質量%以下であり、比誘電率の値が10以下である有機溶剤をいう。
上記非極性溶剤の沸点としては、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、100~340℃が好ましく、120~320℃がより好ましく、200~310℃が更に好ましい。
【0065】
沸点が90~350℃の範囲にある非極性溶剤としては、例えば、n-ヘプタン(沸点:98℃)、n-オクタン(沸点:125℃)、n-ドデカン(沸点:216℃)、n-テトラデカン(沸点:254℃)、n-ヘキサデカン(沸点:287℃)、n-ヘプタデカン(沸点:302℃)、n-オクタデカン(沸点:317℃)、n-イコサン(沸点:343℃)、シクロオクタン(沸点:149℃)、トルエン(沸点:111℃)、p-キシレン(沸点:138℃)、m-キシレン(沸点:139℃)、及び、o-キシレン(沸点:144℃)が挙げられる。
【0066】
コアシェル粒子のコア材として含まれる有機溶剤は、1種のみを使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
沸点90~350℃の非極性溶剤の含有量は、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、有機溶剤の全質量に対して、20質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましく、99~100質量%が最も好ましい。
【0067】
コアシェル粒子におけるコアとシェルとの質量比は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、コア:シェル=1:99~99:1であることが好ましく、5:95~5:95であることがより好ましく、10:90~90:10であることが更に好ましい。
【0068】
コアシェル粒子の体積平均粒子径は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、0.02~1.5μmが好ましく、0.02~1.0μmがより好ましく、0.05~0.6μmが更に好ましい。
コアシェル粒子の体積平均粒子径は、メジアン径を意味し、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(型番:マイクロトラックMT3300EXII、マイクロトラックベル(株)製)を用いて測定できる。
【0069】
コアシェル粒子は、1種単独で使用しても、2種以上を使用してもよい。
コアシェル粒子の含有量は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、特定組成物の全質量に対し、0.05~40質量%が好ましく、0.1~20質量%がより好ましく、0.5~10質量%が更に好ましい。
【0070】
シロキサン化合物は、少なくとも上記コアシェル粒子のシェル材として特定組成物に含まれていることが好ましい。
特定組成物におけるシロキサン化合物の含有量は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、特定組成物の全固形分に対し、30~99質量%が好ましく、50~99質量%がより好ましく、70~95質量%が更に好ましい。
なお、特定組成物の「固形分」とは、水及び後述する親水性有機溶剤を除いた成分を意味する。
【0071】
特定組成物は、水を含む。
また、特定組成物は、水との親和性に優れる親水性有機溶剤を更に含んでいてもよい。なお、本明細書において「親水性有機溶剤」と表記した場合、コアシェル粒子のコア材として含まれる有機溶剤を含まない。
親水性有機溶剤としては、例えば、アルコール化合物(メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノール等)、グリコール化合物(エチレングリコール等)、エーテル化合物(エチルセロソルブ等)、並びに、ケトン化合物(アセトン等)が挙げられる。なかでも、入手容易性、及び、環境負荷の低減の観点から、アルコール化合物が好ましく、エタノール又はイソプロパノールがより好ましい。
【0072】
特定組成物中の水の含有量は、水及び親水性有機溶剤の総含有量に対して、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80~100質量%が更に好ましい。
また、特定組成物における水の含有量は、特定組成物の全質量に対し、30質量%以上が好ましく、40~99.9質量%がより好ましく、50~99.8質量%が更に好ましく、70~99.5質量%が特に好ましい。
更に、特定組成物の全質量に対する固形分の含有量は、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、0.1~50質量%が好ましく、0.2~40質量%がより好ましく、0.5~30質量%が更に好ましい。
【0073】
特定組成物は、界面活性剤を含む。また、特定組成物は、シロキサン化合物の縮合を促進する縮合触媒、増粘剤、及び、帯電防止剤からなる群より選ばれる添加剤を更に含んでいてもよい。
特定組成物における界面活性剤、縮合触媒、及び、帯電防止剤の好ましい態様は、それぞれ、低屈折率層における界面活性剤、縮合触媒、増粘剤、及び、帯電防止剤として記載した好ましい態様と同様である。
【0074】
特定組成物における界面活性剤の含有量は、保存安定性、並びに、低屈折率層の光透過性及びヘイズの観点から、特定組成物の全質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.02~5質量%がより好ましく、0.03~1質量%が更に好ましい。
特定組成物における縮合触媒の含有量は、低屈折率層の強度、光透過性及びヘイズの観点から、特定組成物の全固形分に対して、0.001~20質量%が好ましく、0.005~15質量%がより好ましく、0.01~10質量%が更に好ましい。
特定組成物における帯電防止剤の含有量は、特定組成物の製膜性を低下させることなく、形成された膜に効果的に帯電防止性を付与できる点で、特定組成物の全固形分に対して、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。下限値は特に制限されず、0.1質量%以上であってよい。
【0075】
-特定組成物の調製方法-
特定組成物の調製方法は、特に制限されず、上記成分を公知の方法で混合することにより、特定組成物を調製できる。
特定組成物が上記のコアシェル粒子を含む場合の調整方法としては、例えば、有機溶剤、界面活性剤、及び、水を混合して、有機溶剤を水中に分散し、特定シロキサン化合物を添加して一部加水分解縮合して分散した有機溶剤の表面にシェル層を形成してコアシェル粒子を作製し、特定組成物を調製する方法、並びに、有機溶剤をコア材として含むコアシェル粒子、特定シロキサン化合物、界面活性剤、及び、水を混合して特定組成物を調製する方法が挙げられる。
なかでも、有機溶剤、界面活性剤、及び、水を混合して、有機溶剤を水中に分散し、特定シロキサン化合物を添加して一部加水分解縮合して分散した有機溶剤の表面にシェル層を形成してコアシェル粒子を作製し、特定組成物を調製する方法が好ましい。この方法において、特定シロキサン化合物は、有機溶剤、界面活性剤、及び、水とともに添加してもよいし、有機溶剤を水中に分散した後、添加してもよい。
【0076】
コアシェル粒子は、水中でコア材をエマルジョン化してエマルジョンを調製した後、エマルジョンに分散質として含まれるコア材の表面にシェル層を形成することにより、作製することが好ましい。シェル層を形成する前にコア材をエマルジョン化することにより、シェル層を形成する材料とコア材との間で相互作用的な引力が生じ、効率的にコアシェル化が進む。
コア材をエマルジョン化する方法としては、せん断力を与えることによりコア材をエマルジョン化する方法が挙げられ、より具体的には、ローター(回転刃)又はステーター(固定刃)を用いる方法、超音波キャビテーションを利用する方法、ボール又はビーズのような粉砕媒体を用いる方法、原料同士を高速衝突させる方法、及び、コア材を多孔質膜を通過させて乳化する方法(膜乳化)が挙げられる。
コア材をエマルジョン化する方法に用いられる装置としては、プライミクス(株)製オートミクサー20型、日本エマソン(株)製超音波ホモジナイザーSonifierSFX250、アシザワ・ファインテック(株)製OMEGA LAB、(株)スギノマシン製スターバースト10、及び、SPGテクノ(株)製KH-125が挙げられる。
【0077】
特定シロキサン化合物は、まず水を含む溶剤と混合し、特定シロキサン化合物の加水分解物を形成させ、特定シロキサン化合物の加水分解物溶液を調製することが好ましい。この際、特定シロキサン化合物の縮合を促進する縮合触媒を添加することが好ましい。
得られた特定シロキサン化合物の加水分解物溶液に、界面活性剤、及び、有機溶剤を添加してもよいし、有機溶剤、界面活性剤、及び、水を混合して、有機溶剤が水中に分散した分散液と特定シロキサン化合物の加水分解物溶液とを混合してもよい。また、有機溶剤、界面活性剤及び水を混合して有機溶剤を水中に分散した分散液と特定シロキサン化合物を混合して、加水分解とシェル形成を同時に行ってもよい。
【0078】
(低屈折率層の形成)
上記の特定組成物を用いて低屈折率層を形成する具体的な方法として、基材上に特定組成物を付与し塗膜を形成する工程、及び、上記塗膜を乾燥させる工程を有する方法が挙げられる。
【0079】
特定組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、スピンコート、スプレー塗布、刷毛塗布、ローラー塗布、バー塗布、及び、ディップ塗布等の公知の塗布方法が適用できる。
また、成膜性を向上できる点で、特定組成物を塗布する前に、基材の表面に対して、コロナ放電処理、グロー処理、大気圧プラズマ処理、火炎処理、及び、紫外線照射(UV)処理等の表面処理を行うことが好ましい。また、成膜性を向上できる点で、上記成膜法を複数回実施し重ね塗布してもよい。
【0080】
曲面及び凹凸等の様々な表面形状を有する立体構造体の表面に特定組成物を塗布する場合は、スプレー塗布が好ましい。特定組成物をスプレー塗布により基材に塗布する場合、基材のセット方法は、特に限定されない。基材の形状に応じて、基材の向きを、塗布方向に対して、水平方向又は垂直方向等の方向に適宜変更しながら塗布することができる。
塗布膜の厚さをより均一にするためには、スプレーノズルと基材表面との距離が等間隔となる位置にスプレーノズルを配置してスプレー塗布を行うことが好ましい。また、スプレーノズルと基材との距離を10mm以上1,000mm以下に設定することが好ましい。
【0081】
特定組成物の塗布装置への供給方式は、圧送型、吸上型及び重力型のいずれの方式を用いることもできる。
スプレーノズルのノズル口径は、0.1mmφ以上1.8mmφ以下であることが好ましく、エア圧は、0.02~0.60MPaであることが好ましい。このような条件で塗布することで、塗布膜厚をより均一にすることができる。なお、スプレー塗布によって、更に好適な塗布膜を形成するためには、エア量、特定組成物の噴出量及びパターン開き等の調整を行うことが好ましい。
特定組成物をスプレー塗布により基材に塗布する場合、エア量は5~600L(リットル)/分であることが好ましく、塗料噴出量は5~600L/分であることが好ましく、パターン開きは40~450mmであることが好ましい。
【0082】
塗膜の乾燥は、室温(25℃)で行ってもよく、加熱して行ってもよいが、特定組成物が上記コアシェル粒子を含有する場合、有機溶剤を十分揮発させる点、及び、低屈折率層の光透過性及び着色抑制の観点から、40~700℃に加熱することが好ましい。樹脂基材を用いる場合、基材の分解温度以下の温度で加熱する必要があり、具体的には40~200℃に加熱することが好ましい。また、基材の熱変形を抑制する観点からは、40~120℃に加熱することがより好ましい。
加熱する場合の加熱時間は、特に制限されないが、1~30分間が好ましい。
加熱処理の方法としては特に制限されず、ホットプレート、オーブン及びファーネス等の公知の加熱手段により加熱できる。
【0083】
塗膜を乾燥する際の雰囲気としては特に制限されず、不活性雰囲気、及び、酸化性雰囲気が適用できる。不活性雰囲気は、窒素、ヘリウム、及び、アルゴン等の不活性ガスにより実現できる。酸化性雰囲気は、これら不活性ガスと酸化性ガスの混合ガスにより実現できる他、空気を利用してもよい。酸化性ガスとしては、例えば、酸素、一酸化炭素、及び、二窒化酸素が挙げられる。
塗膜の乾燥は、加圧下、常圧下、減圧下又は真空中のいずれの圧力条件下でも実施できる。
【0084】
特定組成物を用いて形成される塗膜は、塗布後の乾燥工程において、水等の溶剤が減少することでシロキサン化合物が縮合して硬化する。また、特定組成物が上記のコアシェル粒子を含む場合、塗布後の乾燥工程において、コアシェル粒子のコア材である有機溶剤が揮発し、空隙(閉鎖孔)が形成される。従って、上記の特定組成物を用いる低屈折率層の作製方法は、重合反応及び架橋反応等の反応に必要とされる光照射及び高温熱処理等の処理を必要とせず、簡便な方法で、光透過性に優れ、特定空隙を有する多孔質構造からなる低屈折率層を形成できる。また、上記の特定組成物を用いて低屈折率層を作製する場合、貯蔵安定性に影響を与え得る。光重合開始剤及び熱重合開始剤等の開始剤を必要としないため。特定組成物の保存安定性が良好である。
【0085】
〔赤外線吸収層〕
筐体部材を赤外線レーザーレーダーの筐体の内壁に用いる場合、赤外線吸収層を備えていてもよい。内壁部材が赤外線吸収層を備えることにより、発信されたレーザー光の一部が筐体内壁で反射し受信部で受光されること、及び/又は、検知体から反射されたレーザーが、筐体内壁で反射し、受信部で受光されることによるSN比の悪化を抑制できる。
筐体部材が赤外線吸収層を備える場合、基材、赤外線吸収層、及び、低屈折率層の順に積層されていてもよく、赤外線吸収層、基材、及び低屈折率層の順に積層されていてもよいが、本発明の効果がより顕著に現れることから、基材、赤外線吸収層、及び、低屈折率層の順に積層されていることが好ましい。
【0086】
赤外線吸収層は、赤外線を吸収する機能を有する限り、その構成成分は特に制限されないが、黒色顔料を含むことが好ましく、黒色顔料及び分散剤を含むことが好ましい。
赤外線吸収層は、上記以外の他の成分(例えば、後述する重合体及びバインダーポリマー)を含んでいてもよい。
以下、赤外線吸収層に含まれる各成分について詳述する。
【0087】
<黒色顔料>
黒色顔料は、各種公知の黒色顔料を用いることができる。
黒色顔料としては、少量で高い光学濃度を実現できる観点から、カーボンブラック、チタンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化マンガン、又は、グラファイトが好ましい。赤外線吸収層は、カーボンブラック、及び、チタンブラックのうちの少なくとも1種を含むことが好ましく、チタンブラックを含むことがより好ましい。
黒色顔料としては、市販品である、C.I.Pigment Black 1等の有機顔料、及び、Pigment Black 7等の無機顔料も用いることができる。
【0088】
チタンブラックとは、チタン原子を含有する黒色粒子であり、低次酸化チタン又は酸窒化チタンが好ましい。
チタンブラックは、分散性向上及び凝集性抑制等の目的で必要に応じ、表面が修飾されたチタンブラック粒子であってもよい。例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ゲルマニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、又は、酸化ジルコニウムで被覆されたチタンブラック粒子、及び、特開2007-302836号公報に記載の撥水性物質で処理されたチタンブラック粒子が挙げられる。
【0089】
チタンブラックは、チタンブラック粒子であり、個々の粒子の一次粒径及び平均一次粒径がいずれも小さいことが好ましい。具体的には、平均一次粒径で10~45nmの範囲のチタンブラック粒子が好ましい。
本明細書における粒径、即ち、粒子直径とは、粒子の外表面の投影面積と等しい面積をもつ円の直径(円相当径)である。粒子の投影面積は、電子顕微鏡写真での撮影により得られた面積を測定し、撮影倍率を補正することにより得られる。
【0090】
チタンブラックの比表面積は特に制限されないが、BET法にて測定した値が5~150m/gであることが好ましい。
チタンブラックの市販品としては、チタンブラック10S、12S、13R、13M、13M-C、13R、13R-N、及び、13M-T(商品名:以上、三菱マテリアル(株)製)、並びに、ティラック(Tilack)D(商品名:赤穂化成(株)製)が挙げられる。
【0091】
赤外線吸収層は、チタンブラックを、チタンブラック及びSi(珪素)原子を含む被分散体として含有することも好ましい。なお、被分散体は、チタンブラックが一次粒子の状態であるもの、凝集体(二次粒子)の状態であるものの双方を包含する。
この形態において、赤外線吸収剤中のSi原子とTi(チタン)原子との含有比(Si/Ti)が質量換算で0.05以上であることが好ましい。Si/Tiは、顔料分散液の製造が容易になるため、0.5以下であることが好ましい。
Si/Tiが、上記の範囲に調整された被分散体は、例えば、特開2008-266045公報の段落0005及び段落0016~0021に記載の方法により作製できる。
【0092】
赤外線吸収層に含まれる被分散体中のSi原子とTi原子との含有比(Si/Ti)が0.05以上であるか否かの判断は、特開2013-249417号公報の段落0035に記載の方法(2)で行うことができる。
【0093】
赤外線吸収層は、チタンブラックと共に、分散性及び着色性等を調整する目的で、Cu、Fe、Mn、V、及び、Ni等の複合酸化物、酸化コバルト、酸化鉄、カーボンブラック、及び、アニリンブラック等の材料からなる黒色顔料の1種又は2種以上を含んでいてもよい。
この場合、全黒色顔料の50質量%以上をチタンブラックからなる被分散体が占めることが好ましい。
赤外線吸収層は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、チタンブラックと共に、他の着色剤(有機顔料や染料等)を含んでいてもよい。
【0094】
また、赤外線吸収層は、黒色顔料に加えて、必要に応じて体質顔料を含んでいてもよい。体質顔料としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、塩基性炭酸マグネシウム、アルミナ白、グロス白、チタンホワイト、及び、ハイドロタルサイトが挙げられる。これらの体質顔料は、単独で又は2種以上を混合して使用できる。
体質顔料の使用量は、黒色顔料100質量部に対して、例えば、0~100質量部であり、5~50質量部が好ましい。黒色顔料及び体質顔料は、場合により、それらの表面をポリマーで改質して使用できる。
また、赤外線吸収層は、黒色顔料に加えて、必要に応じて赤色、青色、黄色、緑色、及び、紫色等の着色有機顔料を含んでいてもよい。着色有機顔料としては、赤色顔料を黒色顔料に対して1~40質量%用いることが好ましく、赤色顔料としてはピグメントレッド254が好ましい。
【0095】
<分散剤>
赤外線吸収層は、分散剤を含有することが好ましい。分散剤は、上述したチタンブラック等の黒色顔料の分散性向上に寄与する。
分散剤としては、例えば、公知の顔料分散剤及び界面活性剤を適宜選択して用いることができる。
分散剤としては、高分子化合物(例えば、ポリアミドアミンとその塩、ポリカルボン酸とその塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリエステル、変性ポリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル系共重合体、及び、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物)、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルカノールアミン等の界面活性剤、並びに、顔料誘導体が挙げられる。
高分子化合物は、その構造から直鎖状高分子、末端変性型高分子、グラフト型高分子、及びブロック型高分子に分類できる。
【0096】
高分子化合物としては、顔料表面へのアンカー部位を有し、黒色顔料及び所望により併用する顔料等の被分散体の表面に吸着して被分散体の再凝集を防止する作用を有する、末端変性型高分子、グラフト型高分子、及び、ブロック型高分子が挙げられる。
一方で、チタンブラック、又は、上記のタンブラック及びSi原子を含む被分散体の表面を改質することにより、これらに対する高分子化合物の吸着性を促進させてもよい。
【0097】
高分子化合物の重量平均分子量は、4,000~300,000が好ましく、5,000~200,000がより好ましい。
本明細書において、化合物の重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法によるポリスチレン換算値として測定される値である。GPC法において、HLC-8020GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとしてTSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、及び、TSKgel SuperHZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。
【0098】
高分子化合物の具体例としては、BYK Chemie社製「Disperbyk-161、162、163、164、165、166、170、190(商品名、高分子共重合物)」、及び、EFKA社製「EFKA4047、4050、4010、4165(商品名、ポリウレタン系)、EFKA4330、4340(商品名、ブロック共重合体)」が挙げられる。
また、高分子化合物としては、特開2013-249417号公報の段落0127~0129に記載の高分子化合物を参照でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
高分子化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0099】
また、分散剤としては、上述した高分子化合物以外に、特開2010-106268号公報の段落0037~0115に記載のグラフト共重合体、及び、特開2011-153283号公報の段落0028~0084に記載の高分子化合物が使用でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0100】
分散剤は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
赤外線吸収層における分散剤の含有量は、赤外線吸収層の総量に対して、0.1~50質量%が好ましい。
【0101】
<任意成分>
(重合体)
赤外線吸収層は、重合性化合物の重合により得られる重合体を含有していてもよい。
重合性化合物としては、少なくとも1個の付加重合可能なエチレン性不飽和基を有し、沸点が常圧で100℃以上である化合物が好ましい。
そのような化合物としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及び、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能のアクリレートやメタアクリレート;ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリ(アクリロイロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリン又はトリメチロールエタン等の多官能アルコールにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを付加させた後(メタ)アクリレート化したもの、ペンタエリスリトール又はジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート化したもの、特公昭48-041708号、特公昭50-006034号、特開昭51-037193号の各公報に記載のウレタンアクリレート類、特開昭48-064183号、特公昭49-043191号、特公昭52-030490号の各公報に記載のポリエステルアクリレート類、及び、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応生成物であるエポキシアクリレート類等の多官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。また、日本接着協会誌Vol.20、No.7、300~308頁に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されている化合物も使用できる。
【0102】
また、特開平10-062986号公報において一般式(1)及び一般式(2)として記載されている、多官能アルコールにエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドを付加させた後に(メタ)アクリレート化した化合物も用いることができる。
なかでも、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びこれらのアクリロイル基がエチレングリコール残基、又は、プロピレングリコール残基を介してジペンタエリスリトールに連結している構造を有する化合物から選択される重合性化合物が好ましい。これらのオリゴマータイプも使用できる。
また、特公昭48-041708号、特開昭51-037193号、特公平2-032293号もしくは特公平2-016765号に記載のウレタンアクリレート、又は、特公昭58-049860号、特公昭56-017654号、特公昭62-039417号もしくは特公昭62-039418号に記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物も好適である。更に、特開昭63-277653号、特開昭63-260909号、及び特開平1-105238号の各公報に記載される、分子内にアミノ構造又はスルフィド構造を有する付加重合性化合物類を用いることによって、非常に感光スピードに優れた光重合性組成物が得られる。
これらの市販品としては、ウレタンオリゴマーUAS-10、UAB-140(商品名、日本製紙ケミカル(株)製)、UA-7200(新中村化学工業(株)製)、DPHA-40H(商品名、日本化薬(株)製)、UA-306H、UA-306T、UA-306I、AH-600、T-600、及び、AI-600(商品名、共栄社化学(株)製)が挙げられる。
【0103】
また、酸基を有するエチレン性不飽和化合物も好適であり、市販品としては、例えば、東亞合成株式会社製のカルボン酸基含有3官能アクリレートであるTO-756、及びカルボン酸基含有5官能アクリレートであるTO-1382が挙げられる。
重合性化合物としては、4官能以上のアクリレート化合物がより好ましい。
【0104】
重合体の製造に用いる重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合性化合物の好ましい組み合わせとしては、例えば、上述した多官能のアクリレート化合物から選択した2種以上の重合性化合物の組み合わせが挙げられ、その一例としては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート及びペンタエリスリトールトリアクリレートの組み合わせが挙げられる。
赤外線吸収層における重合体の含有量は、赤外線吸収層の総量に対して、3~55質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましい。
【0105】
重合体としては、上記重合性化合物を重合開始剤を用いて重合することにより得られる重合体が好ましい。
重合開始剤としては特に制限されず、公知の重合開始剤の中から適宜選択でき、例えば、紫外線領域から可視の光線に対して感光性を有するもの(いわゆる光重合開始剤)が好ましく、光励起された増感剤と何らかの作用を生じ、活性ラジカルを生成する活性剤であってもよく、モノマーの種類に応じてカチオン重合を開始する開始剤であってもよい。
重合開始剤は、300~800nm(より好ましくは330~500nm)の範囲内に少なくとも50の分子吸光係数を有する成分を少なくとも1種含有することが好ましい。
【0106】
重合開始剤としては、例えば、ハロゲン化炭化水素誘導体(例えば、トリアジン骨格を有するもの、オキサジアゾール骨格を有するもの)、アシルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール、オキシム誘導体等のオキシム化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ケトン化合物、芳香族オニウム塩、ケトオキシムエーテル、アミノアセトフェノン化合物、及び、ヒドロキシアセトフェノンが挙げられる。
重合開始剤としては、特開平10-291969号公報に記載のアミノアセトフェノン系開始剤、及び、特許第4225898号公報に記載のアシルホスフィンオキシド系開始剤も使用できる。
【0107】
重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
赤外線吸収層における重合開始剤の含有量は、赤外線吸収層の総量に対して、0.1~30質量%が好ましい。
【0108】
(バインダーポリマー)
赤外線吸収層は、バインダーポリマーを含有していてもよい。
バインダーポリマーとしては、例えば、線状有機ポリマーが挙げられ、耐熱性の観点からは、ポリヒドロキシスチレン系樹脂、ポリシロキサン系樹脂、アクリル系樹脂、アクリルアミド系樹脂、又は、アクリル/アクリルアミド共重合体樹脂が好ましい。
赤外線吸収層がバインダーポリマーを含有する場合、バインダーポリマーの含有量は、赤外線吸収層の総量に対して0.1~30質量%が好ましい。
【0109】
(密着剤)
赤外線吸収層は、密着剤を含有していてもよい。密着剤を含有することにより、赤外線吸収層の基材に対する密着性が向上する。
密着剤としては、シラン系カップリング剤、及び、チタンカップリング剤が挙げられる。
シラン系カップリング剤としては、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピル-メチルジメトキシシラン(信越化学工業社製商品名 KBM-602)、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン(信越化学工業社製商品名 KBM-603)、N-β-アミノエチル-γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン(信越化学工業社製商品名 KBE-602)、γ-アミノプロピル-トリメトキシシラン(信越化学工業社製商品名 KBM-903)、γ-アミノプロピル-トリエトキシシラン(信越化学工業社製商品名 KBE-903)、及び、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製商品名 KBM-503)が挙げられる。
赤外線吸収層が密着剤を含有する場合、密着剤の含有量は、赤外線吸収層の総量に対して、0.5~30質量%が好ましい。
【0110】
赤外線吸収層は、紫外線吸収剤を含有していてもよい。
紫外線吸収剤としては、サリシレート系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、置換アクリロニトリル系、及び、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられる。更なる具体例としては、特開2012-068418号公報の段落0137~0142に記載の化合物が挙げられ、これらの記載内容は本明細書に組み込まれる。
紫外線吸収剤としては、ジエチルアミノ-フェニルスルホニル系紫外線吸収剤(大東化学製、商品名:UV-503)が挙げられ、より具体的には、特開2012-032556号公報の段落0134~0148に例示される化合物が挙げられる。
赤外線吸収層が紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤の含有量は、赤外線吸収層の総量に対して、0.001~15質量%が好ましい。
【0111】
赤外線吸収層は、界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤は、赤外線吸収層の製造時において、赤外線吸収層形成用組成物の塗布性をより向上させることができる。
界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。特に、赤外線吸収層がフッ素系界面活性剤を含有する場合、液特性(特に流動性)がより向上し、塗布厚の均一性を改善でき、かつ、溶剤の使用量をより低減できる。
【0112】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF171、同F172、同F173、同F176、同F177、同F141、同F142、同F143、同F144、同R30、同F437、同F475、同F479、同F482、同F554、同F780、同F781F(以上、DIC(株)製)、フロラードFC430、同FC431、同FC171(以上、住友スリーエム(株)製)、サーフロンS-382、同SC-101、同SC-103、同SC-104、同SC-105、同SC1068、同SC-381、同SC-383、同S393、及び、同KH-40(以上、旭硝子(株)製)が挙げられる。
他の界面活性剤の具体例としては、例えば、特開2013-249417号公報の段落0174~0177に記載の界面活性剤が挙げられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
界面活性剤は、1種のみを用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
赤外線吸収層が界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有量は、赤外線吸収層の総量に対して、0.001~2.0質量%が好ましい。
【0113】
赤外線吸収層は、上記成分以外の他の成分を含有していてもよい。他の成分として、例えば、増感剤、共増感剤、架橋剤、硬化促進剤、フィラー、熱硬化促進剤、重合禁止剤、可塑剤、希釈剤、並びに、感脂化剤、更には、基材表面への密着促進剤及びその他の助剤類(例えば、導電性粒子、充填剤、消泡剤、難燃剤、レベリング剤、剥離促進剤、酸化防止剤、香料、表面張力調整剤、及び、連鎖移動剤)等の公知の添加剤を必要に応じて加えてもよい。
これらの成分については、例えば、特開2012-003225号公報の段落0183~0228、特開2008-250074号公報の段落0101~0102、段落0103~0104、及び、段落0107~0109、並びに、特開2013-195480号公報の段落0159~0184等の記載を参酌でき、これらの内容は本願明細書に組み込まれる。
【0114】
<赤外線吸収層の形成方法>
赤外線吸収層の形成方法は特に制限されず、例えば、黒色顔料、分散剤及び溶剤を含有する赤外線吸収層形成用組成物を用いて赤外線吸収層を形成する方法が挙げられる。
より具体的には、上記組成物を基材上に塗布して塗膜を形成し、塗膜に対して硬化処理を施し、赤外線吸収層を形成する方法が挙げられる。硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理、及び、熱硬化処理が挙げられる。
【0115】
赤外線吸収層形成用組成物は、例えば、黒色顔料、分散剤及び溶剤、並びに、任意成分として、上記の重合性化合物、重合開始剤及びバインダーポリマー等の成分を、公知の混合方法(例えば、攪拌機、ホモジナイザー、高圧乳化装置、湿式粉砕機、及び、湿式分散機)により混合することにより、調製できる。
赤外線吸収層形成用組成物は、重合性化合物及び重合開始剤を含むことが好ましい。
赤外線吸収層形成用組成物は、異物の除去、及び、欠陥の低減等の目的で、基材上に塗布する前にフィルタで濾過することが好ましい。
【0116】
赤外線吸収層形成用組成物に含まれる溶剤としては、水及び有機溶剤が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3-メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3-メトキシプロピルアセテート、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、及び、乳酸エチルが挙げられるが、これらに制限されない。
【0117】
溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
溶剤の含有量は、赤外線吸収層形成用組成物の全質量に対して、10~90質量%が好ましく、20~85質量%がより好ましい。
【0118】
赤外線吸収層の平均厚さは特に制限されず、目的とする赤外線吸収性能、反射率及び透過率を示せばよい。赤外線吸収層の平均厚さは、0.5~8.0μmが好ましく、1.0~4.0μmがより好ましい。
赤外線吸収層の平均厚さは、赤外線吸収層の任意の10点以上の厚さを測定して、それらを算術平均することにより、求められる。
【0119】
筐体部材は、上記の層以外に他の層を更に備えていてもよい。
他の層としては、公知の種々の層が挙げられ、例えば、防汚層、防虫層、防曇層、接着層、ハード塗膜、紫外線吸収層、可視光吸収層、及び、下塗り層が挙げられる。また、反射防止効果をより高めるために、低屈折率層を複数備えていてもよい。
また、これらの層は、筐体のレーザー部材とは反対側(屋外側)に配置していてもよい。例えば、筐体部材は、屋外側から、防虫層、低屈折率層、基材及び低屈折率層の順に配置された層構成を有していてもよい。
【0120】
<筐体部材の製造方法>
筐体部材の製造方法は特に制限されず、基材上に上記特定組成物を付与して塗膜を形成する工程、及び、上記塗膜を乾燥させて低屈折率層を形成する工程を有する方法が挙げられる。上記の塗膜を形成する工程及び塗膜を乾燥する工程は、上記の低屈折率層の作製方法に従って実施できる。
また、赤外線吸収層を備える筐体部材は、例えば、上記の赤外線吸収層の作製方法に従って基材の表面に赤外線吸収層を形成した後、形成された赤外線吸収層の表面に、上記の低屈折率層の作製方法に従って塗膜の形成及び乾燥を実施することによって、製造できる。
【0121】
筐体部材は立体的であってもよい。即ち、筐体部材の基材は、3次元構造を有していてもよい。立体的な筐体部材の製造方法としては、低屈折率層を形成したフィルムを粘着剤を用いて立体成型体に貼り付ける方法、低屈折率層を形成したフィルムを真空成型によって立体成型する方法、及び、立体成型体に低屈折率層をスプレーコート又はディップコートによって形成する方法が挙げられる。
【0122】
〔筐体部材の物性〕
1550nmを発光するレーザーレーダーの場合、筐体部材の表面反射によるレーザー光の減衰が抑制されるため、筐体部材の波長1500~1600nmにおける平均反射率は、9.0%以下が好ましく、8.0%以下がより好ましく、5.5%以下が更に好ましい。下限は特に制限されず、0%であってよい。
【0123】
筐体部材の波長1500~1600nmにおける平均透過率は、その筐体部材の配置される部位に応じて適宜選択できる。
例えば、筐体部材を赤外線レーザーレーダーの筐体の内壁に用いる場合、筐体部材の波長1500~1600nmにおける平均透過率は、4.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。下限は特に制限されず、0.0%であってよい。
また、筐体部材を赤外線レーザーレーダーの発光素子又は受光素子をカバーするカバー部材、赤外レーザーレーダーの窓部材として用いる場合、レーザー強度が減衰しないため、筐体部材の波長1500~1600nmにおける平均透過率は、91.0%以上が好ましく、92.0%以上がより好ましく、94.5%以上が更に好ましい。上限は特に制限されず、99.9%であってよい。
波長1500~1600nmにおける平均透過率が10.0%以下である筐体部材としては、例えば、上記の赤外線吸収層を備える筐体部材が挙げられる。
【0124】
筐体部材の透過率及び反射率は、紫外可視赤外分光光度計(型番:UV-3100PC、(株)島津製作所製)を用いて測定される。より詳細な測定方法は、後述する実施例で説明する。
【0125】
〔用途〕
上記で説明した筐体部材は、赤外線レーザーレーダーに好ましく用いられる部材であり、例えば、赤外線レーザーレーダーを構成する機器を収容する容器の一部又は全部、及び、上記機器の保護部材に用いられる。筐体部材は、特に、赤外線レーザーレーダーを収容する赤外線透過性のハウジング部材(センサー窓)、並びに、発光素子及び/又は受光素子のカバー部材として好ましく用いられる。
【0126】
赤外線レーザーレーダーの一実施形態として、例えば、発光素子と、受光素子と、発光素子及び受光素子を収容するハウジング部材と、プロセッサとを備える装置が挙げられる。
【0127】
発光素子は、装置の外部に向けて検出光を出射するように構成されている。検出光としては、波長1550nmの赤外光が使用される。発光素子としては、例えば、レーザダイオード及び発光ダイオード等の半導体発光素子が挙げられる。
受光素子は、入射した光量に応じた受光信号を出力するように構成されている。受光素子としては、例えば、フォトダイオード、フォトトランジスタ及びフォトレジスタが挙げられる。
発光素子及び受光素子は、LiDAR(Light Detection and Ranging)センサユニット及び赤外線距離センサユニットのいずれかの一部であってよい。
【0128】
プロセッサは、所望のタイミングで発光素子に検出光を出射させる制御信号を出力するとともに、受光素子から出力された受光信号を受信する。
プロセッサは、反射光に対応する受光信号に基づいて車両の外部の情報を検出する。例えば、プロセッサは、ある方向へ検出光を出射したタイミングから反射光を検出するまでの時間に基づいて、反射光に関連付けられた物体までの距離を取得できる。また、そのような距離データを検出位置と関連付けて集積することにより、反射光に関連付けられた物体の形状に係る情報を取得できる。
プロセッサは、任意の位置に配置されていてもよく、例えば、車両における中央制御処理を担うメインECUの一部として提供されてもよいし、メインECUと赤外線レーザーレーダーとの間に介在するサブECUの一部として提供されてもよい。
【0129】
赤外線レーザーレーダーは、車両に搭載され、運転支援のために車両の外部の情報を検出するセンサユニットとして使用できる。そのようなセンサユニットとしては、例えば、LiDARセンサユニット及び赤外線距離センサユニットが挙げられる。
【0130】
また、本発明の筐体部材は、車両用に限定されず、例えば、監視カメラ等の防犯、警備、異常検知、及び、行動解析等の外部情報を検知する赤外線センサにも使用できる。
【実施例0131】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。また、室温は25℃を意味する。
【0132】
〔実施例1〕
<低屈折率層形成用組成物の調製>
-エマルジョン1の調製-
ヘキサデカン、カチオン性界面活性剤Ca-1及びイオン交換水を下記の組成となるように混合した。得られた混合物を、氷水で冷やしながら、日本エマソン(株)製超音波ホモジナイザーSonifier450を用いて20分間撹拌処理(乳化分散)することにより、水中にヘキサデカンの粒子が分散してなるエマルジョン1を得た。
・ヘキサデカン(n-ヘキサデカン、和光純薬工業(株)製):5.53部
・Ca-1(ヘキサデシルピリジニウムクロリド10%蒸留水希釈、カチオン性界面活性剤、和光純薬工業(株)製):8.85部
・蒸留水:85.62部
【0133】
-コアシェル粒子分散液1の調製-
得られたエマルジョン1に、化合物MS51、酢酸及び蒸留水を下記の組成となるように添加し、添加後、25℃で16時間撹拌することにより、非極性溶剤をコア材として含むコアシェル粒子、式1で表される化合物、界面活性剤及び水を含むコアシェル粒子分散液1を得た。
・エマルジョン1:71.88部
・蒸留水:23.11部
・酢酸(5%蒸留水希釈):2.52部
・MS-51(式1で表されるシロキサン化合物、三菱化学(株)製):2.50部
なお、MS-51は、上記式1で表され、R、R及びRがメチル基であり、mが2であり、nが平均5である化合物である。
【0134】
-塗布液1の調製-
コアシェル粒子分散液1に、蒸留水及びF-444を下記の組成となるように添加し、25℃で2日間撹拌することにより、低屈折率層形成用組成物である塗布液1を得た。
・コアシェル粒子分散液1:15.04部
・蒸留水:79.46部
・F-444(フッ素系界面活性剤1%蒸留水希釈、DIC(株)製):5.50部
【0135】
<低屈折率層付き積層体の作製>
ポリカーボネート基材(平均厚さ0.5mm)の一方の表面に、730J/mの条件でコロナ放電処理を行った。コロナ放電処理を行った表面に、得られた塗布液1をスピンコーターを用いて形成後の低屈折率層の平均厚さが310nmとなるように塗布した。その後、ホットプレートを用いて塗膜を100℃で2分間乾燥することにより、低屈折率層を形成して、ポリカーボネート基材、及び、低屈折率層が積層してなる積層体1を得た。
【0136】
〔実施例2~12〕
<低屈折率層形成用組成物の調製>
-エマルジョン2~5の調製-
コア材の種類、コア材の濃度、コア材に対する界面活性剤Ca-1の比率、及び、乳化分散の時間を後述する表1に記載の通り変更すること以外は、実施例1の「エマルジョン1の調製」に記載の方法に従って、エマルジョン2~5をそれぞれ作製した。
下記表1に、エマルジョン1~5の組成を示す。
【0137】
【表1】
【0138】
-コアシェル粒子分散液2~8及び塗布液2~8の調製-
使用するエマルジョンの種類、シェル材の種類、及び、シェル材の濃度を後述する表2に記載の通り変更すること以外は、実施例1の「コアシェル粒子分散液1の調製」に記載の方法に従って、コアシェル粒子分散液2~8をそれぞれ作製した。
次いで、得られたコアシェル粒子分散液2~8をそれぞれ用いること以外は、実施例1の「塗布液1の調製」に記載の方法に従って、塗布液2~8を作製した。
下記表2に、コアシェル粒子分散液1~8の組成を示す。
【0139】
【表2】
【0140】
<低屈折率層付き積層体の作製>
低屈折率層形成用組成物として後述する表3に記載の塗布液1~8を用いること、及び、形成後の低屈折率層の後述する表3に記載の平均厚さを有するように各塗布液の塗布量を調整すること以外は、実施例1に記載の手順に従って、ポリカーボネート基材、及び、低屈折率層が積層してなる積層体2~12をそれぞれ作製した。
【0141】
〔実施例13〕
<赤外線吸収層形成用組成物の調製>
-チタンブラックA-1の作製-
BET比表面積110m/gの酸化チタンTTO-51N(商品名:石原産業製)を120g、BET表面積300m/gのシリカ粒子AEROSIL300(登録商標)300/30(エボニック製)を25g、及び、分散剤Disperbyk190(商品名:ビックケミー社製)を100g秤量し、イオン電気交換水71gと混合した。KURABO製MAZERSTAR KK-400Wを使用して、公転回転数1360rpm、自転回転数1047rpmにて混合物を30分間処理することにより、均一な水溶液を得た。この水溶液を石英容器に充填し、小型ロータリーキルン(株式会社モトヤマ製)を用いて酸素雰囲気中で920℃に加熱した。その後、小型ロータリーキルン内の雰囲気を窒素で置換し、同温度のアンモニアガスを100mL/minで小型ロータリーキルン内に5時間流すことにより、窒化還元処理を実施した。終了後回収した粉末を乳鉢で粉砕して、Si原子を含み、粉末状であり、比表面積が85m/gであるチタンブラック(A-1)を得た。
【0142】
-チタンブラック分散液(TB分散液1)の調製-
特開2010-106268号公報の段落0338~0340に記載の製造方法に従い、下記式で表される樹脂2を得た。また、樹脂2の重量平均分子量は40000であり、酸価は100mgKOH/gであり、グラフト鎖の原子数(水素原子を除く)は117であった。
【0143】
【化2】
【0144】
下記組成Iに示す成分を、攪拌機(IKA社製EUROSTAR)を使用して、15分間混合し、分散物aを得た。
(組成I)
・上記チタンブラック(A-1):25部
・特定樹脂2のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30質量%溶液:25部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(溶剤):23部
・酢酸ブチル(溶剤):27部
【0145】
得られた分散物aに対し、(株)シンマルエンタープライゼス製のNPM-Pilotを使用して下記条件にて分散処理を行い、チタンブラック分散液(以下、TB分散液1と表記する。)を得た。
【0146】
(分散条件)
・ビーズ径:φ0.05mm、ジルコニア製
・ビーズ充填率:65体積%
・ミル周速:10m/sec
・セパレータ周速:11m/s
・分散処理する混合液量:15kg
・循環流量(ポンプ供給量):60kg/hour
・処理液温度:19~21℃
・冷却水:水
・パス回数:90パス
【0147】
-赤外線吸収層形成用組成物1の調製-
下記成分を混合して、赤外線吸収層形成用組成物1を調製した。
・TB分散液1 43.4部
・ダイセル化学工業(株)社製サイクロマーP(ACA)230AA(バインダーポリマー;固形分54%) 13.2部
・日本化薬社製 KAYARAD DPHA(重合性化合物) 7.1部
・日本化薬社製 KAYARAD RP-1040(重合性化合物) 7.1部
・チバケスペシャリティケミカル製IRGACURE OXE02(重合開始剤) 2.1部
・4-メトキシフェノール(重合禁止剤) 0.007部
・DIC(株)社製メガファックF781F(含フッ素ポリマー型界面活性剤) 0.02部
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶剤) 22.7部
・酢酸ブチル(溶剤) 1.14部
・化合物1(密着剤) 1.14部
【0148】
【化3】
【0149】
<低屈折率層及び赤外線吸収層付き積層体の作製>
得られた赤外線吸収層形成用組成物1を、ポリカーボネート基材(平均厚さ0.5mm)の表面にスピンコーターにより塗布し、得られた塗膜に対して、100℃のホットプレートを用いて120秒間加熱処理(プリベーク)を行った。次いで、i線ステッパー露光装置FPA-3000i5+(Canon(株)製)を使用して1000mJ/cmの露光量で塗膜を露光した。その後、130℃のホットプレートを用いて1時間加熱処理(ポストベーク)を行うことにより、膜厚が3.5μmの赤外線吸収層を形成した。
次に、形成された赤外線吸収層上に、形成後の低屈折率層の平均厚さが310nmとなるように、低屈折率層形成用組成物である塗布液2をスピンコーターを用いて塗布した。その後、ホットプレートを用いて塗膜を100℃で2分間乾燥することにより、低屈折率層を形成して、ポリカーボネート基材、赤外線吸収層、及び、低屈折率層が積層してなる積層体13を作製した。
【0150】
〔比較例1〕
-塗布液9の調製-
下記の鎖状シリカ分散液に、溶媒として2-ブタノンを添加し、低屈折率層形成用組成物である塗布液9を得た。下記分散液に分散されている鎖状シリカは、シリカ粒子が連結して細長い形状を有している。
・鎖状シリカ分散液(「MEK-ST-UP」、日産化学(株)製):25.5部
・2-ブタノン(和光純薬工業(株)製):8.85部
【0151】
<低屈折率層付き積層体の作製>
低屈折率層形成用組成物として上記塗布液9を用いること以外は、実施例1に記載の手順に従って、ポリカーボネート基材、及び、低屈折率層が積層してなる積層体C1を作製した。
【0152】
[測定及び評価]
<低屈折率層の屈折率>
日本電気硝子社製無アルカリガラスOA-10Gからなる基材上に、上記低屈折率層形成用組成物をスピンコート法で塗布し、その後、塗布膜をホットプレート上で100℃にて2分間加熱し、更に230℃にて10分間加熱して、基材と低屈折率層とを備える積層体を作製した。
紫外可視赤外分光光度計(型番:UV-3100PC、(株)島津製作所製)を用いて、作製された積層体の波長400~2000nmにおける透過率を波長1nm刻みで測定して、透過スペクトルを得た。上記測定で得られた透過率と、光干渉法により計算で算出した透過率とを用いてフィッティング解析することにより、低屈折率層の波長1550nmにおける屈折率を求めた。
【0153】
<開口部の測定及び評価>
各実施例及び比較例の積層体を、表面と直交する方向に沿って切断し、切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、低屈折率層のSEM断面画像(倍率50000倍)を得た。
積層体の任意の10箇所において切断面を作製して得られるSEM断面画像を用いて、上述の方法により、低屈折率層の表面における開口部の存在割合として、低屈折率層の表面に沿った長さ1000nmあたりの開口部の個数を求めた。
【0154】
<空隙の測定及び評価>
低屈折率層における空隙に関連する各特性は、下記の方法で測定した。
上記の開口部の測定及び評価で得られたSEM断面画像(倍率50000倍)について、画像処理ソフト(ImageJ)を用いて画像処理(2値化)を行い、得られた2値化画像から、空隙部分とシロキサン樹脂からなるマトリックス部分とを分離し、空隙部分の合計面積の全体に対する面積比を算出することにより、空隙率を得た。
また、SEM断面画像(倍率50000倍)において、任意に200個の空隙を選択し、選択した各空隙に対して上述の方法でアスペクト比を求め、アスペクト比が2以下である特定空隙を特定した。次いで、空隙率の測定方法と同様に得た2値化画像から、空隙の合計面積に対する特定空隙の合計面積の比率を算出した。
更に、SEM断面画像(倍率50000倍)において、任意に200個の空隙を選択し、選択した各空隙について円相当径を算出し、それらの平均値を空隙の平均径(単位:nm)として求めた。
【0155】
<シロキサン樹脂のC/Si比>
低屈折率層に含まれるシロキサン樹脂におけるケイ素原子に対する炭素原子の重量比(C/Si比)を、上述の方法に従って測定した。
【0156】
<反射率及び透過率>
各積層体の反射率及び透過率を、紫外可視赤外分光光度計(型番:UV-3100PC、(株)島津製作所製)を用いて測定した。測定は、各積層体の低屈折率層側の表面を光源に向けて配置し、波長300~2000nmにおいて波長1nm刻みで行った。得られた透過率及び反射率のうち、波長1500~1600nmにおける平均反射率及び平均透過率を算出した。
【0157】
<反射率の経時劣化>
各積層体から縦3.0cm×横3.0cmのサンプルを作製した。スクリュー管瓶(容量250mL)にシリコーンオイルTSF458-100(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)3mLを入れた後、作製したサンプルを、低屈折率層側の表面がスクリュー管瓶の内側を向くように入れて、密封した。密封したスクリュー管瓶を、130℃に保ったホットプレートの上に乗せ、24時間放置した。放置後、スクリュー管瓶からサンプルを取り出し、サンプルの反射率を上記と同様の方法により測定した。
放置試験前後の反射率の測定結果から、以下の評価基準に従って反射率の経時劣化を評価した。放置試験前後の反射率の増加が少ないほど、反射率の経時劣化が抑制された優れた積層体であることを意味する。なお、下記の評価基準において、「A」及び「B」が実用上許容されるレベルである。
【0158】
(反射率の経時劣化の評価基準)
「A」:反射率の増加が1%未満
「B」:反射率の増加が1%以上2%未満
「C」:反射率の増加が2%以上
【0159】
<ヘイズ>
ヘイズメーター(NDH-5000、日本電色工業株式会社製)を用いて、得られた各積層体のヘイズ(%)を測定し、以下の基準に従って評価した。
【0160】
(ヘイズ評価基準)
「A」:0.2未満
「B」:0.2%以上10%未満
「C」:10%以上
【0161】
下記表3に、各実施例及び比較例で作製された積層体の構成、測定値及び評価結果を示す。
表中、「低屈折率層(塗布液番号)」欄は、各実施例又は比較例で低屈折率層の形成に使用した塗布液の番号を示す。
また「低屈折率層」欄は、低屈折率層の各特性の測定結果を示す。「空隙率」欄は、低屈折率層の断面積に対する空隙が占める面積の合計の比率を示し、「特定空隙/全空隙比率」欄は、全空隙の合計面積に対する特定空隙の合計面積の比率を示し、「空隙平均径」欄は、低屈折率層に含まれる空隙の平均径(単位:nm)を示し、「C/Si比」欄は、低屈折率層に含まれるシロキサン樹脂におけるケイ素原子に対する炭素原子の重量比を示す。
また、「平均反射率」欄及び「平均透過率」欄は、筐体部材の波長1500~1600nmにおける平均反射率及び平均透過率の測定結果を示す。
【0162】
【表3】
【0163】
上記表より、本発明に係る実施例1~13の筐体部材は、比較例1の筐体部材に比較して、本発明の効果がより優れることが確認された。
なお、比較例1の積層体では、低屈折率層のSEM断面画像において連通した空隙が複数観察され、空隙の平均径(円相当径)を測定できなかった。
【0164】
また、低屈折率層に含まれるシロキサン樹脂のC/Si比が0.2以上である場合、本発明の効果及びヘイズがより優れることが確認された(実施例1~13の比較)。